説明

メタドキシンとニンニク油を含有するアルコール性脂肪肝並びに脂肪肝性肝炎の予防及び治療用薬学組成物

メタドキシン(ピリドキソールl−2−ピロリドン−5−カルボキシレート)及びニンニク油を有効成分として含有する、アルコール性脂肪肝又は肝炎の予防又は治療のための薬学、食品、又は飲料組成物に関する。
【解決手段】該薬学組成物は、本発明によるメタドキシン及びニンニク油の併用投与は、メタドキシンまたはニンニク油の単独投与に比べ、肝組織内のトリグリセリドの蓄積及び血中AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)の増加抑制、FAS(脂肪酸合成酵素)、CYP2E1及びiNOS(誘導型酸化窒素合成酵素)の発現抑制、及びAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)失活抑制に顕著な効果を示し、アルコールの摂取で誘導されるアルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の予防又は治療、またはアルコール摂取によって損傷した肝機能の改善または回復のために効果的に利用されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタドキシンとニンニク油を含有するアルコール性脂肪肝並びに脂肪肝性肝炎の予防、及び治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪肝は、医学的に脂肪が肝臓全体の重さの5%以上を超える病的状態を意味するが、これを含む肝疾患は、先進国40−50代成人人口の死亡原因で、ガンの次に深刻な疾患とのことである。先進国を始めとする主要国家の人口中、およそ30%は、すでに脂肪肝の症状を示しており、それらのうち20%は、肝硬変症に進むことになる。かような肝硬変症患者の半分ほどは、診断後10年以内に、肝疾患で死亡する。脂肪肝及び脂肪肝炎のよく見られる原因は、アルコール過飲、肥満、糖尿病、高脂血症などであり、このうち、アルコール過飲によるアルコール性脂肪肝(ASH:alcoholic steatohepatitis)は、非アルコール性脂肪肝と共に、肝炎、肝硬変及び肝臓ガンに悪化する危険性が非常に高い。
【0003】
アルコールは、人体に摂取された後で肝臓に移動し、アルコール脱水素酵素、カタラーゼのような酵素によって、アセトアルデヒドに酸化され、生成されたアセトアルデヒドは、代謝されてアセテートに転換された後、エネルギーとして利用される。反復的なアルコール摂取は、代謝過程中でNADHとNADP+の増加を誘発し、アルコール代謝産物であるアセトアルデヒドは、GSHを枯渇させて細胞内酸化還元の恒常性を変化させ、それによって、酸化的ストレスを誘発する。酸化的ストレスは、ミトコンドリアの機能変化、脂質過酸化、蛋白質変性を起こし、肝実質細胞の死滅、炎症、星状細胞の活性化のような変化を引き起こす。また、NADHの増加は脂肪合成を促進し、脂肪肝を誘発することになる。
【0004】
現在、脂肪肝を薬物学的に治療するのに有用な薬剤は、ほとんどない状態なので、運動や食餌療法が推奨されているが、実際に、かような方法による脂肪肝の治療は、それほど効果的ではなく、有効な治療剤開発への要求が切実になっている状況である。脂肪肝が、糖尿病及び肥満状態で観察される細胞のインシュリン抵抗性と関連があることが知られており、メトフォルミン(metformin)のような血糖降下剤の脂肪肝治療に対する効果が報告された。しかし、前記薬物は、肝毒性または乳酸アシドーシスのような副作用を誘発するという問題点がある。代替薬物補助療法として、ベタイン、グルクロネート、メチオニン、コリン、リポトロフィック製剤が補助的に利用されることもあるが、それらに係る医薬学的根拠が完全に証明されているわけではない。従って、卓越した効果を有しつつも、副作用を誘発しない安全な脂肪肝治療剤の開発が切実になってきている実情である。
【0005】
メタドキシン(metadoxine)(ピリドキソールl−2−ピロリドン−5−カルボキシレート)は、下記化学式1で表示される構造を有する、ピリドキシンとピロリドンカルボキシレートとの錯化合物である。
【0006】
【化1】

【0007】
メタドキシンは、アルコール性肝疾患の治療に使われる薬物であって、アルコール代謝及び代謝回転を上げ、遊離ラジカルの毒性低下及びATPとグルタチオンのレベル回復による、肝繊維化と脂肪肝の治療に使われる(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。
【0008】
