説明

ミシン

【課題】ルーパ糸の糸替えを容易とする
【解決手段】ミシン1は、ミシンモータ5により縫い針を上下に駆動する針駆動機構と、縫い針の上下動に同期して進退することで布地の下側で針糸のループに挿入される延出部21aを有する下ルーパ21を備えた下ルーパ駆動機構20と、下ルーパ糸Tのループに上ルーパ糸を挿通させる上ルーパ11を備えた上ルーパ駆動機構10と、下ルーパ21の糸穴21bに糸を通すための糸通し装置100と、針糸に張力を付与する糸調子装置30と、布地を押さえる図示しない押さえ機構と、上記各部の駆動を制御する制御部50とを備えている。そして、糸通し装置100の糸案内レバー121の上端部を略L字状に曲成した鉤状部121dとすることで、糸替えの際には容易に針糸を寄せることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンに関し、特に、縫い針と協働して縫い目を形成するルーパに糸を通す糸通し装置を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、縁かがりオーバーロックミシンや二重環縫いミシン等において、加圧されたエアーを利用してルーパに糸を通す糸通し装置を具備するミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。かかるミシンにおける糸通し装置は、図12に示すように、一端が、揺動する下ルーパ210の近傍を該下ルーパ210の移動軌跡にほぼ沿って移動する糸案内レバー220(図14参照)と、糸案内レバー220に支持された糸道管221とを備えている。
そして、下ルーパ210に糸(以下、下ルーパ糸という)を通す際には、糸道管221の一端の糸排出口221aを下ルーパ210の糸穴210aに合致させた後で、糸道管221の他端の糸挿入口221bに加圧されたエアーを吹き付けて下ルーパ210の糸穴に下ルーパ糸が挿通される。
【特許文献1】特開2005−318932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記縁かがりオーバーロックミシンや二重環縫いミシンにおいては、縫製の途中で下ルーパ糸を色糸等に変更する場合もある。しかしながら、上記特許文献1に開示される糸通し装置を有するミシンにあっては、下ルーパ210に針糸が掛け渡された状態で下ルーパ糸の糸替えを行う場合、下ルーパ210により捕捉された針糸(針糸)のループが、図13に示すように糸案内部材220と下ルーパ210との隙間を通り抜けることがないとは言えず、必ずしも下ルーパ210にかかった針糸を該下ルーパ210の先端側に寄せる際に糸寄せ不良を生じないとはいえないという問題があった。また、針糸が糸案内部材220と下ルーパ210との間に挟まれると糸替えに順番が生じることとなり、針糸を一度切断して針糸が下ルーパ210にかかっている状態を解除しなければならない等、作業が煩雑であるという問題があった。
【0004】
本発明は、ルーパ糸の糸替えを容易とすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、ミシンモータにより針を上下に駆動する針駆動機構と、前記針の上下動に同期して進退することで針糸のループに挿入される先端に糸穴を形成した延出部を有するルーパを備えたルーパ駆動機構と、一端を糸挿入口とし、他端を糸排出口とし、内部に糸を挿通可能な糸経路を有する糸道管と、前記糸排出口が前記ルーパの糸穴に合致する糸通し位置とこの糸通し位置から離れた退避位置との間を移動可能となるように、前記糸道管を移動させる糸道管移動手段と、前記糸挿入口に対向配置され、当該糸挿入口にエアーを吹き付けるエアー吹き付け手段と、前記エアー吹き付け手段にエアーを供給するエアー供給手段と、を備え、前記糸道管は、該糸道管の他端と共に移動可能に設けられ前記ルーパの延出部に沿って移動する糸寄せ部を有し、前記糸道管移動手段により退避位置から前記糸通し位置に移動される際に前記ルーパに掛け渡された針糸を該ルーパの先端側に寄せることを特徴とするミシンである。