説明

ミシン

【課題】縫目の美観の損失及び品質の低下を防止することができるミシンを提供する。
【解決手段】針板120にガイド溝124を設け、下糸Sの切断端部Seを針穴121へと誘導する。これにより、上糸Tと下糸Sとが絡み合って縫目を形成するときにも、縫目に引き込む下糸Sの切断端部Seを、ガイド溝124に倣いながら暴れることなく円滑に針穴121へと導くことができる。縫目の完成後に、暴れた下糸Sの切断端部Seの一部が縫目からはみ出して美観を損ねたり、下糸Sの切断端部Seが加工布Wの表側に出ることを防げるので縫目品質を低下させたりするのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫針が上下動することにより、縫針の目孔を通した上糸と下糸とが協働し、加工布に縫目を形成するミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ミシンは下糸保持手段と下糸切断手段とを備えている。ミシンは、縫針が上下動することにより、縫針の目孔を通した上糸と下糸とが協働し、加工布に縫目を形成する。縫目の形成が終了すると、針板手段の下方に設けた下糸保持手段が下糸を保持する。保持した下糸の所定の切断箇所を、下糸保持手段の上方で且つ針板手段の下方において下糸切断手段が切断する。
【0003】
従来、下糸切断手段が下糸の切断を開始する前に、下糸保持手段が下糸を完全に保持することで、下糸の切断を安定して実行することができるミシンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−312793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミシンは、下糸の切断後、加工布の新たな縫製を開始する。下糸保持手段が切断端部を保持した状態で、縫針の担持した上糸が加工布の下方へ現れた後、ループを形成し下糸のボビン側部分と絡み合って加工布の上方へ去る。これを繰り返して上糸と下糸との協働で順次縫目を形成するとき、適宜のタイミングで下糸保持手段が下糸の切断端部の保持を解除する。フリーとなった下糸の切断端部を、上述のように順次形成する縫目に引き込み、下糸保持手段の上方にある針板手段の針穴から加工布側へ通すことにより、加工布の下面に縫い込んでいく。
【0006】
上記従来技術のミシンは、上糸と下糸とが絡み合って縫目を形成するときに、縫目に引き込む下糸の切断端部が暴れるおそれがある。暴れた下糸の切断端部の一部が縫目からはみ出して美観を損ねたり、下糸の切断端部が上糸のループに引っ掛かり加工布の表側に出るおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、縫目の美観の損失及び品質の低下を防止することができるミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1発明のミシンは、針穴を備えベッド部に設けた針板手段と、上糸を担持する目孔を備え上下動する縫針と、上糸と協働して加工布に縫目を形成する下糸を、前記縫目の形成後に、前記針板手段より下方で保持する下糸保持手段と、前記下糸保持手段により保持した下糸を切断する下糸切断手段とを有するミシンにおいて、前記針板手段は、前記下糸保持手段と前記針穴との間に、該下糸保持手段から前記針穴に至る前記下糸を案内する凹部を備えることを特徴とする。
【0009】
本願第1発明のミシンは、針板手段と、縫針とを有する。縫針が上下動することにより、縫針の目孔を通した上糸と下糸とが協働し、加工布に縫目を形成する。縫目の形成が終了すると、針板手段の下方に設けた下糸保持手段が下糸を保持する。保持した下糸の所定の切断箇所を、下糸保持手段の上方で且つ針板手段の下方において下糸切断手段が切断する。切断後、加工布に新たに縫製を開始すると、下糸保持手段が切断端部を保持した状態で、縫針の担持した上糸が加工布の下方へ現れた後、ループを形成し下糸のボビン側部分と絡み合って加工布の上方へ去る。これを繰り返して上糸と下糸との協働で順次縫目を形成するとき、適宜のタイミングで下糸保持手段が下糸の切断端部の保持を解除する。フリーとなった下糸の切断端部を、上述のように順次形成する縫目に引き込み、下糸保持手段の上方にある針板手段の針穴から加工布側へ通すことにより、加工布の下面に縫い込んでいく。
【0010】
本願第1発明は、針板手段に凹部を設け、下糸の切断端部を針穴へと誘導する。上糸と下糸とが絡み合って縫目を形成するときにも、縫目に引き込む下糸の切断端部を、凹部に倣いながら暴れることなく円滑に針穴へと導くことができる。縫目の完成後に、暴れた下糸の切断端部の一部が縫目からはみ出して美観を損ねたり、下糸の切断端部が加工布の表側に出ることを防げるので縫目品質を低下させたりするのを防止することができる。
【0011】
第2発明のミシンは、上記第1発明において、前記針板手段は、前記ベッド部に取り付けた針板ベースと、前記針板ベースの上部に取り付けた前記針穴を有した針板部材とを有し、前記凹部を、前記針板部材の下面に設けたことを特徴とする。
【0012】
本願第2発明のミシンは、針板手段を、ベッド部に取り付ける針板ベースとその上部の針板部材とで構成し、針板部材の下面に凹部を設ける。針板部材の下面に設けた凹部により、下糸の切断端部を円滑に針穴へと導くことができる。
【0013】
第3発明のミシンは、上記第1又は第2発明において、前記凹部の下方開口側の一部を閉塞可能な閉塞部材を設けたことを特徴とする。
【0014】
本願第3発明のミシンは、閉塞部材を設けて、凹部の下方開口側の一部を閉塞する。凹部の開口面積を小さくし誘導時の方向性を強くすることができるので、下糸の切断端部を確実に円滑に針穴へと導くことができる。閉塞部材より凹部底面側に下糸の切断端部を導入できた場合には、閉塞部材による係止機能を得ることができる。すなわち、上糸と下糸とが絡み合うループが上記下糸の切断端部をひっかけて加工布の上面側へひっぱったとしても、閉塞部材の係止機能による抵抗で、一旦ひっかかった下糸の切断端部をループから抜き出すことができる。
