説明

メラノーマ抗原

【課題】 メラノーマ抗原の特徴を調べることにより、癌、特にメラノーマの免疫療法の新規戦略の開発に貢献することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、Tリンパ球により認識されるMART−1と命名されたメラノーマ抗原をコードする核酸配列を提供し、該MART−1に由来する免疫原性ペプチド及びgp100と命名された第二メラノーマ抗原を提供する。これにより、提供されたタンパク質及びペプチドは、メラノーマの予防又は治療のための免疫原として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許出願08/231,565(1994年4月22日出願)の一部継続出願であり、ここにその全体を参照として取り入れる。
【0002】
発明の分野
本発明は、ヒトの癌の予防および治療の分野内にある。より具体的には、本発明は、T細胞によって認識されるメラノーマ抗原をコードする遺伝子、およびそれらに関連するタンパク質、ならびにこれらの遺伝子またはタンパク質を用いての予防、診断および治療への適用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
メラノーマは、メラニン細胞またはメラニン細胞関連母斑細胞のいずれかから誘導される、攻撃的な、時として転移性の腫瘍である(“Cellular and Molecular Immunology”、1991、Abbas,A.K.、Lechtman,A.H.、Pober,J.S.編;W.B.Saunders Company、Philadelphia:340−341)。メラノーマは全皮膚癌のおおよそ3%近くに達し、メラノーマの世界的増加は、女性の肺ガンを除く他のいかなる新生物も及ばない(“Cellular and Molecular Immunology”、1991、Abbas,A.K.、Lechtiman,A.H.、Pober,J.S.編、W.B.Saunders Company、Philadelphia:340−341;KirkwoodおよびAgarwala、1993、Principles and Practice of Oncology,7:1−16)。メラノーマは、明らかに皮膚に局在している場合でさえ、最大で30%の患者は、将来、全身に転移し、その大部分は死に至るであろう(KirkwoodおよびAgarwala、1993、Principles and Practice of Oncology,7;1−16)。メラノーマ治療の古典的様式には、外科手術、放射線および化学療法が含まれる。過去十年間では、免疫療法および遺伝子治療が、メラノーマ治療の新しい可能性のある方法として現れてきた。
【0004】
T細胞は、最多数のネズミ腫瘍モデルで腫瘍の退縮に重要な役割を演じている。単一の癌抗原を認識する腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte)(TIL)は、多くのネズミ腫瘍から分離することができる。これらTIL+インターロイキン2の適切な運搬は、確立された肺および肝臓への転移の退縮を仲介することが出来る(Rosenberg,S.A.ら、1986、Science,223:1318−1321)。さらに、TILを注射することによるIFN−γの分泌は、腫瘍抗原によるT細胞の活性化を示唆し、生体内(in vivo)でのネズミ腫瘍の退縮と明らかな相関を示す。(Barth,R.J.ら、1991、J.Exp.Med.173:647−658)。腫瘍TILを、転移性メラノーマ患者内に養子移入した場合、メラノーマ患者の35から40%の転移癌の退縮を仲介することが知られており、このTILの能力は、抗原を認識することの臨床上の重要性を証明している(Rosenberg,S.A.ら、1988、N Engl J Med,319:1676−1680;ROosenberg,S.A.、1992、J.Clin.Oncol.,10:180−199)。
【0005】
CB8T細胞上のT細胞レセプターは、抗原性ペプチド(HLA−A2の場合9−10アミノ酸)、β−2ミクログロブリンおよび主要組織適合性複合体(MHC)I型重鎖(ヒトではHLA−A、B、C)からなる複合体を認識する。内在的に合成されたタンパク質の消化によって生成したペプチドは、小胞体に輸送され、MHC−I型重鎖およびβ2ミクロブロブリンと結合し、最終的に、細胞表面のMHC−I型の分子の溝に発現する。それ故、T細胞は、細胞表面上に発現した完全な分子を検出する抗体とは対照的に、細胞の内側のタンパク質を起源とする分子を検出することが出来る。それ故、T細胞によって認識される抗原は、抗体によって認識される抗原より、より有用であろう。
【0006】
癌に対する免疫応答がヒトに存在することの強力な証拠は、メラノーマ沈積物中にリンパ球が存在することによって提供される。これらのリンパ球は、分離すると、MHC制限的に、自己のおよび同種移植のメラノーマに特異的な腫瘍抗原を認識する能力を持つ(Itoh,K.ら、1986、Cancer Res.,46:3011−3017;Muul,L.M.ら、1987、J.Immunol.,138:989−995;Topalian,S.L.ら、1989、J.Immunol.,142:3714−3725;Darrow,T.L.ら、1989、J.Immunol.,142:3329−3335;Hom,S.S.ら、1991、J.Immunother.,10:153−164;Kawakami,Y.ら、1992、J.Immunol.,148:638−643;Hom,S.S.ら、1993、J.Immunother.,13:18−30;O’Neil,B.H.ら、1993、J.Immunol.,151:1410−1418)。転移メラノーマ患者からのTILは、生体外(in vitro)でメラノサイト−メラノーマ系に特異的な組織抗原を含む共有抗原を認識する(Kawakami,Y.ら、1993、J.Immunother.,14:88−93;Anichini,A.ら、1993、J.Exp.Med.,177:989−988)。抗メラノーマT細胞は、生体内(in vivo)では、おそらく腫瘍部位でのクローン拡張および蓄積の結果として、TIL中に多く存在すると思われる(Sensi,M.ら、1993、J.Exp.Med.,178:1231−1246)。多くのメラノーマ患者がこれらの腫瘍に対して細胞性応答および体液性応答を装備しているという事実、ならびにメラノーマがMHC抗原および腫瘍関連抗原(TAA)の両方を発現しているという事実は、メラノーマ患者を免疫治療するためには、さらなるメラノーマ抗原の同定および特徴付けが重要であることを示唆している。
【0007】
末梢血液リンパ球は、メラノーマ腫瘍抗原と思われる抗原の同定に用いられた。Van Der Bruggenら、1991、Science,254:1643−1647は、生体内で変異誘発腫瘍細胞を用いて繰り返し免疫化した患者の末梢血液で確認されたT細胞クローンを用いて、MAGE−1と呼ばれるメラノーマ抗原をコードする遺伝子の特徴を調べた。メラノーマ患者の末梢血液リンパ球から誘導された細胞毒性T細胞は、抗原ペプチドをコードするMAGE−1の同定に用いられた(Traversari,C.ら、1992、J.Exp.Med.,176:1453−1457)。また、Brichardら、1993、J.Exp.Med.,178:489−495は、生体外で、腫瘍で繰り返し刺激することによって感受性になった患者の末梢血液リンパ球を用いて、チロシナーゼと呼ばれるメラノーマ抗原をコードする遺伝子の特徴を調べた。さらに、メラノーマ抗原の治療への可能性の確認は、Brownら(米国特許第5,262,177号)によって提供されている。Brownら、米国特許第5,262,177号は、組換え体ワクシニアウイルスを基礎としたメラノーマワクチンに関し、この中で、メラノーマ抗原p97はネズミモデルで腫瘍細胞の挑戦を予防する効果を示すと報告している。さらなるメラノーマ抗原の特徴を調べることは、癌、特にメラノーマ、の免疫療法の新規戦略の開発のために重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の概要
本発明は、一般的には、Tリンパ球によって認識されるメラノーマ抗原をコードする核酸配列(MART−1)、ならびにこれらの配列によってコードされるタンパク質およびペプチドに関する。さらに、本発明は、これらの核酸配列、タンパク質およびペプチドのバイオアッセイを提供する。また、本発明は、MART−1アミノ酸配列より誘導され、それらの免疫原性を増強するように修飾したペプチドを提供する。また、本発明は、ここに記載された核酸配列、タンパク質、ペプチドまたは修飾ペプチドの治療への使用を、提供する。
【0009】
本発明の一般的な目的は、MART−1メラノーマ抗原をコードする、実質的に精製され分離された核酸配列を提供することにある。
本発明のその他の目的は、ベクターおよびMART−1をコードする核酸配列の全体または部分からなる組換え分子を提供することにある。
【0010】
本発明のその他の目的は、MART−1をコードする核酸配列の全体または部分によってコードされる組換えタンパク質を作り出すことにある。
本発明のさらなる目的は、MART−1タンパク質、ペプチドまたはその部分と反応するモノクローナルまたはポリクローナル抗体を提供することにある。
【0011】
本発明の目的は、生体サンプル中のMART−1遺伝子またはMART−1mRNAを検出する方法を提供することにある。
本発明のその他の目的は、生体サンプル中のMART−1タンパク質またはペプチドを検出する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、ヒトの病気、特にメラノーマおよび転移性メラノーマ、の診断法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、MART−1をコードする核酸配列の全部または部分およびその関連タンパク質またはMART−1アミノ酸配列より誘導したペプチドからなる、予防的または治療的使用方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、MART−1をコードする核酸配列全体あるいは部分またはその関連タンパク質からなる、メラノーマを予防または治療するための、メラノーマワクチンを提供することからなる。
【0014】
本発明のさらなる目的は、ワクチンに用いるための、MART−1タンパク質配列より誘導した免疫原性ペプチドを提供することにある。
本発明のその他の目的は、MART−1タンパク質配列から誘導したペプチドの免疫原性を増加させる、またはそれらペプチドのMHC分子との結合を強化することによって抗メラノーマ免疫応答の誘発を強化するように修飾した、MART−1タンパク質配列誘導ペプチドを、ここに記載したような予防的または治療的方法に用いるために、提供することにある。
【0015】
さらに、本発明のその他の目的は、MART−1核酸配列の全体あるいは部分またはその関連タンパク質あるいはペプチド、および哺乳類動物内でメラノーマ抗原に対する抗体の生成を促進する能力を持つ少なくとも一つの免疫原性分子を提供することにある。
【0016】
本発明のその他の目的は、MART−1核酸配列の全体あるいは部分またはその関連タンパク質を遺伝子治療の処方箋に従って用いて、メラノーマを予防または治療する方法を提供することにある。
【0017】
本発明のさらなる目的は、ワクチンに用いるための、gp100メラノーマ抗原タンパク質配列から誘導した免疫原性ペプチドを、提供することにある。
本発明のさらなるその他の目的は、gp100メラノーマ抗原配列から誘導されたペプチドの免疫原性を増加させる、またはMHC分子との結合を強化することによって抗メラノーマ免疫応答の誘発を強化するように修飾したgp100メラノーマ抗原誘導ペプチドを、ここに記載したような予防的治療的方法に用いるために、提供することにある。
【0018】
本発明のさらなるその他の目的は、ここに記載したワクチンを用いた、メラノーマの予防的治療的免疫化法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、免疫治療のための潜在的標的を構成するであろうメラノーマ抗原を同定する方法を提供することにある。
【0019】
本発明のさらなるその他の目的は、免疫療法に用いるための、MART−1配列またはgp100配列のいずれかより誘導した免疫原性ペプチド候補を同定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明をより完全に理解するために、以下の定義をここに記載する。核酸配列は、これに限定されるわけではないが、DNA、RNAまたはcDNAを含む。ここで用いられる核酸配列は、分離精製した核酸配列をさす。MART−1メッセンジャーRNA(mRNA)は、MART−1遺伝子の生成物である一つあるいはそれより多くのRNA転写物をさす。ここで用いられている実質的に相同とは、図1に示すMART−1核酸配列(配列番号:1)と任意のその他の核酸配列のそれとの間の実質的な一致をさす。実質的に相同とは、MART−1配列とその他の任意の核酸配列のそれとの間で、約50−100%の相同の相同性、望ましくは約70−100%の相同性、もっとも望ましくは約90−100%の相同性を意味する。さらに、ここで用いられる実質的に相同とは、図1に示すMART−1抗原のアミノ酸配列(配列番号:2)と任意のその他のアミノ酸配列のそれとの間の実質的な一致をもさす。
【0021】
主要組織適合性複合体(MHC)は、ヒト白血球抗原(HLA)を含む、異なる種に記載される組織適合性抗原のシステムを包括して意味する一般的な名称である。
メラノーマという言葉は、限定するわけではないが、黒色腫(メラノーマ)、転移性黒色腫、メラニン細胞(メラノサイト)またはメラニン細胞関連母斑細胞のいずれかから誘導された黒色腫、黒色癌、黒色上皮腫、黒色肉腫、本来の位置(in situ)の黒色腫、表在拡大型黒色腫、結節性黒色腫、悪性ほくろ黒色腫、末端性ほくろ性黒色腫、侵襲性黒色腫、または家族性非定型色素母斑−黒色腫(FAM−M)症候群を含む。哺乳動物のそのような黒色腫は、染色体異常、退行性成長発達障害、分裂促進剤、紫外線照射(UV)、ウイルス感染、遺伝子の不適切組織での発現、遺伝子発現の変化、または発癌剤に原因を有する場合もある。前述の黒色腫は、本出願に記載した方法に従って、診断、評価または治療することが出来る。
【0022】
非定型色素母斑とは、異常かつ前癌状態の特徴を持つ色素母斑を意味する。
黒色腫抗原または免疫原とは、哺乳動物中の細胞性あるいは体液性免疫応答の原因となりうる、MART−1タンパク質のすべてあるいはその部分またはMART−1タンパク質配列を基礎としたペプチド、を意味する。そのような抗原はまた、MART−1タンパク質(配列番号:2)のすべて、一部または複数の部分を用いて免疫化された動物の抗体と反応するであろう。そのようなタンパク質またはペプチドは、本発明のMART−1核酸配列のすべてまたは部分によってコードされるであろう。
【0023】
免疫原性ペプチドとは、哺乳動物中で細胞性あるいは体液性免疫応答の原因となりうる、MART−1タンパク質配列から誘導されたペプチドまたはgp100タンパク質配列、を意味する。そのようなペプチドは、ペプチドで免疫化された動物の抗体と反応するであろう。そのようなペプチドは、アミノ酸の長さが、約5−20、望ましくは約8−15、最も望ましくは約9−10、である。
【0024】
当業者は、本発明のバイオアッセイが任意の脊椎動物種の生体サンプルまたは組織の分析に用いうることを理解するであろう。望ましい実施態様では、哺乳類の生体サンプルまたは組織が分析される。
【0025】
組織は、単細胞、器官全体およびその部分を含むが、これらに限定されるわけではない。生体サンプルは、組織、哺乳動物組織の初代培養、生体組織検査(生検)検体、病理検体、および検死検体を含むが、これらに限定されるわけではない。哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ネズミ、ラット、ブタ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジおよびヤギを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0026】
本発明は、T細胞によって認識される、新規のメラノーマ抗原をコードする核酸配列を提供する。この新規のメラノーマ抗原は、MART−1(melanoma antigen recognized by T−cells−1)と呼ぶ。MART−1は、いかなる既知のメラノーマ抗原とも意味のある相同性を示さず、それ故新しいメラノーマ抗原であると言える。MART−1抗原は、アミノ酸27−47(配列番号:2)とそれに続く3つのアルギニン残基からなる高疎水性領域を含み、この配列はトランスメンブレンタンパク質を示唆している。タンパク質全体とは明らかな相同性は存在しなかったが、以前にネズミのナチュラルキラー細胞表面タンパク質NKR−P1(Yokoyama,W.M.ら、1991、J.Immunol.,147:3229−3236)として認知された、II型膜タンパク質と37%の同一性を示す、27のアミノ酸からなるセグメント(アミノ酸57−83;配列番号:2)が存在する。MART−1は、多くのI型膜タンパク質の特徴であるリーダータンパク質を含まない(Singer,S.J.、1990、Annu.Rev.Cell Biol.,6:247−296)。
【0027】
MART−1RNAの発現は、新しい培養したメラノーマおよびメラノサイト細胞系およびヒト網膜に限定されるようであり、この発現は、試験したその他のいかなる新しいまたは培養した組織またはその他の腫瘍組織にも見出されなかった。MART−1のcDNA配列は、図1(配列番号:1)に示す。また、予想されるMART−1タンパク質のアミノ酸配列を、図1(配列番号:1)に示す。
【0028】
図1(配列番号:1)に示すMART−1の核酸配列は、本発明の望ましい実施態様を表している。しかしながら、遺伝子コードの縮重によって、図1(配列番号:1)に示すcDNA配列を変化させても、依然として、MART−1タンパク質抗原をコードすることの出来るDNA配列が結果として得られるであろうことは、当業者に理解される。それ故、そのようなDNA配列は、図1(配列番号:1)に示した配列と機能的に等価であり、本発明の内に包括されるであろう。さらに、当業者は、図1(配列番号:1)に示すMART−1核酸配列が与えられた種の中で対立遺伝子変化を自然に起こすことを理解するであろう。これらの変化もまた、本発明によって取り込まれるであろう。
【0029】
予想されるMART−1抗原は、約13Kdの118アミノ酸からなるタンパク質である。本発明は、さらに、本発明のMART−1抗原またはタンパク質と実質的に同一の機能を持つ、MART−1タンパク質またはペプチドまたはその類似体を含む。そのようなタンパク質またはポリペプチドは、タンパク質のフラグメント、またはMART−1タンパク質の置換、付加、あるいは欠損変異体を含むが、これらに限定されるわけではない。また、本発明は、MART−1抗原と実質的に相同であるタンパク質またはペプチドを包含する。実質的に相同とは、MART−1と任意のその他のアミノ酸配列またはタンパク質またはペプチドとの間の、約50−100%の相同性、望ましくは約70−100%の相同性、最も望ましくは約90−100%の相同性を意味する。
【0030】
「類似体」という言葉は、具体的にここに示したMART−1配列(図1、配列番号:1)と実質的に同一なアミノ酸残基配列を持つ任意のポリペプチドであって、その一つまたはそれより多くの残基が機能的に同様の残基と保存的に置換され、かつここに記載したようなMART−1抗原の機能的態様を示している、前記のポリペプチドを含む。保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンのような非極性(疎水性)残基の一つをそれ以外の非極性残基と置換すること、アルギニンとリジンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、グリシンとセリンとの間、のように、極性(親水性)残基の一つをもう一つと置換すること、リジン、アルギニンまたはヒスチジンのような塩基性残基の一つをそれ以外の塩基性残基と置換すること、アスパラギン酸またはグルタミン酸のような酸性残基の一つをそれ以外の酸性残基と置換することが含まれる。
【0031】
また「保存的置換」という句は、非誘導残基の代わりに化学的に誘導した残基を用いることを含む。「化学的誘導体」とは、官能基側鎖の反応によって化学的に誘導した一つまたはそれより多くの基を持つ従属ポリペプチドをさす。そのような誘導分子の例としては、例えば、遊離アミノ基を誘導して、アミン塩酸塩、p−トルエン硫酸基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基を形成するようなそれらの分子が含まれる。遊離カルボキシル基を誘導して、塩、メチルおよびエチルエステルあるいはその他の型のエステルまたはヒドラジンを形成させても良い。遊離水酸基を誘導して、o−アシルまたはo−アルキル誘導体を形成させても良い。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導して、N−im−ベンジルヒスチジンを形成させても良い。また、化学誘導体としては、20の標準アミノ酸の一つあるいはそれより多くの自然発生アミノ酸誘導体を含む、タンパク質またはペプチドを含む。例えば:4−ヒドロキシプリンはプリンと置換されて良く;5−ヒドロキシリジンはリジンと置換されて良く;3−メチルヒスチジンはヒスチジンと置換されて良く;ホモセリンはセリンと置換されて良く;またオルニチンはリジンと置換されて良い。また、必要な活性が維持される限り、本発明のタンパク質またはポリペプチドは、その配列がMART−1のDNAにコードされるポリペプチドの配列と関連する、一つあるいはそれより多く残基の付加および/または欠損を持つ任意のポリペプチドを含む。
【0032】
また、本発明は、MART−1核酸配列(配列番号:1)の全体または部分およびベクターからなる組換えDNA分子を提供する。本発明で用いるに適した発現ベクターは、核酸配列に機能しうるように結合させた少なくとも一つの発現制御エレメントからなって良い。発現制御エレメントは、ベクター中に挿入され、核酸配列の発現を調節制御する。発現調節エレメントの例として、lacシステム、ファージラムダのオペレータおよびプロモーター領域、酵母プロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウイルス、レロトウイルスまたはSV40から誘導したプロモーターが含まれるが、これらに限定されるわけではない。さらに、望ましいまたは必要とされる機能エレメントには、リーダー配列、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、ならびに宿主システム中で核酸配列を適切に転写し次いで翻訳するに必要なまたは望ましいその他の任意の配列が含まれるが、これらに限定されるわけではない。当業者は、必要または望ましい発現調節エレメントの適切な組み合わせは、選択した宿主のシステムに依存することを理解するであろう。さらに、発現ベクターは、宿主システム中で核酸配列を含む発現ベクターを伝達し次いで複製するに必要なエレメントをさらに含むべきであることを、理解するであろう。そのようなエレメントの例としては、複製起源および選択マーカーが含まれるが、これらに限定されるわけではない。さらに、当業者は、そのようなベクターが従来の方法を用いて容易に構築される(Ausubelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,New York)、または商品として入手できることを理解するであろう。
【0033】
本発明のその他の態様は、MART−1核酸配列の全体または部分を含む組換え発現ベクターが挿入された宿主生物体に関する。本発明のMART−1核酸配列で形質転換される宿主細胞には、動物、植物、昆虫および酵母細胞のような真核生物、ならびに大腸菌のような原核生物が含まれる。遺伝子を運ぶベクターを細胞中に導入する手段としては、DEAEデキストラン、リポフェクション(lipofection)、リン酸カルシウムあるいはその他の当業者に既知の方法(Sambrookら、1989、“Molecular Cloning.A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Press,Plainview,New York)を用いたマイクロインジェクション、エレクトロポレーション(electroporation)、形質導入(トランスダクション)、またはトランスフェクションが含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0034】
望ましい実施態様では、真核生物細胞内で機能する真核生物発現ベクターが用いられる。そのようなベクターの例としては、これらに限定されるわけではないが、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、鶏痘ウイルスベクター、細菌発現ベクター、pcDNA3(Invitrogen,San Diego,CA)のようなプラスミド、またはバキュウロウイルス伝達ベクターが含まれる。望ましい真核生物細胞系には、COS細胞、CHO細胞、HeLa細胞、NIH/3T3細胞、293細胞(ATCC#CRL1573)、T2細胞、樹状突起細胞、または単核細胞が含まれるが、これらに限定されるわけではない。特に望ましい実施態様では、組換えMART−1タンパク質発現ベクターは、MART−1タンパク質に固有なプロセシングおよび修飾を確実にするために、NIH/3T3、COS、CHO、293細胞(ATCC#CRL1573)、T2細胞、樹状突起細胞、または単核細胞のような哺乳動物細胞に導入される。別の実施態様では、MART−1 DNAが、COS7(Gluzman,Y.ら、1981、Cell,23:175−182)中に導入される。適当な細胞の選択は、当業者の内にある。
【0035】
ある実施態様では、発現した組換えMART−1タンパク質は、MART−1タンパク質に特異的な抗体を用いたコマジブルー染色およびウエスタンブロッティングを含むこの技術分野で既知の方法に従って、検出されるであろう。
【0036】
さらなる実施態様では、宿主細胞によって発現した組換えタンパク質は、粗溶解物として得られるか、または分別沈殿、モレキュラーシーブクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、等電点電気泳動、ゲル電気泳動、アフィニティーおよび免疫親和性クロマトグラフィーおよびその類似物などを含む、この技術分野で既知の標準的なタンパク質精製法によって精製することが出来る(Ausubelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,New York,New York)。免疫親和性クロマトグラフィーの場合には、組換えタンパク質は、MART−1タンパク質に特異的な抗体を結合させた樹脂を含むカラムを通過させることによって精製されるであろう(Ausebelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,New York,New York)。
【0037】
本発明の核酸配列またはその部分は、正常なおよび病的な組織中でのMART−1遺伝子発現を検出するプローブとして有用である。それ故、本発明のその他の態様は、(a)本発明の核酸配列の全体または部分を、生体サンプルと、核酸配列とメッセンジャーRNAとの間で複合体を形成させるような条件下で、接触させ、(b)該複合体を検出し、さらに(c)該メッセンジャーRNAのレベルを定量する:段階からなる、生体サンプル中のMART−1タンパク質をコードするメッセンジャーRNAを検出するバイオアッセイに関する。
【0038】
RNAは、細胞全体のRNAとして、またはポリ(A)+RNAとして分離することが出来る。細胞全体のRNAは、当業者に既知のいろいろな方法によって分離できる(Ausubelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,New York,New York)。そのような方法には、分別沈殿によるRNA抽出(Birnboim,H.C.、1988、Nucleic Acids Res.,16:1487−1497)、有機溶媒によるRNA抽出(Chomczynski,P.ら、1987、Anal.Biochem.,162:156−159)、および強変性剤によるRNA抽出(Chirgwin,J.M.ら、1979、Biochemistry,18:5294−5299)が含まれる。ポリ(A)RNAは、オリゴd(T)カラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー(Aviv,H.ら、1972、Proc.Natl.Acad.Sci.,69:1408−1412)によって、全細胞RNAから選択することが出来る。段階(c)の細胞内メッセンジャーRNAレベルを定量する方法の例としては、これに限られるわけではないが、ノーザンブロッティング(Alwine,J.C.ら、1977、Proc.Natl.Acad.Sci.,74:5350−5354)、ドットスロット−ハイブリダイゼーション(Kafatos,F.C.ら、1979、Nucleic Acids Res.,7:1541−1522)、フィルターハイブリダイゼーション(Hollander,M.C.ら、1990、Biotechniques,9:174−179)、RNアーゼ防御(Sambrookら、1989、“Molecular Cloning,A Laboratory Manuarl”,Cold Spring Harbor Press,Plainview,NY)、ポリメラーゼ鎖反応(Watson,J.D.ら、1992、“Recombinant DNA”、第二版、W.H.Freeman and Company,New York)および核流出アッセイ(Ausubelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”、増補9、1990、John Wiley and Sons,New York,New York)が含まれる。
【0039】
また、バイオアッセイの段階(b)の複合体の検出は、様々な技術によって実行することが出来る。シグナル増幅による複合体の検出は、放射能標識および酵素を含むいくつかの従来の標識技術によって成し遂げることが出来る(Sambrookら、1989、“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbar Press,Plainview,New York;Ausubelら、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New York)。また、放射能標識キットは、商品として入手することが出来る。バイオアッセイの段階(c)でプローブとして用いられるMART−1核酸配列は、RNAであっても、またはDNAであって良い。DNA配列を標識する望ましい方法は、クレノウ酵素またはポリヌクレオチドキナーゼを用い、32Pで標識する方法である。RNAまたはリボプローブ配列を標識する望ましい方法は、RNAポリメラーゼを用い、32Pまたは35Sで標識する方法である。さらに、ピリミジンおよびプリン環に化学基を付着させる方法(Dale,R.N.K.ら、1973、Proc.Natl.Acad.Sci.,70:2238−2242;Hech,R.F.、1968、S.Am.Chem.Soc.,90:5518−5523)、化学蛍光によって検出する方法(Barton,S.K.ら、1992、J.Am.Chem.Soc.,114:8736−8740)およびビオチニル化した核酸プローブを用いる方法(Johnson,R.T.ら、1983、Anal.Biochem.,133:125−131;Erickson,P.F.ら、1982、J.of Immunology Methods,51:241−249;Matthaei,F.S.ら、1986.Anal.Biochem.,157:123−128)、および商品として入手できる製品を用いた蛍光による検出方法、を含む、放射能によらないシグナル増幅技術が知られている。
