説明

メラトニン、および術後合併症の防止におけるその使用

本発明は単独であるか、またはL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との組み合わせのいずれかであるメラトニンの、医薬組成物、および、術後感染性および非感染性合併症、または虚血/再潅流の治療的処置、予防的処置および/または防止を目的とした薬物製造のための使用に関し、ここで、該感染性合併症は肺炎、創傷感染(創傷裂開)、腹腔内膿瘍、および尿路感染(UTI)であってよく、あるいは非感染性合併症は吻合部漏出であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、待機的および緊急事態処置の両方をカバーする主要な外科的介入により誘発される術後感染性および非感染性合併症を、防止または予防的に処置するため、手術前に患者に治療的に投与することができる薬物の製造のためのメラトニンの使用に関する。
【0002】
メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)は専ら松果体によって産生され、そして分泌される、ホルモン産物である。メラトニンは脊椎動物の概日周期および睡眠-覚醒周期に関与する。メラトニンは。その主要な睡眠誘導機能の他に、免疫調節活性および抗酸化作用も公知である。実際、メラトニンはおそらく、現在公知の最も強力な内因性フリーラジカル捕捉剤である。
【0003】
いくつかのフリーラジカルおよび活性酸素種を直接無効にする能力以外に、それはいくつかの抗酸化酵素を刺激して、酸化防止剤としての効力を高める。
【0004】
直接的なフリーラジカル捕捉作用の点では、メラトニンは、別の非常に有効なヒドロキシルラジカル捕捉剤の速度定数で、非常に毒性の高いヒドロキシルラジカルと相互作用する。さらに、メラトニンは過酸化水素、一重項酸素、ペルオキシナイトライトアニオン、一酸化窒素および次亜塩素酸を無効にする。以下の抗酸化酵素はメラトニンにより刺激される:スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼおよびグルタチオンレダクターゼ。フリーラジカルおよび活性酸素メカニズムにより組織を傷害する多様な過程および物質に対抗する保護物質として、メラトニンは広く使用することができる。
【0005】
手術事例を扱う技術の改善にもかかわらず、術後感染性および非感染性合併症ならびに関連する医学的処置の経費はいずれの医療システムにとっても大きな負担であり続けている。手術に誘発される免疫および炎症系の変化は十分に説明されていて、術後合併症の発生に役割を果たしている可能性がある。過度の炎症反応およびそれに伴う重大な損傷(離れた臓器、すなわち肺においてもみられる酸化的組織傷害、;微小血管漏出;好中球-内皮接着)が、とりわけ内臓組織における組織虚血およびそれに続く再潅流の結果生じることは認識されている。輸血および/または出血と一緒になったこの過度の炎症反応は、免疫系の抑制に貢献する。
【0006】
メラトニンの術前投与については、British Journal od Anesthesia 1999, 82(6): 875-80に、舌下様式での低容量の経口メラトニン投与が、全身麻酔薬を投与する前の効果的な前投薬であることが記載されている。
【0007】
さらに、US-A-6,552,064は全身麻酔誘導のためのメラトニンの使用を記載する。
【0008】
J Biol Regul Homeost Agents 1995; 9: 31-33では、メラトニンと組み合わせた低用量のインターロイキン-2の術前処置の免疫効果が記載される。この神経免疫療法は癌患者の手術誘発リンパ球減少を無効にできると結論されている。
【0009】
Best Practice & Research Clinical Endocrinology and Metabolism 2003; 17: 273-285に公表された総説では、生物時計(睡眠、時差ぼけ)、免疫機能および癌増殖に影響を与えることに関する臨床的および潜在的使用が記載される。さらに、新規に発見されたフリーラジカル捕捉および抗酸化活性の説明も包含される。メラトニンが使用されて有益な効果を示した臨床的状況のリストが包含され、検討されている。
【0010】
J Surg Res 1996; 65: 109-114では、敗血症性攻撃に曝されたマウスにおいて、手術誘発出血性ショック後の短期間メラトニン投与が著しく生存を改善したことが記載される。
【0011】
J Pineal Res 2002; 32: 168-172では、ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいて、メラトニン前処理が脳梗塞容積を減少させることが認められた。
【0012】
J Pineal Res 2003; 35: 104-108では、心肺バイパス手術を受けている患者の赤血球で行われたin vitro試験に基づいて、手術により誘発された酸化ストレスに対抗するメラトニンの治療的使用が提案されている。
【0013】
J Pineal Res 2003; 34: 260-264に記載のように、好中球アポトーシスは術前状態に比較して肝切除後に遅延する。メラトニンは、in vitroでこの遅延過程を無効にし、好中球におけるアポトーシス機能を促進することができる。