【0015】
第4発明のミシンは、上記第3発明において、前記閉塞部材は、下糸の前記切断端部を前記凹部に引き込んだ後に、前記閉塞を行わない非閉塞位置から前記閉塞を行う閉塞位置に移動する駆動部材であることを特徴とする。
【0016】
本願第4発明のミシンでは、閉塞部材を駆動部材で構成する。下糸の切断端部を凹部に引き込んだ後、非閉塞位置から閉塞位置に切り替えて凹部の下方開放側の一部を閉塞する。通常は非閉塞位置に切り替えておくことにより、下糸の切断端部が凹部に入り込みやすいようにすることができる。その後閉塞位置に切り替えることにより、開口面積を小さくし誘導時の方向性を強くするとともに、凹部底面側に下糸の切断端部を確実に導入して係止機能を得ることができる。以上により、凹部への下糸切断端部の導入性、誘導性、及び係止機能をすべて良好に得ることができる。
【0017】
第5発明のミシンは、上記第1乃至第4発明のいずれかにおいて、前記加工布を載置し、且つボタン穴の形状に沿って移動する送り台をさらに備え、前記縫針は、前記送り台と協働して前記加工布に穴かがり縫目を形成し、前記凹部は、下糸の前記切断端部を前記穴かがり縫目に縫い込むように前記針穴へと誘導することを特徴とする。
【0018】
本願第5発明のミシンは、上糸と下糸とが協働し、加工布に穴かがり縫目を形成する。下糸保持手段が保持を解除しフリーとなった下糸の切断端部を、穴かがり縫目の形成時に順次引き込むことで、加工布下面の千鳥縫目に縫い込むことができる。本願第5発明では、千鳥縫目に引き込む下糸の切断端部を円滑に針穴へと導くことにより、優れた美観の高品質のボタン穴を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、下糸の切断端部を円滑に針穴へ導くことにより、縫目の美観の損失及び品質の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用された穴かがり縫いミシンの外観を表す斜視図である。
【図2】穴かがり縫いミシンの縫製機構の要部構成を表す右側面図である。
【図3】穴かがり縫いミシンの送り台駆動機構の構成を表す斜視図である。
【図4】穴かがり縫いミシンの布押え駆動機構の構成を表す右側面図である。
【図5】穴かがり縫いミシンの針棒駆動機構の構成を表す斜視図である。
【図6】穴かがり縫いミシンの下糸切断機構と布押え駆動機構との連結部の構成を表す左側面図である。
【図7】下糸切断機構の構成を表す下面図である。
【図8】針板の全体構造を表す斜視図である。
【図9】図7の針穴部分を抽出した部分拡大図である。
【図10】図9中X−X断面による針板及びベースの側断面図である。
【図11】ミシンの上糸切断機構の構成を表す斜視図及び上面図である。
【図12】下糸切断機構の下糸保持に関わる動作を表す説明図である。
【図13】下糸切断機構の下糸保持に関わる動作を表す説明図である。
【図14】穴かがり縫いミシンの制御系の構成を表すブロック図である。
【図15】穴かがり縫いミシンが使用する針落ち点のデータを表す説明図である。
【図16】加工布の縫製開始から終了までにおける下糸切断機構の動作を説明するための、穴かがり縫いミシンの針穴近傍の構造を概念的に表す側断面図である。
【図17】加工布の縫製開始から終了までにおける下糸切断機構の動作を説明するための、穴かがり縫いミシンの針穴近傍の構造を概念的に表す側断面図である。
【図18】ガイド溝の一部を閉塞可能な閉塞部材を設ける変形例における、閉塞板の全体構造を表す下面図である。
【図19】閉塞板を設けた穴かがり縫いミシンのベースの下面の部分拡大図である。
【図20】図19中XX−XX断面による針板及びベースの側断面図である。
【図21】図19中XXI−XXI断面による針板120及びベース75の横断面図である。
【図22】閉塞部材を駆動部材とする変形例において、駆動閉塞板が非閉塞位置にある場合における、駆動閉塞板を設けた穴かがり縫いミシンのベースの下面の部分拡大図である。
【図23】駆動閉塞板が閉塞位置にある場合における、駆動閉塞板を設けた穴かがり縫いミシンのベースの下面の部分拡大図である。
【図24】閉塞部材を係止部材とする変形例における、係止部材を設けた穴かがり縫いミシンのベースの下面の部分拡大図である。
【図25】閉塞部材を係止部材とする変形例における、他の係止部材を設けた穴かがり縫いミシンの図24中XXV−XXV断面に相当する針板及びベースの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、本発明が適用された穴かがり縫いミシンMの外観を表す斜視図である。穴かがり縫いミシンM(ミシン)は、加工布W(図10参照)に穴かがり縫い目100(図15参照)を形成し、その穴かがり縫い目100(縫目)の内側にボタン穴110(図15参照)を形成するいわゆるボタン穴用の穴かがり縫いミシンである。なお、以下の説明において穴かがり縫いミシンMの前後及び左右の方向は、図1及び図3等の矢印に示す方向とする。
【0023】
図1に示すように、穴かがり縫いミシンMは、ミシンテーブル1と、ミシンテーブル1に設けたミシンモータ2と、ミシンモータ2を含む各駆動部(後述)を起動又は停止させるためのペダル3と、穴かがり縫い目100及びボタン穴110を形成するための種々のデータを入力するための操作パネル4と、各駆動部を駆動制御する制御装置5と、ミシン本体200等を有している。
【0024】
ミシン本体200は、ベッド部6、脚柱部7、及びアーム部8を有する。図2に示すように、ミシン本体200は、加工布Wに穴かがり縫い目100を形成する縫製機構10と、加工布Wを布送りする送り台11と、送り台11を布送り方向へ駆動する送り台駆動機構12(図3参照)と、加工布Wの穴かがり縫い目100の千鳥縫い目101,102間を切断してボタン穴110を形成するカッタ13と、カッタ13を上下に駆動するカッタ駆動機構(図示略)とを備えている。
