説明

ポリマー、エマルジョンポリマーの水性分散液を作成する方法、およびその使用

本発明は、たとえば共役脂肪族ジエンおよびビニル芳香族化合物をベースとするコポリマーの水性分散液を作成する方法に関する。また、それによって得られるエマルジョンポリマーに関し、紙のコーティング用のバインダーとしてのその使用に関する。本発明はまた、エマルジョンコポリマーを含むコーティングを有するコート紙に関する。この方法では、少なくとも2種の乳化剤を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、たとえば共役脂肪族ジエンおよびビニル芳香族化合物をベースとするコポリマーの水性分散液を作成する方法に関する。また、それによって得られるエマルジョンポリマーに関し、紙のコーティング用のバインダーとしてのその使用に関する。本発明はまた、エマルジョンコポリマーを含むコーティングを有するコート紙に関する。この方法では、少なくとも2種の乳化剤を使用することが必要である。
【背景技術】
【0002】
ポリマー、たとえば共役脂肪族ジエンおよびビニル芳香族化合物をベースとするコポリマーの水性分散液は公知である(たとえば、DE−A2602445、DE−A2602444、米国特許第3,575,913号を参照されたい)。水性ポリマー分散液は、従来技術では、当業者に知られている公知の乳化剤または保護コロイドを使用して安定化されている(Houben−Weyl,Methoden der org.Chemie,Vol.XIV/1,1961,Stuttgart)。これらの例は、ポリグリコールエーテル、スルホン化パラフィン系炭化水素、高級アルキル硫酸塩(たとえばラウリル硫酸塩など)、ステアリン酸ナトリウムやオレイン酸ナトリウムなど脂肪酸のアルカリ金属の塩、たとえばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどスルホン化アリール芳香族の塩、エトキシ化C−C12アルキルフェノールおよびそれらのスルホン化生成物、ならびにスルホコハク酸のエステルである。保護コロイドの例は、アルキル−ヒドロキシアルキルセルロース、部分的にまたは完全に加水分解されたポリビニルアルコールおよびそのコポリマー、アクリル酸、そのホモポリマー、コポリマーおよび部分的に中和された塩、アクリルアミドコポリマー、ポリアクリレートコポリマーおよびその塩、たとえばカルボキシメチルセルロースおよびその塩などのカルボキシアルキルセルロース、ならびに水溶性のでんぷん誘導体である。公知の乳化剤のその他の例としては、文書US5,910,534に記載されているようなエトキシ化脂肪アルコールの硫酸半エステルが含まれる。
【0003】
このようなポリマー、特に「スチレン−ブタジエン」コポリマーとしばしば呼ばれるコポリマーは、紙のコーティング用のバインダーとして使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DEA2602445
【特許文献2】DEA2602444
【特許文献3】US3575913
【特許文献4】US5910534
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,Vol.XIV/1、page 297 ff.,1961,Stuttgart
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下記の性質を有するポリマーの分散液および/またはそれを作成する方法が必要とされている。
−乳化剤の毒物学的または環境毒物学的プロフィールが良好とみなされること、特にジフェニレンオキシドジスルホン酸塩のプロフィールよりも良好とみなされること。
−グリットの量が少ないこと。グリットは、ポリマー分散液中に粗い粒子が存在する結果として生じるものであり、それらの粗い粒子は、コーティングされると、外観を変える。グリットが多すぎると、そのコーティングは、不良な外観を有し、したがってポリマー分散液を濾過しなければならなくなる恐れがあり、これには時間および費用がかかる。グリットは、凝塊とも呼ばれる。
−白色度が高いこと、および/または色指数が低いこと(黄色指数が低いこと)、
−印刷処理の際に、たとえば印刷の際にコーティングが紙上に残存する能力が高いこと。高いドライピックアップ値は、概してこの能力を表すことができる。
−ならびに/あるいは、色と吸塵など、上記のものの組合せまたは折衷。
【0007】
単独でおよび/または上記のものと組み合わせて価値のあるさらなる性質としては、下記のものが含まれる。
−たとえば高速のコーティングを可能にするための許容されるレオロジー特性、
−重合中における粒径の良好な制御。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の性質のうちの少なくともいくつかに関係する改良を提示する。
【0009】
