説明

メタリック塗装方法及び塗装システム

【課題】自己ダストによる艶引け等の外観不良を防止するとともに、光輝材の配向制御にも悪影響を与えないメタリック塗装方法を提供する。
【解決手段】塗装粘度に希釈した状態で中沸点〜高沸点の希釈溶剤を希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%含有すメタリックベース塗料を用いて被塗物の表面に直接又は間接的にメタリックベース塗膜層を形成するメタリックベース塗装工程7と、未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまで当該メタリックベース塗膜層を加熱するプレヒート工程8と、クリヤ塗料を用いて前記メタリックベース塗膜層の表面にクリヤ塗膜層を形成するクリヤ塗装工程9と、メタリックベース塗膜層及びクリヤ塗膜層を同時に焼き付ける上塗り硬化工程10とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のボディや部品等の塗装に適用できるメタリック塗装方法及び塗装システムに関し、特に自己ダストによる艶引け等の外観不良を防止でき、蒸着金属片などの光輝材の配向性が良好で、金属感に富んだ意匠を提供できるメタリック塗装方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディや部品には、光輝感を有するメタリック塗装が行われているが、特に複雑な形状の被塗物にメタリックベース塗料を塗装すると、先に形成された未硬化塗膜の上に後から塗装されたメタリックベース塗料のダストが降りかかることが少なくない。こうした、いわゆる自己ダストが降りかかった部分は、艶引けやチカチカ感等の外観不良の原因となる。このため、メタリックベース塗料に表面調整剤を添加したり、希釈シンナーの沸点(蒸発速度)を調整したりすることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、メタリック塗装において、金属感に富んだ(金属的な)外観意匠を提供するべく、光輝材として光反射性の良好な蒸着アルミニウム薄片などを用いた塗装方法が提案され、本発明者らも、自動車ボディ等の塗装工程において光輝材の配向を制御する技術を開発し、蒸着アルミ等を用いた金属調メタリック塗装方法を提案している(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上述した自己ダストによる外観不良の問題は、特にこの種の金属調メタリック塗装において意匠性を著しく損ない、顕著となる。また、メタリックベース塗料とクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗装したときに、被塗物の垂直面にタレが発生したり、クリヤ塗膜の溶剤によってメタリックベース塗膜が再溶解され、特に金属調メタリック塗装においては光輝材の配向が乱れて意匠性が損なわれたりするといった問題があった。
【特許文献1】特開2002−177867号公報
【特許文献2】特開2003−313500号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明は、自己ダストによる艶引け等の外観不良を防止するとともに、光輝材の配向制御にも悪影響を与えないメタリック塗装方法及び塗装システムを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によれば、塗装粘度に希釈した状態で中沸点〜高沸点の希釈溶剤を希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%含有すメタリックベース塗料を用いて被塗物の表面に直接又は間接的にメタリックベース塗膜層を形成するメタリックベース塗装工程と、前記未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまで当該メタリックベース塗膜層を加熱するプレヒート工程と、クリヤ塗料を用いて前記メタリックベース塗膜層の表面にクリヤ塗膜層を形成するクリヤ塗装工程と、前記メタリックベース塗膜層及び前記クリヤ塗膜層を同時に焼き付ける上塗り硬化工程とを有することを特徴とする塗装方法が提供される。
【0006】
