説明

ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法及びその成形体

【課題】優れた曲げ弾性率、耐熱性、耐衝撃性、及びアルデヒド類発生抑止性能を有するポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体の提供。
【解決手段】下記の成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを含有することを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法及びその成形体による。
成分(A):特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法及びその成形体に関し、さらに詳しくは、優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つ成形体を形成することができ、しかも射出成形時及び実使用時等において揮発される揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を示すポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題の高まりから、使用済みのプラスチック製品は、自然環境中で経時的に分解・消失し、最終的に自然環境に悪影響を及ぼさないことが求められている。従来のプラスチックは、自然環境中で長期にわたって安定であり、しかも嵩比重が小さいため、廃棄物埋め立て地の短命化を促進したり、自然の景観や野生動植物の生活環境を損なったりする問題点が指摘されていた。そこで、生分解性樹脂材料が注目を集めるようになった。生分解性樹脂は、土壌中や水中で、加水分解や生分解によって徐々に崩壊・分解が進行し、微生物の作用により最終的には無害な分解物となることが知られている。また、コンポスト(堆肥化)処理によって、容易に廃棄物処理を行うことができる。
【0003】
実用化され始めている生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、変性PVA、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、及びこれらのブレンド体等がある。これらの生分解性樹脂材料は、それぞれ固有の特徴を有し、その特徴に応じた用途展開が考えられる。
これらの中でも、脂肪族ポリエステルが、幅広い特性と汎用樹脂に近い加工性を有するため広く使われ始めている。また、脂肪族ポリエステルの中でも、乳酸系樹脂は、透明性・剛性・耐熱性等が優れていることから、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレートの代替材料として、包装フィルム分野や射出成形分野において注目されている。
【0004】
さらに近年ではプラスチックの原料として、従来の石油化学製品由来のものではなく、植物原料由来のプラスチックを利用することが環境保護の観点から求められてきている。
乳酸系樹脂を初めとした生分解性プラスチックの多くは、植物原料由来のプラスチックとすることが可能であり、その意味からもこれらの樹脂が注目されている。
【0005】
しかしながら、乳酸系樹脂として代表的なポリ乳酸は、ポリプロピレン等の汎用樹脂と比較して耐熱性や耐衝撃性等に劣るという欠点を有している。そのため、ポリ乳酸の特性を改善するための様々な試みがなされている。
例えば、特許文献1には、脂肪族ポリエステル100重量部と平均繊維長が1〜50mmの強化用生分解性繊維5〜500重量部とからなる繊維強化成形体が開示されている。
この様な改良技術を基に、乳酸系樹脂が各種用途に展開されつつあるが、その物性は汎用樹脂とくらべて十分とはいえず、用途展開には限りがあった。
【0006】
さらに、ポリ乳酸等の樹脂の物性改良方法として従来から知られているものに、ポリマーブレンドあるいはポリマーアロイといわれる技術がある。種々の樹脂を強制的に混合、混練し、耐衝撃性や柔軟性、剛性、耐熱性の向上が図られている。
例えば、特許文献2には、乳酸を主成分とする脂肪族ポリエステル85〜99重量%とシンジオタクチックポリプロピレン1〜15重量%とからなる自然分解性樹脂組成物が開示されている。又、特許文献3には、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂とL−乳酸及び/又はD−乳酸を主成分とするポリ乳酸重合体と、両者に対して相溶性または分散性を示す熱可塑性樹脂成分からなる、耐衝撃性が改良された熱可塑性樹脂成形体が開示されている。
又、特許文献4には、ポリ乳酸に変性オレフィン化合物を混合することにより耐衝撃性が向上したポリ乳酸系樹脂組成物が開示されている。この様にして樹脂の物性改良が行なわれているが、一般に異種の高分子は互いに相溶し難く、性能の向上は十分とはいえなかった。
【0007】
そのため、相溶化剤の添加によって異種高分子同士の相溶性を向上させるための様々な試みがなされている。
例えば、特許文献5には、脂肪族ポリエステル樹脂及びポリオレフィン樹脂に、相溶化剤としてくし型構造を持つグラフトポリマーを配合してなる組成物を加熱溶融したフィルムが開示されている。又、特許文献6には、乳酸系樹脂及びポリプロピレン系樹脂とそれらに相溶する樹脂組成物を構成成分とする熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
しかしながら、ポリ乳酸等の乳酸系樹脂を含有するポリプロピレン樹脂組成物において、ポリマーアロイによる優れた耐衝撃性と剛性を有する自動車用樹脂組成物等は得られていなかった。
【0008】
一方、自動車内装部品等は、その加工時、例えば材料を加熱溶融して行う射出成形時や、組み立て時、さらにその実使用時、例えば自動車部品としての使用時(例えば40℃〜80℃程度の比較的高温に晒された場合)等において、用いる材料すなわち各種熱可塑性樹脂材料(例えばポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂やポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物等)自体や、組み立て時に使用される接着剤等から揮発される物質、揮発性有機化合物が、アレルギー等(シックハウス症候群の発症等)の原因となるおそれがあることが一般的に認知され始めている。その対策法として、揮発成分を発生させる材料や接着剤等を極力減らす努力がなされているが、現実的には完全に除去することはできず、なお微量に発生するアルデヒド類等の揮発性有機化合物が存在していた。
加えて、これらの揮発性有機化合物は、射出成形体等の表面外観等を低下させる場合もあり、この面からも含めその低減化が求められている。
なお、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドや、特に悪臭性が強いアセトアルデヒド等が挙げられるが、アレルギー等を抑制する等の目的のためには、特にこの両者を同時に低減化することが重要である。
【0009】
そこで、ポリプロピレン含有系樹脂組成物におけるアルデヒド類等の揮発性有機化合物の低減化に関して、次のような様々な試みがなされている。
例えば、特許文献7には、ポリプロピレンを30重量%以上含有する基材樹脂100重量部に対して、ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.5〜10重量部と、3,4−ジヒドロ−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール0.5〜10重量部とを配合した樹脂組成物が開示されている。
又、特許文献8には、熱可塑性樹脂100重量部に対し、アニオン交換性層状粘土鉱物の層間に、アミノ基を有するカルボン酸、スルホン酸若しくはフェノール並びにそれらの塩から選ばれるアミノ基含有有機化合物がインターカレートされた改質層状粘土鉱物が0.01〜200重量部配合されている内装用熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
さらに、特許文献9には、分子中に−NH−結合を有する化合物を含有するポリオレフィンからなるアルデヒド消臭性フィルムが開示されている。
又、特許文献10には、水に対する溶解度が25℃で5g/リットル以下であるヒドラジン誘導体の群から選ばれた少なくとも一種と吸着性を有する無機物質の群から選ばれた少なくとも一種との混合物からなる消臭剤が1〜10重量%配合されたポリオレフィンからなるタバコ消臭性ポリオレフィン捲縮繊維が開示されている。
さらに、特許文献11には、ポリプロピレン樹脂50〜70重量部、木粉30〜50重量部を混合した複合樹脂材料100重量部に対してアルデヒド用消臭剤0.5〜2重量部を添加し、混合、攪拌した後、押出成形機によりシート状に押し出したプレス成形用材料が開示されている。
しかし、これらの樹脂組成物等では、何れにもポリプロピレン系樹脂へポリ乳酸を含有させた場合のアルデヒド類の低減化効果について何ら記載が無くその実体が明らかでない。
【0010】
次に、ポリ乳酸含有系樹脂組成物におけるアルデヒド類等の揮発性有機化合物の低減化に関しても種々試みられている。
