説明

マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法

【目的】光学系の歪み等によるマルチビームの照射位置のずれによるパターン寸法の変動を抑制する描画装置を提供する。
【構成】描画装置100は、XYステージ105と、電子銃201と、複数の穴を有し、電子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材203と、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行うブランキングプレート204と、各ビームの試料上のそれぞれの照射位置に、各ビームをまとめて偏向する偏向器208と、互いに異なる穴を通過した複数のビーム同士を試料上において所定の制御グリッド間隔で描画処理を進めるように制御する描画処理制御部18と、描画されるビーム同士の間隔が前記制御グリッド間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する照射量制御部16と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、マルチビームによる複数の照射位置を高精度化する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ等へ電子線を使って描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
かかるマルチビーム方式の描画装置では、複数のビームが一度に照射されることになるが、かかる複数のビームの照射位置を高精度に合わせることが要求される。例えば、描画されるパターンについては、光学系のレンズの縮小率を調整することで各ビームの寸法を調整することで寸法を調整することが考えられる。しかし、レンズ条件を変更すると、パターンが回転するといった現象や、フィールド歪みが変化するといった現象が生じる。そのため、寸法精度が高精度になるように光学系に必要な他の多くのパラメータと共に最適化した状態に合わせこむことは難しい作業となってしまう。回転合わせについては、機械的に合わせる場合、nmオーダーの正確な回転位置調整が必要となり、現実的ではない。また、フィールド歪みについては、まず、光学系には原理的にフィールド歪みが存在する。製造精度として、例えば、nm以下(例えば、0.1nm)の精度に合わせるにはかなり緻密な設計が必要となり、これもまた現実的ではない。また、光学系の設計で仮に高精度に設計できたとしても、他の設計パラメータの設定範囲に制約が存在する。そのため、フィールド歪みを修正しようとすると、かかる他の条件(例えば、解像性能、焦点深度等)の最適化を妨げる可能性もある。さらに、歪みを減らすために磁場の均一化を図ろうとすれば例えば巨大な鏡筒が必要になる。さらに、歪みを減らすためには複雑な補正機構が多く必要となり、装置に過大な負担をかけることにもなる。さらに、描画装置の製造後には、実際の装置での調整が必要となるが、歪みを修正しようにも、描画処理のパラメータが複雑に関係し合い、歪みの修正用のパラメータが独立変数にはならないので、最適化が困難か、できたとしても多大な時間をかかってしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−261342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、マルチビーム方式の描画装置では、複数のビームが一度に照射されることになるが、かかる複数のビームの照射位置を高精度に合わせることが要求される。マルチビーム方式では、異なる成形穴を通過したビーム同士を一部重ね合わせながら繋げていき、所望の図形形状のパターンを形成していくことになる。光学系の歪み等によって、所望の照射位置からビームがずれると、照射ビーム間のオーバーラップ量がずれていき、高精度なパターンの描画が困難になってしまうといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、光学系の歪み等によるマルチビームの照射位置のずれによるパターン形状或いは寸法の変動を抑制する描画装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部を有し、複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーと、
複数のブランカーによってビームoffの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
ブランキングアパーチャ部材を通過した各ビームの試料上のそれぞれの照射位置に、ブランキングアパーチャ部材を通過した各ビームをまとめて偏向する偏向器と、
複数の開口部のうち互いに異なる開口部を通過した複数のビーム同士を試料上において所定の制御グリッド間隔で描画処理を進めるように描画処理を制御する描画処理制御部と、
描画されるビーム同士の間隔が制御グリッド間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する照射量制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、上述したずれ量に応じて最大照射量を演算する最大照射量演算部をさらに備え、
照射量制御部は、演算された最大照射量内の照射量でずれに関与するビームの照射量を可変に制御すると好適である。
【0010】
また、最大照射量演算部は、制御グリッド間隔と上述したずれ量の比に応じて、最大照射量を演算すると好適である。
【0011】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、
荷電粒子ビームを放出する工程と、
複数の開口部を有するアパーチャ部材の複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成する工程と、
複数の開口部のうち互いに異なる開口部を通過した複数のビーム同士を試料上において所定の制御グリッド間隔で描画処理を進める工程と、
描画されるビーム同士の間隔が制御グリッド間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
ずれに関与するビームがとり得る最大照射量を、予め求めたずれ量に応じて演算する工程をさらに備える好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、光学系の歪み等によるマルチビームの照射位置のずれによるパターン形状或いは寸法の変動を抑制できる。その結果、マルチビームで高精度なパターンを描画できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。
