説明

マイクロ波加熱の温度制御方法及びマイクロ波加熱装置

【課題】広く一般的に利用されるマイクロ波加熱法において、強誘電体の持つキュリーポイント相転移を利用し、加熱対象を急速かつ均一に所定の温度に加熱するマイクロ波加熱方法を提供する。
【解決手段】強誘電体にマイクロ波を照射し、強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により加熱温度を制御するマイクロ波加熱の温度制御方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く一般的に利用されるマイクロ波加熱法において、強誘電体の持つキュリーポイント相転移を利用し、加熱対象を急速かつ均一に所定の温度に加熱するマイクロ波加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波は、広く工業加熱に利用されており、従来の対象物の水分を加熱或いは乾燥させる用途から、誘電体素材の加熱、さらには液層を中心にした反応促進・新規反応などの用に発展してきており、簡便で高効率な熱エネルギー源としてではなく、機能性加熱ともいえる特殊な利用法へと展開しつつある。
【0003】
マイクロ波加熱は、対象物にマイクロ波が吸収されエネルギーが損失するときに発する熱を利用し、食品加熱や種々の素材乾燥などに広く用いられ、工業的にはゴムの加硫プロセスにおいて不可欠な技術である。また、マイクロ波加熱は、急速加熱、内部加熱、選択加熱などの特徴を有するとともに、一般の加熱法と異なり高音部位からの接触熱伝導熱伝導によらない加熱法であることから、一般に高い温度制御を発揮する。
【0004】
しかし、マイクロ波加熱には内部からの急速加熱であることと高温になるほどマイクロ波吸収が促進される傾向にあることから、所定の温度に制御することが困難となる場合が稀に生じることや、照射するマイクロ波の強度分布によって加熱ムラが生じるなどの問題があった。
【0005】
ここで温度に伴って物性が変化するある種の物質のなかで、特に物質の温度を上げていくと固有の温度を境に物性が大きく変化する相転移現象を持つものがある。物質の状態変化と言う相転移では水が低温から高温になるに従って固体、液体、気体と変化するが、物質の状態はおおむね変化していないにもかかわらず物性が変化するものとして、キュリーポイント相転移があり、磁石等の強磁性体ではキュリーポイント以上になると強磁性を失って常磁性となり磁石としての性質を失うことが知られている。
【0006】
このような温度による磁性の変化を利用してマイクロ波加熱の制御を行う方法として、特許文献1がある。特許文献1に記載の熱ローラー装置は、適温に調整したキュリー温度を有する金属ローラー7によって自己温度制御性を備え、この金属ローラー7を誘導加熱部によって誘導加熱し、温度制御することを特徴とする。
【特許文献1】特開平10−208859号公報
【0007】
その他に、特許文献2〜5などもある。
【特許文献2】特開平11−288190号公報
【特許文献3】特開平11−327331号公報
【特許文献4】特開2000−39797号公報
【特許文献5】特開2001−5315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロ波加熱における加熱ムラの改善や温度制御性の更なる向上のために強磁性体を用いたキュリーポイント温度制御技術は提案されているが、マイクロ波の磁界成分による磁性体の発熱現象は詳細が不明な点も多く、磁性以外の発熱因子が関与している可能性もあるため、原理が明快で理論的に応用展開がしやすい物質を用いて同様の効果を得られることが望ましかった。また磁性体が一般的に金属類であることから化学的に不安定であり、反応などによって周囲の物質に変化をもたらす可能性があるなどの難点があった。
【0009】
マイクロ波の強磁性体加熱において指標となる物性値である強磁性体の透磁率μ’ならびに複素数で表せる磁性損失μ”は電磁波の周波数が高くなると急激に減少することが知られている。特にギガヘルツ帯域では透磁率ならびに磁性損失が非磁性体と同程度にまで減衰してしまうものがほとんどであり、これはすなわちギガヘルツ帯域で磁性体は電磁波と相互作用を起こさず、また発熱現象も起こりにくいことを意味し、強磁性体のマイクロ波加熱は理論的には実現が困難であることが予想される。
【0010】
しかし、ある種の研究や特許には2.45GHzのマイクロ波で強磁性体を用いたキュリーポイント温度制御技術の報告がある。これは磁性体が金属類であることから、金属の持つ導電的性質や金属化合物もしくは酸化皮膜の誘電的性質の影響によって加熱されている可能性が考えられ、現象が複雑で解析や考察が困難であると考えられる。
【0011】