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記糸寄せ部は、前記ルーパの上方を通過するように略L字状に曲成された鉤状部を有することを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、針糸に張力を付与する糸調子装置を有し、前記糸調子装置は、前記糸道管が前記退避位置から前記糸通し位置に移動される際に前記糸寄せ部に連動して針糸の張力を解除する張力解除手段を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記張力解除手段は、前記糸調子装置の張力を解除するアクチュエータと、前記糸寄せ部の移動を検出する検出手段と、前記検出手段の検出に基づき前記アクチュエータを駆動して前記糸調子装置の張力を解除する制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、糸寄せ部は、糸道管が糸道管移動手段によって退避位置から糸通し位置に移動される際に、ルーパの延出部に沿って移動される。すなわち、糸道管が退避位置から糸通し位置に移動される際に糸寄せ部がルーパに掛け渡された針糸の当該針糸経路を横切ることにより、ルーパに掛け渡された針糸を該ルーパの先端側に寄せることができる。従って、例えば、ルーパの糸替えを行う際に、針糸を切断する必要がなく、ルーパの糸替えを容易に行うことができる。また、糸替えの際に針糸を切断したりルーパから外したりする必要がないため、例えば、複数の針で縫製を行う場合であっても、各針に個別に通された針糸の並び順を考慮することなく容易にルーパの糸替えを行うことができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、ルーパの上方を通過するように略L字状に曲成された鉤状部を有する糸寄せ部により、簡易な構成でありながら、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、糸道管移動手段により糸道管が退避位置から糸通し位置に移動される際に、糸調子装置により、糸寄せ部に連動して針糸の張力が解除される。従って、糸道管が退避位置から糸通し位置に移動される際に針糸を自由に引き出すことができる。すなわち、ルーパの糸替えを行うにあたり、該ルーパの先端側に針糸を円滑に寄せることができるため、ルーパ糸の糸替えを容易とすることができる。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、糸寄せ部の移動が検出手段によって検出されると、その検出信号に基づいて制御手段により糸調子装置のアクチュエータが駆動され針糸の張力が解除される。すなわち、糸道管移動手段により糸道管が退避位置から糸通し位置に移動される際には自動的に針糸の張力を解除することができるため、当該糸寄せの際に針糸を自由に引き出すことができる。これにより、ルーパの糸寄せを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図11に基づき本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。本実施形態では、ミシンとして縁かがりミシンを例に説明する。縁かがりミシンは、上下動を行う縫い針と、被縫製物である布地の下側で縫い針に通された縫い糸のループに下ルーパ糸Tを挿通させる下ルーパ21と、下ルーパ糸Tのループに上ルーパ糸を挿通させる上ルーパ11とを備えており、これら縫い針、下ルーパ21及び上ルーパ11により順次糸を交絡させることで布地に縁かがり縫いを施すミシンである。
なお、以下の説明において、垂直上下方向をZ軸方向とし、水平面に設置した状態におけるミシン1のアーム部の長手方向(左右方向)をY軸方向とし、図示しない針板の板面に平行であってY軸方向に直交する前後方向をX軸方向とする。また、X軸方向とY軸方向とZ軸方向とは互いに直交するものとする。
【0014】
(ミシンの主要構成)
図1は本発明の実施形態たるミシン1の全体構成を示した側面図である。
図1に示すように、縁かがりミシン(以下、単にミシン1とする)は、ミシンモータ5(図10参照)により縫い針(針)を上下に駆動する針駆動機構(図示略)と、縫い針の上下動に同期して進退することで被縫製物である布地の下側で針糸T1,T2(図2及び図3参照)のループに挿入される延出部21aを有する下ルーパ21を備えた下ルーパ駆動機構20と、下ルーパ糸Tのループに上ルーパ糸を挿通させる上ルーパ11を備えた上ルーパ駆動機構10と、下ルーパ21の糸穴21bに糸を通すための糸通し装置100と、針糸に張力を付与する糸調子装置30(図9参照)と、布地を押さえる図示しない押さえ機構と、上記各部の駆動を制御する制御部50とを備えている。以下、各部を詳細に説明する。
