説明

マニピュレーター、マニピュレーターの駆動方法およびロボット

【課題】複雑で大量のデータを処理してアームを制御することによって生じる制御駆動時間の遅れが発生しない、慣性機構、ジャイロ装置によってリアルタイムにアームの振動を抑制し、正確な停止位置が維持できるマニピュレーターと、そのマニピュレーターを用いたロボットを実現する。
【解決手段】回転軸と、前記回転軸の軸方向に交差する面で回転可能に前記回転軸を介して接続される第1アームと第2アームと、を備え、前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方に、前記回転軸の軸方向に交差する方向の回転軸中心を有するフライホイールを備えるマニピュレーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニピュレーター、マニピュレーターの駆動方法およびロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ICハンドラーや組立装置の一部として多く使われている多関節構造を有するロボット装置は、様々な産業現場の中で多用されてきている。故に、ロボット装置には今まで以上に、求められる位置にいかに早く且つ正確にアームを移動させることができるかが重要な性能仕様、品質になってきている。
【0003】
一般的にアームを高速に且つ正確に移動させるには、アームに掛かる慣性力を小さくし、駆動用のアクチュエーターの負荷を大きくさせないことにある。アームに掛かる慣性力を小さくするには、アームの軽量化が最も効果的な手法として用いられている。しかし、アームを軽量化することによりアーム剛性の低下を招き、アーム停止時に生じるアームの振動を抑制することが困難になり、アーム先端部を目的の位置で停止させても、アーム自体の振動の振幅分の位置ズレが生じてしまい、振動が減衰する時間まで次の動作を開始することができないという問題があった。また、アームの長さが長い場合などもアーム停止時に振動が発生しやすくなり、剛性の低いアーム同様に振動が減衰する時間まで次の動作を開始することができないという問題があった。
【0004】
この問題に対して、アーム先端に加速度センサーを設置し加速度信号を基にアームを作動させ振動を抑制する方法(例えば、特許文献1)、アーム先端およびアームに角速度センサーを設置し、角速度信号を基にアーム動作を制御する方法(例えば、特許文献2)、などが提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−173116号公報
【特許文献2】特開2005−242794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のロボット装置の制御方法においては、角速度センサーもしくは加速度センサーのどちらかを用いて、振動を抑制する制御信号を生成しているため、センサー信号にバイアスドリフト等の誤差が含まれる場合に制御信号に誤差が生じ、正確な制御が行なえない場合があった。
【0007】
例えば、特許文献2においては、センサーの誤差の影響を低減するために角度センサーの高周波成分を除去するローパスフィルターと、角速度センサーの低周波成分を除去するハイパスフィルターと、の2種類のフィルターを用いるために、制御装置における演算量が多くなり、処理に時間が掛かったり、処理速度を上げるために演算機のコストが増加したりする問題があった。
【0008】
そこで、複雑で大量のデータを処理してアームを制御することによって生じる制御駆動時間の遅れが発生しない、慣性機構、いわゆるジャイロ装置によってリアルタイムにアームの振動を抑制し、正確な停止位置が維持できるマニピュレーターと、そのマニピュレーターを用いたロボットを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0010】
〔適用例1〕本適用例のマニピュレーターは、回転軸と、前記回転軸の軸方向に交差する面で回転可能に前記回転軸を介して接続される第1アームと第2アームと、を備え、前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方に、前記回転軸の軸方向に交差する方向の回転軸中心を有するフライホイールを備えることを特徴とする。
【0011】