【0040】
このバイオアッセイ中で用いることの出来る生体サンプルの例としては、これらに限られるわけではないが、哺乳動物の初代培養、メラノサイト細胞系のような哺乳動物の連続細胞系、皮膚または網膜のような哺乳動物の器官、組織、生体組織検査検体、新生物、病理検体、および検死検体が含まれる。
【0041】
望ましい実施態様では、実施例1に例示されているように、32P放射能標識MART−1プローブが用いられる。望ましいMART−1プローブは、図1の全長のcDNA(配列番号:1)である。おおよそ1.6キロベース(Kb)のcDNA(図1;配列番号:1)は、ベクター内へクローン化され、得られたプラスミドは、the American Type Culture Collection(ATCC)、12301 Parklawn Drive,Rockville,MD 20852 USAに、1994年4月14日に寄託され、ATCC寄託番号75738を与えられた。全長のMART−1核酸配列は、pCRIIプラスミドをHindIIIおよびXhoI制限酵素で消化することによって分離することが出来る。この1.6Kbの核酸配列は、次に、プローブとして用いることが出来る。このプローブは、様々な組織あるいは生体サンプルから分離された全RNAまたはポリARNA中のMART−1mRNAの検出に用いられる。
【0042】
その他の実施態様では、図1(配列番号:1)のMART−1配列を基にしたオリゴヌクレオチド対の組み合わせは、生体サンプル中のMART−1mRNAを検出するためのポリメラーゼ鎖反応(PCR)プライマーとして用いられる。これらのプライマーは、選択されたRNA核酸配列を増幅するための逆転写酵素−ポリメラーゼ鎖反応(reverse transcriptase−Polymerase Chain Reaction)(RT−PCR)の過程に次いで、方法中で用いることが出来、その詳細は、Ausubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”15章、John Wiley and Sons,New York,New York、に記載されている。オリゴヌクレオチドは、様々な製造者によって販売されている自動装置によって合成することが出来るし、あるいは、本発明の核酸配列を基にして商品として製造することもできる。当業者は、サンプル中のMART−1RNAを増幅させるための、MART−1核酸配列を基にしたPCRプライマーを選択する方法を知るであろう。
【0043】
本発明のMART−1核酸配列またはその部分(図1:配列番号:1)は、正常または異常な哺乳動物組織中のMART−1遺伝子の変化を検出するのに有用である。変化とは、MART−1遺伝子配列の付加、欠失、置換あるいは重複、またはMART−1遺伝子配列の遺伝子増幅を意味する。それ故、本発明のその他の態様は、(a)本発明の核酸配列の全体または部分を、生体サンプルから分離したゲノムDNAと、該核酸配列と該ゲノムDNAの間で複合体が形成されるような条件下で、接触させ、(b)該サンプルを検出し、さらに、(c)対照サンプルと比較することによって、該MART−1遺伝子中の変化を決定する:段階からなる、生体サンプル中のMART−1遺伝子の変化を検出するためのアッセイに関する。
【0044】
生体サンプルからDNAを分離し、遺伝子中の変化を検出し、MART−1核酸プローブとゲノムDNA配列との複合体を検出するための、標準的方法は、Sambrookら編、1989、“Molecular Cloning、A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Press,Plainview,New York、およびAusubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New Yorkのようなマニュアルに提供されている。
【0045】
また、本発明のMART−1核酸配列(図1;配列番号:1)は、他の種のMART−1同族体を分離するプローブとして用いることが出来る。望ましい実施態様では、MART−1cDNA(図1;配列番号:1)は、哺乳動物cDNAライブラリーのスクリーニングに用いられ、陽性クローンを選択し配列決定を行う。cDNAライブラリーを組み立てうる組織源の例としては、皮膚、網膜、メラノサイト、新生児の皮膚および胎芽が含まれるが、これらに限られるわけではない。望ましくは、哺乳動物のライブラリーは、プローブとしてMART−1cDNA(図1;配列番号:1)を用いて、スクリーニングされる。当業者は、同族体の検出に用いられるに適当なハイブリダイゼーション条件を理解するであろう。核酸のハイブリダイゼーション、ライブラリーの構築およびクローニング技術のための従来からの方法は、Sambrookら編、1989、“Molecular Cloning A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Press,Plainview,New York、およびAusubelら編、“Current Protocols in Molecular Biology”、1987、John Wiley and Sons,New York,New Yorkに記載されている。
【0046】
MART−1タンパク質の全体またはその部分は、メラノーマ細胞上に表示される抗原であることが知られている。それ故、本発明のその他の態様では、病気に苦しむ哺乳動物から分離した生体サンプル中のMART−1RNAまたはMART−1mRNAのレベルの変化の検出に用いられるMART−1核酸プローブを提供する。そのような病気の例としては、これらに限られるわけではないが、メラノーマが含まれる。MART−1mRNAレベルでの変化とは、対照となるサンプルと比較したRNAレベルの増加あるいは減少、または対照サンプルと比較したMART−1mRNAの出現あるいは消滅を意味する。MART−1mRNAの変化の検出は、病状の診断または評価を可能にするであろう。それ故、MART−1mRNAレベルの変化は、罹患した哺乳動物の予後を予想するであろう。
【0047】
その他の実施態様では、本発明の核酸は、哺乳動物組織のそのままの位置でのハイブリダイゼーションに用いられ、組織内でのMART−1遺伝子発現の正確な位置または細胞内での位置を決定することが出来る。MART−1核酸配列を標識する望ましい方法は、SP6ポリメラーゼを用いた生体外での転写による35S標識RNAプローブを合成することである。MART−1プラスミド(ATCC寄託#75738)では、センスストランドはT7プロモーターの制御下にあり、アンチセンスストランドは、SP6プロモーター制御下にある。プローブは、おおよそ400−200塩基対の長さのプローブに加水分解されることが望ましい。組織をその位置で調製し、プローブを合成し、シグナルを検出する従来の方法は、Ausubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”、John Wiley and Sons,New York,New York 14章、およびVander Ploeg,M.,Raap,A.K.、1988、“New Frontiers in Cytology”Goerttler,K.,Feichter,GE.,Witte,S.編、13−21頁、Springer−Verlag,New Yorkに見出すことが出来る。次いで、プローブを哺乳動物の組織切片と接触させ、そのままの位置で、従来の方法によって分析が行われる。用いられうる組織の例としては、哺乳動物の胎芽、皮膚、リンパ節および網膜のような哺乳動物成体組織、生検検体、病理検体および検死検体が含まれるが、これらに限られるわけではない。望ましい実施態様では、MART−1プローブは、元の位置で、メラノーマ病変の急激な増殖期を特徴とする侵略性初期メラノーマの病変組織中でMART−1RNAの発現を上昇させるために、また組織内での病変の縁を評価するために、用いられても良い。
【0048】
本発明のさらなるその他の実施態様では、MART−1(配列番号:1)核酸配列の全体またはその部分は、形質転換動物を作り出すために用いることが出来る。望ましくは、MART−1遺伝子は、胎芽期、望ましくは一細胞期、一般的には八細胞期より以前に、動物または動物の祖先に導入される。MART−1遺伝子を持つ形質転換動物を作り出す手段はいくつかある。その一つの方法は、MART−1配列の全体または部分を持つレトロウイルスを使用することからなる。形質転換遺伝子を含むレトロウイルスは、トランスフェクションによって胎芽動物内に導入される。その他の方法は、胎芽内に形質転換遺伝子を直接注入することを含む。さらなるその他の方法としては、当業者に既知の胎芽幹細胞法または相同組換え法が用いられる。MART−1トランス遺伝子を導入できる動物の例としては、霊長類、マウス、ラットまたはその他の齧歯類が含まれるが、これらに限られるわけではない。そのようなトランス遺伝子動物は、メラノーマ研究用生体モデルとして、また、メラノーマの診断法または治療法を評価するために有用であろう。
【0049】
さらに、本発明は、MART−1タンパク質、または、図1(配列番号:2)に定義したアミノ酸配列あるいはその唯一の部分を持つ、ペプチドまたは修飾ペプチドまたはその類似体と反応するひとつの抗体または複数の抗体類からなる。本発明の実施態様では、抗体は、起源的にモノクローナルまたはポリクローナルである。抗体を生成するために用いられるMART−1タンパク質またはペプチドは、天然物または組み換え体を源にして良く、化学合成によって合成しても良い。天然のMART−1タンパク質は、哺乳動物の生体サンプルから分離することが出来る。生体サンプルには、新鮮なメラノーマ、皮膚、網膜のような、哺乳動物組織、メラノーマ培養物あるいは培養メラノサイトのような哺乳動物細胞の初代培養または連続培養が含まれるが、これらに限られるわけではない。天然MART−1タンパク質は、組換えタンパク質の分離法として上に記載した方法と同一の方法で分離しても良い。組換えMART−1タンパク質またはペプチドは、従来の方法で生成されて良く、また従来の方法で精製しても良い。合成MART−1ペプチドは、本発明から予想されるアミノ酸配列(図1;配列番号:2)を基にして特別注文するかあるいは商品として製造するか、または当業者に既知の方法(Merrifield,R.B.、1963、J.Amer.Soc.85:2149)によって合成しても良い。MART−1ペプチドの例としては、AAGIGILTV(M9−2;配列番号:4)、EAAGIGILTV(M10−3;配列番号:17)およびAAGIGILTVI(M10−4;配列番号:18)(ペプチドは、一文字のアミノ酸コードで表す)が含まれるが、これらに限られるわけではない。最も望ましいペプチドは、AAGIGILTV(配列番号:4)である。
【0050】
別の方法として、MART−1タンパク質配列から誘導したペプチドは、ペプチドが存在しているMHC分子とペプチドとの結合を強化することによってそれらの免疫原性を増加させるように修飾しても良い。用いられて良いそのような修飾MART−1ペプチドの例は、表14に示すペプチドであるが、これらに限定されるわけではない。望ましい実施態様では、I型MHCとの結合を強化するように修飾されたMART−1ペプチドは、AAGIGILTV(配列番号:4)である。修飾ペプチドの例としては、ALGIGILTV(M9−2−2L)(配列番号:50)、WAGIGILTV(M9−2−1W)(配列番号:53)、FAGIGILTV(M9−2−1F)(配列番号:54)およびAAYIGILTV(M9−2−3Y)(配列番号:58)が挙げられる。ペプチドまたは修飾ペプチドは、ペプチドの抗原性を強化するためにキャリヤー分子と結合させても良い。キャリヤー分子の例としては、これらに限定されるわけではないが、ヒト−アルブミン、ウシ−アルブミン、リポタンパク質およびキーホールリンペット(keyhole limpet)ヘモシアニン(“Basic and Clinical Immunology”、1991、Stites,D.F.およびTerr A.I.編、Appleton and Lange,Norwalk Connecticut,San Mateo,California)が含まれる。
【0051】
本発明の検出方法として用いられる典型的な抗体分子は、完全な免疫グロブリン分子、実質的に完全な免疫グロブリン分子、または、抗原結合部位を含む免疫グロブリン分子の部分であり、F(ab)、F(ab’)、F(ab)およびF(V)としてこの技術分野で既知のそれらの免疫グロブリン分子の部分を含む。ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、この技術分野で既知の方法に従って生成されて良い(KohlerおよびMilstein、1975、Nature,256:495−497;Campbell”Monoclonal Antibody Technology,the Production and Characterization of Rodent and Human Hybridomas”、Burdonら編、1985、“Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology”第13巻、Elsevier Science Publishers,Amsterdam)。また、抗体または抗原結合フラグメントは、遺伝子工学によって作り出されても良い。大腸菌内で重鎖と軽鎖の両方の遺伝子を発現させる技術は、PCT特許出願:公開番号WO901443、WO901443およびWO9014424、ならびにHuseら、1989、Science,246:1275−1281の主題である。
【0052】
本発明の抗体は、天然のまたは変性させたMART−1タンパク質、ペプチドあるいはその類似体、または修飾ペプチドあるいはその類似体と反応するであろう。抗体が用いられる具体的なイムノアッセイは、抗体に望ましいように行われるであろう。抗体は、MART−1タンパク質あるいはその部分に対して、またはMART−1アミノ酸配列に相同な合成ペプチドに対して、高められて良い。
【0053】
一つの実施態様では、本発明の抗体は、生体サンプル中の新規のMART−1タンパク質を検出するためにイムノアッセイに用いられる。この方法では、本発明の抗体を生体サンプルと接触させ、MART−1抗原と抗体の間の複合体の形成を検出する。本発明のイムノアッセイは、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素イムノアッセイ、化学蛍光アッセイ、免疫組織化学アッセイおよびその類似アッセイなどであって良い(“Principles and Practice of Immunoassay”、1991、Christopher P.PriceおよびDavid J.Neoman編、Stockton Press,New York,New York;Ausubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New York)。この技術分野で既知のELISAの標準技術は、Methods in Immunodiagnosis、第二版、RoseおよびBigazzi編、John Wiley and Sons,New York、1980、およびCampbellら、Methods of Immunology,W.A.Benjamin,Inc.,1964、に記載されており、これらの両方はここに参照として取り入れられる。そのようなアッセイは、以下に記載されている、直接的、間接的、競合的または非競合的イムノアッセイであって良い(“Principles and Practice of Immunoassay”、1991、Christopher P.PriceおよびDavid J.Neoman編、Stockton Press,NY,NY;Oellirich,M.、1984、J.Clin.Chem.Clin.Biochem.,22:895−904)。そのような検出アッセイに適当な生体サンプルは、哺乳動物組織、メラノーマおよびメラノサイト細胞系、皮膚、胎芽、リンパ節、病理検体、検死検体、および生検検体を含む。タンパク質は、以下に記載の従来の方法で、生体サンプルから分離されて良い(Ausubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New York)。
【0054】
本発明の抗体は、それ故、病気または疾病に苦しむ哺乳動物から分離した生体サンプル中の、MART−1抗原またはMART−1抗原の発現レベルの変化を検出するイムノアッセイに用いることが出来る。生体サンプルの例としては、これらに限定されるわけではないが、哺乳動物組織、生検組織サンプル、メラノーマおよびリンパ節生検サンプル、病理および組織サンプルが含まれる。これらのイムノアッセイによって評価できる病気の例としては、これらに限定されるわけではないが、メラノーマおよびメラノーマが次に転移する部位の組織が含まれる。発現レベルの変化とは、対照サンプルと比較してのMARTタンパク質あるいはその部分の増加または減少を意味する。また、変化とは、MART−1タンパク質の置換、欠失または付加変異を包含する。そのような変異は、MART−1タンパク質に特異的なエピトープと反応することが知られている本発明の抗体を用いることによって、また対照と比較してエピトープが存在するか否かを決定することによって、決定することが出来る。それ故、本発明の抗体は、病気に罹った哺乳動物を診断、評価、予知するためのイムノアッセイに用いることが出来る。
【0055】
望ましい実施態様では、本発明のMART−1抗体は、免疫細胞化学の手法を用いてメラノーマに苦しむ哺乳動物の組織生検からMART−1抗原の存在を評価するために、用いられる。そのような病気組織中のMART−1抗原の詳述な評価は、病気に苦しむ哺乳動物の病気の進行を予知するために用いることが出来る。具体的には、MART−1抗体は、メラノーマ病害の急激な増殖期を特徴づけるために用いることが出来る。免疫組織化学のための従来の方法は、HarlowおよびLane編、1988、“Antibodies A Laboratory Manual”Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York;Ausbelら編、1987、“Current Protocols In Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New York;に記載されている。
【0056】
その他の実施態様では、本発明の抗体は、MART−1タンパク質またはその部分を精製するために用いられて良い。免疫親和性クロマトグラフィーは、当業者に既知の従来の方法によって行うことが出来る(Ausubelら編、1987、“Current Protocols in Molecular Biology”John Wiley and Sons,New York,New York)。
【0057】
その他の望ましい実施態様では、MART−1タンパク質を特異的に認識する抗体を含むウサギの抗血清は、ウエスタンブロット分析で該タンパク質を検出するために用いられる。そのような抗血清は、MART−1タンパク質の全体あるいはその一つあるいはいくつかの部分、またはMART−1タンパク質配列から合成したペプチドを直示する。望ましくは、MART−1の予想アミノ酸配列から誘導されたMART−1合成ペプチドが用いられる(図1、配列番号:2)。別の方法として、修飾MART−1ペプチドを用いても良い、ペプチドは、自動ペプチドシンセサイザーを用いて標準方法で合成され、実施例2に記載したような高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製される。精製したペプチドは、M.Bodanszky、1984、“Principles of Peptide Synthesis”,Springer Verlag,New York,New Yorkに記載のように、担体に結合させて良い。従来の方法を用いると、ウサギは、担体と結合させたMART−1タンパク質またはペプチドで免疫化されて良い。望ましくは、アジュバンド中、約0.1から約10(mg)の抗原が用いられて良く、最も望ましくは、アジュバンド中、約1mgの抗原を用いて良い。動物は、同様の効能促進剤の投与を受け、抗血清力価は、ELISAアッセイによって評価される。抗血清の満足できるレベルは、抗ペプチド抗体力価がプラトーに達する時点で、得られる。この抗体は、上記の標準イムノアッセイに用いることが出来る。
【0058】
T−リンパ球は、MHC分子と結合したペプチドフラグメントの形でI型またはII型のMHC分子と関連する抗原を認識する。与えられたMHC対立遺伝子と結合するペプチドの程度は、ペプチド内での特定位置のアミノ酸による(Parkerら、1992、Journal of Immunology,149:3580;Kuboら、1994、Journal of Immunology,52:3913−3924;Ruppert J.ら、1993、Cell,74:929−937;Falkら、1991、Nature,351:290−296、これらは、それぞれ、ここに参照として取り入れられる)。それ故、本発明のその他の実施態様は、ペプチドの関連するMHC分子とペプチドとの結合を強化することによって、免疫原性を増加させるように修飾したMART−1タンパク質配列(図1;配列番号:2)から誘導したペプチドに関する。例として、修飾は、与えられた免疫原性ペプチド配列内のアミノ酸の置換、欠失あるいは付加、与えられた免疫原性ペプチド配列内に存在するアミノ酸変異または与えられた免疫原性ペプチド配列内の存在するアミノ酸の誘導体を含んで良い。免疫原性ペプチド配列からなる任意のアミノ酸は、本発明に従って修飾されて良い。望ましい実施態様では、与えられた免疫原性ペプチド配列内で、少なくとも一つのアミノ酸が置換または置き換えられる。任意のアミノ酸が、免疫原性ペプチド配列内の与えられたアミノ酸を置換または置き換えるために用いられて良い。修飾ペプチドとは、修飾され、T−細胞に存在する場合に関連するMHC分子との結合強化を示す、任意の免疫原性MART−1ペプチドを含むつもりである。
【0059】
例として、HLA−A2対立遺伝子は、9または10のアミノ酸からなるペプチドを結合する。結合を強化するために変えても良いペプチドの位置の例としては、ペプチドの第一の位置、第二の位置、第三の位置、および最終位置が含まれるが、これらに限定されるわけではない。免疫原性ペプチド配列のこれらの位置を置換または置き換えるために、任意のアミノ酸が用いられて良い。HLA−A2との結合を強化するために、ペプチドの第二の位置のアミノ酸は、疎水性の脂肪族アミノ酸であることが望ましい。第二の位置で用いられて良いアミノ酸の例としては、これらに限られるわけではないが、ロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、スレオニンまたはグリシンが含まれる。望ましくは、ロイシンまたはメチオニンがペプチドの第二の位置に見出される。ペプチドの最後のアミノ酸(ペプチドの長さによって9番目か10番目かいずれかのアミノ酸)は、疎水性脂肪族アミノ酸が望ましい。ペプチドの最後の位置に用いても良いアミノ酸の例としては、バリン、メチオニン、ロイシン、アラニン、イソロイシン、スレオニンまたはグリシンが含まれるが、これらに限られるわけではない。望ましくは、バリンがペプチドの最後の位置に見出される。また、ペプチドの第一および第三の位置のアミノ酸は、I型MHC分子とペプチドの結合を強化するために修飾されても良い。ペプチドの第一および第三の位置のアミノ酸は、任意のアミノ酸であって良い。望ましくは、第一および第三の位置のアミノ酸は、疎水性の脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。これらの位置に用いられて良いアミノ酸の例としては、ロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、グリシン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、アスパラギン酸またはリジンが含まれるが、これらに限られるわけではない。修飾されて良いMART−1ペプチドの例としては、これらに限定されるわけではないが、AAGIGILTV(配列番号:4)、EAAGIGILTV(配列番号:17)およびAAGIGILTVI(配列番号:18)(ペプチドは一文字アミノ酸コードで表されている)が含まれる。例として、免疫原性MART−1ペプチドAAGIGILTV(配列番号:4)は、次式XIGILTX(配列番号:122)、に従って修飾されて良い:
式中、Xは、任意のアミノ酸、望ましくは任意の疎水性脂肪族アミノ酸、または芳香族アミノ酸であって良い。用いて良いアミノ酸の例としては、これらに限られるわけではないが、アラニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、リシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、スレオニン、グリシンまたはセリンが含まれる。
【0060】
は、任意の疎水性アミノ酸、望ましくは脂肪族疎水性アミノ酸であって良い。用いて良いアミノ酸の例としては、これらに限られるわけではないが、ロイシン、メチオニン、イソロイシン、バリン、スレオニン、アラニンまたはグリシンが含まれる。
【0061】
は、任意のアミノ酸、望ましくは、任意の疎水性の脂肪族アミノ酸、または芳香族アミノ酸であって良い。用いて良いアミノ酸の例としては、これらに限られるわけではないが、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、リジン、アスパラギン酸、セリン、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、またはスレオニンが含まれる。
【0062】
は、任意の疎水性アミノ酸、望ましくは疎水性の脂肪族アミノ酸であって良い。用いられて良いアミノ酸の例としては、これらに限られるわけではないが、バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、スレオニン、またはグリシンが含まれる。
【0063】
作り出されて良い修飾AAGIGILTV(配列番号:4)ペプチド配列の例として、表14(実施例5)にペプチドを示すが、これらに限られるわけではない。
さらに、本発明は、修飾したMART−1アミノ酸配列(図1;配列番号:2)から誘導したこれらの免疫原修飾ペプチドの類似体を含む。類似体という言葉は、これらの修飾ペプチドの機能的態様を示す任意のペプチドを含むつもりである。類似体という言葉は、また、上記のようなこれらの修飾ペプチドの保存的置換または化学誘導体を含む。これらの修飾ペプチドは、従来の方法に従って、合成によってまたは組換えによって作り出されて良い。
【0064】
組換えあるいは天然のMART−1タンパク質、ペプチドあるいはその類似体、または修飾MART−1ペプチドあるいはその類似体は、予防または治療のどちらかのためのワクチンとして用いられて良い。治療目的で提供される場合、ワクチンは、メラノーマのいかなる存在にも先だって提供される。MART−1ワクチンの予防投与では、哺乳動物内のメラノーマを防ぐまたは減退させるために供されるべきである。望ましい実施態様では、メラノーマに罹る危険性の高い哺乳動物、望ましくはヒト、は、本発明のワクチンで予防的に処置される。そのような哺乳動物の例としては、これらに限られるわけではないが、メラノーマの家族歴を持つヒト、異型色素性母斑歴を持つヒト、FAM−M症候群歴を持つヒト、または以前にメラノーマを一部切除しそれ故再発の危険性のあるヒトが含まれる。治療目的で提供される場合、ワクチンは、メラノーマまたは転移性メラノーマ上に存在する腫瘍抗原への患者自身の免疫応答を強化するために提供される。免疫原として作用するワクチンは、細胞、組換え発現ベクターを移入した細胞からの細胞溶解物、MART−1組換え発現ベクターを移入した細胞からの細胞溶解物、または発現したタンパク質を含む培養上澄み液であって良い。別の方法では、免疫原は、部分的にあるいは実質的に精製した組み換えMART−1タンパク質、ペプチドあるいはその類似体、または修飾したペプチドあるいはその類似体である。タンパク質またはペプチドは、リポタンパク質と結合させるか、またはリポゾームの形であるいは補助剤と共に投与されて良い。
【0065】
免疫原は純粋なまたは実質的に純粋な形で投与することが出来るが、医薬組成物、調合物または調製物として存在することが望ましい。
本発明の調合物は、獣医学およびヒトへの両方に用いられるが、一つまたはそれより多くの医薬として受け入れうる担体、および所望するならばその他の治療成分と共に、上記のような免疫原からなる。担体は、調合物のその他の成分と矛盾せず、その宿主に有害でない範囲で「受け入れ可能」であらねばならない。調合物は、便宜上、単位投与の形で存在して良く、医薬分野で熟知されている任意の方法によって調製されて良い。
【0066】
すべての方法は、一つまたはそれより多くの補助成分を構成する担体と共に活性成分を組み合わせの中に持ち込む段階を含む。一般的には、調合物は、液体担体または微細に分割される固体担体またはその両方と共に活性成分を組み合わせの中に均一にかつ親密に持ち込み、次いで、必要であれば、望ましい調合物に生成物を適合させることによって、調製される。
【0067】
静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内投与に適した調合物は、宿主の血液と等張であることが望ましい溶液と共に、活性成分の無菌水溶液からなると便利である。そのような調合物は、便宜上、塩化ナトリウム(例えば0.1−2.0M)、グリシンおよびその類似物などのような生理学的に矛盾しない物質を含み、生理学的状態と矛盾しない緩衝pHを持って水溶液を生成し、かつ該水溶液を無菌にするような水中に、個体活性成分を溶解することによって調製されて良い。これらは、ユニット中または複数の投与容器中、例えば密封アンプルまたはバイアル中に存在して良い。
【0068】
本発明の調合物は、安定化剤を組み込んでも良い。安定化剤の例としては、それらのみでまたは混合物として用いられるポリエチレングリコール、タンパク質、サッカライド、アミノ酸、無機酸および有機酸が挙げられる。これらの安定化剤は、望ましくは、免疫原重量当たり0.11−10,000重量の量で混合される。二種類またはそれより多くの安定化剤が用いられる予定の場合、それらの総量は、上記の範囲であることが望ましい。これらの安定化剤は、適当な濃度およびpHの水溶液中で用いられる。そのような水溶液の具体的な浸透圧は、一般的には、0.1−3.0オスモルの範囲であり、望ましくは0.8−1.2の範囲である。水溶液pHは、5.0−9.0の範囲内、望ましくは6−8の範囲内に調製される。本発明の免疫原の調合には、抗吸着剤を用いても良い。
【0069】