【0015】
(針駆動機構)
図示しない針駆動機構は、ミシンモータ5により回転するミシン主軸としての上軸と、回転錘及びクランクロッドにより上軸の回転運動を上下動に変換して針棒2に伝達する周知の伝達機構とを備えている。針棒2の下端には二本の縫い針が保持されており、作業者から見て左側(図1〜図3における左側)の縫い針には針糸T1が挿通され、右側の縫い針には針糸T2が挿通されている。そして、ミシンモータ5の駆動により上軸が回転すると、伝達機構を介して針棒2に上下動が付与され、針棒2及び縫い針が往復上下動を行う。
【0016】
(上ルーパ駆動機構)
上ルーパ駆動機構10は、上ルーパ11と、該上ルーパ11を保持する上ルーパ保持体12と、上ルーパ保持体12を直進動作と二つの軸周りの回転動作とを可能に支持する支持部材13と、上ルーパ保持体12との連結点を二位置間で往復移動させる動作機構14とを備えている。上ルーパ保持体12は、丸棒体であり、その一端部(図1における上端部)において上ルーパ11を保持している。そして、上ルーパ11は、後述する下ルーパ21の移動軌跡の後方を通過して上ルーパ糸を挿通させると共に、その先端部を縫い針の針落ち位置まで移動させて上ルーパ糸のループに縫い針及び針糸T1,T2を挿通させる。
【0017】
(下ルーパ駆動機構)
下ルーパ駆動機構20は、図示しない針板の下側に配置され、前後方向に沿ってミシン機枠Mに回転可能に支持された下ルーパ駆動軸22と、図示しないミシン主軸から分岐すると共にその回転駆動力を往復回動駆動力に変換して下ルーパ駆動軸22に付与する図示しない伝達機構と、下ルーパ駆動軸22の先端部に固定装備されて揺動を行う下ルーパ保持アーム23と、その揺動端部に保持された下ルーパ21とを備えている。
下ルーパ駆動軸22は、ミシン主軸と同期して往復回動を行うことで下ルーパ保持アーム23を揺動させる。これにより、下ルーパ21は、針板の下側で縫い針の移動軌跡の近傍であってその後方を通過するように移動する。そして、下ルーパ21は、下降した縫い針に挿通された針糸T1,T2のループを捕捉し、当該ループに下糸(以下、下ルーパ糸Tとする)のループを挿通させる。
【0018】
また、図7及び図8に示すように、下ルーパ21の剣先すなわち延出部21aの先端には、後述する糸道管110の糸排出口112から排出された糸を通す糸穴21bが形成されている。また、この糸穴21bから糸排出口112の退避位置に対向する箇所に向けてルーパ溝21cが形成されている。このルーパ溝21cは、糸排出口112から排出された糸が下ルーパ21と後述する糸案内レバー121との間に挟まって糸案内レバー121の回動が阻止されるのを防止するためのものである。
【0019】
(糸調子装置)
糸調子装置30は、ミシン機枠Mのアーム部に設けられ針糸T1,T2を挟持することで該針糸T1,T2に張力を付与する一対の糸調子皿31,32と、一方の糸調子皿32に連結され、該糸調子皿32を他方の糸調子皿31に対して相対的に離接移動させる本実施形態におけるアクチュエータとしての糸張力ソレノイド34とを備えている。
糸張力ソレノイド34は、後述する制御部50に接続されており、該制御部50からの制御信号に従って駆動される。そして、本実施形態では、この糸張力ソレノイド34が、後述する検出センサ130からの出力信号に基づき制御部50によって駆動されることで、糸道管110が退避位置から糸通し位置に移動される際に糸寄せ部たる後述する鉤状部121dに連動して針糸T1,T2の張力を解除する張力解除手段として機能する。
【0020】
(糸通し装置)
次に、本実施形態における糸通し装置100について詳しく説明する。
糸通し装置100は、ミシン機枠Mに形成された糸溝6から導かれた下ルーパ糸Tを下ルーパ21の糸穴21bに通すためのものであり、針棒2の下方に設けられている。
