説明

マグネットローラ

【課題】 従来、マグネットローラの抗折強度を向上させるため、繊維状物質等を添加していたが、該添加物により磁気特性や成形性が悪化していた。
【解決手段】 強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形した軸一体型マグネットローラにおいて、繊維径および繊維長を規定したガラス繊維を添加することにより、磁気特性や成形性を犠牲にすることなく、抗折強度を向上させることができる。また、上記樹脂バインダーを特定の数平均分子量のポリアミド樹脂としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に組み込まれるマグネットローラに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等における粉末トナーを用いた画像形成装置に組み込まれるマグネットローラは、次のように構成されているのが一般的である。
【0003】
すなわち、(1)シラン系カップリング剤で表面処理された繊維状物質、シラン系カップリング剤で表面処理された磁性粉末、合成樹脂バインダー、の混合物が金属製ロール軸の周囲に形成されることにより、成形後のマグネットローラの「割れ、ひび」が防止できる。(特許文献1)(2)ポリアミド樹脂と82重量%以上の磁性フェライト粉末を含む混合物を溶融粘度30ポアズから1000ポアズとすることにより、高磁束密度かつ軸方向磁束密度変動を小さくした軸部一体型マグネットローラを得ることができる。(特許文献2)
【特許文献1】特公平04−39763
【特許文献2】特開昭63−61274
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、金属製ロール軸(金属シャフト)を使用しているため、本体部の体積が減り、高磁束密度対応が困難で、また、金属製ロール軸とマグネットとの線膨張係数が異なるため、温度変化等により、反りが発生する場合があり、更に、前記金属ロール軸によりコストアップする場合がある。
【0005】
また、特許文献2は、軸部も樹脂磁石材料で形成されているため、高磁束密度は可能となるが、軸部や本体部の抗折強度が弱いため、折れる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形した軸一体型マグネットローラにおいて、前記混合物に繊維径が7μm以上13μm以下であり、かつ平均繊維長が25μm以上150μm以下であるガラス繊維を添加したマグネットローラである。
【0007】
また、本発明は、好ましくは上記樹脂バインダーを数平均分子量12000以下のポリアミド樹脂としたマグネットローラである。
【発明の効果】
【0008】
本発明(請求項1)により、成形性および磁気特性を犠牲にすることなく抗折強度を向上させることができる。
【0009】
本発明(請求項2)により、磁気特性を犠牲にすることなく、成形性および抗折強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、
「強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形した軸一体型マグネットローラにおいて、前記混合物に繊維径が7μm以上13μm以下であり、かつ平均繊維長が25μm以上150μm以下であるガラス繊維を添加したマグネットローラである」、
である。
【0011】
さらには、本発明は好ましくは
「上記樹脂バインダーを数平均分子量12000以下のポリアミド樹脂としたマグネットローラである」、
である。
【0012】
本発明は、強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形したマグネットローラにおいて、例えば、前記樹脂バインダーであるポリアミド系樹脂とガラス繊維とを混合したもの(樹脂バインダー混合物)を5〜50重量%(滑剤、安定剤等含む)、強磁性体粉末として例えば異方性ストロンチウムフェライト(SrO・6Fe23)粉末を95〜50重量%とし、これらを混合して溶融混練し、ペレット状にする。ここで、ポリアミド樹脂とガラス繊維との重量比(合計を100重量%とする)は、ポリアミド樹脂:ガラス繊維=98〜99.5重量%:2〜0.5重量%とする。ガラス繊維の重量比が2重量%を超えると樹脂磁石材料の流動性が悪くなり、成形性が低下する場合があり、また、0.5重量%未満となるとガラス繊維を添加した効果が現れない場合がある。このペレットを溶融状態にして、図1のような成形装置(金型)にて、注入口から溶融樹脂磁石を成形空間内へ射出注入し、150K・A/m〜2400K・A/mの磁場を5箇所に印加しながら配向着磁して、図2のような軸部と本体部を同一樹脂磁石材料で形成した5極構成のマグネットローラを得る。該マグネットローラは、後加工が不要となり、低コストで、成形後の収縮率が小さくなるため高寸法精度となり、かつ高抗折強度のマグネットローラが得られる。
【0013】
ここで、図1の(a)は、溶融樹脂磁石を射出注入する前の金型状態であり、スライド金型により成形空間が最小となっている。その後、上記溶融樹脂磁石が成形空間内の注入され、該樹脂圧あるいは付勢手段によりスライド金型が後退し、図1の(b)の状態でスライド金型が停止し、上記溶融樹脂磁石の射出注入が完了する。ただし、上記溶融樹脂磁石の射出注入開始時に、すでに図1の(b)のような状態となっている通常射出金型にて成形しても構わない。
