説明

ポリマー微粒子分散組成物、及びその製造方法

【課題】靭性、耐衝撃性、及び弾性率(剛性)に優れ、また、これらがバランスした新たな樹脂の改質手段を提供する。
【解決手段】ポリマー微粒子分散組成物は、水以外の成分を主体とする媒体100重量部、及びポリマー微粒子0.1重量部〜150重量部を含むポリマー微粒子分散組成物であって、前記ポリマー微粒子が、その体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含み、前記ポリマー微粒子が、該媒体中に独立分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー微粒子分散組成物、より詳細には、体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含むポリマー微粒子が、媒体中に独立分散しているポリマー微粒子分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、フェノール樹脂などに代表される熱硬化性樹脂は、耐熱性、機械的強度、あるいは寸法精度などに優れることから、種々の分野で広範囲に使用されている。また、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などに代表される熱可塑性樹脂は、成形性等に優れることから、同じく、種々の分野で広範囲に使用されている。これらの樹脂の耐衝撃性を改良するために、50nm〜200nmの体積平均粒子径を有するゴム状重合体粒子を配合することが一般に実施されている。
【0003】
一方、代表的な熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の硬化物は、機械的強度、電気的絶縁特性、耐熱性等の多くの点で優れているが、その硬化物は破壊靭性が小さく、非常に脆性的な性質を示すことがあり、広い範囲の用途においてこのような性質が問題となることが多い。また、同様に、耐衝撃性だけでなく、靱性が向上した樹脂が近年望まれている。
【0004】
このようなことから、例えば、エポキシ樹脂中にゴム成分を配合することが従来から行われている。その中でも、乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表される水媒体中の重合方法を用いて、予め粒子状に調製したゴム状重合体粒子を配合する方法は、例えばエポキシ樹脂に対して非架橋のゴム成分を溶解混合した後硬化過程において相分離を生じさせることでエポキシ樹脂硬化物連続相にゴム成分の分散相を生成させる様な方法と比較して、原理上、配合硬化条件による分散状態の変動を生じにくいこと、ゴム成分を予め架橋しておくことでエポキシ樹脂硬化物連続相へのゴム成分の混入が無く耐熱性や剛性の低下が少ないこと、などの種々の利点が考えられる。
【0005】
このようなことから、特許文献1には、エポキシ樹脂に、有機溶剤の存在下、ゴム状重合体ラテックスを混合して混合物を得た後、水分を除去、硬化させることで、エポキシ樹脂の破断エネルギーを向上させる方法が記載されており、この際、ゴム状重合体の粒径は20μm以下、好ましくは30nmから2000nm、より好ましくは90nmから150nmとされており、実際に用いられている粒径は100nm〜1200nmの範囲である。
【0006】
しかし、この方法では、ゴム状重合体ラテックスとエポキシ樹脂を混合するに当たり、有機溶剤と共に系中(混合物中)に存在する、多量の水分(有機溶剤が溶解可能な水分量以上の水分)を分離、あるいは留去する必要があるが、有機溶剤層と水層の分離には例えば一昼夜等の、多大な時間を要するか、或いは有機溶剤層と水層が安定な乳化懸濁状態を形成するために実質的に分離が困難となる。また水分を留去する場合には、多量のエネルギーを必要とする上、通常ゴム状重合体ラテックスの製造に使用する乳化剤、副原料等の水溶性夾雑物が組成物中に残留してしまい、品質的にも劣るものとなる。このため、分離、留去のいずれの方法にしても水分の除去が煩雑であり、工業的に好ましくない。また、この方法で得られるエポキシ樹脂の剛性については記載されていない。
【0007】
また、特許文献2には、粒子径が300nm以下のゴム状重合体が良好に分散された有機溶媒と、エポキシ樹脂などの重合性有機化合物と、混合し揮発成分を留去することにより、ゴム状重合体粒子が良好に分散し、かつ不純物の少ない樹脂組成物を得る方法が記載されており、この際、前記ゴム状重合体が良好に分散された有機溶媒を、ゴム状重合体粒子の水性ラテックスを水に対し部分溶解性を示す有機溶媒と混合して得られる混合物に対して、水を接触させて、ゴム状重合体粒子の凝集体を生成させ、さらに凝集体と水相の混合物より水相を分離することにより、不純物の少ないゴム状重合体粒子の凝集体を得た後、該凝集体に有機溶媒を添加することで得ている。この際、ゴム状重合体の好ましい粒子径は50nmから300nmとされており、実際に用いられている粒径はゴム粒子の粒径として100nmである。しかし、この特許文献2には、実際に靱性が改善されたとの結果は報告されておらず、剛性について記載されていない。
【0008】
また、特許文献3には、エポキシ樹脂と、ゴム状重合体を含んでなる半導体封止材用エポキシ樹脂組成物であって、該ゴム状重合体の少なくとも70%がエポキシ樹脂を含む樹脂相中に1次粒子の状態で分散しており、かつ該組成物(中のアルカリ金属イオン含有量が30ppm以下である半導体封止材用エポキシ樹脂組成物が記載されているが、ゴム状重合体の好ましい体積平均粒子径は30nmから2000nmとされており、実際に用いられている粒径はゴム粒子の粒径として100nmである。しかし、この特許文献3には、実際に靱性が改善された結果は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許4778851
【特許文献2】国際公開WO2005/028546パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2006/019041パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、靭性、耐衝撃性、及び弾性率(剛性)に優れ、また、これらがバランスした新たな樹脂の改質手段となり得るポリマー微粒子分散組成物を提供することであり、また、そのようなポリマー微粒子分散組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鋭意検討した結果、本発明者は、特定の構成を有するポリマー微粒子分散組成物とすることで、従来広く認知されている理論からの予想に反して、このようなポリマー微粒子分散組成物を用いて得られる硬化物や重合体につき、その弾性率(剛性・硬さ)を低下させないで、その破壊靱性を向上さえることができるという驚くべき結果を見出し、本発明を完成した。また、このような本発明の特定の構成を有するポリマー微粒子分散組成物の製造方法も同時に見出した。
【0012】
すなわち、本発明のポリマー微粒子分散組成物は、水以外の成分を主体とする媒体100重量部、及びポリマー微粒子0.1重量部〜150重量部を含むポリマー微粒子分散組成物であって、
前記ポリマー微粒子が、その体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含み、
前記ポリマー微粒子が、前記媒体中に独立分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散組成物である。
【0013】
好ましい実施態様は、前記架橋ポリマー層を、Tgが0℃以下の架橋ゴム状重合体とすることであ。
【0014】
好ましい実施態様は、前記架橋ゴム状重合体を、ジエン系ゴム重合体、アクリル系ゴム重合体、及びオルガノシロキサン系ゴム重合体からなる群から選ばれる1種以上とすることである。
【0015】
好ましい実施態様は、前記ポリマー微粒子を、その内側に存在する前記架橋ポリマー層、及びその最も外側に存在する被覆ポリマー層の少なくとも2層を含むポリマー微粒子とすることである。
【0016】
好ましい実施態様は、前記被覆ポリマー層を、重合性、又は、硬化反応性をもつ官能基を含有する単量体を含む被覆ポリマー層成分を重合してなる被覆ポリマー層重合体で形成し、かつ、前記重合性、又は、硬化反応性をもつ官能基を、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素2重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上とすることである。