しかし、メタドキシンは、アルコール性毒性に関連した重要な酵素であるアルコール誘導性シトクロームP4502E1(CYP2E1)の発現及び活性を抑制できず、それによって、CYP2E1を媒介とする炎症増幅を制御できない。従って、該薬物によるアルコール性脂肪肝の治療は、きわめて制限的である。また、CYP2E1の発現は、インシュリン抵抗性と関連があるが、メタドキシンは、インシュリン抵抗性を克服できない。
ニンニク油(garlic oil)は、アリシンを1%ほど含み、アリシン還元物及び他の硫黄含有物質を含む液状物質である。ビタミンB1と結合するとき、アリシンは化学的に安定しており、作用の速いアリチアミン(allithiamin)に変化するので、消化管吸収が容易である。該物質は、ホワイトラットで化学物質による発ガンを抑制し(非特許文献6、非特許文献7)、第二相酵素を誘導し(非特許文献8、非特許文献9)、CYP2E1の活性を抑制する(非特許文献10)。また、ニンニク油は、抗血栓、抗粥状硬化、抗突然変異、抗ガン及び抗菌作用を有するとも報告されている(非特許文献11、非特許文献12)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Arosioら,Pharmacol.Toxicol.73:301−304,1993
【非特許文献2】Calabreseら,Int.J.Tissue React.17: 101−108,1995
【非特許文献3】Calabreseら,Drugs Exp.Clin.Res.24: 85−91,1998
【非特許文献4】Caballeriaら,J.Hepatol.28: 54−60,1998
【非特許文献5】Murielら,Liver Int.23: 262−268,2003
【非特許文献6】Bradyら,Cancer Res.48: 5937−5940,1988
【非特許文献7】Reddyら,Cancer Res.53: 3493−3498,1993
【非特許文献8】Hayesら,Carcinogenesis 8: 1155−1157,1987
【非特許文献9】Sparninsら,Carcinogenesis 9: 131−134,1988
【非特許文献10】Bradyら,Chem.Res.Toxicol.4: 642−647,1991
【非特許文献11】Agarwal,Med.Res.Rev.16: 111−124,1996
【非特許文献12】Augusti,Indian J.Exp.Biol.34: 634−660,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、アルコール性脂肪肝を効果的に治療し、脂肪肝による肝炎を予防するために、異なる治療経路を有する多様な複合組成物の効果を検討した。その結果、アルコールとアセトアルデヒドの排せつ促進、及び遊離ラジカルの毒性抑制効果のあるメタドキシンと、CYP2E1抑制効果があって、化学物質による肝細胞破壊に予防効果を有するニンニク油とを最適の配合割合で併用投与すれば、それら薬物それぞれを単独投与する場合に比べて、卓越した相乗的治療効果を示し、アルコール性脂肪肝及びそれによる肝炎の予防並びに治療に有用に使用できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0011】
よって、本発明の目的は、有効成分として、メタドキシン及びニンニク油を最適の割合で含有し、アルコール摂取による脂肪肝及び脂肪肝による肝炎の予防並びに治療に有用な組成物を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、有効成分として、メタドキシン及びニンニク油を最適の割合で含有し、アルコールによって損傷した肝機能改善または肝機能回復に有用な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表示されるメタドキシンとニンニク油とを有効成分として含み、薬学的に許容される担体を含むアルコール性脂肪肝及びそれによる肝炎の予防又は治療用の薬学組成物、または肝機能改善または肝機能回復に有用な薬学組成物を提供する。また本発明は、下記化学式1で表示されるメタドキシンとニンニク油とを有効成分として含み、食品学的に許容される担体を含むアルコール性脂肪肝及びそれによる肝炎の抑制、予防及び改善用の食品または飲料用の組成物、または肝機能改善または肝機能回復に有用な食品または飲料用の組成物を提供する。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明の組成物の特徴は、メタドキシンとニンニク油との併用投与が、前記薬物それぞれの単独投与に比べ、アルコール性脂肪肝、及びそれによる肝炎の予防並びに治療及びアルコールで損傷した肝機能の回復及び改善に顕著にすぐれた効果を示すことである。