例えば、特許文献12には、ポリ乳酸樹脂(A)及びポリアセタール樹脂(B)の合計が100重量部である樹脂組成物に対して、さらに水酸基、ホルミル基、アミノ基、エステル基およびアルコキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1つの基を有するカルボン酸の金属塩であって、かつ、ギ酸と反応してカルボン酸を形成し、ギ酸と反応したカルボン酸が(i)縮重合及び/又は(ii)自己縮合して環化する性質を有するカルボン酸の金属塩(C)を0.01〜3重量部、ヒドラジド化合物(D)0.03〜0.08重量部を配合してなる樹脂組成物が開示されている。
又、特許文献13には、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して、分岐を有するかまたは網状化したポリオキシメチレン1〜20重量部、下記一般式(1)で表されるカルボン酸金属塩0.0001〜1重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R、Rは、水素原子及び炭素数10以下の有機基から選ばれる何れかを表し、同一であっても異なっていてもよく、m、nは、それぞれ0から5までの整数を表し、かつm+nが0から5までの整数である。又、Xは、水酸基、ホルミル基、アミノ基、エステル基及びアルコキシル基から選ばれる何れかを表す。)
しかし、これらの樹脂組成物は、何れもアルデヒド類のうち、ホルムアルデヒドについてはその低減化効果は発現されているが、特に悪臭性が強いアセトアルデヒドについてはその低減化効果は明らかでない。
【0013】
アセトアルデヒドについては、特許文献14に、ポリ乳酸系重合体(A)を主体とする成形品であって、該成形品を不活性ガス下で100℃、30分間加熱して発生する揮発成分のうち、アセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオンおよびメトキシエチルアセテート成分の総量が2μg/g以下である成形品が開示されている。
しかし、この提案の場合は、アセトアルデヒド等の揮発成分発生量が低減化されるものの、成形品に対する高温下、長時間、高真空下での乾燥、脱気処理を必要とする等の課題を有している。さらに、ポリ乳酸へ含有させる成分として、ポリプロピレン系樹脂を含有させた場合のアルデヒド類の低減化効果は何れにも記載が無く明らかでない。
【0014】
こうした状況の下、従来のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の問題点を解消し、各種成形体とりわけ自動車部品用等の射出成形体を得る際に好適である、優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つ成形体を形成することができ、しかも射出成形時及び実使用時等において揮発される揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を示すポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−169897号公報
【特許文献2】特開平10−251498号公報
【特許文献3】特開2006−70210号公報
【特許文献4】特開平9−316310号公報
【特許文献5】特開平6−263892号公報
【特許文献6】特開2006−131716号公報
【特許文献7】特開2008−222817号公報
【特許文献8】特開2006−176563号公
【特許文献9】特開平9−322930号公報
【特許文献10】特開平10−168652号公報
【特許文献11】特開2007−314705号公報
【特許文献12】特開2007−254587号公報
【特許文献13】特開2008−75032号公報
【特許文献14】特開2005−146274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つ成形体を形成することができ、しかも射出成形時及び実使用時等において揮発される揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を示すポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法、及びそれを成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(A)に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)、特定のポリ乳酸系樹脂(C)、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(D)、スチレン系エラストマー(E)、およびエステル結合を有するオキサミド系化合物(F)を特定の割合で配合し、特定の曲げ弾性率、衝撃強度および熱変形温度を有する樹脂組成物を調製したところ、優れた曲げ弾性率、耐熱性、耐衝撃性及びアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を持つポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物や成形体が得られ、これらの成形体は特に自動車用内外装部材や家電機器部品等に適していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを含有する樹脂組成物であって、
該樹脂組成物を射出成形したとき、ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上、高速面衝撃試験時の破断エネルギーが3J以上、およびISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が80℃以上であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
成分(A):結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
(a1):メルトフローレート(230℃、21.18N)が10〜120g/10分である
(a2):ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上である
(a3):ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が110℃以上である
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):メルトフローレート(190℃、21.18N)が1〜7g/10分であるポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物
【0019】
又、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(F)が、分子量が500以上のエステル結合を有するオキサミド系化合物であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
【0020】
又、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、成分(B)が、酸量が無水マレイン酸換算で0.05〜10重量%であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
【0021】
又、本発明の第4の発明によれば、第1〜3の何れかの発明において、成分(C)が、ポリ乳酸であり、且つL−乳酸又はD−乳酸を主成分とすることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
【0022】
又、本発明の第5の発明によれば、第1〜4の何れかの発明において、成分(D)が、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が提供される。
【0023】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1〜5の何れかの発明に係るポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法であって、
(I)下記の成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%とを溶融混練する工程(I)、および
(II)上記工程(I)で得られた溶融混練組成物に、下記の成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを溶融混練する工程(II)、
を含むことを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法が提供される。
成分(A):結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
(a1):メルトフローレート(230℃、21.18N)が10〜120g/10分である
(a2):ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上である
(a3):ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が110℃以上である
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):メルトフローレート(190℃、21.18N)が1〜7g/10分であるポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物