また、上記目的を達成するために、本発明によれば、塗装粘度に希釈した状態で中沸点〜高沸点の希釈溶剤を希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%含有すメタリックベース塗料を用いて被塗物の表面に直接又は間接的にメタリックベース塗膜層を形成するメタリックベース塗装手段と、前記未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまで当該メタリックベース塗膜層を加熱するプレヒート手段と、クリヤ塗料を用いて前記メタリックベース塗膜層の表面にクリヤ塗膜層を形成するクリヤ塗装手段と、前記メタリックベース塗膜層及び前記クリヤ塗膜層を同時に焼き付ける上塗り硬化手段とを有することを特徴とする塗装システムが提供される。
【0007】
本発明では、メタリックベース塗料として中沸点〜高沸点の希釈溶剤を20〜22.5重量%含有するものを用いて塗装するので、塗着時から一定時間経過までの間はウェットなメタリックベース塗膜となる。したがって、この間に後に塗装されたメタリックベース塗料のダストが降りかかっても、このダストは先に形成されたウェット状態のメタリックベース塗膜に充分に良く馴染むことになる結果、硬化後の艶引けやチカチカ感といった外観不良の発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明では、メタリックベース塗料を塗装したのち、未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまでメタリックベース塗膜層をプレヒートするので、上述したように塗着時から一定時間経過までの間はウェットであっても、クリヤ塗料を塗装する前には充分に塗着固形分を高めることができる結果、メタリックベース塗膜層がタレたり、クリヤ塗膜の溶剤によってメタリックベース塗膜層が再溶解されたりすることが防止できる。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る塗装方法の実施形態を示す工程図、図2は本発明に係る塗装方法の実施形態により得られる積層塗膜を示す断面図、図3は本発明に係る塗装方法の実施形態を実施する上塗り工程の一例を示す平面図、図4は本発明に係るメタリックベース塗装手段の実施形態を示す図である。
【0010】
本実施形態に係る塗装方法は、たとえばX−Rite社のメタリック感指標であるFI値が19以上の、金属そのものに近い高金属感を呈するメタリックベース塗料を用いた塗装方法を例に挙げて説明するが、本発明に係る塗装方法は高金属感を呈するメタリックベース以外にも適用することができる。要するに、自己ダストによる艶引けやチカチカ感の発生を防止するために、蒸発速度が速い中沸点の希釈溶剤と蒸発速度が遅い高沸点の希釈溶剤とを組み合わせ、通常の希釈率より高い20〜22.5重量%(希釈塗料総量に対する値)含有するメタリックベース塗料を用いて塗装し、クリヤ塗料を塗装する前にこのメタリックベース塗膜の塗着NVが80重量%以上になるまでプレヒートする塗装方法であればよい。
【0011】
このような塗装方法の具体例として、被塗物に自動車ボディを適用した一例を以下に説明するが、本発明に係る塗装方法はこれらの実施形態にのみ限定される趣旨ではなく、したがって、これらの実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0012】
なお本明細書において、被塗物に塗布する材料を塗料といい、この塗料を塗布することにより被塗物表面に形成される層であって硬化前を未硬化塗膜層、硬化後を硬化塗膜層、これら未硬化塗膜層及び硬化塗膜層を総称して塗膜層という。
【0013】
本実施形態に係る積層塗膜は、図2に示すように被塗物101である自動車ボディの表面に形成された電着塗膜層102と、この電着塗膜層102の表面に形成された中塗り塗膜層103と、この中塗り塗膜層103の表面に形成されたメタリックベース塗膜層104と、このメタリックベース塗膜層104の表面に形成されたクリヤ塗膜層105とから構成されている。
【0014】
被塗物である自動車ボディ101を構成する材料としては、鋼板やアルミニウム板などの各種金属材料のほか、プラスチックも適用することができ、自動車ボディの外板や内板などが塗装対象部位となる。なお、本発明に係る塗装方法においては、自動車ボディ以外の自動車部品や、自動車以外の各種被塗物を塗装対象にすることができる。
【0015】
図1に示す電着塗装工程2の前に、この自動車ボディ101を前処理工程1に搬入し、ここでアルカリ洗浄液などを用いて自動車ボディ101に付着した油分を脱脂洗浄したのち、自動車ボディ101の表面にリン酸亜鉛の化成皮膜を形成する。
【0016】