【0017】
好ましい実施態様は、前記ポリマー微粒子が、さらに、前記架橋ポリマー層に接してその外側に存在する中間ポリマー層を含むようにし、かつ、
前記中間ポリマー層が、多官能性モノマー30〜100重量%、及びその他のビニルモノマー0〜70重量%からなる中間ポリマー層成分を重合してなる中間ポリマー層重合体からなるようにすることである。
【0018】
一つの好ましい実施態様は、前記媒体を、硬化性或いは重合性モノマーを硬化させたもの、硬化性或いは重合性オリゴマーを硬化させたもの、及び熱可塑性ポリマーからなる群から選ばれる1種以上であり、かつ、常温で固体である媒体とすることである。
【0019】
別な一つの好ましい実施態様は、前記媒体を、硬化性或いは重合性モノマー、硬化性或いは重合性オリゴマー、及び有機溶媒からなる群から選ばれる1種以上であり、かつ、常温で液体である媒体とすることである。
【0020】
好ましい実施態様は、前記硬化性或いは重合性モノマー、又は、硬化性或いは重合性オリゴマーを、重合性、又は、硬化反応性を有する官能基を含有する有機化合物とすることである。
【0021】
好ましい実施態様は、前記重合性、又は、硬化反応性を有する官能基を、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素二重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上とすることである。
【0022】
また、本発明は、前記本発明のポリマー微粒子分散組成物の製造方法であって、順に、
前記ポリマー微粒子が水媒体中に分散されてなる水媒体分散液を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー微粒子をポリマー微粒子緩凝集体を得る第1工程と、
凝集したポリマー微粒子を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、ポリマー微粒子分散液を得る第2工程と、
有機溶媒溶液をさらに前記媒体と混合した後、有機溶媒を留去する第3工程と、
を含む、ポリマー微粒子分散組成物の製造方法に関する。
【0023】
好ましい実施態様は、前記水媒体分散液を、単量体を前記水媒体中で、乳化重合、懸濁重合、ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合、及び分散重合からなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて前記ポリマー粒子を重合することにより形成される水性ラテックスとすることである。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリマー微粒子分散組成物は、特定の構成を有するポリマー微粒子が、媒体中に、特定の状態で分散しているので、常温で液体の媒体中だけでなく、その状態から特定の方法で処理することで、常温で固体の硬化物や重合体中でも、ポリマー微粒子が媒体中で独立分散状態を維持可能であり、これにより、硬化物や重合体の剛性、弾性率を低下させる事無く、その靱性を従来の技術よりも大幅に向上させることが可能であり、従って、優れた剛性と靭性のバランスを有する硬化物や重合体が得られるポリマー微粒子分散樹脂組成物となる。
【0025】
このような本発明のポリマー微粒子分散組成物を、炭素繊維複合材料に代表される次世代構造用材料のマトリクス樹脂や構造接着剤等のベースとなるエポキシ樹脂等の硬化性樹脂に適用することは、特に好ましく、その剛性を損なわずに、その靭性を従来よりも大幅に向上できる、優れた改質技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例2の硬化板の透過型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0027】
(ポリマー微粒子分散組成物)
本発明のポリマー微粒子分散組成物は、媒体100重量部、及びポリマー微粒子0.1重量部〜150重量部を含むポリマー微粒子分散組成物であって、前記ポリマー微粒子が、その体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含み、前記ポリマー微粒子が、前記媒体中に独立分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散組成物なので、媒体が硬化物や重合体である場合にその媒体に靱性を付与すること可能であり、従って靱性を向上させることが可能なポリマー微粒子分散樹脂組成物となる。即ち、本発明は、本発明のポリマー微粒子分散樹脂組成物の媒体が硬化物や重合体である場合に、その常温固体の媒体中に本発明に係るポリマー微粒子分散組成物が独立分散していると、固体媒体の靱性が改善されることを発見し、その発見に基づき為されたものである。
【0028】
上述のように、本発明に係る媒体は、その向上された靱性が発揮される状態においては、好ましくは、常温で固体の硬化性或いは重合性モノマーを硬化させたもの、硬化性或いは重合性オリゴマーを硬化させたもの、及び熱可塑性ポリマーからなる群から選ばれる1種以上である。また、固体媒体中にポリマー微粒子が独立分散してなるこのような本発明の好ましい態様のポリマー微粒子分散組成物は、好ましくは、常温で液体の硬化性或いは重合性モノマー、及び有機溶媒から選ばれる1種以上を媒体とする本発明の別の好ましい態様のポリマー微粒子分散組成物を経て得られる。
【0029】
このような本発明のポリマー微粒子分散組成物を、炭素繊維複合材料に代表される次世代構造用材料のマトリクス樹脂や構造接着剤等のベースとなるエポキシ樹脂等の重合性、又は硬化性樹脂に適用することは特に好ましく、従来の改質技術とは異なり、その特長である剛性、耐熱性等の性質を損なう事無く、その靭性を大幅に向上できる、優れた改質技術となる。
【0030】
上述の如く、本発明のポリマー微粒子分散組成物は、前記媒体100重量部に対して、前記ポリマー微粒子を0.1重量部〜150重量部含むことを要するが、前記靱性付与の観点、それに関係する前記独立分散性の観点、及びコストも観点から、1重量部〜100重量部とすることが好ましく、より好ましくは2重量部〜50重量である。
【0031】
上述の如く、本発明のポリマー微粒子分散組成物は、前記ポリマー微粒子が、前記媒体中に独立分散していることを要するが、本明細書においてポリマー微粒子が「独立分散している」とは、重量平均粒径が50nm以下のポリマー微粒子同士が、媒体中で互いに凝集せず、それぞれ独立して分散していることを意味し、具体的には、後述の方法で以下の(数式1)で算出した粒子分散率(%)が、50%以上であることを意味する。このような粒子分散率は、前記靱性向上の観点から、75%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、測定サンプル中の単独のポリマー微粒子の個数、及び2個以上のポリマー微粒子が接触している塊の個数の和B0と、2個以上のポリマー微粒子が接触している塊の個数B1を求め、上記(数式1)の式により算出する。ここで、B0が少なくとも10以上であるサンプル、及び観察領域を選択するものとする。
【0034】
本発明に係るポリマー微粒子は、上述の如く、前記媒体中に独立して分散していることにより前記靱性向上効果が奏されることから、前記媒体に相溶しないこと、即ち、架橋ポリマー層を含むことを要する。また、本発明に係るポリマー微粒子は、前記靱性付与の観点から、その体積平均粒子径が50nm以下であることを要するが、1nm以上、30nm以下であることが好ましく、5nm以上、20nm以下であることがより好ましい。また、その粒子径の分布としては、25nm以下の粒子径のポリマー微粒子の割合が、その70%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上である。なお、このようなポリマー微粒子の体積平均粒子径は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて求めることができる。
【0035】
