マイクロ波帯昇圧整流回路及びこれを用いた無線タグ装置と無線タグシステム
【課題】電波資源の効率的利用の観点からISMの5GHz帯や24GHz帯で利用可能なマイクロ波周波数帯で電波式無線タグでのデータ通信や測位など新しい利用方法を実現するために、低消費電力で高い感度のRF受信方式を実現することである。
【解決手段】0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、パッシブ動作でRF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路を用いる。さらに、共振昇圧されたRF信号を2倍圧整流するときに共振昇圧出力の直流抵抗分を開放状態とすることで、従来2つのダイオードを用いてRF信号の充放電を繰り返すために挿入したコンデンサが必要なくなるためにマイクロ波帯で比較的大きな挿入損失を与えるコンデンサの影響を受けることなく整流出力が得られ高感度でのRF信号の受信検波が可能になる。
【解決手段】0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、パッシブ動作でRF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路を用いる。さらに、共振昇圧されたRF信号を2倍圧整流するときに共振昇圧出力の直流抵抗分を開放状態とすることで、従来2つのダイオードを用いてRF信号の充放電を繰り返すために挿入したコンデンサが必要なくなるためにマイクロ波帯で比較的大きな挿入損失を与えるコンデンサの影響を受けることなく整流出力が得られ高感度でのRF信号の受信検波が可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路及びこれを用いた無線タグ装置と無線タグシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ユビキタスセンサネットワークの実現のための要素技術の研究開発が盛んに行われている。この技術を広く普及させるための課題として、設置場所や所持を意識させないセンサ端末の小形化、年単位の電池寿命の低消費電力・長寿命化、リアルタイム応答性能が求められている(非特許文献1)。
従来のセンサネットワーク端末で研究開発が進められているZigBee、Bluetooth、UWB等の通信技術では、電池寿命の競争に伴ってリアルタイム応答性能を犠牲にしたスリープ定期起動動作による低消費電力化が図られている。このようなセンサは気象環境のセンシング等のように5分間に1回の割合で通信が成立すれば十分な効果が期待できるシステムへの応用には有効ではあるが、ユビキタスセンサネットワークの将来ビジョン(非特許文献1)で掲げられている危険情報の察知・誘導や高齢者等の支援・見守りシステムではリアルタイム双方向性の実現が重要な課題となっている。
【0003】
発明者らは、ICT安心・安全な社会基盤の構築に貢献することを目的として、これまで提案してきたウェアラブルアンテナ(特許文献1)、低消費電力化及びリアルタイム双方向無線接続技術(特許文献2)を用いて、小形で低消費電力の無線接続センサ端末及びセンサネットワークシステムの開発を進めてきた。また、 ARIB STD-T81規格で動作し2.45GHz帯3mW/MHzリーダ出力にて35mまでの読取り動作を確認したセンサタグを試作評価している。これらのタグは1秒当たり20回の連続測距センサ無線タグ、1秒当たり350回の連続サンプリングで動作する3軸加速度センサ無線タグ及び心電計センサ無線タグの3種類であり、いずれも厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化が可能である。また、内蔵する3Vボタン電池の連続動作時の消費電流はそれぞれのタグにおいて10μA、633μA及び583μAであった(非特許文献2)。
【0004】
本明細書では、100kbpsのデータを連続送受信したときの消費電力500μW以下、待ち受け時10μW以下、測位誤差10cm以下で30m以上の通信可能距離を目標として開発しているITS等の移動体を対象とした無線分散センサネットワークのための5GHz帯で測位可能な小形で低消費電力・長寿命なリアルタイム無線データ通信端末について開示する。
【0005】
まず、5GHz帯センサタグの長距離化と低消費電力化を達成するための基礎検討について述べ次に、長距離化及び低消費電力化のための技術として、フレキシブルなキャビティ付きスロットアンテナ、スタブ共振昇圧受信回路、低消費電力かつ誤動作の少ないウエイクアップ動作用のパルス符号化鍵検出とサブキャリアMPSK変調方式について開示する。
【0006】
また、高速・高精度測位のために試作した、200MHz帯域幅で反射サブキャリア信号の周波数応答の逆フーリエ変換及び補間測距処理を5ms以内で行うリーダ用のDSP受信機についても開示する。
【0007】
図1は、従来型のパッシブ無線タグ装置の例で特許文献3の図2に記載された回路図である。
【0008】
この図でアンテナ素子L2に接続されたキャパシタC1はλg/4ショートスタブL3と共振し、アンテナ受信RF信号の振幅を約10倍に昇圧している。D3はこれを整流検波してC3をチャージする他、スタブで昇圧されたRF信号はC2を経由してD4及びD5に接続することで2倍圧整流している。前記2倍圧整流回路の基準電位はC3のチャージ電圧となっているためにC4には前記スタブ昇圧RF信号の3倍圧整流電圧がチャージされる。
【0009】
この回路では、C4にチャージされた受信RF信号の30倍圧整流電圧がマイクロプロセッサU7等の駆動に用いられ、C3にチャージされた受信RF信号の10倍圧整流電圧が受信信号のASK復調に用いられている。ここで、2種類のスタブ昇圧RF信号の整流電圧を使い分ける理由は、前記U7等では比較的高い駆動電圧を必要とし、前記受信信号のASK復調には短い時定数(比較的低い出力インピーダンス)が要求されるためと記述されている。
【0010】
しかし、図1を含む特許文献3に記載された実施例は全て2.45GHz帯(UHF帯)のものであり、マイクロ波帯(3−30GHz)では無線タグで要求される昇圧整流出力電圧が得られないことが分かった。例えば、5GHz帯における図1のC3にチャージされる電圧は受信RF信号電圧の3倍程度までであり、C4にチャージされる電圧は受信RF信号電圧の6倍程度までであった。
【0011】
昇圧比が大きく降下した原因は、(1)ショートスタブ自体のQ値が低下した、(2)D3の接合容量及びC2を経由して接続されるD4とD5の接合容量がスタブ共振昇圧回路(C1とL3による共振回路)の負荷となり共振回路のQ値を更に下げたことによると考えられる。ここで、(1)については高周波化に伴うスタブショート端からの電磁波放射損の増加が原因であり、(2)については(1)が原因となってスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれなくなったことが原因であると考えられる。
【0012】
図2は、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路であって、主にパッシブ型無線タグ装置に用いる。図2の(a)及び(b)は、λg/2オープンスタブ共振昇圧回路に2倍圧整流回路を組み合わせた例であり、(c)は、λg/2オープンスタブ共振昇圧回路に4倍圧整流回路とASK復調回路を組み合わせた例である。
【0013】
図2で5GHz帯の場合、C1=0.1pF、C2〜C4=1pF、C5=0.1μF、L1〜L3=5nH、R1=10kΩ、R2=2.2MΩ、RLは無線タグ回路の等価負荷抵抗、D1〜D4はDMF2828(Cj=0.1pFのショットキバリアダイオード)、D5は逆流防止用ダイオード、D6は保護用ツェナダイオード、U1はシュミットトリガインバータである。これらの回路の実験の結果では、共振周波数を5GHz帯としRFinに50Ωで-20dBmの正弦波を入力し、RL=10MΩで(a)の場合Vo=470mV(昇圧比21倍)、(b) の場合Vo=420mV(昇圧比19倍)、(c) の場合Vo=720mV(昇圧比33倍)を得た。(c)の出力電圧は、無線タグ回路を動作させるのに十分な電圧と言える。また、(a)及び(b)の構成でも入力電力として-15dBm程度あれば無線タグ回路を動作させることができる。
【0014】
以下、従来方式の図1と本発明の実施例に係る図2の差異について説明する。
ア)図1ではRF信号の共振昇圧にショートスタブを用い、図2ではオープンスタブを用いている。
イ) 前記ア)の図1でショートスタブを用いる理由はUHF帯でスタブ長が短くできることとD3による単純整流が可能なために出力インピーダンスの低い(応答の速い)ASK復調が可能であった。
ウ) 前記ア)の図2でショートスタブを用いずオープンスタブを用いる理由はマイクロ波帯でスタブ長が短くなり過ぎずかつ電磁波放射損を抑制しQ値を保つことが可能であることと、スタブが直流で開放状態であるために2倍圧整流に必要なキャパシタ(図1の場合のC2)の挿入が不要になり結果としてマイクロ波帯での挿入キャパシタによる損失を無くすことができた。
エ) 図1では用いていないRF昇圧信号整流用ダイオードにインダクタL1〜L3を図2では挿入している。
オ) 前記エ)の図1ではUHF帯でスタブのQ値が十分に高くスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償することができた。
カ) 前記エ)の図2ではマイクロ波帯でスタブのQ値が十分には高くなくスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれない。そこで、整流ダイオードの接合容量と挿入したインダクタを共振させて容量負荷を軽減するとともに整流ダイオード素子に高いRF電圧が発生するようにインダクタの挿入位置を設定している(整流ダイオード素子がスタブに一番近い位置又はRF電位のGNDに一番近い位置が好ましい)。
【0015】
図2において(a)と(b)の差異は、(a)の場合は整流ダイオード素子がスタブに一番近く、(b)の場合は整流ダイオード素子がRF電位のGNDに一番近い。また、(b)の場合はD1とD2に対して共通のL1を挿入しているが、(a)の場合はD1に対してL1をD2に対してL2を挿入している。この場合、D1とD2の接続条件が異なるために(a)のインダクタ挿入方法の方がより高い昇圧比を得ることができる。
【0016】
図2の(c)では、スタブ共振昇圧RF信号をD1及びD2で2倍圧整流しC2をチャージして、C2の直流電位を基準にD3及びD4を用いて更にスタブ共振昇圧RF信号の2倍圧整流電圧を加えてC4をチャージし4倍圧整流電圧を得ている。このときC3はスタブの直流電位とD3及びD4のコモン端子の直流電位を分離する目的で挿入されている。
【0017】
図1のU1によるASK復調方法と図2のU1によるASK復調方法は同じであり、受信した信号をスタブ共振昇圧整流検波した後、振幅ピーク電位の1/2を閾値としたコンパレータ動作によって受信データ符号である0と1の判定を行う。
【0018】
図3は、従来型のセミパッシブ無線タグ装置の例で特許文献2の図4に記載された回路図である。
【0019】
この図でアンテナ素子22に接続されたキャパシタC1はλg/4ショートスタブ23と共振し、アンテナ受信RF信号の振幅を約10倍に昇圧している。昇圧されたRF信号はC2を経由してD3のアノードに接続されて検波されるが、D3のアノードにはR3を経由して直流バイアス電流が流れ込むようになっている。この直流バイアス電流は微弱なRF受信信号に対してD3の検波感度を改善するためと、コンパレータU1を単一電源で動作させるために入力オフセット電圧を発生させる目的がある。また、RF信号を印加しないD4にはR4を経由してD3よりも僅かに小さい直流バイアス電流が流れるようにしている。したがって、この回路ではRF入力信号が無い場合にはVD3>VD4となり、RF入力信号が有る場合にはVD3<VD4となることによって、コンパレータU1からASK復調データを得るようにしている。しかし、図3を含む特許文献2に記載された実施例は全て2.45GHz帯のものであり、マイクロ波帯では無線タグで要求される受信感度が得られないことが分かった。
【0020】
例えば、2.45GHz帯における図3の回路の最小受信ASK復調感度が-45dBmに対して5GHz帯では-30dBm程度であった。このようにマイクロ波帯で図3の回路の受信感度が大きく劣化した原因は、図1の回路の場合と同様に(1)ショートスタブ自体のQ値が低下した(2)C2を経由して接続されるD3の接合容量がスタブ共振回路の負荷となって共振回路のQ値を更に低下させたこと、及び(3)直流でGND電位のスタブとバイアスされたD3の電位を分離するために挿入したC2がマイクロ波帯において無視できない損失を生じさせたことが考えられる。
【0021】
図4は、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を用いたASK復調回路であって、主にセミパッシブ型の無線タグ装置に用いる。この図の中の各素子値や型名は全て5GHz帯での実験で用いたものであり、ASK復調最小入力感度は、RFin入力で50Ω、-48dBmであった。また、図中のRFinは無線タグアンテナからの受信RF信号入力端子であり、RxDataはその信号のASK復調出力端子、RxEnableは受信待ち受けでU1〜U3をアクティブ状態にするための制御入力である。
【0022】
図4の回路では、RFinに接続されたC1とλg/2オープンスタブが共振して入力RF信号の振幅を約10倍に昇圧し、これをD1及びD2によって2倍圧整流してC2をチャージする。一方C3には、R1及びR2の分圧によって直流バイアス電圧が得られておりD1〜D4に順バイアス電流を供給している。ここでD1及びD2を順バイアスする理由は、微弱なRF信号に対して検波感度の劣化を防ぐ目的とU2を単一電源動作させるために入力信号に直流オフセット電圧を必要とするためである。
