説明

マイクロミキサー

【課題】アルデヒド製造において,超低温を必要とせずにアルデヒド選択的な反応を行わせることができるマイクロミキサーの提供。
【解決手段】第1,2の外部流路と,縦方向流路よりなる並走流路ユニットを,間に横方向流路を挟んで交互にずらして多段に配置してなる多分岐流路,及び第3の外部流路を含んでなり,第1の外部流路が多分枝流路の一端に,第2の外部流路が横方向流路の1つに,それぞれ連通するものである混合ユニットを2個,第3の外部流路同士,又は第1及び2の流路同士で,それぞれ連結してなるマイクロミキサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マイクロミキサーに関し,より詳しくは,分岐する多段の微細流路を集積したマイクロミキサー,及びこれを用いたアルデヒド類の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド類は,その反応性の高さから,種々の医薬及び工業化学製品の中間体として用いられている。例えば,N−ベンジル−4−ホルミルピペリジンは,老年性痴呆症やアルツハイマー病の治療薬である塩酸ドネペジルの重要な合成中間体として利用されている。この化合物を例にとってアルデヒド類の合成方法をみると,次のものが挙げられる。
(1)N−ベンジルピペリジンカルボン酸エチルを超低温下(−78℃)に,水素化ジイソブチルアルミニウムと反応させる方法(特許文献1)
(2)N−ベンジルピペリジンカルボン酸エステルを,水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムと環状アミンとアルカリ金属アルコラートから調製された還元剤を作用させる方法(特許文献2)
【0003】
上記(1)の方法において−78℃という超低温を要するのは,反応温度がこれより高いと,還元が更に進行して,対応するアルコールを得る結果となるからである。しかしながら,反応条件としてこのような超低温を必要とすることは,アルデヒド類の工業的製法としては不適当である。これに対し,上記(2)の方法は,10℃という温度で反応を行うことができる。しかしながら,水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムと環状アミンとアルカリ金属アルコラートから還元剤を調製しなければならず,工業的製法にとって重要な要素である利便性を欠いている。
【0004】
一方,μmオーダーの,微小な流路(チャンネル)やチャンバーを用いることによって,2種以上の液体を効率よく混合し,又は,これによって化学反応を促進し,又は更に反応の温度制御をも容易にするマイクロミキサー(又はマイクロリアクター)と呼ばれる装置が知られている(以下,本明細書において合わせて「マイクロミキサー」という。)。例えば,一本の溝の一方の端から2種類の物質の注入し,他方の端から取り出すようにしたもの(特許文献3参照),流体の流路を複数回交差させることにより,2種の流体の混合効率を高めようとするもの(特許文献4参照),接触することなく互に交差させた流路を混合室内に開口させたもの(特許文献5参照),スリット状の第1及び第2の各供給口,とこれらを横断するように開口する入液口,及びこれに繋がる混合部を有するもの(特許文献6参照),Y字状の反応流路を有するもの(特許文献7参照),供給口に繋がる環状の流路と,これに重なる放射状微小流路,及びその中央に位置する合流部及び流体溜室を有するもの(特許文献8参照),微細な流路のグループを通して2種の反応物を2群の流体フィラメントに分割しジェットとして混合/反応室内に供給するもの(特許文献9参照),流体を流路により分岐させ次いで分岐面に対して90℃回転させて合流させるもの(特許文献10参照),複数の流体を同心軸で積層させて反応流路で合流させるもの(特許文献11参照),反応流路中で多段の混合衝突を起こさせるようにしたもの(特許文献12参照)等が知られている。
【0005】
また,有機物を金属水素化物やその誘導体により還元するための方法として,微小反応容器中で混合して滞留時間にわたって反応させ,還元された有機化合物を単離する方法が提案されている(特許文献13参照)。同文献には,例として,静的マイクロミキサー中で,メチル−3−(3−メチル−3H−イミダゾール−4−イル)アクリレートと水素化ジイソブチルアルミニウムとを,対応するアルコールを得る目的で,3.75〜30分間にわたって滞留させて反応させたとの記載があるが,還元をアルデヒドまでで止めることの記載はなく,「静的マイクロミキサー」の具体的構造も,反応試剤相互の当量比も,反応結果も,記載されていない。
【0006】
また,幅の狭く長さの短い複数の並列した縦方向流路とこれらを繋ぐ幅の狭い横方向流路とからなる櫛状の流路群を,全体としての流れの方向に沿って平面的に多段配列した形のマイクロミキサーが報告されている(特許文献14)。このマイクロミキサーは,アルキルエステル類と金属水素化物又はその誘導体等の還元剤とを反応させてアルデヒドを製造する場合において,超低温を必要とせず,比較的高い温度でのアルデヒド選択的な反応を可能にしている。
【特許文献1】米国特許第5428043号公報
【特許文献2】特開2000−136183号公報
【特許文献3】特表2001−520113号公報
【特許文献4】特表2001−520112号公報
【特許文献5】特表2003−502144号公報
【特許文献6】特開2003−210957号公報
【特許文献7】特開2004−74339号公報
【特許文献8】特開2004−113968号公報
【特許文献9】特許第3633624号公報
【特許文献10】特許第3638151号公報
【特許文献11】特開2005−46651号公報
【特許文献12】特開2005−152702号公報
【特許文献13】特表2003−528061号広報
【特許文献14】特開2007−50340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景において,本発明は,アルキルエステル類と金属水素化物等の還元剤とを反応によるアルデヒド製造において,超低温を必要とせず,比較的高い温度でのアルデヒド選択的な反応を行わせることができる,新たなタイプのマイクロミキサーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,流路を平面的に配列するのみでなく,これに垂直な方向にも導くことにより,優れたアルデヒド選択性を有するマイクロミキサーが得られることを見出し,本発明を完成させた。すなわち本発明は,以下を提供するものである。
