説明

モノヌクレオシドまたはモノヌクレオチドから誘導される構造を有する化合物、核酸、標識物質、核酸検出方法およびキット

【課題】核酸の二重らせん構造を効果的に検出する標識物質の提供。
【解決手段】核酸塩基に、標識化合物と反応しうる、ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有するスペーサーを有するヌクレオシド化合物及びそのホスホロアミダイト誘導体。該ホスホロアミダイト誘導体はホスホロアミダイト法により核酸に導入され、次に標識化合物との反応で標識された核酸が合成される。該標識された核酸は、核酸の二重らせん構造を効果的に検出可能な標識物質として用いることができる。該標識物質は、核酸の検出感度等に優れているので、研究用、臨床用、診断用、試験管内遺伝子検出、生体内遺伝子検出等、幅広い用途に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノヌクレオシドまたはモノヌクレオチドから誘導される構造を有する化合物、核酸、標識物質、核酸検出方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
病気の遺伝子診断や、遺伝子の発現解析などでは、ある特定配列を有する核酸を検出する必要がある。そのため蛍光を利用した方法がよく用いられ、例えば、DNAに一種類の蛍光色素を共有結合でつないだ蛍光プローブが、標識物質としてしばしば用いられる。
【0003】
このような標識物質(蛍光プローブ)の問題点として、例えば、相補的な核酸と二重らせん形成していない場合も蛍光を発することが挙げられる。プローブのみの蛍光を消光する目的ではFRETを利用する方法が有効であるが(非特許文献1〜4等)、2種類の蛍光色素を導入するコストなどの問題がある。
【0004】
また、DNAやRNAと相互作用して蛍光強度が増す蛍光色素としてシアニン色素の一種であるチアゾールオレンジが知られている。チアゾールオレンジをDNAに共有結合で結んで蛍光プローブの作製を試みた例はあるが、プリン塩基を含む一本鎖DNAとの相互作用によっても強い蛍光を発するので(非特許文献5)、二重らせん形成時の蛍光強度の増加が小さくなり、成功しているとは言えない(非特許文献6および7)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tyagi, S., Kramer, F. R. (1996) Nat. Biotechnol. 14, 303-308.
【非特許文献2】Nazarenko, I. A., Bhatnagar, S. K., Hohman, R. J. (1997) Nucleic Acids Res. 25, 2516-2521.
【非特許文献3】Gelmini, S., Orlando, C., Sestini, R., Vona, G., Pinzani, P., Ruocco, L., Pazzagli, M. (1997) Clin. Chem. 43, 752-758.
【非特許文献4】Whitcombe, D., Theaker, J., Guy, S. P., Brown, T., Little, S. (1999) Nat. Biotechnol. 17, 804-807.
【非特許文献5】Biopolymers 1998, 46, 39-51.
【非特許文献6】Analytica Chimica Acta 2002, 470, 57-70.
【非特許文献7】Chemistry - A European Journal 2006, 12, 2270-2281.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、例えば、核酸の二重らせん構造を効果的に検出可能な標識物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の化合物は、モノヌクレオシドまたはモノヌクレオチドから誘導される構造を有する化合物であって、前記構造が下記式(1)、(1b)または(1c)で表される化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩である。
【化20】

前記式(1)、(1b)および(1c)中、
Bは、天然核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシル)骨格または人工核酸塩基骨格を有する原子団であり、
Eは、
(i)デオキシリボース骨格、リボース骨格、もしくはそれらのいずれかから誘導される構造を有する原子団、または
(ii)ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有する原子団であり、
11およびZ12は、それぞれ、水素原子、保護基、または蛍光性を示す原子団であり、同一でも異なっていてもよく、
Qは、
Eが前記(i)の原子団である場合はOであり、
Eが前記(ii)の原子団である場合はNHであり、
Xは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、水素原子、酸で脱保護することが可能な水酸基の保護基、リン酸基(モノホスフェート基)、二リン酸基(ジホスフェート基)、または三リン酸基(トリホスフェート基)であり、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、水素原子またはアミノ基の保護基であり、
Yは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、水素原子、水酸基の保護基、またはホスホロアミダイト基であり、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、水素原子または保護基であり、
、LおよびLは、それぞれ、リンカー(架橋原子または原子団)であり、主鎖長(主鎖原子数)は任意であり、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、L、LおよびLは、互いに同一でも異なっていても良く、
Dは、CR、N、P、P=O、BもしくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基または任意の置換基であり、
bは、単結合、二重結合もしくは三重結合であるか、
または、前記式(1)中、LおよびLは前記リンカーであり、L、Dおよびbは存在せず、LおよびLがBに直接結合していてもよく、
前記式(1b)中、Tは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、リン酸架橋(PO)であり、1以上の酸素原子(O)が硫黄原子(S)で置換されていても良く、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、NHである。
【0008】
また、本発明の核酸は、下記式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)または(18b)で表される構造を少なくとも一つ含む核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩である。なお、本明細書中、化学式(例えば、下記式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)および(18b))中の括弧の中から外に向かって結合手が伸びており、括弧の外側において前記結合手に星印が付加しているときは、前記星印は、その結合手に何らかの原子または原子団が結合していることを示す。
【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)および(18b)中、
B、E、Z11、Z12、L、L、L、Dおよびbは、それぞれ、前記式(1)
、(1b)または(1c)と同じ構造であり、
ただし、
式(16)、(17)および(18)中、Eは、前記式(1)、(1b)または(1c)における前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
式(16b)、(17b)および(18b)中、Eは、前記式(1)、(1b)または(1c)における前記(ii)の原子団であり、
式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
【0009】
また、本発明の標識物質は、
(i)一つの分子内の二つの平面化学構造が同一平面内ではなく、ある一定の角度をもって存在するが、その分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには二つの平面化学構造が同一平面内に並ぶように配置することによって蛍光発光が生じる標識物質であるか、
(ii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子群からなる標識物質であるか、または、
(iii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子の化学構造を同一分子内に有することを特徴的化学構造とする複合体標識物質である。
【0010】
さらに、本発明の核酸検出方法は、
(I)標識モノヌクレオチドまたは標識オリゴヌクレオチドである本発明の標識物質を基質として核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより核酸合成を検出する工程とを含む、核酸検出方法、
(II)一重鎖核酸である本発明の標識物質を第一の核酸とし、前記第一の核酸と相補的な配列またはそれに類似の配列を有する第二の核酸とをハイブリダイゼーションさせて核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより、前記第一の核酸と前記第二の核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む、核酸検出方法、
(III)一重鎖核酸である本発明の標識物質を第一の核酸とし、前記第一の核酸と相補的な配列またはそれに類似の配列を有する第二の核酸とをハイブリダイゼーションさせて核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより、前記第一の核酸と前記第二の核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む、核酸検出方法、
または、
(IV)前記第一の核酸、前記第二の核酸の配列、もしくはそれらの配列に相補的な配列、または、それらの配列に相補的な配列に類似の配列を有し、かつ、本発明の標識物質または複合体標識物質で標識されたまたは標識されていない第三の核酸を用いることにより、三重鎖核酸または核酸類似体の形成を検出することを特徴とする、核酸検出方法、
である。
【0011】
さらに、本発明のキットは、核酸合成手段と、標識物質と、蛍光強度測定手段とを含み、前記標識物質が、前記本発明の標識物質である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物および核酸は、前記の構造を有することにより、例えば、核酸の二重らせん構造を効果的に検出可能な標識物質として用いることができる。より具体的には、例えば、前記式(1)、(1b)、(1c)、(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)または(18b)において、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である化合物または核酸は、前記本発明の標識物質として適している。また、Z11およびZ12が水素原子または保護基である化合物または核酸は、前記標識物質の合成原料あるいは合成中間体として用いることができる。ただし、本発明の化合物および核酸の用途はこれらに限定されず、どのような用途に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の原理を模式的に示す図である。
【図2】図2は、実施例の化合物における1Hと13CNMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、実施例の他の化合物における1Hと13CNMRスペクトルを示す。
【図4】図4は、精製したDNAオリゴマー5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'のMALDI TOFマススペクトルを示す。矢印が精製した生成物由来のマスピーク(4101.9)である。分子量計算値4102.8(C134H176N52O76P12)より[M-H]-の計算値は4101.8で一致する。
【図5】図5は、DNAオリゴマー5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'とビオチン誘導体の反応生成物のMALDI TOFマススペクトルを示す。矢印が精製した生成物由来のマスピーク(4554.3)である。分子量計算値4555.4(C134H176N52O76P12)より[M-H]-の計算値は4554.4で一致する。
【図6】図6は、実施例の化合物(色素で標識したDNA)の1HNMRスペクトル(DMSO-d6)を示す。
【図7】図7は、図6の化合物(色素で標識したDNA)の逆相HPLCのチャートを示す。
【図8】図8は、図6の化合物(色素で標識したDNA)のMALDI TOF MASSスペクトルを示す。
【図9】図9は、実施例の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルのUVスペクトルを示す。
【図10】図10は、488nmの励起光を用いた場合の、図9の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルの蛍光スペクトルを示す。
【図11】図11は、510nmの励起光を用いた場合の、図9の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルの蛍光スペクトルを示す。
【図12】図12は、他の実施例の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルのUVスペクトルを示す。
【図13】図13は、図12の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルの蛍光スペクトルを示す。
【図14】図14は、さらにその他の実施例における蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルのUVスペクトルを示す。
【図15】図15は、図14の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルの蛍光スペクトルを示す。
【図16】図16は、さらにその他の実施例における蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルのUVスペクトルを示す。
【図17】図17は、図16の蛍光プローブが一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんの3つのサンプルの蛍光スペクトルを示す。
【図18】図18は、実施例における数種類の蛍光プローブの吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。
【図19】図19は、実施例における他の蛍光プローブの吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。
【図20】図20は、実施例の蛍光プローブの吸収スペクトルを、種々の温度および濃度で測定した吸収スペクトル図である。
【図21】図21は、実施例の蛍光プローブをハイブリダイズさせた二本鎖のCDスペクトル図である。
【図22】図22は、実施例における他の蛍光プローブの吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。
【図23】図23は、実施例における他の蛍光プローブをハイブリダイズさせて二本鎖としたときの蛍光発光を示す図である。
【図24】図24は、実施例における他の蛍光プローブの吸収スペクトルおよび発光スペクトルを示す図である。
【図25】図25は、実施例の蛍光プローブとハイブリダイズしたRNA鎖をRNase Hにより消化した際の蛍光変化を示す図である。
【図26】図26は、実施例の蛍光プローブに対する相補的DNA鎖の濃度比を変化させて蛍光発光強度の変化を観測した図である。
【図27】図27は、実施例のブロッティングアッセイにおける蛍光発光状態を示す図である。
【図28】図28は、実施例の蛍光プローブを細胞に導入したときの微分干渉測定写真である。
【図29】図29は、実施例の蛍光プローブを細胞に導入したときの蛍光観察時の写真である。
【図30】図30は、図28と図29との重ね合わせを示す写真である。
【図31A】図31Aは、実施例における他の蛍光プローブを細胞に導入したときの蛍光観察時の写真である。
【図31B】図31Bは、実施例における他の蛍光プローブを細胞に導入したときの蛍光観察時の写真である。
【図32】図32は、図28〜30と同じプローブを細胞核に注入した後の蛍光の経時変化を示す図である。
【図33】図33は、実施例における他の蛍光プローブを細胞に導入したときの蛍光観察時の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態についてさらに具体的に説明する。
【0015】
[本発明の化合物、核酸および標識物質]
本発明の化合物および核酸は、前記化学式で表される以外は、特に制限されない。前述の通り、その用途も特に制限されないが、例えば、前記本発明の標識物質、またはその合成原料もしくは合成中間体として用いることができる。本発明の化合物、核酸および標識物質について、より詳しくは、例えば以下の通りである。
【0016】
本発明の化合物において、前記式(1)、(1b)および(1c)中、
Eは、例えば、DNA、修飾DNA、RNA、修飾DNA、LNA、またはPNA(ペプチド核酸)の主鎖構造を有する原子団であることが好ましい。
【0017】
また、前記式(1)および(1c)中、
【化27】

で表される原子団が、下記式(2)〜(4)のいずれかで表される原子団であり、
【化28】

前記式(1b)中、
【化29】

で表される原子団が、下記式(2b)〜(4b)のいずれかで表される原子団であることが好ましい。
【化30】

前記式(2)〜(4)および(2b)〜(4b)中、
Aは、水素原子、水酸基、アルキル基、または電子吸引基であり、
MおよびJは、それぞれ、CH、NH、OまたはSであり、同一でも異なっていても良く、
B、XおよびYは、それぞれ、前記式(1)、(1b)または(1c)と同じであり、
前記式(2)、(3)、(2b)および(3b)において、リン酸架橋中のO原子は、1つ以上がS原子で置換されていてもよい。
【0018】
Eは、例えば、DNA、修飾DNA、RNA、または修飾DNAの主鎖構造を有する原子団であることが、合成の容易さ等の観点から好ましいが、LNA、またはPNA(ペプチド核酸)の主鎖構造を有する原子団であっても良い。
【0019】
前記式(2)および(2b)中、
Aにおいて、例えば、前記アルキル基がメトキシ基であり、前記電子吸引基がハロゲンであることが好ましい。
【0020】
前記式(1)、(1b)または(1c)中、
、LおよびLの主鎖長(主鎖原子数)が、それぞれ2以上の整数であることが好ましい。L、LおよびLの主鎖長(主鎖原子数)は、上限は特に制限されないが、例えば100以下であり、より好ましくは30以下であり、特に好ましくは10以下である。
【0021】
本発明の化合物は、例えば、下記式(5)、(6)、(6b)または(6c)で表される化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩であることが好ましい。
【化31】

前記式(5)、(6)、(6b)および(6c)中、
l、mおよびnは任意であり、同一でも異なっていても良く、
B、E、Z11、Z12、X、YおよびTは、前記式(1)および(1b)と同じである。
前記式(5)、(6)、(6b)および(6c)中、
l、mおよびnが、それぞれ、2以上の整数であることが好ましい。l、mおよびnの上限は特に制限されないが、例えば100以下であり、より好ましくは30以下であり、特に好ましくは10以下である。
【0022】
本発明の化合物において、Z11およびZ12が、エキシトン効果を示す原子団であることが好ましい。これにより、例えば、二重らせん構造となったときの蛍光の増大が大きく、二重らせん構造をいっそう効果的に検出することができる。ただし、本発明の化合物においては、Z11およびZ12が、エキシトン効果を示す原子団でなくても、また、蛍光性を示す原子団(色素)が1分子中に1個のみ導入されていても、二重らせん構造を効果的に検出することは可能である。
【0023】
11およびZ12は、例えば、前述の通り、蛍光性を有する原子団であることが好ましい。前記蛍光性を有する原子団は、特に制限されない。Z11およびZ12は、例えば、それぞれ独立に、チアゾールオレンジ、オキサゾールイエロー、シアニン、ヘミシアニン、その他のシアニン色素、メチルレッド、アゾ色素またはそれらの誘導体から誘導される基であることがより好ましい。また、その他の公知の色素から誘導される基も、適宜用いることができる。DNA等の核酸に結合することによって蛍光強度を変化させる蛍光色素は、数多く報告されている。典型的な例では、エチジウムブロミドがDNAの二重らせん構造にインターカレーションして強い蛍光を示すことが知られており、DNA検出に多用されている。また、ピレンカルボキシアミドやプロダンのような微視的極性に応じて蛍光強度を制御できる蛍光色素も知られている。また、前記チアゾールオレンジは、ベンゾチアゾール環とキノリン間をメチン基で連結した蛍光色素であり、通常微弱な蛍光を示すが、二重らせん構造をもつDNAにインターカレーションすることによって強い蛍光発光を与えるようになる。その他、例えば、フルオレセインやCy3等の色素も挙げられる。
【0024】
また、Z11およびZ12は、例えば、それぞれ独立に、下記式(7)から(9)のいずれかで表される原子団であることがより好ましい。
【化32】