したがって本発明は、水、1種(または複数)の開始剤、および少なくとも1種の乳化剤(g)の存在下で疎水性モノマーを一緒にすることを含む、ポリマーの水性分散液を生成するための乳化重合方法に関し、乳化剤(g)は、
(g1)少なくとも1種の硫酸、またはその塩、エトキシ基の数平均数がnであるエトキシ化脂肪アルコールの半エステルと、
(g2)少なくとも1種の硫酸、またはその塩、エトキシ基の数平均数がnであるエトキシ化脂肪アルコールの半エステルとを含み、
−n≧n+a×n(「aかけるn」)
−a≧0.5、好ましくはa≧1および
−n>0、好ましくはn≧2である。
【0010】
本発明はまた、この方法によって得ることができ、乳化剤(g1)および(g2)を含むポリマー分散液(または、「エマルジョンポリマー」)に関する。
【0011】
本発明はまた、紙のコーティング用のバインダーとしてのポリマー分散液(すなわち「エマルジョンポリマー」)の使用に関する。
【0012】
本発明はまた、エマルジョンポリマーを含むコーティングを有するコート紙に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
「脂肪アルコール」は、少なくとも6個の炭素原子を有する炭化水素基を有するアルコールとして理解される。この炭化水素基は、直鎖または分岐、飽和または不飽和の炭化水素基、またはその混合物、好ましくはアルキル基、またはアルキル基を含む混合物とすることができる。このアルコールは、合成、鉱物、動物、または植物に由来するものでよい。脂肪アルコールは、典型的には化学式R−OHを有し、Rは、上述の炭化水素基(脂肪アルコール残基とも呼ばれる)、または異なるそのような炭化水素基の混合物である。
【0014】
少なくとも2種の乳化剤の会合とは、少なくとも2種の乳化剤を使用し、その際に、それらの少なくとも2種の乳化剤のうちの少なくとも2種を、モノマーなどその他の成分と一緒にするために、別々に導入することとして理解される。会合は、少なくとも2種の乳化剤のうちの少なくとも2種が、モノマーなどその他の成分と一緒にする前に混合される、乳化剤の混合またはプレミックスまたはブレンドとは異なるものとして理解される。
【0015】
乳化剤(g)
乳化剤(g)は、乳化剤(g1)および乳化剤(g2)という少なくとも2種の乳化剤を含む。乳化剤(g)は、界面活性剤と呼ばれることもある。乳化剤(g1)および(g2)は、個別に界面活性剤と呼ばれることがある。したがって乳化剤(g)は、界面活性剤の混合物または会合体と呼ばれることもある。重合プロセスにおいて、乳化剤(g1)および(g2)を、重合容器内に別々に導入することもでき、あるいは混合物として、たとえば貯蔵容器で混合しておいてその貯蔵容器から導入することもできる。そのような貯蔵容器内には、それらの乳化剤を別々に導入しておくこともでき、あるいは混合物として導入しておくこともできる。そのような混合物は、界面活性剤濃縮物、または界面活性剤ブレンド、または界面活性剤プレミックスとも呼ばれている。
【0016】
エトキシ基の数平均数がnであるエトキシ化脂肪アルコールの半エステルは、典型的には化学式R−O−[CH−CH−O]−SOを有し、式中、
−Rは、上述の定義を有する脂肪アルコール残基であり、
−nは、エトキシ基の数平均数であり、
−Xは、H(酸の形態)、NH(アンモニウム塩の形態)、またはNaやK(アルカリ塩の形態)などのアルカリ原子から選択される。
【0017】
エトキシ化脂肪アルコールの半エステルは、Na塩の形態で使用することが好ましい。
【0018】
エトキシ基の数平均数n(それぞれnおよびn)は通常、脂肪アルコール1モルをエトキシ化するのに使用されるモル数によって決定される。これは、典型的には製造業者によって提供される。
【0019】
乳化剤(g1)および(g2)は、基本的に(g1)および(g2)から構成される混合物が、少なくとも2つの極大値を有するエトキシ化(数)分布プロットを示すようなものであることが好ましい。このプロットは、クロマトグラフィー分離(たとえばガスクロマトグラフィー)および検出手段(たとえば質量分析)を含めた一般的な分析方法を用いて決定することができる。乳化剤(g1)(または(g2))は個別に、典型的にはエトキシ基の数平均数n(またはn)において単一の極大値を有するエトキシ化(数)分布プロットを示すはずである。典型的には、乳化剤(g1)(または(g2))は個別に、[n−b]から[n+b](または[n−b]から[n+b])というプロットされたゾーン内に分子数の少なくとも10%、好ましくは少なくとも50%があるエトキシ化(数)分布プロットを示す。ただし、bは、0.5であり、好ましくは0.25であり、好ましくは0.10である。通常は、また典型的には、n(またはn)が大きくなるほど、b(またはb)も大きくなる。bおよびbは、同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0020】
2種の乳化剤(g1)および(g2)のエトキシ基の数平均数nおよびnについては、下記のとおりである。
