説明

ポリマーの酸化方法

【課題】反応後の煩雑な単離精製操作を必要とせず、高分子量のポリマー等幅広い種類のポリマーに適用が可能であり、かつより温和な反応条件で十分な変換率が得られるポリマーの酸化方法を提供する。
【解決手段】粉末状のポリマー、過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化剤、及び水溶性の固体触媒を混合して粉末状の反応相とする工程、前記反応相を80℃以下の反応温度で静置する工程、並びに、静置後、前記反応相を水洗する工程を有することを特徴とするポリマーの酸化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの酸化方法に関し、具体的にはポリマーを、溶媒への溶解や膨潤をさせることなく固相系で酸化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で高出力の電池としてパソコン等に用いられている有機ラジカル電池は、ポリラジカルと呼ばれるプラスチック材料に電気を蓄積するものである。このポリラジカルは、ラジカルを高分子鎖に結合させたポリマーであり、原料のポリマーを酸化して得られる。
【0003】
例えば、非特許文献1等に開示されているポリラジカルであるポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートをラジカル重合してポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)を合成し、このポリマーを酸化して得ることができる。ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)の製造方法としては、モノマーである2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートを酸化した後、ラジカル重合させる方法も考えられるが、この方法では、酸化により生じたラジカルにより重合反応が影響され、使用できる開始剤が制限される、重合度のコントロールが困難になる等の問題が生じる。
【0004】
ポリマーを酸化してポリラジカルを得る方法としては、例えば非特許文献2に、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)を酢酸中に溶解し、m−クロロパーオキシ安息香酸により酸化してポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)を得る方法が開示されている。同様に非特許文献3には、ポリ(2−又は4−ビニルピリジン)を酢酸中に溶解し、過酸化水素水により酸化してポリ(2−又は4−ビニルピリジン−N−オキシド)を得る方法が開示されている。
【0005】
又、特許文献1では、架橋されたポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)を10〜40倍重量の水中に分散させて過酸化水素により酸化して架橋されたポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)(架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物)を製造する方法が開示されている。
【0006】
さらに、非特許文献4には、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)をエタノールにより膨潤させた系において、タングステン酸ナトリウムを触媒とし、60%過酸化水素水により酸化して(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)を得る方法が開示されている。同様に、特許文献2では、架橋されたポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)を20〜50倍重量の3級ブタノールに分散させて60%過酸化水素水を用いて酸化し、架橋されたポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)(架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−45856号公報
【特許文献2】特開2009−1725号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Electrochemical Society Interface Winter(2005)、32−36頁
【非特許文献2】Chemical Physics Letters 359(2002)、351−354頁
【非特許文献3】Macromolecules 31(1998)、9201−9205頁