【図3】実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。
【図4】実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。
【図5】実施の形態1におけるラスタースキャンの描画動作を説明するための概念図である。
【図6】実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の一例をより詳細に説明するための概念図である。
【図7】実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である。
【図8】実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である
【図9】実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である
【図10】実施の形態1における一度に照射されるマルチビームの位置ずれ量の一例を示す概念図である。
【図11】実施の形態1におけるショットパターン同士の重なり状態の一例を示す図である。
【図12】実施の形態1におけるマルチビーム描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図13】実施の形態1におけるショットパターンの重なり状況と照射量との関係を説明するための概念図である。
【図14】実施の形態1の手法で描画した際の各位置でのドーズプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図15】実施の形態1におけるショットパターンの重なり状況と照射量との関係を説明するための他の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、偏向器205、および検出器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、マーク106と位置測定用のミラー210が配置される。マーク106は、例えば、十字型のパターンにより構成される。
【0017】
制御部160は、制御計算機110,120、メモリ121、偏向制御回路130,132、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプ134,136、アンプ138、ステージ位置測定部139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110,120、メモリ121、偏向制御回路130,132、アンプ138、ステージ位置測定部139、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが外部から入力され、格納されている。
【0018】
制御計算機120内には、測定部10、最大照射量演算部12、照射量演算部14、照射量制御部16、および描画処理制御部18が配置される。測定部10、最大照射量演算部12、照射量演算部14、照射量制御部16、および描画処理制御部18といった各機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。測定部10、最大照射量演算部12、照射量演算部14、照射量制御部16、および描画処理制御部18に入出力される情報および演算中の情報はメモリ121にその都度格納される。
【0019】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0020】
図2は、実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。図2(a)において、アパーチャ部材203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチで形成されている。図2(a)では、例えば、512×8列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形例えば長方形或いは正方形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。ここでは、y方向の各列について、x方向にAからHまでの8つの穴22がそれぞれ形成される例が示されている。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、図2(a)にように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。図2(b)に示すように、例えば、縦方向(y方向)1段目の列と、2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)2段目の列と、3段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。ブランキングプレート204には、アパーチャ部材203の各穴22の配置位置に合わせて通過孔が形成され、各通過孔には、対となる2つの電極24,26の組(ブランカー)が、それぞれ配置される。各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立にかかる対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。このように、複数のブランカーが、アパーチャ部材203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0022】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。アパーチャ部材203には、矩形例えば長方形或いは正方形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。かかるアパーチャ部材203の複数の穴を通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカー内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する。そして、ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかるブランカーのon/offによって、ブランキング制御が行われ、ビームのon/offが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、複数のブランカーによってビームoffの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームonになってからビームoffになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的にはアパーチャ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、不要なビームはブランキング制御によりビームoffに制御される。