次いで、化成皮膜が形成された自動車ボディ101を電着塗装工程2に搬入し、ここでカチオン型電着塗料又はアニオン型電着塗料が満たされた電着槽に自動車ボディ101を浸漬し、自動車ボディ101と電着塗料との間に所定の電圧を印加することで、電気泳動作用により未硬化の電着塗膜層102を自動車ボディ101の表面に形成する。続く電着水洗工程3では、自動車ボディ101の表面に付着した余分な電着塗料を、工業用水や純水を用いてスプレーやディッピングすることで洗い流すとともに、洗い流された電着塗料を回収して再利用する。
【0017】
次いで、電着水洗工程3を終了した自動車ボディ101を電着硬化工程4である電着乾燥炉に搬入し、たとえば160℃〜180℃で15分〜30分焼き付けることで硬化した電着塗膜層102が得られる。自動車ボディ101の仕様や部位によっても相違するが、電着塗膜層102の膜厚はたとえば10〜40μmである。
【0018】
中塗り塗膜層103を構成する塗料は、ポリエステル−メラミン樹脂やポリエステル−エポキシ樹脂などのポリエステル系樹脂、アクリル−メラミン樹脂,アクリル−ウレタン樹脂,アクリル−エポキシ樹脂などのアクリル系樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂などを主成分とし、これに着色材、添加剤を添加してなる熱硬化型塗料又は常温硬化型塗料もしくは2液硬化型塗料であって、水を溶剤とする水系塗料又は有機溶剤を溶剤とする有機溶剤系塗料である。そして、この塗料を溶剤で希釈したものを、図1に示す中塗り塗装工程5においてスプレー塗装ガンや回転霧化式塗装ガンなどの塗装機を用いて電着塗膜層102の表面に塗装する。
【0019】
中塗り塗膜層103を形成したら、自動車ボディ101を中塗り硬化工程6である中塗り乾燥炉に搬入し、たとえば120℃〜160℃、10分〜30分の条件で未乾燥の中塗り塗膜層103を焼き付ける。これにより硬化した中塗り塗膜層103が得られる。自動車ボディ101の仕様や部位によっても相違するが、中塗り塗膜層103の膜厚はたとえば10〜40μmである。
【0020】
なお、図1に示す例では中塗り塗装工程5の後に中塗り硬化工程6を設けて中塗り塗膜層103を硬化させることとしたが、中塗り硬化工程6に代えて、中塗り塗膜層103に含まれた溶剤分を蒸発させるためのプレヒート工程を設け、続くメタリックベース塗膜層104とウェットオンウェットで塗装しても良い。このプレヒート工程では、未硬化の中塗り塗膜層103を、ランプや熱風送風機を用いて中塗り塗料の硬化温度より低い温度で加熱する。
【0021】
中塗り硬化工程6にて硬化した中塗り塗膜層103が形成されたら、次のメタリックベース塗装工程7にて中塗り塗膜層103の表面にメタリックベース塗料を塗布する。
【0022】
ここで、本例で使用するメタリックベース塗料は、塗料基材を、蒸発速度が相対的に速い中沸点希釈溶剤及び蒸発速度が遅い高沸点溶剤の組み合わせで、固形分が1〜10重量%となるように希釈した塗料であり、塗料基材は、固形分中、10〜30重量%の光輝材と、10〜50重量%のセルロースアセテートブチレート樹脂(分子量25000〜50000)と、残量としてのアクリル−メラミン樹脂を含有する。また、上記成分以外に、塗膜形成要素としての顔料や可塑剤、硬化剤、表面調整剤、沈降防止剤、付着付与剤、タレ防止剤などの添加剤を含んでもよい。
【0023】
なお、この塗料基材において、光輝材、セルロースアセテートブチレート樹脂(以下、CAB樹脂ともいう。)及びアクリル−メラミン樹脂は不揮発性固形分であって塗膜形成要素として機能し、CAB樹脂はいわゆる粘性樹脂として機能する。
【0024】
本例に係るメタリックベース塗料の塗料基材に含まれる光輝材としては、パール顔料や金属フレークを挙げることができ、特に蒸着法で得られる金属フレークが代表的であるが、反射性の良好さから蒸着アルミニウムフレークを用いることが好適である。
【0025】
このような光輝材は典型的には鱗片状をなすが、その大きさは最大長部位が10〜100μm、厚さが0.01〜0.2μmであることが好ましい。最大長部位が10μm未満では充分な反射が得られないことがあり、100μmを超えると塗料循環装置における光輝材の沈降性に問題が生じることがある。一方、厚さが0.01μm未満では塗料循環での形状安定性に劣ることがあり、0.2μmを超えると光輝材一枚あたりの重量が重くなり、たとえばアルミフレーク自体の枚数が制限されることがある。
【0026】