【0009】
1.2個の混合ユニットを連結してなる,マイクロミキサーであって,各混合ユニットは,
外部からの又は外部への液体の出入りのための第1及び第2の外部流路と,外部への又は外部からの液体の出入りのための第3の外部流路と,そして該第1及び第2の外部流路と該第3の外部流路との間を連絡する多分岐流路とを含んでなり,
ここに,該多分岐流路は,2次元的に並列した複数の縦方向流路よりなる並走流路ユニットの複数個であって,縦方向で隣接して多段配列されたものである並走流路ユニットと,縦方向に隣接する並走流路ユニット同士間に,それらを横断して連通する横方向流路とを含み,ここに各並走流路ユニットを構成する個々の縦方向流路と,これに縦方向で隣接する並走流路ユニットを構成する個々の縦方向流路とが相互に,相手方の縦方向流路を形成する仕切り壁の末端に対向して配置されているものであり,
該多分岐流路の第1の末端の全幅に沿って形成された第1のチャンバーを含み,該第1のチャンバー内にこれと接する並走流路ユニットの各縦方向流路が開いており,且つ,該第1のチャンバーに該第1の外部流路が連通しており,
第2のチャンバーであって,該横方向流路のうちの1つにその全長に及ぶスリットを通して,該縦方向流路及び該横方向流路が張る平面の垂直方向から連通するように形成されたものである第2のチャンバーを含み,該第2のチャンバーに該第2の外部流路が連通しており,
該多分岐流路の,該第1の末端とは反対側の第2の末端に位置する並走流路ユニットの末端に,該第3の外部流路が連通しているものであり,
該2個の混合ユニットが,それぞれの第3の外部流路同士を,又は一方の第1及び第2の流路と他方の第1及び第2の流路とを連結してなるものである,
マイクロミキサー。
2.該縦方向流路及び該横方向流路の幅が10〜1000μmである,上記1のマイクロミキサー。
3.該スリットと該第3の外部流路との間に位置する各並走流路ユニットを構成する縦方向流路の長さが,該縦方向流路の幅の1〜10倍である,上記2のマイクロミキサー。
4.該縦方向流路及び該横方向流路の深さが,縦方向流路の幅の1〜10倍である,上記2又は3のマイクロミキサー。
5.該スリットと該第3の外部流路との間に位置する該並走流路ユニットの個数が8〜20である,上記1ないし4の何れかのマイクロミキサー。
6.該並走流路ユニットのうち,該多分岐流路の第1の末端に位置するものの縦方向流路の本数が,8〜20である,上記1ないし5の何れかのマイクロミキサー。
7.該多分岐流路の該第2の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数が該多分岐流路の該第1の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数より少なく,該第2の末端に近づくにつれて並走流路ユニットの縦方向流路本数が順次1ずつ減少し,それに応じて該並走流路ユニットの幅が狭まっているものである,上記6のマイクロミキサー。
8.該多分岐流路の該第1の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路本数と該第2の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数との差が4以上である,上記1ないし7の何れかのマイクロミキサー。
9.該第1の外部流路が形成されており且つ該第1の外部流路が連通する該第1のチャンバーと該多分岐流路とが表面に掘り込まれて形成されているものである第1の基板と,該第1の基板と重ね合わせたとき横方向流路のうちの1つにその全長に及んで重なるスリットを備えたものである中間プレートと,該中間プレートと重ね合わせたとき該スリットとその全長に及んで重なり連通する位置において表面に該第2のチャンバーが掘り込まれて形成されているとともに該第2のチャンバーに連通する第2の外部流路が形成されているものである第2の基板とを,互いに重ね合わせて固定することにより構成されているものである,上記1ないし8の何れかのマイクロミキサー。
10.カルボン酸とアルキルアルコールからなるアルキルエステルを還元して該カルボン酸に対応するアルデヒドを製造する方法であって,請求項1ないし9の何れかのマイクロミキサーの一方の側の第3の外部流路に該アルキルエステル及び金属水素化物系還元剤を同時に供給することにより,該マイクロミキサーの内部で該アルキルエステル及び該還元剤を反応させ,他方の側の第3の外部流路から流出する反応混合液をアルコール中に導入して混合することを特徴とする,該アルデヒドの製造方法。
11.カルボン酸とアルキルアルコールからなるアルキルエステルを還元して該カルボン酸に対応するアルデヒドを製造する方法であって,請求項1ないし9の何れかのマイクロミキサーの一方の側の第1及び第2の外部流路に該アルキルエステル及び金属水素化物系還元剤をそれぞれ供給することにより,該マイクロミキサーの内部で該アルキルエステル及び該還元剤を反応させ,他方の側の第1及び第2の外部流路から流出する反応混合液をアルコール中に導入して混合することを特徴とする,該アルデヒドの製造方法。
12.該アルキルエステルが,式R1−CO2−R2(式中,R1は,置換されていてよいアルキル基,置換されていてよいアラルキル基,置換されていてよいシクロアルキル基若しくは該シクロアルキル基のα位以外において環構成炭素原子の1つ又は2つ以上をヘテロ原子に置き換えてなる,置換されていてよいヘテロ環基,又は,エステルのカルボニル基が結合している部位以外の芳香環構成原子の1つ又は2つ以上がヘテロ原子であってよい,置換されていてよいアリール基を表し,R2は,アルキル基を表す。)で示されるものである,上記10又は11のアルデヒドの製造方法。
13.該還元剤が,水素化アルミニウム又はそのアルキル誘導体である,上記10ないし12の何れかのアルデヒドの製造方法。
14.該アルキルエステルと該還元剤との供給速度の比率が,時間当たり当量比で,該アルキルエステル:該還元剤=0.9:1.0〜1.0:1.0である,上記10ないし13の何れかのアルデヒドの製造方法。
