説明

メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】十分な触媒活性を有し、メタクロレイン及びメタクリルの選択性、収率の優れた触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】
イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを酸素を用いて気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
該触媒成分の原料化合物と水を含む混合溶液又はスラリーを調製する工程、
該混合溶液又はスラリーの含水率が20〜50質量%になるまで濃縮する工程、
前記混合溶液又はスラリーに、濃縮前、濃縮中又は濃縮後のいずれかに有機バインダーを添加する工程、及び
前記有機バインダーの添加された濃縮物を成型して成型体を得る工程、
を有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブチレン又は第三級ブチルアルコール(以下、TBAと略記する。)を分子状酸素を用いて気相接触酸化することにより、それぞれに対応するメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に使用する触媒の製造方法、並びに該方法により製造された触媒を用いたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イソブチレン又はTBAを気相接触酸化してメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒及びそれら触媒の製造方法については数多くの提案がなされている。
【0003】
特許文献1及び2には、触媒性能を向上させるために触媒細孔を制御することを目的として、触媒調製時にアニリン、メチルアミン、ペンタエリトリット等の有機化合物を添加する方法が開示されている。これらの方法は、触媒を熱処理するときに添加した有機化合物が除去されるために、使用する有機化合物のサイズを変えることにより触媒細孔径を自由に制御できる利点がある。
【0004】
また、特許文献3には、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又は水性スラリーを、スプレー乾燥機を用いて平均粒子径1〜250μmの中空状球状粒子に乾燥した後、焼成し、得られた球状粒子焼成粉に水及びアルコールのうち少なくとも一方を添加し押出し成型した後、乾燥及び熱処理、又は熱処理することを特徴とするメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−98143号公報
【特許文献2】特開平3−109946号公報
【特許文献3】特開平9−122491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら公知の方法で得られる触媒は、必ずしも触媒活性、目的生成物の選択性など工業触媒としては十分でなく、更なる改良が望まれている。また、一方ではこれら公知の方法は工程が煩雑で触媒製造工場での初期設備投資が多大となり、人的負荷も大きいため触媒製造コストも高く、生産性が低いのが現状であり、工程の短縮化、触媒の生産性の向上が望まれている。
【0007】
本発明は、これら課題を鑑みて、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用の触媒として十分な触媒活性を有し、メタクロレイン及びメタクリルの選択性、収率の優れた触媒の製造方法及びその触媒を用いたメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、
イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを、分子状酸素を用いて気相接触酸化して、メタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
該触媒成分の原料化合物と水を含む混合溶液又はスラリーを調製する工程、
該混合溶液又はスラリーの含水率が20〜50質量%になるまで濃縮する工程、
前記混合溶液又はスラリーに、濃縮前、濃縮中又は濃縮後のいずれかに有機バインダーを添加する工程、及び
前記有機バインダーの添加された濃縮物を成型して成型体を得る工程、を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記有機バインダーがセルロース誘導体、水溶性又は水分散性を有する合成高分子化合物、αグルカン及びβグルカンからなる群から選択された1種類以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒は、前記メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法により得られることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法は、前記メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の存在下で、イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを、分子状酸素を用いて気相接触酸化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メタクロレイン及びメタクリル酸製造において高い触媒活性を示し、メタクロレイン及びメタクリル酸の選択率、収率の高い触媒の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、触媒製造工程を簡略化した生産効率の良い触媒製造方法について鋭意研究を重ねた結果、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーの濃縮時の含水率と添加する有機バインダーを制御することで、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーを乾燥させることなく成型する技術を見出した。さらに、その成型方法で得た成型体は触媒反応において有効な細孔構造を有しており、触媒性能を十分満足させたまま、触媒製造工程を簡略化した生産効率の良い触媒製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明に係るメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、
イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを、分子状酸素を用いて気相接触酸化して、メタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
該触媒成分の原料化合物と水を含む混合溶液又はスラリーを調製する工程、
該混合溶液又はスラリーの含水率が20〜50質量%になるまで濃縮する工程、
前記混合溶液又はスラリーに、濃縮前、濃縮中又は濃縮後のいずれかに有機バインダーを添加する工程、及び
前記有機バインダーの添加された濃縮物を成型して成型体を得る工程、
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の方法により製造される触媒は、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むものである。触媒成分としては、モリブデン及びビスマスの他に、例えば、鉄、ケイ素、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム等を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の方法により製造される触媒は、下記式(1)で表される組成を有するものが好ましい。
MoaBibFecdefgSihi (1)
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Si及びOは、それぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を表し、Aは、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Xは、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Yは、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Zは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0017】
以上のようなメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒は、以下の方法により好適に製造できる。
【0018】
まず、メタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の原料化合物を水に溶解又は懸濁させ、触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーを調製する。触媒成分の原料化合物を含む混合溶液又はスラリーの調製方法は、特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法が挙げられる。
【0019】
触媒成分の原料化合物としては、触媒成分を構成する各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物、有機酸塩、アルカリ金属塩等を使用することができる。例えば、モリブデン原料としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。ビスマスの原料化合物としては、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、酢酸ビスマス、水酸化ビスマス等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記触媒成分の原料化合物を溶解又は分散させる溶媒には水を用いるが、水にエチルアルコール、アセトン等を添加した溶媒を用いてもよい。
【0021】
また、本発明では、混合溶液又はスラリーに有機バインダーを添加する。混合溶液又はスラリーに添加する有機バインダーは特に限定されず、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール等の水溶性又は水分散性を有する合成高分子化合物;デキストリン、シクロデキルトリン、プルラン等のαグルカン;カードラン、「ビオポリー」(商品名、キリンフードテック(株)製)、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等のβグルカンなどを挙げることができる。この中でも、混練物のハンドリング性や乾燥物の強度が強く酸化反応に有効な細孔を形成しやすい理由から、メチルセルロース、プルラン、「ビオポリー」が好ましい。混合溶液又はスラリーに添加する有機バインダーの種類は、1種類でもよく、2種類以上を適宜組み合わせてもよい。
【0022】
混合溶液又はスラリーに添加する有機バインダーの量は、原料として用いた各触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜15質量部がより好ましく、0.8〜10質量部がさらに好ましい。
【0023】
混合溶液又はスラリーに有機バインダーを添加するタイミングは特に限定されず、例えば、濃縮前の混合溶液又はスラリーに添加する方法、濃縮の途中に添加する方法、濃縮終了後に添加する方法等が挙げられる。しかし、濃縮前に添加する方法が、混合溶液又はスラリーの装置への付着が低減し、取り扱い性が向上するという観点から好ましい。
【0024】
有機バインダーの添加方法は特に限定されず、混合溶液又はスラリー中に直接添加し溶解又は分散させる方法や、溶媒に溶解又は分散させて添加する方法等が挙げられる。溶媒に溶解又は分散させる方法は特に限定されず、高温の溶媒にバインダーを分散させ低温にして溶解する方法や、逆に低温の溶媒にバインダーを分散させ高温にして溶解する方法等が挙げられる。
【0025】
また、本発明では、混合溶液又はスラリーを所定の含水率となるまで濃縮する。濃縮する方法は特に限定されず、例えば、触媒混合調製釜をそのまま用いて濃縮する方法、万能混合撹拌機を用いる方法、加熱機構が付いた混練機を用いる方法などが挙げられる。濃縮は加熱により行われるが、加熱方法も特に限定されず、蒸気又は温水による加熱や電気ヒーターなどの加熱機器が使用できる。濃縮割合は混合溶液又はスラリーの含水率が20〜50質量%まで濃縮させる。好ましくは含水率が25〜45質量%の範囲である。濃縮割合が上記範囲以外であると後述する成型工程で成型体を得ることが困難となる。含水率が20質量%未満であると乾燥が進みすぎて濃縮物がパサパサの状態となり、成型工程で形状の整った成型体を得ることが難しい。逆に含水率が50質量%より多い場合は混合溶液又はスラリーの粘度が低すぎ、成型工程で形状の整った成型体を得ることが困難となる。なお、含水率は、赤外線水分計により、乾燥減量法で求めた。また、加熱濃縮する際のジャケット温度としては、90〜130℃で行うことが好ましい。また、濃縮前の混合溶液又はスラリーの含水率は、通常、約60質量%である。