かかる糸通し装置100は、図1に示すように、一端を糸挿入口111とし、他端を糸排出口112とし、内部に糸を挿通可能な糸経路を有する糸道管110と、糸排出口112が下ルーパ21の糸穴21bに合致する糸通し位置(図3参照)とこの糸通し位置から離れた退避位置(図2参照)との間を移動可能となるように、糸道管110を移動させる糸道管移動手段としての移動機構120と、この移動機構120が退避位置から移動したことを検出する検出センサ130と、糸挿入口111に対向配置され、当該糸挿入口111にエアーを吹き付けるエアー吹き付け手段としてのエアー吹き付けユニット140と、エアー吹き付けユニット140にエアーを供給するエアー供給手段としてのエアーポンプ150とを備えている。
【0021】
(糸案内手段)
糸道管110は、図1〜図3に示すように、針棒2の下方に設けられた下ルーパ21が揺動する平面に対して並行に設けられている。この糸道管110は、二箇所で湾曲されて側面視略コ字状に形成された管状の部材である。この糸道管110は、図4に示すように、一端部が糸を挿入する糸挿入口111として機能し、該糸挿入口111は、その端部側に向かうにつれて拡径されている。これは、下ルーパ糸Tの挿入を容易にするためである。また、糸道管110は、図5に示すように、他端部が糸を排出する糸排出口112として機能し、該糸排出口112は、その端部が略直角に屈曲されている。つまり、糸道管110は、下ルーパ21の糸穴21aに下ルーパ糸Tを導くための糸案内手段として機能する。
かかる糸道管110は、糸排出口112が下ルーパ21の糸穴21bに合致する糸通し位置(図3に示す位置)と、この糸通し位置から離れた退避位置(図2に示す位置)との間を移動可能となるように、糸道管110を移動させる移動機構120に接続されている。
【0022】
(糸道管移動手段)
移動機構120は、糸道管110を支持するとともに揺動により一端部が糸通し位置と退避位置との間を往復運動する糸案内レバー121と、糸案内レバー121を回動可能に支持する糸案内レバー台122と、糸案内レバー121の一端部と糸案内レバー台122とを連結し、糸案内レバー121を揺動させて糸排出口112の位置を糸通し位置と退避位置とに切り替える切り替えレバー123とを備えている。
【0023】
糸案内レバー121は、長尺の板材から成形されており、一端部と他端部とが互いに反対方向に湾曲するように形成されている。糸案内レバー121は、ほぼ中央に長孔121aを有し、この長孔121aで糸案内レバー台122に回動自在に係止されている。糸案内レバー121の一端部(図1〜図3における上端部)には、糸道管110の一端部が表面側から裏面側に向けて貫通するように取り付けられており、糸排出口112として機能する。また、糸案内レバー121の中央部近傍では、糸道管110の糸挿入口111近傍が接着剤やハンダによって接着されている。また、糸案内レバー121の他端部には、切り替えレバー123と連結するための連結孔121bが形成されている。
さらに、本実施形態における糸案内レバー121の一端(上端)には、図5に示すように、下ルーパ21の延出部21aに沿って移動する糸寄せ部としての鉤状部121dが形成されている。
鉤状部121dは、糸道管移動手段により糸案内レバー121が退避位置から糸通し位置に移動される際に下ルーパ21の延出部21aに沿ってその上方を通過するように略L字状に曲成されている。つまり、この鉤状部121dは、本実施形態において下ルーパ21に掛け渡された針糸T1、T2を下ルーパ21の先端側(図1〜図3における右側)に寄せる糸寄せ手段として機能する。
この鉤状部121dは、下ルーパ21の延出部21aの上方に延設された部分のX軸方向における長さHが、X軸方向における延出部21aの幅hよりも長く(h<H)形成されている(図8参照)。そして、該鉤状部121dの先端の位置P2が延出部21aの一端の位置P1よりも図8中において右側まで延出されるようになっている。つまり、この鉤状部121dは、下ルーパ21の延出部21aに掛け渡された針糸T1,T2のうち、延出部21aよりも上方となる針糸T1、T2の全て(本実施形態では4本)を捕捉できる長さであることが望ましい。
【0024】
糸案内レバー台122は、板材からなり、下ルーパ21を支持する下ルーパ保持アーム23に着脱自在に取り付けられている。なお、下ルーパ保持アーム23は、一端部で下ルーパ21を支持し、他端部で下ルーパ21を回動させる下ルーパ軸22に接続されている。すなわち、移動機構120は、下ルーパ21に対して着脱自在に取り付けられており、移動機構120に設けられている糸道管110も当然のことながら、下ルーパ21に対して着脱自在に取り付けられていることとなる。
