説明

ポンプ

【課題】往復運動する振動板によってポンプ室の容積を変化させることで流体を送給するポンプにおいて、振動板の往復運動にともなってバルーン部が変形することによる膜自体の伸縮を抑制し、省エネルギー化を達成することで効率を向上させ、寿命を長くする。
【解決手段】往復運動することでポンプ室の容積を変化させる振動板3を、中空状のバルーン部13を介して支持する構成において、ハウジング4の斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、および径方向の寸法(高さσ)、並びに振動板3の半径t、が、振動板3の往復運動の範囲で、次式により定義されるひずみの値が最小となるように設定されている。
ε={(v−vn)/vn}×100
ここで、ε:ひずみ(%)、v:振動板3の中心位置からバルーン部13の周方向の所定の位置までの距離、vn:振動板3が往復運動の範囲の中央位置にあるときのvである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ室の容積を変化させることで流体を送給するポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプ室の容積を変化させることで流体を送給するポンプとして、ダイアフラムポンプが広く知られている。ダイアフラムポンプは、所定の駆動手段によってダイアフラムを往復運動させることで、ポンプ室の容積を変化させ、流体の送給を行う。
【0003】
具体的には、ダイアフラムポンプにおいては、ダイアフラムが、駆動手段に連結される連結部材等を介してポンプ室側と反対側に引かれることで、ポンプ室の容積を広くするようにポンプ室側と反対側に伸びて弾性変形することにより、ポンプ室内の圧力が低下してポンプ室内へ流体が吸入される(吸入行程)。また、反対に、ダイアフラムが、連結部材等を介してポンプ室側に押されることで、ポンプ室の容積を狭くするようにポンプ室側に伸びて弾性変形することにより、ポンプ室内の圧力が上昇してポンプ室内から流体が送出される(送出行程)。このようなポンプ室への流体の吸入およびポンプ室からの流体の送出をともなうダイアフラムの弾性変形がダイアフラムの往復運動として繰り返されることで、断続的な流体の送給が行われる。
【0004】
このようなダイアフラムポンプにおいては、ダイアフラムの駆動力を低減することを目的として、ダイアフラムの形状を工夫すること等により、ダイアフラムを弾性変形しやすくすることが行われている。しかし、ダイアフラムを弾性変形しやすくすることは、ポンプでの吸入行程および送出行程の各行程においてダイアフラムが逆方向に膨出する現象を生じさせる原因となる。具体的には、吸入行程では、ポンプ室へ流体を吸入するためにダイアフラムがポンプ室側と反対側に引かれて弾性変形することでポンプ室内に生じる陰圧によって、ダイアフラムがポンプ室側に膨出する。送出行程では、ポンプ室から流体を送出するためにポンプ室側に押されて弾性変形しているダイアフラムがポンプ室の圧力によってポンプ室側と反対側に膨出する。
【0005】
こうした流体の吸入時や送出時におけるダイアフラムの逆方向の膨出変形は、流体の吐出圧を高めるためにポンプ室内の圧力を高くすることにより生じやすくなる。また、流体の吸入時や送出時におけるダイアフラムの逆方向の膨出変形が生じることで、流体の吐出量が低下し、ポンプが本来の性能を発揮できなくなる。
【0006】
このため、ダイアフラムポンプにおいては、ダイアフラムを弾性変形しやすくした場合、流体の送出時におけるダイアフラムの逆方向の変形が生じない条件下での使用が要求される。結果として、ダイアフラムポンプにおいて、ダイアフラムを弾性変形しやすくすることで、高い吐出圧を得ることが困難となる。
【0007】
そこで、特許文献1に記載されている技術がある。特許文献1に記載のポンプは、ダイアフラムの代わりに、往復運動することでポンプ室の容積を変化させる振動板を備え、この振動板を、振動板の外周縁に沿って設けられる環状の中空体(バルーン)を介して、ポンプ室を形成するハウジングに装着する構成を備える。このような構成のポンプにおいては、バルーンは、振動板とハウジングとの間の気密を保ちながら、振動板の往復運動にともないポンプ室の壁面に沿って変形する。特許文献1のポンプによれば、流体の送出時におけるダイアフラムの逆方向の膨出変形を抑制することができ、高い吐出圧を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−120496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような構成のポンプにおいては、振動板の往復運動にともなってバルーンが変形することによるエネルギー消費が問題となる。この点、バルーンを構成する膜自体の伸縮をともなわないバルーンの弾性変形については、バルーン内に圧縮空気等を封入してバルーン内の圧力をポンプ室内の流体の圧力と同程度にすることにより、ポンプ室内の圧縮空気によるバルーンの膨出を防ぐことができ、バルーンの変形によるエネルギーの消費を容易に抑えることができる。
【0010】
これに対し、バルーンを構成する膜自体の伸縮をともなう変形については、バルーンが変形することによって消費されるエネルギーが比較的大きい。特に、バルーンを構成する膜について、バルーン内に封入される圧縮空気等の圧力に耐える強度を得ようとした場合、バルーンを構成する膜の強度を大きくする必要があるため、膜の伸縮にともなう大きな歪みエネルギーの消費が予想される。こうしたバルーンにおけるエネルギーの消費は、ポンプの効率を向上させる際の妨げとなる。また、バルーンを構成する膜が伸縮することは、膜の疲労を生じさせバルーンの寿命を短くする原因ともなる。
【0011】
以上のように、特許文献1のような構成のポンプにおいては、高効率化および高寿命化の観点から改善の余地がある。
【0012】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、往復運動することでポンプ室の容積を変化させる振動板を、中空状のバルーン部を介して支持する構成において、振動板の往復運動にともなってバルーン部が変形することによる膜自体の伸縮を抑制することができ、省エネルギー化を達成することで効率を向上させることができ、寿命を長くすることができるポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のポンプは、往復運動する振動板と、該振動板が往復運動することにより容積が変化するポンプ室を形成するハウジングと、前記振動板の周囲に設けられ、前記振動板と前記ハウジングとの間の気密を保持しながら、弾性変形することで前記振動板の往復運動を許容する中空状のバルーン部を形成するバルーン形成体とを備え、前記振動板の往復運動により前記ポンプ室への流体の吸入および前記ポンプ室からの流体の送出を行うことで、流体を送給するポンプであって、前記ハウジングの内部空間を形成する壁面は、前記バルーン部が接触するとともに前記振動板の往復運動の方向の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす斜面部を有し、前記斜面部の前記往復運動の方向に対する傾斜角度、前記バルーン部の前記往復運動の方向に沿う中心軸を通る面の断面形状における周長、および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記振動板の往復運動の範囲で、次式により定義されるひずみの値が最小となるように設定されているものである。
ε={(v−vn)/vn}×100
ここで、ε:ひずみ(%)、v:前記振動板の中心位置から前記バルーン部の周方向の所定の位置までの距離、vn:前記振動板が往復運動の範囲の中央位置にあるときのvである。
【0014】
請求項2に記載のポンプは、請求項1に記載のポンプにおいて、前記傾斜角度、前記バルーン部の前記周長および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記振動板の往復運動の範囲で、前記振動板の半径と前記バルーン部の前記振動板の往復運動にともなって変形する部分の径方向の寸法との和であるポンプ半径が最小となるように設定されているものである。
【0015】
また、請求項3に記載のポンプは、往復運動する振動板と、該振動板が往復運動することにより容積が変化するポンプ室を形成するハウジングと、前記振動板の周囲に設けられ、前記振動板と前記ハウジングとの間の気密を保持しながら、弾性変形することで前記振動板の往復運動を許容する中空状のバルーン部を形成するバルーン形成体とを備え、前記振動板の往復運動により前記ポンプ室への流体の吸入および前記ポンプ室からの流体の送出を行うことで、流体を送給するポンプであって、前記ハウジングの内部空間を形成する壁面は、前記バルーン部が接触するとともに前記振動板の往復運動の方向の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす斜面部を有し、前記斜面部の前記往復運動の方向に対する傾斜角度、前記バルーン部の前記往復運動の方向に沿う中心軸を通る面の断面形状における周長、および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記バルーン部のうち前記振動板の往復運動の全範囲で前記斜面部に接触する部分以外の部分上の任意の点の、前記バルーン部の周方向についての軌跡である円の半径の変化量が、前記振動板の往復運動の範囲で最小となるように設定されているものである。
