マイクロニードルの製造方法
【課題】複雑な製造工程や特殊な製造装置を利用することなく、先端角およびその高さを容易に制御可能なニードルの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法。
【解決手段】基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法として経皮吸収法が知られている。この方法では、皮膚や粘膜等の生体表面に液状あるいはゲル状の薬剤を塗布する。
【0003】
この方法は、非侵襲的であり、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することを可能にする。しかし、発汗や外部接触等によって塗布した薬剤が除去されやすい。また、投与期間が長期にわたる場合は皮膚障害が発生する等、安全性の面でも問題が生じることがある。さらに、対象薬剤の分子量が大きい場合や、水溶性薬剤であるなどの場合は、生体表面に塗布しても体内にはほとんど吸収されず、それらの薬剤の経皮的投与は困難であった。
【0004】
そこで、これらの薬剤を効率よく体内に吸収させるために、ミクロンオーダーの多数のニードルを有するマイクロニードルアレイを用いて皮膚に穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投与することができる(特許文献1参照)。
【0005】
この際に用いるマイクロニードルの形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされる。このため、ニードルの直径は数μmから100μm、ニードルの長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μmであることが望ましいとされている。ニードルを構成する材料は、仮にニードルが破損して体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさないことが要求される。このような材料として、医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
このような微細構造を低コストかつ大量に製造するためには、射出成型法、インプリント法、キャスティング法等に代表される転写成型法が有効である。しかし、いずれの方法においても成型を行うためには所望の形状を凹凸反転させた型が必要であり、マイクロニードルのようなアスペクト比(構造体の直径に対する高さ、もしくは深さの比率)が高く、先端部の先鋭化が必要な構造体を形成するには、非常に複雑な製造工程を必要とする。
【0007】
マイクロニードルの製造方法として、例えば、シリコンウェハ等の単結晶材料の結晶面方位ごとのエッチングレート差を利用した異方性ウェットエッチングを行うことにより、ニードルの先端の先鋭化を実現することが提案されている。しかし、先端部の先鋭化には、異方性ウェットエッチングの厳密な時間制御が必要となる。このように高度な加工技術が必要となる(特許文献3参照)。
【0008】
また、露光マスクを移動させながら、露光し、露光量を変化させてニードルの先端角を制御する方法(特許文献4参照)や、薬液を用いたウェットエッチングとプラズマエッチングを組み合わせた方法(特許文献5参照)等、様々な方法が提案されている。
【0009】
また、マイクロニードルの製造方法として、レジストマスク下で等方性エッチングを行ってマイクロニードルの先端を形成した後、異方性エッチングをおこなって所望の高さのマイクロニードルを有するマイクロニードルパッチを形成する方法が開示されている(特許文献6参照)。
【0010】
しかしながら、上記の製造方法は、熱酸化膜の形成、レジスト塗布、フォトリソグラフィー法によるマスクパターン形成、等方性エッチング、異方性エッチング、側面堆積層の除去、および勾配エッチングと複雑な多数工程を必要とするため、コストと時間がかかるという問題がある。
【0011】
マイクロニードルは真皮等の生体組織内に確実に到達させる必要があるため、特に高さについては均一に形成する必要があるが、上記方法によって精度よくマイクロニードルを形成することは困難である。
【0012】
上記のように、従来のマイクロニードルの製造方法では、高アスペクト比であることに加え、先端の先鋭化が必要であるという、マイクロニードルの構造上の要求を満たすため、一般的にはあまり用いられない特殊な露光装置、高精度の機械加工技術、または複雑な製造工程が必要となる場合が多い。また、エッチングが進むことにより脱落したマスクが周辺を汚染するという問題が発生する。
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2002−79499号公報
【特許文献4】特開2005−246595号公報
【特許文献5】特開2002−239014号公報
【特許文献6】特開2005−199392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、複雑な製造工程や特殊な製造装置を利用することなく、先端角およびその高さを容易に制御可能なニードルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法である。
【0015】
本発明においては、前記基板上に複数のエッチングマスクのアレイを形成することが好ましい。
【0016】
本発明は、前記基板に深さ分布をもつ凹部を設ける工程と、前記凹部の少なくとも一部を覆う、厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程とを含んでいてもよい。
【0017】
本発明においては、前記凹部と凹部の外縁部の一部を覆うエッチングマスクを形成してもよいし、前記凹部を含む基板の全面を覆うエッチングマスクを形成してもよい。
【0018】
本発明においては、前記エッチングマスクの前記凹部に対応する位置に開口部を設けてもよい。この場合、前記開口部を前記凹部からずらして形成してもよい。
【0019】
本発明は、基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0020】
本発明においては、基板上に形成した島状のエッチングマスクをリフローさせて厚み分布をもつように変形させてもよい。
【0021】
本発明においては、エッチングマスク材料を溶媒に溶解した液滴またはエッチングマスク材料を加熱溶融した液滴を吐出して基板上に島状のエッチングマスクを形成し、前記溶媒を揮発させるかまたはエッチングマスク材料を凝固させてエッチングマスクを厚み分布をもつように変形させてもよい。
【0022】
本発明においては、基板に穴を形成する工程と、前記穴に充填剤を充填する工程と、前記穴を形成した側の基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを厚み方向に変形させる工程と、前記基板をエッチングして針状に加工する工程と、前記充填材を除去する工程とを含んでいてもよい。
【0023】
本発明においては、基板に穴を形成する工程と、前記穴を設けた側と反対側の基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを厚み方向に変形させる工程と、前記基板をエッチングして針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0024】
これらの方法においては、前記穴が未貫通穴または貫通穴でもよい。また、前記エッチングマスクの位置を前記穴の位置と対応させてもよいし、前記エッチングマスクの位置を前記穴の位置からずらせてもよい。
【0025】
本発明においては、前記エッチングマスクを、周縁の一部が内部にくぼんだ形状に形成してもよい。
【0026】
本発明において、前記基板のエッチングレートを前記エッチングマスクのエッチングレートで除したエッチング選択比を1以上100以下にすることが好ましい。また、エッチングの中途で、エッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更してもよい。
【0027】
本発明は、基板上にレジスト層を形成する工程と、網点密度パターンを用いたマスクを通しての露光、グレースケールパターンを用いたマスクを通しての露光、レーザー多重露光、または傾斜露光のいずれかを用いて前記レジスト層を露光する工程と、前記レジスト層を現像して基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0028】
本発明において、前記エッチングとして異方性エッチングが用いられる。前記異方性エッチングは、イオンエッチング、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチングまたは反応性イオンビームエッチングである。
【0029】
本発明においては、前記マイクロニードルを形成した後、前記マイクロニードルに等方性エッチングを施してもよい。
【0030】
本発明においては、製造したマイクロニードルを原版とし、転写を行ってマイクロニードル製造用複製版を製造してもよい。この場合、前記転写をメッキ金属、樹脂またはセラミックを用いて行うことができる。
【0031】
本発明は、上記の方法で製造されたマイクロニードルも含む。また、マイクロニードル製造用複製版を用いて製造されたマイクロニードルも含む。本発明のマイクロニードルは、生体適合性材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明のマイクロニードルの製造方法は、医療のみならず、微細なニードルを必要とする様々な分野に適用可能であり、例えばMEMSデバイス、医療、創薬、化粧品などに用いるマイクロニードルの製造方法としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1a〜1fを参照して本発明の一実施形態に係るマイクロニードルの製造方法を説明する。
【0034】
<基板に深さ分布をもつ凹部を設ける工程>
まず、ニードルを形成する箇所に対応して、基板に深さ分布をもつ凹部を設ける。
【0035】
基板の材料は、ウェットエッチング、プラズマエッチング、ブラスト処理等で加工可能なものであれば良い。具体的には、シリコンや、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料や、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0036】
凹部を設ける方法としては、ウェットエッチング、レーザー加工、反応性イオンエッチング、収束イオンビームのような方法を用いることが出来る。最終的なニードルの形状、径の大きさは、形成する凹部の形状、径の大きさに依存するため、所望のニードルの形状に応じて凹部の形状を決定する。
【0037】
たとえば、凹部の底部の形状を制御することにより、最終的に製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。凹部の底部が鋭い角度をもつ場合、ニードルの先端角度は鋭くなる傾向があり、凹部の深さが深い場合、ニードルの高さは高くなる傾向がある。
【0038】
エッチングにより凹部を設ける場合について説明する。まず、基板上にエッチングマスクを形成する(図1a)。
【0039】
エッチングマスクとしては、レジストを用いてもよいし、金属膜に開口パターンを設けたハードマスクを用いてもよいし、CVD(Chemical Vapor Deposition)またはPVD(Physical Vapor Deposition)により直接基板上に形成した金属膜、有機金属膜、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜を用いてもよいし、基板がシリコンであれば熱酸化によるシリコン酸化膜を用いてもよい。
【0040】
複数のニードルを形成する必要がある場合、形成するエッチングマスクのパターンレイアウトを適切に設計し、任意の本数のニードルが任意の間隔で並んだアレイを形成することが可能である。
【0041】
次に、エッチングマスクから露出した基板をエッチングすることにより、深さ分布を有する凹部103を形成する(図1b)。凹部形成後にエッチングマスク102を除去する。
【0042】
このとき、凹部の底部の形状は、基板の結晶方位によるエッチングレート差や、エッチングマスクと基板とのエッチング選択比により制御することが出来る。上述したように凹部の底部の形状を制御することにより、最終的に製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。
【0043】
<厚み分布を有するエッチングマスクを形成する工程>
次に、凹部の少なくとも一部を覆うように、基板上に厚み分布を有するエッチングマスクを形成する。たとえば、基板の全面にエッチングマスクを形成すれば、凹部103に充填されたエッチングマスク104が厚み分布をもつ(図1c)。したがって、必ずしもエッチングマスク104をパターニングする必要はない。
【0044】
<基板をエッチングする工程>
次に、エッチングマスク104を形成した基板101の全面をエッチングしてマイクロニードル106を製造する(図1d、1e)。基板101としてシリコンを用いた場合、フッ素系ガスを用いて異方性エッチングする。
【0045】
図1cからエッチングを始めると、全面でエッチングマスク104が同じ厚さだけエッチングされ、基板101の上面が露出し、凹部103にのみ厚み分布を有するエッチングマスク104が残った状態になる。この状態から、さらにエッチングを進行すると、エッチングレートの速い基板101の方がエッチングマスク104よりも多くエッチングされる。このとき、エッチングマスク104と基板101のエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)によって、ニードルの先端角度の制御が可能である。エッチング選択比が高い場合、ニードルの先端角度は鋭くなり、高さは高くなる傾向がある。エッチング選択比が低い場合、先端角度は鈍くなり、高さは低くなる傾向がある。
【0046】
なお、図1dに示すように、エッチングマスクが残存した状態でエッチングを中止し、残存したエッチングマスクを剥離することにより、先端部に凹部の底部の形状に対応する凹部を有するニードルを作製することが出来る。こうした先端部に凹部を有するニードルは、例えば、血液の採取、薬液の注入に好適である。
【0047】
<マイクロニードルの転写>
また、製造された図1eのマイクロニードル106を原版として、複製版107を作製してもよい(図1f)。複製版107の材料は、適度な形状追従性及び硬度を有していれば良く、例えば、メッキ金属や、有機シリコーン等の成型用樹脂を用いることが可能である。
【0048】
