説明

マット材および排気ガス処理装置

【課題】表裏面にシート材が設置されたマット材において、巻き付け性が改善され、さらに巻き回しの際に、高い位置合わせ精度で嵌合部を形成することが可能なマット材を提供する。
【解決手段】本発明では、無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材であって、前記第1のシート材および第2のシート材は、同じ引張荷重で比較した場合、当該マット材の長手方向における伸び量が異なることを特徴とするマット材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維を含むマット材に関し、特に、車両等の排気ガス処理装置に使用されるマット材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の台数は、今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して、自動車の内燃機関から排出される排気ガスの量も急激な増大の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では、世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。
【0003】
このような事情の下、各種排気ガス処理装置が提案され、実用化されている。一般的な排気ガス処理装置は、エンジンの排気ガスマニホールドに連結された排気管の途上に筒状部材(ケーシング)を設け、その中に、排気ガスの入口および出口用の開口面を有し、内部に微細な気孔を多数有する排気ガス処理体を配置した構造となっている。排気ガス処理体の一例としては、触媒担持体、およびディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等の排気ガスフィルタがある。例えばDPFの場合、上述の構造により、排気ガスが排気ガス処理体の入口開口面から出口開口面を通って排出される間に、気孔の周囲の壁に微粒子がトラップされ、排気ガス中から微粒子を除去することができる。
【0004】
このような排気ガス処理体とケーシングの間には、通常保持シール材が設置される。保持シール材は、車両走行中等における排気ガス処理体とケーシングの当接による破損を防ぎ、さらにケーシングと排気ガス処理体との隙間から排気ガスがリークすることを防止するために用いられる。また、保持シール材は、排気ガスの排圧により排気ガス処理体が脱落することを防止する役割を有する。さらに排気ガス処理体は、反応性を維持するため高温に保持する必要があり、保持シール材には断熱性能も要求される。これらの要件を満たす部材としては、アルミナ系繊維等の無機繊維を含むマット材がある。
【0005】
このマット材は、排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き付けられ、端部同士を嵌合させたり、テーピングしたりすることにより、排気ガス処理体と一体固定化され、保持シール材として機能する。その後、この一体品は、ケーシング内に圧入されて排気ガス処理装置が構成される。
【0006】
なお、マット材は、微細な無機繊維を多量に含んでおり、その表面は、無機繊維が露出された状態となっている。このような無機繊維は、作業環境性を悪化させる要因となる。例えば、作業者が排気ガス処理装置を製作するため、マット材を排気ガス処理体に巻き回すときなど、マット材のハンドリングの際に、これらの無機繊維は、周囲に容易に飛散してしまう。
【0007】
そこでこのようなハンドリング時の無機繊維の飛散の問題を軽減するため、マット材の表裏面に樹脂フィルムを設置したマット材が提案されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平8−61054号公報
【特許文献2】特開2003−293756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2のような、マット材の表裏面に樹脂フィルムを設置したマット材を、排気ガス処理装置の保持シール材として使用しようとした場合、以下の問題が生じ得る:
(1)通常、樹脂フィルムは、伸縮性を有している。従って、樹脂フィルムが表裏面に設置されたマット材を排気ガス処理体に巻き回そうとして、マット材の長手方向に張力を負荷した場合、その力に相関した抵抗力(復元力)が生じる。この抵抗力のため、マット材の巻き付け性(巻き付け易さ)が低下する。
(2)通常、保持シール材を排気ガス処理体に巻き回した場合、保持シール材の厚さに起因して、保持シール材の外周と内周の間には周長差が生じる。しかしながら、樹脂フィルムが表裏面に設置されたマット材では、張力負荷時に外周側と内周側に一様な伸びが生じ易くなるため、マット材全体で、そのような周長差を緩和することは難しい。従って、巻き付け後のマット材において、嵌合部(マット材の巻回方向における第1の端面と第2の端面の合わせ部)が必要以上に重なったり、逆に十分な嵌合ができなくなるという問題が生じ得る。すなわち、高い位置合わせ精度で保持シール材の嵌合部を形成することは難しい。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、表裏面にシート材が設置されたマット材において、巻き付け性が改善され、さらに巻き回しの際に、高い位置合わせ精度で嵌合部を形成することが可能なマット材を提供することを目的とする。また、そのようなマット材を保持シール材として備える排気ガス処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材であって、
前記第1のシート材および第2のシート材は、同じ引張荷重で比較した場合、当該マット材の長手方向における伸び量がそれぞれ異なることを特徴とするマット材が提供される。
【0011】
また、本発明では、無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材であって、
前記第1および第2のシート材は、それぞれの面内で伸び異方性を有し、
シート材の面内において、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、最小となる方向を易伸び方向とし、最大となる方向を難伸び方向としたとき、