【0014】
J Pediatr Surg 2004; 39: 184-189では、手術を受けている奇形新生児のメラトニン処置が炎症の臨床パラメータを次第に減少させることが見出された。処置は手術後3時間以内に開始された。
【0015】
しかし、これらの刊行物はいずれも感染性術後合併症に対するメラトニンの効果に関連も示唆もしていない。
【0016】
抗生物質による予防的処置により感染性術後合併症を処置することは公知である。しかし、手術処置直前、または処置中の抗生物質による予防的処置にもかかわらず、感染性術後合併症は発生し、これまで術後の回復期間中、それらの発生が処置されてきた。
【0017】
さらに、術後合併症のリスクおよび重症度を軽減させるための具体的な栄養性製剤の術前適用による方法についていくつかの記載があり、それに従って、患者は計画された手術処置前に準備することができる。
【0018】
特許US-A-5,656,608では、手術前少なくとも3日間、治療的に有効な量のアミノ酸類、グリシン、アラニンおよびセリンの適用による、エンドトキシン血症処置のための方法が記載される。
【0019】
特許US-A-5,731,290では、L-アルギニン、L-オルニチンまたはそれらの前駆体と組み合わせた、免疫刺激量のオメガ-3-脂肪酸を含有する食物サプリメントの術前適用による、手術処置後に免疫反応を改善する方法が開示される。サプリメントは少なくとも手術前3日間与えることができる。
【0020】
WO-A-96/25,861は、手術処置を受けている患者におけるエンドトキシン血症を軽減するための薬物または栄養製剤を製造するための、グリシンおよびグリシン前駆体、アラニンおよびセリンの使用を記載する。術前投与は、手術前少なくとも3日の期間が必要とされる。
【0021】
WO-A-99/62,508から、出血性ショック処置のための薬物を製剤するためにグリシンを使用できることは公知であり、さらにそのような製剤の術前使用が記載される。
【0022】
US-A-5,902,829では、L-アルギニン、その前駆体の1種またはNO-シンターゼの基質として適切な別のNO-ドナーの術前投与により微小循環に影響を与える方法が記載される。術前投与は少なくとも1日以上、行われる。
【0023】
US-A-6,013,273は、適切な量のコリンの使用によりエンドトキシンショックを処置する方法を記載し、かかる量のコリンは手術前少なくとも1日以上、しかし通常手術前1〜6日間投与される。
【0024】
先に述べた処置のすべてに共通の特徴は、それらのすべてが、実際の手術処置の少なくとも1日以上前に開始しなければならないという事実である。しかし、そのような方法は緊急事態、すなわち、1日以上の前処置の時間をとることができず、即刻の手術処置が必要な外傷患者の処置にはふさわしくない。
【0025】
この先行技術を考慮すると、本発明の基礎をなす課題は、主要な外科的介入により誘発される術後感染性および非感染性合併症を防止するか、または予防的もしくは治療的に処置する目的で、数時間〜数分以内で、患者の短時間術前処置を可能にし、緊急事態処置も包含する方法を提供することである。それにもかかわらず、本発明はまた、24時間以上の長い術前期間中のこの方法の使用を包含する。
【0026】
この課題の解決は、待機的および緊急事態処置の両方を包含する外科的介入により誘発される、術後感染性および/または非感染性合併症の積極的または治療的処置、予防的処置および/または防止を目的とした薬物製造のためのメラトニンの使用である。予防的処置は、感染性および非感染性合併症の防止および予防の両方を包含する。
【0027】
本発明のとりわけ好ましい態様では、薬物の製造のためのメラトニンの使用は、外科的介入の前にメラトニンを投与することによる予防的処置および/または防止を目的としたものである。
【0028】
本発明はさらに、手術によって誘発される、感染性または非感染性術後合併症の防止および/または予防的処置を目的として、手術誘発虚血/再潅流損傷を防止および/または改善するために有効な量で、外科的処置の前にヒトに投与されることになる、メラトニン単独、またはL-アルギニンもしくは生理的に受容できるその塩と組み合わせたメラトニンの使用を提供する。
【0029】
外科的介入は好ましくはヒトまたは動物のような哺乳動物、とりわけヒトに行われる。
【0030】
外科的介入には、好ましくは臓器の虚血/再潅流を含むすべての手術が包含される。外科的介入は、待機的手術処置および緊急事態処置として定義する。そのような待機的(elective)手術処置の例としては、腹腔鏡法を含む上部および下部消化管の手術、人工心/肺装置を伴う、または伴わない開心手術、鼻および咽喉手術、血管手術、神経学的(脳)手術、移植手術(肝臓、心臓、肺、腎臓、腸)、肝臓手術ならびに帝王切開が挙げられる。緊急事態処置の例としては、一般の外傷手術および敗血症性病巣の処置を目的とした手術が挙げられる。
【0031】