【0024】
又、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、工程(I)及び工程(II)の溶融混練温度が、240℃以下であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0025】
さらに、本発明の第8の発明によれば、第1〜5の何れかの発明に係るポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる成形体が提供される。
【0026】
又、本発明の第9の発明によれば、第6又は7の発明に係る製造方法によって製造されたポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる成形体が提供される。
【0027】
又、本発明の第10の発明によれば、第8又は9の発明において、自動車用内外装部材又は家電機器部品であることを特徴とする成形体が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物によれば、優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つ成形体を形成することができるため、自動車部品等の用途に好適に用いることができるという効果がある。又、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物及びその成形体によれば、揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を示すため、成形や組み立て等の作業時や自動車部品等としての実使用時等におけるシックハウス症候群の発症等アレルギー誘因等の影響を最小限にとどめることができるという効果がある。又、本発明の製造方法によれば、前記ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を容易に製造することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の組成物の分散相構造を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法及びその成形体について、各項目毎に詳細に説明する。
【0031】
I.ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、以下に示す成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを含有し、かつ該樹脂組成物を射出成形したとき、ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上、高速面衝撃試験時の破断エネルギーが3J以上、およびISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が80℃以上であることを特徴とする。
成分(A):結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
(a1):メルトフローレート(230℃、21.18N)が10〜120g/10分である
(a2):ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上である
(a3):ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が110℃以上である
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):メルトフローレート(190℃、21.18N)が1〜7g/10分であるポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物
【0032】
1.各成分
(1)成分(A)
本発明に係る成分(A)は、前述したように、結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体であり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすことが必要である。
(a1)メルトフローレート(以下、MFRと記す場合がある。)(230℃、21.18N)が、10〜120g/10分である。
(a2)ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が、1300MPa以上である。
(a3)ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が、110℃以上である。
【0033】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、MFRが、10〜120g/10分、好ましくは10〜100g/10分、より好ましくは、20〜80g/10分である。120g/10分を超えるとマトリックスであるポリプロピレン相が脆性化し、高速面衝撃時の破断エネルギーが低下する。一方、10g/10分未満では、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物とした時のMFRが低下し、射出成形するには不向きである。
【0034】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が、1300MPa以上、好ましくは、1500MPa以上、より好ましくは、1600MPa以上である。1300MPa未満では、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の曲げ弾性率が低下する。ここで、該曲げ弾性率は特に限定されないが2500MPa未満が好ましい。
【0035】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が、110℃以上、好ましくは、111℃以上、より好ましくは、112℃以上である。110℃未満では、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の熱変形温度が低下する。ここで、該熱変形温度は特に限定されないが125℃未満が好ましい。
【0036】
本発明に係るプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法、例えば高立体規則性触媒を用いてスラリー重合、気相重合又は液相塊状重合により製造されたものを用いることができる。又、重合方法としては、従来公知の方法を用いることができ、バッチ重合及び連続重合のどちらの方式も採用することができる。
これらのプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は2種以上混合して使用してもよい。
【0037】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物において、前記特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の含有量の下限は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物全体(但し、成分(F)を除く)を基準として、15重量%、好ましくは22.5重量%、より好ましくは30重量%である。また、含有量の上限は、88.9重量%、好ましくは82.8重量%、より好ましくは76.7重量%である。含有量が88.9重量%を超えると、環境対応した樹脂組成物であるとは言えない。一方、含有量が15重量%未満では、剛性や耐衝撃性が低下する。
【0038】
(2)成分(B)
本発明に係る成分(B)は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂(以下、「変性ポリオレフィン樹脂」ともいう。)であり、従来公知のものを用いることができる。ここで、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・α‐オレフィン共重合体、エチレン・α‐オレフィン・非共役ジエン化合物共重合体(EPDM等)、エチレン・芳香族モノビニル化合物・共役ジエン化合物共重合ゴム等のポリオレフィンを、無水マレイン酸を用いてグラフト共重合し、化学変性したものが挙げられる。
【0039】
グラフト反応条件としては、特に限定されないが、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキシド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキシド類等の有機過酸化物を、前記ポリオレフィン100重量部に対して0.001〜10重量部程度用いて、80〜300℃程度の温度で、溶融状態又は溶液状態で反応させる方法が挙げられる。
【0040】
同様に、ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有していてもよい。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、4−メチルペンテン−1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン等のα−オレフィンの単独又は共重合体、前記α−オレフィンと共重合性単量体との共重合体等が例示できる。前記反応性基を導入するための単量体としては、ヒドロキシル基を有する単量体(例えば、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)が例示できる。ヒドロキシル基を有する単量体による変性量は、オレフィン系樹脂に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%程度である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂の平均分子量は特に限定されない。
