説明

マイクロ化学装置

【課題】2つ以上のマイクロ反応部に均等に流体を送液することにより、各反応で生成される物質の均質化が可能なマイクロ化学装置を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも一つの流体供給手段から、複数の反応領域に液体を送液する複数の送液流路22a、22b、22c、22dを備えたマイクロ化学装置10において、前記複数の送液流路のそれぞれに、前記反応領域の断面積より狭い微小送液流路部34を複数備えることを特徴とするマイクロ化学装置10である。微小送液流路34は1つの送液流路中に10以上備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ化学装置に係り、特に、反応領域に流体を均等に送液し各反応で生成される物質を均質化することが可能なマイクロ化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小空間で流体を精密に制御しながら反応・混合を行ういわゆるマイクロリアクターが最近注目されている。しかしマイクロリアクターの容積は小さいため、工業的に応用する場合、単位時間当りの処理量が低いという課題があった。このような量産技術について、従来化学工業の分野では、反応部のスケールアップという手法で対応を図ってきた。しかし、マイクロリアクターにとっては、そのスケールがリアクターの性能を決める重要なパラメーターであることから、マイクロリアクターの容量を増加させて処理量を向上させても、所望の反応や混合が行えなくなるため、単純にスケールアップによる量産化を検討することが出来なかった。
【0003】
このような問題を解決するため、下記の特許文献1に示されるように、マイクロ反応部を複数並列に用いることで単位時間当たりの処理量を増やす、いわゆるナンバリングアップによる量産化検討がなされている。
【0004】
上記ナンバリングアップを成功させるためには、並列に並べたマイクロリアクターに、いかに均等に流体を分配出来るかにかかっている。通常、マイクロリアクターでは2種類以上の流体を合流部で均一に混合させるが、それぞれの流体が均等に分配出来ないと、各リアクター間で得られる生成物が異なってしまうという問題が発生する。
【0005】
マイクロ場への均等分配は、通常のマクロ場の分配と異なり、製作誤差が相対的に大きくなってしまうため、均等に分配することが難しい。これを達成するために加工誤差の少ない加工方法を選ぶ、ナンバリングアップの数だけポンプを用意する等の方法があるが、どの方法もコストが掛かるという問題があった。
【0006】
そこで、下記の特許文献2に示すように、リアクター合流部以降に周期的に断面積を狭める構造や、下記の特許文献3に示すように一度に多数の分配を行わせるのではなく、一度の分配数を抑え、分配を複数繰り返す構造を作ることで、各リアクター間の分配量を均等にする試みがなされている。
【特許文献1】特開2004−243308号公報
【特許文献2】特開2005−66400号公報
【特許文献3】特開2007−136253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されている構造では、合流部以降に周期構造を配置していることから、合流後の流れが乱れ、マイクロリアクターの特徴である精密な反応制御を妨げる恐れがあった。また、特許文献3に記載されている構造では、下流の分配部における製作誤差を抑える効果は期待出来るが、上流の分配部に大きな誤差が生じた場合、下流側の分配性能に大きな影響を与えてしまう恐れがあった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、2つ以上のマイクロ反応部を含む送液系の各流路の圧力を均等にし、各マイクロ反応部に均等に流体を送液することにより、各反応で生成される物質の均質化が可能なマイクロ化学装置を提供する。また、同時に、装置のコストを低減したマイクロ化学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、少なくとも一つの流体供給手段から、複数の反応領域に液体を送液する複数の送液流路を備えたマイクロ化学装置において、前記複数の送液流路のそれぞれに、前記反応領域の断面積より狭い微小送液流路部を複数備えることを特徴とするマイクロ化学装置を提供する。
【0010】
請求項1によれば、送液流路のそれぞれに、反応領域の断面積より狭い微小送液流路部を備えているため、この微小送液流路部により各送液流路の圧力を調節することができ、流体を各流路に均一に送液することができる。