以下、金属メッキ法を用いる場合について説明する。この場合、原版とするマイクロニードル106の全面にメッキ法によって金属層を一様に形成する。次に、原版としたマイクロニードル106を除去し、金属からなる複製版107を形成する。
【0049】
形成する金属膜の厚さに制限は無いが、ニードルの高さの2倍以上の厚さに形成することが好ましい。金属の種類には特に制限は無く、例えばニッケルや銅、各種の合金等が好適に用いられる。
【0050】
また、金属以外の材料であるセラミックや樹脂を用いても良い。膜の形成方法としてはメッキ法の他に、プラズマ成膜法、スパッタ法、CVD法、蒸着法、焼結法、キャスティング法等も好適に用いることができる。
【0051】
次に、前記複製版107を用いて、種々の材料へ転写を行う。前記複製版107を用いて、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、キャスティング法等によって、マイクロニードルの複製を行う。複製品の材質は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、キチンキトサン等を用いることで、生体に適用可能なマイクロニードルを形成できる。
【0052】
<図1の変形例>
図1cでは基板の全面にエッチングマスクを形成したが、エッチングマスクのパターンを変更することで多様な形状のマイクロニードルを製造することが出来る。エッチングマスクのパターンを変更した実施形態について説明する。
【0053】
図2aに示すように、凹部103と凹部103の外縁部の一部を覆うエッチングマスク201のパターンを形成してもよい。この場合、エッチングにより、図2bに示すように、底部が補強された形状のマイクロニードル202を製造することができる。
【0054】
マイクロニードルの底部には刺突の際に大きな応力がかかるので、底部が補強された形状になっていると、刺突の際に折れにくいという効果が得られる。
【0055】
図1および図3aに示すように、基板の全面に設けられたエッチングマスク104に、凹部103の中央に対応して開口部301を設けてもよい。この場合、エッチングにより、図3bに示すように、エッチングマスク104の開口部301に対応して、凹部103の底部中央がより多くエッチングされるので、中空部を有するマイクロニードル302を形成する。このような、中空部を有するマイクロニードル302は、例えば、血液の採取、薬液の注入に好適な形状を有する。
【0056】
なお、凹部103の中央と開口部301の中央を、凹部103の範囲内でずらしてもよい。また、凹部103のない位置に開口部301を設けてもよい。
【0057】
また、エッチングマスクの厚みを変更することで、マイクロニードルの高さを容易に制御することが出来る。このとき、エッチングマスクの厚みが厚いほど、製造されるニードルの高さは高くなる傾向がある。
【0058】
図4aに示すように、凹部103に対応する位置にのみ、厚いエッチングマスク401を形成してもよい。この場合、エッチングにより、図4bに示すように、胴体部が錐状ではなく柱状であり、先端部のみが先鋭化されたマイクロニードルを製造することが出来る。このように、あらかじめ設けた凹部103の深さに関わらず、製造されるマイクロニードルの高さを制御することも可能である。
【0059】
図5a〜5dを参照して本発明の他の実施形態に係るマイクロニードルの製造方法を説明する。
【0060】
<基板にエッチングマスクを形成する工程>
まず、基板101上にエッチングマスク102を形成する(図5a)。
【0061】
基板の材料は、プラズマエッチング等のエッチング法で加工可能なものであれば良く、加工法に適する材料を適宜選択することが出来る。具体的には、シリコンや、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料や、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂を用いて良い。
【0062】
エッチングマスクの材料は、上述した基板と密着し、後述するエッチングを行う工程において、エッチングマスクのエッチングレートが、基板のエッチングレートより小さいものであれば良い。
【0063】
エッチングマスクを形成するには、基板上に均一に形成できる方法、具体的には、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)、スプレーコート法、液滴吐出法等の方法を用いることが出来る。
【0064】
エッチングマスクのパターンを形成する方法としては、公知の方法を適宜使用することが出来る。例えば、露光現像による方法(用いるフォトマスクによりパターンを制御する)、液滴吐出法(パターンのみに液滴を吐出する)等の方法を用いることが出来る。
【0065】
製造されるニードルの径は、形成するエッチングマスクの径に依存するので、所望のニードルの径に応じてエッチングマスクの径を調整する。
【0066】
複数のエッチングマスクのアレイを形成しても良い。エッチングマスクのアレイを形成することにより、マイクロニードルアレイを製造することが可能となる。このとき、エッチングマスクのパターンレイアウトを調整することで、ニードルの間隔および本数を制御することが出来る。
【0067】
<エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる工程>
次に、エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる(図5b)。
【0068】
後述するエッチング工程において、エッチングマスクの薄い部位は、エッチングマスクの厚い部位と比べて早くに除去される。よって、エッチングマスクに厚み分布をもたせることで、マスクが除去される時間を制御することが出来る。このとき、基板も同時にエッチングされているため、マスクが除去されるにつれ、除去されたマスクの部位に対応する基板の部位のエッチングも進む。
【0069】
エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、周縁部から中央部へ向けてエッチングマスクの厚みを連続的に変化させた場合、エッチングが進むにつれて、エッチングマスク周縁部から徐々にマスクが除去され、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)に応じたテーパー角度を持つニードルを製造することが可能となる。
【0070】
このようにエッチングマスクに厚み分布をもたせることで、マスクが除去される時間を制御することが出来るため、後述するエッチング工程で製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。同一のエッチング条件下でエッチングマスクが消失するまでエッチングを実施する場合、初期のエッチングマスクが厚いほど、製造されるニードルは高くなる。
【0071】
エッチングマスクを、厚み分布をもたせるように変形させるために、エッチングマスクをリフローさせても良い。エッチングマスクを加熱して流動させると、表面張力によりエッチングマスクの厚みが滑らかに変化する。こうして、エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、エッチングマスクの厚みを周縁部から中央部へ向けて連続的に変化させることが出来る。
【0072】
エッチングマスクの厚み分布はリフロー条件で決定される。このため、特にエッチングマスクを基板上に複数を設けた場合、各エッチングマスクの厚み分布を一様にすることができ、一度の工程で精度良く複数のニードルを製造することが可能となる。
【0073】
エッチングマスクの初期厚さ、加熱温度等を調整することにより、リフロー後のエッチングマスクの厚みおよび厚さ分布を調整することが出来る。
【0074】
リフローを行う場合、基板を加熱しても良い。加熱手段は特に限定されるものではない。例えば、オーブンやホットプレートといった加熱装置を用いて基板を加熱することができる。
【0075】
また、液滴吐出法を用い、マスク材料を溶媒に溶解した液滴またはマスク材料を加熱溶融させた液滴を吐出してエッチングマスクを形成した場合、前記溶媒を揮発させるかまたはマスク材料を凝固させることにより、エッチングマスクを厚み分布をもつように変形させることが出来る。これらの方法でも、表面張力によりエッチングマスクの厚みが滑らかに変化する。このため、エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、エッチングマスクの厚みを周縁部から内部へ向けて連続的に変化させることが出来る。
【0076】
液滴吐出でエッチングマスクを形成する場合、液滴吐出の精度の範囲で任意の形状のエッチングマスクを形成することが出来る。
【0077】
また、エッチングマスクの厚み分布は、溶媒揮発条件または凝固条件で決定される。このため、特に、エッチングマスクを基板上に複数を設けた場合、各エッチングマスクの厚み分布を一様にすることができ、一度の工程で精度良く複数のニードルを製造することが可能となる。
【0078】
溶媒を揮発させるか、またはマスク材料を凝固させる場合、加熱、減圧または減圧下で加熱等を行う。減圧手段および加熱手段は特に限定されず、例えば、減圧環境下でオーブンやホットプレートといった加熱装置を用いてもよい。
【0079】
<エッチング工程>
次に、エッチングマスクを形成した基板全体のエッチングを進め(図5c)、マイクロニードルを製造する(図5d)。
【0080】
エッチング方法は、基板のエッチングレートとエッチングマスクのエッチングレートとが異なる異方性エッチング方法であれば良く、適宜公知の方法を用いることが出来る。例えば、RIE、マグネトロンRIE、ECR、ICP、NLD、マイクロ波、ヘリコン波等の放電方式を用いたドライエッチング装置を用いたドライエッチングを行っても良い。
【0081】
エッチングマスク周縁部の厚みがエッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くなるように、周縁部から中央部へ向けてエッチングマスクの厚みを連続的に変化させた場合、エッチングが進むにつれて、エッチングマスク周縁部から徐々にマスクが除去され、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)に応じたテーパー角度を持つマイクロニードルを製造することが可能となる。
【0082】
エッチングマスクの形状を、周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状としても良い。周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状の例として、図6aに示すように基板201上に形成された十字形状のエッチングマスク202や、図7aに示すように、基板201上に形成された、底部が円の一部が内部にくぼんだ形状のエッチングマスク203が挙げられる。このほか、底部が任意の数の頂点を持ち、前記頂点を連続する直線または曲線で結んだ星型の形状などを含む。
【0083】
エッチングマスクを周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状にすることにより、エッチング後に形成される図6bおよび図7bに示すように、ニードルの側面に凹部が形成され、ニードルの表面積を増大することが出来る。このため、薬液の保持、注入に好適な形状を持ったニードルを製造することが可能となる。
【0084】
上述した通り、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比により、ニードルのテーパー角度を決定することが出来るため、基板材料を単結晶材料に限定することなくニードルのテーパー角度、先端角度を設計し、製造することが可能となる。
【0085】
エッチングマスクに対する基板のエッチング選択比によって、ニードルの先端角度の制御が可能である。エッチング選択比が高い場合、ニードルの先端角度は鋭くなり、高さは高くなる傾向がある。エッチング選択比が低い場合、先端角度は鈍くなり、高さは低くなる傾向がある。
【0086】
また、徐々にマスクが除去されていき、最終的にマスクが微小な範囲に収束してから完全に除去されることでニードルを形成するため、エッチングマスク脱落による汚染等が発生することなく、また先端形状が鋭利なニードルを製造することが可能となる。
【0087】
なお、エッチングマスクが残存した状態(図5c)でエッチングを停止し、エッチングマスクを剥離しても良い。このとき、先端部分のみ平坦な形状を残した、刺突の際に先端部の欠けを低減する効果を奏するニードルを製造することが可能となる。
【0088】
また、エッチングの中途で、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更してもよい。
【0089】
前述した通り、エッチング選択比によりテーパー角度が決定されるため、エッチングの中途でエッチング条件を変更することにより、ニードルのテーパー角度が段階的に変化したニードルを製造することが出来る。
【0090】
エッチングする基材のエッチングレートをエッチングマスクのエッチングレートで除した値であるエッチング選択比は1以上100以下が好ましい。特に、エッチングマスク形状を精度良く基板に転写するためには5以上50以下のエッチング選択比が好ましい。
【0091】
ただし、エッチング選択比は上記範囲に限定されず、所望する針状体のテーパー角度に応じて適宜変更してよい。例えば、エッチング条件をエッチングの中途で変更する場合には、中途では非常に大きな選択比(100以上)を用いても良い。
【0092】
最初にエッチング選択比を小さくしてエッチングを行い、後にエッチング選択比を大きくした場合、ニードルの底部がなだらかなテーパー角度となり、刺突の際に大きな応力がかかる基底部が補強された形状のニードルを製造することができる。このようなニードルは、刺突の際に折れにくいという効果を奏する(図8a)。
【0093】
また、エッチング選択比を非常に大きくした場合、エッチングマスクのエッチング速度に対して、基板のエッチング速度が非常に大きくなるため、ニードル側面をほぼ垂直の角度にすることができ、底部を一定の径に保ちながら、高アスペクト比のニードルを製造することが可能となる(図8b)。特に、複数のニードルを並べたアレイの場合、アスペクト比を高くすることで、ニードルを密に配置することが可能となるため効果的である。
【0094】
上述したエッチング条件の変更は複数組み合わせて実施しても良い。複数のエッチング条件の変更を組み合わせて実施することにより、例えば、底部がなだらかであり、かつアスペクト比の高いニードルを製造することが可能となる(図8c)。
【0095】
以上のように、先端角およびその高さを容易に制御可能であり、かつ簡便な工程で、ニードルを製造することが出来る。
【0096】
以下、穴もしくは貫通穴を有するニードルの製造方法について図9、図10を参照して説明する。