さらなる医薬的方法が、作用の持続期間を調節するために用いられても良い。調製物の遊離の調節は、タンパク質またはそれらの誘導体を複合または吸収するポリマーの使用を通して成し遂げられて良い。配達の調節は、適当な高分子(例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、または硫酸プロタミン)および高分子の濃度、ならびに遊離を調節するために組み込み方法を選択することによって、行われて良い。調製物の遊離を調節することによって作用持続期間を調節するためのその他の可能な方法は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)またはエチレンビニルアセテート共重合体のような、重合体物質の粒子内に、MART−1タンパク質、ペプチドおよびその類似体を組み込むことである。別法として、重合体粒子内にこれらの薬剤を組み込む代わりに、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース、あるいは、ゼラチン−ミクロカプセルおよびポリ(メチルメタシレート)ミクロカプセル)によって調製されたミクロカプセル内に、または、コロイド薬剤配達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球、ミクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)内、およびマクロエマルジョン内に、これらの物質を閉じ込めることが可能である。
【0070】
経口調製物が所望される場合、組成物は、ラクトース、スクロース、デンプン、タルクステアリン酸マグネシウム、結晶化セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウムまたはアラビアゴムのような、典型的な担体と組み合わせて良い。
【0071】
本発明のタンパク質は、キットの形で、単独で、または上記の医薬組成物の形で供給されて良い。
ワクチン注射は、従来の方法で行うことが出来る。例えば、免疫原は、塩類溶液または水のような適当な希釈液、または完全あるいは不完全な補助剤中で用いることが出来る。さらに、免疫原は、タンパク質免疫原性を作り出すために担体に結合させても良いが、させなくても良い。そのような担体分子には、これらに限られるわけではないが、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風毒素、およびその類似物などが含まれる。また、免疫原は、リポタンパク質とカップリングさせても、またはリポソームの形であるいは補助剤と共に投与されても良い。免疫原は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、およびその類似部位等のような、抗体生成に適した任意の経路によって投与することが出来る。免疫原は、一度に、または抗MART−1免疫細胞または抗MART−1抗体の有効な力価が作り出されるまで断続的な間隔で、投与されて良い。抗MART−1免疫細胞の存在は、免疫化される前および後のMART−1抗原に対するCTL前駆体(細胞毒性Tリンパ球)の頻度を、CTL前駆体分析アッセイ(Coulie,P.ら、1992、International Journal Of Cancer,50:289−297)を用いて測定することによって評価されてであろう。抗体は、上記のイムノアッセイを用いて血清中で検出されるであろう。
【0072】
本発明のワクチンまたは免疫原の投与は、予防目的または治療目的のいずれかであって良い。予防目的で提供される場合、免疫原は、いかなる存在もに先んじて、またはメラノーマによるいかなる徴候にも先んじて、提供される。免疫原の予防投与では、哺乳動物内のメラノーマを予防するまたは弱毒化するために供される。治療目的で提供される場合、免疫原は、病気の始まりに(あるいはすぐ後に)または病気の任意の徴候の始まりに提供される。免疫原の治療投与は、病気を弱毒化するために供される。
【0073】
望ましい実施態様では、ワクチンは、組み換えMART−1タンパク質またはペプチド発現ベクターを用いて調製される。個体にワクチンを供給するために、MART−1核酸配列の全体または部分をコードする遺伝子配列を、上記のように発現ベクタ内に挿入し、免疫化される哺乳動物内に導入する。前述のワクチンに用いて良いベクターの例としては、これらに限定されるわけではないが、不完全なレトロウイスルベクター、アデノウイルスベクター、ワクチニアウイルスベクター、鶏痘ウイルスベクター、またはその他のウイルスベクターが、含まれる(Mulligan,R.C.、1993、Science,260:926−932)。MART−1核酸配列の全体または部分を運搬するウイルスベクターは、メラノーマのいかなる証拠も認められない間に、またはメラノーマに罹った哺乳動物の病気の退縮を仲介するためかのどちらかに、哺乳動物内に導入することが出来る。哺乳動物にウイルスベクターを投与するための方法の例としては、これらに限られるわけではないが、生体外(ex vivo)でウイルスに細胞をさらすこと、罹患組織内へのレロトウイルスまたはウイルスの生産細胞系の注入、またはウイルスの静脈内投与が含まれる。別法として、MART−1核酸配列の全体または部分を持つウイルスベクターは、医薬として受け入れうる担体内で、メラノーマ内に直接注入するまたは局所適用することによって、局所的に投与されて良い。MART−1核酸配列の全体または部分を持つ、ウイルスベクターの投与量は、ウイルス粒子の力価を基本とする。投与される免疫原の望ましい範囲は、哺乳動物、望ましくはヒト当たり、約10から約1011ウイルス粒子であろう。免疫化後のワクチンの効果は、特異的溶解活性あるいは特異的サイトカイン生成によってまたは腫瘍退縮によって評価されるのと同様に、抗原を認識する抗体または免疫細胞の生成によって評価することが出来る。当業者は、前述のパラメーターを評価する従来からの方法を知っているであろう。免疫化される哺乳動物が既にメラノーマまたは転移性メラノーマに罹っている場合、ワクチンは、その他の治療処置と共に投与することが出来る。その他の治療処置の例としては、これらに限られるわけではないが、T細胞免疫療法の採用、サイトカインまたはメラノーマ用のその他の治療薬剤の共投与が含まれる。
【0074】
代わりに、実質的にあるいは部分的に精製したMART−1タンパク質の全体または部分を、医薬として受け入れうる担体内のワクチンとして投与しても良い。投与されて良いMART−1タンパク質の範囲は、患者当たり約0.001から約100mgであり、望まし投与量は、患者当たり約0.01から約100mgである。望ましい実施態様では、MART−1ペプチドAAGIGILTV(配列番号:4)(一文字コードで表す)またはその類似体が、そのような治療を必要とする哺乳動物に治療目的でまたは予防目的で投与される。修飾MART−1ペプチドの代わりに、表14に示した例を用いても良い。望ましい投与量は、約0.001mgから約100mg、最も望ましくは約0.01mgから約100mgであろう。ペプチドは、合成によってまたは組換えによって作り出されて良い。免疫化は、抗免疫原抗体または免疫細胞の充分な力価が得られるまで、必要に応じて繰り返して行われる。
【0075】
さらなるその他の代わりの実施態様では、レトロウイルスベクターのようなウイルスベクターを、哺乳動物細胞内へ導入することもできる。レトロウイルスベクターを導入することの出来る哺乳動物細胞の例としては、これらに限られるわけではないが、哺乳動物の初代培養または哺乳動物の継代培養、COS細胞、NIH3T3、または293細胞(ATCC#CRL1573)が含まれる。遺伝子を運搬するベクターを細胞内に導入する手段には、これらに限られるわけではないが、ミクロインジェクション、エレクトロポレーション、トランスフェクション、またはDEAEデキストラン、リポフェクチン、リン酸カルシウムを用いたトランスフェクション、または当業者に既知のその他の方法(Sambrookら編、1989、“Molecular Cloning.A laboratory manual”、Cold Spring Harbor Press Plainview、New York)が含まれる。MART−1抗原を発現している哺乳動物細胞は、哺乳動物に投与することができ、ワクチンまたは免疫原として供される。MART−1抗原発現細胞を投与する方法の例としては、これらに限られるわけではないが、静脈内、腹腔内または病巣内が含まれる。望ましい実施態様では、ペプチドAAGIGILTV(配列番号:4)に関連するMART−1核酸配列の部分が、MART−1発現ベクターに挿入され、哺乳動物細胞内に導入される。代わりに、MHC分子とのそれらの結合を強化するように修飾されたMART−1ペプチド関連核酸配列を用いても良い。例として、表14に示す修飾ペプチドをコードする核酸配列を、発現ベクターに挿入し、哺乳動物細胞内に導入しても良い。
【0076】
本発明のワクチン調合物は、メラノーマ関連MART−1抗原のようなメラノーマ関連抗原に対して直接的な免疫応答を誘発する免疫原からなる。ワクチン調合物は、最初に動物モデルで、手始めに齧歯動物、次いでヒト以外の霊長類、最後にヒトで評価されて良い。免疫化法の安全性は、免疫化された動物の一般的健康状態への免疫化による影響(体重変化、発熱、食欲状態等)を探し出すことによって、また検死の病理学的変化を探し出すことによって、決定される。動物で最初に試験した後、メラノーマ癌患者で試験できる。従来からの方法を用いて、患者の免疫応答が評価され、ワクチンの効果が決定されるであろう。
【0077】
本発明のさらなるその他の実施態様では、MART−1タンパク質の全体、一つあるいはいくつかの部分、またはMART−1ペプチドあるいはその類似体または修飾MART−1ペプチドあるいはその類似体を、生体外(in vitro)で培養された樹状突起細胞にさらして良い。培養樹状突起細胞は、樹状突起細胞修飾抗原または抗原でパルス処理した樹状突起細胞からなるT細胞依存性抗原を作り出す手段を提供し、樹状突起細胞内で、抗原は処理され抗原活性化樹状突起細胞上に発現する。MART−1抗原活性化樹状突起細胞または処理された樹状突起細胞抗原は、ワクチンまたはメラノーマ治療用の免疫原として用いられて良い。樹状突起細胞は、抗原が中に取り込まれ樹状突起細胞表面上に示されるに充分な時間、抗原にさらされるべきである。得られた樹状突起細胞または樹状突起細胞処理抗原は、次いで、治療を必要とする個体に投与することが出来る。そのような方法は、Steinmanら、WO93/208185およびBanchereauら、EPO出願O563485A1に記載されており、ここに参照として取り入れる。
【0078】
本発明のさらなるその他の実施態様では、個体から分離されたT細胞は、生体外で(invitro)、MART−1タンパク質あるいはその部分、またはMART−1ペプチドあるいはその類似体、またはMART−1修飾ペプチドあるいはその類似体に、さらし、次いで、そのような治療を必要とする患者に治療上有効な量を投与することが出来る。T−リンパ球を分離できる例としては、これらに限られるわけではないが、抹消血液リンパ球(PBL)(peripheral blood cell lymphocyte)、リンパ節、または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(tumor infiltrating lymphocytes)が含まれる。そのようなリンパ球は、処置した個体からまたは宿主から、この技術分野で既知の方法によって分離し、生体外で培養することが出来る(Kawasaki,Y.ら、1989、J.Immunol.,142:2453−3461)。リンパ球は、RPMIあるいはRPMI1640またはAIM−Vのような培地中で、1−10週間培養される。生存能力は、トリパンブルー色素排除試験によって評価される。リンパ球は、培養の一部または全期間中、MART−1タンパク質の全体または部分にさらされる。望ましい実施態様では、リンパ球は、10細胞当たり約1から約10μg/mlの濃度で、リンパ球培養の全期間または一部期間、AAGIGILTV(配列番号:4)ペプチド(一文字コードで表す)にさらされる。ペプチドに感作させた後、T−リンパ球は、そのような治療を必要とする哺乳動物に投与される。代わりに、表14に示す修飾MART−1ペプチドをリンパ球にさらしても良い。このような感作T細胞を哺乳動物に投与するための方法の例としては、これらに限られるわけではないが、静脈内、腹腔内、または病巣内が含まれる。これらの感作T−リンパ球の効果を測定し評価するパラメーターには、これらに限定されるわけではないが、治療される哺乳動物内での免疫細胞の生成または腫瘍の退縮が含まれる。従来からの方法が、これらのパラメーターを評価するために用いられる。そのような治療は、サイトカインまたは遺伝子修飾細胞と共に施すことが出来る(Rosenberg,S.A.ら、1992、Human Gene Therapy,3:75−90;Rosenberg,S.A.ら、1992、Human Gene Therapy,3:57−73)。
【0079】
ワクチンとしての使用に加えて、組成物は、MART−1抗原、ペプチドあるいはその類似体、または修飾MART−1ペプチドおよびその類似体、に対する抗体を調製するために用いることが出来る。抗体は、抗メラノーマ薬剤として直接用いることが出来る。抗体を調製するために、宿主動物は、MART−1タンパク質、ペプチドあるいはその類似体、または修飾ペプチドあるいはその類似体を、免疫原として用いて免疫化され、上記のようなワクチン用担体と結合される。宿主の血清または血漿は、適当な時間間隔で集められて、免疫原と反応する抗体からなる組成物を提供する。γ−グロブリン画分またはIgG抗体は、例えば、飽和硫酸アンモニウムあるいはDEAEセファデックス、またはその他の当業者に既知の技術を用いることによって、得ることが出来る。抗体は、化学療法のようなその他の抗癌薬剤と関連するであろう多くの不利な副作用とは実質上無関係である。
【0080】
抗体組成物は、潜在する不利な免疫システム応答を最小にすることによって、宿主システムとより一層矛盾なく作ることが出来る。この事は、外来種抗体のFc部分の全体あるいは一部を除去することによって、または、例えばヒト/ヒトハイブリドーマからの抗体を用いると言ったような宿主動物と同一種の抗体を用いることによって、成し遂げられる。ヒトに適応させた(即ちヒトに非免疫原性である)抗体は、例えば、抗体の免疫原性部分を、類似しているが非免疫原性である部分で置き換える(即ち、キメラ抗体)ことによって、作られて良い。そのようなキメラ抗体は、一つの種からの抗体の反応性または抗原結合部分、および異なる種からの抗体のFc部分(非免疫原性)を含んでよい。キメラ抗体の例としては、これらに限られるわけではないが、非ヒト哺乳動物−ヒトのキメラ、齧歯動物−ヒトのキメラ、ねずみ−ヒトおよびラット−ヒトのキメラ(Robinsonら、国際特許出願第184,187号;Taniguchi M.,欧州特許出願第171,496号;Morrisonら、欧州特許出願第173,494号;Neubergerら、PCT出願WO86/01533;Cabillyら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:3439;Nishimuraら、1987、Canc.Res.,47:999;Woodら、1985、Nature,314:466;Shawら、1988、J.Natl.Cancer Inst.,80:15553、ここにそのすべてを参照として取り入れる)が含まれる。
【0081】
「人体に適用させた」キメラ抗体の一般的レビューは、Morrison S.、1985、Science,229:1202によって、およびOiら、1986、BioTecniques,4:214によって提供される。
【0082】
適当に「人体に適用させた」抗体は、CDRまたはCEAの置換によって代わりに作り出すことが出来る(Jonesら、1986、Nature,321:552;Verhoeyanら、1988、Science,239:1534;Biedleretら、1988、J.Immunol.,141:4053、これらのすべてはここに参照として取り入れる)。
【0083】
抗体または抗原結合フラグメントは、また、遺伝子工学によって作り出されても良い。大腸菌内での重鎖および軽鎖の両方の遺伝子を発現させるための技術は、以下のPCT特許出願;公開番号WO901443、WO901443およびWO9014424、ならびにHuseら、1989、Science,246:1275−1281の主題である。
【0084】
また、抗体は、免疫応答を強化する手段として用いることもできる。抗体は、抗体のその他の治療投与に用いられるそれと同様の量を投与することが出来る。例えば、プールしたγグロブリンは、患者当たり約1mgから約100mgの範囲で、投与される。このように、MART−1抗原と反応する抗体は、単独でまたはメラノーマに罹った哺乳動物への他の抗癌治療と共に、抵抗なく投与することが出来る。抗癌治療の例としては、これらに限られるわけではないが、化学療法、放射線治療、TILの免疫療法採用療法が含まれる。
【0085】
代わりに、抗MART−1抗原抗体は、免疫原としての抗イディオタイプ抗体を投与することによって、誘発することもできる。便宜上、上記の方法に従って調製した精製抗MART−1抗体調製物を用いて、宿主動物に抗イディオタイプ抗体を誘発させる。組成物は、適当に希釈されて宿主動物へ投与される。投与の後、通常は繰り返し投与の後、宿主は、抗−イディオタイプ抗体を作り出す。Fc領域への免疫原性応答を排除するために、宿主動物と同じ種によって作りだした抗体を用いるか、または投与した抗体のFc領域を排除することが出来る。宿主動物内の抗イディオ抗体の導入に次いで、血清または血漿は、抗体組成物を提供するために、取り除かれる。組成物は、抗MART−1抗体のための上記の方法に従って、または親和性マトリックスに結合した抗MART−1抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって、精製することができる。生成された抗イディオタイプ抗体は、標準的なMART−1抗原とコンフォメーションが同じであり、MART−1タンパク質、ペプチド類似体またはその部分を用いるよりもむしろ、MART−1メラノーマ抗原ワクチンを調製するために用いられて良い。
【0086】
動物に抗MART−1抗体を誘発させる手段として用いた場合、抗体を注入する方法は、ワクチン注射の目的と同じ、即ち、補助剤ととにまたは補助剤を用いずに、生理学的に適当な希釈剤中、有効濃度で、筋肉内、腹腔内、皮下、病巣内、またはその類似部位などに注射される。一種類またはそれより多くの効能促進剤の注入が望ましい。
【0087】
また、本発明のMART−1誘導タンパク質またはペプチドまたは修飾ペプチドは、病気前後の予防を意図する抗血清の生成に用いるつもりである。ここでは、MART−1抗原、ペプチドあるいはその類似体、または修飾MART−1ペプチドあるいはその類似体は、適当な補助剤と調合され、ヒト抗血清を生成するための既知の方法に従って、ヒト志願者に注射により投与される。注射されたタンパク質に応答する抗体は、免疫化に次いで、数週間の間、抹消血清をサンプリングすることによって、抗MART−1血清抗体の存在を検出するために、ここに記載されたようなイムノアッセイを用いて、モニターされる。
【0088】
免疫化された個体からの抗血清は、進行性メラノーマの危険性のある個体の予防処置として投与されて良い。抗血清は、また、メラノーマに罹った個体の病後の予防治療にも有用である。
【0089】
MART−1抗原の抗体および抗イディオタイプ抗体のインビボでの使用および診断的使用の両方に対してモノクローナル抗体を使用するのが好適であろう。モノクローナルの抗−MART−1抗体または抗−イディオタイプ抗体は以下のように製造できる。免疫化動物から脾臓またはリンパ球を取り出し、不死化させるかまたは当業者には既知の方法によりハイブリドーマの製造に使用した。(Goding,J.W.1983.Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,PladermicPress,Inc.,NY,NY,pp.56−97)。ヒトーヒトハイブリドーマを製造するために、ヒトリンパ球供与者が選択された。MART−1抗原を運ぶメラノーマを持つことが知られている供与者が適したリンパ球供与者であろう。リンパ球は末梢血試料から単離でき、もし供与者が脾摘出を受けるならば脾臓細胞を使用してもよい。エプスタインーバールウイルス(EBV)がヒトリンパ球の不死化に使用でき、ヒトーヒトハイブリドーマを産生するためにはヒト融合パートナーが使用できる。ペプチドによる一次インビトロ免疫化もまたヒトモノクローナル抗体の発生に使用できる。好適なMART−1ペプチドの例としては、AAGIGILTV(配列番号:4)、EAAGIGILTV(配列番号:17)およびAAGIGILTVI(配列番号:18)(ペプチドは単一文字アミノ酸コードで表されている)が挙げられるがそれらに制限されるわけではない。最も好適にはAAGIGILTV(配列番号:4)が免疫原として使用される。もしくは、MART−1アミノ酸配列から誘導され、MHCクラスI分子への結合性を促進させるように修飾されたペプチドもまた使用される。例えば、表14に示された修飾ペプチドが免疫原として使用されるであろう。
【0090】
不死化細胞により分泌される抗体をスクリーニングして所望の特異性を持つ抗体を分泌するクローンを決定する。モノクローナルMART−1抗原またはペプチド抗体については、抗体はMART−1抗原またはペプチドに結合しなければならない。モノクローナル抗イディオタイプ抗体については、抗体は抗MART−1抗体に結合しなければならない。所望の特異性を持つ抗体を産生する細胞が選択される。
【0091】
ここに記載された抗体またはキメラ抗体はまた常法により毒素分子、放射性同位元素および薬剤と結合させてもよい(Vitetta et al.(1991)in“Biologic Therapy of Cancer”De Vita VT,Hellman S.,Rosenberg,S.A.(eds)J.B.Lippincott Co.Philadelphia;Larson,S.M.et al.(1991)in“Biological Therapy of Cancer”De Vita V.T.,Hellman S.,Rosenberg,S.A.(eds)J.B.Lippincot Co.,Philadelphia)。抗体が結合されるであろう毒素の例としてはリシンまたはジフテリア毒素が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。薬剤または化学療法剤の例にはシクロホスファミドまたはドキソルブシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。放射性同位元素の例には131Iが挙げられるが、それに限定されるわけではない。上記の薬品に共有結合で結合する抗体は癌免疫療法においてメラノーマに処置に使用できる。
【0092】
病変のある部位への局所的投与は、局所適用、注射および組換え的に注入液を発現している細胞を含む多孔性装置の移植、MART−1抗体またはキメラ抗体、毒素、薬剤または放射性標識またはそれらの一部が含まれた多孔性装置の移植を含む(これらに限定されるわけではない)本分野では既知の手段により達成される。
【0093】
上記の抗体およびそれらの抗原結合性断片はキット単独としてまたはインビボ使用のための医薬組成物として供給される。抗体は治療的使用、イムノアッセイにおける診断的使用またはここに記載したMART−1蛋白質またはペプチドを精製するための免疫アフィニティー試薬としての使用において用いられるであろう。
【0094】
本発明はまた腫瘍浸潤リンパ球により認識される第二のメラノーマをコードしているc(相補的)DNA25(図4Aおよび4B;配列番号:26)と称される、実質的に精製され単離された核酸配列も提供する。cDNA25によりコードされたメラノーマ抗原を認識するTILはインビボ腫瘍排除に関連している。TILはHLA−A2に関連してcDNA25によりコードされているメラノーマ抗原を認識した。cDNA25核酸配列(図4Aおよび4B;配列番号:26)とメラノサイトーメラノーマ特異的蛋白質gp100をコードしている遺伝子の核酸配列との比較により、この配列はgp100として以前に同定された配列とは似てはいるが異なっていることが示された。gp100として以前に同定された配列にはgp100(GenBank寄託番号 M32295;gp95とも称される)、Pmel 17(GenBank寄託番号 M77348;Kwon et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sciences(USA)88:9228−9232)およびME20(Mareshet al.(1994)DNA and Cell Biology 13:87−95)が挙げられる。
【0095】
ここに提供されるcDNA25配列(図4Aおよび4B;配列番号:26)はGenbankの以前に報告されたgp100配列(GenBank寄託番号M32295)とは2ヌクレオチド異なっており、Pmel 17配列(Kwon et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sciences(USA)88:9228−9232)とは3ヌクレオチド異なっており、かつ21塩基対が欠失し、およびME20配列(Mareshet al.(1994)DNA and Cell Biology 13:87−95)とは1ヌクレオチド異なっている。アミノ酸レベルでは、cDNA25によりコードされている蛋白質はGenbankのgp100配列(GenBank寄託番号M32295)とは162位の1アミノ酸、Pmel 17と比較すると162位および272位の2つのアミノ酸が異なっており、しかもPmel 17の588−594位に存在している7つのアミノ酸が含まれていない。従って、cDNA25はgp100の遺伝子の異なった一つの形をコードしているように思われる。cDNA25核酸配列(図4Aおよび4B;配列番号:26)およびアミノ酸配列(図5A;配列番号:27)と以前に報告されているgp100配列間の相違は多形、対立遺伝子変異または腫瘍中での突然変異によるものであろう。マウス腫瘍での実験でT細胞により認識される新規抗原は不活性化遺伝子のコード領域における点突然変異から生じることが示されている(Boon,T(1992)Advances in Cancer Research58:177−210)。
【0096】
本発明はまたここで提供されるgp100蛋白質配列またはその類似体から誘導される免疫原性ペプチドを提供する。(図5Aおよび図7A;配列番号:27および121)。これらの免疫原性ペプチドはTILにより認識されるgp100蛋白質の抗原性部分(図5Aおよび図7A;配列番号:27および121)を表している。免疫原性ペプチドの例にはLLDGTATLRL(ペプチドG10−4;配列番号:33)、VLYRYGSFSV(ペプチドG10−5;配列番号:34)、ALDGGNKHFL(ペプチドG10−22;配列番号:35)、VLKRCLLHL(ペプチドG9−19;配列番号:36)、VLPSPACQLV(ペプチドG10−8;配列番号:37)、SLADTNSLAV(ペプチドG10−9;配列番号:38)、SVSVSQLRA(ペプチドG9−216;配列番号:39)、YLEPGPVTA(ペプチドG9−280;配列番号:40)、LNVSLADTN(ペプチドG10−400;配列番号:41)、KTWGQYWQV(ペプチドG9154;配列番号:46;図7A;アミノ酸154から162)、KTWGQYWQVL(ペプチドG10154;配列番号:47;図7A;アミノ酸154から163)、ITDQVPFSV(ペプチドG9209;配列番号:48;図7A;アミノ酸209から217)およびTITDQVPFSV(ペプチドG10208;配列番号:49;図7A;アミノ酸208から217)が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。本発明はさらにgp100アミノ酸配列(図5Aおよび図7A;配列番号:27および121)から誘導されるこれらの免疫原性ペプチドの類似体も含んでいる。術語類似体とはこれらの免疫原性ペプチドの機能的特色を示す任意のペプチドを含んでいる。術語類似体はまた上記のペプチドの保存的置換体または化学誘導体も含んでいる。これらの免疫原性ペプチドはMART−1に対して記載したように、同一の方法または様式により合成的にまたは組換えにより製造されるであろう。
【0097】
本発明のさらに別の態様では、gp100配列(図5Aおよび図7A;配列番号:27および121)から誘導される免疫原性ペプチドは、T細胞に渡された場合にペプチドが会合するMHC分子への結合を促進することにより免疫原性を増加させるように修飾される。例えば、修飾には免疫原性ペプチド配列内の一つまたはそれ以上のアミノ酸の欠失または付加、または所定の免疫原性ペプチド配列内のアミノ酸の挿入、または所定の免疫原性ペプチド配列内に存在するアミノ酸の誘導体化、または所定の免疫原性ペプチド配列内のアミノ酸の突然変異が含まれるであろう。好適な修飾においては、所定の免疫原性ペプチド配列において少なくとも一つのアミノ酸が置換されるかまたは置き換えられる。所定の免疫原性ペプチド配列を構成する任意のアミノ酸は本発明により修飾されるであろう。任意のアミノ酸が免疫原性ペプチド配列内の所定のアミノ酸の置換または置き換えに使用されるであろう。修飾は免疫原性gp100ペプチド内のどのアミノ酸位置で生じてもよい。修飾gp100ペプチドにはT細胞に渡された場合にペプチドが会合するMHC分子への促進された結合を示す任意の修飾gp100ペプチドが含まれるつもりである。
【0098】
例えば、HLA−A2に関連してT細胞に認識されるペプチドは9から10のアミノ酸の長さである。好適には、HLA−A2へのペプチドの促進された結合のためには、ペプチド中の二番目の位置および最後の位置は疎水性アミノ酸、好適には脂肪族疎水性アミノ酸である。二番目の位置はロイシン、メチオニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、グリシンまたはアラニンのような脂肪族疎水性アミノ酸であろうが、それらに限定されるわけではない。ペプチドの最後の位置は(ペプチドの長さに依存して九または十番目の位置)バリン、ロイシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、メチオニン、バリン、またはトレオニンのような脂肪族疎水性アミノ酸であろうが、それらに限定されるわけではない。
【0099】
免疫原性ペプチドの一番目および三番目の位置は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸で置換または置き換えられていてもよい。ペプチドの一番目および三番目の位置に使用できるアミノ酸の例としてはアラニン、ロイシン、リジン、イソロイシン、グリシン、メチオニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、リジンまたはチロシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0100】
本態様に従って修飾されるであろうgp100ペプチドの例としてはLLDGTATLRL(ペプチドG10−4;配列番号:33)、VLYRYGSFSV(ペプチドG10−5;配列番号:34)、ALDGGNKHFL(ペプチドG10−22;配列番号:35)、VLKRCLLHL(ペプチドG9−19;配列番号:36)、VLPSPACQLV(ペプチドG10−8;配列番号:37)、SLADTNSLAV(ペプチドG10−9;配列番号:38)、SVSVSQLRA(ペプチドG9−216;配列番号:39)、YLEPGPVTA(ペプチドG9−280;配列番号:40)、LNVS ADTN(ペプチドG10−400;配列番号:41)、KTWGQYWQV(ペプチドG9154;配列番号:46;図7A;アミノ酸154から162)、KTWGQYWQVL(ペプチドG10154;配列番号:47;図7A;アミノ酸154から163)、ITDQVPFSV(ペプチドG9209;配列番号:48;図7A;アミノ酸209から217)およびTITDQVPFSV(ペプチドG10208;配列番号:49;図7A;アミノ酸208から217)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0101】