15.−50℃〜−10℃の温度にて反応させるものである,上記10ないし14の何れかのアルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロミキサーは,これに供給された2種の反応試剤間の混合を促進して化学反応の効率を高め,バッチ式の反応に比して,目的の反応性生物を高い収率で得ることを可能とするため,種々の化学反応の促進に有利に用いることができる。特にアルキルエステル類を水素化アルキルアルミニウムやその誘導体(例えば,アルキル誘導体)等の金属水素化物系の還元剤により還元してアルデヒドを得る場合のように,目的生成物の反応性が非常に高く,反応試剤の一方と更に反応して副生成物を多く生成し得る場合に,これを抑制して目的化合物を高収率で得ることを可能にするため,工業生産上極めて有利である。この副反応抑制の理由は明らかでないが,反応試剤同士の高度に均一な混合が速やかに達成される結果,反応が混合物中で均一に生起し,目的物の生成とこれに作用し得る反応試剤の消費とが,混合液中で高度に均一に化されて進行するため,目的生成物とこれと反応し得る反応試剤との間の相互作用の確率が極度に低下するためと推定される。また,本発明のマイクロミキサーは,アルキルエステル類を水素化アルキルアルミニウム等の還元剤により還元してアルデヒドを製造するに際して,−78℃のような超低温を必要としないという特徴も有し,この点でも工業生産上の利点が大きい。
【0011】
また,マイクロミキサーの台数を増やして単に並列に設置して同時に反応を行わせることで,目的とする生成物収量のスケールアップが可能である。このため,バッチ式の場合のような,実験室的スケールから工業生産的スケールを可能にするための移行研究が不要となり,実験室スケールでの成果をそのまま工業生産に用いることができるという点で,迅速な工業生産への移行を可能にする。また発熱反応と吸熱反応とを問わず,反応系の温度管理を,極めて均一且つ容易に行うことができる。更には,反応試剤を連続的に供給しつつ連続的に反応を行わせることができるため,バッチ式と異なり,反応混合物の取り出し及び反応容器の洗浄,再仕込みの必要がない。従って,目的とする生成物の量に応じて,必要な長さにわたって昼夜を問わず連続的に反応を続けることができ,制御システムに組み込んで自動化することも容易であるため,生産性の向上に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のマイクロミキサーは,微細な流路を通して反応試剤の混合液を流すことに加えて,微細な多数の流路の各々を画する仕切り壁の上流側末端に混合液を繰り返し衝突させつつ流れの分岐及び合流の回数を増すことによって,極めて効率よい混合を達成し,その結果反応を促進させる。
【0013】
本発明のマイクロミキサーの多分岐流路を構成する縦方向流路及び横方向流路は,幅が通常1000μm以下,好ましくは500μm以下,より好ましくは300μm以下である。これは,幅が狭くなる程,流路内を流れる成分同士の混合が促進されるためである。但し,余り狭いと反応試剤や反応混合物の流れに対する抵抗が上昇するため,幅は通常10μm以上,好ましくは50μm以上,より好ましくは100μm以上である。
【0014】
本発明のマイクロミキサーにおいて,スリット(第2のチャンバー及び1つの横方向流路の双方に連通している)と第3の外部流路との間に位置する個々の並走流路ユニットにおける各縦方向流路の長さは,通常,各縦方向流路の幅の1〜10倍であり,好ましくは2〜8倍,より好ましくは3〜7倍である。これは,長さを余り増やすと,一定サイズの中に収まる並走流路ユニットの段数が減り,衝突回数も減って,単位長さ当たりの混合の効率が減り好ましくないためであり,また,長さを余り切り詰めると,並走流路ユニット中の縦方向流路を通る液体の流れが前後方向に揃いにくくなり,後続の並走流路ユニットの縦方向流路を画する仕切り壁の上流側末端への液体の衝突の効果を十分に高めるのが困難になるからである。
【0015】
本発明のマイクロミキサーの個々の並走流路ユニットを構成する縦方向流路及び横方向流路の深さは,それらの幅の1〜10倍,好ましくは2〜8倍,より好ましくは3〜7倍である。これは,深さを余り増やすと,流路を流れる液体の深度によって流れに差が生じるおそれがあり,また深さを余り浅くすると,流路の断面積が減って量的な処理能力が低下するからである。深さは,好ましくは3000μm以下,より好ましくは2000μm以下,更に好ましくは1500μm以下,特に好ましくは1200μm以下であり,好ましくは100μm以上,より好ましくは200μm以上,更に好ましくは500μm以上,特に好ましくは800μm以上である。但し,生成物を微量だけ得ることを目的とする場合には,深さを減らす(例えば10μm)ことは差し支えない。
【0016】
本発明のマイクロミキサーを構成する混合ユニットにおいて,スリットと連通している横方向流路(第1の横方向流路)と第3の外部流路との間に配置される並走流路ユニットの個数(段数)は,好ましくは8以上,より好ましくは10以上であり,それらが一連に連結されて,連続した多段の流路を構成する。全体としての流れの方向に隣接する並走流路ユニット間において,縦方向流路は原則として互い違いとなるように配列される。これは,上流側の縦方向流路から流れ出た液体を,下流側の縦方向流路を画する仕切り壁の上流側末端に一旦衝突させることにより,効率のよい混合を達成するためである。従って,本発明において,多分岐流路は,縦方向流路が互い違いとなるように配置された複数の並走流路ユニットを含んでなるものである。但し,一部において縦方向流路が互い違いでなく直線状に整列するように隣接の並走流路ユニットを配置することは排除しない。そのような整列させた配列が一部に存在しても,そうでない配列の部分で達成される混合に対して,悪影響を及ぼすことはないからである。また,並走流路ユニットの段数は,いくら多くしても反応に悪影響はないから,明確な上限はない。しかしながら,余り多いと下流の並走流路ユニットに反応完了後の反応混合物が流れるのみとなり実益がない。通常は,並走流路ユニットの個数は20以下とすれば十分である。
【0017】
また,各並走流路ユニットの縦方向流路の本数は,各混合ユニットの多分岐流路の全体において,流れ方向につき非対称に設定される。すなわち,第1及び第2の外部流路に接続されている側における並走流路ユニット中の縦方向流路の本数に比して,第3の外部流路に接続されている側における並走流路ユニットの縦方向流路の本数は,少ない。並走流路ユニットのこのような非対称配列は,多分岐流路内における局所的な液圧分布の不均一性を減らし,その中を流れる液体の速度分布の乱れを防止するのに役立つ。
【0018】