【0097】
<基板に穴を形成する工程>
まず、基板に穴401を形成する(図9a)。あらかじめ、基板101のエッチングマスクに対応する位置に穴401を設けておくことで、中空ニードルを作製することができる。このような形状のニードルは、例えば血液の採取、薬液の注入に好適である。
【0098】
基板に穴401を形成する方法は、ニードルの形状、寸法、集積度に応じて、適宜公知の方法を用いれば良い。例えば、エッチングによる深掘り、レーザーを用いた加工法、その他の精密機械加工法等が挙げられる。
【0099】
また、基板を貫通する穴501を形成してもよい(図10a)。基板を貫通する穴501を設けることにより、貫通穴を持ったニードルを製造することが出来る。
【0100】
<穴に充填材を充填する工程>
次に、基板に設けた穴401、501に、充填材402、502を充填する(図9b、図10b)。
【0101】
充填材としては、数μmから数百μm程度の穴に充填可能なものであれば良い。例えば、Ni等の金属材料、シリコーン、耐熱性樹脂等を用いることができる。
【0102】
充填材を充填する方法としては、適宜公知の方法を用いることが出来る。例えば、電解メッキといったメッキ法、材料を溶融し穴に充填する方法等を用いることが出来る。
【0103】
<穴に対応する部分に厚み分布をもつエッチングマスクを形成し、エッチングする工程>
次に、穴に対応する部分に厚み分布をもつエッチングマスクを形成し(エッチングマスク403、503)、エッチングを行う(図9c、図10c)。
【0104】
これらの工程は、上述した方法と同様の方法で実施することが出来る。
【0105】
<充填材を除去する工程>
次に、充填材402、502を除去し、ニードル404、504を得る(図9d)、(図10d)。
【0106】
充填材を除去する方法は、基板に大きなダメージを与えずに充填材を取り除けるものであれば良い。例えば、選択した充填材に適する各種エッチング液や溶剤等を用いて、充填材を溶解させる方法を用いることが出来る。
【0107】
以下、貫通穴を設けてニードルを製造する方法の他の実施形態について、図11を参照して説明する。
【0108】
<基板に穴を形成する工程>
まず、基板に、未貫通の穴601を形成する(図11a)。用いる基板および穴の形成法は上記と同様である。
【0109】
<穴を設けた側とは反対側の基板上にエッチングマスクを形成し、エッチングマスクを厚み分布をもつように変形させる工程>
次に、穴601を設けた側と反対側の基板上にエッチングマスク602を形成し、エッチングマスク602を厚み分布をもつように変形させる(図11b)。エッチングマスクを形成し、厚み分布をもつように変形させる方法は上記と同様である。
【0110】
穴を設けた側と反対側の基板上に、前記穴に対応してエッチングマスク602を形成すると、充填材を必要とせずに、貫通穴を持ったニードルを製造することが出来る。
【0111】
<エッチング工程>
次に、エッチングを行うことにより、貫通穴を有するニードル603を製造する(図11c)。この工程も、上記と同様に実施することが出来る。
【0112】
以上のような方法で中空ニードルを製造することができる。このような中空ニードルは、例えば血液の採取、薬液の注入に好適な形状を有する。
【0113】
<図9の変形例>
図9では穴の深さとエッチングの深さを同程度にしているが、穴の深さとエッチングの深さとの関係を適宜調整することも出来る。
【0114】
図12a〜12dは、穴の深さよりも深くエッチングする例を示している。
【0115】
図13a〜13dは、穴の深さよりも浅くエッチングする例を示している。
【0116】
<図10の変形例>
図10では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0117】
図14a〜14dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例では、ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0118】
<図11の変形例>
図11では穴の中央と、穴と反対側の基板上に形成されるエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0119】
図15a〜15dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例でも、ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0120】
<図9の変形例>
図9では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0121】
図16a〜16dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例では、中空ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0122】
<図16の変形例>
図16では穴の深さとエッチングの深さを同程度にしているが、穴の深さとエッチングの深さとの関係を適宜調整することも出来る。
【0123】
図17a〜17dは、穴の深さよりも深くエッチングする例を示している。
【0124】
図18a〜18dは、穴の深さよりも浅くエッチングする例を示している。
【0125】
<図10の変形例>
図10では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせてもよい。
【0126】
図19a〜19dは、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例では、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れている。
【0127】
<図11の変形例>
図11では穴の中央と、穴と反対側の基板上に形成されるエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせてもよい。
【0128】
図20a〜20cは、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例でも、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れる。
【0129】
<図20の変形例>
図20では未貫通穴を形成しているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせる場合には貫通穴を設けてもよい。
【0130】
図21a〜21cは、貫通穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例でも、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れる。
【0131】
以上のいずれの例でも、ニードルを形成した後、さらに等方性エッチングを行っても良い。図22a〜22cに形成されたニードルを等方性エッチングする例を示す。図22aのニードルを等方性エッチングすると、図22bに示すように、ニードル全体の形状が等方的に一定距離だけ縮小した形状となる。このため、図22cに示すように、ニードルの底部は丸みを帯びた形状となり、ニードルの先端部は先鋭化した形状となる。このように等方性エッチングを施すことにより、ニードルの形状を調整して、より穿刺しやすく折れにくい形状にすることが出来る。
【0132】
<ニードルの転写>
以下、図23を参照して、ニードルの転写について説明する。
【0133】
上述の方法により製造したマイクロニードル701を原版とし、複製版703を形成する。
【0134】
まず、ニードル701が形成された面に、複製版703を形成する(図23a)。
【0135】
複製版703の材質は特に制限されないが、複製版として機能する形状追従性、後述する転写における転写性、耐久性および離型性を考慮して選択される。例えば、複製版703の材質としてニッケルを用いることができる。この場合、ニッケル膜の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法等が挙げられる。
【0136】
次に、ニードル701から複製版703を分離する(図23b)。
【0137】
ニードル701と複製版703を分離する方法としては、物理的な剥離力による分離または選択性エッチング法を用いることが出来る。
【0138】
次に、複製版703にニードル材料を充填する(図23c)。
【0139】
ニードル材料は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、キチンキトサン等を用いることで、生体に適用可能なニードルを形成出来る。
【0140】
ニードル材料の充填方法は制限されないが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0141】
次に、ニードル材料を複製版703から離型し、転写成形されたニードル704を得る(図23d)。
【0142】
複製版703からの剥離性を向上させるために、ニードル材料の充填前に、複製版703の表面に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
【0143】
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等を好適に用いることができる。
【0144】
以上のように、ニードルの転写を実施することが出来る。一体成形された機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量のニードルを製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【0145】
次に、本発明の他の実施形態について図24および図25を参照して説明する。
【0146】
図24a〜24dは、本実施形態におけるマイクロニードルの製造工程を示した図であり、図24eおよび24fはマイクロニードルを原版に用いて複製版を製造する工程を示した図である。
【0147】
まず、図24aに示すように、基板13の表面にネガティブ型レジストを塗布してレジスト層12を形成する。
【0148】
次に、マスク15を用いてフォトリソグラフィー法により、レジスト層12にマイクロニードルパターンの露光を行う。本実施形態のマスク15には網点の打点数が円形の周縁部から中心部にかけて少なくなるよう変化させて設けられた図25bに模式的に示すニードル形状の単位マスク16が図25aに示すように規則的に配列されたニードルパターンアレイが設けられて形成されている。露光後現像を行うと、露光されなかった部分のネガティブ型レジストが露光パターンに従って除去され、図24bに示すように円錐状のエッチングマスク17が突出して基板13上に形成される。
【0149】
続いて、図24cに示すように、反応性イオンエッチング(RIE)によってエッチバックを行い、基板13上に所望の高さのマイクロニードル14を形成する(エッチング工程)。このとき、基板13の単位時間あたりのエッチング速度をレジスト層12のエッチング速度で除して求められるエッチング選択比を、1以上10以下、好ましくは1以上5以下となるように、レジスト層12及び基板13の材料選択、及びエッチング環境の調整を行う。
【0150】
エッチング選択比が11より大きいと、マイクロニードル14の制御精度が低くなる。また、エッチング選択比を1より小さくすると、不必要に厚いレジスト層12を形成しなければならず、製造効率が低下する。
【0151】
上記の説明より、上述した工程において形成されるレジスト層12の厚みは、作製するマイクロニードルの高さを、設定したエッチング選択比の値で除した値に設定される。
【0152】
エッチング工程が終了すると、図24dに示すように、エッチングマスク17がすべて除去され、基板13の表面に所望の高さのマイクロニードル14が突出して形成されたマイクロニードルアレイ11が得られる。
【0153】
本実施形態のマイクロニードルの製造方法によれば、シリコン等の安定した基材を用いて、従来よりもはるかに少ない工程数でマイクロニードルアレイ11を製造することができる。
【0154】
また、ディップコート法又は塗布法を用いてレジスト層12を厚く形成することにより、エッチング工程において、エッチバックにおけるエッチングレートを1以上10以下の比較的低い範囲に設定することができるので、マイクロニードルが高い精度で制御されて形成されたマイクロニードルを作製することができる。
【0155】
さらに本実施形態のマイクロニードルアレイ11を、図24eに示すように、樹脂や金属等の材料18で転写することによって、図24fに示すように、容易にマイクロニードル製造用の複製版19を作製することができる。このように、最適な材料を選択して少ない工程でマイクロニードルを製造するための複製版を製造することができる。このときの転写には、メッキ法、樹脂法、セラミック法等、従来の方法を用いることができる。さらに上記複製版を用いて生体適合性材料を加工することによって、本発明のマイクロニードルパッチを製造することができる。また、内部に穴が形成されるようにマイクロニードルを作製し、生体適合性材料の量を調節すれば、基部が一体となっておらず、注射器等に使用可能なマイクロニードル単体を製造することも可能である。
【0156】
本実施形態においては、ネガティブ型レジストを使用してマイクロニードルアレイ11を製造しているが、これに代えてポジティブ型レジストを使用すれば、エッチング工程を経て、基板13の材料で形成されたマイクロニードルを得ることができる。従って、感光性材料より安定性の高い材料からなるマイクロニードルを少ない工程で作製し、当該マイクロニードルを用いて直接マイクロニードルパッチを製造することも可能である。
【0157】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0158】
例えば、上記実施形態では、露光現像工程において、網点密度を用いたマスクや、グレースケールを用いたマスクを使用して露光処理を行っているが、これらに代えて、レーザースキャンでデジタル的に露光量を調整し、製造するマイクロニードルの立体形状に基づいた露光積算量に従って、レジスト層をレーザーで多重露光することにより、露光処理を行ってもよい。
【0159】
さらに、上記実施形態では、円錐状又は四角錐状のマイクロニードルが形成されているが、これに限定されず、三角錐状や他の多角錐状のマイクロニードルを形成してマイクロニードル及び複製版を製造することも可能である。
【0160】
さらに、上記実施形態では、エッチング工程において、反応性イオンエッチングによりエッチバックを行っているが、これに限定されず、イオンエッチング、イオンビームエッチング、反応性イオンビームエッチング等、従来知られる他のエッチング方法を使用することも可能である。
