説明

マルチレート制御方法及び装置

【課題】 本発明はマルチレート制御方法及び装置に関し、磁気ディスクの位置決め性能を向上することができるマルチレート制御方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 あるサンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプル間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器生成手段2と、前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似する近似手段3と、1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するホールド関数生成手段4と、前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成する第1の生成手段5と、前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成する第2の生成手段6とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチレート制御方法及び装置に関する。更に詳しくは、磁気ディスク装置等のように、サンプラ(記憶媒体のセクタの位置情報を得ること)に比べてホールド(アームに駆動電流を流すこと)の動作周期に対する制約が少なく、ホールドをサンプラよりも高速に動作させるいわゆる入力マルチレートフィードバック制御が可能なサンプル値制御系としての出力マルチレートフィードバック制御が可能なサンプル値制御系に好適なフィードバック制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の磁気ディスク装置等における位置決め装置は、一般にA/Dコンバータ等を用いてセンサから得られる情報を特定のサンプリング周期でサンプリングし、その情報からDSP等のデジタル演算処理装置上で予め設計しておいた制御器を用いて制御入力を決定し、D/Aコンバータ等を用いて制御対象に制御入力を与えるサンプル値制御となる。その中でも、磁気ディスク等のようにサンプリング時間に物理的な制約があるものの制御入力についてはサンプリング時間ほど大きな制約がない場合には、いわゆる入力マルチレート制御を用いることにより位置決め制御性能を改善できることが知られている。
【0003】
従来のこの種の装置としては、図9に示すような装置が知られている(例えば特許文献1参照)。図9は従来装置の構成例を示す図である。この図を用いてフィードバック制御系10について説明する。フィードバック制御系10は、目標値11と制御対象であるボイスコイルモータ(VCM)17の出力値18とで生成される位置誤差をA/D変換するA/D変換器12と、所定のサンプリング周波数でサンプリングしてA/D変換された位置誤差からサンプル毎に制御指令値を生成するフィードバック制御器13と、1サンプル内を例えば複数の時間帯に分割された各々の時間帯にゲイン分配するマルチゲイン制御部14と、フィードバック制御器13から出力される制御指令値とマルチゲイン制御部14でゲイン分配されたゲイン等の積を各々の時間帯に渡って一定値とし、ホールドするマルチホルダ15と、マルチホルダ15の出力をボイスコイルモータ17に加える駆動回路16とを備えている。
【0004】
また、タイプ1のサンプル値フィードバック制御システムの統合問題をサンプル値H∞を用いて解く技術や(例えば非特許文献1参照)、マルチレートホールドの切り替え時間を調整して制御対象が所望のゼロ点を持つようにする技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−282347号公報(第8頁、第9頁、図11)
【非特許文献1】Proceeding of the 42nd IEEE,Conference on Decision and Control Maui,Hawaii USA,December 2003 2302−2307
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクの場合、サンプリング周波数に対してホールドの動作周期は、その2〜4倍(この倍数をマルチレート倍数と呼ぶ)程度が用いられる。図10はホールドの動作周期とサンプリング周期との関係を示す図である。図において、y(t)は実際の制御出力、y[k]は観測サンプリング周期、Tsはサンプリング周期である。サンプリング周期Tsは均等時分割マルチレートではT1〜T4に均等4分割されている。Tdはディレイ時間である。
【0006】
ここに示したように、通常の入力マルチレートフィードバック制御では、制御入力が時間的に均等分割されている。この均等時分割によるマルチレート制御では、マルチレート倍数を更に上げると更に性能は改善できる見込みがあるが、一般的に改善効果は急激に落ち、マルチレート倍数を上げすぎると、却ってそれに伴う演算処理コストが必要となり、例えば演算時間遅れによる制御性能の悪化や、演算時間が増えることにより、位置決めとは関係のない処理に負担がかかるという問題があった。
【0007】
一方で、このような均等時分割な制御入力による方法は、均等時分割するほうがよいという積極的な理由があるから用いられているわけではなく、不均等時分割ホールドを設計する方法が問題点を含んでいたという消極的な理由によるところが大きい。従来の不均等時分割ホールドは、例えば所定の周波数特性で機械共振を抑制するために非線形最適化の手法を用いて時分割を行なった上で、所望のゼロ点特性に一致させるようにマルチレートゲインを決定するが、ここには制御系本来の目的である閉ループ特性が考慮されていない。即ち、共振抑制問題は、外乱圧縮問題やロバスト安定性等、閉ループの特性と同時に考慮されるべきものであって、その結果としてコントローラとホールドが同時に設計されるべきである。また、後述するように、タイプ1サーボ制御器とすることができないため、定常偏差が残り、例えば磁気ディスクではトラックセンタに位置決めするという目的を達成しにくい。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、磁気ディスクの位置決め性能(精度)を向上することができるマルチレート制御方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)請求項1記載の発明は、あるサンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器を生成するステップと、前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似するステップと、1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するステップと、前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成するステップと、前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成するステップとから構成されることを特徴とする。
【0010】
ここで、「1型」とは、離散時間積分器(以下積分器と呼ぶ)が内蔵されている制御系を意味する。
(2)請求項2記載の発明は、あるサンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器生成手段と、前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似する近似手段と、1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するホールド関数生成手段と、前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成する第1の生成手段と、前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成する第2の生成手段とを有することを特徴とする。