【0023】
RFinに入力信号がないときにD1及びD2とD3及びD4を流れるバイアス電流はR3とR6+R7によってそれぞれ決まるが、抵抗値の違いで前者の方が僅かに大きくC2にチャージされる電圧よりもC4にチャージされる電圧の方が僅かに高くなるようにしている。また、それぞれにチャージされた電圧は、R4を経由してオペアンプU2とR5を経由してオペアンプU3に接続されている。オペアンプU2とU3の帰還抵抗はR11を共通化して、U2側はR9とD6、U3側はR10を用いて利得を制御している。
【0024】
U2の帰還回路にD6を用いる理由は、RFinに比較的大きな信号が入った場合でもU2が飽和状態にならないようにAGC制御するためである。また、U2の出力をR8及びD5を経由してC4をチャージしてU3側の入力電圧を上げるようにしているのは、RFinの平均入力信号振幅に応じてU2の出力が接続されたASK復調コンパレータU1の閾値(U3の出力)を追従させることで雑音の影響を抑制したり、検波1次遅れ応答に対するASK復調応答性能を高める効果があるためである。
【0025】
以下、従来方式の図3と本発明の図4の差異について説明する。
ア) 図3ではRF信号の共振昇圧にショートスタブを用い、図4ではオープンスタブを用いている。
イ) 前記ア)の図3でショートスタブを用いる理由はUHF帯でスタブ長が短くできることであった。
ウ) 前記ア)の図4でショートスタブを用いずオープンスタブを用いる理由はマイクロ波帯でスタブ長が短くなり過ぎずかつ電磁波放射損を抑制しQ値を保つことが可能であることと、スタブが直流で開放状態であるためにバイアス印加に必要なキャパシタ(図3の場合のC2)の挿入が不要になり結果としてマイクロ波帯での挿入キャパシタによる損失を無くすことができた。
エ) 図3では用いていないRF昇圧信号整流用ダイオードにインダクタL1とL2を図4では挿入している。
オ) 前記エ)の図3ではUHF帯でスタブのQ値が十分に高くスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償することができた。
カ) 前記エ)の図4ではマイクロ波帯でスタブのQ値が十分には高くなくスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれない。そこで、整流ダイオードの接合容量と挿入したインダクタを共振させて容量負荷を軽減するとともに整流ダイオード素子に高いRF電圧が発生するようにインダクタの挿入位置を設定している(整流ダイオード素子がスタブに一番近い位置又はRF電位のGNDに一番近い位置が好ましい)。
キ) 図3では、D3によるRF信号の単純検波方式を用いているために検波出力の出力インピーダンスが比較的低く1次遅れ時定数が小さいためにコンパレータ閾値のRF入力信号振幅平均値への追従回路がなくても比較的速いASK信号の復調が可能であった。
ク) 図4では、D1及びD2による2倍圧整流検波を用いることで検波感度の改善効果があった反面、検波出力の出力インピーダンスが大きくなり1次遅れ時定数が大きくなった。したがって、比較的速いASK信号の復調を行う場合にコンパレータ閾値のRF入力信号振幅平均値への追従回路の追加が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2008−66808号公報
【特許文献2】特開2008−219624号公報
【特許文献3】WO2007/010869号公報
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】総務省、“ユビキタスセンサーネットワークの実現に向けて(最終報告),” http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040806_4_b2.html/,Jul. 2004.
【非特許文献2】北吉、澤谷、“サブキャリア変調波を用いた長距離・超低消費電力無線タグ、” 信学技報、SIS2007-47,pp. 13-18、Dec. 2007.
【非特許文献3】北吉、“ショートタイム周波数スペクトル解析のための高分解能化、”信学論A,vol. J76-A,no. 1、pp. 78-81,Jan. 1993.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
10m程度遠隔から読取りが可能なUHF帯電波式、800-900MHz帯および2.45GHz帯の無線タグが実用化されている。本発明の目的は、電波資源の効率的利用の観点からISMの5GHz帯や24GHz帯で利用可能なマイクロ波周波数帯で電波式無線タグの新しい利用方法を実現することである。具体的には、マイクロ波帯昇圧整流回路を提案し無線タグの受信感度を向上させて100m程度までの読取り距離の長距離化と5GHz帯や24GHz帯の特徴である100MHzを超える広帯域性を利用して遠隔から無線タグの位置を10cm程度の誤差でセンシングすることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1に係る発明は、0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、RF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路である。
【0030】
請求項2に係る発明は、前記の微小容量素子とオープンスタブ素子の接続点に整流ダイオード素子1のアノード又はカソード端子と整流ダイオード素子2の整流ダイオード素子1とは逆の極性の端子を接続し、整流ダイオード素子1のもう一方の端子をRF信号接地レベル部位に接続し、整流ダイオード素子2のもう一方の端子を整流出力のためのキャパシタンス素子に接続しこれをチャージしてRF入力信号の昇圧整流出力を得ることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0031】
請求項3に係る発明は、RF信号接地レベル部位として直流で分離されたもう1つの整流回路の出力を用いることを特徴とする請求項2記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0032】
請求項4に係る発明は、前記整流ダイオード素子の整流ダイオード接合容量が、前記RF信号振幅の昇圧出力への容量性負荷となることを軽減しかつ、整流ダイオード素子により高いRF信号振幅を誘起させる目的で整流ダイオードの接合容量と直列共振する1nHから10nHのインダクタンス素子を整流ダイオード素子の片側に挿入することを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0033】
請求項5に係る発明は、前記RF信号接地レベル部位として直流バイアス源を用い前記整流ダイオードに順バイアス電流を流し微弱なRF入力信号に対しても検波出力を得ることを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0034】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の直流バイアス源を有するマイクロ波帯昇圧整流回路でRF信号から切り離されたダイオード群にもバイアス電流を供給しその出力電位差によってRF信号の有無を判定するASK復調方法であって、マイクロ波昇圧整流回路側の出力平均電圧をRF信号から切り離されたダイオード郡の出力に加えることでASK復調の高速化を図ることを特徴とする無線タグ装置である。
【0035】
請求項7に係る発明は、前記ASK復調出力に1種類以上のパルス幅検出回路を接続し待ち受けタイマー動作している制御回路(マイクロプロセッサ)にパルス幅検出回路の出力で割り込み処理させることによって、タイマーによるパルス間隔時間測定結果とパルス種別との組み合わせによる受信RF信号のパルス列符号受信待ち受けを低い消費電力で行うことを特徴とする請求項6記載の無線タグ装置である。
【0036】
請求項8に係る発明は、請求項7のパルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間内蔵する周波数安定度の高い発振源を用いたCWサブキャリア応答信号をリーダ側へ返送することによって、リーダ側はその一定時間内に質問周波数を掃引してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することでタグの位置を求めることを特徴とする無線タグシステムである。
【0037】
請求項9に係る発明は、前記パルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間センサによる測定結果をデジタル化しサブキャリアMPSKでリーダ側へ転送することを特徴とする請求項7記載の無線タグシステムである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、電波資源の効率的利用の観点からISMの5GHz帯や24GHz帯で利用可能なマイクロ波周波数帯で電波式無線タグの新しい利用方法を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来型のパッシブ無線タグ装置の回路図である。
【図2】本発明の実施例に係るマイクロ波帯昇圧整流回路の例を示し、(a)は回路例1、(b)は回路例2、(c)は回路例3及びパッシブ方式のASK復調回路のそれぞれ回路図である。
【図3】従来型のセミパッシブ無線タグ装置の回路図である。
【図4】本発明の実施例に係るマイクロ波帯昇圧整流型ASK復調回路であって主にセミパッシブ無線タグ装置に用いる。
【図5】セミパッシブ型無線タグに用いる実験評価用バイアス印加アダプタ例を示す写真と回路図である。
【図6】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例1(A1)の写真と回路図である。
【図7】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例2(A4)の写真と回路図である。
【図8】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例3(A3)の写真と回路図である。
【図9】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグの無線タグ制御及び応答信号発生部の回路図である。
【図10】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグの受信信号昇圧整流検波及びASK復調部の回路図である。
【図11】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグのパルス符号化鍵検出部の回路図である。
【図12】タグアンテナ駆動電圧Vpに対する消費電流Ip及びタグ応答受信電力の評価実験系を示す概念図である。
【図13】タグ応答受信電力の評価実験に用いたリーダ側のアンテナ及びタグ側のアンテ写真である。
【図14】タグ側のバラクタダイオード駆動電圧Vpに対する消費電流Ip及びリーダ側でのタグ応答受信電力のグラフ図である。
【図15】本発明の実施例に係るセンサタグシステムの構成概念図である。
【図16】本発明の実施例に係るリーダ装置の写真である。
【図17】リーダ・タグ間距離を変化させながら連続測定した測距値及びタグ応答受信信号レベルを示す写真である。
【図18】タグシステム評価実験環境の写真である。
【図19】4値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図20】8値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図21】16値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図22】リーダ・タグ間距離30mでの連続受信データのリアルタイムLCD表示例を示す図である。
【図23】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図24】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図25】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図26】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【実施例】
【0040】
図5は、セミパッシブ型無線タグに用いる受信信号検波整流ダイオードにバイアス電圧を印加するためのアダプタの例であり、実験評価に用いた基板の写真と回路図を示した。この回路で、ダイオードに印加するバイアス電圧はBias in端子電圧を2.2MΩと470kΩで分圧して作っている。Bias inに3Vを印加した場合の開放直流バイアス電圧は約528mV、直流出力インピーダンスは約387kΩである。また、RFinとRFoutは共にマイクロ波周波数帯で特性インピーダンスを約50Ωとしている。なお、本実施例では、測定器接続時の静電気による破壊防止のための手段を講じており、そのために510Ωの抵抗を用いている。
【0041】
図6は、本発明のマイクロ波周波数帯昇圧整流回路の例であり、図2の(c)に対応する。この図でλg/2オープンスタブに切り離しセミリジッドケーブルを用いているが、切り離し端フリンジ部分からの電磁波放射による損失が予想されるために切り離し部分を延長するように銅管部を追加している。