【0161】
また、上記実施形態では、生体適合性材料を溶解してマイクロニードル又はマイクロニードル製造用複製版に流し込むことによってマイクロニードルパッチを製造する例を説明したが、これに代えて、圧縮成形や射出成形等の一般的に用いられているプラスチック成形技法を用いてマイクロニードルパッチを製造することも可能である。
【実施例】
【0162】
実施例1
まず、基板としてシリコンウェハを用意した。このシリコンウェハの結晶面方位は(100)であり、厚みは525μmである。このシリコンウェハ上にDCマグネトロンスパッタ法によりクロムを100nmの膜厚で形成した。この際のスパッタ圧力は0.25Pa、投入電力は1000Wである。
【0163】
次に、このクロム膜上にエッチングマスクとしてポジ型レジスト(東京応化製OFPR−50cp)を1μmの膜厚にコートした。フォトリソグラフィー法により一辺50μmの正方形開口を有するレジストパターンを形成した。このレジストパターンをエッチングマスクとして、過塩素酸及び硝酸第二セリウムアンモニウムの混合溶液を用いてクロム膜をエッチングし、1辺50μmの正方形開口を有するクロムパターンを形成した。クロムパターン形成後、有機溶媒にてレジストパターンを除去した。クロムパターンの正方形開口の寸法を測定したところ、1辺51μmであった(図1a)。
【0164】
このクロムパターンをエッチングマスクとして、重量濃度25%、液温90℃の水酸化カリウムを用いて結晶方位によるエッチングレート差を利用したシリコンの異方性ウェットエッチングを行い、シリコンウェハ表面に凹部を形成した(図1b)。ウェットエッチング後に過塩素酸と硝酸第二セリウムアンモニウムの混合溶液によりクロムパターンを除去した。形成されたシリコンウェハ表面の凹部の形状を走査型電子顕微鏡により確認したところ、凹部の深さは約35μmであり最深部の開口角度は70°であった。なお、ここで開口角度とは、四角錘形状において対向する側面同士がなす角度とする。
【0165】
このシリコンウェハの全面にポジ型レジスト(東京応化製OFPR−800)を50μmの膜厚にコートした。この結果、シリコンウェハ表面の凹部に充填されたレジストは厚み分布をもつ。シリコンウェハの全面を、フッ素系ガスを用いたICP(Inductivly Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチングにより、レジストが完全に除去されるまでエッチングした。この際、レジストとシリコンのエッチングレートを測定した結果、レジストとシリコンのエッチング選択比は約11であった。
【0166】
エッチングを終えた試料を走査型電子顕微鏡で観察したところ、底辺の一辺が50μm、高さ約350μm、先端角度約8.2°の角錐型のニードルが形成されていることを確認した。
【0167】
角錐型のニードルが形成されたシリコンウェハ上に蒸着法により膜厚300nmのニッケル層を形成した。このニッケル層をシード層として電解メッキ法によりニッケルを1mm形成した。その後、濃度25%、液温90℃の水酸化カリウムを用いてシリコンを溶解し、ニッケルからなる本発明に係る複製版を作製した。
【0168】
この複製版を用い、インプリント法により、マルトース、デキストラン、キチンキトサンまたはポリ乳酸に転写を行った。その結果、いずれの材料でも、シリコン原版と同様の、底辺の一辺が約50μm、高さ約350μm、先端角度約8.2°のニードルが形成されていることを確認した。
【0169】
実施例2
円形ドットパターンのエッチングマスクを用いてマイクロニードルを製造した例について説明する。
【0170】
まず、基板としてシリコンウェハ(厚み:525μm)を用意した。このシリコンウェハ上に、エッチングマスクとして汎用厚膜フォトレジスト(クラリアント社製、商品名:AZ PLP)を、スプレーコート法を用いて、13μmの膜厚にコートした。フォトリソグラフィー法により直径100μmの円形ドットパターンをなすエッチングマスクを形成した。
【0171】
次に、シリコンウェハをクリーンオーブンにおいて150℃で30分間加熱し、エッチングマスクをリフローさせた。リフロー後のレジストパターンの断面形状は半球状であり、中央部のレジスト厚は20μmであった。
【0172】
次に、シリコンウェハの全面を、フッ素系ガスを用いたICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)エッチングにより、レジストパターンが完全に除去されるまでエッチングした。このとき、レジストおよびシリコン基板のエッチングレートを測定した結果、シリコンとエッチングマスクのエッチング選択比は約11であった。
【0173】
エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。基底部の直径が約100μm、高さ約220μm、先端角度が約25°の円錐型のニードルが形成されていることを確認した。
【0174】
実施例3
実施例2と同様にしてマイクロニードルを製造した。ただし、図2aおよび2bに示すように、底部が十字型をなす、錘状のエッチングマスクを用いた。エッチングマスクの底部の形状は、幅40μm、長さ150μmの2つのラインを中央で垂直に交差させた十字型であった。また、エッチングマスクの厚さは最大で18μmであった。
【0175】
実施例2と同様に、エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。底部の形状が幅40μm、長さ150μmの2つのラインを中央で垂直に交差させた十字型であり、高さが約200μmである錘状のニードルを得ることが出来た。
【0176】
実施例4
実施例2と同様にしてマイクロニードルを製造した。ただし、図3aおよび3bに示すように、底部が円の一部が凹んだ形状をなす、錘状のエッチングマスクを用いた。エッチングマスクの底部の形状は、直径100μmの円から、外周から中心に向かって幅約10μm、長さ約10μmの部分を切り取ったものであった。エッチングマスクの厚さは最大で19μmであった。
【0177】
実施例2と同様に、エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。底部の形状が直径100μmの円から、外周から中心に向かって幅約10μm、長さ約10μmの部分を切り取ったものであり、高さが210μmである錘状のニードルを得ることが出来た。
【0178】
実施例5
中空のマイクロニードルを製造した例について説明する。
【0179】
基板としてシリコンウェハ(厚み:525μm)を用意した。このシリコンウェハに、形成しようとするエッチングマスクの中央に相当する位置に、垂直深堀エッチングにより直径20μm、深さ200μmの穴を開けた。
【0180】
次に、DCマグネトロンスパッタ法によって、基板表面および穴の壁に厚さ100nmの銅薄層膜を形成した。その際の成膜圧力は0.25Paとした。この銅膜は次に実施する電解メッキのシード層として用いられる。次に、電解メッキ法により、厚さ300μmの銅膜を成長させ穴を充填した。めっき液には硫酸銅浴(硫酸銅80g/l、硫酸200g/l)を用いて、浴温は室温とした。
【0181】
次に、表面の凹凸をなくすため、基板表面が露出するまで化学機械研磨し平坦化処理した。
【0182】
次に、実施例2と同様に、エッチングマスクパターン形成、リフロー、およびエッチングを行った。
【0183】
次に、塩化第二鉄溶液(30%FeCl3、3%HCl)に2時間浸漬し、穴に充填された銅を除去した。
【0184】
形成されたニードルは、外形が底部直径約100μm、高さ約175μmの円錐形状で、中央に直径20μm、深さ155μmの中空部を有していた。
【0185】
実施例6
転写を行ってマイクロニードルの製造した例について説明する。
【0186】
実施例2においてシリコンウェハを用いて製造したマイクロニードルを原版として用いた。この原版の表面に、蒸着法により厚さ300nmのニッケル膜を形成した。このニッケル層をシード層としてメッキ法により厚さ1mmのニッケル膜を形成した。次に、濃度25wt%、液温90℃の水酸化カリウム水溶液を用いてシリコンウェハを溶解させ、ニッケルからなる複製版を作製した。
【0187】
この複製版を用い、インプリント法により、マルトース、デキストラン、キチンキトサンまたはポリ乳酸に転写を行った。その結果、いずれの材料でも、原版と同様のニードルが形成されていることを確認した。
【0188】
実施例7
マイクロニードルの形状を調整した例について説明する。
【0189】
実施例2と同様にして、シリコンウェハに、底部直径約100μm、高さ約220μm、先端角度約25°の円錐型のニードルを形成した。
【0190】
次に、酸素プラズマとフッ酸によってニードルを洗浄し、続いてフッ素系ガスを主体とするプラズマによって、ニードルを約5μmだけ等方的にエッチングした。この等方的なエッチングにより、ニードルの形状は底部直径約90μm、高さ約200μm、先端角度約22°となり、ニードルの先鋭性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】図1は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図2】図2は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図3】図3は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図4】図4は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図5】図5は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図6】図6は本発明におけるマイクロニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図7】図7は本発明におけるマイクロニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図8】図8は本発明におけるニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図9】図9は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図10】図10は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図11】図11は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図12】図12は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図13】図13は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図14】図14は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図15】図15は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図16】図16は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図17】図17は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図18】図18は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図19】図19は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図20】図20は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図21】図21は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図22】図22は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図23】図23は本発明における転写加工成形を用いたニードルの製造方法の工程を示す断面図である。
【図24】図24は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図25】図25は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法として経皮吸収法が知られている。この方法では、皮膚や粘膜等の生体表面に液状あるいはゲル状の薬剤を塗布する。
【0003】
この方法は、非侵襲的であり、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することを可能にする。しかし、発汗や外部接触等によって塗布した薬剤が除去されやすい。また、投与期間が長期にわたる場合は皮膚障害が発生する等、安全性の面でも問題が生じることがある。さらに、対象薬剤の分子量が大きい場合や、水溶性薬剤であるなどの場合は、生体表面に塗布しても体内にはほとんど吸収されず、それらの薬剤の経皮的投与は困難であった。
【0004】
そこで、これらの薬剤を効率よく体内に吸収させるために、ミクロンオーダーの多数のニードルを有するマイクロニードルアレイを用いて皮膚に穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投与することができる(特許文献1参照)。
【0005】
この際に用いるマイクロニードルの形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされる。このため、ニードルの直径は数μmから100μm、ニードルの長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μmであることが望ましいとされている。ニードルを構成する材料は、仮にニードルが破損して体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさないことが要求される。このような材料として、医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
このような微細構造を低コストかつ大量に製造するためには、射出成型法、インプリント法、キャスティング法等に代表される転写成型法が有効である。しかし、いずれの方法においても成型を行うためには所望の形状を凹凸反転させた型が必要であり、マイクロニードルのようなアスペクト比(構造体の直径に対する高さ、もしくは深さの比率)が高く、先端部の先鋭化が必要な構造体を形成するには、非常に複雑な製造工程を必要とする。
【0007】