【化33】

【化34】

式(7)〜(9)中、
およびXは、それぞれSまたはOであり、同一でも異なっていても良く、
nは、0または正の整数であり、
〜R10、R13〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
11およびR12のうち、一方は、前記式(1)、(1b)または(1c)中のLもしくはL、前記式(5)、(6)、(6b)または(6c)中のNHに結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
15は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
16は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
11中のX、XおよびR〜R21と、Z12中のX、XおよびR〜R21とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0025】
式(7)〜(9)中、
〜R21において、前記低級アルキル基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、前記低級アルコキシ基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基であることがさらに好ましい。
【0026】
式(7)〜(9)中、
11およびR12において、前記連結基が、炭素数2以上のポリメチレンカルボニル基であり、カルボニル基部分で前記式(1)、(1b)または(1c)中のLもしくはL、前記式(5)、(6)、(6b)または(6c)中のNHに結合することがさらに好ましい。前記ポリメチレンカルボニル基の炭素数は、その上限は特に制限されないが、例えば100以下、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、特に好ましくは10以下である。
【0027】
11およびZ12は、前記式(7)〜(9)で表される場合は、例えば、それぞれ独立に、式(19)または(20)で示される基であることがより好ましい。
【化35】

【化36】

式(19)および(20)中、Xは−S−又は−O−を示す。RからR10、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、又はアミノ基を示す。R11及びR12の一方は、前記式(1)、(1b)または(1c)中のLもしくはL、前記式(5)、(6)、(6b)または(6c)中のNHに結合する連結基を示し、R11及びR12の他方は水素原子、または低級アルキル基を示す。
【0028】
本発明の化合物は、例えば、下記式(10)で表される構造を有する化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩であっても良い。
【化37】

式(10)中、
E、Z11、Z12、Q、XおよびYは、前記式(1)と同じである。
【0029】
前記式(1)、(1b)および(1c)中、Bは、天然核酸塩基骨格を有していても良いが、前述の通り、人工核酸塩基骨格を有していてもよい。
例えば、Bが、Py、Py der.、Pu、またはPu der.で表される構造であることが好ましい。
ただし、
前記Pyとは、下記式(11)で表記される6員環のうち、1位にEと結合する共有結合手を有し、5位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、
前記Py der.とは、前記Pyの6員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良く、
前記Puとは、下記式(12)で表記される縮合環のうち、9位にEと結合する共有結合手を有し、8位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、
前記Pu der.とは、前記Puの5員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良い。
【化38】

【0030】
本発明の化合物は、例えば、下記式(13)または(14)で表される化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩であっても良い。
【化39】

【化40】

前記式(13)および(14)中、E、Z11、Z12、Q、XおよびYは、前記式(1)と同じであり、Py、Py der.、Pu、およびPu der.は、前述の定義のとおりである。
【0031】
本発明の化合物がホスホロアミダイト基を有する場合、前記ホスホロアミダイト基は、例えば、下記式(15)で表されることが好ましい。

−P(OR22)N(R23)(R24) (15)

式(15)中、R22はリン酸基の保護基であり、R23およびR24はアルキル基、またはアリール基である。
前記式(15)において、R15がシアノエチル基であり、R16およびR17において、前記アルキル基がイソプロピル基であり、前記アリール基がフェニル基であることがより好ましい。
【0032】
本発明の化合物において、例えば、前記式(1)で表される化合物が、下記式(21)で表される化合物であっても良い。
【化41】

式(21)中、Aは水素原子または水酸基を示す。好ましくは、Aは水素原子である。Bはアデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシルの残基を示す。例えば、アデニン及びグアニンは、8位で二重結合と結合し、シトシン、チミン又はウラシルは5位で二重結合と結合している。Z11及びZ12は各々独立に、蛍光性を示す原子団、水素原子、またはアミノ基の保護基を示し、チアゾールオレンジ誘導体、又はオキサゾールイエロー誘導体の残基が特に好ましい。Xは、水素原子、酸で脱保護できる水酸基の保護基、あるいはモノホスフェート基、ジホスフェート基又はトリホスフェート基を示す。Yは水素原子、水酸基の保護基、又はホスホロアミダイト基である。
【0033】
前記式(21)で表される化合物は、例えば、下記式(22)で表されることがより好ましい。
【化42】

(22)
式(22)中、Aは水素原子または水酸基を示す。Z11及びZ12は各々独立に、蛍光性を示す原子団、水素原子、又はアミノ基の保護基を示し、チアゾールオレンジ誘導体、又はオキサゾールイエロー誘導体の残基が特に好ましい。Xは、水素原子、酸で脱保護できる水酸基の保護基、あるいはモノホスフェート基、ジホスフェート基又はトリホスフェート基を示す。Yは水素原子、水酸基の保護基、又はホスホロアミダイト基である。
【0034】
前記式(21)または(22)の化合物において、Z11およびZ12が水素原子、又はアミノ基の保護基である場合は、一分子中に2つのアミノ基(又は保護されたアミノ基)を有することから、これらのアミノ基を利用して一分子中に2分子の標識分子を導入することができる。例えば、蛍光物質、化学発光物質などを結合して、標識核酸を製造することにより、核酸検出の感度を向上させることが可能である。さらにZ11およびZ12が蛍光性を示す原子団である場合のように、特定の蛍光物質で標識することにより、核酸の検出を簡便に行うことも可能である。
【0035】
また、前記式(21)または(22)の化合物において、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である化合物は、2分子の蛍光性分子、例えば、チアゾールオレンジ誘導体又はオキサゾールイエロー誘導体で修飾したヌクレオチドである。このような化合物を含む一本鎖核酸からなるプローブは、エキシトンカップリングによる消光が引き起こされることにより、プローブのみの状態では蛍光は極めて弱いが、DNA又はRNAとハイブリダイズすることにより強い蛍光発光を示す。すなわち、例えば、チアゾールオレンジ誘導体又はオキサゾールイエロー誘導体の蛍光は、そのひずんだ構造により強く抑制されているが、チアゾールオレンジ誘導体又はオキサゾールイエロー誘導体は、DNAに結合することにより、構造のひずみが解消・固定化され、強い蛍光を示すようになる。蛍光は、例えば、488nm、514nmのArレーザーを使用して励起することにより検出できるが、これに限定されない。
【0036】
前記式(1)、(1b)または(1c)で表される本発明の化合物は、例えば、核酸(ポリヌクレオチド)の合成に供することができる。すなわち、本発明の化合物は、核酸の標識物質(核酸ラベル化試薬)として用いることができる。例えば、前記式(1)、(1b)または(1c)で表される本発明の化合物をヌクレオチド基質として用いて、一本核酸を鋳型とした核酸合成反応を行うことによって、あるいは、前記式(1)、(1b)または(1c)で表される本発明の化合物を用いて一本鎖核酸を化学合成(例えば、核酸自動合成機を用いたフォスフォロアミダイト法などの化学合成法)することによって、一分子中に本発明の化合物を少なくとも1分子以上含む核酸を製造することができる。このとき、前記原子団Z11およびZ12は、それぞれ、蛍光性を示す原子団であっても良いが、水素原子または保護基であっても良い。
【0037】
本発明の核酸の構造は、前述の通り、下記式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)または(18b)で表される構造を少なくとも一つ含む構造である。また、これらの互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩も、本発明の核酸に含まれる。
【化43】

【化44】

【化45】

【化46】

【化47】

【化48】

式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)および(18b)中、
B、E、Z11、Z12、L、L、L、Dおよびbは、それぞれ、前記式(1)、(1b)または(1c)に示す構造であり、
ただし、
式(16)、(17)および(18)中、Eは、前記式(1)、(1b)または(1c)における前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
式(16b)、(17b)および(18b)中、Eは、前記式(1)、(1b)または(1c)における前記(ii)の原子団であり、
式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
前記式(16)、(17)、(16b)、(17b)、(18)および(18b)中、
11およびZ12は、それぞれ、蛍光性を示す原子団であり、同一でも異なっていて
もよい。
【0038】
本発明の核酸の基本骨格は、特に制限されず、例えば、DNA、修飾DNA、RNA、修飾DNA、LNA、またはPNA(ペプチド核酸)のいずれであっても良いし、その他の構造であっても良い。また、本発明の核酸の塩基数は特に限定されないが、例えば10bpから10kb程度であり、好ましくは10bpから1kb程度である。また、本発明の核酸がオリゴヌクレオチドの場合には、その長さは、特に制限されないが、例えば10〜100bp程度であり、より好ましくは10〜50bp程度であり、さらに好ましくは10〜30bp程度である。
【0039】
本発明の核酸に含まれる前記式(1)、(1b)または(1c)の化合物の数は特に限定されないが、例えば、1〜100個程度、好ましくは1から20個程度である。
【0040】
本発明の化合物または核酸は、例えば、下記式(23)〜(25)のいずれかで表される構造を有していても良い。これにより、例えば、色素を導入した蛍光プローブとして好ましく用いることができる。ただし、蛍光プローブとして好適な本発明の化合物は、これらに限定されない。
【化49】

【0041】
式(23)において、塩基Bには、2個の色素(Fluo)が連結している。塩基Bがリンカーと結合する部位は特に制限されないが、例えば、ピリミジン4位、5位もしくは6位、プリン2位、3位、6位、7位もしくは8位のうち1ヶ所でリンカーに連結している。リンカーは、1ヶ所の塩基接続部位を有し、途中で2つ以上に分岐し、末端で色素と連結する。塩基もしくは色素との連結方法は、二重結合や三重結合に対する金属触媒反応や環形成縮合反応やマイケル付加反応などにより形成される結合のほかにも、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミン形成反応などにより形成される結合を用いることができる。リンカーについては、長さ(l, m, n)は自由であり、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、アミン、イミン、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合などを含んでもよい。また、2量化によって引き起こされるエキシトン効果を妨げないことが好ましい。分岐部(X)は、炭素、ケイ素、窒素、リン、ホウ素の各原子であり、プロトネーション(例えばNH+)や酸化(例えばP=O)が起こっていてもよい。色素は2量化によってエキシトン効果を示すものを用いることが好ましく、リンカーと接続する箇所は色素のどの部分でもよい。式(23)中では、DNAの部分構造であるデオキシリボヌクレオチドが示されているが、それに代わって核酸骨格がリボヌクレオチド(RNA)のほか、2’O-メチルRNAや2’-フルオロDNAなどの糖修飾核酸、ホスホロチオエート核酸などのリン酸修飾核酸、PNAやLNA(BNA)などの機能性核酸でもよい。
【0042】
【化50】

【0043】
式(24)中、塩基Bには、2個の色素(Fluo)が連結している。塩基Bとリンカーとの結合箇所は、特に制限されないが、例えば、ピリミジン4位、5位もしくは6位、プリン2位、3位、6位、7位もしくは8位のうち2ヶ所でリンカーに連結している。2つのリンカーは、それぞれ1ヶ所の塩基接続部位を有し、もうひとつの末端で色素と連結する。塩基もしくは色素との連結方法は、二重結合や三重結合に対する金属触媒反応や環形成縮合反応やマイケル付加反応などにより形成される結合のほかにも、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミン形成反応などにより形成される結合を用いることができる。リンカーについては、長さ(l, m)は自由であり、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、アミン、イミン、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合などを含んでもよい。また、2量化によって引き起こされるエキシトン効果を妨げないことが好ましい。色素は2量化によってエキシトン効果を示すものを用いることが好ましく、リンカーと接続する箇所は色素のどの部分でもよい。式(24)中では、DNAの部分構造であるデオキシリボヌクレオチドが示されているが、それに代わって核酸骨格がリボヌクレオチド(RNA)のほか、2’O-メチルRNAや2’-フルオロDNAなどの糖修飾核酸、ホスホロチオエート核酸などのリン酸修飾核酸、PNAやLNA(BNA)などの機能性核酸でもよい。
【0044】
【化51】

