説明

マイクロポンプ装置及びマイクロ流体デバイス

【課題】マイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置であって、比較的簡単な構造を有し、製造が容易であるだけでなく、液体を送液するためのガス発生効率が高められたマイクロポンプ装置を提供する。
【解決手段】基板2内にガス発生室11が設けられており、ガス発生室11が、光学窓12に臨んでおり、該ガス発生室11内に、光の照射によりガスを発生する光応答性ガス発生部材13が収納されており、該光応答性ガス発生部材13が、支持部材に光の照射によりガスを発生する光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されており、かつ光が照射された際に発生するガスが、外表面に放出される多数のガス流路を有している、マイクロポンプ装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細流路が形成されているマイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置に関し、より詳細には、光の照射によりマイクロ流体を駆動するためのガスを発生するための構造が備えられたマイクロポンプ装置及び該マイクロポンプ装置が備えられたマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で分析装置の小型化が進められている。例えば、医療診断を患者の近傍で行うベッドサイド診断では、結晶検査機器の小型化が強く求められている。また、大気、水、または土壌中の環境汚染物質の分析に際しては、屋外で行う必要があるため、このような用途においても、分析装置の小型化が強く求められている。さらに、食品の安全性を、工場や販売場所等において検査する際にも、非常に小型の分析機器が求められている。
【0003】
このようなニーズを満たすものとして、マイクロ流体デバイスが注目されている。マイクロ流体デバイスは、例えば、手で容易に持ち運び、取り扱い得る大きさの基板を有する。この基板内に、試薬、希釈液、及び検体などを搬送する複数の微細流路が形成されている。そして、基板内には、上記微細流路に接続される部分として、試薬収納部、検体供給部、希釈液収納部、反応室、混合部等が適宜設けられている。
【0004】
マイクロ流体デバイスでは、小型化が進められているため、上記基板の大きさは、通常、平面積が1000cm以下程度であり、基板の厚みは0.5mm〜10mm程度である。従って、内部に形成される微細流路の径は、通常、5μm〜1mm程度と非常に細い。ここで流路が平坦である場合には、微細流路の径は平坦流路の断面の狭い方の幅でもって規定される。
【0005】
従って、検体、希釈液、試薬等のマイクロ流体は、上記のような非常に小さな径の流路を搬送されるため、通常の液体が送液される回路と異なり、液体の表面張力や微細流路の壁面の濡れ性などに大きく影響を受ける。従って、従来、このようなマイクロ流体デバイスの様々な部分について、種々の検討がなされている。
【0006】
マイクロ流体デバイスにおいても、他の流体回路と同様に、流体を搬送するための駆動源が必要である。下記の非特許文献1には、このようなマイクロ流体デバイスの駆動源として、マイクロ流体デバイスの外部に配置された微量送液ポンプを接続した構造が示されている。微量送液ポンプとしては、マイクロシリンジが取り付けられたシリンジポンプなどが挙げられている。
【0007】
しかしながら、マイクロ流体デバイスの外部にシリンジポンプなどを接続した構造では、マイクロ流体デバイス以外に外付けの微量送液ポンプを必要とする。従って、持ち運びに際し、マイクロ流体デバイスの他に、微量送液ポンプも運ばねばならず、使用に際しても、両者を接続する煩雑な作業が強いられていた。また、使用後にも、マイクロ流体デバイスから、微量送液ポンプを取り外し、微量送液ポンプを持ち帰ったりしなければならなかった。
【0008】
このような煩雑性を解消するものとして、マイクロ流体デバイスの基板内にマイクロポンプを構成する方法が研究されている。ここで、マイクロポンプとは、上記のような微細流路にマイクロ流体を送液する駆動源であって、典型的には、総体積が1cm以下程度の非常に小さなポンプをいうものとする。例えば、特許文献1には、MEMS加工技術により、非常に小型化されたダイヤフラム構造を備えたマイクロポンプが開示されている。また、下記の特許文献2には、微小ピストンにより断続的に送液するマイクロポンプが開示されている。また、下記の特許文献3には、微細流路上に電気浸透流を発生させる方法により、送液を行うポンプが開示されている。また、下記の特許文献4には、固体電解質を用いた水素ポンプからなるマイクロポンプが開示されている。
【0009】
他方、下記の特許文献5には、基板内に構成されたマイクロポンプ室に、熱または光線によりガスを発生する材料が充填されているマイクロポンプが開示されている。ここでは、マイクロポンプ室に配置された熱または光線によりガスを発生する材料に対し、熱エネルギーを与えたり、あるいは光を照射することにより、ガスが発生される。そして、この発生したガスの圧力により、微細流路内のマイクロ流体が送液される。特許文献5では、熱または光線によりガスを発生する材料としては、酸素含有量が15〜55重量%のポリオキシアルキレン樹脂が示されている。
【非特許文献1】「サイエンス」(1998年、第282巻、第484頁)
【特許文献1】特開2001−132646号公報
【特許文献2】特開2002−021715号公報
【特許文献3】特開平10−10088号公報
【特許文献4】USP3,489,670
【特許文献5】特開2005−297102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜4に記載の様々なマイクロポンプでは、構造が複雑であり、小型化が困難であった。特に、ダイヤフラム構造や微小ピストンを用いた特許文献1,2に記載のポンプでは、機械的な構造を有するため、小型化が困難であるだけでなく、送液されるマイクロ流体において脈動が生じるという問題があった。