【0016】
また、本発明のポンプは、好ましくは、前記バルーン形成体は、前記振動板の往復運動方向に分割される二つの分割要素を有し、各前記分割要素は、もう一方の前記分割要素とともに前記バルーン部を形成するバルーン形成部と、該バルーン形成部の内周側に形成され、前記振動板に固定される内周側固定部と、前記バルーン形成部の外周側に形成され、前記ハウジングに固定される外周側固定部と、を有するものである。
【0017】
また、本発明のポンプは、好ましくは、前記バルーン形成体は、少なくとも前記バルーン部を形成する部分の内面側に、織物により形成される補強膜層を有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、往復運動することでポンプ室の容積を変化させる振動板を、中空状のバルーン部を介して支持する構成において、振動板の往復運動にともなってバルーン部が変形することによる膜自体の伸縮を抑制することができ、省エネルギー化を達成することで効率を向上させることができ、寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係るポンプの構成を示す断面図。
【図2】本発明の第一実施形態に係るポンプにおいて振動板が下死点にある状態を示す断面図。
【図3】本発明の第一実施形態に係るポンプにおいて振動板が上死点にある状態を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るポンプにおける問題点についての説明図。
【図5】本発明の実施形態に係るポンプにおける各部の寸法についての説明図。
【図6】本発明の実施形態に係るポンプにおけるバルーン部の変形を示す模式図。
【図7】本発明の実施形態に係るバルーン部上の位置とバルーン部のひずみとの関係の一例を示す図。
【図8】本発明の実施形態に係るポンプにおける各部の寸法についての説明図。
【図9】本発明の実施形態に係るポンプにおける各部の寸法等の対応関係の一例を示す図。
【図10】本発明の実施形態に係るポンプにおけるバルーン部の変形を示す模式図。
【図11】本発明の第二実施形態に係るポンプの構成を示す断面図。
【図12】本発明の第二実施形態に係るポンプにおいて振動板が下死点にある状態を示す断面図。
【図13】本発明の第二実施形態に係るポンプにおいて振動板が上死点にある状態を示す断面図。
【図14】本発明の第二実施形態に係るバルーン形成体を示す斜視図。
【図15】本発明の第二実施形態に係るバルーン形成体の別構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、往復運動することでポンプ室の容積を変化させる振動板を、中空状のバルーン部を介して支持する構成において、ポンプ室を形成するハウジングの内部空間を形成する壁面のうちバルーン部が接触する部分の形状、バルーン部の形状、および振動板の寸法の設定方法を工夫することで、ポンプの効率および耐久性を向上させようとするものである。本発明は、ポンプ動作としてハウジング内のポンプ室の容積を変化させるための振動板の往復運動にともなって弾性変形するバルーン部について、膜の伸縮をともなわない弾性変形を可能とするものである。本発明に係るポンプにおいては、振動板の往復運動にともなって、バルーン部の断面形状がポンプ室の壁面に沿って変化するので、バルーン部が接触する壁面の部分の形状、バルーン部の形状、および振動板の寸法を適正に構成することが重要であることに着目したものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明の第一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るポンプ1は、ポンプ室2の容積を変化させることで例えば空気等の流体を送給する、いわゆるダイアフラム型のポンプである。ポンプ1は、往復運動する振動板3と、ポンプ室2を形成するハウジング4と、バルーン形成体14とを備える。
【0022】
振動板3は、円板状の部材であり、その板厚方向(図1において上下方向)を移動方向として往復運動するように設けられる。以下の説明では、ポンプ1において振動板3が往復運動する方向を上下方向とする。本実施形態では、振動板3は、モータ等を駆動源として回転する回転軸の回転動力を受けて往復運動する。
【0023】
具体的には、図1に示すように、振動板3は、モータ等を駆動源として回転する駆動軸5に対して連結部材6を介して連結される。連結部材6は、一端側(下端側)に、駆動軸5に連結される軸連結部6aを有し、他端側(上端側)に、振動板3に固定される板固定部6bを有する。
【0024】
軸連結部6aは、円環状に形成される部分であり、その円環形状を貫通する駆動軸5に連結される。軸連結部6aは、駆動軸5に固定されるボールベアリング7を介して駆動軸5に連結される。図1に示すように、ボールベアリング7は、駆動軸5の軸心位置O1に対して軸心位置がO2となるように、駆動軸5に対して振動板3の往復運動のストローク分、偏心した位置に設けられる。
【0025】
ボールベアリング7の内輪は、駆動軸5との間に介装される支持部材5aを介して駆動軸5に対して外嵌されることで駆動軸5と一体的に回転する。また、ボールベアリング7の外輪は、軸連結部6aに内嵌されることで連結部材6に固定される。
【0026】
一方、連結部材6の板固定部6bは、振動板3と略同じ大きさの円板状に形成される部分であり、振動板3に対して下側から重なった状態で振動板3に固定される。板固定部6bは、振動板3に対して上側から重なった状態で振動板3に固定される固定板8とともに、ボルト9によって振動板3に固定される。固定板8は、振動板3と略同じ大きさの円板状に形成される板状の部材である。
【0027】
すなわち、振動板3が連結部材6の板固定部6bと固定板8とによって上下方向から挟まれた状態で、ボルト9によって、板固定部6bと固定板8とが振動板3に固定される。ボルト9は、上下方向に重なった状態の振動板3、板固定部6b、および固定板8に対して、固定板8側から、固定板8および振動板3を貫通して、板固定部6bにねじ込まれる。このため、固定板8および振動板3のそれぞれの中心部には、板面に対して垂直方向にボルト9を貫通させる貫通孔8h、3hが形成され、板固定部6bの中心部には、板面に対して垂直方向にボルト9がねじ込まれるネジ穴6hが形成されている。
【0028】
以上のような構成により、モータ等の駆動源によって駆動軸5が回転することで、ボールベアリング7および連結部材6を介して、振動板3、固定板8、および連結部材6の板固定部6bの部分が一体的に往復運動する(矢印A参照)。なお、振動板3を往復運動(進退駆動)させるための駆動手段は、本実施形態に限定されるものではない。振動板3を往復運動させるための駆動手段としては、例えば、シリンダ機構を利用する構成や、磁石と電磁石とを利用する電磁式の構成等、適宜周知の駆動方法が用いられる。
【0029】
ハウジング4は、第一ハウジング部材11と第二ハウジング部材12とを有し、上下方向に分割される分割構造を有する。第一ハウジング部材11は、ハウジング4の上側の略半分を形成し、第二ハウジング部材12は、ハウジング4の下側の略半分を形成する。第一ハウジング部材11および第二ハウジング部材12は、いずれも板状の外形を有する部材であり、上下方向に重なるように合わさった状態で、一体的に往復運動する振動板3、固定板8、および連結部材6の板固定部6bを含む構成を収容するハウジング4の内部空間を形成する。
【0030】
第一ハウジング部材11は、下側に開口する凹部11aを有し、第二ハウジング部材12は、上下方向に貫通する孔部12aを有する。第一ハウジング部材11と第二ハウジング部材12とが合わさった状態で、凹部11aと孔部12aとによりハウジング4の内部空間が形成される。したがって、ハウジング4の内部空間は、第二ハウジング部材12の孔部12aによって下側に開口する開口部4aを有し、この開口部4aから、駆動軸5の回転動力を振動板3に伝達するための連結部材6が振動板3に固定される。そして、ハウジング4の内部空間における振動板3よりも上側の部分により、ポンプ室2が形成される。
【0031】
また、第一ハウジング部材11および第二ハウジング部材12は、それぞれ、バルーン部13が接触する部分において斜面部11b、12bを有する。斜面部11b、12bは、それぞれ、振動板3の往復運動の方向(上下方向、以下「振動板往復方向」という。)の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす。すなわち、ハウジング4の上側の部分を構成する第一ハウジング部材11の斜面部11bは、振動板往復方向のうちの上方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなし、ハウジング4の下側の部分を構成する第二ハウジング部材12の斜面部12bは、振動板往復方向のうちの下方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす。また、第一ハウジング部材11の斜面部11bと、第二ハウジング部材12の斜面部12bとは、スペーサ部材15を介して上下方向について略対称に構成される。
【0032】