【0023】
図4は、実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。図4(a)に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。かかる各ストライプ領域32は、描画単位領域となる。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、図4(b)に示すように、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向にむかって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。各ストライプ32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が移動する中、偏向器208によってy方向に各ショットが順に移動する(スキャンする)ように偏向し、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画する。例えば、x方向への移動速度とy方向へのスキャン速度が1:1であれば、図4(c)に示すように、アパーチャ部材203の1つの穴Aを通過したビームによるショットパターン36は、1回目に照射された位置からy方向から−x方向側に45度の角度の方向(135度の方向)に順にずれながら照射されていくことになる。同様に、アパーチャ部材203の1つの穴Bを通過したビームによるショットパターン36は、1回目に照射された位置からy方向から−x方向側に45度の角度の方向に順にずれながら照射されていくことになる。アパーチャ部材203の各穴CからHを通過した各ビームによるショットパターン36も、同様に、それぞれ1回目に照射された位置からy方向から−x方向側に45度の角度の方向に順にずれながら照射されていくことになる。このように、一度に照射される縦横2×2のビームで囲まれる各領域内をラスタースキャン方式で描画していくことになる。縦横2×2のビームで囲まれる各領域は、図中下側の横2つのビーム位置を含み、上側の2つのビーム位置は、当該領域の1段y方向側の領域に含まれる。
【0024】
図5は、実施の形態1におけるラスタースキャンの描画動作を説明するための概念図である。例えば、アパーチャ部材203についてx方向に8つの穴A〜Hが形成されている場合に、一度に照射されるx方向に隣り合うショットパターン36間をステージが移動する間に、一度に照射される縦横2×2のビームで囲まれる各領域内を複数回のショットのビームで照射する。例えば、所定の量子化寸法で格子状に配置した制御グリッド(AU:アドレスユニット)のサイズを一度に照射される縦横2×2のビームで囲まれる各領域内をnAU×nAUになるサイズに設定し、ステージ移動中、かかる縦横2×2のビームで囲まれる各領域をAU(制御グリッド)間隔でn回のショットのビームで照射する。ここでは、AUのサイズを一度に照射される理想的な縦横2×2のビームで囲まれる各領域内を8AU×8AUになるサイズに設定し、ステージ移動中、かかる縦横2×2のビームで囲まれる各領域をAU毎にショットし、8回のショットのビームで照射する。例えば、穴Aの8回目のショットは、隣りの穴Bの1回目のショットのy方向に8AU分ずれた位置に照射される。AU毎にショットする場合に、アパーチャ部材203の1つの穴Aを通過したビームによるショットパターン36について、x、y方向にショットパターン36同士が重なり合うように照射していく方法がパターン精度得る上で望ましい。ここでは、例えば、ビームサイズがAUの2倍になるように設定している。この場合、x、y方向にそれぞれ1/2ずつショットパターン36同士が重なり合うように照射していくことになる。
【0025】
図6は、実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の一例をより詳細に説明するための概念図である。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「1」はアパーチャ部材203の各穴Aを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「2」はアパーチャ部材203の各穴Bを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「3」はアパーチャ部材203の各穴Cを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「4」はアパーチャ部材203の各穴Dを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「5」はアパーチャ部材203の各穴Eを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「6」はアパーチャ部材203の各穴Fを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「7」はアパーチャ部材203の各穴Gを通過したビームによるショット位置を示す。図6において、丸で囲まれた数字のうち、「8」はアパーチャ部材203の各穴Hを通過したビームによるショット位置を示す。また、「11」から「18」は、アパーチャ部材203の各穴A〜HとはY方向に1段上に位置する別の各穴を示す。また、四角で囲まれた位置は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hの位置を示す。アパーチャ部材203の各穴A〜Hを通過したビームによる各ショットパターン36は、理想的には互いにビーム間ピッチだけ離れた位置にそれぞれ照射される。そして、ビーム間ピッチをAU(制御グリッド)間隔でn回(ここでは8回)ショットしながらビーム間ピッチのn倍(ここでは8回)の長さをステージ移動させると、図6に示すように、一度に照射される縦横2×2のビームで囲まれる各領域内は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hを通過したビームによる各ショットパターン36によって埋め尽くされることになる。描画したいパターンの形状に応じて、かかるショットのうち、不要なショットのビームをoffにすれば、残りのショットパターン36を繋ぎ合わせることによって試料101上に所望の形状のパターンを描画することができる。