【0045】
式(25)においては、連続するヌクレオチドの各塩基(B1,B2)にそれぞれ1個の色素(Fluo)を連結している。各塩基がリンカーと結合する箇所は特に制限されないが、例えば、ピリミジン4位、5位もしくは6位、プリン2位、3位、6位、7位もしくは8位のうち1ヶ所でリンカーに連結している。2つのリンカーは、それぞれ1ヶ所の塩基接続部位を有し、もうひとつの末端で色素と連結する。塩基もしくは色素との連結方法は、二重結合や三重結合に対する金属触媒反応や環形成縮合反応やマイケル付加反応などにより形成される結合のほかにも、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミン形成反応などにより形成される結合を用いることができる。リンカーについては、長さ(l, m)は自由であり、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、アミン、イミン、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合などを含んでもよい。また、2量化によって引き起こされるエキシトン効果を妨げないことが好ましい。色素は2量化によってエキシトン効果を示すものを用いることが好ましく、リンカーと接続する箇所は色素のどの部分でもよい。式(25)中では、DNAの部分構造であるデオキシリボヌクレオチドが示されているが、それに代わって核酸骨格がリボヌクレオチド(RNA)のほか、2’O-メチルRNAや2’-フルオロDNAなどの糖修飾核酸、ホスホロチオエート核酸などのリン酸修飾核酸、PNAやLNA(BNA)などの機能性核酸でもよい。
【0046】
なお、本発明の化合物または核酸に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、本発明の化合物または核酸の塩は、酸付加塩でも良いが、塩基付加塩でも良い。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記電子供与体・受容体連結分子に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。また、置換基等に異性体が存在する場合はどの異性体でも良く、例えば、「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でも良い。
【0047】
また、本発明において、アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等が挙げられ、アルキル基を構造中に含む基(アルキルアミノ基、アルコキシ基等)においても同様である。また、ペルフルオロアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基等から誘導されるペルフルオロアルキル基が挙げられ、ペルフルオロアルキル基を構造中に含む基(ペルフルオロアルキルスルホニル基、ペルフルオロアシル基等)においても同様である。本発明において、アシル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、エトキシカルボニル基、等が挙げられ、アシル基を構造中に含む基(アシルオキシ基、アルカノイルオキシ基等)においても同様である。また、本発明において、アシル基の炭素数にはカルボニル炭素を含み、例えば、炭素数1のアルカノイル基(アシル基)とはホルミル基を指すものとする。さらに、本発明において、「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指すが、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。また、本発明において、アミノ基の保護基としては、特に制限されないが、例えば、トリフルオロアセチル基、ホルミル基、C1−6アルキル−カルボニル基(例えばアセチル、エチルカルボニル等)、C1−6アルキル−スルホニル基、tert−ブチルオキシカルボニル基(以下、Bocとも称する)、ベンジルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリールカルボニル基(例えばフェニルカルボニル、ナフチルカルボニル等)、アリールスルホニル基(例えばフェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等)、C1−6アルキルオキシ−カルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等)、C7−10アラルキル−カルボニル基(例えばベンジルカルボニル等)、メチル基、アラルキル基(例えばベンジル、ジフェニルメチル、トリチル基等)、等が用いられる。これらの基は1ないし3個のハロゲン原子(例えばフッ素、塩素、臭素等)、ニトロ基等で置換されていてもよく、その具体例としては、p−ニトロベンジルオキシカルボニル基、p−クロロベンジルオキシカルボニル基、m−クロロベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、本発明において、水酸基の保護基(酸で脱保護することが可能なものを含む)としては、特に制限されないが、例えば、ジメトキシトリチル基、モノメトキシトリチル基、ピクシル基などが挙げられる。
【0048】
本発明の化合物または核酸として特に好ましいのは、例えば、後述の実施例に記載の化合物または核酸であり、特に化合物(核酸)102〜106、110、113、114、116〜118、120、121、122、123、124、ODN1、ODN2、ODN3、ODN4、ODN5、ODN6、ODN7、ODN8、ODN9、ODN10、ODN(anti4.5S)およびODN(antiB1)ならびにそれらの幾何異性体、立体異性体および塩である。特に、化合物110、113、114、116〜118、120、121、122、123、124、ODN1、ODN2、ODN3、ODN4、ODN5、ODN6、ODN7、ODN8、ODN9、ODN10、ODN(anti4.5S)およびODN(antiB1)は、チアゾールオレンジとDNAとが独特の構造で共有結合されていることにより、核酸検出感度等が特に優れている。さらに、チアゾールオレンジ構造を1分子中に2個含む化合物110、113、117、118、120、121、122、123、124、ODN1、ODN2、ODN3、ODN4、ODN5、ODN9、ODN(anti4.5S)およびODN(antiB1)は、一本鎖状態の蛍光を抑え、相補的なDNAやRNAとの二重らせん形成により蛍光強度が増加する一本鎖DNAの蛍光プローブとして、より一層効果的に用いることができる。
【0049】
次に、本発明の標識物質は、前述の通り、
(i)一つの分子内の二つの平面化学構造が同一平面内ではなく、ある一定の角度をもって存在するが、その分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには二つの平面化学構造が同一平面内に並ぶように配置することによって蛍光発光が生じる標識物質であるか、
(ii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子群からなる標識物質であるか、または、
(iii)2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子の化学構造を同一分子内に有することを特徴的化学構造とする複合体標識物質である。
前記(ii)または(iii)の場合において、前記色素分子が、前記(i)記載の分子であることが好ましい。また、前記(iii)の場合において、標識されるべき核酸に結合しているリンカー分子に、枝分かれした構造をとるように更なるリンカー分子を介して、または、更なるリンカー分子を介さず直接的に、2つ以上の色素分子が、結合した構造を有することが好ましい。
【0050】
本発明の標識物質は、前記原子団Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩であることが好ましい。例えば、本発明の化合物または核酸において、Z11およびZ12が、エキシトン効果を示す原子団であることにより、二重らせん構造となったときの蛍光の増大が大きくなり、二重らせん構造をいっそう効果的に検出することができる。ただし、本発明の化合物または核酸においては、Z11およびZ12が、エキシトン効果を示す原子団でなくても、また、蛍光性を示す原子団(色素)が1分子中に1個のみ導入されていても、核酸等の標識物質として使用可能であり、二重らせん構造を効果的に検出することもできる。本発明の標識物質の形態としては、例えば、一本鎖核酸である蛍光プローブの形態があるが、これに限定されず、標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、二本鎖核酸等、どのような形態でもよい。
【0051】
また、本発明の標識物質は、例えば、
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体であ
る標識物質であって、
前記(i)〜(iii)のいずれかに記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質である。
【0052】
あるいは、本発明の標識物質は、例えば、
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体である標識物質であって、
モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸または核酸類似体中の一つまたはそれ以上の塩基分子または主鎖構成分子に結合しているリンカー分子を介して、前記(i)〜(iii)のいずれかに記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質である。
【0053】
あるいは、本発明の標識物質は、例えば、
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体である標識物質であって、
モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸または核酸類似体中の一つまたはそれ以上の塩基分子のピリミジン核5位の炭素原子またはプリン核8位の炭素原子に結合している
リンカー分子を介して、前記(i)〜(iii)のいずれかに記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質である。
【0054】
[本発明の化合物および核酸の製造方法]
本発明の化合物および核酸の製造方法は、特に制限されず、公知の合成方法(製造方法)を適宜用いることができる。一例として、前記式(21)で表される化合物の場合は、下記式(26)で示される化合物のカルボキシル基を活性化した後、トリス(2−アミノエチル)アミンを反応させる工程;アミノ基を保護する工程:及び上記で得られた化合物中に存在する水酸基を保護基で保護する反応と、得られた化合物中に存在する水酸基にリン酸又はホスホロアミダイト基を付加する反応とを行う工程を含む製造方法により製造してもよい。
【化52】