【0011】
他方、特許文献3に記載のように、電気浸透流を発生させるポンプは、高い電圧を印加する必要があるため、別途高電圧の電源が必要であった。
【0012】
他方、特許文献4に記載の固体電解質を用いた水素ポンプでは、組み立てが困難であり、かつ導電線ならびにガス流路等の引き回しが難しく、従って、マイクロ流体デバイスの基板内に多くのポンプを高密度に実装することが困難であった。
【0013】
これに対して、特許文献5に記載のマイクロポンプでは、熱または光によりガスを発生する材料が、加熱または光の照射によりガスを発生するため、複雑な機械的構造を必要とせず、また高電圧の印加も必要としない。従って、マイクロポンプの構造の簡略化及び小型化を進めることができる。しかも、上記熱または光線によりガスを発生する材料を充填するマイクロポンプ室を形成すればよいだけであるため、マイクロ流体デバイスの基板への加工も容易である。
【0014】
しかしながら、特許文献5に記載のマイクロポンプでは、酸素含有量が15〜55重量%のポリオキシアルキレン樹脂を用いてマイクロポンプが構成されているが、実際に加熱したり、光線を照射したとしても、十分なガス圧を得ることが困難であり、従って、マイクロポンプの小型化に限度があった。すなわち、効率が十分でないため、比較的大きなマイクロポンプ室内に、比較的多くのガス発生材料を充填しなければならず、マイクロポンプの小型化が困難であった。また、加熱及び光の照射により、上記材料がガスを発生するが、応答性が十分でないため、大きなガス圧を瞬時に得ることも困難であった。
【0015】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、マイクロ流体デバイスの基板内に非常に小型にかつ簡単に構成でき、しかも送液効率に優れたマイクロポンプ装置及び該マイクロポンプ装置を用いたマイクロ流体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の第1の発明によれば、基板内に微細流路が形成されているマイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置であって、前記基板内にガス発生室が形成されており、前記ガス発生室が臨むように基板の一面に設けられた光学窓と、前記ガス発生室内に収納されており、光学窓を通して光が照射された際にガスを発生する光応答性ガス発生部材とを備え、前記光応答性ガス発生部材が、光応答性ガス発生樹脂組成物と、該光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている支持部材とを有し、かつ光の照射により発生したガスを外部に放出するガス流路を有することを特徴とする、マイクロポンプ装置が提供される。
【0017】
第1の発明に係るマイクロポンプ装置では、好ましくは、上記支持部材は多孔性部材であり、従って、光の照射により発生したガスが、多孔性部材の多数の孔を通じて速やかに光応答性ガス発生部材から放出される。従って、マイクロポンプ装置の送液効率を効果的に高めることができる。
【0018】
また、多孔性部材については特に限定されないが、該多孔性部材が複数の繊維を集合してなる繊維状部材からなる場合には、繊維状部材の網目状の空間から発生したガスが速やかに放出される。上記繊維状部材が面である場合には、面の多数の網目から、発生したガスが速やかに放出される。
【0019】
また、上記支持部材は、不織布であってもよく、その場合には、不織布面に付着した光応答性ガス発生部材からガスが速やかに放出されるため、すなわち光応答性ガス発生樹脂組成物のみを用いた場合に比べて、内部で発生したガスがより速やかに放出されことになるため、マイクロポンプ装置の送液効率を高めることができる。
【0020】
第1の発明に係るマイクロポンプ装置では、好ましくは、前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材の前記光学窓と反対側の面に配置されており、光学窓から照射されてきた光を反射する反射部材がさらに備えられている。この場合には、反射部材により反射された光を利用して、光応答性ガス樹脂組成物におけるガスの発生をより一層促進することができる。よって、より高い送液効率のマイクロポンプ装置を提供することができる。
【0021】
本願の第2の発明によれば、基板内に微細流路が形成されているマイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置であって、前記基板内にガス発生室が形成されており、前記ガス発生室が臨むように基板の一面に設けられた光学窓と、前記ガス発生室内に収納されており、光応答性ガス発生樹脂組成物を含み、前記光学窓を通して光が照射された際にガスを発生する光応答性ガス発生部材とを備え、前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材の前記光学窓と反対側の面に配置されており、前記光学窓から照射されてきた光を反射する反射部材とを備えることを特徴とする、マイクロポンプ装置が提供される。
【0022】
本発明(第1,第2の発明)において、上記反射部材は、好ましくは、金属箔からなり、その場合には、容易に入手可能な金属箔により反射部材を構成することができる。
【0023】
上記マイクロポンプ装置では、好ましくは、前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材と、前記光学窓の内面との間に空気層が形成されている。この場合には、光応答性ガス発生部材から発生するガスが、光応答性ガス発生部材と光学窓の内面との間の空気層を介して速やかにガス発生室内に拡散し、マイクロポンプとしての立ち上がり性能が改善される。このような構造を作る方策としては、例えば、光応答性ガス発生部材をガス発生室の光学窓と反対側の内面に粘着貼合して固定するといった方法をとることができる。