したがって、本実施形態のポンプ1においては、図1等に示すように、ハウジング4の内部空間を形成する壁面は、第一ハウジング部材11により形成される斜面部11bと、第二ハウジング部材12により形成される斜面部12bとにより、バルーン部13の円周に沿って断面視で略V字状となる凹部を形成する。このように、本実施形態のポンプ1においては、ハウジング4の内部空間を形成する壁面は、バルーン部13が接触するとともに振動板往復方向の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす斜面部11b、12bを有する。
【0033】
バルーン形成体14は、ポンプ1においてバルーン部13を形成する部材である。バルーン部13は、振動板3とハウジング4との間に設けられる。バルーン部13は、円板状の振動板3の外周縁に沿って円環状に形成される中空状の部分である。本実施形態では、バルーン部13は、ゴム等の比較的高い弾性を有する材料により弾性変形可能に構成される一体の筒体であるバルーン形成体14により形成される。
【0034】
バルーン部13は、内部に空気等の流体が充填されることで、所定の内圧状態とされる。バルーン部13の内部に充填される流体としては、空気のほか、窒素ガス等の気体や水等の液体が用いられる。
【0035】
バルーン部13は、振動板3とハウジング4との間の気密を確保する。このため、バルーン部13の振動板3に対する接触部分は、例えば接着剤等によって振動板3に密着した状態で固定される。つまり、振動板3の周縁端部は、バルーン部13の内周部分の所定の位置に固定される。
【0036】
また、バルーン部13は、ハウジング4に対しても、振動板3とハウジング4との間の気密を確保するように所定の位置で固定される。本実施形態では、バルーン部13は、ハウジング4に対して次のようにして固定される。
【0037】
第一ハウジング部材11と第二ハウジング部材12との間には、スペーサ部材15が介装されている。つまり、第一ハウジング部材11と第二ハウジング部材12とは、スペーサ部材15を上下方向から挟んだ状態でボルト等によって固定される。スペーサ部材15は、ハウジング4の内部空間の大きさに対応した内径を有する円環状の板状部材であり、第一ハウジング部材11および第二ハウジング部材12とともにハウジング4の内部空間を形成し、バルーン部13の外周に位置する。
【0038】
一方、バルーン部13の外周部分には、円環状のバルーン部13の径方向外側に突出するフランジ部13aが形成されている。フランジ部13aは、バルーン部13の外周縁形状に沿って全周にわたってあるいは周方向について部分的に形成される薄板状(鍔状)の突出部分である。フランジ部13aは、上下方向に所定の間隔を隔てて二箇所に設けられている。そして、バルーン部13は、上側のフランジ部13aが第一ハウジング部材11とスペーサ部材15との間に挟まれ、下側のフランジ部13aが第二ハウジング部材12とスペーサ部材15との間に挟まれることで、ハウジング4に対して所定の位置で固定される。
【0039】
このように、バルーン部13がフランジ部13aによってハウジング4に固定されることで、バルーン部13をハウジング4に確実に固定することができ、バルーン部13がハウジング4内を滑ることによる振動板3の位置ずれを防止することができる。また、バルーン部13を介する振動板3のハウジング4への装着作業を容易に行うことができる。
【0040】
なお、バルーン部13をハウジング4に対して固定するためのフランジ部13aの形状は、特に限定されるものではない。また、バルーン部13をハウジング4に対して固定するためには、スペーサ部材15を介することなく、フランジ部13aが直接的に第一ハウジング部材11と第二ハウジング部材12とに挟まれる構成が採用されてもよい。
【0041】
このように、内周側には振動板3が固定されて外周側はハウジング4に固定されるバルーン部13は、弾性変形することで、ハウジング4の内部空間内を往復運動する振動板3の移動を許容する。言い換えると、振動板3の往復運動にともなって移動するバルーン部13の振動板3に対する固定部分の上下方向の移動が、外周側がハウジング4に固定されるバルーン部13の弾性変形によって許容される。
【0042】
以上のように、バルーン部13は、振動板3の周囲に設けられ、振動板3とハウジング4との間の気密を保持しながら、弾性変形することで振動板3の往復運動を許容する中空状の部分である。そして、ハウジング4の内部空間が振動板3およびバルーン部13を含む構成によって上下方向に仕切られることで、仕切られたうちの上側の空間部分がポンプ室2として形成される。
【0043】
ポンプ室2は、第一ハウジング部材11に形成される吸気口16および排気口17を介してハウジング4の外部に開口する。吸気口16は、ハウジング4の外部に形成される吸気通路18に連通し、排気口17は、同じくハウジング4の外部に形成される排気通路19に連通する。吸気通路18および排気通路19は、第一ハウジング部材11の上側に設けられる通路形成部材20により形成される。第一ハウジング部材11と通路形成部材20とは、複数の締結具21によって固定される。
【0044】
吸気通路18は、吸気口16に連通する側と反対側の開口部に配管等の接続を受けることで、ポンプ室2への吸気経路を構成する。また、排気通路19は、排気口17に連通する側と反対側の開口部に配管等の接続を受けることで、ポンプ室2からの排気経路を構成する。そして、ポンプ室2への吸気経路には、ポンプ室2へ送り込まれる方向の流体の流れを許容し、逆方向の流体の流れを規制する逆止弁が設けられる。また、ポンプ室2からの排気経路には、ポンプ室2から送り出される方向の流体の流れを許容し、逆方向の流体の流れを規制する逆止弁が設けられる。
【0045】
また、スペーサ部材15には、バルーン部13の内圧を保持するために、バルーン部13内に流体を注入して補充するための注入用通路22が形成されている。注入用通路22は、スペーサ部材15において、バルーン部13の径方向に沿うように形成され、バルーン部13の内部空間に連通可能に構成される。注入用通路22の外側の開口部には、流体注入用の口金23が取り付けられている。
【0046】
以上のような構成を備える本実施形態のポンプ1の動作について、図2および図3を用いて説明する。図2に示すように、ポンプ1においては、往復運動する振動板3がポンプ室2の容積を広くするように下方に移動することにより(矢印B1参照)、ポンプ室2内の圧力が低下して、吸気通路18および吸気口16を介してポンプ室2内へ流体が吸入される(矢印B2参照)。この流体の吸入の過程では、ポンプ室2からの排気経路に設けられる逆止弁により、排気通路19および排気口17からのポンプ室2への流体の流れが止められる。なお、図2は、上下方向に往復移動する振動板3が下死点にある状態を示している。
【0047】
また、図3に示すように、ポンプ1においては、往復運動する振動板3がポンプ室2の容積を狭くするように上方に移動することにより(矢印C1参照)、ポンプ室2内の圧力が上昇して、排気通路19および排気口17を介してポンプ室2内から流体が送出される(矢印C2参照)。この流体の送出の過程では、ポンプ室2への吸気経路に設けられる逆止弁により、ポンプ室2から吸気通路18および吸気口16への流体の流れが止められる。なお、図3は、上下方向に往復移動する振動板3が上死点にある状態を示している。
【0048】
このようなポンプ室2への流体の吸入およびポンプ室2からの流体の送出をともなう振動板3の往復運動が繰り返されることで、ポンプ1による断続的な流体の送給が行われる。このように、ポンプ1において、ポンプ室2は、流体の吸気経路および排気経路それぞれに対して逆止弁を介して連通して流体を一時的に貯溜する。
【0049】
以上のように、本実施形態のポンプ1は、往復運動する振動板3と、振動板3が往復運動することにより容積が変化するポンプ室2を形成するハウジング4とを備え、振動板3の往復運動によりポンプ室2への流体の吸入およびポンプ室2からの流体の送出を行うことで、流体を送給する。
【0050】
本実施形態のポンプ1は、ポンプ室2の容積を変化させるために往復運動する部材として、一般のダイアフラムポンプに備えられる薄膜状のダイアフラムとの比較において剛性が高い振動板を備える。また、ポンプ1は、振動板3の周囲に設けられる中空状のバルーン部13を備え、このバルーン部13を介して振動板3をハウジング4に連結させる。振動板3は、バルーン部13を弾性変形させながら往復運動する。
【0051】
このように、ポンプ1は、一般的なダイアフラムポンプにおけるダイアフラムの代わりに、バルーン部13を介してハウジング4に連結される振動板3を備えることにより、ポンプ室2内の圧力によって振動板3を変形させることなく、高吐出圧を実現することができる。
【0052】
なお、ポンプ室2内の圧力は、バルーン部13にも作用するが、バルーン部13内に充填される流体の圧力によってバルーン部13のポンプ室2側の面に作用した圧力は全体に分散される。このため、バルーン部13の弾性変形はポンプ室2内の圧力によって阻害されにくく、振動板3の安定的な往復運動が確保される。特に、バルーン部13をポンプ室2内の圧力に抗して弾性変形させて振動板3の安定的な往復運動を確保する観点からは、バルーン部13の内圧をポンプ室2内の圧力と同程度あるいはポンプ室2内の圧力よりも高くすることが好ましい。
【0053】
なお、本実施形態では、振動板3は円形であるが、これに限定されず、振動板3の形状としては、長円や楕円等、円形以外の形状を採用することができる。したがって、振動板3の形状に対応して振動板3の外周縁に沿うように形成されるバルーン部13の形状についても、振動板3の形状等に合わせて適宜設定される。
