説明

ミリ波・遠赤外光検出器

【課題】桁違いに感度が優れ、応答速度の早いミリ波・遠赤外光検出器を提供する。
【解決手段】電磁波をサブミクロンサイズの微少空間領域に集中する電磁波結合手段と、この集中した電磁波を吸収してイオン化を起こす第1の量子ドットと、この第1の量子ドットに静電的に結合した第2の量子ドットを含む単一電子トランジスタとを備え、単一電子トランジスタは、2次元電子系を形成する単一へテロ構造と、この2次元電子系内にトンネル結合する量子ドットの静電ポテンシャルを制御するゲート電極と、量子ドットとトンネル結合するソース電極及びドレイン電極と、を有し、第1の量子ドットのイオン化に伴う第2の量子ドットの静電的状態の変化によって単一電子トランジスタの電気伝導度が変化することに基づいて電磁波を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミリ波・遠赤外光計測器に利用し、特に半導体量子ドットを制御してミリ波・遠赤外領域のビデオ信号を検出するためのミリ波・遠赤外光検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電磁波の検出器には位相敏感検波を行う周波数混合器(ミキサー)と、非干渉性の検波を行うビデオ信号検出器とがあるが、微弱光の検出には後者のビデオ信号検出器の方が感度が優れている。
【0003】
ミリ波・遠赤外領域での従来のビデオ検出器の中で、最も感度が優れているのは、波長範囲が0.1mm〜1mmの0.3K以下の極低温で用いるゲルマニウム複合ボロメーターと、波長範囲が0.06mm〜0.1mmの2K程度の低温で用いるドープしたゲルマニウムによる光伝導検出器である。
【0004】
その雑音等価出力(Noise Equivalent Power、以下「NEP」と記す)は10-16 WHz-1/2から10-18 WHz-1/2に達する。
電磁波のエネルギー量子、すなわち光量子で見た場合、この感度は、1秒間の測定時間を考えたときに、百万個程度以上の光子束が検出器に入射しない限り雑音以上の信号として検出できないことを意味する。
【0005】
さらに、このような検出器では応答速度が100m秒程度と極めて遅い。応答速度の速い検出器として、超伝導ボロメーター、超伝導トンネル接合、半導体(InSb)中ホットエレクトロン等が利用されているが、感度はゲルマニウム複合ボロメーターに比べて劣る。
【0006】
上述した検出器とは別に、通常の単一電子トランジスタにマイクロ波を照射すると光子補助トンネル効果(photon assisted tunneling)による信号が得られることが知られているが、この効果では、電磁波光子一つの吸収によって電子が一つしか電極間を移動しないため、検出器としての感度は低い。
【特許文献1】特開平11−004017号公報
【特許文献2】特開平08−274298号公報
【非特許文献1】R. J. Scoelkopf et al., "A Concept for a Submillimeter-Wave Single-Photon Counter", IEEE Transactions on Applied Superconductivity, Vol.9, No.2, June 1999, pp.2935-2939
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の検出器には感度及び応答速度の優れたものが存在しなかった。その理由は、いずれの検出器も伝導電子が連続的エネルギー準位帯構造の中にあるために電磁波によって励起された状態の寿命が短いこと、また検出器中の全電子による平均伝導度の変化によって電磁波を検出するため、少数の電子の励起による効果が圧倒的多数の他の電子によって薄められてしまい効率が低いこと、さらに光子補助トンネル効果のように電磁波光子一つの吸収によって電子が一つしか電極間を移動しないためであった。
【0008】
そこで、この発明は、上述したすべての機構とは全く異なる機構に基づき従来の検出器に関わる解決すべき課題を根本的に除去することにより、桁違いに感度が優れ、かつ、応答速度の早いミリ波・遠赤外光検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のミリ波・遠赤外光検出器は、電磁波をサブミクロンサイズの微少空間領域に集中する電磁波結合手段と、この集中した電磁波を吸収してイオン化を起こす第1の量子ドットと、この第1の量子ドットに静電的に結合した第2の量子ドットを含む単一電子トランジスタとを備え、単一電子トランジスタは、2次元電子系を形成する単一へテロ構造と、この2次元電子系内にトンネル結合する量子ドットの静電ポテンシャルを制御するゲート電極と、量子ドットとトンネル結合するソース電極及びドレイン電極と、を有し、第1の量子ドットのイオン化に伴う第2の量子ドットの静電的状態の変化によって単一電子トランジスタの電気伝導度が変化することに基づいて電磁波を検出する。
【0010】
上記構成において、第1の量子ドットのイオン化が、第1の量子ドットの量子化束縛状態の電子を、第1の量子ドット外部の電子系の自由電子状態に励起することによって生ずることを特徴とする。
第1の量子ドットのイオン化エネルギーが、第1の量子ドットのゲートに印加するバイアス電圧の大きさによって制御可能であることを特徴とする。
第1の量子ドット及び前記第2の量子ドットが、同一の半導体構造基板上にあって、それぞれのゲートに印加するバイアス電圧によって静電的に分離して形成されたことを特徴とする。
第1の量子ドットと第2の量子ドットとを半導体中にあって間隙を介して隣接して形成したことを特徴とする。
第2の量子ドットが、第1の量子ドットの上に形成した金属ドットであって、この金属ドットに形成した金属リード線とトンネル接合して単一電子トランジスタを形成したことを特徴とする。
第2の量子ドットがアルミニウム金属ドットであり、トンネル接合する部分を酸化アルミニウムとしたことを特徴とする。
電磁波結合手段が、第1の量子ドットと前記電磁波とを電気的に結合するアンテナであることを特徴とする。
電磁波結合手段が、第1の量子ドット及び第2の量子ドットを形成するバイアス電圧印加のためのゲートを兼ねていることを特徴とする。
電磁波結合手段のリード部分の長さ方向を、この電磁波結合手段の分極軸方向に垂直に形成していることを特徴とする。
電磁波結合手段の結節点の大きさと量子ドットの最大の大きさとが同程度であることを特徴とする。
電磁波結合手段の電極差し渡し長さが電磁波の波長の約1/2であることを特徴とする。
単一電子トランジスタのソース電極とドレイン電極との距離が、電磁波結合手段の分極軸方向の長さ以上であることを特徴とする。
単一電子トランジスタが化合物半導体であることを特徴とする。単一電子トランジスタはIII−V族化合物半導体であることを特徴とする。
単一電子トランジスタが、III−V族化合物半導体超格子の選択ドープ単一ヘテロ構造を有していることを特徴とする。単一電子トランジスタが、アルミニウムガリウム砒素/ガリウム砒素の選択ドープ単一ヘテロ構造を有していることを特徴とする。単一電子トランジスタが、IV族半導体であることを特徴とする。
単一電子トランジスタを量子ドットに対して対称に形成していることを特徴とする。
前記構成に加え、電磁波結合手段に電磁波を導く光導入部を備えたことを特徴とする。
【0011】
上記構成では、電磁波を吸収する第1の量子ドットと、それを検出する伝導性の第2の量子ドットを分離しているので、電磁波吸収によって励起される正孔と電子とがそれぞれ第1の量子ドットの内部と外部とに分離して生ずるため、磁場を印加することなく極めて長時間の励起状態、すなわちイオン化寿命を実現できる。したがって、磁場印加なしに感度をより向上させることができ、また単一光子検出を容易に行うことができる。
【0012】