【0024】
また、本発明に係るマイクロポンプ装置は、好ましくは、前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材と前記光学窓とが多数の点で点接触されている。この場合には、光応答性ガス発生部材と、光学窓との間に、点接触されている部分以外に空間が形成されることになるため、該空間に速やかにガスが導かれ、ガス発生室内の圧力が速やかに高められる。
【0025】
本発明において、上記光応答性ガス発生樹脂組成物は、好ましくは、バインダー樹脂と光が照射された際にガスを発生する気体発生剤とを含む。この場合、バインダー樹脂をマトリックスとするため、光応答性ガス発生樹脂組成物を、上記支持部材に容易に付着させたり、含浸させたりすることができる。また、気体発生剤が、アゾ化合物またはアジド化合物であることが好ましく、その場合には、光の照射により、アゾ化合物またはアジド化合物が分解し、ガスが速やかに発生する。
【0026】
本発明に係るマイクロポンプ装置は、マイクロ流体デバイス基板内に設けられてもよいし、別に構成して、粘着貼合または圧接等の手段により使用時にマイクロ流体デバイスと組み合わせて使用してもよい。マイクロポンプ装置から放出されるガスが、マイクロ流体デバイスの微細流路内の液体をその排除体積効果により駆動し、マイクロポンプとして機能する。
【0027】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、内部にマイクロ流体が搬送される微細流路を有し、該微細流路に連ねられた測定セルと、前記微細流路にマイクロ流体を駆動するためのガスを発生するためのガス発生室とが設けられた基板と、前記基板のガス発生室を用いて構成された本発明のマイクロポンプ装置とを備える。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明に係るマイクロポンプ装置では、基板内に形成されたガス発生室内に、光応答性ガス発生部材が収納されており、光学窓から光を照射することにより、マイクロ流体を駆動するためのガスが発生される。この場合、光応答性ガス発生部材は、光応答性ガス発生樹脂組成物と、該光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている支持部材とを有し、かつ光の照射により発生したガスを外部に放出するガス流路を有するので、光の照射により光応答性ガス発生樹脂組成物において発生したガスが、上記ガス流路を通じて光応答性ガス発生部材の外部に速やかに放出される。従って、ガスの流速が高められ、かつガス圧も高められるので、マイクロ流体の送液効率を効果的に高めることが可能となる。
【0029】
第2の発明に係るマイクロポンプ装置では、ガス発生室内において、光応答性ガス発生部材の光学窓と反対側の面に反射部材が配置されており、それによって、光学窓から照射されてきた光が反射される。そのため、反射部材により反射された光を利用して、光応答性ガス発生部材におけるガスの発生が促進される。よって、マイクロポンプ装置の送液効率を効果的に高めることができる。
【0030】
よって本発明によれば、小型でありながら、送液効率に優れたマイクロポンプ装置を提供することができ、例えば、該マイクロポンプ装置が構成されるマイクロ流体デバイスの小型化も進めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0032】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態のマイクロ流体デバイスの模式的正面断面図及び該マイクロ流体デバイスで構成されているマイクロポンプの構造を示す部分切欠拡大正面断面図である。
【0033】
図1(a)に示すように、マイクロ流体デバイス1は、複数のプレートを積層してなる基板2を有する。基板2は、ベースプレート3と、ベースプレート3上に積層された中間プレート4〜6と、中間プレート6上に積層されたトッププレート7とを有する。なお、基板2の積層構造はこれに限定されるものではない。
【0034】
上記基板2内に複数の微細流路8,9が設けられている。微細流路9には、図示しない試薬貯留部や検体供給部が接続されている。上記微細流路8に、マイクロポンプ室10が接続されている。図1(a)及び(b)に示すように、マイクロポンプ室10は、基板2内に形成されている。より具体的には、本実施形態では、ベースプレート3の上面に開いたガス発生室11がベースプレート3に設けられている。ガス発生室11の下面には、光学窓12が設けられている。光学窓12は、後述する光応答性ガス発生樹脂組成物に光を照射した際に、光を発生させるための該光を透過する材料により構成されている。
【0035】
本実施形態では、ベースプレート3が透明部材からなり、ベースプレート3を構成する透明部材により、ベースプレート3に一体に形成されている。このような透明部材としては、ガラスまたは透明性を有する合成樹脂を用いることができ、その材料は特に限定されるものではない。
【0036】
上記基板2のベースプレート3以外の中間プレート4〜6及びトッププレート7等を構成する材料についても、合成樹脂等の適宜の材料により形成することができる。
【0037】
他方、光学窓12は、ベースプレート3と別部材で形成されていてもよい。すなわち、ベースプレート3の一部に開口を設け、該開口に光学窓12を構成する透明部材をガス発生室11を気密封止するように固定してもよい。このような構成をとる場合、ベースプレートを着色することで迷光を防ぎ、マイクロポンプを多数並べた場合でもひとつひとつを誤動作なく確実に制御できる。
【0038】
