説明

マルチビームマイクロ電子工学的電子放出デバイス

開示された事項は、複数の電子線放出マイクロソースから成った第1の構造と、第1の構造によって放出された電子を収集するための、また前記収集に続いて二次電子放出を実行するための、第1の構造とは対抗する側の第2の構造と、を有する数個の電子ビームを備えた電子放出デバイスに関する。本発明は特に、直接書き込みリソグラフィの分野に適合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出デバイスに関し、特に、同時に数個の電子ビームを放出することができ、数個の平行な初期電子放出ソース(源)を有し、初期ソースから電子を収集するための、また前記収集に続いて数個の二次電子ビームを放出するための手段に関係付けられた「マルチビーム」の放出デバイスに係る。
【0002】
本発明は、特に、例えば集積回路または/およびマイクロシステムを形成するためのプロセスの際に薄膜の直接書き込みリソグラフィの分野での適用を見いだす。
【背景技術】
【0003】
集積回路、または/および、MEMS(マイクロ電気機械システム)などのミクロ構造のようなマイクロ電子デバイスの製造の状況では、薄膜に形成するためにもたらされるパターンの最小解像度または限界寸法を小さくしようと絶えず追求がされている。
【0004】
薄膜における1個または数個のパターンの形成は、通常、例えば感光性の樹指をベースとし、照明光線、特に紫外線を用い、前記薄膜に形成しようとするパターンを複写するマスクを通して層に光に露光する、フォトリソグラフィプロセスを含んでいる。その時、樹指層に形成されるパターンの最小解像度は、使われる光線の波長に依存する。今日このようなプロセスで使用される波長は益々短くなっており、そのフォトリソグラフィプロセスのコストを益々高価にし、そのプロセスを有用な波長の限界領域、特に紫外線の領域により近付けている。その結果、これらのプロセスは、パターンの最小測定値または限界寸法をさらに縮小することは困難と思しきことを超越して、解像度の限界に達する間際である。
【0005】
特に電子ビームによるマスクを利用しないリソグラフィプロセスが登場し、「直接書き込みリソグラフィ」として知られる。このようなビームを用いて得られるような最小解像度は、UV光線フォトリソグラフィプロセスを用いて得ることができる最小解像度よりも小さい。
【0006】
例えば5から20nm径の幅の電子の単一ビームを用いた直接書き込みリソグラフィデバイスが作られた。ビーム幅のこのような範囲は、特に、露光について、または限定された大きさの薄膜の領域への書き込みについて限定された工業的生産の範囲内において、薄膜の長い書き込み時間と装置のそのような用途をもたらす。
【0007】
直接書き込みリソグラフィの書き込み時間を減らすために、非特許文献1に記載された解決策は、数個の電子ビームを用いて書き込みまたは薄膜の平行な数個の領域のリソグラフィを実行するために、電子エミッター(放出体)のマトリックスを使うことにある。従来技術による、そのようなマトリックスを備えた「マルチビーム」の電子放出デバイスの例を、図1Aに示す。
【0008】
このマトリックスは半導体基板10上に形成され、複数の電子エミッター、または電子エミッター画素11a、11b、例えば「コールドエミッター(cold emitter)」としても知られた電界効果型エミッターを有することができる。これらのエミッター11a、11bは、それぞれ、金属層13上に存在し、抽出ゲート15に両側が囲まれたマイクロチップ12から形成することができる。このようなマイクロチップ12は、エミッター−真空バリアを通したトンネル効果による放出の原理を利用する。エミッター11aと11bによって放出された電子ビームの強度は、それぞれのエミッター11a、11bに特化したそれぞれの制御回路16a、16bによって調節することができる。
【0009】
このようなマトリックスの使用に関連した第1の不利点は、強度の観点からの均一性の欠如であって、異なるエミッター11aと11bからのビーム間で現出しうる。この均一性の欠如について、図2Aで、エミッター11aとエミッター11bのそれぞれの電流−電圧特性を表現した曲線CおよびCを用いて示した。これらの不安定性は、特に、マイクロチップ12が形成された方法、とりわけ前記各マイクロチップ12間の形状、または/および、大きさの違いに起因するものでありうる。
【0010】
それぞれのエミッター素子11bも特定の不安定性、特に放出するビームの「空間的」不安定性を経験しうる。このような不安定性を、図2Bで、電子ビーム20の間の幅変動を用いて示した。それらのビームは、マイクロチップ12によってある時刻tに放出されて所定の幅を持ち、時間tより後の他の時刻tに放出されたその同じビーム21は、所定の幅とは異なる幅を持つ。これらの不安定性は、エミッター11bの同じマイクロチップ12上における数個の異なる放出サイトの存在に起因するものである。
【0011】