【0041】
好ましい変性ポリオレフィン樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したもの等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン−1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせ等が挙げられる。
【0042】
本発明に係る変性ポリオレフィン樹脂において、酸量(酸変性量)は特に限定されないが、好ましくは酸量が無水マレイン酸換算で、平均で0.05〜10重量%、好ましくは0.07〜5重量%である。
変性ポリオレフィン樹脂中の酸量がこの範囲では、成分(C)と成分(D)とからなる溶融混練組成物に対する樹脂の含浸性、密着性が十分なものとなるため、衝撃性が飛躍的に向上した組成物が得られ、又、酸基の量が過大になって加工性を損ねたり、変性ポリオレフィン樹脂全体が脆性になり耐衝撃性が失われることもない。
又、これらの変性ポリオレフィン樹脂は2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物において、変性ポリオレフィン樹脂の含有量の下限は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物全体(但し、成分(F)を除く)を基準として、0.1重量%、好ましくは、0.2重量%、より好ましくは、0.3重量%である。又、含有量の上限は5重量%、好ましくは4.5重量%、より好ましくは4重量%である。含有量が5重量%を超えると加工性を損ねたり、ポリオレフィン系樹脂全体が脆性になり耐衝撃性が失われる。一方、含有量が0.1重量%未満になると、成分(C)と成分(D)とからなる溶融混練組成物に対する樹脂の含浸性、密着性が不十分なものとなるため、耐衝撃性が飛躍的に向上した組成物は得られない。
【0044】
(3)成分(C)
本発明に係る成分(C)は、ポリ乳酸系樹脂であり、そのMFR(190℃、21.18N)が、1〜7g/10分であることが必要である。前記MFRが、1g/10分未満であると本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の成形体の外観が低下し、7g/10分を超えるとドメインであるポリ乳酸系樹脂相が配向し過ぎ、高速面衝撃時の破断エネルギーが低下する。
又、乳酸単位を少なくとも50モル%以上、好ましくは75モル%以上含有する重合体を主成分とする重合体組成物であるものが好ましい。この様なポリ乳酸系樹脂は、乳酸の重縮合や乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合によって合成することができ、又、該重合体の性質を著しく損なわない範囲で、乳酸と共重合可能な他のモノマーを共重合させたものや、他の樹脂および添加剤等が混合された組成物でもよい。
【0045】
乳酸と共重合可能なモノマーとしては、ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、カプロン酸等)、脂肪族多価アルコール(例えば、ブタンジオール、エチレングリコール等)及び脂肪族多価カルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸等)が挙げられる。
ポリ乳酸系樹脂がコポリマーの場合、コポリマーの配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等の何れの様式でもよい。又、前記コポリマーは、少なくとも一部が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の二官能以上の多価アルコール;キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート等の多価イソシアネート;セルロース、アセチルセルロース、エチルセルロース等の多糖類等が共重合されたものでもよい。さらに、少なくとも一部が、線状、環状、分岐状、星形、三次元網目構造等の何れの構造をとってもよい。
【0046】
ポリ乳酸系樹脂は、前記原料を直接脱水重縮合する方法、或いは、前記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状二量体、例えばラクタイドやグリコライド、又はε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法により得られる。
前記原料を直接脱水重縮合して製造する場合、原料である乳酸類を、又、乳酸類とヒドロキシカルボン酸類とを、或いは、脂肪族ジカルボン酸類と脂肪族ジオール類とを有機溶媒、好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除いて実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合する。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5万〜100万、より好ましくは10万〜50万である。分子量が前記範囲であることにより、耐熱性、耐衝撃性、成形性および加工性が良好となる。
【0047】
この様なポリ乳酸系樹脂の中ではポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸として、L体又はD体の構成成分が高くなると耐熱性等が向上することから、L体又はD体の量が、90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは98モル%以上であることが望ましい。市販品の例としては、ユニチカ社製TP−4000が挙げられる。
又、これらのポリ乳酸系樹脂は2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
本発明に係る前記特定のポリ乳酸系樹脂の含有量の下限は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物全体(但し、成分(F)を除く)を基準として、10重量%、好ましくは15重量%、より好ましくは20重量%である。又、含有量の上限は50重量%、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%である。含有量が10重量%未満では、環境対応した樹脂組成物であるとは言えない。一方、含有量が50重量%を超えると物性が低下する。
【0049】
(4)成分(D)
本発明に係る成分(D)は、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂であり、分子中にエポキシ基が導入されたポリオレフィンである。
このエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(以下、「エポキシ化ポリオレフィン」、「エポキシ変性ポリオレフィン」ともいう。)は、エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とに基づく構成単位からなるが、該エポキシ化ポリオレフィンの性質を著しく損なわない範囲で、他のモノマーに基づく構成単位をごく少量、たとえば5重量%以下の量で含有していてもよい。
【0050】
この様なエポキシ化ポリオレフィンは、エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とを共重合させることによって製造することができる。エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィン並びにエポキシ基含有単量体は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンの中では、エチレン及びプロピレンが好ましい。すなわち、エポキシ化ポリオレフィンとしては、エポキシ変性ポリエチレン及びエポキシ変性ポリプロピレンが好ましい。
前記エポキシ変性ポリエチレン又はエポキシ変性ポリプロピレンのMFR(ASTM D1238,190℃、2.16kg)は、通常0.01〜100g/10分、好ましくは0.1〜20g/10分である。
MFRがこの範囲内であれば、流動性が高く成形性の良いポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
エポキシ基含有単量体としては、例えばα,β−不飽和酸のグリシジルエステルが挙げられる。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、下記一般式(2)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル等であり、特にメタクリル酸グリシジルが好ましい。
