説明

ポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法

【課題】鉛化合物含有使用済みPVCから鉛化合物を効率的に取り除くことができるポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法を提供する。
【解決手段】裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解させるPVC溶解工程11と、均一化した溶液と極性良溶媒と混ざり合わない液体とを接触させて溶液中の鉛化合物を凝集させる撹拌工程15と、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離する自然沈降又は遠心分離工程16からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル材料(PVC)に含まれる主として鉛化合物等の無機物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、PVCには安定剤として、三塩基性硫酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉛等の鉛化合物が使用されている。しかし最近環境負荷を低減する動きが活発化し、国内外でこれらを規制する法律や企業独自に規制する動きに伴い、特に鉛をはじめとする重金属の使用禁止が急務となっている。
【0003】
このような背景から、新規に製造されるPVCは鉛系安定剤を使用しない所謂非鉛化が進んでいる。
【0004】
一方これまで使用されてきたPVCには上述の鉛系化合物が含有されているのが一般的であり、これらを再利用する場合問題となる。
【0005】
PVCからゴミ、砂等の不純物を除く方法、他の材料との混合物からPVCを回収する方法、更にはPVCと同時に銅導体材料を回収する方法などが色々提案されているが(特許文献1〜4など)、鉛化合物をPVCより取り除く方法の例は殆どなく、特許文献5,6が非溶解微少固形物除去法として提案されている。
【0006】
この特許文献5,6の方法は、
(i)溶媒に溶解 → (ii)ろ過 → (iii)鉛分離(遠心分離) →
(iv)溶媒蒸発・回収 → (v)PVC回収
からなるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平6−279614号公報
【特許文献2】特開平7−224186号公報
【特許文献3】特開平11−310660号公報
【特許文献4】特開2005−82664号公報
【特許文献5】特開2000−169625号公報
【特許文献6】特開2001−000946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献5,6の方法を含む、これまでの方法は、何れもPVCを溶媒に溶解後、そのまま遠心分離し、鉛化合物や炭酸カルシウムを含む非溶解微少固形物を分離するもので、回収されたPVC中に残存する鉛濃度については特に触れていない。
【0009】
2006年6月より施行された欧州のRoHS規制(特定有害物質の使用制限)では故意に使用しない不純物の閥値は鉛濃度1000ppmである。これらの値を達成するために、遠心分離のG値は15,000程度が必要であることから、回転数が速く連続運転は難しく、生産能力に劣っていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、鉛化合物含有使用済みPVCから鉛化合物を効率的に取り除き、汎用の連続式遠心分離機の遠心条件で回収PVC中の鉛含有量を1000ppm以下にすることはもちろん、国内メーカが要求する100ppm以下にすることができ、更に、トータルリサイクルシステムとして比較的安価なポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解させた溶液と極性良溶媒と混ざり合わない液体とを接触させた後、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収することを特徴とするポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0012】
請求項2の発明は、PVCの極性良溶媒が、テトラビドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチルピロリドンおよび塩化メチレン(ジクロロメタン)である請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0013】
請求項3の発明は、極性良溶媒に混ざり合わない液体が、塩水である請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0014】
請求項4の発明は、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を、ろ過、自然沈降、遠心分離、サイクロンまたはこれらの組み合わせで、分離回収する請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【0015】
請求項5の発明は、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収後、更にPVCを含有する溶液をイオン交換樹脂或いはキレート溶液と接触させ、溶液中に残った鉛イオン、無機イオンを除去する請求項1〜4のいずれかに記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、PVCを溶解させた溶液から鉛化合物を効率的に分離・取り出すために、極性良溶媒と混ざらない液体を添加することを特徴としており,液−液(溶液−塩水)界面に鉛化合物等の無機物を凝集させ濃縮することで,分離条件(自然沈降や遠心分離など)を容易なものとすることができる。回収PVC中に含有される鉛濃度1000ppm以下は勿論のこと100ppm以下にすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1は、本発明のフロー図を示したものである。