本適用例のマニピュレーターは、第1アームと第2アーム、および第1アームと第2アームとを接続する回転軸に交差させた回転軸中心に回転するフライホイールを備え、フライホイールを回転させることによって得られるジャイロ効果によって、アームの振動を短時間に減衰させることができる。よって、ロボットのアームの移動速度を上昇させても、アームの振動減衰時間が短縮でき、ロボットの生産性を向上させることができる。
【0012】
〔適用例2〕上述の適用例において、太陽歯車と、遊星歯車を回転可能に備える遊星キャリアと、内歯車と、を有する遊星歯車装置を備え、前記太陽歯車と、前記フライホイールと、が接続され、前記遊星キャリアと、前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方を駆動するモーターの駆動軸と、が接続され、前記内歯車と、前記回転軸に駆動力を伝える伝達軸と、が接続されていることを特徴とする。
【0013】
上述の適用例によれば、遊星歯車装置によって、モーターと、フライホイールと、伝達軸との回転中心を合わせて配置することができるため、小型のマニピュレーターを実現することができる。
【0014】
〔適用例3〕上述の適用例において、前記フライホイールおよび前記回転軸には、前記フライホイールおよび前記回転軸の回転を減速および停止させる回転制動手段が備えられていることを特徴とする。
【0015】
上述の適用例によれば、フライホイールおよび回転軸の回転制動手段を制御することにより、遊星歯車装置を介して回転軸もしくはフライホイールのどちらか一方もしくは両方にモーターの駆動力を伝えることができる。
【0016】
〔適用例4〕本適用例のマニピュレーターの駆動方法は、回転軸と、前記回転軸の軸方向に交差する面で回転可能に前記回転軸を介して接続される第1アームと第2アームと、を備え、前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方に、前記回転軸の軸方向に交差する方向の回転軸中心を有するフライホイールを備え、太陽歯車が前記フライホイールに接続され、遊星キャリアが前記第1アームおよび/または前記第2アームを駆動するモーターの駆動軸に接続され、内歯車が前記回転軸に駆動力を伝える伝達軸に接続される遊星歯車装置を備えるマニピュレーターであって、前記第1アームと前記第2アームとの相対的な回転運動の角速度が、少なくとも減速から停止の時間内は前記フライホイールを回転させることを特徴とする。
【0017】
本適用例のマニピュレーターの駆動方法は、第1アームと第2アーム、および第1アームと第2アームとを接続する回転軸に交差させた回転軸中心に回転するフライホイールを備え、フライホイールを回転させることによって得られるジャイロ効果によって、アームの振動を短時間に減衰させることができる。特にアームの停止時におけるアーム慣性力、モーターに備える減速機が生じるたわみ、アーム自体のたわみ、等を主因とするアームの振動を抑制することができる。よって、ロボットのアームの移動速度を上昇させても、アームの振動減衰時間が短縮でき、ロボットの生産性を向上させることができる。
【0018】
〔適用例5〕本適用例のロボットは、上述の適用例のマニピュレーターを備える。
【0019】
本適用例のロボットによれば、アームの振動の減衰時間を短くすることが可能となり、アームの移動速度を速くしても目標位置に短時間で静止させることができる。よって、生産性の高いロボットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係るロボットを示す概略構成図。
【図2】(a)は第1実施形態に係る関節駆動手段を示す概略断面図、(b)は(a)に示す遊星歯車装置のA−A´部の概略断面図。
【図3】第1実施形態に係るロボットの動作を説明する図。
【図4】フライホイールの動作を説明する模式図。
【図5】第2実施形態に係るロボットの動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係るマニピュレーターを備えるロボットを示す構成図である。図1に示すように、ロボット100は、マニピュレーターとしての、設置部200に固定された基台10と、第1アーム21と、第2アーム22と、が、各々回転可能に接続されている。基台10と第1アーム21とは、基台10に備える基台関節軸10cによって回転可能に接続されている。基台関節軸10cは、減速器10bを介してモーター10aの回転を所定の減速比に減速されて回転され第1アーム21を回転駆動する。