【0025】
図2に示すように、縫製機構10は、縫針16と、針棒駆動機構17(図5参照)と、釜(図示略)とを備えている。縫針16は、アーム部8の前方に設けた針棒15の下端部に着脱自在に装着する。針棒駆動機構17は、針棒15を上下に往復駆動し左右に揺動駆動する。釜は、ベッド部6に設け、縫針16と共働して穴かがり縫い目を形成する。縫製機構10は、送り台11で加工布Wを布送りしつつ駆動することにより、図15に示す穴かがり縫い目100を形成する。図15に示すように、穴かがり縫い目100は、左千鳥縫い目101と右千鳥縫い目102とを有し、その前端部には前閂止め縫い目103を、後端部には奥閂止め縫い目104をそれぞれ有している。穴かがり縫いミシンMは、前閂止め縫い目103の一部、左千鳥縫い目101、奥閂止め縫い目104、右千鳥縫い目102、前閂止め縫い目103の残りの部分の順で縫い目を形成する。
【0026】
次に、送り台11と送り台駆動機構12について説明する。図2、図3に示すように、送り台11は前後に長い板状形状を有している。送り台11は、その前端部に、穴かがり縫い目100及びボタン穴110を形成するための長穴11aを有する。ベッド部6は、上面に左右一対の案内板20をはめ込んでいる。ベッド部6は、それらの案内板20の間に、送り台11を前後に移動可能に支持する。
【0027】
送り台駆動機構12は、可動部材21,22と、ステッピングモータ24とを備えている。可動部材21は、送り台11の後端部下面側に固定する。可動部材22は、前後に長い連結ロッド23により可動部材21に固定的に連結する。ステッピングモータ24は、可動部材22を前後に駆動する。連結ロッド23は、可動部材21,22の左端部を挿通して延びている。一対の軸受25は、可動部材21の前側、可動部材22の後側において、連結ロッド23を前後移動自在に支持している。前後に長いロッド26は、連結ロッド23の右側においてミシン機枠に固定している。可動部材22の右端部は、軸受22aを介してロッド26を前後移動自在に支持している。
【0028】
駆動プーリ27は、ステッピングモータ24の出力軸に固着している。従動プーリ(図示略)は、駆動プーリ27の後方においてミシン機枠に支持しており、これら両プーリが環状のベルト28を掛け渡している。このベルト28の一部に可動部材22が連結しており、ステッピングモータ24が駆動すると、ベルト28を介して可動部材21,22と送り台11と布押え31が前後に一体的に駆動する。
【0029】
可動部材22は、前端部に布押え31を取り付けた押え腕30の後端部に、回動可能に連結している。布押え31は、押え腕30の前上面に形成した溝30aと転動ローラ32との係合により、押え棒35に接続する。後述の布押え駆動機構33(図4参照)は、押え棒35を上下に駆動する。布押え31は、上下方向には押え棒35と一体に上下動し、前後方向には溝30aの範囲内で移動可能である。前述のカッタ駆動機構は、カッタ駆動用ソレノイド39(図14参照)を中心として構成する。カッタ13は、カッタ取付軸40下端のカッタホルダ41に、ネジ41aを介して固着する。カッタ駆動機構は、カッタ13を上下動する。
【0030】
次に、布押え駆動機構33について説明する。図4に示すように、布押え駆動機構33は、L型リンク片43,44と、リンク部材45,46,47とを備えている。L型リンク片43,44は、アーム部8の前側と後側に、左右方向の軸を中心に揺動可能に各々設ける。リンク部材45は、押え棒35と前側のL型リンク片43の一端との間にピン結合により連結する。リンク部材46は、上下方向に長い部材であり、後ろ側のL型リンク片44の一端と後述のリンク部材65(図6参照)との間にピン結合により連結する。リンク部材47は、前後に長い部材であり、L型リンク片43,44の他端同士の間にピン結合により連結する。リンク部材46は、ピン46aを突設する。このピン46aは、左右方向の軸を中心に揺動するカム48の一端48aに係合する。また、カム48の他端48bは、ステッピングモータ49によって鉛直面内を円運動するピン49aに係合する。
【0031】
カム48は、ステッピングモータ49の回転をリンク部材46の上下動に変換する。このリンク部材46の上下動は、L型リンク片44、リンク部材47、L型リンク片43、リンク部材45を順次経由して押え棒35に伝達する。布押え駆動機構33は、布押え31を、該布押え31によって加工布Wを押さえる布押え位置と、その布押え31を最大に上昇させた最大上昇位置との間の任意の高さに、ステッピングモータ49の回転角に応じて移動させる。
【0032】
次に、針棒駆動機構17について説明する。図5に示すように、アーム部8に揺動自在に設けた針棒台51が、前述の針棒15を上下方向に摺動可能に支持している。針棒15は、針棒抱き52を所定の位置に固定する。針棒連竿53は、その一端53aが鉛直面内の円Cに沿って円運動する。この針棒連竿53の他端53bは、角コマ54を介して針棒抱き52に接続する。針棒抱き52は、その角コマ54側に、左右方向に断面矩形形状の案内溝52aを形成する。角コマ54は、この案内溝52aに左右方向に移動自在に係合する。針棒連竿53は、他端53bの角コマ54の設置側と反対側に、角コマ55を設けている。この角コマ55は、針棒連竿案内56の垂直溝56aに係合する。それ故、垂直溝56aは、針棒連竿53の他端53bを垂直方向にのみ移動可能に案内する。針棒台51は、その側面に平板状の針棒案内57を固定する。この針棒案内57は、針棒15に沿って伸びる長穴57aを形成する。針棒抱き52の側面から突出した突起52bは、この長穴57aに係合する。ステッピングモータ61の回転は、無端状のベルト61aを介して伝達し、揺動レバー62を揺動する。この揺動レバー62の先端は、角コマ63を介して針棒台51の下端に接続する。