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルに基づく構成単位の含量は、エポキシ基含有ポリオレフィン100重量%当たり1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%の範囲が適当である。
【0052】
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【0053】
エチレン又は炭素数3〜20のα−オレフィンとエポキシ基含有単量体とを共重合させた共重合体には、さらに前記の酸変性ポリオレフィンにおける酸に該当する酢酸ビニル、アクリル酸メチル等の単量体が共重合されてなる重合体もあるが、本発明においてはエポキシ基含有単量体が含まれている限りエポキシ変性ポリオレフィンに分類されるものとする。
又、エポキシ変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンをエポキシ基含有化合物でグラフトすることによっても製造できる。
これらの中でも、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(E−GMA共重合体)が、優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物が得られ易いなどのため、好ましい。
【0054】
入手が容易な市販品の例としては、住友化学社製「ボンドファースト(登録商標)」が挙げられる。該共重合体中のGMA単位の含有量は、3〜15重量%程度である。
又、これらのエポキシ変性ポリオレフィンは2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物において、エポキシ変性ポリオレフィンの含有量の下限は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物全体(但し、成分(F)を除く)を基準として、0.5重量%、好ましくは1重量%、より好ましくは1.5重量%である。又、含有量の上限は、10重量%、好ましくは9重量%、より好ましくは8重量%である。含有量が10重量%を超えると耐熱性が低下する。一方、含有量が0.5重量%未満になると、海島湖構造が形成できないため高速面衝撃試験時の吸収されるエネルギーが低下する。
【0056】
(5)成分(E)
本発明に係る成分(E)は、スチレン系エラストマーであり、特に限定するものではなく、公知のスチレン系エラストマーを使用でき、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体又はこれらの水素添加物等を使用できる。好ましくは、ポリスチレン構造を有するAセグメントの含量が1〜80重量%、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは7〜35重量%であり、エチレン・ブチレン又はエチレン・プロピレン構造を示すBセグメントと共に、次式の構造を構成するブロック共重合体を使用できる。
A−B 又は、 A−B−A
ここで、Aセグメントの含有量が80重量%を超えると、耐衝撃性が劣る。なお、ポリスチレン構造単位の含有量は、赤外スペクトル分析法、13C−NMR法等の常法によって測定される値である。
又、これらのスチレン系エラストマーは2種以上を混合して使用してもよい。
【0057】
具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。該ブロック構造を有するエラストマー共重合体は、前記構造式に示す様なトリブロック構造とジブロック構造の混合物であってもよい。これらのブロック共重合体は、一般的なアニオンリビング重合法で製造することができる。これには、逐次的にスチレン、ブタジエン、スチレンを重合しトリブロック体を製造した後に水添する方法(SEBSの製造方法)と、スチレン−ブタジエンのジブロック共重合体をはじめに製造した後、カップリング剤を用いてトリブロック体にした後水添する方法がある。又、ブタジエンの代わりにイソプレンを用いることにより、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック体の水素添加物(SEPS)も製造することができる。
【0058】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物において、スチレン系エラストマーの含有量の下限は、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物全体(但し、成分(F)を除く)を基準として、0.5重量%、好ましくは1重量%、より好ましくは1.5重量%である。又、含有量の上限は、20重量%、好ましくは19重量%、より好ましくは18重量%である。含有量が0.5重量%未満では、耐衝撃性が低下する。一方、含有量が20重量%を超えると剛性が低下する。
【0059】
(6)成分(F)
本発明に係る成分(F)は、エステル結合を有するオキサミド系化合物であり、例えばN,N’−ビス[2−〔2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ〕エチル]オキサミド(分子量=697)、N,N’−ビス[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピルカルボニルオキシ〕エチル]オキサミド(分子量=725)等が挙げられる。なお、前者は、N,N’−ビス[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]オキサミド、或いは2,2’−オキサミドビス[エチル−3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]とも表記される場合がある。
これらのエステル結合を有するオキサミド系化合物の分子量は特に限定されないが、アルデヒド類に対する発生抑止性能等の点から、より大きいのが好ましく、500以上であるのがより好ましい。なお、この分子量の上限は特に限定されないが、10000以下が好ましく、2000以下がより好ましい。
又、これらのエステル結合を有するオキサミド系化合物は2種以上を混合して使用してもよい。
【0060】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物において、エステル結合を有するオキサミド系化合物の含有量の下限は、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01重量部以上、好ましくは0.02重量部以上、より好ましくは0.03重量部以上である。又、含有量の上限は、3重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。含有量が0.01重量部未満では、アルデヒド類に対する発生抑止性能が低下する。一方、含有量が3重量部を超えると経済性が低下する。
【0061】
(7)任意成分
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物には、前記した成分(A)〜(F)の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の成分が配合されていてもよい。この様なその他の配合成分としては、着色するための顔料、フェノール系・イオウ系・リン系等の酸化防止剤、帯電防止剤、ヒンダードアミン等の光安定剤、紫外線吸収剤、有機アルミ・タルク等の各種造核剤、分散剤、中和剤、発泡剤、金属不活性化剤、滑剤、難燃剤、成分(A)〜(D)以外の熱可塑性樹脂、成分(E)以外のエラストマー、等を挙げることができる。
任意成分は、成分(A)〜(F)と同時、或いは、後記する工程(I)及び工程(II)のどちらの段階で添加しても構わない。
【0062】
2.樹脂組成物の特性
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、該樹脂組成物を射出成形したとき、
前記の様な特性をもつことが必要である。
すなわち、その曲げ弾性率が1300MPa未満であると、製品剛性が不足するという問題がおこる。
また、その高速面衝撃試験時の破断エネルギーが3J未満であると、製品化した場合、製品に物が当った場合に、白化や、割れという問題がおこる。
さらに、その熱変形温度が80℃未満であると、例えば自動車部品として使用時、比較的高温(40〜80℃程度)に晒された場合に、製品が垂れるという問題がおこる。
【0063】
3.製造方法
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、前記した各配合成分を、前記の配合比率で配合することにより製造することができる。各成分は、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール練機等の従来公知の溶融混練装置を用いて複合化されるが、工業的な経済性等を考慮する場合、2軸押出機が最も好ましく使用される。2軸押出機としては、例えば、日本製鋼所社製のTEX30αを用いて溶融混練することができる。
【0064】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、好ましくは、下記の工程(I)と工程(II)とを含む製造方法により得ることができる。
工程(I):成分(C)と、成分(D)とを溶融混練する工程
工程(II):上記工程(I)で得られた溶融混練組成物と、成分(A)と、成分(B)と、成分(E)と、成分(F)とを溶融混練する工程