【0011】
(3)請求項3記載の発明は、前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプリング点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、一般化ホールド付きサンプル値H∞サーボ制御設計により制御対象に適した連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする。
【0012】
(4)請求項4記載の発明は、前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプル点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、サンプル値マルチレートH∞サーボ制御設計により制御対象に適した準連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする。
【0013】
(5)請求項5記載の発明は、前記区間毎に定数となる関数で近似する近似手段は、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような区間毎に定数となる関数を数値最適化を行なうことによって導出することを特徴とする。
【0014】
(6)また、本発明において、ホールド関数の最終目標値の所定の閾値以上になったことに基づきホールド関数の段数を決めることを特徴とする。
ここで、特許文献1記載の発明と本願発明との相違点について説明する。本願発明の特徴は、
1.図1に示すようにダイナミクス演算部(コントローラ)Kは、制御出力Yから2つの制御入力u1とu2を演算し出力する構成となっていること、
2.前記Kのうち、制御出力yから制御入力u1までの伝達関数はz=1に極を持つこと、
3.前記Kのうち、制御出力yから制御入力u2までの伝達関数はz=1にゼロ点を持つこと、
である。特許文献1記載の発明は、これらの条件を完全に満たしていない。Fujiokaらの方法(前記非特許文献1参照)によれば、自動的にこれらを満足する。
【発明の効果】
【0015】
(1)請求項1記載の発明によれば、制御対象の位置決め精度を向上させることができる。
(2)請求項2記載の発明によれば、制御対象の位置決め精度を向上させることができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、2つのホールド関数生成手段が制御対象に最適な連続時間ホールド関数を生成することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、2つのホールド関数生成手段が制御対象に最適な準連続時間ホールド関数を生成することができる。
(5)請求項5記載の発明によれば、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような関数を数値最適化を行なうことにより導出することができる。
(6)また、この発明によれば、ホールド関数の最終目標値の所定の閾値以上になったことに基づきホールド関数の段数を決めることにより、マルチレートの倍数も自動的に求めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の原理ブロック図である。図において、1はサンプラ、2は該サンプラ1の出力y[k]を受ける制御器と積分器のダイナミクス演算部、3はダイナミクス演算部2の出力u2[k]を受けて制御器ホールド関数を生成する制御器ホールド関数生成部、4は同じくダイナミクス演算部2の出力u1[k]を受けて積分器ホールド関数を生成する積分器ホールド関数生成部、5は制御器ホールド関数生成部3と積分器ホールド関数生成部4の出力を合成するホールド関数合成部、6は該ホールド関数合成部5の出力であるu[k,i]をホールドする合成ホールド関数ホールド部、7は合成ホールダ関数ホールド部6の出力u(t)で駆動される制御対象である。ここで、u[k,i]のkはサンプル番号であり、iはサンプル間のi番目の切り替えを意味する。また、u[k,i]などの大括弧付き変数は離散時間信号、u(t)などの小括弧付き変数は連続時間信号を意味する。なお、本発明によるフィードバック制御は、2自由度制御系のそれにも適用できる。
【0017】
本発明は、合成ホールド関数ホールド部6がサンプラ1よりも高速に動作するいわゆる入力マルチレート制御系の構成に対して、合成ホールド関数ホールド部6の動作周期を1サンプル間で均等分割せずに時間的に長短を織り混ぜた不均等な周期とした場合に、その各時間の最適な設定手段を提供することで、従来の方法よりも制御性能を向上することができる方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、連続時間若しくは準連続時間の最適ホールド付きサンプル値H∞サーボ問題を解くことにより、制御系が1型サーボ系であり、かつサンプリング点間の応答をも考慮した制御器を設計できることに着目し、その実装上の問題点を解決するための具体的手段を提供しようとするものである。このような連続時間若しくは準連続時間のホールド関数は実用上、実現困難であるか、非常に高価になる。しかしながら、このホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似すれば、上記の制御器を実装できることになる。
【0019】
図2はホールドの動作周波数とサンプリング周期との関係を示す図である。図11と同一のものは、同一の符号を付して示す。図には、不均等時分割マルチレートのホールド関数が示されている。即ち、ここではサンプリング周期TsをT1〜T4(T1≠T2≠T3≠T4)で不均等分割している。
【0020】
近似精度を上げるためには、その区間の時間幅が一定であるという通常磁気ディスクでよく用いられる高速ゼロ次ホールドの前提は排除すべきであり、ここに時間幅が異なる区間毎に定数となる関数の利用が必要となる。これを用いれば、サンプリング間の応答も考慮した不均等分割ホールド付きのサーボ制御器を設計することができる。これに従えば、積分器には自動的にサンプリング周波数で動作するゼロ次ホールドが付加され、一方その他の制御器モードは近似的に最適な不均等時分割なホールドが付加される。
【0021】
更に、H∞設計の利点を全て内包しているので、システマチックな設計が可能になる。例えば、閉ループや外乱圧縮特性も近似的に所望の特性が得られたり、制御対象に考慮すべき共振モードが存在していたとしても周波数重み関数を設定することで回避することができる。また、本発明によれば、システムの構成要素の所定の位置に積分器を挿入している(1型サーボ)ので、制御出力の目標値に定常偏差を近づけることができる。なお、上述の議論では、入力マルチレート問題だけを例として挙げたが、出力マルチレート問題も同様の議論が成立する。
【0022】
以下、本発明の実施例について説明する。
先ず、本発明の一実施の形態例として、磁気ディスクのフォロイング制御系の設計例を示す。制御対象は、以下のような伝達関数を用いてモデル化した。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、サンプリング周期Ts=10.025kHz、時間遅れTd=40μs、共振モードの減衰率及び周波数はξ1=ξ2=0.02、ω1=4.35kHz、ω2=4.75kHzである。これに対して、図3に示す一般化プラントを構成した。Ws、Wdは周波数重み関数であり、Q、d、gはスカラの重みである。Qe/sとWSは感度関数を周波数シェーピングするための周波数重みで、特にQeは積分特性を支配する。Pは被制御対象(プラント)特性、WTは相補感度関数を周波数シェーピングするための周波数重み、d,gはチューニング用の設計定数である。
この状態空間表現は、以下のようになる。
【0025】
【数2】