【0033】
針棒駆動機構17は、ミシンモータ2により回転駆動する上軸64から針棒連竿53に加わる力を、角コマ54を介して針棒15に伝達し、それによって針棒15を上下動させる。針棒駆動機構17は、ステッピングモータ61から揺動レバー62に加わる力を、角コマ63を介して針棒台51に伝達し、それによって針棒15を左右に揺動させる。針棒駆動機構17は、針棒15の上下動に応じてその針棒15を左右に揺動させ、かつ、送り台11を介して布送りをすることにより、前述の穴かがり縫い目100等の形成を行う。
【0034】
図6は、リンク部材46の下端46b近傍の構成を、図4の裏側方向から表す左側面図である。図6に示すように、リンク部材46の下端46bは、ベッド部6内にまで延伸し、リンク部材65の一端65bにピン結合する。リンク部材65は、左右方向の軸65aを中心に揺動可能である。リンク部材65は、その他端にピン65cを立設する。ピン65cは、左右方向の軸67aを中心に揺動可能なカム板67のカム穴67bに係合する。
【0035】
カム穴67bは、下端から角度αの区間は軸65aを中心とする円弧状となっている。カム穴67bは、下端から角度βの区間は軸65aからの距離が徐々に拡大するような形状となっている。カム穴67bは、下端から角度α及び角度βよりも上方の区間は軸65aを中心とする円弧状となっている。それ故、リンク部材46が最も上昇して布押え31が布押え位置に存在する状態(図6に実線で示す)から、リンク部材46が少し下降してリンク部材65が角度αの区間を揺動する間は、カム板67は揺動しない。リンク部材46が更に下降して、リンク部材65が角度βの区間を揺動すると、その間、カム板67は徐々に図6における反時計回り方向に揺動する。リンク部材65が角度βの区間を超えて更に揺動すると、カム板67は揺動しない。
【0036】
リンク部材69の後端69aは、カム板67の上端にピン結合する。このリンク部材69は、ベッド部6の表面と平行に前方に向かって伸び、その先端69bは、図7に示すようにリンク部材71,73を介して下糸切断機構70に接続する。それ故、リンク部材65が角度βの区間を揺動する間のみリンク部材69が前後に移動し、これにより、ステッピングモータ49の駆動力が下糸切断機構70に伝達する。
【0037】
図7は、下糸切断機構70の構成を表す下面図である。図7に示すように、下糸切断機構70は、レバー77と、下糸捌き78と、下糸掴み79とを備えている。レバー77は、ベース75の下面に垂直に設けた軸77aを中心に揺動する。下糸捌き78は、ベース75の下面に垂直に設けた軸78aを中心に揺動する。下糸掴み79は、ベース75の下面に垂直に設けた軸79aを中心に揺動する。下糸捌き78は、支持部80と、下糸捌き本体81とを備えている。支持部80は、先端にピン80aを立設している。下糸捌き本体81は、先端に切欠81aを有している。支持部80と下糸捌き本体81とは、図示しない長穴を介してネジ82が螺合することにより、取付角度を上記揺動方向に微調整可能に接続している。ピン80aは、レバー77の先端に設けたカム穴77bに係合する。レバー77は、前述のリンク部材73にピン結合している。それ故、前述のようにリンク部材69が前後に揺動すると、レバー77及び下糸捌き78が軸77a,78aを中心に揺動する。下糸捌き本体81先端の切欠81aに隣接する外周面は、カム面81bを構成している。このカム面81bは、下糸掴み79に立設したピン79bに当接することによって、下糸掴み79を図7における時計回り方向に揺動させる。
【0038】
ベース75(針板手段、針板ベース)は、その上面に後述する針板120を固定する。図8に示すように、針板120は、針穴121と、カッタ穴122とを有している。ベース75は、略中央部に、上面に設けた針板120の針穴121及びカッタ穴122の周囲を包含する開口75aを有している。ベース75は、その上面に針板120と底板75bとを固定することで、開口75aを上面側より閉塞する。開口75aと針板120及び底板75bとで形成する凹部75cは、ハサミ83の移動空間を構成する。ハサミ83(下糸切断手段)は、下糸固定刃85と、下糸可動刃87とを備えている。下糸固定刃85は、レバー77に固定する。下糸可動刃87は、下糸固定刃85に立設したピン85aを中心に揺動する。留め金89と図示しない皿バネとが、下糸固定刃85と下糸可動刃87とを圧接状態に保持している。下糸可動刃87は、その前方側(図7における左側)端縁の左右に、突出部87a,87bを有している。開口75aの前方側内壁面であるカム面75dは、突出部87a,87bに当接して下糸可動刃87を揺動させる。
【0039】
下糸掴み79(下糸保持手段)は、その先端にフック79cを有している。ベース75は、その下面に下糸掴みバネ91を固定する。この下糸掴みバネ91は、前方側に切欠91aを有する板バネであり、下糸掴み79の下面に圧接している。下糸掴みバネ91(下糸保持手段)は、後述のように、フック79cと共に下糸S(図10参照)を保持する。
【0040】
次に、針板120の詳細構造について説明する。図8は、針板120の全体構造を表す斜視図、図9は、図7の針穴121部分を抽出した部分拡大図、図10は、図9中X−X断面による針板120及びベース75の側断面図である。なお、図9及び図10は、下糸掴み79のフック79cと下糸掴みバネ91とが下糸Sを保持し、且つ、加工布Wの縫製が複数針進行した状態を表している。
【0041】
図8に示すように、針板120(針板手段、針板部材)は、長手方向略中央部に円形の凹部123を有しており、該凹部123内に上述した針穴121を有している。針板120は、凹部123の内部から外部に亘って上述のカッタ穴122を有している。針穴121は、左右方向(針棒台51の揺動方向)に細長い形状を有しており、穴かがり縫い目100の形成時に左右に揺動する縫針16を挿通させる。カッタ穴122は、前後方向(布送り方向)に細長い形状を有しており、ボタン穴形成時にカッタ13の先端を挿通させる。針板120は、ベース75との当接側である下面に、ガイド溝124を有している。ガイド溝124(凹部)は、凹部123の外周縁から針穴121に向かって深くなるように傾斜している。