マイクロニードルの製造方法として、例えば、シリコンウェハ等の単結晶材料の結晶面方位ごとのエッチングレート差を利用した異方性ウェットエッチングを行うことにより、ニードルの先端の先鋭化を実現することが提案されている。しかし、先端部の先鋭化には、異方性ウェットエッチングの厳密な時間制御が必要となる。このように高度な加工技術が必要となる(特許文献3参照)。
【0008】
また、露光マスクを移動させながら、露光し、露光量を変化させてニードルの先端角を制御する方法(特許文献4参照)や、薬液を用いたウェットエッチングとプラズマエッチングを組み合わせた方法(特許文献5参照)等、様々な方法が提案されている。
【0009】
また、マイクロニードルの製造方法として、レジストマスク下で等方性エッチングを行ってマイクロニードルの先端を形成した後、異方性エッチングをおこなって所望の高さのマイクロニードルを有するマイクロニードルパッチを形成する方法が開示されている(特許文献6参照)。
【0010】
しかしながら、上記の製造方法は、熱酸化膜の形成、レジスト塗布、フォトリソグラフィー法によるマスクパターン形成、等方性エッチング、異方性エッチング、側面堆積層の除去、および勾配エッチングと複雑な多数工程を必要とするため、コストと時間がかかるという問題がある。
【0011】
マイクロニードルは真皮等の生体組織内に確実に到達させる必要があるため、特に高さについては均一に形成する必要があるが、上記方法によって精度よくマイクロニードルを形成することは困難である。
【0012】
上記のように、従来のマイクロニードルの製造方法では、高アスペクト比であることに加え、先端の先鋭化が必要であるという、マイクロニードルの構造上の要求を満たすため、一般的にはあまり用いられない特殊な露光装置、高精度の機械加工技術、または複雑な製造工程が必要となる場合が多い。また、エッチングが進むことにより脱落したマスクが周辺を汚染するという問題が発生する。
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2002−79499号公報
【特許文献4】特開2005−246595号公報
【特許文献5】特開2002−239014号公報
【特許文献6】特開2005−199392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、複雑な製造工程や特殊な製造装置を利用することなく、先端角およびその高さを容易に制御可能なニードルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法である。
【0015】
本発明においては、前記基板上に複数のエッチングマスクのアレイを形成することが好ましい。
【0016】
本発明は、前記基板に深さ分布をもつ凹部を設ける工程と、前記凹部の少なくとも一部を覆う、厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程とを含んでいてもよい。
【0017】
本発明においては、前記凹部と凹部の外縁部の一部を覆うエッチングマスクを形成してもよいし、前記凹部を含む基板の全面を覆うエッチングマスクを形成してもよい。
【0018】
本発明においては、前記エッチングマスクの前記凹部に対応する位置に開口部を設けてもよい。この場合、前記開口部を前記凹部からずらして形成してもよい。
【0019】
本発明は、基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0020】
本発明においては、基板上に形成した島状のエッチングマスクをリフローさせて厚み分布をもつように変形させてもよい。
【0021】
本発明においては、エッチングマスク材料を溶媒に溶解した液滴またはエッチングマスク材料を加熱溶融した液滴を吐出して基板上に島状のエッチングマスクを形成し、前記溶媒を揮発させるかまたはエッチングマスク材料を凝固させてエッチングマスクを厚み分布をもつように変形させてもよい。
【0022】
本発明においては、基板に穴を形成する工程と、前記穴に充填剤を充填する工程と、前記穴を形成した側の基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを厚み方向に変形させる工程と、前記基板をエッチングして針状に加工する工程と、前記充填材を除去する工程とを含んでいてもよい。
【0023】
本発明においては、基板に穴を形成する工程と、前記穴を設けた側と反対側の基板上に島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクを厚み方向に変形させる工程と、前記基板をエッチングして針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0024】
これらの方法においては、前記穴が未貫通穴または貫通穴でもよい。また、前記エッチングマスクの位置を前記穴の位置と対応させてもよいし、前記エッチングマスクの位置を前記穴の位置からずらせてもよい。
【0025】
本発明においては、前記エッチングマスクを、周縁の一部が内部にくぼんだ形状に形成してもよい。
【0026】
本発明において、前記基板のエッチングレートを前記エッチングマスクのエッチングレートで除したエッチング選択比を1以上100以下にすることが好ましい。また、エッチングの中途で、エッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更してもよい。
【0027】
本発明は、基板上にレジスト層を形成する工程と、網点密度パターンを用いたマスクを通しての露光、グレースケールパターンを用いたマスクを通しての露光、レーザー多重露光、または傾斜露光のいずれかを用いて前記レジスト層を露光する工程と、前記レジスト層を現像して基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程とを含んでいてもよい。
【0028】
本発明において、前記エッチングとして異方性エッチングが用いられる。前記異方性エッチングは、イオンエッチング、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチングまたは反応性イオンビームエッチングである。
【0029】
本発明においては、前記マイクロニードルを形成した後、前記マイクロニードルに等方性エッチングを施してもよい。
【0030】
本発明においては、製造したマイクロニードルを原版とし、転写を行ってマイクロニードル製造用複製版を製造してもよい。この場合、前記転写をメッキ金属、樹脂またはセラミックを用いて行うことができる。
【0031】
本発明は、上記の方法で製造されたマイクロニードルも含む。また、マイクロニードル製造用複製版を用いて製造されたマイクロニードルも含む。本発明のマイクロニードルは、生体適合性材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明のマイクロニードルの製造方法は、医療のみならず、微細なニードルを必要とする様々な分野に適用可能であり、例えばMEMSデバイス、医療、創薬、化粧品などに用いるマイクロニードルの製造方法としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1a〜1fを参照して本発明の一実施形態に係るマイクロニードルの製造方法を説明する。
【0034】
<基板に深さ分布をもつ凹部を設ける工程>
まず、ニードルを形成する箇所に対応して、基板に深さ分布をもつ凹部を設ける。
【0035】
基板の材料は、ウェットエッチング、プラズマエッチング、ブラスト処理等で加工可能なものであれば良い。具体的には、シリコンや、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料や、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0036】
凹部を設ける方法としては、ウェットエッチング、レーザー加工、反応性イオンエッチング、収束イオンビームのような方法を用いることが出来る。最終的なニードルの形状、径の大きさは、形成する凹部の形状、径の大きさに依存するため、所望のニードルの形状に応じて凹部の形状を決定する。
【0037】
たとえば、凹部の底部の形状を制御することにより、最終的に製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。凹部の底部が鋭い角度をもつ場合、ニードルの先端角度は鋭くなる傾向があり、凹部の深さが深い場合、ニードルの高さは高くなる傾向がある。
【0038】
エッチングにより凹部を設ける場合について説明する。まず、基板上にエッチングマスクを形成する(図1a)。
【0039】
エッチングマスクとしては、レジストを用いてもよいし、金属膜に開口パターンを設けたハードマスクを用いてもよいし、CVD(Chemical Vapor Deposition)またはPVD(Physical Vapor Deposition)により直接基板上に形成した金属膜、有機金属膜、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜を用いてもよいし、基板がシリコンであれば熱酸化によるシリコン酸化膜を用いてもよい。
【0040】
複数のニードルを形成する必要がある場合、形成するエッチングマスクのパターンレイアウトを適切に設計し、任意の本数のニードルが任意の間隔で並んだアレイを形成することが可能である。
【0041】
次に、エッチングマスクから露出した基板をエッチングすることにより、深さ分布を有する凹部103を形成する(図1b)。凹部形成後にエッチングマスク102を除去する。
【0042】
このとき、凹部の底部の形状は、基板の結晶方位によるエッチングレート差や、エッチングマスクと基板とのエッチング選択比により制御することが出来る。上述したように凹部の底部の形状を制御することにより、最終的に製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。
【0043】
<厚み分布を有するエッチングマスクを形成する工程>
次に、凹部の少なくとも一部を覆うように、基板上に厚み分布を有するエッチングマスクを形成する。たとえば、基板の全面にエッチングマスクを形成すれば、凹部103に充填されたエッチングマスク104が厚み分布をもつ(図1c)。したがって、必ずしもエッチングマスク104をパターニングする必要はない。
【0044】
<基板をエッチングする工程>
次に、エッチングマスク104を形成した基板101の全面をエッチングしてマイクロニードル106を製造する(図1d、1e)。基板101としてシリコンを用いた場合、フッ素系ガスを用いて異方性エッチングする。
【0045】
図1cからエッチングを始めると、全面でエッチングマスク104が同じ厚さだけエッチングされ、基板101の上面が露出し、凹部103にのみ厚み分布を有するエッチングマスク104が残った状態になる。この状態から、さらにエッチングを進行すると、エッチングレートの速い基板101の方がエッチングマスク104よりも多くエッチングされる。このとき、エッチングマスク104と基板101のエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)によって、ニードルの先端角度の制御が可能である。エッチング選択比が高い場合、ニードルの先端角度は鋭くなり、高さは高くなる傾向がある。エッチング選択比が低い場合、先端角度は鈍くなり、高さは低くなる傾向がある。
【0046】
なお、図1dに示すように、エッチングマスクが残存した状態でエッチングを中止し、残存したエッチングマスクを剥離することにより、先端部に凹部の底部の形状に対応する凹部を有するニードルを作製することが出来る。こうした先端部に凹部を有するニードルは、例えば、血液の採取、薬液の注入に好適である。
【0047】
<マイクロニードルの転写>
また、製造された図1eのマイクロニードル106を原版として、複製版107を作製してもよい(図1f)。複製版107の材料は、適度な形状追従性及び硬度を有していれば良く、例えば、メッキ金属や、有機シリコーン等の成型用樹脂を用いることが可能である。
【0048】
以下、金属メッキ法を用いる場合について説明する。この場合、原版とするマイクロニードル106の全面にメッキ法によって金属層を一様に形成する。次に、原版としたマイクロニードル106を除去し、金属からなる複製版107を形成する。
【0049】
形成する金属膜の厚さに制限は無いが、ニードルの高さの2倍以上の厚さに形成することが好ましい。金属の種類には特に制限は無く、例えばニッケルや銅、各種の合金等が好適に用いられる。
【0050】
また、金属以外の材料であるセラミックや樹脂を用いても良い。膜の形成方法としてはメッキ法の他に、プラズマ成膜法、スパッタ法、CVD法、蒸着法、焼結法、キャスティング法等も好適に用いることができる。
【0051】
次に、前記複製版107を用いて、種々の材料へ転写を行う。前記複製版107を用いて、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、キャスティング法等によって、マイクロニードルの複製を行う。複製品の材質は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、キチンキトサン等を用いることで、生体に適用可能なマイクロニードルを形成できる。
【0052】
<図1の変形例>
図1cでは基板の全面にエッチングマスクを形成したが、エッチングマスクのパターンを変更することで多様な形状のマイクロニードルを製造することが出来る。エッチングマスクのパターンを変更した実施形態について説明する。
【0053】
図2aに示すように、凹部103と凹部103の外縁部の一部を覆うエッチングマスク201のパターンを形成してもよい。この場合、エッチングにより、図2bに示すように、底部が補強された形状のマイクロニードル202を製造することができる。
【0054】
マイクロニードルの底部には刺突の際に大きな応力がかかるので、底部が補強された形状になっていると、刺突の際に折れにくいという効果が得られる。
【0055】
図1および図3aに示すように、基板の全面に設けられたエッチングマスク104に、凹部103の中央に対応して開口部301を設けてもよい。この場合、エッチングにより、図3bに示すように、エッチングマスク104の開口部301に対応して、凹部103の底部中央がより多くエッチングされるので、中空部を有するマイクロニードル302を形成する。このような、中空部を有するマイクロニードル302は、例えば、血液の採取、薬液の注入に好適な形状を有する。
【0056】
なお、凹部103の中央と開口部301の中央を、凹部103の範囲内でずらしてもよい。また、凹部103のない位置に開口部301を設けてもよい。
【0057】
