説明

メラニン産生抑制剤、抗酸化剤、抗炎症剤、皮膚外用剤及び飲食品

【課題】
優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用を兼ね備え、高い美白効果や皮膚老化防止効果を発揮する乳酸菌発酵物を見出し、これを利用した皮膚外用剤等を提供すること。
【解決手段】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
紫外線は皮膚を形成するコラーゲンの繊維にダメージを与え、皮膚の加齢を加速させるとともに、DNAへのダメージ、皮膚がんのリスク等に影響を及ぼすといわれる。紫外線照射に対する防御として、人間の体は茶色の色素のメラニンを分泌し、日焼けすることにより、紫外線の平均レベルを下げようとする。この色素は紫外線の侵入を阻害し、より深い部分の皮膚組織へのダメージを減らす。このメラニン色素沈着はターンオーバーによって排泄されるが、長い期間、多量の紫外線を浴び続けると、皮膚の細胞が傷つき、メラノサイトの異常な活性化によるメラニン色素の異常沈着の原因となる。
【0002】
また、紫外線はメラニン細胞を活性化させる一方で、皮膚の弾力を保つ線維芽細胞の活動を抑えることが知られている。さらに、紫外線等によって発生した活性酸素は、炎症等皮膚の老化現象にも大きく関わっていることが知られている。例えば、活性酸素は、コラーゲン等の生体組織を分解、変性又は架橋したり、油脂類を酸化して細胞に障害を与える過酸化脂質を生成して、皮膚のしわ形成や皮膚の弾力性低下等の皮膚老化や炎症等の原因になると考えられている。このような色素の沈着や皮膚老化の防御のために多くの研究がなされ、現在までにメラニン産生抑制作用および抗酸化作用など、いくつかの有効性を併せ持った皮膚外用剤が開発されてきた。
【0003】
例えば、天然物質ではドゥアバンガの抽出物(特許文献1)、バショウ属植物の葉及び/又はその抽出物(特許文献2)、白花蛇舌草の植物又はその抽出物(特許文献3)などの植物抽出物を有効成分として利用した皮膚外用剤が報告されている。
【0004】
一方、乳酸菌やその発酵物を有効成分として利用することも検討されており、例えば、種々の果汁の乳酸菌発酵物がチロシナーゼ阻害活性や抗酸化活性を有することが知られている(特許文献4)。しかしながら、この文献に開示された乳酸菌発酵物はチロシナーゼ阻害活性や抗酸化活性が十分なものとはいえなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2008−74728号公報
【特許文献2】特開2008−56587号公報
【特許文献3】特許2007−269752号公報
【特許文献4】特許2006−8566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用を兼ね備え、高い美白効果や皮膚老化防止効果を発揮する乳酸菌発酵物を見出し、これを利用した皮膚外用剤や食品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究を行った結果、パイナップル果汁を発酵基とし、これを特定のラクトバチルス属の乳酸菌によって発酵させた発酵物が、極めて優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用を有することを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明はパイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤、抗酸化剤および抗炎症剤である。
【0009】
また本発明は上記乳酸菌により発酵させて得られる発酵物またはその抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤または食品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のメラニン産生抑制剤は、高いチロシナーゼ阻害活性等に基づき優れたメラニン産生抑制効果を示すものである。また、本発明の抗酸化剤および抗炎症剤は、高いDPPHラジカル消去能、マクロファージ産生活性酸素消去能を有し、優れた抗酸化効果および抗炎症効果を有する。さらに、本発明の皮膚外用剤および飲食品は、これらを皮膚に適用あるいは摂取することにより、優れた美白効果、抗炎症効果およびしわ、たるみ等の皮膚老化に対する防止・改善効果が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、有効成分としてパイナップル果汁をラクトバチルス属に属する乳酸菌により発酵させた発酵物を用いる。このパイナップル果汁としては、パイナップルの果実を常法により破砕または搾汁した液であり、固形分を含んでいてもよく、常法に従って固液分離して固形分を除いたものであってもよい。また、市販されているパイナップルジュースを利用することもできる。
【0012】
上記パイナップル果汁に作用させる乳酸菌としては、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌を用いる。これらの種に属する菌株であれば、特に制限なく使用することができ、市販されている菌株でも環境中から常法により分離した菌株でもよい。また任意の交配種のものも使用することができ、これらを1種または2種以上併用して用いることができる。
【0013】
上記乳酸菌によりパイナップル果汁を発酵させるにあたっては、パイナップル果汁に対して乳酸菌を乾燥菌体重量で通常0.0001〜5質量%(以下、単に「%」で示す)、好ましくは、0.1〜3%添加する。この範囲であると、チロシナーゼ阻害活性や抗酸化活性の高い発酵物が得られるため好ましい。