例えば、免疫原性gp100ペプチドKTWGQYWQV(配列番号:46)から誘導される修飾gp100ペプチドは式XGQYWQX(配列番号:123)を持っており、式中:
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはアラニン、ロイシン、リジン、イソロイシン、グリシン、メチオニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、リジンまたはセリン、アスパラギン酸またはチロシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には脂肪族疎水性アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、イソロイシン、アラニン、トレオニン、グリシンまたはバリンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。最も好適であるのは;ロイシン、メチオニンまたはイソロイシンである。
【0102】
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはアラニン、ロイシン、リジン、イソロイシン、グリシン、メチオニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、リジンまたはチロシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には脂肪族疎水性アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはバリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、アラニン、トレオニンまたはグリシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0103】
修飾ペプチドの例は表15に示されている。好適な修飾ペプチドはKIWGQYWQV(G9−154−21)(配列番号:70)である。
もしくは、免疫原性gp100 ITDQVPFSV(G9−209;配列番号:48)が修飾され、そのような修飾ペプチドは一般式XQVPFSX(配列番号:124)を持っており、式中:
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、グリシン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシン、アスパラギン酸またはセリンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、またはグリシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、グリシン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸またはセリンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリンまたはトレオニンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0104】
ITDQVPFSVから誘導される修飾ペプチドの例が表16に示されている。好適にはペプチドFLDQVPFSV(ペプチドG9−209−1F2L)が使用される。
例えば、免疫原性gp100ペプチドYLEPGPVTA(G9−280;配列番号:40)から誘導される修飾gp100ペプチドはまたMHCクラスI分子、好適にはHLA−A2またはそのサブタイプへの結合を促進するように修飾される。
【0105】
修飾ペプチドは一般式XPGPVTX(配列番号:125)を持っており、式中:
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、グリシン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファンまたはチロシン、アスパラギン酸またはセリンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には脂肪族疎水性アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、またはグリシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意のアミノ酸、好適には疎水性脂肪族アミノ酸または芳香族アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、イソロイシン、バリン、トレオニン、グリシン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン酸またはセリンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない;
は任意の疎水性アミノ酸、好適には脂肪族疎水性アミノ酸である。使用できるアミノ酸の例としてはロイシン、メチオニン、アラニン、イソロイシン、バリン、トレオニンまたはグリシンが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0106】
YLEPGPVTA(G9−280;配列番号:40)から誘導される修飾ペプチドの例は表17に示されている。好適な修飾ペプチドはYLEPGPVTV(G9−280−9V)(配列番号:104)である。
【0107】
本発明にはここに開示したgp100配列(図5A;配列番号:27および図7A;配列番号:121)から誘導されるこれらの修飾ペプチドの類似体もさらに含まれる。術語類似体には上記のこれらの修飾ペプチドの機能的特色を示す任意のペプチドが含まれるつもりである。これらの修飾ペプチドは常法により合成的にまたは組換え的に提供される。
【0108】
別の態様では、表15−17に示されたようなgp100アミノ酸配列または修飾gp100ペプチドまたはそれらの類似体は治療的にまたは予防的にワクチンとして使用される。予防的には、ワクチンはメラノーマが明白になる前に投与される。これらのペプチドの予防的投与は哺乳類においてメラノーマを防止または減少させるために働くべきである。
【0109】
好適な態様において、メラノーマの高い危険性を持つ哺乳類(好適にはヒト)はこれらのワクチンで予防的に処置される。もしくは、メラノーマまたは転移性メラノーマで表される腫瘍抗原への患者自信の免疫応答を促進するために治療的にワクチンが投与されるであろう。免疫原として働くワクチンは細胞、gp100免疫原性ペプチドをコードしている核酸配列を運ぶ組換え体発現ベクターでトランスフェクトされた細胞からの細胞溶解物または発現された蛋白質を含んでいる培養上清液であろう。これらの免疫原性ペプチドをコードしている核酸配列が導入される発現ベクターはMART−1で記載したものと同一である。もしくは、免疫原は部分的または実質的に精製された組換え体gp100ペプチドまたはそれらの類似体である。
【0110】
投与されるべき免疫原は純粋なまたは実質的に純粋な形でも可能であるが、上記MART−1で記載した医薬組成物、処方または製剤として存在させるのが好適である。ワクチン接種は前にMART−1で記載したような常法により実施できる。
【0111】
本発明のさらに別の態様において、一つまたはそれ以上のメラノーマ抗原に対する多価ワクチンが提供される。そのような多価ワクチンはMART−1蛋白質ペプチドまたは修飾ペプチドのすべてまたは一部、またはgp100ペプチドまたは修飾ペプチドまたはそれらの組み合わせを含んでいる。
【0112】
メラノーマ抗原をコードしている遺伝子の同定において従来は抗原で免疫化または前もって処置したメラノーマ患者から単離されたPBLを利用していた(Van Der Bruggen et al.(1991)Science 254:1643−1647;Brichard et al.(1993)J.Exp.Med.178:489−495;Traversari,C.,et al.(1992)J.Exp.Med.176:1453−1457)。好適な方法は腫瘍を持つ患者を免疫化することなく、該患者からのTILにより認識される腫瘍抗原をコードしている遺伝子を同定することである。同定された遺伝子は増殖している癌に対する自然の免疫応答に含まれた抗原をコードしているのでそのような方法で可能性が大きくなる。従って、本発明はメラノーマを持つ患者の腫瘍からの腫瘍浸潤性リンパ球単離物(TIL)を用いるcDNA発現クローニングを利用するメラノーマ抗原コード遺伝子の同定法も提供する。本方法は以下の工程を含んでいる:(a)メラノーマを持つ哺乳類の腫瘍から腫瘍浸潤性リンパ球を単離し;(b)哺乳類細胞株内にメラノーマcDNAライブラリーを導入し;(c)該哺乳類細胞を該TILに暴露し;(d)該TILにより認識される該哺乳類細胞中の該cDNAによりコードされている抗原の発現をスクリーニングし;および(e)該抗原に対応する該cDNAを単離する。工程(a)の腫瘍浸潤性リンパ球はメラノーマを持つ患者の病巣、皮下組織または内臓を含む(しかしこれらに限定されるわけではない)から単離されるであろう。工程(b)で使用されるcDNAライブラリーの製造に使用される細胞の例としては新鮮なまたは培養されたメラノーマ細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。好適には、cDNAライブラリーはメラノーマ抗原を発現していない哺乳類細胞内へ導入される。もしTILによる認識のための所望のHLAハロタイプを発現していない非ヒト哺乳類細胞またはヒト細胞が工程(b)で使用されるならば、そのような細胞は以下に記載するようにHLA遺伝子で同時トランスフェクションできる。工程(b)で使用できる細胞の例としては乳癌細胞株MDA231(ATCC# HTB26)またはCOS7細胞(ATCC# CRL1651)のような腫瘍細胞株が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。使用できるMHC遺伝子の例としてはHLA−A、HLA−BおよびHLA−C遺伝子、好適であるのはHLA−A2およびそのサブタイプ(Zemmour,J.et al.(1992)Tissue Antigens 40:221−228)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。使用するのに適したMHC遺伝子はcDNAライブラリー源であった腫瘍細胞のハロタイプにより決定される。標準的な方法がTIL単離物により認識されるハロタイプの決定に使用できる(ASHI Laboratory Manual(第2版 1990)。TILにより認識される抗原を発現しているcDNAクローンを含む細胞の認識を如何にして評価するかの例としてはγインターフェロンアッセイ、TNF分泌(Van de Bruggen et al.,(1991)Science 254:1643−1647)または認識された抗原をコードするcDNAでトランスフェクトされた細胞の溶解などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。そのようなアッセイは当業者には既知の常法により実施される。cDNAを含むベクターの隣接部位に特異的なプライマーを用いるPCRによりメラノーマ抗原が単離できる。TILにより認識される抗原に対応するcDNAを如何にして単離するのかの例としてはPCRが挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0113】
メラノーマ抗原をコードしている遺伝子または核酸配列が同定されたら、次の工程はこれらの遺伝子によりコードされている蛋白質の抗原性部分またはエピトープを同定することである。従って、本発明のさらに別の態様では、MART−1蛋白質(図1;配列番号:2)またはgp100蛋白質(図5Aおよび図7A;配列番号:27および配列番号121)の予測されるアミノ酸配列から誘導されるペプチドの免疫原性を評価するための方法が提供される。本方法は以下の工程を含んでいる:(a)MART−1(図1;配列番号:2)またはgp100(図5Aおよび図7A;配列番号:27および配列番号121)アミノ酸配列に基づく多数のペプチドを調製し;(b)少なくとも一つの該ペプチドと哺乳類細胞株をインキュベートし;(c)該ペプチドとインキュベートした該哺乳類細胞を腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に暴露し;および(d)該ペプチドとインキュベートした該細胞をTILの認識でスクリーニングする。約25から5のアミノ酸、より好適には20から10のアミノ酸、および最も好適には9−10のアミノ酸のペプチドを使用するのが好ましい。工程(b)で使用される細胞の例としてはT2細胞(Cerundolo,V.et al.(1990)Nature,345:449−452)またはEBV形質転換B細胞株(Topalian et al.(1989)J.Immunol.142:3714−3725)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。ペプチドとインキュベートされた細胞の認識をどのように評価するのかの例としては51Cr放出細胞毒性アッセイ(Cerundolo,V.et al.(1990)Nature 345:449−452)またはγ−IFNまたはTNF分泌のようなリンホカインアッセイ(Schwartzentruber,D.et al.,(1991)J.of Immunology 146:3674−681)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0114】
T細胞認識抗原はMHCクラスI分子と複合体を形成する。すべての哺乳類種のMHC座は多数の遺伝子を含んでおり、高度に多形である。異なったMHC分子またはハロタイプ型は異なった抗原に結合する。ヒトにおいてHLA複合体はクラスI分子をコードしているHLA−A、HLA−BおよびHLA−C遺伝子座を含んでいる。リンパ球はHLAクラスI分子に関して腫瘍抗原を認識するであろう。もし組換え体MART−1発現ベクターを含む細胞がTILでスクリーニングされるがヒト細胞ではなく(COS細胞のような)、または所望のハロタイプを発現しないならば、MHCクラスI遺伝子を含む発現ベクターが細胞内へ導入されるであろう(実施例1参照)。これは本発明のさらに別の態様を表している。MART−1抗原およびHLA抗原を発現している細胞は特異的MHCクラスI制限型に関連して腫瘍抗原の存在を検出するためにTILでスクリーニングできる。適したハロタイプはライブラリーが誘導される腫瘍のハロタイプにより決定される。使用できるMHCクラスI遺伝子の例としてはHLA−A、HLA−BおよびHLA−C遺伝子が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。好適なMHC特異性または制限型の例としてはHLA−A1、HLA−A2.1サブタイプ(Zemmour,J.et al.(1992)Tissue Antigens 40:221−228)のようなHLA−A2またはHLA−A24が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。最も好適であるのはHLA−A2.1遺伝子である。
【0115】
獣医学的な使用もまたここに記載された組成物および治療的応用により含まれているつもりである。
【実施例】
【0116】
本明細書で引用したすべての本、文献および特許は全文のまま引例として含まれている。以下の実施例は本発明の種々の態様を例示するものであり、その範囲を限定しているものではない。
【0117】
腫瘍内浸潤自己由来T細胞により認識される共有されたヒトメラノーマ抗原の遺伝子コードのクローニング
実施例1
細胞障害性Tリンパ球(CTL)の発生および細胞株の培養
Kawakami,Y.,et al.(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191に記載されているように、CTLは切り出された腫瘍標本から細胞の懸濁液を6000IU/mlのIL−2(Cetus−Oncology Division,Chiron Corp.Emeryville,CA)と30−70日培養することにより発生させた。TIL501およびTIL1235は主としてCD8であり、進行した転移性メラノーマを持つ患者の腫瘍標本から誘導された。CD8T細胞クローン、TIL501.A42は限界希釈法により確立され、120IU/mlのIL−2と照射された(一週間の一度を4から6回)自己由来腫瘍細胞とともに培養された。
【0118】
メラノーマ細胞株397mel、501mel、526mel、537mel、624mel、888mel、952melおよびエプスタインーバールウイルス(EBV)形質転換B細胞株、501EBVB、836EBVBは我々の研究室で確立され、10%ウシ胎児血清(FCS)(Biofluids,Rockville MD)を含むRPMI1640(GIBCO/Lifetechnologies,Grand Island N.Y.)培地中で培養された(Topalian et al.,(1989)J.Immunol.142:3714−3725)。正常培養メラノサイト、NHEM483、NHEM493、NHEM527、NHEM529、NHEM530、NHEM533、NHEM616およびNHEM680はClonetics,San Diego,CAから購入され、FM725、FM801、FM902はM.Herlyn,Wistar Institute,Philadelphia PAから提供を受け、HA002はR.Halaban,Yale university,New Haven,CTから提供を受け、メラノサイト増殖培地(MGM,Clonetics)中で培養した。メラノーマ細胞株C32、RPMI7951、WM115、A375、HS695T、Malme3M、結腸癌細胞株Collo、SW480、WiDr、乳癌細胞株MDA231、MCF7、HS578、ZR75、神経芽細胞腫細胞株SR−N−SH、膠腫細胞株U138MG、HS683、H4、肉腫細胞株143B、アデノウイルスタイプ5で形質転換された胎児性腎臓細胞株293はATCC,Rockville,MDから購入され、腎癌細胞株UOK108およびUOK117はM.Linehan NIH,Bethesda,MDから提供を受けた。小細胞肺癌細胞株H1092はJ.D.Minna,University Texas Southwestern,Dallas,TXから提供された。Ewing肉腫細胞株TC71、RD−ES、6674はM.Tsokos,NIH,Bethesda,MDから提供された。神経芽細胞腫細胞株SK−N−ASはO.M.El Badry,NIH,Bethesda,MDから提供を受けた。形質細胞腫細胞株HMY−C1RおよびM1線維芽細胞株はW.Biddison,NIH,Bethesda,MDから提供を受けた。腎臓上皮細胞KAM、WLCはMedical University of South Carolina,Charleston,SCのD.J.Hazen−MartinおよびD.A.Sensから提供された。サル腎臓細胞株COS7はW.Leonard,NIH,Bethesda,MDから提供を受けた。
【0119】
細胞毒性アッセイ
51Cr放出アッセイはKawakami,Y.,et al.(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191に記載されているように実施された。簡単に記すと、51Crで標識された5000の標的細胞を異なった数のエフェクター細胞と混合し、5時間インキュベートした。次に上清液を集め、放射活性を測定して特異的溶解のパーセントを計算した。
【0120】
IFN−γ放出アッセイ
96フラットウェルマイクロプレートを用い、ウェル当たり120IU/mlのIL−2を含む300μlのAIM−V培地中、5万から10万の応答細胞および4x10−10の刺激要因細胞を混合した。20時間インキュベーションした後、100μlの上清を集め、抗ヒトIFN−γモノクローナル抗体(mAb)(Biosource,Camerillo,CA)で被覆した酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)プレート(Immunoplate MaxiSorp,Nunc,Denmark)に加えた。4℃で一夜インキュベーションした後、プレートを3回洗浄し、ウサギ抗ヒトIFN−γポリクローナル抗体(Ab)(Biosource,Camerillo,CA)の1:2000希釈液を100μl加えて37℃で2時間インキュベートした。プレートは3回洗浄し、アルカリ性ホスファターゼ標識ヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(Ab)(Boehringer Mannheim,Indianapolis,IN)の1:2000希釈液を100μl加えた。37℃で1時間インキュベートした後、100μlの4mg/ml p−ニトロフェノール ホスフェート(Sigma,St Louis,MO)を加え、室温、暗所にて10−20分インキュベートし、反応を停止させるために25μlの1N NaOHを加えた。405nmの波長で光学密度を測定し、同一のアッセイで測定された組換え体IFN−γ標品(Biogen,Cambridge,MA)と比較してIFN−γの濃度を計算した。
【0121】
cDNA発現クローニング
cDNAライブラリーは(Miki,T.,et al.,(1989)Gene;83:137−146;Miki et al.(1991)Proc.Nat.Acai.Sci.USA 88:5167−5171)に記載されているようにHLA−A2+メラノーマ細胞株501melからのポリA RNAから構築された。簡単に記すと、第一鎖cDNAはリンカープライマーGGACAGGCCGAGGCGGCC(T)40(配列番号:42)で合成され、続いて第二鎖cDNA合成が行われた。T4 DNAリガーゼで処理した後、二つのオリゴヌクレオチドCCAITCGCGACC(配列番号:43)およびGGTCGCGATTGGTAA(配列番号:44)からなるSfiIアダプターをcDNAの末端に連結した。cDNAはSfiIで消化し、消化された断片はスパンカラムを通して単離された。cDNAは次にSfiI消化により調製されたバクテリオファージλpCEV27(Miki,T.et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Science(USA)88:5167−5771)ベクターアームと混合し、インビトロ パッケージングが実施された。
【0122】
メラノーマ抗原をスクリーニングするため、改良リン酸カルシウム法(Mammalian Transfection Kit,Stratagene)を用いて、約10クローンを含む増幅cDNAライブラリーがHLA−A2抗原非発現細胞株、MDA231クローン7およびA375クローン1−4内へトランスフェクトされた。G418(BRL,Gaithersburg,MD)選択後、個々のコロニーを単離し、96ウェルマイクロプレート中で培養してレプリカプレートを作製した。5x10TIL1200および5x10TIL1235の混合物を、コンフルエント近くまで増殖しているトランスフェクト体を含むマイクロプレートのウェルに加え、20時間インキュベートした。上清を集め、IFN−γをELISAで測定した。
【0123】
陽性トランスフェクト体のゲノムDNAからトランスフェクトされた遺伝子を取り出すため、挿入された遺伝子に隣接するSP6およびT7プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施された。増幅生成物はpcDNA3ベクター(Invitrogen,San Diego,CA)内へクローン化された。cDNA22および23については、完全長cDNAを含むHindIIIおよびXhoI断片が発現ベクターpcDNA3((Invitrogen,San Diego,CA)内へサブクローン化された。
【0124】
クローン化cDNAが腫瘍抗原をコードしているかどうかを試験するため、クローン化遺伝子を含むpcDNA3がDEAEデキストラン法(Seed,B.およびAruffo,A.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)84:3365−3369)によりCOS7細胞株内へ過渡的にトランスフェクトされた。簡単に記すと、6ウェルプレートを用い、ウェル当たり3x10の細胞を100μgのDEAEデキストラン(Sigma)、0.1mMのクロロキンおよびクローン化遺伝子および/またはpcDNA−HLA−A2.1(Zemmour,J.et al.(1992)Tissue Antigens 40:221−228)を含むpcDNA3を1μg含む0.75mlのDMEM中、37℃で4時間インキュベートした。培地を除去した後、10%DMSOを含むHBSS緩衝液を加えて2分間インキュベートした。細胞をPBSで1回洗浄し、7.5%FCS DMEM中で2日間インキュベートした。293細胞株はリポフェクタミン(BRL,Gaithersburg,MD)を用い、使用説明書に従って過渡的にトランスフェクトされた。インキュベーション後、トランスフェクトされたCOS7または293細胞のTILからIFN−γ放出を媒介する能力が評価された。HLA−A2遺伝子の発現はフローサイトメトリーにより試験された。安定なトランスフェクト体はリン酸カルシウム法により作製され、個々のコロニーおよびプールされたトランスフェクト体は細胞毒性およびIFN−γ放出アッセイによりTILへの反応性が試験された。
【0125】
クローン化遺伝子のDNA配列決定はdGTPおよび7−デアザ−dGTPを用いるジデオキシ鎖停止法により実施された。DNAおよび蛋白質配列はGeneBankのGCGプログラム、EMBLデータライブラリー ヌクレオチドデータベースおよびSWISS−PROT、PIR、GenPept、Brookhaven蛋白質データバンク蛋白質データベースにより分析された。
【0126】
ノーザンブロット分析
全RNAはグアニジンーイソシアネートー塩化セシウム遠心分離法(Chirgwin,J.M.et al.(1979)Biochemistry 13:5294)により単離された。正常組織からの全RNAはClontech,(Palo Alto,CA)から購入された。全RNAの10から20μgが1%アガロース ホルムアルデヒドゲルの電気泳動にかけられ、ナイロン膜(Duralon−UV 膜、Stratagene,La Jolla,CA)。クローン22からの完全長cDNAを含むSalI消化断片およびβ−アクチンcDNA(Clontech)はランダムプライミングにより標識され、プローブとして使用された。プローブとのハイブリダイゼーションはQuikHybプロトコール(Stratagene)に従って68℃で2−16時間行われた。膜を2回2XSSC/0.1%SDSを用いて60℃にて15分間、1回0.1XSSCを用いて60℃にて15分間洗浄し、オートラジオグラフィーを行った。
【0127】
メラノーマ患者からの培養TILの特性付け
HLA−A2メラノーマ患者から複数のTILが確立され、HLA−A2およびHLA−A2患者からのメラノーマ細胞株の溶解が試験された。患者のHLA型検査は通常のHLA型検査技術により実施された。クラスI MHC抗原を最もよく発現し、メラノーマ抗原の認識の優勢な制限要素であることが示されている(Crowley,N.J.,et al.(1991),J.Immunol.146:1692−1694)のでHLA−A2が選択された。TIL501、TIL1235およびTIL1200はHLA−A2制限様式で共有メラノーマ抗原の特異的認識を示した。TIL501.A42は限界希釈によりTIL501から確立されたT細胞クローンであった。これらのTILは種々のHLA−A2メラノーマまたはメラノサイト株と同時培養された場合には溶解またはIFN−γ、TNFαおよびGM−CSFを含むサイトカインの放出を起こすが、HLA−A2メラノーマ細胞株または乳癌細胞株MDA231を含むHLA−A2非メラノーマ細胞株では起こさない。二つの代表的な実験が表1に示されている。従って、これらのCTLはメラノサイト系特異的抗原から誘導される非突然変異体ペプチドを認識するように思われる。
【0128】
T細胞により認識されるメラノーマ抗原のcDNAコードのクローニング
HLA−A2501melメラノーマ細胞株からのcDNAライブラリーを二つの非常にトランスフェクト可能なHLA−A2.1癌細胞株MDA231およびA375内へトランスフェクトした。これらの細胞株はメラノーマ特異性TILにより溶解されないが、M159−66ペプチド(GILGFVFTL;一文字コード(配列番号:45)、インフルエンザマトリックス蛋白質またはM1遺伝子を含む組換え体ワクシニアウイルスの感染を誘導(データは示されていない))でインキュベーション後にHLA−A2制限インフルエンザM1特異性CTLにより溶解される。従って、これらの細胞株は正常抗原プロセッシングおよび発生能力を示すが、関連メラノーマ抗原の発現が欠けているためこれらのメラノーマ特異性TILにより溶解されない。G418で選択後、各々の細胞株から約6700のトランスフェクトされたクローンが単離され、マイクロプレートで増殖された。IFN−γ放出アッセイを用い、21のMDA231および27のA375陽性クローンが単離され、再スクリーニングされた。これらのクローンの内、8つのMDA231および7つのA375クローンが二回めのスクリーニングアッセイで陽性であった。
【0129】
組み込まれた遺伝子をとるため、これらの陽性トランスフェクト体からのゲノムDNAを用い、挿入遺伝子に隣接するSP6およびT7プライマーでPCRが行われた。MDA−22およびMDA−23トランスフェクト体からの1.6kbバンドを含む1から2の鮮明なバンドを示した7つのトランスフェクト体から増幅された8つの遺伝子がpCRIIクローニングベクター内へサブクローン化され、さらにpcDNA3真核生物発現ベクター内へクローン化された。cDNA22プローブによるノーザンブロット分析により検出された1.6kbバンドは、この断片が完全長cDNAであったことを示唆した。
【0130】
クローン22または23からのcDNAを含む発現ベクターpcDNA3のCOS7または293細胞内への過渡的トランスフェクションはHLA−A2.1と一緒に加えるとTIL1235およびTIL501.A42にIFN−γの特異的放出により示される反応性を与えた(表2、実験1および2)。これらのcDNA断片のMDA231またはA375mel細胞株内への安定なトランスフェクションもまたTIL1235およびTIL501.A42に反応性を与えた(表2、実験3)。TIL501.A42はcDNA22で安定にトランスフェクションされたMDA231を溶解できた(データは示されていない)。以上の結果は、メラノーマ患者からのHLA−A2制限TILにより認識されるメラノーマ抗原をこれらのcDNAがコードしていることを示している。別のクローン、MDA−25のトランスフェクションはTIL1200のみからインターフェロン−γの放出を刺激した。このcDNAの特性付けにより、それはモノクローナル抗体HMB45により認識され、従来記述されているメラノーマ抗原gp100とは類似しているものの異なっていることが明らかにされた。このクローンは実施例3により詳細に記載されている。
【0131】
【表1A】

