説明

モデルパラメータ抽出装置およびモデルパラメータ抽出方法

【課題】回路シミュレーションの精度の向上。
【解決手段】測定点の電気特性を示す測定データを入力する入力部10と、入力された測定データが存在している測定点について、入力された測定データに基づいて、測定点の電気特性を近似する第1近似関数式を作成する第1近似関数式作成部201と、入力された測定データが不足している測定点について、第1近似関数式作成部201によって作成された第1近似関数式を修正して、測定点の電気特性を近似する第2近似関数式を作成する第2近似関数式作成部202と、第1および第2近似関数式作成部201,202によって作成された第1および第2近似関数式に基づいて、測定点の電気特性の近似値を算出する近似値算出部30と、算出された近似値を含むモデルパラメータセットを生成するモデルパラメータセット生成部80と、生成されたモデルパラメータセットを出力する出力部90と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデルパラメータ抽出装置およびモデルパラメータ抽出方法に関し、特に、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出装置およびモデルパラメータ抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MOSFET(Metal Oxide Semiconducter Field Effect Transistor)のSPICEモデルパラメータセットには、グローバル(Global)モデルとビニング(binning)モデルとがある。グローバルモデルは、MOSFETのゲート長Lおよびゲート幅Wに対するL−W平面上の全領域の電気特性を1つのモデル式で表現するモデルである。一方、ビニングモデルは、L−W平面を複数の局所領域に分割して、MOSFETのゲート長Lおよびゲート幅Wに対するL−W平面上の各局所領域での電気特性を各局所領域のみで有効な局所モデル式で表現するモデルである。この各局所領域はビン(bin)と呼ばれ、複数のビンに分割されたモデルを作成することはビニングと呼ばれる。
【0003】
しかしながら、一般的には、微細なMOSFETの電気特性は、ゲート長Lおよびゲート幅Wに対して非線形であり、且つ、互いに複雑な依存性を有する。したがって、グローバルモデルでは、MOSFETの電気特性を高精度に表現することは難しい。
【0004】
これに対して、ビニングモデルでは、各局所モデル式が各ビンのみを表現するので、MOSFETの電気特性を高精度に表現することができる。たとえば、回路シミュレーション実行時に、所定のゲート長Lおよびゲート幅Wの寸法に基づいて、適切な局所モデルを選択し、使用することによって、L−W平面上の全領域の電気特性を高精度に表現することができる。
【0005】
ここで、一般的なビニングモデルの作成手順について説明する。
【0006】
はじめに、L/W領域全体を対象とするグローバルモデルを作成する。このグローバルモデルの精度は、高精度でなくても良い。次に、このグローバルモデルに基づいて、格子状に配置された各測定点の局所モデルを作成する。この局所モデルの精度は、できるだけ高いことが好ましい。次に、各ビンの局所モデルを作成する。この局所モデルは、各ビンを囲む4つの測定点のモデルパラメータを用いて所定の連立方程式を解くことによって作成される。
【0007】
ここで、グローバルモデルから局所モデルを作成する方法について説明する。なお、モデルパラメータU00の例を説明する。各測定点のL/Wの寸法(L,W)が(L,W),(L,W),(L,W),(L,W)であり、各測定点のモデルパラメータU00の値が(U01,U02,U03,U04)であり、各測定点によって囲まれるビンが“bin_A”であるとする。これらの4つのモデルパラメータU00の値(U01,U02,U03,U04)を使用して、式1乃至式4の4元連立1次方程式を立てる。この連立方程式の解(U01,U02,U03,U04)が“bin_A”のモデルパラメータとなる。
【0008】
〔式1〕 U01=U+LU/L+WU/W+PU(L*W
〔式2〕 U02=U+LU/L+WU/W+PU(L*W
〔式3〕 U03=U+LU/L+WU/W+PU(L*W
〔式4〕 U04=U+LU/L+WU/W+PU(L*W
すなわち、回路シミュレーション実行時には、“bin_A”の任意のゲート長Lおよびゲート幅Wの寸法に対して、式5の解が算出される。
〔式5〕 U00=U+LU/L+WU/W+PU(L*W)
