説明

マグネシウム合金板の製造方法およびマグネシウム合金板

【課題】 安価で、脱脂工程が不要で安価に製造でき、且つ美麗なマグネシウム合金板の製造方法、およびプレス加工用マグネシウム合金を提供する。
【解決手段】 マグネシウム合金板を、特定の温度範囲で飛散性を有する潤滑油を用い、圧延温度が室温〜350℃の範囲で、圧延率が0.5〜40%の範囲で、冷間圧延または温間圧延を行った後、150〜400℃の温度範囲で熱処理を行う。また、プレス加工用マグネシウム合金板としては、上記圧延方法で得られたマグネシウム合金板に特定の温度範囲で飛散性を有する潤滑油表面に塗布してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工用のマグネシウム合金板の製造方法、およびプレス加工用に用いられるマグネシウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、展伸用マグネシウム合金板は、厚み数mm〜数十mmの鋳造スラブ、あるいは押し出しによる厚板を繰り返し熱処理、熱間圧延、温間圧延することにより薄板とされている。このように繰り返し熱処理、熱間圧延、温間圧延等を施されて製造される薄マグネシウム合金板は、室温〜温間域以下の温度、すなわち冷間では塑性加工性が劣り、一般には温間成形法と呼ばれる再結晶温度以上でプレス加工される成形法に限られている。そのため、経済性の点でも割高であり、広く使用されるに至ってない。
【0003】
近年、マグネシウム合金は、Alよりも比重が小さく、比剛性が高く、また、軽量化できることから安価であるため、成形性に優れたマグネシウム合金板の要求が高まっていて、マグネシウム合金のプレス成形性を向上させる種々の方法が提案されている(たとえば、特許文献1〜4)。特許文献1は、希土類金属、ジルコニウム、亜鉛を含有するMg合金を180〜230℃で、総圧下率40〜70%の温間圧延することにより温間でのプレス成形性を改善したものが示されている。また特許文献2〜3はマグネシウムにリチウムを添加し、hcp構造のα相中にbcc構造のβ相を1部生成させるあるいはβ単相にすることにより、あるいはα相を球状化させることにより、冷間における延性や曲げ加工性を改善しているが、リチウムは活性な金属であるため工業的に大量に取り扱うには安全上問題があるばかりでなく、高価でマグネシウムの耐食性を著しく低下させる問題点がある。
【0004】
このような問題点を解決するものとして、本発明者らは、Al、Zn、Mnを含有するMg合金板を圧延率5〜35%の範囲で冷間圧延した後、200〜450℃で熱処理を行ない、X線回折でのX線強度比[(0002)面のX線強度]/[(101(上バー)1)面のX線強度]が1.0〜3.5であり、圧延方向に対して平行方向及び直角方向の降伏強度が100〜300MPaであり、結晶粒径が3〜100μmの展伸用マグネシウム薄板を提供した(特許文献4参照)。該展伸用マグネシウム薄板は、従来のようなリチウムを添加しなくても、冷間加工性を向上させることができ、上記問題点を解決するものであった。一方、展伸用マグネシウム合金板は、鋳造スラブあるいは押し出しにより得られた厚板を、繰り返し熱処理、熱間圧延、温間圧延することにより薄板とされるが、圧延後のマグネシウム合金板表面には圧延油が残るため、圧延した後、直接熱処理することができなかった。このため、圧延油を除去する工程(脱脂工程)が熱処理前に必要となり、さらに高価な材料となってしまう問題があった。また、繰り返し行なわれる圧延時、マグネシウムが圧延ロールに付着して、マグネシウム合金板の表面外観に悪影響を与える問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−293944号公報
【特許文献2】特開平6−25788号公報
【特許文献3】特開2000−87199号公報
【特許文献4】2004−107712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、マグネシウム合金板の冷間圧延または温間圧延後、熱処理前に圧延油を除く脱脂工程が不要で、すぐに熱処理が可能であり、且つ熱処理後の焼き付きや残渣がなく、安価で、表面仕上げ及びプレス成形性に優れたマグネシウム合金板を得ることができるマグネシウム合金板の製造方法及びマグネシウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決する本発明のマグネシウム合金板の製造方法は、マグネシウム合金板に、特定温度範囲で飛散性を有する圧延油を用いて、圧延温度が室温〜350℃の範囲で、圧延率が0.5〜40%の範囲で、冷間圧延または温間圧延を行うことを特徴とするものである。
