説明

マット剤塗布装置およびインクジェット記録装置

【課題】適量の粉体マット剤を付与ローラで媒体表面に押圧付与するマット剤塗布装置およびインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】供給部84内のマット剤200は計量部86に供給され、計量ブレード87Aにより計量ローラ87Bの表面のマット剤200の供給量を計量され、余剰分をスリット部87Cで濾し取られたマット剤200は直下に設けられた付与ローラ88に計量供給される。計量ローラ87Bの素材には例えば単泡のスポンジゴムが適しており、単泡のサイズはマット剤200の平均粒径の5〜100倍程度が適している。付与ローラ88の表面に供給されたマット剤200は記録媒体Pに転写付与される。記録媒体Pの画像部は画像を形成しているインク膜の粘着力により、付与ローラ88からマット剤200が転写される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマット剤塗布装置およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりインクジェット印刷装置では、画像部の乾燥不足、及び定着不足により集積された印刷物のインク同士が付着(固着)するブロッキングという現象により、処理を終えた印刷物に損傷を与えてしまうという問題があった。特に高生産性のインクジェット印刷機では乾燥・定着時間が短くなる傾向があるため乾燥不足、及び定着不足が生じやすく、さらに厚い紙に印刷を行った場合にブロッキングが発生し易くなる。
【0003】
上記のブロッキングはインクジェット印刷装置以外でも、例えばオフセット印刷装置でも発生する場合があり、オフセット印刷装置では用紙同士の付着防止用のパウダーを用紙表面に噴霧することによってブロッキングを防止している。
【0004】
しかし、パウダー噴霧方式では余剰パウダーの拡散、及び両面印刷時には印刷物に供給したパウダーが裏面印刷時に脱離することによって印刷機内を汚染してしまうという問題が発生する。特に、用紙に前処理液を塗布して印刷を行う方式のインクジェット印刷機では前処理液塗布部にパウダーが混入する、あるいはインクジェットヘッドにパウダーが付着して吐出不良を発生させる可能性がある点で問題となり得る。
【0005】
そこで印刷機内でエアカーテンを設け、パウダーが印刷機内及び装置外部へ拡散することを防止し、清掃回数の低減及びパウダーに起因する機械部品の磨耗などによるトラブルの発生を抑制する画像記録装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
あるいは表面に凹部を有する貼り付けローラでマット剤を用紙上に所定間隔で貼り付け、マット剤が印刷機内に拡散することを防止し、さらに接着性のある溶媒にマット剤を分散することによってマット剤の脱離を防止する方法や、接着性のない溶媒にマット剤を分散し、印刷物に塗布後に過熱することによって溶媒を蒸発させマット剤を溶融定着する方式によりマット剤の脱離を防止する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−500974号公報
【特許文献2】特開平8−224978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし上記の特許文献1に記載の構成ではエアカーテンにより余剰パウダーの拡散を防ぐ施策が開示されているが、印刷物から脱離したパウダーによる印刷機の汚染に関しては解決できないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の構成では、マット剤を分散した分散液を乾燥不足、及び定着不足が発生しやすいインクジェット印刷機に適用すると、よりブロッキングが発生し易くなる虞がある という問題がある。
【0010】
そのため、分散液を用いることなく、粉体のマット剤を印刷物の表面に塗布し、表面からの脱離を生じずに印刷物に付与する方式が求められている。
【0011】
本発明は上記事実を考慮し、適量の粉体マット剤を付与ローラで媒体表面に押圧付与するマット剤塗布装置およびインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載のマット剤塗布装置は、粉体としてのマット剤を計量する計量手段と、前記計量手段より外周面に供給された前記マット剤を記録媒体表面に押圧付与する付与ローラと、を備え、前記計量手段は外周面の微小孔に前記マット剤を保持する単泡ゴムローラと、前記単泡ゴムローラの表面をスクイーズするブレードとを備えたことを特徴とする。
【0013】
上記の発明によれば、スタッカーブロッキング性能を向上させるマット剤を単泡ゴムローラの表面で計量し、記録媒体表面に付与ローラで押圧付与することで、装置内および記録媒体のマット剤による汚染を防ぎ、安定した計量精度で記録媒体表面へのマット剤付与を行うことができる。
【0014】
請求項2に記載のマット剤塗布装置は、前記付与ローラの外周面は平滑性Ra1μm以下、且つ表面エネルギー80mN/m以下であることを特徴とする。
【0015】
上記の発明によれば、付与ローラの外周面を平滑性Ra1μm以下、且つ表面エネルギー80mN/m以下とすることで、安定して記録媒体表面へマット剤付与を行うことができる。
【0016】
請求項3に記載のマット剤塗布装置は、前記付与ローラは外周面をPFAフィルムで被覆されたゴムローラであることを特徴とする。
【0017】
上記の発明によれば、外周面をPFAフィルムで被覆されたことにより、表面平滑性および表面エネルギーを所望の範囲に維持しつつ安定性の高い付与ローラとすることができる。
【0018】
請求項4に記載のマット剤塗布装置は、前記単泡ゴムローラの外周面の微小孔径であるポアサイズが前記マット剤の平均粒径の5〜100倍であることを特徴とする。
【0019】
上記の発明によれば、ポアサイズが小さ過ぎることによるマット剤の充填不良を防ぎ、かつポアサイズが大きすぎることによる保持力の不足から生じるマット剤の脱落を防ぐことができる。
【0020】
請求項5に記載のマット剤塗布装置は、前記付与ローラの外周面に当接し、前記付与ローラの外周面より、前記記録媒体表面に付与されなかったマット剤を掻き落とすクリーニングブレードと、前記クリーニングブレードが掻き落としたマット剤を吸引除去する吸引手段と、からなるクリーニング部を備えたことを特徴とする。
【0021】
上記の発明によれば、付与ローラから記録媒体表面に付与されなかったマット剤を回収し再利用すると同時に、装置内の汚染を防ぐことができる。
【0022】
請求項6に記載のインクジェット記録装置は、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のマット剤付与装置を備えたことを特徴とする。
【0023】
