説明

マグネシウム合金粉体原料、高耐力マグネシウム合金、マグネシウム合金粉体原料の製造方法および高耐力マグネシウム合金の製造方法

【課題】 高い耐力と伸びとを両立させるMg合金を提供する。
【解決手段】 Mg合金粉体原料は、相対的に大きな結晶粒径を持つ出発原料粉末に対して、1対のロール間に通して圧縮変形またはせん断変形させる塑性加工を施して相対的に小さな結晶粒径としたものである。出発原料粉末は、熱処理によって微細な金属間化合物21を素地22中に析出・分散させているMg合金粉末である。塑性加工後のMg合金粉体中には、析出した金属間化合物21の周辺に加工歪22が存在している。塑性加工後のMg合金粉体の最大サイズが10mm以下、最小サイズが0.1mm以上であり、素地20を構成するMg粒子の最大結晶粒径が20μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金粉体原料およびこの粉体原料を用いて製造したマグネシウム合金並びにそれらの製造方法に関し、特に高い耐力と伸びを両立させるマグネシウム合金およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用金属材料の中で最も軽量であるマグネシウム(以下、Mgとする)合金は、その軽量化効果を活用してスポーツ用品、家電製品、航空・宇宙関連機器、その他の機械部品などに広く利用されている。一方、自動車部品などの高い信頼性が求められる製品・部材にMg合金を適用するには、更なる強度増加が必要である。特に部品設計上、重要な耐力の向上が強く求められており、同時に高い伸び(靱性)を実現させる必要がある。言い換えると、高い耐力と高い伸びとを実現することにより、現状の軽量素材であるアルミニウム合金との代替が可能となる。
【0003】
Mg合金の強度向上において、結晶粒の微細化や微細な金属間化合物の分散強化が有効であることは既に知られている。特に、Mg合金粉体を出発原料とし、それを圧粉・固化する製造方法は、溶解・鋳造法に比べて微細な組織を形成することが可能であり、高強度化においてはより有効な製造プロセスということができる。
【0004】
例えば、急冷凝固プロセスを利用した高強度Mg合金の製造方法が提案されているが、この方法は、以下の理由により、実用的なものではない。
【0005】
(A)高い強度は得られるが、伸びが数%程度と低い。
【0006】
(B)出発原料粉体の粒径が数十〜百ミクロン程度と小さいために、取り扱い過程での安全性の問題や、低歩留まりの問題があり、さらに高価な元素を添加することでコストアップを誘発するといった経済性の問題などがある。
【0007】
一方、Mg合金素材を切削加工した際に排出される切削粉体を出発原料とし、これを圧粉・固化してMg合金を製造する方法が種々、検討・提案されている。例えば、特開平2−182806号公報には、Mg合金切削粉体をホットプレスによって固化した後に押出加工する方法が記載され、特開平5−320715号公報には、Mg合金切削粉体を成形・押出加工する方法が記載されている。
【0008】
また、特開平5−306404号公報に記載の「マグネシウム合金製部材の製造方法」においては、T6熱処理(溶体化熱処理+時効熱処理)されたアルミニウム含有Mg合金粉体を圧粉成形した後に、押出加工する方法が提案されている。ここに開示された製法においては、適切量のアルミニウム(Al)を含むMg合金切削粉体を固化する際に、T6熱処理と押出加工の双方の効果を引き出すことで機械的特性に優れたMg合金製部材を創製することを特徴としている。T6熱処理の効果は、押出成形されたMg合金の素地中に微細な金属間化合物Mg17Al12を均一に分散することであり、押出加工の効果は、押出されたMg合金の素地を構成する結晶粒を微細化することである。その結果、例えば、ASTM規格で記載されている、Al:7.8〜9.2重量%、マンガン(Mn):0.12〜0.35重量%、亜鉛(Zn):0.2〜0.8重量%、Mg:残部、といった組成を有するAZ80マグネシウム合金をT6熱処理した後に作製した切削粉体を用いて、成形・押出加工を施して得られたMg合金は、常温での引張強さは382MPa、伸びは27%であり、他方、T6熱処理を施さない場合には引張強さは330MPa、伸びは15%と報告されており、引張強さの向上効果が見られる。
【特許文献1】特開平2−182806号公報
【特許文献2】特開平5−320715号公報
【特許文献3】特開平5−306404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特開平5−306404号公報に記載のMg合金製部材の製造方法において、押出材の耐力は、T6熱処理を行った場合には196MPaであり、T6熱処理を施さなかった場合には200MPaであることが報告されており、引張耐力の向上効果は認められない。この原因は、次のように考えられる。従来の溶解・鋳造法によって作製したMg合金の結晶粒(50〜700μm)と比較すれば、押出加工を施すことで再結晶が生じて結晶粒は微細化するが、その大きさはこれまでに開示されているデータなどを考慮すると、10〜20μm程度である。引張耐力を向上させるには、結晶粒をさらに微細化する必要がある。これまでの開示データに基づくと、例えば、1〜5μmあるいはそれ以下にまで微細化することが耐力向上に有効である。このような微細な結晶粒径を有するMg合金は、T6熱処理した切削粉体を圧粉・押出加工する製造方法だけでは到底、実現できない。
【0010】
またT6熱処理によって素地中に析出・分散した金属間化合物Mg17Al12を押出加工によって、さらに微細化する方法が提案されているが、押出加工による塑性変形によって微細化できるレベルにも限界があり、耐力を向上させるには、金属間化合物の更なる微細化と複数の金属間化合物の微細・均一分散が必要である。
【0011】