【0132】
【表1B】

【0133】
TIL501.A42およびTIL1235はほとんどのHLA−A2メラノーマ細胞株を溶解し、HLA−A2メラノーマおよびメラノサイトと培養した場合IFN−γを分泌した。
*51Cr放出アッセイはTIL501.A42に対してはE:T=20:1で、TIL1235に対しては40:1で行われた。乳癌細胞株MDA231を除いてすべての標的はメラノーマ細胞株である。
**TILおよび刺激細胞を20時間一緒に培養した後、上清中のIFN−γが測定された。501melおよび586melはメラノーマ細胞株である。他のすべては正常メラノサイト株である。
LAK:リンホカイン活性化キラー細胞。
++TIL586はクラスI MHC制限メラノーマ特異性TILであり、HLA−A2により制限されない。
【0134】
クローン22および23のcDNA配列はPCRにより導入された変化と信じられる単一の塩基を除いて同一であった。二つの他の独立して増幅された断片もまたこの領域を明らかにするために配列決定され、共通配列が図1に示されている。この遺伝子中の最も長い読み枠は13kdの118アミノ酸蛋白質に対応する354の塩基から成っている。この配列は確立されたデータベース内のどの完全ヌクレオチドまたは蛋白質配列とも有意な類似性を示さなかった。アミノ酸27−47はHLA−A2結合ペプチド(Falk,K.,et al.(1991),Nature 351:290−296;Hunt,D.F.,et al.(1992),Science 255:1261−1263;Ruppert,J.,et al.(1993),Cell 74:929−937;Nijman,H.W.,et al.(1993),Eur.J.Immunol.23:1215−1219)を含むであろう疎水領域から成っている。cDNA22および23によりコードされている抗原はMART−1(T細胞−1により認識されるメラノーマ抗原)と称された。発生させた10のHLA−A2制限TILの9つがMART−1を認識し、4つがここに記載し、単離されたgp100の型を認識したが(実施例3参照)、どれもMAGE−1を認識しなかった(Zakut,R.,et al.(1993),Cancer Res.53:5−8;データは示されていない)。
【0135】
【表2】

【0136】
DEAEデキストラン法によりHLA−A2.1および/またはcDNA22を含むpcDNA3で過渡的にトランスフェクトされたCOS7または293細胞株(実験1&2)、またはcDNA23で安定にトランスフェクトされたA375またはMDA231細胞株(実験3)と20時間一緒にTILをインキュベートした後に上清中のIFN−γが測定された。IFN−γはTILがcDNA22または23でトランスフェクトされたHLA−A2とインキュベートされた場合のみに分泌された。
刺激剤なしのTIL単独により分泌されたIFN−γ(<50pg/ml)は差し引かれている。
実施されなかった。
【0137】
【表3】

【0138】
遺伝子22の完全長cDNAをプローブとして、10−20μgの全RNAをノーザンブロット分析で調べた。ほとんどのメラノーマ、試験されたすべてのメラノサイト株および網膜が陽性であった。
【0139】
MART−1の発現
MART−1をコードしている遺伝子の発現を評価するためメラノーマ、メラノサイトおよび非メラノーマ癌細胞株および正常組織を含む種々の細胞株のノーザンブロット分析が実施された(表3)。10のHLA−A2メラノーマ細胞株の内の7つ、4つのすべてのHLA−A2メラノーマ細胞株、試験された7つのすべてのメラノサイト株がMART−1 RNA発現が陽性であった。最近我々の研究室で確立されたすべてのHLA−A2メラノーマ細胞株はこのノーザン分析においてMART−1 RNAを発現した。表3に示した10のHLA−A2メラノーマ細胞株においてMART−1発現とTIL501.A42による溶解の間には完全な相関がある。MART−1 Agを認識するTIL501.A42は試験された17のHLA−A2メラノーマ細胞株の13(76%)を溶解させた(データは示されていない)。ノーザンブロット分析によるmRNA発現が試験された10の正常ヒト組織では網膜のみが陽性であった。T細胞、B細胞、腎臓上皮細胞または線維芽細胞または19の非メラノーマ腫瘍では陽性は観察されなかった。従って、MART−1は皮膚および網膜からのメラノサイト系細胞で発現され、またメラノーマ細胞でも発現されるこれまでに記載のない抗原であるようである。
【0140】
T細胞クローンおよび免疫選択メラノーマクローン(Knuth.A.,et al.(1989),Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)86:2804−2808;Wolfel,T.,et al.(1987),J.Exp.Med.170:797−810)の一団を用いた研究、並びにメラノーマ細胞からのHPLC分画ペプチド分析の研究(Slingluff,C.L.,et al.(1993),J.Immunol.150:2955−2963;Storkus,W.J.,et al.(1993),J.Immunol.151:3719−3727)は免疫応答を惹起できる複数の抗原性ペプチドがメラノーマ上に存在することを示唆している。cDNAクローニングにより、メラノーマ抗原をコードしている二つの遺伝子が同定されている;MART−1(図1;配列番号:1)およびgp100遺伝子(実施例3参照;図4Aおよび4B;配列番号:26)。MART−1およびここで同定されたgp100の型(図4&5A;配列番号:26および27)は両方ともHLA−A2.1制限TILで認識される。MART−1抗原は約13kdの118アミノ酸の蛋白質である。MART−1に関する遺伝子またはアミノ酸配列はこれまで報告されていない。
【0141】
MART−1 RNAは14のHLA−A2.1陽性または陰性メラノーマ株の内の11、7つのメラノサイト株の内の7つで発現された。網膜組織を除き、試験された正常組織、T細胞株、B細胞株、腎臓上皮株、線維芽細胞株または結腸、乳、脳、腎臓、肺または骨の癌からの19の腫瘍細胞株ではMART−1発現は観察されなかった。
【0142】
繰り返しのインビボまたはインビトロ免疫化に続いて末梢血リンパ球に由来するT細胞により認識される別のメラノーマ抗原、MAGE−1が記載されている(Van Der Bruggen,et al.(1991),Science 254:1643−1647)。
【0143】
メラノーマ腫瘍抗原に関連した遺伝子の同定は、ウイルスまたは細菌ベクター系内へのこれらの遺伝子の導入に基づく癌患者の免疫療法において活性で特異的な免疫化法に対する新規な可能性を開くものである。MART−1のようなメラノサイトーメラノーマに対して誘導された免疫反応は正常細胞に対しても発生されるであろう可能性が存在する。多分抗メラノサイト免疫反応から生じる白斑がメラノーマ患者においての好ましい予後に付随することが報告されており(Nordlund,J.J.,et al.(1983),J.Am.Acad.Dermatol.9:689−695);Bystryn,J−C,et al.(1987),Arch.Dermatol.123:1053−1055)、化学免疫療法に応答しても報告されている(Richards,J.M.,et al.(1992),J.Clin.Oncol.10:1338−1343)。抗メラノサイトーメラノーマ反応性を持つTILが進行したメラノーマの患者に投与されており(Rosenberg,S.A.,et al.(1988),N Engl J Med 319:1676−1680;Rosenberg S.A.,J.Clin.Oncol.10:180−199)、散在性白斑がこれらの患者に見られるが、網膜細胞上のこれらのメラノサイト抗原の発現に関係した不利な眼科学的影響は観察されなかった。
【0144】
HLA−A2は約50%の個体に存在しており、HLA−A2制限MART−1抗原もまたメラノーマ上に広く発現されているので、MART−1による免疫化は活性な免疫療法の開発に特に有用であろう。
【0145】
実施例2
MART−1の免疫原性エピトープの特性付け
TILからのメラノーマ特異的CTL株およびクローンの発生
メラノーマ特異性CTL株は、前に報告されているように(Kawakami,Y.et al.,(1988)J.Exp.Med.168:2183)転移性メラノーマから作製される単一細胞懸濁液を6000U/mlのIL2(Cetus−Oncology Division,Chiron Corp.Emeryville,CA)と培養することにより発生させた。T細胞クローン、A42は患者501から限界希釈法により確立された。
【0146】
CTLによる抗原認識の評価
Kawakami,Y.et al.(1988),J.Exp.Med.168:218に記載されているように、IFN−γ、GM−CFSおよびTNF−αを測定するために51Cr放出アッセイおよびELISAを用いるサイトカイン放出アッセイが実施されTILの反応性が分析された(実施例1参照)。メラノーマ細胞株は本研究室で確立された。TILによる既知の抗原の認識の分析のため、MART−1、gp100かまたはチロシナーゼ関連蛋白質(gp75)(Cohen,T.et al.,(1990)Nucleic Acids Research 18:2807)をコードしているcDNAでトランスフェクトされたCOS7細胞株、並びにHLA−A2.1 cDNAがTILと20時間インキュベートされ、上清へ分泌されたIFN−γが実施例1に記載されたようにELISAにより測定された。プラスミドpcDNA3(Invitorogen,San DIego,CA)中のMART−1(実施例1参照)またはgp100(実施例3参照)コード化cDNAはTIL1235またはTIL1200を各々スクリーニングすることにより501melメラノーマcDNAからクローン化された(実施例1参照)。pCEV27プラスミド中のチロシナーゼ関連蛋白質(gp75)はgp75の報告されている配列(Cohen et al.(1980)Nucleic Acids Research 18:2807)に基づいたPCRにより発生させたプローブを用いて501melメラノーマcDNAライブラリーから単離された。
【0147】
ペプチド合成および抗原性ペプチドの同定
ペプチドはGilson AMS422多ペプチド合成機を用いて固相法により合成された。ペプチドはVydac C−4カラムを用いて0.05%TFA/水−アセトニトリルで溶出するHPLCにより精製した。抗原性ペプチドを同定するため、各々のペプチドと2時間前もってインキュベートしたT2細胞株のTIL溶解が51Cr放出細胞毒性アッセイを用いて測定された。
【0148】
HLA−A2制限メラノーマ特異的TIL
HLA−A2制限メラノーマ特異的CTL株およびクローン,A42は10人のメラノーマ患者の腫瘍浸潤リンパ球から確立された。これらのTILはHLA−A2を発現している自己由来およびほとんどの同種由来の新鮮または培養メラノーマを認識するが、HLA−A2メラノーマまたはHLA−A2非メラノーマ細胞株(Kawakami et al.(1992)J.Immunol 148:638)を認識しない。またそれらは新生児皮膚から誘導されたHLA−A2正常培養メラノサイトも認識する(実施例1およびKawakami,Y.et al.(1993),J.Immunotherapy 14:88参照)。従って、これらのTILはHLA−A2に関連してメラノーマおよびメラノサイトで発現される蛋白質から誘導された非突然変異体自己ペプチドを認識した。
【0149】
TILによる別のメラノーマ蛋白質の認識
MART−1、gp100の一つの型(図5A;配列番号:26、実施例3参照)およびチロシナーゼ関連蛋白質(gp75)を含む4つの単離されたメラノーマ蛋白質の認識の頻度を評価するため、COS7に対する反応性がHLA−A2.1をコードしているcDNAと、またはなしで、これらの3つの蛋白質をコードしているcDNAでトランスフェクトされた細胞株上で試験された。9のTILとのいくつかの実験の内の一つが表4に示されている。9つのHLA−A2制限メラノーマ特異性TILのうちの8つがMART−1およびHLA−A2.1で同時にトランスフェクトされたCOS7とインキュベートした場合にIFN−γを分泌した。比較的オリゴクローナルCTL株であるTIL1200(Shilyansky,J.et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)91:2829)のみがこのCOSトランスフェクト体に応答しなかった。4つのTIL(620,660,1143,1200)はHLA−A2.1とともにトランスフェクトした場合にgp100を認識した。TIL1200はTIL620、660および1143と比較して多量のIFN−γを分泌しており、これらの後者の3つのTIL株中のT細胞の小さなサブセットのみがgp100を認識したことを示唆している。これらのTILのいずれもがこのアッセイを用いてもgp75を認識しなかった。従って、MART−1はメラノーマ患者から誘導されるほとんどのHLA−A2制限TILにより認識される共通のメラノーマ抗原である。
【0150】
TILのためのMART−1エピトープの同定
これらのTILのためのMART−1エピトープを同定するため、HLA−A2.1への既知のペプチドの結合モチーフ(Falk,K.et al.,(1993)Nature,351:290;Hunt,D.F.et al.(1992),Science,255:1261;Ruppert,J.et al.,(1993)Cell 74:929)に基づいて23のペプチドが選択され、合成され(>90%の純度)、および各々のペプチドとT2株をインキュベーション後にTILによるHLA−A2.1T2細胞株の溶解を試験することによりスクリーニングされた(表5)。T2細胞(Cerundolo,V.et al.;(1990)Nature 345:449−452)細胞株は、ペプチドM9−2、M10−3またはM10−4と前もってインキュベートした場合、試験された4つすべてのHLA−A2制限メラノーマ特異性TILにより溶解された。両方とも10のアミノ酸ペプチドであるM10−3およびM10−4はM9−2配列を含んでおり、M10−3はそのN−末端に追加のグルタミン酸を持ち、M10−4はそのC−末端に余分のイソロイシンを持っている。これらのペプチドはMART−1の疎水性の推定されるトランスメンブランドメインに位置している。これらのペプチドとインキュベートされた他のHLA−A2細胞を標的として使用した場合に同一の溶解が観察され、それらにはHLA−A2.1でトランスフェクトされたK4B(Dr.William Biddson,NIHから提供を受けた;Storkus.W et al.(1993)J.of Immunology 151:3719−3727)および501EBVBエプスタインーバールウイルス形質転換B細胞(Topalian et al.1993)J.Immunol.142:3714−3725)またはHMY−CIR B細胞(Dr.William Biddson;NIH;Storkus,W.et al.,(1993)J.of Immunol.151:3719−3727)が含まれる(データは示されていない)。
【0151】
ペプチドM9−1、M9−2、M9−3、M10−2、M10−3、M10−4およびM10−5はさらに精製され、MART−1反応性TIL1235またはT細胞クローンA42(図2)によるT2細胞の溶解を感作する相対的能力を評価するために力価を測定された。精製されたペプチドM9−2、M10−3およびM10−4は各々1ng/ml、100ng/mlおよび1000ng/mlの最少濃度が必要とされた。精製されたM10−4は図2に示したように10μgでさえもTILクローンA42により認識されなかった。M9−1、M9−3、M10−2およびM10−5ペプチドはA42またはTIL1235の両方で認識されなかった。
【0152】
【表4】