【0042】
図6の回路でRFinに直接50Ωで-20dBmのfo=4.527GHzを印加したバイアス印加アダプタなしのパッシブ無線タグ動作では、開放検波出力電圧は約762mVで出力インピーダンスは約465kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約652mVで出力インピーダンスは約862kΩと性能の劣化がみられる。検波出力電圧の減少はバイアス印加アダプタによるRF信号レベルの減衰が原因として考えられ、出力インピーダンスの増加はバイアス印加アダプタの直流バイアス出力インピーダンス分が加わったことが原因と考えられる。また、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧(検波出力信号に直流バイアス電圧がオフセットされるため印加RF信号を100KHzでON/OFFしたときの検波出力電圧の変化分ΔVoを評価した)が約684mVで出力インピーダンスは約519kΩとバイアス印加の効果は認められるもののバイアス印加アダプタを用いない場合よりも性能の劣化が確認できる。このように、セミパッシブ無線タグ動作で用いるバイアス印加アダプタの挿入は逆効果であると考えられるが、セミパッシブ無線タグの通信距離100m程度を想定すると、無線タグでの受信信号レベルは-60dBm程度となるために検波ダイオードのバイアス印加動作でないと検波出力が全く得られなくなると考えられる。
【0043】
図7は、図2の(c)に示した回路で検波ダイオードD1及びD2のコモンとスタブの接続間に0.8pFのキャパシタを追加した例である。このキャパシタ追加はオープンスタブの静電容量が比較的大きい場合に検波出力信号インピーダンスと1次遅れ系を構成し速いASK復調信号の取り出しが困難になることを防止するために検波回路から見たスタブの静電容量を見かけ上小さくするためのものである。この回路の50Ω、-20dBm、fo=5.04GHz入力におけるパッシブ無線タグ動作(バイアス印加アダプタ無し)では、開放検波出力電圧が約576mVで出力インピーダンスは約581kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約461mVで出力インピーダンスは約1075kΩ、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧は約499mVで出力インピーダンスは約608kΩであった。これらの値は、いずれも図6の回路の場合よりも劣っておりマイクロ波帯RF信号に挿入するキャパシタが比較的大きな損失を伴うことが分かる。
【0044】
図8は、図2の(a)と(b)を組み合わせてスタブ昇圧RF信号の4倍圧整流検波回路を構成した例である。この回路の50Ω、-20dBm、fo=5.13GHz入力におけるパッシブ無線タグ動作(バイアス印加アダプタ無し)では、開放検波出力電圧が約780mVで出力インピーダンスは約489kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約657mVで出力インピーダンスは約957kΩ、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧は約681mVで出力インピーダンスは約481kΩであった。これらの結果から図8の回路の各動作モードにおける開放検波出力電圧及び出力インピーダンスの値は図6の回路の場合とほぼ同じであると言える。図8の回路ではそれぞれ独立したスタブ昇圧整流回路の出力電圧を加え合わせる方法を取っており、スタブ昇圧RF信号と検波ダイオード間に挿入するキャパシタを無くすることでより高い昇圧比の実現を想定していたが、2系統の共振周波数を一致させようとするとかえって検波出力電圧が低下する現象もあり、2系統の共振周波数をずらすようにダイオードに装荷するインダクタの値を選択するようにした。
【0045】
図9から図11は、本発明で提案するマイクロ波帯セミパッシブ型無線タグの回路図であり、5GHzで動作する。この回路は図9の(a)無線タグ制御及び応答信号発生部、図10の(b)受信信号昇圧整流検波及びASK復調部、図11の(c)パルス符号化鍵検出部から成る。まず、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を含む(b)受信信号昇圧整流検波及びASK復調部から説明する。
【0046】
この回路には、図5で示したバイアス印加アダプタ部と図6で示したλg/2オープンスタブ共振昇圧回路と4倍圧整流回路及び図4で示した受信AGC及び閾値制御を含むASK復調回路によって構成されている。(c)は、発明者らが先に出願した特許の回路であり、一定範囲のパルス幅の信号にのみ応答しかつ低消費電力で動作することを特徴とし、特許文献2に動作原理の記載がある。この回路で、U5の出力INTは受信信号パルス幅260μsから350μsに応答し約2μs幅のパルス信号を出力し、U6の出力RESETは受信信号パルス幅2.5msから3.2msに応答し約20μs幅のパルス信号を出力する。最後に(a)は本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を用いた無線タグの受信コマンド解析及び応答動作を行う部分であり、U9はタグからリーダへの応答のためのアンテナ駆動振幅0-5Vを得るための振幅レベル変換器であり、ANTpsk、ANTcw及びANTmxはそれぞれ図12及び図13に示したタグアンテナに装荷したバラクタダイオードに接続される。U10はリーダからタグの測位を行う場合に用いる周波数安定度の高い32.768kHzのCW発振器であり、この出力信号をU9でレベル変換してタグアンテナに装荷したバラクタダイオードを駆動することによってリーダからの質問信号foをfo±32.768kHzのサブキャリアで反射返送する。リーダ側では質問信号foを周波数掃引しながらタグ応答サブキャリア信号を複素検波してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することによって距離を求めることができる。U11はチャージポンプ方式のDC-DC変換器であり、タグ内蔵の3Vボタン電池からU9で用いる5V電源を作っている。U12はマイクロプロセッサであり、AD変換器やメモリ、WDT(低消費電力モードで動作するタイマー割り込み機能)等を内蔵する。U12には先に示した(c)のINT信号やRESET信号が接続されWDTモードで動作しているマイクロプロセッサに特定の受信パルスで割り込みをかけることでパルス種別ごとの時間間隔測定結果と順序を記録することができる。この記録結果は特定のタグを起動させるための鍵になっており、リーダから送信された特定のタグを起動させるためのパルス符号化鍵はU12を殆んどWDTモード待ち受け状態にしたままで受信できる。ここで、U12のWDTは例えば1msごとに起きるものとしてパルス間隔カウンタのインクリメント操作を行い、受信信号パルスによる割り込みが発生した場合にはパルス間隔カウンタの記録及びリセット操作とパルス符号の判定を行う。また、初期化動作や各種割り込みによって起動されたU12は、U8の各出力端子を制御しU10やU11の電源をON/OFFしたりタグ内の動作モードを切り替え制御する。例えば、RxENはU1、U2及びU3をアクティブ状態にして無線タグを受信モードとし、ENintはINTパルス検出回路をアクティブ状態とし、ENrstはRESETパルス検出回路をアクティブ状態にする。また、U12に内蔵するAD変換器はセンサ出力信号等をデジタル化してRC1端子からMPSKサブキャリア変調信号(特許文献2参照)として出力し、U9でレベル変換してタグアンテナに装荷したバラクタダイオードを駆動することによってリーダからの質問信号をサブキャリアで変調反射してセンサ情報を返送する。
【0047】
なお、本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルは以下のルールに従って動作する。
【0048】
ア)リーダから無線タグへのパルス鍵、コマンド及びデータの送信は5GHz帯CW信号を負論理ASK変調で行う。
【0049】
イ)リーダ側から送信されたリセットパルス鍵(PW=2.5-3.2ms)を受信した全ての無線タグは、それまでに受信した動作コマンドを全てリセットし、初期化状態に戻してあらかじめ設定されたスロットに一定時間幅のCW応答サブキャリア信号を返送する。リーダ側はこの信号を受信することによって無線タグの存在を認識する。
【0050】
ウ)無線タグ側は何も動作指令を受けていないとき、通常(a)RxEN制御をLowレベルとして受信回路を非アクティブ状態にしてWDTを用いてSleepし消費電力を節約する。一定時間経過後にWDTによる再起動を行い(b)RxENをHighレベルとして受信回路をアクティブ状態としかつENrstをHighレベルとしてリセットパルス鍵の受信をWDTを用いて一定時間許可した後再び(a)に戻る動作を繰り返す。このとき、リーダ側から全ての無線タグをリセットパルス鍵によって初期化応答させるためには(a)の時間間隔を超える時間幅でリセットパルス鍵を繰り返し送信する。また、省電力モードでのコマンド待ち受け命令を受け取った無線タグではENintをHighレベルとして割り込みパルス鍵の受信を許可した状態で前記(a)及び(b)の動作を繰り返してリーダからのパルス符号化鍵によるコマンドの受信を待つ。
【0051】
エ)リーダ側から送信された割り込みパルス鍵(PW=260-350μs)を受信した割り込み禁止状態でない全ての無線タグは、割り込みパルス鍵の時間間隔をWDTを利用したカウント値を読取り記録すると共に記録されたカウント列で指定されたコマンドに従って次の動作へ移行する。
【0052】
オ)リーダ側から送信する割り込みパルス鍵の間隔の例えば最小値(WDTを利用したカウント値がゼロになる)をパルス符号化鍵コマンドの開始及び終了符号として用い、最小間隔のパルス鍵ではさまれたWDTを利用したカウント列によって無線タグの動作を制御する(図23)。
【0053】
カ)リーダ側からの無線タグのIDコード読取りは、割り込みパルス符号化鍵を用いたIDコード読取りコマンドの後にマンチェスタ符号化ASKマスクドIDコードを送信し、対応するIDコードを持つ無線タグはあらかじめ決められた(例えばマスク部分のビットコード)スロットに自らのIDコードをサブキャリアMPSK変調を用いてリーダ側へ返送する。尚、マンチェスタ符号化マスクドIDコードはU12のDinに入力されてU12によってマンチェスタ符号の復調と解析が行われ応答MPSK信号もU12によって合成されてRC1端子から出力される(図24)。
【0054】
キ)マスクドIDコードはマスクビット列を含む期待値IDコードであり、マスクされたビット位置を除く期待値IDと自らのIDが一致した場合に、その無線タグはあらかじめ決められたスロットに自らのIDコードをサブキャリアMPSK変調でリーダ側へ返送するが、リーダ側では受信したIDコードにエラーがなければ読取り完了を無線タグに知らせて以後ID読取りコマンドに応答しないように指示する命令を無線タグへ送信する(図25)。
【0055】
また、IDコードに読取りエラー(他のタグからの応答の衝突)があった場合には、マスクビット列を変更してエラーが無くなるまでIDコード読取りコマンドをくりかえす。また、全ての無線タグの読取り終了を判断するためには全ビットをマスクしたID読取りコマンドを送信して応答が無いことを確認する。
【0056】
ク)IDコード読取りに成功した無線タグに対して短縮コマンドパルス符号化鍵を与える。以後、その無線タグは割り込みによるパルス符号化鍵のみで動作させることができる(図26)。
【0057】
・タグシステムの設計
(基礎検討)
図12に簡単な無線タグシステムの評価系を示す。この図において、周波数foでリーダ側から送信されるキャリア信号の送信電力をPt、送信アンテナの動作利得をGt、タグ側のアンテナの動作利得をGa、リーダからタグへの基本伝送損を1/Gpとすると、タグ側の受信電力Paは、
【0058】
【数1】
で与えられる。この式において、自由空間での基本伝送損1/Gpは、光速をc、リーダとタグ間の距離をrとすると、
【0059】
【数2】
で与えられる。また、タグが受信した信号をタグアンテナに装荷した可変インピーダンス素子(バラクタダイオード)によりサブキャリア信号fsで変調したものとすると、タグアンテナから再放射されるfo+fsのサブキャリア応答信号のリーダ側での受信電力Psは、
【0060】
【数3】
となる。ここで、Gsはサブキャリア変調利得、Grはリーダ側の受信アンテナ動作利得、Gasはfo+fs におけるタグアンテナの動作利得、1/Gpsはタグからリーダへのサブキャリア応答信号の基本伝送損であり、
【0061】
【数4】
で与えられる。ここで、fo>>fsが成立し、
であることから、式(3)は、
【0062】
【数5】
で近似できる。
次に式(5)のサブキャリア変調利得Gsについて考察すると、サブキャリア変調信号fsとしてデューティ比50%の方形波を仮定した場合にキャリア信号foとの積から、
(a)タグアンテナがfsでfoの完全吸収と全反射をくりかえす場合
【0063】
【数6】
(b)タグアンテナがfsでfoを位相差180°での全反射をくりかえす場合
【0064】
【数7】
となり、(a)の場合サブキャリア変調利得Gsは約-9.9dBに対して(b)の場合は約-3.9dBである。
【0065】
実際のタグアンテナのサブキャリア変調利得を評価した。
【0066】