−n≧n+a×n
−a≧0.5、好ましくはa≧1および
−n>0、好ましくはn≧2。
【0021】
いくつかの実施形態においては、a、n、およびnは、a≧1、a≧2、a≧3、a≧4、またはa≧5となるようにすることができる。
【0022】
いくつかの特定の実施形態によれば、
−nは、2から7であり、nは10以上であり、好ましくは10から20であり、または
−nは、7から20であり、nは25以上であり、好ましくは25から35であり、または
−nは、2から7であり、nは20以上であり、好ましくは25から35である。
【0023】
乳化剤(g1)および(g2)の脂肪アルコールは、同一でありまたは異なっており、重量平均数で8から30個、好ましくは10から18個、好ましくは12から16個の炭素原子を有する脂肪アルコールであることが好ましい。これはたとえば、重量平均数で8から30個、好ましくは10から18個、好ましくは12から16個の炭素原子を有するアルキル基とすることができる。これはたとえば、ラウリル基と一般に呼ばれている基、ココ基と一般に呼ばれている基、C12アルキル基と一般に呼ばれている基、C14アルキル基と一般に呼ばれている基、C12−14アルキル基と一般に呼ばれている基、C14−16アルキル基と一般に呼ばれている基、またはそれらの混合物とすることができる。
【0024】
乳化剤(g)は、乳化剤(g1)および(g2)を少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%含むことが好ましい。
【0025】
乳化剤(g1)と乳化剤(g2)の重量比は、好ましくは25/75から75/25、好ましくは40/60から60/40である。
【0026】
一実施形態においては、乳化剤(g1)および乳化剤(g2)は、プレミックスとして提供される。これは、乳化剤(g1)と(g2)のブレンドと呼ばれることもある。このプレミックスまたはブレンドは、乳化剤(g1)および(g2)を少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%含む。次いで、このプレミックスは典型的には、モノマーなど、重合プロセスにおいて使用されるその他の成分と一緒にされる。
【0027】
ポリマーの水性分散液および乳化重合プロセス
水の存在下で疎水性モノマーの乳化重合によって得られるポリマーの水性分散液は、しばしばラテックスと呼ばれる。ラテックス、乳化重合によって得られるポリマー、モノマー、またはその中でのモノマーの混合物またはそれに対するモノマーの会合体は、当業者に知られている。使用されるモノマーは、疎水性モノマーを含む。ただし、使用されるモノマーが、疎水性モノマーと会合または混合されたいくつかの親水性モノマーを含むことが排除されることはない。そのような親水性モノマーは、存在する場合には、典型的には40重量%未満、たとえば30%未満、たとえば20%未満の量で使用される。このポリマーは、典型的にはポリ塩化ビニルとは異なり、好ましくはいかなる塩化物含有ポリマーとも異なる。
【0028】
これらのポリマーは、たとえば下記の呼称のポリマーとすることができる。
−アクリルベースのラテックス
−スチレン/アクリルベースのラテックス
−ビニル/アクリルベースのラテックス
−塩化ビニルベースのラテックス
−スチレン/アクリロニトリル(SAN)ベースのラテックス
−ブタジエンベースのラテックス
−酢酸ビニルベースのラテックス
−ビニルヴェオヴァベースのラテックス
−スチレン/ブタジエンベースのラテックス
−酢酸ビニル/ヴェオヴァベースのラテックス
上記において、「ベースの」とは、それらのポリマー鎖が、前述のモノマーを少なくとも33重量%、好ましくは少なくとも50重量%含むことを意味する。2種のモノマーまたはモノマーファミリーが挙げられている場合、それらの重量比は5/95から95/5、好ましくは10/90から90/10であることが好ましい。もちろん、いくつかのさらなる異なるモノマーを使用することもできる。
【0029】
本発明の特に有用な実施形態においては、ポリマーは、下記のものから得られるコポリマーである。
(a)20から80重量部の共役脂肪族ジエン、
(b)20から80重量部のビニル芳香族化合物、
(c)任意で、最大10重量部のエチレン性不飽和カルボン酸および/またはジカルボン酸(好ましくは0.1から10重量部)、
(d)任意で、最大20重量部のエチレン性不飽和カルボン酸亜硝酸塩、
(e)任意で、成分(b)とは異なる最大20重量部の共重合性ビニル化合物。
モノマー(a)は典型的にはブタジエンであり、モノマー(b)は典型的にはスチレンであるため、これらのポリマーのあるものは、しばしば「スチレン/ブタジエン」ラテックスと呼ばれる。
【0030】
ポリマーの水性分散液をもたらす乳化重合プロセスは、当業者に知られている。これらのプロセスでは典型的には、少なくとも1種の乳化剤、たとえば界面活性剤の存在下で、水の開始剤と、疎水性モノマーとを一緒にすることが必要である。これらのプロセスは、しばしばラテックスプロセスと呼ばれる。下記のプロセスを含めて、いかなるプロセスを使用してもよい。