【0054】
以上のような構成を備えるポンプ1において消費エネルギーの増大等の問題を生じさせる原因となる、バルーン部13を構成する膜自体が伸縮することについて、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態に係るポンプ1と基本的な構成を同じくするポンプの構成を模式的に示した横断面図である。なお、図4では、便宜上、本実施形態に係るポンプ1と対応する構成については、本実施形態のポンプ1と同じ符号を用いている。また、図4では、バルーン部13について、バルーン部13のハウジング4に対する固定部分、つまりフランジ部13aが設けられる部分を省略して示している。
【0055】
図4(a)は、振動板3が上死点にある状態を示し、同図(b)は、振動板3が下死点にある状態を示す。振動板3がバルーン部13を介してハウジング4に連結される構成においては、振動板3の往復運動にともない、バルーン部13がポンプ室2の壁面に沿って変形し、振動板3の移動が容易に行われる。
【0056】
図4(a)、(b)に示すように、バルーン部13の膜上の点P1に着目する。ここで、バルーン部13の膜上の点P1は、バルーン部13のうち振動板3の往復運動の全範囲で斜面部11b、12bに接触する部分以外の部分上の任意の点である。
【0057】
具体的には、バルーン部13においては、ハウジング4に固定される部分であるフランジ部13aの部分を含み、往復運動する振動板3の位置にかかわらず、ハウジング4に対して常時接触する部分が存在する。つまり、このバルーン部13のハウジング4に対して常時接触する部分は、振動板3の往復運動にともなって変形するバルーン部13において、ハウジング4に固定される基端側の部分であり、バルーン部13の外周端部分である。このようにバルーン部13のハウジング4に常時接触する部分は、主に、ハウジング4に対する接触部分を、第一ハウジング部材11および第二ハウジング部材12それぞれの斜面部11b、12bとする部分である。
【0058】
このように、バルーン部13のハウジング4に常時接触する部分のうち斜面部11b、12bに接触する部分が、バルーン部13のうち振動板3の往復運動により変化する位置にかかわらず、つまり振動板3の往復運動の全範囲で、斜面部11b、12bに接触する部分である。そこで、このバルーン部13のうち振動板3の往復運動の全範囲で斜面部11b、12bに接触する部分以外の部分における膜上の任意の点が、上記のバルーン部13の膜上の点P1となる。なお、点P1は、図4(a)、(b)に示す断面図における点であるため、実際にはバルーン部13の周方向に沿う線を表す。
【0059】
点P1の位置は、図4(a)、(b)に示すような横断面視のバルーン部13において、図4(a)に示すように振動板3が上死点にある状態から、同図(b)に示すように振動板3が下死点にある状態まで移動することで、バルーン部13の変形にともなって変化する。
【0060】
そして、このような振動板3の位置の変化にともなって点Pの位置が変化すると、振動板3の中心軸Oの方向視で点P1の位置をバルーン部13の周方向について連続させることで得られる縦断面視における円(図中楕円で表わす、バルーン部13の周方向についての点P1の軌跡、以下「軌跡円」という。)Sの半径も変化する。バルーン部13の円周長の変化は、この軌跡円Sの半径の値の変化で表すことができる。
【0061】
具体的には、図4(a)に示すように、振動板3が上死点にある状態での軌跡円Sの半径R1は、同図(b)に示すように、振動板3が下死点にある状態での軌跡円Sの半径R2に対して長い。つまり、振動板3が上死点から下死点に移動することで、バルーン部13の円周長いが変化し、軌跡円Sの半径が、半径R1から半径R2に短くなる。
【0062】
このような振動板3の位置の変化にともなう軌跡円Sの半径の変化は、バルーン部13を構成する膜の素材自体が伸縮することにより生じる。バルーン部13を構成する膜自体が伸縮することは、ポンプ1におけるエネルギーの消費量を大きくし、バルーン部13の寿命を短くさせる要因となる。
【0063】
また、上述したような振動板3の位置の変化にともなうバルーン部13上における所定の点(図4、点P1参照)の位置の変化、つまり振動板3の位置の変化にともなうバルーン部13の変形の態様には、弾性変形するバルーン部13が接触するハウジング4の内部空間を形成する壁面のバルーン部13が接触する部分の形状(以下「ハウジング内壁面形状」という。)、およびバルーン部13の形状(以下「バルーン部形状」という。)、並びに振動板3の寸法が影響する。
【0064】
そこで、本実施形態のポンプ1においては、振動板3の往復運動にともなって弾性変形するバルーン部13について、バルーン部13を構成する膜自体の伸縮(以下「バルーン膜の伸縮」という。)が生じないように、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法が決定される。
【0065】
振動板3の往復運動にともなってバルーン膜の伸縮が生じないためには、理想的には、振動板3の往復運動のストロークの範囲で、次の(1)〜(3)の条件を満たす必要がある。
(1)バルーン部13の内容積が一定であること
(2)バルーン部13の横断面形状の周長が一定であること。
(3)バルーン部13の縦断面形状の周長が一定であること。
【0066】
ここで、バルーン部13の横断面形状とは、振動板往復方向に沿うバルーン部13の中心軸を通る平面を断面とする断面形状である。また、バルーン部13の縦断面形状とは、バルーン部13の中心軸方に対して垂直な平面を断面とする断面形状である。
【0067】
上記(1)の条件は、振動板3の往復運動によりバルーン部13の内容積が変化すると、バルーン部13に充填されるガスの圧縮膨張が繰り返されることによるエネルギーロスや、バルーン部13の膜に対する過剰な加圧作用等を抑制する観点に基づく。図4等に示すように、バルーン部13においては、ハウジング4の壁面に制約されることなく解放された部分が存在するので、その解放された部分により、バルーン部13の内容積が自動的に一定となるような調節が可能となる。
【0068】
上記(2)の条件については、バルーン部13における、ハウジング4の壁面に制約される部分と、ハウジング4の壁面から解放された部分とが存在し、上記(1)の条件との関連で、(2)の条件が自動的に満たされる。上記(3)の条件は、バルーン部13の外周端部は、その全てがハウジング4の壁面に接触して制約されるので、ハウジング内壁面形状をバルーン部13の縦断面形状に合わせて適正に設計する必要があるという観点に基づく。
【0069】
本実施形態のポンプ1においては、上記(1)〜(3)の条件を満たすため、次のような指標に基づいて、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法が設定される。ここで設定される形状のうちのハウジング内壁面形状は、ハウジング4が有する斜面部11b、12bの傾斜角度である。
【0070】
具体的には、図5に示すように、斜面部11b、12bの傾斜角度は、振動板往復方向に対する傾斜角度αである。言い換えると、斜面部11b、12bの傾斜角度αは、振動板往復方向と平行な振動板3の中心線Xの方向に対する斜面部11b、12bの傾斜角度である。なお、振動板3の中心線Xは、ポンプ1の中心線に対応する。
【0071】
このように、本実施形態では、ハウジング内壁面形状を規定するパラメータとして、斜面部11b、12bの振動板往復方向に対する傾斜角度αを採用する。また、上述したように上下方向について略対称に構成される第一ハウジング部材11の斜面部11bと第二ハウジング部材12の斜面部12bとは、振動板往復方向に対して同じ傾斜角度αとなるように形成される。したがって、ハウジング内壁面形状のうち斜面部11b、12bについては、上下方向に対称な形状が設定される。
【0072】
また、ここで設定される形状のうちのバルーン部形状は、バルーン部13の振動板往復方向に沿う中心軸を通る面の断面形状における周長、および径方向の寸法である。
【0073】
具体的には、図5に示すように、バルーン部13の振動板往復方向に沿う中心軸を通る面の断面形状は、バルーン部13の横断面形状である。そして、このバルーン部13の横断面形状における周長L、および径方向の寸法(以下「高さ」という。)σが、バルーン部形状として設定される。つまり、ここでいう「径方向」とは、円板状の振動板3およびこの振動板3の周囲に設けられる円環状のバルーン部13における径方向(図5における上下方向)である。
【0074】
このように、本実施形態では、バルーン部形状を規定するパラメータとして、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσを採用する。ここで、バルーン部13の高さσは、図5に示すように、ポンプ1の半径Tの値から、振動板3の半径tの値を引いたものである。
【0075】