手術の型はDindo et al. Annals of Surgery, Vol. 240. No. 2, August 2004, 205〜213ページの208ページに記載のように分類することができる。手術型Aには、ヘルニア修復のような、腹腔開口のない手術処置、軟部組織手術、甲状腺手術およびリンパ節切除が挙げられる。手術型Bには、肝臓手術以外の腹部処置、および後腹膜腔の主要手術、たとえば胃、小腸および結腸手術、脾臓摘出および胆嚢切除が挙げられる。手術型Cには、肝臓手術、食道、膵臓、直腸、および後腹膜腔への手術が挙げられる。外科的介入は、好ましくは手術型Bおよび/またはCから選択され、とりわけ、外科的介入は胃、小腸および結腸手術、脾臓摘出、胆嚢切除、肝臓手術、食道、膵臓、直腸、および後腹膜腔への手術から選択される。
【0032】
外科的介入は、好ましくは、介入が必要なヒトのような哺乳動物に行われる。そのような外科的介入が必要なヒトの例としては、たとえば食道、膵臓、胃、上部および下部腸、結腸および/または直腸において新生物に罹患している患者が挙げられる。
【0033】
感染性合併症は、好ましくは肺炎、創傷感染(創傷裂開)、腹腔内膿瘍、および尿路感染(UTI)からなる群から選択され、非感染性合併症は好ましくは吻合部漏出である。
【0034】
さらに好ましい態様では、術後感染性および/または非感染性合併症は、Dindo et al. Annals of Surgery, Vol. 240. No. 2, August 2004, 205〜213ページの206ページの表1で定義され、207ページの表2に臨床例がある、第II期およびIII期合併症から選択される。
【0035】
第II期合併症は、好ましくは、Dindo et al. Annals of Surgery, Vol. 240. No. 2, August 2004, 205〜213ページで定義したように、第I期合併症を処置するために通常使用される、制吐剤、解熱剤、鎮痛剤、利尿剤、ならびに電解質、輸血および経静脈栄養とは異なる薬物による、薬理学的処置を必要とする合併症の群から選択される。第II期合併症の例は、心拍数制御のためにベータ-受容体アンタゴニストを必要とする頻脈性不整脈のような心臓合併症、抗生物質で処置される肺炎(たとえば病棟で)のような呼吸器合併症、抗凝固薬による処置を必要とするTIA(一過性虚血発作)のような神経学的合併症、抗生物質を必要とする感染性下痢のような消化管合併症、および抗生物質による処置を必要とするいずれかの合併症のようなその他の合併症から選択される。
【0036】
第III期合併症は好ましくは外科的、内視鏡的または放射線医学的介入を必要とする合併症から選択される。第III期合併症はさらに2つの群、第IIIa期と第IIIb期に下位区分することができる。第IIIa期は全身麻酔下で行わない介入を必要とし、第IIIb期は全身麻酔下で行われる介入を必要とする。第IIIa期合併症の例としては、局所麻酔下でペースメーカー移植を必要とする徐脈性不整脈のような心臓合併症、虚血性発作/脳出血のような、神経学的合併症、経皮的ドレナージを必要とする肝臓切開後の胆汁性肝嚢胞(biloma)のような消化管合併症、ステント療法で処置した腎臓移植後の尿管狭窄のような腎臓合併症、および局所麻酔下での裂開非感染性創傷の閉鎖のようなその他の合併症が挙げられる。第IIIb期合併症の例としては、外科的閉鎖を必要とする胸部手術後の心臓タンポナーデ(temponade)のような心臓合併症、虚血性発作/脳出血のような神経学的合併症、再腹壁切開(relaparotomy)を必要とする下行外側切開(descendorectostomy)後の吻合部漏出のような、消化管合併症、手術により処置された腎臓移植後の尿管狭窄のような腎臓合併症、および小腸の少ない内臓脱出を導く創傷感染のようなその他の合併症が挙げられる。
【0037】
具体的なとりわけ好ましい態様では、外科的介入はB型および/またはC型手術の群、最も好ましくは、虚血/再潅流となる手術処置から選択され、そして術後合併症は第II期および/またはIII期、最も好ましくは抗生物質による処置を必要とするもの(肺炎、尿路感染)、または全身麻酔下またはそれを用いずに、外科的、内視鏡的もしくは放射線医学的介入を必要とするものから選択される。
【0038】
したがって、好ましい側面では、本発明は外科的介入によって誘発される、術後感染性および/または非感染性合併症の治療的処置、予防的処置および/または防止を目的とした薬物製造のためのメラトニンの使用に関し、ここで外科的介入はB型および/またはC型手術から選択され、術後合併症は第II期および/またはIII期から選択される。この態様の場合、処置はとりわけ、予防的処置および/または防止が好まれ、そしてメラトニンは外科的介入の前に投与される。
【0039】
より具体的には、本発明に記載の予防的処置は、これらの感染および吻合部漏出の発生率をかなりの程度まで減じ、それが依然として発生する場合には、そのような感染の重症度を改善する。
【0040】
本発明に従って、とりわけ、用量依存的様式のメラトニンの術前適用は、ラットにおける部分的肝臓切除の目立った影響、すなわち手術によって誘発される実質的な肝傷害を示す肝酵素(ALT、AST)の上昇を、阻止および/または改善することが見出されている。メラトニンはさらに、部分的肝臓切除下で観察される肝組織低酸素症の進行を軽減する。また、メラトニンは肝臓の虚血/再潅流後の壊死の程度を減じる。したがって、メラトニンの術前適用は肝臓の部分的切除により生じた肝傷害に対して目立った保護作用を有することは明らかである。