しかしながら、ビニングモデルでは、各ビンのモデルパラメータは、そのビンを囲む4つの測定点のモデルパラメータを用いて式1乃至式4に示されるような連立方程式を解くことによって作成される。したがって、ビンのモデルパラメータを作成するためには、そのビンを囲む4つの測定点の電気特性を示す測定データが必要である。すなわち、ビニングモデルには、全ての測定点の測定データが必要である。ところが、一般的には、TEG(Test Element Group)の欠損等によって、測定データが不足する(所定数以上の測定点にTEGが存在しない)場合がある。このような場合には、1つのビンの面積が大きくなり、各ビンのモデルパラメータとMOSFETの電気特性との間の誤差も大きくなる。その結果、回路シミュレーションの精度が低下するという問題が発生する。
【0009】
また、測定データが充足する(所定数以上の測定点にTEGが存在する)場合であっても、測定点間で電気特性が急激に変化するような場合には、ビンのモデルパラメータとMOSFETの電気特性との間の誤差が大きくなる。その結果、回路シミュレーションの精度が低下するという問題が発生する。
【特許文献1】特開2004−273903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、回路シミュレーションの精度を向上させるモデルパラメータ抽出装置およびモデルパラメータ抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様によれば、
トランジスタのゲート長方向およびゲート幅方向に対して格子状に配置された測定点によって囲まれるシミュレーションモデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出装置であって、
前記測定点の電気特性を示す測定データを入力する入力部と、
前記入力部によって入力された測定データが充足している測定点について、前記入力部によって入力された測定データに基づいて、前記測定点の電気特性を近似する第1近似関数式を作成する第1近似関数式作成部と、
前記入力部によって入力された測定データが不足している測定点について、前記第1近似関数式作成部によって作成された第1近似関数式を修正して、前記測定点の電気特性を近似する第2近似関数式を作成する第2近似関数式作成部と、
前記第1および第2近似関数式作成部によって作成された第1および第2近似関数式に基づいて、前記測定点の電気特性の近似値を算出する近似値算出部と、
前記近似値算出部によって算出された近似値を含むモデルパラメータセットを生成するモデルパラメータセット生成部と、
前記モデルパラメータセット生成部によって生成されたモデルパラメータセットを出力する出力部と、を備えることを特徴とするモデルパラメータ抽出装置が提供される。
【0012】
本発明の第2態様によれば、
トランジスタのゲート長方向およびゲート幅方向に対して格子状に配置された測定点によって囲まれるシミュレーションモデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出装置であって、
前記ゲート幅または前記ゲート長方向の電気特性を所定間隔毎に読み取る読取部と、
前記読取部によって読み取られた電気特性が許容範囲外である場合に、その電気特性に対応する前記ゲート幅または前記ゲート長に前記測定点を設定する測定点設定部と、
前記測定点設定部によって設定された測定点の電気特性の推定値を算出する推定値算出部と、
前記推定値算出部によって算出された推定値を含むモデルパラメータセットを生成するモデルパラメータセット生成部と、
前記モデルパラメータセット生成部によって生成されたモデルパラメータセットを出力する出力部と、を備えることを特徴とするモデルパラメータ抽出装置が提供される。
【0013】
本発明の第3態様によれば、
トランジスタのゲート長方向およびゲート幅方向に対して格子状に配置された測定点によって囲まれるシミュレーションモデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出方法であって、
前記測定点の電気特性を示す測定データを入力し、
前記測定データが充足している測定点について、前記測定データに基づいて、前記測定点の電気特性を近似する第1近似関数式を作成し、
前記測定データが不足している測定点について、前記第1近似関数式を修正して、前記測定点の電気特性を近似する第2近似関数式を作成し、
前記第1および第2近似関数式に基づいて、前記測定点の電気特性の近似値を算出し、
前記近似値を含むモデルパラメータセットを生成し、
前記モデルパラメータセットを出力することを特徴とするモデルパラメータ抽出方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回路シミュレーションの精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、以下の実施例は、本発明の実施の一形態であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0016】