ここで、成分(F)は、工程(II)での溶融混練に代えて、上記工程(I)にて、成分(C)と成分(D)とともに、溶融混練することもできる。
【0065】
工程(I)と工程(II)とは、断続的に行っても、連続的に行ってもよい。複数の押出機を使って、工程(I)と工程(II)とをそれぞれ行っても、一台の押出機を使って工程(I)を行った後、工程(II)を行うこともできる。さらに、例えば押出機の前段で成分(C)と成分(D)を混練し、サイドフィードで成分(A)、成分(B)、成分(E)及び成分(F)を添加して後段でポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を得たり、押出機の前段で成分(A)と成分(B)、成分(E)及び成分(F)とを混練し、別部分にて溶融混練した成分(C)と成分(D)との溶融混練物をサイドフィードで添加しポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を得たりすることもできる。
又、例えば2軸混練押出機におけるサイドフィード法においては、成分(A)、成分(B)、成分(E)及び成分(F)はスクリュー先端側に設置したサイドフィーダーを用いて、サイドフィード法により供給する。すなわち、工程(I)での成分(C)及び成分(D)は、根元から供給して溶融混練し、工程(II)での成分(A)、成分(B)、成分(E)及び成分(F)はサイドフィーダーを用い供給し、2軸混練部後半部分で溶融混練し、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。
これらの工程(I)及び工程(II)での溶融混練は、溶融混練温度(樹脂温度)を240℃以下にすることが好ましく、200℃以下にすることがより好ましい。樹脂温度が上記範囲内であると、ポリ乳酸の配向が抑えられ高速面衝撃試験の破断エネルギー値等が低下するのを防ぐことができる傾向にあり、さらにアルデヒド類の発生抑止性能をより高めることができる傾向にある。また、前記溶融混練温度(樹脂温度)の下限は、前記各成分を溶融混練できれば特に限定されないが170℃であることが好ましい。前記溶融混練が可能な温度未満であると、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造(混練)が困難となったり、得られる性能が不十分となるおそれがある。
【0066】
4.樹脂組成物の分散相構造
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、好ましくは、マトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造を有し、例えば、マトリックスが、成分(A)及び成分(F)であり、ドメインが、成分(D)をサブドメインとして有する成分(C)及び成分(E)であることを特徴とする二次分散する特異的な構造を有するポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物であり、物性バランスが優れる傾向にある。又、この樹脂組成物は、好ましくは、成分(C)のドメインの少なくとも一部と、成分(E)のドメインの少なくとも一部とが接触していることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物であり、面衝撃性が優れる傾向にある。
【0067】
この形態は、以下のような観察法で確認できる。
ダイヤモンドナイフを装着したウルトラミクロトーム(例えば、ライカUC6)とクライオシステムを用いて、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を−120℃に冷却して切削し、その切削鏡面をイオンエッチングする。ポリマー種によりエッチング速度が異なるために、微細構造に対応した凹凸が形成され相構造の観察が可能になる。この様に処理した試料を走査型電子顕微鏡(例えば、日立S800)で観察することにより、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の分散相構造が観察できる。
【0068】
具体的には、前記の観察法により、例えば、図1のような分散相構造が観察される。図1は、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体[すなわち、成分(A)]と、特定のポリ乳酸[すなわち、成分(C)]と、無水マレイン酸変性ポリオレフィン[すなわち、成分(B)]と、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体[すなわち、成分(D)]と、スチレン系エラストマー(スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体:SEBS)[すなわち、成分(E)]と、タルクと、エステル結合を有するオキサミド系化合物[すなわち、成分(F)]からなるポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の電子顕微鏡写真である。
ここでは、マトリックスである成分(A)部分が、背景にあり、そのマトリックスに、周囲が白く島のように浮び上がって見えるドメイン部が、成分(C)である。ドメイン部の成分(C)に、白く点のように見えるサブドメイン部分が、成分(D)である。又、マトリックス中に黒く浮かぶ部分が、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体のエチレン・プロピレン共重合体部分、成分(D)の一部及び成分(E)である。
又、成分(C)のドメインの少なくとも一部と、成分(E)のドメインの少なくとも一部とが接触している界面部分は、図1において、黒と白の明暗が不明瞭に見える部分として観察できる。
又、成分(B)は、上記のような電子顕微鏡写真による観察ではどこに存在するのかが明確ではなく、成分(A)と相溶して区別がつかなかったり、成分(C)と成分(A)との界面に極薄く存在したりすると考えられる。又、成分(F)も、どこに存在するのかが明確ではないが、成分(A)や成分(C)と相溶して区別がつかなかったり、成分(C)と成分(A)との界面に極薄く存在したりすると考えられる。
【0069】
ここで、成分(C)中に二次分散する成分(D)の量は、面積比として以下に示す方法により定量的に明らかにすることが出来る。
すなわち、走査型電子顕微鏡で観察された写真を二値化し、その画像の統計計算から求める。具体的には、成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂分散相の面積に対する該成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂相中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂粒子の面積の総和の比(成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂総面積/成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂分散相面積)として計算する。ここで、成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂分散相の面積(成分(C)のドメインの占有面積)をSとし、成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂粒子の面積(サブドメインの占有面積)をSとすれば、成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の量は、次式によって示すことができる。
成分(C)中に二次分散する成分(D)の量=S/(S+S
評価する際には、この計算を複数の成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂分散相について計測し、その平均値として評価する。例えば、300個以上につき計測し、その平均値として評価することが好ましい。
【0070】
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、電子顕微鏡による形態観察において、前記ドメインの占有面積(S)と、前記サブドメインの占有面積(S)とが、次式を満たすことが好ましい。
/(S+S)×100≧20
より好ましくは次式を満たす。
60≧S/(S+S)×100≧25
すなわち、前記の方法により求めた成分(C):特定のポリ乳酸系樹脂中に二次分散する成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂の面積比が20%以上であれば、ハイレート破断エネルギーが向上する。これはマトリックスである成分(A):プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体とドメインである(C):ポリ乳酸系樹脂の界面が補強されているためと考えられる。
【0071】