糸案内レバー台122の一端部には、糸案内レバー121側に突出し、糸案内レバー121が回動する際の支点となる支点軸122aが形成されており、この支点軸122aが糸案内レバー121の長孔121aに係止されている。また、糸案内レバー台122の他端は、切り替えレバー123を回動可能に支持する回動軸122bが形成されている。
【0025】
切り替えレバー123は、板材からなり、糸案内レバー121と糸案内レバー台122との間に設けられている。切り替えレバー123の一端には、回動軸122bを挿入するための挿入孔123aが形成されており、挿入孔123aに回動軸122bが挿入されることにより、切り替えレバー123は、回動軸122bに対して回動自在となっている。また、切り替えレバー123の他端には、糸案内レバー121と連結するための連結軸123bが形成されており、糸案内レバー121の連結孔121bに切り替えレバー123の連結軸123bを挿入することにより、切り替えレバー123が糸案内レバー121に対して回動自在に連結される。
【0026】
(検出手段)
検出センサ130は、糸案内レバー121が上記退避位置から移動したことを検出することで、糸寄せ部である鉤状部121dが退避位置から移動したことを検出する本実施形態の検出手段として機能する。
かかる検出センサ130は、糸道管110を退避位置に配置する際に糸案内レバー121の一端に当接されるように、ミシン機枠Mのベッド部内に固定されている。また、検出センサ130は、糸道管110を退避位置から糸通し位置に向けて移動させるように糸案内レバー121が揺動されると糸案内レバー121の一端から離隔されるようになっている。つまり、糸道管110が退避位置に位置する際は常時、検出センサ130のスイッチがONとされ、糸案内レバー121が揺動することでOFFとなる。かかる検出センサ130からの出力信号は、後述する制御部50に入力される。すなわち、この検出センサ130により、糸案内レバー121の一端に設けられた糸寄せ部たる鉤状部121dの移動を検出することができるようになっている。
【0027】
(エアー吹き付け手段)
エアー吹き付けユニット140には、糸挿入口111に近接する吹き付け位置とこの吹き付け位置から離れた待機位置との間で移動可能とされた基台141と、この基台141の移動方向に沿って取り付けられエアーを糸挿入口111に吹き付けるためのエアーノズル142とが設けられている。そして、エアー吹き付けユニット140は、下ルーパ21の糸穴21bと糸排出口112とが合致するときに、糸挿入口111に対向配置されて該糸挿入口111にエアーを吹き付ける本実施形態のエアー吹き付け手段として機能する。
なお、糸通し装置100には、図1に示すように、一端がミシン機枠M外方に開口され、他端がエアーノズル142の吹出口の上方に開口するように、内部に糸を挿通可能な糸経路を有する糸導入手段としての糸溝6を備えている。そして、ミシン機枠M外方に開口された一端から挿入され他端から引かれた下ルーパ糸Tが、エアー吹き付けユニット140によって加圧されたエアーを吹き付けられることにより糸挿入口111に挿入される。
【0028】
(エアー吹き付け移動手段)
また、糸通し装置100は、糸挿入口111に近接する吹き付け位置とこの吹き付け位置から離れた待機位置との間で移動可能となるようにエアー吹き付けユニット140を移動させるエアー吹き付け移動手段としての操作レバー4を備えている(図1参照)。
操作レバー4は、基台141に固定されており、操作レバー4の移動に合わせて基台141もY軸方向に沿って移動するようになっている。操作レバー4は、ミシン機枠Mに形成された溝8に移動可能に係止されており、ユーザは操作レバー4を操作することによりエアー吹き付けユニット140を操作することができるようになっている。
【0029】
(エアー供給手段)
エアーポンプ150は、伸縮自在な中空の蛇腹部151と、この蛇腹部151の一端部に接続され、蛇腹部151を圧縮するためのレバー部152を備えている。蛇腹部151は、他端部がエアー管153を介してエアーノズル142に接続されている。