【非特許文献4】Solid State Ionics 178(2007)、1546−1551頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2や非特許文献1〜4に記載されているポリマーの酸化方法は、原料ポリマーを溶解するための溶媒又は膨潤させるための膨潤剤を必要とするので、生成物を得るためにはその除去が必要である。しかし、非特許文献2、3に記載の方法等で使用されている酢酸等の溶媒はその除去が困難であった。又、特許文献2や非特許文献4に記載の方法等のように、アルコール系溶媒を使用する方法においても、反応後の触媒の除去には、再沈澱法、即ち沈澱−濾過の繰り返しのような煩雑な単離精製操作を必要とする。
【0010】
即ち、これらの酸化方法では反応操作が複雑であり、工業的製造方法としての価値が低いものであった。さらに、これらの酸化方法では、原料ポリマーを溶解又は膨潤させて反応を行うので、原料ポリマーは、溶媒に溶解できるもの又は膨潤してゲル化できるものに限定される。従って、溶解や膨潤がしにくい高分子量のポリマーへの適用は困難であった。又、従来の酸化方法によれば、酸化生成物のポリマーの分子量や形態は原料ポリマーとは異なる場合が多く、所望の分子量や形態のポリマーが得られにくい、反応後のろ過操作が困難になる等の問題もあった。
【0011】
特許文献1に記載の方法は、有機溶媒を使用しない方法である。しかし、この方法は10〜40倍重量の水中に分散させて行われるのでその生産効率は低い。又、酸化剤の過酸化水素の使用量も5〜30倍モルとは大過剰であり、酸化剤の利用効率が低い。又、これらの問題の結果、酸化剤の添加に時間を要する、反応後のろ過操作の効率が低い等の製造上の問題も生じる。
【0012】
さらに又、前記従来技術に記載の方法では、十分な変換率を得るためには70〜80℃の反応温度で長い反応時間を要する場合が多い。そこで、より温和な反応条件で十分な変換率が得られる方法の開発が望まれていた。
【0013】
本発明は、従来のポリマーの酸化方法の有する前記の問題点を解決する方法であり、反応後の煩雑な単離精製操作を必要とせず、高分子量のポリマー等幅広い種類のポリマーに適用が可能であり、分子量や形態をほとんど変えることがなくポリマーの酸化ができ、かつより温和な反応条件で十分な変換率が得られ、酸化剤の利用効率が高く、高い生産効率が期待できるポリマーの酸化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を達成するため鋭意研究した結果、ポリマーを粉末状とし、当該ポリマー粉末に水溶性の特定の酸化剤及び水溶性の固体触媒を混合して、粉体の状態で静置すれば、粉体の状態すなわち固相系でもポリマーの酸化反応が進行すること、そして反応後の水洗により容易に酸化剤や固体触媒の除去ができることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0015】
請求項1に記載の発明は、粉末状のポリマー、水溶性の固体触媒、及び、過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化剤を混合して粉末状の反応相とする工程、前記反応相を80℃以下の反応温度で静置する工程、並びに、静置後、前記反応相を水洗する工程を有することを特徴とするポリマーの酸化方法である。
【0016】
この方法では、先ず、粉末状のポリマー、水溶性の固体触媒、及び、過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化剤を混合して粉末状の反応相が作製される。ここで原料として用いられるポリマーは、粉末状であり、酸化剤や固体触媒との均一混合が可能なように、流動性を有するものである。ポリマーの粉末自体の流動性が低く、酸化剤や固体触媒との均一混合が困難な場合は、後述するような分散剤が用いられる。
【0017】
粉末状のポリマー、酸化剤及び固体触媒を混合する方法は特に限定されないが、通常、粉末状のポリマー、酸化剤及び固体触媒を容器に入れ、攪拌混合する方法により行われる。この混合により、粉末状の反応相が作製される。酸化剤が液体である過酸化水素水の場合は、その使用量は、反応相が粉末状を保つ範囲に限定される。後述のように、粉末状のポリマー、酸化剤及び固体触媒の混合のみでは流動性が低く、十分均一に混合された反応相を作製しにくい場合は、分散剤がさらに混合される。
【0018】
反応相を作製後、当該反応相は80℃以下の反応温度、好ましくは30〜70℃の反応温度(請求項3)で静置される。この静置の工程でポリマーの酸化反応が行われる。前記成分の混合後は、特に反応相を攪拌する必要はなく、攪拌の有無にほとんど影響されずに酸化反応は進行する。静置時間、即ち反応時間は、所望の変換率により変動し特に限定されないが、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)の場合は、反応温度50℃、約24時間で十分な(例えば90%を越えるような)変換率が得られる。
【0019】