上記の発明によれば、スタッカーブロッキング性能を向上させるマット剤を単泡ゴムローラの表面で計量し、記録媒体表面に付与ローラで押圧付与することで、装置内および記録媒体のマット剤による汚染を防ぎ、安定した計量精度で記録媒体表面へのマット剤付与を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記構成としたので、適量の粉体マット剤を付与ローラで媒体表面に押圧付与するマット剤塗布装置およびインクジェット記録装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る画像記録装置を示す概念図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像記録装置の主要部を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態に係る画像記録装置のマット剤供給部を示す拡大概念図である。
【図4】図3に示すマット剤供給部の付与ローラを示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る付与ローラの表面物性とスタッカーブロッキング性能の関係を示す表である。
【図6】本発明の実施形態に係る計量ローラ表面の単泡サイズとマット剤の平均粒径がスタッカーブロッキング性能に与える影響を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態の一例について説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示した概略構成図である。
【0028】
このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体Pの記録面にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから複数色の熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体P上に処理液(インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含む)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体P上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0029】
すなわち、図1に示すように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排紙部122を備えて構成されている。
【0030】
給紙部112は、記録媒体Pを処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体Pが積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体Pが一枚ずつ処理液付与部114に給紙されるようになっている。記録媒体Pの浮き上がりを防止するために、給紙トレイ150は外面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。
【0031】
本実施形態のインクジェット記録装置100においては、記録媒体Pとして、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体Pを使用することができる。給紙部112において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(図示省略)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ150に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体Pとして、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0032】
処理液付与部114は、記録媒体Pの記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含み、処理液とインクとが接触することによりインクと凝集反応を起こし、インクは色材と溶媒との分離が促進され、インク着弾後の滲みや着弾干渉(合一)あるいは混色が発生せず高品位画像の形成が可能となる。なお、処理液としては、凝集剤の他に必要に応じてさらに他の成分を用いて構成することもできる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば、細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0033】
図1に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体Pを保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体Pを挟み込むことによって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。処理液ドラム154は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体Pを処理液ドラム154の周面に密着保持することができる。
【0034】
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。記録媒体Pは、処理液塗布装置156によって記録面に処理液が塗布される。
【0035】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体Pは、処理液ドラム154から中間搬送部126(第1渡し胴搬送手段)を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0036】
描画部116は、描画ドラム170、及びインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yを備えている。なお、図1では図示を省略しているが、描画ドラム170に対してインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの手前側に記録媒体Pの皺をとるための用紙抑えローラを配置するようにしても良い。
【0037】
描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備え、記録媒体の先端部を保持固定するようになっている。また、描画ドラム170は、外周面に複数の吸引孔を有し、負圧によって記録媒体Pを描画ドラム170の外周面に吸着させる。これにより、用紙浮きによるヘッドとの接触が回避され、用紙ジャムが防止される。また、ヘッドとのクリアランス変動による画像ムラが防止される。
【0038】
このように描画ドラム170に固定された記録媒体Pは、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクが打滴される。
【0039】
インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yは、それぞれ記録媒体Pにおける画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yは、記録媒体Pの搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置されている。
【0040】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体Pの記録面に向かって各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体P上での色材流れなどが防止され、記録媒体Pの記録面に画像が形成されるようになっている。
【0041】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定されない。
【0042】
以上のように構成された描画部116により、記録媒体Pに対してシングルパスで描画を行うことができる。これにより、高速記録及び高速出力が可能であり、生産性を高めることができる。
【0043】
描画部116で画像が形成された記録媒体Pは、描画ドラム170から中間搬送部128(第2渡し胴搬送手段)を介して、乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0044】
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム176及び溶媒乾燥装置178を備えている。乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体Pの先端を保持するとともに、ドラム外周表面に吸引孔(図示省略)を有し、負圧により記録媒体Pを乾燥ドラム176に吸着できるようになっている。また乾燥ドラム176の外周面に対向するように、送風手段180(吸着補助手段)と溶媒乾燥装置178が設けられている。
【0045】
送風手段180は、記録媒体Pの乾燥ドラム176への吸着を補助するためのものであり、記録媒体Pの幅方向の端部側に向かって斜めに風を当てて、保持手段177によってその先端を保持された記録媒体Pが、先端側から後端側に向かって、皺が発生することなく確実に吸着されるようにするものである。
【0046】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、IRヒータ等とファンの組み合わせを複数配置した熱風乾燥手段182で構成されている。熱風乾燥手段182の各熱風噴出しノズルから記録媒体Pに向けて吹き付けられる熱風の温度と風量を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。記録媒体Pは記録面が外側を向くように、乾燥ドラム176の外周面に吸着拘束されて搬送され、この記録面に対して上記IRヒータ及び温風噴出しノズルによる乾燥処理が行われる。
【0047】
また、乾燥ドラム176は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を有している。これにより記録媒体Pを乾燥ドラム176の周面に密着保持することができる。また、負圧吸引を行うことにより、記録媒体Pを乾燥ドラム176に拘束することができるので、記録媒体Pのカックルを防止することができる。
【0048】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体Pは、乾燥ドラム176から中間搬送部130(第3渡し胴搬送手段)を介して定着部120の定着ドラム184に受け渡される。
【0049】
定着部120は、定着ドラム184、押圧ローラ188(平滑化手段)で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。
【0050】
定着ドラム184の回転により、記録媒体Pは記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、押圧ローラ188による平滑化処理・定着が行われる。
【0051】
押圧ローラ188は、インクが乾燥された記録媒体Pを加圧することによって記録媒体Pを平滑化、及びインクの定着を行うものである。
【0052】
なお、定着ドラム184の外周面に対向して記録媒体Pに形成された画像の検査を行うインラインセンサを設けてもよい。インラインセンサは、記録媒体Pに定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、例えばCCDラインセンサを好適に用いることができる。
【0053】
定着部120に続いて、後述するようにマット剤塗布部80が定着ドラム184の外周面に対向する位置に設けられている。マット剤塗布部80はメインタンク82に貯留されたマット剤200を計量ローラ87Bで計量し、付与ローラ88で記録媒体Pの表面に付与する。これにより表面にマット剤200を塗布された記録媒体Pは排紙部122に搬送され、排紙ユニット192内で多数重ねられた状態となった際にブロッキング(固着)を防止する。
【0054】
さらに、これらに続いて排紙部122が設けられている。排紙部122には、排紙ユニット192が設置される。定着部120の定着ドラム184から排紙ユニット192までの間に、渡し胴194、搬送チェーン196が設けられている。搬送チェーン196は、張架ローラ198に巻き掛けられている。定着ドラム184を通過した記録媒体Pは、渡し胴194を介して、搬送チェーン196に送られ、搬送チェーン196から排紙ユニット192へと受け渡される。
【0055】
また、図1には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100は、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体Pの位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0056】
<各部の詳細>
【0057】
図2に、本実施形態のインクジェット記録装置100の主要部である処理液付与部114、描画部116、乾燥部118及び定着部120を拡大して示し、本発明に係るインクジェット記録装置についてさらに詳しく説明する。
【0058】
図2に示すように、処理液ドラム154、中間搬送部126(第1渡し胴搬送手段)、描画ドラム170、中間搬送部128(第2渡し胴搬送手段)、乾燥ドラム176、中間搬送部130(第3渡し胴搬送手段)及び定着ドラム184が、並んで配置され、それぞれのドラムにより記録媒体Pが搬送され、搬送されるうちに処理液付与、描画、乾燥、定着が順に行われるようになっている。
【0059】
各中間搬送部(第1渡し胴搬送手段126、第2渡し胴搬送手段128、第3渡し胴搬送手段130)は、それぞれリブ付きのガイド部材127、129、131を備え、回転軸を挟んで180度対向する方向に延びたアームの先端部の保持爪(図示省略)が記録媒体Pの先端部を把持して回転軸の回りを回転し、記録媒体Pの後端部はフリーの状態で、それぞれガイド部材(127、129、131)に沿って記録媒体Pを記録面の裏面側が凸になるようにして搬送するように構成されている。