バルーン部13の高さσについては、計算の簡略化のため、ハウジング4の外周側に位置する斜面部11bと斜面部12bとの交点の位置(直線Y参照)までバルーン部13が存在すると仮定し、ポンプ1の半径Tを、振動板3の中心位置(直線X参照)から斜面部11bと斜面部12bとの交点の位置までの寸法とする。そして、振動板3の往復運動の範囲でハウジング4からバルーン部13が離脱しない領域(符号m参照)、つまり上述したようにバルーン部13のハウジング4に常時接触する部分は、計算上不要であることから、計算の過程で削除し、バルーン部13が有する本来の形状に対応した高さ寸法を導く。本実施形態では、このような手法を計算上採用する。ただし、バルーン部13の高さとしては、振動板3の往復運動の範囲でハウジング4からバルーン部13が離脱しない領域を除外した寸法(σ−m)を計算上最初から用いてもよい。また、バルーン部13の高さとしては、バルーン部13のハウジング4に常時接触する部分を削除することなく、バルーン部13の高さσそのものの値を用いてもよい。
【0076】
また、ここで設定される振動板3の寸法は、振動板3の半径tである。具体的には、図5および図6に示すように、振動板3の半径tは、振動板3の(ポンプ1の)中心線Xから振動板3の外周端までの寸法である。この振動板3の半径tが、振動板3の寸法として設定される。このように、本実施形態では、振動板3の寸法を規定するパラメータとして、振動板3の半径を採用する。
【0077】
以上のような各寸法、つまり斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tをパラメータとして、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法が設定される。そして、本実施形態では、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法の設定に際して、上述したような振動板3の往復運動にともなって変化する軌跡円(図4、軌跡円S参照)の半径の値の変化に基づいて定義されるひずみε(%)という値が用いられる。
【0078】
図6は、本実施形態に係るポンプ1の横断面視における片側のバルーン部13の部分を模式的に示した図である。図6(a)は振動板3が往復運動の範囲において中央位置にある状態を示し、同図(b)は振動板3が上死点にある状態を示し、同図(c)は振動板3が下死点にある状態を示す。
【0079】
図6(a)に示すように、振動板3のバルーン部13に対する接続位置(付け根の位置)を基準点Q0とし、バルーン部13の横断面形状におけるバルーン部13の膜上の所定の点Q1についてのバルーン部13の周に沿う位置を座標sとする。この場合、基準点Q0から点Q1までのバルーン部13の周に沿う長さが座標sに対応する。また、バルーン部13の膜上における所定の点Q1についての軌跡円の半径をvとする。つまり、点Q1についての軌跡円の半径vは、振動板3の中心位置(中心線X参照)からバルーン部13の周方向の所定の位置である点Q1までの距離に相当する。
【0080】
そして、図6(a)に示すように振動板3が中央位置にある状態での半径vをvnとし、同図(b)に示すように振動板3が上死点にある状態での半径vをvtとし、同図(c)に示すように振動板3が下死点にある状態での半径vをvbとする。この場合、バルーン部13のひずみε(%)は、振動板3が中央位置にある状態を基準とすると、振動板3が上死点にあるときのひずみεtは、εt={(vt−vn)/vn}×100と表わされ、振動板3が下死点にあるときのひずみεbは、εb={(vb−vn)/vn}×100と表わされる。
【0081】
図7は、バルーン部13の周に沿う長さ(座標)s(mm)と、バルーン部13のひずみε(%)との関係の一例を示す。図7において、実線で示すグラフG1は、振動板3が上死点にあるときのひずみεtの、バルーン部13の周に沿う長さsによる変化を示す。また、図7において破線で示すグラフG2は、振動板3が下死点にあるときのひずみεbの、バルーン部13の周に沿う長さsによる変化を示す。
【0082】
図7に示すグラフからわかるように、上死点でのひずみεtおよび下死点でのひずみεbのいずれについても、バルーン部13の周に沿う長さsによって変化しており、バルーン部13の周に沿う長さsによって、ひずみが生じている部分と生じていない部分(ε=0%)とがある。そして、上死点でのひずみεtおよび下死点でのひずみεbのいずれについても、ひずみが生じている部分では、あるsの値でピークが存在する。また、上死点でのひずみεtと下死点でのひずみεbとでは、ひずみの方向が反対方向となっている。ひずみの方向は、ひずみε(%)の正負により表わされる。
【0083】
このように振動板3の往復運動によってバルーン部13で生じるひずみの値を用い、本実施形態では、振動板3の往復運動の範囲で、次式(A)により定義されるひずみの値が最小となるように、上述した各パラメータ、つまり斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが決定される。
ε={(v−vn)/vn}×100 …(A)
ここで、ε:ひずみ(%)、v:振動板3の中心位置からバルーン部の周方向の任意の位置までの距離、vn:振動板3が往復運動の範囲の中央位置にあるときのvである。
【0084】
具体的には、次のような手法により、各パラメータの値が決定される。本手法の説明では、ポンプ1における各部の寸法を示す図8を参照する。本手法では、決定すべきパラメータである斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tを、独立変数とする。これらの傾斜角度α、周長L、および高さσ並びに半径tから、軌跡円Sの半径vが計算により求まる。なお、各パラメータα,L,σ,tの計算に際しては、ポンプ1の性能によって定まる値として、振動板3のストローク(振動板3の往復運動の範囲)Stおよびポンプ1の行程容積Vを予め与える。
【0085】
ポンプ1の行程容積Vは、幾何学的な関係より、ポンプ1のストロークSt、傾斜角度α、バルーン部13の周長L、バルーン部13の高さσ、および振動板3の半径tを用いて、次式(B)で表される。なお、次式(B)の導出に際しては、計算の簡略化のため、図1等に示すような断面視において、バルーン部13は伸縮しないこと、および、バルーン部13の支持されていない部分(以下「非支持部分」という。)、つまりバルーン部13においてハウジング4と振動板3のいずれにも接触していない部分の横断面形状は半径rの円弧状をなすこと(図8参照)を仮定する。
【0086】
【数1】

【0087】
上記式(B)において、r1およびr2は、それぞれ振動板3の上死点および下死点におけるバルーン部13の非支持部分の半径であり(図8参照)、次式(C)、(D)で表される。
1={(L+St/2)sinα−σ(1+cosα)}/ξ …(C)
2={(L−St/2)sinα−σ(1+cosα)}/ξ …(D)
【0088】
また、上記式(C)、(D)において、ξは、次式(E)で表される。
ξ=(π−α)sinα−2(1+cosα) …(E)
【0089】
また、上記式(B)において、l1、l2は、それぞれ振動板3の上死点および下死点においてバルーン部13がハウジング4の斜面部11b、12bと接する長さであり(図8参照)、次式(F)、(G)で表される。
1=[{σ・cosα−r1(1+cosα)}/sinα]−St/2 …(F)
2=[{σ・cosα−r2(1+cosα)}/sinα]+St/2 …(G)
【0090】
なお、バルーン部13について、バルーン部13のハウジング4に常時接触する部分の寸法l2は計算上不要なことから削除する。
【0091】
上記式(B)の導出に際しては、上述のとおりバルーン部13は伸縮しないことを仮定したが、バルーン部13上の所定の点は、振動板3の往復運動にともなって径方向について移動する。具体的には、図8(b)に示すように、バルーン部13上の所定の点は、振動板3が中央位置(中立位置)にある状態での位置A0から、振動板3が上死点にある状態では、位置A0よりも径方向外側の位置A1に移動し、振動板3が下死点にある状態では、位置A0よりも径方向内側の位置A2に移動する。
【0092】
このように振動板3の往復運動にともなってバルーン部13上の所定の点が移動することは、バルーン部13が径方向(図8(b)における上下方向)に伸縮することであり、上述したように軌跡円の半径vの大きさが変化することに対応する。そして、この軌跡円の半径vの大きさの変化が、上述したひずみεとして表れる。そこで、上記式(A)により定義されるひずみεの値が最小となるように、斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが設定される。
【0093】
そして、本手法では、振動板3の下死点から上死点に至るまでの全ての振動板3の位置に対して、バルーン部13の周囲上の全ての点について、ひずみεが、数値計算により算出される。そこで、ひずみεの値が最も小さくなるように、上記のような形状等に関する値の組(α,L,σ,t)が、計算機により探索されて決定される。
【0094】
より具体的には、ストロークStと上記式(B)で表される行程容積Vとを与え、各パラメータである斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tの値を、適当な範囲において、適当な間隔で変化させながら、ひずみεが最小になる解、つまり各パラメータα,L,σ,tの値についての最適解を、最急降下法により数値的に探索する。その際、局所解に陥らないように、予めα,L,σ,tを適当な刻みで変化させ、ひずみεの値が最小となる変数の組を初期条件とする。
【0095】