さらに、第1の量子ドットを形成する電子系では離散準位から連続帯準位への励起を利用するため閾値、すなわちイオン化エネルギー以上のエネルギーを持つ連続的な波長帯域で良好な検出感度を有する。また検出の閾値波長、すなわちイオン化エネルギーがゲート電圧によるポテンシャル障壁高さの調節を通して直接的に制御可能である。さらに第2の量子ドットを微小にすることによって動作温度を最高2Kまで上昇させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のミリ波・遠赤外光検出器では、従来のミリ波・遠赤外光検出器に比べて桁違いに感度が高く、かつ、高速で動作するという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明のミリ波・遠赤外光検出器は、半導体量子ドットによる単一電子トランジスタ(以下、「SET」と記す。)を用いる。SETは、例えば2次元電子ガスを形成する半導体超格子の単一ヘテロ構造を有し、ソース電極及びドレイン電極により、ソース領域とドレイン領域に弱くトンネル結合した非常に小さな孤立した伝導性領域のドットと、そのドットの静電ポテンシャルを制御する制御ゲート電極とで形成される。
なお、SETは化合物半導体、特にIII−V族化合物半導体、III−V族化合物半導体超格子の選択ドープ単一ヘテロ構造を有しているものでも良い。さらに複数の量子ドットを有するミリ波・遠赤外光検出器の場合、IV族半導体でもよい。
【0015】
制御ゲート電極のバイアス電圧を変化させるとドット中の伝導電子の電気化学ポテンシャルが変化し、それがソース及びドレイン電極のフェルミエネルギーに等しくなる条件下でのみソース・ドレイン電流ISDが流れる。
SETのこの導通状態での伝導度、G=ISD/VSDは概ね[200〜400kΩ]-1となる。
但し、VSDはソース・ドレイン電圧であり、本発明で使用するSETでは100μV以下にしなければならない。
【0016】
伝導性ドットとして、有効的な大きさが直径0.02μmから0.6μmの半導体量子ドットを用いると、その内部の電子系のエネルギー準位はサイズ効果又は外部から印加する磁場に応じて量子化され、そのエネルギー間隔がミリ波・遠赤外光領域の光量子に対応する。そのエネルギー間隔は、量子ドットのサイズ変化や外部磁場、バイアス電圧の印加によって制御可能である。
したがって、ミリ波・遠赤外光を照射することによって量子ドット内部で電子を共鳴的に励起することができる。
但し、励起される状態は、後述するように励起方法及び磁場印加の有無によって異なる。
【0017】
いずれの場合も、励起された電子の波動関数はその空間対称性と空間分布が、基底状態のそれに比べて変化するために、量子ドットの電気化学ポテンシャル及びソース・ドレイン領域とのトンネル結合強度が大きく変化する。
このことによって、半導体量子ドット内の一つの電子の励起のみによって、SETの伝導度が20%〜99%程度と大きく変化し、その伝導度が変化した状態が、励起状態が消滅して基底状態に戻るまで、すなわち励起状態及びその緩和した状態の寿命の間保持される。
【0018】
一方、励起された量子ドットの状態は、そのエネルギーの離散準位構造のために、基底状態に戻るまでの寿命が10n秒から1000秒と長いため、極めて感度の高い検出器となる。伝導度GがX%変化してそれがT秒間続く場合の、ソース電極からドレイン電極に送り込まれる電子の数の変化、N=GVSDT(X/100)/e、は、代表的な条件下、G=1/300kΩ、X=50%、T=1m秒、VSD=0.05mVで106 と、きわめて多数である。
つまり、一つの光子の吸収によって100万個程度以上の電子を電極間に移送することができる。
【0019】
さらに、SET動作の原理的時定数、CSD/Gは数十p秒程度と極めて短い。ここで、CSDはソース・ドレイン間静電容量である。
したがって、電流の高速時間分解測定を通して単一のミリ波・遠赤外光子を検出することができる。
【0020】
以下、この発明によるミリ波・遠赤外光検出器を具体的な好適な実施の形態に基づいて図を参照しながら詳細に説明する。
まず、この発明のミリ波・遠赤外光検出器の構成について説明する。
図1は集光系を含めた本発明に係るミリ波・遠赤外光検出器の概略構成断面図である。
【0021】
図1に示すように、本発明に係るミリ波・遠赤外光検出器は、入射するミリ波・遠赤外光を検出器のアンテナに導くためのミリ波・遠赤外光導入部1と、半導体量子ドットを貫く電流を制御する単一電子トランジスタが形成されている半導体基板4と、単一電子トランジスタに形成されたサブミクロンサイズの微小空間領域である半導体量子ドットにミリ波・遠赤外光を集中するボータイ・アンテナ6とを備え、半導体基板4はICチップ用のパッケージ7に装着されている。
【0022】
ミリ波・遠赤外光導入部1は、ミリ波・遠赤外光2を導く光導入管3と、このミリ波・遠赤外光2を集光する誘電体レンズ5と、集光を補助する誘電体対物レンズ9とを有している。
誘電体対物レンズ9にはシリコンの半球レンズを使用し、この誘電体対物レンズ9はボータイ・アンテナ6や後述する半導体量子ドット表面に直接触れないように、それらに対して10μm程度の間隙を残して固定されている。なお、図1中、8は半導体基板4に形成される単一電子トランジスタ裏面側の裏面ゲート電極を示す。
【0023】
図1に示した光導入部1を含むミリ波・遠赤外光検出器10は、0.3K以下に冷却されており、必要に応じて半導体基板4(量子ドット)に垂直に磁場Bを印加する。
【0024】
図2は本発明に係るミリ波・遠赤外光検出器を示す図であり、(a)はボータイ・アンテナと量子ドットによる単一電子トランジスタの平面図、(b)はメサ構造部の一部概略断面図である。
図2(a)に示すように、本発明のミリ波・遠赤外光検出器10は、ボータイ・アンテナ6と、半導体量子ドット12と、その半導体量子ドットを含む単一電子トランジスタ14とを一体として半導体基板4の上に形成され、単一電子トランジスタ14はオーミック電極16,17により所定条件下ソース・ドレイン電流が流れるようになっている。
なお、上述したように、この半導体基板4の裏面には金属薄膜が蒸着されており、裏面ゲート電極が形成されている。
【0025】
単一電子トランジスタ14の構造は、図2(b)に示すように半絶縁GaAs単結晶半導体基板4上に、変調ドープされたGaAs/Al0.3 Ga0.7 As単一ヘテロ構造を積層し、図2(a)に示す単一電子トランジスタ14のメサ構造がリソグラフィー技術を用いて形成されている。
【0026】
GaAs/Al0.3 Ga0.7 As単一ヘテロ構造結晶としては、4.2Kでの2次元電子移動度が60m2 /Vs以上、電子濃度が2x1015/m2 から4.5x1015/m2 のものを用いる。
【0027】
ヘテロ構造は、図2(b)の断面図に示すように、結晶表面からSiを1018/cm3 程度ドープした厚さが10nm程度のGaAs層22と、Siを1x1018/cm3 ドープした厚さが70nm程度のAl0.3 Ga0.7 As層24と、厚さが20nm以上のスペーサ層である純粋Al0.3 Ga0.7 As層26と、ノンドープの厚さが100nm程度のGaAs層28とがGaAs半導体基板4上に分子線エピタキシー法などで選択ドープされて積層されている。
なお、図2(b)中の斜線部25は2次元電子系が形成されることを示したもので、厚さは10nm程度である。
半導体基板4は標準的な半絶縁GaAs単結晶で全体の厚さが0.5mm程度で、平面サイズが1mmから3mm角程度である。
【0028】
この発明に係るミリ波・遠赤外光検出器の各構成部分についてさらに詳細に説明する。
図2(a)に示すように、半導体量子ドット12を含む単一電子トランジスタ14はGaAs半導体基板4上に形成された2次元電子系の細長いメサ構造を有し、このメサ構造の中央部付近が、半導体量子ドット12(詳細は後述する)外部の2次元電子系によってミリ波・遠赤外光が余分に吸収されるのを防ぐために、長さ200μm程度にわたって幅4μm程度に細く形成されている。つまり、量子ドットが形成される中央部は両端のメサ構造部分よりも細い。
また量子ドットによる単一電子トランジスタは中央部に形成される量子ドットに対して対称に形成するのがよい。
【0029】
メサ構造の両端にはAu/Geとの合金化による標準的なオーミック電極のソース電極16と、ドレイン電極17とが形成されている。両電極間の距離は、半導体量子ドット12への電磁波の集光を妨げないよう、ボータイ・アンテナ6の長さH程度以上の距離だけ互いに離されている。
【0030】
ボータイ・アンテナ6は蒸着金属薄膜で形成されており、例えば厚さが20nmのTiと厚さが60nmのAuとで形成されている。