また、ベースプレート3において、ガス発生室11が下方に開口しており、ベースプレート3の下面に透明なプレートをさらに積層して、光学窓12を形成してもよい。
【0039】
このとき、光学窓を形成する透明なプレートには、光学窓以外を遮光する目的で、塗装もしくはフィルム貼合がなされてもよい。
【0040】
ガス発生室11は、ベースプレート3の上面に開口している。そして、ガス発生室11内には、光応答性ガス発生部材13が収納されている。
【0041】
上記ガス発生室11の平面形状は特に限定されず、円形または矩形等の適宜の形状とし得る。また、ガス発生室11の深さは、光応答性ガス発生部材13が収納され得る限り、特に限定されるものではない。
【0042】
通常、ガス発生室11の大きさは、小型のマイクロポンプを構成する必要があるため、平面積が400mm以下程度、深さが0.5mm〜10mm程度とされることが望ましい。特にマイクロポンプのパワーが必要とされる場合には、ガス発生室を複数を連結して使用することもできる。
【0043】
上記光応答性ガス発生部材13は、光の照射により、ガスを発生する光応答性ガス発生樹脂組成物と、該光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている支持部材とを有する。
【0044】
上記光応答性ガス発生樹脂組成物としては、光が照射された際に、ガスを発生する適宜の光応答性ガス発生樹脂組成物を用いることができ、特に限定されるものではない。このような光応答性ガス発生樹脂組成物の具体的な例については後ほど詳述することとする。
【0045】
上記支持部材の表面に、光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている。ここで、支持部材としては、発生したガスを速やかに放出し得る適宜の支持部材を用いることができる。
【0046】
本実施形態では、上記支持部材は、綿により形成されている。すなわち、繊維状部材である綿では、多数の繊維が集合されて絡み合っており、繊維間の隙間から発生したガスが速やかに外部に放出される。上記綿の各繊維の表面に上記光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されるように、光応答性ガス発生樹脂組成物が綿に含浸されて付着されている。この場合、光応答性ガス発生部材13においては、支持部材を構成している綿に、光応答性ガス発生樹脂組成物が付着した段階においても、綿の繊維間の隙間が残存する程度の光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている。そのため、光の照射によりガスが発生すると、ガスが上記隙間から速やかに外部に放出されることとなる。
【0047】
本実施形態では、光応答性ガス発生部材の上記支持部材として、綿が用いられているが、綿以外の、他の繊維状部材を用いてもよい。すなわち、ガラス繊維、PET(ポリエチレンテレフタレート)やアクリルなどの合成繊維、パルプ繊維、金属繊維などが集合し、絡み合っている適宜の繊維状部材を支持部材として用いることができる。
【0048】
また、繊維状部材に限らず、発生したガスが外部に速やかに放出され得る限り、繊維状部材だけでなく、繊維状部材を含む様々な多孔性部材を支持部材として用いることができる。ここで、多孔性部材とは、外表面に連なった多数の孔を有する部材を広く含むものとし、上記綿などのように、繊維間の隙間が外部に連なっている部材もまた多孔性部材に含めることとする。
【0049】
従って、上記繊維状部材以外に、内部から外表面に連なる多数の孔が形成されている、例えば、スポンジ、破泡処理発泡体、多孔質ゲル、粒子融着体、ガス圧補助拡厚成形体、ハニカム構造体、筒状ビーズ、波折チップスなどの多孔性材料も上記支持部材を構成する多孔性部材として好適に用いることができる。
【0050】
また、上記支持部材の材質は、特に限定されず、様々な無機材料または有機材料を用いることができる。このような無機材料としては、ガラス、セラミック、金属、または金属酸化物、有機材料としては、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ナイロン、セルロース、アセタール樹脂、アクリル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアミド、またはポリイミドなどを用いることができる。
【0051】
また、上記支持部材は、上記繊維状部材を含む多孔性部材からなることが好ましいが、より好ましくは、上記孔が、光学窓12側の表面から光学窓12が設けられている側とは反対側の面に連なっている連続気孔のようなガス流路が孔として存在している多孔性部材が望ましい。その場合には、外部で発生した熱が、より速やかに、微細流路8側に放出されることになる。
【0052】
上記支持部材は、多孔性部材であることが好ましいが、不織布で形成されていてもよい。不織布としての表面に、上記光応答性ガス発生樹脂組成物を付着させることにより、ガス発生室内に光応答性ガス発生樹脂組成物のみを充填させた場合に比べて、光応答性ガス発生樹脂組成物の単位体積当りの表面積を増加させ、それによって、ガスの発生効率を高めることができる。
【0053】
本実施形態のマイクロポンプ装置10では、光応答性ガス発生部材13が、上記支持部材に光応答性ガス発生樹脂組成物を付着させた構成を有するため、光の照射により発生したガスが、速やかに光応答性ガス発生部材13の外表面から放出されることとなる。従って、単に光応答性ガス発生樹脂組成物の塊を収納した場合に比べ、ガス発生効率を、例えば10倍以上と飛躍的に高めることが可能となる。
【0054】