−いわゆるシードを用いるプロセスまたはシードを用いないプロセス、
−モノマーの漸進的な導入または漸進的でない導入を伴うプロセス、
−界面活性剤の漸進的な導入または漸進的でない導入を伴うプロセス、
−水溶性開始剤または非水溶性開始剤を使用するプロセス、および/または
−モノマーのプレエマルジョンの導入を伴うプロセスであり、前記プレエマルジョンが、少なくとも1種の乳化剤、たとえば界面活性剤を任意で含むプロセス、
−上記のうちのいくつかを組み合わせたプロセス。
【0031】
使用できる開始剤は、当業者に知られている。具体的に挙げられる例は、有機過酸化物および/または無機過酸化物(アルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩、過硫酸塩、および/またはアゾ化合物など)、あるいは、少なくとも1種の有機還元剤と、少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシドとから構成される組み合わされた系(たとえばtert−ブチルヒドロペルオキシドとヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩や、過酸化水素とアスコルビン酸など)、あるいは、重合媒体に可溶でその金属成分がいくつかの原子価状態で存在できる少量の金属化合物をさらに含む組み合わされた系(たとえば、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/過酸化水素)である。後者の例において、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム金属塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、および/またはナトリウム金属の二亜硫酸塩も、アスコルビン酸の代わりにしばしば使用され、またtert−ブチルヒドロペルオキシドまたはアルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩および/またはペルオキシ二硫酸アンモニウムも、過酸化水素の代わりに使用される。水溶性のFe/V−塩の組合せが、水溶性の鉄(II)塩の代わりにしばしば使用される。
【0032】
好ましい水溶性開始剤は、有機過酸化物、無機過酸化物、およびアゾ化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。
【0033】
開始剤系は、ラジカル水性乳化重合の過程におけるその消費に応じて、連続的にまたは徐々に加えることができる。これは、詳細には、それ自体公知のように、開始剤系の化学的性質および重合温度の両方に依存する。過酸化物、たとえばペルオキシ二硫酸ナトリウムやペルオキシ二硫酸アンモニウムなどアルカリ金属のペルオキシ二硫酸塩が特に好ましい。
【0034】
水溶性開始剤の最も好ましい量は、適切な予備テストによって容易に決定することができる。従来技術では、水溶性開始剤は、重合中のモノマーの全質量に対して0.1から2.0重量%の量で加えられる。
【0035】
さらに、メルカプト化合物、たとえば第三級ドデシルメルカプタンや二量体α−メチルスチレンなど、公知の分子量制御剤を本発明による乳化重合用にさらに加えることができる。その上、たとえば、干渉する金属イオンを制御するための錯化剤、および抑制剤、たとえばヒドロキノンモノメチルエーテルなど、さらなる補助剤を乳化重合に加えることができる。分子量制御剤および補助剤は、公知であり、たとえば、Houben−Weyl,Methoden der organischen Chemie,Vol.XIV/1、page 297 ff.,1961,Stuttgartに記載されている。
【0036】
重合プロセスで使用される乳化剤は、乳化剤(g1)、乳化剤(g2)、および任意でいくつかのさらなる乳化剤を含む。それらの乳化剤は、乳化剤(g1)および(g2)を少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%含む乳化剤(g)であることが好ましい。さらなる任意選択の乳化剤としては、たとえば、乳化剤として使用できるアルキルポリオキシエチレンスルホコハク酸のエステルまたは半エステルが含まれる。この場合、スルホコハク酸は、2から30個のエチレンオキシドユニット、好ましくは2から20個のエチレンオキシドユニット、とりわけ2から10個のエチレンオキシドユニットを有するポリまたはオリゴエチレンオキシドで一重または二重にエステル化され、上述のエステルおよび半エステルの末端基は、8個から18個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基を含む。次のものが、とりわけ、C−C18炭素原子を含むアルキル基として挙げられる。カプリルアルコール、カプリンアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、またはエライジンアルコール。