【0153】
HLA−A2.1と、またはなしで、メラノーマで発現される蛋白質をコードしているcDNAで同時トランスフェクトされたCOS7細胞と一緒にHLA−A2制限メラノーマ特異性TILをインキュベートした後の上清でINF−γは測定された。TIL1200を除くすべてのTILはMART−1およびHLA−A2.1をコードしているcDNAで同時トランスフェクトされたCOS7と培養した場合IFN−γを分泌した。TIL620、660、1143および1200はgp100およびHLA−A2.1をコードしているcDNAで同時トランスフェクトされたCOS7と培養した場合IFN−γを分泌した。
【0154】
【表5】

【0155】
23のペプチド(配列番号:3−25)(12の9−merおよび11の10−mer)(>90%純度)が合成され、異なった患者からのTILクローンA42、TIL株TIL1235、TIL660およびTIL1074による溶解され易さが各々のペプチド(10μg/ml)と前もってインキュベートされたHLA−A2T2細胞に対し、A42に対しては20:1のE:T比で、他のTIL株に対しては40:1での4時間の51Cr放出細胞毒性アッセイで試験された。M9−2、M10−3およびM10−4とインキュベートされた場合T2細胞はよく溶解された。M10−3およびM10−4は全M9−2配列(下線)を含んでいる。
【0156】
異なった患者から確立されたHLA−A2制限TILによるMART−1ペプチドの認識
種々のHLA−A2制限MART−1特異性TILがMART−1抗原中の同一または異なったエピトープを認識するかどうかを評価するため、各々のペプチドと前もってインキュベートされたT2細胞の溶解(Cerundolo V.,et al.(1990)Nature 345:449−452)が10人のメラノーマ患者から誘導されたTILで試験された。10のTILの代表的な実験は表6に示されている。M9−2およびM10−3は10のTILの内の9つ、ならびにA42クローンで認識され(TIL1200のみが陰性であった)、MART−1およびHLA−A2.1をコードしているcDNAで同時にトランスフェクトされたCOS7細胞と溶解の同一のパターンであった。TIL620およびTIL1088はペプチドなしでまたは無関係のペプチドの添加後に低レベルの非特異的溶解を示したが、M9−2、M10−3およびM10−5ペプチドと前もってインキュベートすると有意にT2細胞の溶解の増加を示した。M10−4の認識はTIL内では異なっているが、T細胞クローンA42またはT細胞株TIL1235によるM10−4への異なった反応性と似ていた(図2Aおよび2B)。M9−2またはM10−3に必要とされるよりも、より高い濃度(1μg/ml)が溶解のためにM10−4では必要とされた。これらの10のTILおよびクローンA42はまた、M9−2またはM10−3と前もってインキュベートされたT2細胞とインキュベートした場合、IFN−γ、GM−CSFおよびTNF−αを含むサイトカインも分泌した(データは示されていない)。従って、M9−2またはM10−3はHLA−A2制限メラノーマ特異的TILの大多数により認識される共通のエピトープである。
【0157】
【表6】

【0158】
10人の患者から誘導されたTILクローンA42およびTIL株による溶解性が精製されたペプチドM9−1、M9−2、M9−3、M10−3、M10−4およびM10−5と前もってインキュベートされたT2細胞を用い、A42に対しては20:1のE:T比で、他のTIL株に対しては40:1での4時間の51Cr放出細胞毒性アッセイで試験された。10のTILの内の9つはM9−2またはM10−3とインキュベートされたT2細胞を溶解した。10のTILの内の7つは1μg/mlの濃度のペプチドM10−4とインキュベートされたT2細胞を溶解した。
【0159】
10人のメラノーマ患者から誘導されたT細胞による既知のメラノーマ蛋白質の認識の相対的頻度が試験された。これらのTILの9つにより優性に認識されたMART−1抗原中の共通のエピトープM9−2およびM10−3が同定された。スクリーニングアッセイにおいて、TIL1235を用いるcDNA発現クローニングによりMART−1をコードしているcDNAが単離された(実施例1参照)。MART−1は一つのトランスメンブランドメインを含む118のアミノ酸の蛋白質であり、実施例3に記載したgp100の一つの型のcDNAの発現パターンと類似し、ほとんどのメラノーマ細胞ならびに培養メラノサイトおよび網膜で発現される。gp100は10のTILの4つにより認識された。
【0160】
用量応答分析に基づくと、ペプチドM9−2が溶解について最も効果的にT2細胞を感作し(図2)、このペプチドが自然に加工され腫瘍細胞上に存在するかもしれないことが示唆される。M9−2を認識するT細胞はペプチドM10−3またはM10−4と反応するであろう(なぜなら、後者の10−merペプチドはペプチドM9−2の9つのアミノ酸配列を含んでいるから)。異なったTILによるこれら3つのペプチドの認識にはいくらかの相違が存在する。例えば、M10−4はT細胞クローンA42によってはあまり認識されないが、いくつかのTIL株によってはよく認識される(しかしながら溶解を観察するにはより高いM10−4の濃度が必要とされた)。このことはHLA−A2に関連するM9−2またはM10−4ペプチドへのTCP親和性の変化によるものであろうし、もしくは、TIL株はM9−2かまたはM10−4のみを認識する異なったT細胞クローンを含んでいるかもしれない。ペプチドM10−3およびM10−4もまた自然に加工され腫瘍細胞上に存在するかもしれない。HLA−A2により示される多メラノーマ抗体の存在は種々のT細胞クローンによるメラノーマ細胞クローン認識分析(Knuth,A.et al.(1989),Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)86:2804;Wolfel,T.et al.,1989 J.Exp.Med.170:797)、またはHLA−A2メラノーマ細胞から単離されたHPLCペプチド分画の分析(Slingluff,C.L.Jr.et al.,(1993)J.Immunol.150:2955;Storkus,W.J.et al.,(1993)J.Immunol.151:3719)により示唆されてきている。
【0161】
メラノーマ患者からのほとんどのHLA−A2制限TILがgp75を除いて共通のMART−1ペプチドを認識するという観察結果は、M9−2またはM10−3 MART−1ペプチドがインビボでのT細胞応答を誘導する点で他の既知のメラノーマ抗原よりも強い免疫原であることを示唆している。本研究で使用されたいくつかのTILがIL−2とともに自己由来患者に注射され、興味あることにgp100蛋白質(図5A;配列番号:27)を認識する4つのTIL(620、660、1074、1200)すべてが有効な腫瘍退行を誘導した(腫瘍の50%減少)。TIL1200を除くすべてはMART−1も認識した。
【0162】
実施例3
インビボ腫瘍拒絶に付随する腫瘍浸潤リンパ球により認識される第二のヒトメラノーマ抗原の同定
cDNA発現クローニング
gp100と称されるメラノーマ抗原の一つの型をコードしているcDNA25クローンは実施例1およびMiki,T.,et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:5167−5171に記載されているような技術と類似の技術を用いてクローン化された。簡単に記すと、501melメラノーマ細胞株から作製されたλpCEV27中のcDNAライブラリーでトランスフェクトされた乳癌細胞株MDA231(ATCC #HTB26)をTILと同時培養した場合のインターフェロンλ(IFN−γ)分泌の測定により抗原陽性をスクリーニングした。TIL1200はKawakami,Y.,(1988),J.Exp.Med.168,2183−2191に記載されているように発生させた。組み込まれたcDNAは陽性トランスフェクト体のゲノムDNAからPCRにより回収され、哺乳類発現プラスミドpCDNA3(Initrogen,San Diego,CA)内へクローン化された。cDNA25のための完全長cDNAはcDNA25プローブを用いて501mel λファージライブラリーから単離された。完全長cDNA25を含むλファージはXhoIで消化し、次にT4 DNAリガーゼで自己連結してプラスミドpCEV27−FL25を作製した。もしくは、gp100のために設計された特異的プライマーを用いてPCRにより完全長cDNA25をpCRII(Invitrogen)にクローン化し、続いてpcDNA3内へクローン化した(pcDNA3−FL25)。このcDNAがメラノーマ抗原をコードしているか否かを試験するため、COS7、A375またはMDA231内へ再トランスフェクトし、得られたトランスフェクト体はTIL1200の刺激で試験した。プラスミドクローンpCEV27−FL−25のDNA配列を自動化DNAシークエンサー(モデル373A;Applied Biosystems,Inc.)にて、Taq DyeDeoxyターミネーターサイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems,Inc.)を用い、使用説明書に従って決定した。
【0163】
ペプチド合成および抗原性ペプチドの同定
ペプチドはGilson AMS422多ペプチド合成機を用いて固相法により合成された。ペプチドはVydac C−4カラムを用いて0.05%TFA/水−アセトニトリルで溶出するHPLCにより精製した。抗原性ペプチドを同定するため、ペプチドと2時間前もってインキュベートしたT2RET細胞のTIL溶解が51Cr放出細胞毒性アッセイを用いて測定された。
【0164】
TIL1200を用いる転移性メラノーマ患者の処置
広く転移したメラノーマを持ち、化学療法および放射線治療がうまくいかなかった29才の男性患者(患者番号1200)を25mg/Kgのシクロホスホアミドの単一用量で処置し、続いて1.6x1011TIL(9.1x10のインジウム標識TILを含む)に加えて7用量のIL−2(720,000IU/Kg)を8時間ごとに静脈注射した。TILおよびIL−2による2回目の処置は3週間後に行われた。放射性核種のスキャンはTILの腫瘍沈着による局在化を示した(図3A)。処置後8および11日目での皮下腫瘍のバイオプシは腫瘍へのTILの有意な局在化を示した(正常組織と比較した場合腫瘍におけるグラム当たりの注射物の比は各々14.9および14.0であった)。患者の癌は一回目の処置後急速に退行した。処置後三ヶ月では三つの肝臓病変の二つが消失し、三番目の病変も50%縮んでいた。多数の皮下転移物も図3Bに示されているように(個々の病変の垂直面直径の結果が示されている)完全に退行していた。
【0165】
TIL1200のインビトロ機能の特性付け
HLA−A2メラノーマ患者から確立された多数のTIL株はクラスI MHZC制限様式でメラノーマ細胞株を溶解させ(Kawakami et al.(1992)J.Immunol 148:638−643)、同一の腫瘍細胞株と一緒に培養した場合IFN−γ、腫瘍壊死因子−アルファ(TNFα)または顆粒球ーマクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を放出することが示されている(Hom,S.S.,et al.(1993)J.Immunother.13:18−30)。患者1200の転移性皮下腫瘍塊から確立されたCD8CTL株、TIL1200は新しい自己由来メラノーマ細胞、ならびに15のHLA−A2同種由来メラノーマ細胞株の内の10を溶解させるが、18のHLA−A2メラノーマ細胞株の内の16または8のHLA−A2非メラノーマ細胞株の内の6は溶解させない(Shilyansky,J.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,2829−2833、未発表データ)。表7はTILにより溶解される5つの代表的なHLA−A2メラノーマ細胞株、TILにより溶解されない4つの代表的なHLA−A2メラノーマ細胞株および1つのHLA−A2メラノーマ細胞株に対する細胞毒性アッセイを示している。TIL1200はまた新生児包皮から確立されたHLA−A2正常培養メラノサイトならびにHLA−A2メラノーマ細胞株が同時培養された場合IFN−γを分泌した(表8)。従って、TIL1200はほとんどのメラノーマおよびHLA−A2制限様式の培養新生児メラノサイトにおいて発現される非突然変異自己ペプチドを認識するようである。
【0166】
【表7】

【0167】
前に記載したように(Kawakami,Y.et al.(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191)40:1のエフェクター:標的比で細胞毒性測定のために5時間−51Cr放出アッセイが実施された。モノクローナル抗体HMB45(Enzo Diagnostics,New York,NY)により認められるHLA−A2およびgp100の発現はフローサイトメトリー(FACS)により測定された。gp100 RNAの発現はcDNA25をプローブとし、ノーザンブロットにより分析された。
−/+は非常に弱い陽性を示している。
【0168】
【表8】

【0169】
TILによるIFN−γ分泌は実施例1で前に記載したようにELISAで測定した。TIL単独で分泌されたIFN−γの量は差し引かれている(TIL888に対しては88pg/ml、TIL1200に対してはゼロ)。TIL888はクラスI MHC制限メラノーマ特異的CTLであるが、HLA−A2によっては制限されない。NHEM、FMおよびHAは正常培養メラノサイト株に当てはまるが、他はすべてメラノーマ細胞株である。
【0170】
T細胞に認識されるメラノーマ抗原のためのcDNAコードのクローニング
ほとんどのHLA−A2制限メラノーマ特異的TILにより溶解されたHLA−A2501melメラノーマ細胞株からのλpCEV27中のcDNAライブラリーは、非常にトランスフェクトされ易いHLA−A2メラノーマ抗原陰性MDA231クローン7またはA375クローン1−4内へ安定にトランスフェクトされた。G418耐性細胞を集め、各々の細胞株からの約6700の個々のトランスフェクト体を単離し、TIL1200からのIFN−γ分泌を刺激する能力でスクリーニングした。2回目のスクリーニングで陽性であった4つのMDA231および1つのA375トランスフェクト体から、組み込まれたDNAに隣接するSP6/T7プライマーを用いるPCRにより6つのDNA断片が単離され、哺乳類発現ベクターpcDNA3(Invitrogen)内へクローン化された。
【0171】
pcDNA3ベクター中のこれらの断片は、pcDNA3−HLA−A2.1と、またはなしで、COS7細胞において一時的に発現させた。HLA−A2.1とともに試験されたcDNAの一つ、cDNA25をCOS7内へトランスフェクトすると、再現性よくTIL1200からのIFN−γの分泌を刺激する能力が与えられた。A375内へのcDNA25の安定なトランスフェクションもまたTIL1200からのIFN−γ放出を刺激した(表9、実験1および実験2)。cDNA25プローブを使用したメラノーマのノーザンブロット分析により検出された2.2kbバンドはクローン化1.6kb断片は完全長cDNAではなかったことを示唆している。3つのcDNA25のクローンを独立にPCRで増幅して、GeneBankデータベースのコンセンサスDNA 配列と比較したところ、cDNA25は、過去に登録された2つの遺伝子、すなわちgp100(GenBank Access No.M77348)およびPmel17(Kwon,B.S.,et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci,USA 88,9228−9232)とは異なることが判明した。cDNA25は、GenBankのgp100(Accession No.M77348、gp95としても知られている。)とは2つのヌクレオチドが異なっており、Pmel17の配列(Kwon et al.(1991)Proc.Natl.Acad.Sci,USA88,9228−9232)と比べると、3塩基の違いと、21塩基の欠失がある点で異なっていた(図5B)。
【0172】
【表9】