【0016】
本発明では、脂肪肝に治療効果がある最適の薬物組み合わせを発掘するための研究の一環として、アルコール食餌を投与したラットの脂肪肝モデルで、メタドキシンとニンニク油とを単独で、または多様な配合割合で容量を異ならせて併用投与した後、アルコール性脂肪肝に対するそれらの薬理学的効能を検証した。このとき、前記薬物の併用投与時、メタドキシン:ニンニク油の配合比率は、重量比で1:1、1:2、2:1、1:3及び3:1であった。
【0017】
アルコール食餌が4週間実施されたラットでは、肝組織内のトリグリセリドのレベル及び肝毒性指標であるAST数値が対照群に比べて顕著に増加した。一方、メタドキシン/ニンニク油が投与された場合には、組織内トリグリセリドのレベル、及び血液中のASTが有意に減少した(図1及び図2参照)。かような効果は、組織内脂肪を特異的に染色して観察する組織学分析結果と一致する(図3及び図4参照)。
【0018】
また、アルコールの慢性摂取によって減少した肝組織内のFASの発現は、メタドキシン又はニンニク油それぞれを高容量で単独投与したときでも影響されなかった。しかし、併用投与によって正常レベルに回復する驚くべき効果を示した(図5参照)。アルコールの代謝過程に関与するCYP2E1の発現は、アルコールによって誘導された脂肪肝で顕著に増加したが、やはり本発明によるメタドキシン/ニンニク油複合製剤の投与で顕著に減少し、正常レベルに回復した(図6参照)。
【0019】
肝組織内の強力な炎症誘発酵素であって、肝臓損傷の因子と見なされるiNOSは、アルコールの慢性的摂取により、肝組織内で発現が強力に誘導される。かようなiNOSの発現は、メタドキシンの投与によって減少するが、ニンニク油の投与によっては全く影響を受けない。メタドキシンとニンニク油とを最適割合で配合して併用投与した場合には、顕著にiNOS発現が減少した(図7参照)。また、脂肪酸の酸化過程に関与する重要な酵素であるAMPK、及びこの基質であるACCの活性を調べた。アルコール摂取によって低下した肝組織内のAMPK及びACCの活性が、メタドキシンまたはニンニク油を単独投与したときは、全く回復しなかった。驚くべきことに、メタドキシンとニンニク油との併用投与によって、正常レベルに回復した(図8及び図9参照)。
【0020】
かような脂肪肝の治療効果は、メタドキシンのニンニク油に対する配合比率が、1:1〜1:3、または1:1〜3:1、望ましくは、1:1である場合に卓越して現れた。
【0021】
かかる実験結果は、2つの物質を併用投与するとき、単独投与結果から予期できない効果を発揮し、または相乗的にアルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎を抑制するということを証明するのである。また、本発明によるメタドキシンとニンニク油の併用投与は、高容量メタドキシンの単独投与に比べ、トリグリセリドレベルと肝毒性とを抑制する効能がいずれも優秀であると示され、メタドキシンの過量投与または長期投与により引き起こされうる副作用(例えば、末梢神経病)を減少させることができると期待される。前記の結果から、メタドキシンによるアルコール代謝促進効果と、ニンニク油による抗酸化効果、抗炎症効果、CYP2E1酵素の発現抑制効果は、互いに相乗的に作用し、脂肪肝及び脂肪肝性肝炎に対する予防並びに治療の効果を極大化することが予測される(図10参照)。
【0022】
従って、本発明のメタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する組成物は、アルコールによる脂肪肝の治療、及び肝機能の回復にすぐれた効果を提供し、副作用がほとんどない臨床用途に適用できる。
【0023】
本発明の薬学組成物は、それぞれの物質を別々の製剤に調製して投与するか、又は、2つの物質を単一の製剤に組み合わせて投与することが好ましい。組成物は、当分野で一般的に採用される方法に従って、経口投与のための剤形に調製して、経口で投与してもよい。かような経口投与用剤形には、硬質及び軟質のカプセル剤、錠剤、散剤、懸濁剤、シロップ剤、注射剤などが含まれる。かような経口投与用製剤には、二種の薬物学的活性成分以外に、一つまたはそれ以上の薬学的に不活性である一般的に用いられる担体、例えば、澱粉、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、カオリンのような賦形剤(filler);水、ゼラチン、アルコール、グルコース、アラビアゴム、トラガカントゴムなどの結合剤;澱粉、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤;タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、流動パラフィンなどの滑沢剤などを含めてもよい。本発明の薬学組成物は、溶解を促進するための溶解剤などをさらに含んでいてもよい。