【0060】
なお、中間搬送部126、128、130は、チェーングリッパを用いて、記録媒体Pを掴んで、裏面側を凸にして搬送するように構成してもよい。
【0061】
本実施形態のインクジェット記録装置100は、記録媒体Pの記録面上に画像を記録するものであり、記録媒体Pとしては、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、所謂上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本実施形態のインクジェット記録装置100では、凝集により色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像記録が可能である。
【0062】
なお、記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられる所謂塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本実施形態のインクジェット記録装置100では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙と無機顔料を含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましく、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのがより好ましい。具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【0063】
前述したように、処理液付与部114は、記録媒体Pの記録面に処理液を付与するものである。
【0064】
処理液塗布装置156によって記録面に処理液が塗布される処理液の膜厚は、描画部116のインクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから打滴されるインクの液滴径より充分に小さいことが望ましい。例えば、インクの打滴量が2pl(ピコリットル)のときには、液滴の平均直径は15.6μmである。このとき、処理液の膜厚が大きい場合には、インクドットが記録媒体Pの表面に接触することなく、処理液内で浮遊する。そこで、インクの打滴量が2plのときに着弾ドット径を30μm以上得るためには、処理液の膜厚を3μm以下にすることが望ましい。
【0065】
処理液塗布装置156は、主として処理液容器、計量ローラ、塗布ローラによって構成されている(図示せず)。処理液容器には、処理液が貯留されており、この処理液に計量ローラの一部が浸漬される。計量ローラとしては、金属ローラ及び金属ローラ表面にセラミックコーティングを施したローラ周面に一定の線数で規則正しく多数のセルが形成されたアニロックスローラが好適に用いられる。金属ローラの材質としては鉄及びSUS等が用いられる。材質として鉄を用いた場合には、表面の親水性の向上、耐磨耗性の向上及び防錆性を向上させるため、表面にクロム等のメッキを施してもよい。アニロックスローラのセル構造としては、例えば、線数150線以上400線以下、セル深さ20μm以上75μm以下、セル容量30cm3/m2以上60cm3/m2以下のものを好適に用いることができる。計量ローラの直径は、例えば20mm以上100mm以下で形成される。
【0066】
計量ローラは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。従って、処理液容器内の処理液を計量ローラの表面に付着させ、この処理液を塗布ローラの表面に転移させることができる。計量ローラの回転方向は塗布ローラと同方向であり、ローラ外周の周速度は塗布ローラと同速、もしくは速度差を設けてもよい。速度差を設ける場合には塗布ローラの周速度に対して計量ローラの周速度を80%以上140%以下が好適に用いられる。塗布ローラと計量ローラとの周速度を調整することにより、計量ローラから塗布ローラへの転移率を調整することが可能であり、記録媒体Pへの塗布膜厚を調整することができる。
【0067】
計量ローラの表面には、計量用のドクターブレードが当接するように設けられている。ドクターブレードは、計量ローラと塗布ローラとの接触位置に対して、計量ローラの回転方向の上流側に配置され、計量ローラの表面の塗布液を掻き落として計量できるようになっている。これにより、ドクターブレードで計量された塗布液を塗布ローラに供給することができる。
【0068】
塗布ローラはEPDMやシリコンなどのゴム層を表面に有するゴムローラが好適に用いられる。塗布ローラは回動自在に支持されるとともに不図示のモータに連結され、一定の速度で回転駆動される。塗布ローラの回転方向は処理液ドラム154と同方向であり、ローラ外周の周速度も処理液ドラム154と同速度で回転する。これによって計量ローラから塗布ローラへ転移された処理液が処理液ドラム154上に保持された記録媒体Pに塗布される。
【0069】
このように、処理液塗布装置156はローラで処理液を塗布するようにしたため、処理液を均一に、かつ塗布量を少なく記録媒体Pに塗布することが可能である。また、処理液塗布装置156は、処理液塗布の搬送胴(処理液ドラム154)を汚さないようにするために、処理液塗布手段のローラを記録媒体毎に接触及び離間させるようになっていることが好ましい。処理液ドラム154は、記録媒体Pの先端を保持する保持爪で記録媒体Pを搬送する。これにより、記録媒体Pの高速搬送が可能であり、また用紙搬送ジャムの発生を低減することができる。
【0070】
なお、処理液ドラム154の外周に、その周面に対向してIRヒータ及び温風噴出しノズルを設けて、記録媒体Pに塗布された処理液を乾燥するようにしてもよい。IRヒータや温風噴出しノズルを設けた場合には、IRヒータは高温(例えば180℃)に制御され、温風噴出しノズルは高温(例えば70℃)の温風を一定の風量(例えば9m3/分)で記録媒体Pに向けて吹き付けるように構成される。このIRヒータ及び温風噴出しノズルによる加熱によって、処理液の溶媒中の水分が蒸発され、処理液の薄膜層が記録媒体Pの記録面に形成される。このように処理液を薄層化することによって、描画部116で打滴するインクのドットが記録媒体Pの記録面と接触し、必要なドット径が得られるとともに、薄層化した処理液成分と反応して色材凝集が起こり、記録媒体Pの記録面に固定する作用が得られやすい。なお、処理液ドラム154を所定の温度(例えば50℃)に制御するようにしてもよい。
【0071】
また、処理液は、描画部116で付与されるインク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含んでいる。凝集剤としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、ポリアリルアミン類であってもよい。本実施形態においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、水溶性の高い酸性物質(リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸、もしくはこれらの化合物の誘導体又はこれらの塩など)が好適に挙げられる。