【0026】
図6では、ステージ移動方向を+X方向とし、それと直行するY方向にビーム全体をスキャンするように制御する。この様子を同図の右側に概念的に矢印で図示している。また、アパーチャの開口(穴)位置の下にスキャン開始のタイミングを、T=0を基準として、T=−6〜7で示している。図6は、T=0の時点で、各ビームがスキャンを開始する描画位置を模式的に表している。この例では、ステージの+X方向ステージ移動に合わせてYスキャンを行うことで、描画位置が相対的に−X方向に移動しながら、全面をビームショットで塗りつぶして行く。T=0で0回目のY方向スキャンが終わると、ビーム位置は隣のビームの1AU(−X方向へ)ずれた所にあり、ここから1回目(T=1)のスキャンを開始する。ステージ移動速度は、1回のYスキャンが終わった時点でビーム位置が隣のビームの1AU(−X方向へ)ずれた所になるように制御される。Y方向上下のビームについても同様に描画が行われ、AU単位で全面を塗り潰すようにビームショットができる。これらのビームショットの各々にどの程度の照射量を与えるかで様々なパターンが描画されることになる。
【0027】
図7は、実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である。図7において、丸で囲まれた数字と、アパーチャ部材203の各穴の位置との関係は図6と同様である。また、「11」から「18」は、アパーチャ部材203の各穴A〜HとはY方向に1段上に位置する別の各穴を示す。また、四角で囲まれた位置は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hの位置を示す。図7では、図6の変形例を示す。この例は、図6の例に対して、さらにX方向のスキャンを組み合わせたものである。0回目(T=0)のYスキャンが終了すると、この図の例では、原点位置(スキャン開始位置)は左側の穴を通過したビームの0回目(T=0)のスキャン開始位置と一致する。言い換えれば、そのようにステージ速度を制御する。左の穴のビームの描画位置と重ならないように、1回目(T=1)のスキャン開始位置を左(−X方向)へ1制御ユニット(1AU)だけずらして(Xスキャンして)Yスキャンを開始する。このような処理を順次繰り返す。T=7の時点でのスキャンを終えると、X方向の偏向量は0に戻して、再び同じ処理を繰り返す。
【0028】
図8は、実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である。図8では、図6のさらなる変形例を示す。図8において、丸で囲まれた数字と、アパーチャ部材203の各穴の位置との関係は図6と同様である。また、「11」から「18」は、アパーチャ部材203の各穴A〜HとはY方向に1段上に位置する別の各穴を示す。また、四角で囲まれた位置は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hの位置を示す。図8の例では、Yスキャンをステージ移動に追従してほぼ45°方向に行う。その結果、図に示すように、Yスキャンによる照射位置はX方向には移動せずに+Y方向へ順次描画されることになる。ステージ移動速度は、1回のYスキャンが終わった時点でビーム位置が隣のビームの1AU(−X方向へ)ずれた所になるように制御される。このように描画を行うと、各ビームの照射位置がXYに整列した描画位置とすることができる。
【0029】
図9は、実施の形態1におけるビーム間ピッチのn倍の長さステージ移動させた場合の各ショットの照射位置の他の一例をより詳細に説明するための概念図である。図9では、図8のさらなる変形例を示す。図9において、丸で囲まれた数字と、アパーチャ部材203の各穴の位置との関係は図6と同様である。また、「11」から「18」は、アパーチャ部材203の各穴A〜HとはY方向に1段上に位置する別の各穴を示す。また、四角で囲まれた位置は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hの位置を示す。図9には、図8の例にX方向スキャンを組み合わせた例を示す。Y方向スキャンと共に、ステージ速度に追従してX方向へ移動するように描画位置を順に制御すると、描画位置は順にY方向へ移動した位置へ描画される。0回目(T=0)のステージ移動に追従したYスキャンが終了すると、この図の例では、原点位置(スキャン開始位置)は左側の穴を通過したビームの0回目(T=0)のスキャン開始位置と一致する。言い換えれば、そのようにステージ速度を制御する。左の穴のビームの描画位置と重ならないように、1回目(T=1)のスキャン開始位置をXスキャンにより左(−X方向)へ1制御ユニット(1AU)だけずらしてステージ移動に追従したYスキャンを開始する。このような処理を順次繰り返す。T=7の時点でのスキャンを終えると、X方向の偏向量は0に戻して、再び同じ処理を繰り返す。ここで、例えば、さらにY方向のスキャン速度を変えると、Y方向のショット間隔が変えられる。
【0030】
図6〜図9で各ショットの照射位置の一例を示したように、ステージ移動と組み合わせたスキャンの方法は色々と選択できる。Y方向スキャンのみで描画する方法は制御がシンプルで済むというメリットがあるが、X方向のスキャンが無い分だけ融通性が乏しい。一方、XY両方向のスキャンを組み合わせた方法にはより選択肢があるというメリットがある。例えば、図6〜図9の例で示したように、スキャン方法を切り替えればビーム間のショット数を変えて(制御ユニットを変えて)描画することが可能となる。これらは、設計の要求に合わせて選択されれば良い。
【0031】
図10は、実施の形態1における一度に照射されるマルチビームの位置ずれ量の一例を示す概念図である。図10では、例えば、アパーチャ部材203の各穴A〜Hを通過した一度に照射されるマルチビーム20による各ショットパターン36が、y方向に比例して照射位置がずれた場合を示している。かかる位置ずれの原因として、光学系の歪みによる影響やアパーチャ部材203の機械的な設置位置の回転方向ずれによる影響の場合等が挙げられる。このように、現実には、理想的な位置に照射されず、光学系或いは機械的設置ずれ等による位置ずれが発生する。かかる場合に、穴Aを通過したビームの照射位置を基準にすると、穴Hに向かうにしたがってだんだんに位置ずれ量Δy(Δyb〜Δyh)が大きくなってしまう。よって、ラスタースキャンを行った場合、図6〜図9に示す各ショットの繋ぎにおいて、穴Aを通過したビームのショットパターン36と穴Hを通過したビームのショットパターン36との間での位置ずれ量が最も大きくなってしまう。その結果、穴Aを通過したビームのショットパターン36と穴Hを通過したビームのショットパターン36との間でのつなぎ精度が最も劣化し、形成されるパターンの形状や位置に誤差が最も大きく影響してしまうことになる。
