説明

ポリ乳酸組成物

【課題】本発明の目的は、結晶化速度が大きく、賦形時の生産性に優れたポリ乳酸組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、100重量部のポリ乳酸に対して、0.5重量部を超え10重量部以下のホスホノ脂肪酸エステルを含有する組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を含有する組成物に関する。さらに詳しくは、ポリ乳酸とホスホノ脂肪酸エステルとを含有し、半結晶化速度(V1/2)が大きく、賦形時の生産性に優れる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの多くは軽く強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成形することが可能であるので、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、これらプラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
かかる現状に鑑み、脱石油原料から成る樹脂、或いは微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。現在検討されているほとんどの生分解プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成形、溶融製膜などの高温に晒される工程における分子量低下、或いは色相悪化が深刻である。
【0003】
その中でもポリ乳酸は耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると結晶化速度が極めて遅く、射出成形、溶融紡糸等の賦形加工工程に実用上の課題を抱えている。ポリ乳酸は、結晶性に乏しく、十分な結晶化度を得ようとする場合、長時間を要することが知られておりこのような性質は、例えば射出成形を行う際の成形サイクルの長期化を招き、低生産性や分子量低下に繋がっている。また、成形品の結晶化不足は、成形時の離型性の悪さや、製品の熱時寸法安定性を損ねる原因となる。
【0004】
このような現状を打開すべく、ポリ乳酸の結晶化速度向上について検討がなされてきた。結晶化速度に言及した例を挙げると、特許文献1には、ポリ乳酸に平均粒径1〜8μmのタルクを混合すると、130℃における半結晶化速度(V1/2)が0.010(分−1)以上の結晶性を示す組成物が得られることが開示されている。しかしながら、該文献の実施例が示す半結晶化速度(V1/2)の範囲は高々0.033であり、十分な結晶化には少なくとも15分以上を要し、さらなる改善が求められている。
【特許文献1】特開2004−269588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、結晶化速度が大きく、賦形時の生産性に優れたポリ乳酸組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題に対して鋭意検討の結果、結晶化促進剤としてホスホノ脂肪酸エステルを特定量含有させることにより、ポリ乳酸の結晶化速度を大幅に改善することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、100重量部のポリ乳酸に対して、0.5重量部を超え10重量部以下のホスホノ脂肪酸エステルを含有する組成物である。また本発明は、該組成物からなる成形体を包含する。
【0008】
さらに本発明は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を混合することからなるステレオコンプレックス結晶を含有する組成物の製造方法であって、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の少なくとも一方が金属重合触媒を含有し、かつ、該混合を、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対して、0.5重量部を超え10重量部以下のホスホノ脂肪酸エステルの存在下で行う組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、通常のポリ乳酸と比較すると、速やかに結晶化が進行する。即ち本発明の組成物は、半結晶化速度(V1/2)が、0.05(分−1)以上である。よって、本発明の組成物は溶融賦形や射出成形において生産性に優れ、糸、フィルム、或いは樹脂成形体の原料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<組成物>
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は主として下記式で表される乳酸単位からなる重合体である。ポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸またはこれらの混合物であることが好ましい。ポリ−L−乳酸とはL−乳酸単位を主として含む重合体であり、またポリ−D−乳酸とはD−乳酸単位を主として含む重合体である。
【0011】
【化1】

【0012】
ポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。ポリ−D−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0013】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0014】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0015】
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0017】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ベンジルアルコールなどを好適に用いることができる。