なお、光輝材の配合量は、塗料基材の10〜30重量%である。10重量%未満では光輝材表面の面積が小さく充分な光の反射が得られないことがあり、30重量%を超えると光輝材の量が多いため塗料循環時に光輝材の沈降等の問題が生じることがある。
【0027】
CAB樹脂は、いわゆる粘性樹脂として機能し、塗着後に希釈溶剤が蒸発するにしたがって粘性を強く発現する。このように、塗着した塗料の溶剤成分が蒸発するにつれて粘性樹脂の粘性が発現するので、平行に配置された光輝材の流動が抑制され、これにより金属に近い外観を有する塗装が得られ易くなる。
【0028】
CAB樹脂の分子量としては、25,000〜50,000のものを用いるが、なかでも25,000〜35,000が好ましく、26,000〜34,000が更に好ましく、28,000〜32,000が一層好ましい。CAB樹脂の分子量が25,000未満では、塗膜粘度が低く光輝材の配向が乱れてしまう。また、50,000を超えると粘度が高すぎて光輝材が充分に配向できない。
【0029】
なお、CAB樹脂の配合量は、塗料基材の10〜50重量%である。10重量%未満では充分な粘性を発現できず、50重量%を超えると塗膜を硬化させるアクリル−メラミン樹脂が相対的に少なくなって塗膜密着性などの充分な性能が発揮できなくなる。
【0030】
アクリル−メラミン樹脂は、主に塗膜を硬化させるものとして機能する。アクリル−メラミン樹脂の配合量は、塗料基材の残量、すなわちこれに上述の光輝材とCAB樹脂を合算したものが100重量%となるような量とする。
【0031】
なお、本例において、塗料基材には上述のような成分以外にも塗膜形成要素としての顔料や可塑剤、硬化剤、表面調整剤、沈降防止剤、付着付与剤及びタレ防止剤などの添加剤を添加することも可能であるが、この場合もアクリル−メラミン樹脂の配合量は、他の全ての成分とこのアクリル−メラミン樹脂とを合算したものが100重量%となるような量でよい。
【0032】
中沸点溶剤及び高沸点溶剤は、上述した塗料基材の希釈剤として機能するが、中沸点溶剤とは、沸点が100〜150℃であって酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が50〜250の希釈溶剤をいい、具体的にはトルエン、酢酸−2−メチルプロピル、酢酸ブチルなどを主成分とするシンナーを挙げることができる。また、高沸点溶剤とは、沸点が150℃以上であって酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が0.01〜50の希釈溶剤をいい、具体的にはエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテートなどを主成分とするシンナーを挙げることができる。
【0033】
上述したように、本例のメタリックベース塗料は上記塗料基材をこの中沸点溶剤及び高沸点溶剤で希釈したものであり、なかでも高沸点溶剤の添加量は、メタリックベース塗料が塗着してから1分後の塗着NV値が25〜30重量%となることを目安とする。
【0034】
本例では、蒸発速度の速い中沸点溶剤にて塗料基材を希釈する一方で、塗着してから1分後の塗着NV値を低くしてウェット状態を維持するために蒸発速度が遅い高沸点溶剤を、希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%添加する。蒸発速度が遅い高沸点溶剤を添加することで、飛行中の塗料粒子からの溶剤蒸発量が抑制されるので塗着NV値が低くなる。また、塗着してから一定時間の間は、ウェット状態を維持することになるので、その間に降りかかった自己ダストはウェットな塗膜に良く馴染む。これにより、自己ダストによる艶引けやチカチカ感の発生を防止することができる。なお、中沸点〜高沸点溶剤の含有量が22.5重量%を超えると塗着NVが低くなり過ぎてタレが発生することがあり、20重量%未満では塗着NVが高すぎて自己ダストによる不具合を解消できない。
【0035】
本例のメタリックベース塗膜層104は、上述したメタリックベース塗料を用いて形成され、10〜30重量%の光輝材と、10〜50重量%のCAB樹脂と、残量としてのアクリル−メラミン樹脂を含み、FI値がたとえば19以上のものである。
【0036】
ここで、FI値とは、X−Rite社のメタリック感指標であり、具体的には次式(1)で定義される。
【0037】
(数1)
FI=2.69{(L15°−L110°1.11/(L45°0.86…(1)
式(1)において、L15°,L110°,L45°は、JISに規定される標準光源D65を光源とし、平板状の塗膜表面にそれぞれ15°、45°及び110°の角度で入射させた際の反射光の強度を示す。