前記第1のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdA(0<θdA≦90゜)であり、前記第2のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdB(0<θdB≦90゜)であり、
当該マット材の長手方向に対して、前記第1のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdA)と、当該マット材の長手方向に対して、前記第2のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdB)との間には、θ/θdA/θdBの関係が成立することを特徴とするマット材が提供される。
【0012】
ここで、当該マット材は、θdif=(θ/θdB)−(θ/θdA)で表される規格化された角度差θdifが、0.25<θdif≦1の範囲にあることが好ましい。
【0013】
また、前記第1のシート材は、実質的にθ=0(ゼロ)であっても良い。
【0014】
また、前記第1のシート材は、θdA=90゜またはθdA=45゜であっても良い。
【0015】
また、前記第1および第2のシート材において、実質的にθdA=θdBであっても良い。
【0016】
特に、前記第1のシート材と前記第2のシート材は、同一のシート材であっても良い。
【0017】
また、前記第1および/または前記第2のシート材は、実質的に、前記マット材の第1および/または第2の表面の全面に設置されていても良い。
【0018】
前記第1および/または前記第2のシート材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびこれらの混合物からなる群から選定された材料で構成されても良い。
【0019】
さらに、当該マット材は、無機結合材および/または有機結合材を有しても良い。
【0020】
また、本発明では、
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き回して使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材で構成され、
前記第1および第2のシート材は、それぞれの面内で伸び異方性を有し、
シート材の面内において、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、最小となる方向を易伸び方向とし、最大となる方向を難伸び方向としたとき、
前記第1のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdA(0<θdA≦90゜)であり、前記第2のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdB(0<θdB≦90゜)であり、
前記保持シール材の巻回方向に対して、前記第1のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdA)と、前記保持シール材の巻回方向に対して、前記第2のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdB)との間には、θ/θdA/θdBの関係が成立し、
前記保持シール材は、前記第2の表面が前記排気ガス処理体の外周面と接触するようにして、前記排気ガス処理体に巻き回されることを特徴とする排気ガス処理装置が提供される。
【0021】
ここで、前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、マット材の巻き付け性が改善され、さらに巻き回しの際に、高い位置合わせ精度で嵌合部を形成することが可能なマット材を提供することが可能となる。また、そのようなマット材を保持シール材として備える排気ガス処理装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0024】
図1には、本発明によるマット材の形態の一例を示す。また図2には、本発明に係るマット材を保持シール材として含む排気ガス処理装置の分解構成図を示す。
【0025】
本発明によるマット材30は、図1に示すように、長辺(X方向に平行な辺)と短辺(Y方向に平行な辺)を有し、実質的に矩形状となるように形成される。短辺70および71には、それぞれ嵌合凸部50および嵌合凹部60が設置されている。また、短辺71の嵌合凹部60に隣接する位置には、2つの凸部61が形成されている。ただし本発明のシート材の短辺70、71は、図1の形状に限られるものではなく、例えば、図のような嵌合部を全く有さないものや、各短辺が、それぞれ、嵌合凸部50および嵌合凹部60を複数有するもの等も使用できる。なお、本願において、「実質的に矩形状」とは、図1に示すような、短辺に1組の嵌合凸部50と嵌合凹部60を有する矩形を含む概念である。さらに、「実質的に矩形状」には、長辺と短辺の交差するコーナー部が、90゜以外の角度を有する形状(例えば、曲率を有するもの)も含まれる。
【0026】
また、マット材30は、多数の無機繊維を含むマット基部340を有し、該マット基部340の第1の表面210(マット材30の第1の表面でもある)および第2の表面260(マット材30の第2の表面でもある)には、それぞれ、第1および第2のシート材310、360が設置されている。一般にマット基部340は、微細な無機繊維(通常、直径約3μm〜8μm程度)を多量に含んでいる。しかしながら、本発明によるマット材30は、第1および第2の表面210、260に、それぞれ第1および第2のシート材310、360を有しているため、ハンドリングの際の両表面210、260からの無機繊維の飛散を有意に抑制することができる。
【0027】
このマット材30は、排気ガス処理装置の保持シール材24として使用する場合、長辺方向が巻回方向(X方向)となるようにして使用される。またマット材30が、保持シール材24として触媒担持体等の排気ガス処理体20に巻き付けられた際には、図2に示すように、マット材30の嵌合凸部50と嵌合凹部60が嵌合され、マット材30が排気ガス処理体20に固定される。その後、保持シール材24が巻き回された排気ガス処理体20は、圧入等により、金属等で構成された筒状のケーシング12内に圧入され、装着される。