【0018】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0019】
ポリ乳酸は、ステレオコンプレックス結晶を含有していることが好ましい。このステレオコンプレックス結晶を含有しているポリ乳酸を、ステレオコンプレックスポリ乳酸という。ステレオコンプレックス結晶は、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸を混合することにより形成される。この場合、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との重量比は、好ましくは90:10〜10:90、より好ましくは75:25〜25:75、さらに好ましくは60:40〜40:60である。
【0020】
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、好ましくは10万〜50万、より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0021】
ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。ステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、好ましくは195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、好ましくは20J/g以上、より好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
【0022】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0023】
(金属重合触媒)
本発明の組成物は、ポリ乳酸を製造する際に用いる金属重合触媒を含有していても良い。金属重合触媒は、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、およびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素を含む化合物であることが好ましい。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛が挙げられる。
金属重合触媒は、例えばこれらの金属のカルボン酸塩、アルコキシド、アリールオキシド、或いはβ−ジケトンのエノラート等として組成物に添加することができる。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
金属重合触媒の含有量は、ポリ乳酸100重量部に対して、好ましくは0.001〜0.1重量部、より好ましくは、0.005〜0.05重量部である。金属重合触媒の含有量が少なすぎると重合速度が著しく低化する。逆に多すぎると反応熱による着色、或いは開重合やエステル交換反応が加速されるため、得られる組成物の色相と熱安定性が悪化する。
【0024】
(ホスホノ脂肪酸エステル)
本発明で使用するホスホノ脂肪酸エステルは、ホスホン酸ジエステル部位とカルボン酸エステル部位が脂肪族炭化水素基を介して結合した化合物で、このようなホスホノ脂肪酸エステルは無色透明で耐熱性に優れる為、得られる組成物の色相は良好となる。特に、下記式(1)の如き化学構造を有するホスホノ脂肪酸エステルは本発明の目的に良好な結果を与える。
【0025】
【化2】

【0026】
式中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である。アルキル基として、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。アリール基として、フェニル基、ナフタレン−イル基が挙げられる。R〜Rは、これらが全て同一であっても、異なるものがあっても構わない。式(1)で表される化合物は、R〜Rの炭素数の総和が6〜30であることが好ましい。nは1〜10整数である。
【0027】
式(1)で表される化合物として、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−プロピルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−ブチルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−オクチルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−デシルホスホノ酢酸エチル、ジフェニルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸デシル、ジエチルホスホノ酢酸ドデシル、ジエチルホスホノ酢酸オクタデシル、ジエチルホスホノプロピオン酸エチル、ジ−n−プロピルホスホノプロピオン酸エチル、ジ−n−ブチルホスホノプロピオン酸エチル、ジ−n−ヘキシルホスホノプロピオン酸エチル、ジ−n−オクチルホスホノプロピオン酸エチル、ジ−n−デシルホスホノプロピオン酸エチル、ジフェニルホスホノプロピオン酸エチル、ジエチルホスホノプロピオン酸デシル、ジエチルホスホノプロピオン酸ドデシル、ジエチルホスホノプロピオン酸オクタデシル、ジエチルホスホノ酪酸エチル、ジ−n−プロピルホスホノ酪酸エチル、ジ−n−ブチルホスホノ酪酸エチル、ジ−n−ヘキシルホスホノ酪酸エチル、ジ−n−オクチルホスホノ酪酸エチル、ジ−n−デシルホスホノ酪酸エチル、ジフェニルホスホノ酪酸エチル、ジエチルホスホノ酪酸デシル、ジエチルホスホノ酪酸ドデシル、ジエチルホスホノ酪酸オクタデシルが挙げられる。特に、ジエチルホスホノ酢酸デシル、ジエチルホスホノ酢酸ドデシル、ジエチルホスホノ酢酸オクタデシル、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸エチル、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸デシル、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸オクタデシルが好ましい。