【0014】
また、本発明は、上記ポリアミド樹脂として、好ましくは数平均分子量が12000以下のものを使用する。低分子量のポリアミド樹脂を用いることにより、ガラス繊維を添加しても、樹脂磁石材料の流動性が悪化し、成形性および磁気特性が低下することがなく、良好なマグネットローラが得られる。更に、数平均分子量が12000以下8000以上とすることがさらに好ましい。数平均分子量が12000を超えると、樹脂磁石材料の流動性が悪化し、成形性が低下する場合があり、また、8000未満となると、成形品の強度が低下する場合がある。
【0015】
ここで上記マグネットローラは、異方性フェライト磁性粉の50重量%〜95重量%と、樹脂バインダー(ポリアミド系樹脂とガラス繊維)を5重量%〜50重量%とからなる混合物を主体とし、必要に応じて、磁性粉の表面処理剤としてシラン系やチタネート系等のカップリング剤、流動性を良好にするポリスチレン系・フッ素系滑剤等、安定剤、可塑剤、もしくは難燃剤などを添加し、混合分散し、溶融混練し、ペレット状に成形した後に射出成形する。成形時に印加する配向着磁磁場は、各磁極に要求される磁束密度仕様により適宜選択すればよい。また、要求磁気特性によっては成形時に配向着磁磁場を印加せず、成形後に着磁してもよい。
【0016】
ここで、強磁性粉末としては、MO・nFe23(nは自然数)で代表される化学式を持つ異方性フェライト磁性粉などがあげられる。式中のMとして、Sr、Baまたは鉛などの1種または2種以上が適宜選択して用いられる。また、要求される磁束密度により、磁性粉として、異方性フェライト磁性粉、等方性フェライト磁性粉、異方性希土類磁性粉(例えばSmFeN系)、等方性希土類磁性粉(例えばNdFeB系)を単独または2種類以上を混合して使用しても良い。
【0017】
樹脂バインダーとしては、ポリアミド樹脂、エチレンエチルアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンスフィド)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)及びPVC(ポリ塩化ビニル)などの1種類または2種類以上、もしくはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂の1種類または2種類以上を混合して用いることができる。
【0018】
ガラス繊維としては、長繊維のものが適切で、形態としては、チョップドストランドマット、ロービング、チョップドストランド、ガラスヤーン、ミルドファイバー、カットファイバー、等が挙げられるが、基本的にはいずれのものでもよいが、ミルドファイバー、カットファイバーが好ましく、カットファイバーが最も好ましい。また、該ガラス繊維の繊維径が7μm以上13μm以下であり、かつ平均繊維長が25μm以上150μm以下とすることが好ましい。繊維径が7μm未満となると強度向上の効果が現れず、13μmを超えると樹脂磁石材料の流動性が悪化し、成形性が低下する場合がある。また、平均繊維長が25μm未満となると強度向上の効果が現れず、150μmを超えると樹脂磁石材料の流動性が悪化し、成形性が低下する場合がある。
【0019】
上記に示した単独磁性粉あるいは混合磁性粉の含有率が50重量%未満では、磁性粉不足により、マグネットローラの磁気特性が低下して所望の磁力が得られにくくなり、またそれらの含有率が95重量%を超えると、バインダー不足となり成形性が損なわれるおそれがある。
【0020】
また、本明細書においては、5極構成のマグネットロールで説明したが、本発明は5極構成のマグネットロールのみに限定されない。すなわち、所望の磁束密度と磁界分布により、磁極数や磁極位置も適宜設定すればよい。
【0021】
さらに、成形と同時に磁場を印加する場合、成形物の脱型性の向上や、成形物のバリ等によるマグネットカス等のゴミ付着防止やマグネットローラの取り扱い性を容易にするために、成形後金型内あるいは金型外で一旦脱磁し、その後着磁してもよい。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例および比較例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
図2のマグネットローラ材料は、樹脂バインダー混合物(10重量%)として、樹脂バインダー(ナイロン6:ユニチカ製A1020、可塑剤、安定剤含む)9重量%とガラス繊維(日東紡製SS05−404)1重量%、強磁性粉末として異方性ストロンチウムフェライト(SrO・6Fe23)粉末(日本弁柄工業製NF−350)を90重量%とし、これらを混合し、溶融混練し、ペレット状に成形し、このペレットを溶融状態にし、図1の金型を用いて、注入口から溶融樹脂磁石材料を射出注入し、150K・A/m〜2400K・A/mの磁場を印加しながら溶融樹脂磁石の磁性粒子を配向着磁し、図2に示すようなマグネットローラを得た。
【0024】
ここで、図1の(a)は、溶融樹脂磁石を射出注入する前の金型状態であり、スライド金型により成形空間が最小となっている。その後、上記溶融樹脂磁石が成形空間内の注入され、該樹脂圧あるいは付勢手段によりスライド金型が後退し、図1の(b)の状態でスライド金型が停止し、上記溶融樹脂磁石の射出注入が完了する。
【0025】
上記ナイロン6の数平均分子量は約12500である。
【0026】