また、エッチングマスクの厚みを変更することで、マイクロニードルの高さを容易に制御することが出来る。このとき、エッチングマスクの厚みが厚いほど、製造されるニードルの高さは高くなる傾向がある。
【0058】
図4aに示すように、凹部103に対応する位置にのみ、厚いエッチングマスク401を形成してもよい。この場合、エッチングにより、図4bに示すように、胴体部が錐状ではなく柱状であり、先端部のみが先鋭化されたマイクロニードルを製造することが出来る。このように、あらかじめ設けた凹部103の深さに関わらず、製造されるマイクロニードルの高さを制御することも可能である。
【0059】
図5a〜5dを参照して本発明の他の実施形態に係るマイクロニードルの製造方法を説明する。
【0060】
<基板にエッチングマスクを形成する工程>
まず、基板101上にエッチングマスク102を形成する(図5a)。
【0061】
基板の材料は、プラズマエッチング等のエッチング法で加工可能なものであれば良く、加工法に適する材料を適宜選択することが出来る。具体的には、シリコンや、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料や、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂を用いて良い。
【0062】
エッチングマスクの材料は、上述した基板と密着し、後述するエッチングを行う工程において、エッチングマスクのエッチングレートが、基板のエッチングレートより小さいものであれば良い。
【0063】
エッチングマスクを形成するには、基板上に均一に形成できる方法、具体的には、CVD(Chemical Vapor Deposition)、PVD(Physical Vapor Deposition)、スプレーコート法、液滴吐出法等の方法を用いることが出来る。
【0064】
エッチングマスクのパターンを形成する方法としては、公知の方法を適宜使用することが出来る。例えば、露光現像による方法(用いるフォトマスクによりパターンを制御する)、液滴吐出法(パターンのみに液滴を吐出する)等の方法を用いることが出来る。
【0065】
製造されるニードルの径は、形成するエッチングマスクの径に依存するので、所望のニードルの径に応じてエッチングマスクの径を調整する。
【0066】
複数のエッチングマスクのアレイを形成しても良い。エッチングマスクのアレイを形成することにより、マイクロニードルアレイを製造することが可能となる。このとき、エッチングマスクのパターンレイアウトを調整することで、ニードルの間隔および本数を制御することが出来る。
【0067】
<エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる工程>
次に、エッチングマスクを、厚み分布をもつように変形させる(図5b)。
【0068】
後述するエッチング工程において、エッチングマスクの薄い部位は、エッチングマスクの厚い部位と比べて早くに除去される。よって、エッチングマスクに厚み分布をもたせることで、マスクが除去される時間を制御することが出来る。このとき、基板も同時にエッチングされているため、マスクが除去されるにつれ、除去されたマスクの部位に対応する基板の部位のエッチングも進む。
【0069】
エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、周縁部から中央部へ向けてエッチングマスクの厚みを連続的に変化させた場合、エッチングが進むにつれて、エッチングマスク周縁部から徐々にマスクが除去され、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)に応じたテーパー角度を持つニードルを製造することが可能となる。
【0070】
このようにエッチングマスクに厚み分布をもたせることで、マスクが除去される時間を制御することが出来るため、後述するエッチング工程で製造されるニードルの先端角度及び高さを制御することが出来る。同一のエッチング条件下でエッチングマスクが消失するまでエッチングを実施する場合、初期のエッチングマスクが厚いほど、製造されるニードルは高くなる。
【0071】
エッチングマスクを、厚み分布をもたせるように変形させるために、エッチングマスクをリフローさせても良い。エッチングマスクを加熱して流動させると、表面張力によりエッチングマスクの厚みが滑らかに変化する。こうして、エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、エッチングマスクの厚みを周縁部から中央部へ向けて連続的に変化させることが出来る。
【0072】
エッチングマスクの厚み分布はリフロー条件で決定される。このため、特にエッチングマスクを基板上に複数を設けた場合、各エッチングマスクの厚み分布を一様にすることができ、一度の工程で精度良く複数のニードルを製造することが可能となる。
【0073】
エッチングマスクの初期厚さ、加熱温度等を調整することにより、リフロー後のエッチングマスクの厚みおよび厚さ分布を調整することが出来る。
【0074】
リフローを行う場合、基板を加熱しても良い。加熱手段は特に限定されるものではない。例えば、オーブンやホットプレートといった加熱装置を用いて基板を加熱することができる。
【0075】
また、液滴吐出法を用い、マスク材料を溶媒に溶解した液滴またはマスク材料を加熱溶融させた液滴を吐出してエッチングマスクを形成した場合、前記溶媒を揮発させるかまたはマスク材料を凝固させることにより、エッチングマスクを厚み分布をもつように変形させることが出来る。これらの方法でも、表面張力によりエッチングマスクの厚みが滑らかに変化する。このため、エッチングマスク周縁部の厚みを、エッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くし、エッチングマスクの厚みを周縁部から内部へ向けて連続的に変化させることが出来る。
【0076】
液滴吐出でエッチングマスクを形成する場合、液滴吐出の精度の範囲で任意の形状のエッチングマスクを形成することが出来る。
【0077】
また、エッチングマスクの厚み分布は、溶媒揮発条件または凝固条件で決定される。このため、特に、エッチングマスクを基板上に複数を設けた場合、各エッチングマスクの厚み分布を一様にすることができ、一度の工程で精度良く複数のニードルを製造することが可能となる。
【0078】
溶媒を揮発させるか、またはマスク材料を凝固させる場合、加熱、減圧または減圧下で加熱等を行う。減圧手段および加熱手段は特に限定されず、例えば、減圧環境下でオーブンやホットプレートといった加熱装置を用いてもよい。
【0079】
<エッチング工程>
次に、エッチングマスクを形成した基板全体のエッチングを進め(図5c)、マイクロニードルを製造する(図5d)。
【0080】
エッチング方法は、基板のエッチングレートとエッチングマスクのエッチングレートとが異なる異方性エッチング方法であれば良く、適宜公知の方法を用いることが出来る。例えば、RIE、マグネトロンRIE、ECR、ICP、NLD、マイクロ波、ヘリコン波等の放電方式を用いたドライエッチング装置を用いたドライエッチングを行っても良い。
【0081】
エッチングマスク周縁部の厚みがエッチングマスク中央部の厚みと比べて薄くなるように、周縁部から中央部へ向けてエッチングマスクの厚みを連続的に変化させた場合、エッチングが進むにつれて、エッチングマスク周縁部から徐々にマスクが除去され、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比(エッチングマスクのエッチングレートに対する基板のエッチングレートの比)に応じたテーパー角度を持つマイクロニードルを製造することが可能となる。
【0082】
エッチングマスクの形状を、周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状としても良い。周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状の例として、図6aに示すように基板201上に形成された十字形状のエッチングマスク202や、図7aに示すように、基板201上に形成された、底部が円の一部が内部にくぼんだ形状のエッチングマスク203が挙げられる。このほか、底部が任意の数の頂点を持ち、前記頂点を連続する直線または曲線で結んだ星型の形状などを含む。
【0083】
エッチングマスクを周縁の少なくとも一部が内部にくぼんでいる形状にすることにより、エッチング後に形成される図6bおよび図7bに示すように、ニードルの側面に凹部が形成され、ニードルの表面積を増大することが出来る。このため、薬液の保持、注入に好適な形状を持ったニードルを製造することが可能となる。
【0084】
上述した通り、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比により、ニードルのテーパー角度を決定することが出来るため、基板材料を単結晶材料に限定することなくニードルのテーパー角度、先端角度を設計し、製造することが可能となる。
【0085】
エッチングマスクに対する基板のエッチング選択比によって、ニードルの先端角度の制御が可能である。エッチング選択比が高い場合、ニードルの先端角度は鋭くなり、高さは高くなる傾向がある。エッチング選択比が低い場合、先端角度は鈍くなり、高さは低くなる傾向がある。
【0086】
また、徐々にマスクが除去されていき、最終的にマスクが微小な範囲に収束してから完全に除去されることでニードルを形成するため、エッチングマスク脱落による汚染等が発生することなく、また先端形状が鋭利なニードルを製造することが可能となる。
【0087】
なお、エッチングマスクが残存した状態(図5c)でエッチングを停止し、エッチングマスクを剥離しても良い。このとき、先端部分のみ平坦な形状を残した、刺突の際に先端部の欠けを低減する効果を奏するニードルを製造することが可能となる。
【0088】
また、エッチングの中途で、基板とエッチングマスクとのエッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更してもよい。
【0089】
前述した通り、エッチング選択比によりテーパー角度が決定されるため、エッチングの中途でエッチング条件を変更することにより、ニードルのテーパー角度が段階的に変化したニードルを製造することが出来る。
【0090】
エッチングする基材のエッチングレートをエッチングマスクのエッチングレートで除した値であるエッチング選択比は1以上100以下が好ましい。特に、エッチングマスク形状を精度良く基板に転写するためには5以上50以下のエッチング選択比が好ましい。
【0091】
ただし、エッチング選択比は上記範囲に限定されず、所望する針状体のテーパー角度に応じて適宜変更してよい。例えば、エッチング条件をエッチングの中途で変更する場合には、中途では非常に大きな選択比(100以上)を用いても良い。
【0092】
最初にエッチング選択比を小さくしてエッチングを行い、後にエッチング選択比を大きくした場合、ニードルの底部がなだらかなテーパー角度となり、刺突の際に大きな応力がかかる基底部が補強された形状のニードルを製造することができる。このようなニードルは、刺突の際に折れにくいという効果を奏する(図8a)。
【0093】
また、エッチング選択比を非常に大きくした場合、エッチングマスクのエッチング速度に対して、基板のエッチング速度が非常に大きくなるため、ニードル側面をほぼ垂直の角度にすることができ、底部を一定の径に保ちながら、高アスペクト比のニードルを製造することが可能となる(図8b)。特に、複数のニードルを並べたアレイの場合、アスペクト比を高くすることで、ニードルを密に配置することが可能となるため効果的である。
【0094】
上述したエッチング条件の変更は複数組み合わせて実施しても良い。複数のエッチング条件の変更を組み合わせて実施することにより、例えば、底部がなだらかであり、かつアスペクト比の高いニードルを製造することが可能となる(図8c)。
【0095】
以上のように、先端角およびその高さを容易に制御可能であり、かつ簡便な工程で、ニードルを製造することが出来る。
【0096】
以下、穴もしくは貫通穴を有するニードルの製造方法について図9、図10を参照して説明する。
【0097】
<基板に穴を形成する工程>
まず、基板に穴401を形成する(図9a)。あらかじめ、基板101のエッチングマスクに対応する位置に穴401を設けておくことで、中空ニードルを作製することができる。このような形状のニードルは、例えば血液の採取、薬液の注入に好適である。
【0098】
基板に穴401を形成する方法は、ニードルの形状、寸法、集積度に応じて、適宜公知の方法を用いれば良い。例えば、エッチングによる深掘り、レーザーを用いた加工法、その他の精密機械加工法等が挙げられる。
【0099】
また、基板を貫通する穴501を形成してもよい(図10a)。基板を貫通する穴501を設けることにより、貫通穴を持ったニードルを製造することが出来る。
【0100】
<穴に充填材を充填する工程>
次に、基板に設けた穴401、501に、充填材402、502を充填する(図9b、図10b)。
【0101】
充填材としては、数μmから数百μm程度の穴に充填可能なものであれば良い。例えば、Ni等の金属材料、シリコーン、耐熱性樹脂等を用いることができる。
【0102】
充填材を充填する方法としては、適宜公知の方法を用いることが出来る。例えば、電解メッキといったメッキ法、材料を溶融し穴に充填する方法等を用いることが出来る。
【0103】
<穴に対応する部分に厚み分布をもつエッチングマスクを形成し、エッチングする工程>
次に、穴に対応する部分に厚み分布をもつエッチングマスクを形成し(エッチングマスク403、503)、エッチングを行う(図9c、図10c)。
【0104】
これらの工程は、上述した方法と同様の方法で実施することが出来る。
【0105】
<充填材を除去する工程>
次に、充填材402、502を除去し、ニードル404、504を得る(図9d)、(図10d)。
【0106】
充填材を除去する方法は、基板に大きなダメージを与えずに充填材を取り除けるものであれば良い。例えば、選択した充填材に適する各種エッチング液や溶剤等を用いて、充填材を溶解させる方法を用いることが出来る。
【0107】
以下、貫通穴を設けてニードルを製造する方法の他の実施形態について、図11を参照して説明する。
【0108】
<基板に穴を形成する工程>
まず、基板に、未貫通の穴601を形成する(図11a)。用いる基板および穴の形成法は上記と同様である。
【0109】
<穴を設けた側とは反対側の基板上にエッチングマスクを形成し、エッチングマスクを厚み分布をもつように変形させる工程>
次に、穴601を設けた側と反対側の基板上にエッチングマスク602を形成し、エッチングマスク602を厚み分布をもつように変形させる(図11b)。エッチングマスクを形成し、厚み分布をもつように変形させる方法は上記と同様である。
【0110】