【0038】
本例のメタリックベース塗膜層104は、このFI値が19以上であり、21以上が更に好ましい。FI値が19未満では意匠性に富んだ金属感の反射が得られない。
【0039】
メタリックベース塗料を塗装するには、従来公知の回転霧化式ベル型塗装機を用いることができ、その場合、シェーピングエアー流量を400〜800Nl/minとすることが好ましく、これにより塗料粒子の飛行速度を確保し、塗着時の塗料粒子変形エネルギーを充分に付与することができる。シェーピングエアー流量が400Nl/min未満では塗料粒子の変形エネルギーが不充分となることがあり、800Nl/minを超えると塗装機側のエアー供給対応が難しくなる。
【0040】
図1に戻り、中塗り塗膜層103の表面にメタリックベース塗料を塗布し未乾燥のメタリックベース塗膜層104を形成したら、当該メタリックベース塗膜層の塗着NV値が80重量%以上になるまで、80℃の温風を約1分程度、被塗物に吹きつけるプレヒートを実施する(プレヒート工程8)。このプレヒート工程8では、先に説明した高沸点溶剤を比較的多量に含有することから、クリヤ塗装前に蒸発速度の遅いこの種の溶剤を半強制的に蒸発させるためである。したがって、メタリックベース塗料の硬化温度以下の温度であれば、塗着NV値が80重量%以上になることを目安としてプレヒート条件を設定すればよい。
【0041】
メタリックベース塗膜層104の塗着NVが80重量%以上に達したら、このメタリックベース塗膜層104の表面に、次のクリヤ塗装工程9にてクリヤ塗料を塗布する。
【0042】
クリヤ塗料は、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩ビ酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂などを主成分とし、これに各種添加剤を添加してなる熱硬化型塗料又は常温硬化型塗料もしくは2液硬化型塗料であって、この塗料を溶剤で希釈したものを、クリヤ塗装工程9においてスプレー塗装ガンや回転霧化式塗装ガンなどの塗装機を用いてメタリックベース塗膜層104の表面に塗装する。これにより透明のクリヤ塗膜層105が形成される。自動車ボディの仕様や部位によっても相違するが、クリヤ塗膜層105の膜厚はたとえば10〜40μmである。なお、本例に係るクリヤ塗料は水系塗料及び有機溶剤系塗料の何れをも用いることができる。
【0043】
クリヤ塗料を塗布したら、数分の静置(セッティング)を経たのちボディを上塗り硬化工程10に搬入し、先に塗布して形成したメタリックベース塗膜層104及びクリヤ塗膜層105を、同時に、たとえば120℃〜160℃で10分〜30分焼き付ける。
【0044】
以上により、自動車ボディ101の表面に、電着塗膜層102、中塗り塗膜層103、メタリックベース塗膜層104及びクリヤ塗膜層105の各硬化塗膜が形成される。
【0045】
図3は、本実施形態に係る上塗り塗装ブース70A及び上塗り乾燥炉10Aを示す平面図であり、被塗物である自動車ボディ101は図の左から塗装ブース70A内に搬入され、フロアコンベアによって図の右方向に定速で搬送される。上塗りブース70Aと上塗り乾燥炉10Aとの間のスペースは上塗り塗料を塗布した後のセッティング室(静置室)である。
【0046】
上塗り塗装ブース70Aの入口にはボディ101のワイピングを行うための準備室が設けられ、その次に、ボディ101の主として水平部を塗装するためのレシプロ塗装機とボディ101の主として垂直部を塗装するための左右一対のレシプロ塗装機とを有する上塗り塗装機7Aを2ステージ配設されている。なお、上塗り塗膜がソリッド系塗膜である場合にはこのメタリックベース塗装工程7の塗装機7Aは回送となる。
【0047】
メタリックベース塗装機7Aの後にプレヒート工程8Aが設けられ、メタリックベース塗膜層104に含まれた溶剤分を蒸発させ、塗着NVを80重量%以上にするために自動車ボディ101を加熱する。このプレヒート工程8Aでは、ランプや熱風送風機などの熱源を用いて自動車ボディ101の水平部や垂直部を、メタリックベース塗料の硬化温度より低い温度で加熱する。
【0048】
続くクリヤ塗装工程9は、同図に示すようにボディ101の主として水平部を塗装するためのレシプロ塗装機とボディ101の主として垂直部を塗装するための左右一対のレシプロ塗装機とを有する上塗り塗装機9Aを2ステージ配設することで構成されている。
【0049】