また、金属類の粒子間で放電が起こる危険性なども予想され、よりいっそう現象の理解が難しい。このように原理が不明確で、危険性もある強磁性体のキュリーポイントによるマイクロ波加熱制御技術に変わる有効なマイクロ波加熱制御技術が望まれていた。
【0012】
そこで、本発明は、素材そのものが電磁波と相互作用することによって加熱されるマイクロ波加熱では、対象素材の物性の特徴を直接的にひきだすことによる新しい加熱が可能であることに注目し、強誘電体の持つ温度に依存したキュリーポイントの相転移現象を利用したマイクロ波加熱方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
ここで、強誘電体とは、自発分極を生ずる物体をいう。強誘電体は外部から電場を加えていなくとも物質が電気双極子を持ち、しかも電気双極子の向きを電場に応じて反転させることができる物質を指し、チタン酸バリウムや鉛系の酸化物、亜硝酸ナトリウムといった無機材料が有名である。
【0014】
強誘電体は常温において非常に大きな誘電率を持ち、一般の誘電体より数十倍から数百倍の誘電率を有するものもある。ここで誘電体の誘電特性としては誘電率ε’と誘電損失ε’’もしくは誘電率で誘電損失を割った値である誘電損失係数tanδなどの大小で評価する。
【0015】
一般に強誘電体は相転移温度Tc(キュリーポイント)を持ち、Tc以下の温度で強誘電性を示す。また分極が保持される性質は、不揮発性メモリーとして利用されている。分極反転には結晶格子の変形を伴うため、電気的/機械的エネルギーの相互変換特性に優れた物質例が多い。
【0016】
また、キュリーポイントとは、キュリー点、キュリー温度ともいわれ、磁性体であれば、強磁性と常磁性とが相転移する温度、強誘電体であれば、強誘電性と常誘電性とが相転移する温度をいう。
【0017】
強誘電体物質は幾つかのグループに分類される。酒石酸ナトリウムカリウムを代表とする酒石酸グループ、第一燐酸カリウムを代表とする第一リン酸塩グループ、チタン酸バリウムを代表とする酸素八面体グループがある。現在知られている強誘電体は、純物質だけで150を超えているといわれているが、その一部の強誘電体についてキュリーポイントを図10に示した。
【0018】
図10の物質や他の多くの強誘電体物質を利用することで種々のキュリーポイントが選択できるので、温度制御技術として本発明は有効であると考えられる。
【0019】
本発明の実施例で使用したチタン酸バリウムは120℃のキュリーポイントを持ちこの温度にいたるまでは強誘電体としての性質を示し、キュリーポイント22に近づくに従って、自発分極が減少し、キュリーポイントを超えると、自発分極が消失し常誘電体に相転移する。その相転移の様子を模式的に示すのが図9である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の課題を解決するために、第1に、強誘電体にマイクロ波を照射し、前記強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により加熱温度を制御することを特徴とするマイクロ波加熱の温度制御方法の構成とした。第2に、強誘電体又は強誘電体を含む素材にマイクロ波を照射するマイクロ波発振機と、前記マイクロ波発振機が連結され前記強誘電体を内部に備える容器とからなり、強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により、加熱温度を制御することを特徴とするマイクロ波加熱装置の構成とした。第3に、加熱対象に強誘電体を塗布、被覆、混合、併設又は近接配置し、前記強誘電体の発熱を加熱対象に伝導させることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱の温度制御方法の構成とした。第4に、発熱体を強誘電体の近傍に配置もしくは混合し、前記強誘電体の昇温に伴う誘電率の変化によって、前記発熱体へのマイクロ波の通過量を制御することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱の温度制御方法の構成とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上の構成であるから以下の効果が得られる。本発明にいたる研究過程で、強磁性体において検証されてきたキュリーポイント温度制御技術の課題を解決する為に、マイクロ波照射下での強誘電体キュリーポイント温度制御が可能であることを見出した。これにより不明確な点の多い強磁性体キュリーポイントに変わる応用範囲の広い強誘電体のキュリーポイントを用いた温度制御技術へと展開することが出来た。
【0022】