【0028】
再度図1を参照すると、本発明によるマット材30では、第1および第2のシート材は、いずれも「伸び異方性シート材」で構成されている。ここで、本願では、「伸び異方性シート材」、あるいは「伸びに異方性のある(を有する)シート材」という表現は、面内に伸び異方性を有するシート材であって、面内の「易伸び方向」Dmaxと「難伸び方向」Dminの間で、伸び値(5%公称歪みでの値)に10%以上の差異があるシート材を意味することに留意する必要がある。また、「易伸び方向」Dmaxとは、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、シート材の面内において最小となる方向を言い、「難伸び方向」Dminとは、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、シート材の面内において最大となる方向を言う。
【0029】
なお、このような「易伸び方向」Dmaxおよび「難伸び方向」Dminは、シート材を単独で両端側から引っ張った際に得られる、公称歪み5%における引張荷重の値を、0゜〜180゜まで角度を変えて測定することにより、決定することができる。例えば、あるシート材(長さL、幅W、厚さt)に対して、長さLの方向に引張荷重F(N)を加え、シート材を両端側から引っ張ると、シート材は、引っ張り方向に伸張する。そこで、シート材の伸張後の長さをLとしたとき、シート材が公称歪み(L−L)/L=5%となるまで伸びた際の、{F(N)/((L−L)/L)}値を測定する。このような測定を、例えば1゜間隔で引張方向を変化させて、0゜〜180゜まで実施することにより、そのシート材の面内の「易伸び方向」Dmaxおよび「難伸び方向」Dminを決定することができる。
【0030】
ここで、本発明のマット材に使用される第1および第2のシート材310、360は、面内において伸び異方性を示す限り、易伸び方向(Dmax)と難伸び方向(Dmin)のなす角度差θは、いかなる値であっても良い。ただし、本願において、θは、0゜<θ≦90゜として定義する(θ=0゜は、異方性のないシート材に相当する)。また、0゜<θ≦90゜の範囲に、複数のDmaxまたはDminが存在する場合、θは、両者の成す角度のうち最小の角度として定義する。
【0031】
図3および図4には、本発明に使用され得る伸び異方性シート材において、易伸び方向と難伸び方向の関係を模式的に示したものである。
【0032】
図3には、面内において易伸び方向Dmax(太線で示す方向)と難伸び方向Dmin(破線で示す方向)のなす角度θが90゜であるシート材が示されている。この場合、Dmax、Dminは、面内に一つずつ存在する。
【0033】
一方、図4には、Dmax(太線で示す方向)とDmin(破線で示す方向)のなす角度θが45゜であるシート材が示されている。従って、図5のシート材の場合、DmaxおよびDminは、面内において、それぞれ2方向ずつ存在する。この他、図には示さないが、面内においてDmaxとDminのなす角度θが、例えば、30゜または15゜であるようなシート材を使用しても良い。これらのシート材の場合、Dmax(およびDmin)は、面内にそれぞれ、3つおよび6つ存在する。
【0034】
また、本発明によるマット材30では、マット材30の長手方向(図1のX方向)に対する第1のシート材310の易伸び方向の成す角度をθとし、マット材30の長手方向に対する第2のシート材360の易伸び方向の成す角度をθとした場合、θ/θdA/θdBとなっている。なお、θdAは、第1のシート材における易伸び方向Dmaxと難伸び方向Dminの成す角度であり、θdBは、第2のシート材における易伸び方向Dmaxと難伸び方向Dminの成す角度である。また、0゜≦θ≦θdA、0゜≦θ≦θdBである。なお本願において、マット材の「長手方向」という用語は、実質的に矩形状のマット材に対してのみ使用されるわけではないことに留意する必要がある。例えば、実質的に正方形状のマット材の場合、いずれか一方の辺に沿った方向がマット材の「長手方向」となる。
【0035】
ここで、シート材の易伸び方向Dmax、難伸び方向Dmin、および両者の成す角θ(すなわちθdA、θdB)の関係について、より詳しく説明する。図5は、第1のシート材について、前述のパラメータの関係を示した図である。ただし、図において、θ、θdAの記号をそれぞれθ、θdBとすることにより、第2のシート材においても同じことが言えることに留意する必要がある。
【0036】
第1のシート材としてθdA=90゜の伸び異方性シート材を使用した場合、第1のシート材のθは、マット材の第1の表面への第1のシート材の設置の方向によって、例えば、図5のI−1〜3に示すように変化する。すなわち、第1のシート材の易伸び方向Dmaxがマット材の長手方向と平行な場合は、θ=0となり、θ/θdA=0となる(I−1)。また、第1のシート材の易伸び方向Dmaxがマット材の長手方向に対して45゜の角度をなす場合は、θ=45゜となり、θ/θdA=0.5となる(I−2)。さらに、第1のシート材の難伸び方向Dminがマット材の長手方向と平行な場合は、θ=90゜となり、θ/θdA=1となる(I−3)。
【0037】
同様に、第1のシート材としてθdA=45゜の伸び異方性シート材を使用した場合、第1のシート材のθは、マット材の第1の表面への第1のシート材の設置の方向によって、例えば、図5のII−1〜3に示すように変化する。すなわち、第1のシート材の易伸び方向Dmaxのうちの一つがマット材の長手方向と平行な場合は、θ=0となり、θ/θdA=0となる(II−1)。また、第1のシート材の易伸び方向Dmaxのうちの一つがマット材の長手方向に対して22.5゜の角度をなす場合は、θ=22.5゜となり、θ/θdA=0.5となる(II−2)。さらに、第1のシート材の難伸び方向Dminのうちの一つがマット材の長手方向と平行な場合は、θ=45゜となり、θ/θdA=1となる(II−3)。
【0038】
