説明

モズク粉末の製造法

【課題】 薬剤、飲食品、化粧品等の成分と混合しやすい、モズク粉末を得ること。
【解決手段】 モズク藻体を酸性条件下で加熱し、次いで放冷後必要によりアルカリを加えて中和し、更に粉末化することを特徴とするモズク粉末の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モズク粉末の製造法に関し、更に詳細には、流動性が良く、吸湿性の少ないモズク粉末の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
モズクは、ワカメ、コンブ等とおなじ褐藻類に属する海藻であり、これら海藻と同様、フコースを主成分とする硫酸化多糖であるフコイダンが多く含まれている。このフコイダンはアポトーシス誘発(特許文献1)、抗潰瘍(特許文献2)、感染症予防(特許文献3)等の作用が知られているため、薬剤、飲食品、化粧品等への利用が期待されている。
【0003】
しかし、フコイダンを多く含むモズクを薬剤、飲食品、化粧品等へ利用するにあたっては、大きな問題があり、広く利用されているとは言い難かった。すなわち、モズクを一般の薬剤、飲食品、化粧品等に利用するためには、これが組成物中に容易に均一に混合されることが必要であり、そのためには、液状であるか、流動性の良い粉末であることが求められている。
【0004】
しかしながら、海藻であるモズクを液状物とすることは簡単ではないため、固形の粉末状での利用が試みられていたが、モズクを粉末状とすること自体が容易でなく、また仮に粉末状とすることができても流動性が悪く、実際の使用に適するものではなかった。
【0005】
例えば、モズクを、粉末状とするための手段としては、送風乾燥によりモズクを乾燥した後、これを粉砕してモズク粉末とする方法が知られているが、この粉末は流動性が悪く、また、水に転化した場合にも溶解せず、固液分離してしまうという問題があり、他の成分と混合することは困難であった。
【0006】
【特許文献1】WO97/47208号国際公開パンフレット
【特許文献2】特開平7−138166号公報
【特許文献3】特開平11−80003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、薬剤、飲食品、化粧品等の成分と混合しやすい、モズク粉末を得る技術の開発が求められており、このような技術の提供が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、加熱、酸性条件下で加水分解した後、必要によりこれを中和し、次いで粉末化することにより、原料である藻体とフコイダン含量に殆ど変化がないモズク粉末が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、モズク藻体を酸性条件下で加熱しながら加水分解し、次いで放冷後必要によりアルカリを加えて中和し、更に粉末化することを特徴とするモズク粉末の製造法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、原料であるモズク藻体のフコイダン等の有効成分を失うことなく含む、流動性の良いモズク粉末を得ることができる。そして、本発明方法により得られたモズク粉末は、薬剤、飲食品、化粧品等への配合が容易であり、モスクの有効成分(フコイダン)を含む種々の組成物の調製に利用することができる。
【0011】
また、本発明のモズク粉末の製造法は、簡便な装置および短い工程で行うことができるので、容易にスケールアップすることのできる工業的に優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のモズク粉末の製造法は、フコイダンを含むモズク藻体を原料とし、これを酸性条件下で加熱しながら加水分解し、冷却後、必要によりアルカリで中和し、これを乾燥することにより実施される。
【0013】
原料となるモズク藻体としては、オキナワモズク、イシモズク、フトモズク、クロモ、マツモ、イトモズク等のモズク藻体を使用することができるが、好ましくはオキナワモズク藻体である。このモズク藻体としては、採取したそのままのもの、塩蔵したものを戻したものの何れも使用することができ、そのまま、あるいは適当に細断したものを、酸性条件下での加水分解の原料として使用することができる。
【0014】
この酸性条件下での加水分解は、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸や、クエン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、リンゴ酸等の有機酸を使用し、加熱条件下で行われる。この加水分解は、好ましくはモズク藻体にその1/2ないし5倍量程度、好ましくは1ないし2倍量の水を加え、撹拌しながら上記酸の水溶液を加えることにより行われる。この加水分解でのpHは、例えば、2ないし4程度であり、好ましくは、2.5ないし3.5である。また、加水分解の温度は、70ないし115℃程度、好ましくは、90ないし100℃であり、加水分解時間は、30分間ないし24時間程度、好ましくは、30分間ないし2時間である。
【0015】
上記酸による加水分解工程により、モズク藻体はその原型を留めない状態となり、モズク由来の濃い褐色を呈したモズク加水分解溶液となる。
【0016】
次いで、上記のモズク加水分解溶液を冷却し、0から60℃程度、好ましくは、5ないし40℃とした後、アルカリによる中和を行う。この中和に使用するアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ物質を使用することができる。この中和は、好ましくは、上記アルカリ物質の水溶液を使用し、これをモズク加水分解溶液のpHが、5ないし7程度、好ましくは5.5ないし6となるよう加えればよい。なお、無機酸を利用した場合は、中和工程は必須であるが、クエン酸、酢酸等の有機酸を使用した場合は、中和工程を省略することもできる。
【0017】
このようにして得られたモズク加水分解溶液は、最後に乾燥を行う。この乾燥手段としては、一般に使用される方法を採用することができるが、スプレードライ、凍結乾燥等の手段によることが好ましい。また、この乾燥に先立って、中和されたモズク加水分解溶液中に賦形剤を加えることも可能である。この賦形剤は、モズク粉末の流動性を更に向上させたり、水に対する分散性・溶解性を向上させること等を目的として加えられるものであり、その例としては、可溶性澱粉、デキストリン、サイクロデキストリン、水溶性食物繊維等が挙げられる。
