説明

ポリマー表面上にマイクロ流体システムを製造する方法

本発明は、ポリマー表面上にマイクロ流体システムを製造する方法に関し、ここで、ポリマー表面の少なくとも1つの部分が、狙いを定めてレーザー光で照射され、これは、ポリマー表面のこの1つの部分の液体試料による湿潤性を、部分的に分解して修正するために行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分領域中の湿潤性が狙いを定めて修正されるポリマー表面を備えたマイクロ流体システムの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体工学は、とりわけ、非常に小さい空間における液体の操作に関する。マイクロ流体システムは、1mm未満の長さ規模において液体を動かし、制御し、分析するのに役立つ部品である。マイクロ流体システムは、たとえば、現代的な生物学、バイオテクノロジー、生化学、薬学産業、分析化学、臨床化学、環境分析またはプロセス制御における応用および測定に用いられる。
【0003】
血液または尿などの体液を分析するために、検査部材形式のマイクロ流体システムがしばしば用いられる。分析されるべき試料は、検査部材上に載せられ、分析される前に、そこで必要に応じて1つまたは複数の試薬と反応する。検査部材の光学的、とりわけ測光的および電気化学的評価は、試料中の検体の濃度を迅速に測定するために一般に使用されている方法を具現化する。様々な形式の検査部材があり、たとえば、キャピラリーギャップ検査部材があるが、この場合、試料液体が、試料供給位置から、これより離れた試料検出位置へと、毛細管力により、搬送路(毛細管路、キャピラリーギャップ)中を移動し、そこで検出反応が行われる。キャピラリーギャップ検査部材は、たとえば、カナダ特許第2549143号明細書または米国特許出願公開第2003/0013147号明細書中で公知である。マイクロキャピラリーは、親水性材料からなる、および必要な場合さらに疎水性材料からなる内側被覆部を装着している。試料液体と接触する材料の親水性および疎水性の表面特性により、マイクロ流体システム中の液体搬送が制御されうる。ポリマー表面の機能化(疎水化または親水化)は、従来技術では、とりわけ、たとえば、気体状、蒸気状、液体状、粥状またはペースト状物質のコーティング、たとえば、電解析出もしくは化学析出によるイオン化状または固体状(すなわち、粒状または粉状)の懸濁液の吹きつけ、たとえば、粉コーティングまたは焼成によるコーティングで行われる。さらに、たとえば、検査部材を、様々な湿潤性を有する複数の重なり合うフィルムから構成することも公知である。
【0004】
国際公開第01/56771号パンフレットでは、プラズマエッチングまたはフォトアブレーションによるポリマー層の構造化が説明されている。これは、削剥作用を行う方法であり、この方法により、三次元構造体が、互いに連結されたポリマー層中で作られる。様々な表面特性を備えたポリマー層のいずれの層が、このように作られた構造体の境界となるかに応じて、構造体表面の湿潤性が変わる。
【0005】
国際公開第98/23957号パンフレットは、フォトアブレーションによる表面パターンの作成に関する。フォトアブレーションが行われる領域中には、たとえば、生物学的親和性試薬が置かれている。
【0006】
従来技術で公知の表面機能化の方法は、大面積法(Grossflaechige Methoden)と部分的に分解する方法とに区分される。大面積法の欠点は、場合によっては、さらなる加工が困難になるまたはこれを妨げるという点である。たとえば、特定の表面特性を有する層を接着すると、邪魔になる残余接着剤が生じる。親水性機能と疎水性機能との交互パターン(パターニング)は、大面積法では製造できない。従来技術中で公知の部分的に分解する方法は、労力がかかり高価である。小さい次元、すなわち高い空間分解能の製造は困難である。部分的には、この部分的に分解する方法は、平面である表面にのみ応用可能である。形状の変更に関する柔軟性は小さい。
【0007】
本発明の目的は、これらの従来技術の欠点を回避することである。本発明の目的は、とりわけ、ポリマー表面上にマイクロ流体システムを製造する方法を準備することであり、ここで、ポリマー表面の少なくとも1つの部分の湿潤性をコスト効率よくおよび柔軟に修正する方法を準備することである。
【発明の概要】
【0008】