さらにボータイ・アンテナ6は図2(a)に示すように、単一電子トランジスタ14の幅4μm程度に細く形成されたメサ構造で向かい合って又はまたいで、反対方向に2つの正三角形をなす形で広がり、メサ構造の中央で結節点をつくっている。
【0031】
ボータイ・アンテナ6の長さ、すなわち電極の差し渡しの長さHは被測定ミリ波・遠赤外光波長の約半分である。
但し、集光過程で光が様々な入射角で入射するため、実際にはボータイ・アンテナ6は波長=2Hのみでなく、広帯域のミリ波・遠赤外光を検出することができる。
【0032】
ボータイ・アンテナ6は、後述するように半導体量子ドット12の形成のためのゲート電極32,34と制御ゲート電極36とを兼ねるように、ボータイ・アンテナ6の羽根の一方が3つに分割されている。
分割された各ゲート電極32,34,36にバイアス電圧を印加するため、分割された各部分は5〜10μm幅のリード部分33,35,37を介して十分離れた金属パッド部分43,45,47(20nm:Ti、150nm:Au)に接続されている。
なお、他方の羽はゲート電極30となっており、5〜10μm幅のリード部分31を介して金属パッド部分41に接続されている。
【0033】
リード部分31,33,35,37の長さ方向は、電磁波への影響を減らすために、ボータイ・アンテナ6の分極軸方向に垂直である。オーミック電極16,17及び各ゲート電極30,32,34,36は、パッド部分を利用し、金線を使って標準的ICチップ用のパッケージの端子にボンディングにより配線されている。
【0034】
次に、ボータイ・アンテナの結節点について説明する。
図3はこの発明に係るボータイ・アンテナの結節点領域での平面構造を示す概略図であり、(a)は磁場無印加で使用し、波長0.5〜10mmのミリ波・遠赤外光検出器に用いるもの、(b)は1〜7Tの磁場下で使用し、波長0.1〜0.4mmのミリ波・遠赤外光検出器に用いるもの、(c)は4〜13Tの磁場下で使用し、波長3〜10mmのミリ波・遠赤外光検出器で使用するものを示す図である。なお、Tは磁束密度の単位記号でテスラを示す。
【0035】
図3(a)、(b)、(c)に示すように、ボータイ・アンテナ6a, 6b, 6cの結節点に量子ドット12a, 12b, 12cが形成され、ボータイ・アンテナの結節点での短絡の有無と、量子ドットの大きさは、使用条件及び被測定電磁波の波長範囲に応じて以下に示す3つの異なるものを用いるのがよい。なお、図3中、14a,14b,14cは2次元電子系メサ構造を示す。
【0036】
第1は、磁場なしの使用条件で、検出波長範囲が0.5〜10mm、ボータイ・アンテナの形式が標準の電気結合、量子ドット電極サイズ(量子ドットの2次元電子系の有効直径)が0.2〜0.4μm(0.02〜0.2μm)の場合である。
【0037】
第2は、1T〜7Tの磁場印加の使用条件で、検出波長範囲が0.1〜0.4mm、ボータイ・アンテナの形式が標準の電気結合、量子ドット電極サイズ(量子ドットの2次元電子系の有効直径)が0.6〜0.8μm(0.4〜0.6μm)の場合である。
【0038】
第3は、4T〜13Tの磁場印加の使用条件で、検出波長範囲が3〜10mm、ボータイ・アンテナの形式が結節点短絡の磁気結合、量子ドット電極サイズ(量子ドットの2次元電子系の有効直径)が0.6〜0.8μm(0.4〜0.6μm)の場合である。
【0039】
図3(a)、(b)、(c)は、上述の第1、第2及び第3のそれぞれの場合に対応するボータイ・アンテナの結節点領域での平面構造を示す図である。
なお、量子ドットを形成する結節点領域が上述した量子ドット電極サイズである。
図3(a)に示す上述の第1の場合は、磁場を印加せずに使用するための構成で、量子ドット12aはボータイ・アンテナ6aによって電磁波に電気的に結合する。
被測定電磁波の波長範囲は0.5mm〜10mmである。磁場を印加しない場合、量子ドット12aの励起状態の寿命は10n秒〜1μ秒と比較的短いが、上述したようにヘリウム温度に冷却したHEMT増幅器とLCのタンク回路とを組み合わせた電流増幅回路を用いて単一光子検出が行われる。
【0040】
ボータイ・アンテナ6aの一方の羽は3分割されてゲート電極32a,34a,36aとなっており、他方の羽はゲート電極30aとなっている。
ゲート電極30aの先端の二つの突起部52a,52aの各幅は0.15μmであり、ゲート電極32a,34aの先端部分54a,54aの各幅は0.15μmである。また、それぞれの突起部の向かい合う間隙55aは0.15μmである。
なお、図3(a)中、Waは2μm、Laは0.4μm、Maは0.35μmを示す。
【0041】
3つのゲート電極32a,34a,30aを−0.6V程度、またゲート電極36aを−0.2Vから−3Vの負電圧にバイアスすることによって、ゲート電極の下の2次元電子系が追い払われ(depletion)、中心の0.3μm角四方部分の内側に2次元電子系が閉じ込められて量子ドット12aが形成される。
但し、量子ドットが外側の2次元電子系に弱くトンネル結合するようにゲート電極34aとゲート電極30aのバイアス電圧を微調整する。
【0042】
またゲート電極36aは制御ゲート電極として働き、量子ドットによる単一電子トランジスタが形成される。
制御ゲート電極のバイアス電圧VCGを−0.2Vから−3Vの間で変化させることにより、量子ドット中2次元電子系の有効直径が約0.2μmから0.02μmまで変化する。
【0043】
次に、図3(b)、(c)は、それぞれ磁場1T〜7T及び4T〜13Tを印加して使用するための構成である。
磁場を印加した場合、量子ドットの励起状態の寿命は磁場の値と量子ドット中の電子濃度に応じて1m秒から1000秒程度に達し、高速の電流増幅回路を使用することなく、極めて容易に単一光子検出を行うことが可能である。
【0044】
図3(b)に示す上述の第2の場合は、量子ドット12bがボータイ・アンテナ6bによって電磁波に電気的に結合する構成で、被測定電磁波の波長範囲が0.05mm〜0.4mmのものである。
ボータイ・アンテナ6bをなす各ゲート電極の幾何学的構成とそれぞれの役割は、図3(a)のものと同一であるが、各部分のサイズが以下のように異なる。すなわち、ゲート電極30bの二つの突起部52b, 52bの各幅は0.3μmであり、ゲート電極32b、34bの先端部分54b、54bの各幅は0.3μmである。またそれぞれの突起部の向かい合う間隙55bを0.3μmとしている。
なお、図3(b)中、Wbは4μm、Lbは0.7μm、Mbは0.7μmを示す。
【0045】
このように中心部の0.7μm角四方の内側に2次元電子系が閉じ込められて、有効直径が0.4μm〜0.6μmの量子ドットが形成されている。
ゲート電極36bが制御ゲート電極として働き、量子ドットによる単一電子トランジスタが形成され、制御ゲート電極のバイアス電圧VCGは−0.3Vから−1.5Vの間で変化させている。
【0046】
図3(c)に示す上述の第3の場合は、量子ドット12cがボータイ・アンテナ6cによって電磁波に磁気的に結合する構成で、被測定電磁波の波長範囲が3mm〜10mmのものである。2次元電子系のメサ構造部分の幅、Lc及びMcを0.7μmとし、さらに0.7μm隔たった二カ所に幅0.4μmのくびれ部分56,56を形成している。
ボータイ・アンテナ6cの一方の羽は3分割されてゲート電極32c,34c,36cが形成されている。そのうちのゲート電極36cは、ボータイ・アンテナ6cの他方の羽のゲート電極30cに幅0.2μmの橋で短絡されている。
【0047】
ゲート電極32cとゲート電極34cを負電圧にバイアスすることによって、くびれ部分56,56とゲート電極32c,34cとで挟まれた0.8μm角程度の領域の内側に2次元電子系が閉じ込められて、有効直径が0.4μm〜0.6μmの量子ドット12cが形成されている。
ゲート電極36cが制御ゲート電極として働き、量子ドットによる単一電子トランジスタが形成される。制御ゲート電極のバイアス電圧VCGは、量子ドット中の電子濃度に大きな変化を与えないよう、+0.1Vから−0.1Vの間で変化させている。
【0048】
次に、本発明のミリ波・遠赤外光検出器の作用について説明する。実施の形態の詳細及び作用は上述した第1、第2及び第3の各場合により異なる。
図3(a)に示す第1の場合の作用について説明する。