【0042】
図9及び図10に示すように、針板120は、下糸掴み79のフック79c(図9では図示略)と下糸掴みバネ91とによる下糸Sの保持位置と、針穴121との間に、ガイド溝124を有している。ガイド溝124は、上記保持位置から針穴121に至る下糸Sを案内する。下糸掴み79と下糸掴みバネ91とが下糸Sの保持を解除した際には、下糸Sの切断端部を針穴121へと誘導する。
【0043】
次に、上糸切断機構99について説明する。図11(A)及び図11(B)に示すように、上糸切断機構99は布押え31近傍に設置している。上糸切断機構99は、上糸可動刃95によって上糸Tを切断する。前述のリンク部材47は、上糸可動刃95に対し、図示しないリンク機構を介して動力を伝達する。図11(B)に示すように、上糸可動刃95は、布押え31に形成した穴部31aを挿通して加工布Wと縫針16とを結ぶ上糸Tを切断する。上糸可動刃95は、リンク部材65が前述の角度α(図6参照)の区間を移動する間に動作を終了し、この間に上糸Tを切断する。
【0044】
穴かがり縫いミシンMが穴かがり縫い目100を形成し、停止するときには、ステッピングモータ49はリンク部材46を押し下げる方向に回転する。リンク部材65は、角度αの区間を図6における反時計回り方向に揺動し、この間に上糸可動刃95が上糸Tを切断する。その後、リンク部材65は、角度βの区間を図6における反時計回り方向に揺動し、この間に下糸切断機構70が下糸Sを切断する(この詳細については後述する)。その後、リンク部材46が更に下降し、リンク部材65が図6における反時計回り方向に更に揺動する。この間には糸切り動作等を実行せず、布押え31がリンク部材46の下降に応じて上昇する。
【0045】
次に、リンク部材65が角度βの区間を反時計回り方向に揺動するときの下糸切断機構70の動作を説明する。穴かがり縫い目100の縫製中には、リンク部材69は最も前進した位置に位置し、下糸切断機構70の各部材は図7に示す位置に位置する。
【0046】
リンク部材65が角度βの区間を揺動し、リンク部材69が後退するに伴って、レバー77は図7における時計回り方向に揺動する。レバー77のカム穴77bは、この揺動の初期にはピン80aを前方に押し出す。それ故、下糸捌き78も図7における時計回り方向に揺動する。下糸捌き本体81の切欠81aは、針穴121の下方を通って加工布Wと釜(図示略)とを結ぶ下糸Sを捕捉して、上記揺動方向に引っ張る。下糸捌き78は、上糸切断機構99が切断した上糸Tの端部を、その上糸Tに絡められた下糸Sと共に加工布Wの下方へ引き抜く。また、この下糸捌き78の動作によって、下糸掴み79のフック79cは、下糸Sを引っかける。
【0047】
図12(A)に示すように、レバー77が更に揺動し、これに伴って下糸捌き78が更に揺動すると、下糸捌き本体81のカム面81bが下糸掴み79のピン79bに当接する。図12(B)に示すように、下糸捌き78が更に揺動すると、カム面81bがピン79bを後方に押すことにより、下糸掴み79は図12における時計回り方向に揺動する。下糸捌き78が図12(B)に示す位置まで揺動すると、ピン80aはカム穴77bの内、軸77aを中心とする円弧状に形成した部分に係合する。それ故、レバー77がこれ以上揺動しても、下糸捌き78は揺動しない。下糸捌き本体81のカム面81bに続く面81cは、軸78aを中心とする円弧状に形成している。それ故、下糸掴み79が図12(B)に示す位置まで揺動した後は、仮に下糸捌き78がそれ以上揺動したとしても、下糸掴み79の位置は変化しない。従って、ネジ82により支持部80と下糸捌き本体81との取付角度を調整し、下糸捌き78による下糸Sの捌き量を変更しても、下糸掴み79の駆動量及び動作タイミングは変化しない。
【0048】
下糸掴み79が図12(B)に示す位置まで揺動すると、図13(A)に下糸捌き78を省略して示すように、フック79cは、下糸掴みバネ91の切欠91aの上面に沿って所定量重なった位置に位置する。フック79cと切欠91aとは、その間に下糸Sを確実に保持する。
【0049】
下糸可動刃87の突出部87bが、カム面75dに当接すると、ハサミ83が閉じ始める。図13(B)に示すように、ピン80aがカム穴77bの端部に達してレバー77の揺動が止まる頃(リンク部材65が角度βの区間を揺動しきってリンク部材69の後退が停止する時期と一致)には、下糸可動刃87と下糸固定刃85との先端が完全に重なり合う。ハサミ83は、加工布Wと上記保持位置との間に張設した下糸Sを切り終える。
【0050】
布押え31を下げて再び穴かがり縫い目100の縫製を開始するときは、リンク部材69が前進し、レバー77は図7に示した位置に戻る。下糸可動刃87の突出部87aがカム面75dに当接することにより、ハサミ83も、図7に示す開いた状態に戻る。縫製が開始されて送り台11が移動を開始すると、図示しないリンク機構が送り台11の動作をピン79dに伝達する。下糸掴み79は、これによって図7に示した位置に戻る。
【0051】
次に、穴かがり縫いミシンMの制御系の構成について説明する。図14に示すように、制御装置5は、CPU5a、ROM5b、RAM5cを主要部とするマイクロコンピュータである。制御装置5は、入力インタフェース5dと、出力インタフェース5eとを備えている。入力インタフェース5dは、ペダル3の操作状態に応じた信号及び操作パネル4からの信号を入力する。出力インタフェース5eは、ミシンモータ2、ステッピングモータ24,49,61,及びカッタ駆動用ソレノイド39に、図示しない駆動回路を介して駆動信号を出力すると共に、操作パネル4へも表示状態等の制御信号を出力する。CPU5a、ROM5b、RAM5c、入力インタフェース5d、及び出力インタフェース5eは、バス5fを介して接続している。