【0072】
このように、凝集剤としては、水溶性の高い酸性物質が好ましく、凝集性を高め、インク全体を固定化させる点で、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましい。さらに、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。この2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、さらに3.0以下の有機酸がより好ましく、具体的には、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0073】
凝集剤で、酸性物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これにより、凝集性を高め、インク全体を固定化することができる。インク組成物を凝集させる凝集剤の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは、3〜45質量%であり、さらに好ましくは、5〜40質量%の範囲である。また、インク組成物のpH(25℃)が8.0以上であって、処理液のpH(25℃)が0.5〜4の範囲が好ましい。これにより、画像濃度、解像度及びインクジェット記録の高速化を図ることができる。
【0074】
また、処理液には、その他の添加物を分有することができる。この添加物としては、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤などの公知の添加剤が挙げられる。
【0075】
上述したように本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、処理液の付与は、塗布法に限定されず、インクジェット法や浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。なお、塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。
【0076】
なお、処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本実施形態においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体P上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の顔料及び/又は自己分散性ポリマーの粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体P上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像を得ることができる。
【0077】
また処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m2以上となる量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.2〜0.7g/m2となる量が好ましい。凝集剤は、付与量が0.1g/m2以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集剤の付与量が0.7g/m2以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0078】
処理液付与部114は、処理液ドラム154の外周面に設けられた保持手段155により記録媒体Pの先端部を保持して搬送しながら、処理液塗布装置156により、処理液を計量しつつ記録媒体Pに処理液を塗布する。
【0079】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体Pは、中間搬送部(第1渡し胴搬送手段)126によって次の描画部116へ搬送される。記録媒体Pは、第1渡し胴搬送手段126の保持爪(図示省略)によってその先端部を保持されて、記録面が内側を向き、裏面側がガイド部材127に沿って凸形状となるように搬送される。
【0080】
また、第1渡し胴搬送手段126は、その内部(回転軸付近)に熱風乾燥手段(図示省略)を有し、搬送中内側を向いている記録媒体Pの記録面(表面)側に熱風を当てて、表面に付与された処理液を乾燥させる。これにより、描画部116において記録媒体Pにインクが打滴されたとき、インク付着時における記録媒体P上での着弾インクの移動が防止される。
【0081】
描画部116の描画ドラム170は、第1渡し胴搬送手段126によって搬送されてきた記録媒体Pの先端部を、描画ドラム170外周面に設けられた保持手段171により保持するとともに、描画ドラム170外周面に設けられた吸引孔によって記録媒体Pを描画ドラム170外周面に吸着、固定して搬送する。そして、描画ドラム170の外周面に固定された記録媒体Pの、処理液が付与されている表面(記録面)に向けて、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクが打滴される。
【0082】
<描画部>
【0083】
図2に示す描画部116において、描画ドラム170上に密着保持された記録媒体Pの記録面に向かって各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体P上での色材流れなどが防止され、記録媒体Pの記録面に画像が形成されるようになっている。
【0084】
なお、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、1〜10pl(ピコリットル)が好ましく、1.5〜6plがより好ましい。また、画像のムラ、連続階調のつながりを改良する観点で、異なる液滴量を組み合わせて吐出することも有効であり、このような場合でも本発明は好適に適用される。
【0085】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定されない。
【0086】
以上のように構成された描画部116により、記録媒体Pに対してシングルパスで描画を行うことができる。
【0087】
<乾燥部>
【0088】
描画部116で画像が形成された記録媒体Pは、描画ドラム170から中間搬送部(第2渡し胴搬送手段)128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。第2渡し胴搬送手段128は、描画ドラム170から受け取った記録媒体Pを、保持爪(図示せず)によってその先端部を保持して、記録媒体Pの記録面が内側を向き、裏面側がガイド部材129に沿って凸形状となるようにして搬送する。
【0089】
なお、第2渡し胴搬送手段128は、その内部に不図示の熱風乾燥手段(乾燥手段)を有し、搬送中内側を向いている記録媒体Pの記録面側に熱風を吹き付けて、表面に打滴されたインクを乾燥させる構成とされていてもよい。これにより、インク打滴直後に、インクを乾燥することができるので、インク浸透による記録媒体Pのカックルを低減しやすくなり、乾燥部118における乾燥ドラム176における吸引拘束時の吸着皴の発生を抑止しやすくなる。