上記において,多分岐流路の第1の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路本数は8以上であることが好ましく,10以上であることがより好ましい。本数に特に上限はないが,通常は20以下で十分であり,15以下としてよい。多分岐流路の第2の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数は,1,2,3,4,5・・・と適宜な数であってよい。通常は,8以下とするのがより好ましく,6以下とするのが更に好ましい。
【0019】
本発明のマイクロミキサーの上記各流路,特に多分岐流路及び第1のチャンバーは,例えば,平面状の基板(第1の基板)に溝を掘り込むことによって形成することができる。その場合,第2のチャンバーは,スリットを有するプレート(中間プレート)を挟んで第1の基板と重ね合わされる別の基板(第2の基板)内に,形成しておくことができ,該スリットは,中間プレートに,これを第1の基板と重ね合わせたとき第1の基板に形成されている横方向流路の所定の1つの全長に及んで重なることとなるように形成され,第2のチャンバーは,第2の基板の表面(第1の基板に対向する側)を,該スリットの全長と重なるように掘り込むことによって形成しておけばよい。そうすることにより,第1の基板と重ね合わせたとき,多分岐流路中の第1の横方向流路が,その全長において,スリットを介して第2のチャンバーと重なる。このように構成される第1の基板,中間プレート及び第2の基板と重ね合わせて液密させ固定することによって,本マイクロミキサーの構成要素である混合ユニットを得ることができる。第1の基板,中間プレート及び第2の基板の固定の仕方は適宜であってよく,永久的に固定しても,また取り外し可能に固定してもよい。例えば,これら各部品の複数箇所にねじ穴を設けるなどにより,ボルトで固定してもよく,またこれら各部品の表面同士を溶接,融着等させてもよい。なお,多分岐流路の一端に連通する第1のチャンバー,途中の位置で連通する第2のチャンバーにそれぞれ接続される第1及び第2の外部流路,並びに多分岐流路の他端に接続される第3の外部流路は,液体の混合に直接的影響を及ぼさないから,適宜の位置に設ければよい。
【0020】
上記基板の材料は,用いる反応試剤(溶媒を含む)に対して不活性で,溝を掘り込む精密加工が可能であり,繰り返しの使用に耐える強度があればよい。金属,ガラス,セラミック,合成樹脂などを用いて作成することができる。例えば合成樹脂の場合に表面を金属その他でコーティングしてもよい。また,発熱又は吸熱を伴う反応における温度管理を容易にするためには,熱伝導率が大きい材料を用いることが好ましく,金属はこれに特に適する。金属の具体例としては,アルミニウムが,好ましいものの一つとして挙げられる。流路の形成方法は,基板の材料に応じて,及び形成しようとする流路の幅や深さに応じて決定すればよい。ドリル加工,電食法,レーザ加工,X線加工,レーザステレオリソグラフィー等,当業者に周知の適宜の手段を用いることができる。例えば金属性で流路幅が少なくとも200μm前後ある場合には,微細ドリル加工で形成できるため,安価な大量生産には好適である。
【0021】
本発明のマイクロミキサー中での反応の温度管理が必要な場合には,所定の温度に設定した水あるいは溶媒中に,マイクロミキサー(この場合は金属製のものが好ましい)をそのまま浸漬させるだけで,正確且つ精密な温度管理が可能である。無論,基板及び/又は蓋体に水あるいは溶媒等の熱伝導媒体が通る流路を設けておくか,そのような熱伝導媒体を流すジャケットをマイクロミキサーと一体又は別体に作製しておいて,これに所定温度の熱伝導媒体を循環させてもよい。
【0022】
本発明のマイクロミキサーは,例えば,アルキルエステル(ここに,「エステル」とは,カルボン酸エステルをいう。)と金属水素化物系還元剤とを反応させることによるアルデヒドの製造に使用することができる。この場合,特に好ましいのは,連結型マイクロミキサーであり,極めて高いアルデヒド選択性をもたらし,その場合の温度依存性が極めて少ない。アルデヒドの製造に用いるアルキルエステルとしては,式R1−CO2−R2(式中,R1は,置換されていてよいアルキル基,置換されていてよいアラルキル基,置換されていてよいシクロアルキル基若しくは該アルキル若しくはシクロアルキル基のα位以外において環構成炭素原子の1つ又は2つ以上をヘテロ原子に置き換えてなる,置換されていてよいヘテロ環基,又は,エステルのカルボニル基が結合している部位以外の芳香環構成原子の1つ又は2つ以上がヘテロ原子であってよい,置換されていてよいアリール基を表し,R2は,アルキル基を表す。)で示されるものが挙げられる。ヘテロ原子の好ましい例としては,窒素及び酸素が挙げられる。
【0023】
1の例としては,アルキル基としては,好ましくはC1〜20の,より好ましくはC1〜10の,更に好ましくはC1〜8の,特に好ましくはC1〜C4のアルキル基が挙げられ具体的には,メチル,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,sec−ブチル,tert−ブチル,ペンチル,ヘキシル,ヘプチル,オクチル,ノニル,デシル,ペンタデシル,エイコサニル等の基が挙げられる。アラルキル基の例としては,ヘテロ原子を含んでよい6〜10員環アリール基(フェニル,ナフチル,ピリジル,インドリル,キノリル,イソキノリル等)とC1〜4アルキルとから構成されるものが挙げられ,特に好ましい具体例としては,ベンジル基,フェニルエチル基,ピリジルメチル基が挙げられる。シクロアルキル基の例としてはC5〜C7のものが挙げられ,好ましい具体例としては,シクロペンチル,シクロヘキシル,シクロヘプチルの各基が,ヘテロ環基の例としては,ピペリジル,テトラヒドリフラニル,テトラヒドロピラニル,ジオキサニルの各基が挙げられる。アリール基の例としては,ヘテロ原子を含んでよい6〜10員環アリール基が挙げられ,具体例としては,フェニル,ナフチル,ピリジル,インドリル,キノリル,イソキノリルの各基が挙げられる。上記の各基は,何れも置換されていてよく,置換基の例としては,ベンジル,フェニル,C1〜C6アルキル,アミノ,アルコキシカルボニルアミノ(ボック化アミノ等),アルキルカルボニルアミノの各基が挙げられる。R1の特に好ましい具体例としては,ペンチル,シクロヘキシル,ベンジル,N−ベンジルピペリジル,ピリジル,1−ボック化アミノ−2−フェニルエチルの各基が挙げられる。但し,R1の具体例は上記に限定されない。本発明において使用されるマイクロミキサーは混合効率を高めるものであり,R1が金属水素化物系還元剤によるアルキルエステルの還元を妨害しないものである限り本発明を適用できるからである。R2の例としては,C1〜20のアルキル基が挙げられ,より好ましくはC1〜10のアルキル,更に好ましくはC1〜6,特に好ましくはC1〜C4のアルキル基が挙げられる。それらの具体例は,メチル,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,sec−ブチル,tert−ブチル,ペンチル,ヘキシル,ヘプチル,オクチル,ノニル,デシル,ペンタデシル,エイコサニル等の基である。