前記の分散相構造を持つ本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、前記した工程(I)および(II)からなる製法により得ることができる。しかし、混練する順序や、組成物を添加する順序を変更した場合には、例えば、成分(A)の特定のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体と成分(C)の特定のポリ乳酸とが層分離するため、射出成形した場合、表面が層剥離したり、マトリックスとドメインとサブドメインとからなる海島湖構造の樹脂組成物が得られなかったり、物性バランスの優れた樹脂組成物を得ることが難しい。特に、前記工程を満たさない場合、得られる樹脂組成物は、マトリックスが成分(A)ではあるが、成分(D)をサブドメインに有しない成分(C)がドメインとなり、高速面衝撃試験時の破断エネルギー等が低下する傾向にある。
【0072】
II.ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の成形体
本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、公知の各種方法による成形に用いることができる。
例えば射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等にて成形することによって各種成形体を得ることができる。このうち、射出成形、射出圧縮成形、押出成形がより好ましく、射出成形が特に好ましい。
【0073】
又、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、植物由来成分を含み、物性のバランスに優れるほか、射出成形時及び実使用時等において揮発される揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を有するポリプロピレン系樹脂組成物であるため、年々使用量が増大している各種工業部品分野、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形体、例えば、インストルメントパネル、トリム、バンパー、ガーニッシュ材等の自動車用内外装部材等、テレビケース等の家電機器部品等の成形材料として、実用に十分な性能を有している。又、本来ポリプロピレン系樹脂は熱可塑性樹脂であるため繰り返し使用が可能で、マテリアルリサイクルに適した材料といえるが、本発明のような無機フィラーレスを実現する事により、サーマルリサイクルに対しても有用な材料とする事が可能となり、地球環境保護のためのリサイクル運動を推進していく上で、工業的価値は大きい。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定は、下記要領に従った。
【0075】
[測定方法]
(1)MFR
JIS−K7210に準拠し、21.18N荷重にて230℃の温度で測定した。
(2)曲げ弾性率
ISO178(JIS K7171)に準拠し、測定雰囲気温度23℃において曲げ速度2mm/分で測定した。
(3)熱変形温度(HDT)
ISO75−2に準拠して測定した。
(4)シャルピー衝撃試験(ノッチ付)
JIS−K7111に準拠し、測定雰囲気温度は、23℃であった。
【0076】
(5)高速面衝撃試験(ハイレート、HRIT(破断エネルギー))
試験機:サーボパルサ高速衝撃試験機 EHF−2H−20L形−恒温槽付き(島津製作所社製)
試験片の形状:シート(120mm×120mm×2mmt)
試験片の作成方法:型締め圧170トンの射出成形機を使用し、成形温度200℃にて成形した。
試験方法:支持台(穴径3インチ)上に設置した試験片に荷重センサーであるダート(径1/2インチ)を1m/秒の速度で衝突させ、試験片の衝撃荷重における変形破壊挙動を測定し、得られた衝撃パターンにおける亀裂発生点までにおいて吸収された衝撃エネルギーを算出し、材料の衝撃強度とした。測定雰囲気温度は、23℃であった。
【0077】
(6)アルデヒド類の発生量
試験(分析)機:高速液体クロマトグラフ(島津製作所製HPLC VP)
試験片の形状:80mm×100mm×2mmt
試験片の作成方法:120mm×120mm×2mmtのシートから切り出した。
試験方法:
(i)容量10Lのバッグにサンプルを窒素ガス4Lとともに封入した。
(ii)次にバッグを65℃にて、2時間加熱した。
(iii)加熱終了後、揮発成分をDNPH(ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジに採取し、上記高速液体クロマトグラフにて分析測定した。
【0078】
[製造例]
成分(A)、成分(C)及び成分(E)として、それぞれ表1〜3に示すものを用いた。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
[実施例及び比較例]
(実施例1)
まず、工程(I)において、成分(C)としてPLA−1を90重量%、及び成分(D)としてエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(E−GMA共重合体)(住友化学社製「ボンドファーストE」、GMA含量=12重量%)10重量%を配合した混合物100重量部に対して、安定剤としてフェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGAFOS168)0.05重量部、及びタルク(日本タルク社製:ミクロエースC31)0.5重量部をブレンドし、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度180℃で溶融混練し、溶融混練組成物を得た。
次いで、工程(II)において、工程(I)で得た溶融混練組成物30重量%(樹脂成分として)、成分(A)としてPP−1を64重量%、成分(B)として無水マレイン酸変性ポリオレフィン(アルケマ社製「OREVAC CA100」、無水マレイン酸グラフト率=0.8重量%)1重量%、及び成分(E)としてSEBS−1を5重量%配合した混合物100重量部に対して、成分(F)としてF−1=N,N’−ビス[2−〔2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ〕エチル]オキサミド(分子量=697)0.05重量部、さらに酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGAFOS168)0.05重量部をブレンドし、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度180℃で溶融混練し、溶融混練組成物を得た。
最後に、得られたペレットを用いて、金型温度40℃、シリンダ温度200℃の条件で射出成形し、ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の各種試験片とした。得られた試験片を用いて、前記の方法により、各種物性及びアルデヒド類(ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド)の発生量を評価した。評価結果を表4に示す。
【0083】
得られたポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物につき、型締め圧170トンの射出成形機を使用し、成形温度200℃にて、120mm×120mm×2mmtなる形状で成形したテストピース中央部の1mm内部を観察した。
ダイヤモンドナイフを装着したウルトラミクロトーム(ライカUC6)とクライオシステムを用いて、前記ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物のテストピースを−120℃に冷却して切削し、その切削鏡面をイオンエッチング処理し、走査型電子顕微鏡(日立S800)で観察した。観察した結果を図1に示す。
図1によれば、成分(A)中に、成分(E)が黒い部分のように分散し、さらに、数ミクロンで分散した成分(C)相中にナノサイズで多くの成分(D)が二次分散している様子が明瞭に観察出来た。また、成分(C)のドメインの少なくとも一部と、成分(E)のドメインの少なくとも一部とが接触している様子があり、界面が不明瞭に見え相溶化している部分が明瞭に観察出来た。
【0084】
(実施例2)
成分(A)としてPP−1をPP−2に替えた以外は、実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0085】
(比較例1)
成分(F)を配合しなかった以外は、実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0086】
(比較例2)
成分(F)として、その比較対照化合物成分である成分(F’)のF’−1=ラウリル酸ジエタノールアミンに替えた以外は、実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0087】
(比較例3)
成分(F)として、その比較対照化合物成分である成分(F’)のF’−2=ハイドロタルサイト(協和化学工業社DHT4A)に替えた以外は、実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0088】
(比較例4)
成分(A)として、PP−1を65重量%配合し、成分(B)を配合しなかった以外は、実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0089】
(比較例5)