式(26)中、Aは水素原子または水酸基を示す。Bはアデニン、グアニン、シトシン、チミン又はウラシルの残基を示す。
【0055】
本発明の化合物または核酸の製造に応用できる製造方法(合成方法)としては、例えば、以下の方法がある。すなわち、まず、DNAの簡便なラベル化法として、DNA中の活性なアミノ基とラベル化剤中の活性化されたカルボキシル基とを緩衝溶液中で反応させる方法が広く用いられている。この方法は、本発明の化合物または核酸のいずれの製造にも応用可能であり、特に、リンカーまたは色素の導入に応用できる。アミノ基の導入法としては、GLEN RESEARCH社が販売しているAmino modifierホスホロアミダイトを利用する方法などがある。
【0056】
前記原子団Z11およびZ12は、例えば、保護基から水素原子に変換し(保護基を外し)、さらに、水素原子から、蛍光性を有する原子団(色素)で置換することができる。保護基を外す方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。蛍光性を有する原子団(色素)で置換する方法も特に制限されず、例えば、Z11およびZ12が水素原子である本発明の化合物または核酸と、蛍光性分子(色素)とを適宜反応させればよい。例えば、Z11およびZ12の少なくとも一方が活性アミノ基であると、蛍光性分子(色素)と反応しやすいため好ましく、Z11およびZ12の両方が活性アミノ基であることがより好ましい。蛍光性分子(色素)も特に制限されないが、例えば、前記式(7)〜(9)のいずれかで表される化合物(ただし、R11およびR12のいずれもが、水素原子もしくは低級アルキル基、またはカルボキシポリメチレン基である)であっても良い。また、核酸(ポリヌクレオチド、ポリヌクレオシド、オリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオシド)の場合、保護基を外す工程および蛍光性を有する原子団(色素)で置換する工程は、重合(核酸合成)の前でもよいし、後でもよい。例えば、合成工程で色素部分がダメージを受けることを防止する観点から、重合(核酸合成)の後に蛍光性を有する原子団(色素)を導入することが好ましい。
【0057】
色素としては、前述の通り、特に制限されず、あらゆる色素が使用可能であるが、例えば、シアニン色素が好ましく、チアゾールオレンジが特に好ましい。シアニン色素は、例えば、ヘテロ原子を有する2つの複素環がメチンリンカーで結ばれた化学構造をしている。複素環の種類やメチンリンカーの長さを変えること、または複素環への置換基導入などにより、さまざまな励起・発光波長の蛍光色素を合成することが可能である。また、DNA導入のためのリンカー導入も比較的容易である。なお、チアゾールオレンジは水中でほとんど蛍光を出さないが、DNAまたはRNAと相互作用することにより強い蛍光を発する。核酸との相互作用により、色素分子間の相互作用が抑制されること、そして色素分子の2つの複素環の間のメチンリンカー周りの回転が抑制されることが蛍光強度の増加につながると考えられている。なお、チアゾールオレンジ色素の使用方法については、良く知られているが、例えば、H. S. Rye, M. A. Quesada, K. Peck, R. A. Mathies and A. N. Glazer, High-sensitivity two-color detection of double-stranded DNA with a confocal fluorescence gel scanner using ethidium homodimer and thiazole orange, Nucleic Acids Res., 1991, 19, 327-33;及びL. G. Lee, C. H. Chen and L. A. Chiu, Thiazole orange: a new dye for reticulocyte analysis, Cytometry, 1986, 7, 508-17を参照して用いることができる。
【0058】
本発明の化合物または核酸の基本骨格は、前述の通り、特に制限されず、例えば、DNA、修飾DNA、RNA、修飾DNA、LNA、またはPNA(ペプチド核酸)のいずれであっても良いし、その他の構造であっても良い。DNA、修飾DNA、RNA、または修飾DNAを基本骨格とする方が合成が容易であり、色素での置換(色素分子の導入)等もしやすいため好ましい。LNAまたはPNAに色素分子を導入する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。具体的には、例えば、Analytical Biochemistry 2000, 281, 26-35. Svanvik, N., Westman, G., Wang, D., Kubista, M. (2000) Anal Biochem. 281, 26-35. Hrdlicka, P. J., Babu, B. R., Sorensen, M. D., Harrit, N., Wengel, J. (2005) J. Am. Chem. Soc. 127, 13293-13299.等を参照することができる。
【0059】
DNA、修飾DNA、RNA、または修飾DNAを基本骨格とする核酸の合成方法は良く知られており、例えば、いわゆるホスホロアミダイト法等により合成することができる。その原料となるホスホロアミダイト試薬も、公知の方法で簡便に合成することができる。本発明の核酸がDNA、特に短いオリゴDNAの場合、例えば、DNA自動合成機等で簡便に合成することができる。また、例えば、PCR等により、長鎖状の核酸(DNA)等を合成することもできる。DNAと色素分子との結合箇所は、前述の通り特に制限されないが、例えば、チミジンの5位が特に好ましい。チミジンの5位からさまざまな置換基を伸ばしたヌクレオチド誘導体の三リン酸はDNAポリメラーゼによる導入効率が比較的良いことが知られている。これにより、例えば、本発明の核酸が、短いオリゴDNAである場合のみならず、長鎖DNAである場合にも簡便な合成が可能である。
【0060】
特に、例えば、チアゾールオレンジを利用した、一本鎖DNAである本発明の蛍光プローブ(標識物質)は、例えば、(1)DNA自動合成機で合成したDNAに緩衝溶液中で色素をつけるだけで調製でき、合成的に容易である、(2)酵素的に調製した長鎖DNAと色素を反応させることで、長鎖の蛍光プローブの作製も可能である、などの利点を有している。また、例えば、500nm付近の比較的長波長の光で励起できる。
【0061】
[核酸の検出方法およびキット]
本発明の核酸の検出方法は、前述の通り、
(I)標識モノヌクレオチドまたは標識オリゴヌクレオチドである本発明の標識物質を基質として核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより核酸合成を検出する工程とを含む、核酸検出方法、
(II)一重鎖核酸である本発明の標識物質を第一の核酸とし、前記第一の核酸と相補的な配列またはそれに類似の配列を有する第二の核酸とをハイブリダイゼーションさせて核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより、前記第一の核酸と前記第二の核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む、核酸検出方法、
(III)一重鎖核酸である本発明の標識物質を第一の核酸とし、前記第一の核酸と相補的な配列またはそれに類似の配列を有する第二の核酸とをハイブリダイゼーションさせて核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより、前記第一の核酸と前記第二の核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む、核酸検出方法、
または、
(IV)前記第一の核酸、前記第二の核酸の配列、もしくはそれらの配列に相補的な配列、または、それらの配列に相補的な配列に類似の配列を有し、かつ、本発明の標識物質または複合体標識物質で標識されたまたは標識されていない第三の核酸を用いることにより、三重鎖核酸または核酸類似体の形成を検出することを特徴とする、核酸検出方法、
である。好ましくは、(a)前記第一の核酸中の1分子の塩基上に2分子以上の色素分子が1個のリンカーを介して結合しているか、(b)前記第一の核酸中の1分子の塩基上に2分子以上の色素分子が2個以上のリンカーを介して結合しているか、あるいは(c)前記第一の核酸中の隣接する2分子の塩基上に2分子以上の色素分子が1個以上のリンカーを介して結合している。
【0062】
前記核酸合成は、例えば、酵素的手法により行うことが好ましいが、その他の方法により行ってもよい。また、これら本発明の核酸の検出方法は、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である前記本発明の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、もしくはそれらの塩、または前記本発明の核酸の構造を一部に持つ標識核酸を用いて、二重鎖または三重鎖核酸を検出することが好ましい。
【0063】
次に、本発明のキットは、前述の通り、核酸合成手段と、標識物質と、蛍光強度測定手段とを含み、前記標識物質が、前記本発明の標識物質である。すなわち、本発明のキットは、前記標識物質が、前記本発明の標識物質であることにより、核酸を高感度で検出すること等が可能である。これ以外は、本発明のキットは特に制限されない。例えば、前記核酸合成手段は特に制限されず、例えば、公知の自動核酸合成機等でもよい。また、前記蛍光強度測定手段も特に制限されず、例えば、公知の蛍光測定器等でもよい。
【0064】
本発明のキットは、前記本発明の核酸検出方法に用いることが好ましいが、これに制限されず、どのような用途に用いてもよい。また、本発明のキットは、例えば、研究用、臨床用または診断用キットとして用いることが好ましい。
【0065】
以下、本発明の核酸検出方法またはキットについて、より具体的に説明する。ただし、本発明の核酸検出方法およびキットは、以下の説明に限定されない。
【0066】
本発明の核酸検出方法では、前述の通り、本発明の標識物質を用いる。この場合、本発明の標識物質は、蛍光性を有する原子団(色素)を1分子当たり1個のみ有していても良いが、2個以上有することが好ましい。これにより、例えば、前記蛍光性を有する原子団(色素)がエキシトン効果を有することになる。エキシトン効果によれば、例えば、一本鎖状態での蛍光強度を抑え、二重らせん構造を一層効果的に検出可能である。なお、エキシトン効果(exciton coupling)とは、例えば、複数の色素が並行に集合し、H会合体(H-aggregate)を形成することにより、ほとんど蛍光発光を示さなくなる効果である。この効果は、色素の励起状態が、Davydov splittingにより2つのエネルギーレベルに分裂し、上位エネルギーレベルへの励起→下位エネルギーレベルへの内部変換(internal conversion)→発光が熱的に禁制、という理由で生じると考えられる。ただし、これらの説明は、本発明を何ら制限しない。エキシトン効果が起こりうることは、H会合体を形成した色素の吸収バンドが単一の色素の吸収バンドより短い波長に現れることで確認できる。このような効果を示す色素としては、例えば、前述したチアゾールオレンジとその誘導体、オキサゾールイエローとその誘導体、シアニンとその誘導体、ヘミシアニンとその誘導体、メチルレッドとその誘導体、ほか一般的にシアニン色素、アゾ色素と呼ばれる色素群が挙げられる。
【0067】
これらの色素は、二重らせんを形成したDNA-DNA二本鎖やDNA-RNA二本鎖、もしくはホスホチオエート核酸やPNA(ペプチド核酸)やLNA(BNA)のような人工核酸とDNAもしくはRNAによって形成される二本鎖にインターカレーションによって結合しやすい。これらのような色素複数個を、プローブに導入しておくと、通常の一本鎖状態(つまりハイブリダイゼーション前のプローブだけの状態)ではエキシトン効果によって強く消光されるが、標的のDNAもしくはRNAとハイブリダイゼーションすると会合体が解除されそれぞれの色素がばらばらに二本鎖にインターカレーションする。このとき色素間に電子的相互作用は無いのでエキシトン効果は生じず、強い蛍光発光を示す。このときの色素の吸収バンドは、単一の色素の吸収バンドと同じであり、色素間でエキシトン効果が生じていないことを示している。また、色素が二本鎖にインターカレーションしたときに、色素が本来有している構造上のねじれが解消されるので、蛍光発光をさらに強くしている。
【0068】
従って、例えば、複数個の色素によってエキシトン効果が現れるようにプローブ設計することにより、目的配列へのハイブリダイゼーションによる極めて明確な蛍光のオンとオフが可能になる。なお、プローブ配列に1分子の色素のみを結合するだけでは、エキシトン効果は現れないが、例えば、二本鎖形成による色素のインターカレーションが色素の構造を平坦化するなどの理由により、一本鎖のときより強い蛍光を発揮することも可能である。また、2分子以上の色素が結合されていても、それぞれの色素が電子的相関を示さない距離にまで離れている場合は、エキシトン効果は現れない。すなわち、エキシトン効果が発揮されるためには、2分子以上の色素が十分近接できる距離に配置されるよう本発明の化合物または核酸の分子上に結合されなければならない。すなわち、本発明の化合物または核酸を蛍光プローブとして用いる場合、プローブ内のひとつのヌクレオチドに2個以上の色素を結合するか、連続する2個以上のヌクレオチドに1つずつの色素を結合することが好ましい。
【0069】
本発明の核酸検出方法は、例えば、図1により概念的に表すことができる。同図(A)(左側の、「Non−hybrid」と記した図)は、エキシトン効果により消光したプローブを示し、同図(B)(右側の、「Hybrid」と記した図)は、二本鎖形成によりインターカレーションし、蛍光発光するプローブを示す。図中、符号1は、本発明の核酸(蛍光プローブ)を示す。2は、蛍光性を示す原子団(色素)を示す。1’は、核酸(蛍光プローブ)1に対する相補鎖を示す。3は、1と1’とから形成された二本鎖核酸を示す。また、図の上部は、電子遷移図である。「Allowed」は、許容遷移であることを示す。「Forbidden」は、禁制遷移であることを示す。「Emissive」は、蛍光発光可能であることを示す。「Non-emissive」は、理論上、蛍光発光不可能であることを示す。すなわち、一本鎖状態(図1(A))では、基底状態の色素2が会合することで、エキシトンカップリング理論により相互作用し、前記色素会合体の励起状態が2つのエネルギーレベルに分離して発光が抑えられると考えられる。低エネルギーレベルからの発光は、理論的には禁制であるので、会合体の一重項励起状態は、低い放射状態に留まる。一方、ハイブリダイゼーションして二本鎖を形成すると(図1(B))、色素2が二本鎖核酸3にインターカレーションまたはグルーヴバインディングしてエキシトンカップリングが解消されるため、蛍光を生じると考えられる。ただし、図1は、本発明による核酸検出機構の一例を概念的に示す模式図であり、本発明は、図1およびその説明により何ら限定されない。エキシトン効果においては、2つの色素間の距離を制御することによって、蛍光発光をコントロールできる。このシステムを、配列を判別するためのDNAに取り付けることによって、配列選択的な蛍光発光を得ることができる。本発明の核酸検出方法またはキットでは、例えば、試料の下方から可視光を照射することによりハイブリダイゼーションの検出を行うことができ、目視でも明確に判別することができる。また、本発明の核酸検出方法またはキットでは、例えば、蛍光セル・マイクロプレート・ゲル・キャピラリー・プラスチックチューブなどの容器の中でハイブリダイゼーションを観察可能である。さらに、本発明の核酸検出方法またはキットでは、例えば、標的核酸と混合した直後からハイブリダイゼーションを観測可能である。
【0070】
本発明の標識物質、核酸検出方法またはキットによれば、例えば、リアルタイムPCRや細胞内といった洗浄が難しい環境でも、配列特異的な核酸の蛍光検出が容易となる。より具体的には、例えば、下記(1)〜(7)のように応用することができる。なお、以下において、「本発明のプローブ」とは、前記本発明の標識物質の一種である蛍光プローブをいう。前述の通り、本発明の核酸検出方法およびキットには、本発明の標識物質を用いる。また、下記(1)〜(7)は例示であり、本発明の標識物質、核酸検出方法またはキットは、これらの説明により何ら制限されない。
【0071】
(1)本発明のプローブは、液相でのホモジニアスアッセイ(96穴マイクロプレート又はキャピラリーなどを使用)で使用できる。
(2)本発明のプローブは、PCRプローブとして使用できる。DNA増幅反応中での増幅曲線の検出(リアルタイムPCR)、TaqManプローブに代わるローコストな手法として応用できる。プライマーの標識、もしくは内部標識プローブとして使用することができる。
(3)本発明のプローブは、DNAチップにおける捕捉プローブもしくは標識プローブとして使用することができる。ハイスループットで試薬不要なシステムであり、標識過程・洗浄過程が不要である。人為的に生じる誤差を大きく回避できる。ガラスやそれに代わる固相担体素材(金、ITO、銅などの基板、ダイヤモンドやプラスチックなど多検体を貼り付けることが可能な素材)においての同時多項目(ハイスループット)な解析が可能である。
(4)本発明のプローブは、ビーズ、ファイバー、又はヒドロゲルへ固定化できる。半液体・半固体での環境下で遺伝子を検出することができる。液体のような測定環境を有しながら、固体のように持ち運ぶことが可能である。
(5)本発明のプローブは、ブロッティング(サザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロットなど)用のプローブとして使用できる。目的の遺伝子断片だけを発光させて検出することができる。本発明の方法によれば、ハイブリダイゼーション操作の後、洗浄が不要である。
(6)本発明のプローブは、細胞内核酸の検出・追跡のためのプローブとして使用することができる。これにより、細胞内のDNA/RNAの時空間的解析が可能になる。蛍光顕微鏡やセルソーターを使用することができる。DNAの標識、RNAへの転写・スプライシングの追跡、RNAiの機能解析などに応用できる。本発明の方法では、洗浄の必要が無いので、生細胞の機能追跡に適している。
(7)本発明のプローブは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)のプローブとして使用することができる。本発明の方法により、組織の染色などを行うことができる。本発明の方法では、洗浄の必要が無いので、人為的に生じる誤差が小さい。すなわち、本発明のプローブは、標的生体分子を認識しないときは蛍光を発しない蛍光色素として働くため、これを用いれば、煩雑な洗浄工程を必要としないバイオイメージングが確立できる。そのことは、高信頼性、低労力でリアルタイムな蛍光観測につながる。
【0072】
また、本発明の蛍光プローブ(標識物質)の効果としては、従来の一本鎖状態消光型蛍光プローブ(モレキュラービーコンなど)と比較して、例えば、以下の利点を挙げることができる。ただし、これらも例示であって、本発明を何ら制限しない。
(1)色素を1種類しか用いない場合、合成が容易である。
(2)本発明のDNAプローブ(標識物質)の末端がフリーである場合、PCRプローブとして使いやすい。
(3)ヘアピン構造など特殊な高次構造を形成する必要がないので、ステム配列など配列認識に関与しない配列を必要としない(無駄な配列が無く、配列の拘束もない)。
(4)プローブの複数の箇所(望む場所)に蛍光色素を導入できる。
(5)色素構造を1分子中に2つ以上含む場合、色素間の位置関係が拘束されているので、S/N比(ハイブリダイゼーション前後の蛍光強度比)が大きい。
【0073】
本発明のプローブの蛍光強度は、例えば、結合した色素部分のエキシトン相互作用のコントロールにより、効果的に変化させることができる。本発明において、特に、エキシトン相互作用を用いたアプローチによれば、on-offプローブとして機能するために十分高い消光性能を得ることができ、かつ、例えば前述のように、従来のアッセイと比較して明確に異なる多くの利点を得ることができる。このようなon-off蛍光ヌクレオチドのデザインは、例えば、洗浄を必要としないバイオイメージングアッセイの確立のために非常に重要である。エキシトン効果を利用したプローブが示す光物理的性質は、非常に特徴的であるのみならず、DNAシークエンシング(配列決定)、ジェノタイピング(遺伝子型解析)、DNA構造遷移のモニタリングおよび遺伝子発現観測のための新規な蛍光DNAプローブのデザインに好適である。
【0074】
また、本発明のプローブ(核酸)を用いれば、例えば、標的核酸配列を定量することにより、当該配列の増幅・分解・タンパク結合等の現象が生じたことを即座に検出するとともに、それらの現象量を定量することもできる。この検出および定量は、以下の説明により可能となるが、この説明は例示であり、本発明を限定するものではない。すなわち、まず、本発明のプローブ(核酸)が前記標的核酸配列と一定の物質量比でハイブリダイゼーションし、二本鎖を形成する。形成される二本鎖の物質量は、前記標的核酸配列の物質量と正比例するので、前記二本鎖の蛍光強度を測定することで、標的核酸配列を検出するとともに、その物質量を定量することができる。この場合において、本発明のプローブ(核酸)は、蛍光発光が抑制されているので、前記二本鎖の蛍光強度測定を妨害せず、正確な測定が可能となる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において「ODN」とは、オリゴDNA(DNAオリゴマー)を意味するものとする。
【0076】
[測定条件等]
試薬、溶媒は一般に市販されているものを使用した。ビオチンのN-ヒドロキシスクシンイミジルエステルはPIERCE社のものを使用した。化合物精製用のシリカゲルはWakoゲルC-200(和光純薬)を使用した。1H、13C、および31PNMRスペクトルは、JEOL(日本電子株式会社)のJNM-α400(商品名)により測定した。カップリング定数(J値)は、ヘルツ(Hz)で表している。ケミカルシフトは、ppmで表し、内部標準には、ジメチルスルホキシド(δ=2.48 in 1HNMR, δ=39.5 in 13CNMR)及びメタノール(δ=3.30 in 1HNMR, δ=49.0 in 13CNMR)を用いた。31PNMR測定には、外部標準としてH3PO4(δ=0.00)を用いた。ESIマススペクトルは、Bruker社のBruker Daltonics APEC-II(商品名)を用いて測定した。DNA自動合成機はApplied Biosystems社の392 DNA/RNA synthesizer(商品名)を使用した。逆相HPLCは、ギルソン社の装置Gilson Chromatograph, Model 305(商品名)とケムコ社のCHEMCOBOND 5-ODS-H分取用カラム(商品名、10×150mm)を用いて分離を行い、UV検出器Model 118(商品名)により、波長260nmで検出した。DNAの質量は、MALDI-TOF MSにより測定した。MALDI-TOF MSは、Appplied Byosystems社のPerseptive Voyager Elite(商品名)を用い、加速電圧21kV、ネガティブモードで測定し、マトリクスとしては2',3',4'-トリヒドロキシアセトフェノンを用い、T8([M.H]. 2370.61)およびT17([M.H]. 5108.37)を内部標準として用いた。UVおよび蛍光スペクトルは、株式会社島津製作所のShimadzu UV-2550(商品名)分光光度計と、RF-5300PC(商品名)蛍光分光光度計をそれぞれ用いて測定した。蛍光寿命は、株式会社堀場製作所の小型高性能蛍光寿命測定機器HORIBA JOBIN YVON FluoroCube(商品名)に、NanoLED-05A(商品名)を装備して測定した。二本鎖核酸の融点(Tm)の測定は、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中において、最終二本鎖濃度2.5μMで行った。試料の吸光度は、波長260nmで測定し、10℃から90℃の範囲において、0.5℃/minの速度で加熱しながら追跡した。これにより観測された特性から、最初に変化が生じた温度を融点Tmとした。
【0077】
吸収スペクトル、蛍光スペクトルおよびCDスペクトル測定は、特に記載しない限り、ストランド濃度2.5μM(一本鎖または二本鎖)で、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中、光路長1cmの測定セルを用いて行った。励起および蛍光発光のバンド幅は1.5nmであった。蛍光量子収率(ΦF)は、9,10-ジフェニルアントラセンを対照物質として用い、エタノール中における9,10-ジフェニルアントラセンの量子収率ΦF=0.95に基づいて算出した。発光スペクトルの面積は、インストールメンテーションソフトウェアを用いた積分により算出した。量子収率(ΦF)は、下記式(1)により算出した。

ΦF(S)F(R)=[A(S)/A(R)]×[(Abs)(R)/(Abs)(S)]×[n(S)2/n(R)2] (1)

上記式(1)中、ΦF(S)は、試料(Sample)の蛍光量子収率であり、ΦF(R)は、対照物質(Reference)の蛍光量子収率である。A(S)は、試料の蛍光スペクトル面積であり、A(R)は、対照物質の蛍光スペクトル面積である。(Abs)(S)は、励起波長における試料溶液の光学密度であり、(Abs)(R)は、励起波長における対照物質溶液の光学密度である。n(S)は、試料溶液の屈折率であり、n(R)は、対照物質溶液の屈折率であり、n(S)=1.333およびn(R)=1.383として計算した。
【0078】
[実施例1〜3]
下記スキーム1にしたがって、2つの活性アミノ基がそれぞれトリフルオロアセチル基で保護された化合物102および103を合成(製造)し、さらに、ホスホロアミダイト104を合成した。
【化53】