第1の場合、量子ドットはサイズが小さく、10個から50個程度の伝導電子しか含まれていないために、電子準位がサイズ効果及び交換相互作用によって離散的エネルギー準位εn に分裂する。
【0049】
先ず、フェルミ準位近傍でのエネルギー分裂、Δεnm=εn −εm 、が被測定ミリ波・遠赤外光に対して次の共鳴条件を満たすように制御ゲート電圧VCGを調節する。
【0050】
ω=2πΔεnm/h ・・・(1)
【0051】
但し、(1)式においてωは被測定ミリ波・遠赤外光の角振動数、hはプランク定数である。概ね、εnmは量子ドット有効直径の二乗に反比例し、例えば被測定ミリ波・遠赤外光の波長0.5mmに対してVCG=−3V〜−2V(量子ドット有効直径約0.02μm)、被測定ミリ波・遠赤外光の波長10mmに対してVCG=−0.5V〜−0.2V(量子ドット有効直径0.2μm)となる。
【0052】
次に、SETを伝導度ピークの状態に置く。つまり、図2の二つのオーミック電極間にソース・ドレイン電圧VSD(100μV以下)を印加しても通常はクーロン閉塞が生じていてソース・ドレイン電極間に電流ISDが流れないが、図3(a)の制御ゲート電極36aのバイアス電圧VCGを微小に変化させると、VCGの値が3mV〜20mV変化するたびに有限のISDが鋭いピークをもって現れるクーロン振動が生じる。
【0053】
CGを微調してISDの一つのピーク位置に合わせて固定する。この時の微小なVCGの調整は上述の共鳴条件(1)式に実質上影響を与えない。このクーロン振動のピーク状態で被測定ミリ波・遠赤外光を入射させると、入射したミリ波・遠赤外光はボータイ・アンテナによって、量子ドット部分に振動電場を作り、電子の共鳴励起εn →εm を起こす。
【0054】
励起状態は一般に基底状態に比べて電子波動関数の空間対称性が異なるので、量子ドットのトンネル結合強度及び電気化学ポテンシャルがともに変化し、SETの伝導度Gに10%〜90%程度の大きな変化が生ずる。
この伝導度の変化は、励起がフォノン放出により消滅するまでの概ね10n秒〜1μ秒保持され、それが高速の電流増幅器によって測定される。
【0055】
次に、図3(b)に示す第2の場合の作用について説明する。
図4は磁場下での量子ドット内部でのミリ波・遠赤外単一光子吸収による準位間の電子励起を示す電気的遷移の概念図であり、(a)はランダウ準位間の電子励起、(b)は励起された電子及び正孔の安定状態への緩和、(c)は量子ドット内の分極、(d)は静電ポテンシャルの変化ΔU及び電気化学ポテンシャルの変化Δμ0 ↑を示す図である。
【0056】
なお、図4中、0及び1は電子のエネルギー準位を示し、↑はアップスピン、↓はダウンスピンを示す。
【0057】
この第2の場合は、量子ドットはサイズが大きく、200個から400個の伝導電子を含むために電子準位に対するサイズ効果Δεnmは小さいが、図4(a)に示すように磁場印加によってエネルギー構造が間隔(h/2π)ωC ≒(h/2π)eB/m*のランダウ準位に分裂する。
【0058】
ここで、ωC は、フェルミ準位近傍でのエネルギー分裂が被測定ミリ波・遠赤外光に対して共鳴条件を満たしたときの角振動数、eは電気素量で1.6x10-19 クーロン、Bは磁束密度、m*は有効質量で0.068m、mは電子の質量を示す。
【0059】
この第2の構成の場合、先ず被測定ミリ波・遠赤外光の角振動数ωが、次のプラズマ振動の影響を含めた共鳴条件を満たすように磁場を印加する。
【0060】
ω=[ωP 2 +(ωC /2)21/2 +(ωC /2) ・・・(2)
【0061】
ここで、ωP は量子ドットのプラズマ角振動数であり、プラズマ波長λP =2πc/ωP で表すと、図3(b)の量子ドットに対しては、約0.43mmである。
なお、cは真空中の光の速さを示す。
【0062】
式(2)を具体的に満たす磁場は、被測定波長0.1mmに対して概ねB=6T〜7T、被測定波長0.4mmに対してB=1T〜1.5Tとなる。なお、Tは磁束密度の単位記号でテスラを示す。
【0063】
次に、上述した第1の場合と同じ要領で、SETをクーロン振動のピーク状態におき、被測定ミリ波・遠赤外光を入射させる。入射したミリ波・遠赤外光はボータイ・アンテナによって量子ドット部分に振動電場を作り、図4(a)中の矢印で示すようにランダウ準位間に電子の共鳴励起、すなわちマグネトプラズマ共鳴を起こす。
【0064】
励起された電子(図4(a)中の黒丸)と正孔(図4(a)中の白丸)は図4(b)に示すようにそれぞれ余剰のエネルギーを格子系へ失うことによって10n秒程度の時間内に緩和する。
その際、図4(c)に示すように、量子ドットを形成する静電ポテンシャルの影響で電子及び正孔がそれぞれ量子ドットの内部と外部へ移動し、空間的に分離されるために量子ドット内部に環状の分極が生ずる。
【0065】
そのために量子ドットの最外殻の電子準位の電気化学ポテンシャルが、分極による静電ポテンシャル変化分、ΔU=30〜60μeV、変化する。
その結果、SETの動作は伝導ピーク、すなわち伝導度Gが最大の状態からクーロン閉塞の状態、すなわちG≒0、に変化する。
伝導遮断の状態は量子ドット内で電子及び正孔が再結合するまで持続するが、その再結合寿命は電子−正孔間の空間的隔たりのために長く、容易に単一光子吸収の検出を行うことができる。
【0066】
この際、制御ゲート電圧VCG及び裏面ゲート(図1及び図3)のバイアス電圧により量子ドット中の平均電子濃度Nd を調節してドット中のランダウ準位の占有指数νを偶数近傍、例えばν=2.4〜1.9、4.6〜4.0及び6.6〜6.0等にすることで、特別に長寿命の状態を実現することができる。
ここでランダウ準位の占有指数νは次の(3)式で表せる。
【0067】
ν=Nd /(2πeB/h) ・・・(3)
【0068】
次に、図3(c)で示す第3の場合の作用について説明する。
図5は磁場下での量子ドット内部でのミリ波・遠赤外単一光子吸収による準位間の電子励起を示す磁気的遷移の概念図であり、(a)はスピン状態間の電子励起、(b)は励起された電子及び正孔の安定状態への緩和、(c)は量子ドット内の分極、(d)は静電ポテンシャルの変化ΔUを示す図である。
【0069】
この第3の場合は量子ドットが第2の場合の構造と同様に、サイズ効果は小さく、磁場印加によってランダウ準位への分裂に加えて、図5(a)に示すようにスピン状態による磁気的エネルギー分離、ΔεM =g*μB B、が生じている。
ここで、g*は有効g因子、μB はボーア磁子を示す。
【0070】
先ず、被測定ミリ波・遠赤外光の角周波数ωに対して次の共鳴条件を満たすように磁場を印加する。
【0071】
ω=2πΔεM /h ・・・(4)
【0072】
有効g因子は約g*=0.44である。
【0073】
次に、上述した第1の場合と同じ要領でSETをクーロン振動のピーク状態におき、被測定ミリ波・遠赤外光を入射させる。
入射したミリ波・遠赤外光はボータイ・アンテナの短絡された結節点に振動電流を生起し、量子ドット部分に振動磁場を作る。その結果、図5(a)中の矢印で示すように、電子の磁気共鳴励起を起こす。
【0074】
励起された電子及び正孔は図5(b)に示すように、それぞれ余剰のエネルギーを格子系へ失うことによって10n秒程度の時間内に緩和する。
その際、図5(c)に示すように、量子ドットを形成する静電ポテンシャルの影響で電子及び正孔がそれぞれ量子ドット内部で空間的に分離し、量子ドット内部に環状の分極が生ずる。
【0075】
そのために量子ドットの最外殻の電子準位の電気化学ポテンシャルが、分極による静電ポテンシャル変化分、ΔU=10〜50μeV、変化する。
その結果、SETの動作は伝導ピーク、すなわち伝導度Gが最大の状態からクーロン閉塞の状態、すなわちG≒0、に変化する。
伝導遮断の状態は量子ドット内で電子及び正孔が再結合するまで持続するが、その再結合寿命は、スピン反転の散乱確率が低いために長く、容易に単一光子吸収の検出を行うことができる。
【0076】
次に複数の量子ドットを有する他の好適な実施の形態を説明する。
上述した一つの量子ドットを有する場合では磁場を印加しない限り、励起状態の寿命が1μ秒以下と比較的短い。したがって、単一光子検出を行うためには、ヘリウム温度に冷却したHEMT増幅器とLC回路を組み合わせた電流増幅器を用いるか、又は磁場を印加して励起状態の寿命を1m秒以上にする必要がある。