【0011】
また、本発明はマイクロ化学装置であり、装置の製作誤差が相対的に流体の送液量に影響を与えることになる。したがって、微小送液流路部を複数設けることにより、各流路での微小送液流路部の体積の総和を均一化することができるので、各流路に均一に送液を行うことができる。
【0012】
さらに、微小送液流路部は、送液流路、つまり反応領域(マイクロ反応部)より前に設けられているため、反応領域が圧力の影響を受けることなく、反応を行うことが可能である。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記微小送液流路部は、1つの前記送液流路中に10以上備えることを特徴とする。
【0014】
請求項2によれば、微小送液流路部を1つの送液流路中に10以上備えているため、加工精度の誤差の総和が平均化され、送液時の各流路の圧力を均一にすることができる。微小送液流路部の数は、特に、その数を10以上とすることにより、誤差の総和を平均化する効果がみられる。
【0015】
請求項3は請求項1または2において、前記流体供給手段から供給される流体は、粘度が30cp以下の流体であることを特徴とする。
【0016】
請求項3によれば、流体の粘度が30cp以下であるため、装置による圧力の影響を受けにくくなるため、均等に流体を送液することができる。
【0017】
請求項4は請求項1から3いずれかにおいて、前記流体供給手段から供給される流体の流量が1cc/min以上1000cc/min以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項4によれば、流体の流量が1cc/min以上1000cc/min以下であるため、送液流路内にかかる圧力を抑えることができ、各送液流路内の圧力の差を小さくすることができる。
【0019】
請求項5は請求項1から4いずれかにおいて、前記微小送液流路部の断面積の相当直径が、前記反応領域の断面積の最も狭い部分の相当直径の80%以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項5によれば、微小送液流路部の断面積の相当直径が、反応領域の断面積の最も狭い部分の相当直径の80%以下であるため、反応領域より微小送液流路部に圧力をかけることができる。したがって、微小送液流路部に均一に圧力をかけることにより、均等に流体を反応領域に送液することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の送液流路内の圧力を均一化することができるため、流体を各送液流路に均等に送液することができるので、各反応領域における反応で生成される反応物の均質化を行うことができる。また、従来の装置から、微小送液流路部を複数設けるという簡単な構成と、微小送液流路部の加工誤差の測定による統計を利用して、圧力の均一化を行っているため、加工・部品コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面に従って、本発明に係るマイクロ化学装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0023】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態におけるナンバリングアップタイプのマイクロ化学装置10の一例を説明する斜視図(a)と、図1(a)のAの送液流路の部分拡大図(b)である。図1(a)はマイクロ化学装置10を構成する3つの要素を分解した様子を示す。図2は、上記3つの要素を積層した状態を説明する上面図である。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態におけるマイクロ化学装置10は、少なくとも第1の溶液を供給するための第1の供給要素12と、第2の溶液を供給するための第2の供給要素14と、第1と第2の溶液を混合および反応させるための合流要素16と、を備えている。マイクロ化学装置10は、少なくともこれらの各要素が一体に締結および積層されて組み立てられる。組み立て方法としては、例えば、各要素の周辺部に円柱を貫通する図示しないボア(又は穴)を等間隔に設けて、各要素間をボルトおよびナットで一体に締結する方法や、直接接合による方法や、接着剤などを用いて組み立てる方法などが挙げられる。
【0025】
第1の供給要素12の合流要素16側とは反対面の中心に、厚さ方向に貫通していない円形の滞留部22が形成されている。この滞留部22から放射状に4本の送液流路22a、22b、22c、22dが設けられている。各送液流路22a、22b、22c、22dの端部はそれぞれ厚さ方向に貫通するボア23a、23b、23c、23dと連通している。ボア23a〜23dは、第2の供給要素にも同様に設けられ、厚さ方向に貫通している。