上記光応答性ガス発生樹脂組成物としては、光の照射によりガスを発生する適宜の組成物を用いることができる。このような光応答性ガス発生樹脂組成物は、特に限定されるわけではないが、好ましくは、バインダー樹脂と、光の照射によりガスを発生する気体発生剤とを含む組成物が望ましい。バインダー樹脂を用いることにより、光応答性ガス発生樹脂組成物を、上記支持部材の表面に容易に付着させることができる。このようなバインター樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミドなどの高分子材料を用いることができる。また、これらの共重合体や配合組成物を用いてもよい。バインダー樹脂の紫外光吸収帯は、気体発生剤や光増感剤の紫外光吸収帯よりも短波長であることが望ましい。
【0055】
また、光が照射された際に気体を発生する気体発生剤についても、特に限定されないが、例えば、アゾ化合物、アジド化合物、ポリオキシアルキレン樹脂、または光酸発生剤と炭酸水素ナトリウムの配合物などが用いられる。好ましくは、アゾ化合物またはアジド化合物が、ガス発生効率が高いため、好適に用いられる。
【0056】
上記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドロレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラハイドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾイリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾイリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミダイン)ハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシアシル)−2−メチル−プロピオンアミダイン]、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミダイン]プロパン}、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアンカルボニックアシッド)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が挙げられる。なかでも2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)が好適である。これらのアゾ化合物は、光、熱等による刺激により窒素ガスを発生する。
【0057】
上記アジド化合物としては、例えば、3−アジドメチル−3−メチルオキセタン、テレフタルアジド、p−tert−ブチルベンズアジド;3−アジドメチル−3−メチルオキセタンを開環重合することにより得られるグリシジルアジドポリマーなどのアジド基を有するポリマー等が挙げられる。
【0058】
なお、上記アゾ化合物やアジド化合物は、光の照射だけでなく、熱によっても分解し、ガスを発生するため、アゾ化合物やアジド化合物を用いた場合には、光の照射だけでなく、加熱を併用して、ガスを発生してもよい。
【0059】
光酸発生剤としては、ビス(シクロヘキシルサルフォニル)ジアゾメタン、ビス(t−ブチルサルフォニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンサルフォニル)ジアゾメタン、トリフェニルサルフォニウム、トリフルオロメタンサルフォネート、ジメチル−4−メチルフェニルサルフォニウム、トリフルオロメタンサルフォネート、ジフェニル−2,4,6−トリメチルフェニルサルフォニウム、p−トルエンサルフォネートといったジアゾジスルホン系やトリフェニルスルホニウム系の光酸発生剤等が使用できる。
【0060】
また、上記光応答性ガス発生樹脂組成物には、光の照射による応答性を高めるために、公知の増感剤を含有してもよい。このような増感剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンジエート、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジンのように窒素が環系の一部をなしているもの、アリルチオ尿素、O−トリルチオ尿素、ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩、N,N−ジ置換−p−アミノベンゾニトリル系化合物、トリ−n−ブチルフォスフィン、N−ニトロソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ−1,3−オキサジン化合物、ホルムアルデヒドかアセトアルデヒドとジアミンの縮合物、アントラセン(又はその誘導体)、キサンチン、N−フェニルグリシン、フタロシアニン、ナフトシアニン、チオシアニン等のシアニン色素類ポルフィリン(又はその誘導体)等が挙げられる。これらの増感剤は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0061】
上記光応答性ガス発生樹脂組成物におけるバインダー樹脂と気体発生剤との配合割合は特に限定されないが、バインダー樹脂100重量部に対し、気体発生剤は、十分なガスを発生させる量として、40〜400重量部の範囲で配合することが好ましい。40部未満では、十分な量のガスが発生し難く、400重量部を超えると、光応答性ガス発生樹脂組成物が脆くなり、光応答性ガス発生樹脂組成物の小片がガス流路を閉塞してしまうことがある。
【0062】
また、上記増感剤を用いる場合、増感剤の配合割合は、特に限定されないが、増感作用を十分に得るためには、上記気体発生剤100重量部に対し、0.1〜10重量部程度の範囲とすればよい。0.1重量部未満では、十分な増感作用を得ることができないことがあり、10重量部を超えても増感作用が飽和することがある。
【0063】
これらのガス発生剤のマイクロポンプとしてのガス発生特性をみると、光照射時間と共にガス発生量が比例関係にあるもの、立ち上がりは遅いものの総ガス発生量が多いもの、一定時間後にガス発生量が急増するもの、など様々な特性が見られる。マイクロポンプ作製にあたっては、これらの特性を上手く組み合わせることが有効である。