【0026】
これを用いて一般化ホールド付きH∞制御器を設計する。同方法はFujiokaらによって提案されている(前記非特許文献1参照)。これによると、制御器は以下のような形で得られる。
【0027】
【数3】

【0028】
但し、xは状態量、kはサンプル番号である。Ac,Bcは、
【0029】
【数4】

【0030】
で定義される定数行列であり、またホールド関数H(t)は、
H(t)=[Fexp(AFt) I]=:[H12
で表わされる。但し、
【0031】
【数5】

【0032】
であり、X,Yはリカッチ方程式の解である。この制御器の形より明らかなように、ホールド関数は区間連続な実数ベクトル関数となる一方で、積分器はゼロ次ホールドとなる。図4にこの関数の1サンプル分表示した。図4は区間連続関数のホールド関数の説明図である。縦軸はホールド関数の大きさ、横軸はサンプリング時間である。図では、C1からC5までのサンプルを示している。いずれもサンプリング時間が小さい間はその変動は小さく、ほぼ一定値を保持しているが、サンプリング時間が大きくなると、急激に大きさが変化していることが分かる。
【0033】
この制御系を実装するには、D/A変換器を介したゼロ次ホールド近似、即ち横軸に関して区間毎に定数となる関数で近似し、マルチレート制御を実現しなければならないが、この結果から均等時分割することは妥当でないと言える。即ち、サンプルの最後だけが急峻に変動しており、サンプルの初期値は一定でよいと言える。そこで、このホールド関数を以下のようにN次の区間毎に定数となる関数によって近似し、不均等時分割マルチレート制御を実現することができる。
【0034】
【数6】