【0037】
本発明の特に有用な実施形態においては、この方法は、水および水溶性開始剤の存在下で、
(a)20から80重量部の共役脂肪族ジエンと、
(b)20から80重量部のビニル芳香族化合物と、
(c)任意で、最大10重量部のエチレン性不飽和カルボン酸および/またはジカルボン酸(好ましくは0.1から10重量部)と、
(d)任意で、最大20重量部のエチレン性不飽和カルボン酸亜硝酸塩と、
(e)任意で、最大20重量部の成分(b)とは異なる共重合性ビニル化合物と、
(f)任意で、好ましくは、成分(c)のカルボン酸基の約1%から約50%を中和させるのに十分な量の塩基と、
(g)モノマー成分(a)から(e)の合計100重量部あたり0.1から5重量部の乳化剤(g1)および(g2)とを一緒にすることを含む。
【0038】
この実施形態においては、乳化剤(g)の15から85重量パーセントを、モノマー成分(a)から(e)の変換全体の40%を得るのに必要とされる時間内に加えることが好ましい。個々の成分の変換速度は、蒸発させたサンプルを用いて分散液の固形成分含有量を測定することによって容易に確定することができる。本発明によるコポリマーの水性分散液を調製するための乳化重合の特別な発展形態においては、重合の非常に初期の段階で、使用される乳化剤の総量の最大15重量%を反応混合物に加え、次いで残りの量、すなわち使用される乳化剤の総量の最大75重量%を、使用される成分の変換全体の最大40%が達成される時間内に加えるのが、有利になることがある。
【0039】
乳化重合中に乳化剤を定量供給する速度も、最終的なポリマーの所望の粒径、および反応速度によって制御され、いくつかの予備テストによって容易に決定することができる。この場合、最適条件は、重合中の沈殿物(凝固物)の量が最少になること、必要とされる最終的な粒径および粒子分布が達成されること、ならびに結果として得られるポリマー分散液の多価イオンに対する安定性が最大になることから決定される。乳化剤の残りの量、すなわち使用される乳化剤の合計の85から15重量%は、重合の残りの期間中に反応混合物に定量供給することもでき、あるいは重合の完了後に分散液に加えることもできる。乳化剤(g)は、成分(a)から(e)の合計100重量部あたり0.2から4.5重量部の量で存在することができる。水溶性開始剤は、成分(a)から(e)の合計の0.1から2重量パーセントの量で存在することができる。乳化剤の約30から約85重量パーセントは、モノマー成分(a)から(e)の変換全体の約40%を得るのに必要とされる時間内に加えることができる。使用される塩基の量は、成分(c)からのカルボン酸基の約5%から約45%を中和させるのに十分な量でよい。
【0040】
適切な塩基は、とりわけ、アルカリ金属の酸化物またはアルカリ金属の水酸化物の水溶液であり、最も好ましくは、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムの溶液である。
【0041】
しかし、重合圧力および重合温度は、あまり重要ではない。反応は一般に、20℃(室温)と100℃の間の温度で、好ましくは60℃から95℃の温度で行われる。
【0042】
実際の重合プロセスの完了後に、重合温度を維持した状態で、さらに数時間攪拌を続けることが好ましい。この後には、残りのモノマーを取り除く従来のステップ、pH値を調整する従来のステップ、または特定の性質を最終的に定着させるためのその他の方法を行うことができる。
【0043】
好ましいポリマーの水性分散液は、好ましくは、25から65重量部の成分a)と、25から65重量部の成分b)と、1から6重量部の成分c)と、0から15重量部、とりわけ0から10重量部の成分d)と、0から15重量部、とりわけ0から10重量部の成分e)の乳化重合によって得ることができる。
【0044】
好ましい共役脂肪族ジエン(成分a))は、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、ジメチルブタジエン、および/またはシクロペンタジエンである。具体的に挙げておくべきビニル芳香族化合物(成分b))は、スチレン、α−メチルスチレン、および/またはビニルトルエンである。使用することが好ましいエチレン性不飽和カルボン酸および/またはジカルボン酸(成分c))は、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸など、3個から6個のC原子を有するα,β−モノエチレン性不飽和モノ−およびジカルボン酸である。好ましいものとして挙げられるエチレン性不飽和カルボン酸ニトリルは、アクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルであり(成分d))、好ましいものとして挙げられる共重合可能なビニル化合物(成分e))は、アルキル基が22個以下の炭素原子を含むアクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルである。それらの例は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、飽和モノ−カルボン酸のアリルエステル、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、酢酸ビニル、および/またはビニルピリジン、塩化ビニル、塩化ビニリデンである。