スキーム1 反応試薬と反応条件 (a) (i) N-hydroxysuccinimide, EDC/DMF, (ii) tris(2-aminoethyl)- amine/CH3CN, (iii) CF3COOEt, Et3N; (b) DMTrCl/pyridine; (c) 2-cyanoethyl-N,N,N',N'-tetraisopropyl phosphoramidite, 1H-tetrazole/CH3CN.
【0079】
前記スキーム1について、より詳しくは以下の通りである。
【0080】
[実施例1:2-[2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセトアミドエチル)]-アミノエチル]カルバモイル-(E)-ビニル)-2'-デオキシウリジン(2-[2-[N,N-bis(2-trifluoroacetamidoethyl)]-aminoethyl]carbamoyl-(E)-vinyl)-2'-deoxyuridine、化合物102)の合成]
出発原料の(E)-5-(2-カルボキシビニル)-2'-デオキシウリジン((E)-5-(2-carboxyvinyl)-2'-deoxyuridine、化合物101)は、Tetrahedron 1987, 43, 20, 4601-4607に従って合成した。すなわち、まず、430mgの酢酸パラジウム(II)(FW224.51)と1.05gのトリフェニルホスフィン(FW262.29)に71mLの1,4-ジオキサンを加え、さらに7.1mLのトリエチルアミン(FW101.19, d=0.726)を加え、70℃で加熱撹拌した。反応溶液が赤褐色から黒褐色に変化したら14.2gの2'-デオキシ-5-ヨードウリジン(FW354.10)と7.0mLのアクリル酸メチル(FW86.09,d=0.956)を1,4-ジオキサンに懸濁させたものを加え、125℃で1時間加熱還流させた。その後、熱いうちにろ過し、メタノールで残さを洗浄し、ろ液を回収した。そのろ液から溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムで生成物を精製した(5-10% メタノール/ジクロロメタン)。集めたフラクションの溶媒を減圧留去し、残った白色固体を減圧下で乾燥した。その乾燥固体に約100mLの超純水を加え、3.21gの水酸化ナトリウム(FW40.00)を加え、25℃で終夜撹拌した。その後、濃塩酸を加えて溶液を酸性にし、生じた沈殿をろ過、超純水で洗浄し、減圧下で乾燥した。これにより、目的化合物(化合物101)8.10g(収率68%)を白色粉末として得た。なお、前記白色粉末が目的化合物101であることは、1HNMR測定値が文献値と一致することから確認した。また、13CNMR測定値を以下に記す。
【0081】
(E)-5-(2-カルボキシビニル)-2'-デオキシウリジン(化合物101):
13CNMR(DMSO-d6):δ168.1, 161.8, 149.3, 143.5, 137.5, 117.8, 108.4, 87.6, 84.8, 69.7, 60.8, 40.1.
【0082】
次に、1.20gの(E)-5-(2-カルボキシビニル)-2'-デオキシウリジン 101(分子量298.25)と925mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(分子量115.09)と1.54gの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(分子量191.70)を撹拌子の入ったナスフラスコに入れ、20mLのDMFを加えて、25℃で16時間撹拌した。約1mLの酢酸を加え、300mLの塩化メチレンと100mLの超純水を加え、激しく撹拌した。水層を除き、さらに100mLの超純水を加え、同様に2回洗浄した。生じた沈殿をろ過し、塩化メチレンで洗浄し、減圧下で乾燥した。ろ液から溶媒を留去し、生じた沈殿に塩化メチレンを加えて、沈殿を前記と同様に回収した。回収した沈殿を全て合わせ、それを80mLのアセトニトリルに懸濁させ、激しく撹拌した。そこに3.0mLのトリス(2-アミノエチル)アミン(分子量146.23, d=0.976)を一気に加え、25℃でさらに10分間撹拌した。その後、4.8mLのトリフルオロ酢酸エチル(分子量142.08, d=1.194)を加え、さらに5.6mLのトリエチルアミン(分子量101.19, d=0.726)を加え、25℃で3時間撹拌した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムで精製した(5-10% MeOH/CH2Cl2)。溶媒を留去し、少量のアセトンに溶解させ、エーテルを加えると白色沈殿を生じた。ろ過、エーテルで洗浄後、減圧下で乾燥し、884mg(33.5%)の目的物質(化合物102)を得た。
【0083】
なお、原料、溶媒等の使用量、反応時間および工程を若干変化させる以外は上記と同様に合成したところ、収率を37%まで向上させることができた。すなわち、597mg(2.0mmol)の(E)-5-(2-カルボキシビニル)-2'-デオキシウリジン 101(分子量298.25)と460mg(4.0mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド(分子量115.09)と(767mg, 4.0mmol)の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド ヒドロクロリド(分子量191.70)を撹拌子の入ったナスフラスコに入れ、5.0mLのDMFを加えて、25℃で3時間撹拌した。約0.5mLの酢酸を加え、100mLの塩化メチレンと100mLの超純水を加え、激しく撹拌した。生じた沈殿をろ過し、水で洗浄し、減圧下で終夜乾燥させた。得られた白色の残渣を50mLのアセトニトリルに懸濁させ、激しく撹拌した。そこに3.0mL(20mmol)のトリス(2-アミノエチル)アミン(分子量146.23, d=0.976)を一気に加え、25℃でさらに10分間撹拌した。その後、4.8mLのトリフルオロ酢酸エチル(分子量142.08, d=1.194)を加え、さらに5.6mL(40mmol)のトリエチルアミン(分子量101.19, d=0.726)を加え、25℃で16時間撹拌した。溶媒を留去し、シリカゲルカラムで精製した(5-10% MeOH/CH2Cl2)。溶媒を留去し、少量のアセトンに溶解させ、エーテルを加えると白色沈殿を生じた。ろ過、エーテルで洗浄後、減圧下で乾燥し、453mg(37%)の目的物質(化合物102)を白色粉末として得た。以下に、化合物102の機器分析値を示す。また、図2に、1HNMRスペクトル図を示す。
【0084】
2-[2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセトアミドエチル)]-アミノエチル]カルバモイル-(E)
-ビニル)-2'-デオキシウリジン(化合物102):
1HNMR(CD3OD):δ8.35(s,1H), 7.22(d, J=15.6Hz, 1H), 7.04(d, J=15.6Hz, 1H), 6.26(t, J=6.6Hz, 1H), 4.44-4.41(m, 1H), 3.96-3.94(m, 1H), 3.84(dd, J=12.2, 2.9Hz, 1H), 3.76(dd, J=12.2, 3.4Hz, 1H), 3.37-3.30(m, 6H), 2.72-2.66(m, 6H), 2.38-2.23(m, 2H).13CNMR(CD3OD):δ169.3, 163.7, 159.1(q,J=36.4Hz), 151.2, 143.8, 134.3, 122.0, 117.5(q,J=286Hz), 110.9, 89.1, 87.0, 71.9, 62.5, 54.4, 53.9, 41.7, 38.9, 38.7. HRMS(ESI) calcd for C22H29F6N6O8 ([M+H]+) 619.1951, found 619.1943.
【0085】
[実施例2:5'-O-ジメトキシトリチル-(2-[2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセタミドエチル)]-アミノエチル]カルバモイル-(E)-ビニル)-2'-デオキシウリジン(5'-O-DMTr-(2-[2-[N,N-bis(2-trifluoroacetamidoethyl)]-aminoethyl]carbamoyl-(E)-vinyl)-2'-deoxyuridine、化合物103)の合成]
化合物102の5'-水酸基をDMTr基で保護し、化合物103を得た。すなわち、まず、618mgの化合物102(分子量618.48)と373mgの4,4'-ジメトキシトリチルクロリド(分子量338.83)を撹拌子の入ったナスフラスコに入れ、10mLのピリジンを加えて、25°で16時間撹拌した。少量の水を加え、溶媒を留去し、シリカゲルカラムで精製した(2-4% MeOH, 1% Et3N/CH2Cl2)。目的化合物103を含むフラクションの溶媒を留去し、735.2mg(79.8%)の目的物質(化合物103)を得た。以下に、化合物103の機器分析値を示す。また、図3に、1HNMRスペクトル図を示す。
【0086】
5'-O-(ジメトキシトリチル)-(2-[2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセタミドエチル)]-アミノエチル]カルバモイル-(E)-ビニル)-2'-デオキシウリジン(化合物103):
1HNMR(CD3OD):δ7.91(s, 1H), 7.39-7.11(m, 9H), 7.02(d, J=15.6Hz, 1H), 6.93(d, J=15.6Hz, 1H), 6.80-6.78(m, 4H), 6.17(t, J=6.6Hz, 1H), 4.38-4.35(m, 1H), 4.06-4.04(m, 1H), 3.68(s, 6H), 3.32-3.22(m, 8H), 2.66-2.55(m, 6H), 2.40(ddd, J=13.7, 5.9, 2.9Hz, 1H), 2.33-2.26(m, 1H).13CNMR(CD3OD):δ168.9, 163.7, 160.1, 159.1(q, J=36.9Hz), 151.0, 146.1, 143.0, 137.0, 136.9, 134.1, 131.24, 131.16, 129.2, 128.9, 128.0, 122.5, 117.5(q, J=286.7Hz), 114.2, 110.9, 88.1, 87.9, 87.6, 72.6, 65.0, 55.7, 54.2, 53.9, 41.7, 38.9, 38.6. HRMS(ESI) calcd for C43H47F6N6O10([M+H]+) 921.3258, found 921.3265.
【0087】
[実施例3:5'-O-(ジメトキシトリチル)-(2-[2-[N,N-ビス(2-トリフルオロアセタミドエチル)]-アミノエチル]カルバモイル-(E)-ビニル)-2'-デオキシウリジン 3'-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト(5'-O-DMTr-(2-[2-[N,N-bis(2-trifluoroacetamidoethyl)]-aminoethyl]carbamoyl-(E)-vinyl)-2'-deoxyuridine, 3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite、化合物104)の合成]
188mg(0.20mmol)の化合物103(分子量920.85)をCH3CNと共沸させ、28.6mg(0.40mmol)の1H-テトラゾール(分子量70.05)を加え、真空ポンプで一晩吸引乾燥した。5.1mLのCH3CNを加えて試薬を溶解後、撹拌し、194μL(0.60mmol)の2-シアノエチル-N,N,N',N'-テトライソプロピルホスホロアミダイト(分子量301.41, d=0.949)を一気に加え25℃で2時間撹拌した。50mLの酢酸エチルと50mLの飽和重曹水を混合したものを加え、分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ過により除去した後、溶媒を留去した。この分液による粗生成物をCH3CN共沸後、収率100%で生成物(化合物104)を得たと仮定して0.1MのCH3CN溶液とし、DNA合成に使用した。なお、化合物104が得られていることは、前記粗生成物の31PNMR(CDCl3)とHRMS(ESI)から確認した。これらの値を以下に示す。
【0088】
化合物104:
31PNMR(CDCl3) δ 149.686, 149.430; HRMS (ESI) calcd for C52H64F6N8O11P([M+H]+) 1121.4336, found 1121.4342.
【0089】
[実施例4:DNAオリゴマー合成]
【化54】

スキーム2
【0090】
化合物104を用いたDNA自動合成機によるオリゴDNA合成は、1μmolスケールで通常のホスホロアミダイト法(DMTr OFF)によって行い、5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(13量体、Xの構造は化学式105の通り)という配列(配列番号1)のDNAオリゴマーを合成した。脱保護は、濃アンモニア水(28質量%)により、55℃で16時間行った。スピードバックでアンモニアを揮発させ、0.45μmフィルターに通した後、切り出したDNAオリゴマーを逆相HPLCにより分析し、約10.5分に現れたピークを精製した(CHEMCOBOND 5-ODS-H(商品名)10×150mm、3mL/min、5-30% CH3CN/50mM TEAAバッファー pH7(20分)、260nmで検出)。精製した生成物はMALDI TOFマスのネガティブモードにより分子量を測定し、前記5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'という配列(13量体、Xの構造は化学式105の通り)から予想される分子量(C134H176N52O76P12に基づく計算値4102.8)を有することが確認された([M-H]-の実測値4101.9、計算値4101.8)。図4に、MALDI TOFマスのスペクトルを示す。
【0091】
また、濃アンモニア水による脱保護を、または、55℃で4時間行った後さらに25℃で16時間行うことと、逆相HPLCにおいてTEAA(トリエチルアミンアセテート)バッファー(pH7)の濃度を0.1Mとすることと、逆相HPLCにおける展開時間を30分以上とすること以外は上記と同様にして5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(13量体、Xの構造は化学式105の通り)を合成することができた。さらに、同じ方法で、Table1に示す各ODNの原料となるDNA(化学式105で表されるヌクレオチドを含む)を合成することができた。
【0092】
合成した各DNAの濃度を決定するために、精製した各DNAを、ウシ腸アルカリホスファターゼ(50U/mL)、ヘビ毒液ホスホジエステラーゼ(0.15U/mL)およびP1ヌクレアーゼ(50U/mL)により、25℃で16時間かけて完全消化した。得られた消化液を、CHEMCOBOND 5-ODS-H(商品名)カラム(4.6×150mm)のHPLCで解析した。その際、展開液としては0.1M TEAA(pH 7.0)を用い、流速は1.0mL/minとした。前記合成したDNAの濃度は、dA、dC、dGおよびdTをそれぞれ0.1mM濃度で含む標準溶液のピーク面積と比較して決定した。さらに、前記合成したDNAは、MALDI TOFマススペクトルによっても同定した。以下に、その質量分析値を示す。なお、[105]は、その位置に、化学式105で表されるヌクレオチドが挿入されていることを示す。
【0093】
CGCAAT[105]TAACGC, calcd for C134H177N52O76P12 ([M+H]+) 4103.8, found 4107.0;
TTTTTT[105]TTTTTT, calcd for C138H187N30O90P12 ([M + H]+) 4077.8, found 4076.9;
TGAAGGGCTT[105]TGAACTCTG, calcd for C205H265N77O122P19 ([M+H]+) 6348.2, found 6348.7;
GCCTCCT[105]CAGCAAATCC[105]ACCGGCGTG, calcd for C285H376N108O169P27 ([M+H]+) 8855.0, found 8854.8;
CCTCCCAAG[105]GCTGGGAT[105]AAAGGCGTG, calcd for C289H376N116O168P27 ([M+H]+) 8999.1, found 9002.2.
【0094】
[実施例5:2つのアミノ基をもつヌクレオチドを含むDNAオリゴマーのビオチン修飾]
【化55】

スキーム3
【0095】
合成したDNAオリゴマー5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(化合物105、Xとして前記化合物4を使用)とビオチンのN-ヒドロキシスクシンイミジルエステルとを反応させることにより2つのアミノ基を2つのビオチンでラベル化した(上記スキーム3)。すなわち、まず、30μLの5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(化合物105、ストランド濃度320μM)と10μLのNa2CO3/NaHCO3 buffer(1M, pH9.0)と60μLのH2Oを混合し、ビオチンのN-ヒドロキシスクシンイミジルエステルDMF溶液(20mM)100μLを加え、よく混合した。25℃で16時間静置した後、800μLのH2Oを加え、0.45μmのフィルターに通し、逆相HPLCで約14分に現れたピークを精製した(CHEMCOBOND 5-ODS-H 10×150mm、3mL/min、5-30% CH3CN/50mM TEAAバッファー(20分)、260nmで検出)。このHPLC精製で得られた生成物をMALDI TOFマスのネガティブモードにより測定したところ、4554.3にピークが見られた。このピーク値は、2つのアミノ基に2つのビオチン分子が反応した目的生成物6の分子量4555.4(C154H204N56O80P12Sによる計算値)より求めた[M-H]-の計算値4554.4と一致した。図5に、MALDI TOFマスのスペクトルを示す。
【0096】
この化合物6(一本鎖状態)を用いて二本鎖DNAおよびRNAを合成し、一本鎖状態と二本鎖状態との蛍光強度を比較した。その結果、一本鎖状態ではDNA蛍光プローブ(化合物6)の蛍光発光は抑えられ、相補的な核酸と二重らせん形成したときに強く蛍光発光することが確認された。
【0097】
以下の実施例6〜13では、下記化学式のbおよびcで示したカルボキシメチレンリンカーを有するチアゾールオレンジ誘導体を合成し、それらをN-ヒドロキシスクシンエステルとして活性化し、活性なアミノ基を有するDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)と反応させることにより、蛍光性を有する種々のオリゴヌクレオチド(蛍光DNAプローブ)を調製した。すなわち、色素から伸びるメチレンリンカーの長さと、チミジンの5位から伸びたアミノ基を含むリンカーをさまざまに変えた種々のオリゴヌクレオチド(蛍光DNAプローブ)を製造した。その結果、いずれの種々の蛍光DNAプローブにおいても、一本鎖状態のDNA蛍光プローブの蛍光発光を抑え、相補的な核酸と二重らせん形成したときに強く蛍光発光させることが可能であった。なお、下記化学式bおよびc中、nは、リンカー長(架橋原子数)を表す。
【化56】