【0028】
式(1)のR〜Rの炭素数の総和あるいはnが大きすぎる場合は、ポリ乳酸に対する添加重量が増大し、難燃性の低下や力学強度の低下する。またR〜Rの炭素数の総和が小さすぎる場合は、ポリ乳酸の製造温度においては揮発し、十分な結晶化促進効果を発揮できない。
【0029】
ホスホノ脂肪酸エステルの含有量は、100重量部のポリ乳酸に対して、0.5重量部を超え10重量部以下、好ましくは1〜5重量部である。ホスホノ脂肪酸エステルの含有量が少なすぎると、結晶化促進に対して十分な効果が得られず、逆に多すぎると成形加工時や紡糸時に使用する金型や口金の汚染が著しくなる。
【0030】
本発明においてホスホノ脂肪酸エステルをポリ乳酸と混合する方法としては、希釈せずに添加する方法や、希釈して添加する方法のどちらでもかまわない。たとえば液体または融点が150℃未満の固体のホスホノ脂肪酸エステルを用いる場合は、開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加混練することができる。また、チップ状に成形したマスターバッチとして、エクストルーダーやニーダーで混練することも可能である。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからホスホノ脂肪酸エステルを添加する方法も好ましい。一方、固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とホスホノ脂肪酸エステルをエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、ホスホノ脂肪酸エステルを含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法、チップのままホスホノ脂肪酸エステルの蒸気に接触させる方法、ホスホノ脂肪酸エステルの溶液に浸漬または噴霧する方法等が可能である。
【0031】
結晶化を促進するために、ホスホノ脂肪酸エステルと結晶核剤を併用してもよい。結晶核剤は有機化合物の金属塩または無機化合物であることが好ましい。有機化合物の金属塩として、カルボン酸のアルカリ金属塩、カルボン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。無機化合物として、タルク、クレイ、金属酸化物、シリカ、ガラス繊維、ウィスカー、無機顔料などが挙げられる。結晶核剤は、平均粒径が0.5〜8μmであることが好ましい。結晶核剤の平均粒径が0.5〜8μmの範囲であると、分散が良好で、凝集し難い。また、結晶核数と結晶核剤の比表面積が大きく、速やかな結晶化が行われる。結晶核剤の含有量は、100重量部のポリ乳酸に対して、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜5重量部である。
【0032】
本発明の組成物は、130℃における半結晶化速度(V1/2)が、好ましくは0.05(分−1)以上、より好ましくは0.07〜0.50(分−1)、さらに好ましくは0.1〜0.3(分−1)である。このため速やかに結晶化が進行し、繊維、フィルム、各種の成形体などに成形して良好に用いることができる。V1/2が0.50(分−1)を超える成形体は、通常の樹脂成形体に用いられる添加物を含有していてもよく、たとえば、酸化防止剤、耐候剤、耐光剤、耐加水分解剤、など各種劣化防止剤、難燃剤、滑剤、染料などを例示することができる。
【0033】
<組成物の製造方法>
本発明は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を混合することからなるステレオコンプレックス結晶を含有する組成物の製造方法であって、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の少なくとも一方が金属重合触媒を含有し、かつ、該混合をポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対して、0.5重量部を超え10重量部以下、好ましくは1〜5重量部のホスホノ脂肪酸エステルの存在下で行うことを特徴とする組成物の製造方法を包含する。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸、金属重合触媒、ホスホノ脂肪酸エステルは、組成物の項に記載の通りである。
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0034】
上記方法の態様として、以下のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合する態様を挙げることができる。但し、略号は以下のとおりである。
(L)金属重合触媒を実質的に含有しないポリ−L−乳酸。
(Lc)金属重合触媒を含有するポリ−L−乳酸。
(Lcp)金属重合触媒およびホスホノ脂肪酸エステルを含有するポリ−L−乳酸。
(D)金属重合触媒を実質的に含有しないポリ−D−乳酸。
(Dc)金属重合触媒を含有するポリ−D−乳酸。
(Dcp)金属重合触媒およびホスホノ脂肪酸エステルを含有するポリ−D−乳酸。
(P)ホスホノ脂肪酸エステル。
態様1:(L)および(Dcp)を混合する。
態様2:(L)、(Dc)および(P)を混合する。
態様3:(Lc)、(D)および(P)を混合する。
態様4:(Lc)、(Dc)および(P)を混合する。
態様5:(Lc)および(Dcp)を混合する。
態様6:(Lcp)および(D)を混合する。
態様7:(Lcp)および(Dc)を混合する。
態様8:(Lcp)および(Dcp)を混合する。
【0035】
また、該方法は、(i)金属重合触媒の存在下で製造されたポリ−L−乳酸にホスホノ脂肪酸エステルを添加した組成物と、(ii)金属重合触媒の存在下で製造されたポリ−D−乳酸にホスホノ脂肪酸エステルを添加した組成物とを混合することにより製造することが好ましい。混合は溶媒の存在下で行うことができる。また溶媒の非存在下で溶融混練して行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。実施例において組成物の物性は以下の方法で測定した。