このような本発明のポリマー微粒子分散組成物は、順に、ポリマー微粒子が水媒体中に分散されてなる水媒体分散液を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー微粒子を緩凝集させポリマー微粒子緩凝集体を得る第1工程と、そのポリマー微粒子緩凝集体を液相から分離・回収した後、再度、分散用有機溶媒と混合して、ポリマー微粒子が分散用有機溶媒中に分散したポリマー微粒子分散液を得る第2工程と、そのポリマー微粒子分散液をさらに前記媒体と混合した後、前記分散用有機溶媒を留去して本発明の本発明のポリマー微粒子分散組成物を得る第3工程と、を含んで調製されることが好ましい。かかる方法により、ポリマー微粒子が独立分散している(以下、一次分散とも呼ぶ。)ポリマー微粒子分散組成物を容易に得ることができ、このような本発明の製造方法は、ハンドリング性に優れている。即ち、このような本発明のポリマー微粒子分散組成物の製造方法は、固体や液体状の任意の有機媒体に、粒子径が50nm以下、特には20nm以下である極めて小さな架橋ポリマー粒子が、良好に分散体されてなる、ポリマー微粒子分散組成物の簡便な製造方法である。
【0036】
上述した本発明のポリマー微粒子分散組成物の製造方法において、前記水媒体分散液は、好ましくは、単量体を前記水媒体中で、乳化重合、懸濁重合、ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合、及び分散重合からなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて前記ポリマー粒子を重合することにより形成される水性ラテックスである。
【0037】
このような、本発明のポリマー微粒子分散組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、染料、顔料、希釈剤、カップリング剤、後述する好ましい媒体として挙げる樹脂以外の樹脂等を、その媒体が有する本来の機械的強度、及び靱性が損なわない範囲で必要に応じて適宜配合することができる。
【0038】
(媒体)
本発明に係る媒体は、上述したように、硬化物や重合体、又は、この硬化物や重合体に前記ポリマー微粒子の独立分散状態を維持したままで置換可能な媒体であり、前記ポリマー微粒子の独立分散状態を確保する観点から好ましくは有機化合物である。前記ポリマー微粒子の不可逆な凝集を抑制して独立分散状態を維持しつつ、容易に硬化物や重合体の改質目的に適用できるという観点から水以外の成分を主体とする媒体で有り、好ましくは有機化合物を主成分とする媒体である。
【0039】
このような本発明に係る媒体として使用可能な有機化合物としては、硬化性或いは重合性モノマー、硬化性或いは重合性オリゴマー、及びこれらを硬化させた樹脂、熱可塑性ポリマー、及び各種有機溶媒から成る群から選ばれる1種以上、及びこれらの混合物が好ましく例示される。
【0040】
前記媒体が、硬化性或いは重合性モノマー、硬化性或いは重合性オリゴマー、及び有機溶媒からなる群から選ばれる1種以上であり、かつ、常温で液体である場合には、本発明のポリマー微粒子分散組成物をそのままで、或いは任意の重合性または硬化性樹脂にて適宜希釈の上で、硬化或いは重合することで、大幅に剛性や靭性が改良された硬化物が種々の形状で得られるので特に好ましい。
【0041】
前記硬化性或いは重合性モノマー、又はオリゴマーとしては、重合性、又は、硬化反応性を有する官能基を含有する有機化合物が好ましく、前記重合性、又は、硬化反応性を有する官能基としては、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素2重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基から成る群から選ばれる1種以上、及びこれらの混合物が好ましい。これらの中でも、エポキシ基、オキセタン基、フェノール性水酸基、環状エステル、シアン酸エステル基、ベンズオキサジン基、炭素−炭素2重結合を有する化合物が、重合性、硬化性樹脂としての利用価値の観点からより好ましく、特に好ましくは、エポキシ基を有するいわゆるエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物、水素添加ビスフェノール化合物、フェノールまたはo―クレゾールノボラック、芳香族アミン、多環脂肪族或いは芳香族化合物等の既知の基本骨格の化合物のグリシジルエーテル置換体、シクロヘキセンオキシド骨格を有する化合物等が利用可能であるが、代表的なものとして、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル及びその縮合物、いわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく例示される。
【0042】
前記熱可塑性ポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましく例示される。
【0043】
前記有機溶媒としては、メチルエチルケトン等のケトン類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロピラン等のエーテル類、メチラール等のアセタール類、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のアルコール類等が好ましく例示される。
【0044】
本発明のポリマー微粒子分散組成物は、成形材料、接着剤、繊維あるいはフィラー強化複合材料、封止材料、注型材料、絶縁材料、コーティング材料、充填材、光造型材料、光学部品、インキ、トナーとして好適に使用される。
【0045】
前記媒体が硬化性或いは重合性モノマーの場合の本発明のポリマー微粒子分散組成物は、例えば、硬化剤や触媒、あるいは熱や光(紫外線など)や放射線(電子線など)の作用、およびこれらの組み合わせなど、公知の硬化方法によって硬化した本発明のポリマー微粒子分散組成物となる。この場合の成型に際しては、例えば、トランスファー成型法、インジェクション成型法、注型成形法、塗布焼付法、回転成形法、光造型法、さらには炭素繊維、ガラス繊維等と複合させたハンドレイアップ成形法、プリプレグ成形法、引き抜き成形法、フィラメントワインディング成形法、プレス成形法、レジントランスファモールディング(RTM、VaRTM)成形法、SMC成形法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
(ポリマー微粒子)
本発明に係るポリマー微粒子は、架橋ポリマー層を含むことを要するが、上述したようにそのことにより上記媒体に相溶することなく独立分散しているので、ポリマー微粒子自体が架橋ポリマー層だけで構成されている場合、即ち、ポリマー微粒子の100重量%が架橋ポリマー層である場合を含めて、架橋ポリマー層は本発明に係るポリマー微粒子の主たる構成要素であり、本発明の靱性向上効果の観点から、その比率は40重量%以上であることが好ましく、より好ましくは45重量%〜90重量%である。また、靱性向上の観点から、前記ポリマー微粒子1個の内部に1個の粒子状の架橋ポリマー層を含むことが好ましく、その場合は、架橋ポリマー層の好ましい数平均粒子径は50nm以下であり、より好ましくは、1nm以上、30nm以下、更に好ましくは2nm以上、20nm以下である。
【0047】
また、本発明に係るポリマー微粒子は、前記媒体への分散性を高める観点から、その最も外側に被覆ポリマー層を、さらに、有することが好ましい。このような内側の架橋ポリマー層、及び最も外側の被覆ポリマー層からなる構造は、コア/シェル構造と呼称されるので、以下、架橋ポリマー層をコア層、被覆ポリマー層をシェル層とも呼称することがある。このような被覆ポリマー層は、ポリマー微粒子を100重量%として、靱性向上効果を十分発揮しつつ、分散性を高める観点から、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%〜45重量%である。また、靱性向上の観点から、被覆ポリマー層は、前記ポリマー微粒子の最も外側に、平均厚み10nm以下で存在することが好ましく、分散性向上の観点から、平均厚みを2nm〜8nmとすることがより好ましい。
【0048】
さらに、本発明に係るポリマー微粒子は、媒体への溶出を長期間に亘って防止し、本発明の靱性付与効果を増大し、前記被覆ポリマー層がポリマー微粒子外壁面へ均一に存在せしめる、これらの1以上の観点から、前記架橋ポリマー層に接してその外側に、かつ、前記被覆ポリマー層の内側に中間ポリマー層を、さらに、有することが好ましい。このような中間ポリマー層は、前述の観点から、ポリマー微粒子を100重量%として、20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは5重量%〜10重量%である。
【0049】
(架橋ポリマー層)