すなわち、各パラメータα,L,σ,tの値をわずかに変化させた場合のひずみεの変化を評価し、ひずみεの値が小さくなる方向に、各パラメータα,L,σ,tの値を修正していく。そして、ひずみεが変化しなくなるまで、計算を繰り返す。つまり、ひずみεが変化しなくなったときの各パラメータα,L,σ,tの値が、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状の各形状を規定する寸法並びに振動板3の寸法の値として決定される。なお、複数の組(α,L,σ,t)でひずみεの値が同じとなる場合は、例えば、ポンプ1の半径Tが小さくなる方の組を優先的に採用する。このようにして、ひずみεを指標として、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状の各形状並びに振動板3の寸法が設定される。
【0096】
このように、本実施形態では、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状を規定する斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の寸法が、振動板3の往復運動の範囲で、上記式(A)により定義されるひずみの値が最小となるように設定されている。
【0097】
以上のようにしてハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法が設定されている本実施形態のポンプ1によれば、バルーン膜の伸縮が抑制されるので、往復運動することでポンプ室2の容積を変化させる振動板3を、中空状のバルーン部13を介して支持する構成において、振動板3の往復運動にともなってバルーン部13が変形することによる膜自体の伸縮を抑制することができ、省エネルギー化を達成することで効率を向上させることができ、寿命を長くすることができる。
【0098】
具体的には、バルーン部13においては、バルーン膜の伸縮をともなわない弾性変形、つまりバルーン部13を形成する膜が曲がることによる形状の変化については、バルーン部13内に圧縮空気等を封入してバルーン部13内の圧力をポンプ室2内の流体の圧力と同程度にすること等により、バルーン部13の変形によるエネルギーの消費を容易に抑えることができる。これに対し、バルーン膜の伸縮をともなう変形については、バルーン部13が変形することによって消費されるエネルギーが比較的大きい。特に、バルーン部13を構成する膜について、バルーン部13内に封入される圧縮空気等の圧力に耐える強度を得ようとした場合、バルーン膜の伸縮にともなう大きな歪みエネルギーの消費が予想される。
【0099】
そこで、上記(A)式から導かれるひずみεが最小となるように斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ並びに振動板3の半径tが設定されることで、上記(1)〜(3)の条件をほぼ満たすことが可能となる。これにより、バルーン部13を形成する膜そのものの変形(バルーン膜の伸縮)が抑制され、エネルギーの消費を抑えることができ、効率を向上させることができる。また、バルーン膜の伸縮が抑制されることで、バルーン部13を構成する膜の寿命を向上させることができる。
【0100】
また、本実施形態では、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法の設定に際しては、上述したひずみεに加え、ポンプ半径Rpという値が用いられることが好ましい。つまり、斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ並びに振動板3の半径tが、振動板3の往復運動の範囲で、ひずみεおよびポンプ半径Rpが最小となるように設定されていることが好ましい。
【0101】
図5および図8に示すように、ポンプ半径Rpは、振動板3の半径tとバルーン部13の振動板3の往復運動にともなって変形する部分の径方向の寸法との和である。つまり、ポンプ半径Rpは、振動板3の半径tと、バルーン部13の非支持部分の径方向(図5、図8における上下方向)の寸法(図5におけるσ−mに対応する寸法)との和である。
【0102】
したがって、ポンプ半径Rpは、次式(H)により表される。
p=t+σ−l2sinα …(H)
【0103】
そして、ひずみεの場合と同様に、ストロークStと上記式(B)で表される行程容積Vとを与え、各パラメータである斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tの値を、適当な範囲において、適当な間隔で変化させながら、ひずみεおよびポンプ半径Rpが最小になる解、つまり各パラメータα,L,σ,tの値についての最適解を、最急降下法により数値的に探索する。その際、局所解に陥らないように、予めα,L,σ,tを適当な刻みで変化させ、ひずみεおよびポンプ半径Rpの値が最小となる変数の組を初期条件とする。
【0104】
このように、各パラメータの値の設定に際して、ひずみεに加えてポンプ半径Rpを用いることにより、ポンプ1の効率や寿命を向上させながら、ポンプ1の小型化を図ることができる。
【0105】
図9に、バルーン部13のひずみεと、ポンプ半径Rpおよび傾斜角度αと、ストロークStとの関係の一例を示す。図9からわかるように、ストロークStの増大にともない、ポンプ半径Rpは減少している。このことから、ポンプ1の小型化を目的とする場合には、ストロークStは大きい方が好ましい。
【0106】
一方、同じく図9からわかるように、ひずみεは、ストロークStとともに増大している。このことから、ひずみεを小さくしてバルーン部13への負荷を軽減する観点からは、ストロークStは小さい方が好ましい。
【0107】
ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法の別の設定方法について説明する。本実施形態のポンプ1においては、上記(1)〜(3)の条件を満たすため、次のような指標に基づいて、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法が設定される。本実施形態では、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法の設定に際して、上述したような振動板3の往復運動にともなって変化する軌跡円(図4、軌跡円S参照)の半径の値が用いられる。
【0108】
図10は、本実施形態に係るポンプ1の横断面視における片側のバルーン部13の部分を模式的に示した図である。図10において、実線で示す振動板3(3A)およびバルーン部13(13A)は、振動板3が上死点にある状態を示し、破線で示す振動板3(3B)およびバルーン部13(13B)は、振動板3が下死点にある状態を示す。
【0109】
本実施形態では、図10に示すように、バルーン部13の膜上における所定の点Paについての軌跡円の半径の変化量が、振動板3の往復運動の範囲で最小となるように、斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが決定される。ここで、バルーン部13の膜上における所定の点Paは、バルーン部13のうち振動板3の往復運動の全範囲で斜面部11b、12bに接触する部分以外の部分上の任意の点である。つまり、点Paは、バルーン部13の非支持部分上の任意の点である。
【0110】
図10に示すように、振動板3が上死点にある状態でのバルーン部13上の点Pa(Pa1)についての軌跡円の半径v1は、振動板3の中心位置(中心線X参照)から点Pa(Pa1)までの距離である。また、振動板3が下死点にある状態でのバルーン部13上の点Pa(Pa2)についての軌跡円の半径v2は、振動板3の中心位置(中心線X参照)から点Pa(Pa2)までの距離である。図10に示す例では、振動板3の往復運動の範囲において、振動板3が上死点にある状態での軌跡円の半径v1が、軌跡円の半径の最大値であり、振動板3が下死点にある状態での軌跡円の半径v2が、軌跡円の半径の最小値である。
【0111】
そこで、本実施形態では、振動板3が上死点にある状態での軌跡円の半径v1と振動板3が下死点にある状態での軌跡円の半径v2との差D(=v1−v2)の大きさ、つまり軌跡円の半径の変化量が最小となるように、斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが決定される。
【0112】
このようにバルーン部13のうち振動板3の往復運動の全範囲で斜面部11b、12bに接触する部分以外の部分(非支持部分)上の任意の点の、軌跡円Sの半径vの変化量を指標とする場合は、上述したようにひずみεを指標とする場合と同様の手法により、斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが決定される。
【0113】
具体的には、決定すべきパラメータである斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tを独立変数とする。これらの傾斜角度α、周長L、および高さσ並びに半径tから、軌跡円Sの半径vが計算により求まる。なお、各パラメータα,L,σ,tの計算に際しては、ポンプ1の性能によって定まる値として、振動板3のストロークStおよびポンプ1の行程容積V(上記式(B)〜(G)参照。)を予め与える。
【0114】
そして、本手法では、振動板3の下死点から上死点に至るまでの全ての振動板3の位置に対して、バルーン部13の周囲上の全ての点について、軌跡円Sの半径vの変化量が、数値計算により算出される。そこで、軌跡円Sの半径vの変化量の値が最も小さくなるように、上記のような形状等に関する値の組(α,L,σ,t)が、計算機により探索されて決定される。