【0098】
[実施例6:チアゾールオレンジから誘導される構造を1分子中に2箇所有する化合物の合成]
【化57】

スキーム4
【0099】
上記スキーム4の通り、チアゾールオレンジから誘導される構造を1分子中に2箇所有するDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110を合成した。より詳しくは、以下の通りである。
【0100】
チアゾールオレンジ誘導体107の合成は、Organic Letters 2000, 6, 517-519を参考に下記スキーム5の通り行った。
【化58】

スキーム5
【0101】
(1)N-メチルキノリニウムヨージド(化合物111)の合成
まず、N-メチルキノリニウムヨージド(化合物111)を、前記文献の記載に従って合成した。具体的には、無水ジオキサン42mL中に、キノリン2.4mLとヨウ化メチル4mLを加え、150℃で1時間撹拌した後、ろ過によって沈殿物を集め、エーテル及び石油エーテルで洗浄、乾燥し、N-メチルキノリニウムヨージド(化合物111)を得た。
【0102】
(2)3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド(化合物112)の合成
8mLの2-メチルベンゾチアゾール(FW149.21, d=1.173)と9.4gの5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)(FW181.03)を110℃で16時間撹拌した。粗生成物を室温に冷却し、生じた固体をメタノール20mLに懸濁させ、さらにエーテル40mLを加えた。生じた沈殿をろ過し、ジオキサンで2-メチルベンゾチアゾールの匂いがなくなるまで洗浄し、エーテルでさらに洗浄し、減圧下で乾燥して9.8gの白色粉末を得た。この白色粉末の1HNMRを測定したところ、2位がアルキル化された目的物3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド(化合物112)と、2位がアルキル化されていない3-(4-カルボキシブチル)-ベンゾチアゾリウム ブロミドとの混合物であった。プロトンのピーク比は、アルキル化されていないもの:アルキル化されたもの=10:3であった。この粗生成物を、そのまま次の反応に用いた。
【0103】
(3)1-メチル-4-[{3-(4-カルボキシブチル)-2(3H)-ベンゾチアゾリリデン}メチル]キノリニウム ブロミド(化合物107)の合成
上記(2)で得られた、3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド(化合物112)を含む粗生成物2.18gと、700mgのN-メチルキノリニウムヨージド(化合物111)(FW271.10)を、3.6mLのトリエチルアミン(FW101.19, d=0.726)存在下、10mLの塩化メチレン中、25℃で2時間撹拌した。その後、エーテル50mLを加え、生じた沈殿を濾取し、エーテルで洗浄し、減圧下で乾燥した。その沈殿を超純水50mLに懸濁させ、濾取し、超純水で洗浄し、減圧下で乾燥した。さらに前記沈殿をアセトニトリル50mLに懸濁させ、濾取し、アセトニトリルで洗浄し、減圧下で乾燥させて307.5mgの赤色粉末を得た(収率25.3%)。この赤色粉末が目的物(化合物107)であることは、1HNMRスペクトルを文献値と対比して確認した。
【0104】
また、3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド(化合物112)および1-メチル-4-[{3-(4-カルボキシブチル)-2(3H)-ベンゾチアゾリリデン}メチル]キノリニウム ブロミド(化合物107)は、以下のようにしても合成することができた。すなわち、まず、11.7mL(92mmol)の2-メチルベンゾチアゾール(FW149.21, d=1.173)と13.7g(76mmol)の5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)(FW181.03)を150℃で1時間撹拌した。粗生成物を室温に冷却し、生じた固体をメタノール50mLに懸濁させ、さらにエーテル200mLを加えた。生じた沈殿をろ過し、エーテルで洗浄し、減圧下で乾燥して19.2gの淡紫色粉末を得た。この粉末は、目的化合物112(3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド)と2-メチルベンゾチアゾリウムブロミドとの混合物であった。この混合物を1H NMR(in DMSO-d6)測定し、8.5ppmのピーク(目的化合物112由来)と、8.0ppmのピーク(2-メチルベンゾチアゾリウムブロミド由来)とのピーク面積比から、目的化合物112の収量を9.82g(14mmol, 32%)と算出した。この混合物(粗生成物)は、精製せずに次の反応に使用した。なお、5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を4-ブロモ酪酸(4-ブロモブタン酸)に変える以外は同様の方法でリンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=3の3-(4-カルボキシプロピル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドを合成したところ、収率4%で得られた。また、5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を6-ブロモヘキサン酸に変える以外は同様の方法でリンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=5の3-(4-カルボキシペンチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドを合成したところ、収率35%で得られた。さらに、5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を7-ブロモヘプタン酸に変える以外は同様の方法でリンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=6の3-(4-カルボキシプロピル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドを合成したところ、収率22%で得られた。
【0105】
次に、化合物112(3-(4-カルボキシブチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミド)と2-メチルベンゾチアゾリウムブロミドとを含む前記混合物(粗生成物)3.24gに、1.36g(5.0mmol)のN-メチルキノリニウムヨージド(化合物111)(FW271.10)、7.0mL(50mmol)のトリエチルアミン(FW101.19, d=0.726)、および100mLの塩化メチレンを加え、透明な溶液を得た。この溶液を、25℃で16時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去した。残渣にアセトン(200mL)を加え、得られた沈殿を濾取し、アセトンで洗浄した。そうして得られた残渣を減圧乾燥し、乾燥後の赤色残渣を蒸留水(50mL)で洗浄した。これをさらに濾取し、蒸留水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、目的物(化合物107)を赤色粉末として得た(654mg, 1.39mmol, 28%)この赤色粉末が目的物(化合物107)であることは、1HNMRスペクトルを文献値と対比して確認した。以下に、1HNMRおよび13CNMR(DMSO-d6)のピーク値と、HRMS(ESI)の測定値を示す。また、図6に、化合物107の1HNMRスペクトル(DMSO-d6)を示す。
【0106】
化合物107:1HNMR(DMSO-d6):δ 8.74(d, J=8.3Hz, 1H), 8.51(d, J=7.3Hz, 1H), 7.94-7.89(m, 3H), 7.74-7.70(m, 1H), 7.65(d, J=8.3Hz, 1H), 7.55-7.51(m, 1H), 7.36-7.32(m, 1H), 7.21(d, J=7.3Hz, 1H), 6.83(s, 1H), 4.47(t, J=7.1Hz, 2H), 4.07(s, 3H), 2.22(t, J=6.6Hz, 1H), 1.77-1.63(m, 4H); 13CNMR(DMSO-d6, 60℃) δ 174.6, 158.8, 148.4, 144.5, 139.5, 137.6, 132.7, 127.9, 126.8, 125.5, 124.1, 123.7, 123.6, 122.4, 117.5, 112.6, 107.6, 87.
4, 45.6, 42.0, 35.5, 26.2, 22.3; HRMS (ESI) calcd for C23H23N2O2S ([M
.Br]+) 391.1480, found 391.1475.
【0107】
なお、リンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=3の4-((3-
(3-カルボキシプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリ
ニウムブロミドを、前記3-(4-カルボキシプロピル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロ
ミドと2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドの混合物から上記化合物107と同様の方
法で合成したところ、収率43%で得られた。以下に、機器分析値を示す。
【0108】
4-((3-(3-カルボキシプロピル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウムブロミド:
1HNMR (DMSO-d6) δ 8.85 (d, J=8.3Hz, 1H), 8.59 (d, J=7.3Hz, 1H), 8.02.7.93 (m, 3H), 7.78.7.70 (m, 2H), 7.61.7.57 (m, 1H), 7.42.7.38 (m, 1H), 7.31 (d, J=6.8Hz, 1H), 7.04 (s, 1H), 4.47 (t, J=8.1Hz, 2H), 4.13 (s, 3H), 2.52.2.48 (m, 2H), 1.99.1.92 (m, 2H); 13CNMR (DMSO-d6, 60℃) δ 174.3, 158.9, 148.6, 144.5, 139.5, 137.7, 132.7, 127.9, 126.7, 125.6, 124.1, 124.0, 123.7, 122.5, 117.5, 112.5, 107.6, 87.7, 45.6, 42.0, 31.6, 22.4; HRMS (ESI) calcd for C22H21N2O2S ([M.Br]+) 377.1324, found 377.1316.
【0109】
また、リンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=5の4-((3-(3-カルボキシペンチル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウムブロミドを、前記3-(4-カルボキシペンチル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドと2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドの混合物から上記化合物107と同様の方法で合成したところ、収率26%で得られた。以下に、機器分析値を示す。
【0110】
4-((3-(3-カルボキシペンチル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウムブロミド:
1HNMR(DMSO-d6) δ 8.70 (d, J=8.3Hz, 1H), 8.61(d, J=6.8Hz, 1H), 8.05.8.00(m, 3H), 7.80.7.73(m, 2H), 7.60.7.56(m, 1H), 7.41.7.35(m, 2H), 6.89(s, 1H), 4.59(t, J=7.3Hz, 2H), 4.16(s, 3H), 2.19(t, J=7.3Hz, 1H), 1.82.1.75(m, 2H), 1.62.1.43(m, 4H); 13CNMR (DMSO-d6, 60℃) δ 174.5, 159.0, 148.6, 144.7, 139.7, 137.8, 132.9, 127.9, 126.9, 125.2, 124.2, 123.8, 123.6, 122.6, 117.8, 112.6, 107.7, 87.4, 45.6, 42.1, 36.0, 26.3, 25.9, 24.9; HRMS(ESI) calcd for C24H25N2O2S ([M.Br]+) 405.1637, found 405.1632.
【0111】
さらに、リンカー(カルボキシル基に連結したポリメチレン鎖)の炭素数n=6の4-((3-(3-カルボキシヘキシル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウムブロミドを、前記3-(4-カルボキシヘキシル)-2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドと2-メチルベンゾチアゾリウム ブロミドの混合物から上記化合物107と同様の方法で合成したところ、収率22%で得られた。以下に、機器分析値を示す。
【0112】
4-((3-(3-カルボキシヘキシル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウムブロミド:
1HNMR(DMSO-d6) δ 8.72(d, J=8.3Hz, 1H), 8.62(d, J=6.8Hz, 1H), 8.07.8.01(m, 3H), 7.81.7.75(m, 2H), 7.62.7.58(m, 1H), 7.42.7.38(m, 2H), 6.92(s, 1H), 4.61(t, J=7.3Hz, 2H), 4.17(s, 3H), 2.18(t, J=7.3Hz, 1H), 1.82.1.75(m, 2H), 1.51.1.32(m, 6H); 13CNMR(DMSO-d6, 60℃) δ 174.0, 159.1, 148.6, 144.7, 139.8, 137.8, 132.9, 127.9, 126.8, 125.0, 124.2, 123.8, 123.6, 122.6, 118.0, 112.7, 107.8, 87.4, 45.5, 42.1, 33.4, 27.9, 26.4, 25.5, 24.1; HRMS(ESI) calcd for C25H27N2O2S ([M.Br]+) 419.1793, found419.1788.
【0113】
(4)N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル109の合成
9.4mg(20μmol)の1-メチル-4-[{3-(4-カルボキシブチル)-2(3H)-ベンゾチアゾリリデン}メチル]キノリニウム ブロミド(化合物107)(FW471.41)、4.6mg(40μmol)のN-ヒドロキシコハク酸イミド(化合物108)(FW115.09)、および7.6mg(40μmol)のEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(FW191.70)を、1mLのDMF中において25℃で16時間撹拌し、色素(化合物107)のカルボキシ基が活性化されたN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(化合物109)を得た。この反応生成物は、精製せず、反応溶液(色素20mM)をそのままオリゴマーDNA(オリゴヌクレオチド)105との反応に使用した。
【0114】
さらに、原料として、化合物107に代えてリンカー(ポリメチレン鎖)の炭素数を変化させた化合物を用いる以外は上記化合物109と同様の方法で、リンカー(ポリメチレン鎖)の炭素数n=3の4-((3-(4-(スクシンイミジルオキシ)-4-オキソブチル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウム ブロミドを合成した。さらに、同様に、リンカー(ポリメチレン鎖)の炭素数n=5の4-((3-(4-(スクシンイミジルオキシ)-4-オキソヘキシル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウム ブロミドと、リンカー(ポリメチレン鎖)の炭素数n=6の4-((3-(4-(スクシンイミジルオキシ)-4-オキソヘプチル)ベンゾ[d]チアゾール-2(3H)-イリデン)メチル)-1-メチルキノリニウム ブロミドとを合成した。
【0115】
(5)2分子のチアゾールオレンジで修飾されたDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド110の合成
二つの活性アミノ基を有するDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)105は、前記実施例4と同様に、DNA自動合成機により通常の方法で合成した。化合物105の配列は、実施例4と同じく5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(Xは前記化合物104)を用いた。次に、このDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)105を、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(化合物109)と反応させ、チアゾールオレンジから誘導される構造を1分子中に2箇所有するDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110を合成した。すなわち、まず、30μLの5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(化合物105、ストランド濃度320μM)と10μLのNa2CO3/NaHCO3 buffer(1M, pH9.0)と60μLのH2Oを混合し、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(化合物109)のDMF溶液(20mM)100μLを加え、よく混合した。25℃で16時間静置した後、800μLのH2Oを加え、0.45μmのフィルターに通し、逆相HPLCで約14.5分に現れたピークを精製した(CHEMCOBOND 5-ODS-H 10×150mm、3mL/min、5-30% CH3CN/50mM TEAAバッファー(20分)、260nmで検出)。図7に、逆相HPLCのチャートを示す。矢印のピークで表されるフラクションを分取・精製した。このHPLC精製で得られた生成物をMALDI TOFマスのネガティブモードにより測定したところ、4848.8にピークが見られ、DNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110であることが確認された。図8に、DNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110のMALDI TOF MASSスペクトルを示す。同図中、矢印は、前記精製した生成物由来のマスピーク(4848.8)である。このピーク値は、正電荷を2つ有するDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110の分子M(C180H220N56O78P12S2)から3つのプロトンが抜けた[M2+-3H+]-の計算値4848.8と一致した。また、左右のピークは、標準物質として加えたDNAのT8量体とT18量体由来のピークである。
【0116】
[実施例7:DNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110の、蛍光プローブとしての使用]
実施例6で精製したDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)110(色素が2分子ついたDNA)を脱塩し、凍結乾燥した後、水溶液とし、UV吸収により濃度決定した(XはTと近似)。その後、ストランド濃度2.5μM、リン酸バッファー50mM(pH7.0)、そしてNaCl 100mMの条件で、蛍光プローブ(DNAオリゴマー110)が一本鎖状態のとき、DNA-DNA二重らせんのとき、そしてDNA-RNA二重らせんのそれぞれについてUV測定を行った。図9に、これら3つのサンプルのスペクトルを示す。同図中、点線は蛍光プローブ一本鎖状態のスペクトルを示し、太線はDNA-DNA二重らせんのスペクトルを示し、細線はDNA-RNA二重らせんのスペクトルを示す。図示の通り、二重らせん形成することにより500nm付近のUV吸収の極大波長が移動した。なお、図9および他の全てのUV吸収スペクトル図において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は吸光度を示す。
【0117】
次に、同じくストランド濃度2.5μM、リン酸バッファー50mM(pH7.0)、そしてNaCl 100mMの条件で、488nmの励起光(バンド幅1.5nm)により励起した後に蛍光測定を行った。図10に、蛍光プローブが一本鎖状態のとき(点線)、DNA-DNA二重らせんのとき(太線)、そしてDNA-RNA二重らせん(細線)の3つのサンプルのスペクトルをそれぞれ示す。図示の通り、一本鎖状態の蛍光プローブの530nmの蛍光強度と比較すると、DNA-DNAでは15倍、DNA-RNAでは22倍の蛍光強度の増加が見られた。なお、図10および他の全ての蛍光発光スペクトル図、ならびに励起スペクトル図において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は発光強度を示す。
【0118】
また、488nmの励起光に代えて510nmの励起光を用いても同様の結果が得られた。図11に、そのスペクトルを示す。
【0119】
[実施例8:リンカーの長さを種々変化させた化合物の合成および蛍光プローブとしての使用]
下記化学式113で表される化合物(DNAオリゴマー)を、リンカー長nを種々変化させて合成した。合成は、原料の5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を、リンカー長に合わせて炭素数(鎖長)を変えた化合物とする以外は前記実施例1〜4および6と同様に行った。本実施例においては、下記化合物113の配列は、5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(Xは、色素導入部分)とした。さらに、それぞれを、実施例7と同様に蛍光プローブとして使用し、蛍光測定により性能を評価した。その結果、以下に示すリンカーの長さの範囲内であれば、プローブ一本鎖に比べて約10倍近くまたはそれ以上の蛍光増大が、標的核酸とのハイブリダイゼーションによって得られることが確認された。また、プローブと標的核酸によって得られる二本鎖は、天然配列の二本鎖より高い熱的安定性を示した。
【化59】