【0024】
また、本発明の薬学組成物は、非経口で投与でき、例えば、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射による。非経口投与用の剤形は、メタドキシン及びニンニク油を安定剤または緩衝剤と共に水中で混合し、溶液または懸濁液を調製し、これをアンプルまたはバイアルに入れて調製する。
【0025】
本発明による組成物の1日投与容量は、投与しようとする対象の脂肪肝の重症度、年齢、健康状態、合併症など、多様な要因に依存する。成人を基準とすると、一般的には、メタドキシンとニンニク油とを含む組成物15mg〜2g、望ましくは50mg〜1gを、1日1回、あるいは2回に分割して1日2回投与する。しかし、脂肪肝又は脂肪肝性肝炎患者には、本発明の組成物を増量した容量で投与できる。最も望ましくは、メタドキシン250mg及びニンニク油250mgを含有する単位投与量を1日1回又は2回経口投与する

【0026】
メタドキシンのアルコール代謝促進効果と、ニンニク油の優れた抗酸化効果、抗炎症効果及びCYP2E1発現の抑制効果との最適な組み合わせにより、本発明による薬学組成物は、毒性及び副作用がほとんど呈することなく、アルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の進行を効果的に抑制する。
【0027】
また、本発明は、アルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の抑制並びに予防用の、メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する食品添加物または飲料組成物を提供する。前記組成物は、肝機能の回復及び改善のためにも使用可能である。
【0028】
メタドキシン及びニンニク油を食品添加物として使用する場合、それらそれぞれをそのまま添加するか、または他の食品または食品成分と共に添加してもよい。有効成分の量は、その使用目的(予防、健康促進または治療用)によって適するように決定されうる。一般的に、メタドキシン及びニンニク油は、食品または飲料に、0.0001〜10重量%、望ましくは0.1〜5重量%の量で添加できる。健康及び衛生の向上を目的とする長期間の摂取の場合には、より少量を選択してもよい。しかし、有効成分は、安全性の面で何の問題もないので、より多量を選択することも可能である。
【0029】
前記食品の種類に、特別の制限はない。メタドキシン及びニンニク油を添加できる食品の例としては、肉、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディ、スナック、菓子、ピザ、インスタントラーメン、その他の麺類、ガム、アイスクリーム類を含めた乳製品、スープ、飲料、茶、ドリンク類、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコール(EtOH)によって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの肝組織内のトリグリセリドレベルの比較である。**は、賦形剤群に比べ、p値が0.01未満であることを意味し、#、##は、アルコールを投与した群に比べ、p値がそれぞれ0.05、0.01未満であったことを意味する。
【図2】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコール(EtOH)によって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの血中ASTレベルの比較である。**は、賦形剤群に比べ、p値が0.01未満であることを意味し、#、##は、アルコールを投与した群に比べ、p値がそれぞれ0.05、0.01未満であったことを意味する。
【図3】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した肝組織である。CVは中心静脈、HCは肝細胞、FIは脂肪浸潤を意味する。Me=メタドキシン、GO=ガーリック油。
【図4】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの、脂肪特異的に染色するOil Red O染色法で染色した肝組織である。CVは中心静脈、HCは肝細胞、FIは脂肪浸潤、ECは空の細胞質を意味する。Me=メタドキシン、GO=ガーリック油。
