説明

マイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物、及びこれを用いた電子部品

【課題】マイクロ波をパルス状に照射することによって、250℃未満で効率的にポリアミドの開環構造が脱水反応を起こして環化し、硬化膜を得ることができるマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(a)一般式(I)
【化1】


(式中、Uは4価の有機基を示し、Vは2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドと、(b)o−キノンジアジド化合物と、を少なくとも含んでマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を得る。また、上記マイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を用いてパターンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性を有するポリアミドを含有し、マイクロ波照射によって硬化が促進可能なマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物、及びこれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜には優れた耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つポリイミド樹脂が用いられている。このポリイミド樹脂膜は、一般にはテトラカルボン酸二無水物とジアミンを極性溶媒中で常温常圧において反応させ、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)溶液(いわゆるワニス)をスピンコートなどで薄膜化して熱的に脱水閉環(硬化)して形成する(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
近年、ポリイミド樹脂自身に感光特性を付与した感光性ポリイミドが用いられてきているが、これを用いるとパターン形成工程が簡略化でき、煩雑なパターン製造工程の短縮が行えるという特徴を有する(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
従来、上記感光性ポリイミドの現像にはN−メチルピロリドン等の有機溶剤が用いられてきたが、最近では、環境やコストの観点からアルカリ水溶液で現像ができるポジ型の感光性樹脂の提案がなされている。このようなポジ型の感光性樹脂として、ポリイミド前駆体にエステル結合を介してo−ニトロベンジル基を導入する方法(例えば、非特許文献2参照)、可溶性ヒドロキシルイミドまたはポリベンゾオキサゾール前駆体にナフトキノンジアジド化合物を混合する方法(例えば、特許文献4、5参照)などがあり、低誘電率化が期待できる観点からも感光性ポリイミドとともに感光性ポリベンゾオキサゾールが注目されている。
【0005】
いっぽう、近年マイクロ波を用いた化学反応が注目されており(例えば、非特許文献3参照)、マイクロ波を用いたポリイミド前駆体の脱水閉環が検討されている(例えば、特許文献6、7参照)。
【0006】
また、特許文献8では、マイクロ波を用いてポリイミド前駆体薄膜を脱水閉環する際に、このポリイミド薄膜や基材のダメージを避けるため、周波数を変化させて照射することが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭49−11541号公報
【特許文献2】特開昭59−108031号公報
【特許文献3】特開昭59−219330号公報
【特許文献4】特公昭64−60630号公報
【特許文献5】米国特許第4395482号公報
【特許文献6】特許第2587148号公報
【特許文献7】特許第3031434号公報
【特許文献8】米国特許第5738915号公報
【非特許文献1】日本ポリイミド研究会編「最新ポリイミド〜基礎と応用〜」(2002年)
【非特許文献2】J.Macromol.Sci.,Chem.,vol.A24,1407(1987年)
【非特許文献3】Tetrahedron,vol.57,9225−9283(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体を熱的に脱水閉環させてポリイミド薄膜やポリベンゾオキサゾール薄膜とする場合、通常、350℃前後の高温を必要とする。この350℃前後の高温は、基板に悪影響を与えるおそれがある。そこで、最近は熱履歴に由来する不良回避のため、半導体製造プロセスにおける処理温度の低温化が望まれている。このプロセスにおける処理温度の低温化を実現するためには、表面保護膜でも、従来の350℃前後というような高温でなく、約250℃未満の低温で脱水閉環ができ、脱水閉環後の膜の物性が高温で脱水閉環したものと遜色ない性能が得られるポリイミド材料やポリベンゾオキサゾール材料が不可欠となる。しかしながら、熱拡散炉を用い温度を下げて脱水閉環する場合では、一般的に膜の物性は低下する。
【0009】
ここで、一般的にポリベンゾオキサゾール前駆体の脱水閉環温度は、ポリイミド前駆体の脱水閉環温度に比べて高いことが知られている(例えば、J.Photopolym.Sci.Technol.,vol.17,207−213.参照)。したがって、ポリイミド前駆体を脱水閉環させることよりもポリベンゾオキサゾール前駆体を250℃未満の温度で脱水閉環させることはより困難である。
【0010】
上記特許文献7(特許第3031434号)では、ポリイミド前駆体をマイクロ波により250℃から350℃で熱処理することを提唱している。また、上記特許文献8(米国特許第5738915号)に記載のポリイミド前駆体の脱水閉環方法は、マイクロ波の周波数を短い周期で変化させて照射することにより、ポリイミド層や基板へのダメージを抑える点で半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜として用いるのに好適な方法であるといえる。
【0011】
そこで、ポリベンゾオキサゾール前駆体においてもマイクロ波の周波数を短い周期で変化させて照射することにより、ポリアミドの開環構造を脱水閉環することが考えられる。一般に、感光性樹脂組成物の硬化反応は、各組成物中の各種反応基の結合の組み合わせ等により決まるものであり、それらの結合の組合わせがマイクロ波によってどの程度促進されるのかは、理論的に予測することは困難である。そのため、マイクロ波照射により、硬化温度を低温化することが可能なポリベンゾオキサゾール前駆体を特定するには個々に実験し検討しなければならない。
【0012】
本発明は、アルカリ現像可能なマイクロ波硬化用感光性樹脂組成物に関し、感光性樹脂層を有する基材の温度を250℃未満に保ち、マイクロ波の周波数を変えながらパルス状に照射することにより、感光性樹脂中のポリアミドを低温で脱水閉環させることができ、それによって得られた硬化膜が高温での脱水閉環膜(ポリオキサゾール膜)の物性と差がない、耐熱性に富んだポジ型の感光性樹脂組成物を提供するものである。
【0013】
また、本発明のマイクロ波硬化用感光性樹脂組成物は、良好な形状と特性のパターンを有する。さらに、低温プロセスで脱水閉環できることにより、デバイスへのダメージが避けられ、信頼性の高い電子部品を歩留まり良く提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、前述のようにポリアミドを含むポジ型感光性樹脂組成物からなる基材に、250℃未満で周波数を変えながらマイクロ波をパルス状に照射して脱水環化を行うと、熱拡散炉を用いて250℃以上で脱水環化した膜の物性と差がないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は次のものに関する。
〔1〕 成膜された後、マイクロ波の照射により、ポジ型の硬化膜となるマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物であって、
下記(a)一般式(I)
【化1】