【表1】

5'-d(CGCAATTTAACGC)-3'/5'-d(GCGTTAAATTGCG)-3' Tm(℃) 58
5'-d(CGCAATTTAACGC)-3'/5'-r(GCGUUAAAUUGCG)-3' Tm(℃) 46

測定条件:プローブ(化合物113)2.5μM、リン酸バッファー 50mM(pH7.0)、NaCl 100mM、相補鎖 2.5μM
蛍光の極大波長は488nm(1.5nm幅)の光で励起した場合の値。
量子収率は9,10-ジフェニルアントラセンを参照物質として計算した。
【0120】
図12に、実施例8におけるリンカー長n=4のときの吸収スペクトルを示す。点線が一本鎖、実線がDNA-DNA鎖、鎖線がDNA-RNA鎖のスペクトルである。400〜600nmでの吸収に注目すると、一本鎖状態のときの吸収バンドがハイブリダイゼーション後の吸収バンドに比べ短波長側に現れており、一本鎖状態での色素二量体によるH会合体の形成を明確に示している。
【0121】
また、図13に、実施例8におけるリンカー長n=4のときの励起スペクトルと蛍光発光スペクトルを併せて示す。同図中、左側(短波長側)の曲線が励起スペクトルを示し、右側(長波長側)の曲線が蛍光発光スペクトルを示す。また、同図中、凡例の括弧内は、励起スペクトルでは参照する蛍光発光の波長(蛍光のλmax)、蛍光発光スペクトルでは励起波長をそれぞれ示している。発光強度は、励起スペクトルおよび蛍光発光スペクトルともに、一本鎖が最も弱く、DNA-DNA鎖はそれよりも強く、DNA-RNA鎖が最も強い。励起スペクトルから、蛍光発光に関与する吸収は、図12における長波長側の吸収バンドだけであり、短波長側の吸収は蛍光発光に関与しないことがわかる。つまり、エキシトン効果による蛍光発光制御が働いていることが明確に示されている。したがって、蛍光発光は、ハイブリダイゼーション後に強く、一本鎖状態ではきわめて弱い。これにより、ハイブリダイゼーション前後の状態を明確に区別できる。
【0122】
[実施例9]
下記化学式114で表される、1分子中に色素構造1個のみを含む化合物(DNAオリゴマー)を、リンカー長nを種々変化させて合成した。合成は、原料の5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を、リンカー長に合わせて炭素数(鎖長)を変えた化合物とすることと、化合物102合成においてトリス(2-アミノエチル)アミンに代えてビス(2-アミノエチル)メチルアミンを用いること以外は前記実施例1〜4および6と同様に行った。n=3、4、5、6の化合物を、それぞれ同様にして合成することができた。
【化60】

【0123】
より具体的には、下記スキームの通り合成した。下記スキームは、n=4の場合であるが、nが他の数値である場合も同様に合成した。
【化61】

【0124】
[(E)-5-(3-(2-(N-メチル-N-(2-(2,2,2-トリフルオロアセタミド)エチル)アミノ)エチルアミノ)-3-オキソプロピ-1-エニル)-2'-デオキシウリジン((E)-5-(3-(2-(N-Methyl-N-(2-(2,2,2-trifluoroacetamido)ethyl)amino)ethylamino)-3-oxoprop-1-enyl)-2'-deoxyuridine)(102’)の合成]
1.19g(4.0mmol)の(E)-5-(2-カルボキシビニル)-2'-デオキシウリジン 101(分子量298.25)と921mg(8.0mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド(分子量115.09)と1.53g(8.0mmol)の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(分子量191.70)を撹拌子の入ったナスフラスコに入れ、1.0mLのDMFを加えて、25℃で8時間撹拌した。約1mLの酢酸を加え、250mLの塩化メチレンと250mLの超純水を加え、激しく撹拌した。生じた沈殿をろ過し、水で洗浄し、減圧下で終夜乾燥した。得られた白色残渣を100mLのアセトニトリルに懸濁させ、激しく撹拌した。そこに2.34g(20mmol)のN-メチル-2,2'-ジアミノジエチルアミン(分子量146.23, d=0.976)を一気に加え、25℃でさらに10分間撹拌した。その後、4.8mL(40mmol)のトリフルオロ酢酸エチル(分子量142.08, d=1.194)、5.6mL(40mmol)のトリエチルアミン(分子量101.19, d=0.726)および50mLのエタノールを加え、25℃で16時間撹拌した。得られた混合物から溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムで精製した(10-20% MeOH/CH2Cl2)。目的物を含むフラクションから溶媒を減圧留去し、少量のアセトンに溶解させ、エーテルを加えると白色沈殿を生じた。ろ過、エーテルで洗浄後、減圧下で乾燥し、750mg(76%)の目的物質(化合物102’)を白色粉末として得た。以下に、機器分析値を示す。
【0125】
化合物102’:
1HNMR(CD3OD) δ 8.29(s, 1H), 7.17(d, J=15.6Hz, 1H), 6.97(d, J=15.6Hz, 1H), 6.21(t, J=6.3Hz, 1H), 4.40.4.36(m, 1H), 3.92.3.90(m, 1H), 3.80(dd, J=11.7, 2.9Hz, 1H), 3.72(dd, J=11.7, 3.4Hz, 1H), 3.37.3.25(m, 5H), 2.60.2.53(m, 5H), 2.33.2.19(m, 5H); 13CNMR(CD3OD) δ 169.2, 158.7 (q, J=36.4Hz), 151.2, 143.7, 143.6, 134.1, 122.2, 117.5 (q, J=286.2Hz), 111.0, 89.2, 87.0, 72.1, 62.6, 57.4, 56.7, 42.4, 41.8, 38.5, 38.3; HRMS(ESI) calcd for C19H27F3N5O7 ([M+H]+) 494.1863, found 494.1854.
【0126】
[(E)-5-(3-(2-(N-メチル-N-(2-(2,2,2-トリフルオロアセタミド)エチル)アミノ)エチルアミノ)-3-オキソプロピ-1-エニル)-5'O-(4,4'-ジメトキシトリチル)-2'-デオキシウリジン 3'O-(2-シアノエチル)-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト((E)-5-(3-(2-(N-Methyl-N-(2-(2,2,2-trifluoroacetamido)ethyl)amino)ethylamino)-3-oxoprop-1-enyl)-5'O-(4,4'-dimethoxytrityl)-2'-deoxyuridine 3'O-(2-cyanoethyl)-N,N-diisopropylphosphoramidite)(化合物104’)の合成]
まず、296mg(0.60mmol)の化合物102’(分子量494.19)と224mg(0.66mmol)の4,4'-ジメトキシトリチルクロリド(分子量338.83)を撹拌子の入ったナスフラスコに入れ、4mLのピリジンを加えて、25℃で2時間撹拌した。1mLの水を加え、溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムで精製した(1.5% MeOHおよび1% Et3N/CH2Cl2)。目的とする102’のトリチル化物(104’の中間体)を含むフラクションを濃縮し、残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。その混合物を酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄し、減圧下で乾燥して、白色泡状のトリチル化物(366mg, 77%)を得た。
【0127】
1HNMR(CD3OD) δ 7.94(s, 1H), 7.42.7.17(m, 9H), 7.01(d, J=15.6Hz, 1H), 6.95(d, J=15.6Hz, 1H), 6.86.6.83(m, 4H), 6.21(t, J=6.3Hz, 1H), 4.41.4.38(m, 1H), 4.09.4.06(m, 1H), 3.75(s, 6H), 3.40.3.30(m, 6H), 2.59(t, J=6.8Hz, 2H), 2.53(t, J=6.8Hz, 2H), 2.46.2.31(m, 5H); 13CNMR(CD3OD) δ 169.2, 158.7(q, J=36.4Hz), 151.2, 143.7, 143.6, 134.1, 122.2, 117.5 (q, J=286.2Hz), 111.0, 89.2, 87.0, 72.1, 62.6, 57.4, 56.7, 42.4, 41.8, 38.5, 38.3; HRMS(ESI) calcd for C40H45F3N5O9 ([M+H]+) 796.3169, found 796.3166.
【0128】
前記102’のトリチル化物159mg(0.20mmol)(分子量920.85)およびの1H-テトラゾール28.6mg(0.40mmol)(分子量70.05)丸底フラスコ内に入れ、真空ポンプで一晩吸引乾燥した。そこに4.0mLのCH3CNを加えて試薬を溶解後、撹拌し、191μL(0.60mmol)の2-シアノエチル-N,N,N',N'-テトライソプロピルホスホロアミダイト(分子量301.41, d=0.949)を一気に加え25℃で2時間撹拌した。TLCで反応修了を確認後、飽和重曹水を加え、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ過により除去した後、溶媒を減圧留去して目的化合物104’を含む粗生成物を得た。この組成物は、精製せずにそのままDNA合成に使用した。なお、化合物104’が得られていることは、前記粗生成物の31PNMR(CDCl3)とHRMS(ESI)から確認した。これらの値を以下に示す。
【0129】
化合物104’:
31PNMR(CDCl3) δ 149.686, 149.393; HRMS(ESI) calcd for C49H61F3N7O10P([M+H]+) 996.4248, found 996.4243.
【0130】
DNA105’の合成は、前記化合物105と同様にして行った。以下に、機器分析値を示す。
【0131】
DNA105’:
CGCAAT[105’]TAACGC, calcd for C133H174N51O76P12([M+H]+) 4074.8, found 4072.0; CGCAAT[105’][105’]AACGC, calcd for C140H187N54O77P12([M+H]+) 4230.0, found 4228.9.
【0132】
チアゾールオレンジを導入したDNA114の合成は、前記化合物113と同様にして行った。以下に、機器分析値を示す。
CGCAAT[114](4)TAACGC, calcd for C156H194N53O77P12S(M+) 4447.3, found 4445.6; CGCAAT[114](4)[114](4)AACGC, calcd for C186H228N58O79P12S2([M.H]+) 4976.0, found 4976.9.
【0133】
合成したDNAオリゴマー(ODN)のうち、5'-d(CGCAAT[114](n)TAACGC)-3'の配列を有するODN(色素1個のみを含むプローブ)について、実施例7および8と同様に蛍光挙動を観測した。下記表2、図14および15に、その結果を示す。図14は吸収スペクトル(点線が一本鎖、実線がDNA-DNA鎖、鎖線がDNA-RNA鎖のスペクトルである。)を示し、図15は、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す。図15中、左側(短波長側)の曲線が励起スペクトルを示し、右側(長波長側)の曲線が蛍光発光スペクトルを示す。また、同図中、凡例の波長は、励起スペクトルでは参照する蛍光発光の波長(蛍光のλmax)、蛍光発光スペクトルでは励起波長をそれぞれ示している。発光強度は、励起スペクトルおよび蛍光発光スペクトルともに、一本鎖が最も弱く、DNA-DNA鎖はそれよりも強く、DNA-RNA鎖が最も強い。図示の通り、化合物114は色素構造を1分子中に1個のみ有し、H会合体を形成しないので、エキシトン効果を生じない(吸収スペクトルで短波長側へのシフトが観察されない)。したがって、一本鎖状態での蛍光消光は、色素構造を2個有する化合物と比較して弱く、二本鎖と一本鎖の蛍光強度比Ids/Issは比較的小さい。しかし、二本鎖形成による色素のインターカレーションが色素の構造を平坦化するため、下記表2に示すように、一本鎖よりも二本鎖状態のほうが大きい蛍光強度が得られた。なお、一本鎖において、励起波長を488nmからUV吸収スペクトルにおけるλmax(λmaxが2つあるときは長波長側)に変えたところ、量子収率ΦF=0.120という測定結果が得られた。さらに、DNA-DNA二本鎖において、励起波長を488nmからUV吸収スペクトルにおけるλmax(λmaxが2つあるときは長波長側)に変えたところ、量子収率ΦF=0.307、二本鎖と一本鎖の蛍光強度比Ids/Iss=3.4という測定結果が得られた。
【表2】

測定条件:プローブ2.5μM、リン酸バッファー50mM(pH7.0)、NaCl 100mM、相補鎖 2.5μM
蛍光の極大波長は488nm(1.5nm幅)の光で励起した場合の値である。
量子収率は9,10-ジフェニルアントラセンを参照物質として計算した。
【0134】
[実施例10]
色素として、前記化合物107に代えて下記化学式115で表される化合物を用いる以外は実施例9と同様にして、1分子中に色素構造1個のみを含む化合物(DNAオリゴマー)を合成した。合成は、リンカー長nを1〜4まで種々変化させて行った。配列は、前記化合物105と同じく5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'(Xは色素導入部分)とした。
【化62】

下記化合物116は、n=2の場合である。化合物116について実施例7〜9と同様に蛍光強度を評価したところ、DNA-RNA二本鎖の場合に、一本鎖と比較して蛍光強度の増加が見られた。
【化63】

【0135】
[蛍光寿命測定]
実施例8(色素2個)および実施例9(色素1個)のDNAオリゴマー(オリゴヌクレオチド)について、一本鎖の場合と二本鎖DNAの場合とで、それぞれ蛍光寿命を測定した。測定対照のDNAオリゴマーは、下記配列中Xの箇所に色素導入ヌクレオチドが入っている。