成分(C)としてPLA−1を27重量%、成分(D)としてエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(E−GMA共重合体)(住友化学社製「ボンドファーストE」、GMA含量=12重量%)3重量%、成分(A)としてPP−1を64重量%、成分(B)として無水マレイン酸変性ポリオレフィン(アルケマ社製「OREVAC CA100」、無水マレイン酸グラフト率=0.8重量%)1重量%、及び成分(E)としてSEBS−1を5重量%を配合した混合物100重量部に対して、安定剤として、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGANOX1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製IRGAFOS168)0.05重量部、及びタルク(日本タルク社製:ミクロエースC31)0.5重量部をブレンドし、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート10kg/h、混練温度180℃で一括溶融混練し、溶融混練組成物を得た。(すなわち、製造は前記工程(II)のみである。)前記以外は実施例1に従って評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
[評価]
表1〜4より明らかな様に、本発明の要件を満たす実施例1〜2では、得られたポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、何れも良好な曲げ弾性率、熱変形温度、シャルピー衝撃強度、高速面衝撃強度及びアルデヒド類の発生抑止性能を有している。このため、これらは自動車部品用などの成形体に好適である。
一方、比較例1〜5では、得られたポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、これらの性能バランスが不良で見劣りしている。
例えば、成分(F)を配合しない比較例1において、曲げ弾性率、熱変形温度、シャルピー衝撃強度及び高速面衝撃強度は良好であるが、アルデヒド類の発生量が実施例1と著しい差異が生じた。これは、成分(F)の含有有無により、アルデヒド類の発生量が著しく異なり、成分(F)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
同様に、成分(F)の比較対照化合物成分である成分(F’)を配合した比較例2及び3においても、曲げ弾性率、熱変形温度、シャルピー衝撃強度及び高速面衝撃強度は良好であるが、アルデヒド類の発生量が実施例1と著しい差異が生じた。これは、成分(F)により、アルデヒド類の発生量が著しく異なり、成分(F)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
又、成分(B)を配合しない比較例4において、アルデヒド類の発生量は良好(極めて少ない)であるが、各種物性とりわけ高速面衝撃強度が実施例1と著しい差異が生じた。これは、成分(B)の含有有無により、各種物性とりわけ高速面衝撃強度が著しく異なり、成分(B)が本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
又、実施例1に示す全成分を、一括して工程(II)のみで溶融混練した、比較例5において、曲げ弾性率、熱変形温度、シャルピー衝撃強度は良好であり、アルデヒド類の発生量も良好(極めて少ない)であるが、高速面衝撃強度が実施例1に比し低水準で自動車内外装部品等の各種用途への展開には不十分である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の優れた曲げ弾性率、耐熱性及び耐衝撃性を持つ成形体を形成することができ、しかも射出成形時及び実使用時等において揮発する揮発性物質であるアルデヒド類に対する優れた発生抑止性能を示すポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物は、これらの優れた性能を有するため、各種工業部品分野、特に薄肉化、高機能化、大型化された各種成形体、例えば、インストルメントパネル、トリム、バンパー、ガーニッシュ材等の自動車用内外装部材、テレビケース等の家電機器部品等の各種用途に好適に用いることができる。
又、本発明の製造方法によれば、前記ポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を容易に製造することができる。従って、本発明のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物、その製造方法及びその成形体は、産業上大いに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを含有する樹脂組成物であって、
該樹脂組成物を射出成形したとき、ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上、高速面衝撃試験時の破断エネルギーが3J以上、およびISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が80℃以上であることを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物。
成分(A):結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
(a1):メルトフローレート(230℃、21.18N)が10〜120g/10分である
(a2):ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上である
(a3):ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が110℃以上である
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):メルトフローレート(190℃、21.18N)が1〜7g/10分であるポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物
【請求項2】
成分(F)が、分子量が500以上のエステル結合を有するオキサミド系化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
成分(B)が、酸量が無水マレイン酸換算で0.05〜10重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
成分(C)が、ポリ乳酸であり、且つL−乳酸又はD−乳酸を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
成分(D)が、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法であって、
(I)下記の成分(C)10〜50重量%と、成分(D)0.5〜10重量%とを溶融混練する工程(I)、および
(II)上記工程(I)で得られた溶融混練組成物に、下記の成分(A)15〜88.9重量%と、成分(B)0.1〜5重量%と、成分(E)0.5〜20重量%と、成分(A)〜成分(E)の合計量100重量部に対して0.01〜3重量部の成分(F)とを溶融混練する工程(II)、
を含むことを特徴とするポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。
成分(A):結晶性ポリプロピレン部分と、プロピレンとプロピレン以外のα−オレフィンの共重合体部分とからなり、かつ、下記(a1)〜(a3)の要件を同時に満たすプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体
(a1):メルトフローレート(230℃、21.18N)が10〜120g/10分である
(a2):ISO178に準拠して測定された曲げ弾性率が1300MPa以上である
(a3):ISO75−2に準拠して測定された熱変形温度が110℃以上である
成分(B):無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂及び/又はヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(C):メルトフローレート(190℃、21.18N)が1〜7g/10分であるポリ乳酸系樹脂
成分(D):エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂
成分(E):スチレン系エラストマー
成分(F):エステル結合を有するオキサミド系化合物
【請求項7】
工程(I)及び工程(II)の溶融混練温度が、240℃以下であることを特徴とする請求項6に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項に記載のポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の製造方法によって製造されたポリ乳酸含有ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
【請求項10】
自動車用内外装部材又は家電機器部品であることを特徴とする請求項8又は9に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256272(P2011−256272A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131973(P2010−131973)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】