【0035】
ここで、次のような評価関数の最小化について考える。但し、評価関数はこの他にも無数にありうる。
【0036】
【数7】

【0037】
但し、t0=0,tN=Tsである。この評価関数の最小化は従来行われている方法と同じように、
【0038】
【数8】

【0039】
の制約付き非線形最適化問題と捉えることができる。図4に示した区間連続のホールド関数に対して、上記の評価関数の最小値を与える不均等時分割のホールド関数を逐次二次計画法(SQP法)を用いて解いたところ、時分割に対して以下の解が得られた。
【0040】
1=0.7Ts,T2=0.2Ts,T3=T4=0.05Ts
但し、実用上の観点から、時間に関する制約はTi>0(i=1…N)ではなく、
i>Ts/20(i=1…N)として与えた。図5はホールド関数とその近似結果の比較説明図である。区間連続のホールド関数H1と、その近似結果
【0041】
【数9】

【0042】
を別々に示す。これにより、サンプル点間を含めて最適ホールド関数と近似的に等価な性能が得られる。なお、(a)に前記したT1〜T4の値を割り当てた様子を示す。
なお、サンプル点上のみを考慮する時は、以下のことが考えられる。不均等時分割ホールドを用いた場合の制御系の開ループ伝達関数は、制御出力側のサンプル点上で評価すると容易に得られる。一方で、もともとの最適ホールドを用いた場合も同様に計算ができる。両者を比較すると、不均等時分割ホールド関数によって両者の特性が同じになるような解が見つかる。これは、従来の方法と同じように、制御対象の次数と時分割数が同じ場合は唯一解が見つかり、それ以外の場合には非線形最適化問題として設計すればよい。
【0043】
上述の実施の形態例では、サンプリング周期Tsを何分割するかは、システムに予め設定するようになっている。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、マルチレートの倍数も最適化問題で算出するようにすることができる。このようにすれば、マルチレートの倍数も自動的に求めることができる。
【0044】
以上、詳細に説明したように、マルチレート倍数を増やすことなく制御性能を改善できる他、マルチレート倍数を下げることにより従来の制御性能と同等の性能を有しつつ、演算量低減により位置決め制御とは関係のない処理への負担を減らすことにより、装置全体としての性能向上が図れる。
【0045】
なお、前述したホールド関数は、区間連続関数として設計することもでき、区間を階段状の関数として設計することもできる。即ち、サンプリング点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、一般化ホールド付きサンプル値H∞サーボ設計により制御対象に適した連続又は準連続時間ホールド関数であって、制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することができる。このようにすれば、2つのホールド関数生成手段が制御対象に最適な連続時間ホールド関数又は準連続関数ホールド関数を生成することができる。
【0046】
以下、磁気ディスクのヘッド位置決め制御を対象とした比較を行なう。図6から図8は均等時分割した4倍マルチレートと、本発明により設計した不均等時分割した2倍マルチレートの実測結果を比較したものである。図6は開ループ周波数特性(ボード線図)、図7は圧縮特性、図8は電流のパワースペクトラムを示している。これらは重ね書きされているものであるが、全く同等の性能が得られていることが分かる。
【0047】
図6は開ループ周波数特性例を示す図であり、周波数のゲインと位相とがそれぞれ示されている。何れも横軸は周波数である。上段がゲイン特性、下段が位相特性をそれぞれ示す。均等4分割の特性と本発明による不均等2分割の特性がそれぞれ一致していることが分かる。
【0048】
図7は感度関数周波数特性例を示す図である。横軸は周波数、縦軸はそれぞれゲインと位相である。何れも図7に示すように、均等4分割の特性と本発明による不均等2分割の特性がそれぞれ一致していることがわかる。図8は制御対象に流す電流の電流スペクトラムを示す図である。横軸は周波数、縦軸はゲインである。均等4分割の特性と本発明による不均等2分割の特性がそれぞれほぼ一致していることを表している。
【0049】
本発明では、前記区間毎に定数となる関数で近似する近似手段は、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような区間毎に定数となる関数を数値最適化を行なうことによって導出することができる。このように構成すれば、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような関数を数値最適化を行なうことにより導出することができる。
【0050】
前述の実施の形態例では、切り替え時間とホールドの値を全て最適化するものであるが、時間だけ予め決めておけば、最適化の計算を楽に行なうことができる。
本発明によれば、マルチレート倍数の初期値R0と、評価関数でみた限界値X0%を指定して、最適なマルチレート倍数を得ることができる。例えば、初期値としてマルチレート倍数R0=10と設定し、それに対する最小評価関数J10を求める。この倍数を1減算して倍数=9の時の最小評価関数を同様にSQPで計算する(J=9)。このJ9とJ10とを比べてX%以上大きくなれば更に倍数を1減算する。この操作を繰り返し、最適なマルチレート倍数を求めることができる。
【0051】
上述の実施の形態例では、本発明が適用される装置としてディスク装置を用いた場合を例にとったが、本発明はこれに限るものではなく、その他の制御系にも適用することが可能である。
【0052】
(付記1) サンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間の第1のホールド関数付きの1型サーボ制御器を生成するステップと、
前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似するステップと、
1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するステップと、
前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成するステップと、
前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成するステップと、
から構成されることを特徴とするマルチレート制御方法。
【0053】