従って、図5の位置関係において、前述のθ/θdA/θdBとは、例えば、マット材の第1の表面に第1のシート材がI−1の状態で設置されている場合には、第2のシート材がマット材の第2の表面に、I−2、I−3、II−2またはII−3の態様で設置された状態を表していることになる。また、マット材の第1の表面に第1のシート材がI−2の状態で設置されている場合には、第2のシート材がマット材の第2の表面に、I−3の態様で設置された状態を表していることになる。さらに、マット材の第1の表面に第1のシート材がII−2の状態で設置されている場合には、第2のシート材がマット材の第2の表面に、I−2、I−3またはII−3の態様で設置された状態を表していることになる。なお、以上の説明は、本発明の構成を分かり易く説明するための一例であって、本発明では、例示したシート材の配置以外にも、様々な配置が可能であることは明らかであろう。
【0039】
ここで、第1および第2の表面に伸び異方性を有さないシート材を備えた従来のマット材では、ハンドリングの際に、以下の問題が生じ得る。
(1)通常、シート材に使用される樹脂フィルムは、全方向に対して均一な伸縮性を有する。また、そのようなシート材が表裏面に設置されたマット材を排気ガス処理体に巻き回そうとして、マット材の巻回方向に張力を負荷した場合、反対方向に、その力に対する抵抗力(復元力)が生じる。この抵抗力の影響により、両面にシート材を有するマット材では、シート材を有さないマット材に比べて、マット材の巻き付け性(巻き付け易さ)が低下する。
(2)通常、マット材を排気ガス処理体に巻き回した場合、マット材の厚さに起因して、マット材の外周面と内周面の間には周長差が生じる。しかしながら、従来のシート材が表裏面に設置されたマット材では、張力負荷時に外周側と内周側に、比較的均一な伸びが生じ易くなるため、マット材全体で、そのような周長差を緩和することは難しい。従って、巻き付け後のマット材において、嵌合凸部50と嵌合凹部60の嵌合部が必要以上に重なったり、逆に十分な嵌合ができなくなるという問題が生じ得る。従って、全方向に対して均一な伸縮性を有するシート材を両面に有する従来のマット材では、高い精度で嵌合部を形成することは難しい。
【0040】
これに対して、本発明によるマット材では、面内において伸び異方性を有するシート材が、第1および第2のシート材310、360として使用されている。例えば、図1の例では、第1の表面210には、易伸び方向(Dmax)と難伸び方向(Dmin)のなす角度差θdAが90゜であるシート材310が使用されている。同様に、第2のシート材260には、易伸び方向(Dmax)と難伸び方向(Dmin)の角度差θdBが90゜であるシート材360が使用されている。さらに、本発明によるマット材では、θ/θdA/θdBとなっている。例えば、図1の例では、実質的に、θ=0゜、θ=90゜となっている。従って、本発明によるマット材では、以下に示すような有意な効果を得ることができる。
【0041】
図6は、本発明によるマット材を保持シール材として使用する際に生じる特徴を示した図である。より具体的には、この図には、マット材30の長手方向(図1のX方向)に沿って張力を加えて、マット材30を排気ガス処理体20に巻き回す際に、マット材30の第1および第2の表面210、260のそれぞれの側に生じる抵抗力(復元力)の状態が示されている。
【0042】
前述のような伸び異方性シート材310、360を、θ/θdA/θdBとなる状態で、それぞれマット基部340の第1および第2の表面210、260に設置した本発明によるマット材の場合、第1の表面210では、実際のマット材30の巻回方向は、第1のシート材310の易伸び方向と比較的接近した状態にある。これに対して、第2の表面260では、実際のマット材30の巻回方向と、第2のシート材360の易伸び方向とは、より離れた状態にある。従って、このマット材30を保持シール材24として使用し、特に、第1の表面210が保持シール材24の外周側となるようにして、マット材30を排気ガス処理体20に巻回した場合、マット材30に一定の張力Pを加えたとしても、マット材30の外周面側で張力Pによって生じる抵抗力(復元力)Routは、内周面側で生じる抵抗力(復元力)Rinに比べて、より低下することになる。従って作業者は、マット材を排気ガス処理体20に比較的容易に巻き回すことができるようになり、従来の異方性のないシート材を両面に設置したマット材に比べて、マット材の排気ガス処理体20に対する巻き付け性を向上させることが可能となる。
【0043】
また、これに関連するが、本発明のマット材30を用いた保持シール材24では、第1のシート材310が設置された側と、第2のシート材360が設置された側において、巻回方向での伸び性が異なっており、すなわち、巻回方向に対しては、第1の表面210側は、第2の表面260側よりも伸びやすい状態(すなわち、一定張力で比較した場合、より大きく伸びる状態)となっている。このため、第1の表面210側が保持シール材24の外周面となるようにして、マット材30を排気ガス処理体20に巻き回した場合、マット材30に一定の張力を加えた場合であっても、外周面側が内周面側に比べてより伸びやすく、逆に、内周面側は、外周面側に比べて伸びにくくなる。従って、巻き付け作業の際に、作業者が特別な処置を行わなくても、保持シール材24の周長差の影響を有意に緩和することができる。さらに、排気ガス処理体20に対して、マット材をより安定した状態で巻き回すことが可能となり、嵌合部の位置合わせ精度を高めることが可能になる。
【0044】
なお、前述のθ(マット材30の長手方向に対する第1のシート材の易伸び方向の成す角度)、θ(マット材30の長手方向に対する第2のシート材の易伸び方向の成す角度)、およびθdA(第1のシート材において、易伸び方向と難伸び方向の成す角度)、θdB(第2のシート材において、易伸び方向と難伸び方向の成す角度)を用いて、(1)式により、「規格化された角度差」θdifを定義したとき、

θdif=(θ/θdB)−(θ/θdA) (1)

θdifは、0.25<θdif≦1の範囲にあることが好ましい。この場合、後述のように、マット材の嵌合部での嵌合精度がより一層高まり、信頼性の高い排気ガス処理装置を得ることができる。特に、0.5≦θdif≦1の範囲にあることがより好ましい。
【0045】
また、これに加えてまたはこれとは別に、マット材30の長手方向に対する第1の伸び異方性シート材310の易伸び方向が成す角度θは、0゜(ゼロ)にできるだけ近づけることが好ましい。特に、実質的にθ=0゜の場合、後述のように、マット材の第1の表面の曲げ強度が最も小さくなるため、マット材の巻回性がより一層改善される。
【0046】