【0023】
第2アーム22の一方の側には作業用の駆動装置として、作業軸22aと、作業軸22aを回転方向および軸方向(図示上下方向)に駆動させる作業軸駆動手段22bと、を備えている。作業軸駆動手段22bには図示しないモーター、減速装置などが含まれる。作業軸22aには図示しないが、例えばロボットハンド、電動ドライバーなど、作業内容に適した作業手段を備えることができる。第1アーム21と、第2アーム22とは、関節駆動手段30により相対的に回転可能に固定される。図2に関節駆動手段30の詳細である断面拡大図を示す。
【0024】
図2(a)は関節駆動手段30の拡大断面図、図2(b)は図2(a)に示すA−A´部拡大断面図、である。図2(a)に示す関節駆動手段30は、第1アーム21に固定された関節軸31と、関節軸31の中心軸C1に交差する中心軸C2を有する駆動伝達軸32が笠歯歯車31a,32aによって接続され、本実施形態では駆動伝達軸32の回転は小径の笠歯歯車32aから大径の笠歯歯車31aにより減速される。そして第1アーム21に固定された関節軸31回り、すなわち中心軸C1回りに第2アーム22を回転させ、第1アーム21と第2アーム22とが相対的に回転駆動される。
【0025】
駆動伝達軸32の回転中心C2と同じ回転中心を有するモーター軸33aを備えるモーター33が、回転中心C2に沿って配列され、モーター軸33aのモーター本体33b側と反対の端部にキャリア33cが形成されている。キャリア33cは図2(b)に示す、遊星歯車装置30aの遊星歯車33dと接続されている、いわゆる遊星キャリアである。駆動伝達軸32は、遊星歯車装置30aにおける内歯車32bと、内歯車32bを接続するキャリア33cが内部に収納されるように形成される接続部32cと、接続部32cと笠歯歯車32aとを接続する伝達軸32dと、により構成されている。
【0026】
フライホイール34は、いわゆる慣性車であり、与えられたエネルギーを回転力として維持しようとする機構であって、モーター本体33bを内包するように筒状のフライホイール体34aと、遊星歯車装置30aにおける太陽歯車34bと、フライホイール体34aと太陽歯車34bとをつなぎ、モーター軸33aが内部に挿通される貫通孔34cを有する筒状のフライホイール軸34dと、で構成されている。
【0027】
上述の通り、本実施形態にかかるロボット100のマニピュレーターとしての第1アーム21と第2アーム22と、を駆動する関節駆動手段30は、駆動源としてのモーター33の駆動力を、遊星歯車装置30aを介して関節軸31に伝え、第1アーム21と第2アーム22とを相対的に回転駆動させる構成となっている。また、関節軸31の回転を制動する回転制動手段としての関節軸ブレーキ35と、フライホイール34の回転を制動する回転制動手段としてのフライホイール軸ブレーキ36と、を備えている。なお、本実施形態における遊星歯車装置30aは、歯車により構成される形態であるが図3(a),(b)においては歯車歯形の作図は省略してある。また、歯車により遊星歯車装置30aを構成することに限定されず、摩擦車により遊星歯車装置30aを構成しても良い。
【0028】
次に、関節駆動手段30の動作について図3を用いて説明する。図3(a)は第1アーム21と第2アーム22の相対的な回転駆動に係る駆動伝達軸32の角速度の時間変化を示し、図3(b)は図3(a)に示す時間経過に合わせたモーター33のモーター軸33aの角速度変化を示し、図3(c)は図3(a)に示す時間経過に合わせたフライホイール34のフライホイール体34aの角速度を示し、図3(d)は図3(a)に示す時間経過に合わせた関節軸ブレーキ35のON(制動)/OFF(開放)の経過を示し、図3(e)は図3(a)に示す時間経過に合わせたフライホイール軸ブレーキ36のON(制動)/OFF(開放)の経過を示す。なお、図3(a),(b),(c)に示す角速度の正負は、図2(b)に矢印で示し、Raは駆動伝達軸32の回転方向、Rbはモーター軸33aの回転方向となるキャリア33cの回転方向、Rcはフライホイール体34aの回転方向を示す。
【0029】