本発明の目的は、高い耐力と伸びとを両立させるマグネシウム合金およびその製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、上記のマグネシウム合金を製造するのに使用されるマグネシウム合金粉体原料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に従ったマグネシウム合金粉体原料は、相対的に大きな結晶粒径を持つ出発原料粉末に対して、1対のロール間に通して圧縮変形またはせん断変形させる塑性加工を施して相対的に小さな結晶粒径としたものであり、以下のことを特徴としている。すなわち、出発原料粉末は、熱処理によって微細な金属間化合物を素地中に析出・分散させているマグネシウム合金粉末である。塑性加工後のマグネシウム合金粉体中には、析出した金属間化合物の周辺に加工歪が存在している。塑性加工後のマグネシウム合金粉体の最大サイズが10mm以下、最小サイズが0.1mm以上である。塑性加工後のマグネシウム合金粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が20μm以下である。
【0014】
好ましくは、金属間化合物は、Mg17Al12,AlCa,MgSi,MgZn,AlRe(Re:希土類元素),Al11ReおよびAlMnからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物である。また、好ましくは、金属間化合物の最大粒子径が5μm以下であり、より好ましくは2μm以下である。
【0015】
好ましくは、マグネシウム合金粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下である。
【0016】
この発明に従った高耐力マグネシウム合金は、上記の特徴を有するマグネシウム合金粉体原料を圧粉成形した後に押出加工して得られたものであって、以下のことを特徴としている。すなわち、合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下であり、常温での引張耐力が250MPa以上である。
【0017】
好ましくは、マグネシウム合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が5μm以下であり、常温での引張耐力が350MPa以上である。
【0018】
好ましくは、マグネシウム合金の素地中に、Mg17Al12,AlCa,MgSi,MgZn,AlRe(Re:希土類元素),Al11ReおよびAlMnからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属間化合物が析出・分散している。
【0019】
好ましくは、マグネシウム合金は、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)およびチタン(Ti)からなる群から選ばれた活性金属元素を、重量基準で0.5%以上4%以下含有している。
【0020】
この発明に従ったマグネシウム合金粉体原料の製造方法は、出発原料粉末に対して塑性加工を施すことによって、該出発原料粉末の素地を構成するマグネシウム粒子の結晶粒径を微細化する方法であり、以下の特徴を備える。すなわち、出発原料粉末として、熱処理によって微細な金属間化合物を素地中に析出・分散させているマグネシウム合金粉末を準備する。塑性加工は、出発原料粉末を1対のロール間に通して圧縮変形またはせん断変形させて金属間化合物の周辺に加工歪を付与する塑性加工である。塑性加工を、粉体の最大サイズが10mm以下で最小サイズが0.1mm以上、かつ粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が20μm以下になるまで繰り返して行なう。
【0021】
一つの実施形態では、出発原料粉末としてのマグネシウム合金粉末を準備する工程は、鋳造法によってマグネシウム合金インゴットを作製することと、マグネシウム合金インゴットを溶体化処理し、続いて時効熱処理を行なってインゴットの素地中に微細な金属間化合物を析出・分散させることと、インゴットから機械加工によってマグネシウム合金粉体を取出すこととを含む。好ましくは、上記の塑性加工を行なう際に、投入する出発原料粉末の温度、およびこの出発原料粉末が接触するロールの表面温度を時効熱処理の温度以下にする。
【0022】
この発明に従った高耐力マグネシウム合金の製造方法は、上記の特徴を有するマグネシウム合金粉体原料を金型に充填した状態で加圧して圧粉成形体を得る工程と、マグネシウム合金圧粉成形体を150℃以上450℃以下の温度で加熱する工程と、加熱の終了後、直ちにマグネシウム合金圧粉成形体を押出加工してマグネシウム合金を製造する工程とを備える。
【0023】
好ましくは、マグネシウム合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下であり、常温での引張耐力が250MPa以上である。また、より好ましくは、マグネシウム合金圧粉成形体の加熱を200℃以上350℃以下の温度で行なう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態および作用効果を説明する。
【0025】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するために行われたものであり、熱処理によって微細な金属間化合物が素地中に析出・分散したマグネシウム合金粉体を出発原料粉末とし、これを1対のロール間に通して圧縮変形および/またはせん断変形させる塑性加工を施して微細な組織を有する粗大なMg合金粉体を作製し、これを圧粉・押出加工することで250〜350MPaを超える高い引張耐力を有するMg合金とその製造方法を提供しようとするものである。
【0026】
(1)出発原料粉体とその製造方法