(式中、Uは4価の有機基を示し、Vは2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドと、(b)o−キノンジアジド化合物と、を少なくとも含むことを特徴とするマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔2〕 さらに、(c)フェノール性水酸基を有する化合物、及び(d)溶剤を含むことを特徴とする上記〔1〕に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔3〕 上記(c)成分が、下記一般式(II)
【化2】

(式中、Xは単結合又は2価の有機基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子または一価の有機基を示し、m及びnは各々独立に1〜3の整数であり、p及びqは各々独立に0〜4の整数である)で表される化合物であることを特徴とする上記〔2〕に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔4〕 上記一般式(II)中、Xで表される基が、下記一般式(III)
【化3】

(式中、2つのAは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、酸素原子、フッ素原子を含んでいても良い)で表される基であることを特徴とする上記〔3〕記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔5〕 前記(a)成分100重量部に対して、(b)成分5〜100重量部を配合してなることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一つに記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔6〕 (a)成分100重量部に対して、(b)成分5〜100重量部、(c)成分1〜30重量部を配合してなることを特徴とする上記〔2〕〜〔5〕のいずれか一つに記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔7〕 上記マイクロ波の照射として、その周波数を変化させながらパルス状に照射した場合に、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドの脱水閉環が、250℃未満の温度にて実現されることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
〔8〕 上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一つに記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物をマイクロ波照射により硬化させてなる層を有してなる電子デバイスを有する電子部品であって、上記電子デバイス中の前記層が層間絶縁膜層及び/又は表面保護膜層として設けられていることを特徴とする電子部品。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、基板上に設けられた感光性樹脂膜層を露光・現像後に周波数を変えながらマイクロ波をパルス状に照射する工程において、より低温で、具体的には250℃未満で効率的にポリアミドのフェノール性水酸基含有ポリアミド構造が脱水反応を起こして環化する。したがって、上記組成物からなる感光性樹脂膜に対して周波数を変えながらマイクロ波をパルス状に照射することにより、感度、解像度、接着性に優れ、さらに低温硬化プロセスでも耐熱性に優れ、吸水率の低い、良好な形状のパターンが得られる。さらには低温プロセスで硬化できることにより、デバイスへのダメージが避けられ、信頼性が高い。また、デバイスへのダメージが少ないことから、歩留まりも高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、成膜された後、マイクロ波の照射により、ポジ型の硬化膜となるマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物であって、
下記(a)一般式(I)
【化4】

(式中、Uは4価の有機基を示し、Vは2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドと、(b)o−キノンジアジド化合物と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0018】
本発明において、ポリオキサゾールを半導体装置などのデバイスとして用いる場合の硬化膜の物性としては、具体的には、ガラス転移温度(Tg)、破断伸び(El)、破断強度、重量減少温度(Td)、イミド化率、線膨張係数、弾性率、吸水率、碁盤の目テープ試験などが挙げられる。後述する実施例では、これらのうち、ガラス転移温度(Tg)、破断伸び(El)、破断強度、重量減少温度(Td)について評価した。
【0019】
本発明における上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する成分(a)は、アルカリ水溶液可溶性のフェノール性水酸基含有ポリアミドであり、これは一般にポリオキサゾール、好ましくはポリベンゾオキサゾールの前駆体として機能する。なお、アルカリ水溶液とは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、金属水酸化物水溶液、有機アミン水溶液等のアルカリ性の溶液である。
【0020】
上記一般式(I)で表される、ヒドロキシ基を含有するアミドユニットは、最終的には硬化時の脱水閉環により、耐熱性、機械特性、電気特性に優れるオキサゾール体に変換される。
【0021】
本発明で用いる上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリアミドは、上記繰り返し単位を有していればよいが、ポリアミドのアルカリ水溶液に対する可溶性は、Uに結合するOH基(一般にはフェノール性水酸基)に由来するため、上記OH基を含有するアミドユニットが、ある割合以上含まれていることが好ましい。
【0022】
即ち、下記一般式(IV)
【0023】
【化5】