本発明に係る架橋ポリマー層は、本発明の発明者らが見出した効果である、体積平均粒子径が50nm以下の独立分散しているポリマー微粒子を含む硬化物や重合体の靱性改善効果、が奏されるものであれば特に限定されず、例えば、架橋ゴム状重合体、架橋硬質重合体等が好ましく例示される。
【0050】
架橋ポリマー層として、前記架橋ゴム状重合体を用いた場合には、本発明の靱性向上効果に加えて、耐衝撃性向上効果を前記硬化物や重合体に付与できるので特に好ましい。このような架橋ゴム状重合体は、耐衝撃性向上効果の観点から、好ましくはTgが0℃以下の架橋ゴム状重合体であり、ジエン系ゴム重合体、アクリル系ゴム重合体、オルガノシロキサン系ゴム重合体、オレフィン化合物を重合したポリオレフィン系ゴム類、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル類、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテル類が例示され、特に水系における架橋ポリマー分散体を得やすいという観点からジエン系ゴム重合体、アクリル系ゴム重合体、及びオルガノシロキサン系ゴム重合体がより好ましく、水系における重合の容易さの観点から、特に好ましくは、アクリル系ゴム重合体である。
【0051】
このような架橋構造の導入方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる手法を採用することができる。例えば、モノマーを重合して上述の、ジエン系ゴム重合体や、アクリル系ゴム重合体等を重合する際に、その主成分となるジエン系モノマーや、アクリルモノマーに後述する多官能性モノマーやメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法等が挙げられる。また、オルガノシロキサン系ゴム重合体に架橋構造を導入する方法としては、重合時に多官能性のアルコキシシラン化合物を一部併用する方法や、ビニル反応性基、メルカプト基等の反応性基をポリシロキサン系ポリマーに導入し、その後ビニル重合性のモノマーあるいは有機過酸化物等を添加してラジカル反応させる方法、あるいは、ポリシロキサン系ポリマーに多官能ビニル化合物やメルカプト基含有化合物等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法等が挙げられる。
【0052】
具体的には、前記架橋ゴム状重合体は、ゲル含量が70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書でいうゲル含量とは、凝固、乾燥により得られたクラム0.5gをトルエン100gに浸漬し、23℃で24時間静置した後に不溶分と可溶分を分別したときの、不溶分と可溶分の合計量に対する不溶分の比率を意味する。
【0053】
(被覆ポリマー層)
本発明に係る被覆ポリマー層は、被覆ポリマー層成分を重合してなる被覆ポリマー層重合体からなり、前記媒体中での本発明に係るポリマー微粒子の分散性を向上させる効果が奏されるものであれば特に限定されず、例えば、ビニル基を有するビニルモノマーをラジカル重合したビニル重合体や、オレフィン化合物を重合したポリオレフィン類、シロキサン化合物を縮合重合したシリコーン重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル類、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテル類等が好ましく例示される。この内、被覆ポリマー層として、前記ビニル重合体を用いた場合には、前記架橋ポリマー層や後述する中間ポリマー層にグラフト重合することが可能であるので好ましい。
【0054】
この場合、前記硬化物や重合体中で本発明に係るポリマー微粒子が凝集せずに良好な分散状態を維持するために、液体、又は固体の前記マトリックス樹脂に化学結合させる観点からは、前記ビニル重合体の主鎖を形成するビニル基以外に、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素2重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上を含有する反応性基含有ビニルモノマーを、前記被覆ポリマー層成分を100重量%としたときに0.1重量%〜50重量%含有することがより好ましい。
【0055】
例えば、媒体をエポキシ樹脂とした場合にポリマー微粒子が凝集せずに良好な分散状態を維持する観点からは、被覆ポリマー層重合体を、前記主鎖形成ビニルモノマーとしてスチレン(St)、アクリロニトリル(AN)、及びメチルメタクリレート(MMA)を主成分とし、前記反応性基含有ビニルモノマーとしてグリシジルメタクリレート(GMA)を主成分とする共重合体とすることが好ましい。
【0056】
また、被覆ポリマー層重合体を、後述する多官能性モノマーを含む被覆ポリマー層成分を重合した共重合体とすると、後述する中間層ポリマー層を挿入することで得られる効果が被覆ポリマー層で発揮できる場合があるので、より好ましい。
【0057】
(中間ポリマー層)
本発明に係る中間ポリマー層は、同一分子内にラジカル性二重結合を2以上有するモノマー(以下、「多官能性モノマー」と称する場合がある。)30〜100重量%、及びその他のビニルモノマー0〜70重量%からなる中間ポリマー層成分を重合してなる中間ポリマー層重合体からなり、本発明のポリマー微粒子分散組成物の粘度を低下させる効果、前記被覆ポリマー層をポリマー微粒子外壁面へ均一に存在せしめる効果、ポリマー微粒子の媒体への分散性を向上させる効果、の内何れかの効果を奏するものであれば、特に限定されない。このような多官能性モノマーを主成分として形成される中間ポリマー層を有することで、この多官能性モノマーの二重結合の一つを介して、前記中間ポリマー層成分が前記被覆ポリマー層にグラフト重合して、実質的に中間ポリマー層と被覆ポリマー層とが化学結合するとともに、残りの二重結合を介して架橋ポリマー層にグラフト重合することで、実質的に中間ポリマー層と架橋ポリマー層とが化学結合する。また、言い換えれば前記コアに多くの二重結合が配されることから、シェルのグラフト効率が高められ、ポリマー微粒子のコアの架橋密度が上がるため、上述の3つの効果が得やすくなる。
【0058】
(ポリマー微粒子の製造方法)
本発明に係るポリマー微粒子は、その体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含む。このようなポリマー微粒子は、周知の方法で形成できるが、一般的な水媒体中で製造可能であるので、単量体を前記水媒体中で、乳化重合、懸濁重合、ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合、及び分散重合からなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて重合することが好ましく、このようにして形成された水性ラテックスである本発明に係るポリマー微粒子が水媒体中に分散されてなる水媒体分散液を出発原料として、本発明のポリマー微粒子分散組成物を製造することが好ましい。前記重合法の中で、ポリマー微粒子の構造制御の観点から、乳化重合、特に多段乳化重合が好ましい。
【0059】
前記乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、ジオクチルスルホコハク酸やドデシルベンゼンスルホン酸等に代表されるアルキルまたはアリールスルホン酸、アルキルまたはアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸に代表されるアルキルまたはアリール硫酸、アルキルまたはアリールエーテル硫酸、アルキルまたはアリール置換燐酸、アルキルまたはアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸に代表されるN−アルキルまたはアリールザルコシン酸、オレイン酸やステアリン酸等に代表されるアルキル、又はアリールカルボン酸、アルキルまたはアリールエーテルカルボン酸等の各種の酸類、これら酸類のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などのアニオン性乳化剤(分散剤);アルキルまたはアリール置換ポリエチレングリコール等の非イオン性乳化剤(分散剤);ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体等の分散剤が挙げられる。これらの乳化剤(分散剤)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