【0045】
乳化剤は、好ましくは上述の成分a)からe)100重量部に対して0.2から4.5重量部の量で使用される。これらの乳化剤は、乳化剤(g1)と乳化剤(g2)とを含む乳化剤(g)を含む。
【0046】
ポリマーの使用
上述のプロセスによって得ることができるエマルジョンポリマーは、コーティングとして、またはコーティング組成物中で特に紙のコーティング組成物中でバインダーとして、使用することができる。ポリマー、コーティング、および/またはコート紙は、上述の必要とされる性質の少なくともいくつか、またはそれらを折衷したものを示す。コーティングの用途においては、ポリマーは、−20℃以上の、たとえば−20℃から100℃の、好ましくは0℃から60℃のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0047】
エマルジョンポリマーは、カーペットの裏地、不織性の縁取り、接着剤、タイルの接着剤、モルタル、セメント、およびグラウトを含む建築用途用のスプレイ乾燥パウダー中において使用することもできる。たとえばエマルジョンポリマーは、感圧式接着剤として使用することができる。感圧式接着剤ポリマーは通常、−20℃未満の、たとえば−55℃から−20℃のガラス転移温度を有することができる。感圧式接着剤ポリマーの例としては、1種(または複数)の疎水性モノマーが、アクリル酸ブチル、たとえばモノマーの総重量に対して少なくとも75重量%、または少なくとも90%ものアクリル酸ブチルを含むポリマーが含まれる。重合手順中に乳化剤(g)を使用することによって得られた感圧式接着剤は、特に良好な剪断強度および/または凝集強度を示す。それらの感圧式接着剤はまた、特に興味深い低い発泡傾向を示す。
【0048】
コーティング組成物、特にエマルジョンポリマーバインダーを含む紙のコーティング組成物は、一般に前記コーティングの必要性を考慮して組成物を設計している当業者に知られている。したがって、コーティング組成物は通常、二酸化チタンおよび/またはカオリンなどのミネラルを含む。コーティング組成物は通常、でんぷんやでんぷん誘導体、グアーやグアー誘導体等々の水溶性ポリマーも含む。
【0049】
本発明をよりよく理解するために、例示的ではあるが限定的でないいくつかの実施例を以下に提供する。
【実施例】
【0050】
エマルジョンポリマー(ラテックス)を、下記の重合手順に従って調製する。
【0051】
重合手順
重合の処方に示されている化合物の量はすべて、使用されるモノマーの合計100部に対する重量部(「phm」(per hundred monomer))として、またはグラムで表されている。
【0052】
水、シード、および界面活性剤の混合物を、5リットルの重合容器内で、表1に指定されているように調製する。このシードは、25−45nmの粒径を有するポリスチレンラテックスである。
【0053】
水、界面活性剤、水酸化ナトリウム、および過硫酸アンモニウムの混合物を、調剤タンク「A」内で、表1に指定されているように調製する。
【0054】
ブタジエン、スチレン、アクリル酸、およびtDDM(terDoDecylMercaptan)の混合物を、調剤タンク「B」内で、表1に指定されているように調製する。
【0055】
真空および窒素の導入という少なくとも2つのサイクルによって重合容器から酸素を取り除き、次いで360rpmでの連続的な攪拌を維持しながら80℃まで温度を上げる。
【0056】
重合容器内で温度が80℃に達すると、タンク「A」およびタンク「B」からの混合物の流れを重合容器内へ導入する(時間tにおいて開始する)。タンク「A」からの混合物は、5時間30分にわたって供給し、タンク「B」からの混合物は、5時間にわたって供給する。
【0057】
タンク「A」からの混合物の添加が完了すると、反応混合物を、1時間にわたって80℃に維持する。次いでラテックスを剥ぎ取り、冷却し、NaOHを用いて適切なpH(約5)まで中和する。
【0058】
【表1】

【0059】
重合手順においては、さまざまな界面活性剤(または界面活性剤の随伴物)が使用される。得られたエマルジョンポリマーを、下記の評価手順に従って評価する。
【0060】
下記のような7種の界面活性剤を使用することによって、7種の異なるラテックスを調製する。