(式中、Uは4価の有機基を示し、VとWは2価の有機基を示す。jとkは、モル分率を示し、jとkの和は100モル%であり、jが60〜100モル%、kが40〜0モル%である)で表されるポリアミドであることが好ましい。ここで、式中のjとkのモル分率は、j=80〜100モル%、k=20〜0モル%であることがより好ましい。
【0024】
上記(a)成分の分子量は、重量平均分子量で3,000〜200,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。ここで、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線より換算して得た値である。
【0025】
本発明において、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリアミドは、一般的にジカルボン酸誘導体とヒドロキシ基含有ジアミン類とから合成できる。具体的には、ジカルボン酸誘導体をジハライド誘導体に変換後、上記ジアミン類との反応を行うことにより合成できる。ジハライド誘導体としては、ジクロリド誘導体が好ましい。ジクロリド誘導体は、ジカルボン酸誘導体にハロゲン化剤を作用させて合成することができる。ハロゲン化剤としては通常のカルボン酸の酸クロ化反応に使用される、塩化チオニル、塩化ホスホリル、オキシ塩化リン、五塩化リン等が使用できる。
【0026】
ジクロリド誘導体を合成する方法としては、ジカルボン酸誘導体と上記ハロゲン化剤を溶媒中で反応させるか、過剰のハロゲン化剤中で反応を行った後、過剰分を留去する方法で合成できる。反応溶媒としは、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、ベンゼン等が使用できる。
【0027】
これらのハロゲン化剤の使用量は、溶媒中で反応させる場合は、ジカルボン酸誘導体に対して、1.5〜3.0モルが好ましく、1.7〜2.5モルがより好ましく、ハロゲン化剤中で反応させる場合は、4.0〜50モルが好ましく、5.0〜20モルがより好ましい。反応温度は、−10〜70℃が好ましく、0〜20℃がより好ましい。
【0028】
ジクロリド誘導体とジアミン類との反応は、脱ハロゲン化水素剤の存在下に、有機溶媒中で行うことが好ましい。脱ハロゲン化水素剤としては、通常、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基が使用される。また、有機溶媒としは、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が使用できる。反応温度は、−10〜30℃が好ましく、0〜20℃がより好ましい。
【0029】
ここで、上記一般式(I)において、Uで表される4価の有機基とは、一般に、ジカルボン酸と反応してポリアミド構造を形成するジヒドロキシジアミン由来の残基であり、4価の芳香族基が好ましく、炭素原子数としては6〜40のものが好ましく、炭素原子数6〜40の4価の芳香族基がより好ましい。4価の芳香族基としては、4個の結合部位がいずれも芳香環上に存在し、2個のヒドロキシ基がそれぞれアミンのオルト位に位置した構造を有するジアミンの残基が好ましい。
【0030】
このようなジアミン類としては、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル}フルオレン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス{4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル}アダマンタン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス{4−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェノキシ)フェニル}アダマンタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記ジアミン類のうち、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンのように、ビス(芳香族オルトヒドロキシルアミン)がsp3炭素原子、イオウ原子、酸素原子などの原子に結合しているジアミン類は、適度な柔軟性を有する分子であるため比較的低温で脱水閉環は起こる特徴があり、好ましい。また、これらは芳香族基に由来する耐熱性を兼ね備えている点でも好ましい。
【0032】
また、上記ポリアミドの式において、Wで表される2価の有機基とは、一般に、ジカルボン酸と反応してポリアミド構造を形成する、ジアミン由来(但し上記Uを形成するジヒドロキシジアミン以外)の残基であり、2価の芳香族基又は脂肪族基が好ましく、炭素原子数としては4〜40のものが好ましく、炭素原子数4〜40の2価の芳香族基がより好ましい。
【0033】
このようなジアミン類としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、ベンジシン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、ビス(4−アミノフェノキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノフェノキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン化合物、この他にもシリコーン基の入ったジアミンとして、LP−7100、X−22−161AS、X−22−161A、X−22−161B、X−22−161C及びX−22−161E(いずれも信越化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いる。
【0034】
また、上記一般式(I)において、Vで表される2価の有機基とは、ジアミンと反応してポリアミド構造を形成する、ジカルボン酸由来の残基であり、2価の芳香族基が好ましく、炭素原子数としては6〜40のものが好ましく、炭素原子数6〜40の2価の芳香族基がより好ましい。2価の芳香族基としては、2個の結合部位がいずれも芳香環上に存在するものが好ましい。
【0035】
このようなジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシテトラフェニルシラン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(p−カルボキシフェニル)プロパン、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、5−クロロイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{4−(3または4−カルボキシフェノキシ)フェニル}フルオレン、1,3−ビス(4−カルボキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス{4−(3または4−カルボキシフェノキシ)フェニル}アダマンタン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス{4−(3または4−カルボキシフェノキシ)フェニル}アダマンタン等の芳香族系ジカルボン酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸等の脂肪族系ジカルボン酸などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの化合物を、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
上記ジカルボン酸類のうち、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシテトラフェニルシラン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(p−カルボキシフェニル)プロパンのように、ビス(芳香族カルボン酸)がsp3炭素原子、イオウ原子、酸素原子などの原子に結合しているジカルボン酸類は、適度な柔軟性を有する分子なので比較的低温で脱水閉環は起こる特徴があり、好ましい。また、これらは芳香族基に由来する耐熱性を兼ね備えている点でも好ましい。
【0037】
本発明に使用される(b)成分であるo−キノンジアジド化合物は、感光剤であり、光の照射によりカルボン酸を発生し、光の照射部のアルカリ水溶液への可溶性を増大させる機能を有するものである。そのようなo−キノンジアジド化合物は、例えば、o−キノンジアジドスルホニルクロリド類とヒドロキシ化合物、アミノ化合物などとを脱塩酸剤の存在下で縮合反応させることで得られる。上記o−キノンジアジドスルホニルクロリド類としては、例えば、ベンゾキノン−1,2−ジアジド−4−スルホニルクロリド、ナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホニルクロリド、ナフトキノン−1,2−ジアジド−4−スルホニルクロリド等が使用できる。
【0038】
上記ヒドロキシ化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,2’,3’−ペンタヒドロキシベンゾフェノン,2,3,4,3’,4’,5’−ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)プロパン、4b,5,9b,10−テトラヒドロ−1,3,6,8−テトラヒドロキシ−5,10−ジメチルインデノ[2,1−a]インデン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどが使用できる。
【0039】
上記アミノ化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが使用できる。
【0040】
上記o−キノンジアジドスルホニルクロリドとヒドロキシ化合物及び/又はアミノ化合物とは、o−キノンジアジドスルホニルクロリド1モルに対して、ヒドロキシ基とアミノ基の合計が0.5〜1当量になるように配合されることが好ましい。脱塩酸剤とo−キノンジアジドスルホニルクロリドの好ましい割合は、0.95/1〜1/0.95の範囲である。好ましい反応温度は0〜40℃、好ましい反応時間は1〜10時間とされる。
【0041】
反応溶媒としては,ジオキサン,アセトン,メチルエチルケトン,テトラヒドロフラン,ジエチルエーテル,N−メチルピロリドン等の溶媒が用いられる。脱塩酸剤としては,炭酸ナトリウム,水酸化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸カリウム,水酸化カリウム,トリメチルアミン,トリエチルアミン,ピリジンなどがあげられる。
【0042】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物において、上記(b)成分の配合量は、露光部と未露光部の溶解速度差と、感度の許容幅の点から、上記(a)成分100重量部に対して5〜100重量部が好ましく、8〜40重量部がより好ましい。
【0043】
本発明に使用される(c)成分であるフェノール性水酸基を有する化合物は、マイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中に加えられることにより、露光後の組成物をアルカリ水溶液で現像する際に露光部の溶解速度が増加し感度が上がり、また、パターン形成後の膜の硬化時に、膜の溶融を防ぐことができる。本発明に使用することのできるフェノール性水酸基を有する化合物に特に制限はないが、分子量が大きくなると露光部の溶解促進効果が小さくなるので、一般に分子量が1,500以下の化合物が好ましい。中でも下記一般式(II)に挙げられるものが、露光部の溶解促進効果と膜の硬化時の溶融を防止する効果のバランスに優れ特に好ましい。
【0044】
【化6】