Mgを主成分とし、この他にAl,Mn,Zn,Re(希土類元素),Ca,Siなど、金属間化合物を形成する元素と、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)およびチタン(Ti)からなる群から選ばれた活性金属元素を添加したMg合金インゴットを鋳造法によって作製する。このMg合金インゴットに公知のT6熱処理(溶体化熱処理+時効熱処理)を施すことにより、素地中に、各添加元素によって生成する微細な金属間化合物を析出・分散させる。析出・分散する金属間化合物は、例えば、Mg17Al12、AlCa、MgSi、MgZn、AlRe(Re:希土類元素)、Al11Re、AlMnなどである。これらの金属間化合物は、押出加工後のMg合金の素地においても均一に分散するので耐力の向上にも寄与する。また、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)などの活性金属元素を重量基準で0.5%以上4%以下含有することによってさらに強度を増加できる。
【0027】
熱処理条件は、添加する元素の種類およびその添加量によって異なるため、組織観察や硬さ測定(時効硬化曲線)などによって適切な条件を設定する必要がある。次に、Mg合金インゴットからフライスなどの機械・切削加工によって、0.1〜10mm程度の大きさの粉体を採取し、これを本発明の出発原料粉体とする。なお,粉体の粒径が0.1mmを下回ると発火し易くなるため、安全性の観点から0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上とした切削粉体を用いる。
【0028】
(2)マグネシウム合金粉体原料とその製造方法
上記のT6熱処理を施したMg合金粉体を出発原料粉末とし、これを図1に示すローラーコンパクタ装置に投入する。
【0029】
図1に示すローラコンパクタ装置は、ケース11と、このケース11内に配置された多段式ロール回転体12と、破砕装置13と、粉末温度・供給量制御システム14と、受台15とを備える。多段式ロール回転体12は、出発原料粉末に対して塑性加工を施す塑性加工部を構成するものであり、圧延加工を施す3組のロール対12a,12b,12cを有する。出発原料粉末は、対となったロール間を通過する際に、圧縮変形および/またはせん断変形する。
【0030】
出発原料粉末は、粉末温度・供給量制御システム14で所定の温度および所定の量に調整されてケース11内に投入される。ここで、所定の温度は、後述する時効熱処理の温度以下である。ケース11の内部は、粉末表面の酸化防止の観点から、不活性ガス雰囲気、非酸化性ガス雰囲気、または真空雰囲気に保たれる。また、多段式ロール回転体12の表面温度およびケース11内の雰囲気温度は、後述する時効熱処理の温度以下である。
【0031】
ロール対12cから送り出された粉体は、引き続いて破砕装置13によって破砕されて顆粒状粉体となる。この顆粒状粉体を再度粉末温度・供給量制御システム14に戻して、多段式ロール回転体12による塑性加工を繰り返してもよい。加工後の顆粒状粉体は、受台15に収容される。
【0032】
粉体を1対のロール間に通して圧縮変形および/またはせん断変形させる塑性加工を施すことにより、以下の組織制御を行なう。
【0033】
(a)図2に示すように、マグネシウム合金粉体20の素地中に析出・分散した金属間化合物粒子21の周辺に、より多くの加工歪22を付与する。この加工歪22は、塑性加工によって金属間化合物粒子21の周辺に導入・蓄積された双晶や転位などであり、透過電子顕微鏡(TEM)で観察すると筋状に見える。
【0034】
(b)塑性加工後の粉体の最大サイズが10mm以下、粉体の最小サイズが0.1mm以上となるようにする。
【0035】
(c)出発原料粉末のマグネシウムの結晶粒径に対して、相対的により小さいものとする。
【0036】
(d)粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径を20μm以下とする。
【0037】
なお、必要に応じて、ロールによる塑性加工を施したMg合金粉体原料を破砕・粉砕・整粒処理を行った後に、再度、同様の条件下でロールによる塑性加工を繰り返し行うことで、上記の本発明が規定する微細組織を有するMg合金粉体原料を創製する。
【0038】
先ず、(a)に関しては、ロール間に粉体を通すことで塑性加工を行なうと、粉末全体に加工歪が付与されるが、素地中に金属間化合物粒子が析出・分散するので、素地に比べて金属間化合物粒子の周辺に、より多くの加工歪が付与される。従って、この塑性加工を繰り返すことで、さらに多くの加工歪が金属間化合物粒子の周辺に蓄積する。本願の発明者らは、加工歪が多くなると、後工程である押出加工時に生じる動的再結晶の核生成サイトが多く生成され、従来のMg合金の製造方法では実現し得なかった、より微細な結晶粒を形成できることを見出した。
【0039】
この新たな知見に関して、特開平5−306404号公報においても類似の記述がされている。つまり、T6処理を施したAl含有Mg合金部材から切削加工により採取したMg合金粉体を、ホットプレスで圧粉成形した後、その成形体を押出加工することでMg合金製部材を作製する方法を提案している。しかしながら、ここで開示されている製造方法では、T6処理した切削Mg合金粉体に対して、本発明が提案しているような強塑性加工を強制的に付与しておらず、その結果、上述したような動的再結晶の核生成サイトを形成することがなく、微細な結晶粒は得られない。そして、例えば、T6熱処理を施したAZ80合金切削粉体を用いた場合におけるMg合金の引張耐力は、約200MPa程度と低い値を示している。また前述の通り、T6熱処理を施さないAZ80粉体を用いた場合の押出材の引張耐力も200MPaとなり、T6熱処理時と大差がないことから、本発明の特徴である、析出・分散粒子周辺に優先的に加工歪を蓄積させて、そこを動的再結晶の核生成サイトとする製造方法とは根本的に異なるものである。
【0040】
また本発明では、粉体に対して1対のロールによる塑性加工を繰り返して行なうことにより、ランダム(無秩序)な方向に加工歪が付与される。その結果、押出加工後のMg合金において結晶配向も無秩序となって伸びが向上する。つまり、通常の押出材では、Mgのすべり面である(0001)底面が押出方向に沿って配列することで伸びが低下するが、本発明の1対のロールによる塑性加工を施したMg合金粉体を押出加工した場合には、(0001)底面の他に、(10−10)柱面や(10−11)錐面といった非底面も押出方向にそって配列する。その結果、高い耐力に加えて高い伸びも有するMg合金を創製することができる。