それぞれのエミッター素子11bは、放出するビームの強度に関して、時間にわたる不安定性(図2C)を経験することもある。これらの不安定性は、マイクロチップ12が提供された電子エミッターサイトの数の、時間にわたる変動に起因しうる。
【0012】
このようなデバイスを用いて、例えば樹指をベースとする薄膜のリソグラフィを実行するためには、前記樹指上に堆積される電荷の量を制御することが必要である。この電荷の制御は、放出された電流/露出時間の組み合わせを適切に制御することを必要とし、そしてこれはマトリックスのそれぞれの個々のエミッターのために保持される。上記で挙げた不利点と不安定性はこの制御を困難にする。エミッターの安定性は、真空の質と、さらに、特に、樹指書き込みによって生じた脱ガスに起因して、内部でリソグラフィが実行される囲い内に存在するガスの性質によっても影響されうる。上記で引き起こされた異なる問題を埋め合わせるための解決策は、それぞれのエミッター11a、11bについてのそれぞれの制御回路16a、16bとして、例えばCMOS(相補型金属酸化物半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor))タイプの特定の調整集積回路(ASIC:用途特定された集積回路(Application Specific Integrated Circuit))を使うことにある。このタイプの近接回路は場所を取り、そのために、マトリックスが備えることのできるエミッターの数をかなり制限する。さらに、これらの制御回路は、エミッター11a、11bが十分な信号対雑音比を持つならば、正しい動作を持つことができる。特定のケースで、エミッター11a、11bによって放出された電流における変動があまりにも急激、または/および、あまりにも激しいならば、ASIC制御回路はもはや補正を実行することが可能ではない。
【非特許文献1】L. R. Baylorら著、「デジタル静電e−ビームアレイリソグラフィ構想からの初期のリソグラフィ結果(Initial lithography results from the digital electrostatic e-beam array lithography concept)」J. Vac. Sci. Technol. B22(6),2004年11月/12月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、特に、電子ビームの時間的および空間的な不安定性の現象、並びに、「マルチビーム」電子放出デバイスにおける前記ビーム間での均一性の欠如を減らすことを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特にマイクロ電子工学的、および/または、薄膜に形成され、数個の電子ビームを放出することができる電子放出デバイスであって、
・少なくとも1個の第1の基板と、前記第1の基板上に形成されたN1個(ここにN1は1より大きな整数である)の電子のマイクロソースとを有する第1の手段と、
・前記マイクロソースから放出された電子の収集、およびこの収集に続いて他の電子を放出することができる第2の手段であって、前記マイクロソースと対向する側(反対側)に位置し、「収集層」として知られる少なくとも1個の層を有し、内部に複数の二次電子エミッター、例えば複数またはN2個(N2>1)の開口が形成された第2の手段と、
を備えることを特徴とするマイクロ電子工学的電子放出デバイスに関する。
【0015】
開口の数N2はマイクロソースの数N1と異なることが可能で、例えばマイクロソースの数N1より少ないか、または多いことが可能である。これにより、異なった初期電子ソースからの電子の収集に起因して、開口のそれぞれが二次電子ビームを放出することができる。N1は、例えば100*N2より大きいか、またはそれに等しくできる。あるいは、1000*N2より大きいか、それに等しくできる。
【0016】
特定のマイクロソースは、必要に応じて開口の対向する側に位置していてもよいが、1個または数個のマイクロソースは、収集層の開口加工されていない部分の対向する側に位置することができる。例えば、収集層における特定の開口加工されていない部分は、対向する側に位置した電子のマイクロソースによって攻撃されうる。
【0017】
開口は、1から50ナノメートル、または1から100ナノメートルであるような、ナノメートルサイズの直径を持ち、ナノメートル級の大きさの二次電子ソースを形成することができ、あるいは「ナノソース(nanosource)」と命名されることになるソースを形成することができる。
【0018】
このようなデバイスにより放出される電子ビームの均一性は、従来技術のデバイスと比較して改善される。この均一性は、第1の手段に属する初期エミッターが製造される方式よりも、二次エミッターまたは第2の手段に属する開口が製造される方式に、より依存する。
【0019】