穴を設けた側と反対側の基板上に、前記穴に対応してエッチングマスク602を形成すると、充填材を必要とせずに、貫通穴を持ったニードルを製造することが出来る。
【0111】
<エッチング工程>
次に、エッチングを行うことにより、貫通穴を有するニードル603を製造する(図11c)。この工程も、上記と同様に実施することが出来る。
【0112】
以上のような方法で中空ニードルを製造することができる。このような中空ニードルは、例えば血液の採取、薬液の注入に好適な形状を有する。
【0113】
<図9の変形例>
図9では穴の深さとエッチングの深さを同程度にしているが、穴の深さとエッチングの深さとの関係を適宜調整することも出来る。
【0114】
図12a〜12dは、穴の深さよりも深くエッチングする例を示している。
【0115】
図13a〜13dは、穴の深さよりも浅くエッチングする例を示している。
【0116】
<図10の変形例>
図10では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0117】
図14a〜14dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例では、ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0118】
<図11の変形例>
図11では穴の中央と、穴と反対側の基板上に形成されるエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0119】
図15a〜15dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例でも、ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0120】
<図9の変形例>
図9では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせてもよい。
【0121】
図16a〜16dは、穴の中央とエッチングマスクの中央とを少しずらせた例を示している。この例では、中空ニードル先端に傾斜面をなす開口が形成される。
【0122】
<図16の変形例>
図16では穴の深さとエッチングの深さを同程度にしているが、穴の深さとエッチングの深さとの関係を適宜調整することも出来る。
【0123】
図17a〜17dは、穴の深さよりも深くエッチングする例を示している。
【0124】
図18a〜18dは、穴の深さよりも浅くエッチングする例を示している。
【0125】
<図10の変形例>
図10では穴の中央とエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせてもよい。
【0126】
図19a〜19dは、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例では、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れている。
【0127】
<図11の変形例>
図11では穴の中央と、穴と反対側の基板上に形成されるエッチングマスクの中央とを位置合わせしているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせてもよい。
【0128】
図20a〜20cは、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例でも、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れる。
【0129】
<図20の変形例>
図20では未貫通穴を形成しているが、穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせる場合には貫通穴を設けてもよい。
【0130】
図21a〜21cは、貫通穴とエッチングマスクとが重ならないようにずらせた例を示している。この例でも、ニードルの位置から貫通穴の位置が離れる。
【0131】
以上のいずれの例でも、ニードルを形成した後、さらに等方性エッチングを行っても良い。図22a〜22cに形成されたニードルを等方性エッチングする例を示す。図22aのニードルを等方性エッチングすると、図22bに示すように、ニードル全体の形状が等方的に一定距離だけ縮小した形状となる。このため、図22cに示すように、ニードルの底部は丸みを帯びた形状となり、ニードルの先端部は先鋭化した形状となる。このように等方性エッチングを施すことにより、ニードルの形状を調整して、より穿刺しやすく折れにくい形状にすることが出来る。
【0132】
<ニードルの転写>
以下、図23を参照して、ニードルの転写について説明する。
【0133】
上述の方法により製造したマイクロニードル701を原版とし、複製版703を形成する。
【0134】
まず、ニードル701が形成された面に、複製版703を形成する(図23a)。
【0135】
複製版703の材質は特に制限されないが、複製版として機能する形状追従性、後述する転写における転写性、耐久性および離型性を考慮して選択される。例えば、複製版703の材質としてニッケルを用いることができる。この場合、ニッケル膜の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法等が挙げられる。
【0136】
次に、ニードル701から複製版703を分離する(図23b)。
【0137】
ニードル701と複製版703を分離する方法としては、物理的な剥離力による分離または選択性エッチング法を用いることが出来る。
【0138】
次に、複製版703にニードル材料を充填する(図23c)。
【0139】
ニードル材料は特に制限されないが、生体適合性材料である医療用シリコーン樹脂や、マルトース、ポリ乳酸、デキストラン、キチンキトサン等を用いることで、生体に適用可能なニードルを形成出来る。
【0140】
ニードル材料の充填方法は制限されないが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0141】
次に、ニードル材料を複製版703から離型し、転写成形されたニードル704を得る(図23d)。
【0142】
複製版703からの剥離性を向上させるために、ニードル材料の充填前に、複製版703の表面に離型効果を増すための離型層を形成してもよい(図示せず)。
【0143】
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等を好適に用いることができる。
【0144】
以上のように、ニードルの転写を実施することが出来る。一体成形された機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量のニードルを製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【0145】
次に、本発明の他の実施形態について図24および図25を参照して説明する。
【0146】
図24a〜24dは、本実施形態におけるマイクロニードルの製造工程を示した図であり、図24eおよび24fはマイクロニードルを原版に用いて複製版を製造する工程を示した図である。
【0147】
まず、図24aに示すように、基板13の表面にネガティブ型レジストを塗布してレジスト層12を形成する。
【0148】
次に、マスク15を用いてフォトリソグラフィー法により、レジスト層12にマイクロニードルパターンの露光を行う。本実施形態のマスク15には網点の打点数が円形の周縁部から中心部にかけて少なくなるよう変化させて設けられた図25bに模式的に示すニードル形状の単位マスク16が図25aに示すように規則的に配列されたニードルパターンアレイが設けられて形成されている。露光後現像を行うと、露光されなかった部分のネガティブ型レジストが露光パターンに従って除去され、図24bに示すように円錐状のエッチングマスク17が突出して基板13上に形成される。
【0149】
続いて、図24cに示すように、反応性イオンエッチング(RIE)によってエッチバックを行い、基板13上に所望の高さのマイクロニードル14を形成する(エッチング工程)。このとき、基板13の単位時間あたりのエッチング速度をレジスト層12のエッチング速度で除して求められるエッチング選択比を、1以上10以下、好ましくは1以上5以下となるように、レジスト層12及び基板13の材料選択、及びエッチング環境の調整を行う。
【0150】
エッチング選択比が11より大きいと、マイクロニードル14の制御精度が低くなる。また、エッチング選択比を1より小さくすると、不必要に厚いレジスト層12を形成しなければならず、製造効率が低下する。
【0151】
上記の説明より、上述した工程において形成されるレジスト層12の厚みは、作製するマイクロニードルの高さを、設定したエッチング選択比の値で除した値に設定される。
【0152】
エッチング工程が終了すると、図24dに示すように、エッチングマスク17がすべて除去され、基板13の表面に所望の高さのマイクロニードル14が突出して形成されたマイクロニードルアレイ11が得られる。
【0153】
本実施形態のマイクロニードルの製造方法によれば、シリコン等の安定した基材を用いて、従来よりもはるかに少ない工程数でマイクロニードルアレイ11を製造することができる。
【0154】
また、ディップコート法又は塗布法を用いてレジスト層12を厚く形成することにより、エッチング工程において、エッチバックにおけるエッチングレートを1以上10以下の比較的低い範囲に設定することができるので、マイクロニードルが高い精度で制御されて形成されたマイクロニードルを作製することができる。
【0155】
さらに本実施形態のマイクロニードルアレイ11を、図24eに示すように、樹脂や金属等の材料18で転写することによって、図24fに示すように、容易にマイクロニードル製造用の複製版19を作製することができる。このように、最適な材料を選択して少ない工程でマイクロニードルを製造するための複製版を製造することができる。このときの転写には、メッキ法、樹脂法、セラミック法等、従来の方法を用いることができる。さらに上記複製版を用いて生体適合性材料を加工することによって、本発明のマイクロニードルパッチを製造することができる。また、内部に穴が形成されるようにマイクロニードルを作製し、生体適合性材料の量を調節すれば、基部が一体となっておらず、注射器等に使用可能なマイクロニードル単体を製造することも可能である。
【0156】
本実施形態においては、ネガティブ型レジストを使用してマイクロニードルアレイ11を製造しているが、これに代えてポジティブ型レジストを使用すれば、エッチング工程を経て、基板13の材料で形成されたマイクロニードルを得ることができる。従って、感光性材料より安定性の高い材料からなるマイクロニードルを少ない工程で作製し、当該マイクロニードルを用いて直接マイクロニードルパッチを製造することも可能である。
【0157】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0158】
例えば、上記実施形態では、露光現像工程において、網点密度を用いたマスクや、グレースケールを用いたマスクを使用して露光処理を行っているが、これらに代えて、レーザースキャンでデジタル的に露光量を調整し、製造するマイクロニードルの立体形状に基づいた露光積算量に従って、レジスト層をレーザーで多重露光することにより、露光処理を行ってもよい。
【0159】
さらに、上記実施形態では、円錐状又は四角錐状のマイクロニードルが形成されているが、これに限定されず、三角錐状や他の多角錐状のマイクロニードルを形成してマイクロニードル及び複製版を製造することも可能である。
【0160】
さらに、上記実施形態では、エッチング工程において、反応性イオンエッチングによりエッチバックを行っているが、これに限定されず、イオンエッチング、イオンビームエッチング、反応性イオンビームエッチング等、従来知られる他のエッチング方法を使用することも可能である。
【0161】
また、上記実施形態では、生体適合性材料を溶解してマイクロニードル又はマイクロニードル製造用複製版に流し込むことによってマイクロニードルパッチを製造する例を説明したが、これに代えて、圧縮成形や射出成形等の一般的に用いられているプラスチック成形技法を用いてマイクロニードルパッチを製造することも可能である。
【実施例】
【0162】
実施例1
まず、基板としてシリコンウェハを用意した。このシリコンウェハの結晶面方位は(100)であり、厚みは525μmである。このシリコンウェハ上にDCマグネトロンスパッタ法によりクロムを100nmの膜厚で形成した。この際のスパッタ圧力は0.25Pa、投入電力は1000Wである。
【0163】
次に、このクロム膜上にエッチングマスクとしてポジ型レジスト(東京応化製OFPR−50cp)を1μmの膜厚にコートした。フォトリソグラフィー法により一辺50μmの正方形開口を有するレジストパターンを形成した。このレジストパターンをエッチングマスクとして、過塩素酸及び硝酸第二セリウムアンモニウムの混合溶液を用いてクロム膜をエッチングし、1辺50μmの正方形開口を有するクロムパターンを形成した。クロムパターン形成後、有機溶媒にてレジストパターンを除去した。クロムパターンの正方形開口の寸法を測定したところ、1辺51μmであった(図1a)。
【0164】
このクロムパターンをエッチングマスクとして、重量濃度25%、液温90℃の水酸化カリウムを用いて結晶方位によるエッチングレート差を利用したシリコンの異方性ウェットエッチングを行い、シリコンウェハ表面に凹部を形成した(図1b)。ウェットエッチング後に過塩素酸と硝酸第二セリウムアンモニウムの混合溶液によりクロムパターンを除去した。形成されたシリコンウェハ表面の凹部の形状を走査型電子顕微鏡により確認したところ、凹部の深さは約35μmであり最深部の開口角度は70°であった。なお、ここで開口角度とは、四角錘形状において対向する側面同士がなす角度とする。
【0165】
このシリコンウェハの全面にポジ型レジスト(東京応化製OFPR−800)を50μmの膜厚にコートした。この結果、シリコンウェハ表面の凹部に充填されたレジストは厚み分布をもつ。シリコンウェハの全面を、フッ素系ガスを用いたICP(Inductivly Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)エッチングにより、レジストが完全に除去されるまでエッチングした。この際、レジストとシリコンのエッチングレートを測定した結果、レジストとシリコンのエッチング選択比は約11であった。
【0166】
エッチングを終えた試料を走査型電子顕微鏡で観察したところ、底辺の一辺が50μm、高さ約350μm、先端角度約8.2°の角錐型のニードルが形成されていることを確認した。
【0167】