この目的は、本発明によりポリマー表面上にマイクロ流体システムを製造する方法により達成され、この方法では、ポリマー表面の少なくとも1つの部分(Teilbereich)が、狙いを定めてレーザー光で照射され、これは、ポリマー表面のこの1つの部分の液体試料による湿潤性を、部分的に分解して修正するために行われる。
【0009】
ポリマー表面は、ここで、平坦な担体、たとえば、縞状または帯状の担体の表面でありうる。しかし、本発明の方法によれば、任意の三次元形状の担体に属するポリマー表面も修正できる。担体は、ポリマーによりコーティングされることができ、または、完全にポリマーからなることができる。このポリマーは、好ましくは、ポリエチレン・テレフタレート(ポリエステル、PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスチロール(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)および環状オレフィン共重合体(COC)からなる群から選択されるポリマーである。
【0010】
本発明によれば、ポリマー表面の少なくとも1つの部分は、狙いを定めてレーザー光で照射される。「狙いを定めて」の意味は、この場合、マスクまたはこれに類似するものを用いず、適切な光学成分により少なくとも1つのレーザー光を部分的に焦光させ、この1つの部分を走査して、ポリマー表面を部分的に分解して修正することができるということである。
【0011】
レーザー光の照射は、ポリマー表面の1つの部分の湿潤性を修正するために行われる。表面の湿潤性(ように、これにより、たとえばこの表面を備えた毛細管中の流速)は、水(または水を含有する試料)がこの表面と形成する接触角αに基づき導き出されうる。液体滴と固体の土台との接触時には、2つの極端な場合がありうる。
・湿潤性が完全な場合:付着力が、凝集力より大きい場合。これゆえに、試料は個体の表面上に広がる。
・湿潤性が不十分な場合:付着力が、凝集力より(実質的に)小さい場合。これゆえ、液体は球状の滴に集結する。
【0012】
液体試料の毛細管中の湿潤性、および結果としてたとえば流速は、接触角αが小さくなるにしたがって大きくなる。毛細管を充填するための区間毎の充填時間は、接触角と共に指数関数的に上昇する。水を含有する試料においては、水との接触角を示すだけで、材料に固有の毛細管特性を特徴づけるのに十分である。本発明によるマイクロ流体システムは、この効果を利用して、たとえば、本発明の方法により処理された毛細管のポリマーの内側表面を、様々の湿潤性を有する複数のゾーンに分けて、その結果、液体試料は、毛細管のこれらのゾーン中で異なる接触角αを形成し、これにより、液体試料が、異なる速度で連続的に毛細管のこれらのゾーンを通って流れるようにする。これにより、試料が各ゾーン中にいかに長く存在し、たとえばここに置かれた試薬といかに長く反応するかに関して、目的に合わせて影響を与えることができる。この結果、本発明のマイクロ流体システム(たとえば、検査部材)の毛細管中では、様々な測定を次々と行い、とりわけ、複雑な測定を行うことができるが、この複雑な測定は、ゾーンに区分された毛細管の構造により、および、これにより生じる反応工程の時間的な分離により可能になる。複数の毛細管を検査部材中に平行して配置している場合には、同時に平行して異なる多重測定を1つの液体試料を用いて行うことさえ可能である。
【0013】
液体試料は、好ましくは、水を含有する試料であり、たとえば、血漿、血液、間質液、尿、水質分析の試料とりわけ下水、唾液または汗である。好ましくは、マイクロ流体システムは、診断システムである。
【0014】
本発明によりポリマー表面の部分における湿潤性を修正することは、レーザー光を用いて、部分において、液体試料がポリマー表面と形成する接触角を変えることを意味する。しかし、この修正は、とりわけ、レーザー光で照射されるエネルギー密度が磨耗閾値未満であることにより、材料を削剥することなく行われる。
【0015】
本発明の方法の利点は、レーザー光を用いて、修正する部分に関して高い空間分解能が得られる点である。レーザーと光学系とを適切に選択することにより、μm領域までの空間分解能が可能である。
【0016】