【0064】
本発明に用いられる光は、光応答性ガス発生剤、または光増感剤が吸収をもつ波長であれば、特に限定されず、好ましくは、波長が10〜400nmの紫外線および紫外線に近い400〜420nmの青色光が好ましい。より好ましくは、300〜400nmの近紫外線である。
【0065】
また、上記光応答性ガス発生部材13においては、上記支持部材の表面に光応答性ガス発生樹脂組成物が付着された形態を有するが、好ましくは、図1(a)に示すように、光応答性ガス発生部材13と光学窓12との間に空気層14が形成されることが望ましい。空気層14が形成されている場合には、発生したガスが、空気層14の空間を経由して速やかに微細流路8側に排出される。より望ましくは、図1(b)に示すように、光学窓12と光応答性ガス発生部材13との間に設けられた空気層14が中間プレート4に設けられた貫通孔4aに連なるように、光応答性ガス発生部材13の側面の外側に、ガス流路15が形成される。そのためには、光応答性ガス発生部材13の平面積は、ガス発生室11の平面積よりも小さいことが望ましい。
【0066】
また、本実施形態では、上記光応答性ガス発生部材13の光学窓12側の面には、多数の凹凸が設けられており、それによって、空気層14の体積が大きくされている。従って、このような凹凸を設けることが望ましい。
【0067】
また、本実施形態では、上記光応答性ガス発生部材13の光学窓12とは反対側の面に、反射部材17が設けられている。反射部材17は、光学窓12から照射されてきた光を反射する適宜の反射性材料により構成される。このような反射性材料としては、金属、鏡等を用いることができるが、好ましくは、薄く、マイクロ流体デバイスの低背化を進め得るため、金属箔や金属蒸着膜等を用いることができる。好ましくは、反射性に優れ、安価であるアルミニウム箔などの金属箔が好適に用いられる。また、Alなどの適宜の金属もしくは合金を蒸着することにより、より薄い反射層を形成することも可能である。
【0068】
上記反射部材17の厚みは特に限定されないが、薄い方が好ましい。金属箔からなる場合、反射部材17の厚みは1μm〜500μm程度であり、蒸着膜などの薄膜形成法により形成された薄膜により反射部材17が形成される場合には、1μm以下程度の厚みとすればよい。
【0069】
なお、反射部材17には、貫通孔17aを形成する必要がある。貫通孔17aは、排出孔16に重なり合う位置に設けられている。貫通孔17aを形成することにより、発生したガスを貫通孔17aを経由して貫通孔4aに排出することができる。貫通孔4aは、中間プレート4に形成されており、かつ微細流路8に連なっている。微細流路8は、中間プレート5に、流路幅に応じた貫通開口部を設けることにより形成されており、該貫通開口部が、下方に中間プレート4及び上方の中間プレート6により閉成されて、微細流路8が形成されている。該微細流路8は、中間プレート6に設けられた接続用貫通孔6aに連ねられている。接続用貫通孔6aは、微細流路9に開口している。微細流路9は、トッププレート7の下面に、微細流路9の平面形状に応じた凹部を形成することにより設けられている。
【0070】
前述したように、マイクロ流体デバイスでは、微細流路の幅は、通常、5μm〜1mm程度と非常に小さく、従って、微細流路を送液されるマイクロ流体は、基板2の内面との間の表面張力の影響を大きく受け、毛細管現象の影響も大きく受ける。従って、通常の大きな流路を有する流体回路とは異なる挙動をマイクロ流体が示すこととなる。このようなマイクロ流体デバイス1では、流路の長さ部分の一部において、流路の横断面の全面積を占めるものの、該流体の前後に空気層が存在する状態で、すなわちマイクロ流体は液滴の状態で送液されることができる。このような場合には、マイクロポンプ装置10により湧出するガスの排除体積効果により、マイクロ流路中の液滴が速やかに輸送される。そして、この場合、マイクロポンプ装置10におけるガスの圧力が急激に高まることが、マイクロ流体を速やかに送液する上で望ましい。
【0071】
本実施形態のマイクロポンプ装置10では、上記のように、光応答性ガス発生部材13が、支持部材に光応答性ガス発生樹脂組成物を付着した構造を有し、ガスが速やかに外部に放出されるので、光の照射によりガスを発生させた場合、ガス圧を急激に高めることができる。しかも、上記反射部材17が設けられているので、光が効果的に利用され、それによっても、マイクロポンプ装置10の送液効率が高められる。
【0072】
よって、同じ量の光応答性ガス発生樹脂組成物を用いた場合のガス発生効率及び応答性を高めることができ、ひいてはマイクロポンプ装置10の小型化を進め、マイクロ流体デバイス1全体の小型化を進めることが可能となる。
【0073】
上記実施形態では、光応答性ガス発生部材13は、支持部材表面に光応答性ガス発生樹脂組成物が付着された形態を有していた。しかしながら、本願の第2の発明では、光応答性ガス発生部材は、必ずしも光応答性ガス発生樹脂組成物が支持部材に付着されている形態を有する必要はない。すなわち、上記実施形態のマイクロポンプ装置10において、光応答性ガス発生部材13に代えて、従来のマイクロポンプ装置と同様に、光応答性ガス発生樹脂組成物材料のみをガス発生室11内に収納してもよい。そして、その他の構造は、上記実施形態と同様とした場合、本願の第2の発明の実施形態としてのマイクロポンプ装置が構成される。この場合、上記実施形態と同様に、反射部材17が、光応答性ガス発生部材の光学窓12とは反対側に配置されているので、反射部材17の存在により、光が効果的に利用され、それによってマイクロポンプ装置の送液効率が高められる。
【0074】