【0041】
とりわけ好ましい態様では、メラトニンは術後合併症の積極的または治療的処置、予防的処置および/または防止、最も好ましくは術後合併症の予防的処置および/または防止を目的とした唯一の治療的に有効な物質として使用される。メラトニンは好ましくはIL-2のような免疫刺激薬、L-アルギニンおよび/またはゲンタマイシンのような抗生物質と付随した投与では使用されない。
【0042】
使用されるメラトニンの量は、好ましくは、0.1〜1000mg/日、とりわけ1〜500mg/日、より好ましくは5〜500mg/日、さらにより好ましくは5〜100mg/日、そして最も好ましくは50〜100mg/日である。組成物、製剤および本発明の方法において使用する場合、メラトニンは好都合には乾燥した(粉末にされた)形状で使用される。また、メラトニンは本発明に従って濃縮溶液の形状で使用してもよい。0.1〜1000mg/日の量は1日投与量0.002〜10mg/kg体重(体重範囲50〜100kg)に相当する。投与されることになる薬物または製剤の量は、患者の具体的な必要条件に大部分は依存する。
【0043】
薬物は好都合には1日につき1〜3回の製剤の投与に適した単位投与量の形状で投与されることになる。本発明の経口製剤がエネルギー源を含有する場合、100Kcal/日以上を供給しないことが適切である。エネルギー供給に関するこの制約とは別に、術後合併症を防止および/または処置するための本発明の経口製剤は好都合には飲用液の形状で供給されることになる。
【0044】
好ましくは、薬物はさらにL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される化合物、より好ましくはL-アルギニンを含有する。
【0045】
生理的に受容できるL-アルギニンの塩は、好ましくはりん酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、アジピン酸塩、フマル酸塩、水和物などである。一酸化窒素の合成に関連する生理的に受容できる化合物は、好ましくはトリニトログリセリド、ニトロプルシッド、アミノグアニジン、スペルミン-NO、スペルミジン-NOおよびSIN1(3-モルホリノシドノンイミン)である。
【0046】
薬物は、経口的、腸溶的、経皮的または非経口的に患者に投与することができる。経口投与経路がとりわけ予防的処置に好ましい。薬物または製剤は、好都合には、水性飲用液、錠剤、硬または軟ゼラチンカプセルもしくは別の製剤の形状で、または経口投与のための製剤の形状で投与される。経口適用に適切な形状の薬物または製剤は、従って水性または軟ゼラチンカプセル型が好ましい。本発明の薬物または製剤は、遅効性の形状でメラトニンを送達するように製剤することができる。
【0047】
薬物が静脈内適用を意図する場合、非経口製剤が好ましい。静脈内投与のための典型的な薬理学的に受容できる製剤型はさらに、そのような製剤に混和するために適した、当業者に公知の薬理学的に受容できる希釈剤、キャリア、マイクロエマルジョン、色素および/またはその他のアジュバント、そして場合により術前予防に適切な抗生物質を含有することになる。
【0048】
本発明の製剤(galenic formulations)は、それ自体公知の方法で、たとえば成分を混合することにより得ることができる。
【0049】
本発明の製剤の静脈内投与は、単回注射適用として、または感染予防に日常的に使用される抗生物質(第3世代セファロスポリン系薬剤1.5g)と組み合わせた単回注射適用として投与することができる。手術時間が4時間より長いか、または1リットルより多い手術時失血がある場合、メラトニン、または抗生物質と組み合わせたメラトニンの2回目の投薬を行うことができる。
【0050】
薬物は好ましくは、術後合併症の予防的処置、および/または防止を目的とした外科的介入前約24時間未満、より好ましくは約6時間未満、とりわけ約3時間未満、より好ましくは約2時間未満、最も好ましくは約1時間未満に適用される。外科的介入前約3〜1時間未満でのメラトニンの使用は上記の利点を有するという発見から、この使用はとりわけ緊急事態、すなわち外科的介入が計画されていない場合の適用に適切である。
【0051】
また、本発明はメラトニンと、L-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する医薬製剤に関する。
【0052】
医薬製剤中のメラトニンの量は先に記載のとおりである。L-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の別の生理的に受容できる化合物またはその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の量は、好ましくは単位投与量単位、たとえば錠剤、軟ゲルカプセル剤につき、または飲用液1mlにつき0.1〜1000mg、好ましくは0.5〜500mgである。メラトニンと、L-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の別の生理的に受容できる化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の比は、好ましくは1:20〜5:1である。