【図5】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの、脂肪酸合成酵素であるFAS(fatty acid synthase)の発現の比較である。**は、アルコールを投与した群に比べ、p値が0.01未満であったことを意味する。
【図6】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの、アルコール誘導性シトクロームP4502E1(CYP2E1)の発現の比較である。*は、アルコールを投与した群に比べ、p値が0.05未満であったことを意味する。
【図7】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの肝組織における、誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現の比較である。
【図8】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの肝組織における、AMP活性化プロティンキナーゼ(AMPK)の酵素活性の比較である。**は、アルコールを投与した群に比べ、p値が0.01未満であったことを意味する。
【図9】メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与したときの、アルコールによって誘導された脂肪肝動物モデルのラットの肝組織における、AMPKの基質であるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)の酵素活性の比較である。**は、アルコールを投与した群に比べ、p値が0.01未満であったことを意味する。
【図10】アルコール性脂肪肝に至るメカニズム、及び、メタドキシンとニンニク油とを含有した薬剤による治療効果を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。下記実施例は、本発明を具体的に例示するだけであり、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
<実験動物及び食餌>
雄のSD(Sprague-Dawley)ラット(平均体重140〜160g)を韓国・セムタコ社(韓国・烏山)から購入して、実験動物として使用した。実験に使用する前、55±5%の湿度、22±2℃の温度の条件下で、ソウル大学校薬科大の動物実験研究棟でラットを少なくとも1週間適応させた。午前7時と午後7時の12時間周期で明暗を変えた。実験中、食餌量及び飲料水の量には、有意な変化は観察されなかった。動物の体重と状態とを毎週検査し、毎日Lieber−DeCarli液体食餌を与えた。
【0033】
ランダムに3つのグループにラットを分けて、次の通り処置した。(A)正常食餌(対照食餌)を4週間与え、最後の1週間は、40%ポリエチレングリコール400に溶解したメタドキシン、コーン油に懸濁したガーリック油を経口で投与した。(B)正常食餌のカロリーに補正したアルコール食餌(エタノール食餌)を4週間与え、最後の1週間は、40%ポリエチレングリコール400に溶解したメタドキシン、コーン油に懸濁したガーリック油を経口投与した。(C)正常食餌のカロリーに補正したアルコール食餌(エタノール食餌)を4週間与え、最後の1週は、メタドキシン及びニンニク油を重量比基準で、1:1〜1:3または1:1〜3:1の割合で経口投与した。各グループは、10匹のラットで構成された。
【0034】
Lieber-DeCarli液体食餌は、Dyets,Inc.(Bethlehem、PA)から購入した。正常食餌は1kcal/mlのカロリー密度であった(炭水化物65%、蛋白質20%、脂肪15%)。エタノール食餌は、マルトースデキストリンの代わりにエタノールを補充して、正常食餌とのカロリーを補正した。食餌は、冷暗所で保管した。
【0035】
【表1】

【0036】
<試料調製>
メタドキシン及びニンニク油は、Auspure Biotechnology(中国・上海)から購入し、脂肪肝誘発のためのアルコール食餌は、米国・ダイエット社(Dyet Co.)から購入した。メタドキシンとニンニク油は、水と食用油で所望の濃度に希釈した。
【0037】
<ウェスタンブロット>