図3に示す時間軸において時間t1はアーム21,22の駆動開始時間、時間t2はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の最高速度到達時間、時間t2〜t3の間はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の最高速度の維持時間、時間t3はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の減速開始時間、時間t4はアーム21,22の駆動停止時間、を示す。
【0030】
図3(a)に示す時間t1において、アーム21,22の駆動を開始させる。図3(b)に示すように、この時間t1にモーター33の駆動を開始させ、その際には図3(d)に示すように関節軸ブレーキ35は、関節軸31に圧接させて駆動を制動していた状態から、関節軸ブレーキ35を離間させ、ブレーキを開放(OFF)状態とする。また、フライホイール軸ブレーキ36はフライホイール軸34cに圧接させて駆動を制動している状態を維持する。このようにすることにより、図2(b)に示すフライホイール34に繋がる遊星歯車装置30aの太陽歯車34bは回転を規制され、モーター軸33aに繋がるキャリア33cの回転Rbのプラス(+)方向の回転が、遊星歯車33dを介して内歯車32bを備える駆動伝達軸32に伝わり、回転Raのプラス(+)方向の回転が更に笠歯歯車32a,31aによって、関節軸31を中心に第2アーム22が回転駆動される。
【0031】
上述の動作を維持した状態で時間t2〜t3の駆動伝達軸32の角速度が最高速度で維持される。時間t3に達すると、図3(b)に示すモーター軸33aの角速度は減少させ、時間t3と停止時間t4との間の時間t3´において逆回転させる。更に、図3(d)に示すように関節軸ブレーキ35を関節軸31に徐々に圧接させて、図3(a)に示すようにアーム相対角速度を減少させる、いわゆる減速状態となる。この時間t3において、フライホイール軸34cに掛けられていたフライホイール軸ブレーキ36は、開放される。
【0032】
上述の動作状態では、モーター軸33aは、駆動伝達軸32の停止前、(t4−t3´)時間早く回転の角速度を0とし、時間t3´からは逆回転させる。このように動作させることにより、図2(b)に示す遊星歯車装置30aにおいて、Ra>α・Rb(α:モーター軸回転数に対する内歯車である駆動伝達軸の回転数の減速比)の状態になるため、その差分(Ra−α・Rb)が遊星歯車33dを介して太陽歯車34bの回転Rcをマイナス(−)方向に回転させる。更に、時間t3´からはモーター軸33aを逆転、すなわち図2(b)のRbをマイナス(−)方向に回転させ、差分(Ra−α・Rb)を大きくしてフライホイール軸34cの回転を増速して、時間t4においてフライホイール34に最高角速度を与える。
【0033】
時間t4において、駆動伝達軸32の角速度は0、すなわちアーム21,22の相対的な角速度が0となり、アーム21,22の駆動が停止状態となる。時間t4以降もモーター33は駆動を続け、フライホイール34を回転させ続ける。なお、アーム21,22の停止後にフライホイール34を回転し続ける時間に限定は無く、ロボット100の仕様によって適宜、決定すればよい。
【0034】
このように、アーム21,22を駆動から停止させる動作の中で、停止時にフライホイール34を回転させ、回転を維持させることにより、フライホイール34のジャイロ効果によって、本実施形態ではフライホイール34を備える第2アーム22の停止時のアームの振動を抑制することができる。図4は、フライホイール34のフライホイール体34aのみを模式図的に示す斜視図である。図4に示すフライホイール体34aは、図3(c)に示すように、アーム21,22の駆動停止時に所定の角速度で回転している。すなわち図4に示すフライホイール体34aが回転中心軸CR周りに回転Rcが与えられている。この状態において、フライホイール体34aは自転軸CRを持つ回転体となり、自転軸CRの方向を維持しようとするジャイロ効果を有する回転体としてのフライホイール体34aとなる。
【0035】
図4に示すように、フライホイール体34aの自転軸CRをずらせるような外力、例えば、第2アーム22が停止する際の慣性力、あるいはモーターに備える減速機が生じるたわみ、アーム自体のたわみ、等によって第2アーム22の駆動方向へ移動しようとする力が働き、自転軸CRが自転軸CR´の位置へ移動しても、自転軸CRに戻そうとする力Phが働き、自転軸CR位置を維持しようとする。これがジャイロ効果である。このジャイロ効果は、自転軸CRの移動方向に関わらず、例えばCR´´位置に自転軸CRが移動しても、自転軸CRに戻そうとする力Pvが働き、自転軸CR位置を維持しようとする。このように発生するジャイロ効果により、駆動停止時の第2アーム22に発生する振動を短時間で減衰させることができ、第2アーム22に備える作業軸22aを、作業軸22aの移動目標位置に対して、正確に移動させることができる。