【0053】
医薬製剤は経口、腸溶、経皮または非経口製剤の形状をとってもよい。医薬製剤は、好ましくは先のメラトニンの使用に関連して記載のように使用される。
【0054】
本発明はさらに、待機的および緊急事態処置の両方をカバーする(主要な)外科的介入により誘発される、術後感染性および非感染性合併症の防止または予防的処置を目的とした方法に関し、該方法は手術によって誘発される術後合併症を阻止および/または改善するために有効な量で、メラトニン単独、またはL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する少なくとも1種の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される化合物と組み合わせたメラトニンを含有する薬物を、手術処置の前にヒトに投与することを含む。好ましい態様はメラトニンの使用に関して先に記載のとおりである。
【0055】
試験手順
過度の出血を防止するために血管をクランプで締めることにより誘発される臓器および組織の虚血およびそれに続く再潅流は手術処置中に回避することができない。そのような標準の虚血/再潅流状況は、臨床的に適切なラット手術モデルにおける部分的肝切除によってシミュレーションすることができる。
【0056】
この動物モデルでは、雌Sprague Dawleyラット(200〜220g)は正中開腹手術を受け、その後右側部肝葉の20分間クランピングにより臓器全体の約30%に低酸素症を来す。虚血組織の再潅流後、残存する約70%の肝臓の非虚血中央および左側部肝葉を手術により除去し、手術による切開を閉鎖する。最大で7日間の追跡調査中、虚血/再潅流の影響を肝傷害および生存に関して観察する。
【0057】
このラットモデルでは、開腹術実施による手術外傷が肝臓の初めの低酸素症を誘発する。その後の肝臓への血液供給の部分的クランピングおよび広範囲に及ぶ肝臓組織の部分的切除がそれ以上の虚血を生じる。その後の再潅流中に、肝臓組織に対する事実上のフリーラジカル誘発傷害が発生する。肝臓の残存部分の領域の多くの肝臓組織細胞にとってのこの事実上の傷害は、ここで部分的肝臓切除後の種々の時点での肝トランスアミナーゼ類、アルカリ性ホスファターゼのような酵素の放出により測定される。
【0058】
手術2時間前に、メラトニン-含有水溶液の胃管投与により、胃にメラトニンを術前適用すると、対照動物(メラトニンを含有しない水性対照溶液を胃管投与)で観察される、先に述べた酵素活性の大幅な上昇が、用量依存的様式で改善される。
【0059】
同様に、メラトニンの術前処置の結果として7日後の生存の増加が認められる。
【0060】
介入は以下の実施例によってさらに詳しく説明されるが、それは特許請求の範囲の発明をいずれの点でも限定することを意図しない。
【0061】
実施例
4群の雌Sprague Dawleyラット(200〜220g)(1群につき10匹)に開腹手術を行い、その後20分間右側部肝葉のクランピングを行い、臓器全体の約30%に低酸素症を来した。虚血組織の再潅流後、残りの約70%の肝臓の非虚血中央および左側部肝葉を手術により除去し、手術による切開を閉鎖した。7日間の追跡調査中、虚血/再潅流の影響を肝傷害および生存に関して観察した。
【0062】
このラットモデルでは、開腹術実施による手術外傷が肝臓の初めの低酸素症を誘発した。その後の肝臓への血液供給の部分的クランピングおよび広範囲に及ぶ肝臓組織の部分的切除がそれ以上の虚血を生じた。その後の再潅流中に、肝臓組織に対する事実上のフリーラジカル誘発障害が発生した。肝臓の残存部分の領域の多くの肝臓組織細胞にとってのこの事実上の障害は、ここで部分的肝臓切除後の種々の時点での肝トランスアミナーゼ類(AST、ALT)、アルカリ性ホスファターゼのような酵素の放出により測定した。
【0063】
手術2時間前に、4群のそれぞれ10匹のラットの胃に、対照(水中5%エタノール;0mg/kg体重メラトニン)またはメラトニン-含有水溶液(5%エタノール)の胃管投与により、種々の濃度(0、10、20、50mg/kg体重)でメラトニンを投与した。10匹の対照動物(5%エタノールだけを含有する水性対照溶液を胃管投与)で観察された、先に述べた酵素活性の大幅な上昇は、メラトニン適用により3および8時間後に用量依存的様式で改善が認められた。結果は図1に示す。これらの結果は、メラトニンの術前投与の結果としての、残存する肝組織傷害の軽減を示唆した。
【0064】
増加したアルカリ性ホスファターゼ(ALP)は、虚血傷害後の肝臓の再生を示唆した。図2に示すように、術前メラトニン投与は48時間後にALP活性上昇を来し、それは1週間後に統計的に有意に達した。
【0065】
同様に、図3に見ることができるように、メラトニンの術前処置の効果として、7日後の生存の有意な増加が認められた。
【0066】
これらの効果は、処置に関連した虚血/再潅流状況による損傷の防止における主要な手術前のメラトニンの術前適用の利点を証明し、術後感染性および非感染性合併症の発生を防止/改善する可能性を示唆した。
【0067】