はじめに、本発明の実施例1について説明する。本発明の実施例1は、TEGが存在していない測定点の電気特性の近似値や推定値を算出して、モデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出装置の例である。
【0017】
まず、本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出装置の構成について図1および図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出装置1の構成を示すブロック図である。図2は、本発明の実施例1に係る測定データの概略を示す概略図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出装置1は、入力部10と、近似関数式作成部20と、近似値算出部30と、読取部40と、測定点設定部50と、ビニングモデル作成部60と、推定値算出部70と、モデルパラメータセット生成部80と、出力部90と、を備えている。
【0019】
図1に示すように、入力部10は、近似関数式作成部20および入力装置(図示せず)に接続されている。また、入力部10は、ユーザが入力装置(図示せず)を用いて入力した測定点の電気特性(たとえば、I−V特性カーブ、閾値電圧Vth、ドレイン電流Ion)を示す測定データを入力するようになっている。
【0020】
図2に示すように、測定データは、MOSFETのゲート幅W(=W1乃至W4)のそれぞれにおいて、MOSFETのゲート長L(=0.04乃至10)ごとにTEGが存在している測定点とTEGが存在していない測定点を含んでいる。なお、図2において、「o」は、TEGが存在している測定点を示し、「x」はTEGが存在していない測定点を示している。すなわち、図2は、ゲート幅W(=W)においてゲート長L(=0.1)のTEGが存在し、ゲート幅W(=W)においてゲート長L(=0.1)のTEGが存在していない。
【0021】
ここで、図2の測定データは、ゲート幅Wが4段階であり、ゲート長Lが13段階である。したがって、図2の測定データに対応するビニングモデルを作成するためには、52(=4×13)個のTEGが必要である。しかしながら、図2の測定データでは、存在しているTEGの数は19個であるので、ビニングモデルを作成するには不足していることになる。
【0022】
図1に示すように、近似関数式作成部20は、第1近似関数式作成部201と、第2近似関数式作成部202と、を備えている。
【0023】
図1に示すように、第1近似関数式作成部201は、入力部10、第2近似関数式作成部202、近似値算出部30、および読取部40に接続されている。また、第1近似関数式作成部201は、入力部10によって入力された測定データのうち、同一のゲート幅Wで、異なるゲート長Lの多くのTEGが存在している測定点について、ゲート幅Wの電気特性をゲート長Lの関数として近似するn(nは2以上の整数)次多項式(以下、「第1近似関数式」という)を作成するようになっている。なお、nは、要求される近似の精度によって決定される値であって、大きな値ほど精度が高くなる。
【0024】
図1に示すように、第2近似関数式作成部202は、第1近似関数式作成部201、近似値算出部30、および読取部40に接続されている。また、第2近似関数式作成部202は、入力部10によって入力された測定データのうちTEGが存在していない測定点について、第1近似関数式作成部201によって作成された第1近似関数式の係数を修正して、ゲート幅Wの電気特性をゲート長Lの関数として近似するn次多項式(以下、「第2近似関数式」という)を作成するようになっている。
【0025】
図1に示すように、近似値算出部30は、近似関数式作成部20およびモデルパラメータセット生成部80に接続されている。また、近似値算出部30は、第1および第2近似関数式作成部201,202によって作成された第1および第2近似関数式に基づいて、測定点の電気特性の近似値を算出するようになっている。
【0026】
図1に示すように、読取部40は、近似関数式作成部20および測定点設定部50に接続されている。また、読取部40は、第1および第2近似関数式作成部201,202によって作成された第1および第2近似関数式に基づいて、入力部10によって入力された測定データにTEGが存在していない点の電気特性を読み取り、後述のビニングモデルとの誤差が許容値ε以上である場合に、その点の座標および電気特性を保持するようになっている。
【0027】
図1に示すように、測定点設定部50は、読取部40、ビニングモデル作成部60、および推定値算出部70に接続されている。また、測定点設定部50は、読取部40によって保持された座標に測定点を設定するようになっている。
