説明

マイクロ波ラインプラズマ発生装置

【課題】 ライン状のプラズマを生成するマイクロ波ラインプラズマ発生装置であっても、比較的安価に製造できるものとする。
【解決手段】 マイクロ波を導入される偏平な矩形状導波管1の周面壁1bの一部に開口部1aが形成され、この開口部1aが誘電体からなる平板体2aを介して閉鎖されると共に、この平板体2aの導波管外領域が容器3で包囲され、この容器3内の前記平板体2a寄り位置にプラズマ生成用ガスを連続的に供給するためのガス供給手段3aが設けられる。導波管1内に導入されたマイクロ波の電磁エネルギーが前記平板体2aを透過することで前記容器3内の前記平板体2a寄り位置に供給された前記ガスが励起されラインプラズマとなって前記容器3の放出口から放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスにおけるエッチング、クリーニング処理又はプラズマイオン注入、液晶製造プロセスにおけるクリーニング、透明電極のエッチング又はCVD処理、有機EL製造プロセスにおける有機膜上へのCVD処理、エッチング又はクリーニング、機能性フイルムの製造プロセスにおける親水・撥水処理又は成膜などを行うさいに使用されるマイクロ波ラインプラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の液晶パネルや、長尺のフィルムなど広い被処理面を持つ物品をライン状のプラズマで効率的にスキャン処理するようにしたマイクロ波ラインプラズマ発生装置は既に存在しており、例えば特許文献1及び2などに開示されている。
【0003】
これら特許文献1、2に開示されている従来のマイクロ波ラインプラズマ発生装置では、マイクロ波が導入される偏平な矩形状導波管を備えると共に、この導波管に形成された開口部に内嵌され導波管の内外間に渡る状態に装着された放電管を備えている。
【0004】
このように装着される放電管は、内方にプラズマ生成用ガスを連続的に導入されるガス通路としての中空部を有する円管体か、或いは、この円管体の周壁の一部を線状に開口させた開放円管体か、或いは、断面逆U字形の溝を具備しこの溝の両端が端面壁で閉鎖されている閉鎖溝状体である。これらのいずれにおいてもフランジ体を有しており、これを導波管外側の壁に押し当てて開口部の内部空間を導波管内部空間から遮蔽している。
【0005】
また、上記特許文献1、2は、導波管の外側からプラズマ生成ガスを開口部に導入して導波管内空間のプラズマを発生させないタイプであるが、これとは異なり、マイクロ波の進行経路に直接プラズマ生成ガスを供給し、導波管に形成された開口部からプラズマを取り出すものが特許文献3に開示されている。特に特許文献4の図8には、導波管内に誘電体に設置し、導波管の側面からプラズマ生成ガスを取り込み、誘電体に形成されたガス通路を通して開口部へ案内している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−269151号公報
【特許文献2】WO−2008/018159 A1号公報
【特許文献3】特表2006−269151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のマイクロ波ラインプラズマ発生装置においては、放電管が円管体、開放円管体又は閉鎖溝状体などのような複雑な形態とされる上に固定手段としてのフランジ部などを有するもの、或いは誘電体内にガス通路を設ける等、複雑な構造となっている。しかも高温に晒されるため素材が石英やセラミックなどの硬質材料を素材としていることから、その成形においてダイヤモンド刃具を使用しており、加工に工数とコストを要する。
【0008】
本発明はこのような実情の下で創案されたものであり、その目的とするところは、その製造コストを抑えることを可能とした構造のマイクロ波ラインプラズマ発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るマイクロ波ラインプラズマ発生装置は、導入されるマイクロ波の進行方向に長さを持つ開口部がH面に形成された偏平な矩形状導波管と、前記開口部の導波管のH面の内側壁との間で前記開口を導波管の内部空間から開口内の空間を閉鎖する誘電体からなる平板体と、前記H面の壁内面よりも外側から前記導波管内空間を経由せずに前記開口部に前記プラズマ生成用ガスを供給するガス供給手段とを有し、前記ガスが前記開口内空間において、前記導波管内に導入されたマイクロ波によりプラズマ化されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例に係るマイクロ波ラインプラズマ発生装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】上記マイクロ波ラインプラズマ発生装置の一部断面図である。