【0019】
図1において、本発明は、PVC裁断工程10、PVC溶解工程11、第1ろ過工程12、ろ過で異物除去21された溶液に高濃度塩水が接触したかどうかを判定し遠心分離14を最大1回行うstep1の判断工程、撹拌工程15、自然沈降又は遠心分離工程16、イオン交換樹脂による鉛イオン除去工程17、PVC沈殿工程18、第2ろ過工程19、溶剤回収工程20からなっている。
【0020】
以下この各工程10〜20を説明する。
【0021】
PVC裁断工程10;
試料(PVC)の形状は、特に問わないが溶解速度を速めるため20mm角以下、できれば5mm角以下が望ましい。これを超える場合は、適当な装置により当該サイズ以下に裁断又は粉砕する。
【0022】
PVCを20mm以下に裁断するのは、PVCの比表面積を大きくするためで、溶解時間が短縮できるからである。溶解の温度を上げることも同様に、PVCの溶解時間を短縮するためである。特に溶媒の沸点以上にする場合は、加圧下となるが、更に効率は上がる。
【0023】
PVC溶解工程11;
PVCをTHF(テトラビドロフラン;沸点66℃)、MEK(メチルエチルケトン;沸点79.5℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)等の極性良溶媒中で加熱溶解する。この溶解は、試料1gに対して極性良溶媒を10〜30ccとなるように加え、また加熱は、極性良溶媒の沸点近くの温度で行うことで、PVCが溶解される。
【0024】
第1ろ過工程12;
PVCの溶解により、組成物以外のゴミ・砂等の不溶解物をろ過で異物として除去21する。このろ過は、主に大きい粒子径の粒子や異物除去を目的に使用する。
【0025】
このろ過に使用する装置は、特に規定しないが、フィルタは、紙、ガラス、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、セラミック、金属等の極性良溶媒に侵されない材質のものを使用する。ろ過装置と遠心分離またはサイクロン等適当に組み合わせて目的を達成してもよい。
【0026】
step1の判断工程:
第1ろ過工程12で異物除去21された溶液が高濃度塩水との接触の有無を判断し、遠心分離14を行うか、高濃度塩水を加えた後の撹拌を行うかを判断する。
【0027】
第1ろ過工程12直後では、高濃度塩水が加えられていないので(無)、遠心分離13が最大1回行われ、鉛化合物より粒子径の大きい中粒子径無機充填剤を除去14する。
【0028】
その遠心分離終了後に高濃度塩水22が加えられてstep1の判断に戻されて、高濃度塩水との接触が有りとされて撹拌工程15に移行する。遠心分離13は必ずしも行う必要はない。
【0029】
撹拌工程15:
不溶解物を除去したPVCの溶解液に、極性良溶媒と混じり合わない液体として、高濃度塩水22を加えられた溶液を撹拌することで、鉛化合物等の無機化合物微粒子を凝集させる。
【0030】
高濃度塩水としての塩は、塩化ナトリウム,硫酸ナトリウム,炭酸ナトリウム,塩化カルシウムなどから選ばれたものであり、高濃度塩水の濃度は、特に規定しないが飽和水溶液が望ましい。高濃度の塩水が望ましいのは、塩水の濃度が低いと極性良溶媒(MEK)が塩水と分離せず、塩水が貧溶媒となるため、大量に接触させるとPVCが析出してしまうからである。塩水濃度は、3wt%以上が好ましい。
【0031】
高濃度塩水の量は多い方が望ましいが、設備の大きさや、生産性を考慮すると、溶液の量に対し20分の1から半分程度が良い。また、高濃度塩水は、溶剤回収工程20で、塩析法を利用した場合、そこで発生した高濃度塩水を利用してもかまわない。
【0032】
自然沈降又は遠心分離工程16;
撹拌工程15で、PVCの溶解液に高濃度塩水22を加えて撹拌した溶液を自然沈降又は遠心分離により鉛化合物沈殿除去23を行う。
【0033】
自然沈降、サイクロンは、遠心分離装置に比較するとG値が低い為分離能力はやや劣るが、遠心分離装置と組み合わせることにより効果が期待できる。
【0034】
この遠心分離装置は、バッチ式でも連続式でも構わないが、量産性を考慮すると後者が望ましい。連続運転可能な遠心分離装置としては、例えば縦型分離板タイプ、横型デカンタ方式、縦型底部排出タイプなどが挙げられる。
【0035】
高濃度塩水添加後の溶液を、遠心分離装置に連続的に投入し、鉛を含む無機化合物の比重が大きいことを利用することにより、連続的に鉛化合物を含む無機物とPVCの溶解した溶液を分離することができる。遠心分離装置のG値は特に定めないが、生産性、装置の価格などを考慮すると1000×G〜3000×Gが適している。
【0036】
これらの遠心分離装置は生産性や鉛の分離精度等を考慮し並列や直列に複数組み合わせることができる。
【0037】
高濃度塩水との接触工程を設けることで、遠心分離条件は汎用の連続式遠心分離機の分離条件で行うことができる。当然、G値を上げ、遠心分離時間を長くすることでPVC中の鉛濃度は減少するが、低いG値、短い遠心分離時間でも同等の鉛濃度のPVCを得ることができ、30分程度の自然沈降でも条件によっては同等の鉛濃度のPVCを得ることができる。
【0038】
イオン交換樹脂による鉛イオン除去工程17:
無機物分離後の溶液(PVC+溶剤+水)を、イオン交換樹脂を用いて、PVCの溶解した溶液中に溶存している鉛イオンを除去する。
【0039】
ある種のイオン交換樹脂、例えばアンバーリスト15JWET(オルガノ株式会社)を使用することで、鉛化合物粒子の吸着が起こり、PVCの溶解した溶液から鉛化合物を除去することができる。これによりPVC中の鉛濃度は100ppm以下にすることも可能である。
【0040】