(付記2) サンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器生成手段と、
前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似する近似手段と、
1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するホールド関数生成手段と、
前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成する第1の生成手段と、
前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成する第2の生成手段と、
を有することを特徴とするマルチレート制御装置。
【0054】
(付記3) 前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプル点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、一般化ホールド付きサンプル値H∞サーボ制御設計により制御対象に適した連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする付記2記載のマルチレート制御装置。
【0055】
(付記4) 前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプル点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、サンプル値マルチレートH∞サーボ制御設計により制御対象に適した準連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする付記2記載のマルチレート制御装置。
【0056】
(付記5) 前記区間毎に定数となる関数で近似する近似手段は、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような区間毎に定数となる関数を数値最適化を行なうことによって導出することを特徴とする付記2記載のマルチレート制御装置。
【0057】
(付記6) ホールド関数の最終目標値の所定の閾値以上になったことに基づきホールド関数の段数を決めることを特徴とする付記2記載のマルチレート制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の原理ブロック図である。
【図2】ホールドの動作周波数とサンプリング周期との関係を示す図である。
【図3】区間連続最適ホールドを設計する一般化プラントの構成図である。
【図4】区間連続関数のホールド関数の説明図である。
【図5】ホールド関数とその近似結果の比較説明図である。
【図6】開ループ周波数特性例を示す図である。
【図7】感度関数周波数特性例を示す図である。
【図8】電流スペクトラムを示す図である。
【図9】従来装置の構成例を示す図である。
【図10】ホールドの動作周期とサンプリング同期との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 サンプラ
2 ダイナミクス演算部
3 制御器ホールド関数生成部
4 積分器ホールド関数生成部
5 ホールド関数合成部
6 合成ホールド関数ホールド部
7 制御対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あるサンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器を生成するステップと、
前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似するステップと、
1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するステップと、
前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成するステップと、
前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成するステップと、
から構成されることを特徴とするマルチレート制御方法。
【請求項2】
あるサンプリング周波数で観測した観測量若しくはそれと目標値との差を用いて直接的にサンプリング間の制御入力を生成する、連続的若しくは準連続時間のホールド関数付きの1型サーボ制御器生成手段と、
前記ホールド関数を区間毎に定数となる関数で近似する近似手段と、
1型サーボを実現する最適な制御入力を生成するホールド関数生成手段と、
前記2つのホールド関数の合成ホールド関数を生成する第1の生成手段と、
前記合成ホールド関数を任意の時間に任意の時間長だけホールドして制御入力波形を生成する第2の生成手段と、
を有することを特徴とするマルチレート制御装置。
【請求項3】
前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプリング点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、一般化ホールド付きサンプル値H∞サーボ制御設計により制御対象に適した連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする請求項2記載のマルチレート制御装置。
【請求項4】
前記各サンプル間の制御入力を決定する2つのホールド関数生成手段は、サンプル点間の応答を考慮に入れ、またサーボ問題を扱える、サンプル値マルチレートH∞サーボ制御設計により制御対象に適した準連続時間ホールド関数であって、当該制御器のダイナミクスと同じ数だけのホールド関数を生成することを特徴とする請求項2記載のマルチレート制御装置。
【請求項5】
前記区間毎に定数となる関数で近似する近似手段は、制御器次数に応じた複数のホールド関数を、所定の区間数のもと、特定の評価関数が最小となるような区間毎に定数となる関数を数値最適化を行なうことによって導出することを特徴とする請求項2記載のマルチレート制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−79670(P2006−79670A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259599(P2004−259599)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】