(式中、Xは単結合又は2価の有機基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子または一価の有機基を示し、m及びnは各々独立に1〜3の整数であり、p及びqは各々独立に0〜4の整数である)
【0045】
上記一般式(II)において、Xで示される2価の基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数が1〜10のアルキレン基、エチリデン基等の炭素数が2〜10のアルキリデン基、フェニレン基等の炭素数が6〜30のアリーレン基、これら炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子等のハロゲン原子で置換した基、スルホン基、カルボニル基、エーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合等が挙げられ、また下記一般式(V)
【0046】
【化7】

(式中、個々のX’は、各々独立に、単結合、アルキレン基(例えば炭素原子数が1〜10のもの)、アルキリデン基(例えば炭素数が2〜10のもの)、それらの水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基、スルホン基、カルボニル基、エーテル結合、チオエーテル結合、アミド結合等から選択されるものであり、R9は水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基又はハロアルキル基であり、複数存在する場合は互いに同一でも異なっていてもよく、mは1〜10である)で示される2価の有機基が好ましいものとして挙げられる。
【0047】
上記一般式(II)の中で、Xで表される基が、下記一般式(III)
【0048】
【化8】

(式中、2つのAは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、酸素原子、フッ素原子を含んでいても良い)で表される基は、その効果が高く、さらに好ましいものとして挙げられる。
【0049】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物において、上記(d)成分の配合量は、現像時間と、未露光部残膜率の許容幅の点から、上記(a)成分100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、3〜25重量部がより好ましい。
【0050】
本発明に使用される(d)成分である溶剤としては、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ベンジル、n−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、3−メチルメトキシプロピオネート、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン等が挙げられる。
【0051】
これらの溶剤は、単独で又は2種以上併用して用いることができる。また(e)溶剤の量は特に制限はないが、一般に組成物中溶剤の割合が20〜90重量%となるように調整される。
【0052】
本発明においては、さらに(a)成分のアルカリ水溶液に対する溶解性を阻害する化合物を含有させることができる。具体的には、ジフェニルヨードニウムニトラート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムニトラート、ジフェニルヨードニウムブロマイド、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヨーダイト等である。
【0053】
これらは、残膜厚や現像時間をコントロールするのに役立つ。上記成分の配合量は、感度と現像時間の許容幅の点から、上記(a)成分100重量部に対して0.01〜15重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.05〜3重量部が、さらに好ましい。
【0054】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、硬化膜の基板との接着性を高めるために、有機シラン化合物、アルミキレート化合物等を含むことができる。有機シラン化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、尿素プロピルトリエトキシシラン、メチルフェニルシランジオール、エチルフェニルシランジオール、n−プロピルフェニルシランジオール、イソプロピルフェニルシランジオール、n−ブチルシフェニルシランジオール、イソブチルフェニルシランジオール、tert−ブチルフェニルシランジオール、ジフェニルシランジオール、エチルメチルフェニルシラノール、n−プロピルメチルフェニルシラノール、イソプロピルメチルフェニルシラノール、n−ブチルメチルフェニルシラノール、イソブチルメチルフェニルシラノール、tert−ブチルメチルフェニルシラノール、エチルn−プロピルフェニルシラノール、エチルイソプロピルフェニルシラノール、n−ブチルエチルフェニルシラノール、イソブチルエチルフェニルシラノール、tert−ブチルエチルフェニルシラノール、メチルジフェニルシラノール、エチルジフェニルシラノール、n−プロピルジフェニルシラノール、イソプロピルジフェニルシラノール、n−ブチルジフェニルシラノール、イソブチルジフェニルシラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール、フェニルシラントリオール、1,4−ビス(トリヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(メチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(エチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(プロピルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ブチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジメチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジエチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジプロピルドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジブチルヒドロキシシリル)ベンゼン等が挙げられる。アルミキレート化合物としては、例えば、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウム、アセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。これらの密着性付与剤を用いる場合は、(a)成分100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、0.5〜10重量部がより好ましい。