しかし量子ドットを複数有する他の実施の形態では磁場印加なしに感度をより向上させることができるものである。
【0077】
他の実施の形態に係るミリ波・遠赤外光検出器では、互いに静電的に結合した第1と第2のそれぞれサブミクロンサイズの二つの伝導性量子ドットを構成要素とする。第1の量子ドットが電磁波を吸収し、第2の量子ドットが単一電子トランジスター(SET)として動作し、このSETが第1の量子ドットにおける電磁波吸収を検知するものである。
【0078】
以下、動作原理を図6の概念図を参照して説明する。
図6は他の実施形態の動作原理を示す概念図であり、電子系内に二つの隣接する量子ドットが形成されたエネルギー構造概念図である。
静電ポテンシャルUaで特徴づけられる第1の量子ドット61として有効的大きさが直径0.02μmから0.3μmの半導体量子ドットを用いると、図6に示すように、印加されたゲート電圧によって定まるエネルギー閾値、すなわちイオン化エネルギーより低い電子状態は量子化され、第1の量子ドット61に束縛された離散的束縛準位59が形成される。
【0079】
一方、エネルギーがその閾値よりも大きな電子準位は、第1の量子ドット61の外部に広がった電子系63の連続的自由準位58を形成する。
このイオン化エネルギーは、第1の量子ドット61を形成するポテンシャル障壁57の高さによって電圧換算で100μVから20mVの値をとる。
このポテンシャル障壁57の高さは第1の量子ドット61のゲート電極に印加するバイアス電圧により制御可能である。
したがって、図6の矢印で示すように、イオン化エネルギー以上の電磁波光子エネルギーを持つミリ波・遠赤外光を照射することによって、第1の量子ドット61中の電子を離散的束縛準位59からポテンシャル障壁57外部の電子系63の連続的自由準位58に励起することができる。なお、図6中、黒丸は励起した電子、白丸は電子の抜けた孔、すなわち正孔を示す。
【0080】
連続的自由準位58に励起される電子は1n秒以内に速やかに第1の量子ドット61のポテンシャル障壁57から外部の電子系63に脱出し、第1の量子ドット61は素電荷+eの分だけ正に帯電、すなわちイオン化する。
一方、ポテンシャル障壁57の外部に脱出した電子は、電子・電子相互作用及び電子・格子相互作用のために10n秒程度以内に余分なエネルギーを失って速やかに電子系63のフェルミ準位に緩和するため、ポテンシャル障壁57に妨げられて第1の量子ドット61に戻ることができない。
したがって、第1の量子ドット61のイオン化状態は長時間、例えば10μ秒から1000秒間保持される。
【0081】
第1の量子ドット61に隣接した第2の量子ドット62は電子を離散的準位に閉じこめた静電ポテンシャルUbを有しSETを形成する。
この第2の量子ドット62は半導体量子ドット又は金属量子ドットのいずれかで形成される。
第2の量子ドット62は第1の量子ドット61に対して電気的導通性を持たないが、ポテンシャル障壁を介して隣接しているために静電的に結合する。
【0082】
そのために第1の量子ドット61の帯電、すなわちイオン化によって第2の量子ドット62の静電ポテンシャルが変化して、その結果SETの伝導度が大きく、例えば20%から99%程度変化する。
このとき伝導度の変化した状態は第1の量子ドット61のイオン化が消滅して中性状態に戻るまでの間保持される。
一方、上述したように、第1の量子ドット61のイオン化状態の寿命は10μ秒から1000秒と長いため、きわめて感度の高い検出器となる。
特に、電流の時間分解測定をとおして単一のミリ波・遠赤外光子を検出することができる。
【0083】
次に、他の実施形態の構成を説明する。
他の実施の形態に係るミリ波・遠赤外光検出器には基本的に二つタイプの好適な実施形態が可能である。他の実施形態においても図1及び図2に示した構造と基本的に同様であるが、他の実施形態においては静電的に分離された二つの量子ドットを有し、ゲート電極を兼ねる双極子アンテナの結節点で形成され、電磁波を吸収する第1の量子ドットと、この第1の量子ドットの電磁波吸収を検出しSETを形成する第2の量子ドットとを有する点が異なる。
【0084】
図7(a)、(b)は他の実施形態に係るミリ波・遠赤外光検出器を示す図であり、(a)はA型構造の平面図、(b)はB型構造の平面図を示す。
いずれの構造においても第1の量子ドットが電磁波に対して双極子アンテナにより電気的に結合する。
【0085】
図7(a)及び(b)を参照すると、他の実施形態に係るミリ波・遠赤外光検出器は、図2(b)に示したのと同様にして、A型構造及びB型構造ともに、変調ドープされたGaAs/Al0.3 Ga0.7 As単一へテロ構造基板上にリソグラフィー技術を用いて作製される。さらにA型構造及びB型構造ともに電子系のヘテロ構造をメサエッチングして対称な所定形状に形成される。
なお、同等の構造をIV族半導体、例えばSi基板上にリソグラフィー技術を用いて同様に作製することも可能である。
【0086】
また双極子アンテナ65a、65bの一方の羽67a、67bと他方の羽68a、68bとは、それぞれ金属リード線69a、69bと金属リード線69a’、69b’とにより、バイアス電圧を印加するために金属パッド71a、71bと金属パッド72a、72bとに接続される。この実施形態では金属リード線及び金属パッドはTiが20nm、Auが150nmの蒸着膜で合金化されて形成される。
【0087】
図7(a)に示すようにA型構造では、電子系メサ構造63aが双極子アンテナ65aの結節点領域70aにくびれを有するように形成され、この結節点領域70aから二つに分かれた対称な電子系メサ構造76a、77aが形成される。電子系メサ構造63aの一端にはオーミック電極66aが形成され、二つに分かれた他端にはオーミック電極81a、82aが形成される。このオーミック電極81aは後述するSET64aのソース電極であり、オーミック電極82aはSET64aのドレイン電極である。
【0088】
双極子アンテナ65aの結節点領域70aに第1の量子ドット61a及び第2の量子ドット62aが形成される。この双極子アンテナ65aは結節点領域70aにて第1の量子ドット61aと電磁波とを結合する。
さらに第1の量子ドット61aは、双極子アンテナ65aの一方の羽が兼ねるゲート電極67aと他方の羽が兼ねるゲート電極68aの先端部がつくる静電ポテンシャル障壁で、量子ドット外部の電子系と隔てられている。
【0089】
第2の量子ドット62aは電子系内にあって第1の量子ドット61aに隣接して形成される。この第2の量子ドット62aは金属リード線73a、74a、75aによりゲート電極78a、79a、80aからバイアス電圧が印加されて形成され、電子系メサ構造76a、77aの電子系に弱くトンネル接合される。
【0090】
この第2の量子ドット62aと、電子系メサ構造76a、77aと、オーミック電極81a、82aとでSET64aが形成される。
なお、金属リード線73a、74a、75aはそれぞれゲート電極78a、79a、80aに接続される。また本実施形態ではオーミック電極66a、81a、82aはAu/Geの合金化により形成される。
さらに電子系メサ構造63a(電子系メサ構造76a、77aも含まれる)及びゲートにバイアス電圧を印加するための金属リード線69a、69a’、73a、74a、75aは、電磁波の吸収を避けるためにそれぞれ幅が5μm以下に形成され、かつ、その長さ方向が双極子アンテナ65aの軸方向に対して直角に形成される。
【0091】
次に図7(b)に示すB型構造のミリ波・遠赤外光検出器は、電子系メサ構造63bのくびれた部分の端が双極子アンテナ65bの結節点領域70bになっており、この結節点領域70bに第1の量子ドット61bが形成される。
ここで、双極子アンテナ65b及び第1の量子ドット61bの構成はA型構造と同様である。
さらに、B型構造のミリ波・遠赤外光検出器における第2の量子ドット62bは、第1の量子ドット61bの上面に設けられた金属膜で形成されており、第1の量子ドット61bと静電的に結合するが電気的導通(トンネル接合)は遮断されている。
この金属膜で形成された第2の量子ドット62bは、ソース電極81bとドレイン電極82bとにそれぞれ接続された金属リード線76bと金属リード線77bとに弱くトンネル接合され、SET64bが形成される。