【0036】
以上、説明したとおり、本実施形態に係るロボット100に備えるマニピュレーターとしての第1アーム21と第2アーム22、および第1アーム21と第2アーム22とを接続する関節駆動手段30において、関節軸31に交差させた回転軸中心に回転するフライホイール34を備え、フライホイール34をアーム21,22の駆動停止時に回転させることによって得られるジャイロ効果によって、アーム21,22の振動を短時間に減衰させることができる。よって、ロボット100のアーム21,22の移動速度を上昇させても、アーム21,22の振動減衰時間を短縮することができる。これによって、短時間に作業軸22aを目標位置に静止させることができるため、ロボット100の生産性を向上させることができる。
【0037】
(第2実施形態)
第2実施形態として、フライホイール34の回転力をアーム21,22の駆動開始時におけるモーター33の駆動をアシストする駆動方法について説明する。第2実施形態に係るロボットは、第1実施形態に係るロボット100と構成が同じであるので説明は省略する。第2実施形態に係るロボット100の駆動方法は、図5に示す動作による。
【0038】
図5は、本実施形態に係る関節駆動手段30の動作を示す。図5(a)は第1アーム21と第2アーム22の相対的な回転駆動に係る駆動伝達軸32の角速度の時間変化を示し、図5(b)は図5(a)に示す時間経過に合わせたモーター33のモーター軸33aの角速度変化を示し、図5(c)は図5(a)に示す時間経過に合わせたフライホイール34のフライホイール体34aの角速度を示し、図5(d)は図5(a)に示す時間経過に合わせた関節軸ブレーキ35のON/OFFの経過を示し、図5(e)は図5(a)に示す時間経過に合わせたフライホイール軸ブレーキ36のON/OFFの経過を示す。なお、図5(a),(b),(c)に示す角速度の正負は、図2(b)に矢印で示し、Raは駆動伝達軸32の回転方向、Rbはモーター軸33aの回転方向となるキャリア33cの回転方向、Rcはフライホイール体34aの回転方向を示す。
【0039】
図5に示す時間軸における時間t0はフライホイール34の駆動開始時間、時間t1はアーム21,22の駆動開始時間、時間t2はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の最高速度到達時間、時間t2〜t3の間はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の最高速度の維持時間、時間t3はアーム相対角速度である駆動伝達軸32の角速度の減速開始時間、時間t4はアーム21,22の駆動停止時間、を示す。
【0040】
図5(c)に示す時間t0において、フライホイール34の駆動を開始する。この時、図5(b)に示すモーター33の駆動を、アーム21,22を駆動させる場合の回転方向とは逆方向に駆動を開始させ、その際、図3(d)に示す関節軸ブレーキ35は、関節軸31を回転させないように制動状態(ON)とする。また、図3(e)に示すフライホイール軸ブレーキ36はフライホイール軸34cの制動を開放(OFF)する。このようにすることにより、図2(b)に示す内歯車32bの回転Raは回転を規制され、モーター軸33aに繋がるキャリア33cの回転Rbのマイナス(−)方向の回転が、遊星歯車33dを介して太陽歯車34bに伝達され、フライホイール軸34cの回転Rcはマイナス(−)方向の回転が与えられる。
【0041】
アーム21,22の駆動開始時間である時間t1に至るまでに、図5(c)に示すようにフライホイール34は最大角速度まで駆動され、最大角速度が維持される。時間t1に至ると、図5(b)に示すようにモーター33は時間t1から時間t2に至る間において逆回転から正回転に移行する。また、関節軸ブレーキ35は時間t1において制動が解除される。一方、図5(e)に示すように、フライホイール軸ブレーキ36は時間t1においても解除状態を維持する。
【0042】