【図3】図1中において導波管の上方から包囲案内筒の下方までの範囲をx1−x1線に沿って切断した状態を示す断面図である。
【図4】上記マイクロ波ラインプラズマ発生装置の放電用平板体の変形例を示す。
【図5】板体の固定構造をx方向及びz方向に沿う面で切断した説明図である。
【図6】平板体2aの固定構造をx方向及びz方向に沿う面で切断した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施例に係るマイクロ波ラインプラズマ発生装置の概略構成を示している。図1中、導波管1は扁平な矩形導波管であり、アルミ又は真鍮などの導体で形成されている。この導波管1の左右各側には、第1及び第2のマイクロ波発生源5a、5bが設けられている。第1のマイクロ波発生源5aと導波管1の一端側開口との間は第1マイクロ波伝送路6aで接続され、マイクロ波発生源5aの発生したマイクロ波が第1マイクロ波伝送路6aを通じて導波管1内に供給されるようになっており、また、第2のマイクロ波発生源5bと、導波管1の他端側ポートとの間は、第2のマイクロ波伝送路6bで接続され、マイクロ波発生源5bの発生したマイクロ波が第1マイクロ波伝送路6bを通じて導波管1内に供給される。第1のマイクロ波伝送路6aは、L字形導波管7aとテーパ導波管8aとが連通されたものであり、第2のマイクロ波伝送路6bは、L字形導波管7bとテーパ導波管8bとが連通されたものである。テーパ導波管8a、8bは、後述するように導波管1の巾をL字形導波管7a、7bよりも狭くするものである。
【0012】
図2はマイクロ波ラインプラズマ発生装置の一部断面図であり、図2Aにおいて、第1及び第2のマイクロ波発生源5a、5b、L字形導波管7a、7b及びテーパ導波管8a、8bを取り外し、テーパ導波管8aの接続されていた一端側ポートの方から導波管1内などを見た状態を示している。導波管1の周面壁のうち下側の壁1b(H面)にマイクロ波の進行方向(y方向)に沿って開口部1aが形成されている。また、平板体2aは、図2Bに示すように平板体2aが扁平状の直方体形状であり、壁1bの内面に固定されて、この開口部1aを塞いでいる。
【0013】
導波管1の内部空間は、その中心軸に垂直な断面において、巾aが高さbより大きくなるように形成されている。導波管1の幅aは、特許文献1に開示されているとおり、導波管1内に導入されるマイクロ波の真空中における波長λと、導波管の内部におけるマイクロ波の波長λと、導波管の幅aとの間に成立する次の関係式から決定される。
【0014】
【数1】

【0015】
ここに、εは誘電率、μは透磁率である。rは真空の値に対しての比を示す。εは比誘電率、μは比透磁率である。
【0016】
この関係式において、マイクロ波の波長λは、生成すべきy方向に沿ったライン状のプラズマの長さcよりも大きい値とするのが、密度の大きい安定したライン状のプラズマを生成させる上で好ましい。この式で求められる巾aは、TEモードでマイクロ波を伝播させる導波管の巾よりも狭い。巾aを狭くすることにより、マイクロ波は導波管1において電力を放出する。
【0017】
本実施例においては、導波管1のH面の壁1bの内面よりも外側から導波管内空間を経由せずに開口部1aにプラズマ生成用ガスを供給するガス供給手段は、枠状の容器3とガス通路3aとにより実現される。枠状の容器3が導波管1の下側に配置されており、この容器3のx方向で対向した一対の平面壁の上部にはy方向の一定間隔位置にガス通路3aが形成されている。そして、各ガス通路3aには図1に示すようにガス供給管5が接続されている。これらガス供給管5には図示しないガス源からプラズマ生成用ガスが連続的に供給される。プラズマ生成用ガスにはヘリウムやアルゴンなどの希ガスが使用される。
【0018】
図3は、図1中において導波管1の上方から容器3の下方までの範囲をx1−x1線に沿って切断した状態を示している。図3Aにおいて、プラズマ生成空間9は、導波管1の周面壁のうち下側の壁1b(H面)にマイクロ波の進行方向(y方向)に沿って形成された開口部1a、この開口部1aに対応して固定された平板体2aからなっている。
【0019】
開口部1aは上方視長方形であり、そのy方向の長さは生成すべきラインプラズマの幅方向長さに関連して決定される。また平板体2aは石英やセラミックなどの誘電体である。平板体2aが扁平状の直方体形状に成形されているので、成形加工コストを低減させる上で有益である。
【0020】