【0024】
金属水素化物系還元剤のうちアルミニウム系のものの例としては,水素化リチウムアルミニウム,水素化ナトリウムアルミニウム,水素化カリウムアルミニウム,又は,水素化アルミニウムの,アルキル(例:イソブチル),アリール,アルコキシ,アリールオキシ若しくはアシルオキシ誘導体,又は水素化アルミニウム若しくはその前記誘導体のリガンドとしてのアミン,ホスフィン,エーテル若しくはスルフィドとの錯体が挙げられる。これらの還元剤は,1種を単独で用いても,2種以上を混合して使用してもよい。これらのうち特に好ましい一例は,水素化ジイソブチルアルミニウムである。
【0025】
本発明において,アルキルエステルと金属水素化物系還元剤とは,当量比で0.9:1.0〜1.0:1.0を反応させるのが好ましい。これは,この当量比でアルキルエステルと還元剤とが同時にマイクロミキサーの外部流路に同時に供給することにより行われる。これは,2個の混合ユニットを第3の外部流路同士で連結したマイクロミキサーの場合には,一方側の第1及び第2の外部流路の一方にアルキルエステルを他方に金属水素化物系還元剤を,それぞれの供給量の単位時間当たりの当量比が0.9:1.0〜1.0:1.0となるようポンプの送りを調節して,供給することによって行われ,反対側の第1及び第3の外部流路から反応混合物が流出する。また2個の混合ユニットを第1及び第2の外部流路で連結(両混合ユニットのそれぞれ第1及び第2の外部流路同士,又は一方のユニットの第1(第2)の外部流路と他方のユニットの第2(第1)の外部流路との連結により,行うことができる。この場合,マイクロミキサーは両端に第3の外部流路を備えるから,このマイクロミキサーへの反応試剤の供給は,一方の側の第3の外部流路に例えばY字形やT字形などの流路を接続し,その上流側先端に,それらアルキルエステル及び金属水素化物系還元剤を,同様に供給すればよく,反応混合物は反対側の第3の外部流路から流出する。これらの仕方により,反応率(すなわち,原料であるアルキルエステルのうち還元剤と反応する割合)を高く維持しつつ,且つ,副反応であるアルコールの生成を抑制することができる。
【0026】
アルキルエステルと金属水素化物系還元剤との供給速度は適宜であるが,マイクロミキサーの多分岐流路中を反応混合液が通常0.4〜60秒で通過することとなるように調節すれば充分である。また,マイクロミキサーを−50℃以上の温度,好ましくは−50℃〜−10℃,より好ましくは−50〜−20℃,特に好ましくは−50〜−25℃の温度に保って反応を行わせることができる。このためには,例えば,マイクロミキサーをその温度に冷却した溶媒中に浸せばよい。流路内の反応混合物の量に比較して反応混合物と流路の内壁面との接触面積が非常に大きいため,反応混合物中で生じた反応熱の装置側への素早い拡散が達成でき,流路内の反応混合物を,所望の温度に容易に維持することができる。
【実施例】
【0027】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれら実施例に限定されることは意図しない。
〔実施例1〕 マイクロミキサー
【0028】
図1は,本発明のマイクロミキサーを構成する混合ユニットの一方の典型的な一実施例を構成する第1の基板の平面図を示す。図において,第1の基板1は,金属製で,図面縦方向の長さ60mm,横幅40mm,厚み8mmの,全体として直方体状であり,図で示されている表面2は平滑である。第1の基板1の内部には,第1の外部流路4が設けられており,第1の外部流路4は,第1の基板1の外側のポート7に開いている。また第1の外部流路4は,穴5を介して,第1の基板1の表面2を掘り込んで形成された窪み9の中に開いている。窪み9内には,第1の基板1に形成された縦方向に延びる多数の並走する流路(縦方向流路)よりなる並走流路ユニット11(幅3.8mm)の一端が開いている。並走流路ユニット11の他端側には,複数段設けられた同様な他の並走流路ユニット11が多段に配列されており,これら複数の並走流路ユニットは,それらの相互間に形成された横方向流を挟んで隣接し,全体として多分岐流路を構成している。
【0029】
また,多分岐流路は,窪み9と反対の側において,第1の基板1の表面2に掘られた溝15から穴17を介して基板1の内部のポート21へと至る第3の外部流路19と連通している。
【0030】
図2は,第1の基板1の,第1の外部流路側の端面図であり,図3は,第1の基板1の第3の外部流路側の端面図である。
【0031】
図4は,第2の基板25の裏面図を示す。第2の基板25は,第1の基板1と同一の全体寸法を有しており,同一の材料で形成されている。図において,表面27は,基板1の表面2に(後述の中間プレートを挟んで)重ね合わせる側の表面である。第2の基板25には,ポート29に開く第2の外部流路31が形成されている。第2の外部流路31は,表面27に掘り込まれた溝33内の穴35内に通じており,そこから溝33を経て,表面27に掘り込まれた台形の窪み37に通じている。台形の窪み37の長い方の底辺は,第2の基板25を(後述の中間プレートを挟んで)第1の基板1の表面2に重ね合わせたとき,第1の基板の並走流路ユニット11のうち,窪み9に開いている並走流路ユニットの他端に位置する横方向流路(第1の横方向流路39)の全体を覆うことができる位置及び広さのものである。
【0032】
図5は,第2の基板25の,第2の外部流路側の端面図である。
【0033】
図6は,第1及び第2の基板1,25の間に挟みこまれる中間プレート40の平面図である。中間プレート40は,両基板と同一材料より形成されており,両基板と同一の縦及び横寸法を有し,厚みは0.3mmである。中間プレート40には,幅200μm,長さ3.8mmのスリット42が形成されており,該スリット42は,中間プレート40を第1の基板1の表面2に重ね合わせたときに,前記第1の横方向流路39の全長に重なるように配置されている。
【0034】