【0055】
また、本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、塗布性、例えばストリエーション(膜厚のムラ)を防いだり、現像性を向上させたりするために、適当な界面活性剤あるいはレベリング剤を添加することができる。このような界面活性剤あるいはレベリング剤としては、例えば、ポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等があり、市販品としては、メガファックスF171、F173、R−08(大日本インキ化学工業株式会社製商品名)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム株式会社商品名)、オルガノシロキサンポリマーKP341、KBM303、KBM403、KBM803(信越化学工業株式会社製商品名)等が挙げられる。
【0056】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、支持基板上に塗布し乾燥する被膜形成工程、露光・現像するパターン形成工程、及び、マイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射する閉環工程を経て、ポリオキサゾールのパターンとすることができる。
【0057】
本発明のパターン製造法は、上記マイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を支持基板上に塗布し乾燥する被膜形成工程と、上記被膜形成工程で得られた被膜を露光後、現像液を用いて現像するパターン形成工程と、上記パターン形成工程で得られたパターン中のポリアミドの開環構造を脱水閉環させてポリオキサゾールに変化させる閉環工程とを含むことを特徴とする。
【0058】
支持基板上に塗布し乾燥する被膜形成工程では、ガラス基板、半導体、金属酸化物絶縁体(例えばTiO2、SiO2等)、窒化ケイ素などの支持基板上に、この感光性樹脂組成物をスピンナーなどを用いて回転塗布後、ホットプレート、オーブンなどを用いて乾燥する。
【0059】
次いで、パターン形成工程では、露光は、支持基板上で被膜となった感光性樹脂組成物に、マスクを介して紫外線、可視光線、放射線などの活性光線を照射する。現像は、露光部を現像液で除去することによりパターンが得られる。現像液としては、例えば、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,ケイ酸ナトリウム,アンモニア,エチルアミン,ジエチルアミン,トリエチルアミン,トリエタノールアミン,テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ水溶液が好ましいものとして挙げられる。これらの水溶液の塩基濃度は、0.1〜10重量%とされることが好ましい。さらに、上記現像液にアルコール類や界面活性剤を添加して使用することもできる。これらはそれぞれ、現像液100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部の範囲で配合することができる。
【0060】
このようにして、支持基板上で被膜となった本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を露光、つづいて現像した後、後述するが如く、マイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射してポリアミドを脱水閉環すれば、マイクロ波による低温での脱水閉環プロセスによっても熱拡散炉を用いた高温での脱水閉環膜の物性と差がないようなポリオキサゾールが得られる。
【0061】
前述のように、マイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射した場合は定在波を防ぐことができ、基板面を均一に加熱することができる点で好ましい。また、基板として後述する電子部品のように金属配線を含む場合、マイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射すると金属からの放電等の発生を防ぐことができ、電子部品を破壊から守ることができる点で好ましい。
【0062】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中のポリアミドを脱水閉環させる際に照射するマイクロ波の周波数は0.5〜20GHzの範囲であるが、実用的には1〜10GHzの範囲であり、さらに2〜9GHzの範囲がより好ましい。
【0063】
照射するマイクロ波の周波数は連続的に変化させることが望ましいが、実際は周波数を階段状に変化させて照射する。その際、単一周波数のマイクロ波を照射する時間はできるだけ短い方が定在波や金属からの放電等が生じにくく、その時間は1ミリ秒以下が好ましく、100マイクロ秒以下が特に好ましい。
【0064】
照射するマイクロ波の出力は装置の大きさや被加熱体の量によっても異なるが、概ね10〜2000Wの範囲であり、実用上は100〜1000Wがより好ましく、100〜700Wがさらに好ましく、100〜500Wが最も好ましい。出力が10W以下では被加熱体を短時間で加熱することが難しく、2000W以上では急激な温度上昇が起こりやすい。
【0065】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中のポリアミドを脱水閉環する温度は、先に述べたとおり、脱水閉環後のポリオキサゾール薄膜や基材へのダメージを避けるためにも低い方が好ましい。本発明において脱水閉環する温度は300℃未満が好ましく、250℃未満がさらに好ましく、210℃未満が最も好ましい。なお、基材の温度は赤外線やGaAsなどの熱電対といった公知の方法で測定する。
【0066】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中のポリアミドを脱水閉環させる際に照射するマイクロ波は、パルス状に「入/切」を繰り返して照射することが好ましい。マイクロ波をパルス状に照射することにより、設定した加熱温度を保持することができ、また、ポリオキサゾール薄膜や基材へのダメージを避けることができる点で好ましい。パルス状のマイクロ波を1回に照射する時間は条件によって異なるが、概ね10秒以下である。
【0067】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中のポリアミドを脱水閉環させる時間は、脱水閉環反応が十分進行するまでの時間であるが、作業効率との兼ね合いから概ね5時間以下である。また、脱水閉環の雰囲気は大気中、または窒素等の不活性雰囲気中いずれを選択することができる。
【0068】