このような本発明のマット材30に使用される第1および第2の伸び異方性シート材310、360の材質には、特に制限はなく、前述の特徴を有する限り、いかなる種類のシート材を使用しても良い。シート材には、例えば、面内で伸び異方性を示す、紙、プラスチック、不織布、薄葉紙からなる材料が含まれる。
【0047】
特に、伸び異方性シート材は、高分子系材料で構成されることが好ましい。高分子系材料の種類は、特に限られないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等、熱融着が可能な材料を含むことが特に好ましい。この場合、接着剤を使用しなくても、シート材を加熱することによって、シート材をマット材の表裏面に固着させることができる。従って、作業性が向上する上、有機成分の放出量を抑制することが可能となる。
【0048】
例えば、本発明に使用される面内伸び異方性のあるシート材には、旭化成せんい(株)の不織布(エルタス(登録商標)、スマッシュ(登録商標))、および新日石プラスト(株)社のワリフ(登録商標)等が挙げられる。
【0049】
また、本発明に使用される伸び異方性を有するシート材の厚さは、特に限られず、例えば、1μm〜1mm程度である。
【0050】
このようなマット材を保持シール材として使用した排気ガス処理装置10の一構成例を図7に示す。この図の例では、排気ガス処理体20は、排気ガスの入口と出口用の開口面を有し、ガス流と平行な方向に多数の貫通孔を有する触媒担持体である。触媒担持体は、例えばハニカム状の多孔質炭化珪素等で構成される。なお、本発明の排気ガス処理装置10は、このような構成に限られるものではない。例えば、排気ガス処理体20を貫通孔の一部が目封じされたDPFとすることも可能である。
【0051】
本発明によるマット材を排気ガス処理装置の保持シール材として使用する場合、マット材は、第1の表面210(すなわち第1のシート材310)が外周側となるようにして、すなわち、第2の表面260(すなわち第2のシート材360)が内周側となるようにして、排気ガス処理体20に巻き回される。このような排気ガス処理装置では、マット材30を保持シール材24として排気ガス処理体20に巻き回す際に、無機繊維の飛散が有意に抑制されるとともに、前述の効果により、マット材30の巻き付け性が向上する。さらに嵌合部の位置合わせ精度が向上し、信頼性の高い排気ガス処理装置10を提供することができる。
【0052】
以下、本発明のマット材30の製作方法の一例を説明する。
【0053】
まず、無機繊維からなる積層状シートを製作する。なお以下の説明では、無機繊維としてアルミナとシリカの混合物を用いるが、無機繊維材料は、これに限られるものではなく、例えばアルミナまたはシリカのみで構成されても良い。アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、例えばアルミナ−シリカ組成比が60〜80:40〜20となるようにシリカゾルを添加し、無機繊維の前駆体を調製する。特にアルミナ−シリカ組成比は、70〜74:30〜26程度であることがより好ましい。アルミナ組成比が60%以下では、アルミナとシリカから生成されるムライトの組成比率が低くなるため、完成後のマット材の熱伝導度が高くなる傾向にある。
【0054】
次にこのアルミナ系繊維の前駆体にポリビニルアルコール等の有機重合体を加える。その後この液体を濃縮し、紡糸液を調製する。さらにこの紡糸液を使用して、ブローイング法により紡糸する。
【0055】
ブローイング法とは、エアーノズルから吹き出される空気流と紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液流とによって、紡糸を行う方法である。エアーノズルからのスリットあたりのガス流速は、通常40〜200m/sである。また紡糸ノズルの直径は通常0.1〜0.5mmであり、紡糸液供給ノズル1本あたりの液量は、通常1〜120ml/h程度であるが、3〜50ml/h程度であることが好ましい。このような条件では、紡糸液供給ノズルから押し出される紡糸液は、スプレー状(霧状)となることなく十分に延伸され、繊維相互で溶着されにくいので、紡糸条件を最適化することにより、繊維径分布の狭い均一なアルミナ繊維前駆体を得ることができる。
【0056】
ここで、製作されるアルミナ系繊維の平均繊維長は、250μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。平均繊維長が250μm未満では、繊維同士が十分に絡み合わず、十分な強度が得られないからである。また無機繊維の平均直径は、特に限られないが、約3μmから約8μmの範囲にあることが好ましく、約5μmから約7μmの範囲にあることがより好ましい。
【0057】
紡糸が完了した前駆体を積層して、積層状シートを製作する。さらに積層状シートに対してニードリング処理を行う。ニードリング処理とは、ニードルを積層状シートに抜き差しして、シートの肉薄化を行う処理である。ニードリング処理には、通常ニードリング装置が用いられる。
【0058】
通常、ニードリング装置は、突き刺し方向(通常は上下方向)に往復移動可能なニードルボードと、積層状シートの表面および裏面の両面側に設置された一対の支持板とで構成される。ニードルボードには、積層状シートに突き刺すための多数のニードルが、例えば約25〜5000個/100cmの密度で取り付けられている。また各支持板には、ニードル用の多数の貫通孔が設けられている。従って、一対の支持板によって積層状シートを両面から押さえつけた状態で、ニードルボードを積層状シートの方に近づけたり遠ざけたりすることにより、ニードルが積層状シートに抜き差しされ、繊維の交絡された多数の交絡点が形成される。
【0059】
また、別の構成として、ニードリング装置は、2組のニードルボードを備えても良い。各ニードルボードは、それぞれの支持板を有する。2組のニードルボードを、それぞれ、積層状シートの表面および裏面に配設して、各支持板で積層状シートを両面から固定する。ここで、一方のニードルボードには、ニードリング処理時に他方のニードルボードのニードル群と位置が重ならないように、ニードルが配置されている。また、それぞれの支持板には、両方のニードルボードのニードル配置を考慮して、積層状シートの両面側からのニードリング処理時に、ニードルが支持板に当接しないように、多数の貫通孔が設けられている。このような装置を用いて、2組の支持板で積層状シートを両面側から挟み、2組のニードリングボードで積層状シートの両側からニードリング処理が行われても良い。このような方法でニードリング処理を行うことにより、処理時間が短縮される。