メラトニン単独、またはL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連する1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される化合物と組み合わせたメラトニンの使用、ならびに本発明に従った医薬製剤および方法は、好都合には外科的介入を受けた患者の入院期間を減少させる。それと共に手術処置をうける患者の平均治療費が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、残存する肝臓組織の虚血/再潅流損傷を含む部分的肝切除から、3および8時間後の、アスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)およびアラニントランスフェラーゼ(ALT)のレベルに関する、0(対照)、10、20または50mg/kg体重の濃度での、ラットへの術前メラトニン投与の実施例の結果を図で示す。
【図2】図2は、残存する肝臓組織の虚血/再潅流損傷を含む部分的肝切除から、3、8、48時間後および1週間後の、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性に関する、0(対照)または50mg/kg体重の濃度でのラットへの術前メラトニン投与の実施例の結果を図で示す。
【図3】図3は、残存する肝臓組織の虚血/再潅流損傷を含む部分的肝切除から、7日後の生存に関する、0(対照)または10mg/kg体重の濃度でのラットへの術前メラトニン投与の実施例の結果を図で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科的介入によって誘発される、術後感染性および/または非感染性合併症の治療的処置、予防的処置および/または防止を目的とした薬物製造のためのメラトニンの使用。
【請求項2】
処置が予防的処置および/または防止である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
外科的介入が哺乳動物に対して実行される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
メラトニンが外科的介入の前に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
メラトニンが、術後合併症の治療的処置、予防的処置および/または防止を目的とした、唯一の治療的に有効な物質として使用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
外科的介入が、1以上の臓器の虚血/再潅流を包含する手術処置である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
外科的介入がB型および/またはC型手術から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
Bおよび/またはC型手術が胃、小腸および結腸手術、脾臓切除術、胆嚢切除術、肝臓手術、食道、すい臓、直腸、および後腹膜腔に対する手術から選択される、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
術後感染性および/または非感染性合併症が第II期および/または第III期合併症から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
感染性合併症が、肺炎、創傷感染(創傷裂開)、腹腔内膿瘍、および尿路感染(UTI)からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
非感染性合併症が吻合部漏出である、請求1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
メラトニンの量が0.1〜1000mg/日である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
メラトニンの量が50〜100mg/日である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
薬物が、L-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連した1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される化合物をさらに含有する、請求項1〜4および6〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
薬物が、患者による経口消費を意図した、水溶液、錠剤、硬ゼラチンカプセル剤または他の製剤の形状、あるいは静脈内適用を意図した非経口製剤の形状をとる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
術後合併症の予防的処置および/または防止のために、外科的介入の約24時間未満前に薬物が適用される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
術後合併症の予防的処置および/または防止のために、外科的介入の約3時間未満前に薬物が適用される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