このようなデバイスによって放出されたそれぞれのビームの時間的な安定性も、従来技術のデバイスにより放出されたビームと比較して、改善することができる。不安定性は、因子√Kにまで減らすことができる。ここに、Kは、二次エミッターまたは第2の手段の開口の数と比較した、マイクロソースまたは第1の手段の初期エミッターの数である。
【0020】
このようなデバイスのマイクロソースの数は多くできる。これらのマイクロ−ソースは二次ソースと関連するので、このようなデバイスは、数個のマイクロソースのいくつかの故障がデバイスの動作を混乱させないか、または極めて少ししか混乱させない限りにおいて、また特に第2の手段からの二次ビームの形成において、信頼度に関しても改善される。
【0021】
このようなデバイスでは、マイクロソースまたは/および開口は、マトリックスに配列させることができる。第1の手段は画素のマトリックスを有することができ、そレーザに対して、それぞれの画素は数個のマイクロソースを有し、そしてナノ−ソースまたは第2の手段の開口に関連する。
【0022】
いくつかの可能な実施の態様によれば、マイクロソースは、例えばマイクロチップ、「スピンドチップ」(Spindt tips)、または、カーボン・ナノチューブ、あるいは電子を放出することができるナノ亀裂とすることができる。
【0023】
収集層は二次放出に好都合な材料、または1より大きな二次電子放出係数の材料を有することができる。
【0024】
第1の手段は、カソード(陰極)の役割を果たす1つの素子、またはカソード群の役割を果たすいくつかの素子群と、カソード毎の複数のマイクロソースとを有することができる。これらの異なるカソードはマトリックスに応じて配列することができる。
【0025】
一つの可能な実施の態様によれば、第1の手段と第2の手段とは「ハイブリッド化」されうるか、または、1つまたは数個の導体素子、例えば構造体を形成する金属ビード(bead)によって集積化することができる。
【0026】
第2の手段の収集層は、数枚の薄膜のスタックに属することができる。このスタックは、収集層の両方の側の上に、第1の電極を形成することができる少なくとも1つの導体層と、第2の電極を形成することができる少なくとも1つの他の導体層とを有することができる。
【0027】
これらの電極は、それらが極性を持っている時に、放出された二次電子を方向付けることを可能にする電界を印加するために、または前記開口に向かって収集層によって送り返すために、そしてこれらの電子を前記開口を通過する時に加速するために、提供することができる。
【0028】
第1の手段と第2の手段が1個または数個の導体素子、例えば導電性ビード(bead)によって取り付けられるケースでは、第1の電極と第2の電極は、第1の基板に集積された1個または数個の回路を用いて極性を持たせることができる。これによって、これらの供給回路は、前記導体素子によって第1および第2の電極に電気的に接続される。
【0029】
一つの可能な実施の態様によれば、収集層は絶縁材料、一例としてMgOのような1より大きな二次電子放出係数の他の絶縁材料で覆われうる例えばセラミック材料をベースとする薄膜とすることができる。
【0030】
本発明によるマイクロ電子工学的電子放出デバイスは、第1の基板に集積されたマイクロソースアドレス指定回路、をさらに有することができる。このアドレス指定回路は、必要に応じてマイクロソースのすべてに共通とすることができる。この回路によって実行されるアドレス指定は、「アクティブマトリクス」タイプのものとすることができる。
【0031】
このようなデバイスを製造するための制約も、従来技術のデバイスと比較して、特にアドレス指定回路に関して減少する。本発明によるデバイスは、ASICタイプアドレス指定回路よりも単純で扱いにくさの少ないアドレス指定回路を有することができる。本発明によるデバイスにおける多い数のマイクロソースを並列で動作させる可能性を与えられば、マイクロソース毎に必要とされる電流は減少する。例えば、本発明によるデバイスのアドレス指定回路によって印加されるマイクロソース制御電圧の範囲は、従来技術のデバイスにおいて印加されるものよりも小さくてよい。これは、さらに高速技術チャネルにおける集積化されたアドレス指定回路を作ることを可能にし、従来技術による電子エミッターデバイスのアドレス指定回路よりも低い電圧範囲を用いることができる。
【0032】
制御回路またはアドレス指定集積回路を製造するための制約を減少すること、および、この減少にリンクした第1の基板においてスペースを節約することは、重要な書き込みパスバンドと、従来技術によるデバイスではないデバイスによって放出されたビームのそれぞれの一層速い書込み速度とを得ることを可能にする。
【0033】
代案の実施の態様によれば、本発明によるマイクロ電子工学的電子放出デバイスは、マイクロソースの前記複数のものの中で、第1の導電領域上に存在するマイクロソースであって、第1の導電領域または半導体領域を用いて第1のカソードを形成する第1の複数のマイクロソースと、第2の導電領域上に存在するマイクロソースであって、第2の導電領域または半導体領域を用いて、第1の領域から分離され、またはそれとは無関係の、またはそれに接触していない第2のカソードを形成する少なくとも1つの他の複数のマイクロソースと、を有することができる。