Laemmli UK法(1970)に従い、Mighty Small II SE 250装置を使用して、SDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った。肝組織の溶解分画を、サンプル希釈緩衝液[63mM トリス(pH.6.8)、10%グリセロール、2%SDS、0.0013%ブロモフェノールブルー、5%β−メルカプトエタノール]に希釈し、7.5%、及び9%ゲルを使用し、電極緩衝液(1L中、トリス 15g、グリシン72g、SDS 5g)内で電気泳動した。電気泳動後、トランスファーバッファー[25mM トリス、192mMグリシン、20%v/vメタノール(pH.8.3)]を用いて、190mAmpsで1時間かけて、ニトロセルロース紙に蛋白質を転写させた。抗脂肪酸合成酵素、抗−iNos、抗ホスホ AMPK−α、抗ホスホ ACC、抗−FoxO1、抗−FoxO3、抗−CYP2E1を一次抗体として反応させた。その後、二次抗体として、西洋ワサビペルオキシダーゼ−結合ヤギ抗ウサギIgGと、西洋ワサビペルオキシダーゼ−結合ヤギ抗マウスIgGを1時間反応させ、蛋白質をECL 化学発光システム(Amersham、Gaithesberg、MA)で視覚化した。同じ蛋白質ローディングは、抗β−アクチン抗体(Sigma、セントルイス、MO)を使用した、β−アクチンイムノブロッティングによって確認した。蛋白質における発現の変化は、ブロットの発色強度を濃度測定(densitometry)により分析した。濃度測定スキャンは、Image Scan&Analysis System(Alpha-Innotech Co.)を使用して行った。強度の計算は、AlphaEase(商標)バージョン5.5ソフトウェアを使用し、背景は差し引いた。
【0038】
<分析方法>
薬物学的計算プログラムを利用して分析を行った。実験群間の有意性は、線形二乗法(Fisher RA、Statistical Methods for Research Workers,Edinburgh: Oliver & Boyd,1925)で分析した。Newman-Keuls法(Norman GRら,Biostatistics: The Bare Essentials,2000)で評価した(*はp<0.5を表し、**はp<0.01を表す)。
【0039】
<実施例1:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与による、脂肪肝組織におけるトリグリセリドレベルに対する効果>
アルコール食餌を、アルコールが全体カロリーのうち、37%になるように、アルコールと水に懸濁し、ラットに4週間投与して、脂肪肝動物モデルを確立した。脂肪肝誘導は、血液生化学的及び組織学的分析方法によって確認した。アルコール食餌を投与して3週後、メタドキシン(50、100、150または200mg/kg体重)とニンニク油(5
0、100、150または200mg/kg)を単独でまたは併用(メタドキシン:ニンニ
ク油=1:1、1:2、2:1、1:3及び3:1)で1週間、毎日、アルコール食餌を与えつつ、経口で投与した。最後の投与の24時間後、血液及び肝組織を採取した。
【0040】
肝組織内のトリグリセリドのレベルは、脂肪肝の指標である。メタドキシンとニンニク油を単独投与または併用投与した後に、肝組織内のトリグリセリドのレベルを測定した。薬物それぞれを単独投与した場合に比べ、メタドキシンとニンニク油の併用投与で、肝組織内のトリグリセリドのレベルが顕著に減少した(図1)。
【0041】
メタドキシンとニンニク油を単独または併用投与後、アルコール性脂肪肝の治療効果をH&E染色法を利用して組織病理学的に分析した。肝組織を10%中性ホルマリン溶液で固定し、続いて正常固定、脱水を行い、パラフィンで包埋した。包埋した組織を4μm厚にスライスし、H&Eで染色した後、光学顕微鏡で観察した。微小空胞変性及び大空胞変性が観察された。トリグリセリドレベルに対する効果と同様に、メタドキシンとニンニク油の併用投与では、薬物それぞれを単独で高容量投与した場合に比べ、脂肪蓄積の抑制において顕著な効果を示した(図3)。肝組織中の蓄積した脂肪を特異的に染色するオイルレッドO(Oil Red O)で染色した後の分析でも、長期のアルコール摂取によって起こる脂質蓄積に対し、メタドキシンとニンニク油の併用投与が、優れた相乗的な治療効果を与えることを示した(図4)。
【0042】
<実施例2:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与による、血中ASTレベルに対する効果>
アルコール食餌を4週間与えたラットは、血液中の肝毒性指標であるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)レベルが対照群に比べて顕著に増加した。一方、メタドキシン/ニンニク油が併用投与された群では、ASTレベルが有意に低下した(図2)。
【0043】
<実施例3:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与による、脂肪肝組織でのFASレベルに対する効果>