強誘電体の利用では、強磁性体を利用する場合に比べると、マイクロ波領域で確実に認めることの出来る誘電率や誘電体損失を利用することになるので、現象の把握や考察、応用展開が容易となり、さらに安定なセラミック系の誘電体を用いれば化学的に安定であり、反応などによって周囲の物質に変化をもたらす可能性もなく、金属類では無いことからマイクロ波照射時に放電現象などを引き起こすことも無い。
【0023】
また、強誘電体のキュリーポイント制御では目標とする温度に急速に到達し、その温度の手前で急速な昇温の制動がかかり、結果的に設定温度に精度良く達する。この作用を利用して加熱対象そのもの、もしくは発熱する強誘電体から熱エネルギーを加熱対象に伝達し急速加熱ができる。また実施例3に示すようにある広がりをもった面状の物体を加熱する場合には、いち早くキュリーポイントに達した部位は昇温が止まり、いまだキュリー点に至らない部位は昇温が進むことを通じて、最終的に広い面積を均一加熱することができる。
【0024】
さらに、強誘電体の昇温にともなうキュリーポイントの前後における誘電率の変化によってマイクロ波エネルギーの流れを変化させることもでき、そのような作用を利用したマイクロ波加熱の温度制御法も可能である。
【0025】
その結果、高精度の温度制御が必要な工業加熱や、広範囲に均一な昇温が必要な構造物の加熱、もしくは急速に所定の温度まで昇温する特殊な加熱へと利用できる。例えばコピー機のドラムなどはその代表的な一例である。また、国際公開番号WO2003−080237に示されるようなVOC吸着回収装置の粒状活性炭を使った吸着層の加熱脱離に利用することも出来る。
【0026】
コピー機の電源が入っていないとき、加熱ドラムは室温と同じであり、電源投入から百数十度までなるべく早く且つ均一に昇温する必要があり、本発明であるマイクロ波加熱の温度制御方法は非常に有用である。
【0027】
また、分析装置等の前処理技術や、食品加熱において鮮度や風味を損なわずに一定の温度に急速に加熱する場合など幅広分野に利用することができる。
【0028】
ここで、本発明であるマイクロ波加熱の温度制御を用い、急速に目標温度まで加熱する技術について従来の温度制御技術と比較して述べる。
【0029】
速やかに目標温度に制御する代表的な従来技術として、PID制御がある。PID制御は、フィードバック制御の一種であり、比例制御(Proportional Control)、積分制御(Integral Control)、微分制御(Derivative Control)を組み合わせて設定値に収束させる制御のことである。
【0030】
しかし、PID制御において適切な比例ゲイン、積分ゲイン(または積分時間)、微分ゲイン(または微分時間)を決定するには制御対象の入力に対する応答のパラメーターを調べておく必要があるなどの問題を有する。
【0031】
図8は、マイクロ波加熱による温度制御方法を説明する図である。横軸が制御時間、縦軸が温度である。図8に応答のパラメーターの大小によるPID制御時の応答の様子を示した。
【0032】
応答のパラメーターが小さいときのPID制御例20は、目標温度18に漸近していくが収束に時間がかかり、逆に応答パラメーターが大きいPID制御例19は、目標温度18を目指して制御が進むが、オーバーシュートして収束までしばらく振動してしまう。また、時定数が小さい(応答開始に時間がかかるが、応答がはじまると急激に変化する)現象の制御対象にはPID制御は不向きである。
【0033】
一方、本発明である強誘電体をマイクロ波で加熱する温度制御方法を利用すれば、迅速且つ均一に所定温度まで加熱対象を加熱することができる。図8に示すように、本発明のマイクロ波加熱の温度制御方法例21ではマイクロ波照射のパワーを増加させれば急速に温度上昇し、キュリーポイントで定めた目標温度18に近づくと急速に昇温に制動がかかり目標温度18に達する。
【0034】
本発明の温度制御法はPID制御で急速に目標温度に到達させようとするときのオーバーシュートも起こらず、また到達時間は照射マイクロ波パワーを増加させることによって極めて短縮される特徴を持ち優れた温度制御法だといえる。
【0035】
なお、以上の効果は、マイクロ波に換えて、高周波、ミリ波などの電磁波であっても得ることが可能であるから、マイクロ波には、高周波、ミリ波など電磁波を含むものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
マイクロ波加熱法において、加熱対象を急速かつ均一に所定の温度に加熱制御するという目的を、強誘電体にマイクロ波を照射し、前記強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により加熱温度を制御することを特徴とするマイクロ波加熱の温度制御方法とすることで実現した。
【0037】
以下に添付図面に基づき、本発明であるマイクロ波加熱方法について詳細に説明する。
【実施例1】