メラトニンと、L-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連した1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物とを含有する、医薬製剤。
【請求項19】
待機的および緊急事態処置の両方をカバーする外科的介入によって誘発される、術後感染性および非感染性合併症の防止および/または予防的処置の方法であって、メラトニン、またはL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連した少なくとも1種の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の化合物と組み合わせたメラトニンを含有する薬物を、手術誘発合併症を防止および/または改善するために有効な量で、前記外科的介入の前にヒトに投与することを含む前記方法。
【請求項20】
本発明の薬物が、日常的に行われる、静脈内適用される抗生物質(単回注射)による術前感染防止と組み合わせて適用される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗生物質がゲンタマイシンでない、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
メラトニンが、術後合併症の予防的処置および/または防止を目的とした唯一の治療的に有効な物質として使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
外科的介入が、1以上の臓器の虚血/再潅流を含む手術処置である、請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
外科的介入がB型および/またはC型手術から選択される、請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
B型手術が胃、小腸および結腸手術、脾臓切除術ならびに胆嚢切除術から選択され、C型手術が肝臓手術、食道、すい臓、直腸、および後腹膜腔に対する手術から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
感染性合併症が、肺炎、創傷感染(創傷裂開)、腹腔内膿瘍、および尿路感染(UTI)からなる群から選択される、請求項19〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
非感染性合併症が吻合部漏出である、請求19〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
術後感染性および/または非感染性合併症が第II期および/または第III期合併症から選択される、請求項19〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
メラトニンの量が0.1〜1000mg/日である、請求項19〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
メラトニンの量が50〜100mg/日である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
薬物がL-アルギニン、生理的に受容できるその塩、一酸化窒素の合成に関連した1以上の別の生理的に受容できる化合物およびその混合物からなる群から選択される化合物をさらに含有する、請求項19〜21および23〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
薬物が患者による経口消費を意図した、水溶液、錠剤、硬ゼラチンカプセル剤または他の製剤の形状をとるか、あるいは静脈内適用を意図した非経口製剤の形状をとる、請求項19〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
術後合併症の予防的処置および/または防止のために、外科的介入の約24時間未満前に薬物が適用される、請求項18〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
術後合併症の予防的処置および/または防止のために、外科的介入の約3時間未満前に薬物が適用される、請求項33に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534718(P2007−534718A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509957(P2007−509957)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004463
【国際公開番号】WO2005/102319
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(506360332)ヌートリ−フィット・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー (1)
【Fターム(参考)】