−「4EO」:エトキシ化および硫酸化されたラウリルアルコール(Na塩)−ラウリルアルコール1モルあたり4モルのエチレンオキシドを用いたエトキシ化
−「12EO」:エトキシ化および硫酸化されたラウリルアルコール(Na塩)−ラウリルアルコール1モルあたり12モルのエチレンオキシドを用いたエトキシ化
−「30EO」:エトキシ化および硫酸化されたラウリルアルコール(Na塩)−ラウリルアルコール1モルあたり30モルのエチレンオキシドを用いたエトキシ化
−「4EO+12EO」:50重量%の「4EO」と50重量%の「12EO」の混合
−「4EO+30EO」:50重量%の「4EO」と50重量%の「30EO」の混合
−「12EO+30EO」:50重量%の「12EO」と50重量%の「30EO」の混合
−「DSB」:ジフェニレンオキシドジスルホン酸塩;Rhodiaによって市販されているRhodacal(c)DSB
コーティング組成物
7種の異なるラテックスを含む7種の異なるコーティング組成物を調製する。それらの組成は、下記のとおりである。
【0061】
【表2】

【0062】
コート紙
7種の組成物を、下記の条件で紙上にコーティングする。
−紙:40lbのフリーシート
−装置:SimuTech International Inc製造のCLC(Cylindrical Lab Coater)6000。
−コート重量:6lb/3300平方フィート
−スピード:2000ft/分
−カレンダ:
−対照用の光沢対象:60%
−温度:190F
−圧力:2250pli(pounds per linear inch)
評価の結果を、下記の表2に示す。「C」は、「比較例」を意味している。
【0063】
【表3】

【0064】
(ラテックス上における)グリットの評価
ラテックス100gを穏やかに攪拌しながら水で希釈し、次いで秤量した40μmのナイロン織布で濾過し、再び乾燥させて秤量する。
【0065】
グリットの量は、下記の重量差として評価する。
(ナイロン織布+残留ポリマー)−(ナイロン織布)
結果は、(ラテックスの合計量に対する)ppmで表される。グリットは、少ないほどよい。本発明のラテックスは、良好なグリット値を有する。
【0066】
(ラテックス上における)DO/Cの評価:
DO/Cとは、光学密度/濃度を意味する。
【0067】
(水150ml中にラテックス約350mgの既知の濃度の)高希釈ラテックス溶液の吸光度(=DO)を、従来のスペクトマーを用いて690nmで測定する。
【0068】
その吸光度を濃度で割った商は、ラテックスの粒径に比例する。結果は、cm/gで表される。
DO/C=(水の重量×DO×100)/(ラテックスの重量×ラテックスの固形物%)
本発明のDO/Cは、許容される範囲内にある。
【0069】
(コート紙上における)b:黄色指数の評価
黄色指数bを、CIE Lab規格に従って、たとえばwww.tappi.orgにおいてオンラインで入手可能なTAPPI(Technical Association of the Pulp and Paper Industry)試験方法T524に従って測定する。
【0070】
黄色指数は、低いほどよい。
【0071】
(コート紙上における)乾燥ピックの評価
乾燥IGTピックを、TAPPI(Technical Association of the Pulp and Paper Industry)試験方法514に従って測定する。この方法はまた、IGT Testing Systemsから市販の機器を用いた「IGT引裂き抵抗」と呼ばれることもある。実質的には、これは、油によって粘着性を持たせたホイール上で紙を0から4m/sでドラム処理する際にその紙からコーティングが除去される距離を測定する。実質的には、これは、油によって粘着性を持たせたホイール上で紙を0から4m/sでドラム処理する際にその紙からコーティングが除去される距離を測定する。結果は、VVP(「速度粘度積、velocity viscosity product」)として表される。
VPP=距離×速度×粘度
VVPは、高いほどよい。
【0072】
湿潤IGTピック
また、IGT AIC2−5試験機器をテストIGT試験方法W32と共に使用して湿潤ピック/湿潤忌避試験を行う。複製は、5MDである。使用するインクは、Huberピック、および関連した1つ(または複数)のタックである。この機器および方法は、www.igt.nlにおけるオンラインを含めて、IGT Testing Systemsから入手可能である。
【0073】
これらの7種のコート紙は、良好なほぼ同等の湿潤IGTピックを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、1種(または複数)の開始剤、および少なくとも1種の乳化剤(g)の存在下で複数の疎水性モノマーを一緒にすることを含む、ポリマーの水性分散液を生成するための乳化重合方法であって、前記乳化剤(g)が、
(g1)少なくとも1種の硫酸、またはその塩、エトキシ基の数平均数がnであるエトキシ化脂肪アルコールの半エステルと、