本発明の方法の好適な実施形態によれば、ポリマー表面は、レーザー光で照射される1つの部分で、レーザー光の照射により構造化される。すなわち表面の構造化は、レーザー光で変えられる。とりわけ、ポリマー表面は、レーザー光の照射により粗面化される。構造化のためには、パルスレーザーが用いられ、ここで、ポリマー表面はこの部分でパルスレーザー光により走査され、レーザーパルスがポリマー表面上に当たることにより、互いにある距離を隔ててポリマー表面が構造化される。レーザーのパラメータ(波長、出力、パルス繰り返し数など)を適切に選択することにより、目的に合った微細構造、たとえば、親水性または疎水性を引き起こす微細構造が作られる。レーザー光により、ポリマー表面上には、溶融された丸い構造部(隆起部および陥没部)が生じ、その平均距離は、(たとえば、陥没部から次の陥没部までの)「ハッチ距離」という概念で称される。
【0017】
このような構造化により、たとえば、マイクロ流体システムのポリマー表面の各部分は、いわゆる「ロータス効果」を有するように修正できる。この効果は、たとえば、国際公開第96/04123号パンフレット、国際公開第00/58140号パンフレットまたは国際公開第00/58415号パンフレットに記載されている。このような表面は、隆起部と陥没部を有し、ここで、隆起部間の距離は0.1〜200μmの範囲にあり、隆起部の高さは0.1〜100μmの範囲にあり、隆起部は疎水性を有する。
【0018】
さらに、部分毎のポリマー表面は、レーザー光により、生じた陥没部中に、外来原子、好ましくは空気分子が堆積でき、これにより、ポリマー表面が疎水化されるように構造化される。
【0019】
ポリマー表面の構造化に代えて、または、これに加えて、本発明の好適な実施形態によれば、ポリマー表面は、レーザー光の照射により化学変化し、これにより、照射されたポリマー表面の各部分の湿潤性が修正される。
【0020】
たとえば、レーザー光による処理時に、酸化により、極性基がポリマー表面に生じ、これが親水効果を高める。
【0021】
化学変化の一例では、ポリエステルにおいては、エキシマーレーザー照射により、O対Cの割合もエステル対カルボキシ基の割合も変えることができる。
【0022】
化学変化のさらに別の可能性は、レーザーパラメータを適切に選択することにより、ポリマー結合を解くことであり、その結果、処理された表面上には、ポリマーの切片が残り、これが、照射された部分におけるポリマー表面の湿潤性を修正する。
【0023】
本発明の方法の好適な実施形態によれば、ポリマー表面の少なくとも1つの部分は、レーザー光の照射により疎水化される。マイクロ流体システムのこの部分は、たとえば、流れにおいて(たとえば、毛細管内の)液体試料を減速させるまたは停めるのに、または、液体試料によるこの1つの部分の湿潤性を(たとえば、試料供給時に)妨ぐのに役つ。準備された親水性のポリマー表面を、1つまたは複数の部分において疎水化することにより、この表面上に親水性と疎水性とのパターンを作ることができる。
【0024】
本発明の方法の好適な実施形態によれば、ポリマー表面の少なくとも1つの部分は、レーザー光の照射により親水化される。マイクロ流体システムのこの1つの部分は、たとえば、流れにおいて(たとえば、毛細管内の)液体試料を加速するのに、または、液体試料によるこの部分の湿潤を(たとえば、試料供給時に)容易にするのに役立つ。準備された疎水性のポリマー表面を、1つまたは複数の部分において親水化することにより、この表面上に親水性と疎水性とのパターンを作ることができる。
【0025】
好ましくは、ポリマー表面上で異なるパラメータのレーザー光で、ポリマー表面の様々な部分を照射することにより、親水性と疎水性とのパターンが作られる。このような親水性部分と疎水性部分とが交互にある親水性と疎水性とのパターンでは、レーザーと光学系とを適切に選択することにより、μm領域までの空間分解能が可能である。したがって、マスクを使用することなく、かつポリマー表面から材料を削剥することなく、親水性と疎水性とのパターンが部分的に分解して作られる。コーティング方法などの公知の方法とは異なり、本発明の方法を用いると、レーザー光の照射により、診断システム中に親水性領域と疎水性領域とが、直近した所に狙いを定めて実現されうる。これにより、たとえばマイクロキャピラリーシステムにおける流体制御を容易に行うことができる。
【0026】
本発明の好適な実施形態によれば、ポリマー表面の1つの部分は、湿潤性を修正するために、直径4cm未満、好ましくは10mm未満、特に好ましくは1mm未満のレーザー光で照射される。