(1)結晶化速度測定
結晶化速度は、TAインスツルメント製の示差走査熱量計(DSC TA−2920)の130℃等温結晶化測定で求めた。即ち、10mgの試料片を専用アルミニウムパンに入れ、20℃〜200℃を毎分200℃で昇温し、1分間保持した後に130℃まで300℃毎分で急冷する。急冷終了後から降温結晶化ピークの頂点までの時間を半結晶化時間(t1/2)とし、下記式によって半結晶化速度(V1/2)を算出した。
1/2=(1/t1/2)×0.5 (分−1)
(2)重量平均分子量(Mw)の測定
重量平均分子量(Mw)はショーデックス製GPC−11を使用し、組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した
(3)ステレオコンプレックス結晶含有率(X)の算出法
ステレオコンプレックス結晶含有率(X)は、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上〜190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHAと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHBから下記式にて算出した。
X={ΔHB/(ΔHA+ΔHB)}×100 (%)
【0037】
<参考例1>ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸エチルの合成
亜リン酸トリヘキシル100重量部とブロモ酢酸エチル100重量部とを反応容器に入れ、内部を窒素置換した。つづいて反応容器を170℃に昇温して、加熱環流させながら3時間反応を実施した。反応混合物から過剰のブロモ酢酸エチルを80℃で減圧留去した後、190℃で減圧蒸留を行い、無色透明な液体を得た(収率84%、沸点146℃/0.5mmHg)。
【0038】
<参考例2>ジエチルホスホノ酢酸デシルの合成
亜リン酸トリエチル100重量部とブロモ酢酸デシル235重量部とを留出管付き反応容器に入れ、内部を窒素置換した。つづいて反応容器を100℃に昇温して反応を開始させた。直ちに副生成物であるブロモエタンが留出し始め、これが収まるまで反応を維持した。ブロモエタンの留出が緩やかになった時点で、反応容器を150℃に昇温した後、3時間反応を続けた。反応混合物を180℃で減圧蒸留し無色透明の液体を得た(収率84%、沸点163〜165℃/0.5mmHg)。
【0039】
<参考例3>ジエチルホスホノ酢酸オクタデシルの合成
亜リン酸トリエチル100重量部とブロモ酢酸オクタデシル235重量部とを留出管付き反応容器に入れ、内部を窒素置換した。つづいて反応容器を100℃に昇温して反応を開始した。直ちに副生成物であるブロモエタンが留出し始め、これが収まるまで反応を維持した。ブロモエタンの留出が緩やかになった時点で、反応容器を150℃に昇温した後、3時間反応を続けた。反応混合物を室温に冷却し固化させ、これを集めアセトンで再結晶し白色板状結晶を得た(収率94%、融点28〜31℃)。
【0040】
<実施例1>
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.005重量部のトルエン500μL溶液を添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮して、反応容器内から組成物を吐出した。得られた組成物のMwと、半結晶化速度V1/2を表1に示す。
【0041】
<実施例2>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を、ジエチルホスホノ酢酸オクタデシル1重量部に換えた以外は、実施例1と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMwおよびV1/2を表1に示す。
【0042】
<実施例3>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸エチル1重量部に換えた以外は、実施例1と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMwおよびV1/2を表1に示す。
【0043】
<実施例4>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部に加え、日本タルク製タルクSG2000(平均粒径1μm)1重量部を使用し、実施例1と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMwおよびV1/2を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
ホスホノ脂肪酸エステルを添加しない以外は、実施例1と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMwおよびラクチド含有量を表1に示す。得られた組成物のMwおよびV1/2を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
ホスホノ脂肪酸エステルの代わりに日本タルク製タルクSC2000(平均粒径1μm)1重量部を使用し、実施例1と同様の方法で組成物を合成した。得られた組成物のMwおよびラクチド含有量を表1に示す。得られた組成物のMwおよびV1/2を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
<実施例5>
(ポリ−L−乳酸組成物の製造)
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を触媒投入口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状のポリ−L−乳酸組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
(ポリ−D−乳酸組成物の製造)