【0173】
一部を欠損させたcDNA25を含むpcDNA3(pcDNA3−25)に安定に感染させたHLA−A2A375(実験1)、またはpcDNA3−25(実験2)、cDNA25の全長を含むpcDNA3(pcDNA3−FL25)、またはcDNA25の全長を含むpCEV27−FL25)(実験3)を、HLA−A2.1を含むpcDNA3(HLA−A2.1)と共に一時的に感染させたCOS7を、TIL1200とともに加温したところ、TIL1200はIFN−γを分泌した。HLA−A2の発現は、フロー・サイトメトリーにより決定され、インターフェロン−γの分泌は、ELISAにより測定された。
【0174】
cDNA25の全長(FL25)を、2つのプラスミド、pCEV27−FL25またはpcDNA3−FL25に単離した。いずれのプラスミドもpcDNA3−HLA−A2.1と共にCOS7に感染させたところ、TIL1200によるIFN−γの分泌を誘導する能力が、COS7に付与された。全長のDNAにHLA−A2.1を付け加えたものを感染させたCOS7により刺激された、IFN−γの分泌の量は、501melの刺激による量と同程度であり、一部を欠損したcDNA25に感染させたCOS7の刺激による量よりも高かった。これはおそらく一部欠損のcDNA25において、通常のAUG開始コドンでの翻訳開始が変化したことによると思われる(表9,実験2,3)。あるいは、一部欠損のcDNA25で失われた5’領域が、TIL1200においてクローンにより認識される他のエピトープ(抗原決定基)を含んでいるのかもしれない。TIL1200からのIFN−γの放出にはHLA−A2.1の発現が必要であったこと、および、感染した細胞が、無関係なTILからのIFN−γの分泌を刺激しなかったという事実(データは示していない)は、cDNA25が、HLA−A2.1の存在下でTIL1200により認識される抗原をコードしていたこと、および、T細胞からのIFN−γの放出を非特異的に誘導する分子をコードしていなかったことを示す。
【0175】
501mel cDNAライブラリーから、cDNA25プローブを用いたスクリーニングによりクローニングされた、一部欠損のcDNA25および全長のcDNA25の塩基配列、および、対応するアミノ酸配列(図5A)を、通常のメラニン細胞から単離されたPmel17、およびメラノーマ細胞系列MEL−1から単離されたgp100のGenBankの配列(図5B)と比較した。全長のcDNA25は、gp100のアミノ酸配列と比べると、162番目において異なっていた。このアミノ酸の相違は、おそらく多型または腫瘍における突然変異により生じたのであろう。Pmel17と比較すると、cDNA25は、162番目および274番目の2つのアミノ酸が異なり、Pmel17では588−594番目に存在した7つのアミノ酸を含まなかった。オリジナルのMDA231感染体から単離された一部欠損のcDNA25のアミノ酸配列は、3’末端(649番目から最後まで)に、1つの余分なシチジル酸の付加によるフレームシフトに伴う、異なる配列を持つ。この相違が、真に異なる対立遺伝子であることによるのか、または、DNAを操作する過程で生じた突然変異によるのかは明確ではない。とはいえ、TIL1200は、236番目から648番目までの間に位置する、突然変異のないペプチドを認識するようである。cDNA25はまた、アミノ酸配列において、ウシの網膜色素上皮で特異的に発現するcDNA RPE1(Kim,R.,and Wistow,G.J.(1992)Exp.Eye Res.55: 657−662)と87%の類似性、および、ニワトリの色素上皮細胞から単離されたメラノソーム基質蛋白質をコードするcDNA MMP115(Shilyansky,J.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci,USA,91,2829−2833)と60%の類似性を示した。
【0176】
gp100蛋白質は、モノクローナル抗体HMB45により認識されることが知られていた(Adema et al.,(1993)Am.J.Pathology,143: 1579−1585)。全長のcDNA25に感染させたCOS7細胞は、フロー・サイトメトリーで、このモノクローナル抗体を用いて検出された。pCEV27−FL25またはpcDNA3−FL25のいずれかを一過的に発現した後、COS7は、HMB45により検出される抗原を発現した(データは示していない)。
【0177】
cDNA25に対するRNAの発現
cDNAの組織特異的発現を評価するため、cDNA25プローブを用いてノザン・ブロット解析を行った。15のメラノーマ細胞系列のうち10系列、および、6つのメラニン細胞系列のすべてが、cDNA25を発現していた(図6Aおよび6B)。多くの通常の組織では、網膜のみで発現がみられた(図6C)。T細胞(TILA,B)由来の7つの細胞系列、B細胞(501EBVB,836EBVB)、および繊維芽細胞(M1)、および20のメラノーマでない腫瘍細胞系列(結腸癌のCollo,SW480,WiDr、および乳癌のMDA231,MCF7,HS578,ZR75、および神経芽腫のSK−N−AS,SK−N−SH、およびEwing肉腫のTC75,RD−ES,6647、および肉腫の143B、および神経膠腫のU138MG,HS683、および腎細胞癌のUOK108,UOK117、および小細胞肺癌のH1092、およびBurkittリンパ腫のDaudi、および骨髄腫のHMY)はすべてcDNA25を発現していなかった(データは示していない)。したがって、この遺伝子は、モノクローナル抗体であるHMB45、NKI/betab、またはHMB−50を用いて解析したとき(Adema,G.J.,et al.(1993)Am.J.Pathology 143:1579−1585、Gown,A.M.,et al.(1986)Am J Pathol 123:195−203、Colombari,R.,et al.(1988)Virchows Archiv A Pathol Anat 413:17−24、Vennegoor,C.,et al.(1988)Am.J.Pathol.130:179−192、Vogel,A.M.,and Esclamado,R.M.(1988)Cancer Res.48:1286−1294)の、過去に単離された形のgp100の発現パターンと同様に、メラニン細胞系列で特異的に発現していることが明らかとなった。cDNA25プローブにより、新生児の培養メラニン細胞系列で検出されたRNAの発現レベルは、メラノーマ細胞系列での発現に比べて有意に低かった。cDNA25を用いたノザン・ブロット解析およびHMB45抗体を用いたフロー・サイトメトリーにより検出されたgp100の発現、および10のHLA−A2メラノーマ細胞系列でのTIL1200によるメラノーマの溶解の間には、Table 7に示すように完全な相関があった。
【0178】
gp100でのエピトープの同定
一部欠損した形のcDNA25のアミノ酸配列を、HLA−A2.1の既知の結合領域(Falk,K.,et al.(1992)Nature 351:290−296、Hunt,D.F.,et al.(1992)Science 255:1261−1263、Ruppert,J.,et al.(1993)Cell 74:929−937)と比較することにより、cDNA25をもとに、9または10アミノ酸の長さをもつ30のペプチドを合成した。TIL1200は、LLDGTATLRL配列のペプチド(配列番号:27、457−486残基。図5A、配列番号:33)と共に加温したときのみ、HLA−A2の細胞系列であるT2を溶解したが、他の29のペプチドと共に加温したときには、溶解しなかった(表10,図5A)。LLDGTATLRL配列のペプチド(配列番号:33)のみが、TIL1200によるIFN−γの分泌をも刺激することができた(データは示していない)。
【0179】
TIL由来の多くのメラノーマ特異的CTLが、メラニン細胞−メラノーマ系列に特異的な蛋白質に由来する、突然変異のない自己のペプチドを認識するようである。なぜなら、これらのTILは、適切な制限エレメント(restriction element)を共有する、ほとんどのメラノーマ細胞系列、および正常の培養メラニン細胞を認識するからである(Anichini,A.,et al.(1993)J.Exp.Med.177:989−998、Kawakami,Y.,et al.(1993)J.Immunother.14:88−93)。メラノーマの患者の免疫治療に有益なメラノーマ抗原を単離および同定する目的で、TIL1200が用いられた。TILは転移癌の患者に投与すると、腫瘍部位に局在し、かつ腫瘍の劇的な退行を伴った。活性化されていないリンパ球、およびリンフォカインで活性化されたキラー細胞とは対照的に、自己のTILは、腫瘍部位に局在することが示されている。この局在は、これらのTILが腫瘍の退行を仲介する能力と相関していた(データは示していない)。複数のCTL種を含むTIL系列の1つであるTIL1200は、最も高頻度で発現するクラスI MHC抗原(約50%の人がもつ)であり、かつメラノーマ特異的CTLの誘導における主要な制限エレメントであることが示されているHLA−A2の存在下で腫瘍抗原を認識した(Crowley,N.J.,et al.(1991)J.Immunol.146,1692−1699)。
【0180】
T細胞による認識をスクリーニングに用いてcDNA発現クローニングを行うことにより、TIL1200によって認識される抗原をコードし、かつ、モノクローナル抗体であるHMB45、HMB50、またはNKI/betabによっても認識される膜局在糖蛋白質gp100の1つの形として同定された、1つのcDNA(図4Aおよび4B、配列番号: 26)が同定されている(Adema,G.J.,et al.(1993)Am.J.Pathology 143,1579−1585、Gown,A.M.,et al.(1986)Am J Pathol 123,195−203、Colombari,R.,et al.(1988)Virchows Archiv A Pathol Anat.413,17−24、Vennegoor,C.,et al.(1988)Am.J.Pathol.130,179−192、Vogel,A.M.,and Esclamado R.M.(1988)Cancer Res.48,1286−1294)。これらの抗体は、メラニン細胞系列の組織に高度に特異的で、かつほとんどのメラノーマ細胞を強く染色する。NKI/betabは、成人の通常の皮膚のメラニン細胞とも相互作用する(Vennegoor,C.,et al.(1988)Am.J.Pathol.130,179−192)。HMB45またはNKI/betab抗体のいずれかを用いた免疫電子顕微鏡の研究によって、gp100タンパク質は主に膜および細胞質内の第IおよびII期のメラノソームの繊維状マトリックスに位置することが明らかになった(Vennegoor,C.,et al.(1988)Am.J.Pathol.130,179−192; Schaumburg−Lever,G.,et al.(1991)J.Cutan.Pathol.18,432−435)。まったく独立な手順によって、別の型のgp100をコードするcDNAがgp100に対するウサギのポリクローナル抗血清を用いたスクリーニングによって単離され(Adema,G.J.,et al.(1993)Am J Pathology 143:1579−1585)、TIL1200はこのcDNAクローンをトランスフェクションさせたHLA−A2細胞系列も溶解した(Bakker,A.B.H.et al.(1994)J.Exp.Med.179:1005−1009)。
【0181】
【表10】

【0182】
TIL1200は、LLDGTATLRL(457−466残基)の10量体ペプチドと共に刺激するとT2細胞を溶解したが、他の29のペプチド(配列番号:27)(273−281,297−306,373−381,399−407,399−408,409−418,456−464,463−471,465−473,476−485,511−520,519−528,544−552,544−553,570−579,576−584,576−585,585−593,592−600,597−605,597−606,602−610,602−611,603−611,605,614,606−614,606−615,619−627,629−638)の場合は溶解しなかった。
TIL1235は、HLA−A2に制限されるメラノーマ特異的CTLであり、gp−100を認識しない。
**E:Tは50:1である。
++NDは、行っていないことを示す。
【0183】
腫瘍内自己抗原gp100と反応性のあるT細胞の存在および抗原反応細胞の特異的な蓄積および増加から考えられる結果としての腫瘍部位におけるこれらのT細胞の豊富化の可能性(Sensi,M.et al.,(1993)J.Exp.Med.178:1231−1246)は、癌の成長における自己抗原への免疫反応の性質および自己抗原に対する免疫寛容の機構について重要な疑問を提起する。ノーザンブロット解析によって示されたメラノサイトにおけるgp100の発現の増加と比べてメラノーマ細胞におけるgp100の発現が増加していること、または腫瘍部位に独特の炎症状態(サイトカインの分泌および細胞表面の補助刺激性分子の発現と関係していると思われる)が存在することが、gp100に対する寛容を発生させる可能性がある。脱色素化が、優れた予後と関連し(Nordlund,J.J.,et al.(1983)J.Am.Acad.Dermatol.9:689−695; Bystryn,J−C,et al.(1987)Arch.Dermatol.,123:1053−1055)、そしてメラノーマ患者への化学免疫治療に対する臨床の応答(Richards,J.M.,et al.(1992)J.Clin.Oncol.10:1338−1343)とも関連することが報告されている。メラノーマ特異的TILが投与された患者には散発性の白斑が見られるが、メラノサイトの破壊に関連する不都合な眼科学的作用は観察されていない。患者1200は白斑またはいかなる眼科的副作用も生じなかった。
【0184】
TIL1200とIL2の患者1200への導入が癌の退縮に関連していたため、gp100タンパク質(図5A;配列番号:27)および同定された10アミノ酸からなるペプチドはヒトの腫瘍拒絶抗原を代表すると思われる。IL2もまた腫瘍の拒絶に関連しているであろうが、生体内(in vivo)におけるTIL2000の腫瘍沈澱への到達および抗腫瘍応答の急速性はTIL治療の応答の特徴である。MART−1同様にgp100を認識した他の3種のTIL系列の養子免疫投与(adoptive transfer)も腫瘍の退縮に関連していた(データは示していない)。
【0185】
チロシナーゼ(Brichard,V.,et al.(1993)J.Exp.Med.178,489−495)およびMART−1(実施例1を参照)はHLA−A2制限されたCTLによって認識されたメラノーマ抗原として同定されている。もう一つの抗原であるMAGE−1はHLA−A1制限されたメラノーマ特異的なCTLによって認識され、精巣および様々な癌細胞において発現している(Van Der Bruggen,P.et al.(1991)Science,254:1643−1647)。しかし、近年開発された10種のHLA−A2制限されたTILはいずれもMAGE−1を認識しないと思われている(Zakut,R.,et al.(1993)Cancer Res.53:5−8)。
【0186】
患者の50%に存在している、メラノーマにおけるgp100タンパク質の広範な発現、腫瘍に侵入するT細胞によるペプチドの認識、HLA−A2による制限、および抗gp100反応性と患者1200における癌の退縮との関連は、gp100抗原、特にgp100アミノ酸配列に由来する新規の免疫原ペプチド(図5A;配列番号:27)がメラノーマの患者に対する有効な免疫治療の開発に有用であることを示唆する。
【0187】
実施例4
生体内(in vivo)腫瘍認識に関連するTILによるヒトメラノーマ抗原の複エピトープの認識
材料と方法
TILからのCTLの生成および転移性メラノーマの患者の治療
メラノーマ特異的なCTLは、以前に記載された方法(Kawakami,et al.,(1988)J.Exp.Med.168:2183)に従って、6000IUのIL2を含む培地においてTILから誘導および増殖させた。Surgery Branch,NCIの自家移植の患者に投与された、全ての使用可能なHLA−A2制限されたメラノーマ特異的CTLが本研究において使われた。TILは以前に報告されているように(Rosenberg,S.A.,et al.,(1988)N Engl J Med 319:1676; Rosenberg,S.A.,et al.,(1994)J.NCI.86:1159)、IL2とともに転移性メラノーマの自家移植の患者の静脈内に投与した。Fisherの精密検定を使用して、TILによるgp100の認識とTIL処理に対する外科的応答との関連の決定、並びにMART−1認識との関連の決定を行った。
【0188】
ペプチドの合成
ペプチドはペプチド合成機(モデル AMS 422;Gilson Co.Inc.,Worthington,OH)を使用して固相法により合成した(純度>90%)。合成されるペプチドは、報告されているHLA−A2.1結合モチーフに基づくヒトのgp100の配列から選択した(Falk,K.,(1991)Nature 351:290; Hunt,D.F.,et al,(1992)Science 255:1261; Ruppert,J.,et al.,(1993)Cell 74:929; Kubo,RT,et al.(1994)J Immunol.152:3193)。次のペプチドも試した: 8個の8量体ペプチド(199,212,218,237,266,267,268,269の残基から始まる; 図7A参照)、84個の9量体ペプチド(残基が2,4,11,18,154,162,169,171,178,199,205,209,216,241,248,250,255,262,266,267,268,273,278,280,283,286,287,298,290,309,316,332,335,350,354,358,361,371,373,384,389,397,399,400,402,407,408,420,423,425,446,449,450,456,463,465,485,488,501,512,536,544,563,570,571,576,577,578,583,585,590,592,595,598,599,601,602,603,604,606,607,613,619,648から始まる; 図7A参照)および77個の10量体ペプチド(残基が9,17,57,87,96,154,161,169,177,197,199,200,208,216,224,232,240,243,250,266,267,268,272,285,287,289,297,318,323,331,342,350,355,357,365,380,383,388,391,395,399,400,406,407,409,415,432,449,453,457,462,476,484,489,492,511,519,536,543,544,548,568,570,571,576,577,584,590,595,598,599,601,602,603,605,611,629から始まる; 図7A参照)を合成した。第1のスクリーニングにおいて同定された、可能性のあるエピトープはC−4カラム(VYDAC,Hepseria,CA)を用いてHPLCによって精製し(純度>98%)、ペプチドの分子量は以前に記載されているように(実施例3; Kawakami,Y.,et al.,(1994)J.Exp.Med.180:347; Kawakami,Y.,et al.,(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:6458)、質量分析測定によって確認された。
【0189】
ペプチドのHLA−A2.1への結合分析
以前に記述されているように(Ruppert,J.,et al.,(1993)Cell 74:929; Kubo,RT,et al.,(1994)J Immunol.152:3913; Sett A.,et al.,(1994)Molecular Immunol.31:813)、可溶性HLA−A2.1重鎖、ヒトβ2−マイクログロブリン、放射性標識したペプチドHBc18−27(FLPSDYFPSV)および様々な濃度の試料ペプチドを、プロテアーゼ阻害剤の存在下で2日間室温でともにインキュベートした。HLA−A2.1に結合した標識ペプチドのパーセント割合はゲルろ過による分離の後に計算され、標識ペプチドの結合の50%を阻害するのに必要な試料ペプチドの濃度を計算した。ペプチドのHLA−A2.1への相対親和性についても、以前に記載されたように(Sett A.,et al.,(1994)Molecular Immunol.31:813)、比(標識ペプチドの結合の50%を阻害するための標準HBc18−27ペプチドの濃度/標識ペプチドの結合の50%を阻害するための試料ペプチドの濃度)として計算した。ペプチドの結合は、強(<50nMで50%を阻害,比>0.1)、中(50−500nM,比 0.1−0.01)、または弱(>500nM,比<0.01)として定義する(Ruppert,J.,et al.,(1993)Cell 74:929; Kubo,RT,et al.,(1994)J Immunol.152:3913; Sett A.,et al.,(1994)Molecular Immunol.31:813)。
【0190】
gp100の全長のcDNAを含むpcDNA3プラスミド(実施例3;Kawakami,Y.,et al.(1994)Paoc Natl Acad Sci(USA)91:6458)をXhoIおよびXbaIで切断した。α−ホスホロチオン酸デオキシヌクレオシド3リン酸をXbaI部位へ取り込ませた後、Exo Size Deletion Kit(New England Biolabs,inc.,Beverly,MA)を用いて標準エクソヌクレアーゼIII段階切除(nested deletion)を行なった。切除したクローンはセルフライゲーションおよび増幅を行なった。それぞれのクローンの正確な切除はDNA配列決定によって確認した。エピトープを含む領域を同定するために、全長のgp100 cDNAの3’末端からエクソヌクレアーゼによる連続切除によって作製されたcDNA断片(D3,D5,D4,C3)並びに5’−コード領域を欠く欠失型gp100 cDNA(25TR)(実施例63;Kawakami,Y.(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:6458)を含むpcDNA3プラスミド(Invirogen,San Diego CA)をHLA−A2.1 cDNAとともにCOS7細胞にトランスフェクションさせ、トランスフェクションされたCOS細胞のTILによる認識をIFN−γ放出分析を用いて評価した(実施例1; Kawakami,Y.,(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:3515)。
【0191】
T細胞による抗原認識の評価
T細胞による抗原認識を調査するために、51Cr放出分析またはIFN−γ放出分析を以前に記載されている方法によって行なった(実施例1,2; Kawakami,Y.,etal.,(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:3515; Kawakami,Y.,et al.,(1988)J.Exp.Med.168:2183)。メラノーマ抗原をコードするcDNAおよびHLA−A2.1 cDNAをトランスフェクトされたCOS7細胞またはペプチドと事前にインキュベートしておいたT2細胞のいずれかを刺激因子としてIFN−γ放出分析に使用した。ペプチドで刺激したT2細胞は細胞毒性分析の標的としても使用した(Kawakami,Y.,et al.,(1994)J.Exp.Med.180:347)。
【0192】
TIL処理に対する臨床的応答に相関したTILによるgp100の認識
14種の、TILに由来するHLA−A2制限されたメラノーマ特異的CTLの中の4種がgp100を認識し、13種がMART−1を認識した(3種はgp100およびMART−1の両方を認識した)。メラノーマ抗原をコードするcDNAをHLA−A2.1 cDNAとともにトランスフェクトしたCOS7細胞に対するTILの反応性によって調べたところ、いずれもチロシナーゼまたはgp75を認識しなかった(実施例2; Kawakami,Y.,et al.,(1994)J.Exp.Med.180:347)。これらの4種のCTLのHLA−A2制限およびgp100反応性認識特異性については以前に行われている(実施例1−3; Kawakami,Y.,et al.,(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:6458; Kawakami,Y.,et al.,(1992)J Immunol 148:638; O’Neil,B.H.,et al.,(1993)J Immunol 1410:1418;Shilyansky,J.,et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)91:2829)。14種のCTLのうち10種をIL2とともに自家移植の患者に投与した。表11に要約されるように、gp100を認識可能なCTLによって治療した患者4人全てが客観的な部分的応答(>50% 腫瘍の退縮)を生じた。TIL治療に対する臨床的応答はTILのgp100に対する反応性と関連した(p=0.0048)が、MART−1とは関連しなかった(p=0.4)。これらのデータはgp100が生体内で(in vivo)腫瘍の縮退に関与しうるエピトープを含むことを示唆した。
【0193】
gp100反応性TILによって認識されるエピトープの同定
これら4種のgp100反応性CTLによって認識されるエピトープを同定するために、HLA−A2.1結合モチーフを含む169個のペプチドを合成した。ペプチド認識は、それぞれのペプチドとともに予めインキュベートしたHLA−A2.1+ T2細胞に対するこれらのCTLの反応性を細胞毒性分析およびIFN−γ放出分析を用いて試験することによって評価した。表12に示すように、細胞毒性分析において7個のペプチドがgp100反応性TILによって認識された。同時に行われたIFN−γ放出分析の結果は細胞毒性分析の結果と矛盾しないものであった。TIL620(620−1,620−2)またはTIL660(660−1,660−2,660−3)の別々のサブカルチャーを、自家移植の患者に投与したTIL培養から成長させて別々に培養すると、少しずつ異なる特異性をもっていたが、これは恐らく試験管内(in vitro)で異なるクローンが増殖したことによると思われる。G9209(ITDQVPFSV)(配列番号:48)およびG9209のN末端に余分のスレオニンを持つG10208(TITDQVPFSV)(配列番号:49)はTIL620によってのみ認識された。G9154(KTWGQYWQV)(配列番号:46)およびG9154のC末端に余分にロイシンを持つG10154(KTWGQYWQVL)(配列番号:47)はTIL1200、TIL620−2およびTIL660−2によって認識された。G10−4(LLDGTATLRL)(配列番号:33)は示したように(実施例3)、TIL1200によって認識された。ペプチドG9280(YLEPGPVTA)(配列番号:40)はTIL660およびTIL1143によって認識された。TIL660−3はG9280同様にG10−5(VLYRYGSFSV)(配列番号:34)も認識した。G10−5とともに予めインキュベートしたT2細胞の破壊は反復的に低く、これは恐らく、T細胞クローン中の小サブセットがこのエピトープに特異的であったためである。
【0194】
既知のHLA−A2.1結合モチーフを用いたエピトープの同定を補うために、もう一つの方法がエピトープを含む領域の同定に使用された。5種のgp100 cDNA断片すなわち、4種はcDNA(D3,D4,D5,C4)の3’末端からのエクソヌクレアーゼ切除法により作製され、1種は5’コード領域の最初の705塩基対を欠く部分的なcDNAクローン(25TR)であり、これらをpcDNA3プラスミドに挿入し、HLA−A2.1 cDNAとともにCOS7細胞にトランスフェクションさせた。断片の位置は図7Aに示してある。4種のgp100反応性TILによるこれらのトランスフェクション細胞の認識はIFN−γ放出分析を用いて評価した(図7B)。TIL1200は25TR,D5,D4またはC4断片をトランスフェクションしたCOS細胞を認識したが、D3については認識せず、少なくとも2個のエピトープがアミノ酸残基146−163および236−661の領域に存在していることを示唆している。146−163の領域にHLA−A2.1結合モチーフを含むペプチドはG9154およびG10154のみに過ぎず、両者ともTIL1200によって認識された。G10−4は領域236−661に位置し、TIL1200によって認識された。TIL620−1はC4をトランスフェクションしたCOS細胞を認識したが、D3,D5,D4または25TRについては認識せず、エピトープは残基187−270の内部に存在することを示唆している。TIL620−1によって認識されたG9209およびG10208はこの領域に位置した。TIL620のもう一つのサブカルチャーであるTIL620−2もまたD5およびD4をトランスフェクションした細胞を認識したがD3は認識せず、および147−163の領域内のG9154およびG10154を認識した(これらはTIL1200によっても認識された)。TIL660−1およびTIL1143はC4または25TRをトランスフェクションした細胞を認識したがD3,D5,またはD4は認識せず、エピトープが187−270および236−661の2領域に存在することを示唆している。25TR断片内に位置するがC4断片内には位置しないG9280はTIL660およびTIL1143によって認識された。
【0195】
メラノーマのエピトープの試験管内での(in vitro)HLA−A2.1に対する結合親和性
T2細胞をCTL溶解に対し感受性にするために1μg/mlの濃度が必要であるG10−4を除き(実施例3;kawakami,Y.,et al.,(1994)Proc Natl Acad Sci(USA)91:6458),この研究で同定されたすべてのgp100エピトープはT2細胞をCTL溶解に対し1ng/mlの濃度で感受性にした(図8A−8D)。G10−5は10ng/ml以上の濃度ではCTLでの細胞毒活性を阻害するようであった。なぜなら、ペプチドが培養液中に細胞毒性検定の間4時間完全に存在する条件の下、10ng/ml以上のG10−5と共に保温したT2細胞の溶解は、この検定を1〜10ng/mlの濃度で行ったときより低くなったからである(図8D)。これらのエピトープのHLA−A2.1に対する相対的な結合親和性も試験管内の競合的結合検定を用いて測定された(表13)。G9154のHLA−A2・1分子との結合親和性(11nMで標準的ペプチドの50%阻害)はG9154のC末端に余計にロイシンを含むG10154(1010nM)より高く、G10154よりも低濃度でT2細胞を感受性にすることが出来た(図8A)。G9209のHLA−A2.1との結合親和性(84nM)はまた、G9209のN末端に余分のスレオニンを含むG10209より(2080nM)高く、G10208よりも低濃度でT2細胞を感受性にすることが出来た(図8B)。ゆえに、9量体のペプチドは対応している10量体のペプチドより、T2細胞をCTL溶解に感受性にする効果が大きく、HLA−A2.1に対する結合親和性も、より高かった。これは、同定されたMART−1の9及び10アミノ酸ペプチド(M9−2,M10−3,M10−4)にもあてはまった(実施例2;kawakami ,Y.,et al.,(1994).J.Exp.Med.180:347)。T2細胞の溶解検定の結果得られたペプチドの力価は試験管内で検定した、HLA−A2.1との結合親和性の測定結果に一致した。他のgp100エピトープ、G9280,G10−4またはG10−5は、HLA−A2.1に対する結合親和性を持ち、各々95nM、483nMまたは13nMで50%阻害を示した。以前に同定されたHLA−A2のHLA−A2.1結合親和性はMART−1中のメラノーマエピトープを制限した。(実施例2;kawakami,Y.,et al.,(1994).J.Exp.Med.180:347)そして、チロシナーゼ(Wolfel,T.,(1994)Eur.J.Immunol.24:759; 配列番号:31と32)も同様に測定された。(M9−2(397nM),M10−3(2272nM)M10−4(5555nM),T9(333nM),T9369(40nM))10量体ペプチド(G10154,G10208,G10−3,G10−4)の他に、これを含んでいる9量体エピトープ(G9154,G9209,M9−2)が存在し、すべてのメラノーマエピトープはいずれも高いHLA−A2.1に対する結合親和性(G9154,G10−5,T9369)または、中程度の結合親和性(G9209,G9280,G10−4,M9−2,T9)を持っている。
【0196】
考察
自家移植患者へ移した時の腫瘍の後退にかかわる4つのTILによって認識される、人のメラノーマ抗原gp100の複数のエピトープはこの研究で同定された。この研究で記載された5つのエピトープのうち、G9154またはG10154が最も一般的に認識されるようであった。これらは異なる患者由来の4つのgp100に反応的なTILのうち3つによって認識されるからである。G9280ペプチドは異なる患者のPBL由来の5つすべてのCTLによって認識されることが報告されているが(Cox,A.L.,et al.,(1994).Science.264:716)、この研究では、これは4つのgp100反応的TILのうち2つにしか認識されていない。この違いは、使われたT細胞の源(TILとPBL)によって生じたのだろう。
【0197】
MART−1ペプチドのM9−2はM927とも呼ばれ、MART−1ペプチドM10−3はM1026とも呼ばれ、そしてMART−1ペプチドのM10−4はM1027とも呼ばれることは理解されよう。gp100ペプチドのG10−4もまたG10457と呼ばれ、gp100ペプチドのG10−5もまたG10476と呼ばれることも認められるであろう。
【0198】
【表11】