【0027】
本発明の好適な実施形態によれば、少なくとも1つの毛細管路が、担体のポリマー表面中に準備され、ポリマー表面は、毛細管路の内部中で、レーザー光の照射により親水化される。この毛細管路は、毛細管力に基づいて、(たとえば、検査部材の試料供給ゾーンから検査部材の検出ゾーンへ)液体試料を搬送するのに役立つ。
【0028】
これに関連して、供給ゾーンは、マイクロ流体システムの1つの領域であるが、この領域は、マイクロ流体システム中で搬送され、混合され、分離され、試薬と接触されおよび/またはこれ以外の方法で処理される液体試料を受容するように設けられている。検出ゾーンは、ここで液体試料の特定の構成成分またはその反応の特定の構成成分が、検出ゾーンに存在する試薬で検出可能であるように形成されている。この一例は、液体試料(たとえば、血液試料)中のグルコースの検出反応と、測光によるこの評価とが行われるゾーンである。
【0029】
毛細管路の内部中のポリマー表面をレーザー光で照射することにより、この実施形態の変形例においては、毛細管内の照射された領域は親水化される。これにより、水を含有する液体試料は、この親水化領域(好ましくは接触角はα<30°である領域)において、より迅速に搬送される。毛細管路は、好ましくは、内径<3mm(特に好ましくは1.5mm)であり、長さ<15mm(特に好ましくは7mm)であり、深さは0.04mm〜0.1mmの間(特に好ましくは0.07mm)である。マイクロチャネルの周辺は、毛細管路の内側中のポリマー表面に狙いを定めて照射した際には処理されないままである。しかし、このマイクロチャネルの周辺は、レーザーを用いて、狙いを定めて疎水化することも可能である。本発明の方法のある利点は、レーザー処理により平坦な表面のみを処理しうるのではないという点である。レーザー光により流路の表面を機能化するために、深い構造部(たとえば、マイクロチャネル)もレーザー光により到達可能である。
【0030】
特に好ましくは、ポリマーからなる担体が準備され、担体から少なくとも1つの毛細管路が打ち抜かれる。ポリマー固体からなる担体には、打ち抜きの際に、担体のこれ以外の層が損傷されえないという利点がある。従来技術では、しばしば、(たとえば、複数の粘着テープからなりうる)複数の層を有する担体が用いられる。この場合、毛細管路が担体中で打ち抜かれるが、これは、たとえば流路領域中の疎水性の被覆層が打ち抜かれ、流路領域中のこの下にある親水性の層が露出するように行われる。この際、一方では、親水性層はたいてい損傷を受け、少なくとも機械的な要求がなされ、他方では、しばしば邪魔になる粘着剤層が流路領域中で露出されてしまう。本発明による方法は、これに対して、製造工程を容易化できるという利点がある。追加となるコーティング工程または補助材料(たとえば、粘着テープ)の採用は省略される。マイクロチャネルを作るための打ち抜き過程(たとえば、キスカットプロセス)は、非常に容易になるが、これは、流路中に邪魔になるコーティングが存在しないからである。マイクロチャネルは、レーザーにより後から追加的に初めて処理され、これにより親水化される。
【0031】
本発明の好適な実施形態によれば、検査部材は、液体中の検体を測定するために製造され、この検査部材は、ポリマー表面を有する担体と、液体試料用の供給ゾーンと、検体の測定を行うための検出ゾーンと、供給ゾーンから検出ゾーンへ試料を搬送するための毛細管路とを有し、ここで、ポリマー表面は、供給ゾーンの周囲の領域において、レーザー光の照射により疎水化される。毛細管路の開口部がありかつ使用者がたとえば血液を載せる供給ゾーンの周囲の領域が疎水化されることにより、余分の血液が毛細管路中に吸収されるか、または、疎水化領域から滴となって落ち、検査部材の毛細管のみが湿潤し、検査部材の周辺領域の汚染および検査部材を受容する測定装置の汚染を回避することができる。レーザー光により疎水化された表面は、たとえば、ロータス効果を有する表面でありうる。
【0032】
本発明は、さらに、本発明の方法により製造されるマイクロ流体システムとりわけ検査部材に関する。本発明のマイクロ流体システムは、ポリマー表面を有し、その少なくとも1つの部分が、レーザー光の照射により、液体試料による湿潤性が修正される。好ましくは、マイクロ流体システムのポリマー表面上には、レーザー光で親水性化された少なくとも1つの部分および/またはレーザー光で疎水化された少なくとも1つの部分があり、とりわけ親水性と疎水性とのパターンがある。