図12の評価系において使用する実際のリーダ側アンテナ及びタグ側アンテナの写真を図13に示す。リーダ側の送信及び受信アンテナには同じアンテナを用いGt=Gr=4.8dBiとした。タグ側アンテナのサイズ3cm×6cm、厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化も可能であり、その動作利得はGa=4.8dBiである。また、リーダとタグ間の距離はr=1mとした。タグアンテナに装荷するバラクタダイオードとして、2種類のダイオードを用い、特性の比較を行った。1つはHVC417Cであり、もう1つはSMV1247である。図12に示した評価系において、fo=5.3GHz、Pt=20dBmとして、タグアンテナに装荷したバラクタダイオードにサブキャリア信号fs=32.768kHzで0⇔Vpの方形波を印加し、リーダ側でfo+fsの受信レベルを観測した。図14は、バラクタダイオードの駆動電圧Vpに対するリーダ側の受信電力Psとバラクタダイオード駆動回路の消費電流Ipの測定結果である。この図からHVC417Cを用いたタグの場合、Vp=18VにおいてPs=-58.5dBmであり、式(5)において式(6b)のGs=-3.9dBを用いた理論値-58.55dBmにほぼ一致する。ただし、このときのバラクタダイオード駆動回路の消費電流はIp=19.4μAであり、消費電力は約350μWになる。また、SMV1247を用いた場合、Vp=5VでPs=-60dBmであり、
Gs=-5.4dBを式(5)に代入した値にほぼ一致する。したがって、この場合、式(6a)と式(6b)の中間の条件で動作していると考えられる。また、このときバラクタダイオード駆動回路の消費電流はIp=6.9μAであり、消費電力は約34.5μWとHVC417Cを用いた場合の1/10以下であった。
SMV1247(Vp=0-5Vで Cj=9-0.7pF, Rs=9-3.5Ω)はHVC417C(Vp=0-18Vで Cj=8-0.7pF, Rs=2-0.5Ω)に比較してCj-V変化率が大きく低電圧駆動が可能である反面、抵抗分Rsが大きいために吸収損が生じ、サブキャリア変調効率が約30%低下している。
【0067】
(タグ)
図9に開発したセンサ無線タグの基本構成を示す。このタグでは、図12及び図13で示したタグアンテナに装荷したバラクタダイオード(SMV1247)にfs=125kHzでVp=5VのMPSKサブキャリア変調信号をPIC16F684(μ-CPU)で印加・制御している。MPSKの多重化率は、4値PSKで40kbps、8値PSKで60kbps、16値PSKで80kbpsの可変レート方式を用いている。このときのデータ転送では、センサAN0,AN1及びRC0入力信号をμ-CPU内蔵のAD変換器でデジタル化して各CH-IDコードとともに3CH単位でパケット化してリーダ側へ返送する。また、測距動作では無変調サブキャリア信号をバースト状で返送して、リーダ側の送信周波数foを掃引しながらリーダ側で受信サブキャリア信号fsをDFT処理することにより、リーダとタグ間往復の周波数応答を得る。
【0068】
リーダ側からのコマンド及びタグIDの指定情報は、受信RF信号を0.1pFの微小キャパシタとλg/2オープンスタブで共振昇圧してから4段カスケード接続されたDMF2822で4倍圧整流検波し、オペアンプU2及びU3を用いてAGC振幅制御や閾値制御した後、コンパレータU1で2値化してμ-CPUで解析している。リーダ側からの情報は100kbpsでマンチェスタ符号化ASK信号をキャリアfoに乗せて送信している。
式(1)において、リーダとタグ間距離r=30m、リーダ側fo=5.3GHz、Pt=20dBm、Gt=3dBiとし、タグアンテナ動作利得を3dBiとしたとき、タグ側での受信電力Paは約-50dBm(50Ωで約0.67mV)となる。100kbpsのマンチェスタ符号を受信するには、コンパレータにTL331(3V動作で300μA)U1を用いる必要があり、オフセットを考慮すると入力振幅5mV以上が必要なために、スタブ共振昇圧比として10倍程度の性能が要求される。特許文献2のスタブ共振昇圧回路では5GHz帯で3倍程度の昇圧比しか得られなかったが、本発明のタグ受信回路の設計ではスタブとの共振キャパシタ及び検波ダイオードの接合容量を0.1pF程度とし、さらにオープンスタブを用いることでQ値を200以上とした。また、配線インダクタを考慮することによりRF昇圧比10倍程度が得られた。また、リーダからのコマンドや測距トリガ待ちなど、低消費電力でリアルタイム応答動作が必要な場合には、特許文献2で発明したパルス検出回路を用いてスリープ状態のμ-CPUを割り込み起動して鍵コードを検出するようにした。
【0069】
(リーダ)
図15に開発したセンサタグシステムの構成を示す。この図において、タグはリーダから送信した質問キャリアfoに対して±fsだけ周波数オフセットしたサブキャリア信号を生成し、MPSKでデータを返送する。リーダで受信したタグからの応答サブキャリア信号は、質問キャリア信号で直交検波し、I(t)及びQ(t)として±fsの複素信号に変換した後、+fs成分のみを複素DFT処理してタグからの返送データの復調を行っている。ここで、fs=125kHzであり、タグからの返送データは、4値PSK(40kbps)、8値PSK(60kbps)及び16値PSK(80kbps)を受信することができ、受信誤りに応じて伝送レートを選択している。また、質問キャリア周波数foは5GHz帯無線LANの規格に合わせて5.15-5.35GHzの範囲をホッピングさせて送信電力3mW/MHz程度になるようにしている。さらに、リーダでのタグ応答受信電力Psは式(2)及び式(5)で示したようにリーダとタグ間の距離rの4乗に反比例するため、例えばr=1-30mの範囲を対象とした場合に、Psは約60dB変化する。受信CN比15dB及びフェージング余裕15dB程度を考慮すると、リーダで使用するI-Q信号サンプリングAD変換器のダイナミックレンジは90dB以上必要であり、 dsPIC33FJ256内蔵の12bit AD変換器では不十分である。試作したリーダでは、AD変換器に16bitのAD7621を用い、サンプリング周波数も4fs=500kHzに上げることができた。
【0070】
(センサタグシステムの構成)
測距動作では、送信周波数fo=5.15-5.35GHzをdsPIC33FJ256GP710から制御掃引し、各キャリア周波数ごとのタグからの無変調応答サブキャリア信号fsを複素DFT処理してリーダ・タグ間の周波数応答特性(200MHz帯域幅で256ポイント)を観測し、このデータを逆フーリエ変換(IFFT)処理することによってタグとリーダ間の距離rを求めている。試作したリーダ装置では、周波数応答の観測(複素DFT処理結果のバッファリング)、観測データのブロックスケーリング(固定小数点演算のために必要)、IFFT処理、ピークサーチ及び測距補間処理をdsPIC33FJ256GP710内で一括処理し、測距結果及びIFFTデータを8bitパラレルバス経由リアルタイムでタグリーダインタフェース基板(PIC24FJ256GA110)へ転送し表示するようにしている。この装置では、200MHz帯域幅の周波数応答特性を観測しているが、観測データのIFFT処理のみでは測距分解能が75cmに制限されてしまう。そこで、IFFT処理結果の補間処理(非特許文献3)を行っている。これは、観測データにHanning窓を掛けてIFFT処理を行い、ピークとその両側の応答振幅に三角関数を利用した補間を行って真の応答位置と振幅を推定する方法であり、これによって測距分解能1mmを達成している。また、リーダでの測距結果は最大で毎秒30回出力され、内28msが周波数応答の観測、4.5msが演算処理、0.5msがデータ出力に使われている。
【0071】
図16に試作したリーダ装置の写真を示す。この写真で送信アンテナには動作利得Gt=4.8dBiのキャビティ付きスロットアンテナを用いPt=20dBmを出力してEIRP値が25dBm以下になるようにした。また、受信アンテナには動作利得Gr=14dBiの4素子パッチアレーアンテナを用いr=30mにおいてリーダでのタグ応答受信電力Psが-110dBm以上になるようにして、4値PSK
40kbpsでのデータ受信におけるCN比が15dB以上確保できるようにした。図16の写真のLCD表示例は測距IFFT結果のスタッキング表示であり、タグを連続移動したときのマルチパス受信状況をリアルタイムで観測評価できるようにした。
【0072】
・システム評価
(測距動作)
図17は、図16に示した試作リーダ装置を用いて行った無線タグの測距実験結果、図18は実験環境の写真である。この実験では、無線タグをキャスタ付き椅子に乗せて廊下を連続移動し、リーダ側では50ms間隔でタグとリーダ間の測距を行い、測距値と受信電力値をリアルタイムでLCD表示記録した。観測は43mの廊下を往復連続移動して評価した。この図から無線タグとリーダ間距離がr=1-43mの範囲において測距がほぼ正しく行われていることが分かる。しかし、図17の測距グラフを見るとタグがリーダから遠ざかる移動時に数箇所データの跳び箇所が確認できる。これは、タグを完全に遮る位置で人の移動があったためであり、タグがリーダへ近づく移動時にはデータの跳びは観測されていない。リーダでのタグ応答受信レベルを見ると観測された受信電力のグラフではマルチパスフェージングによるレベル変動の影響が確認できるが、測距アルゴリズムではIFFT結果の最大ピークだけでなく、より遅延時間の短い次候補ピークも考慮して直接波の推定を行っている。
【0073】
(MPSKデータ転送)
図19から図21は、可変多重化率位相変調方式が受信誤りに与える影響を評価するために行った受信I-Qコンスタレーション観測の実験結果である。それぞれ、リーダとタグ間距離がr=7mの場合とr=20mの場合において、図19は4値PSK変調で40kbpsのデータレート、図20は8値PSK変調で60kbpsのデータレート、図21は16値PSK変調で80kbpsのデータレートの場合を示している。これらの実験結果を見ると、r=7mでは4値PSK及び8値PSKの場合、エラーフリーでの受信が可能であり、16値PSKの場合もBER1%以下が可能であると推測できる。r=20mでは、4値PSKの場合エラーフリーが可能であるが、8値PSKの場合はBER1%以下ではあるが受信エラーの発生が推測できる。また、r=20mでの16値PSKでは復調がほぼ困難であることが分かる。
【0074】
図22は、試作したセンサ無線タグの3CHアナログ入力に、それぞれ周波数及びレベルの異なる正弦波、三角波及びノコギリ波を印加し、図16のリーダを用いてr=30mでのデータ転送結果のリアルタイムLCDモニタの表示例である。データ転送には4値PSK 40kbpsを用いており、エラーフリーで受信できていることが分かる。
【0075】
本実施例においては、5GHz帯センサタグの長距離化及び低消費電力化を達成するために、伝搬や応答効率に関する基礎検討とタグ及びリーダ構成の検討した。開発したセンサ無線タグシステムは、1秒当たり30回の測距動作と40-80kbpsで動作するセンシングデータ転送システムであり、タグアンテナはサイズ3cm×6cm、厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化も可能である。また、内蔵する3Vボタン電池の連続動作時の消費電流は測距及びデータ転送それぞれの動作において30μA及び600μAであり、従来のBluetoothやZigBee方式のアクティブセンサ無線タグと比較して消費電力を1/100程度に削減することができた。さらに、開発したリーダは5GHz帯の無線LAN規格で動作し20dBmのリーダ出力にて30m以上での測距及びデータ転送動作を確認した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路及びこれを用いた無線タグ装置と無線タグシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種ユビキタスセンサネットワークの実現のための要素技術の研究開発が盛んに行われている。この技術を広く普及させるための課題として、設置場所や所持を意識させないセンサ端末の小形化、年単位の電池寿命の低消費電力・長寿命化、リアルタイム応答性能が求められている(非特許文献1)。
従来のセンサネットワーク端末で研究開発が進められているZigBee、Bluetooth、UWB等の通信技術では、電池寿命の競争に伴ってリアルタイム応答性能を犠牲にしたスリープ定期起動動作による低消費電力化が図られている。このようなセンサは気象環境のセンシング等のように5分間に1回の割合で通信が成立すれば十分な効果が期待できるシステムへの応用には有効ではあるが、ユビキタスセンサネットワークの将来ビジョン(非特許文献1)で掲げられている危険情報の察知・誘導や高齢者等の支援・見守りシステムではリアルタイム双方向性の実現が重要な課題となっている。
【0003】
発明者らは、ICT安心・安全な社会基盤の構築に貢献することを目的として、これまで提案してきたウェアラブルアンテナ(特許文献1)、低消費電力化及びリアルタイム双方向無線接続技術(特許文献2)を用いて、小形で低消費電力の無線接続センサ端末及びセンサネットワークシステムの開発を進めてきた。また、 ARIB STD-T81規格で動作し2.45GHz帯3mW/MHzリーダ出力にて35mまでの読取り動作を確認したセンサタグを試作評価している。これらのタグは1秒当たり20回の連続測距センサ無線タグ、1秒当たり350回の連続サンプリングで動作する3軸加速度センサ無線タグ及び心電計センサ無線タグの3種類であり、いずれも厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化が可能である。また、内蔵する3Vボタン電池の連続動作時の消費電流はそれぞれのタグにおいて10μA、633μA及び583μAであった(非特許文献2)。
【0004】