【0052】
ユーザが、穴かがり縫い目100に関わる幅、ピッチ等の各種データを操作パネル4にて設定し、ペダル3を踏み込むと、制御装置5はROM5bに記憶されたプログラムを実行し、穴かがり縫いミシンMは加工布Wに穴かがり縫い目100を形成する。制御装置5は、操作パネル4から入力したデータに基づいて穴かがり縫い目100を構成する針落ち点のデータを作成し、その針落ち点に縫い目を形成すべくミシンモータ2、ステッピングモータ24,61を駆動する。
【0053】
図15は、穴かがり縫いミシンMが使用する針落ち点のデータを表す説明図である。このデータは、針落ち点P1からPnに至る針落ち点からなるデータである。制御装置5は、このデータに基づいてミシンモータ2、ステッピングモータ24,61を駆動する。穴かがり縫いミシンMは、針落ち点P1,P2・・・の順に縫い目を形成し、前閂止め縫い目103の一部、左千鳥縫い目101、奥閂止め縫い目104、右千鳥縫い目102、前閂止め縫い目103の残りの部分の順で縫製を行う。制御装置5は、右千鳥縫い目102の縫製中の所定時期または右千鳥縫い目102の縫製終了時に、カッタ駆動用ソレノイド39を駆動して、カッタ13によりボタン穴110を形成する。制御装置5は、穴かがり縫い目100の形成終了後には、前述のようにステッピングモータ49を駆動してリンク部材46を下降させ、上糸切断機構99の駆動、下糸切断機構70の駆動、及び布押え31の上昇を順次実行する。
【0054】
次に、加工布Wの縫製開始から終了までにおける下糸切断機構70の動作を説明する。図16及び図17は、穴かがり縫いミシンMの針穴121近傍の構造を概念的に表す側断面図である。
【0055】
図16(A)に示すように、縫製を開始する際には加工布Wを針板120上に載置する。針板120の下方では、下糸掴み79のフック79cと下糸掴みバネ91とが下糸Sの切断端部Seを保持している。図16(B)に示すように、ミシンモータ2が駆動して縫針16が針穴121に落下すると、上糸Tが縫針16とともに加工布Wを貫通する。図16(C)に示すように、縫針16が上昇すると、上糸Tは加工布Wの下方においてループを形成し、釜(図示略)の動作により下糸Sと絡み合う。図16(D)に示すように、天秤(図示略)が上昇して上糸T及び絡み合った下糸Sを引っ張り、加工布Wに形成する縫目を引締める。このとき、ボビン(図示略)が下糸Sを供給する。図16(E)に示すように、送り台駆動機構12が送り台11を布送り方向へ駆動し、加工布Wを布送りする。この状態では、フック79cと下糸掴みバネ91とはまだ下糸Sの切断端部Seを保持している。なお、前述の図10に示す状態はこの状態に相当する。このように、縫製開始時にフック79cと下糸掴みバネ91とで下糸Sを確実に保持し、縫い目を良好に形成する。
【0056】
穴かがり縫いミシンMは、上述した図16(B)〜(E)に示す動作を繰り返し、順次縫目を形成する。図17(F)に示すように、加工布Wが所定距離移動すると、下糸掴み79が図7に示した位置に戻り、フック79cと下糸掴みバネ91とが下糸Sの切断端部Seの保持を解除する。図17(G)に示すように、穴かがり縫いミシンMは、フリーとなった下糸Sの切断端部Seを、順次形成する縫目に引き込みつつ、加工布Wの下面に縫い込む。針板120の下面に設けたガイド溝124は、フリーとなった下糸Sの切断端部Seを針穴121へと誘導する。図17(H)に示すように、加工布Wの縫製が完了すると、ミシンモータ2が停止して加工布Wの布送りが停止する。上糸切断機構99の上糸可動刃95は、上糸Tを切断する。図17(I)に示すように、下糸捌き78が、針穴121を挿通して加工布Wと釜(図示略)とを結ぶ下糸Sを捕捉して引っ張り、下糸掴み79のフック79cと下糸掴みバネ91とで、下糸Sを保持する。図17(J)に示すように、ハサミ83の下糸可動刃87と下糸固定刃85との先端が重なり合い、加工布Wとフック79cとの間に張設した下糸Sを切断する。フック79cと下糸掴みバネ91とは、下糸Sの切断により形成した切断端部Seを保持した状態となる。図17(K)に示すように、縫製が完了した加工布Wを針板120上から取り去る。
【0057】
以上説明した本実施形態の穴かがり縫いミシンMは、ベース75及び針板120と、縫針16とを有する。縫針16が上下動することにより、縫針16の目孔を通した上糸Tと下糸Sとが協働し、加工布Wに穴かがり縫い目100を形成する。穴かがり縫い目100の形成が終了すると、ベース75の下方に設けた下糸掴み79のフック79c及び下糸掴みバネ91が協働して下糸Sを保持する。保持した下糸Sの所定の切断箇所を、下糸掴み79及び下糸掴みバネ91の上方で且つベース75の下方においてハサミ83が切断する。切断後、加工布Wに新たに縫製を開始すると、下糸掴み79及び下糸掴みバネ91が下糸Sの切断端部Seを保持した状態で、縫針16の担持した上糸Tが加工布Wの下方へ現れた後、ループを形成し下糸Sのボビン側部分と絡み合って加工布Wの上方へ去る。これを繰り返して上糸Tと下糸Sとの協働で順次縫目を形成するとき、適宜のタイミングで下糸掴み79及び下糸掴みバネ91が下糸Sの切断端部Seの保持を解除する。フリーとなった下糸Sの切断端部Seを、上述のように順次形成する縫目に引き込み、下糸掴み79及び下糸掴みバネ91の上方にある針板120の針穴121から加工布側へ通すことにより、加工布Wの下面に縫い込んでいく。
【0058】
針板120にガイド溝124を設け、下糸Sの切断端部Seを針穴121へと誘導する。上糸Tと下糸Sとが絡み合って縫目を形成するときにも、縫目に引き込む下糸Sの切断端部Seを、ガイド溝124に倣いながら暴れることなく円滑に針穴121へと導くことができる。縫目の完成後に、暴れた下糸Sの切断端部Seの一部が縫目からはみ出して美観を損ねたり、下糸Sの切断端部Seが加工布Wの表側に出ることを防げるので縫目品質を低下させたりするのを防止することができる。