角錐型のニードルが形成されたシリコンウェハ上に蒸着法により膜厚300nmのニッケル層を形成した。このニッケル層をシード層として電解メッキ法によりニッケルを1mm形成した。その後、濃度25%、液温90℃の水酸化カリウムを用いてシリコンを溶解し、ニッケルからなる本発明に係る複製版を作製した。
【0168】
この複製版を用い、インプリント法により、マルトース、デキストラン、キチンキトサンまたはポリ乳酸に転写を行った。その結果、いずれの材料でも、シリコン原版と同様の、底辺の一辺が約50μm、高さ約350μm、先端角度約8.2°のニードルが形成されていることを確認した。
【0169】
実施例2
円形ドットパターンのエッチングマスクを用いてマイクロニードルを製造した例について説明する。
【0170】
まず、基板としてシリコンウェハ(厚み:525μm)を用意した。このシリコンウェハ上に、エッチングマスクとして汎用厚膜フォトレジスト(クラリアント社製、商品名:AZ PLP)を、スプレーコート法を用いて、13μmの膜厚にコートした。フォトリソグラフィー法により直径100μmの円形ドットパターンをなすエッチングマスクを形成した。
【0171】
次に、シリコンウェハをクリーンオーブンにおいて150℃で30分間加熱し、エッチングマスクをリフローさせた。リフロー後のレジストパターンの断面形状は半球状であり、中央部のレジスト厚は20μmであった。
【0172】
次に、シリコンウェハの全面を、フッ素系ガスを用いたICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)エッチングにより、レジストパターンが完全に除去されるまでエッチングした。このとき、レジストおよびシリコン基板のエッチングレートを測定した結果、シリコンとエッチングマスクのエッチング選択比は約11であった。
【0173】
エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。基底部の直径が約100μm、高さ約220μm、先端角度が約25°の円錐型のニードルが形成されていることを確認した。
【0174】
実施例3
実施例2と同様にしてマイクロニードルを製造した。ただし、図2aおよび2bに示すように、底部が十字型をなす、錘状のエッチングマスクを用いた。エッチングマスクの底部の形状は、幅40μm、長さ150μmの2つのラインを中央で垂直に交差させた十字型であった。また、エッチングマスクの厚さは最大で18μmであった。
【0175】
実施例2と同様に、エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。底部の形状が幅40μm、長さ150μmの2つのラインを中央で垂直に交差させた十字型であり、高さが約200μmである錘状のニードルを得ることが出来た。
【0176】
実施例4
実施例2と同様にしてマイクロニードルを製造した。ただし、図3aおよび3bに示すように、底部が円の一部が凹んだ形状をなす、錘状のエッチングマスクを用いた。エッチングマスクの底部の形状は、直径100μmの円から、外周から中心に向かって幅約10μm、長さ約10μmの部分を切り取ったものであった。エッチングマスクの厚さは最大で19μmであった。
【0177】
実施例2と同様に、エッチングを終えたシリコンウェハを走査型電子顕微鏡で観察した。底部の形状が直径100μmの円から、外周から中心に向かって幅約10μm、長さ約10μmの部分を切り取ったものであり、高さが210μmである錘状のニードルを得ることが出来た。
【0178】
実施例5
中空のマイクロニードルを製造した例について説明する。
【0179】
基板としてシリコンウェハ(厚み:525μm)を用意した。このシリコンウェハに、形成しようとするエッチングマスクの中央に相当する位置に、垂直深堀エッチングにより直径20μm、深さ200μmの穴を開けた。
【0180】
次に、DCマグネトロンスパッタ法によって、基板表面および穴の壁に厚さ100nmの銅薄層膜を形成した。その際の成膜圧力は0.25Paとした。この銅膜は次に実施する電解メッキのシード層として用いられる。次に、電解メッキ法により、厚さ300μmの銅膜を成長させ穴を充填した。めっき液には硫酸銅浴(硫酸銅80g/l、硫酸200g/l)を用いて、浴温は室温とした。
【0181】
次に、表面の凹凸をなくすため、基板表面が露出するまで化学機械研磨し平坦化処理した。
【0182】
次に、実施例2と同様に、エッチングマスクパターン形成、リフロー、およびエッチングを行った。
【0183】
次に、塩化第二鉄溶液(30%FeCl3、3%HCl)に2時間浸漬し、穴に充填された銅を除去した。
【0184】
形成されたニードルは、外形が底部直径約100μm、高さ約175μmの円錐形状で、中央に直径20μm、深さ155μmの中空部を有していた。
【0185】
実施例6
転写を行ってマイクロニードルの製造した例について説明する。
【0186】
実施例2においてシリコンウェハを用いて製造したマイクロニードルを原版として用いた。この原版の表面に、蒸着法により厚さ300nmのニッケル膜を形成した。このニッケル層をシード層としてメッキ法により厚さ1mmのニッケル膜を形成した。次に、濃度25wt%、液温90℃の水酸化カリウム水溶液を用いてシリコンウェハを溶解させ、ニッケルからなる複製版を作製した。
【0187】
この複製版を用い、インプリント法により、マルトース、デキストラン、キチンキトサンまたはポリ乳酸に転写を行った。その結果、いずれの材料でも、原版と同様のニードルが形成されていることを確認した。
【0188】
実施例7
マイクロニードルの形状を調整した例について説明する。
【0189】
実施例2と同様にして、シリコンウェハに、底部直径約100μm、高さ約220μm、先端角度約25°の円錐型のニードルを形成した。
【0190】
次に、酸素プラズマとフッ酸によってニードルを洗浄し、続いてフッ素系ガスを主体とするプラズマによって、ニードルを約5μmだけ等方的にエッチングした。この等方的なエッチングにより、ニードルの形状は底部直径約90μm、高さ約200μm、先端角度約22°となり、ニードルの先鋭性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】図1は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図2】図2は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図3】図3は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図4】図4は本発明における製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図5】図5は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図6】図6は本発明におけるマイクロニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図7】図7は本発明におけるマイクロニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図8】図8は本発明におけるニードルの製造方法により形成可能なニードルの一例を示す図である。
【図9】図9は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図10】図10は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図11】図11は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図12】図12は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図13】図13は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図14】図14は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図15】図15は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図16】図16は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図17】図17は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図18】図18は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図19】図19は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図20】図20は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図21】図21は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図22】図22は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図23】図23は本発明における転写加工成形を用いたニードルの製造方法の工程を示す断面図である。
【図24】図24は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【図25】図25は本発明におけるマイクロニードルの製造方法を示す断面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程と
を含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法。
【請求項2】
エッチングの中途で、エッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更することを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項3】
前記エッチングは、異方性エッチングであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項4】
前記異方性エッチングは、イオンエッチング、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチングまたは反応性イオンビームエッチングであることを特徴とする請求項3に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項5】
前記マイクロニードルを形成した後、前記マイクロニードルに等方性エッチングを施すことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で製造したマイクロニードルを原版とし、転写を行うことを特徴とするマイクロニードル製造用複製版の製造方法。
【請求項7】
前記転写をメッキ金属、樹脂またはセラミックを用いて行うことを特徴とする請求項6に記載のマイクロニードル製造用複製版の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法で製造されたマイクロニードル。
【請求項9】
請求項6に記載の方法を用いて製造されたマイクロニードル製造用複製版を用いて製造されたことを特徴とするマイクロニードル。
【請求項10】
生体適合性材料からなることを特徴とする請求項9に記載のマイクロニードル。
【請求項1】
基板上に厚み分布をもつ島状のエッチングマスクを形成する工程と、
前記エッチングマスクと基板とのエッチングレートの差を利用して前記基板を針状に加工する工程と
を含むことを特徴とするマイクロニードルの製造方法。
【請求項2】
エッチングの中途で、エッチング選択比が変化するようにエッチング条件を変更することを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項3】
前記エッチングは、異方性エッチングであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項4】
前記異方性エッチングは、イオンエッチング、反応性イオンエッチング、イオンビームエッチングまたは反応性イオンビームエッチングであることを特徴とする請求項3に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項5】
前記マイクロニードルを形成した後、前記マイクロニードルに等方性エッチングを施すことを特徴とする請求項1に記載のマイクロニードルの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で製造したマイクロニードルを原版とし、転写を行うことを特徴とするマイクロニードル製造用複製版の製造方法。
【請求項7】
前記転写をメッキ金属、樹脂またはセラミックを用いて行うことを特徴とする請求項6に記載のマイクロニードル製造用複製版の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法で製造されたマイクロニードル。
【請求項9】
請求項6に記載の方法を用いて製造されたマイクロニードル製造用複製版を用いて製造されたことを特徴とするマイクロニードル。
【請求項10】
生体適合性材料からなることを特徴とする請求項9に記載のマイクロニードル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
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【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
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【図15】
【図16】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2008−296037(P2008−296037A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215616(P2008−215616)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【分割の表示】特願2008−504552(P2008−504552)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【分割の表示】特願2008−504552(P2008−504552)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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