【0028】
図1に示すように、ビニングモデル作成部60は、測定点設定部50に接続されている。また、ビニングモデル作成部60は、入力部10によって入力された測定データと、近似値算出部30によって算出された近似値とを組み合わせたデータを用いて、ビニングモデルを作成する。
【0029】
図1に示すように、推定値算出部70は、測定点設定部50およびモデルパラメータセット生成部80に接続されている。また、推定値算出部70は、電気特性の推定値を算出するための式6乃至式9に示す近似関数式(後述する)に基づいて推定値を算出して、測定点設定部50によって設定された測定点の電気特性を推定値に置換するようになっている。
【0030】
図1に示すように、モデルパラメータセット生成部80は、近似値算出部30、推定値算出部70、および出力部90に接続されている。また、モデルパラメータセット生成部80は、近似値算出部30によって算出された近似値または推定値算出部70によって算出された推定値を含むモデルパラメータセットを生成するようになっている。
【0031】
図1に示すように、出力部90は、モデルパラメータセット生成部80および出力装置(図示せず)に接続されている。また、出力部90は、モデルパラメータセット生成部80によって生成されたモデルパラメータセットを出力装置(図示せず)に出力するようになっている。
【0032】
次に、本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出装置の処理について図3乃至図9を参照して説明する。図3は、本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出処理の処理手順を示すフローチャートである。図4は、図2の測定データの概略を示す概略図である。図5は、近似関数式作成処理(図3のS302)の処理手順を示すフローチャートである。図6は、第1近似関数式の係数値を示す概略図である。図7は、第2近似関数式の係数値を示す概略図である。図8は、推定値算出処理(図3のS305)の処理手順を示すフローチャートである。図9は、推定値算出処理(図3のS305)の概略を示す概略図である。
【0033】
はじめに、図3に示すように、測定データ入力工程(S301)が行われる。測定データ入力工程(S301)では、入力部10が、ユーザが入力装置(図示せず)を用いて入力した測定点の電気特性を示す測定データを入力する。たとえば、図4に示すように、測定データは、閾値電圧Vthの測定値および第1近似関数式の値である。
【0034】
次に、図3に示すように、近似関数式作成処理(S302)が行われる。近似関数式作成処理(S302)では、はじめに、図5に示すように、第1近似関数式作成工程(S501)が行われる。第1近似関数式作成工程(S501)では、第1近似関数式作成部201が、測定データ入力工程(図3のS301)において入力された測定データが充足しているゲート幅W(たとえば、全てのゲート長LについてのTEGが存在しているゲート幅W)についての第1近似関数式(式6および式7を参照)を作成し、各係数A乃至AおよびB乃至Bの係数値を算出する。たとえば、図4の例では、第1近似関数式作成部201は、ゲート幅W(i=0)についての閾値電圧Vthをゲート長Lの関数として近似する第1近似関数式を作成し、図6に示すような係数A乃至Aの係数値を算出する。図6は、n=5のときの第1近似関数式の各係数A乃至Aの係数値を示している。
【数1】

【数2】

【0035】
次に、図5に示すように、第2近似関数式作成工程(S502)が行われる。第2近似関数式作成工程(S502)では、第2近似関数式作成部202が、測定データ入力工程(図3のS301)において入力された測定データが不足しているゲート幅W(たとえば、少なくとも1つのゲート長LについてのTEGが存在していないゲート幅W)についての第2近似関数式(式8および式9を参照)を作成し、各係数A乃至AおよびB乃至Bの係数値を算出する。このとき、第2近似関数式作成部202は、第1近似関数式作成工程(S501)において第1近似関数式が作成されたゲート幅Wのうち、ゲート幅Wに最も近いものを選択し、ゲート幅Wについての第2近似関数式のゲート長Lの数が、ゲート幅Wについての第1近似関数式のゲート長Lの数に合うように、ゲート幅WについてTEGが存在している数だけ第2近似関数式の係数を次数の低いものから修正して、各係数A乃至AおよびB乃至Bの係数値を算出する。たとえば、図4の例では、図7に示すように、第2近似関数式作成部202は、ゲート幅W(j=1乃至3)についての第2近似関数式を作成するときには、ゲート幅W(i=0)を選択し、ゲート幅W(j=1)については1個の係数(係数A)を修正し、ゲート幅W(j=2)については2個の係数(係数AおよびA)を修正し、ゲート幅W(j=3)については3個の係数(係数A乃至A)を修正する。