【0014】
また、パイナップル果汁には、必要に応じて、糖、酵母エキス、ペプトンなどの培養基、ビタミン、ミネラルなどの栄養成分を添加することができる。その添加量は特に限定されないが、パイナップル果汁に対し、0.01〜1%程度が好ましい。さらにパイナップル果汁は、必要に応じて滅菌蒸留水等の水を添加して希釈してもよい。なお、パイナップル果汁は、加熱処理等がされていてもよい。
【0015】
発酵条件は特に制限はなく、温度は通常20℃〜45℃、好ましくは25〜40℃の範囲であり、時間は通常8時間〜10日間であり、好ましくは3〜7日間である。このような範囲であると、チロシナーゼ阻害活性や抗酸化活性の高い発酵物が得られるため好ましい。また好ましいpHの範囲は、5〜8である。
【0016】
このようにして得られた発酵物は、そのままでも使用可能であるが、必要に応じてさらに濃縮・乾燥等の処理を適宜行ってもよく、このような濃縮物、乾燥物等も本発明に用いる発酵物に包含される。また、発酵物をさらに抽出してもよく、このような抽出物としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、極性有機溶媒、超臨界流体及び亜臨界流体、又はこれらの混合液などの抽出溶媒を用いた抽出物が例示できる。抽出条件は適宜設定できるが、濃縮物(乾燥重量)に対し、50〜1000倍程度の抽出溶媒中で10〜50℃で数分〜一晩程度行えばよい。
【0017】
これらのうちアルコール等の極性有機溶媒による抽出物が好ましく、特に食品添加用エタノールによる抽出物が好ましい。より具体的には、得られた発酵物を、凍結乾燥等の常法の乾燥手段により水分を除去した後、発酵物10gに対し、100〜200ml程度のエタノールを添加して30℃で一晩程度抽出を行うことにより発酵物のエタノール抽出物が得られる。このエタノール抽出物をそのまま用いることができるが、さらに必要に応じエタノールを留去して利用してもよい。
【0018】
以上のようにして得られたパイナップル果汁のラクトバチルス・カゼイおよび/またはラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)による発酵物(以下、「パイナップル乳酸菌発酵物」ということがある)またはその抽出物は、高いチロシナーゼ阻害活性等に基づくメラニン産生抑制作用やDPPHラジカルおよび活性酸素消去活性等に基づく抗酸化作用を有するものであり、このパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物を有効成分とし、他の製剤用担体と適宜混合し製剤化することにより、優れたメラニン産生抑制剤、抗酸化剤、抗炎症剤とすることができる。
【0019】
製剤用担体としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット等を用いることができ、更に必要に応じ結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の添加剤を配合することもできる。またその形態も特に限定されず粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤等とすることができる。
【0020】
本発明のメラニン産生抑制剤中のパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物の含有量は、乾燥物換算で通常0.00001〜100質量%であり、0.001〜50質量%が好ましい。このメラニン産生抑制剤は、高いチロシナーゼ阻害活性等により、シミ・ソバカスといった色素沈着症状を改善し優れた美白効果を発揮する。
【0021】
本発明の抗酸化剤および抗炎症剤中のパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物の含有量は、上記メラニン産生抑制剤と同様である。本発明の抗酸化剤および抗炎症剤は、高いDPPHラジカル消去作用およびマクロファージが産生する活性酸素種の消去活性等に基づき優れた抗酸化作用および抗炎症効果を奏する。
【0022】
またパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物を皮膚外用剤に配合することにより、その優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用に基づき、美白用、抗炎症用およびシワ、タルミ等の皮膚老化防止用の皮膚外用剤とすることができる。
【0023】
本発明の皮膚外用剤中のパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物の含有量は、乾燥物換算で通常0.00001〜50%であり、効果や安定性等の点から、0.001〜20%が好ましく、より好ましくは、0.1〜10%である。
【0024】
本発明の皮膚外用剤は、化粧料、医薬部外品、医薬品を包含するものであり、乳酸発酵物の他に、必要に応じて、通常化粧料、医薬部外品、医薬品に配合される、油性成分、界面活性剤、保湿剤、顔料、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、アルコール類等を適宜配合することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、他のメラニン産生抑制剤、抗酸化剤又は抗炎症剤との併用も可能である。
【0025】
本発明の皮膚外用剤の剤形は任意であり、例えば、ローション等の可溶化系、クリームや乳液等の乳化系、カラミンローション等の分散系として提供することができる。更に、噴射剤と共に充填したエアゾール、軟膏等の種々の剤形とすることができる。