【0026】
各送液流路22a〜22dの断面形状は、矩形でも円形(半円形も含む)でもよく、特に限定されない。流路断面積は、特に規定しないが、層流を形成できる範囲であることが、系の安定性の観点から好ましい。層流を形成できる条件としては、通常、等価直径2mm以下、好ましくは600μm以下が好ましい。また、分岐する送液流路の数も本実施形態では4本としたが、2〜3本、又は5本以上でもよく、特に限定されない。
【0027】
図1(b)に送液流路22aの部分拡大図を示す。送液流路22aには、各送液流路の圧力を調節するために、流路断面積が狭くなる微小送液流路部34aが設けられている。この微小送液流路部34aは、各送液流路に複数存在し、その形状は立方体や直方体の他に、湾曲していたり、うねっていたり様々な形を取ることができる。微小送液流路部の断面の相当直径は微小反応部のうち、最も断面の狭い部分の相当直径の80%以下、好ましくは50%以下であることが望ましい。
【0028】
また、図1(b)においては、微小送液流路部34aは、直列的に5箇所設けられているが、並列的に配置することもできる。並列的に配置する場合は、滞留部22から複数の微小送液流路部34aに分配されてボア23に供給される。さらに、各送液流路22a〜22dにおける微小送液流路部34aの長さの総和は、後述する反応領域の入口から出口以上であることが好ましい。各送液流路22a〜22dにおける微小送液流路部34aの長さを反応領域の長さより長くすることにより、送液流路22a〜22d内を流れる流体の送液量を調節することができ、均一に送液することができる。
【0029】
微小送液流路部34aの数は、後述する反応領域での反応において、生成物に支障が無い範囲において生成物のバラツキを抑えることができる程度に設けられていれば、特に数は限定せず用いることができる。ただし、流体の求める均等分配性を満たすため、統計的に必要な数の微小送液流路部34aを備えることが好ましい。なお、許容される生成物のバラツキの範囲は、微小送液流路部34aの形状、扱う反応流体により異なるため、適宜、微小送液流路部34aの数を変更して行うことが可能であるが、各送液流路に10以上の数の微小送液流路部34aを備えることが好ましい。
【0030】
また、図1(b)においては、それぞれの微小送液流路部34aが送液流路22a内に均等の距離で周期的に設けられているが、一つの送液流路内に必要な数の微小送液流路部が設けられていれば周期的に設ける必要もない。
【0031】
第2の供給要素14には、厚さ方向に貫通する貫通穴24が中心部に設けられている。この貫通穴24から放射状に、厚さ方向に貫通しない4本の送液流路24a、24b、24c、24dが設けられている。
【0032】
第2の供給要素14に設けられた4本の送液流路24a〜24dは、第1の供給要素と積層したときに、第1の供給要素12に設けられた4本の送液流路22a〜22dと重ならないように形成されている。各送液流路24a〜24dの端部は、それぞれ厚さ方向に貫通するボア25a、25b、25c、25dと連通している。なお、各送液流路の断面形状、断面積、及び分岐する送液流路の数等は、第1の供給要素と同様の構成とすることができる。また、第2の供給要素14においても、第1の供給要素と同様に、微小送液流路部を設けることにより圧力を均等化し、均等に流体の送液を行う。
【0033】
合流要素16は、第1の供給要素12のボア23a〜23dと連通する導入流路26a、26b、26c、26dと、第2の供給要素14のボア25a〜25dと連通する導入流路28a、28b、28c、28dと、をそれぞれ合流させるための混合流路30a、30b、30c、30dが形成されている。各混合流路30a〜30dの端部に、厚さ方向に貫通するボア32a、32b、32c、32dが形成されており、それぞれ図示しない排出口に連通するように構成される。本発明において、反応領域とは、少なくとも2つ以上の導入流路と、1つ以上の反応流路を有し、入口から延びた各流体の導入流路が1点で交わることで合流部を形成し、合流部から出口に向って流体の混合・反応を行わせるための反応流路を備える構造体を反応領域という。構造体の形状としては、図1(a)に示すY字型の他に、T字型、KMリアクターなどの構造体を挙げることができる。また、反応領域のサイズとしては、導入流路、反応流路の相当直径が全領域に渡って、1000μm以下である。
【0034】