【0090】
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム176、及び乾燥ドラム176の外周面に対向する位置にIRヒータ等とファンの組み合わせを複数配置した熱風乾燥手段182が構成されている。
【0091】
また、乾燥ドラム176の外周に対向して、複数の熱風乾燥手段182の(乾燥ドラム176の回転方向の)上流側に送風手段180(吸着補助手段)が設けられている。
【0092】
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体Pの先端を保持できるようになっている。また、乾燥ドラム176は、その外周面に複数の吸引孔を有し、負圧により記録媒体Pを乾燥ドラム176外周面に吸着し、密着するように拘束して搬送する。このように乾燥ドラム176に拘束された記録媒体Pに対して、熱風乾燥手段182の熱風噴出ノズルから熱風を当てて記録媒体Pを乾燥する。
【0093】
これにより、カックルの発生が防止される。また、記録媒体Pを乾燥ドラム176外周面に密着させることで、熱風乾燥手段182に記録媒体Pが接触することによるジャムの発生や用紙燃えを防止することができる。
【0094】
熱風乾燥手段182の熱風噴出しノズルは、所定の温度に制御された温風を一定の風量で記録媒体Pに向けて吹き付けるように構成され、IRヒータは、それぞれ所定の温度に制御される。これらの熱風噴出しノズル及びIRヒータによって、乾燥ドラム176に保持された記録媒体Pの記録面に含まれる水分が蒸発され、乾燥処理が行われる。その際、乾燥部118の乾燥ドラム176は、描画部116の描画ドラム170に対して構造上分離しているので、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yにおいて、熱乾燥によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの不吐出を低減することができる。また、乾燥部118の温度設定に自由度があり、最適な乾燥温度を設定することができる。
【0095】
なお、蒸発した水分は図示を省略した排出手段によりエアとともに機外に排出することが好ましい。また、回収されたエアを冷却器(ラジエータ)などで冷却して液体として回収してもよい。
【0096】
また、乾燥ドラム176は、その外周面を所定の温度に制御することが好ましい。記録媒体Pの裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。
【0097】
乾燥ドラム176の表面温度の範囲は、50℃以上が好ましく 、より好ましくは60℃以上である。また、上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム176の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下が好ましい。
【0098】
また、乾燥ドラム176は、記録媒体Pが搬送される前に所定の温度に加熱しておくことが好ましい。乾燥ドラム176を加熱しておくことで、乾燥を促進させることができるので、画像破壊を防止するとともに、カックルを防止することができる。加熱温度は、上記乾燥ドラム176の表面温度と同じ温度範囲とすることが好ましい。
【0099】
加熱は、吸引した際の温度低下を防止するため、吸引した状態で所定の温度とすることが好ましい。また、吸引しないで加熱を行う場合は、吸引した際の温度低下を考慮して、所定の温度より高い温度になるように加熱することが好ましい。また、記録媒体Pの記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体Pの記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体Pの皺や浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0100】
また、熱風乾燥手段182の上流側に設けられた送風手段180(吸着補助手段)は、乾燥ドラム176への記録媒体Pの吸着を補助するためのものである。送風手段180は、記録媒体P後端側に向かって斜め方向に送風し、記録媒体P幅方向の端部側に向かって斜めに当てるようにし、さらに後端で風力が大きくなるように制御する。これにより、記録媒体P後端での用紙浮きが防止されるとともに、記録媒体Pの吸着皺を取り、均一乾燥と均一吸着を可能とする。このように送風手段180という記録媒体Pに対して非接触な吸着補助手段を用いることで、接触手段を用いて吸着補助を行った場合に、記録媒体Pのまだ乾燥していないインクが接触手段に転写されて画像不良が発生するのを防止することができる。
【0101】
乾燥ドラム176の吸引力は(開口面積)×(単位面積あたりの圧力)で表すことができる。吸引力は、記録媒体吸着保持領域における吸引孔の占める面積、すなわち、開口率を高くすることで吸引力をより高くすることができる。
【0102】
また、乾燥ドラム176の外周面に設けられた吸引孔の開口率は、乾燥ドラム176外周面と記録媒体Pとの接触面積に対して、1%以上75%以下であることが好ましい。これは、開口率が1%未満であると、記録後の吸水による記録媒体Pの膨張変形を充分に抑止することができず、また、乾燥ドラム176自体も温まっており記録媒体Pはこれに接することによっても乾燥が促進されるが、開口率が75%を超えると、記録媒体Pの裏面と乾燥ドラム176外周面との接触面積が低下するため、記録媒体Pを吸着保持した状態であっても充分な乾燥性能を得ることができず、カックルも悪化する虞がある。
【0103】
従って、乾燥ドラム176の外周面における吸引孔の開口率を1%以上75%以下とすることで、カックルの抑制防止及び乾燥性能の向上を図ることができる。
【0104】
なお、開口率は、吸引孔の径、孔ピッチ、孔の形状及び配置により設定される。孔径は、0.4mm以上、また負圧吸引による記録媒体Pの凹み痕(吸着痕)がつかないように、1.5mm以下に設計することが好ましい。孔ピッチは、乾燥ドラム176外周面の熱変形の防止や剛性確保のため、0.1mm以上5mm以下が好ましい。孔の間隔があまり離れすぎると記録媒体の変形抑止効果が不足し、皺の発生をそれほど抑制できないからである。また、吸引孔の形状は、角(鋭角)形状があると、角部に応力が集中するので、角部を丸めた形状が好ましい。
【0105】
また、回転搬送体では、吸着圧力による記録媒体Pの変形量は周方向よりも軸方向の方が大きくなる。従って、吸引孔は、周方向を長軸方向、軸方向を短軸方向とした楕円形状又は長穴形状とすることで、記録媒体Pの周方向の変形と軸方向の変形を均等にすることもできる。
【0106】