図5(b)に示すモーター軸角速度において、時間t1から、モーター33が逆回転から正回転に移行する時間、すなわち角速度0となる時間を時間t2´とすると、モーター33は時間t1から時間t2´にかけて逆回転の角速度が徐々に下げられる。これにより、遊星歯車33dと太陽歯車34bとの回転同期がずれ、そのずれ分により内歯車32bの回転Raをプラス(+)方向に回転させ、フライホイール34の回転力が徐々に駆動伝達軸32の回転力に移動される。そして、モーター33が正回転を始める時間t2´時には、駆動伝達軸32は回転した状態になっているため、モーター33が正回転する駆動負荷を小さくすることができる。
【0043】
時間t2以降は、上述に第1実施形態と同じであるため、説明は省略する。なお、アーム21,22の駆動が停止される時間t4以降、フライホイール34は回転を維持しているので、次にアーム21,22の駆動開始の場合に、時間t2以降のフライホイール34の回転を駆動開始時のモーター33のアシストとして上述の動作を実行させても良い。
【0044】
以上、述べたように、フライホイールの回転軸を関節の回転軸に対して交差して配置することにより、ロボットを構成するマニピュレーターの駆動停止時の振動などを短時間に減衰させることができるので、正確なマニピュレーターの移動位置に短時間に移動させることが可能となり、ロボットの生産性が向上する。また、フライホイールの回転力を、モーターに高負荷が掛かる起動時に、駆動力アシスト手段として使うことができため、駆動立ち上がり時間の短縮が可能となり、更にロボットの生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…基台、21…第1アーム、22…第2アーム、30…関節駆動装置、100…ロボット、200…設置部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の軸方向に交差する面で回転可能に前記回転軸を介して接続される第1アームと第2アームと、を備え、
前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方に、前記回転軸の軸方向に交差する方向の回転軸中心を有するフライホイールを備える、
ことを特徴とするマニピュレーター。
【請求項2】
太陽歯車と、遊星歯車を回転可能に備える遊星キャリアと、内歯車と、を有する遊星歯車装置を備え、
前記太陽歯車と、前記フライホイールと、が接続され、
前記遊星キャリアと、前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方を駆動するモーターの駆動軸と、が接続され、
前記内歯車と、前記回転軸に駆動力を伝える伝達軸と、が接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のマニピュレーター。
【請求項3】
前記フライホイールおよび前記回転軸には、前記フライホイールおよび前記回転軸の回転を減速および停止させる回転制動手段が備えられている、
ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のマニピュレーター。
【請求項4】
回転軸と、前記回転軸の軸方向に交差する面で回転可能に前記回転軸を介して接続される第1アームと第2アームと、を備え、
前記第1アームまたは前記第2アームの少なくとも一方に、前記回転軸の軸方向に交差する方向の回転軸中心を有するフライホイールを備え、
太陽歯車が前記フライホイールに接続され、遊星キャリアが前記第1アームおよび/または前記第2アームを駆動するモーターの駆動軸に接続され、内歯車が前記回転軸に駆動力を伝える伝達軸に接続される遊星歯車装置を備えるマニピュレーターであって、
前記第1アームと前記第2アームとの相対的な回転運動の角速度が、少なくとも減速から停止の時間内は前記フライホイールを回転させる、
ことを特徴とするマニピュレーターの駆動方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のマニピュレーターを備えるロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18073(P2013−18073A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152735(P2011−152735)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】