このようにして、本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を層として有する基材に、前述の条件でマイクロ波を照射して本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物中のポリアミドを脱水閉環すれば、マイクロ波による低温での脱水閉環プロセスによっても熱拡散炉を用いた高温での脱水閉環膜の物性と差がないポリオキサゾール膜が得られる。
【0069】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、半導体装置や多層配線板等の電子部品に使用することができ、具体的には、半導体装置の表面保護膜や層間絶縁膜、多層配線板の層間絶縁膜等の形成に使用することができる。本発明の半導体装置は、上記組成物を用いて形成される表面保護膜や層間絶縁膜を有すること以外は特に制限されず、様々な構造をとることができる。
【0070】
本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を用いた半導体装置の製造工程の一例を以下に説明する。図1は多層配線構造の半導体装置の製造工程図である。上から下に向かって、第1の工程から第5の工程へと一連の工程を表している。図1において、回路素子を有するSi基板等の半導体基板は、回路素子の所定部分を除いてシリコン酸化膜等の保護膜2で被覆され、露出した回路素子上に第1導体層が形成されている。上記半導体基板上にスピンコート法等で層間絶縁膜としてのポリイミド樹脂等の膜4が形成される(第1の工程)。
【0071】
次に、塩化ゴム系、フェノールノボラック系等の感光性樹脂層5が上記層間絶縁膜4上にスピンコート法で形成され、公知の写真食刻技術によって所定部分の層間絶縁膜4が露出するように窓6Aが設けられている(第2の工程)。上記窓6Aの層間絶縁膜4は、酸素、四フッ化炭素等のガスを用いるドライエッチング手段によって選択的にエッチングされ、窓6Bがあけられている。ついで窓6Bから露出した第1導体層3を腐食することなく、感光樹脂層5のみを腐食するようなエッチング溶液を用いて感光樹脂層5が完全に除去される(第3の工程)。
【0072】
さらに公知の写真食刻技術を用いて、第2導体層7を形成させ、第1導体層3との電気的接続が完全に行われる(第4の工程)。3層以上の多層配線構造を形成する場合は、上記の工程を繰り返して行い各層を形成することができる。
【0073】
次に表面保護膜8が形成される。この図の例では、この表面保護膜を上記感光性樹脂組成物をスピンコート法にて塗布、乾燥し、所定部分に窓6Cを形成するパターンを描いたマスク上から光を照射した後、アルカリ水溶液にて現像してパターンを形成する。そして、その後、加熱してポリオキサゾール膜8とする(第5の工程)。このポリオキサゾール膜は、導体層を外部からの応力、α線などから保護するものであり、得られる半導体装置は信頼性に優れる。
【0074】
本発明では、従来は300℃以上を必要としていた上記のポリオキサゾール膜にする加熱工程において、250℃未満の低温の加熱を用いて脱水閉環が可能である。250℃未満の脱水閉環においても、本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は脱水閉環反応が十分に起きることから、その膜物性(伸び、ガラス転移温度、重量減少温度等)が300℃以上で硬化したときに比べて遜色ないものとなる。したがって、プロセスが低温化できることから、デバイスの熱による欠陥を低減でき、信頼性に優れた半導体装置を高収率で得ることができる。なお、上記例において、層間絶縁膜を本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物を用いて形成することも可能である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0076】
〈合成例1〉ポリアミドの合成
攪拌機、温度計を備えた0.5リットルのフラスコ中に、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸15.48g、N−メチルピロリドン90gを仕込み、フラスコを5℃に冷却した後、塩化チオニル12.64gを滴下し、30分間反応させて、4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸クロリドの溶液を得た。次いで、攪拌機、温度計を備えた0.5リットルのフラスコ中に、N−メチルピロリドン87.5gを仕込み、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン18.30gを添加し、攪拌溶解した後、ピリジン8.53gを添加し、温度を0〜5℃に保ちながら、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロリドの溶液を30分間で滴下した後、30分間攪拌を続けた。溶液を3リットルの水に投入し、析出物を回収、純水で3回洗浄した後、減圧乾燥してポリヒドロキシアミド(ポリベンゾオキサゾール前駆体)を得た(以下、ポリマーIとする)。ポリマーIのGPC法標準ポリスチレン換算により求めた重量平均分子量は14580、分散度は1.6であった。
【0077】
〈合成例2〉ポリアミドの合成
合成1で使用した4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸の20mol%をシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸に置き換えた以外は合成例1と同様の条件にて合成を行った。得られたポリヒドロキシアミド(以下、ポリマーIIとする)の標準ポリスチレン換算により求めた重量平均分子量は18580、分散度は1.5であった。
【0078】
〈合成例3〉ポリアミドの合成
合成1で使用した2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの20mol%を2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンに置き換えた以外は合成例1と同様の条件にて合成を行った。得られたポリヒドロキシアミド(以下、ポリマーIIIとする)の標準ポリスチレン換算により求めた重量平均分子量は15640、分散度は1.6であった。
【0079】
〈実施例1〜6〉マイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物の調製と特性評価
上記ポリアミド[(a)成分]100重量部に対し、感光剤である成分(b)、フェノール性水酸基を有する化合物(c)、溶剤(d)を表1に示した所定量にて配合し、さらに接着助剤として尿素プロピルトリエトキシシランの50%メタノール溶液10重量部を配合した。この溶液を3μm孔のテフロン(登録商標)フィルタを用いて加圧ろ過して、感光性樹脂組成物の溶液(M1〜M6)を得た。表中の(b)成分、(c)成分は、下記構造式のものを使用した。また、(e)成分であるE1とは、γ−ブチロラクトン/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=90/10(重量部)である。
【0080】
【表1】