【実施例】
【0033】
本発明によれば、2つのポリエステルフィルム(PET)の表面の部分を、レーザー光で照射する。処理されていないPETは疎水性を有し、接触角は約74°である。2種類のポリエステル((Melinex(登録商標))、厚さ350μmおよびHostaphan(登録商標)、厚さ12μm)について実験する。以下の3種類のレーザーシステムをMelinex(登録商標)に対して用いる。
・4f様式のダイオード励起された個体レーザー:波長266nm、パルス幅25ns、繰り返し数30kHz、パルスエネルギー10μJ、ハッチ距離(=レーザースポットの重複は構造体の平均距離に相当し、たとえば谷部から谷部まで)6μm、ビーム径18μmである。
・再生増幅ピコ秒レーザー:波長1064nm、パルス幅12ps、繰り返し数50kHz、パルスエネルギー30μJ、ハッチ距離12μm、ビーム径20μmである。
・KrFエキシマーレーザー:波長248nm、パルス幅30ns、繰り返し数100Hz、パルスエネルギー400〜500mJ、ハッチ距離10μm、ビーム径10μmである。
【0034】
Hostaphan(登録商標)は、上述の266nmの4fレーザーにより処理する。
【0035】
レーザー光による表面修正を評価するために、CCDカメラ(湿潤性の識別)、走査型電子顕微鏡−SEM(形態)、原子間力顕微鏡−AFM(粗面性)および光学顕微鏡を用いる。レーザー光照射後の各部分における接触角は、全ての場合で5°未満である。
【0036】
1064nmのピコ秒レーザー照射後のMelinex(登録商標)の深さプロフィール(トポグラフィー)の代表的な値は、約5μm〜6μmである。
【0037】
さらに、たとえば、酸化および転位(ポリエステルにおいては、エステル基からカルボキシ基へ)による表面の化学的修正から出発する。
【0038】
以下に、本発明を図面に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】本発明の方法により、レーザー光で照射されたポリマー表面の1つの部分の2つの異なる拡大図である。
【図1B】本発明の方法により、レーザー光で照射されたポリマー表面の1つの部分の2つの異なる拡大図である。
【図2A】本発明の方法により製造できるマイクロ流体システムの様々な親水性と疎水性とのパターンを概略的に示した図である。
【図2B】本発明の方法により製造できるマイクロ流体システムの様々な親水性と疎水性とのパターンを概略的に示した図である。
【図2C】本発明の方法により製造できるマイクロ流体システムの様々な親水性と疎水性とのパターンを概略的に示した図である。
【図2D】本発明の方法により製造できるマイクロ流体システムの様々な親水性と疎水性とのパターンを概略的に示した図である。
【図3A】本発明の方法により製造できる検査部材を概略的に示した図である。
【図3B】本発明の方法により製造できる検査部材を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1Aおよび図1Bは、レーザーで構造化され親水性を有するPETフィルムの2つの異なる拡大図である。ポリマー表面の図示した部分を、レーザー光で照射することにより、目的に応じて溶解され、丸い、親水性を引き起こすマイクロ構造体が作られた。
【0041】
図2A〜2Dは、本発明の方法により製造されうる様々な本発明のマイクロ流体システムを示す。
【0042】
図2Aに、互いに平行に配置された5つのマイクロ流体システム2を示す。矢印1は、このマイクロ流体システム2を通る(図示せず)液体試料の搬送方向を示す。マイクロ流体システム2は、それぞれ親水性と疎水性とのパターンを有し、これにより、縦長方向に伸張する1つの親水性領域3に対して平行に伸張する2つの疎水性領域4が側面に位置している。このような親水性と疎水性とのパターンを製造するために、たとえば、この部分の疎水性PET表面が、(たとえば、上述の実施例による)レーザー光で照射され、親水性領域3に修正される。マイクロ流体システム2は、たとえば、疎水性領域4を(たとえば、打ち抜きにより)中央で切断することにより、個々に切り離すことができる。
【0043】