【0041】
逆に、T6熱処理を施さないMg合金粉末に対して、ローラーコンパクタ装置により同様の塑性加工を施した場合、マグネシウム結晶粒の微細化は確認されるものの、T6熱処理を施した場合のような微細結晶は得られなかった。従って、本発明で用いる1対のロールを用いた塑性加工による結晶粒の微細化をより効果的に行なうためには、Mg合金粉体原料の素地中に金属間化合物粒子を析出・分散させておく必要がある。
【0042】
また金属間化合物粒子の大きさは、粒子周辺に蓄積する加工歪量と強い相関がある。金属間化合物の粒子径が小さいほど、より多くの加工歪を蓄積することでき、その結果、高い耐力を有するMg合金が得られる。具体的には、原料粉末の素地に析出・分散する金属間化合物の最大粒子径を5μm以下とすることで、250MPaを超えるような高い耐力を有するMg合金を得ることができる。なお、金属間化合物の最大粒子径を2μm以下とすると、さらに多くの加工歪を少ない塑性加工で蓄積することができる。その結果、高い耐力が得られるとともに、1対のロールでの塑性加工回数をより少なくした条件で微細な結晶粒と高い耐力を有するMg合金を製造することができるといった経済性の効果も得られる。
【0043】
従って、T6熱処理による微細な金属間化合物粒子を事前に素地中に析出・分散させたMg合金粉体を、1対のロールに通して塑性加工するといった製造方法が、本発明における微細な結晶粒を有する高耐力と高靱性を両立するMg合金を実現するための特徴である。
【0044】
次に、(b)に関して、1対のロールによる塑性加工後のMg合金粉体の最大サイズを10mm以下、また粉体の最小サイズを0.1mm以上とする。粉体の最大サイズが10mmを超えると、次工程である粉体の圧粉成形の際に粉末同士の結合性が低下したり、金型内に投入する際に金型のコーナー部へ充填されないために成形後の圧粉体の端部に欠損が生じるといった問題が生じる。一方、Mg合金粉体の最小サイズが0.1mmを下回ると、発火し易くなるために取り扱い上での安全性の問題が生じる。
【0045】
(c)および(d)に関して、1対のロールによる塑性加工を施すことにより、出発原料粉末のマグネシウムの結晶粒径に対して、相対的により小さい結晶粒を有するMg合金粉体を作製する。具体的には、1対のロールによる塑性加工後のMg合金粉体において、素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径を20μm以下とする。このようなMg合金粉末を圧粉成形・押出加工することで250MPaを超える耐力を有するMg合金が得られる。逆に、ロールによる塑性加工後の粉体のマグネシウム粒子の結晶粒径が20μmを超える場合には、そのようなMg合金粉体を用いて作製したMg合金では250MPaを超える高い耐力を得ることは困難である。なお、Mg合金において、さらに高い耐力、例えば350MPaを超えるような特性を得るには、1対のロールによる塑性加工後のMg合金粉体の素地結晶粒径を10μm以下とする必要がある。
【0046】
ロールによる塑性加工において、投入する出発原料粉末の温度、ならびに粉体が接触するロールの表面温度を後工程での時効熱処理温度以下とする必要がある。時効熱処理温度よりも高い温度で塑性加工を行なうと、過時効現象によって金属間化合物粒子の周辺に蓄積される加工歪量が減少し、押出加工時の動的再結晶が効果的に進行せず、その結果、微細な結晶粒を有する高耐力Mg合金を得ることが困難となる。
【0047】
(3)マグネシウム合金とその製造方法
上述したロールによる塑性加工を施したマグネシウム合金粉体原料に対して、圧粉成形および温間押出加工することで、以下の特性を有する高耐力Mg合金が得られる。
【0048】
(a)得られたMg合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下である。
【0049】
(b)その合金の常温における引張耐力が250MPa以上である。
【0050】
本願の発明者らは、特に、Mg合金粉体の素地のマグネシウム粒子の結晶粒径を10μm以下であるような原料を用いた場合には、押出加工後のMg合金の素地を構成する最大結晶粒径が5μm以下であり、その合金の常温における引張耐力が350MPa以上となることを見出した。またT6処理を施した投入原料の素地中に分散する、Mg17Al12、AlCa、MgSi、MgZn、AlRe(Re:希土類元素)、Al11Re、AlMnなどの金属間化合物によっても、押出加工後のMg合金の耐力は向上する。
【0051】
上述したロールによる塑性加工を施したマグネシウム合金粉体原料を、金型に充填した状態で加圧して圧粉成形体を作製する。その成形体を150℃以上450℃以下の温度範囲で加熱した後、直ちに押出加工によって緻密固化してマグネシウム合金素材を製造する。加熱温度が150℃未満では、動的再結晶が進行しないために微細なマグネシウム結晶粒が得られない。他方、加熱温度が450℃を越えると微細な再結晶組識が成長・粗大化するといった問題が生じる。なお、押出加工時の加工発熱量の影響を考慮すると、成形体温度は200℃以上350℃以下とすることが好ましい。なお緻密化の観点から押出比は10以上、より好ましくは30以上とする。
【実施例1】
【0052】
鋳造法により作製したAZ91Dインゴット(組成−Al:9.1,Zn:0.85,Mn:0.23重量%,Mg:残部)を溶体化熱処理(413℃×16時間の加熱保持後に空冷)した後、続いて時効熱処理(251℃×4時間の加熱保持後に窒素ガス雰囲気の炉内で冷却)を施した。このインゴットから粉砕加工により粉体を作製した(T6熱処理AZ91D粉体)。
【0053】
一方、比較として、鋳造したインゴットを溶体化熱処理のみを施した状態で、同一条件下で粉砕加工により粉体を作製した(溶体化処理AZ91D粉体)。いずれの粉体も粒径は0.5〜4mmの範囲であった。
【0054】