次に、同様の操作にてポリ−D−乳酸組成物の調製を行った。即ち、D−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込み、続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を触媒投入口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰D−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状のポリ−D−乳酸組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
(ステレオコンプレックスの形成)
上記ポリ−L−乳酸組成物のペレット50重量部とポリ−D−乳酸樹脂組成物のペレット50重量部を良く混合させた後、東洋製機社製ニーダーラボプラストミル50C150を使用し、窒素ガス気流下230℃で10分間混練した。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0048】
<実施例6>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を、ジエチルホスホノ酢酸オクタデシル1重量部に代えた以外は、実施例5と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0049】
<実施例7>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部を、ジ−n−ヘキシルホスホノ酢酸エチル1重量部に代えた以外は、実施例5と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0050】
<実施例8>
ジエチルホスホノ酢酸デシル1重量部に加え、日本タルク製タルクSG2000(平均粒径1μm)1重量部を使用し、実施例5と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0051】
<比較例3>
ホスホノ脂肪酸エステルを添加しない以外は、実施例5と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMwおよびラクチド含有量を表1に示す。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0052】
<比較例4>
ホスホノ脂肪酸エステルの代わりに日本タルク製タルクSC2000(平均粒径1μm)1重量部を使用し、実施例1と同様の方法で組成物を調製した。得られた組成物のMw、ステレオコンプレックス結晶含有率(X)、並びに半結晶化速度(V1/2)を表2に示す。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の組成物は、溶融賦形や射出成形における生産性に優れ、糸、フィルム、或いは樹脂成形体の原料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のポリ乳酸に対して、0.5重量部を超え10重量部以下のホスホノ脂肪酸エステルを含有する組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸が、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸またはこれらの混合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸が、ステレオコンプレックス結晶を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ホスホノ脂肪酸エステルが、下記式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、nは、1〜10の整数である)
で表される請求項1記載の組成物。
【請求項5】
100重量部のポリ乳酸に対して、1〜5重量部のホスホノ脂肪酸エステルを含有する請求項1記載の組成物。
【請求項6】
100重量部のポリ乳酸に対して、1〜10重量部の結晶核剤を含有する請求項1記載の組成物。
【請求項7】
結晶核剤が、有機化合物の金属塩または無機化合物であり、平均粒径が0.5〜8μmである請求項6記載の組成物。
【請求項8】
130℃における半結晶化速度(V1/2)が、0.05(分−1)以上である請求項1記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物からなる成形体。
【請求項10】
ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸を混合することからなるステレオコンプレックス結晶を含有する組成物の製造方法であって、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の少なくとも一方が金属重合触媒を含有し、かつ、該混合を、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対して、0.5重量部を超え10重量部以下のホスホノ脂肪酸エステルの存在下で行う組成物の製造方法。
【請求項11】
金属重合触媒が、アルカリ土類金属、希土類金属、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む化合物である請求項10記載の方法。
【請求項12】
ホスホノ脂肪酸エステルが、下記式(1)
【化2】

(式中R〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基であり、nは、1〜10の整数である)
で表される請求項10記載の方法。


【公開番号】特開2007−269960(P2007−269960A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96899(P2006−96899)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【Fターム(参考)】