【0092】
次に、双極子アンテナ、第1の量子ドット及び第2の量子ドットについて詳細に説明する。
図8は双極子アンテナ結節点領域の要部拡大図であり、(a)はA型構造の第2の量子ドットをゲート電極により第1の量子ドットから分離する構造、(b)はA型構造の第1の量子ドットと第2の量子ドットの形成される電子系メサ構造が分離して形成される構造、(c)はB型構造の要部拡大を示す図である。
【0093】
図8(a)を参照して、第1の量子ドット61aは、バイアス電圧の印加によりゲート電極67aの突起部83aとゲート電極68aの突起部84aとの間隙に形成される。
この間隙L1 aは約0.5μmである。電子系メサ構造63aの結節点領域70aの幅Maは0.4μmから0.5μm程度である。
【0094】
第2の量子ドット62aは、ゲート電圧の印加によりゲート電極68aの突起部84aとゲート電極から延びた金属リード線73a、74a、75aの先端部とがつくる間隙に形成され、この間隙L2 aは0.3μmから0.5μmの程度である。
ゲート電極67a、68aは双極子アンテナ65aのそれぞれの羽を兼ねており、電磁波を電気的に第1の量子ドット61aに結合する役割をも果たす。
突起部83aは幅が0.3μm、長さが0.7μm程度で電子系メサ構造の結節点領域70aを横断して形成され、突起部84aは幅が0.1μm、長さが0.3μm程度で結節点領域70aを横断せず、その一部に重なって形成される。
【0095】
これは第1の量子ドット61aと第2の量子ドット62aとの間に十分な大きさの静電容量結合を確保するためである。
但し、ゲート電極68a(突起部84a)への負のバイアス電圧印加によって、第1の量子ドット61aと第2の量子ドット62aとの間の電気的導通(トンネル接合)は遮断されている。
【0096】
本実施形態では、ゲート電極から延びた金属リード線73a、74a、75aの先端部分はそれぞれ0.1μm程度の幅であり、また互いの間の間隙は0.1μm程度に形成される。
【0097】
ゲート電極67aを−0.3Vから−2V程度、ゲート電極68aを−0.7V程度の負電圧にバイアスすることによって、第1の量子ドット61aが形成される。
ゲート電極の金属リード線73a及び金属リード線75aを−0.7V程度、さらに制御ゲート電極の金属リード線74aを−0.3Vから−0.7V程度の負電圧にバイアスすることによって第2の量子ドット62aが形成される。
ここで、ゲート電極67a(突起部83a)のバイアス電圧は、第1の量子ドット61aが電磁波を吸収する際のイオン化エネルギーを決定する。
【0098】
例えば、−0.3Vでイオン化エネルギーは0.2meV程度、閾値検出波長では5mmに対応し、その値は負電圧変化とともに連続的に変化して、−2Vにて30meV程度、閾値検出波長では約30μm程度に達する。
【0099】
第2の量子ドット62aをSET64aとして動作させるために、ゲート電極の金属リード線73aと金属リード線75aのバイアス電圧を微調整して、第2の量子ドット62aを電子系メサ構造76a、77aの電子系に弱くトンネル結合させる。
ゲート電極68a(突起部84a)のバイアス電圧は第1の量子ドット61aと第2の量子ドット62aとの間のトンネル結合が消失する閾値電圧近傍に選び、静電的結合が最大となるようにされる。
【0100】
次に図8(a’)は第2の量子ドット62a’が第1の量子ドット61a’からメサエッチングにより分離して形成され、ゲート電極68a’に突起部が形成されていない点が図8(a)の構造と異なる。
対応する各部位の寸法Ma’、L1 a’、L2 a’及びバイアス電圧等は図8(a)と同様である。なお、図8(a)と対応する部材は同一符号に「ダッシュ」を付して区別した。
この実施形態では第1の量子ドット61a’と第2の量子ドット62a’の間隙は、約0.1μm程度に形成される。
【0101】
次に図8(b)に示すB型構造のミリ波・遠赤外光検出器では、電子系メサ構造63bのくびれた部分の端が結節点領域70bにあって、この領域に第1の量子ドット61bが形成される。この第1の量子ドット61b、その外部の電子系メサ構造63b及びゲート電極67b、68bについては、それぞれ図8(a’)に示した対応する部材と寸法及び形状ともに同一である。
第2の量子ドット62bによるSETは第1の量子ドット61bの上にドーランブリッジ法で作製する。ドーランブリッジ法を示す文献として「T.A.Fulton and G.J.Dolan、Phys.Rev.Lett.59,p.109,1987」を挙げることができる。
【0102】
具体的には、まずアルミニウムの蒸着により、厚さが0.06μm、幅が0.1μm、長さが0.3μmの第2の量子ドット62bを形成した後、その表面を10mTorr程度の酸素ガス雰囲気中で酸化して酸化アルミニウム膜で覆う。
この表面の酸化にあたっては後述する金属リード線76bと金属リード線77b間の常温での電気抵抗が100kΩから400kΩの間に収まるように酸化時間を調節する。
【0103】
次に第1の量子ドット61b上に重ねて、斜め蒸着により金属リード線76b、77bをアルミニウムの蒸着により作製する。この金属リード線76b、77bの厚さは0.06μm、先端部幅は0.1μm程度である。
但し、本実施形態では金属リード線先端部の間隙85bを0.1μmとした。
【0104】
このとき、金属リード線76b、77bの先端部は第2の量子ドット62bと0.05μm程度重なるように形成される。このとき、金属リード線76bはソース電極81bに接続され、金属リード線77bはドレイン電極82bに接続されており、金属リード線76b、77bと第2の量子ドット62bとの間に介在する酸化アルミニウム層がトンネル接合となってSETが形成される。
【0105】
次に、他の実施形態に係るミリ波・遠赤外光検出器の作用を説明する。
図8(a)に示した構造のミリ波・遠赤外光検出器の作用について説明する。 図7(a)及び図8(a)を参照して、先ずゲート電極67a、つまり突起部83aとゲート電極68a、つまり突起部84aとへバイアス電圧を印加して第1の量子ドット61aを形成する。
【0106】
次にその状態でさらにゲート電極78a、79a、80aをバイアス、つまり金属リード線73a、74a、75aにバイアス電圧を印加して第2の量子ドット62aを形成し、第2の量子ドット62aがSETとして動作する。
つまり、電子系メサ構造76aと電子系メサ構造77aとの間にVSD=100μV以下のソース・ドレイン電圧を印加して流れる電流を測る。双極子アンテナ65aに電磁波の入射がないときにSETの伝導度が最大となるように制御ゲート電極79a、つまり金属リード線74aのバイアス電圧を微調する。さらに電子系メサ構造63aの電位と電子系メサ構造76aとを同電位に保つ。
【0107】
双極子アンテナ65aで捕らえられた電磁波が第1の量子ドット61aで吸収されることにより、第1の量子ドット61aが+eにイオン化し、第2の量子ドット62aの静電ポテンシャルが変化してSETの伝導度が大きく減少する。それを電流増幅器で検知することにより電磁波光子一つの吸収を検出することができる。なお、イオン化により第1の量子ドット61aから外部の電子系メサ構造63aの電子系に脱出した電子は、そこで吸収される。
【0108】
次に図8(a’)に示した構造のミリ波・遠赤外光検出器の作用について説明する。
図7(a)及び図8(a’)を参照して、先ず、第1の量子ドット61a’をゲート電極67a’、つまり突起部83a’へのバイアス電圧印加により形成する。さらにゲート電極68a’は電子系メサ構造63a’と同電位とする。
次にその状態でさらにゲート電極78a’、79a’、80a’をバイアス、つまり金属リード線73a’、74a’、75a’にバイアス電圧を印加して第2の量子ドット62a’を形成し、第2の量子ドット62a’がSETとして動作する。その他は図8(a)の構造と同様の作用をする。
【0109】
最後に、図8(b)に示した構造のミリ波・遠赤外光検出器の作用について説明する。
第1の量子ドット61bの形成については図8(a’)に示した構造での第1の量子ドット61a’の形成と同様である。