それぞれのAZ91D粉体を出発原料とし、ローラーコンパクタ装置による塑性加工を施した。ここで、ロール直径は100mm、ロールの周速度は100mm/秒、ロール間のクリアランスは0.1mm、ロールの表面温度および原料粉体温度はいずれも常温とした。ロールによる塑性加工を施した板状の連結した粉体を、カッターミル装置によって長さ1〜5mm程度に粉砕することで所定のマグネシウム合金粉体(1パス品)を作製した。この処理を繰り返し行うことで結晶粒の微細化を行なった。ここでは、20回および40回繰り返した場合の粉体をそれぞれN=20、40とし、ロールによる塑性加工を施さない場合をN=0とする。
【0055】
図3はAZ91Dインゴットの組織写真であり、(a)は鋳造後の組織写真、(b)は溶体化処理後の組織写真、(c)はT6熱処理(溶体化+時効熱処理)後の組織写真を示している。図3の組織写真から明らかなように、溶体化処理により、鋳造後に析出している粗大なMg17Al12化合物はマグネシウム素地中に固溶し、さらにこれを時効熱処理することで、微細な金属間化合物が素地中に均一に分散していることが認められる。
【0056】
図3(c)のT6熱処理後のAZ91Dの組識を拡大した組織写真を図4に示す。500〜800ナノメートル(nm)の微細な粒状化合物が均一に分散しており、T6熱処理を施すことで、出発原料において本発明が目的とする所定の組識構造が形成されている。
【0057】
図5に、ロールによる塑性加工を施したAZ91D粉体の組識写真を示す。(a)は本発明によるT6処理後の組織を示し、(b)は比較例の溶体化処理のみの場合の組織を示している。T6処理を施したAZ91D粉体を用いた場合、ロールによる塑性加工を20回および40回行なうことで、マグネシウム素地は均質な組識を示しており、結晶粒径が2〜5ミクロン程度にまで微細化していることが認められる。他方、(b)の溶体化処理を施したAZ91D粉体を用いた場合、40回の塑性加工を行っても素地は不均質な混合組識(写真では白色と黒色の領域が入り混じった状態)を呈しており、マグネシウム素地は20ミクロンを超える粗大な結晶粒から構成されている。
【0058】
図6に各粉体の微小硬さ(マイクロビッカース硬度)試験結果を示す。いずれの出発原料粉体においても、ロールによる塑性加工回数の増加と共に硬さは増加しているが、T6熱処理を施したAZ91D粉体の硬さがより高い値を示している。また両者の硬さの差は、加工回数の増加にしたがって増大している。つまり、T6熱処理を施したAZ91D粉体の方が、ロールを用いた塑性加工による加工ひずみが、より効果的に素地中に蓄積していることが認められる。
【実施例2】
【0059】
実施例1で作製した各AZ91D粉体を、油圧プレス機を用いて常温で金型成形して円柱状の押出用ビレットを作製した。このビレットを窒素ガス雰囲気中で400℃×5分間の加熱を行った後、直ちに温間押出加工(押出比 r=37)を施すことで緻密な棒材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒10−4で引張試験を行った。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
本発明例であるT6処理を施したAZ91D粉末を用いることにより、ロールによる塑性加工を経由した押出素材の引張強さおよび0.2%耐力は、いずれも著しく増大しており、特に、引張耐力は250〜300MPaを超える高い値を示した。また破断伸びに関しても、18%程度と高い値を維持している。このように本発明による製造方法を用いることで、高い引張耐力と高い靭性を有するマグネシウム合金を作製することが可能である。
【0062】
一方、比較例である、溶体化熱処理のみを施したAZ91D粉体を用いた場合、ロールによる塑性加工回数が増加するに連れて引張耐力・引張強さは増大するものの、本発明例のT6熱処理粉体の結果と比較すると、それらの値は低く、特に引張耐力は250MPaに到達していないことがわかる。
【0063】
ロールによる塑性加工を40回行った場合の押出素材について、光学顕微鏡による組識観察結果を図7に示す。(a)に示すように、本発明例のT6熱処理AZ91D粉体を用いた場合、画像解析によりマグネシウム素地の結晶粒径分布を測定した結果、最大結晶粒径は4.2μm、平均結晶粒径は1.5μmであり、押出加工過程で動的再結晶による微細組識が形成された。一方、(b)の比較例である溶体化処理AZ91D粉体を用いた場合、押出素材の最大結晶粒径は21μm、平均結晶粒径は9.6μmであり、(a)に示したT6熱処理AZ91D粉体の場合に比べて著しく粗大な組識である。つまり、本発明例のT6熱処理Mg合金粉体に対して、ロールによる塑性加工を施すことで、素地に析出・分散した微細な金属間化合物析出物の周辺に、より多くの加工ひずみが蓄積され、その結果、動的再結晶がより効果的に促進して微細な結晶粒を形成した。
【実施例3】
【0064】
鋳造法により作製したZAXE1713インゴット(組成−Al:7.1,Zn:0.95,Ca:0.93,La:2.87重量%,Mg:残部)を溶体化熱処理(420℃×16時間の加熱保持後に空冷)した後、続いて時効熱処理(180℃×36時間の加熱保持後に窒素ガス雰囲気の炉内で冷却)を施した。このインゴットから粉砕加工により粉体を作製した(T6熱処理ZAXE1713粉体)。一方、比較として、鋳造したインゴットを熱処理せずに、同一条件下で粉砕加工により粉体を作製した(熱処理なしZAXE1713粉体)。いずれの粉体も粒径は0.6〜4mmの範囲であった。それぞれのZAXE1713粉体を出発原料とし、ローラーコンパクタ装置による塑性加工を施した。
【0065】
ここで、実施例1と同様、ロール直径は100mm、ロールの周速度は100mm/秒、ロール間のクリアランスは0.1mm、ロールの表面温度および原料粉体温度はいずれも常温とした。ロールによる塑性加工を施した板状の連結した粉体を、カッターミル装置によって長さ1〜5mm程度に粉砕することで所定のマグネシウム合金粉体(1パス品)を作製した。これを繰り返し行うことで結晶粒の微細化を行なった。ここでは、ロールによる塑性加工の繰り返し回数を最大30回とし、ロールによる塑性加工を施さない場合をN=0とする。
【0066】