前記静置の後、前記反応相は水洗される。過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩、並びに酸化反応が行われた結果、これらから生じる生成物は水溶性である。又、固体触媒も水溶性のものが用いられているので、水洗により、生成物、即ち酸化されたポリマー以外の成分は、水相(洗浄水)に移行し反応系から除去される。除去を十分に行うために、水洗は2回以上繰り返してもよい。この場合、除去される成分の洗浄水への溶解を促進するため、初回の洗浄水には、溶解を促進するための成分、例えば炭酸ナトリウム等のpH調整剤を添加してもよい。
【0020】
水洗後、回収された洗浄水には、触媒成分や酸化剤の成分等が含まれているので、これらから触媒及び酸化剤等の混合物を得て、これをポリマーの酸化の反応系に添加して再利用することができる。
【0021】
前記水洗により、反応相からはポリマー以外の成分が除去されるので、反応相を乾燥することにより精製された生成物を得ることができる。即ち、本発明の方法によれば、水洗、乾燥により生成物を得ることができ、従来技術のように煩雑な単離精製操作(例えば、再沈澱法)を必要とせず、工業的製造方法として高い価値を有するものである。
【0022】
本発明の方法は、さらに、次に述べる点でも優れており、従来の方法より工業的製造方法としての価値が高いものである。
(1)80℃未満の温和な条件で、例えば50℃程度で高い変換率を得ることができる。
(2)従来技術に比べて、酸化剤の量を減らすことができる。例えば、酸化剤として過酸化水素を使用してポリビニルピリジンの酸化を行う場合、99%N−オキシドに変換するためには、従来の方法では大過剰の過酸化水素(例えば、溶媒を用いる方法では5〜8倍モル量以上、特許文献1に記載のような水を用い分散系で酸化を行う方法では5〜30倍モル量程度)が使用されるが、本発明の方法によると、1.6倍モル量と小過剰量の過酸化水素の使用でよい。
(3)ろ過分離操作や水洗操作が、従来技術より容易である。例えば有機溶媒を使用する従来技術では、原料ポリマーは溶媒に溶解又は膨潤し、反応後再沈澱等により生成物のポリマーとなるので、酸化生成物のポリマーの形状が原料ポリマーとは異なり、その結果、ろ過分離操作や水洗操作等に長時間要する場合が多い。しかし、本発明の方法によると、原料ポリマーを溶媒に溶解又は膨潤させずに元のポリマーの粉体のままで反応させるので、酸化生成物のポリマーは原料ポリマーの形状を維持しており、その結果、ろ過分離操作や水洗操作等の操作は容易である。
(4)ポリマーを溶媒に溶解や膨潤をさせる必要がないので、溶媒に溶解や膨潤しにくい高分子量のポリマーでも本発明の方法を容易に適用することができる。さらに、地球環境に悪影響を与える有機溶媒を必要性としないとの利点もある。
【0023】
酸化剤は、過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩から選ばれる。これらから選ばれる2種以上の酸化剤を混合して用いてもよい。尿素−過酸化水素及び過炭酸塩は、粉体であり、後述する分散剤としての機能も有する。
【0024】
酸化剤として過酸化水素水を用いる場合、反応相は、ポリマーの粉末及び固体触媒の粉末に、過酸化水素水が染み込んだものである。染み込みが均一になるように、撹拌等による混合が行われる。
【0025】
過酸化水素水の量は、反応相が見かけ上粉末状態を保つ程度の量である。過酸化水素水の濃度に応じて過酸化水素水の容量も変化するので、見かけ上粉末状態を保つ程度の量の範囲も変化する。安全上の観点からは低濃度の過酸化水素水が好ましいが、見かけ上粉末状態を保ちながらより多量の過酸化水素を添加して酸化反応を促進する観点からは、高濃度の過酸化水素水が好ましい。通常、30%以上、60%程度以下の濃度の過酸化水素水が用いられる。
【0026】
酸化剤として用いられる尿素−過酸化水素複合体は、尿素を過酸化水素に結合させたものである。尿素−過酸化水素複合体は固形粉末であって、密閉して常温で保存する限り安全であり、過酸化水素水に比べ遥かに取り扱いが容易である。また、輸送手段の制約も受けない。この複合体の好ましい粒子サイズは1μm〜300μmである。通常、過酸化水素含有量が25〜40wt%のものが使用される。
【0027】
尿素−過酸化水素複合体の合成方法としては、例えば、30wt%過酸化水素水に尿素を溶解し、40〜70℃に加温後、冷却して再結晶化させる方法を挙げることができる。これらの製法に関しては、C. Lu, E. W. Hughes, P. Giguere, ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエテー 第63巻, 1507頁にも述べられている。
【0028】
酸化剤として用いられる過炭酸ナトリウムは、炭酸ナトリウムと過酸化水素の付加物(炭酸ナトリウムに1.5モル倍の過酸化水素を付加したものである)であって、主に非塩素系漂白剤として利用されており、市販の家庭用洗剤にも含まれている。又、水に溶解しやすく、水に溶解して過酸化水素と炭酸ナトリウムの水溶液となり、穏やかな漂白剤となるものであり、安全性の高いものである。過炭酸ナトリウムは、粉体のドライ過酸化水素としても市販されているが、本発明では、市販品粉体のまま使用することができる。市販品としては、三菱ガス化学社製のSPC−G(粉体)等を挙げることができる。