このようにして得られたマグネシウム合金板は、加熱により表面の圧延油が飛散するため、圧延後の脱脂工程が不要となり、そのままの状態で熱処理ができ、従来に比べ安価に製造できる。
請求項2記載のマグネシウム合金板の製造方法は、マグネシウム合金板に、圧延温度が室温〜350℃の範囲で、圧延率が0.5〜40%の範囲で、冷間圧延または温間圧延を行った後、150〜400℃の温度範囲で熱処理を行うことを特徴とする。熱処理を行なうことにより、ひずみの回復、再結晶が生じ、結晶配向が適切な状態となり加工性が改善される。熱処理温度は、より好ましくは250℃の範囲であり、熱処理することによって圧延油が焼き付きを起さず、分解し残渣のないマグネシウム合金板が得られる。熱処理は、冷間圧延後又は温間圧延後でもよく、成形加工工場でのプレス成形前に行なってもよい。
前記冷間圧延または温間圧延で使用する圧延油は、ポリブテン、アルキルベンゼン及びイソパラフィンの少なくとも1種以上からなる基油50〜98wt%に、油性剤としてアルキルアルコール、エステル及び脂肪酸が2〜50wt%からなる圧延油であることが望ましい(請求項3)。該圧延油は、150〜400℃の温度範囲で飛散性を有し、圧延時にあるいは熱処理時に分解するため、焼き付きを起さず、かつその後の脱脂工程も不要である。
【0008】
本発明のマグネシウム合金板は、ポリブテン、アルキルベンゼン及びイソパラフィンの少なくとも1種以上からなる基油50〜98wt%に、油性剤としてアルキルアルコール、エステル及び脂肪酸が2〜50wt%からなる圧延油を表面に有することを特徴とする。圧延工程後に熱処理をせずに、そのまま前記成分の圧延油が表面に残存する状態で、あるいはさらに同成分の圧延油を塗布した状態でプレス加工に供することによって、プレス加工までの表面保護とプレス成形時の潤滑効果を高め、プレス加工後の加熱により圧延油は飛散し、美麗なプレス加工品が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマグネシウム合金板の製造方法は、スラブあるいはビレットの押出材を従来の加工用潤滑油を用いての温間圧延、熱処理の工程で製造される市販材に比べて、圧延油を除く脱脂工程が不要なため、安価に製造でき、かつ、圧延ロールに付着したマグネシウムがマグネシウム合金板に再付着せず、圧延油の焼き付きがないため、外観仕上げに優れる方法である。また、該マグネシウム合金板がプレス加工に供される場合は、熱処理を行うことなく前記圧延油を表面に残存させるか、あるいは必要に応じ前記圧延油を塗布しプレス加工を行う。プレス加工後の加熱により、前記圧延油は飛散し、美麗なプレス加工品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記した本発明のマグネシウム合金板の製造方法に用いるマグネシウム合金板は、成分として、Alを1.5〜2.4重量%、Znを0.5〜1.5重量%、Mnを0.05重量%以上を含有し、残部がMg及び不可避の不純物からなるもの、あるいはAlを2.5〜3.5重量%、Znを0.5〜1.5重量%、Mnを0.2重量%以上を含有し、残部がMg及び不可避の不純物からなるもの、さらにはAlを5.5〜6.5重量%、Znを0.22重量%以下、Mnを0.24〜0.6重量%を含有し、残部がMg及び不可避の不純物からなるものが使用でき、特に限定されるものではない。
【0011】
以上の組成を持ったマグネシウム合金のビレットを押し出す。押し出し条件としては、押し出し温度の範囲が350〜500℃、押し出し速度が1〜100m/分、押し出し比50以上、望ましくは100以上、厚みが0.3〜2.5mmの範囲が望ましい。
【0012】