【0199】
【表12】

【0200】
TILによる、MART1抗原決定基、M9−2(AAGIGILTV)及びgp100細胞決定基、G9154(KTWGOYWQV)、G10154(KTWGQYWGVL)、G9209(ITDQVPFSV)、G10208(TITDQVPFSV)、G9280(YLEPGPVTA)、G10−4(LLDGTATLRL)、G10−5(VLYRYGSFSV)の1μg/ml(* 1ng/ml)と共に前もって保温したT2細胞の溶解は、4h−51Cr遊離検定で測定された。TIL620−1,−2またはTIL660−1,−2,−3は、自己移植した患者にほどこされたTILと同じTILから増殖させたが、但し別々に培養した。624melは、HLA−A2,gp100,MART−1のメラノーマ細胞系列であり、397melは、HLA−A2メラノーマ細胞系列であり、T2細胞は、HLA−A2T細胞−B−細胞ハイブリドーマである。アンダーラインの数値は統計的に有意な溶解である。
【0201】
【表13】

【0202】
a.標準となる放射線標識したHBC18−27ペプチドの50%阻害に必要となる試料ペプチドの濃度
b.試料ペプチドの結合親和性と、標準となるペプチド(5nMで50%阻害を示す)の結合親和性の相対比
ペプチドは50%阻害を50nM以下で示す、つまり相対比が0.1以上の時、高い親和性;50〜500nMで50%阻害つまり相対比が0.1〜0.01の時、中程度の;500nM以上で50%阻害つまり、相対比が0.01以下なら弱い;
結合ペプチドと定義される。
【0203】
実施例5
メラノーマの修飾
免疫性の改良のためのエピトープ
材料と方法
ペプチド合成とHLA−A2.1結合検定
ペプチドは固相法によって多ペプチド合成機を用いて合成され、前に記載したようにHPLCによって精製された(Rivoltini,L et al.(1995)Journal of Immunology Volume 154:2257−2265)。ペプチドのHLA−A2.1に対する結合の相対比は、放射線標識した標準ペプチドの可溶化した標的MHC分子に対する結合の阻害に基づいて、前に記載したように測定された(Rivoltini,L et al.(1995)Journal of Immunology Volume 154:2257−2265)。手短かにいうと、様々な濃度の試験ペプチド(100μMから1nMの範囲)を5nMの放射線標識したHbc18−27(FLPSDYFPSV)(配列番号:125)ペプチド及びHLA−A2.1重鎖及びβ2−ミクログロブリンと共に室温において2日間プロテアーゼ阻害剤存在下で保温した。MHC結合の放射線活性のパーセント割合はゲル濾過によって決定し、各々のペプチドについて50%阻害する量が計算された。
【0204】
ペプチド特異的CTLの誘導: PBMCはHLA−A2+メラノーマ患者及び正常な供与者の末梢血液からフィコール−Hypaque勾配遠心によって分離され、新鮮な状態または低温保存の試料として用いられた。ペプチド特異的CTL系列は次のように生成された。0日目に、PBMCを1.5×10/mlの濃度で24穴プレート(2ml/well)の10%のヒトのAB血清、L−グルタミン、抗生物質(CM)を含み、1μg/mlのペプチドが存在するIscove’s培地に培養した。2日後、12IU/mlのインターロイキン2(IL−2)(Chiron Co.,Emeryville,CA)を培養液に加えた。リンパ球は次のように弱く再び刺激された。:応答細胞を回収し、一度洗浄し、24穴プレートに2.5×10細胞/mlの濃度になるようCM存在下で移した。自家移植したPBMCを解凍し、PBSで2回洗浄し、5−8×10細胞/mlの濃度にCMに懸濁する。そして1μg/mlペプチドと15mlの円錐型チューブ(5ml/チューブ)中において3時間37℃で反応させた。これらのPBMC(刺激剤)に3000radsの線量の放射線を照射して、一度PBSで洗浄し、応答細胞に応答細胞:刺激物の比が1:3から1:10の間の範囲で加えた。次の日、12IU/mlのIL−2を培養液に加えた。これらのCTLの活性は最低2回の(14日間)ペプチドの刺激の後に細胞毒性検定によって試験された。TILからCTLを生成するため、単離した腫瘍の懸濁液を1−2日間、腫瘍細胞の接着を許す10%FCS RPMI−1640培地で培養した。非接着画分から採られたリンパ球は前に記載したようにペプチド特異的CTLの誘導に用いられた。
【0205】
CTLによる抗原認識の評価:51Cr放出細胞毒性検定をCTLによるペプチドとメラノーマ細胞の認識を検出するために行った。ペプチドの認識を解析するためT2細胞系を1μg/mlのペプチドと共に37℃で2時間前もって保温した。そして、洗浄してから51Cr放出細胞毒性検定に用いた。メラノーマ細胞系624melは我々の研究所において確立された。(実施例1参照)
抗メラノーマT細胞の誘導のために、自然のメラノーマエピトープより抗原性の強いペプチドを生成する目的で、特異的MHCクラスI対立形質に結合するペプチドの普遍的モティーフをもとに、少なくとも1つのアミノ酸が変化するように様々なペプチドを作製した(Falk,et al.(1991)Nature.351:291; Kubo et al.(1994)J.Immunol.152:3913; Parker,K.et al.(1992)Journal of Immunology.149:3580;Ruppert,J.et al(1993)Cell 74:929−937)(表14、15、16、及び17)。ほとんどの従来単離されたウィルス性のエピトープ及び自然に処理されたHLA−A2.1結合ペプチドは2つ目の主要な錨部位に、ロイシンまたはメチオニン、最後の主要な錨部位(支配的な錨アミノ酸)にはバリンを含み、HLA−A2.1、に対し高い結合親和性を持っていたが、単離されたMART−1またはgp100メラノーマエピトープは、主要な錨部位にアラニン(M9−2の2つ目の部位,及びG9−280の9つ目の部位)や、スレオニン(G9−154、及びG9−209の2つ目の部位)のような非優勢アミノ酸を含む。M9−2,G9−209及びG9−280は、高い親和性の結合者ではない。HLA−A2のペプチドとの結合に対し重要であるが、T細胞受容体による認識にそれほど重要でない1、2、3、または9番目の部位のアミノ酸の変化によって、人工的にHLA−A2.1により高い親和性で結合し、しかも天然のエピトープ特異的T細胞によって認識されるペプチドが作られるであろう。
【0206】
修飾されたM9−2、G9−280、G9−209、G9−154ペプチドのうちで、M9−2−2L、M9−2−1F、M9−2−3Y、G9−280−9V、G9−280−9L、G9−280−91、G9−280−1F、G9−209−2L、G9−209−2M、G9−209−21、G9−209−1F、G9−209−1Y、G9−209−1W2L、G9−209−1F2L、G9−209−1Y2Lは、より高い結合親和性を持ち、もとのメラノーマ反応性T細胞によって認識される(表14、15、16、及び17)。G9−154−2I、G9−209−1F2LまたはG9−280−9V(表18、19及び20)を作用させた自己PBMCで刺激したPBLは、元のエピトープのみならずメラノーマ瘍細胞(624mel)をも天然のエピトープ(G9−154、G9−209、G9−280)で刺激したPBLよりもよく認識し、溶解させた。
【0207】
これらの結果は、修飾したペプチドは天然のエピトープのかわりに抗腫瘍T細胞の誘導のために使うことが出来ることを示した。我々の研究で使われた特定のT細胞によって認識されなかったがHLA−A2.1に対して高い結合親和性を持つほかのペプチドは、試験管内(in vitro)または生体内(in vivo)で元のメラノーマエピトープを認識することの出来る異なるT細胞の組を誘導するであろう。これらの修飾したペプチドは試験管内(in vitro)での抗メラノーマT細胞の誘導、及びメラノーマの患者の治療またはメラノーマの予防のために、患者に対し免疫予防注射に用いることが出来るだろう。
【0208】
【表14】

【0209】
【表15】

【0210】
【表16】

【0211】
*標準的な放射性標識したHBC18−27ペプチドを50%阻害するのに必要な試料ペプチドの濃度。ププチドは、高結合親和性(<50nMで50%阻害)、中結合親和性(50−500nM)、および低結合親和性(>500nM)として定義される。(実施例4参照)
【0212】
【表17】

【0213】
【表18】

【0214】
Cr放出測定は、ペプチドであらかじめインキュベートした自己のPBMCで4回刺激した後に行った。
【0215】
【表19】

【0216】
Cr放出測定は、ペプチドであらかじめインキュベートした自己のPBMCで4回刺激したあとに行った。
【0217】
【表20】

【0218】
Cr放出測定は、ペプチドであらかじめインキュベートした自己のPBMCで4回刺激したあとに行った。
【0219】
実施例6
哺乳動物におけるメラノーマの治療のためのMART−1ワクチン
MART−1ワクチンは、メラノーマにくるしむ哺乳動物を治療するのに効果的であろう。例えば、MART−1は、個体に投与できる。哺乳動物は、約1mgから約100mgの範囲でMART−1タンパク質、ペプチドまたは本明細書中に記載した改変ペプチドで免疫できる。または、哺乳動物、好適にはヒトは、ワクシニアウイルス、アデノウイルスまたは鶏ポックスウイルスのようなウイルスベクター中に挿入したMART−1核酸配列で免疫できる。免疫性MART−1ペプチドまたは改変ペプチドまたはその類似体に相当する、MART−1核酸配列を持つ約10個から約1011個の範囲のウイルス粒子を、哺乳動物個体、好適にはヒトに投与できる。哺乳動物は、免疫原に対する抗体、または免疫原を認識する細胞毒性リンパ細胞(CTL)の増加について従来の方法によって、または病気の臨床的症状の緩和について測定する。評価の対象となる特定の変数は、ワクチン抗原または腫瘍退縮を認識する免疫細胞の生産を含む。このようなワクチンは、予防的にまたは治療的に投与される。哺乳動物は、また、レトロウイルスベクターに挿入したgp−100核酸配列またはGP−100免疫原性ペプチドまたは改変ペプチドまたはその類似体で免疫できる。使用されるレトロウイルス中の抗原の示唆される量の範囲は、哺乳動物、好適にはヒト、一体につきウイルス粒子約10個から約1011個である。レトロウイルスワクチンの反応および効能は、上述したように測定される。
【0220】
実施例7
メラノーマに苦しむ哺乳動物を治療的に処置するためのメラノーマ抗原由来の免疫原ペプチドに対して感作されたリンパ細胞の使用
メラノーマ抗原によってあらかじめ感作されたT−リンパ細胞は、メラノーマに苦しむ哺乳動物を治療的に処方するのに効果的である。T−リンパ細胞は、末梢血液リンパ細胞または腫瘍浸潤リンパ細胞より単離し、in vitroにおいてMART−1タンパク質またはペプチドにさらす。T−リンパ細胞は、末梢血液またはメラノーマ懸濁液から単離し、in vitroにおいて培養する(川上,Y.ら(1988)J.Exp.Med.168:2183−2191)。T−リンパ細胞は、約1から約10mg/mlの濃度にて1−16時間のあいだMART−1ペプチドAAGIGILTVにさらす。抗原にさらされたT−リンパ細胞は、哺乳動物、好適にはヒトに、哺乳動物にたいして約10個から約1012個リンパ細胞として投与される。あるいは、T−リンパ細胞は、改変MART−1ペプチドにさらされる。リンパ細胞は、静脈注射、腹膜内または傷害部に投与される。この処置は、サイトカイン、放射治療、メラノーマ病変の外科的切除および化学治療薬、養子免疫法によるTリンパ細胞治療のような他の治療的処置とともに同時に投与できる。または、T−リンパ細胞を、gp100免疫原ペプチドまたは本明細書中に記載した改変免疫原ペプチドにさらしてもよい。
【0221】
寄託した態様は本発明の一つの側面についての単なる例示であり、本発明は寄託した核酸配列の範囲に限らず、機能的に同等であるいかなる配列も本発明の範囲内である。実際に、本明細書中に示し、記載したものに加えて発明を様々に改変することは、前の記載および以下の図により当業者には可能である。このような改変は、請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】図1は、MART−1抗原をコードするcDNAのヌクレオチド配列および予想されるアミノ酸配列を示す。疎水性領域を下線で示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、TILによって認識されるMART−1ペプチドの滴定について示している。T2細胞を、様々な濃度の精製MART−1ペプチド、M9−1、M9−2、M9−3、M10−3、M10−4およびM10−5と共にインキュベーションし、TILクローンA42(図2A)またはTIL細胞系TIL1235(図2B)による溶解を、E(エフェクター):T(標的)比をA42では20:1、TIL1235では40:1として、4h−51Cr遊離細胞毒性アッセイによって測定した。ペプチドM9−2は、1ng/mlの濃度でT2細胞を感受性にした。精製したペプチドM10−4は、TIL1235によって認識されたが、A42によっては認識されなかった(M9−1 |−|、M9−2 ●−●、M9−3 黒四角−黒四角、M10−2 ▲−▲、M10−3 ▼−▼、M10−4 黒四角−黒四角、M10−5 +−+)。
【図3】図3Aは、自己由来の111In標識TIL1200の養子移入を受け入れた後の転移性メラノーマ患者1200の放射性核種走査を示す。矢印は、左腿の転移病巣に該当するTIL蓄積領域の一つを示す。図3Bは、TIL1200+IL−2での治療の後の皮下の転移腫瘍の退縮を示す。治療は0日に開始した。
【図4】図4Aおよび4Bは、cDNA25の全長の核酸配列を示す。開始コドンおよび停止コドンを下線で示す。
【図5】図5Aは、cDNA25の全長のアミノ酸配列を示す。抗原性ペプチドを下線で示す。図5Bは、全長のcDNA25(cDNA25FL)、端を切り取った形のcDNA25(cDNA25TR)、Pme117、ME20およびgp100のアミノ酸配列の比較を示す(●は欠損を示し;−は同一を示す)。
【図6】図6A、6Bおよび6Cは、メラノーマ(図6A)および新生児メラノサイト細胞系(図6B)および様々な新鮮組織(図6C)(10−20μgの全RNA)と、cDNA25プローブ(pCRII−cDNA25のSalI消化フラグメント)およびβ−アクチンプローブ(Clontech)とのノーザンブロット分析を示す。C32、586melメラノーマ細胞系およびNHEM529、NHEM530新生児メラノサイト細胞系は、非常に弱い陽性であった。
【図7】図7A−7Bは、gp100エピトープおよびエピトープ分析で試験したDNAフラグメントの位置ならびにCTLによる認識を示す。図7A;エピトープ分析で試験した5つのDNAフラグメント(D3、D5、D4、C4、25TR)を示す(−−−、同一アミノ酸)。同定されたエピトープの位置を下線で示す。図7B;IFN−γ分泌アッセイによって、HLA−A2.1cDNAと共に、pcDNA3プラスミド中のそれぞれのDNAフラグメントを移入したCOS7細胞のCTL(620−1、620−2、660−1、1143、1200)による認識を示す(+、認識;−、非認識)。
【図8】図8A−8Dは、CTL溶解に対してHLA−A2.1+T2細胞を増感させることによるgp100の滴定を示す。ペプチドと共に前もってインキュベーションしたT2細胞の溶解は、4h51Cr遊離細胞毒性アッセイで試験した。図8A;G9154(黒四角)またはG10154(●)と共にインキュベートしたT2細胞のTIL1200による溶解。図8B;G9209(黒四角)またはG10208(●)と共にインキュベートしたT2細胞のTIL620による溶解。図8C;G9280(黒四角)と共にインキュベートしたT2細胞のTIL660−1による溶解。図8D;G10−5(黒四角)と共にインキュベートしたT2細胞のTIL660−2による溶解。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍浸潤リンパ球に反応性である、gp100(配列番号:121)の少なくとも約8つの隣接するアミノ酸を有する免疫原性ペプチド。
【請求項2】
LLDGTATLRL(配列番号:33)、VLYRYGSFSV(配列番号:34)、VLKRCLLHL(配列番号:36)、ALDGGNKHFL(配列番号:35)、VLPSPACQLV(配列番号:37)、YLEPGPVTA(配列番号:40)、SLADTNSLAV(配列番号:38)、SVSVSQLRA(配列番号:39)、LNVSLADTN(配列番号:41)、KTWGQYWQV(配列番号:46)、KTWGQYWQVL(配列番号:47)、ITDQVPFSV(配列番号:48)、TITDQVPFSV(配列番号:49)、配列番号:121のアミノ酸1−154、配列番号121:のアミノ酸1−163、配列番号121:のアミノ酸1−195、配列番号:121のアミノ酸1−270、及び配列番号:121のアミノ酸236−661からなる群から選択される、請求項1に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項3】
gp100配列の少なくとも1つのアミノ酸修飾を含む、請求項1又は2に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項4】
前記修飾がペプチド配列中の少なくとも1つのアミノ酸置換を含有する、請求項3に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項5】
前記アミノ酸置換が、ペプチド配列中の(i)1位、(ii)2位、(iii)3位、(iv)9位、(v)10位、及び(vi)上記(i)〜(v)のうちの少なくとも二つの組み合わせ、からなる群から選択される部位に存在する、請求項4に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項6】
配列番号:68−70、74−79、83−88、及び101−108からなる群から選択される、請求項5に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項7】
GQYWQX、XQVPFSX、及びXPGPVTX
[式中、
は、任意のアミノ酸であり;
は、任意の疎水性脂肪族アミノ酸であり;
は、任意のアミノ酸であり;そして
は、疎水性脂肪族アミノ酸である]
からなる群から選択される式を有する免疫原性ペプチド。
【請求項8】
のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、アラニン、グリシン、スレオニン、イソロイシン、バリン、チロシン、セリン、トリプトファン、フェニルアラニン、リジン、及びアスパラギン酸からなる群から選択される、請求項7に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項9】
が、メチオニン、ロイシン、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、及びスレオニンからなる群から選択される、請求項7又は8に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項10】
が、メチオニン、ロイシン、アラニン、グリシン、スレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、リジン、及びアスパラギン酸からなる群から選択される、請求項7ないし9のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項11】
が、メチオニン、ロイシン、アラニン、グリシン、イソロイシン、バリン、及びスレオニンからなる群から選択される、請求項7ないし10のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項12】
HLA−A2制限腫瘍浸潤リンパ球に反応性である、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項13】
天然、合成、又は組換えペプチドである、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項14】
配列番号:27のアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質、又はその免疫原性ペプチドであって、配列番号:27の少なくとも5つの隣接するアミノ酸を含む免疫原性ペプチド。
【請求項15】
配列番号:27のアミノ酸162を含む、請求項14に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項16】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を刺激することができる、請求項14又は15に記載の免疫原性ペプチド。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項14に記載のタンパク質をコードする精製され単離された核酸。
【請求項18】
請求項17の少なくとも1つの核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項19】
真核発現ベクター又は原核発現ベクターである、請求項18に記載の組換え発現ベクター。
【請求項20】
請求項17に記載の核酸又は請求項18若しくは19に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項21】
請求項18又は19に記載の発現ベクターを含む非ヒト宿主生物。
【請求項22】
請求項14に記載のタンパク質又は請求項1ないし16のいずれか1項に記載のペプチドに結合する抗体。
【請求項23】
請求項14に記載のタンパク質、請求項1ないし16のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド、請求項17に記載の核酸、請求項18若しくは19に記載の発現ベクター、請求項20に記載の宿主細胞、又は請求項22に記載の抗体を含むワクチン。
【請求項24】
請求項1に記載のタンパク質、請求項1ないし16のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド、請求項17に記載の核酸、請求項18若しくは19に記載の発現ベクター、請求項20に記載の宿主細胞、又は請求項22に記載の抗体、及び薬学的に許容される助剤、希釈剤、又は担体を含む医薬組成物。
【請求項25】
被験者における疾患を治療又は予防するための請求項24に記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
疾患が癌である、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
癌がメラノーマである、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
被験者がヒトである、請求項25ないし27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記医薬組成物がIL−2と組み合わせて使用される、請求項25ないし28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
ヒトの癌を治療又は予防するための薬剤の製造における、請求項1に記載のタンパク質、請求項1ないし16のいずれか1項に記載の免疫原性ペプチド、請求項17に記載の核酸、請求項18若しくは19に記載の発現ベクター、請求項20に記載の宿主細胞、又は請求項22に記載の抗体の使用。
【請求項31】
前記薬剤がさらにIL−2を含む、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
配列番号:27又は121のペプチドの免疫原性を評価するインビトロの方法であって、
(a)配列番号27又は121の複数のペプチドを調製し;
(b)前記ペプチドの少なくとも一つと哺乳類の細胞株とをインキュベートし;
(c)前記哺乳類の細胞株を腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に暴露し;そして
(d)前記TILの認識をスクリーニングして、それにより前記ペプチドの免疫原性を評価する
ことを含む、前記方法。
【請求項33】
前記ペプチドが9ないし10個のアミノ酸である、請求項32に記載のインビトロの方法。
【請求項34】
工程(b)における哺乳類の細胞株の細胞が、COS細胞、T2細胞、293細胞、CHO細胞、HeLa細胞、NIH/3T3細胞、樹状突起細胞、単核細胞、及びEBVでトランスフォームされたB細胞株からなる群から選択される、請求項32又は33に記載のインビトロの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−75161(P2006−75161A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253464(P2005−253464)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【分割の表示】特願平7−527821の分割
【原出願日】平成7年4月21日(1995.4.21)
【出願人】(502006782)アメリカ合衆国 (47)
【Fターム(参考)】