第2の量子ドット62bは既にSETとして第1の量子ドット61b上に形成されている。図7(b)及び図8(b)を参照して、ソース電極81b、つまり金属リード線76bとドレイン電極82b、つまり金属リード線77bとの間にVSD=100μV以下のソース・ドレイン電圧を印加して流れる電流を測る。
【0110】
但し、電子系メサ構造63bとゲート電極68bを同電位とし、その電位をアルミニウムで形成された金属リード線76bに対して±1mV以内で微妙に調節することによって、電磁波入射がないときのSETの伝導度を最大にする。
【0111】
第1の量子ドット61bが電磁波を吸収して+eにイオン化すると、第2の量子ドット62bの静電ポテンシャルが変化して上述したようにSETの伝導度が大きく減少する。それを電流増幅器で検知することにより電磁波光子一つの吸収を検出することができる。なお、イオン化により第1の量子ドット61bから外部の電子系メサ構造63bの電子系に脱出した電子は、そこで吸収される。
【0112】
以上示した3種類の構造において、電磁波吸収によって励起する正孔と電子とがそれぞれ第1の量子ドットの内部と外部に分離して生ずるため、磁場を印加することなく極めて長時間の励起状態、すなわちイオン化寿命を実現できる。この第1の量子ドット61a、61a’、61bのイオン化状態の寿命は10μ秒以上であり、きわめて容易に電磁波単一光子の検出を行うことができる。
したがって、他の実施形態に係るミリ波・遠赤外光検出器では、さらに感度が高くなり、かつ、より高温で動作する検出器を磁場の印加なしで実現できる。
【0113】
さらに離散準位間の励起を利用する場合、電磁波の検出に波長選択性が生じるが、この他の実施形態では離散準位から連続帯準位への励起を利用するために閾値、すなわちイオン化エネルギー以上のエネルギーを持つ連続的な波長帯域で検出可能な感度を有することができる。
【0114】
また、動作温度は、SETを形成する第2の量子ドット62a、62a’、62bの帯電エネルギーで上限が決まり、図8(b)の構造では約1Kまで、図8(a’)の構造では約1.3Kまで、図8(a)の構造では約2Kまでとなる。したがって、第2の量子ドットを微小にすることにより動作温度を最高2Kまでに上昇させることができる。
【0115】
さらに、イオン化エネルギーが第1の量子ドットのゲート電圧によるポテンシャル障壁高さの調節を通して直接的に制御可能であるので、イオン化エネルギーの制御、つまり検出の閾値波長を制御することができる。
したがって、検出可能電磁波の長波長限界はすべての構造において第1の量子ドットを形成するゲート電極67a、67a’、67bのバイアス電圧で決めることができる。
【0116】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から除外するものではない。
【実施例】
【0117】
次に、本発明のミリ波・遠赤外単一光子検出器を、上述した第2の場合の使用条件下で用いた実際の単一光子検出の測定結果を、図9、図10、図11及び図12を参照して説明する。
図9〜図12は2次元電子移動度が80m2 /Vs、電子濃度が2.3x1015/m2 のGaAs/Al0.3 Ga0.7 Asヘテロ構造結晶を用いて、図3(b)の形状・サイズに作成したミリ波・遠赤外単一光子検出器の測定例を示す。
【0118】
図9及び図10は、測定温度0.07K、VSD=25μV、VCG=0V、B=3.67Tの条件下で、量子ホール効果素子からの極めて微弱な遠赤外発光、すなわち波長が0.19mm、発光素子の電流がIemit=4μAのときボータイ・アンテナ位置でのパワーが約10-18 Wの遠赤外光を入射させたときのSET伝導度の測定例である。但し、測定の時定数は3m秒である。
【0119】
図9(a)〜(c)はSET伝導度の制御ゲート電圧VCGに対する依存性を示しており、遠赤外光の照射がない時のVCG=−0.6881V近傍の鋭いクーロン振動のピーク(図9(a))が極端に微弱な遠赤外光の照射によって乱され(図9(b))、光強度が増すに従って励起状態に対応したVCG=−0.6886V近傍のピークへ移行する。
【0120】
図10(d)〜(f)は、制御ゲート電圧VCGを照射無しのピーク位置、VCG=−0.6881V、に固定した時の伝導度Gの時間変化である。単一光子の吸収が起こるたびに伝導遮断の状態にスイッチングし、遠赤外光強度の増大によってスイッチングの頻度(光子の飛来頻度)が増大することを示す。
【0121】
図11は、励起状態の寿命が強い磁場依存性を示し、磁場Bが3.8Tのときν=2の近傍で最大値を取り、その値が1000秒のオーダーに達することを示す。
磁場依存性の細部の構造は上位のランダウ準位に存在する電子数が磁場変化によって一つづつ変化することによって起こる。
図12は図9及び図10と同様な条件下で温度を0.37Kまで上昇させても単一光子の検出が可能なことを示す。
【0122】
この実施例のミリ波・遠赤外単一光子検出器は、半導体量子ドット内の電子準位間の共鳴励起を単一電子トランジスタの増幅作用を通して測定する。
このため、100秒間に1個程度の極端に微弱な光子束を検出することができる。100秒の測定時間を考えると、この感度はNEP=10-23 W/Hz1/2 に対応し、従来の最高感度の検出器に比べて一千万倍程度優れている。
また、感度を失うことなく、3n秒程度の時定数で高速の測定を行うことができる。
【0123】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から除外するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】集光系を含めたこの発明に係るミリ波・遠赤外光検出器の概略構成断面図である。
【図2】本発明に係るミリ波・遠赤外光検出器を示す図であり、(a)はボータイ・アンテナと量子ドットによる単一電子トランジスタの平面図、(b)はメサ構造部の一部概略断面図である。
【図3】本発明に係るボータイ・アンテナの結節点領域での平面構造を示す概略図であり、(a)は磁場無印加で使用し、波長0.5〜10mmのミリ波・遠赤外光検出器に用いるもの、(b)は1〜7Tの磁場下で使用し、波長0.1〜0.4mmのミリ波・遠赤外光検出器に用いるもの、(c)は1〜13Tの磁場下で使用し、波長0.35〜10mmのミリ波・遠赤外光検出器で使用するものを示す図である。
【図4】本発明における磁場下での量子ドット内部でのミリ波・遠赤外単一光子吸収による準位間の電子励起を示す電気的遷移の概念図であり、(a)は電気的遷移(magnetoplasma resonance)によるランダウ準位間の励起、(b)は励起された電子及び正孔の安定状態への緩和、(c)は量子ドット内の分極、(d)は静電ポテンシャルの変化ΔU及び電気化学ポテンシャルの変化Δμ0↑を示す図である。
【図5】本発明における磁場下での量子ドット内部でのミリ波・遠赤外単一光子吸収による準位間の電子励起を示す磁気的遷移の概念図であり、(a)は磁気的遷移(magnetic resonance)によるスピン状態間の励起、(b)は励起された電子及び正孔の安定状態への緩和、(c)は量子ドット内の分極、(d)は静電ポテンシャルの変化ΔUを示す図である。
【図6】本発明に係る他の実施形態の動作原理を示す概念図である。
【図7】他の実施形態に係るミリ波・遠赤外光検出器を示す図であり、(a)はA型構造の平面図、(b)はB型構造の平面図を示す。
【図8】本発明に係る双極子アンテナ結節点領域の要部拡大図であり、(a)はA型構造の第2の量子ドットをゲート電極により第1の量子ドットから分離する構造、(a’)はA型構造の第1の量子ドットと第2の量子ドットの形成される電子系メサ構造が分離して形成される構造、(b)はB型構造の要部拡大を示す図である。
【図9】本発明におけるミリ波・遠赤外単一検出の測定例を示す図であり、(a)は遠赤外光の照射がないとき、(b)は発光素子の電流が2μAのとき、(c)は発光素子の電流が3.5μAのとき、のSET伝導度の制御ゲート電圧に対する依存性を示す図である。
【図10】本発明におけるミリ波・遠赤外単一検出の測定例を示す図であり、単一光子吸収によって起こるSET動作のスイッチングを示す。(d)は発光素子の電流が2μA、(e)は発光素子の電流が3μA、(f)は発光素子の電流が4μAのときである。さらに(g)は励起された状態確率の発光素子電流に対する依存性を示す。