本明細書では、100kbpsのデータを連続送受信したときの消費電力500μW以下、待ち受け時10μW以下、測位誤差10cm以下で30m以上の通信可能距離を目標として開発しているITS等の移動体を対象とした無線分散センサネットワークのための5GHz帯で測位可能な小形で低消費電力・長寿命なリアルタイム無線データ通信端末について開示する。
【0005】
まず、5GHz帯センサタグの長距離化と低消費電力化を達成するための基礎検討について述べ次に、長距離化及び低消費電力化のための技術として、フレキシブルなキャビティ付きスロットアンテナ、スタブ共振昇圧受信回路、低消費電力かつ誤動作の少ないウエイクアップ動作用のパルス符号化鍵検出とサブキャリアMPSK変調方式について開示する。
【0006】
また、高速・高精度測位のために試作した、200MHz帯域幅で反射サブキャリア信号の周波数応答の逆フーリエ変換及び補間測距処理を5ms以内で行うリーダ用のDSP受信機についても開示する。
【0007】
図1は、従来型のパッシブ無線タグ装置の例で特許文献3の図2に記載された回路図である。
【0008】
この図でアンテナ素子L2に接続されたキャパシタC1はλg/4ショートスタブL3と共振し、アンテナ受信RF信号の振幅を約10倍に昇圧している。D3はこれを整流検波してC3をチャージする他、スタブで昇圧されたRF信号はC2を経由してD4及びD5に接続することで2倍圧整流している。前記2倍圧整流回路の基準電位はC3のチャージ電圧となっているためにC4には前記スタブ昇圧RF信号の3倍圧整流電圧がチャージされる。
【0009】
この回路では、C4にチャージされた受信RF信号の30倍圧整流電圧がマイクロプロセッサU7等の駆動に用いられ、C3にチャージされた受信RF信号の10倍圧整流電圧が受信信号のASK復調に用いられている。ここで、2種類のスタブ昇圧RF信号の整流電圧を使い分ける理由は、前記U7等では比較的高い駆動電圧を必要とし、前記受信信号のASK復調には短い時定数(比較的低い出力インピーダンス)が要求されるためと記述されている。
【0010】
しかし、図1を含む特許文献3に記載された実施例は全て2.45GHz帯(UHF帯)のものであり、マイクロ波帯(3−30GHz)では無線タグで要求される昇圧整流出力電圧が得られないことが分かった。例えば、5GHz帯における図1のC3にチャージされる電圧は受信RF信号電圧の3倍程度までであり、C4にチャージされる電圧は受信RF信号電圧の6倍程度までであった。
【0011】
昇圧比が大きく降下した原因は、(1)ショートスタブ自体のQ値が低下した、(2)D3の接合容量及びC2を経由して接続されるD4とD5の接合容量がスタブ共振昇圧回路(C1とL3による共振回路)の負荷となり共振回路のQ値を更に下げたことによると考えられる。ここで、(1)については高周波化に伴うスタブショート端からの電磁波放射損の増加が原因であり、(2)については(1)が原因となってスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれなくなったことが原因であると考えられる。
【0012】
図2は、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路であって、主にパッシブ型無線タグ装置に用いる。図2の(a)及び(b)は、λg/2オープンスタブ共振昇圧回路に2倍圧整流回路を組み合わせた例であり、(c)は、λg/2オープンスタブ共振昇圧回路に4倍圧整流回路とASK復調回路を組み合わせた例である。
【0013】
図2で5GHz帯の場合、C1=0.1pF、C2〜C4=1pF、C5=0.1μF、L1〜L3=5nH、R1=10kΩ、R2=2.2MΩ、RLは無線タグ回路の等価負荷抵抗、D1〜D4はDMF2828(Cj=0.1pFのショットキバリアダイオード)、D5は逆流防止用ダイオード、D6は保護用ツェナダイオード、U1はシュミットトリガインバータである。これらの回路の実験の結果では、共振周波数を5GHz帯としRFinに50Ωで-20dBmの正弦波を入力し、RL=10MΩで(a)の場合Vo=470mV(昇圧比21倍)、(b) の場合Vo=420mV(昇圧比19倍)、(c) の場合Vo=720mV(昇圧比33倍)を得た。(c)の出力電圧は、無線タグ回路を動作させるのに十分な電圧と言える。また、(a)及び(b)の構成でも入力電力として-15dBm程度あれば無線タグ回路を動作させることができる。
【0014】
以下、従来方式の図1と本発明の実施例に係る図2の差異について説明する。
ア)図1ではRF信号の共振昇圧にショートスタブを用い、図2ではオープンスタブを用いている。
イ) 前記ア)の図1でショートスタブを用いる理由はUHF帯でスタブ長が短くできることとD3による単純整流が可能なために出力インピーダンスの低い(応答の速い)ASK復調が可能であった。
ウ) 前記ア)の図2でショートスタブを用いずオープンスタブを用いる理由はマイクロ波帯でスタブ長が短くなり過ぎずかつ電磁波放射損を抑制しQ値を保つことが可能であることと、スタブが直流で開放状態であるために2倍圧整流に必要なキャパシタ(図1の場合のC2)の挿入が不要になり結果としてマイクロ波帯での挿入キャパシタによる損失を無くすことができた。
エ) 図1では用いていないRF昇圧信号整流用ダイオードにインダクタL1〜L3を図2では挿入している。
オ) 前記エ)の図1ではUHF帯でスタブのQ値が十分に高くスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償することができた。
カ) 前記エ)の図2ではマイクロ波帯でスタブのQ値が十分には高くなくスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれない。そこで、整流ダイオードの接合容量と挿入したインダクタを共振させて容量負荷を軽減するとともに整流ダイオード素子に高いRF電圧が発生するようにインダクタの挿入位置を設定している(整流ダイオード素子がスタブに一番近い位置又はRF電位のGNDに一番近い位置が好ましい)。
【0015】
図2において(a)と(b)の差異は、(a)の場合は整流ダイオード素子がスタブに一番近く、(b)の場合は整流ダイオード素子がRF電位のGNDに一番近い。また、(b)の場合はD1とD2に対して共通のL1を挿入しているが、(a)の場合はD1に対してL1をD2に対してL2を挿入している。この場合、D1とD2の接続条件が異なるために(a)のインダクタ挿入方法の方がより高い昇圧比を得ることができる。
【0016】
図2の(c)では、スタブ共振昇圧RF信号をD1及びD2で2倍圧整流しC2をチャージして、C2の直流電位を基準にD3及びD4を用いて更にスタブ共振昇圧RF信号の2倍圧整流電圧を加えてC4をチャージし4倍圧整流電圧を得ている。このときC3はスタブの直流電位とD3及びD4のコモン端子の直流電位を分離する目的で挿入されている。
【0017】
図1のU1によるASK復調方法と図2のU1によるASK復調方法は同じであり、受信した信号をスタブ共振昇圧整流検波した後、振幅ピーク電位の1/2を閾値としたコンパレータ動作によって受信データ符号である0と1の判定を行う。
【0018】
図3は、従来型のセミパッシブ無線タグ装置の例で特許文献2の図4に記載された回路図である。
【0019】
この図でアンテナ素子22に接続されたキャパシタC1はλg/4ショートスタブ23と共振し、アンテナ受信RF信号の振幅を約10倍に昇圧している。昇圧されたRF信号はC2を経由してD3のアノードに接続されて検波されるが、D3のアノードにはR3を経由して直流バイアス電流が流れ込むようになっている。この直流バイアス電流は微弱なRF受信信号に対してD3の検波感度を改善するためと、コンパレータU1を単一電源で動作させるために入力オフセット電圧を発生させる目的がある。また、RF信号を印加しないD4にはR4を経由してD3よりも僅かに小さい直流バイアス電流が流れるようにしている。したがって、この回路ではRF入力信号が無い場合にはVD3>VD4となり、RF入力信号が有る場合にはVD3<VD4となることによって、コンパレータU1からASK復調データを得るようにしている。しかし、図3を含む特許文献2に記載された実施例は全て2.45GHz帯のものであり、マイクロ波帯では無線タグで要求される受信感度が得られないことが分かった。
【0020】
例えば、2.45GHz帯における図3の回路の最小受信ASK復調感度が-45dBmに対して5GHz帯では-30dBm程度であった。このようにマイクロ波帯で図3の回路の受信感度が大きく劣化した原因は、図1の回路の場合と同様に(1)ショートスタブ自体のQ値が低下した(2)C2を経由して接続されるD3の接合容量がスタブ共振回路の負荷となって共振回路のQ値を更に低下させたこと、及び(3)直流でGND電位のスタブとバイアスされたD3の電位を分離するために挿入したC2がマイクロ波帯において無視できない損失を生じさせたことが考えられる。
【0021】
図4は、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を用いたASK復調回路であって、主にセミパッシブ型の無線タグ装置に用いる。この図の中の各素子値や型名は全て5GHz帯での実験で用いたものであり、ASK復調最小入力感度は、RFin入力で50Ω、-48dBmであった。また、図中のRFinは無線タグアンテナからの受信RF信号入力端子であり、RxDataはその信号のASK復調出力端子、RxEnableは受信待ち受けでU1〜U3をアクティブ状態にするための制御入力である。
【0022】
図4の回路では、RFinに接続されたC1とλg/2オープンスタブが共振して入力RF信号の振幅を約10倍に昇圧し、これをD1及びD2によって2倍圧整流してC2をチャージする。一方C3には、R1及びR2の分圧によって直流バイアス電圧が得られておりD1〜D4に順バイアス電流を供給している。ここでD1及びD2を順バイアスする理由は、微弱なRF信号に対して検波感度の劣化を防ぐ目的とU2を単一電源動作させるために入力信号に直流オフセット電圧を必要とするためである。
【0023】
RFinに入力信号がないときにD1及びD2とD3及びD4を流れるバイアス電流はR3とR6+R7によってそれぞれ決まるが、抵抗値の違いで前者の方が僅かに大きくC2にチャージされる電圧よりもC4にチャージされる電圧の方が僅かに高くなるようにしている。また、それぞれにチャージされた電圧は、R4を経由してオペアンプU2とR5を経由してオペアンプU3に接続されている。オペアンプU2とU3の帰還抵抗はR11を共通化して、U2側はR9とD6、U3側はR10を用いて利得を制御している。
【0024】
U2の帰還回路にD6を用いる理由は、RFinに比較的大きな信号が入った場合でもU2が飽和状態にならないようにAGC制御するためである。また、U2の出力をR8及びD5を経由してC4をチャージしてU3側の入力電圧を上げるようにしているのは、RFinの平均入力信号振幅に応じてU2の出力が接続されたASK復調コンパレータU1の閾値(U3の出力)を追従させることで雑音の影響を抑制したり、検波1次遅れ応答に対するASK復調応答性能を高める効果があるためである。
【0025】
以下、従来方式の図3と本発明の図4の差異について説明する。
ア) 図3ではRF信号の共振昇圧にショートスタブを用い、図4ではオープンスタブを用いている。
イ) 前記ア)の図3でショートスタブを用いる理由はUHF帯でスタブ長が短くできることであった。
ウ) 前記ア)の図4でショートスタブを用いずオープンスタブを用いる理由はマイクロ波帯でスタブ長が短くなり過ぎずかつ電磁波放射損を抑制しQ値を保つことが可能であることと、スタブが直流で開放状態であるためにバイアス印加に必要なキャパシタ(図3の場合のC2)の挿入が不要になり結果としてマイクロ波帯での挿入キャパシタによる損失を無くすことができた。
エ) 図3では用いていないRF昇圧信号整流用ダイオードにインダクタL1とL2を図4では挿入している。
オ) 前記エ)の図3ではUHF帯でスタブのQ値が十分に高くスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償することができた。
カ) 前記エ)の図4ではマイクロ波帯でスタブのQ値が十分には高くなくスタブ共振時の+jインピーダンス成分が容量負荷の−jインピーダンス成分を補償しきれない。そこで、整流ダイオードの接合容量と挿入したインダクタを共振させて容量負荷を軽減するとともに整流ダイオード素子に高いRF電圧が発生するようにインダクタの挿入位置を設定している(整流ダイオード素子がスタブに一番近い位置又はRF電位のGNDに一番近い位置が好ましい)。
キ) 図3では、D3によるRF信号の単純検波方式を用いているために検波出力の出力インピーダンスが比較的低く1次遅れ時定数が小さいためにコンパレータ閾値のRF入力信号振幅平均値への追従回路がなくても比較的速いASK信号の復調が可能であった。
ク) 図4では、D1及びD2による2倍圧整流検波を用いることで検波感度の改善効果があった反面、検波出力の出力インピーダンスが大きくなり1次遅れ時定数が大きくなった。したがって、比較的速いASK信号の復調を行う場合にコンパレータ閾値のRF入力信号振幅平均値への追従回路の追加が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2008−66808号公報
【特許文献2】特開2008−219624号公報
【特許文献3】WO2007/010869号公報
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】総務省、“ユビキタスセンサーネットワークの実現に向けて(最終報告),” http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040806_4_b2.html/,Jul. 2004.