ポリマー微粒子の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られる重縮合体への悪影響を容易に防止できる。
【0061】
(ジエン系ゴム重合体)
前記ジエン系ゴム重合体は、ジエン系モノマーを主成分として重合される重合体であり、適宜その他のビニルモノマーを混合して重合した共重合体とすることができる。
【0062】
前記ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらのジエン系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくは1,3−ブタジエンである。
【0063】
(アクリル系ゴム重合体)
前記アクリル系ゴム重合体は、アクリルモノマーを主成分として重合される重合体であり、適宜その他の(メタ)アクリルモノマーや、前記その他のビニルモノマーを混合して重合した共重合体とすることができる。
【0064】
前記アクリルモノマーとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、及び2−フェノキシエチルアクリレートから選ばれる1種以上が、ゴム弾性が大きいことから、耐衝撃性向上効果に優れるので好ましいが、特に好ましくは、ブチルアクリレート(BA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)である。
【0065】
前記(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート類;
アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;
アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;
モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート、及び/又は、メタクリレートを意味する。
【0067】
弾性コア層を構成し得るゴム弾性体は、上記第1モノマーとビニル系モノマー(第2モノマー)とのコポリマーであってもよい。ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能性モノマー等が挙げられる。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはスチレンである。
【0068】
(オルガノシロキサン系ゴム重合体)
前記オルガノシロキサン系ゴム重合体としては、例えばジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ等の、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体が好ましく例示され、具体的には、1,3,5,7−オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)に代表される環状シロキサンや、好ましくは重量平均分子量が500〜20,000以下の直鎖状、又は分岐状のオルガノシロキサンオリゴマーを主成分とするオルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体を、酸や、アルカリ、塩、フッ素化合物などの触媒を用いて、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法で重合したポリオルガノシロキサンの粒子を好ましく例示することができる。
【0069】
また、前記オルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体100重量%中には、架橋構造を形成する観点から、メチルトリエトキシシラン、テトラプロピルオキシシランなどの3官能以上のアルコキシシラン、及びメチルオルソシリケートなどの3官能以上のシランの縮合体からなる群から選ばれる1種以上が、0重量%〜20重量%含まれていることが好ましい。
【0070】
さらに、前記オルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体100重量%中には、アリル置換基をこのオルガノシロキサン系ゴム重合体に導入することで、本発明に係る被覆ポリマー層による被覆を容易にする観点から、メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルフェニルジメトキシメチルシランなどの2官能の加水分解性基、及びビニル基を含有するシラン化合物であるグラフト交叉剤が、0重量%〜50重量%含まれていることが好ましい。
【0071】
(多官能性モノマー)
前記多官能性モノマーとしては、ブタジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、グリシジルジアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。特に好ましくはアリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン(DVB)である。
【0072】
前記架橋ポリマー層の架橋に好ましいのは、入手性、重合の容易さ、中間ポリマー層または被覆ポリマー層のグラフト効率の高さの観点から特にアリルメタアクリレート(AlMA)とTAICとジアリルフタレートである。
【0073】
中間ポリマー層成分の主成分として好ましいのは、微粒子ポリマー分散体の粘度低下および入手性、重合の容易さの観点から特にAlMAとTAICと1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、DVBである。
【0074】
(その他のビニルモノマー)
前記その他のビニルモノマーとしては、上述したジエン系モノマー、(メタ)アクリルモノマー、及び多官能性モノマーのいずれでもでないビニルモノマーであって、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−又は2−ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン等のビニル芳香族化合物類;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類;(メタ)アクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル等が挙げられ、これらのその他のビニルモノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(本発明のポリマー微粒子分散組成物の調製方法)
上述したように、本発明のポリマー微粒子分散組成物の製造法は、順に、ポリマー微粒子緩凝集体を得る第1工程、ポリマー微粒子分散液を得る第2工程、及び本発明のポリマー微粒子分散組成物を得る第3工程を含んで調製されることが好ましい。
【0076】
(第1工程:ポリマー微粒子緩凝集体の調製)
第1工程は、20℃における水に対する溶解度が好ましくは5質量%以上で、40質量%以下(特に30質量%以下)の有機溶媒と、前記水媒体分散液とを混合する操作を含む。かかる有機溶媒を用いることによって、上記混合操作の後、さらに水を添加すると(後述する)相分離することとなって、再分散が可能な程度の緩やかな状態のポリマー微粒子緩凝集体を得ることができる。
【0077】
有機溶媒の溶解度が5質量%未満の場合には、ポリマー微粒子を含有する前記水媒体分散液との混合がやや困難になる場合がある。また、溶解度が40質量%を超える場合には、第2工程において(後述する)ポリマー微粒子を液相(主として水相)から分離・回収することが難しくなる場合がある。
【0078】
20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン等のケトン類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロピラン等のエーテル類、メチラール等のアセタール類、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