上記ガラス繊維は、繊維径が10μm、平均繊維長が100μm、のものを使用した。
【0027】
マグネットローラ本体部の外径はφ13.6、マグネット本体部の長さは320mm、軸部の外径はφ6とし、軸部を含む全長は370mmとした。(本体部と軸部の材料は同一樹脂磁石材料である)
得られたマグネットローラの磁束密度は、マグネットローラの両端軸部を支持し、マグネットローラを回転させながら、マグネットローラの中心から8mm離れた位置(スリーブ上)にプローブ(磁束密度センサー)をセットし、ガウスメータにて周方向磁束密度値を測定し、主極(最も磁束密度が高い極)であるN1極の磁束密度値を表1に記載した。
【0028】
また、図3(a)(b)のように、抗折強度測定装置(島津製作所製AGS−H 5kN使用)により、マグネットローラを固定し、矢印の方向へ加圧治具を50mm/minのスピードで加圧し、マグネットローラ本体部および軸部の抗折強度を測定し、表1に記載した。
【0029】
【表1】

【0030】
ここで、主極の磁束密度は85mT以上あれば実用上問題なく、また、抗折強度は、軸部で20kgf・cm以上、本体部で50kgf・cm以上あれば実用上問題ない。
【0031】
(実施例2)
ガラス繊維として、繊維径が7μm、平均繊維長が25μm、のものを使用する以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0032】
(実施例3)
ガラス繊維として、繊維径が13μm、平均繊維長が150μm、のものを使用する以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0033】
(実施例4)
樹脂バインダーとして、数平均分子量が約11200であるナイロン6(ユニチカ製A1015)を用いる以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0034】
(実施例5)
樹脂バインダーとして、数平均分子量が約10000であるナイロン6(ユニチカ製A1012)を用いる以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0035】
(実施例6)
ナイロン6とガラス繊維との重量を、ナイロン6=8重量%、ガラス繊維=2重量%とする以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0036】
(実施例7)
ナイロン6とガラス繊維との重量を、ナイロン6=9.5重量%、ガラス繊維=0.5重量%とする以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0037】
(実施例8)
ナイロン6とガラス繊維との重量を、ナイロン6=7重量%、ガラス繊維=3重量%とする以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0038】
(実施例9)
ナイロン6とガラス繊維との重量を、ナイロン6=9.7重量%、ガラス繊維=0.3重量%とする以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0039】
(比較例1)
樹脂バインダーとしてナイロン6(ユニチカ製A1020)を10重量%とし、ガラス繊維を添加しない以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0040】
(比較例2)
ガラス繊維として、繊維径が5μm、平均繊維長が20μm、のものを使用する以外はすべて実施例1と同様に行った。
【0041】
(比較例3)
ガラス繊維として、繊維径が15μm、平均繊維長が180μm、のものを使用する以外はすべて実施例1と同様に行った。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】マグネットローラの成形装置(金型)
【図2】マグネットローラ斜視図
【図3】マグネットローラの抗折強度測定を説明する図(本体部、軸部)
【符号の説明】
【0043】
1 固定側金型
2 可動側金型
3 スライド金型
4 注入口
5 成形空間
6 磁場発生源
7 マグネットローラ本体部
8 マグネットローラ軸部
9 抗折強度試験器
10 マグネットローラ固定治具
11 抗折強度試験装置ベース台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形した軸一体型マグネットローラにおいて、前記混合物に繊維径が7μm以上13μm以下であり、かつ平均繊維長が25μm以上150μm以下であるガラス繊維を添加したことを特徴とするマグネットローラ。
【請求項2】
上記樹脂バインダーを数平均分子量12000以下のポリアミド樹脂としたことを特徴とする請求項1記載のマグネットローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−47591(P2008−47591A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219314(P2006−219314)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(596087214)栃木カネカ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】