【図11】本発明におけるミリ波・遠赤外単一検出の測定例を示す図であり、励起状態の寿命の磁場強度依存性を示す。
【図12】本発明におけるミリ波・遠赤外単一検出の測定例を示す図であり、単一光子吸収によって起こるSET動作のスイッチングの温度依存性を示す。
【符号の説明】
【0125】
1 ミリ波・遠赤外光導入部
2 ミリ波・遠赤外光
3 光導入管
4 半導体基板
6,6a,6b,6c ボータイ・アンテナ
7 パッケージ
8 裏面ゲート電極
9 誘電体対物レンズ
10 ミリ波・遠赤外光検出器
12 量子ドット
14 単一電子トランジスタ
16,17 オーミック電極
30a,32a,34a,36a ゲート電極
30b,32b,34b,36b ゲート電極
30c,32c,34c,36c ゲート電極
31,33,35,37 リード部分
41,43,45,47 金属パッド部分
57 ポテンシャル障壁
58 連続的自由準位
59 離散的束縛準位
61,61a,61a’,61b 第1の量子ドット
62,62a,62a’,62b 第2の量子ドット
63 電子系
63a,63a’,63b 電子系メサ構造
76a,77a,76a’,77a’ 電子系メサ構造
64a,64b SET
65a,65a’,65b 双極子アンテナ
67a,67a’,67b ゲート電極
68a,68a’,68b ゲート電極
69a,69a’,69b,69b’ 金属リード線
70a,70b 結節点領域
72a,72b 金属パッド
73a,74a,75a 金属リード線
73a’,74a’,75a’ 金属リード線
78a,79a,80a ゲート電極
81a,81b ソース電極(オーミック電極)
82a,82b ドレイン電極(オーミック電極)
83a,83a’,83b,84a 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波をサブミクロンサイズの微少空間領域に集中する電磁波結合手段と、この集中した電磁波を吸収してイオン化を起こす第1の量子ドットと、この第1の量子ドットに静電的に結合した第2の量子ドットを含む単一電子トランジスタとを備え、
上記単一電子トランジスタは、2次元電子系を形成する単一へテロ構造と、この2次元電子系内にトンネル結合する上記量子ドットの静電ポテンシャルを制御するゲート電極と、上記量子ドットとトンネル結合するソース電極及びドレイン電極と、を有し、
上記第1の量子ドットのイオン化に伴う上記第2の量子ドットの静電的状態の変化によって上記単一電子トランジスタの電気伝導度が変化することに基づいて上記電磁波を検出することを特徴とする、ミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項2】
前記第1の量子ドットのイオン化が、前記第1の量子ドットの量子化束縛状態の電子を、第1の量子ドット外部の電子系の自由電子状態に励起することによって生ずることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項3】
前記第1の量子ドットのイオン化エネルギーが、前記第1の量子ドットのゲートに印加するバイアス電圧の大きさによって制御可能であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項4】
前記第1の量子ドット及び前記第2の量子ドットが、同一の半導体構造基板上にあって、それぞれのゲートに印加するバイアス電圧によって静電的に分離して形成されたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項5】
前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットとを半導体中にあって間隙を介して隣接して形成したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項6】
前記第2の量子ドットが、前記第1の量子ドットの上に形成した金属ドットであって、この金属ドットに形成した金属リード線とトンネル接合して前記単一電子トランジスタを形成したことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項7】
前記第2の量子ドットがアルミニウム金属ドットであり、トンネル接合する部分を酸化アルミニウムとしたことを特徴とする、請求項6に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項8】
前記電磁波結合手段が、前記第1の量子ドットと前記電磁波とを電気的に結合するアンテナであることを特徴とする、請求項7に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項9】
前記電磁波結合手段が、前記第1の量子ドット及び前記第2の量子ドットを形成するバイアス電圧印加のためのゲートを兼ねていることを特徴とする、請求項8に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項10】
前記電磁波結合手段のリード部分の長さ方向を、この電磁波結合手段の分極軸方向に垂直に形成していることを特徴とする、請求項1,8,9のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項11】
前記電磁波結合手段の結節点の大きさと前記量子ドットの最大の大きさとが同程度であることを特徴とする、請求項1,8,9のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項12】
前記電磁波結合手段の電極差し渡し長さが前記電磁波の波長の約1/2であることを特徴とする、請求項1,8,9のいずれかに記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項13】
前記単一電子トランジスタのソース電極とドレイン電極との距離が、前記電磁波結合手段の分極軸方向の長さ以上であることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項14】
前記単一電子トランジスタが、化合物半導体であることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項15】
前記単一電子トランジスタが、III−V族化合物半導体であることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項16】
前記単一電子トランジスタが、III−V族化合物半導体超格子の選択ドープ単一ヘテロ構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項17】
前記単一電子トランジスタが、アルミニウムガリウム砒素/ガリウム砒素の選択ドープ単一ヘテロ構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項18】
前記単一電子トランジスタが、IV族半導体であることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項19】
前記単一電子トランジスタを前記量子ドットに対して対称に形成していることを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。
【請求項20】
前記構成に加え、前記電磁波結合手段に電磁波を導く光導入部を備えたことを特徴とする、請求項1に記載のミリ波・遠赤外光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−53736(P2008−53736A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220418(P2007−220418)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【分割の表示】特願平11−334196の分割
【原出願日】平成11年11月25日(1999.11.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】