【0060】
次に、このようにニードリング処理の施された積層状シートを常温から加熱し、最高温度1250℃程度で連続焼成することで、所定の目付け量(単位面積当たりの重量)のマット材が得られる。
【0061】
次に、マット材には、該マット材のハンドリング性を向上させるため、樹脂のような有機系結合材が含浸されても良い。ただし、ここで使用される有機結合材は、排気ガス処理装置から排出される有機成分量に影響を及ぼすため、有機系結合材の使用量は、できる限り抑制することが好ましい。有機系結合材の含有量は、例えば、1.0〜10.0重量%の範囲である。
【0062】
なお有機系結合材としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂などが使用できる。例えばアクリル系(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)樹脂等を用いることが好ましい。
【0063】
次に、マット材の第1および第2の各表面に、前述のいずれかの材料からなる伸び異方性を有するシート材が設置される。両面のシート材は、前述のように、θ/θdA/θdBとなるようにして、それぞれの表面に設置される。両シート材は、同一のものであっても異なるものであっても良い。
【0064】
なお、前述のように、シート材に熱融着性の材料(例えばポリエチレン)を使用した場合、加熱処理により、マット材の表面に容易にシート材を固着することができる。また、この場合、接着剤を使用しないため、高温での使用の際に、有機成分の排出量をより抑制することができる。熱融着性の材料を含むシート材を使用する場合、最初にマット材の一方の表面にシート材を置載後、これを温度140℃〜270℃で1分間、10〜100kPaの加圧下で加熱して、一方の表面にシート材を固着させる。その後、他方の表面に、前述のまたは別の熱融着性の材料を含むシート材を置載してから、マット材を温度140℃〜270℃で1分間、10〜100kPaの加圧下で加熱する。これにより、マット材の両方の表面に、伸び異方性シート材を固着させることができる。ただし、マット材の両方の表面に、一度に伸び異方性シート材を固着させることも可能である。
【0065】
最後に、マット材は、所定の形状に裁断される(例えば図1に示す形状)。なお、このマット材の裁断工程は、伸び異方性シート材の設置前に実施しても良い。
【0066】
このような工程を経て、表裏面に伸び異方性シート材が設置されたマット材を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の効果を実施例により説明する。
(実施例1に係るマット材の作製)
まず、アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl:SiO=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。次に、アルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコールを添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング紡糸処理で紡糸した。搬送キャリアガス(空気)流量は、52m/sであり、紡糸液の供給速度は、5.3ml/hである。
【0068】
その後、アルミナ系繊維の前駆体を折りたたんだものを積層して、アルミナ系繊維の原料シートを製作した。
【0069】
次に、この原料シートに対して、ニードル処理を行った。ニードル処理は、80個/100cmの密度でニードルが設置されたニードルボードを、原料シートの一方の側にのみ配設し、原料シートの片面側から行った。
【0070】
その後、得られた原料マットを常温から最高温度1250℃で、1時間、連続焼成した。次に、得られた原料マットに有機結合材を含浸させた。有機結合材には、アクリル系ラテックスエマルジョンを使用し、含浸量は、原料マットの総量(有機結合材を含む)に対して1wt%とした。
【0071】
次に、このようにして得た厚さ9.2mm、坪量1500g/mのマット材を所定の寸法に切断し、マット基部を得た。
【0072】
次に、図8に示すように、マット基部の第1および第2の表面に、それぞれ第1および第2のシート材を設置した。
【0073】
まず、マット基部340pの第1の表面210pに、厚さが0.23mmでθ=90゜の伸び異方性を示すシート材310p(ポリプロピレン製不織布:エルタス(登録商標)、旭化成せんい(株))(第1のシート材)を設置した。なお、この伸び異方性フィルムは、θ=0゜となるように(すなわち、易伸び方向Dmaxがマット基部340pの長手方向と実質的に平行になるように)して、マット基部340pの第1の表面210pに設置した。その後、この状態でマット基部340pを200℃で1分間、約15kPaの加圧下で加熱し、第1のシート材310pをマット基部の第1の表面210pに熱溶着させた。
【0074】
同様の方法で、マット基部340pの第2の表面260pに、同じシート材(第2のシート材360p)を熱融着させた。ただし、第2の表面260pでは、この伸び異方性シート材360pは、θ=45゜となるようにして、マット基部340pの第2の表面260pに設置した。このようにして得られたマット材30pを、実施例1とする。
(実施例2〜5)
実施例1と同様の方法により、両表面に伸び異方性シート材を有するマット材を製作した(実施例2〜5)。ただし実施例2では、図9に示すように、θ=0゜、θ=90゜とし、実施例3では、図10に示すように、θ=22.5゜、θ=45゜とし、実施例4では、θ=22.5゜、θ=90゜とし、実施例5では、θ=45゜、θ=90゜とした。
(実施例6)
実施例1と同様の方法により、両表面に伸び異方性シート材を有するマット材を製作した。ただし実施例6では、第1および第2のシート材として、厚さが0.080mmでθ=45゜のシート材(ポリエチレン製:ワリフ(登録商標)、新日石プラスト(株)社製)を使用した。また、これらのシート材は、150℃で1分間、約15kPaの加圧下で加熱することにより、マット基部の第1および第2の表面に熱溶着させた。なお、θ=0゜、θ=22.5゜とした。