【0038】
図1は、実施例1の照射系である。実験に用いたマイクロ波の照射系1は、マイクロ波を発生するマイクロ波発振機2と、前記マイクロ波発振機2で発生したマイクロ波を通す導波管型マイクロ波照射系3と、前記導波管型マイクロ波照射系3内に置かれた強誘電体の温度を測定する温度測定部4からなる。
【0039】
マイクロ波発振機2は、ミクロ電子株式会社製1.5KW定格CW仕様のマイクロ波源を使用した。
【0040】
導波管型マイクロ波照射系3は、マイクロ波を加熱対象に照射し、吸収、発熱反応を起こす部分であるアプリケータ5と、前記アプリケータ5の前方に取り付けられたマイクロ波を導入するための構成として、マイクロ波の反射波成分からマイクロ波発振機2を保護するするアイソレーター6と、マイクロ波を測定する端子である結合器7と、アプリケータ5の状態にあわせてマイクロ波の整合を得るための調整器8と、前記アプリケータ5の後方に取り付けた余剰マイクロ波を吸収させ系外に熱エネルギーとして排出するための水負荷部9とからなり、前記各機器を連結する導波管3a、3d、連結管3b、3cを必要に応じて用いた。
【0041】
温度測定部4は、試料体である強誘電体もしくは加熱対象の温度を測定し、マイクロ波の影響を受けず照射するマイクロ波も乱さない光ファイバ温度計10(アンリツ計測社製)と、前記光ファイバ温度計10で測定した温度測定データをコンピューター12に転送するデーターロガー11と、前記データーロガー11から送信された温度測定データを時間の関数として表現するコンピューター12からなる。
【0042】
上述する照射系1で、強誘電体にマイクロ波を照射し、キュリーポイントまで加熱したときに、昇温が停止する様子を、昇温の時間変化を測定して確かめた。
【0043】
図2は、図1のアプリケータ内部の模式図である。強誘電体13にマイクロ波2aを照射する一例である。キュリーポイントを有する強誘電体13としてε=1000のコンデンサ用チタン酸バリウム(BaTiO)の造粒物を利用した。チタン酸バリウムのキュリーポイントはおよそ120℃である。
【0044】
強誘電体13であるチタン酸バリウムは、バインダーで粒径約2mmに造粒成型し、焼成して容器5aに4g入れた。容器5aは外径12mmのパイレックス(登録商標)製の試験管である。マイクロ波2aを強誘電体13に照射し、強誘電体13に温度センサ10aを直接差し、強誘電体13の温度を測定する。なお、今回使用した強誘電体13は、粒状物であるので容器5aの中に配置したが、強誘電体13の形状によりアプリケータ5(チャンバー)内に直接設置することもできる。
【0045】
図3は、実施例1の測定結果である。強誘電体13に、出力100Wのマイクロ波14a、出力150Wのマイクロ波14b、出力200Wのマイクロ波14c、出力300Wのマイクロ波14d、出力500Wのマイクロ波14eを照射したときの昇温グラフ14である。横軸がマイクロ波の照射時間、縦軸が強誘電体13の温度である。
【0046】
実施例1の実験において、使用した強誘電体13の試料にマイクロ波2aを照射したときに、キュリーポイント22での昇温過程に変化が現れるか確認した。
【0047】
測定結果からわかるように、照射出力を増加させてもキュリーポイントである120℃を越えることは無い。また高出力を照射したときは、急速に加熱されキュリーポイントである120℃未満で昇温は停止している。すなわち急速な加熱と一定温度への精度の良い制御が可能であることがわかる。この作用を用いれば、Pid等の加熱コントロールより遥かに高精度な温度制御が可能であることがわかる。
【0048】
ここで強誘電体を昇温していきその強誘電体素材に固有のキュリーポイントにいたるとき、強誘電体から誘電体に変化し誘電率や誘電損失は急激に減少する。この現象によって強誘電体とマイクロ波の相互作用も減少し、結果として発熱量が減り、加熱に制動がかかるのである。
【0049】
また、これらの強誘電体を、マイクロ波を照射したときに発熱する加熱対象の素材の近傍に配置もしくは接触、混合、混合させることで、強誘電体がキュリーポイントに達したとき、誘電率が減少することから、対象素材周囲の電磁界を変化させ、加熱対象へのマイクロ波吸収を変化させることも出来る。
【実施例2】
【0050】
図4は、強誘電体の誘電率の変化によって加熱対象の周囲の電磁波の環境を変化させ、マイクロ波加熱の温度制御方法の原理を説明する図である。
【0051】
導波管型マイクロ波照射系3内に導入する設置したマイクロ波照射によって発熱する物体(発熱体)の近傍に強誘電体を配置し、発熱体の昇温にしたがって強誘電体の温度も上昇し、キュリーポイントを境に誘電率が大きく変化することを利用して、マイクロ波の通過量を制御し、発熱体の温度制御を行う一例である。
【0052】