図3Bは、導波管1の下面の壁1b内に、ガス通路3aを設けて開口部1aを構成する横壁に直接プラズマ生成ガスを導入する他のガス供給手段の例を示している。この例においては、導波管1の壁1b自体がガス供給手段としての役割を有する。この例においても、プラズマ生成ガスは、壁1bの内面側よりも外側を通過するため、導波管1内のマイクロ波の影響を受けずに開口部1a内に到達する。
【0021】
図4は平板体2aの変形例を示している。図4に示す平板体2aはその下面2eにx方向に沿う平坦な底面d1を有する直状溝2fを形成されている。直状溝2fはダイヤモンド刃具を使用して加工され、その深さは0.1mm程度である。図4に示す変形例では、底面d1がx方向視で円弧状とされている。これにより、プラズマ生成空間9の中央部が、導波管1内空間に入り込む。これにより、プラズマ生成ガスは、導波管内のマイクロ波の影響をさらに受ける。尚、実際にプラズマが発生する領域は、平板体2aの開口内部の内側にシース領域(plasma sheath)と呼ばれる境界領域を挟んだ位置である。
【0022】
図5は平板体2aの固定構造をx方向及びz方向に沿う面で切断した状態を示している。図5Aに示すように、平板体2aは導波管1の壁1bの内側であって開口部1aの真上に位置した状態で固定されている。
【0023】
さらに詳細には、導波管1の壁1bの平面e2には、平板体2aの固定される範囲に直方体状の凹み穴からなる嵌合領域e0が形成されている。この嵌合領域e0は上方視面積を平板体2aの嵌合される大きさとされ、また深さを0.1mm程度であり、この嵌合領域e0内に、平板体2aが嵌合されている。この状態において、嵌合領域e0の内周面e1は平板体2aの外周面d2と対向する係止面として機能する。平板体2aの外周面d2と嵌合領域e0の係止面e1との隙間は、プラズマ生成部9で生成されるプラズマ熱で導波管1及び平板体2aが温度上昇したときの、これら両者の熱膨張量の差で過大な押力が生じない程度の大きさに設定されている。具体的には、平板体2aのx方向各端部及びy方向各端部のそれぞれにおける外周面d2と係止面e1との隙間は1mm程度に設定される。
【0024】
平板体2aを嵌合領域e0の底面に押圧するために、折れ曲がり状の押さえ片10が設けられている。押さえ片10の下部は、ネジ部材11を介して導波管1の下面壁1bに螺着されて固定されている。また、押さえ片10の上部は、平板体2aの上面を平板体2aを損傷しない程度の力で下方へ押圧した状態としている。この押さえ片10は図2に示すように平板体2aのx方向辺部とy方向辺部とに配置され、平板体2a及び導波管1が熱による温度変化で熱変形するとき、この変形を許容して平板体2aを位置保持する。平板体2aの下面と嵌合領域e0の底面との間にはここを気密状に保持するためのシール構造fが形成されており、嵌合領域e0の底面に形成された環状溝とこれに嵌合されたOリングとからなっている。プラズマ生成部9は負圧であるため、押さえ片10は大きな力で、平板体2aを押さえなくとも、導波管1が大気圧であるために、導波管1の壁1B(H面)1bに押し付けられている。
【0025】
平板体2aは、図5Aに示すような固定に代えて、図5Bに示すように固定しても良い。この場合には、導波管1の下面壁1bの内面上であって、平板体2aの固定される範囲の外周囲に、高さが約1mmの突起部12が上方視方形環状に形成される。この突起部12の内側は嵌合領域e0であり、この嵌合領域e0に平板体2aが内嵌されている。嵌合領域e0を規定する突起部12の内周面は平板体2aの外周面d2に対応する係止面e1として機能する。そして平板体2aの外周面d2と嵌合領域e0の係止面e1との隙間や、押さえ片10及びネジ部材11による平板体2aの位置保持は、図5Aの場合に準じたものとなっている。この場合も図5Aの場合と同様なシール構造fが設けられている。
【0026】
図3に示す平板体2aが導波管1に固定された状態での直状溝2fの底面d1の高さについて説明する。図6は、図3に示す平板体2aの固定構造を示した説明図である。図6Aに示すように平板体2aが固定された場合は、平板体2aは直状溝2fの底面d1を導波管1の下側の壁1b(H面)の内平面e2より0.1mm程度高く位置される。また図6Bに示すように平板体2aが固定された場合は、平板体2aは直状溝2fの底面d1が導波管1の下側の壁1b(H面)に形成された突起部12の上端より0.1mm程度高い。このように固定された図4A、B中の平板体2aは直状溝2fの空所領域が係止面e1の上端よりも導波管1の断面の中心位置側に届いた状態となり、これにより直状溝2f内に存在したプラズマ生成用ガスは、導体に覆われない状態で導波管1内領域に存在した状態となって、導波管1内を伝播するマイクロ波の電磁エネルギーの影響を受けやすくなり、効果的に励起され、プラズマ化される。しかしながら、導波管1内でプラズマが発生すると、導波管内に導体を置いた状態と同じとなり、導波管1の巾に影響を与えマイクロ波自体が伝播しなくなることを考慮する必要がある。プラズマが実際に発生する領域が、導波管1内の巾a、高さbで規定する領域内を侵さないことが望ましい。