【非特許文献2】北吉、澤谷、“サブキャリア変調波を用いた長距離・超低消費電力無線タグ、” 信学技報、SIS2007-47,pp. 13-18、Dec. 2007.
【非特許文献3】北吉、“ショートタイム周波数スペクトル解析のための高分解能化、”信学論A,vol. J76-A,no. 1、pp. 78-81,Jan. 1993.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
10m程度遠隔から読取りが可能なUHF帯電波式、800-900MHz帯および2.45GHz帯の無線タグが実用化されている。本発明の目的は、電波資源の効率的利用の観点からISMの5GHz帯や24GHz帯で利用可能なマイクロ波周波数帯で電波式無線タグの新しい利用方法を実現することである。具体的には、マイクロ波帯昇圧整流回路を提案し無線タグの受信感度を向上させて100m程度までの読取り距離の長距離化と5GHz帯や24GHz帯の特徴である100MHzを超える広帯域性を利用して遠隔から無線タグの位置を10cm程度の誤差でセンシングすることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1に係る発明は、0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、RF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路である。
【0030】
請求項2に係る発明は、前記の微小容量素子とオープンスタブ素子の接続点に整流ダイオード素子1のアノード又はカソード端子と整流ダイオード素子2の整流ダイオード素子1とは逆の極性の端子を接続し、整流ダイオード素子1のもう一方の端子をRF信号接地レベル部位に接続し、整流ダイオード素子2のもう一方の端子を整流出力のためのキャパシタンス素子に接続しこれをチャージしてRF入力信号の昇圧整流出力を得ることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0031】
請求項3に係る発明は、RF信号接地レベル部位として直流で分離されたもう1つの整流回路の出力を用いることを特徴とする請求項2記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0032】
請求項4に係る発明は、前記整流ダイオード素子の整流ダイオード接合容量が、前記RF信号振幅の昇圧出力への容量性負荷となることを軽減しかつ、整流ダイオード素子により高いRF信号振幅を誘起させる目的で整流ダイオードの接合容量と直列共振する1nHから10nHのインダクタンス素子を整流ダイオード素子の片側に挿入することを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0033】
請求項5に係る発明は、前記RF信号接地レベル部位として直流バイアス源を用い前記整流ダイオードに順バイアス電流を流し微弱なRF入力信号に対しても検波出力を得ることを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路である。
【0034】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の直流バイアス源を有するマイクロ波帯昇圧整流回路でRF信号から切り離されたダイオード群にもバイアス電流を供給しその出力電位差によってRF信号の有無を判定するASK復調方法であって、マイクロ波昇圧整流回路側の出力平均電圧をRF信号から切り離されたダイオード郡の出力に加えることでASK復調の高速化を図ることを特徴とする無線タグ装置である。
【0035】
請求項7に係る発明は、前記ASK復調出力に1種類以上のパルス幅検出回路を接続し待ち受けタイマー動作している制御回路(マイクロプロセッサ)にパルス幅検出回路の出力で割り込み処理させることによって、タイマーによるパルス間隔時間測定結果とパルス種別との組み合わせによる受信RF信号のパルス列符号受信待ち受けを低い消費電力で行うことを特徴とする請求項6記載の無線タグ装置である。
【0036】
請求項8に係る発明は、請求項7のパルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間内蔵する周波数安定度の高い発振源を用いたCWサブキャリア応答信号をリーダ側へ返送することによって、リーダ側はその一定時間内に質問周波数を掃引してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することでタグの位置を求めることを特徴とする無線タグシステムである。
【0037】
請求項9に係る発明は、前記パルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間センサによる測定結果をデジタル化しサブキャリアMPSKでリーダ側へ転送することを特徴とする請求項7記載の無線タグシステムである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、電波資源の効率的利用の観点からISMの5GHz帯や24GHz帯で利用可能なマイクロ波周波数帯で電波式無線タグの新しい利用方法を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来型のパッシブ無線タグ装置の回路図である。
【図2】本発明の実施例に係るマイクロ波帯昇圧整流回路の例を示し、(a)は回路例1、(b)は回路例2、(c)は回路例3及びパッシブ方式のASK復調回路のそれぞれ回路図である。
【図3】従来型のセミパッシブ無線タグ装置の回路図である。
【図4】本発明の実施例に係るマイクロ波帯昇圧整流型ASK復調回路であって主にセミパッシブ無線タグ装置に用いる。
【図5】セミパッシブ型無線タグに用いる実験評価用バイアス印加アダプタ例を示す写真と回路図である。
【図6】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例1(A1)の写真と回路図である。
【図7】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例2(A4)の写真と回路図である。
【図8】マイクロ波帯昇圧整流回路の実験評価基板例3(A3)の写真と回路図である。
【図9】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグの無線タグ制御及び応答信号発生部の回路図である。
【図10】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグの受信信号昇圧整流検波及びASK復調部の回路図である。
【図11】本発明の実施例に係るセミパッシブ型無線タグのパルス符号化鍵検出部の回路図である。
【図12】タグアンテナ駆動電圧Vpに対する消費電流Ip及びタグ応答受信電力の評価実験系を示す概念図である。
【図13】タグ応答受信電力の評価実験に用いたリーダ側のアンテナ及びタグ側のアンテ写真である。
【図14】タグ側のバラクタダイオード駆動電圧Vpに対する消費電流Ip及びリーダ側でのタグ応答受信電力のグラフ図である。
【図15】本発明の実施例に係るセンサタグシステムの構成概念図である。
【図16】本発明の実施例に係るリーダ装置の写真である。
【図17】リーダ・タグ間距離を変化させながら連続測定した測距値及びタグ応答受信信号レベルを示す写真である。
【図18】タグシステム評価実験環境の写真である。
【図19】4値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図20】8値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図21】16値PSK応答でリーダ・タグ間距離7m及び20mとしたときの受信I-Qコンスタレーション図である。
【図22】リーダ・タグ間距離30mでの連続受信データのリアルタイムLCD表示例を示す図である。
【図23】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図24】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図25】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【図26】本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルのルールを説明するための図である。
【実施例】
【0040】
図5は、セミパッシブ型無線タグに用いる受信信号検波整流ダイオードにバイアス電圧を印加するためのアダプタの例であり、実験評価に用いた基板の写真と回路図を示した。この回路で、ダイオードに印加するバイアス電圧はBias in端子電圧を2.2MΩと470kΩで分圧して作っている。Bias inに3Vを印加した場合の開放直流バイアス電圧は約528mV、直流出力インピーダンスは約387kΩである。また、RFinとRFoutは共にマイクロ波周波数帯で特性インピーダンスを約50Ωとしている。なお、本実施例では、測定器接続時の静電気による破壊防止のための手段を講じており、そのために510Ωの抵抗を用いている。
【0041】
図6は、本発明のマイクロ波周波数帯昇圧整流回路の例であり、図2の(c)に対応する。この図でλg/2オープンスタブに切り離しセミリジッドケーブルを用いているが、切り離し端フリンジ部分からの電磁波放射による損失が予想されるために切り離し部分を延長するように銅管部を追加している。
【0042】
図6の回路でRFinに直接50Ωで-20dBmのfo=4.527GHzを印加したバイアス印加アダプタなしのパッシブ無線タグ動作では、開放検波出力電圧は約762mVで出力インピーダンスは約465kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約652mVで出力インピーダンスは約862kΩと性能の劣化がみられる。検波出力電圧の減少はバイアス印加アダプタによるRF信号レベルの減衰が原因として考えられ、出力インピーダンスの増加はバイアス印加アダプタの直流バイアス出力インピーダンス分が加わったことが原因と考えられる。また、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧(検波出力信号に直流バイアス電圧がオフセットされるため印加RF信号を100KHzでON/OFFしたときの検波出力電圧の変化分ΔVoを評価した)が約684mVで出力インピーダンスは約519kΩとバイアス印加の効果は認められるもののバイアス印加アダプタを用いない場合よりも性能の劣化が確認できる。このように、セミパッシブ無線タグ動作で用いるバイアス印加アダプタの挿入は逆効果であると考えられるが、セミパッシブ無線タグの通信距離100m程度を想定すると、無線タグでの受信信号レベルは-60dBm程度となるために検波ダイオードのバイアス印加動作でないと検波出力が全く得られなくなると考えられる。
【0043】
図7は、図2の(c)に示した回路で検波ダイオードD1及びD2のコモンとスタブの接続間に0.8pFのキャパシタを追加した例である。このキャパシタ追加はオープンスタブの静電容量が比較的大きい場合に検波出力信号インピーダンスと1次遅れ系を構成し速いASK復調信号の取り出しが困難になることを防止するために検波回路から見たスタブの静電容量を見かけ上小さくするためのものである。この回路の50Ω、-20dBm、fo=5.04GHz入力におけるパッシブ無線タグ動作(バイアス印加アダプタ無し)では、開放検波出力電圧が約576mVで出力インピーダンスは約581kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約461mVで出力インピーダンスは約1075kΩ、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧は約499mVで出力インピーダンスは約608kΩであった。これらの値は、いずれも図6の回路の場合よりも劣っておりマイクロ波帯RF信号に挿入するキャパシタが比較的大きな損失を伴うことが分かる。
【0044】
図8は、図2の(a)と(b)を組み合わせてスタブ昇圧RF信号の4倍圧整流検波回路を構成した例である。この回路の50Ω、-20dBm、fo=5.13GHz入力におけるパッシブ無線タグ動作(バイアス印加アダプタ無し)では、開放検波出力電圧が約780mVで出力インピーダンスは約489kΩと推定できる。また、セミパッシブ無線タグ動作では、バイアス印加アダプタを経由してRF信号を印加したが、Bias in=0Vの場合に開放検波出力電圧は約657mVで出力インピーダンスは約957kΩ、Bias in=3Vの場合では開放検波出力電圧は約681mVで出力インピーダンスは約481kΩであった。これらの結果から図8の回路の各動作モードにおける開放検波出力電圧及び出力インピーダンスの値は図6の回路の場合とほぼ同じであると言える。図8の回路ではそれぞれ独立したスタブ昇圧整流回路の出力電圧を加え合わせる方法を取っており、スタブ昇圧RF信号と検波ダイオード間に挿入するキャパシタを無くすることでより高い昇圧比の実現を想定していたが、2系統の共振周波数を一致させようとするとかえって検波出力電圧が低下する現象もあり、2系統の共振周波数をずらすようにダイオードに装荷するインダクタの値を選択するようにした。
【0045】
図9から図11は、本発明で提案するマイクロ波帯セミパッシブ型無線タグの回路図であり、5GHzで動作する。この回路は図9の(a)無線タグ制御及び応答信号発生部、図10の(b)受信信号昇圧整流検波及びASK復調部、図11の(c)パルス符号化鍵検出部から成る。まず、本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を含む(b)受信信号昇圧整流検波及びASK復調部から説明する。
【0046】