【0032】
図11は、実施の形態1におけるショットパターン同士の重なり状態の一例を示す図である。図11(a)に示すように、設計段階では、ショットパターン同士(穴Aのショットと穴Hのショット)の重なり量がXa(例えば、ビームサイズ(ショットパターンサイズ)の1/2)であったところ、歪み等により、結果的に図11(b)に示すように、重なり量Xbと規定値の重なり量Xaよりもずれてしまう(ここでは、重なり量がより多くなってしまう例を示している)。言い換えれば、ショット位置同士の間隔がAU間隔からずれてしまう。このままでは、形成されるパターンの形状や位置に誤差が生じてしまう。そこで、実施の形態1では、かかる位置ずれが生じた場合でも各ショットパターンのビームの照射量を可変制御することで、ショットパターンの位置ずれがあった場合でもかかる位置ずれによって生じるはずの試料上に描画されるパターン形状のずれを補正する。
【0033】
図12は、実施の形態1におけるマルチビーム描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図12において、実施の形態1におけるマルチビーム描画方法は、歪み測定工程(S102)と、ショットデータ生成工程(S104)と、最大照射量演算工程(S106)と、照射量演算工程(S108)と、描画工程(照射量制御工程)(S110)という一連の工程を実施する。
【0034】
まず、歪み測定工程(S102)として、描画処理を実行する前に、前処理として、測定部10は、アパーチャ部材203の各穴A〜Hを通過したマルチビーム20による各ショットパターン36の歪み量を測定する。具体的には、まず、1つの穴(例えば、穴A)を通過したビームの偏向可能範囲内にマーク106が位置するようにXYステージを移動させる。そして、かかる穴(例えば、穴A)を通過したビームを偏向器208で偏向しながらXYステージ105上のマーク106をスキャン(走査)する。かかる測定中の1つの穴(例えば、穴A)以外の穴を通過するビームはブランキングによりビームoffにしておけばよい。そして、スキャン動作している間の反射電子や2次電子を検出器138で検出する。検出された反射電子や2次電子の測定データは、測定部10に出力される。また、ステージ位置測定部139は、レーザをミラー210に照射し、反射されたレーザ光を受光して、XYステージ105の位置を測定する。ステージ位置測定部139によりかかるスキャンを行った際のステージ位置が測定され、測定結果は、測定部10に出力される。測定部10は、測定されたステージ位置から想定されるマーク位置と、検出された反射電子や2次電子の測定データから想定されるマーク位置との差を測定し、かかる穴(例えば、穴A)を通過したビームによるショットパターン36の歪み量を測定する。残りの穴についても、1つずつ、同様に、測定し、アパーチャ部材203の各穴A〜Hを通過したマルチビーム20による各ショットパターン36の歪み量を測定する。ここでは、y方向1段分(穴A〜H)だけ記載しているが、縦横m×n個の穴を通過するマルチビーム20について、それぞれの穴を通過するビームによる各ショットパターン36の歪み量を測定する。測定された歪み量は記憶装置142に格納される。そして、描画処理が開始される。
【0035】
ショットデータ生成工程(S104)として、描画データ処理部として機能する制御計算器110は、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って、装置固有のショットデータを生成する。ショットデータは、各ショットの照射有無(ビームon/off)の情報および照射位置座標等が定義される。また、各ショットの照射量も合わせて定義されてもよい。或いは、照射量は、予め一定値に設定しておいてもよい。
【0036】
図13は、実施の形態1におけるショットパターンの重なり状況と照射量との関係を説明するための概念図である。図13(a)では、アパーチャ部材203の穴Fを通過したビームによるショットパターンと、穴Gを通過したビームによるショットパターンと、穴Hを通過したビームによるショットパターンと、穴Aを通過したビームによるショットパターンと、穴Bを通過したビームによるショットパターンとが順に照射された場合の重なり状況の一例を示す。図13(a)では、穴Hを通過したビームによるショットパターンと、穴Aを通過したビームによるショットパターンとの重なり状況だけ、規定の重なり量(ここではビームサイズの1/2)よりも重なり量が多くなっている場合を一例として示している。言い換えれば、照射位置の間隔がAUよりも狭くなっている場合を示している。その他のショットパターン同士の重なり量は、規定値通りになっている場合を一例として示している。図13(b)では、重なり量が把握しやすいように各ショットパターンを縦にずらして示している。また、ここでは、x軸として、AUのサイズで、0.5AUずつx方向位置を示している。図13(b)では穴Gを通過したビームによるショット位置(中心位置)をx=0で示している。図13(c)では、描画するパターン40を一例として示し、パターン40のエッジ位置(端部位置)Xを示している。そして、図13(b)では、かかるパターン40のエッジ位置Xの位置によって、それぞれの穴を通過するビームに設定すべき照射量をグラフで示している。図13(b)では、ショットパターン毎にy軸としてかかる設定すべき照射量をグラフで示している。その際、ここでは、各ショットパターンの縦寸法(y寸法)を通常の最大照射量に見立てている。また、図13(a)(b)では、穴Hと穴Aを通過したビームによるショットパターン同士の重なり量から規定より余分に重なった量分を差し引いた差分をオーバーラップ量Xorと定義する。言い換えれば、照射位置ピッチは理想的にはAUに一致することになるが、歪みによりAUよりも狭くなったそのずれ量をオーバーラップ量Xorとしている。図からも解かるが、この例ではビームサイズをAUの2倍としている。
【0037】