また、合流要素16の中心部には、第2の供給要素14と積層したときに、貫通穴24と重なり連通するように貫通穴24が形成されている。これにより、図示しない供給口より第2の溶液を合流要素16の貫通穴24から取込むことができる。
【0035】
本発明のマイクロ化学装置に用いられる流体は、特に限定されないが、流体の流量を1〜1000cc/minの範囲で用いることが好ましい。また、本発明において、重要な物性値は圧力であるため、流体の粘度が重要になってくる。粘度は比較的低粘度のものが好ましく、具体的には、30cp以下の流体が好ましい。流体の種類としては、具体的には、水、酸性溶液、アルカリ性溶液、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシドなどの有機溶剤、または上記液体の混合液、さらには上記液体または混合溶液中に微粒子が分散した分散液を好適に用いることができる。ここで、微粒子とは、直径1μm以下の粒子のことをいう。
【0036】
マイクロ化学装置10を構成する部材の材質としては、強度が高く、腐食防止性があり、原料流体の流動性を高くするものが好ましい。例えば、金属(鉄、アルミ、ステンレス鋼、チタン、その他の各種金属)、樹脂(フッ素樹脂、アクリル樹脂等)、ガラス(石英等)、セラミックス(シリコン等)などが好ましく使用できる。
【0037】
マイクロ化学装置10を製作するには、微細加工技術が適用される。適用可能な微細加工技術としては、例えば、一部既述したように、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、及びダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法等がある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、及び機械的マイクロ切削加工法である。
【0038】
要素間や部材間の接合方法は、高温加熱による材料の変質や変形による流路等の破壊を伴わず、寸法精度を保った精密な方法が望ましく、製作材料との関係から固相接合(例えば圧接接合や拡散接合等)や液相接合(例えば、溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等)を選択することが好ましい。例えば、材料にシリコンを使用する場合にシリコン同士を接合するシリコン直接接合や、ガラス同士を接合する融接、シリコンとガラスを接合する陽極接合、金属同士を接合する拡散接合等が挙げられる。セラミックスの接合については、金属のようなメカニカルなシール技術以外の接合技術が必要であり、アルミナに対してglass solderなる接合剤をスクリーン印刷で、80μm程度の膜厚に印刷し、圧力をかけずに440〜500℃で熱処理する方法がある。また、新しい技術として、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF(フッ化水素)水溶液を用いた接合等がある。
【0039】
<微小送液流路部の形成方法>
本発明は、各送液流路内に複数の微小送液流路部を設け、各送液流路の製作誤差(加工ごとに起こる僅かな位置ズレ、軸ブレなど)の総和を平均化することにより、送液時の各送液流路の圧力を均一化し、均等に送液を行う。したがって、送液流路および微小送液流路部の加工方法が重要となる。
【0040】
微小送液流路部を備える送液流路は、まず、微小送液流路部以外の送液流路を加工し、その後、微小送液流路部を加工することが好ましい。また、この場合もある送液流路の微小送液流路部を全て加工した後、別の送液流路の加工を行うと、ドリルの磨耗による誤差を生じる恐れがあるため、各送液流路の微小送液流路部を順番に加工することが好ましい。加工方法の順番を説明する図を図3に示す。図3(a)は、各送液流路の微小送液流路部を円周上に順番に加工する方法である。ただし、同じ送液流路に加工が集中しない範囲で順番は特に関係無く製造することができる。例えば、図3(b)に示すように、対角線状に形成することも可能である。また、微小送液流路部を複数回加工する場合は、各送液流路部の加工した順序の総和をより等しくすることが望ましい。例えば、図3(c)に示すように、まず、左回りで各送液流路に微小送液流路部を形成する。次に、今度は右回りで微小送液流路部を形成する。図3(c)は、各送液流路に2箇所微小送液流路部を形成した図であるが、各加工順序の総和は全て9となっている。このように、加工順序の総和が等しくなるように加工することで、ドリルの磨耗による誤差をより低減することが可能となる。
【0041】