【0029】
過炭酸ナトリウムは、反応に際しての取り扱いが容易で、安全性が高いとの利点を有する。すなわち、過炭酸ナトリウムは、固形粉末であって、密閉して常温で保存する限り安全であり、過酸化水素水に比べ遥かに取り扱いが容易である。また、輸送手段の制約も受けない。この複合体の粒子サイズは、特に限定されず市販されている1μm〜1000μm程度の粒子サイズのものを用いることができ、造粒品も用いることができるが、反応速度を向上させる観点からは、粒子サイズの小さいものが好ましい。
【0030】
請求項2に記載の発明は、前記水溶性の固体触媒が、タングステン酸、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の触媒であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーの酸化方法である。
【0031】
本発明で用いられる水溶性の固体触媒としては、タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群より選択された金属の酸化物、タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群より選択された金属を含有する酸素酸又はその塩類を例示することができる。
【0032】
タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群より選択された金属の酸化物としては、WO、MoO、V5を挙げることができる。
【0033】
タングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群より選択された金属を含有する酸素酸及びその塩類としては、タングステン酸(HWO)、NaWO等のタングステン酸塩、モリブデン酸(HMoO)、NaMoO等のモリブデン酸塩、バナジン酸、NHVO3等のバナジン酸塩、タングステン、モリブデン又はバナジウムを含有するイソポリ酸類及びその塩類、タングステン、モリブデン又はバナジウムを含有するヘテロポリ酸類およびその塩類を例示することができる。なお、前記タングステン、モリブデン又はバナジウムを含有するイソポリ酸類、ヘテロポリ酸類とは、(Q[PWMo40]、Q[PVMo40]等として表される混成物や、Q{PO[W(O)(O)]}、Q[W(O]等として表されるパーオキソ型化合物も含む意味である。(式中、Qは、対カチオンを表す。)
【0034】
前記の固体触媒の中でも、タングステン酸、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩が好ましく例示され、これらから選ばれる1種の触媒、又はこれらから選ばれる2種以上の触媒の混合物が好ましく用いられる。
【0035】
請求項4に記載の発明は、前記粉末状の反応相に、さらに水溶性の粉体からなる分散剤が混合されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法である。
【0036】
粉末状のポリマー、酸化剤及び固体触媒の混合のみでは流動性が低く、十分均一に混合された反応相を作製しにくい場合は、分散剤がさらに混合される。ここで分散剤としては、水溶性の固体触媒、酸化剤、原料ポリマーを分散し、これらにより劣化せず、かつ酸化反応を阻害しない性質を有するもの、好ましくは酸化反応を促進する性質を有するものの粉末が用いられる。さらに、反応後の水洗により除去が可能なように、水溶性であることが必要である。
【0037】
このような分散剤としては、尿素や炭酸ナトリウムを例示することができる。請求項5は、この例示に該当する場合であり、分散剤として、尿素もしくは炭酸ナトリウム、又は尿素と炭酸ナトリウムの混合物を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法である。
【0038】
又、酸化剤である尿素−過酸化水素及び過炭酸塩の粉末も、この分散剤としての作用をするものである。分散剤の粉末の粒度は特に限定されないが、入手の容易な粒径5〜100μm程度の粉末を用いることができる。
【0039】
請求項6に記載の発明は、前記粉末状のポリマーが、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)、ポリビニルピリジン、及びポリスチレンのベンゼン環にピリジン、モルホリン、ピペリジン又はピロールが結合したポリマーからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法である。
【0040】