図4に、メタリックベース塗装手段(塗料供給装置)の一例を示す。中沸点溶剤にて調合されたメタリックベース塗料は塗料タンク712に収容され、塗料配管を介して塗料ポンプ713にて塗装ガン711へ圧送される。また、この塗料配管の途中に、流量制御弁716と流量計718が設けられている。この流量制御弁716は流量計718で測定された実際のメタリックベース塗料の流量に基づいて混合器720へ流れるメタリックベース塗料の流量をフィードバック制御する。なお、塗料ポンプ713で圧送されたメタリックベース塗料の流量が多いときは流量制御弁716から戻り配管を介して塗料タンク712へ中塗り塗料が戻される。
【0050】
一方、上述した混合器720には、溶剤タンク714に収容された高沸点溶剤も供給され、塗料タンク712のメタリックベース塗料と所定量の高沸点溶剤とを混合器720にて混合したのち塗装ガン711へ圧送される。
【0051】
溶剤タンク714に収容された高沸点溶剤は、塗料配管を介して塗料ポンプ715により混合器720へ圧送されるが、この塗料配管の途中にも流量制御弁717と流量計719が設けられている。この流量制御弁717は流量計719で測定された実際の高沸点溶剤の流量に基づいて混合器720へ流れる高沸点溶剤の流量をフィードバック制御する。なお、塗料ポンプ715で圧送された高沸点溶剤の流量が多いときは流量制御弁717から戻り配管を介して溶剤タンク714へ高沸点溶剤が戻される。
【0052】
以上、本発明の塗装方法の実施形態を説明したが、より具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
《実施例1》
従来公知の電着塗料を用いて鋼板101に電着塗装を施し、20μmの電着塗膜層102を形成した。この電着塗膜層102の表面に、中塗り塗料としての、ポリエステル−メラミン樹脂系中塗り塗料(日本ペイント社製)を30μm塗布し、140℃、20分の条件で焼き付けた。
【0054】
次いで、メタリックベース塗料として、日本ペイント社製アクリル−メラミン樹脂79重量%、蒸着アルミペースト12重量%及びCAB樹脂(381−0.5)9重量%からなる塗料基材を、トルエン、酢酸−2−メチルプロピル、酢酸エチルで配合した中沸点溶剤(沸点110℃、蒸発速度231(酢酸ブチルを100とする))にて300重量%で希釈したものに、さらに高沸点溶剤としての3−メトキシブチルアセテート(沸点171℃、蒸発速度34)を20重量%添加した。このメタリックベース塗料を、上述した中塗り塗膜層103の表面に6μm塗布した。塗装には、回転霧化式ベル型塗装機(ABBメタリックベル型,カップ径φ=70mm)を用い、回転数25000rpm、シェーピングエアー流量700Nl/min、吐出量150ml/min、印加電圧−60kV、塗装線速度54m/min、塗り重ね回数4回で塗装した。
【0055】
未乾燥のメタリックベース塗膜層104を、40〜80℃の温風雰囲気に1分間入れたのち、有機溶剤系クリヤ塗料(日本油脂社製ベルコートNo.7300)を、回転霧化式ベル型塗装機を用いて、回転数25,000rpm,シェーピングエアー300Nl/分,吐出量200cc/分,印加電圧−80kV,ガン距離20cmの条件にて、1ステージで塗装した。
【0056】
これらメタリックベース塗膜層104及びクリヤ塗膜層105を140℃で20分間焼き付けた。
【0057】
得られた積層塗膜のFI値をX−Rite社製MA68測定器で測定するとともに、艶引け状態及びチカチカ感の有無を目視で観察した。この結果を表1に示す。
【0058】
《比較例1》
メタリックベース塗料に、実施例1における高沸点溶剤3−メトキシブチルアセテートを添加せず、また未硬化のメタリックベース塗膜層104のプレヒートに代えて3分間の室温放置としたこと以外は、実施例1と同じ条件で塗装した。この結果を表1に示す。
【0059】
《比較例2》
未硬化のメタリックベース塗膜層104のプレヒートに代えて3分間の室温放置としたこと以外は、実施例1と同じ条件で塗装した。この結果を表1に示す。
【0060】
《比較例3》
メタリックベース塗料に、実施例1における高沸点溶剤3−メトキシブチルアセテートを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で塗装した。この結果を表1に示す。
【表1】

【0061】
表1の結果から明らかなように、メタリックベース塗料に高沸点溶剤としての3−メトキシブチルアセテートを添加し、またプレヒートを実施すると(実施例1)、比較例1に比べてFI値も格段に向上し、また艶引けやチカチカ感の発生も観察されなかった。