【0059】
また、本実施形態では特に、穴かがり縫いミシンMは、ベッド部6に取り付けるベース75とその上部の針板120とで構成し、針板120の下面にガイド溝124を設ける。針板120の下面に設けたガイド溝124により、下糸Sの切断端部Seを円滑に針穴121へと導くことができる。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
【0061】
(1)ガイド溝の一部を閉塞可能な閉塞部材を設ける場合
上記実施形態では、針板120にガイド溝124を設け、該ガイド溝124内に下糸Sを引き込む構成としている。しかしながら、ガイド溝124の下方側は開口しているため、下糸Sがガイド溝124内から溝外部にはみ出す可能性がある。本変形例はこれに対応し、ガイド溝124の開口側に閉塞部材を設ける例である。
【0062】
図18は、閉塞板130の全体構造を表す下面図、図19は、閉塞板130を設けた穴かがり縫いミシンMのベース75の下面の部分拡大図、図20は、図19中XX−XX断面による針板120及びベース75の側断面図、図21は、図19中XXI−XXI断面による針板120及びベース75の横断面図である。
【0063】
図20及び図21に示すように、閉塞部材としての閉塞板130は、針板120とベース75との間に設置する。図18及び図19に示すように、閉塞板130は、長手方向略中央部に、上面に設けた針板120の針穴121、カッタ穴122、及びガイド溝124の周囲を包含する開口131を有している。閉塞板130は、ガイド溝124の下方開口側の一部を閉塞可能な突起部132を有する。突起部132は、開口131の縁部からガイド溝124の開口側に突出するとともに、先端がガイド溝124の底面側に曲折している。
【0064】
本変形例の穴かがり縫いミシンMは、閉塞板130を設けて、その突起部132により針板120に設けたガイド溝124の下方開口側の一部を閉塞する。ガイド溝124の開口面積を小さくし誘導時の方向性を強くすることができるので、下糸Sの切断端部Seを確実に円滑に針穴121へと導くことができる。突起部132よりガイド溝124の底面側に下糸Sの切断端部Seを導入できた場合(図21に想像線で示す)には、突起部132による係止機能を得ることができる。上糸Tと下糸Sとが絡み合うループが上記下糸Sの切断端部Seをひっかけて加工布Wの上面側へ引っ張ったとしても、突起部132の係止機能による抵抗で、一旦ひっかかった下糸Sの切断端部Seをループから抜き出すことができる。
【0065】
(2)閉塞部材を駆動部材とする場合
上記変形例(1)では、固定的な閉塞部材を設ける場合を示したが、本変形例は、閉塞を行わない非閉塞位置と閉塞を行う閉塞位置とを移動可能な駆動部材を設ける例である。
【0066】
図22及び図23は、駆動閉塞板140を設けた穴かがり縫いミシンMのベース75の下面の部分拡大図であり、図22は駆動閉塞板140が非閉塞位置にある状態、図23は駆動閉塞板140が閉塞位置にある状態を表している。
【0067】
図22及び図23に示すように、閉塞部材としての駆動閉塞板140(駆動部材)は、後端側を屈曲させた略L字型形状を有している。駆動閉塞板140は、ベース75の上面に設けた軸141を中心に揺動する。駆動閉塞板140は、後端側の屈曲部の先端に尖部142を有している。駆動閉塞板140の前端側は、リンク部材143とピン結合により連結する。駆動閉塞板140を駆動するための閉塞板駆動用ソレノイド(図示略。ステッピングモータでもよい)は、図示しないリンク部材を介し、リンク部材143を左右方向に揺動する。
【0068】
図22に示すように、閉塞板駆動用ソレノイドの作動によりリンク部材143が左方に移動すると、駆動閉塞板140が軸141を中心に時計回り方向に揺動し、尖部142がガイド溝124の下方開口側を閉塞しない位置に移動する。この状態が、駆動閉塞板140の非閉塞位置に相当する。なお、図22に示す例では尖部142がガイド溝124の開口を一部覆っているが、全く覆わない位置まで移動してもよい。図23に示すように、閉塞板駆動用ソレノイドの作動によりリンク部材143が右方に移動すると、駆動閉塞板140が軸141を中心に反時計回り方向に揺動し、尖部142がガイド溝124の下方開口側を閉塞する位置に移動する。なお、図23に示す例では尖部142がガイド溝124の開口を完全に覆っているが、一部を覆うようにしてもよい。この状態が、駆動閉塞板140の閉塞位置に相当する。
【0069】
駆動閉塞板140を移動するタイミングを、前述の図16及び図17を用いて説明する。図16(A)に示す縫製開始時には、駆動閉塞板140は非閉塞位置に位置している。その後、図16(B)〜図16(C)に示すように、縫製開始後、第1針が落下して上糸Tと下糸Sとが絡み合う。この間、駆動閉塞板140は非閉塞位置に位置する。その後、図16(D)に示すように、天秤(図示略)が上昇して上糸T及び下糸Sを引っ張り上げ、ガイド溝124が下糸Sの切断端部Seを溝内に引き込む。この際に、駆動閉塞板140は閉塞位置に移動する。
【0070】
その後、図16(E)〜図17(G)に示すように、送り台駆動機構12が加工布Wを布送りして順次縫目を形成する。この間、駆動閉塞板140は閉塞位置に位置する。フック79cと下糸掴みバネ91とが下糸Sの切断端部Seの保持を解除することで、フリーとなった下糸Sの切断端部Seは、駆動閉塞板140が閉塞したガイド溝124内を経由し、針穴121へと進入する。その後、図17(H)に示すように、加工布Wの縫製が完了すると、上糸可動刃95が上糸Tを切断する。この際に、駆動閉塞板140は非閉塞位置に移動する。なお、この非閉塞位置への移動タイミングは、図17(G)において下糸Sの切断端部Seがガイド溝124内の通過を完了後、図17(I)において下糸捌き78が下糸Sを捕捉する前であれば、どのタイミングでもよい。
【0071】