図2Bに、同様に互いに平行に配置された5つのマイクロ流体システム2を示す。液体試料が毛細管力により各マイクロ流体システム2を通って搬送される搬送方向1で、水に対してより小さい接触角α(好ましくは、α<30°)を有するゾーン5と、水に対してより大きな接触角α(好ましくは、30°<α<90°)を有するゾーン6とが交互に存在する。これに関して、「より小さい」接触角とは、これが、「より大きな」接触角に対して相対的に小さな値を有するということを意味し、このより小さな接触角は、とりわけ0°〜30°であり、より大きな接触角は、30°〜90°でありうる。水に対してより小さな、好ましくはα<30°の接触角を有するゾーンは、より速い充填区間であり、これに続いて、それぞれ、より大きな接触角α、好ましくはα>30°を有するより遅い充填区間が続く。水に対してα>30°のゾーン中の接触角とは、好ましくは水に対して50°〜85°である。各マイクロ流体システム2において、これらのゾーン5、6に対して、搬送方向1に対して平行に伸張する2つの疎水性領域4が側面に位置している。ゾーン5、6は、好ましくは、キャピラリーギャップ中にある。
【0044】
好ましくは、ゾーン5、6は、毛細管中で、搬送方向で連続して、少なくとも1つの反応ゾーン、濃縮ゾーンまたは検出ゾーン、および、少なくとも1つの遅延ゾーンを有するが、毛細管中、目的に合わせて、2つの異なるゾーン間に遅延ゾーンがある。この際、反応ゾーンは、液体試料が、ここに置かれた試薬と反応するゾーンである。これは、たとえば、前反応、ノイズ除去反応、または試薬分離域である。濃縮ゾーンでは、液体試料の構成成分が濃縮される。検出ゾーンは、ここで液体試料の特定の構成成分または試薬との反応が検出されうるように設けられている。この一例は、血液試料中のグルコースの検出反応およびこの測光による評価が行われるゾーンである。遅延ゾーンでは、試料の流動が(接触角がより大きいことにより)遅延され、その結果、この試料は、搬送方向1において遅延ゾーンに続くゾーンへ、時間的な遅延をした後に初めて到着する。反応ゾーン、濃縮ゾーンおよび検出ゾーン中では、試料は、(接触角がより小さいことにより)迅速に分散され、これにより、試料はここに置かれた試薬と反応できる。遅延ゾーンでは、試料はより遅く流れるべきであり、その結果、試料は、前に置かれたゾーンから各遅延ゾーンを通って動くための時間が必要となる。したがって、反応ゾーン、濃縮ゾーンまたは検出ゾーンにおける水との接触角αはより小さく(迅速に充填され)、遅延ゾーンにおいては(試料を「引き止める」ため、すなわちよりゆっくりと充填するために)接触角はより大きくなる。2つの異なるゾーン間毎に、目的に応じて(必須ではないが)遅延ゾーンがあるが、これは、双方の異なるゾーンにおける反応を「分離する」ためにある。
【0045】
ポリマー表面上のゾーン5、6および領域4の親水性と疎水性とのパターンは、本発明によれば、ポリマー表面の部分を、狙いを定めてレーザー光で照射することにより製造され、これにより、部分の液体試料による湿潤性を部分的に分解して修正することができる。
【0046】
図2Cに、疎水性遮断部として機能するマイクロ流体システム2を概略図示する。このシステムは、1つの内側の親水性の部分7または2つの内側の親水性の部分7、8からなる親水性の内側領域を有し、この親水性の内側領域は、リング状の疎水性の外側部分8ないしリング状の疎水性の外側部分9により取り囲まれている。このような疎水性遮断部は、衛生上の側面および診断システムとしての機能を鑑みると、診断システムの重要な構成要素である。個々の部分7、8、9は、本発明によれば、ポリマー表面を狙いを定めてレーザー光で照射することにより、親水性化または疎水性化される。
【0047】
図2Dは、本発明の方法により製造可能なさらなるマイクロ流体システム2を概略図示し、この場合、液体試料の流動方向10が、親水性と疎水性とのパターンにより制御されうる。疎水性の部分11は、ポリマー表面のこの領域において液体試料の流動を妨げている。代わりに、試料は親水性の部分12に沿って流動する。
【0048】
図3Aは、本発明の方法により製造された検査部材13を示す。検査部材13は、担体18と、この担体18中にある毛細管路14とを有し、この毛細管路14は、液体試料の供給ゾーン15から検出ゾーン16まで、試料中の検体を測定するために伸張している。担体18は、ポリマー好ましくはPETからなる。毛細管路14の内部中のポリマー表面は、レーザー光の照射により親水化されている。