【0081】
【化9】

【0082】
上記溶液(M1〜M6)をシリコン基板上にスピンコートして、120℃で3分間加熱し、膜厚11〜13μmの塗膜を形成した。その後、i線ステッパー(キャノン製FPA−3000iW)を用いてマスクを介してi線(365nm)での縮小投影露光を行った。露光後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの2.38%水溶液にて現像を行い、残膜厚が初期膜厚の70〜90%程度となるように現像を行った。その後、水でリンスしパターン形成に必要な最小露光量と解像度を求めた。結果を下記表2に記す。
【0083】
【表2】

【0084】
さらに、上記溶液(M1〜M6)をシリコン基板上にスピンコートして、120℃で3分間加熱し、膜厚13μmの塗膜を形成した。その後、上記塗膜をラムダテクノロジー社製Microcure2100を用い、マイクロ波出力450W、マイクロ波周波数5.9〜7.0GHz、温度200℃、2時間で脱水閉環し、膜厚約10μmのポリオキサゾール膜を得た。次に、このポリオキサゾール膜をシリコン基板から剥離し、剥離膜のガラス転移温度(Tg)をセイコーインスツルメンツ社製TMA/SS600で測定した。また、剥離膜の平均破断伸度(El)を島津製作所製オートグラフAGS−H100Nによって測定した。さらに、剥離膜の5%重量減少温度(Td)をセイコーインスツルメンツ社製TG−DTA6300で測定した。これらの結果を下記表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
〈対照例1〜6〉
上記表1の感光性樹脂組成物(M1〜M6)をシリコン基板上にスピンコートして、120℃で3分間加熱し、膜厚15μmの塗膜を形成した。この塗膜を光洋サーモシステムズINH−9CD−Sを用い、窒素中、温度200℃または250℃、1時間で脱水閉環し、膜厚約10μmのポリオキサゾール膜を得た。このポリオキサゾール膜のTg、El、および、Tgを実施例1〜6と同様に測定し、その結果を上記表3に併記した。
【0087】
実施例1〜6と対照例1〜6から明らかなように、感光性樹脂組成物(M1〜M6)において、マイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射して200℃でポリアミドの脱水閉環を行ったポリキサゾール膜のTg、El、および、Td5は、250℃で熱拡散炉を用いて脱水閉環した膜の値と比較して差がないことが確認された。一方、200℃で熱拡散炉を用いて脱水閉環した膜ではTg、El、および、Td5が大きく低下することがわかった。したがって、250℃未満で周波数を変えながらマイクロ波をパルス状に照射して脱水閉環を行うと、熱拡散炉を用いて250℃以上で脱水閉環した膜の物性と差がないことが確認された。
【0088】
〈実施例7〜8〉金属配線に対するマイクロ波照射方法の影響
図2は、櫛形銅配線(厚さ5μm、線幅20μm、間隔20μm)を形成した基板の平面構成図である。図3は、図2に表す基板の断面を拡大した要部断面図である。この基板は、SiO2絶縁膜12で覆われたシリコン基板10上に銅配線9が形成され、さらにその上に感光性樹脂膜11で覆われている構造を有する。図2に示す基板上に上記溶液(M1〜M2)をスピンコートして、120℃で3分間加熱し、膜厚13μmの塗膜を形成した。その後、この塗膜をラムダテクノロジー社製Microcure2100を用い、マイクロ波出力450W、マイクロ波周波数5.9〜7.0GHz、温度200℃、2時間で脱水閉環し、膜厚約10μmのポリオキサゾール膜を得た。この基板について、銅配線やポリオキサゾール膜の状態を光学顕微鏡で観察した。また、配線間の絶縁性も確認した。その結果を下記表4に示す。
【0089】
〈対照例7〜8〉
実施例と同様にして、櫛形銅配線に上記溶液(M1〜M2)の塗膜を形成した。その後、この塗膜をスーパーウェーブ社製SUPERTHERM−1Mを用い、マイクロ波出力500W、マイクロ波周波数2.45GHz、温度200℃、1時間で脱水閉環し、膜厚約10μmのポリオキサゾール膜を得た。この基板について、実施例7〜8と同様に銅配線とポリオキサゾール膜の状態を光学顕微鏡で観察した。また、配線間の絶縁性も確認した。その結果を下記表4に合わせて示す。
【0090】
【表4】