つまり、レバー部152を操作して蛇腹部151を圧縮することにより、蛇腹部151内のエアーはエアー管153を伝ってエアーノズル142に送られ、先端の吹出口から吹き出されるようになっている。
【0030】
(ミシンの制御系)
制御部50には、ミシンモータ5や糸張力ソレノイド34等の駆動源と、検出センサ130等のセンサやミシン起動ペダル15及び操作パネル60などが接続されている。なお、図10は本発明に必要な構成のみ示したもので、制御部50は、その他の駆動源、センサ等も有する。
かかる制御部50は、マイコンであるMPU(Micro Processor Unit)51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53と、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)54と、を備えている。
【0031】
ROM52には、縁かがりミシン1の制御プログラムが格納されている。RAM53は、MPU51にワークエリアを提供するメモリである。EEPROM54には、縫製に係る各種データがバックアップされる。そして、MPU51は、ROM52に格納された制御プログラムに従って処理を行う。
【0032】
さらに、本実施形態における制御部50は、糸替えレバー21が揺動されたことが検出センサ130からの出力信号によって検出されると、糸張力ソレノイド34を駆動して糸調子装置30の糸調子皿32(31)を緩めることで、針糸T1,T2の張力を解除する制御を行う。つまり、制御部50は、糸道管110が退避位置から糸通し位置に移動される際に糸寄せ部である鉤状部121dに連動して針糸T1,T2の張力を解除する本実施形態の張力解除手段として機能するようになっている。
【0033】
(糸通し装置によるルーパへの糸通し方法)
次に、糸通し装置100の動作について、図1〜図3、図6、図8を用いて説明する。
最初に、ミシン機枠Mに設けられたはずみ車7を回転させ、下ルーパ21を糸通し位置に移動させる。その際、ミシン機枠Mとはずみ車7にそれぞれ指標m1,m2を設けておき、互いの指標m1,m2が一致する際に下ルーパ21が糸通し位置に配置されるようにしておくとよい。
ここで、糸穴21bに糸を通す前は、図2に示すように、糸道管110が退避位置に配置された状態である。糸道管110が退避位置に配置された状態においては、糸案内レバー121の先端(上端)に設けられた鉤状部121dが、図2において針糸T1、T2よりも左側すなわち該鉤状部121dによる糸寄せ動作における最後退位置に配置された状態となる。
【0034】
次に、図示しない押さえ上げレバーを操作すると、切り替えレバー123が図2の回動軸122bを中心としてA方向に回動され、切り替えレバー123に連結されている糸案内レバー121が支点軸122aを中心としてA方向に回動される。鉤状部121dが退避位置から糸通し位置に向かって移動される。その際、糸案内レバー121の一端に当接するように配置された検出センサ130により糸案内レバー121の揺動が検出され、その出力信号が制御部50に入力される。すると、制御部50は、かかる出力信号に応じて糸張力ソレノイド34を突出する方向に駆動する。これにより、一方の糸調子皿32が他方の糸調子皿31から離隔され、針糸T1,T2の張力が解除される。すなわち、針糸T1,T2がその繰り出し方向に対してフリーの状態となるため、各針糸T1,T2を自由に引き出すことができる状態となる。
糸案内レバー121が退避位置から糸通し位置に向かって揺動されると、鉤状部121dが下ルーパ21の延出部21aに沿って図2及び図3における右側に向けて移動され、針糸T1の針糸経路を通過することにより、針糸T1、T2が延出部21aの先端側に寄せられることとなる。
【0035】
また、糸案内レバー121が回動することにより、糸案内レバー121に取り付けられた糸道管110も支点軸122aを中心としてA方向に回動される。糸道管110が回動されることにより、糸排出口112は、図2に示す退避位置から図3に示す糸通し位置に移動する。そして、糸案内レバー121が糸通し位置に配置されると、糸道管110の糸排出口112が下ルーパ21の糸穴21bに合致する。
次いで、ユーザは、ミシン200に設けられている糸駒(図示略)から糸を引き出して糸溝6に下ルーパ糸Tを通し、通した下ルーパ糸Tの先端部を糸挿入口111に挿入する。