【0115】
より具体的には、ストロークStと上記式(B)で表される行程容積Vとを与え、各パラメータである斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tの値を、適当な範囲において、適当な間隔で変化させながら、軌跡円Sの半径vの変化量が最小になる解、つまり各パラメータα,L,σ,tの値についての最適解を、最急降下法により数値的に探索する。その際、局所解に陥らないように、予めα,L,σ,tを適当な刻みで変化させ、ひずみεの値が最小となる変数の組を初期条件とする。
【0116】
すなわち、各パラメータα,L,σ,tの値をわずかに変化させた場合の軌跡円Sの半径vの変化を評価し、軌跡円Sの半径vの値が小さくなる方向に、各パラメータα,L,σ,tの値を修正していく。そして、軌跡円Sの半径vが変化しなくなるまで、計算を繰り返す。つまり、軌跡円Sの半径vが変化しなくなったときの各パラメータα,L,σ,tの値が、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状の各形状を規定する寸法並びに振動板3の寸法の値として決定される。なお、複数の組(α,L,σ,t)でひずみεの値が同じとなる場合は、例えば、ポンプ1の半径Tが小さくなる方の組を優先的に採用する。このようにして、軌跡円Sの半径vを指標として、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状の各形状並びに振動板3の寸法が設定される。
【0117】
このように、本実施形態では、ハウジング内壁面形状およびバルーン部形状を規定する斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の寸法が、振動板3の中心位置(中心線X参照)からバルーン部13の周方向の所定の位置(点Pa)までの距離(軌跡円の半径)について、振動板3の往復運動の範囲における上死点での軌跡円の半径v1と下死点での軌跡円の半径v2との差D(=v1−v2)の大きさ、つまり軌跡円Sの半径vの変化量が最小となるように設定されている。ここで、上死点での軌跡円の半径v1と下死点での軌跡円の半径v2との差Dが最小となること、つまり軌跡円Sの半径vの変化量が最小となることには、上死点での軌跡円の半径v1と下死点での軌跡円の半径v2とが同一になること、つまり、差D=v1−v2=0となることが含まれる。そして、バルーン部形状としては、上死点での軌跡円の半径v1と下死点での軌跡円の半径v2とが同一になること(差D=v1−v2=0となること)が望ましい。言い換えると、振動板3の往復運動の範囲において軌跡円Sの半径vの変化がわずかであることは、実質上許容される。
【0118】
以上のように、振動板3の上死点と下死点での軌跡円の半径の差(軌跡円Sの半径vの変化量)が指標として用いられてハウジング内壁面形状およびバルーン部形状を規定する斜面部11b、12bの傾斜角度α、バルーン部13の周長L、およびバルーン部13の高さσ、並びに振動板3の半径tが設定されることによっても、バルーン膜の伸縮を極力抑えることができ、上記(1)〜(3)の条件をほぼ満足することができる。これにより、上述したように、バルーン膜の伸縮が抑制されるので、往復運動することでポンプ室2の容積を変化させる振動板3を、中空状のバルーン部13を介して支持する構成において、振動板3の往復運動にともなってバルーン部13が変形することによる膜自体の伸縮を抑制することができ、省エネルギー化を達成することで効率を向上させることができ、寿命を長くすることができる。
【0119】
なお、ハウジング4の内部空間を形成する壁面は、例えば横断面形状が円弧状となるように曲面により形成されてもよい。この場合、ハウジング内壁面形状の設計に際しては、例えば、ハウジング内壁面形状を形成する曲面の横断面視形状における曲率半径等が、上述したように振動板3の上死点と下死点での軌跡円の半径の差の大きさ(軌跡円の半径の変化量)が最小となるように設定される。
【0120】
このようなハウジング内壁面形状およびバルーン部形状並びに振動板3の寸法の設計方法が採用されることによっても、ポンプ1において、バルーン膜の伸縮が抑制され、省エネルギー化を達成することで効率を向上させることができ、寿命を長くすることができる。
【0121】
本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態のポンプ31においては、振動板3とハウジング4との間に設けられるバルーン部43が、振動板3の往復方向に分割された構造を有する。すなわち、図11〜図14に示すように、本実施形態のポンプ31においては、バルーン部43を形成するバルーン形成体44が、振動板3の往復運動方向に分割される二つの分割要素45を有する。なお、図14は、バルーン形成体44を構成する分割要素45の周方向の略1/4を切り欠いた状態の斜視図を示す。
【0122】
図11〜図14に示すように、バルーン形成体44を構成する分割要素45は、一面側が平面に沿うように形成され、他面側に突出する形状を有する円板状の一体の部材である。分割要素45は、ゴム等の比較的高い弾性を有する材料により弾性変形可能に構成される。一対の分割要素45は、平面に沿うように形成される側(以下「内側」といい、その反対側を「外側」という。)を互いに対向させた状態で、ハウジング4の内部空間内においてバルーン部43を形成する。
【0123】
分割要素45は、バルーン部43を形成するバルーン形成部46と、バルーン形成部46の内周側に形成される内周側固定部47と、バルーン形成部46の外周側に形成される外周側固定部48とを有する。
【0124】
バルーン形成部46は、もう一方の分割要素45とともにバルーン部43を形成する。つまり、一対の分割要素45は、互いのバルーン形成部46を内側から対向させた状態で、バルーン部43を形成する。図14に示すように、バルーン形成部46は、分割要素45の外側に膨出する円環状の突出部分である。したがって、バルーン形成部46は、分割要素45の内側から見ると、円環状の凹部を形成する。バルーン形成部46は、円板状の分割要素45の外形に沿って分割要素45の外周側の部分に形成される。
【0125】
バルーン形成部46は、もう一方の分割要素45のバルーン形成部46とともにバルーン部43を形成する状態で、ハウジング4の内部空間を形成する壁面に沿う形状を有する。本実施形態では、バルーン形成部46は、分割要素45の外周端側に、ハウジング4を構成する第一ハウジング部材11および第二ハウジング部材12のそれぞれの斜面部11b、12bに沿うように斜面部46aを有する(図14参照)。
【0126】
内周側固定部47は、バルーン形成部46の内周側に形成され、振動板3に固定される部分である。内周側固定部47は、分割要素45において、円環状のバルーン形成部46の内周側の部分を形成する平面状の部分である。内周側固定部47は、分割要素45において外側に突出するバルーン形成部46に対する基部を形成する。つまり、内周側固定部47の内側の面は、分割要素45において内側の端面を形成する。
【0127】
外周側固定部48は、バルーン形成部46の外周側に形成され、ハウジング4に固定される部分である。外周側固定部48は、分割要素45において、円環状のバルーン形成部46の外周側の部分を形成する平面状の部分である。つまり、外周側固定部48は、分割要素45において円環状のバルーン形成部46の外周側に形成される鍔状の部分である。外周側固定部48は、分割要素45において外側に突出するバルーン形成部46に対する基部を形成する。つまり、外周側固定部48の内側の面は、分割要素45において内側の端面を形成する。また、外周側固定部48は、外周側の縁端部に、突縁部48aを有する。突縁部48aは、分割要素45の縁端部に沿って外側に突出するように形成される。
【0128】
図11〜図13に示すように、一対の分割要素45は、ハウジング4の内部空間内において、互いに内側を対向させた状態で上下に配置されることで、振動板3の周囲にてバルーン部43を形成する。分割要素45は、内周側固定部47の部分が振動板3に固定されるとともに、外周側固定部48の部分がハウジング4に固定されることで、ハウジング4の内部空間内にて支持される。
【0129】
具体的には、上側に配置される分割要素45の内周側固定部47は、固定板8と振動板3と連結部材6の板固定部6bとがボルト9によって固定される構成において、振動板3と固定板8との間に挟まれることで、振動板3に固定される。このため、内周側固定部47には、ボルト9を貫通させる孔部47aが形成されている(図14参照)。また、同じく上側に配置される分割要素45の外周側固定部48は、ハウジング4を構成する第一ハウジング部材11とスペーサ部材15との間に挟まれることで、ハウジング4に固定される。なお、第一ハウジング部材11の下側の端面には、外周側固定部48が有する突縁部48aが嵌る円環状の溝部11cが形成されている。
【0130】
一方、下側に配置される分割要素45の内周側固定部47は、固定板8と振動板3と連結部材6の板固定部6bとがボルト9によって固定される構成において、振動板3と連結部材6の板固定部6bとの間に挟まれることで、振動板3に固定される。また、同じく下側に配置される分割要素45の外周側固定部48は、ハウジング4を構成する第二ハウジング部材12とスペーサ部材15との間に挟まれることで、ハウジング4に固定される。なお、第二ハウジング部材12の上側の端面には、外周側固定部48が有する突縁部48aが嵌る円環状の溝部12cが形成されている。