メタドキシン/ニンニク油の併用投与による、アルコール性脂肪肝に対する優れた相乗的治療効果を究明するために、多様な分子的指標及び、細胞的指標を調べた。実施例1で採取した肝組織における脂肪酸合成酵素(FAS)の発現を、ウェスタンブロットで分析した。FASの減少した発現は、メタドキシンまたはニンニク油それぞれの単独高容量投与では、回復しなかった。一方、メタドキシンとニンニク油を併用投与した場合、予想外に、正常レベルに回復した(図5)。
【0044】
<実施例4:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与の、脂肪肝組織でのCYP2E1レベルに対する効果>
実施例1で採取した肝組織でのアルコール代謝酵素CYP2E1の発現をウェスタンブロットで分析した。慢性的なアルコール摂取によって起こるCYP2E1の増加した発現が、本発明によるメタドキシンとニンニク油併用投与によって、顕著に減少し、正常レベルに回復した(図6)。
【0045】
<実施例5:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与による、脂肪肝組織におけるiNOSレベルに対する効果>
iNOSは、肝組織内の強力な炎症誘発酵素である。iNOSの発現誘導は、アルコールによる肝臓損傷の主要メカニズムであると見られる(Mckimら,Gatroenterology 125: 1834-1844,2003;Venkatraman Aら,Hepatology 40: 565-573,2004)。実施例1で採取した肝組織におけるiNOSの発現をウェスタンブロットで分析した。慢性的なアルコール摂取によって強力に誘導されるiNOSの発現は、メタドキシン単独投与で減少したが、ニンニク油の単独投与によっては有意な減少は観察されなかった。メタドキシンとニンニク油を併用投与した実験群では、顕著にiNOSの発現が減少した(図7)。
【0046】
<実施例6:メタドキシンとニンニク油の併用経口投与による、脂肪肝組織におけるAMPK及びACCレベルに対する効果>
実施例1で採取した肝組織における、脂肪酸の酸化に関与する重要な酵素であるAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)及びAMPKの基質であるACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸塩を、ウェスタンブロット分析方法で観察した。図8及び図9に示されているように、アルコール摂取によって低下したAMPK活性及びACC活性は、メタドキシン又はニンニク油それぞれの単独投与によっては全く変化を見せなかった。一方、メタドキシンとニンニク油を併用投与した場合、正常レベルに回復した。
【0047】
これらの結果から、本発明によるメタドキシン及びニンニク油の併用投与は、肝臓損傷を誘発するCYP2E1、脂質蓄積に関与するFAS及び抗炎症を誘発するiNOSの発現の抑制に効果的であるとともに、脂肪酸の酸化に重要な役割を果たすAMPK及びACCの活性を誘導することが確認された。従って、本発明によるメタドキシン及びニンニク油の併用投与は、アルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の治療に卓越した効果を付与する(図10)。
【0048】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する多様な形態の製剤を、下記のように調製した。
【0049】
<製剤例1:錠剤>
メタドキシン 50mg
ニンニク油 50mg
乳糖 50mg
澱粉 10mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
上記の成分を混合し、一般的な錠剤の製造方法によって錠剤を調製した。
【0050】
<製剤例2:散剤>
メタドキシン 50mg
ニンニク油 50mg
乳糖 30mg
澱粉 20mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
上記の成分をよく混合し、ポリエチレンがコーティングされた袋に密封した。
【0051】
<製剤例3:カプセル剤>
メタドキシン 50mg
ニンニク油 50mg
乳糖 30mg
澱粉 28mg
タルク 2mg
ステアリン酸マグネシウム 適量
上記の成分を混合し、一般的なカプセル剤の製造方法によって、ゼラチン・ハードカプセルに充填した。
【0052】
<製剤例4:懸濁剤>
メタドキシン 500mg
ニンニク油 500mg
異性化グルコース 10g
砂糖 30mg
カルボキシメチルセルロースナトリウム 100mg
レモンフレーバー 適量の
精製水適量加えて全体で100mL
上記の成分を混合し、一般的な懸濁剤の製造方法によって懸濁剤を調製し、100ml容量の褐色ビンに充填して滅菌した。
【0053】