【0036】
次いで、糸道管110の糸排出口112を図3に示す糸通し位置にした状態を維持したままで、操作レバー4を溝8に沿ってB方向(図1参照)に移動させることにより、図6に示すように、エアーノズル142の吹出口を糸挿入口111に近接させる。
次いで、レバー部152をC方向(図1参照)に移動させると、蛇腹部151が縮み、蛇腹部151内のエアーは圧縮されてエアー管153を通り、エアーノズル142に流れる。そして、エアーノズル142に流入したエアーは、エアーノズル142の先端の吹出口で流速が増加されて糸挿入口111に吹き付けられる。
糸挿入口111に吹き付けられたエアーは、糸道管110を通り、糸排出口112、糸穴21bを通って下ルーパ21の背面側に吹き出される。このとき、糸挿入口111に事前に挿入されていた糸もエアーによって糸道管110を通り、糸排出口112、糸穴21bを通って下ルーパ21の背面側に導かれる。これにより、図8に示すように、下ルーパ21への糸通し作業は完了する。
【0037】
次いで、ユーザは、操作レバー4をB’方向に移動させるとともに、切り替えレバー123をA’方向に移動させる。これにより、下ルーパ糸Tを下ルーパ21の糸穴21bに通した状態で、糸道管110を退避位置に退避させることができ、縫製できるようになる。
【0038】
(実施形態の効果)
以上のように、本発明に係るミシン1によれば、糸道管110が退避位置から糸通し位置に移動される際には鉤状部121dが下ルーパ21に掛け渡された針糸T1,T2の当該針糸経路を横切ることとなり、下ルーパ21に掛け渡された針糸T1,T2を該下ルーパ21の先端側に寄せることができる。従って、下ルーパ21の糸替えを行う際に、針糸T1,T2を切断する必要がなく、下ルーパ21の糸替えを容易に行うことができる。また、糸替えの際に針糸T1,T2を切断したり下ルーパ21から外したりする必要がないため、例えば、複数の縫い針で縫製を行う場合であっても、各縫い針に個別に通された針糸の並び順を考慮することなく容易に下ルーパ21の糸替えを行うことができる。
【0039】
(その他)
なお、検出センサ130は、糸案内レバー121の一端のみならず、例えば、切り替えレバー123や、これら糸案内レバー及び切り替えレバー123と連動する押さえ上げレバー、或いは、これらと連動する連結部材にスイッチが当接されるように配置してもよい。
また、検出センサ130としては、フォトセンサや感圧センサを用いても良い。
また、糸調子装置30のアクチュエータとしてはパルスモータを適用してもよい。
また、糸調子装置30の張力解除手段は、本実施形態では糸替え検出センサ130により鉤状部121dの移動を電気的に検出し、その検出信号に基づき制御部50が糸張力ソレノイド34を駆動することで、鉤状部121dの移動に応じて針糸T1,T2の張力が解除される構成としているが、例えば、糸案内レバー121と連動する布押さえを上昇させる押さえ上げレバーが操作された際に、当該レバーと機械的に連動するリンク等を介して糸調子装置30の糸調子皿31,32が解放されて針糸T1,T2の張力が解除される構成としてもよい(例えば、図11参照)。
また、鉤状部121dは、例えば、下ルーパ21の延出部を内挿し該延出部に沿って移動する環状体であってもよいし、また、該延出部の下面に沿って移動することで延出部に掛け渡された針糸のループの下部を捕捉する形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るミシンの全体構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係るミシンにおける糸通し装置(退避位置)を示す側面図である。
【図3】本発明に係るミシンにおける糸通し装置(糸通し位置)を示す側面図である。
【図4】本発明に係るミシンにおける糸道管(糸挿入口)を示す斜視図である。
【図5】本発明に係るミシンにおける糸道管(糸排出口)及び糸寄せ部を示す斜視図である。
【図6】本発明に係るミシンにおけるエアー吹き付けユニットを示した概略斜視図である。
【図7】(a)は、本発明に係る糸通し装置によって糸が通される下ルーパの斜視図であり、(b)は(a)のVII−VII断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII断面図である。