最大照射量演算工程(S106)として、最大照射量演算部12は、各穴を通過するビームの最大照射量を演算する。具体的には、例えば、最大照射量演算部12は、測定された歪量と描画方法等から各ショットの試料上の照射位置を求め、各穴を通過するビームの各ショットの最大照射量を演算する。かかる最大照射量は、オーバーラップ量Xorに応じて最大照射量を演算する。最大照射量Dmaxは、オーバーラップ量Xor、ビームサイズBs、および予め設定された通常の状態での最大照射量Dを用いて、以下の式(1)で定義される。
(1) Dmax={1−(Xor/Bs)}・D
={1−(Xor/(2・AU))}・D
これは、オーバーラップに関わる、穴Hと穴Aを通過したビームについて同じとなる。また、その他の穴を通過したビームについては、規定値通りのオーバーラップ量、すなわちXor=0なので、Dmax=Dとなる。
【0038】
このように、ビームサイズBsとオーバーラップ量Xorの比に応じて、最大照射量Dmaxは演算されると好適である。予め設定していた規定値よりも余分にオーバーラップするショットは、全面が所謂べた描画となった場合に、近傍での総照射量が同じ(規定値)になるように最大照射量Dmaxを制限する。図13(b)の例では、穴Hを通過するビームと穴Aを通過するビームについて最大照射量がDからDmaxに制限されることになる。
【0039】
照射量演算工程(S108)として、照射量演算部14は、ショットデータを読み込み、ショットデータに沿って、各ショット用のビームの照射量Dを演算する。具体的には、例えば、照射量演算部14は、測定された歪量と描画方法等から求められる各ショットの試料上の照射位置に基づき、ショットデータを読み込み、ショットデータに沿って、各ショット用のビームの照射量Dを演算する。各照射量は、図13(c)に示すパターン40のエッジ位置Xが、図13(b)に示すx座標のどの位置に位置するかによって計算される。
【0040】
まず、穴Gを通過するビームの照射量Dgについて示す。
X≦−0.5AUの場合、Dg=0と演算される。
−0.5AU<X≦0.5AUの場合、Dg={(X+0.5AU)/AU}・Dと演算される。
X>0.5AUの場合、Dg=Dと演算される。
【0041】
次に、穴Hを通過するビームの照射量Dhについて示す。
X<0.5AUの場合、Dh=0と演算される。
0.5AU<X≦1.5AU−(Xor/2)の場合、Dh={(X−0.5AU)/AU}・Dと演算される。
1.5AU−(Xor/2)<Xの場合、Dh=Dmax={1−(Xor/Bs)}・Dと演算される。
【0042】
次に、穴Aを通過するビームの照射量Daについて示す。
X≦1.5AU−(Xor/2)の場合、Da=0と演算される。
1.5AU−(Xor/2)<X≦2.5AU−Xorの場合、
Da={(X−1.5AU+Xor)/AU}}・Dと演算される。
2.5AU−Xor<Xの場合、Da=Dmax={1−(Xor/Bs)}・Dと演算される。
【0043】
次に、穴Bを通過するビームの照射量Dbについて示す。
X≦2.5AU−Xorの場合、Db=0と演算される。
2.5AU−Xor<X≦3.5AU−Xorの場合、
Db={(X−2.5AU+Xor)/AU}・Dと演算される。
3.5AU−Xor<Xの場合、Db=Dと演算される。
【0044】
ここでは、規定のオーバーラップ量よりも余分にずれたショットパターンが穴Hを通過するビームと穴Aを通過するビームによるショットパターン同士である場合について示したが、その他のビームによるショットパターン間でも規定のオーバーラップ量よりも余分にずれたショットパターン同士についても同様に計算すればよい。
【0045】
描画工程(照射量制御工程)(S110)として、描画処理制御部18は、上述したように、複数の穴22のうち互いに異なる穴22を通過した複数のビーム同士を試料101上においてAU(制御グリッド)間隔で描画処理を進めるように描画処理を制御する。言いかえれば、複数のビーム同士の照射範囲を試料101上でオーバーラップさせながら描画処理を進めるように描画処理を制御する。その際、照射量制御部16は、描画されるビーム同士の間隔がAU(制御グリッド)間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する。言いかえれば、オーバーラップする量(重なり合う量)が予め設定された規定量からずれる場合に、オーバーラップ量に応じてオーバーラップに関与するビームの照射量を可変に制御する。具体的には、照射量演算部14によって演算された照射量に可変制御する。そして、照射量制御部16は各ショットの照射量を偏向制御回路130に出力し、偏向制御回路130は、入力された照射量に合わせて照射時間を演算する。照射時間tは、各ショットの照射量Dを電流密度Jで割ることで求めることができる。そして、偏向制御回路130は、対応するショットを行う際、照射時間tだけブランカーがビームonするように制御用のデジタル信号をDACアンプ134に出力し、DACアンプ134でデジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅したうえで、偏向電圧として、ブランキングプレート204の対応するブランカーに印加する。以上のように、描画したいパターンエッジ位置に応じて、最大照射量までの間で照射量を可変制御する。一方、描画処理制御部18は、ショットデータが示す照射位置(座標)に各ビームが偏向されるように、偏向位置データを偏向制御回路132に出力する。偏向制御回路132は偏向量を演算し、制御用のデジタル信号をDACアンプ136に出力し、DACアンプ136でデジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅したうえで、偏向電圧として、偏向器208に印加する。これにより、その回にショットされるマルチビーム20をまとめて偏向する。
【0046】
図14は、実施の形態1の手法で描画した際の各位置でのドーズプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。この結果は、AUをビームサイズの半分の寸法とし、ビーム解像性をσ値でAUと同じと想定して、数値シミュレーションにより求めたものである。例えば、ビームサイズを20nmとすると、AUが10nm、ビーム解像性σは10nmの場合に相当する。図14において、横軸は、図13(b)に示したx方向位置を示す。縦軸はドーズ量を任意相対値で示す。パターン40のエッジ位置Xを図13(b)に示したx軸の0から2.5AUまで0.5AUずつ順に変化させた場合(条件1〜6)のエッジ位置Xでのドーズプロファイルを示している。図14に示すように、実施の形態1の計算式で照射量が可変になるように演算することで、パターン40のエッジ位置Xの変化に伴ってドーズプロファイルもx方向に移動していることがわかる。例えば、エッジを形成するためのドーズ閾値が値「2」付近であった場合、パターン40のエッジ位置Xの変化に合わせてそれぞれの位置でのドーズ量も「2」付近のまま移行している。言い換えれば、エッジ位置Xが精度よくパターン形成できていることがわかる。