第1及び第2の基板1,25及び中間プレート40には,重なり合う配置で多数のボルト穴BHが設けられており,これら3つの部品を重ね合わせボルトにより図7(平面図)及び図8(側面図)のように固定することができる。こうして固定して一体化させることにより,1個の混合ユニット50が構成される。混合ユニット50においては,第1の基板1の露出した窪み9が中間プレート40に覆われてチャンバー(第1のチャンバー)が形成され,第1の基板1に露出して形成されている多分岐流路も中間プレート40で覆われる。また,第2の基板25に露出して形成されている台形の窪み37と,これに密着する中間プレート40とにより,チャンバー(第2のチャンバー)が形成される。この第2のチャンバーは,中間プレート40に形成されているスリット42を介して,多分岐流路の第1の横方向流路39の全長と垂直方向から連通している。
【0035】
こうして構成された混合ユニット50において,第1の外部流路4と第2の外部流路31からそれぞれ第1及び第2の反応試剤を供給すると,第1の反応試剤は第1のチャンバーへ,次いでそこから,最初の並走流路ユニットの各々の縦方向流路へと流入し,第1の横方向流路39へと流入する。他方,第2の反応試剤は,第2の外部流路31から第2のチャンバーへ,次いでそこからスリット42を通って第1の横方向流路39に垂直方向から流入する。第1の横方向流路39で出会った両反応試剤はその後,共に多分岐流路内を第3の外部流路19へ向かう方向へと流れ,その途中で多分岐流路内で混合される。また別に,第3の外部流路19側から反応試剤2種を供給する場合には,ポート21の直前にT字形又はY字形等の適宜の分岐流路を接続し,これを介してそれぞれの反応試剤を供給する。それら両反応試剤は,多分岐流路内を上述の方向とは逆に流れつつ均一に混合し,混合後第1及び第2のチャンバーに分割されて流入し第1及び第2の外部流路から流出する。
【0036】
図9は,第1の基板1の表面2に掘り込むことにより形成された,多分岐流路の拡大図である。本実施例においては,窪み9(第1のチャンバー)に対して開いている並走流路ユニット11は9本の縦方向流路を有する。これに隣接する並走流路ユニットの縦方向流路の本数は10本であり,流れに沿って交互にこの本数を繰り返した後,第3の外部流路19側の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数(5本)に向けて,並走流路ユニット毎に1本ずつ減少している。
【0037】
各縦方向流路は,幅200μm,深さ1000μmであり,また長さは,第1の横方向流路39と第3の外部流路の間に形成されている各並走流路ユニットにおいては,1000μmである。第1の横方向流路39と窪み9との間の並走流路ユニット11の各縦方向流路の長さは適宜であるが,本実施例では10mmである。各並走流路ユニット間の横方向流路は,幅200μm,深さ1000μmであり,長さは,並走流路ユニットの幅に一致し,最大で3.8mmである。また,多分岐流路の各縦方向流路間は,200μm厚の仕切り壁で仕切られている。図9に見られるように,横方向流路を挟んで前後に隣接する並走流路ユニット間において,一方の並走流路ユニットの各縦方向流路は他方の並走流路ユニットの縦方向流路の仕切り壁の末端に対向するように,互い違いに位置をずらした形で配置されている。このため,1つの並走流路ユニットの縦方向流路から出て横方向流路に入った液体は,次の並走流路湯ヒットの縦方向流路の仕切り壁の上流側末端に衝突しその後左右に分かれて異なる縦方向流路に流入する。全ての仕切り壁の上流側末端で起こるこの液体の衝突及び分岐が合わさることにより,極めて効率のよい混合が達成され,その結果反応が促進される。
【0038】
本発明においては,上記混合ユニット2個が,第3の外部流路19同士において(図10(a)),又は第1の外部流路4及び第2の外部流路31において(図10(b))連結されて,1個のマイクロミキサーを構成する。
【0039】
〔製造実施例〕
<装置>
実施例1のマイクロミキサー(混合ユニットの第3の外部流路同士で連結されている図10(a)に示したもの)を用いてアルキルエステルからのアルデヒドの製造を行った。
また従来例のマイクロミキサーとして,特開2007−50340号公報の実施例に記載されたものを比較例1として使用して反応を行なった(図11にその基板を,図12にその多分岐流路を示す。同装置は,基板の表面に蓋体を重ね合わせて液密に固定することにより構成されている)。比較例1のマイクロミキサーは,両端で少なく中央部で最多の並列した縦方向流路本数よりなる流路群の20段で構成された多分岐流路を有しており,その素材,及び多分岐流路を構成する各流路の幅,長さ及び深さは,本発明の実施例1と同様である。
アルデヒドの製造方法を概要図として示す図13及び14において、P1、P2は、それぞれ、反応原料であるアルキルエステル及び還元剤容器に接続されたポンプ、Mは本発明のマイクロミキサー、M’は上記先行技術のマイクロミキサー,Bは冷却浴であり、3つ口フラスコには、反応混合物を後処理して目的のアルデヒドを取り出す工程で使用するアルコールとして、メタノールが入れられている(但し、エタノール、イソプロパノールなど、他のアルコールも全く同様に使用できる)。
【0040】
〔製造実施例1〕 実施例の装置を用いたN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒドの製造
【0041】
【化1】

【0042】
<反応操作>
表1に示した各温度に調節したメタノール浴中に本発明の実施例1のマイクロミキサーMを浸し,その一方の側にある第1及び第2の外部流路に、N−ベンジルイソニペコチン酸エチル(1)のトルエン溶液(濃度0.96M)と、水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(濃度1M)とを、それぞれ別のポンプから、共に0.5mL/分の流速で、テフロン(登録商標)チューブを通じて送液した。反対側の第1及び第2の外部流路から流出してきた反応混合液を合わせて,撹拌メタノール(室温)中に滴下させた。得られたスラリー液を減圧濾過し、濾液をガスクロマトグラフィー分析した。各温度における反応率,反応生成物のうち目的物であるN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒド(2)の比率,副生成物のN−ベンジル−4−ピペリジルメタノール(3)の比率を表1に示す。
【0043】
〔製造比較例1〕 比較例の装置を用いたN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒドの製造