【0131】
また、分割要素45においては、ポンプ31を構成する部材間に挟まれた状態で固定される内周側固定部47および外周側固定部48のそれぞれの部分における内側および外側の両面に、滑り止め部45aが形成されている。滑り止め部45aは、分割要素45の平面部においてわずかに突出する同心円状の突部である。
【0132】
以上のように、本実施形態のポンプ31においては、一対の分割要素45によって上下に分割されるバルーン形成体44により、振動板3をハウジング4に連結させるバルーン部43が形成される。詳細には、上述のとおりハウジング4の内部空間内にて固定される一対の分割要素45が有するバルーン形成部46により、バルーン部43が形成される。
【0133】
このように、バルーン部43を形成するバルーン形成体44が上下二枚の分割構造であることにより、上述したように上記(1)〜(3)の条件を満足することを目標として形成されるバルーン形成体44の作成を容易に行うことができる。すなわち、バルーン形成体44を構成する各分割要素45は、円板状の部材であるため、例えば射出成形等によって容易に作成することができるので、バルーン形成体44を上記(1)〜(3)の条件を満足するような所望の形状にすることを容易に実現できる。
【0134】
続いて、本実施形態のポンプ31においてバルーン部43を構成する膜構造の好ましい構成について、図15を用いて説明する。図15に示すように、本構成のバルーン部43は、内周側に、織物により形成される補強膜層51を有する。補強膜層51は、平織(2軸織)、3軸織、4軸織等の織物や不織布等により構成される。
【0135】
本実施形態では、バルーン部43を形成するバルーン形成体44は、一対の分割要素45からなる分割構造であるため、各分割要素45の内側に、補強膜層51が設けられる。補強膜層51は、分割要素45を構成するゴム膜に対して接着剤などにより貼り付けられることで固定される。なお、補強膜層51は、ゴム膜により挟まれること等により、バルーン部43を構成する膜の内部に設けられてもよい。
【0136】
このように、バルーン部43の内周側に補強膜層51が設けられることで、バルーン部43を構成するゴム膜が補強され、バルーン膜の伸縮を抑制することができる。すなわち、織物により形成される補強膜層51は、バルーン部43を構成するゴム膜よりも素材自体の伸縮性に乏しいため、バルーン膜の伸縮が、ゴム膜の内側に貼り付いた補強膜層51によって抑えられる。したがって、補強膜層51は、バルーン形成体44において少なくともバルーン部43を形成する部分、つまり本実施形態では分割要素45のバルーン形成部46の内面側に設けられればよい。
【0137】
補強膜層51は、同種のあるいは異なる種類の織物が複数積層されることで構成されてもよい。ただし、分割要素45においてバルーン部43を形成する部分であるバルーン形成部46は、振動板3の往復運動にともなう曲げに対して柔軟であり、バルーン膜の伸縮に対して高い強度を有する必要がある。このため、補強膜層51の積層構造については、積層数が増えることにより増加する曲げに対する抵抗力との兼ね合いで、曲げに対する十分な柔軟性が確保されるように、積層する層の数や織物の種類等が定められる。
【0138】
なお、補強膜層51を備える構成は、第一実施形態のポンプ1のように、バルーン部13が一体の筒状のバルーン形成体14により形成される構成においても適用可能である。この場合、補強膜層51は、例えばバルーン形成体14と同様に筒状に形成され、バルーン部13の内側の面に貼り付けられた状態で設けられる。
【0139】
また、バルーン部43を構成する膜構造としては、ゴム等の弾性材料による単層構造のほか、弾性材料、織物、金属線、金網、樹脂フィルム等の材料から選択された単層構造や、これらの材料による同種あるいは種類の異なる材料による積層構造等であってもよい。また、バルーン部43を構成する膜構造としては、弾性材料に金属ワイヤーを編み込んだ構造等、異なる種類の材料が共通の層に混在する構成であってもよい。さらに、バルーン部43の表面には、流体との反応を抑制するためのコーティングを施すことで保護膜を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の活用例として、空気等のガスを送給の対象とするガスポンプ、水やオイル等を送給の対象とする液体ポンプ、薬品の注入や透析等に用いられる医療用ポンプ等が挙げられる。
【符号の説明】
【0141】
1 ポンプ
2 ポンプ室
3 振動板
4 ハウジング
11b 斜面部
12b 斜面部
13 バルーン部
14 バルーン形成体
31 ポンプ
43 バルーン部
44 バルーン形成体
45 分割要素
46 バルーン形成部
47 内周側固定部
48 外周側固定部
51 補強膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復運動する振動板と、該振動板が往復運動することにより容積が変化するポンプ室を形成するハウジングと、前記振動板の周囲に設けられ、前記振動板と前記ハウジングとの間の気密を保持しながら、弾性変形することで前記振動板の往復運動を許容する中空状のバルーン部を形成するバルーン形成体とを備え、前記振動板の往復運動により前記ポンプ室への流体の吸入および前記ポンプ室からの流体の送出を行うことで、流体を送給するポンプであって、
前記ハウジングの内部空間を形成する壁面は、前記バルーン部が接触するとともに前記振動板の往復運動の方向の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす斜面部を有し、
前記斜面部の前記往復運動の方向に対する傾斜角度、前記バルーン部の前記往復運動の方向に沿う中心軸を通る面の断面形状における周長、および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記振動板の往復運動の範囲で、次式により定義されるひずみの値が最小となるように設定されていることを特徴とするポンプ。
ε={(v−vn)/vn}×100
ここで、ε:ひずみ(%)、v:前記振動板の中心位置から前記バルーン部の周方向の所定の位置までの距離、vn:前記振動板が往復運動の範囲の中央位置にあるときのvである。
【請求項2】
前記傾斜角度、前記バルーン部の前記周長および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記振動板の往復運動の範囲で、前記振動板の半径と前記バルーン部の前記振動板の往復運動にともなって変形する部分の径方向の寸法との和であるポンプ半径が最小となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
往復運動する振動板と、該振動板が往復運動することにより容積が変化するポンプ室を形成するハウジングと、前記振動板の周囲に設けられ、前記振動板と前記ハウジングとの間の気密を保持しながら、弾性変形することで前記振動板の往復運動を許容する中空状のバルーン部を形成するバルーン形成体とを備え、前記振動板の往復運動により前記ポンプ室への流体の吸入および前記ポンプ室からの流体の送出を行うことで、流体を送給するポンプであって、
前記ハウジングの内部空間を形成する壁面は、前記バルーン部が接触するとともに前記振動板の往復運動の方向の各方向を頂点側とする円錐形状の一部形状をなす斜面部を有し、
前記斜面部の前記往復運動の方向に対する傾斜角度、前記バルーン部の前記往復運動の方向に沿う中心軸を通る面の断面形状における周長、および径方向の寸法、並びに前記振動板の半径が、前記バルーン部のうち前記振動板の往復運動の全範囲で前記斜面部に接触する部分以外の部分上の任意の点の、前記バルーン部の周方向についての軌跡である円の半径の変化量が、前記振動板の往復運動の範囲で最小となるように設定されていることを特徴とするポンプ。
【請求項4】
前記バルーン形成体は、前記振動板の往復運動方向に分割される二つの分割要素を有し、
各前記分割要素は、もう一方の前記分割要素とともに前記バルーン部を形成するバルーン形成部と、該バルーン形成部の内周側に形成され、前記振動板に固定される内周側固定部と、前記バルーン形成部の外周側に形成され、前記ハウジングに固定される外周側固定部と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項5】
前記バルーン形成体は、少なくとも前記バルーン部を形成する部分の内面側に、織物により形成される補強膜層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−236891(P2011−236891A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90285(P2011−90285)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本機械学会中国四国支部 刊行物名 中国四国支部第49期総会・講演会 講演論文集No.115−1 発行年月日 平成23年2月23日
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(307020545)公立大学法人岡山県立大学 (8)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【Fターム(参考)】