【0018】
このようにして得られるモズク粉末は、流動性の高い使用しやすい粉末であるとともに、原料であったモズク藻体のフコイダンをそのまま含んでいるため、各種の組成物、例えば、健康食品、薬剤、飲食品、化粧品等の様々な分野への利用が可能である。
【実施例】
【0019】
次に実施例および試験例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0020】
実 施 例 1
オキナワモズク加水分解粉末の調製(1):
オキナワモズクの50kgに等量の水を加え、更に6N塩酸を加えてpHを3.0とした。この溶液を95±1℃まで加熱し、その温度で60分間加水分解した。次いで、40℃まで冷却した後、6N水酸化ナトリウム溶液を加え、中和し(pH5.7)、モズク加水分解溶液を得た。
【0021】
このモズク加水分解溶液を、スプレードライヤー(大川原加工機社製 OC−16型)を用いて乾燥し、乾燥粉末1.54kgを得た。
【0022】
実 施 例 2
オキナワモズク加水分解粉末の調製(2):
オキナワモズクの50kgに等量の水を加え、更に0.1mmolクエン酸を加えてpHを3.0とした。この溶液を95±1℃まで加熱し、その温度で60分間加水分解した。次いで、40℃まで冷却した後、6N水酸化ナトリウム溶液を加え、中和し(pH5.7)、モズク加水分解溶液を得た。
【0023】
このモズク加水分解溶液に、賦形剤(パインデックス#100 松谷化学社製)を、1.8kg加え、スプレードライヤー(OC−16型 大川原加工機社製)を用いて乾燥し、乾燥粉末3.65kgを得た。得られた乾燥粉末は、83メッシュの篩工程での通過性が極めて良かった。
【0024】
試 験 例 1
モズク粉末の流動性の評価:
実施例1で得たモズク粉末(本発明品)について、パウダテスタPT−R型(ホソカワミクロン社製)を用い、安息角、見掛比重、圧縮度、凝集度および均一度を求めた。更に、これらの数値に基づき、カー(Carr)の流動性指数を求め、流動性を評価した。なお、比較としては、送風乾燥・粉砕法により得られたモズク粉末(比較品)を用いた。この結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
この結果から明らかなように、本発明品であるモズク粉末の流動性指数が54であるのに対し、送風乾燥・粉砕法により得られたモズク粉末(比較品)の流動指数は43であり、本発明品の流動性が良いことが明かとなった。
【0027】
試 験 例 2
モズク粉末の特性試験:
実施例1で得たモズク粉末(本発明品)について、フコイダン含量、平均分子量および微生物数を調べた。フコイダン含量は、アンスロン硫酸法により、平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(CPC/カラム:東ソー TSKgel G4000PWXL、スタンダード:プルラン)により測定した。また、微生物数は、ペトリフィルム(スリーエムヘルスケア社製)を用いた簡易測定法により測定した。この結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2の結果から、本発明方法によるモズク粉末中に含まれているフコイダン量は、約29%で、平均分子量は20kD程度であることが明かとなった。また、このモズク粉末中は、大腸菌群は陰性で、一般細菌やカビ・酵母も30個/g以下であり、微生物の汚染のないものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造法によれば、流動性の良いモズク粉末を簡便に得ることができる。そして、上記方法により得られるモズク粉末は、原料のモズク藻体中に含まれる有効成分、すなわちフコイダンやフコステロール、あるいはその他の有機成分、微量金属等を含み、かつ、実質的に水可溶性なものである。
【0031】
従って、このモズク粉末は、そのまま粉末の状態で、あるいは適当な担体等と組み合わせた顆粒・錠剤等の形態で健康食品として使用できるほか、飲料・食品、化粧品、薬剤等の組成物の配合成分として有利に使用することができ、新しいフコイダン含有素材として期待されるものである。
【0032】
また、本発明方法は、酸性条件下での加熱、アルカリ中和、粉末化という3段階の処理だけでも、微生物汚染のない製品を製造することが可能であるため、従来の粉末モズクの製造法と比較して、工業的にも有利なものである。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モズク藻体を酸性条件下で加熱し、次いで放冷後必要によりアルカリを加えて中和し、粉末化することを特徴とするモズク粉末の製造法。
【請求項2】
モズク藻体が、オキナワモズク藻体である請求項第1項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項3】
加熱をpH2ないし4の酸性条件下で行う請求項第1項または第2項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項4】
加熱温度が70ないし115℃の温度範囲である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項5】
酸性条件とするための酸が、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸またはリンゴ酸である請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項6】
中和を、pH5ないし7とすることにより行う請求項第1項ないし第5項の何れかの項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項7】
粉末化を、スプレードライまたは凍結乾燥で行う請求項第1項ないし第6項の何れかの項記載のモズク粉末の製造法。
【請求項8】
粉末化に当たり、賦形剤を使用する請求項第1項ないし第7項の何れかの項記載のモズク粉末の製造法。


【公開番号】特開2006−141243(P2006−141243A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333406(P2004−333406)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(504426218)株式会社サウスプロダクト (15)
【Fターム(参考)】