また、乾燥ドラム176の外周面に、記録媒体Pの記録面が外側を向くように(すなわち、記録媒体Pの記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体Pの皺や浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0107】
各熱風乾燥手段182の上側にはこれらを覆うように、また熱風乾燥手段182から吹き出された熱風が再度乾燥ドラム176側に向かうように整流板181が形成される。このときさらに各熱風乾燥手段182の乾燥ドラム176回転方向下流側にガイド板183を設けて、各熱風乾燥手段182から吹き出され一度乾燥ドラム176表面にあたった熱風が流れ、再び乾燥ドラム176側に向かって流れるようにするとよい。このように整流板181を設けることにより、熱効率を向上させるとともに、排気性の向上をも図ることができる。
【0108】
また、乾燥部118内には温度センサ(図示せず)および湿度センサ82が設けられており、検出された温度および湿度は図示しない制御部にデータとして送られる。この温度および湿度情報に基づいて熱風乾燥手段182のON/OFFあるいは風量を制御する構成とされていてもよい。加えて、記録媒体P上に吐出されたインクの総量、すなわち吐出密度を熱風乾燥手段182の制御に用いてもよい。吐出密度は記録媒体P1枚当たりのインク吐出量であり、記録される画像やパターンなどの内容からデータとして算出することができる。
【0109】
<定着部>
【0110】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体Pは、乾燥ドラム176から中間搬送部(第3渡し胴搬送手段)130を介して定着部120の定着ドラム184に受け渡される。
【0111】
定着ドラム184は、第3渡し胴搬送手段130から記録媒体Pを受け取ると、定着ドラム184の外周面に設けられた保持手段185で記録媒体Pの先端部を保持して記録媒体Pを外周面に巻きつけて搬送する。
【0112】
定着ドラム184の外周面に巻きつけられて搬送される記録媒体Pは、定着ドラム184に対向して配置された押圧ローラ(平滑化手段)188により加圧され、定着ドラム184に押しつけられてカールが矯正され皺が取り除かれる。
【0113】
押圧ローラ188は、定着ドラム184に対して圧接するように配置されており、定着ドラム184との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体Pは、押圧ローラ188と定着ドラム184との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、平滑化処理が行われる。
【0114】
また、押圧ローラ188は、加熱ローラであってもよい。例えば、押圧ローラ188を、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラとして構成し、所定の温度(例えば、60〜80℃)で制御するようにしてもよい。この加熱ローラとして構成した押圧ローラ188で記録媒体Pを加熱するとともに押圧することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融され、記録媒体Pの画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0115】
<マット剤塗布部>
【0116】
図3には本実施形態に係るマット剤塗布部が示されている。本願発明のマット剤供給方式では、メインタンク82中に貯留され攪拌オーガ81で攪拌されるマット剤200を、供給部84内のマット剤残量に応じて、補充バルブ83の開閉によって供給部84に補充する。供給部84のマット剤200は、供給オーガ85Aによって図中手前/奥方向に搬送し、85Bによって図中奥/手前に搬送され循環供給される。
【0117】
マット剤200としては、例えばアクリル樹脂粉末、澱粉粉末、PVAなど種々の素材が考えられるが、平均粒径5〜50μm程度の粉末が好適であり、さらに望ましくは平均粒径10〜30μm程度の粉末を好適に使用することができる。
【0118】
供給部84内のマット剤200は計量部86に供給され、計量ブレード87Aにより計量ローラ87Bの表面のマット剤200の供給量を計量され、スリット部87Cで所定量のマット剤200は直下に設けられた付与ローラ88に計量供給される。
【0119】
ここで、計量ローラ87Bの素材には例えば単泡のスポンジゴムが適しており、単泡のサイズはマット剤200の平均粒径の5〜100倍程度が適している。すなわち発明者らは単泡のスポンジゴムを用いることにより、スリット部87Cで押圧されることによって単泡が変形拡充され、単泡内に充填された所定量のマット剤200が計量供給され、単泡のサイズがマット剤200の平均粒径に対して5倍未満の場合は相対的に単泡(孔)が小さすぎるため単泡内にうまく充填できず、単泡が100倍を超えるサイズの場合は相対的に単泡が大きすぎるためマット剤200の粒子を単泡内に保持する保持力が不足し、スリット87Cに到達する前にマット剤200が脱落してしまうという知見を実験により得ている。
【0120】
すなわち官能評価の結果を図6に表で示すように、単泡のサイズがマット剤200の平均粒径に対して5倍未満の場合はマット剤200の平均粒径によらず相対的に単泡(孔)が小さすぎるため単泡内にうまく充填できず、反対に単泡が100倍を超えるサイズの場合は相対的に単泡が大きすぎるためマット剤200の粒子を単泡内に保持する保持力が不足し、こちらもうまく充填できないため、単泡のサイズはマット剤200の平均粒径の5〜100倍程度に収める必要がある。
【0121】
また、連泡のスポンジゴムを使用すると、内部で連通している孔にマット剤200が徐々に充填され、安定に所定量の供給が出来ないという知見も得られている。
【0122】
単泡のサイズがマット剤200の平均粒径の5〜100倍の範囲内であればスリット87Cからマット剤200が解された状態で付与ローラ88に供給される。また単泡の密度は30μm径であれば2〜3個/平方mm、10μm径であれば10個/平方mm程度が望ましい。
【0123】
付与ローラ88の表面に供給されたマット剤200は圧胴(図3中では定着ドラム184)上の記録媒体Pに転写付与される。ここで、印刷物(記録媒体P)の画像部は画像を形成しているインク膜の粘着力により、付与ローラ88からマット剤200が転写されるのに対し、非画像部では表面の粘着力が付与ローラ88の表面よりも小さいので、付与ローラ88からマット剤200が転写することがない。これによりマット剤200は記録媒体Pの画像部に対して選択的に付与される。さらに、付与ローラ88で押圧しているためマット剤200がインク膜にめり込んだ状態で保持されるため、裏面印刷する際にもマット剤200が脱離することがない。
【0124】
図4に示すように、付与ローラ88の構造はゴムローラ88Bの外周面をPFAなどのフッ素樹脂からなるフィルム88Aで被覆され、弾性などの物性をゴムローラ88Bで、表面粗さや表面エネルギーなどの表面物性をフィルム88Aで決定することで、単一素材による単ローラでは実現困難な各種パラメータを備えたものとする。
【0125】