ここで、発熱体とは、マイクロ波照射によって、発熱する物体であり、誘電体、磁性体、半導体、導体、金属粉体および金属粉体を含む素材が挙げられる。
【0053】
図4(A)は、強誘電体13aがキュリーポイントに達する前のマイクロ波のポインティングベクトル2bを模式的に表している。図4(B)は、強誘電体13aがマイクロ照射を受けキュリーポイントに達した後のマイクロ波のポインティングベクトル2cを模式的に表している。ポインティングベクトル2b、2cは電磁波の電場と磁場の外積でありエネルギーの流れを表している。
【0054】
図4(A)に示すように、強誘電体13aを発熱体15の近傍に配置することにより、強誘電体13aの有する大きな誘電率によって、発熱体15を通過するマイクロ波が大きくなる。通過量の増えたマイクロ波によって発熱体15は急速に温度上昇する。それとともに、発熱体15から強誘電体13aに熱が移動する。図4(A)中の破線矢印が熱の移動方向である。
【0055】
図4(B)に示すように、次に、発熱体15の温度上昇が進み発熱体15の温度が強誘電体13aのキュリーポイントを超えると、発熱体15から熱伝導で昇温させられた強誘電体13aが常誘電体に変化し、それに伴ってマイクロ波の通過量は減少する。
【0056】
このように常誘電体になってしまった強誘電体13aではマイクロ波を引き寄せる能力が小さくなるので、結果的にマイクロ波発熱体を通過するマイクロ波も少なくなり、温度制御が出来ることになる。また、このときマイクロ波発熱体だけでなく、強誘電体13aが発熱してもよく、その場合、強誘電体13aの発熱もキュリーポイントで急速に減少する。強誘電体を用いることで、マイクロ波の集中、非集中をスイッチング(オン・オフ)することもできる。
【実施例3】
【0057】
図5は、強誘電体を含む発熱体にマイクロ波を照射したときの加熱対象の加熱温度の分布を測定した例である。ここで、含有する強誘電体はチタン酸バリウムとする。また、加熱対象16は、アルミナ板とする。板状に配置した強誘電体を含む発熱体13bと加熱対象16を接触させ、マイクロ波2aを照射すると、強誘電体を含む発熱体13bは、均一、かつ急速に発熱する。そのときの加熱対象16の昇温の様子を図6に示した。
【0058】
図6は、サーモグラフの測定結果である。温度分布は、マイクロ波照射の経過とともに、図6(A)から(D)の順で、変化(昇温)する。なお、図中の数字は温度(℃)である。図6から分かるように、強誘電体を含む発熱体13bによって、加熱対象16は均一、急速に加熱している。
【0059】
マイクロ波加熱ではチャンバーの形状に依存するマイクロ波の電磁界の分布の影響や、加熱対象16の内部に定在波という常に電界が強い部分と常に電界が弱い部分が生じることなどで、加熱ムラが発生するしばしばあり、面の加熱などでは顕著となる。
【0060】
これに対して実施例3のように強誘電体のキュリーポイントを用いた加熱温度の制御方法では、キュリーポイントの温度までは加熱ムラが発生しているが、分布させた強誘電体を含む発熱体13bの温度がキュリーポイントに達すると、その部分のマイクロ波2aの侵入が減少するとともに誘電損失も減少することからその部位の温度上昇は止まり、次に、まだキュリーポイントに達していない部位へ昇温が移行し、その新たな昇温部位の加熱が促進される。このような効果が進み最終的にキュリーポイントで決定される温度にまで全体を均一に加熱することができる。
【0061】
また、このキュリーポイント制御では単なる均一加熱ではなく所定温度になると昇温が停止する作用を素材が有することから、高出力のマイクロ波を照射して、急速に加熱することと均一に加熱することが同時に起こる。
【実施例4】
【0062】
図7は、実施例4の模式図である。実施例4は、コピー機の加熱ローラー17にマイクロ波加熱の温度制御方法を用いた一例である。
【0063】
コピー機の加熱ローラーは、通常190℃程度に加熱して、且つ均一な温度分布になっていなければならない。しかし、省エネルギー対応の観点から、この加熱ローラーを常に加熱し続けることには難点があり、通常は待機モードなっていたり、あるいは電源はオフになっている。
【0064】
そこで、電源オフあるいは省電力モードから、マイクロ波加熱で急速に加熱することが有用である。本発明のように強誘電体のキュリーポイントを利用した温度制御法ならば、急速加熱が可能であり、実施例3に示されるような、広い面積での均一加熱の効果も発揮されて、極めて短時間に加熱ローラーの全面を所定の温度に加熱することが出来る。
【0065】
加熱ローラー17は、通常のコピー機の加熱ローラーと同じ金属製の外周部17aと、外周部17aの内側に強誘電体もしくは強誘電体と発熱体の混合物である温度制御材17bを備えてなる。なお、外周部17aは、金属製でなくとも、マイクロ波を遮断し、加熱できる素材であってもよい。
【0066】