第1工程で用いる有機溶媒は、20℃における水に対する溶解度が全体として5質量%以上40質量%以下を示す限り、混合有機溶媒であってもよい。例えば、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン等のケトン類、ジエチルカーボネート、ギ酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等の低水溶性の有機溶媒と、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、γ−バレロラクトン、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル等のエステル類、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等の高水溶性の有機溶媒とを2種以上適宜組み合わせた混合有機溶媒が挙げられる。
【0080】
また、第1工程で用いる有機溶媒は、後述する第2工程における液相(主として水相)の除去を容易にする観点から、比重が水よりも軽いものであることが好ましい。
【0081】
水性ラテックスと混合する有機溶媒の混合量は、水性ラテックス100質量部に対して50質量部以上(特に60質量部以上)、250質量部以下(特に150質量部以下)であることが好ましい。有機溶媒の混合量が50質量部未満の場合には、水性ラテックスに含有されるポリマー微粒子の凝集体が生成し難くなる場合がある。また、有機溶媒の混合量が300質量部を超える場合には、その後ポリマー微粒子をポリマー微粒子緩凝集体を得るために要する水量が増大して、製造効率が低下する場合がある。
【0082】
上記水性ラテックスと有機溶媒との混合操作には、公知のものが使用可能である。例えば、撹拌翼つきの撹拌槽等の一般的装置を使用してもよく、スタティックミキサ(静止混合器)やラインミキサ(配管の一部に撹拌装置を組み込む方式)などを使用してもよい。
【0083】
第1工程は、上記水性ラテックスと有機溶媒とを混合する操作の後、さらに過剰の水を添加して混合する操作を含む。これにより、相分離することとなって、緩やかな状態でポリマー微粒子をポリマー微粒子緩凝集体を得ることができる。また、あわせて、水性ラテックスの調製に際して使用した水溶性の乳化剤もしくは分散剤、水溶性を有する重合開始剤、あるいは還元剤等の電解質の大半を水相に溶出させることができる。
【0084】
水の混合量は、水性ラテックスと混合させる際に使用した上記有機溶媒100質量部に対し40質量部以上(特に60質量部以上)、300質量部以下(特に250質量部以下)であることが好ましい。水の混合量が40質量部未満では、ポリマー微粒子を緩凝集体として得ることが困難となる場合がある。また、水の混合量が300質量部を超える場合には、凝集したポリマー微粒子中の有機溶媒濃度が低くなるため、後述する第2工程において凝集したポリマー微粒子を再分散させるのに要する時間が長期化する等、ポリマー微粒子の分散性が低下する場合がある。
【0085】
(第2工程:ポリマー微粒子分散液の調製)
第2工程は、凝集したポリマー微粒子を液相から分離・回収して、ポリマー微粒子ドープを得る操作を含む。かかる操作によって、ポリマー微粒子から乳化剤等の水溶性の夾雑物を分離・除去することができる。
【0086】
凝集したポリマー微粒子を液相から分離・回収する方法としては、例えば、凝集したポリマー微粒子は液相に対し一般に浮上性があるため、第1工程で撹拌槽を用いた場合には、撹拌槽の底部から液相(主として水相)を排出したり、濾紙、濾布や比較的開き目の粗い金属製スクリーンを使って濾過したりする方法が挙げられる。
【0087】
ポリマー微粒子の凝集体に含まれる有機溶媒の量は、ポリマー微粒子全体の質量に対して30質量%以上(特に35質量%以上)であることが好ましく、75質量%以下(特に70質量%以下)であることが好ましい。有機溶媒の含有量が30質量%未満では、ポリマー微粒子ドープを有機溶媒へ再度分散させる(後述する)のに要する時間が長期化したり、不可逆な凝集体が残存し易くなったりするなどの不都合が生じる場合がある。また、有機溶媒の含有量が75質量%を超える場合には、その有機溶媒に水が多量に溶解・残存することとなることから、第3工程においてポリマー微粒子が凝集する原因となる場合がある。
【0088】
なお、本明細書において、ポリマー微粒子の凝集体に含まれる有機溶媒量は、ポリマー微粒子の凝集体を精秤後120℃で15分間乾燥させ、そこで減少した量を凝集体に含まれていた有機溶媒量とすることによって求めた。
【0089】
第2工程は、ポリマー微粒子の凝集体を有機溶媒と混合する操作を含む。ポリマー微粒子は緩やかな状態で凝集していることから、上記有機溶媒と混合することによって、ポリマー微粒子を有機溶媒中に一次粒子の状態で容易に再分散させることができる。
【0090】
第2工程で用いる有機溶媒としては、第1工程で用い得るものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。かかる有機溶媒を用いることにより、後述する第3工程において有機溶媒を留去する際に水と共沸して、ポリマー微粒子に含まれる水分を除去することができる。また、第2工程で用いる有機溶媒は、第1工程で用いた有機溶媒と異なっていてもよいが、第2工程において、凝集体の再分散性をより確実にするという観点から、第1工程で用いた有機溶媒と同一種であることが好ましい。
【0091】
第2工程で用いる有機溶媒の混合量は、ポリマー微粒子の凝集体100質量部に対して、40質量部以上(より好ましくは200質量部以上)、1400質量部以下(より好ましくは1000質量部以下)である。有機溶媒の混合量が40質量部未満では、有機溶媒中にポリマー微粒子が均一に分散し難くなり、凝集したポリマー微粒子が塊として残ったり、粘度が上昇して取り扱いが難しくなったりする場合がある。また、有機溶媒の混合量が1400質量部を超えると、後述する第3工程において有機溶媒を蒸発留去するに際して多量のエネルギーおよび大規模な装置を必要として不経済となる。
【0092】
本発明においては、第1工程と第2工程との間に、凝集したポリマー微粒子を液相から分離・回収し、再度20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合してポリマー微粒子をポリマー微粒子緩凝集体を得る操作を1回以上行うことが好ましい。また、これによりポリマー微粒子ドープ中に含まれる乳化剤等の水溶性の夾雑物の残存量をより低くすることができる。
【0093】
(第3工程:ポリマー微粒子分散組成物の調製)
第3工程は、第2工程で得たポリマー微粒子の有機溶媒溶液中の有機溶媒を前記媒体に置換する操作を含む。かかる操作によって、ポリマー微粒子が一次粒子の状態で分散したポリマー微粒子分散組成物を得ることができる。また、ポリマー微粒子の凝集体に残存する水分を共沸留去することができる。
【0094】
第3工程で用いる前記媒体の混合量は、最終的に望むポリマー微粒子分散組成物中のポリマー微粒子濃度に応じて適宜調整すればよい。
【0095】
また、有機溶媒を留去する方法としては、公知の方法が適用できる。例えば、槽内に有機溶媒溶液と前記媒体との混合物を仕込み、加熱減圧留去する方法、槽内で乾燥ガスと上記混合物を向流接触させる方法、薄膜式蒸発機を用いるような連続式の方法、脱揮機構を備えた押出機あるいは連続式撹拌槽を用いる方法等が挙げられる。有機溶媒を留去する際の温度や所要時間等の条件は、得られるポリマー微粒子分散組成物の品質を損なわない範囲で適宜選択することができる。また、ポリマー微粒子分散組成物に残存する揮発分の量は、ポリマー微粒子分散組成物の使用目的に応じて問題のない範囲で適宜選択できる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
(評価方法)
先ず、各実施例、及び比較例のポリマー微粒子分散組成物の評価方法について、以下説明する。
【0098】
[1]透過型電子顕微鏡によるポリマー微粒子の分散状態の観察
得られたポリマー微粒子分散組成物の一部を切り出し、酸化ルテニウムあるいは酸化オスミウムでポリマー微粒子を染色処理した後に薄片を切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM−1200EX)を用いて倍率1万倍、及び4万倍にて観察を行い、以下の方法により粒子分散率(%)を算出した。
【0099】
[2]平均粒子径および分散度の測定