【0026】
また化粧料とする場合、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、化粧水、乳液、美容液、保湿クリーム等の基礎化粧料;日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼けオイル、カーマインローション等のサンケア商品;ファンデーション、アイライナー、マスカラ、アイカラー、チークカラー、口紅等のメイクアップ化粧料;洗顔料、ボディーシャンプー、ヘアシャンプー等の洗浄料;リンス、トリートメント、ヘアクリーム、ヘアオイル、整髪剤等の毛髪用化粧料;香水又は防臭制汗剤等とすることができる。
【0027】
さらに上記乳酸菌発酵物を適当な飲食品素材と混合して飲食品とすることにより、パイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物の有する優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用に基づき、美白用、抗炎症用およびしわ、たるみ等の皮膚老化防止用の飲食品とすることができる。具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓等の菓子類;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等の形態の健康・栄養補助食品等が例示できる。飲食品中のパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物の含有量は、飲食品の種類等に応じて適宜設定できるが、大人一日当たりの摂取量が乾燥物換算で1〜10g程度となるような含有量とすればよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
【0029】
実 施 例 1
チロシナーゼ阻害活性試験(1):
(乳酸菌の取得)
種々の環境試料から乳酸菌を分離した。MRS寒天培地(入手先:日本ベクトンデッキンソン株式会社)に0.5%炭酸カルシウムを添加した分離培地を用い、コロニーの周りにハロー(炭酸カルシウムが溶解した円)を形成した微生物を釣菌し、乳酸菌を分離した。分離した乳酸菌はDNAを抽出し、16SrRNAに対応するユニバーサルプライマー(11Fおよび1451R)にて16SrRNAのPCR産物を得た。16SrRNAの塩基配列をDNAシーケンサーにて同定し、その配列をBlast検索(日本DNAデータバンク)により、ホモロジーの高い種を検索した。それら菌株と16S rRNA配列のアライメントを実施し、系統樹を作製し、種レベルで同定した。分離した乳酸菌をMRS液体培地で、28℃、3日間培養した。培養後、それらの培養上清を回収した。
(チロシナーゼ阻害活性測定)
回収した培養上清について以下の方法によりチロシナーゼ阻害活性を評価した。L―DOPA(最終濃度2.5mM)及びマッシュルームチロシナーゼ(最高終濃度2.5U)を10mMリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した。リン酸緩衝液を40μL、L―DOPAを25μL、DMSOに溶解させたサンプルを10μLの順に96ウェルプレートに分注し、チロシナーゼ溶液を添加して反応を開始した。反応液を30分間、25℃で保温し、DOPAクロムの形成をプレートリーダーで測定した。DOPAクロム量は、475nm(ε= 3700M-1 cm-1)の吸光度から推定した。下記式によりチロシナーゼ阻害活性を算定した。結果を表1に示す。
チロシナーゼ阻害活性(%)=サンプルA475nm/無添加A475nm x 100
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示したように、乳酸菌の培養上清を用いた場合には、乳酸菌の中でもラクトバチルス(Lactobacillus)属およびエンテロコッカス(Enterococcus)属に高いチロシナーゼ阻害活性が認められた。このことから、ラクトバチルス属およびエンテロコッカス属は他の乳酸菌と比較して、チロシナーゼ阻害活性物質を多く生産することが明らかとなった。
【0032】
実 施 例 2
チロシナーゼ阻害活性試験(2):
ラクトバチルス属およびエンテロコッカス属に属する様々な種のチロシナーゼ阻害活性を評価した。微生物保存機関(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)から入手した菌株および沖縄県特産の果実(パイナップル等)、樹皮、花や海洋環境から実施例1と同様にして分離した菌株を用いて、これらのチロシナーゼ阻害活性を実施例1と同様な方法により評価した。表2にその結果を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示したように、チロシナーゼ阻害活性はラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)および一部のエンテロコッカス・サルホラウス(Enterococcus sulfurous)に強い阻害活性が確認できた。しかしながらEnterococcus属の株よりLactobacillus属の株、特に、Lactobacillus caseiおよびLactobacillus paracaseiに共通した強いチロシナーゼ阻害活性が認められた。チロシナーゼ阻害活性はラクトバチルス属およびエンテロコッカス属の株で共通した生理活性であることがわかる。その中でも特にラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に強いチロシナーゼ阻害活性が認められた。