【図9】本発明に係るミシンにおける糸調子装置を示す概略断面図である。
【図10】本発明に係るミシンにおける制御部の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明を適用したその他の例を示す模式図である。
【図12】従来のミシンにおける糸通し装置(退避位置)を示す側面図である。
【図13】従来のミシンにおける糸通し装置(糸通し位置)を示す側面図である。
【図14】従来のミシンにおける糸案内レバーを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ミシン(縁かがりミシン)
2 針棒
4 操作レバー(エアー吹き付け移動手段)
5 ミシンモータ
6 糸溝
8 溝
10 上ルーパ駆動機構(ルーパ駆動機構)
11 上ルーパ
12 上ルーパ保持体
13 支持部材
14 動作機構
20 下ルーパ駆動機構(ルーパ駆動機構)
21 下ルーパ(ルーパ)
21a 延出部
21b 糸穴
21c ルーパ溝
22 下ルーパ駆動軸
23 下ルーパ保持アーム
30 糸調子装置
31,32 糸調子皿
34 糸張力ソレノイド(アクチュエータ、張力解除手段)
50 制御部(張力解除手段)
100 糸通し装置
110 糸道管
111 糸挿入口
112 糸排出口
120 移動機構(糸道管移動手段)
121 糸案内レバー
121a 長孔
121b 連結孔
121d 鉤状部(糸寄せ部)
122 糸案内レバー台
122a 支点軸
122b 回動軸
123 切り替えレバー
123a 挿入孔
123b 連結軸
130 検出センサ(検出手段)
140 エアー吹き付けユニット(エアー吹き付け手段)
141 基台
142 エアーノズル
150 エアーポンプ(エアー供給手段)
M ミシン機枠
T 下ルーパ糸(下糸)
T1 左針糸(針糸)
T2 右針糸(針糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより針を上下に駆動する針駆動機構と、
前記針の上下動に同期して進退することで針糸のループに挿入される先端に糸穴を形成した延出部を有するルーパを備えたルーパ駆動機構と、
一端を糸挿入口とし、他端を糸排出口とし、内部に糸を挿通可能な糸経路を有する糸道管と、
前記糸排出口が前記ルーパの糸穴に合致する糸通し位置とこの糸通し位置から離れた退避位置との間を移動可能となるように、前記糸道管を移動させる糸道管移動手段と、
前記糸挿入口に対向配置され、当該糸挿入口にエアーを吹き付けるエアー吹き付け手段と、
前記エアー吹き付け手段にエアーを供給するエアー供給手段とを備え、
前記糸道管は、該糸道管の他端と共に移動可能に設けられ前記ルーパの延出部に沿って移動する糸寄せ部を有し、前記糸道管移動手段により退避位置から前記糸通し位置に移動される際に前記ルーパに掛け渡された針糸を該ルーパの先端側に寄せることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記糸寄せ部は、前記ルーパの上方を通過するように略L字状に曲成された鉤状部を有することを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
針糸に張力を付与する糸調子装置を有し、
前記糸調子装置は、前記糸道管が前記退避位置から前記糸通し位置に移動される際に前記糸寄せ部に連動して針糸の張力を解除する張力解除手段を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のミシン。
【請求項4】
前記張力解除手段は、前記糸調子装置の張力を解除するアクチュエータと、前記糸寄せ部の移動を検出する検出手段と、前記検出手段の検出に基づき前記アクチュエータを駆動して前記糸調子装置の張力を解除する制御手段とを備えることを特徴とする請求項3記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−36218(P2008−36218A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215905(P2006−215905)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】