<製剤例5:軟質カプセル剤(1カプセル中の含有量)>
メタドキシン 250mg
ニンニク油 250mg
ポリエチレングリコール400 400mg
濃グリセリン 55mg
精製水 35mg
【0054】
ポリエチレングリコールと濃グリセリンを混合した後で精製水を添加した。混合物を約60℃に維持し、メタドキシンとニンニク油を加え、撹拌機を用いて約1,500rpmで均一に混合した。混合液をゆっくり撹拌しながら、ゆっくり室温に冷却し、真空ポンプで空気を除去した。
【0055】
軟質カプセルの被膜は、ゼラチンを用い、1カプセル当たりゼラチン132mg、濃グリセリン52mg、70%d−ソルビトール溶液6mg、及び香料としてエチルバニリン適量、コーティング基剤としてカルナバワックスを使用して一般的な製造方法で調製した。
【0056】
<製剤例6:注射剤>
メタドキシン 50mg
ニンニク油 50mg
マンニトール 180mg
注射用蒸溜水 2,974mg
Na2HPO4・2H2O 26mg
一般的な注射剤の製造方法によって、1アンプル(2ml)に上記の成分を混合した。
【0057】
本発明について実施形態を用いて説明したが、本技術分野の当業者ならば、本発明の範囲および趣旨から外れない範囲で多様な変更および変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、当分野の当業者によって、多くの修正が、本願特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱することなくなされるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上で述べた通り、メタドキシン及びニンニク油の併用投与は、脂肪肝による肝組織内のトリグリセリドの蓄積及びASTレベルの増加を抑制し、脂肪肝の進行に伴うCYP2E1及びiNOSの発現を抑制し、AMPK活性及びACC活性を正常レベルに回復させる。従って、メタドキシン及びガーリック油を有効成分として含有する本発明の組成物は、慢性的なアルコール摂取によって誘発される脂肪肝、及びこれによる肝炎を予防し、及び治療するのに有用であろう。またアルコール摂取による肝機能損傷を回復または改善させるのに有用であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含み、薬学的に許容される担体をさらに含む、アルコール性脂肪肝又は脂肪肝性肝炎の予防または治療のための薬学組成物。
【請求項2】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含み、薬学的に許容される担体をさらに含む、アルコール摂取によって損傷した肝機能の改善または回復のための薬学組成物。
【請求項3】
メタドキシン及びニンニク油を重量比で、1:1〜1:3または1:1〜3:1の割合で含む、請求項1または請求項2に記載の薬学組成物。
【請求項4】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する、アルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の予防または治療のための食品組成物。
【請求項5】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する、アルコールによって損傷した肝機能の改善または回復のための食品組成物。
【請求項6】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する、アルコール性脂肪肝及び脂肪肝性肝炎の予防または治療のための飲料組成物。
【請求項7】
メタドキシン及びニンニク油を有効成分として含有する、アルコールによって損傷した肝機能の改善または回復のための飲料組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図10】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−511603(P2010−511603A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539188(P2009−539188)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006162
【国際公開番号】WO2008/066353
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509084149)エスエヌユー アールアンドディービー ファウンデーション (19)
【Fターム(参考)】