【0091】
実施例7〜8では、図2および図3に示すような櫛形銅配線基板上に形成した本発明の感光性樹脂組成物をマイクロ波の周波数を変化させながらパルス状に照射してポリアミドの脱水閉環を行った。マイクロ波照射後に基板の顕微鏡観察を行ったところ、ポリオキサゾール膜や基板へのダメージはないことを確認した。さらに銅配線間の絶縁も保たれていることがわかった。いっぽう、比較例7〜8ではマイクロ波を一定の周波数で照射してポリアミドの脱水閉環を行った。マイクロ波照射後に基板の顕微鏡観察を行ったところ、膜の一部が黒変していることが確認された。また、銅配線間で導通していることも確認された。
【0092】
〈対照例9〉
実施例4と同様に、上記溶液(M4)をシリコン基板上にスピンコートして、120℃で3分間加熱し、膜厚15μmの塗膜を形成した。その後、この塗膜をスーパーウェーブ社製SUPERTHERM−1Mを用い、マイクロ波出力500W、マイクロ波周波数2.45GHz、温度200℃、1時間で脱水閉環し、膜厚約10μmのポリオキサゾール膜を得た。このポリオキサゾール膜は実施例4で得られる塗膜と比較すると外観が黒く、また、膜が脆いためシリコン基板から剥離してTgやElを測定することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物は、基材上に設けられたポジ型感光性樹脂組成物からなる層に、マイクロ波を照射して、硬化膜を低温で形成するプロセスに用いるポジ型感光性樹脂組成物に適している。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】多層配線構造の半導体装置の製造工程図である。
【図2】実施例7、8および対照例7、8で用いた櫛形銅配線(厚さ5μm、線幅20μm、間隔20μm)を形成した基板の平面構成図である。
【図3】図2に表す基板の断面を拡大した要部断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1 半導体基板
2 保護膜
3 第1導体層
4 層間絶縁膜層
5 感光樹脂層
6A、6B、6C 窓
7 第2導体層
8 表面保護膜層
9 銅配線
10 シリコン基板
11感光性樹脂膜
12 SiO2絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜された後、マイクロ波の照射により、ポジ型の硬化膜となるマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物であって、
下記(a)一般式(I)
【化1】

(式中、Uは4価の有機基を示し、Vは2価の有機基を示す)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドと、
(b)o−キノンジアジド化合物と、
を少なくとも含むことを特徴とするマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(c)フェノール性水酸基を有する化合物、及び(d)溶剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)成分が、下記一般式(II)
【化2】

(式中、Xは単結合又は2価の有機基を示し、R3〜R6は各々独立に水素原子または一価の有機基を示し、m及びnは各々独立に1〜3の整数であり、p及びqは各々独立に0〜4の整数である)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(II)中、Xで表される基が、下記一般式(III)
【化3】

(式中、2つのAは各々独立に水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基であり、酸素原子、フッ素原子を含んでいても良い)で表される基であることを特徴とする請求項3記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(a)成分100重量部に対して、(b)成分5〜100重量部を配合してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項6】
(a)成分100重量部に対して、(b)成分5〜100重量部、(c)成分1〜30重量部を配合してなることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記マイクロ波の照射として、その周波数を変化させながらパルス状に照射した場合に、前記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するアルカリ水溶液可溶性のポリアミドの脱水閉環が、250℃未満の温度にて実現されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロ波硬化用ポジ型感光性樹脂組成物をマイクロ波照射により硬化させてなる層を有してなる電子デバイスを有する電子部品であって、前記電子デバイス中の前記層が層間絶縁膜層及び/又は表面保護膜層として設けられていることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−30413(P2006−30413A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206499(P2004−206499)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(398008295)日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】