(実施例7〜10)
実施例6と同様の方法により、両表面に伸び異方性シート材を有するマット材を製作した(実施例7〜10)。ただし実施例7では、θ=0゜、θ=45゜とし、実施例8では、θ=15゜、θ=22.5゜とし、実施例9では、θ=15゜、θ=45゜とし、実施例10では、θ=22.5゜、θ=45゜とした。
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、マット材を製作した。ただし、比較例1では、マット基部の第1および第2の表面に、厚さが0.026mmで、伸び異方性を有さない(すなわち等方性の)樹脂フィルム(パナック(株)社製)を設置した。この樹脂フィルムは、160℃で1分間、約15kPaの加圧下で、マット材の両表面に熱溶着させた。
(比較例2〜7)
実施例1と同様の方法により、両表面に伸び異方性シート材を有するマット材を製作した(比較例2〜8)。ただし比較例2では、θ=0゜、θ=0゜とし、比較例3では、θ=45゜、θ=0゜とし、比較例4では、θ=45゜、θ=45゜とし、比較例5では、θ=90゜、θ=0゜とし、比較例6では、θ=90゜、θ=45゜とし、比較例7では、θ=90゜、θ=90゜とした。
【0075】
以上の実施例および比較例に係るマット材における第1および第2のシート材のθdA、θdB(=θdA)、θ、θ、θdifの各値を表1にまとめて示した。
【0076】
【表1】

(曲げ試験)
前述の方法で作製した各マット材を試験サンプルとして使用し、曲げ試験を実施した。曲げ試験としては、三点曲げ試験を採用し、以下のように実施した。
【0077】
まず、各マット材サンプル(幅100mm×長さ300mm)を、第1の表面(第1のシート材)側が下向きとなるようにして、試験冶具に設置する。試験冶具の両端の支点間距離は、150mmである。次に、マット材の長さ方向および幅方向の中央部分に、上側(すなわち第2のシート材側)から、10mm/分の圧縮速度で、寸法φ30mm×150mmの荷重体を押し付ける。このような状態からマット材の厚さ方向に徐々に荷重を加え、その際に得られる最大荷重(単位N)を測定した。
(嵌合部隙間測定)
前述の方法で作製した各マット材を用いて、以下の嵌合部隙間測定を実施した。
【0078】
前述の方法で作製した各マット材サンプルを図11に示す形状に切断して、試験用サンプル30tを作製した。各箇所の寸法は、以下の通りである。a=262mm、b=83.5mm、c=28mm、d=27.5mm、e=28mm、f=35mm、g=35mm、h=27.5mm。次に、このサンプル30tを、第1のシート材の側が外側となるようにして、直径80mm、全長120mmの金属製円筒20tに巻き付け、嵌合凹部60tと嵌合凸部50tを嵌合させた。この際に、図12に示すような嵌合部に生じた嵌合隙間Sを測定した。この測定を5回繰り返し、得られた結果から、嵌合隙間Sの標準偏差を求めた。
(試験結果)
各サンプルにおいて得られた曲げ試験結果(最大荷重の値)および嵌合部隙間測定(標準偏差)の結果を表1に示す。
【0079】
また、図13および図14には、それぞれ、各サンプルについての規格化された角度差θdifと曲げ強度、およびθdifと嵌合隙間の標準偏差の関係を示す。さらに、図15および図16には、それぞれ、θdA=θdB=90゜(実施例1〜5)およびθdA=θdB=45゜(実施例6〜10)の場合の、θと曲げ強度の関係を示す。
【0080】
表1から、本発明に係る伸び異方性シート材を両面に設置したマット材(実施例1〜10)では、伸び異方性を有さないシート材を設置した比較例1のマット材に比べて、嵌合隙間の標準偏差および曲げ強度が有意に減少していることがわかる。
【0081】
また、表1において、実施例1〜5と比較例2〜7の比較から、θdif>0、すなわちθ/θdA/θdBとしたマット材では、θdif≦0、すなわちθ/θdA≧θ/θdBのマット材に比べて、嵌合隙間の標準偏差および曲げ強度の少なくとも一方が有意に抑制されていることがわかる。
【0082】
また、図13および図14の結果から、規格化された角度差θdifが0.25<θdif≦1の範囲にある場合、曲げ強度が3.25N以下となり、かつ嵌合隙間の標準偏差が0.19mm以下となっている。この結果から、マット材の規格化された角度差θdifがこの範囲にある場合、曲げ強度および嵌合隙間の標準偏差がより一層抑制されることがわかった。特に、θdifが0.50≦θdif≦1の範囲にある場合、嵌合隙間の標準偏差が有意に低減された。
【0083】
さらに、図15および図16の結果から、θdA=θdB=90゜およびθdA=θdB=45゜のいずれの場合であっても、θ=0゜とすることにより、マット材の曲げ強度を最小限に抑制することができることがわかる。このような曲げ強度の小さなマット材では、第1の表面(第1のシート材)側が外側となるようにして、マット材を排気ガス処理体に巻き回すことにより、巻き回し性をより一層向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のマット材および排気ガス処理装置は、車両用排ガス処理装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のマット材の一形態を示す図である。
【図2】本発明のマット材を保持シール材として使用して、排気ガス処理装置を構成するときの構成図である。
【図3】易伸び方向Dmaxと難伸び方向Dminの成す角度θ=90゜のシート材を示した図である。
【図4】易伸び方向Dmaxと難伸び方向Dminの成す角度θ=45゜のシート材を示した図である。
【図5】マット材の第1の表面に設置される第1のシート材の典型的な配置を模式的に示した図である。
【図6】本発明のマット材を排気ガス処理体に巻き回す際に、マット材の第1の表面側および第2の表面側に生じる抵抗力を模式的に示した図である。
【図7】本発明の排気ガス処理装置の一構成例を示す図である。
【図8】実施例1に係るマット材の構成を模式的に示した図である。
【図9】実施例2に係るマット材の構成を模式的に示した図である。
【図10】実施例3に係るマット材の構成を模式的に示した図である。