【0034】
例えば、第1の手段は、第1の基板上に、少なくとも1つの第1のカソードと、第1のカソードから分離されるか無関係で、第1のカソードと同じアドレス指定回路を共有する少なくとも1つの第2のカソードとを有することができる。
【0035】
上記のように規定された数個のビームを放出することができるマイクロ電子デバイスを有する直接書き込みリソグラフィデバイスは、本発明の範囲内で提供される。
【0036】
このリソグラフィデバイスは、電子ビームを合焦点する手段、例えば静電デバイスまたは/および磁気デバイス、例えば磁気射出システム、または静電レンズおよび/または磁気レンズを組み合わせたシステム、をさらに有することができる。このようなリソグラフィデバイスはアノード(陽極)を形成する手段を、さらに有することができる。このアノードは、例えばパターンを形成させたい薄膜で覆われ、極性を持たせた半導体ウェーハ、とすることができる。
【0037】
上記のように規定された数個のビームを放出することができるデバイスを有する集積回路、薄膜で覆われた半導体ウェーハ、チップ、またはフォトリソグラフィマスクのような、マイクロ電子デバイスを検査するためのデバイスも、本発明の範囲内で提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
添付された図面を参照して純粋に情報として与えられ、そして決して限定するものではない実施形態の説明を読んだ後に、本発明は一層良く理解されるであろう。
【0039】
異なる図面における同一の、類似の、または同等の部分は、一の図から他の図への進行を容易にするように同じ参照符号を有する。
【0040】
図面の読み取りを容易にするために、図面で表された異なる部分は必ずしも同じ縮尺ではない。
【0041】
さて、数個の電子ビームを放出することのできる、本発明によって使われるマイクロ電子工学的デバイスを、図3Aに関連して説明する。
【0042】
このデバイスは、第1に、薄膜で形成され、数個の電子ビームを放出することができる第1の構造または第1の手段115を有する。これらの第1の手段115は、例えば半導体材料をベースとする基板100を有し、上記半導体材料上部には、複数の電子エミッター素子105、例えば電界効果または「コールドエミッター」タイプのエミッターが存在する。これらの電子エミッター素子105はマトリックスの形態で配列することができ、そして「画素」としても知られることになる。
【0043】
それぞれの素子または画素105は、「マイクロソース」として知られる複数の初期電子ソースを有することができる。これは、例えばマイクロチップ101あるいは半導体または導体材料をベースとして「スピンドチップ」として知られるチップで、1または数マイクロメートル程度でありうる高さ、例えば1μmの高さである。画素105のマイクロチップ101は、抽出ゲートによって両方の側が囲まれうる。この抽出ゲートは、例えばAl、またはTi、またはTiN、またはNbのような金属であるゲート材料103をベースとし、またゲート材料103は、例えばSiOまたはHfOをベースとするゲート絶縁膜104の上に存在し、ゲート絶縁膜104はそれ自身が導体または半導体領域102上に存在する。
【0044】
1つの可能性(図示せず)によれば、画素105は数個の並列なマイクロソース、例えば開口加工されたゲートの材料の層の開口内に配列された並列なマイクロチップを有することができる。
【0045】
素子または画素105はカソードとしての役割を果たすことのできる導体または半導体領域を有することができ、その領域上にマイクロソースが形成される。それぞれの素子または画素105は、必要に応じて導体または半導体領域102を有することができ、その領域上にはマイクロソースが形成され、そして他の画素のそれぞれの導体領域から分離されるか、それとは無関係にされるか、またはそれに接触しないようにされうる。
【0046】
第1の手段115は、例えば100*100個の画素105から1000*1000個の画素105の間のマトリックスから形成することができる。画素またはエミッター素子105毎のマイクロソースの数は、それの一部に対して、例えば画素105毎に100個から数千個の間のマイクロチップ101が存在するように多くすることができる。
【0047】
第1の手段115はさらに、異なった導体領域102に接続され、マトリックスの素子105をアドレス指定するための回路108を有する。アドレス指定回路は、例えばCMOS(相補型金属酸化物半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor))技術で作ることができる。
【0048】