各ZAXE1713粉体を、油圧プレス機を用いて常温で金型成形して円柱状の押出用ビレットを作製した。このビレットを窒素ガス雰囲気中で400℃×5分間の加熱を行った後、直ちに温間押出加工(押出比 r=37)を施すことで緻密な棒材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒5×10−4で引張試験を行なった。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
本発明例であるT6処理を施したZAXE1713粉末を用いることで、ロールによる塑性加工を経由した押出素材の引張強さおよび0.2%耐力は、いずれも著しく増大しており、特に、引張耐力は250〜300MPaを超える高い値を示した。また破断伸びに関しても、16%以上と高い値を維持している。このように本発明による製造方法を用いることで、高い引張耐力と高い靭性を有するマグネシウム合金を作製することが可能である。
【0069】
一方、比較例である、熱処理を施さないZAXE1713粉体を用いた場合、ロールによる塑性加工回数が増加するに連れて引張耐力・引張強さは増大するものの、本発明のT6熱処理粉体の結果と比較すると、それらの値は低く、特に引張耐力は250MPaに到達していないことがわかる。
【0070】
T6熱処理を施したZAXE1713粉体について、ロールによる塑性加工を3,10,20,30回施した粉体を押出固化して得られたMg合金の押出方向の組識観察結果を図8に示す。加工回数の増加と共に、素地を構成するマグネシウムの結晶粒径は小さくなっており、特に、20回では最大結晶粒径は9.2μm、平均結晶粒径は4.8μmとなり、30回では最大結晶粒径は4.4μm、平均結晶粒径は1.2μmであった。
【実施例4】
【0071】
鋳造法により作製したAZ80Aインゴット(組成−Al:8.2,Zn:0.51,Mn:0.18重量%,Mg:残部)を溶体化熱処理(410℃×6時間の加熱保持後に空冷)した後、続いて時効熱処理(175℃×26時間の加熱保持後に窒素ガス雰囲気の炉内で冷却)を施した。このインゴットから粉砕加工により粉体を作製した(T6熱処理AZ80A粉体)。一方、比較として、鋳造したインゴットを熱処理せずに、同一条件下で粉砕加工により粉体を作製した(熱処理なしAZ80A粉体)。いずれの粉体も粒径は0.6〜4mmの範囲であった。
【0072】
それぞれのAZ80A粉体を出発原料とし、ローラーコンパクタ装置による塑性加工を施した。ここで、実施例1と同様、ロール直径は100mm、ロールの周速度は100mm/秒、ロール間のクリアランスは0.1mm、ロールの表面温度および原料粉体温度はいずれも常温とした。ロールによる塑性加工を施した板状の連結した粉体を、カッターミル装置によって長さ1〜5mm程度に粉砕することで所定のマグネシウム合金粉体(1パス品)を作製した。これを繰り返し行うことで結晶粒の微細化を行なった。ここでは、ロールによる塑性加工の繰り返し回数を最大50回とし、ロールによる塑性加工を施さない場合をN=0とする。
【0073】
各AZ80A粉体を、油圧プレス機を用いて常温で金型成形して円柱状の押出用ビレットを作製した。このビレットを窒素ガス雰囲気中で400℃×5分間の加熱を行った後、直ちに温間押出加工(押出比 r=37)を施すことで緻密な棒材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒5×10−4で引張試験を行なった。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
本発明例であるT6処理を施したAZ80A粉末に対して、ロールによる塑性加工を施した場合、引張耐力は262〜317MPaと高く、併せて17.9〜18.9%の高い破断伸びを有する。
【0076】
一方、比較例においては、T6熱処理AZ80A粉体を用いた場合であっても、ロールによる塑性加工を施さなければ、引張耐力は208MPaと低い値を示した。熱処理を施さないAZ80A粉体において、ロールによる塑性加工を20回行なった場合でも、引張耐力は218MPaとなり、本発明例に比べて著しく低いことがわかる。
【実施例5】
【0077】
実施例3で作製したT6熱処理ZAXE1713粉体(ロールによる塑性加工回数;30回)を用いて、金型成形により押出用ビレットを作製した。これを温間押出(押出比 r=37)により緻密固化する際の、ビレット加熱温度を表4に記載の条件としてマグネシウム合金押出素材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒5×10−4で引張試験を行なった。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
本発明が規定する適正なビレット温度を満足する場合、引張耐力は300MPaを超える高い値を示す。一方、比較例であるビレット温度が130℃の場合には、押出加工過程での再結晶が十分に進行しないために高い引張耐力が得られない。また比較例であるビレット温度が480℃の場合には、押出加工過程で微細な再結晶組識が成長・粗大化するために高い引張耐力が得られない。
【実施例6】
【0080】
実施例3で作製したT6熱処理ZAXE1713粉体を用いて、実施例1と同様の条件でロールによる塑性加工を最大30回まで行い、粉体組識構造の微細化を行なった。その際、ロール表面と粉体の温度と共に、常温あるいは200℃とした。得られたMg合金粉体を油圧プレス機により常温で金型成形して円柱状の押出用ビレットを作製した。このビレットを窒素ガス雰囲気中で400℃×5分間の加熱を行った後、直ちに温間押出加工(押出比 r=37)を施すことで緻密な棒材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒5×10−4で引張試験を行なった。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
本発明例である、ロール表面および粉体の温度を常温とした場合、得られたMg合金押出素材の引張耐力・引張強さ・破断伸びは、いずれも高い値を示した。