【数3】

【数4】

【0036】
図5に示すように、本発明の実施例1に係る近似関数式作成処理(図3のS302)は、第2近似関数式作成工程(S502)の後に終了する。
【0037】
次に、図3に示すように、近似値算出工程(S303)が行われる。近似値算出工程(S303)では、近似値算出部30が、第1および第2近似関数式作成工程(図5のS501,S502)において作成された第1および第2近似関数式に基づいて、測定点の電気特性の近似値を算出する。その結果、図4の例では、4個のゲート幅W(i=0乃至3)のそれぞれについて、13個のゲート長L(=0.04乃至10)の電気特性(すなわち、52個の電気特性)が得られる。
【0038】
次に、図3に示すように、推定値を算出する場合には(S304−YES)、推定値算出処理(S305)が行われる。推定値算出処理(S305)では、はじめに、図8に示すように、ビニングモデル作成工程(S801)が行われる。ビニングモデル作成工程(S801)では、ビニングモデル作成部60が、測定データ入力工程(図3のS301)において入力された測定データと、近似値算出部30によって算出された近似値とを組み合わせたデータを用いてビニングモデルを作成する。このとき、ビニングモデル作成部60は、MOSFETのL−W平面を格子状に分割し、各格子点の中から任意の4点を選択し、それらの頂点によって囲まれる局所領域をビニングモデルとして作成する。また、ビニングモデル作成部60は、このようなビニングモデルを複数個作成する。
【0039】
次に、図8に示すように、読取工程(S802)が行われる。読取工程(S802)では、読取部40が、第1および第2近似関数式作成工程(図5のS501,S502)において作成された第1および第2近似関数式のゲート長Lの電気特性をゲート長Lの最小値Lminから等間隔ΔLごとに読み取る(図9(a)を参照)。このとき、読取部40は、読み取られたゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)の電気特性とビニングモデル作成工程(S801)において作成されたビニングモデルの電気特性とを比較する。
【0040】
次に、図8に示すように、読取工程(S802)において読み取られたゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)の電気特性とビニングモデル作成工程(S801)において作成途上のビニングモデルのゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)の電気特性との比較結果(以下、「電気特性誤差」という)が所定の許容値ε以上である場合には(S803−YES)、保持工程(S804)が行われる。保持工程(S804)では、読取部40が、ゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)の値およびその電気特性を保持する。
【0041】
図8に示すように、読取工程(S802)乃至保持工程(S804)は、全てのゲート長Lについての電気特性と第1および第2近似関数式のゲート長Lについての電気特性との比較が完了するまで繰り返し行われる(S805−NO)。
【0042】
次に、図8に示すように、全てのゲート長Lについての電気特性と第1および第2近似関数式のゲート長Lについての電気特性との比較が完了した場合には(S805−YES)、図8に示すように、測定点設定工程(S806)が行われる。測定点設定工程(S806)では、測定点設定部50が、保持工程(S804)において保持されたゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)に測定点を設定する。このとき、測定点設定部50は、そのゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)より小さいものの中で最大となる測定点のゲート長Lとゲート長Lmin+kΔL(k=0,1,2,・・・)より大きいものの中で最小となる測定点のゲート長Lm+1に着目し、ゲート長Lとゲート長Lm+1との間に複数の候補が存在する場合には、任意の1つ(たとえば、電気特性誤差が最大となるもの)に測定点を設定する(図9(b)を参照)。
【0043】
次に、図8に示すように、推定値算出工程(S807)が行われる。推定算出工程(S807)では、推定値算出部70が、測定点設定工程(S806)において設定された測定点の電気特性の推定値を所定の近似関数式に基づいて算出する。
【0044】