エミッター素子105のアドレス指定は、アクティブマトリックスの形式のものにできる。例えば、マトリックスにおける画素またはエミッター素子105は同時に放出を行なうことができる。これらのエミッター素子105のそれぞれは、それぞれ、アドレス指定回路108に特定された記憶手段(図示せず)と関連付けることもできる。これらの記憶手段は、素子が放出を行なうよう意図された強度における相対的な設定ポイント値を記憶することができる。必要に応じて、この設定ポイントは、電子放出の際、アドレス指定回路によって、それぞれの画素に対し個別に修正することができる。
【0049】
第2の構造または第2の電子エミッター140は第1の手段115の対向する側に置かれ、それらの部分に対して、第1の構造115のマイクロソースから初期電子を収集し、前記収集に続いて二次電子を再放出するために提供される。
【0050】
第2の構造140は、例えばシリコンのような半導体材料、または例えば金属材料のような導体材料をベースとする第2の基板125を有することができ、それに面してマイクロチップ101の対抗する側に配置される薄膜のスタック126が存在する。
【0051】
スタック126は、特に、例えばTiNをベースとし、例えば約0.1マイクロメートル厚さで、第2の基板125に形成され、構築またはエッチングされた金属層128を有することができる。この金属層128は極性を持たせられ、第1の電極の役割を果たすように意図される。金属層128は、例えば0.1μmから1μmの間の厚さのセラミック材料をベースとする絶縁層132の面と接触している。
【0052】
絶縁層132の他の面の、エミッター素子105の対向する側に位置していない領域は、金属材料134、例えば厚さ0.1μmから1μmの間のTiNをベースとして構築またはエッチングされた他の層に覆われている。このような他の金属層134は極性を持たせられ、第2の電極の役割を果たすように意図される。
【0053】
マイクロチップ101の対向する側に位置し、絶縁層132の132aと表されたある部分は、それらの部分が被覆されない。絶縁層132のこれらの部分132はマイクロチップ101からの電子によって攻撃され、前記攻撃に続く二次電子放出サイトを形成するように意図される。部分132aは、好ましくはMgOのような高い二次電子放出係数を持った絶縁材料で覆うことができる。
【0054】
絶縁層132は複数の開口133をさらに有し、それらもマトリックスに応じて配列することができる。例えば、それぞれの画素105が開口の対向する側に位置するような方法で、また必要に応じて単一の開口を配置できる。開口133は、数ナノメートル程度、または1ナノメートルから50ナノメートルの間、例えば10ナノメートル程度の直径を持つようにできる。
【0055】
開口133は、「ナノソース」と呼ぶことになる二次電子放出ソースを形成することができる。エミッター素子105の対向する側に位置した開口133、または第1のマトリックスの画素の数は、マイクロチップ101、または前記画素105のマイクロソースの数と異なりうる。マトリックスにおける開口133の数は、例えば数百個から百万個の間とすることができる。第2の構造の開口133の合計数は、第1の構造のマイクロチップまたはマイクロソースの数よりかなり少なくできる。開口133は数個のマイクロソースと関連付けることができる。
【0056】
ナノソースは、例えば、電子の異なる数個の初期マイクロソースソースから電子を収集するように、また結果的な電子の二次放出を実行するように提供することができ、それによって、前記収集に続いて初期ソースからの放出の時間的または/および空間的な平均を実行することを可能にする。開口133の直径は、結果的な二次放出の正確な空間的局在化を許容するように提供される。
【0057】
図4Aに示すスタック126の他の実施形態によれば、開口133は、例えばMgOのような二次放出に有利に働くことを可能にするような材料137で覆われた壁を有することができる。このように、開口133の壁および層132の部分132aは、二次放出に有利に働く材料で覆うことができる。
【0058】
図4Bに示すスタック126の実施形態の一変形によれば、開口133は、面上に導体層128または第1の電極が存在する面の側に配置された斜面形状を有するか、および/または、第1の口133aを有するようにもでき、そして、第1の口133aは、面上に導体材料134をベースとする層、または第2の電極が存在する面の側に配置された他の口133bより断面が小さくなるようにできる。
【0059】
スタック126および基板125を電子ビームが通過することを可能にするために、第1の金属層128は開口133の延長線上に例えば1μm程度の直径のオリフィス129を有するのに対し、第2の基板125はオリフィス129の延長線上に例えば10μm程度の直径のオリフィス127を有する。(開口133、オリフィス129と127の直径は、図3Aに示す直交座標
【0060】
【数1】

【0061】
のベクトル
【0062】
【数2】