【0035】
実 施 例 3
培養基となる果汁の選択:
種々の果実汁または野菜汁を培養基として乳酸菌発酵物を調製し、実施例1と同様にしてチロシナーゼ阻害活性を評価した。果実汁または野菜汁は市販されている100%還元濃縮タイプのものを用いた。乳酸菌は、実施例2で得られたパイナップル果実より分離したラクトバチルス・パラカゼイを使用した。培養は、培養基に対して2質量%の乳酸菌を添加して、28℃で72時間の培養条件で行った。また、それぞれの果実汁または野菜汁自体のチロシナーゼ阻害活性も同様に評価した(未発酵)。表3にその結果を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3に示したように、パイナップルジュースを発酵基として用いると、他の果汁または野菜汁と比べて極めて高いチロシナーゼ阻害活性が認められた。また、この発酵物は未発酵のパイナップル果汁自体のチロシナーゼ阻害活性と比較して著しく活性が増大した。これに対し、公知の果汁の乳酸菌発酵物(特許文献4)は、未発酵の果汁と比べて、活性はわずかに増加しているにすぎず、パイナップル果汁とラクトバチルス・カゼイまたはラクトバチルス・パラカゼイの組み合わせにより、チロシナーゼ阻害活性が特に高まることが示された。なお、未発酵および発酵物は同一の希釈率で、それぞれ活性が評価できるように、滅菌水で希釈を行っている。
【0038】
製 造 例 1
パイナップル果汁の乳酸菌発酵物のエタノール抽出物の調製:
乳酸菌をMRS(Difco製)液体培地を用いて、28℃で3日間培養した。市販のパイナップル果汁(A社)に対し、2質量%の量の前培養液を添加し、28℃にて3日間静置培養した。培養後、パイナップル乳酸菌発酵物を凍結乾燥し、その乾物に培養液と等量のエタノールを加え、十分撹拌した後エバポレーターでエタノールを除去した。この操作を2回繰り返し、パイナップル乳酸菌発酵物のエタノール抽出物を得た。使用した乳酸菌は、ラクトバチルス・カゼイとしてNBRC 15883、NBRC 101979および実施例2のパイナップル果実から分離した株の3菌株、ラクトバチルスパラカゼイとして、NBRC 3533、NBRC 15889および実施例2のパイナップル果実から分離した株の3菌株である。
【0039】
実 施 例 4
メラニン産生抑制作用試験:
製造例1で得られたラクトバチルス・カゼイNBRC 101979およびラクトバチルスパラカゼイNBRC 15889によるパイナップル乳酸菌発酵物の抽出物を試料として用いた。B16マウスメラノーマ(B16F0)細胞を90mmディッシュに1ディッシュ当たり25000個となるように播種した。播種培地には、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。24時間培養後、培地を、5質量%FBS添加DMEM培地にて各試料濃度に調製したサンプル含有培養液に交換し、更に5日間培養した。なお、サンプルの代わりに、試料無添加の5質量%FBS添加DEME培地を用いたものをネガティブコントロールとした。培養終了後、トリプシン処理にて細胞を回収し、1.5mLマイクロチューブに移して遠心操作して細胞沈殿物を得た。得られた沈殿物にDMSOを添加して60℃で30分間加熱した後、室温まで冷却し、分光光度計により500nmの吸光度を測定した。500nm吸光度によって、メラニン産生抑制作用を評価した。結果を図1に示す。
【0040】
図1に示したように、ラクトバチルス・カゼイNBRC 101979株およびラクトバチルスパラカゼイNBRC 15889株による乳酸菌発酵物のいずれも、無添加コントロールと比べて有意なメラニン含量の低下が認められた。このことから、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルスパラカゼイによる発酵物は、メラニン産生抑制作用及びそれに基づく美白作用を有することが明らかとなった。
【0041】
実 施 例 5
DPPHラジカル消去作用試験:
製造例1で得られたパイナップル乳酸菌発酵物のエタノール抽出物を試料として、これに再度エタノールを添加して100mg/mlの濃度に調製したものをサンプル溶液とした。96ウェルマイクロプレートに0.2mMの1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)エタノール溶液を90μLずつ添加した。更にそこへ、サンプル溶液を、10μLずつ添加した。十分に混合後、室温にて暗所に1時間静置した後、DPPHラジカルに由来する517nmの吸光度を測定した。サンプル溶液の代わりにエタノールのみを添加した場合の吸光度を(A)、サンプル溶液を添加した場合の吸光度を(B)としたとき、下記式によって求めた値をDPPHラジカル消去率とした。このDPPHラジカル消去率によってDPPHラジカル消去作用を評価した。また、パイナップル果汁(A社)についても同様に評価した。表4にその結果を示す。
DPPHラジカル消去率(%)={1−(B)/(A)}×100(%)
【0042】
【表4】

【0043】
表4より、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・パラカゼイのいずれの菌株によるパイナップル発酵物のエタノール抽出物も、高いDPPHラジカル消去作用に基づく抗酸化作用を有することが明らかとなった。また、未発酵のパイナップル果汁と比べてラジカル消去活性が著しく増大することが示された。これに対し、従来公知の果汁の乳酸菌発酵物(特許文献4)は、未発酵の果汁と比較してわずかな活性の増加を示すのみであり、パイナップル果汁とラクトバチルス・カゼイまたはラクトバチルス・パラカゼイの組み合わせにより、抗酸化活性が特に向上することが明らかとなった。