このようなマイクロ化学装置10において、図4に示されるように、第1の溶液が、図示しない第1の供給口から第1の供給要素における滞留部22へ供給される(太い破線矢印)。第1の溶液は、4つに分割されて4本の送液流路22a〜22dを流れた後、ボア23a〜23dを流れる。この送液流路22a〜22dに微小送液流部を備えることにより、圧力損失を平均化し、ボア23a〜23dを流れる第1の溶液を、均等に送液を行う。その後、第2の供給要素に設けられたボア23a’、23b’、23c’、23d’を流れた後、合流要素16において、ボア23a’〜23d’の開口部と連通する合流要素16の導入流路26a〜26dに到達する。
【0042】
これと同様に、第2の溶液は、図示しない第2の供給口から第1の溶液の流れる方向とは逆方向に、合流要素16における貫通穴24を介して、第2の供給要素における貫通穴24へ供給される。次いで、第2の溶液は4つに分割されて4本の送液流路24a〜24dを流れた後、ボア25a〜25dを流れる。第2の溶液についても同様に、送液流路24a〜24dの微小送液流路部を備えることにより、圧力損失を平均化し、均等に送液を行う。そして、合流要素16において、ボア25a、25b、25c、25dの開口部と連通する合流要素16の導入流路28a〜28dに到達する(細い破線矢印)。
【0043】
合流要素16に形成された4つの混合流路30a〜30dにおいて、上記のようにそれぞれ供給された第1の溶液と第2の溶液が合流して混合又は反応する。その後、反応生成物を含む溶液は、ボア32a、32b、32c、32dを流れて、図示しない排出口より外部へ回収される(実線矢印)。
【0044】
≪第2実施形態≫
図5は、第2実施形態におけるナンバリングアップタイプのマイクロ化学装置110の一例を説明する斜視図である。図5は、マイクロ化学装置110の送液流路を構成する供給要素113の分解した様子を示す。
【0045】
図5に示すように、第2実施形態におけるマイクロ化学装置110は、複数の供給要素113a、113b、113cと合流要素116と、を備えており、複数の供給要素112を積層することにより、微小送液流路部の数を調節し、各送液流路の圧力を均等にしている。
【0046】
第1の供給要素113aは、厚さ方向に貫通していない受容部123aが形成されている。この受容部123aから供給要素113a上に微小送液流路部134aが形成され、端部に厚さ方向に貫通する貫通部123a’が形成され送液流路122aが形成されている。そして、第2の供給要素113bにも同様に受容部123c、微小送液流路部134c、貫通部123c’が形成され、第1の流体を送液する送液流路122cが形成されている。第1の供給要素113aの貫通部123a’と、第2の供給要素113bの受容部123cが連通することにより、また、第2の供給要素113bと第3の供給要素113cを同様の構成とすることにより、合成要素116に第1の溶液を送液することができる。また、図5においては、同様の構成で、第1の流体を送液する送液流路が他に1箇所、第2の送液流路を供給する需要部125、微小送液流路部135、貫通部125’からなる送液流路124が2箇所形成されている。なお、図5においては、送液流路を第1の溶液を送液する流路を2本、第2の溶液を送液する流路を2本としたが、送液流路の数は限定されず、実施することができる。
【0047】
図5においては、微小送液流路部134、135は、各送液流路122、124の各供給要素113に1ずつ設けられているため、供給要素113を複数積層することにより、微小送液流路部134、135の数を増やすことができる。また、供給要素113上に形成される送液流路を第1実施形態のようにすることで、微小送液流路部の数を増やすことが可能である。
【0048】
合流要素116は、第3の供給要素113cの貫通部123e’、123f’と連通する導入流路126a、126bと、貫通部125e’、125f’と連通する導入流路128a、128bと、をそれぞれ合流させるための混合流路130a、130bが形成されており、それぞれ図示しない排出口に連通するように構成されている。これらの構成については、第1実施形態と同様の構成を用いることができる。
【0049】
以下に、シミュレーションにより、本発明の効果について説明する。
【0050】
まず、微小送液流路部の加工誤差を測定するため、φ100μmの穴を256個機械加工により形成し、各穴の100μmからの誤差を測定した。結果を図6(a)に示す。図6(a)に示すように、微小送液流路部の加工誤差は正規分布に従うことが確認できる。
【0051】