【0063】
に平行な方向に測られる。)
【0064】
第2の構造140は、第1の構造115に取り付けられるか、または機械的に連結されるか、または一体化されうる。この例では、第2の構造140は、第1の構造110のいずれかの側に形成された導体素子上に存在する。これによって第2の構造140は、例えば数マイクロメートルまたは数百マイクロメートル程度の距離で、第1の構造上の前記導体素子によって保持される。これらの導体素子は、例えば金属のビード(bead)122および124とすることができ、必要に応じて溶融可能な金属または合金をベースとする例えば数マイクロメートルから数百マイクロメートルの間の直径の「ハイブリッド化ビード」として知られる。導体素子122と124は、それぞれ、第1の電極としての役割を果たす金属層128、および第2の電極としての役割を果たす金属材料134と接触する。そして、第1の電極を第1の基板100に集積された第1の供給手段110に、また、第2の電極をやはり第1の基板100に集積された第2の供給手段112に、それぞれ電気的に接続することを可能にする。
【0065】
デバイスの動作は、以下の通りに可能である。画素105のマイクロソース101が初期電子を放出する時(初期電子の放出が図3Bで150と表された矢印ラインによって示されている)、これらの電子のあるものがスタック126の収集層132の一部132aに、さらに開口133の壁に、入って衝突することが可能である。これらの衝突により、二次電子を作りすことができる。
【0066】
これによって、スタック126の収集層132の一部132aは、数個の異なったマイクロソースからの初期電子を「空間的」に収集し、平均化する。
【0067】
平行な状態の第1の電極および第2の電極は、特に、図3Bに示す直交座標
【0068】
【数3】

【0069】
のベクトル
【0070】
【数4】

【0071】
に平行な少なくとも1つの成分と、ベクトル
【0072】
【数5】

【0073】
に平行な少なくとも1つの他の成分とを有する接線方向および半径方向の電界を作り出すように、極性を持たせうる。その電界は、必要に応じて、スタック126の絶縁層133の一部132aに作り出された二次電子(二次電子の放出とジャンプはこの同じ図3B上で152と表された矢印ラインによって示されている)の再放出またはジャンプの数回の段階の後で、開口133に向かってこれらの二次電子の伝達または運搬を第1に可能にする。次に、これらの開口133は電子の二次ソースまたはナノソースを形成する。第1の電極および第2の電極は、二次電子を電子156、158のビームに集約すること、そしてこれらのビーム156、158の電子流動を開口133、そしてオリフィス127と139の出口において加速することを可能にする。
【0074】
このように、開口133のマトリックスは、それぞれの画素またはエミッター素子105に対して、空間的分散のみならず、マイクロソースによって放出された電子ビームの時間的な揺らぎをも、混合または平均化することを可能にする。開口133のこのマトリックスは、マイクロソース101または初期ソースの空間的放出不安定性に依存しない電子の二次ソースを形成することをも可能にする。
【0075】
ナノソースの出口では、作用を平均化することによって改善された強度の時間的安定性および空間的安定性の特徴をそれぞれが持っているビーム156、158と、すべてのビームに対する前記各ビーム間の特性の均一性と、を得ることができる。
【0076】
開口133の出口における電子ビーム156、158は、例えば10から20nm程度の小さな幅と高い電流密度を持ちうる。この電流密度は、例えばナノソース133毎の10nAの放出電流に対して、104A/cm程度とすることができる。
【0077】
本発明によるデバイスは、マイクロチップタイプの初期電子のマイクロソースに限定されるものではない。従って、前述したデバイスの実施形態の変形によれば、マイクロチップベースのカソードは、異なった特性の電子のマイクロソースを有するカソードに置き代えることができる。例えば、文献:J. Dijonら著,「LN-2:Cathode Structures for Carbon Nanotubes Displays」,Proceedings of the 22nd international display research conference, Eurodisplay, Nice 2002. Late news papers, 821頁〜824頁、に記載されているもののようなカーボン・ナノチューブがある。また、もう1つの可能性によれば、文献:K. Sakaiら著,「Flat Panel Displays Based on Surface Conduction Electron emitters」,Proceedings of the 16th international display research conference, Ref 18.3L., 569頁〜572頁、に記載されているナノ亀裂(nanofissure)がある。