【0047】
以上のように、実施の形態1によれば、光学系の歪み等によるマルチビームの照射位置のずれによるパターン形状或いは/および寸法の変動を抑制できる。その結果、マルチビームで高精度なパターンを描画できる。
【0048】
上述した図13(b)では穴Gを通過したビームによるショット位置をx=0として、各式を定義したが、表現の仕方はこれに限るものではない。以下、別の表現で説明する。
【0049】
図15は、実施の形態1におけるショットパターンの重なり状況と照射量との関係を説明するための他の一例を示す概念図である。図15では、アパーチャ部材203の穴Gを通過したビームによるショットパターンと、穴Hを通過したビームによるショットパターンと、穴Aを通過したビームによるショットパターンと、穴Bを通過したビームによるショットパターンとが順に照射された場合の重なり状況の一例を示す。図15では、各ショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)を一点鎖線で示し、各一点鎖線に各ショットパターンを形成する穴の番号(A〜H)を示している。また、図示しない穴Fを通過したビームによるショットパターンのショット位置を(F)で、図示しない穴Cを通過したビームによるショットパターンのショット位置を(C)でそれぞれ示している。そして、図15では、図13(c)で示したパターン40のエッジ位置Xの位置によって、それぞれの穴を通過するビームに設定すべき照射量をグラフで示している。ショットパターン毎にy軸としてかかる設定すべき照射量をグラフで示している。その際、ここでは、各ショットパターンの縦寸法(y寸法)を通常の最大照射量に見立てている。
【0050】
図15(a)では、図13(b)と同様、穴Aを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)が、穴Hを通過したビームによるショットパターン側にずれた場合を一例として示している。言い換えれば、穴Hを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)と穴Aを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)との間隔P1がAU(制御グリッド間隔)よりも狭くなっている場合を示している。その際のHA間のショット位置のずれ量をオーバーラップ量Xor1としている。すなわち、P1=AU−Xor1の関係になる。その他のショットパターン同士の重なり量は、規定値通りになっている場合を一例として示している。言い換えれば、その他のショットパターン同士のショット位置(照射位置:中心位置)間隔はAU(制御グリッド間隔)になっている場合を一例として示している。例えば、穴Aを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)と穴Bを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)との間隔P2はAU(制御グリッド間隔)と一致している。よって、その際のAB間のショット位置のずれ量(オーバーラップ量Xor2)はXor2=0となり、図15(a)では記載が省略されている。
【0051】
図15(b)では、図15(a)の状況から、さらに、穴Bを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)が、穴Aを通過したビームによるショットパターン側にずれた場合を一例として示している。言い換えれば、穴Hを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)と穴Aを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)との間隔P1がAU(制御グリッド間隔)よりも狭くなっている場合を示している。その際のHA間のショット位置のずれ量をオーバーラップ量Xor1としている。すなわち、P1=AU−Xor1の関係になる。そして、さらに、穴Aを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)と穴Bを通過したビームによるショットパターンのショット位置(照射位置:中心位置)との間隔P2がAU(制御グリッド間隔)よりも狭くなっている場合を示している。その際のAB間のショット位置のずれ量をオーバーラップ量Xor2としている。すなわち、P2=AU−Xor2の関係になる。
【0052】
ここで、各ショットのビームの照射量Dは、前後(−x方向および+x方向)に隣り合うショットのビーム同士の照射位置間の間隔P(ピッチ)の1/2の位置をそれぞれ境界として、定義される。図15では、各照射位置間の間隔P(ピッチ)の1/2の位置となる境界を点線で示している。ここでは、一例として、穴Aを通過するビームによるショットパターンの照射位置を基準(x=0)として、穴Aを通過するビームの照射量を求める場合について説明する。他の穴を通過するビームの照射量も同様に求めることができる。
【0053】
最大照射量演算工程(S106)として、最大照射量演算部12は、各穴を通過するビームの最大照射量を演算する。かかる最大照射量は、オーバーラップ量Xor(ずれ量)に応じて最大照射量を演算する。最大照射量Dmaxは、オーバーラップ量Xor、AU、および予め設定された通常の状態での最大照射量Dを用いて、以下の式(2)で定義される。
(2) Dmax=D・{(P1/AU+P2/AU)/2}
=D・(P1+P2)/2AU
=D・{(AU−Xor1)/AU+(AU−Xor2)/AU)}/2
=D・(2AU−Xor1−Xor2)/2AU
=D・{1−(Xor1+Xor2)/2AU}
【0054】
例えば、図15(a)の例では、穴Aを通過するビームの照射量Daについて、Xor2=0なので、Dmax=D・(1−Xor1/2AU)となる。一方、図15(b)の例では、Xor2=0ではないので、Dmax=D・{1−(Xor1+Xor2)/2AU}となる。
【0055】
このように、AU(制御グリッド間隔)とオーバーラップ量Xor1,Xor2(ずれ量)の比に応じて、最大照射量Dmaxは演算されると好適である。予め設定していたAU間隔よりも狭まった間隔でのショットは、全面が所謂べた描画となった場合に、近傍での総照射量が同じ(規定値)になるように最大照射量Dmaxを制限する。図15(a)の例では、穴Hを通過するビームと穴Aを通過するビームについて最大照射量がDからそれぞれのDmaxに制限されることになる。図15(b)の例では、穴Hを通過するビームと穴Aを通過するビームと穴Bを通過するビームについて最大照射量がDからそれぞれのDmaxに制限されることになる。