表1に示した各温度に調節したメタノール浴中に比較例1のマイクロミキサーM’を浸し,その一方の側にある2個のポート15’,16’に、N−ベンジルイソニペコチン酸エチル(1)のトルエン溶液(濃度0.92M)と、水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(濃度1M)とを、それぞれ別のポンプから、共に0.5mL/分の流速で、テフロン(登録商標)チューブを通じて送液した。反対側にあるポート35’から流出してきた反応混合液を,撹拌メタノール(室温)中に滴下させた。得られたスラリー液を減圧濾過し、濾液をガスクロマトグラフィー分析した。各温度における反応率,反応生成物のうち目的物であるN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒド(2)の比率,副生成物のN−ベンジル−4−ピペリジルメタノール(3)の比率を表1に示す。
【0044】
〔製造比較例2〕 バッチ式反応によるN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒドの製造
更に比較のため,バッチ式で上記反応を行なった場合の結果の典型的一例を以下に示す。
窒素置換された200mLのガラス製3つ口フラスコに、N−ベンジルイソニペコチン酸エチルのトルエン溶液(濃度0.92M)20mLを入れ、表1に示す各温度まで冷却した。温度を保った状態で、これに水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(濃度1.0M)20mLを、撹拌しつつ滴下した。滴下終了後、同温度にて1時間撹拌を行い、メタノール150mLを添加した。得られたスラリー状の不溶物を減圧濾過で取り除き、濾液をガスクロマトグラフィーで分析した。各温度における反応率,反応生成物のうち目的物であるN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒド(2)の比率,副生成物のN−ベンジル−4−ピペリジルメタノール(3)の比率を表1に示す。
【0045】
〔参考例〕
内径0.1mmのテフロン(登録商標)製T字形コネクターC(図15)に,同内径の2m長のテフロン(登録商標)チューブT(大きくコイル状に束ねたもの)を接続し,これを−40℃に調節したメタノール浴中に浸漬し,コネクターの左右の分岐部末端の一方にN−ベンジルイソニペコチン酸エチル(1)のトルエン溶液(濃度0.96M)を、他方に水素化ジイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(濃度1M)を、それぞれ別のポンプから、共に0.5mL/分の流速で送液した。チューブの末端から流出してきた反応混合液を,撹拌メタノール(室温)中に滴下させた。得られたスラリー液を減圧濾過し、濾液をガスクロマトグラフィー分析した。各温度における反応率,反応生成物のうち目的物であるN−ベンジルイソニペコチニルアルデヒド(2)の比率,副生成物のN−ベンジル−4−ピペリジルメタノール(3)の比率を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように,実施例1のマイクロミキサーを用いた反応では,反応のアルデヒド選択性がバッチ式に比して非常に高い。また比較例1の装置に比しても高温側(−30℃)において97%と非常に高い選択性を示している。また,実施例1の装置によれば,反応の選択性における温度依存性が非常に低い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のマイクロミキサーは、液体中での種々の化学反応における反応種の混合効率を著しく高めて迅速な反応を可能にし、且つ、副反応を抑制する作用を併せ持つため、新化合物の研究開発及び目的化合物の工業生産の双方において、有利に利用でき、幅広い用途を有する。また、これを利用した本発明のアルデヒドの製造方法は、−78℃のような超低温での反応を要さず、しかも目的のアルデヒドに対する高い選択性を有するため、工業生産において特に有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1の第1の基板の平面図
【図2】実施例1の第1の基板の第1の外部流路側の端面図
【図3】実施例1の第1の基板の第3の外部流路側の端面図
【図4】実施例1の第2の基板の裏面図
【図5】実施例1の第2の基板の第2の外部流路側の端面図
【図6】実施例1の中間プレートの平面図
【図7】実施例1の混合ユニットの平面図
【図8】実施例1の混合ユニットの側面図
【図9】実施例1の混合ユニットの多分岐流路の拡大図
【図10】実施例1のマイクロミキサーの2種の構成を示す平面図
【図11】比較例1のマイクロミキサーの基板の平面図
【図12】比較例1のマイクロミキサーの多分岐流路の拡大図
【図13】実施例1のマイクロミキサーを用いたアルデヒド製造方法を示す概要図
【図14】比較例1のマイクロミキサーを用いたアルデヒド製造方法を示す概要図
【図15】参考例のマイクロミキサーをの概要図
【符号の説明】
【0050】
1=基板,2=表面,4=第1の外部流路,5=穴,7=ポート,9=窪み,11=並走流路ユニット,15=溝,17=穴,19=第3の外部流路,25=第2の基板,27=表面,29=ポート,31=第2の外部流路,33=溝,35=穴,37=窪み,39=第1の横方向流路,40=中間プレート,42=スリット,50=混合ユニット,BH=ボルト穴,B=冷却浴,M=実施例1のマイクロミキサー,M’=比較例1のマイクロミキサー,C=T字形コネクター,P1,P2=ポンプ、T=チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の混合ユニットを連結してなる,マイクロミキサーであって,各混合ユニットは,
外部からの又は外部への液体の出入りのための第1及び第2の外部流路と,外部への又は外部からの液体の出入りのための第3の外部流路と,そして該第1及び第2の外部流路と該第3の外部流路との間を連絡する多分岐流路とを含んでなり,
ここに,該多分岐流路は,2次元的に並列した複数の縦方向流路よりなる並走流路ユニットの複数個であって,縦方向で隣接して多段配列されたものである並走流路ユニットと,縦方向に隣接する並走流路ユニット同士間に,それらを横断して連通する横方向流路とを含み,ここに各並走流路ユニットを構成する個々の縦方向流路と,これに縦方向で隣接する並走流路ユニットを構成する個々の縦方向流路とが相互に,相手方の縦方向流路を形成する仕切り壁の末端に対向して配置されているものであり,