【0027】
図3Aにおいて、容器3内の上部のガス通路3a内に供給されたプラズマ生成用ガスは、平板体2aの真下近傍に導かれる。導波管1の開口部1aの真下領域は図示しないプラズマ処理室に開放される。プラズマ処理室4a内の気圧を負圧に保持し得る構造とするため、導波管1の下面壁と容器3の上面壁との間は気密状に保持されるように、既述と同様なシール構造fを介して結合されている。
【0028】
次に全体的な動作について説明する。第1のマイクロ波発生源5aで発生されたマイクロ波が、第1のマイクロ波伝送路6aを通じて導波管1の一端側ポートから該導波管1内に導入されると共に、第2のマイクロ波発生源5bで発生されたマイクロ波が第2のマイクロ波伝送路6bを通じて、導波管1の他端側ポートから導波管1内に導入される。これにより導波管1内には、2つのマイクロ波の重畳波が生成される。
【0029】
さらに、プラズマ生成用ガスがプラズマ生成用ガス供給手段からガス供給管5及びガス通路3a及びガス案内路手段13aを通じて、プラズマ生成部9を形成する平板体2aの直下近傍に供給される。このように供給されたプラズマ生成用ガスが導波管1内に生成された重畳波による電磁エネルギーによって、平板体2aの直下近傍において励起され、プラズマ化される。
【0030】
上記のプラズマ処理において、通常では導波管1内は大気圧に保持されるのであり、またプラズマ処理室4a内は負圧であり、導波管1と平板体2aとの間箇所、導波管1と容器3との間箇所のそれぞれはシール構造fにより気密状に保持される。
【0031】
上記実施例は次のように変形することができる。
図6のように、導波管1の内面に直方体状の凹み穴からなる嵌合領域e0を形成しないで、凹凸のない内平面e2上に直接に平板体2aを載置し、この状態の平板体2aを押さえ片10やネジ部材11などで固定させるようにしてもよい。
【0032】
上記実施例においては、プラズマ生成ガスとして希ガスを用いたが、反応ガスを用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 導波管
1a 開口部
1b 壁(H面)
2a 平板体
2d 外周面
2f 直状溝
3 容器
3a ガス通路
3b 放出口
d1 直状溝2fの底面
e0 嵌合領域
e1 係止面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入されるマイクロ波の進行方向に長さを持つ開口部がH面に形成された偏平な矩形状導波管と、前記開口部の導波管のH面の内側壁との間で前記開口を導波管の内部空間から開口内の空間を閉鎖する誘電体からなる平板体と、前記H面の壁内面よりも外側から前記導波管内空間を経由せずに前記開口部に前記プラズマ生成用ガスを供給するガス供給手段とを有し、前記ガスが前記開口内空間において、前記導波管内に導入されたマイクロ波によりプラズマ化されることを特徴とするマイクロ波ラインプラズマ発生装置。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロ波ラインプラズマ発生装置において、前記平板体の開口内空間側に前記開口の長さ方向にわたり溝が形成されていることを特徴とするマイクロ波ラインプラズマ発生装置。
【請求項3】
請求項1記載のマイクロ波ラインプラズマ発生装置において、前記開口周囲の前記導波管内側面に、前記平板体を前記内側面側に押圧する複数の押さえ片が離散的に配置されていることを特徴とするマイクロ波ラインプラズマ発生装置。
【請求項4】
請求項1記載のマイクロ波ラインプラズマ発生装置において、前記ガス供給手段は、前記開口を前記導波管の外側から包囲して前記開口内の空間と連通した容器を有し、前記容器に前記プラズマ生成用ガスを供給することを特徴とするマイクロ波ラインプラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−219003(P2010−219003A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67472(P2009−67472)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業(超大型ライン状プラズマを使った高均一新規プラズマ源の開発)委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(392036326)株式会社アドテック プラズマ テクノロジー (24)
【Fターム(参考)】