【0026】
次いで、有機バインダーの添加された濃縮物を成型する。成型方法は特に限定されず、例えば、公知の押出成型、担持成型、転動造粒等の方法が挙げられる。中でも、濃縮物をそのまま利用できる観点から、押出成型が好ましい。成型体の形状は特に限定されず、例えば、リング状、円柱状、星型、球状等の任意の形状に成型できる。また、賦型補強剤として、珪藻土、シリカゾル、シリカゲル、ベントナイト、カオリン等を添加することもでき、ガラス繊維、アスベスト、セラミック繊維、カーボン繊維等をさらに添加することもできる。
【0027】
次に、この成型体は、必要に応じて乾燥させた後、次いで熱処理する。このときの乾燥条件及び熱処理条件については特に限定はなく、公知の処理条件を適用することができる。通常、乾燥は60〜150℃の温度で1〜24時間行い、熱処理は200〜600℃、好ましくは300〜550℃の温度で1〜24時間行うことができる。なお、乾燥を省略して熱処理を行ってもよい。
【0028】
次に、本発明のメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法について説明する。本発明のメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法は、本発明の製造方法により製造された触媒の存在下で、イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを分子上酸素で気相接触酸化して目的物を製造するものである。
【0029】
気相接触酸化反応は、固定床で行うことが好ましい。その場合の触媒層は、特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも異なる2種類以上の層を含む複数層であってもよい。
【0030】
反応には、反応原料としてのイソブチレン又は第三級ブチルアルコールと、分子状酸素とを少なくとも含む原料ガスを用いる。原料ガス中の反応原料の濃度は、特に限定されないが、1〜20容量%が好ましい。反応原料は一種を用いても、二種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。原料ガス中の反応原料と酸素のモル比(容量比)は1:0.5〜1:3の範囲が好ましい。原料ガスは、反応原料と分子状酸素以外に、水を含んでいることが好ましい。原料ガス中の水の濃度は、1〜45容量%が好ましい。また、原料ガスは窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。
【0032】
反応圧力は大気圧から200kPaまでが好ましい。反応温度は200〜450℃が好ましく、250〜400℃がより好ましい。接触時間は1.5〜15秒が好ましく、2〜10秒がより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0034】
原料ガス及び反応ガスは、ガスクロマトグラフィーにより分析した。また、触媒組成は触媒原料の仕込み量から求めた。実施例及び比較例のイソブチレンの反応率(以下、単に「反応率」ともいう。)、生成するメタクロレイン又はメタクリル酸の選択率、生成するメタクロレイン及びメタクリル酸の合計収率(以下、単に「合計収率」ともいう。)は次式により算出した。なお、実施例では原料がイソブチレンの場合のみ示しているが、第三級ブチルアルコールを原料として用いた場合においても、反応器の入り口部分で速やかにイソブチレンに脱水され、イソブチレンを原料として用いた場合と同様の結果が得られる。
反応率(%) =A/B×100
メタクロレインの選択率(%) =C/A×100
メタクリル酸の選択率(%) =D/A×100
合計収率(%) =(C+D)/B×100
ここで、Aは反応したイソブチレンのモル数、Bは供給したイソブチレンのモル数、Cは生成したメタクロレインのモル数、Dは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0035】
(実施例1)
純水1000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン24.0部及び三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱撹拌した(A液)。別に純水1000部に、硝酸第二鉄209.8部、硝酸ニッケル75.5部、硝酸コバルト446.4部、硝酸鉛23.5部及び85%リン酸5.6部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加えてスラリーとした。
【0036】
以上のようにして得られた、触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して1.0部のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、5.0部の「ビオポリー」(商品名、キリンフードテック(株)製)を粉末で添加した。これを、万能混合撹拌機にて撹拌しながら110℃で加熱し、スラリーの含水率を40質量%になるまで濃縮せしめ、粘土状の濃縮物を得た。なお、含水率は、赤外線水分計で乾燥減量法により求めた値である。
【0037】
得られた粘土状の濃縮物を、ピストン式押出し成型機を用いて成型し、外径5mm、平均長さ5mmのペレット状の成型体を得た。ピストン式押出し成型時の成型性は極めて良好であった。この成型体を60℃で16時間乾燥し、次いで空気流通下に520℃で4時間熱処理して、触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素組成(以下同じ)は、次の通りであった。
Mo120.2 Bi0.6 Fe2.2 Sb0.7 Ni1.1 Co6.5 Pb0.30.2 Cs0.5