本発明の方法が適用されるポリマーは、粉末状(固相中)の反応相中で、80℃以下で、過酸化水素水、尿素−過酸化水素又は過炭酸塩により酸化されるものであれば特に限定されない。例えば、本発明の方法は、過酸化水素水、尿素−過酸化水素又は過炭酸塩により酸化される官能基を、その主鎖及び/又は側鎖に有するポリマーについて、その官能基の酸化に適用できる。このような官能基の酸化の例としては、C=C二重結合のエポキシ化、アルコールの酸化、スルフィドやスルホキシドの酸化、窒素化合物の酸化などを挙げることができる。本発明の方法が適用されるポリマーの具体例としては、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)、ポリビニルピリジン、及びポリスチレンのベンゼン環にピリジン、モルホリン、ピペリジン又はピロールが結合したポリマーを挙げることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明のポリマーの酸化方法は、反応後の煩雑な単離精製操作を必要とせず、酸化剤の使用効率も高い等の特徴があり、高い生産効率でポリマーの酸化を行うことができる。又、より温和な反応条件で十分な変換率が得られるとの優れた効果を奏する。さらに、高分子量のポリマー等幅広い種類のポリマーに適用が可能であり工業的に利用価値の高い方法である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態を、以下の実施例に基づき説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0043】
実施例1 ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)の合成
ねじ口試験管中に、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−yl−メタクリレート)粉体を0.2441g(N:1.01mmol)、尿素−過酸化水素複合体を0.4994g(5.31mmol)、タングステン酸触媒を0.0286g(0.11mmol)を混合した後、50℃で静置した。20時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.2418gの橙赤色粉体を得た(単離収率93%)。ラジカル化率は89%であった。
【0044】
なお、ここで使用した尿素−過酸化水素複合体は、Aldrich社製の試薬を用いた。以下の実施例においても同様である。
【0045】
又、単離収率及びラジカル化率は次のようにして求めたものである。以下の実施例においても同様である。
単離収率:原料ポリマーのNが100%N−Oラジカルに変換した場合の重量を仕込み重量から見積もり、この見積もり量に対する収量の割合を計算し、単離収率とした。
ラジカル化率:ESRスペクトルによってNOラジカル濃度の定量を行い、100%N−Oラジカルに変換した場合のラジカル濃度の見積もり値に対する割合を計算し、ラジカル化率とした。
【0046】
実施例2 ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルメタクリレート)の合成
ねじ口試験管中に、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−yl−メタクリレート)粉体(平均粒径30μmに粉砕したもの)0.2309g(N:1.05mmol)、尿素−過酸化水素複合体0.9847g(10.5mmol)、タングステン酸触媒0.0279g(0.112mmol)を混合した後、70℃で静置した。20時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.2385gの橙赤色粉体を得た(単離収率93%)。ラジカル化率は99%であった。
【0047】
実施例3 ポリ(4−ビニルピリジン−N−オキサイド)の合成
ねじ口試験管中、ポリ(4−ビニルピリジン)粉体(Fluka)0.2049g(N:1.83mmol)、尿素−過酸化水素複合体0.5806g(6.17mmol)、タングステン酸触媒0.0125g(0.05mmol)を混合した後、50℃で静置した。27時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.2339gの淡黄色粉体を得た(単離収率99%)。元素分析の結果から変換率は97%であった。
【0048】
実施例4 ポリ(4−ビニルピリジン−N−オキサイド)の合成
ねじ口試験管中、ポリ(4−ビニルピリジン)粉体(Fluka)0.2145g(N:2.04mmol)、尿素−過酸化水素複合体0.3069g(3.26mmol)、タングステン酸ナトリウム触媒0.0332g(0.1mmol)を混合した後、50℃で静置した。24時間後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.2218gの淡黄色粉体を得た(単離収率90%)。元素分析の結果から変換率は99%であった。
【0049】