該多分岐流路の第1の末端の全幅に沿って形成された第1のチャンバーを含み,該第1のチャンバー内にこれと接する並走流路ユニットの各縦方向流路が開いており,且つ,該第1のチャンバーに該第1の外部流路が連通しており,
第2のチャンバーであって,該横方向流路のうちの1つにその全長に及ぶスリットを通して,該縦方向流路及び該横方向流路が張る平面の垂直方向から連通するように形成されたものである第2のチャンバーを含み,該第2のチャンバーに該第2の外部流路が連通しており,
該多分岐流路の,該第1の末端とは反対側の第2の末端に位置する並走流路ユニットの末端に,該第3の外部流路が連通しているものであり,
該2個の混合ユニットが,それぞれの第3の外部流路同士を,又は一方の第1及び第2の流路と他方の第1及び第2の流路とを連結してなるものである,
マイクロミキサー。
【請求項2】
該縦方向流路及び該横方向流路の幅が10〜1000μmである,請求項1のマイクロミキサー。
【請求項3】
該スリットと該第3の外部流路との間に位置する各並走流路ユニットを構成する縦方向流路の長さが,該縦方向流路の幅の1〜10倍である,請求項2のマイクロミキサー。
【請求項4】
該縦方向流路及び該横方向流路の深さが,縦方向流路の幅の1〜10倍である,請求項2又は3のマイクロミキサー。
【請求項5】
該スリットと該第3の外部流路との間に位置する該並走流路ユニットの個数が8〜20である,請求項1ないし4の何れかのマイクロミキサー。
【請求項6】
該並走流路ユニットのうち,該多分岐流路の第1の末端に位置するものの縦方向流路の本数が,8〜20である,請求項1ないし5の何れかのマイクロミキサー。
【請求項7】
該多分岐流路の該第2の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数が該多分岐流路の該第1の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数より少なく,該第2の末端に近づくにつれて並走流路ユニットの縦方向流路本数が順次1ずつ減少し,それに応じて該並走流路ユニットの幅が狭まっているものである,請求項6のマイクロミキサー。
【請求項8】
該多分岐流路の該第1の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路本数と該第2の末端に位置する並走流路ユニットの縦方向流路の本数との差が4以上である,請求項1ないし7の何れかのマイクロミキサー。
【請求項9】
該第1の外部流路が形成されており且つ該第1の外部流路が連通する該第1のチャンバーと該多分岐流路とが表面に掘り込まれて形成されているものである第1の基板と,該第1の基板と重ね合わせたとき横方向流路のうちの1つにその全長に及んで重なるスリットを備えたものである中間プレートと,該中間プレートと重ね合わせたとき該スリットとその全長に及んで重なり連通する位置において表面に該第2のチャンバーが掘り込まれて形成されているとともに該第2のチャンバーに連通する第2の外部流路が形成されているものである第2の基板とを,互いに重ね合わせて固定することにより構成されているものである,請求項1ないし8の何れかのマイクロミキサー。
【請求項10】
カルボン酸とアルキルアルコールからなるアルキルエステルを還元して該カルボン酸に対応するアルデヒドを製造する方法であって,請求項1ないし9の何れかのマイクロミキサーの一方の側の第3の外部流路に該アルキルエステル及び金属水素化物系還元剤を同時に供給することにより,該マイクロミキサーの内部で該アルキルエステル及び該還元剤を反応させ,他方の側の第3の外部流路から流出する反応混合液をアルコール中に導入して混合することを特徴とする,該アルデヒドの製造方法。
【請求項11】
カルボン酸とアルキルアルコールからなるアルキルエステルを還元して該カルボン酸に対応するアルデヒドを製造する方法であって,請求項1ないし9の何れかのマイクロミキサーの一方の側の第1及び第2の外部流路に該アルキルエステル及び金属水素化物系還元剤をそれぞれ供給することにより,該マイクロミキサーの内部で該アルキルエステル及び該還元剤を反応させ,他方の側の第1及び第2の外部流路から流出する反応混合液をアルコール中に導入して混合することを特徴とする,該アルデヒドの製造方法。
【請求項12】
該アルキルエステルが,式R1−CO2−R2(式中,R1は,置換されていてよいアルキル基,置換されていてよいアラルキル基,置換されていてよいシクロアルキル基若しくは該シクロアルキル基のα位以外において環構成炭素原子の1つ又は2つ以上をヘテロ原子に置き換えてなる,置換されていてよいヘテロ環基,又は,エステルのカルボニル基が結合している部位以外の芳香環構成原子の1つ又は2つ以上がヘテロ原子であってよい,置換されていてよいアリール基を表し,R2は,アルキル基を表す。)で示されるものである,請求項10又は11のアルデヒドの製造方法。
【請求項13】
該還元剤が,水素化アルミニウム又はそのアルキル誘導体である,請求項10ないし12の何れかのアルデヒドの製造方法。
【請求項14】
該アルキルエステルと該還元剤との供給速度の比率が,時間当たり当量比で,該アルキルエステル:該還元剤=0.9:1.0〜1.0:1.0である,請求項10ないし13の何れかのアルデヒドの製造方法。
【請求項15】
−50℃〜−10℃の温度にて反応させるものである,請求項10ないし14の何れかのアルデヒドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−208052(P2009−208052A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56755(P2008−56755)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 講演資料集「社団法人近畿化学協会 合成部会フロー・マイクロ合成研究会 フロー・マイクロ合成研究会第17回公開講演会−講演&展示−」 発表者名 松本 純一 発行日 平成19年9月7日 頁 第3〜8頁 刊行物等 研究集会名 フロー・マイクロ合成研究会第17回公開講演会−講演&展示 主催者名 近畿化学協会 合成部会フロー・マイクロ合成研究会 開催日 平成19年9月7日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】