(g2)少なくとも1種の硫酸、またはその塩、エトキシ基の数平均数がnであるエトキシ化脂肪アルコールの半エステルとを含み、
≧n+a×n
a≧0.5、好ましくはa≧1、
>0、好ましくはn≧2である乳化重合方法。
【請求項2】
水および水溶性開始剤の存在下で、
(a)20から80重量部の共役脂肪族ジエンと、
(b)20から80重量部のビニル芳香族化合物と、
(c)任意で、最大10重量部のエチレン性不飽和カルボン酸および/またはジカルボン酸(好ましくは0.1から10重量部)と、
(d)任意で、最大20重量部のエチレン性不飽和カルボン酸亜硝酸塩と、
(e)任意で、成分(b)とは異なる最大20重量部の共重合性ビニル化合物と、
(f)任意で、好ましくは、成分(c)のカルボン酸基の約1%から約50%を中和させるのに十分な量の塩基と、
(g)モノマー成分(a)から(e)の合計100重量部あたり0.1から5重量部の乳化剤(g1)および(g2)とを一緒にすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乳化剤(g)の15から85重量パーセントが、モノマー成分(a)から(e)の変換全体の40%を得るのに必要とされる時間内に加えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
乳化剤(g)が、乳化剤(g1)および(g2)を少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
乳化剤(g1)と乳化剤(g2)の重量比が、25/75から75/25、好ましくは40/60から60/40である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
乳化剤(g)が、成分(a)から(e)の合計100重量部あたり0.2から4.5重量部の量で存在する、請求項2から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記1種(または複数)の水溶性開始剤が、成分(a)から(e)の合計の0.1から2重量パーセントの量で存在する、請求項2から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記開始剤が、有機過酸化物、無機過酸化物、過硫酸塩、およびアゾ化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記乳化剤の約30から約85重量パーセントが、モノマー成分(a)から(e)の変換全体の約40%を得るのに必要とされる時間内に加えられる、請求項2から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
使用される塩基の量が、成分(c)のカルボン酸基の約5%から約45%を中和させるのに十分な量である、請求項2から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
乳化剤(g1)および(g2)が、プレミックスとしてその他の成分と組み合わされる、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
乳化剤(g1)および(g2)の前記脂肪アルコールが、同一であり、または異なっており、重量平均数で8から30個、好ましくは10から18個、好ましくは12から16個の炭素原子を有する脂肪アルコールである、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
が2から7であり、nが10以上であり、好ましくは10から20であり、または
が7から20であり、nが25以上であり、好ましくは25から35であり、または
が2から7であり、nが20以上であり、好ましくは25から35である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13の一項に記載の方法によって得ることができるエマルジョンポリマー。
【請求項15】
紙のコーティング用のバインダーとして、または感圧式接着剤としての、請求項14に記載のエマルジョンポリマーの使用。
【請求項16】
請求項14に記載のエマルジョンポリマーを含むコーティングを有するコート紙。

【公表番号】特表2009−537688(P2009−537688A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511521(P2009−511521)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055021
【国際公開番号】WO2007/135176
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508183151)ロデイア・オペラシヨン (70)
【Fターム(参考)】