温度制御材17bを備えるとは、温度制御材17bを、外周部17aの内面に塗布、貼付、被覆、接着、混合、併設などして配置することをいう。なお、外周部17aと温度制御材17bとの間に、熱伝導製のよい素材を配置してもよい。
【0067】
マイクロ波2aは加熱ローラー17の内側に導入する。なお、外周部17aが金属製であることから、マイクロ波2aは外部に漏れることは無い。マイクロ波2aを照射され加熱される強誘電体は、キュリーポイントまで加熱されるが、ここで高出力のマイクロ波2aを照射すれば、急速な加熱がなされ、その昇温はキュリーポイント、即ち目的の温度で止まるとともに、図6に示される均一加熱の作用があることから、加熱ローラー17全体での均一な温度分布も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1の照射系である。
【図2】図1のアプリケータ内部の模式図である。
【図3】実施例1の測定結果である。
【図4】強誘電体の誘電率の変化によって加熱対象の周囲の電磁波の環境を変化させ、マイクロ波加熱の温度制御方法の原理を説明する図である。
【図5】強誘電体を含む発熱体にマイクロ波を照射したときの加熱対象の加熱温度の分布を測定した例である。
【図6】サーモグラフの測定結果である。
【図7】実施例4の模式図である。
【図8】マイクロ波加熱による温度制御方法を説明する図である。
【図9】相転移の様子の模式図である。
【図10】一部の強誘電体のキュリーポイントである。
【符号の説明】
【0069】
1 照射系
2 マイクロ波発振機
2a マイクロ波
2b ポインティングベクトル
2c ポインティングベクトル
3 導波管型マイクロ波照射系
3a 導波管
3b 連結管
3c 連結管
3d 導波管
4 温度測定部
5 アプリケータ
6 アイソレーター
7 結合器
8 調整器
9 水負荷部
10 光ファイバ温度計
10a 温度センサ
11 データーロガー
12 コンピューター
13 強誘電体
13a 強誘電体
13b 強誘電体を含む発熱体
14 昇温グラフ
14a 出力100Wのマイクロ波
14b 出力150Wのマイクロ波
14c 出力200Wのマイクロ波
14d 出力300Wのマイクロ波
14e 出力500Wのマイクロ波
15 発熱体
16 加熱対象
17 加熱ローラー
17a 外周部
17b 温度制御材
18 目標温度
19 PID制御例
19a 到達時間
20 PID制御例
20a 到達時間
21 マイクロ波加熱の温度制御方法例
21a 到達時間
22 キュリーポイント



【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体にマイクロ波を照射し、前記強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により加熱温度を制御することを特徴とするマイクロ波加熱の温度制御方法。
【請求項2】
強誘電体又は強誘電体を含む素材にマイクロ波を照射するマイクロ波発振機と、前記マイクロ波発振機が連結され前記強誘電体を内部に備える容器とからなり、強誘電体のキュリーポイントの前後での誘電特性の変化により、加熱温度を制御することを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
加熱対象に強誘電体を塗布、被覆、混合、併設又は近接配置し、前記強誘電体の発熱を加熱対象に伝導させることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱の温度制御方法。
【請求項4】
発熱体を強誘電体の近傍に配置もしくは混合し、前記強誘電体の昇温に伴う誘電率の変化によって、前記発熱体へのマイクロ波の通過量を制御することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−299681(P2007−299681A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127841(P2006−127841)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年11月2日〜4日 財団法人 産業創造研究所主催の「第5回マイクロ波効果・応用国際シンポジウム」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発/直接加熱式VOC吸着回収装置の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(506149748)エンバイロメント・テクノロジー・ベンチャーズ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】