この回路には、図5で示したバイアス印加アダプタ部と図6で示したλg/2オープンスタブ共振昇圧回路と4倍圧整流回路及び図4で示した受信AGC及び閾値制御を含むASK復調回路によって構成されている。(c)は、発明者らが先に出願した特許の回路であり、一定範囲のパルス幅の信号にのみ応答しかつ低消費電力で動作することを特徴とし、特許文献2に動作原理の記載がある。この回路で、U5の出力INTは受信信号パルス幅260μsから350μsに応答し約2μs幅のパルス信号を出力し、U6の出力RESETは受信信号パルス幅2.5msから3.2msに応答し約20μs幅のパルス信号を出力する。最後に(a)は本発明のマイクロ波帯昇圧整流回路を用いた無線タグの受信コマンド解析及び応答動作を行う部分であり、U9はタグからリーダへの応答のためのアンテナ駆動振幅0-5Vを得るための振幅レベル変換器であり、ANTpsk、ANTcw及びANTmxはそれぞれ図12及び図13に示したタグアンテナに装荷したバラクタダイオードに接続される。U10はリーダからタグの測位を行う場合に用いる周波数安定度の高い32.768kHzのCW発振器であり、この出力信号をU9でレベル変換してタグアンテナに装荷したバラクタダイオードを駆動することによってリーダからの質問信号foをfo±32.768kHzのサブキャリアで反射返送する。リーダ側では質問信号foを周波数掃引しながらタグ応答サブキャリア信号を複素検波してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することによって距離を求めることができる。U11はチャージポンプ方式のDC-DC変換器であり、タグ内蔵の3Vボタン電池からU9で用いる5V電源を作っている。U12はマイクロプロセッサであり、AD変換器やメモリ、WDT(低消費電力モードで動作するタイマー割り込み機能)等を内蔵する。U12には先に示した(c)のINT信号やRESET信号が接続されWDTモードで動作しているマイクロプロセッサに特定の受信パルスで割り込みをかけることでパルス種別ごとの時間間隔測定結果と順序を記録することができる。この記録結果は特定のタグを起動させるための鍵になっており、リーダから送信された特定のタグを起動させるためのパルス符号化鍵はU12を殆んどWDTモード待ち受け状態にしたままで受信できる。ここで、U12のWDTは例えば1msごとに起きるものとしてパルス間隔カウンタのインクリメント操作を行い、受信信号パルスによる割り込みが発生した場合にはパルス間隔カウンタの記録及びリセット操作とパルス符号の判定を行う。また、初期化動作や各種割り込みによって起動されたU12は、U8の各出力端子を制御しU10やU11の電源をON/OFFしたりタグ内の動作モードを切り替え制御する。例えば、RxENはU1、U2及びU3をアクティブ状態にして無線タグを受信モードとし、ENintはINTパルス検出回路をアクティブ状態とし、ENrstはRESETパルス検出回路をアクティブ状態にする。また、U12に内蔵するAD変換器はセンサ出力信号等をデジタル化してRC1端子からMPSKサブキャリア変調信号(特許文献2参照)として出力し、U9でレベル変換してタグアンテナに装荷したバラクタダイオードを駆動することによってリーダからの質問信号をサブキャリアで変調反射してセンサ情報を返送する。
【0047】
なお、本無線タグ装置におけるリーダとの通信プロトコルは以下のルールに従って動作する。
【0048】
ア)リーダから無線タグへのパルス鍵、コマンド及びデータの送信は5GHz帯CW信号を負論理ASK変調で行う。
【0049】
イ)リーダ側から送信されたリセットパルス鍵(PW=2.5-3.2ms)を受信した全ての無線タグは、それまでに受信した動作コマンドを全てリセットし、初期化状態に戻してあらかじめ設定されたスロットに一定時間幅のCW応答サブキャリア信号を返送する。リーダ側はこの信号を受信することによって無線タグの存在を認識する。
【0050】
ウ)無線タグ側は何も動作指令を受けていないとき、通常(a)RxEN制御をLowレベルとして受信回路を非アクティブ状態にしてWDTを用いてSleepし消費電力を節約する。一定時間経過後にWDTによる再起動を行い(b)RxENをHighレベルとして受信回路をアクティブ状態としかつENrstをHighレベルとしてリセットパルス鍵の受信をWDTを用いて一定時間許可した後再び(a)に戻る動作を繰り返す。このとき、リーダ側から全ての無線タグをリセットパルス鍵によって初期化応答させるためには(a)の時間間隔を超える時間幅でリセットパルス鍵を繰り返し送信する。また、省電力モードでのコマンド待ち受け命令を受け取った無線タグではENintをHighレベルとして割り込みパルス鍵の受信を許可した状態で前記(a)及び(b)の動作を繰り返してリーダからのパルス符号化鍵によるコマンドの受信を待つ。
【0051】
エ)リーダ側から送信された割り込みパルス鍵(PW=260-350μs)を受信した割り込み禁止状態でない全ての無線タグは、割り込みパルス鍵の時間間隔をWDTを利用したカウント値を読取り記録すると共に記録されたカウント列で指定されたコマンドに従って次の動作へ移行する。
【0052】
オ)リーダ側から送信する割り込みパルス鍵の間隔の例えば最小値(WDTを利用したカウント値がゼロになる)をパルス符号化鍵コマンドの開始及び終了符号として用い、最小間隔のパルス鍵ではさまれたWDTを利用したカウント列によって無線タグの動作を制御する(図23)。
【0053】
カ)リーダ側からの無線タグのIDコード読取りは、割り込みパルス符号化鍵を用いたIDコード読取りコマンドの後にマンチェスタ符号化ASKマスクドIDコードを送信し、対応するIDコードを持つ無線タグはあらかじめ決められた(例えばマスク部分のビットコード)スロットに自らのIDコードをサブキャリアMPSK変調を用いてリーダ側へ返送する。尚、マンチェスタ符号化マスクドIDコードはU12のDinに入力されてU12によってマンチェスタ符号の復調と解析が行われ応答MPSK信号もU12によって合成されてRC1端子から出力される(図24)。
【0054】
キ)マスクドIDコードはマスクビット列を含む期待値IDコードであり、マスクされたビット位置を除く期待値IDと自らのIDが一致した場合に、その無線タグはあらかじめ決められたスロットに自らのIDコードをサブキャリアMPSK変調でリーダ側へ返送するが、リーダ側では受信したIDコードにエラーがなければ読取り完了を無線タグに知らせて以後ID読取りコマンドに応答しないように指示する命令を無線タグへ送信する(図25)。
【0055】
また、IDコードに読取りエラー(他のタグからの応答の衝突)があった場合には、マスクビット列を変更してエラーが無くなるまでIDコード読取りコマンドをくりかえす。また、全ての無線タグの読取り終了を判断するためには全ビットをマスクしたID読取りコマンドを送信して応答が無いことを確認する。
【0056】
ク)IDコード読取りに成功した無線タグに対して短縮コマンドパルス符号化鍵を与える。以後、その無線タグは割り込みによるパルス符号化鍵のみで動作させることができる(図26)。
【0057】
・タグシステムの設計
(基礎検討)
図12に簡単な無線タグシステムの評価系を示す。この図において、周波数foでリーダ側から送信されるキャリア信号の送信電力をPt、送信アンテナの動作利得をGt、タグ側のアンテナの動作利得をGa、リーダからタグへの基本伝送損を1/Gpとすると、タグ側の受信電力Paは、
【0058】
【数1】
で与えられる。この式において、自由空間での基本伝送損1/Gpは、光速をc、リーダとタグ間の距離をrとすると、
【0059】
【数2】
で与えられる。また、タグが受信した信号をタグアンテナに装荷した可変インピーダンス素子(バラクタダイオード)によりサブキャリア信号fsで変調したものとすると、タグアンテナから再放射されるfo+fsのサブキャリア応答信号のリーダ側での受信電力Psは、
【0060】
【数3】
となる。ここで、Gsはサブキャリア変調利得、Grはリーダ側の受信アンテナ動作利得、Gasはfo+fs におけるタグアンテナの動作利得、1/Gpsはタグからリーダへのサブキャリア応答信号の基本伝送損であり、
【0061】
【数4】
で与えられる。ここで、fo>>fsが成立し、
であることから、式(3)は、
【0062】
【数5】
で近似できる。
次に式(5)のサブキャリア変調利得Gsについて考察すると、サブキャリア変調信号fsとしてデューティ比50%の方形波を仮定した場合にキャリア信号foとの積から、
(a)タグアンテナがfsでfoの完全吸収と全反射をくりかえす場合
【0063】
【数6】
(b)タグアンテナがfsでfoを位相差180°での全反射をくりかえす場合
【0064】
【数7】
となり、(a)の場合サブキャリア変調利得Gsは約-9.9dBに対して(b)の場合は約-3.9dBである。
【0065】
実際のタグアンテナのサブキャリア変調利得を評価した。
【0066】
図12の評価系において使用する実際のリーダ側アンテナ及びタグ側アンテナの写真を図13に示す。リーダ側の送信及び受信アンテナには同じアンテナを用いGt=Gr=4.8dBiとした。タグ側アンテナのサイズ3cm×6cm、厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化も可能であり、その動作利得はGa=4.8dBiである。また、リーダとタグ間の距離はr=1mとした。タグアンテナに装荷するバラクタダイオードとして、2種類のダイオードを用い、特性の比較を行った。1つはHVC417Cであり、もう1つはSMV1247である。図12に示した評価系において、fo=5.3GHz、Pt=20dBmとして、タグアンテナに装荷したバラクタダイオードにサブキャリア信号fs=32.768kHzで0⇔Vpの方形波を印加し、リーダ側でfo+fsの受信レベルを観測した。図14は、バラクタダイオードの駆動電圧Vpに対するリーダ側の受信電力Psとバラクタダイオード駆動回路の消費電流Ipの測定結果である。この図からHVC417Cを用いたタグの場合、Vp=18VにおいてPs=-58.5dBmであり、式(5)において式(6b)のGs=-3.9dBを用いた理論値-58.55dBmにほぼ一致する。ただし、このときのバラクタダイオード駆動回路の消費電流はIp=19.4μAであり、消費電力は約350μWになる。また、SMV1247を用いた場合、Vp=5VでPs=-60dBmであり、
Gs=-5.4dBを式(5)に代入した値にほぼ一致する。したがって、この場合、式(6a)と式(6b)の中間の条件で動作していると考えられる。また、このときバラクタダイオード駆動回路の消費電流はIp=6.9μAであり、消費電力は約34.5μWとHVC417Cを用いた場合の1/10以下であった。
SMV1247(Vp=0-5Vで Cj=9-0.7pF, Rs=9-3.5Ω)はHVC417C(Vp=0-18Vで Cj=8-0.7pF, Rs=2-0.5Ω)に比較してCj-V変化率が大きく低電圧駆動が可能である反面、抵抗分Rsが大きいために吸収損が生じ、サブキャリア変調効率が約30%低下している。
【0067】
(タグ)
図9に開発したセンサ無線タグの基本構成を示す。このタグでは、図12及び図13で示したタグアンテナに装荷したバラクタダイオード(SMV1247)にfs=125kHzでVp=5VのMPSKサブキャリア変調信号をPIC16F684(μ-CPU)で印加・制御している。MPSKの多重化率は、4値PSKで40kbps、8値PSKで60kbps、16値PSKで80kbpsの可変レート方式を用いている。このときのデータ転送では、センサAN0,AN1及びRC0入力信号をμ-CPU内蔵のAD変換器でデジタル化して各CH-IDコードとともに3CH単位でパケット化してリーダ側へ返送する。また、測距動作では無変調サブキャリア信号をバースト状で返送して、リーダ側の送信周波数foを掃引しながらリーダ側で受信サブキャリア信号fsをDFT処理することにより、リーダとタグ間往復の周波数応答を得る。
【0068】
リーダ側からのコマンド及びタグIDの指定情報は、受信RF信号を0.1pFの微小キャパシタとλg/2オープンスタブで共振昇圧してから4段カスケード接続されたDMF2822で4倍圧整流検波し、オペアンプU2及びU3を用いてAGC振幅制御や閾値制御した後、コンパレータU1で2値化してμ-CPUで解析している。リーダ側からの情報は100kbpsでマンチェスタ符号化ASK信号をキャリアfoに乗せて送信している。
式(1)において、リーダとタグ間距離r=30m、リーダ側fo=5.3GHz、Pt=20dBm、Gt=3dBiとし、タグアンテナ動作利得を3dBiとしたとき、タグ側での受信電力Paは約-50dBm(50Ωで約0.67mV)となる。100kbpsのマンチェスタ符号を受信するには、コンパレータにTL331(3V動作で300μA)U1を用いる必要があり、オフセットを考慮すると入力振幅5mV以上が必要なために、スタブ共振昇圧比として10倍程度の性能が要求される。特許文献2のスタブ共振昇圧回路では5GHz帯で3倍程度の昇圧比しか得られなかったが、本発明のタグ受信回路の設計ではスタブとの共振キャパシタ及び検波ダイオードの接合容量を0.1pF程度とし、さらにオープンスタブを用いることでQ値を200以上とした。また、配線インダクタを考慮することによりRF昇圧比10倍程度が得られた。また、リーダからのコマンドや測距トリガ待ちなど、低消費電力でリアルタイム応答動作が必要な場合には、特許文献2で発明したパルス検出回路を用いてスリープ状態のμ-CPUを割り込み起動して鍵コードを検出するようにした。
【0069】
(リーダ)