この実施例では、ポリ(4−ビニルピリジン)に対し約1.6倍モル量(3.26/2.04)の酸化剤(尿素−過酸化水素複合体)の使用で、50℃、24時間で99%の変換率が得られている。溶媒や膨潤剤を用いる従来技術では、同様な条件で99%の変換率を得るためには、ポリ(4−ビニルピリジン)に対し5〜8倍モル量の酸化剤が必要であった。即ち、この実施例の結果は、本発明の方法によれば、従来技術より、酸化剤の量を減らすことができることを示している。
【0050】
実施例5 ポリ(4−ビニルピリジン−N−オキサイド)の合成
ねじ口試験管中に、ポリ(4−ビニルピリジン)粉体(Fluka)0.2146g(N:2.04mmol)、タングステン酸ナトリウム触媒0.0326g(0.099mmol)、尿素0.3gの粉体混合物に60%過酸化水素水0.170mL(3.0mmol)をしみこませて攪拌した後、50℃で静置した。24時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.2213gの淡黄色粉体を得た(単離収率90%)。元素分析の結果から変換率は74%であった。
【0051】
実施例6 モルホリン環結合ポリスチレンの酸化
ねじ口試験管中に、モルホリン環結合ポリスチレン粉体(アルドリッチ社製、商品名:Morphorine, polymer-bound、1%架橋)0.5520g(N:1.99mmol)、尿素−過酸化水素複合体0.5897g(6.27mmol)、タングステン酸触媒0.0271g(0.108mmol)を混合した後、50℃で静置した。25時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.5656gの淡黄色粉体を得た(単離収率97%)。元素分析の結果から変換率は76%であった。
【0052】
実施例7 ピペリジン環結合ポリスチレンの酸化
ねじ口試験管中に、酸化反応は、ピペリジン環結合ポリスチレン粉体(アルドリッチ社製、商品名:Piperidine, polymer-bound、1%架橋)0.5313g(N:2.04mmol)、尿素−過酸化水素複合体0.5707g(6.07mmol)、タングステン酸ナトリウム触媒0.0351g(0.106mmol)を混合した後、50℃で静置した。25時間静置後、炭酸ナトリウム水溶液を加えて攪拌した後、固体粉末をグラスフィルターで濾取、3回水洗後、五酸化リン存在下で減圧乾燥した。0.5592gの淡黄色粉体を得た(単離収率99%)。元素分析の結果から変換率は99%であった。
【0053】
上記の実施例の結果が示すように、本発明の方法によれば、50〜70℃の温和な条件で、20〜25時間程度で、高いラジカル化率、変換率が得られている。即ち、これらの実施例は、本発明の優れた工業的価値を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のポリマー、水溶性の固体触媒、及び、過酸化水素水、尿素−過酸化水素及び過炭酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸化剤を混合して粉末状の反応相とする工程、前記反応相を80℃以下の反応温度で静置する工程、並びに、静置後、前記反応相を水洗する工程を有することを特徴とするポリマーの酸化方法。
【請求項2】
前記水溶性の固体触媒が、タングステン酸、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の固体触媒であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーの酸化方法。
【請求項3】
前記反応温度が、30〜70℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリマーの酸化方法。
【請求項4】
前記粉末状の反応相に、さらに水溶性の粉体からなる分散剤が混合されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法。
【請求項5】
前記水溶性の粉体が、尿素及び/又は炭酸ナトリウムの粉体であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法。
【請求項6】
前記粉末状のポリマーが、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)、ポリビニルピリジン、及びポリスチレンのベンゼン環にピリジン、モルホリン、ピペリジン又はピロールが結合したポリマーからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のポリマーの酸化方法。

【公開番号】特開2010−265332(P2010−265332A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115073(P2009−115073)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】