上記本願の第2の発明の実施形態の説明として、上記実施形態のマイクロポンプ装置10の説明の上記支持部材以外の構成についての説明を援用することとする。また、以下の図2を参照して行う変形例のマイクロポンプ装置20の説明及びマイクロ流体デバイス1の説明についても、上記第2の発明の実施形態としてのマイクロポンプ装置の説明に援用することとする。すなわち、第2の発明の実施形態も、以下の変形例と同様に変形でき、また以下のマイクロ流体デバイス1に適用することができる。
【0075】
図2は、上記実施形態のマイクロポンプ装置10の変形例を説明するための模式的部分切欠正面断面図である。この変形例のマイクロポンプ装置20では、光応答性ガス発生部材21は、光学窓12に対して、多点接触をしている。すなわち、本変形例では、光応答性ガス発生部材21は、光学窓12側において、凹凸を有し、上記実施形態の場合と同様に、多数の山部が連ねられた形状を有する。この多数の山部の頂点が、光学窓12の内面に接触し、多点接触している。従って、光応答性ガス発生部材21は、光学窓12の内面に多点接触している。この場合には、複数の山間の谷部において、ガスが放出される空間すなわち空気層が形成されているため、発生したガスを速やかに放出することができる。しかも、光応答性ガス発生部材21の上記多数の山が、光学窓12の内面に点接触的に接触しているので、マイクロ流体デバイス1を持ち歩いた場合等において、振動や外力が加えられたとしても、ガス発生室11内で光応答性ガス発生部材21が移動し難いため、上記山部間の空気層を確実に確保することができる。また、ガス発生室11内で、光応答性ガス発生部材21が動き難いため、光応答性ガス発生部材21の移動に伴う変形等もう生じ難い。よって、マイクロポンプ装置20では、信頼性も高められる。
【0076】
本発明に係るマイクロ流体デバイス1は、上記のように、マイクロ流体が搬送される微細流路8,9を基板2の内部に有し、微細流路9に、図1(a)に破線で示す測定セル18が接続されている。この測定セル18内において、微細流路9から送られてきたマイクロ流体が光学的検出方法や電気化学的検出法等を用いて測定されることになる。このような測定セルとしては、光学的な測定を行うために、液状の検体を収納するセルの他、他の方法により測定セル内の検体を検出する適宜の方法に適した測定セルが形成され得る。
【0077】
また、マイクロ流体デバイス1では、上記測定セルの他、適宜、検体を希釈するための希釈部や、混合するための混合部等が設けられる。このような構成は、従来より公知のマイクロ流体デバイスの公知の構造に従って適宜変形することができる。
【0078】
次に、具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、上記本発明のマイクロポンプ装置の効果を明らかにする。
【0079】
(実施例1)
THFとエタノールの1対1混合溶液100部を溶媒として、バインダー樹脂として メタクリル酸メチル・アクリルアミド共重合体(85:15)64部、光ガス発生剤として 2.2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]17部、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)17部、増感剤として 2,4−ジメチルチオキサントン 2部 を配合した光応答性ガス発生樹脂組成物を調製し、厚さ約1mmのベンコットンに染み込ませて暗所にて乾燥させ、パンチで 直径8mmの円形に打ち抜いて、光応答性ガス発生部材を作製した。
【0080】
厚さ3mmのアクリル樹脂からなる基板内に、図1(a)で示すガス発生室として、平面形状が円形であり直径が8mm深さが2mmのガス発生室を形成した。上記ガス発生室内に、光応答性ガス発生支持部材を収納し、透明なアクリル粘着テープで光学窓を形成した。なお、ガス発生室内には、反射部材として、アルミ箔からなる反射部材を配置しておいた。
【0081】
上記のようにして構成したマイクロポンプ装置に、光源としてパワー紫外LED(ピーク波長365nm、出力 100mW、指向性 100°)を用い、照射面での実測値で20mW/cmの照射エネルギーで100秒間照射した。その結果、100秒間の送液量は34μLであった。毎秒の送液量は平均346nL/sであり、これは、断面100μm×100μmの微細流路においては、毎秒約35mm液滴を進めることができる。この結果は、マイクロ流体デバイスに用いるマイクロポンプとしては、充分な性能である。
【0082】
なお、実施例1のマイクロポンプ装置について、上記パワー紫外LEDを、パルス制御することにより照射エネルギーを種々変更し、流量の変化を測定した。結果を図3に示す。図3から明らかなように、実施例1のマイクロポンプ装置では、出力流量は、照射エネルギーに対して良好な直線性を示すことがわかる。従って、照射エネルギーをコントロールすることにより、流量を細やかに制御し得ることがわかる。
【0083】
また、実施例1のマイクロポンプ装置において、20mW/cmのエネルギーの紫外線を照射する時間を変化させ、マイクロポンプ装置の流量の変化を求めた。結果を図4に示す。図4の横軸が照射時間を示し、縦軸が体積流量(μL)を示す。図4から、照射時間が長くになるにつれて、体積流量が大幅に増加することがわかる。
【0084】
(実施例2)
アルミニウム箔からなる反射部材を省いたことを除いては、実施例1と同様にしてマイクロポンプ装置を作製し、実施例1の場合と同様に、光源としてパワー紫外LEDを用い、20mW/cmの照射エネルギーで、照射時間を種々変更し、実施例2のマイクロポンプ装置の体積流量の変化を求めた。結果を図4に示す。図4から明らかなように、照射時間が長くなるにつれて、体積流量が増加していることがわかる。
【0085】
(比較例1)