図6(a)の結果を元に、数値シミュレーションを行い、各送液流路の微小送液流路部の数が、1、10、100の時の流量のバラツキをシミュレーションにより測定した。条件は、送液流体として水を、また流量としては層流条件となる3cc/minに設定して計算を行った。結果を図6(b)〜(d)(図6(b)微小送液流路部数:1、図6(c)微小送液流路部数:10、図6(d)微小送液流路部数:100)に示す。
【0052】
図6より、微小送液流路部の数を増やすことにより、流量のバラツキを抑えることができ、微小送液流路部の数を10とした図6(c)では、バラツキが±5%以内、100とした図6(d)では、バラツキが±3%以内である。したがって、微小流路部の数を10以上とするとすることで、効果が現れることが確認できる。
【0053】
さらに本発明の効果を検証するため、微小送液流路部の数が1と10の場合について、バラツキの流量依存性を確認した。結果を図7に示す。条件としては上記同様、送液流体を水として、流量を1〜1000cc/minの間で変化させて計算を行った。図7より、1〜1000cc/minの全範囲で微小送液流路部の数を10とした装置の方が、バラツキが小さいことが確認できる。以上より、この流量範囲における微小送液流路部の数を10以上とした際の優位性をさらに確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態におけるマイクロ化学装置の構成部材を分解した斜視図(a)および送液流路の部分拡大図(b)である。
【図2】図1のマイクロ化学装置の上面図である。
【図3】微小送液流路部の加工方法を説明する図である。
【図4】第1実施形態におけるマイクロ化学装置の作用を説明する図である。
【図5】第2実施形態におけるマイクロ化学装置の構成部材を分解した斜視図である。
【図6】微小送液流路部の数による流量のバラツキのシミュレーション結果を説明する図である。
【図7】流量の違いによる流量のバラツキのシミュレーション結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
10…マイクロ化学装置、12、14、113…供給要素、16、116…合流要素、22…滞留部、24…貫通穴、22a、22b、22c、22d、24a、24b、24c、24d、122、124…送液流路、23a、23b、23c、23d、23a’、23b’、23c’、23d’、25a、25b、25c、25d…ボア、26a、26b、26c、26d、28a、28b、28c、28d、126、128…導入流路、30a、30b、30c、30d、130…混合流路、34、134、135…微小送液流路部、123a、123b、123c、123d、123e、123f、125a、125b、125c、125d、125e、125f…受容部、123a’、123b’、123c’、123d’、123e’、123f’、125a’、125b’、125c’、125d’、125e’、125f’…貫通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの流体供給手段から、複数の反応領域に液体を送液する複数の送液流路を備えたマイクロ化学装置において、
前記複数の送液流路のそれぞれに、前記反応領域の断面積より狭い微小送液流路部を複数備えることを特徴とするマイクロ化学装置。
【請求項2】
前記微小送液流路部は、1つの前記送液流路中に10以上備えることを特徴とする請求項1記載のマイクロ化学装置。
【請求項3】
前記流体供給手段から供給される流体は、粘度が30cp以下の流体であることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ化学装置。
【請求項4】
前記流体供給手段から供給される流体の流量が1cc/min以上1000cc/min以下であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のマイクロ化学装置。
【請求項5】
前記微小送液流路部の断面積の相当直径が、前記反応領域の断面積の最も狭い部分の相当直径の80%以下であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のマイクロ化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−82834(P2009−82834A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256761(P2007−256761)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】