【0078】
第1の構造と第2の構造を形成した後、「ハイブリッド化」としても知られる2つの構造を組み立てる段階を、例えば溶融可能材料で形成された例えば導体ハイブリッド化ビード122および124を用いて、実行することができる。これらのビードは、2つの構造間の電気的および機械的接続を構築することはさておき、例えば1ミクロン程度の精密さによって、お互いに対して正確な方法でマイクロソースと開口の2つのマトリックスを配置することを可能ならしめる。
【0079】
今説明したばかりの数個の電子ビーム156、158を作り出すことができる電子放出デバイスは、例えば15または20ナノメートル程度の非常に小さな限界寸法のパターンを薄膜に形成するための、直接書き込みリソグラフィの内部で使うことができる。
【0080】
図5は、前述のようなマイクロ電子工学的電子放出デバイスを有するリソグラフィデバイスを示す。これは、例えば半導体などのウェーハ300上に配置された例えば樹指をベースとする薄膜310にパターンを形成するのに使われる。初期電子を放出できる第1の構造115、第1の構造から初期電子を収集でき、二次電子、特に二次電子156、158のビームを作り出すことができる関連付けられた第2の構造140の他に、電子のナノソース133からの電子156、158のビームの焦点合わせ手段またはシステム350も提供される。これらの焦点合わせ手段は、静電デバイス、または/および、電磁デバイスから形成することができる。このリソグラフィデバイスは、電圧Vaを印加すること、例えば、前記ウェーハがアノードを形成できるようにウェーハ300に対して数千ボルト程度を印加することを可能にするような極性化手段320をさらに有することができる。
【0081】
初期エミッターまたはマイクロソース101の画素105間の、また特に導体領域102と開口133の間の大きさ比率は、マイクロソースまたは初期エミッター101が、相対してはね返るイオン攻撃に対してマスクされるように、提供することができる。このような攻撃は、例えば、ビーム156、158を成形するための手段または絞り350としてビーム156、158の経路に位置した素子からのもの、あるいはそれよりはむしろアノードからのものでありうる。10μm程度の幅d1(d1は、図5に示す直交座標
【0082】
【数6】

【0083】
のベクトル
【0084】
【数7】

【0085】
に平行な方向に測られた距離と定義される)の導体領域102と、10ナノメートル程度の直径d2の開口133に対して、ナノソース133を通して「見える」初期エミッター101は、相対する寄生性のはね返りイオン攻撃から遮蔽される。このエミッター101の遮蔽により、アノードの破壊あるいは高すぎる帯電の可能性がある場合においても保護することができる。この破壊に対する耐性は、ソース101とアノード300との間に、薄膜310に良好な書き込み解像度を得るのに有利であるような高い静電界を印加することを可能にする。
【0086】
ビード122と124によって集積化またはハイブリッド化された第1の構造と第2の構造により、マイクロソース101または初期エミッターを、真空であるか、または真空下で配置することができるキャビティ400に配置することが可能となる。例えば10ナノメートル程度の二次ナノソース133の非常に小さな直径d2は、このキャビティ400内で強い真空、例えば10−10mbar程度の圧力が維持されることを可能にする。初期エミッターまたはマイクロソースの側における強い真空は、ビーム156と158の空間的および時間的安定性を改善することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】従来技術による、数個の電子ビームを備える電子放出デバイスの例を表す。
【図2A】従来技術が経験しうるような、数個の電子ビームを備えたデバイスを用いて電子ビームが放出された場合の欠点またはドリフトを示す。
【図2B】従来技術が経験しうるような、数個の電子ビームを備えたデバイスを用いて電子ビームが放出された場合の欠点またはドリフトを示す。
【図2C】従来技術が経験しうるような、数個の電子ビームを備えたデバイスを用いて電子ビームが放出された場合の欠点またはドリフトを示す。
【図3A】本発明による、数個の電子ビームを備えた電子放出デバイスの第1の実施形態、および、そのようなデバイスにおいて構成される薄膜のスタックを表す。
【図3B】本発明による、デバイスを動作させる方法を示す。
【図4A】本発明による、デバイスにおいて構成される様々な薄膜のスタックを表す。
【図4B】本発明による、デバイスにおいて構成される様々な薄膜のスタックを表す。
【図5】本発明による、直接書き込みリソグラフィデバイスを示す。
【符号の説明】
【0088】
100 基板
101 初期エミッター(マイクロソース)
102 導体領域(または半導体領域)
103 ゲート材料
104 ゲート絶縁膜