ここで付与ローラ88には表面粗さRa(算術平均粗さ)が好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下の平滑さを備え、かつ表面エネルギー(表面張力)が小さいフッ素フィルム巻きローラなどが好ましい。
【0126】
図5に示すように付与ローラ88の表面粗さRa(μm)、表面エネルギー(mN/m)の組み合わせにより決まる表面物性が、付与ローラ88の表面に保持されるマット剤200の保持性および剥離性を決定し、結果として記録媒体Pが排紙ユニット192内で多数重ねられた状態となった際にブロッキング(固着)を起こさない指標であるスタッカーブロッキング性能を決定している。
【0127】
これにより付与ローラ88の表面粗さRa(μm)、表面エネルギー(mN/m)はそれぞれ1.0(μm)、80(mN/m)が望ましく、より好ましくはそれぞれ0.5(μm)、50(mN/m)がよいことが解る。
【0128】
また、印刷部分の非画像部に相当する箇所に転写されなかったマット剤202はクリーニング部90により回収され、回収されたマット剤202は再利用される。クリーニング部90ではクリーニングブレード92によって付与ローラ88の表面からマット剤200が掻き落とされる。掻き落とされたマット剤200は吸引部94により吸引され、メインタンク82に再び回収される。クリーニングブレード92のブレード材は付与ローラ88の表面を傷つけることなく、マット剤202を掻き落とせるものであれば特に限定はないが、樹脂ブレード、ゴムブレード等が好適に使用することが出来る。
【0129】
<まとめ>
【0130】
以上説明したように、本実施形態においては、表面に単泡スポンジゴムなどの単泡を備えた計量ローラ87Bでマット剤200を計量し、付与ローラ88で記録媒体Pの表面に押圧付与される構成としたため、以下のような効果を奏する。
【0131】
すなわち、粉体のマット剤200を計量ローラ87Bの表面に形成されている単泡の孔で計量して付与ローラ88に供給することで、余剰なマット剤200が記録媒体Pや近傍箇所に付着し、飛散することを防止できる。特に本実施形態のように記録媒体Pに前処理として処理液を塗布する場合、処理液へのマット剤200の混入を効果的に防止することができる。
【0132】
さらにマット剤200が粉体であるため、分散液を噴霧する方式に比較して装置内部での拡散を防止し、また塗布後の乾燥工程なども必要なく、装置構成を単純かつ低コストなものとすることができる。また同様に、粉体を吹き付ける方式と比較しても付与ローラ88による押圧付与であるため装置内部でのマット剤200の拡散を防止できる。
【0133】
すなわち、インクジェット記録装置においてはインクの液滴を記録媒体Pに対して吐出する必要上、記録媒体Pはインクの溶媒/分散媒である液体(水など)を吸収して濡れており、特に高速処理を必要とされる場合は乾燥段階の負荷が大きくなる虞がある。記録媒体Pの乾燥不良に起因するスタッキングを防止すると同時に、記録媒体Pの乾燥性を阻害しないためには更なる液体を噴霧することを避け、粉体のマット剤200を塗布することで特に乾燥工程への負荷を増大させずにスタッキング性能を向上させることができる。
【0134】
また計量ローラ87Bの表面の孔が単泡でマット剤200を保持する構成であるため、使用中に計量精度が劣化する虞がない。例えば表面の孔が連泡であった場合、孔同士が内部で連通しているため使用に従って表面の孔で保持されるマット剤200の量が増加してゆき、次第に正確な計量が難しくなる虞があるが、表面の孔が単泡であれば保持されるマット剤の量は変動しないので、安定して正確な計量を行うことができる。
【0135】
さらに、記録媒体Pの画像部に付与されるマット剤200は付与ローラ88によって押圧付与されているため、画像部に密着し、後工程で脱落することが少なく、脱落したマット剤200による装置内や他の記録媒体Pへの汚染を防止することが可能となる。
【0136】
<その他>
【0137】
以上、本発明の実施例について記述したが、本発明は上記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0138】
例えば上記実施形態ではマット剤供給装置を定着部120の下流に設置する構成を例に挙げたが、インク膜が付与ローラに接触しても転写しない状態であれば、乾燥部118の下流に設置する構成でも構わない。また、熱可塑性樹脂と色材とを含んだ水性インクを用いたインクジェット記録装置の構成を例に挙げたが、これに限定せず例えば紫外線硬化インクを用いた構成、及び普通紙に通常のインクを吐出するインクジェット方式の構成であれば本発明の実施形態が適用される機構とされていてもよい。
【符号の説明】
【0139】
80 マット剤供給装置
100 インクジェット記録装置
112 給紙部
114 処理液付与部
116 描画部
118 乾燥部
120 定着部
122 排紙部
154 処理液ドラム
170 描画ドラム
172 インクジェットヘッド
180 送風手段
182 熱風乾燥手段
184 定着ドラム
190 紫外線光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体としてのマット剤を計量する計量手段と、
前記計量手段より外周面に供給された前記マット剤を記録媒体表面に押圧付与する付与ローラと、を備え、
前記計量手段は外周面の微小孔に前記マット剤を保持する単泡ゴムローラと、前記単泡ゴムローラの表面をスクイーズするブレードとを備えたことを特徴とするマット剤塗布装置。
【請求項2】
前記付与ローラの外周面は平滑性Ra1μm以下、且つ表面エネルギー80mN/m以下であることを特徴とする請求項1に記載のマット剤塗布装置。
【請求項3】
前記付与ローラは外周面をPFAフィルムで被覆されたゴムローラであることを特徴とする請求項2に記載のマット剤塗布装置。
【請求項4】
前記単泡ゴムローラの外周面の微小孔径であるポアサイズが前記マット剤の平均粒径の5〜100倍であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のマット剤塗布装置。
【請求項5】
前記付与ローラの外周面に当接し、前記付与ローラの外周面より、前記記録媒体表面に付与されなかったマット剤を掻き落とすクリーニングブレードと、
前記クリーニングブレードが掻き落としたマット剤を吸引除去する吸引手段と、からなるクリーニング部を備えた
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のマット剤塗布装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のマット剤付与装置を備えたインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171186(P2012−171186A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34933(P2011−34933)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】