このように押し出したマグネシウム合金板を圧延後の板厚が0.05〜2mmの範囲になるように、冷間圧延または温間圧延を施す。その圧延率は、0.5〜40%の範囲が好ましい。0.5%未満では押出し時の表面疵の解消ができず、40%を越えると加工性が悪化する。圧延する温度は室温〜350℃の範囲が望ましい。350℃を超えると圧延油がすぐに分解し、圧延油としての効果がなくなる。室温未満では、冷却装置が更に必要となり好ましくない。圧延後、熱処理を150〜400℃の範囲で行う。
圧延油として、ポリブテン、ポリアクリレート等のジッピングポリマーやアルキルベンゼン及びイソパラフィンの少なくとも1種以上からなる基油50〜98wt%に、油性剤としてアルキルアルコール、エステル及び脂肪酸が2〜50wt%からなる圧延油を用いることが望ましい。本発明のポリブテン、ポリアクリレート、アルキルベンゼン、イソパラフィンの1種以上を基油として50〜98重量%用いる。
【0013】
具体的には、平均分子量300〜4,000、動粘度(100℃)2.7〜5,700cstのポリブテン、平均分子量30,000〜60,000、動粘度(160℃)20,000〜157,000cstのポリイソブチレン、平均分子量50,000〜300,000、動粘度(100℃)500〜2000cstのポリアクリレート、ポリメタアクリレート、動粘度(40℃)20cst以下のアルキルベンゼン、イソパラフィンの1種以上を基油として用いる。平均分子量が小さく、動粘度の低いポリブテンや動粘度の低いアルキルベンゼン及びイソパラフィンは、平均分子量が大きく、動粘度の高いポリブテン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートを混合することが効果的である。混合した基油の動粘度(40℃)は20〜400cstであることで使用出来るが、40〜300cstが好ましい。即ち、それ以下の動粘度では加温(50〜150℃)された工具あるいはロールへの付着性が悪く、潤滑油膜が薄くなり効果的でない。また、それ以上の動粘度では作業性が悪く、被加工材の温度が比較的低い場合、残渣が残りステイン性が悪くなる。
【0014】
油性剤としてはアルキルアルコール、エステル、油脂等を2〜50重量%用いる。
具体的には、アルキルアルコールとして炭素数6〜20のアルキルアルコール、即ち、直鎖状及び分岐状のへキシルアルコール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール等が挙げられる。
エステルは脂肪酸とアルコールから合成されるエステルであり、脂肪酸としては炭素数12〜18一塩基酸、アルコールとしては一価又は多価アルコールが挙げられ、具体的にはステアリン酸ブチル、パルミチン酸エチルヘキシル、オレイン酸ブチル、イソステアリン酸ブチルカルビトール、ネオペンチルグリコールオレイン酸エステル、トリメチロールプロパンラウリン酸エステル、トロメチロールプロパンオレイン酸エステル、ペンタエリスリトールオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0015】
脂肪酸としては炭素数10〜18の直鎖状、分岐状及び飽和、不飽和脂肪酸であり、具体的にはラウリン酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の一塩基酸、セバシン酸、ダイマー酸等の二塩基酸が挙げられる。
供給方法として、潤滑剤組成物の原液をスプレー塗布、ハケ塗り及びローラー塗布により、加温(50〜150℃)した圧延ロール及び工具に直接供給する。圧延の場合は、ロール入側に連続供給する。供給量は必要に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
これらの圧延油は、従来のパーム油と異なり、圧延時あるいは熱処理時に水分と二酸化炭素に分解するため、その後の圧延油を除く脱脂工程が不要となる。また、これらの圧延油は、パーム油を使った場合に発生する焼き付きを起こさないので、焼き付きによる外観不良がない。更に、パーム油を使った場合に発生した圧延時のマグネシウム付着、それに起因する表面キズは、この本発明の圧延油の適用により発生しなかった。
【0017】
圧延を行った後、加工性改善等のため熱処理を行う。熱処理温度は、200〜350℃の範囲が好ましい。この熱処理において、圧延油が焼き付きを起こさず、分解し、マグネシウム合金板は、ひずみの回復、再結晶が生じる。
【0018】