アルミニウム箔とベンコットンを省き、光応答性ガス発生樹脂組成物を、乾燥後の厚みが約50μmになるようにガス発生室内に塗工して暗所にて乾燥させたことを除いては、実施例1と同様にして基板内にマイクロポンプ装置を構成し、実施例1の場合と同様に、パワー紫外LEDを光源として用い、20mW/cmの照射エネルギーで照射時間を種々変化させ、体積流量の変化を求めた。結果を図4に示す。図4から明らかなように、比較例1では、実施例1,2に比べ、照射時間にかかわらず、体積流量が低いことがわかる。また、照射時間を延長しても、体積流量の増加割合が非常に小さいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るマイクロ流体デバイスの略図的正面断面図及び該マイクロ流体デバイスのマイクロポンプ装置部分を拡大して示す部分正面断面図。
【図2】本発明のマイクロポンプ装置の変形例を示す部分正面断面図。
【図3】実施例1のマイクロポンプ装置に紫外線を照射した場合の照射エネルギーと、流量との関係を示す図。
【図4】実施例1,2及び比較例1のマイクロポンプ装置において、紫外線を照射した時間と、体積流量との関係を示す図。
【符号の説明】
【0087】
1…マイクロ流体デバイス
2…基板
3…ベースプレート
4〜6…中間プレート
4a…貫通孔
6a…貫通孔
7…トッププレート
8,9…微細流路
10…マイクロポンプ装置
11…ガス発生室
12…光学窓
13…光応答性ガス発生部材
14…流路
17…反射部材
17a…貫通孔
18…測定セル
20…マイクロポンプ装置
21…光応答性ガス発生部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板内に微細流路が形成されているマイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置であって、
前記基板内にガス発生室が形成されており、
前記ガス発生室が臨むように基板の一面に設けられた光学窓と、
前記ガス発生室内に収納されており、前記光学窓を通して光が照射された際にガスを発生する光応答性ガス発生部材とを備え、
前記光応答性ガス発生部材が、光応答性ガス発生樹脂組成物と、該光応答性ガス発生樹脂組成物が付着されている支持部材とを有し、かつ光の照射により発生したガスを外部に放出するガス流路を有することを特徴とする、マイクロポンプ装置。
【請求項2】
前記支持部材が多孔性部材である、請求項1に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項3】
前記多孔性部材が、複数の繊維を集合してなる繊維状部材からなる、請求項2に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項4】
前記繊維状部材が、綿である、請求項3に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項5】
前記支持部材が、不織布である、請求項2に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項6】
前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材の前記光学窓と反対側の面に配置されており、前記光学窓から照射されてきた光を反射する反射部材をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項7】
基板内に微細流路が形成されているマイクロ流体デバイスに用いられるマイクロポンプ装置であって、
前記基板内にガス発生室が形成されており、
前記ガス発生室が臨むように基板の一面に設けられた光学窓と、
前記ガス発生室内に収納されており、光応答性ガス発生樹脂組成物を含み、前記光学窓を通して光が照射された際にガスを発生する光応答性ガス発生部材とを備え、
前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材の前記光学窓と反対側の面に配置されており、前記光学窓から照射されてきた光を反射する反射部材とを備えることを特徴とする、マイクロポンプ装置。
【請求項8】
前記反射部材が、金属箔からなる、請求項6または7に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項9】
前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材と、前記光学窓の内面との間に空気層が形成されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項10】
前記ガス発生室内において、前記光応答性ガス発生部材と前記光学窓とが多数の点で点接触されている請求項1〜9のいずれか1項に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項11】
前記光応答性ガス発生樹脂組成物が、熱可塑性樹脂と、光が照射された際にガスを発生する気体発生剤とを含む請求項1〜10のいずれか1項に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項12】
前記気体発生剤が、アゾ化合物またはアジド化合物である、請求項11に記載のマイクロポンプ装置。
【請求項13】
内部にマイクロ流体が搬送される微細流路を有し、該微細流路に連ねられた測定セルと、前記微細流路にマイクロ流体を駆動するためのガスを発生するためのガス発生室とが設けられた基板と、
前記基板のガス発生室を用いて構成された請求項1〜12のいずれか1項に記載のマイクロポンプ装置を備えることを特徴とするマイクロ流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−216192(P2008−216192A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57385(P2007−57385)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】