【0062】
また、高沸点溶剤の添加とプレヒートの何れかが実施されないと(比較例2及び3)、FI値も劣り、またクリヤ塗膜層によるメタリックの戻りムラが発生する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の塗装方法の実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明の塗装方法の実施形態により得られる積層塗膜を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る塗装方法を実施する上塗り工程の一例を示す平面図である。
【図4】本発明に係るメタリックベース塗装手段の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1…前処理工程
2…電着塗装工程
3…電着水洗工程
4…電着硬化工程
5…中塗り塗装工程
6…中塗り硬化工程
7…メタリックベース塗装工程
8…プレヒート工程
9…クリヤ塗装工程
10…上塗り硬化工程
101…自動車ボディ(被塗物)
102…電着塗膜層
103…中塗り塗膜層
104…メタリックベース塗膜層
105…クリヤ塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装粘度に希釈した状態で中沸点〜高沸点の希釈溶剤を希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%含有するメタリックベース塗料を用いて被塗物の表面に直接又は間接的にメタリックベース塗膜層を形成するメタリックベース塗装工程と、
前記未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまで当該メタリックベース塗膜層を加熱するプレヒート工程と、
クリヤ塗料を用いて前記メタリックベース塗膜層の表面にクリヤ塗膜層を形成するクリヤ塗装工程と、
前記メタリックベース塗膜層及び前記クリヤ塗膜層を同時に焼き付ける上塗り硬化工程とを有することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記中沸点〜高沸点の希釈溶剤の添加量は、メタリックベース塗料が被塗物に塗着してから1分後の塗着固形分が25〜30重量%となる添加量であることを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記中沸点の希釈溶剤は、100〜150℃の沸点を有する溶剤であり、前記高沸点の希釈溶剤は、150℃以上の沸点を有する溶剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装方法。
【請求項4】
前記希釈溶剤が、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート又はこれらの混合溶剤であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗装方法。
【請求項5】
前記メタリックベース塗料の固形分基材が、光輝材10〜30重量%と、セルロースアセテートブチレート樹脂10〜50重量%と、残量としてのアクリル−メラミン樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の塗装方法。
【請求項6】
塗装粘度に希釈した状態で中沸点〜高沸点の希釈溶剤を希釈塗料全体に対して20〜22.5重量%含有すメタリックベース塗料を用いて被塗物の表面に直接又は間接的にメタリックベース塗膜層を形成するメタリックベース塗装手段と、
前記未硬化のメタリックベース塗膜層の塗着固形分が80重量%以上になるまで当該メタリックベース塗膜層を加熱するプレヒート手段と、
クリヤ塗料を用いて前記メタリックベース塗膜層の表面にクリヤ塗膜層を形成するクリヤ塗装手段と、
前記メタリックベース塗膜層及び前記クリヤ塗膜層を同時に焼き付ける上塗り硬化手段とを有することを特徴とする塗装システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−181501(P2006−181501A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378902(P2004−378902)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】