図15に開発したセンサタグシステムの構成を示す。この図において、タグはリーダから送信した質問キャリアfoに対して±fsだけ周波数オフセットしたサブキャリア信号を生成し、MPSKでデータを返送する。リーダで受信したタグからの応答サブキャリア信号は、質問キャリア信号で直交検波し、I(t)及びQ(t)として±fsの複素信号に変換した後、+fs成分のみを複素DFT処理してタグからの返送データの復調を行っている。ここで、fs=125kHzであり、タグからの返送データは、4値PSK(40kbps)、8値PSK(60kbps)及び16値PSK(80kbps)を受信することができ、受信誤りに応じて伝送レートを選択している。また、質問キャリア周波数foは5GHz帯無線LANの規格に合わせて5.15-5.35GHzの範囲をホッピングさせて送信電力3mW/MHz程度になるようにしている。さらに、リーダでのタグ応答受信電力Psは式(2)及び式(5)で示したようにリーダとタグ間の距離rの4乗に反比例するため、例えばr=1-30mの範囲を対象とした場合に、Psは約60dB変化する。受信CN比15dB及びフェージング余裕15dB程度を考慮すると、リーダで使用するI-Q信号サンプリングAD変換器のダイナミックレンジは90dB以上必要であり、 dsPIC33FJ256内蔵の12bit AD変換器では不十分である。試作したリーダでは、AD変換器に16bitのAD7621を用い、サンプリング周波数も4fs=500kHzに上げることができた。
【0070】
(センサタグシステムの構成)
測距動作では、送信周波数fo=5.15-5.35GHzをdsPIC33FJ256GP710から制御掃引し、各キャリア周波数ごとのタグからの無変調応答サブキャリア信号fsを複素DFT処理してリーダ・タグ間の周波数応答特性(200MHz帯域幅で256ポイント)を観測し、このデータを逆フーリエ変換(IFFT)処理することによってタグとリーダ間の距離rを求めている。試作したリーダ装置では、周波数応答の観測(複素DFT処理結果のバッファリング)、観測データのブロックスケーリング(固定小数点演算のために必要)、IFFT処理、ピークサーチ及び測距補間処理をdsPIC33FJ256GP710内で一括処理し、測距結果及びIFFTデータを8bitパラレルバス経由リアルタイムでタグリーダインタフェース基板(PIC24FJ256GA110)へ転送し表示するようにしている。この装置では、200MHz帯域幅の周波数応答特性を観測しているが、観測データのIFFT処理のみでは測距分解能が75cmに制限されてしまう。そこで、IFFT処理結果の補間処理(非特許文献3)を行っている。これは、観測データにHanning窓を掛けてIFFT処理を行い、ピークとその両側の応答振幅に三角関数を利用した補間を行って真の応答位置と振幅を推定する方法であり、これによって測距分解能1mmを達成している。また、リーダでの測距結果は最大で毎秒30回出力され、内28msが周波数応答の観測、4.5msが演算処理、0.5msがデータ出力に使われている。
【0071】
図16に試作したリーダ装置の写真を示す。この写真で送信アンテナには動作利得Gt=4.8dBiのキャビティ付きスロットアンテナを用いPt=20dBmを出力してEIRP値が25dBm以下になるようにした。また、受信アンテナには動作利得Gr=14dBiの4素子パッチアレーアンテナを用いr=30mにおいてリーダでのタグ応答受信電力Psが-110dBm以上になるようにして、4値PSK
40kbpsでのデータ受信におけるCN比が15dB以上確保できるようにした。図16の写真のLCD表示例は測距IFFT結果のスタッキング表示であり、タグを連続移動したときのマルチパス受信状況をリアルタイムで観測評価できるようにした。
【0072】
・システム評価
(測距動作)
図17は、図16に示した試作リーダ装置を用いて行った無線タグの測距実験結果、図18は実験環境の写真である。この実験では、無線タグをキャスタ付き椅子に乗せて廊下を連続移動し、リーダ側では50ms間隔でタグとリーダ間の測距を行い、測距値と受信電力値をリアルタイムでLCD表示記録した。観測は43mの廊下を往復連続移動して評価した。この図から無線タグとリーダ間距離がr=1-43mの範囲において測距がほぼ正しく行われていることが分かる。しかし、図17の測距グラフを見るとタグがリーダから遠ざかる移動時に数箇所データの跳び箇所が確認できる。これは、タグを完全に遮る位置で人の移動があったためであり、タグがリーダへ近づく移動時にはデータの跳びは観測されていない。リーダでのタグ応答受信レベルを見ると観測された受信電力のグラフではマルチパスフェージングによるレベル変動の影響が確認できるが、測距アルゴリズムではIFFT結果の最大ピークだけでなく、より遅延時間の短い次候補ピークも考慮して直接波の推定を行っている。
【0073】
(MPSKデータ転送)
図19から図21は、可変多重化率位相変調方式が受信誤りに与える影響を評価するために行った受信I-Qコンスタレーション観測の実験結果である。それぞれ、リーダとタグ間距離がr=7mの場合とr=20mの場合において、図19は4値PSK変調で40kbpsのデータレート、図20は8値PSK変調で60kbpsのデータレート、図21は16値PSK変調で80kbpsのデータレートの場合を示している。これらの実験結果を見ると、r=7mでは4値PSK及び8値PSKの場合、エラーフリーでの受信が可能であり、16値PSKの場合もBER1%以下が可能であると推測できる。r=20mでは、4値PSKの場合エラーフリーが可能であるが、8値PSKの場合はBER1%以下ではあるが受信エラーの発生が推測できる。また、r=20mでの16値PSKでは復調がほぼ困難であることが分かる。
【0074】
図22は、試作したセンサ無線タグの3CHアナログ入力に、それぞれ周波数及びレベルの異なる正弦波、三角波及びノコギリ波を印加し、図16のリーダを用いてr=30mでのデータ転送結果のリアルタイムLCDモニタの表示例である。データ転送には4値PSK 40kbpsを用いており、エラーフリーで受信できていることが分かる。
【0075】
本実施例においては、5GHz帯センサタグの長距離化及び低消費電力化を達成するために、伝搬や応答効率に関する基礎検討とタグ及びリーダ構成の検討した。開発したセンサ無線タグシステムは、1秒当たり30回の測距動作と40-80kbpsで動作するセンシングデータ転送システムであり、タグアンテナはサイズ3cm×6cm、厚み3mm程度で柔らかく衣服との一体化も可能である。また、内蔵する3Vボタン電池の連続動作時の消費電流は測距及びデータ転送それぞれの動作において30μA及び600μAであり、従来のBluetoothやZigBee方式のアクティブセンサ無線タグと比較して消費電力を1/100程度に削減することができた。さらに、開発したリーダは5GHz帯の無線LAN規格で動作し20dBmのリーダ出力にて30m以上での測距及びデータ転送動作を確認した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、RF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路。
【請求項2】
前記の微小容量素子とオープンスタブ素子の接続点に整流ダイオード素子1のアノード又はカソード端子と整流ダイオード素子2の整流ダイオード素子1とは逆の極性の端子を接続し、整流ダイオード素子1のもう一方の端子をRF信号接地レベル部位に接続し、整流ダイオード素子2のもう一方の端子を整流出力のためのキャパシタンス素子に接続しこれをチャージしてRF入力信号の昇圧整流出力を得ることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項3】
RF信号接地レベル部位として直流で分離されたもう1つの整流回路の出力を用いることを特徴とする請求項2記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項4】
前記整流ダイオード素子の整流ダイオード接合容量が、前記RF信号振幅の昇圧出力への容量性負荷となることを軽減しかつ、整流ダイオード素子により高いRF信号振幅を誘起させる目的で整流ダイオードの接合容量と直列共振する1nHから10nHのインダクタンス素子を整流ダイオード素子の片側に挿入することを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項5】
前記RF信号接地レベル部位として直流バイアス源を用い前記整流ダイオードに順バイアス電流を流し微弱なRF入力信号に対しても検波出力を得ることを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項6】
請求項5記載の直流バイアス源を有するマイクロ波帯昇圧整流回路でRF信号から切り離されたダイオード群にもバイアス電流を供給しその出力電位差によってRF信号の有無を判定するASK復調方法であって、マイクロ波昇圧整流回路側の出力平均電圧をRF信号から切り離されたダイオード郡の出力に加えることでASK復調の高速化を図ることを特徴とする無線タグ装置。
【請求項7】
前記ASK復調出力に1種類以上のパルス幅検出回路を接続し待ち受けタイマー動作している制御回路(マイクロプロセッサ)にパルス幅検出回路の出力で割り込み処理させることによって、タイマーによるパルス間隔時間測定結果とパルス種別との組み合わせによる受信RF信号のパルス列符号受信待ち受けを低い消費電力で行うことを特徴とする請求項6記載の無線タグ装置。
【請求項8】
請求項7のパルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間内蔵する周波数安定度の高い発振源を用いたCWサブキャリア応答信号をリーダ側へ返送することによって、リーダ側はその一定時間内に質問周波数を掃引してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することでタグの位置を求めることを特徴とする無線タグシステム。
【請求項9】
前記パルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間センサによる測定結果をデジタル化しサブキャリアMPSKでリーダ側へ転送することを特徴とする請求項7記載の無線タグシステム。
【請求項1】
0.2pFから0.01pFの微小容量素子とλg/2オープンスタブ素子を直列共振させて入力RF信号のインピーダンス変換を行うことによって、RF信号振幅を昇圧することを特徴とするマイクロ波周波数帯スタブ共振昇圧回路。
【請求項2】
前記の微小容量素子とオープンスタブ素子の接続点に整流ダイオード素子1のアノード又はカソード端子と整流ダイオード素子2の整流ダイオード素子1とは逆の極性の端子を接続し、整流ダイオード素子1のもう一方の端子をRF信号接地レベル部位に接続し、整流ダイオード素子2のもう一方の端子を整流出力のためのキャパシタンス素子に接続しこれをチャージしてRF入力信号の昇圧整流出力を得ることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項3】
RF信号接地レベル部位として直流で分離されたもう1つの整流回路の出力を用いることを特徴とする請求項2記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項4】
前記整流ダイオード素子の整流ダイオード接合容量が、前記RF信号振幅の昇圧出力への容量性負荷となることを軽減しかつ、整流ダイオード素子により高いRF信号振幅を誘起させる目的で整流ダイオードの接合容量と直列共振する1nHから10nHのインダクタンス素子を整流ダイオード素子の片側に挿入することを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項5】
前記RF信号接地レベル部位として直流バイアス源を用い前記整流ダイオードに順バイアス電流を流し微弱なRF入力信号に対しても検波出力を得ることを特徴とする請求項2又は3記載のマイクロ波帯昇圧整流回路。
【請求項6】
請求項5記載の直流バイアス源を有するマイクロ波帯昇圧整流回路でRF信号から切り離されたダイオード群にもバイアス電流を供給しその出力電位差によってRF信号の有無を判定するASK復調方法であって、マイクロ波昇圧整流回路側の出力平均電圧をRF信号から切り離されたダイオード郡の出力に加えることでASK復調の高速化を図ることを特徴とする無線タグ装置。
【請求項7】
前記ASK復調出力に1種類以上のパルス幅検出回路を接続し待ち受けタイマー動作している制御回路(マイクロプロセッサ)にパルス幅検出回路の出力で割り込み処理させることによって、タイマーによるパルス間隔時間測定結果とパルス種別との組み合わせによる受信RF信号のパルス列符号受信待ち受けを低い消費電力で行うことを特徴とする請求項6記載の無線タグ装置。
【請求項8】
請求項7のパルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間内蔵する周波数安定度の高い発振源を用いたCWサブキャリア応答信号をリーダ側へ返送することによって、リーダ側はその一定時間内に質問周波数を掃引してタグ・リーダ間往復の周波数応答を観測することでタグの位置を求めることを特徴とする無線タグシステム。
【請求項9】
前記パルス列符号受信待ち受けによって指定された無線タグを起動し一定時間センサによる測定結果をデジタル化しサブキャリアMPSKでリーダ側へ転送することを特徴とする請求項7記載の無線タグシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2012−142732(P2012−142732A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293145(P2010−293145)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
2.Bluetooth
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省、「戦略的情報通信研究開発推進制度(測位及び双方向無線通信システムの高速化・省電力化技術の研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
2.Bluetooth
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、総務省、「戦略的情報通信研究開発推進制度(測位及び双方向無線通信システムの高速化・省電力化技術の研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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