このように方法で製造したマグネシウム合金板は、パーム油を使った場合に比較して表面キズが少なく加工性、外観が優れる。
【実施例】
【0019】
本発明について、さらに、以下の実施例を参照して具体的に説明する。
(実施例1)
Al:3.0重量%、Zn:0.9重量%、Mn:0.10重量%、残部:Mg及び不可避の不純物からなる組成を有するビレットを、温度400℃、押し出し速度5m/分の条件で押し出しを行い、板厚を1.60mmとした。更に得られた材料を、各実施例、比較例において、表1に示す圧延油を使用し、且つ表1に示す圧延条件で温間圧延または冷間圧延を行い、250〜350℃において、それぞれ熱処理を行い、板厚0.8mmのマグネシウム合金板を得た。なお、表1に示す圧延油において、PB−Aは平均分子量が300のモリブテンを、PB−Bは平均分子量が430のポリブテンを、PB−Cは平均分子量が1400のポリブテンを、PB−Dは平均分子量が60,000ポリイソブチレンを示す。
【0020】
上記のように、作製したマグネシウム合金の特性を評価した。製造条件を表1に示し、評価結果を表2に示す。なお、比較例2は、パーム油を使って圧延、または、圧延後、熱処理して製造されたマグネシウム合金板である。評価方法は下記に示す通りである。
【0021】
[温間張出し高さの評価]
張出し高さは、エリクセン試験機により、マグネシウム合金板を張出しを行い、250℃で破断する前の最大張出し高さ(mm)を求めた。
【0022】
[焼き付き性及び残渣の評価]
熱処理後の焼き付き性及び残渣を肉眼で判定した。焼き付き及び残渣がない場合を良好(表2では○で表示)と、焼き付きまたは残渣がある場合を不良(表2では×で表示)と表した。
[圧延後の表面疵の評価]
圧延後の表面疵を肉眼で判定した。表面疵がない場合を良好(表2では○で表示)と、表面疵が著しく発生した場合を不良(表2では×で表示)と表した。
【0023】
評価結果を表2に示す。表2に示すように、本発明のマグネシウム合金板は本発明の範囲外で製造したマグネシウム合金板と比べて、張出し加工性及び外観に優れ、焼き付き性及び残渣が認められなかった。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のマグネシウム合金板の製造方法で製造したマグネシウム合金板は、張出し加工性及び外観に優れ、焼き付き性及び残渣が認められなく、美麗なマグネシウム合金板として種々の加工に適用できる。また塗油マグネシウム合金板をプレス加工後、加熱処理することにより美麗なプレス加工品が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金板に、特定温度範囲で飛散性を有する圧延油を用いて、圧延温度が室温〜350℃の範囲で、圧延率が0.5〜40%の範囲で、冷間圧延または温間圧延を行うことを特徴とするマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項2】
請求項1のマグネシウム合金板の製造方法において、冷間圧延または温間圧延を行った後、150〜400℃の温度範囲で熱処理を行うことを特徴とするマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項3】
前記冷間圧延または温間圧延で用いる圧延油は、ポリブテン、アルキルベンゼン及びイソパラフィンの少なくとも1種以上からなる基油50〜98wt%に、油性剤としてアルキルアルコール、エステル及び脂肪酸が2〜50wt%からなる圧延油であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム合金板の製造方法。
【請求項4】
ポリブテン、アルキルベンゼン及びイソパラフィンの少なくとも1種以上からなる基油50〜98wt%に、油性剤としてアルキルアルコール、エステル及び脂肪酸が2〜50wt%からなる圧延油を表面に有することを特徴とするマグネシウム合金板。

【公開番号】特開2006−130527(P2006−130527A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321593(P2004−321593)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】