イオン交換樹脂は鉛イオンを除去できる陽イオン交換樹脂が良い。また、樹脂表面の官能基、樹脂の細孔の大きさ次第では、鉛化合物粒子を吸着させることができる。遠心分離を行い、塩水と接触させたPVCの溶解した溶液とイオン交換樹脂を接触させることで、PVC中の鉛濃度を100ppm以下にすることができる。
【0041】
またイオン交換樹脂を用いる代わりにキレート溶液を、溶液(PVC+溶剤+水)に加えて溶液中の鉛イオンをキレート化して鉛化合物を除去するようにしてもよい。
【0042】
PVC沈殿工程18;
上澄み(PVC+溶剤+可塑剤)溶液をPVCの貧溶媒24と接触させてPVCを沈殿させる。貧溶媒24としては、例えば水、メタノール、温水等である。
【0043】
第2ろ過工程19;
PVCを沈殿させた溶液をろ過し、PVCを回収25し、その後、乾燥により再生PVCを得ることができる。
【0044】
溶剤回収工程20;
ろ液として残った溶剤と水から、PVCの極性良溶媒と貧溶媒を分離し、この分離した溶剤を極性良溶媒として、PVC溶解工程11に再利用する。
【0045】
極性良溶媒と貧溶媒の混合物から両者を分離回収する方法としては、一般的な蒸留法、比重差を利用した超遠心分離法、分離膜法、吸着法、塩析法などがある。
【0046】
本例では、塩26を加えて塩析法により極性良溶媒と貧溶媒に分離し、分離した塩を含む貧溶媒を高濃度塩水22として再利用し、同じく極性良溶媒もPVC溶解工程11で再利用する。
【実施例】
【0047】
次に本発明の実施例1〜5と比較例1とを説明する。
【0048】
【表1】

【0049】
約5mm角に裁断したPVC(鉛含有量2.6%)15gを、約80℃で300ccのMEKに溶解し、遠心分離装置に投入、1000×G1分間の条件で処理し、鉛化合物を含む無機物と上澄み液(PVC+溶剤+水)とに分離する。
【0050】
上澄み液を、実施例1〜5に示すように上澄み液と比率を変えた高濃度塩水(水に塩化ナトリウムを溶解させた飽和水溶液)と接触させ約10分間程度撹拌後、30分間静置し、上澄み液と鉛化合物を含む無機物の凝集物、塩水を分離させる。また、比較例1は、塩水を添加しないものとした。
【0051】
イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂アンバーリスト15JWET(オルガノ株式会社)を使用した。所定の処理を行ったイオン交換樹脂15ccと遠心分離後の上澄み溶液約40ccを15分間撹拌、接触を行った。イオン交換樹脂との接触はイオン交換樹脂を充填したカラムを通した接触でもかまわない。
【0052】
前述の処理を行った上澄み液から20ccを採取し、貧溶媒と接触させ、PVCを析出、乾燥後、PVC(可塑剤を含む)を得た。PVCを湿式酸分解法により処理した後、ICP/AES法により鉛含有量を測定した。
【0053】
実施例1〜5に示すように、高濃度塩水と溶液を接触させることで、回収したPVC中の鉛濃度が激減し、汎用の連続式遠心分離機の遠心分離条件で回収したPVC中の鉛濃度は1000ppm以下になる。また、接触させる高濃度塩水の量を増やすことで回収したPVC中の濃度は下がる。
【0054】
高濃度塩水と接触させる工程を設けた処理を行った場合、イオン交換樹脂と接触させることで最終的に回収したPVC中の鉛濃度は100ppm以下にすることができる。
【0055】
これに対して、比較例1に示すように、塩水と接触させない場合、汎用の連続式遠心分離機の遠心分離条件でPVC中の鉛濃度は目標値を達成できない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施の形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0057】
11 PVC溶解工程
15 撹拌工程
16 自然沈降又は遠心分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裁断したポリ塩化ビニル材料(PVC)を極性良溶媒に溶解させた溶液と極性良溶媒と混ざり合わない液体とを接触させた後、PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収することを特徴とするポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項2】
PVCの極性良溶媒が、テトラビドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、N−メチルピロリドンおよび塩化メチレン(ジクロロメタン)である請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項3】
極性良溶媒に混ざり合わない液体が、塩水である請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項4】
PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を、ろ過、自然沈降、遠心分離、サイクロンまたはこれらの組み合わせで、分離回収する請求項1記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。
【請求項5】
PVC中に含有する鉛化合物を含む無機物を分離回収後,更にPVCを含有する溶液をイオン交換樹脂或いはキレート溶液と接触させ、溶液中に残った鉛イオン、無機イオンを除去する請求項1〜4のいずれかに記載のポリ塩化ビニル材料から鉛化合物等の無機物を除去する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−96869(P2009−96869A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269146(P2007−269146)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】