図8に示すように、読取工程(S802)乃至推定値算出工程(S807)は、全てのゲート幅Wの設定された測定点ついて推定値が算出されるまで繰り返し行われる(S808−NO)。また、本発明の実施例1に係る推定値算出処理(図3のS305)は、全てのゲート幅Wの設定された測定点について推定値が算出された後に終了する(S808−YES)。
【0045】
また、図3に示すように、推定値を算出しない場合(S304−NO)または推定値算出処理(S305)の後に、モデルパラメータセット作成工程(S306)が行われる。モデルパラメータセット作成工程(S306)では、モデルパラメータセット生成部80が、測定データ入力工程(S301)において入力された測定データのうちI−V特性カーブを用いて、L−W平面全体を1つのモデルで表現するグローバルモデルを作成し、式1乃至式4を解くことによって、各ゲート長Lまたは各ゲート幅Wについて図4に示す測定値または第1近似関数式の値に合うように、そのグローバルモデルの中の一部のパラメータ値を修正し、近似値算出工程(S303)において算出された電気特性の近似値を再現するような52個の格子点のモデルパラメータセットを作成して、その52個の格子点の中の任意の4個の格子点のモデルパラメータセットの値に基づいて、それらの4個の格子点によって形成されるビニングモデルを作成する。
【0046】
次に、図3に示すように、出力工程(S307)が行われる。出力工程(S307)では、出力部90が、モデルパラメータセット作成工程(S306)において作成されたモデルパラメータセット群(以下、「ビニングモデルパラメータセット」という)を出力装置(図示せず)に出力する。
【0047】
図3に示すように、本発明の実施例に係るモデルパラメータ抽出処理は、出力工程(S307)の後に終了する。
【0048】
なお、本発明の実施例1では、電気特性とゲート長Lの関係を与える近似関数式として、ゲート長Lを最大ゲート長LMAXで割って規格化し、対数を取り、それをn次多項式で表現した。ここで、n次多項式の各項の係数は、近似対象の電気特性を近似するための調整パラメータでありである。また、最大ゲート長LMAXは、使用が想定されるMOSFETのゲート長Lの最大値であり、図2の例では、最大ゲート長LMAX=10である。
【0049】
また、対数を取った理由は、ゲート長Lが小さいときの電気特性の急激な変化の再現性を高めるためである。
【0050】
また、ゲート長Lを最大ゲート長LMAXで割って規格化した理由は、対数の中を1以下とすることによって、対数の評価値の符号を負に揃えるためである。
【0051】
また、n次多項式を使用して各項の係数を調整する理由は、関数が表現する電気特性の自由度を高め、電気特性への合せ込み精度を高めるためである。
【0052】
使用する近似関数式は、電気特性を精度よく近似できるものであれば何でも良く、近似する電気特性によって適切なものが選択されることが好ましい。たとえば、他の近似関数式は、式6および式7に代えて、式10および式11、または式12および式13を用いても良い。このように、近似関数式として、ゲート長Lの関数で与えた中間変数(たとえば、log(L)を0乗、1乗、2乗、…、n乗して、それぞれに調整パラメータを掛けたものを加算した形式の関数か、または、そのような関数を内部に含む関数を用いることで、近似の精度を向上させることができる。
【数5】

【0053】
なお、本発明の実施例1では、ゲート長Lの全範囲を1つの関数で表したが、ゲート長Lの領域ごとに異なる関数で表しても良い。
【0054】
また、本発明の実施例1では、第1および第2近似関数式作成部201は、入力部10によって入力された測定データのうちTEGが存在しているゲート長Lの電気特性をゲート幅Wの関数として禁じするn次の多項式を作成しても良い。この場合には、読取部40は、ゲート幅W方向の所定間隔毎に電気特性を読み取る。また、測定点設定部50は、読取部40によって読み取られた電気特性が許容範囲外を示すゲート幅Wに測定点を設定する。
【0055】
また、本発明の実施例1では、読取部40は、第1および第2近似関数式の一方について、ゲート長Lの電気特性をゲート長Lの最小値Lminから等間隔ΔLごとに読み取っても良い。
【0056】
本発明の実施例1によれば、図3に示すように、測定データが不足している場合であっても、近似値や推定値を算出するので、高精度なモデルパラメータセットを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る測定データの概略を示す概略図である。
【図3】本発明の実施例1に係るモデルパラメータ抽出処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】図2の測定データの概略を示す概略図である。
【図5】近似関数式作成処理(図3のS302)の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】第1近似関数式の係数値を示す概略図である。