その後、図17(I)に示すように、下糸捌き78が下糸Sを捕捉して引っ張る。これにより、開放されたガイド溝124が下糸Sを溝内に引き込む。下糸掴み79のフック79cと下糸掴みバネ91とが下糸Sを保持する。その後、図17(J)〜図17(K)に示すように、ハサミ83が下糸Sを切断し、加工布Wの縫製が完了する。
【0072】
本変形例の穴かがり縫いミシンMは、閉塞部材を駆動部材である駆動閉塞板140で構成する。下糸Sの切断端部Seをガイド溝124に引き込んだ後、非閉塞位置から閉塞位置に切り替えてガイド溝124の下方開放側の全部を閉塞する。通常は非閉塞位置に切り替えておくことにより、下糸Sの切断端部Seがガイド溝124に入り込みやすいようにすることができる。その後閉塞位置に切り替えることにより、ガイド溝124の開口面積を小さくし誘導時の方向性を強くするとともに、ガイド溝124底面側に下糸Sの切断端部Seを確実に導入して係止機能を得ることができる。以上により、ガイド溝124への下糸切断端部Seの導入性、誘導性、及び係止機能をすべて良好に得ることができる。
【0073】
(3)閉塞部材を係止部材とする場合
上記変形例(1)では、閉塞部材として単なる板材を設ける場合を示したが、本変形例は、下糸Sの切断端部Seを係止する機能を有する係止部材を閉塞部材として設ける例である。
【0074】
図24は、係止部材150を設けた穴かがり縫いミシンMのベース75の下面の部分拡大図、図25は、係止部材160を設けた穴かがり縫いミシンMの図24中XXV−XXV断面に相当する針板120及びベース75の横断面図である。
【0075】
図24に示すように、針板120は、ベース75との当接側である下面に、ガイド溝124に隣接して設けた係止部材150を有している。係止部材150(閉塞部材)は、例えば針金等の金属材や合成繊維等で構成する複数の線部材151を有している。複数の線部材151は、ガイド溝124の下方開口側の一部を閉塞する。
【0076】
図25に示すように、針板120は、ガイド溝124内に係止部材160を有している。係止部材160(閉塞部材)は、例えば針金等の金属材や合成繊維等で構成する複数の線部材161を有している。各線部材161は、ガイド溝124内において先端部が屈曲した形状を有しており、この形状によりガイド溝124内に引き込んだ下糸Sを係止する機能を有している。
【0077】
本変形例によれば、上記変形例(1)と同様の効果を得るとともに、下糸Sの係止機能をさらに増強することができる。
【0078】
(4)その他
以上では、下糸Sを保持する下糸保持手段としての下糸掴み79及び下糸掴みバネ91と、下糸切断手段としてのハサミ83を別部材として構成したが、これに限らない。これら下糸保持手段としての機能と下糸切断手段としての機能を兼ね備えた一体型の保持切断部材を備えたミシンに対しても、本発明は適用可能である。
【0079】
また以上では、穴かがり縫いミシンに本発明を適用した場合を一例として説明したが、本発明は穴かがり縫いミシン以外の各種ミシンに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
6 ベッド部
11 送り台
16 縫針
75 ベース(針板手段、針板ベース)
79 下糸掴み(下糸保持手段)
83 ハサミ(下糸切断手段)
91 下糸掴みバネ(下糸保持手段)
100 穴かがり縫い目(縫目)
110 ボタン穴
120 針板(針板手段、針板部材)
121 針穴
124 ガイド溝(凹部)
130 閉塞板(閉塞部材)
140 駆動閉塞板(閉塞部材、駆動部材)
150 係止部材(閉塞部材)
160 係止部材(閉塞部材)
M 穴かがり縫いミシン(ミシン)
S 下糸
T 上糸
W 加工布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針穴を備えベッド部に設けた針板手段と、
上糸を担持する目孔を備え上下動する縫針と、
上糸と協働して加工布に縫目を形成する下糸を、前記縫目の形成後に、前記針板手段より下方で保持する下糸保持手段と、
前記下糸保持手段により保持した下糸を切断する下糸切断手段と
を有するミシンにおいて、
前記針板手段は、
前記下糸保持手段と前記針穴との間に、該下糸保持手段から前記針穴に至る前記下糸を案内する凹部を備える
ことを特徴とするミシン。
【請求項2】
請求項1記載のミシンにおいて、
前記針板手段は、
前記ベッド部に取り付けた針板ベースと、
前記針板ベースの上部に取り付けた前記針穴を有した針板部材と
を有し、
前記凹部を、前記針板部材の下面に設けた
ことを特徴とするミシン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のミシンにおいて、
前記凹部の下方開口側の一部を閉塞可能な閉塞部材を設けた
ことを特徴とするミシン。
【請求項4】
請求項3記載のミシンにおいて、
前記閉塞部材は、
下糸の前記切断端部を前記凹部に引き込んだ後に、前記閉塞を行わない非閉塞位置から前記閉塞を行う閉塞位置に移動する駆動部材である
ことを特徴とするミシン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のミシンにおいて、
前記加工布を載置し、且つボタン穴の形状に沿って移動する送り台をさらに備え、
前記縫針は、前記送り台と協働して前記加工布に穴かがり縫目を形成し、
前記凹部は、下糸の前記切断端部を前記穴かがり縫目に縫い込むように前記針穴へと誘導する
ことを特徴とするミシン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−227375(P2010−227375A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79559(P2009−79559)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】