【0083】
これに対して、比較例である、ロール表面および粉体の温度を時効処理温度(175℃)よりも高い200℃とした場合、引張耐力・引張強さは共に、本発明例に比べて著しく低下した。特に、耐力に関しては、加工回数が増加するにも関わらず、ほぼ一定の値を示した。これは、Mg合金粉体を時効処理温度以上に加熱した状態でロールによる塑性加工を行う場合、過時効現象によって析出物の周辺に加工歪が十分に蓄積せず、その結果、押出加工過程における動的再結晶による微細組識が形成されにくくなり、耐力の低下が生じたからである。
【実施例7】
【0084】
実施例4で作製したAZ80A押出素材の押出方向の断面について、マグネシウムの底面(0001)の配向性を評価した結果を図9の極点図に示す。ここでは、ロールによる塑性加工回数を5,10,30,50回とした。加工回数が10回までは、(0001)面が押出方向に沿った典型的な押出素材が示す集合組識を形成している。しかしながら、30回および50回においては、底面配向性が弱まっており、言い換えると、(0001)底面以外の(10−10)柱面や(10−11)錐面といった非底面も押出方向にそって配列している。
【0085】
一方、熱処理を施さないMg合金粉体では、50回の塑性加工後においても、底面配向性の著しい低下は見られなかった。
【0086】
以上の結果より、本発明が規定する、ロールを用いた塑性加工をT6熱処理Mg合金粉体に施した後、押出加工により得られたMg合金素材においては、動的再結晶による結晶粒の微細化による引張耐力の増加に加えて、集合組識の無秩序化による破断伸び(靭性)の向上が生じる。
【実施例8】
【0087】
表6に記載の組成を有する鋳造マグネシウムインゴットを溶体化熱処理(420℃×16時間の加熱保持後に空冷)した後、続いて時効熱処理(180℃×36時間の加熱保持後に窒素ガス雰囲気の炉内で冷却)を施した。
【0088】
【表6】

【0089】
各インゴットから粉砕加工によりマグネシウム合金粉体を作製した。いずれの粉体も粒径は0.6〜4mmの範囲であった。各粉体を出発原料とし、ローラーコンパクタ装置による塑性加工を施した。ここで、実施例1と同様、ロール直径は100mm、ロールの周速度は100mm/秒、ロール間のクリアランスは0.1mm、ロールの表面温度および原料粉体温度はいずれも常温とした。
【0090】
ロールによる塑性加工を施した板状の連結した粉体を、カッターミル装置によって長さ1〜5mm程度に粉砕することで所定のマグネシウム合金粉体(1パス品)を作製した。これを繰り返し行うことで結晶粒の微細化を行なった。ここでは、ロールによる塑性加工の繰り返し回数を30回とした。なお、比較としてロールによる塑性加工を施さない場合をN=0とする。
【0091】
続いて、各処理粉体を油圧プレス機を用いて常温で金型成形して円柱状の押出用ビレットを作製した。このビレットを窒素ガス雰囲気中で400℃×5分間の加熱を行った後、直ちに温間押出加工(押出比 r=37)を施すことで緻密な棒材を作製した。各マグネシウム合金押出素材より引張試験片(平行部20mm)を採取し、常温にてひずみ速度毎秒5×10−4で引張試験を行なった。その際の引張耐力(0.2%歪)、引張強さ、破断伸びの測定結果を表7に示す。
【0092】
【表7】

【0093】
試料No.1〜9は本発明例であり、試料No.2〜9は試料No.1にZr,Sr,Sc,Tiなどの活性金属元素を適正範囲、添加した鋳造マグネシウム合金インゴットから採取した粉体を用いて得られた押出素材である。試料No.1の特性と比較して、Zr,Sr,Sc,Tiなどの活性金属元素を添加することで、著しい伸び(靭性)の低下を伴うことなく、引張耐力および引張強さを向上させることができる。
【0094】
一方、比較例である試料No.10〜12において、ロールによる塑性加工を施さなければ、活性金属元素を添加した場合であっても引張耐力や引張強さの増加は認められず、かえって伸びの低下が生じた。
【0095】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
この発明は、高い耐力と伸びとを両立させるマグネシウム合金を得るのに有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】ローラーコンパクタ装置を示す図解図である。
【図2】金属間化合物の周辺に加工歪が存在している状態を示す図解図である。
【図3】AZ91Dインゴットの組織写真であり、(a)は鋳造後の組織写真、(b)は溶体化熱処理後の組織写真、(c)はT6熱処理(溶体化+時効熱処理)後の組織写真を示している。
【図4】T6熱処理後の組織を拡大した組織写真である。
【図5】ロールによる塑性加工を施したAZ91D粉体の組織写真であり、(a)はT6処理を施したものの組織、(b)は溶体化処理を施したものの組織を示している。
【図6】粉体の微小硬さ(マイクロビッカース硬度)の試験結果を示す図である。
【図7】押出素材についての光学顕微鏡による組織写真であり、(a)はT6熱処理AZ91D粉体を用いた場合の組織写真、(b)は溶体化処理AZ91D粉体を用いた場合の組織写真を示している。
【図8】ロールによる塑性加工を3,10,20,30回施した粉体を押出固化して得られたMg合金の押出方向の組織写真である。
【図9】マグネシウムの底面の配向性を評価した結果の極点図である。
【符号の説明】
【0098】
11 ケース、12 多段式ロール回転体、13 破砕装置、14 粉末温度・供給量制御システム、15 受台、20 マグネシウム合金素地、21 金属間化合物粒子、22 加工歪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に大きな結晶粒径を持つ出発原料粉末に対して、1対のロール間に通して圧縮変形またはせん断変形させる塑性加工を施して相対的に小さな結晶粒径としたマグネシウム合金粉体原料において、
前記出発原料粉末は、熱処理によって微細な金属間化合物を素地中に析出・分散させているマグネシウム合金粉末であり、
前記塑性加工後のマグネシウム合金粉体中には、析出した前記金属間化合物の周辺に加工歪が存在しており、