105 素子または画素(電子エミッター素子)
108 アドレス指定回路
122 ビード
125 基板
126 スタック
127 オリフィス
128 金属層(導体層)
129 オリフィス
132 収集層(絶縁層)
132a 収集層の一部
133 開口(二次ナノソース)
134 金属材料
137 二次放出に有利に働く材料
156、158 二次電子ビーム
300 ウェーハ(アノード)
310 薄膜
320 極性化手段
350 ビームの焦点合わせ手段またはシステム
400 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数個の電子ビームを備えたマイクロ電子工学的電子放出デバイスであって、
・少なくとも1個の基板と、前記基板上に形成された複数またはN1個(N1>1)の電子のマイクロソースとを有する第1の手段と、
・前記マイクロソースから放出された電子の収集、および二次電子の放出ができる第2の手段であって、前記マイクロソースと対向する側に位置し、「収集層」として知られる少なくとも1個の層を有し、かつ内部に複数またはN2個(N2>1)の開口が形成されており、前記開口の個数N2が前記マイクロソースの個数N1より少なく、前記開口は1ナノメートルから50ナノメートルの直径を持つような第2の手段と、
を備えることを特徴とするマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項2】
前記第1の手段および第2の手段は1個または数個の導体素子によってハイブリッド化されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項3】
前記第1の手段および第2の手段は導電性ビードを用いてハイブリッド化されることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項4】
前記収集層は薄膜のスタックに属し、前記スタックは、前記収集層の両方の側に、前記第1の電極を形成することができる少なくとも1つの導体層と、前記第2の電極を形成することができる少なくとも1つの他の導体層とを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項5】
前記第1の手段および第2の手段は1個または数個の導体素子によってハイブリッド化され、前記電極は前記基板の1個または数個の集積回路によって供給されることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項6】
前記収集層は絶縁材料をベースとしていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項7】
前記開口はマトリックスに配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項8】
前記第1の手段は画素のマトリックスを有し、それぞれの画素は1個または数個のマイクロソースを有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項9】
前記基板は画素アドレス指定回路をさらに有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項10】
前記マイクロソースはマイクロチップ、カーボン・ナノチューブ、またはナノ亀裂であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項11】
前記開口は所定の断面積の第1の口と、前記第1の口より大きな断面積の第2の口とを有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項12】
前記収集層は、1より大きな二次電子放出係数の材料をベースとしていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項13】
電子ビームを合焦点する手段をさらに有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的電子放出デバイス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載のマイクロ電子工学的デバイスを有する、直接書き込みリソグラフィデバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−529293(P2008−529293A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552690(P2007−552690)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050047
【国際公開番号】WO2006/079741
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】