【図7】第2近似関数式の係数値を示す概略図である。
【図8】推定値算出処理(図3のS305)の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】推定値算出処理(図3のS305)の概略を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1 モデルパラメータ抽出装置
10 入力部
20 近似関数式作成部
201 第1近似関数式作成部
201 第2近似関数式作成部
30 近似値算出部
40 読取部
50 測定点追加部
60 ビニングモデル作成部
70 推定値算出部
80 モデルパラメータセット生成部
90 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタのゲート長方向およびゲート幅方向に対して格子状に配置された測定点によって囲まれるシミュレーションモデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出装置であって、
前記測定点の電気特性を示す測定データを入力する入力部と、
前記入力部によって入力された測定データが充足している測定点について、前記入力部によって入力された測定データに基づいて、前記測定点の電気特性を近似する第1近似関数式を作成する第1近似関数式作成部と、
前記入力部によって入力された測定データが不足している測定点について、前記第1近似関数式作成部によって作成された第1近似関数式を修正して、前記測定点の電気特性を近似する第2近似関数式を作成する第2近似関数式作成部と、
前記第1および第2近似関数式作成部によって作成された第1および第2近似関数式に基づいて、前記測定点の電気特性の近似値を算出する近似値算出部と、
前記入力部によって入力された測定データと、前記近似値算出部によって算出された近似値とを組み合わせたデータから、モデルパラメータセットを生成するモデルパラメータセット生成部と、
前記モデルパラメータセット生成部によって生成されたモデルパラメータセットを出力する出力部と、を備えることを特徴とするモデルパラメータ抽出装置。
【請求項2】
前記第1および第2近似関数式作成部によって作成された第1および第2近似関数式の少なくとも一方に基づいて、前記ゲート幅または前記ゲート長方向の電気特性を所定間隔毎に読み取る読取部と、
前記読取部によって読み取られた電気特性と作成途上のビニングモデルの電気特性との誤差が許容範囲外である場合に、その電気特性に対応する前記ゲート幅または前記ゲート長に前記測定点を設定する測定点設定部と、
前記測定点設定部によって設定された測定点の電気特性の推定値を算出する推定値算出部と、をさらに備え、
前記モデルパラメータセット生成部は、前記推定値算出部によって算出された推定値を含むモデルパラメータセットを生成する請求項1に記載のモデルパラメータ抽出装置。
【請求項3】
前記読取部は、前記ゲート幅または前記ゲート長方向の電気特性を等間隔毎に読み取る請求項2に記載のモデルパラメータ抽出装置。
【請求項4】
トランジスタのゲート長方向およびゲート幅方向に対して格子状に配置された測定点によって囲まれるシミュレーションモデルのモデルパラメータを抽出するモデルパラメータ抽出方法であって、
前記測定点の電気特性を示す測定データを入力し、
前記測定データが充足している測定点について、前記測定データに基づいて、前記測定点の電気特性を近似する第1近似関数式を作成し、
前記測定データが不足している測定点について、前記第1近似関数式を修正して、前記測定点の電気特性を近似する第2近似関数式を作成し、
前記第1および第2近似関数式に基づいて、前記測定点の電気特性の近似値を算出し、
前記近似値を含むモデルパラメータセットを生成し、
前記モデルパラメータセットを出力することを特徴とするモデルパラメータ抽出方法。
【請求項5】
前記第1および第2近似関数式に基づいて、前記ゲート幅または前記ゲート長方向の電気特性を所定間隔毎に読み取り、
前記読み取られた電気特性と作成途上のビニングモデルの電気特性との誤差が許容範囲外である場合に、その電気特性に対応する前記ゲート幅または前記ゲート長に前記測定点を設定し、
前記設定された測定点の電気特性の推定値を算出し、
前記算出された推定値を含むモデルパラメータセットを生成する請求項4に記載のモデルパラメータ抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−61190(P2010−61190A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223247(P2008−223247)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】