【0044】
実 施 例 6
マクロファージが産生する活性酸素種に対する消去作用試験:
紫外線により蓄積されたメラニン色素は、ターンオーバーで角質と一緒に排出されるが、一部は真皮層まで落ち込んだメラニンは活性型マクロファージの機能によって排出される。マクロファージはNADPHオキシダーゼと呼ばれる活性酸素種を生産する一群の酵素を保有する。この酵素は、体内に侵入する微生物やウィルスを分解・除去する働きをし、生命維持にとって大切な酵素の一つである。その反面、この酵素が過剰に働くと、膠原病やアレルギー疾患を発症するといわれている。そこで、ホルボールエステルで過剰発現させたマクロファージによる活性酸素種に対するパイナップル乳酸発酵抽出物の消去能を評価した。
【0045】
製造例1で得られたラクトバチルス・カゼイNBRC 101979およびラクトバチルスパラカゼイNBRC 15889によるパイナップル乳酸菌発酵物のエタノール抽出物を試料として用いた。RAW264.9マクロファージ細胞を90mmディッシュに1ディッシュ当たり20000個となるように播種した。播種培地には、RPMI培地に5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したものを用いた。72時間培養後、セルスクレーパーで細胞を回収し、滅菌PBSにて3回洗浄した。11mMグルコース含有PBSに細胞を1mlあたり20000細胞に調整した。発光用96ウェルマイクロプレートに100マイクロリットルの細胞懸濁液、10μLのパイナップル乳酸発酵のエタノール抽出物および100μMのMCLAを分注した。100nMのホルボールエステルを添加して反応を開始させた。反応開始から5分間の発光量を積算した。化学発光量は発光プレートリーダー(サーモサイエンス製)を用いた。サンプルはDMSOを用いて希釈した。また、パイナップル果汁(A社)についても同様に評価した(未発酵パイン抽出物)。なお、サンプルの代わりに、DMSOを用いたものをネガティブコントロールとした。結果を図2に示す。
【0046】
図2より、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・パラカゼイのいずれの菌株によるパイナップル発酵物のエタノール抽出物もマクロファージからの活性酸素種の消去活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に用いるパイナップル乳酸菌発酵物またはその抽出物は、優れたメラニン産生抑制作用および抗酸化作用を有し、かつ安全性の高いものである。したがって、シミ・クスミ等の色素沈着症状を改善する美白用、あるいはシワ、タルミ等の皮膚老化症状を改善する皮膚外用剤や飲食品等に配合する成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例3におけるラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・パラカゼイのパイナップル発酵物のエタノール抽出物によるメラニン産生抑制作用を示す図である。
【図2】実施例6におけるラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・パラカゼイのパイナップル発酵物のエタノール抽出物によるマクロファージ産生活性酸素消去作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とするメラニン産生抑制剤。
【請求項2】
発酵物の抽出物が、エタノール抽出物である請求項1記載のメラニン産生抑制剤。
【請求項3】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項4】
発酵物の抽出物が、エタノール抽出物である請求項3記載の抗酸化剤。
【請求項5】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項6】
発酵物の抽出物が、エタノール抽出物である請求項5記載の抗酸化剤。
【請求項7】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項8】
発酵物の抽出物が、エタノール抽出物である請求項7記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
パイナップル果汁をラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)およびラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)よりなる群から選ばれた乳酸菌により発酵させて得られる醗酵物またはその抽出物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項10】
発酵物の抽出物が、エタノール抽出物である請求項9記載の飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138147(P2010−138147A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318753(P2008−318753)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(508369216)有限会社 オーピーバイオファクトリー (1)
【Fターム(参考)】