【0049】
図3Bは、図3Aにより組み立てられた検査部材13を示すが、ここでは、ポリマー表面17は、さらに、毛細管路14の周囲で、とりわけ供給ゾーン15の領域中で、レーザー光の照射により疎水化されている。
【符号の説明】
【0050】
1 搬送方向
2 マイクロ流体システム
3 親水性領域
4 疎水性領域
5 小さなαを有するゾーン
6 大きなαを有するゾーン
7 第1の親水性の内側領域
8 第2の親水性の内側領域
9 疎水性の外側領域
10 流動方向
11 疎水性の部分
12 親水性の部分
13 検査部材
14 毛細管路
15 供給ゾーン
16 検出ゾーン
17 毛細管路の周囲にあるポリマー表面
18 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー表面上にマイクロ流体システムを製造する方法において、前記ポリマー表面の少なくとも1つの部分に、狙いを定めてレーザー光を照射し、前記ポリマー表面の前記1つの部分における液体試料による湿潤性を、部分的に分解して修正するために行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ポリマー表面を、前記照射により構造化することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマー表面を、レーザー光の照射により化学変化することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー表面の1つの部分を、直径4cm未満のレーザー光で照射して、湿潤性を修正することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー表面の少なくとも1つの部分を、レーザー光の照射により疎水化されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー表面の少なくとも1つの部分を、レーザー光の照射により親水化されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー表面上で、様々なパラメータのレーザー光で前記ポリマー表面の様々な部分を照射することにより、親水性と疎水性とのパターンが作られることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの毛細管路(14)が担体(18)中に準備され、前記ポリマー表面は、前記毛細管路(14)の内部中で、レーザー光の照射により親水化されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ポリマーからなる担体(18)が準備され、前記担体から前記少なくとも1つの毛細管路(14)が打ち抜かれることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
液体中の検体を測定するための検査部材(13)が製造され、ポリマー表面を備えた担体(18)と、前記液体の試料の供給ゾーン(15)と、前記検体を測定するための検出ゾーン(16)と、前記試料を前記供給領域(15)から前記検出領域(16)に搬送するための毛細管路(14)とを有し、ここで、前記ポリマー表面は、前記供給ゾーン(15)の周囲の領域において、レーザー光の照射により疎水化されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により製造されたマイクロ流体システムであって、ポリマー表面を有し、ここで、前記ポリマー表面は少なくとも1つの部分において、液体試料による湿潤性を有し、前記湿潤性がレーザー光の照射により修正されているマイクロ流体システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2010−532269(P2010−532269A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513864(P2010−513864)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057862
【国際公開番号】WO2009/003856
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】