前記塑性加工後のマグネシウム合金粉体の最大サイズが10mm以下、最小サイズが0.1mm以上であり、
前記塑性加工後のマグネシウム合金粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする、マグネシウム合金粉体原料。
【請求項2】
前記金属間化合物は、Mg17Al12,AlCa,MgSi,MgZn,AlRe(Re:希土類元素),Al11ReおよびAlMnからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物である、請求項1に記載のマグネシウム合金粉体原料。
【請求項3】
前記金属間化合物の最大粒子径が5μm以下である、請求項1または2に記載のマグネシウム合金粉体原料。
【請求項4】
前記金属間化合物の最大粒子径が2μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金粉体原料。
【請求項5】
前記マグネシウム合金粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のマグネシウム合金粉体原料。
【請求項6】
ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)およびチタン(Ti)からなる群から選ばれた金属元素を重量基準で0.5%以上4%以下含有し、残部が実質的にマグネシウム(Mg)である、請求項1〜5のいずれかに記載のマグネシウム合金粉体原料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマグネシウム合金粉体原料を圧粉成形した後に押出加工して得られたマグネシウム合金であって、
合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下であり、
常温での引張耐力が250MPa以上であることを特徴とする、高耐力マグネシウム合金。
【請求項8】
前記マグネシウム合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が5μm以下であり、
常温での引張耐力が350MPa以上である、請求項7に記載の高耐力マグネシウム合金。
【請求項9】
前記マグネシウム合金の素地中に、Mg17Al12,AlCa,MgSi,MgZn,AlRe(Re:希土類元素),Al11ReおよびAlMnからなる群から選ばれた少なくとも一つの金属間化合物が析出・分散している、請求項7または8に記載の高耐力マグネシウム合金。
【請求項10】
出発原料粉末に対して塑性加工を施すことによって、該出発原料粉末の素地を構成するマグネシウム粒子の結晶粒径を微細化する方法であり、
前記出発原料粉末として、熱処理によって微細な金属間化合物を素地中に析出・分散させているマグネシウム合金粉末を準備し、
前記塑性加工は、出発原料粉末を1対のロール間に通して圧縮変形またはせん断変形させて前記金属間化合物の周辺に加工歪を付与する塑性加工であり、
前記塑性加工を、粉体の最大サイズが10mm以下で最小サイズが0.1mm以上、かつ粉体の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が20μm以下になるまで繰り返して行なうことを特徴とする、マグネシウム合金粉体原料の製造方法。
【請求項11】
前記出発原料粉末としてのマグネシウム合金粉末を準備する工程は、
鋳造法によってマグネシウム合金インゴットを作製することと、
前記マグネシウム合金インゴットを溶体化処理し、続いて時効熱処理を行なってインゴットの素地中に微細な金属間化合物を析出・分散させることと、
前記インゴットから機械加工によってマグネシウム合金粉体を取出すこととを含む、請求項10に記載のマグネシウム合金粉体原料の製造方法。
【請求項12】
前記塑性加工を行なう際に、投入する出発原料粉末の温度、およびこの出発原料粉末が接触する前記ロールの表面温度を前記時効熱処理の温度以下にする、請求項11に記載のマグネシウム合金粉体原料の製造方法。
【請求項13】
前記マグネシウム合金インゴットは、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、スカンジウム(Sc)およびチタン(Ti)からなる群から選ばれた金属元素を重量基準で0.5%以上4%以下含有し、残部が実質的にマグネシウム(Mg)である、請求項11または12に記載のマグネシウム合金粉体原料の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれかに記載のマグネシウム合金粉体原料を金型に充填した状態で加圧して圧粉成形体を得る工程と、
前記マグネシウム合金圧粉成形体を150℃以上450℃以下の温度で加熱する工程と、
前記加熱の終了後、直ちに前記マグネシウム合金圧粉成形体を押出加工してマグネシウム合金を製造する工程とを備える、高耐力マグネシウム合金の製造方法。
【請求項15】
前記マグネシウム合金の素地を構成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下であり、常温での引張耐力が250MPa以上である、請求項14に記載の高耐力マグネシウム合金の製造方法。
【請求項16】
前記マグネシウム合金圧粉成形体の加熱を200℃以上350℃以下の温度で行なう、請求項14または15に記載の高耐力マグネシウム合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−348349(P2006−348349A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176410(P2005−176410)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(504100802)
【出願人】(391037799)株式会社ゴーシュー (7)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】