水性ラテックスおよびポリマー微粒子分散組成物中に分散しているポリマー微粒子の体積平均粒子径(Mv)および個数平均粒子径(Mn)は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて測定した。水性ラテックスについては脱イオン水で希釈、液状樹脂組成物についてはメチルエチルケトンで希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水、またはメチルエチルケトンの屈折率、およびそれぞれのポリマー粒子の屈折率を入力し、計測時間600秒、Signal Levelが0.6〜0.8の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。分散度はMv、Mnの値からMv/Mnを算出して求めた。
【0100】
[3]粒子分散率の算出
得られた4万倍の透過型電子顕微鏡写真において、5cm四方のエリアを無作為に4カ所選択して、上述の方法で粒子分散率(%)を算出し、その平均値を用いた。
【0101】
[4]曲げ弾性率測定
硬化板サンプルを、長さ100mm、幅(b)10mm、厚さ(h)5mmのサイズの試験片に切削後、23℃で養生、その後、オートグラフAG−2000E(島津製作所製)を用いて、支点間距離(L)80mm、テストスピード2mm/分の条件にて3点曲げ試験を実施した。得られた荷重(F)−たわみ(e)曲線の初期傾き(F/e)を求め、曲げ弾性率(E)を下記の数式2より算出した。ここで、(F/e)はkN/mm単位、L、b、hはmm単位である。
【0102】
【数2】

【0103】
[5]破壊靱性測定
硬化板サンプルを長さ2.5インチ、幅(b)0.5インチ、厚さ(h)5mmのサイズの試験片に切削後、ノッチングマシーンによりVノッチを入れた。その後、Vノッチ先端からカミソリ刃を用いて試験片中央までクラックを入れた。試験片を23℃で養生後、オートグラフAG−2000E(島津製作所製)を用い、支点間距離(L)50mm、テストスピード1mm/分の条件で3点曲げ試験を行なった。曲げ試験から得られた最大強度F(kN)を用い、下記の数式3、及び数式4に従い、破壊靱性値K1c(MPa・m1/2)を算出した。ここで、aはVノッチの深さとVノッチ先端からクラック先端までの長さの和であり、L、h、a、及びbはcm単位である。
【0104】
【数3】

【0105】
【数4】

【0106】
(ポリマー微粒子を含有する水性ラテックスの製造例1:アクリル系ゴム重合体1)
温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、モノマーと乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水154質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.006質量部、
硫酸第一鉄・7水和塩0.0015質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.2質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)3.0質量部を仕込み、窒素気流中で撹拌しながら60℃に昇温した。
【0107】
次に、そこに、ブチルアクリレート(BA)70質量部、アリルメタクリレート(ALMA)1.4質量部、及びクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.02質量部の混合物を、170分間かけて連続的に滴下した。前記混合物添加終了から0.3時間撹拌を続けて重合を完結し、ポリマー微粒子の弾性コア層を含む水性ラテックス(R−1)を得た。
【0108】
引き続き、そこに、脱イオン水66質量部仕込んだ後、スチレン(St)10質量部、アクリロニトリル(AN)5質量部、メチルメタクリレート(MMA)8.3質量部、グリシジルメタクリレート(GMA)6.7質量部、ALMA0.85質量部、及びCHP0.08質量部の混合物を200分間かけて連続的に添加した。添加終了後、CHP0.04質量部を添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、ポリマー微粒子を含む水性ラテックス(L−1)を得た。モノマー成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー微粒子の体積平均粒子径は13nmであった。
【0109】
(ポリマー微粒子を含有する水性ラテックスの製造例2〜5:アクリル系ゴム重合体2〜5)
製造例1において、SDBS3.0質量部に代えて、1.5、0.42、0.125、0.035質量部をそれぞれ用いたこと以外は製造例1と同様にしてポリマー微粒子を含む水性ラテックス(L−2、L−3、L−4、L−5)をそれぞれ得た。モノマー成分の重合転化率はいずれも99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー微粒子の体積平均粒子径はそれぞれ43、104、136、199nmであった。
【0110】
(ポリマー微粒子を含有する水性ラテックスの製造例2:ジエン系ゴム重合体)
耐圧重合機中に、脱イオン水200質量部、リン酸三カリウム0.03質量部、EDTA0.002質量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001質量部、及びSDBS1.55質量部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行なって酸素を除いた後、ブタジエン(Bd)100質量部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.03質量部、続いてSFS0.10質量部を投入し重合を開始した。重合開始から3、5、7時間目それぞれに、PHP0.025質量部を投入した。また、重合開始4、6、8時間目それぞれに、EDTA0.0006質量部、及び硫酸第一鉄・7水和塩0.003質量部を投入した。重合15時間目に減圧下残存モノマーを脱揮除去して重合を終了し、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性コア層を含む水性ラテックスを得た。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー微粒子の弾性コア層の体積平均粒子径は90nmであった。
【0111】
温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、及びモノマーの添加装置を有するガラス反応器に、上記ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性コア層を含む水性ラテックス215質量部(ポリブタジエンゴム粒子70質量部相当)、及び脱イオン水98質量部を仕込み、窒素置換を行いながら60℃で撹拌した。EDTA0.004質量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.001質量部、及びSFS0.2質量部を加えた後、St10質量部、AN5質量部、MMA8.3質量部、GMA6.7質量部、及びCHP0.08質量部の混合物を200分間かけて連続的に添加した。添加終了後、CHP0.04質量部を添加し、さらに1時間撹拌を続けて重合を完結させ、ポリマー微粒子を含む水性ラテックス(L−3)を得た。モノマー成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー微粒子の体積平均粒子径は100nmであった。
【0112】
前記製造例1〜6の単量体組成につき以下の表1に纏めて示す。
【0113】
【表1】

【0114】
(実施例1)
30℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)126質量部を導入し、撹拌しながら、製造例1で得られたポリマー微粒子の水性ラテックスを126質量部投入した。均一に混合後、水200質量(合計452)部を80質量部/分の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体を含むスラリー液を得た。次に、凝集体を残し、液相350質量部を槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体(ポリマー微粒子ドープ)にMEK150質量部を追加して混合し(残存252)、ポリマー微粒子が分散した有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液71.6質量部(ポリマー微粒子を11.1重量部含む)に液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER社製「JER828EL」)100質量部を投入し、混合後、MEKを減圧留去し、ポリマー微粒子を分散させたビスフェノールA型エポキシ樹脂をポリマー微粒子分散組成物1として得た。