【図11】嵌合部隙間測定用のサンプルの形状を示した図である。
【図12】嵌合部隙間測定の際に生じる嵌合隙間Sを模式的に示した図である。
【図13】各マット材における規格化された角度差θdifと曲げ強度の関係を示した図である。
【図14】各マット材における規格化された角度差θdifと嵌合隙間の標準偏差の関係を示した図である。
【図15】θdA=θdB=90゜の場合のθと曲げ強度の関係を示した図である。
【図16】θdA=θdB=45゜の場合のθと曲げ強度の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0086】
2 導入管
4 排気管
10 排気ガス処理装置
12 ケーシング
20 排気ガス処理体
24 保持シール材
30 マット材
50 嵌合凸部
60 嵌合凹部
210 第1の表面
260 第2の表面
310 第1のシート材
340 マット基部
360 第2のシート材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材であって、
前記第1のシート材および第2のシート材は、同じ引張荷重で比較した場合、当該マット材の長手方向における伸び量がそれぞれ異なることを特徴とするマット材。
【請求項2】
無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材であって、
前記第1および第2のシート材は、それぞれの面内で伸び異方性を有し、
シート材の面内において、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、最小となる方向を易伸び方向とし、最大となる方向を難伸び方向としたとき、
前記第1のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdA(0<θdA≦90゜)であり、前記第2のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdB(0<θdB≦90゜)であり、
当該マット材の長手方向に対して、前記第1のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdA)と、当該マット材の長手方向に対して、前記第2のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdB)との間には、θ/θdA/θdBの関係が成立することを特徴とするマット材。
【請求項3】
θdif=(θ/θdB)−(θ/θdA)で表される規格化された角度差θdifが、0.25<θdif≦1の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のマット材。
【請求項4】
実質的にθ=0(ゼロ)であることを特徴とする請求項2または3に記載のマット材。
【請求項5】
前記第1のシート材は、θdA=90゜またはθdA=45゜であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項6】
実質的にθdA=θdBであることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項7】
前記第1のシート材と前記第2のシート材は、同一のシート材であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項8】
前記第1および/または前記第2のシート材は、実質的に、前記マット材の第1および/または第2の表面の全面に設置されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項9】
前記第1および/または前記第2のシート材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびこれらの混合物からなる群から選定された材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項10】
さらに、無機結合材および/または有機結合材を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載のマット材。
【請求項11】
排気ガスの流通する2つの開口面を有する排気ガス処理体と、
前記排気ガス処理体の開口面を除く外周面の少なくとも一部に巻き回して使用される保持シール材と、
該保持シール材が巻き回された前記排気ガス処理体を収容する筒状部材と、
で構成される排気ガス処理装置であって、
前記保持シール材は、無機繊維を含み、第1および第2の表面に、それぞれ、第1および第2のシート材が設置されたマット材で構成され、
前記第1および第2のシート材は、それぞれの面内で伸び異方性を有し、
シート材の面内において、(引張荷重(N)/公称歪み)で表される値(5%公称歪みでの値)が、最小となる方向を易伸び方向とし、最大となる方向を難伸び方向としたとき、
前記第1のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdA(0<θdA≦90゜)であり、前記第2のシート材は、前記易伸び方向と前記難伸び方向の成す角度がθdB(0<θdB≦90゜)であり、
前記保持シール材の巻回方向に対して、前記第1のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdA)と、前記保持シール材の巻回方向に対して、前記第2のシート材の易伸び方向がなす角度θ(0≦θ≦θdB)との間には、θ/θdA/θdBの関係が成立し、
前記保持シール材は、前記第2の表面が前記排気ガス処理体の外周面と接触するようにして、前記排気ガス処理体に巻き回されることを特徴とする排気ガス処理装置。
【請求項12】
前記排気ガス処理体は、触媒担持体または排気ガスフィルタであることを特徴とする請求項11に記載の排気ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−113336(P2009−113336A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288831(P2007−288831)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】