この触媒をステンレス製反応管に充填し、イソブチレン5%、酸素12%、水蒸気10%及び窒素73%(容量%)の原料ガスを大気圧下(触媒層出口部の圧力)で接触時間3.6秒にて触媒層を通過させ、340℃で反応させた。その結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して3.0部のプルランと、3.0部の「ビオポリー」を粉末で添加し、スラリーの含水率を32質量%まで濃縮せしめた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。ピストン式押出し成型時の成型性は極めて良好であり、得られた触媒を実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例3)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して1.0部のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、9.0部の「ビオポリー」を粉末で添加し、スラリーの含水率を49質量%まで濃縮せしめた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。ピストン式押出し成型時の成型性は比較的良好で、若干成型体が軟らかいものの製造上問題ない程度であった。得られた触媒を実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例4)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して3.0部の「ビオポリー」を粉末で添加し、スラリーの含水率を28質量%まで濃縮せしめた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。ピストン式押出し成型時の成型性は良好で、若干成型体が硬く成型圧力も高かったが、製造上問題ない程度であった。得られた触媒を実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーを含水率が40質量%になるまで濃縮せしめた後、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して1.0部のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、5.0部の「ビオポリー」を粉末で添加した以外は実施例1と同様にして触媒を製造した。ピストン式押出し成型時の成型性は極めて良好であり、得られた触媒を実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例6)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して1.0部のポリビニルアルコールと、5.0部の「ビオポリー」を粉末で添加し、スラリーの含水率を40質量%まで濃縮せしめた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。ピストン式押出し成型時の成型性は極めて良好であり、得られた触媒を実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
スラリーの含水率を19質量%まで濃縮せしめた以外は実施例1と同様に触媒を製造した。濃縮物の含水率が低いため、パサパサ感があり、ピストン式押出し成型時の成型圧力が高くなり、成型性が不十分であった。得られた触媒を実施例1と同様にしてイソブチレンの気相接触酸化反応を行ったが、成型圧力が高くなったため有効な細孔が得られず収率が低い結果となった。その結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
触媒成分の原料化合物を含有するスラリーに、該触媒成分の酸化物質量換算合計100質量部に対して5.0部のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、10部の「ビオポリー」を粉末で添加し、スラリーの含水率を55質量%まで濃縮せしめた以外は、実施例1と同様にして触媒を製造した。得られた濃縮物は含水率が高いため、ピストン式押出し成型時に成型体を得ることができなかった。
【0045】
(比較例3)
実施例1と同様の触媒成分の原料化合物を含有するスラリーを、並流式スプレー乾燥機を用い、乾燥機入口温度170℃、スラリー噴霧用回転円盤11000rpmの条件で乾燥した。得られた乾燥粉100部に対して純水40部と、1.0部のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、5.0部の「ビオポリー」を粉末で添加し、混練機で混合、混練して粘土状の混練物を得た(含水率39質量%)以外は実施例1と同様に触媒を得た。ピストン式押出し成型時の成型性は極めて良好で、実施例1と同様にイソブチレンの気相接触酸化反応を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例4)
スラリーに有機バインダーを添加せずに、含水率を30質量%まで濃縮した以外は実施例1と同様に触媒を製造した。しかし、有機バインダーを添加していないため成型体にまとまりが無く、ピストン式押出し成型機で一定寸の成型体を得ることができなかった。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを、分子状酸素を用いて気相接触酸化して、メタクロレイン及びメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン及びビスマスを触媒成分として含むメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
該触媒成分の原料化合物と水を含む混合溶液又はスラリーを調製する工程、
該混合溶液又はスラリーの含水率が20〜50質量%になるまで濃縮する工程、
前記混合溶液又はスラリーに、濃縮前、濃縮中又は濃縮後のいずれかに有機バインダーを添加する工程、及び
前記有機バインダーの添加された濃縮物を成型して成型体を得る工程、
を有することを特徴とするメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記有機バインダーがセルロース誘導体、水溶性又は水分散性を有する合成高分子化合物、αグルカン及びβグルカンからなる群から選択された1種類以上である請求項1に記載のメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の製造方法により得られるメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒。
【請求項4】
請求項3に記載のメタクロレイン及びメタクリル酸製造用触媒の存在下で、イソブチレン又は第三級ブチルアルコールを、分子状酸素を用いて気相接触酸化するメタクロレイン及びメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−158642(P2010−158642A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3685(P2009−3685)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】