【0115】
このポリマー微粒子分散組成物1(エポキシ当量;208g/eq)65g、JER828EL(エポキシ当量;187g/eq)34.2g、硬化剤としてジアミノジフェニルスルホン(ハンツマン社製「Aradur9664−1」、活性アミン当量;62g/eq)30.8gを、130℃に保持しながらよく混合(ポリマー微粒子5重量%含む)し、更に、脱泡して、液状樹脂組成物を得た。この液状樹脂組成物を、厚み5mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に注ぎ込み、熱風オーブン中150℃で1時間、続いて180℃で2時間硬化させ、厚み5mmの硬化板1を得た。この硬化板1の物性値を表2に示す。
【0116】
(比較例1)
ポリマー微粒子分散組成物を混合せず、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂JER828EL;97.6g、及び硬化剤であるジアミノジフェニルスルホンAradur9664−1;32.4gのみを混合したこと以外は実施例1と同様にして、硬化板を得た。この硬化板の物性値を表2に示す。
【0117】
(実施例2、及び比較例2〜5)
実施例1において、製造例1で得られたポリマー微粒子の水性ラテックスに代えて、製造例2〜6で得られたそれぞれのポリマー微粒子の水性ラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして、ポリマー微粒子を分散させたエポキシ樹脂組成物2〜6、及び硬化板2〜6を、それぞれ実施例2、及び比較例2〜5の硬化板として得た。この硬化板2〜6の物性値を表2に示す。また、実施例2で得られた硬化板につき上述の方法、具体的には、ミクロトームで超薄サンプルを切り出し、酸化ルテニウムで染色し透過型電子顕微鏡によるポリマー微粒子の分散状態の観察、及び粒子分散率の算出を行った。その顕微鏡写真を図1に示す。粒子分散率は55%であった。
【0118】
【表2】

【0119】
例として実施例2の結果につき図1に示すように、実施例1、及び2で得られたポリマー微粒子分散組成物ではポリマー微粒子が凝集することなく独立分散しており、表2に示すように、これらの硬化物では、ポリマー微粒子を添加しても、添加していない比較例1の硬化物と比べて弾性率は殆ど低下していないにもかかわらず、破壊靱性が大幅に向上している。逆に、体積平均粒子径が100nm以上と大きい、比較例2〜5の硬化物では、ポリマー微粒子を添加により、弾性率は低下しており、それに比べて、破壊靱性の向上は小さい。
【0120】
架橋ポリマー粒子の粒子径を限りなく小さくし、例えば25nm以下とすることは知られており、また、架橋していないポリマーの自己配列によるナノ分散についての報告例は有るが、本発明のように、極小架橋ポリマー微粒子を水以外の媒体、とりわけエポキシ樹脂やビニルモノマーその他の重合性有機物やポリマー固体に粒子分散させる事はこれまでに行なわれていない。また、ポリマー微粒子を添加していない硬化物と比べて弾性率を殆ど低下させずに、破壊靱性を大幅に向上できる本発明の効果は、本発明者らにより初めて見出された効果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水以外の成分を主体とする媒体100重量部、及びポリマー微粒子0.1重量部〜150重量部を含むポリマー微粒子分散組成物であって、
該ポリマー微粒子が、その体積平均粒子径が50nm以下であり、かつ、架橋ポリマー層を含み、
該ポリマー微粒子が、該媒体中に独立分散していることを特徴とするポリマー微粒子分散組成物。
【請求項2】
前記架橋ポリマー層が、Tgが0℃以下の架橋ゴム状重合体である、請求項1に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項3】
前記架橋ゴム状重合体が、ジエン系ゴム重合体、アクリル系ゴム重合体、及びオルガノシロキサン系ゴム重合体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項2に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項4】
前記ポリマー微粒子が、その内側に存在する前記架橋ポリマー層、及びその最も外側に存在する被覆ポリマー層の少なくとも2層を含む、請求項2、又は3に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項5】
前記被覆ポリマー層が、被覆ポリマー層成分を重合してなる被覆ポリマー層重合体からなり、
該被覆ポリマー層成分が、重合性、又は、硬化反応性をもつ官能基を含有する単量体を含み、
該重合性、又は、硬化反応性をもつ官能基が、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素2重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項6】
前記ポリマー微粒子が、さらに、前記架橋ポリマー層に接してその外側に存在する中間ポリマー層を含み、
該中間ポリマー層が、多官能性モノマー30〜100重量%、及びその他のビニルモノマー0〜70重量%からなる中間ポリマー層成分を重合してなる中間ポリマー層重合体からなる、請求項4、又は5に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項7】
前記媒体が、硬化性或いは重合性モノマーを硬化させたもの、硬化性或いは重合性オリゴマーを硬化させたもの、及び熱可塑性ポリマーからなる群から選ばれる1種以上であり、かつ、常温で固体である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項8】
前記媒体が、硬化性或いは重合性モノマー、硬化性或いは重合性オリゴマー、及び有機溶媒からなる群から選ばれる1種以上であり、かつ、常温で液体である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項9】
前記硬化性或いは重合性モノマー、又は、硬化性或いは重合性オリゴマーが、重合性、又は、硬化反応性を有する官能基を含有する有機化合物である、請求項7、又は8に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項10】
前記重合性、又は、硬化反応性を有する官能基が、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、炭素−炭素二重結合、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上である、請求項9に記載のポリマー微粒子分散組成物。
【請求項11】
請求項1〜10に記載のポリマー微粒子分散組成物の製造方法であって、順に、
前記ポリマー微粒子が水媒体中に分散されてなる水媒体分散液を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー微粒子をポリマー微粒子緩凝集体を得る第1工程と、
凝集したポリマー微粒子を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、ポリマー微粒子分散液を得る第2工程と、
有機溶媒溶液をさらに前記媒体と混合した後、有機溶媒を留去する第3工程と、
を含む、ポリマー微粒子分散組成物の製造方法。
【請求項12】
前記水媒体分散液が、単量体を前記水媒体中で、乳化重合、懸濁重合、ミニエマルジョン重合、マイクロエマルジョン重合、及び分散重合からなる群から選ばれる1種以上の方法を用いて前記ポリマー粒子を重合することにより形成される水性ラテックスである、請求項11に記載のポリマー微粒子分散組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−174066(P2010−174066A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15537(P2009−15537)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】