【0056】
照射量演算工程(S108)として、照射量演算部14は、ショットデータを読み込み、ショットデータに沿って、各ショット用のビームの照射量Dを演算する。各照射量は、図13(c)に示すパターン40のエッジ位置Xが、図15(b)に示すx座標のどの位置に位置するかによって計算される。
【0057】
穴Aを通過するビームの照射量Daについて示す。
X<−P1/2の場合、Da=0と演算される。
−P1/2<X≦P2/2の場合、Da=D・(1/AU)・(X+P1/2)と演算される。
X>P2/2の場合、Da=Dmax
【0058】
以上のように、図15(a)および図15(b)の例において、各ビームの照射量は、傾き(1/AU)の一次比例で境界間を変化する。そして、AU間隔よりも狭まった間隔でのショットは、最大照射量DmaxがDよりも小さい値に制限される。
【0059】
また、照射量の計算式を参照すると解かるように、照射量計算はビームサイズに関わらずに計算ができる。そのため、ビームサイズは照射量の計算とは関係なく任意に設定することができる。
また、照射量の計算式は、一次式に限るものではない。2次元以上の多項式の関数であってもよい。例えば、上述した、−P1/2<X≦P2/2の場合、上述した式の代わりに、Da=D・(1/AU)・(aX+bX+cX+d)で演算しても好適である。各係数a,b,c,dは、実験で、或いはシミュレーション等で求めればよい。
また、上記の説明では、オーバーラップ量がビームの重なりが増える場合を想定して説明したが、オーバーラップ量がマイナス方向、すなわちビームの重なりが少なくなる方向にも本発明は適用できる。この場合、Dmax>D0となる。オーバーラップ量がマイナス方向へある一定量までずれた場合に対しても、上記で説明したような効果が得られる。
【0060】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0061】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0062】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0063】
10 測定部
12 最大照射量演算部
14 照射量演算部
16 照射量制御部
18 描画処理制御部
20 マルチビーム
22 穴
24,26 電極
30 描画領域
32 ストライプ領域
34 照射領域
36 ショットパターン
40 パターン
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
106 マーク
110,120 制御計算機
121 メモリ
130,132 偏向制御回路
134,136 DACアンプ
138 アンプ
139 ステージ位置測定部
140,142 記憶装置
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 アパーチャ部材
204 ブランキングプレート
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ部材
207 対物レンズ
208 偏向器
209 検出器
210 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部を有し、前記複数の開口部全体が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
前記アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数のブランカーと、
前記複数のブランカーによってビームoffの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
前記ブランキングアパーチャ部材を通過した各ビームの前記試料上のそれぞれの照射位置に、前記ブランキングアパーチャ部材を通過した各ビームをまとめて偏向する偏向器と、
前記複数の開口部のうち互いに異なる開口部を通過した複数のビーム同士を前記試料上において所定の制御グリッド間隔で描画処理を進めるように描画処理を制御する描画処理制御部と、
描画されるビーム同士の間隔が前記制御グリッド間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する照射量制御部と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記ずれ量に応じて最大照射量を演算する最大照射量演算部をさらに備え、
前記照射量制御部は、演算された最大照射量内の照射量で前記ずれに関与するビームの照射量を可変に制御することを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記最大照射量演算部は、前記制御グリッド間隔と前記ずれ量の比に応じて、前記最大照射量を演算することを特徴とする請求項2記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
荷電粒子ビームを放出する工程と、
複数の開口部を有するアパーチャ部材の前記複数の開口部全体が含まれる領域に前記荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成する工程と、
前記複数の開口部のうち互いに異なる開口部を通過した複数のビーム同士を前記試料上において所定の制御グリッド間隔で描画処理を進める工程と、
描画されるビーム同士の間隔が前記制御グリッド間隔からずれる場合に、ずれ量に応じて、ずれに関与するビームの照射量を可変に制御する工程と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記ずれに関与するビームがとり得る最大照射量を、予め求めたずれ量に応じて演算する工程をさらに備えたことを特徴とする請求項4記載のマルチ荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−55144(P2013−55144A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190957(P2011−190957)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】