5'-d(CGCAATXTAACGC)-3' (配列番号1)
5'-d(GCGTTAAATTGCG)-3' (配列番号2)
【0136】
下記表3に、前記蛍光寿命測定の結果を示す。表中、Tは蛍光寿命(ns)である。CHISQは、測定誤差である。T1は、励起終了直後からの経過時間を示す。T2は、実施例8の色素2個プローブでは、時間T1が経過後、さらに経過した時間を示し、実施例9の色素1個プローブでは、励起終了直後からの経過時間を示す。T3は、時間T2が経過後、さらに経過した時間を示す。表中、「%」で表した数値は、時間T1、T2またはT3がそれぞれ経過する間における蛍光減衰率(励起終了直後の蛍光強度を100%とする)であり、それぞれのプローブ(DNAオリゴマー)について、合計は100%となる。表3に示すとおり、色素2個を含むプローブ(実施例8)一本鎖状態できわめて短い消光過程(励起後0.0210nsで蛍光減衰率81.54%)があり、エキシトン効果の存在を示している。他のケースでは、見られない。この、2個の色素で標識したODNの一本鎖状態における蛍光消光は、蛍光強度の、ハイブリダイゼーション特異的かつシャープな変化において、鍵となる役割をする。また、表3から分かる通り、蛍光消光特性は、二次または三次関数特性に一致した。なお、下記表3の色素2個二本鎖について再度同条件で測定(ただし、T1測定は省略)したところ、T2=2.05における蛍光減衰率44%、T3=4.38における蛍光減衰率56%、T=3.33(ns)、CHISQ=1.09であり、下記表3ときわめて近い値が得られた。すなわち、本実施例のプローブは、この蛍光寿命測定における再現性が優れていることが分かる。
【表3】

ストランド2.5μM
リン酸バッファー50mM(pH7.0)
NaCl 100mM
455nm(prompt)600nm(decay)で測定した。
【0137】
[実施例11]
色素として、前記化合物107に代えて下記化学式115’で表される化合物を用いる以外は実施例8と同様にして、下記化学式117で表されるDNAオリゴマーを合成した。n=3、4、5、6の化合物を、それぞれ同様にして合成することができた。さらに、実施例8と同様にして蛍光プローブとして使用し、蛍光測定により性能を評価した。下記表4に、その結果を示す。表4に示すとおり、化合物117は、実施例8のDNAオリゴマー(化合物113)とは吸収帯が異なるが、同様に良好なエキシトン効果を示した。このことは、本発明において、吸収帯が異なる蛍光プローブを用いてマルチカラーでの検出が可能であることを示す。
【化64】

【化65】

【表4】

【0138】
[実施例12]
下記配列で表されるDNAオリゴマー(化合物118)を合成した。Xは、実施例9と同様の色素構造を有するヌクレオチド(下記式:化学式118とする)である。下記配列が示すとおり、このDNAオリゴマーは、色素導入ヌクレオチドが2つ連続して配列されている。色素の導入およびDNAオリゴマーの合成は、前記各実施例と同様の手法により行った。

5'-d(TTTTTTXXTTTTT)-3' (配列番号3)
【化66】

【0139】
さらに、このDNAオリゴマーを前記各実施例と同様に蛍光プローブとして使用し、蛍光測定により性能を評価した。
プローブ2.5μM(ストランド濃度)
リン酸バッファー50mM(pH7.0)
NaCl 100mM
相補鎖2.5μM(ストランド濃度)
【0140】
図16および17に、その結果を示す。図16は吸収スペクトルを示す図(点線が一本鎖、実線がDNA-DNA鎖、鎖線がDNA-RNA鎖のスペクトルである。)であり、図17は、励起スペクトルと蛍光発光スペクトルを併せて示す図である。図17中、左側(短波長側)の曲線が励起スペクトルを示し、右側(長波長側)の曲線が蛍光発光スペクトルを示す。発光強度は、励起スペクトルおよび蛍光発光スペクトルともに、一本鎖が最も弱く、DNA-RNA鎖はそれよりも強く、DNA-DNA鎖が最も強い。図示のとおり、このように色素導入ヌクレオチドを2つ連続して配列させた場合でも、色素間距離を近づけることができるのでエキシトン効果を示し、標的核酸とのハイブリダイゼーション前後の状態を、蛍光強度によって明確に区別できる。
【0141】
[実施例13]
前記化学式113または114で表される化合物(DNAオリゴマー)すなわち下記表5に示す各ODNを、リンカー長nおよび核酸配列を種々変化させて合成した。なお、「ODN」とは、前述の通り、オリゴDNA(DNAオリゴマー)を意味する。合成は、原料の5-ブロモ吉草酸(5-ブロモペンタン酸)を、リンカー長に合わせて炭素数(鎖長)を変えた化合物とすることと、オリゴDNA合成において配列を適宜変更すること以外は、前記実施例1〜4、6、8、9または12と同様に行った。なお、ODN1は、実施例8で合成したオリゴDNA(DNAオリゴマー)と同じであり、ODN4およびODN5は、実施例9で合成したオリゴDNA(DNAオリゴマー)と同じである。合成において、チアゾールオレンジのN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(化合物109)は、活性アミノ基の50当量またはそれ以上用いた。合成後、逆相HPLCにおける展開時間は、必要に応じ、20〜30分間またはそれ以上とした。なお、以下において、例えば、[113](n)または[114](n)は、その位置に、化学式113または114で表されるヌクレオチドが挿入されていることを示す。nはリンカー長である。また、下記表5において、ODN1'は、ODN1に相補的なDNA鎖を示す。同様に、ODN2'はODN2に相補的なDNA鎖を示し、ODN3'は、ODN3に相補的なDNA鎖を示す。
【表5】

【0142】
合成した各ODNは、前記実施例4と同様、酵素消化により濃度を決定した。さらに、合成した各ODNは、MALDI TOFマススペクトルによって同定した。以下に、その質量分析値を示す。
【0143】
ODN1(n=3), CGCAAT[113](3)TAACGC, calcd for C178H213N56O78P12S2 ([M.H]+) 4820.7, found 4818.9; ODN1(n=4), CGCAAT[113](4)TAACGC, calcd for C180H217N56O78P12S2 ([M.H]+) 4848.8, found 4751.4;
ODN1(n=5), CGCAAT[113](5)TAACGC, calcd for C182H221N56O78P12S2 ([M.H]+) 4876.8, found 4875.6;
ODN1(n=6), CGCAAT[113](6)TAACGC, calcd for C184H225N56O78P12S2 (([M.H]+) 4904.9, found 4903.6;
ODN2, TTTTTT[113](4)TTTTTT, calcd for C184H227N34O92P12S2 ([M.H]+) 4822.8, found 4821.4;
ODN3, TGAAGGGCTT[113](4)TGAACTCTG, calcd for C251H305N81O124P19S2 ([M.H]+) 7093.2, found 7092.3;
ODN(anti4.5S), GCCTCCT[113](4)CAGCAAATCC[113](4)ACCGGCGTG, calcd for C377H456N116O173P27S4 ([M.3H]+) 10344.9, found 10342.7;
ODN(antiB1),CCTCCCAAG[113](4)GCTGGGAT[113](4)AAAGGCGTG, calcd for C381H456N124O172P27S4 ([M.3H]+) 10489.0, found 10489.8.
【0144】
前記表5のODNのうち、配列とリンカー長を種々変化させた[113](n)含有ODN(ODN1、ODN2、ODN3)について、相補鎖とのハイブリダイゼーション前後で、それぞれ吸光スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。結果を、下記表6、図18および図19にまとめて示す。
【表6】

測定条件:2.5μM DNA, 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0), 100mM塩化ナトリウム
b488nmで励起
cλmaxで励起(λmaxが2つあるときは、長波長側のλmaxで励起)
d二本鎖状態と一本鎖状態とのλemにおける蛍光強度比
【0145】
なお、表6中、ODN1(n=3〜6)は、前記実施例8のオリゴDNA(5'-d(CGCAATXTAACGC)-3'、Xは、色素113導入部分)と同じ構造である。ただし、実施例8では、蛍光量子収率ΦFおよび二重鎖(二本鎖)状態と単鎖(一本鎖)状態との蛍光強度比(Ids/Iss)は、波長488nmで励起して測定したが、本実施例(実施例13)では、上記の通り、UV吸収スペクトルにおけるλmaxで励起して測定した。このため、前記表1(実施例8)と、前記表6(実施例13)では、同じ物質でもΦFおよびIds/Issが異なっている。
【0146】
図18は、[113](4)含有ODNの吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。同図(a)、(b)および(c)において、それぞれ、左側のグラフは吸収スペクトルを示し、横軸は波長であり、縦軸は吸光度である。右側のグラフは、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示し、横軸は波長であり、縦軸は発光強度である。各測定は、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中の[113](4)含有ODNを試料とし、25℃で行った。図18中の各グラフにおいて、黒線は、一本鎖ODN(ss)の測定結果を示し、灰色線は、対応する相補鎖DNAとハイブリダイズしたODN(ds)の測定結果を示す。
図18(a)は、ODN1(n=4)(2.5μM)の測定結果を示す。励起スペクトルは、ssにおいては波長534nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長528nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長519nmで励起し、dsにおいては波長514nmで励起して測定した。
図18(b)は、ODN2の測定結果を示す。ストランド濃度は、左側のグラフにおいては2.5μMであり、右側のグラフにおいては1μMである。励起スペクトルは、ssにおいては波長534nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長537nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長517nmで励起し、dsにおいては波長519nmで励起して測定した。
図18(c)は、ODN3の測定結果を示す。ストランド濃度は2.5μMである。励起スペクトルは、ssにおいては波長535nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長530nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長518nmで励起し、dsにおいては波長516nmで励起して測定した。
【0147】
図19は、ODN1(n=3、5および6)の吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。同図(a)、(b)および(c)において、それぞれ、左側のグラフは吸収スペクトルを示し、横軸は波長であり、縦軸は吸光度である。右側のグラフは、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示し、横軸は波長であり、縦軸は発光強度である。各測定は、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中のODN1(n=3、5または6)を試料とし、25℃で行った。図19中の各グラフにおいて、黒線は、一本鎖ODN(ss)の測定結果を示し、灰色線は、対応する相補鎖DNAとハイブリダイズしたODN(ds)の測定結果を示す。
図19(a)は、ODN1(n=3)(2.5μM)の測定結果を示す。励起スペクトルは、ssにおいては波長537nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長529nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長521nmで励起し、dsにおいては波長511nmで励起して測定した。
図19(b)は、ODN1(n=5)(2.5μM)の測定結果を示す。励起スペクトルは、ssにおいては波長538nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長529nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長520nmで励起し、dsにおいては波長512nmで励起して測定した。
図19(c)は、ODN1(n=6)の測定結果を示す。ストランド濃度は2.5μMである。励起スペクトルは、ssにおいては波長536nmの発光強度を測定し、dsにおいては波長528nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssにおいては波長523nmで励起し、dsにおいては波長514nmで励起して測定した。
【0148】
表6、図18および図19に示したとおり、それぞれの[113](n)含有ODN試料に対し、400〜550nmの範囲に2つの吸収帯が観測された。短波長側(〜480nm)の吸収帯は、1(n)含有ODN試料が単鎖状態のとき、より強く、長波長側(〜510nm)の吸収帯は、1(n)含有ODN試料が相補鎖とハイブリダイズしたときに顕著に(優勢に)現れた。長波長側(〜510nm)の吸収帯は、チアゾールオレンジ単体の典型的な吸収帯である。発光スペクトルにおいては、〜530nmに、単一のブロードな吸収帯が観測された。[113](n)含有ODN試料と相補鎖とのハイブリダイゼーションにより、発光強度が明確に変化した。すなわち、標的DNA鎖にハイブリダイズした[113](n)含有ODN試料は強い蛍光を示し、ハイブリダイズ前の[113](n)含有ODN試料は、ハイブリダイズ後よりもきわめて弱い蛍光しか示さなかった。特に、ポリピリミジン配列からなるODN2の蛍光は、単鎖(一本鎖)状態ではほとんど完全に消光された。極大発光波長におけるODN2の二重鎖(二本鎖)状態と単鎖(一本鎖)状態との蛍光強度比(Ids/Iss)は、160に達した。20-merのODN鎖であるODN3’と、一般的配列のODN3とをハイブリダイゼーションさせた場合も、また、ハイブリダイゼーションの前後で発光強度が明確に相違した。さらに、表6、図18(a)および図19から分かる通り、本実施例のODN1においてリンカー長nを3から6まで変化させた場合、いずれのリンカー長でも、大きいIds/Iss値が得られた。このように、表6に示したODNは、プローブの配列およびリンカー長により消光性能に差はあるものの、いずれも良好な消光性能を示した。
【0149】
また、前記表6に示したとおり、ODN1(n=4)/ODN1'の融点(Tm)は、天然二本鎖5'-CGCAATTTAACGC-3'/ODN1'と比較して7〜9℃上昇した。このTm値の上昇は、プローブにおける2個のカチオン性色素が、標的配列とともに形成された二本鎖に効果的に結合したことを示唆する。さらに、図18および19から分かる通り、励起スペクトルは、化合物の構造に関わらず、510nm付近に、単一のブロードなピークを示した。この波長は、吸収帯の一つの波長と良い一致を示した。すなわち、蛍光発光に関与する吸収は510nm付近の吸収帯のみであり、480nm付近の吸収帯は発光にほとんど影響していないと考えられる。また、色素会合による510nmから付近480nm付近への吸収帯シフトから、エキシトンカップリングエネルギーは1230cm-1と見積もられた。これは、シアニン色素のH会合体について報告されているカップリングエネルギーと同等である。ただし、これらの理論的考察は、本発明を限定するものではない。
【0150】
[吸収スペクトル]
前記ODN1(n=4)の吸収スペクトルを、種々の温度および濃度で測定し、温度および濃度が吸収帯に及ぼす影響を確認した。図20の吸収スペクトル図に、その結果を示す。同図(a)および(b)において、横軸は波長であり、縦軸は吸光度である。各測定は、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中のODN1(n=4)を試料として行った。
図20(a)は、溶液温度を変化させた際の吸収スペクトル変化を示す。ODN濃度は2.5μMである。スペクトルは、10℃から90℃まで10℃間隔で測定した。
図20(b)は、溶液濃度を変化させた際の吸収スペクトル変化を示す。測定温度は25℃である。ODN濃度は、0.5, 0.75, 1.0, 1.2, 1.5, 2.0, 2.5, 3.0, 4.0,および5.0μMである。
また、挿入図は、波長479nmにおける吸光度の対数(縦軸)と、波長509nmにおける吸光度の対数(横軸)との関係を示すグラフである。
【0151】
図20(a)に示すとおり、試料温度を変化させて測定したところ、2つの吸収帯の吸光度比が若干変化した。すなわち、試料温度の上昇に伴い、479nmの吸収帯は次第に減少し、509nmの吸収帯は増大した。しかしながら、その変化は、同図から分かる通り、極めてわずかであった。このことは、本発明のプローブであるODN1(n=4)において、温度変化に伴う構造の変化は極めてわずかであり、温度にほとんど影響されずに用いることができることを示している。なお、同図に示すとおり、487nmにおいて、2つのスペクトル構成要素の存在を示す等吸収点が観測された。
【0152】
一方、図20(b)に示すとおり、ODN1(n=4)の試料濃度を増加させると、両方の吸収帯において吸光度の増加が観測された。また、挿入図に示すとおり、log(Abs479)対log(Abs509)のプロット、すなわち、各吸収帯における吸光度の対数の比は、直線を示した。このことは、ODN濃度に関わらず、2つのスペクトル構成要素の比がほとんど一定であったことを示す。すなわち、本発明のプローブであるODN1(n=4)は、溶液中の濃度を変えても構造がほとんど変化しないため、濃度に影響されずに用いることが可能である。
【0153】
なお、図20(a)および(b)のスペクトル変化の要因は、例えば以下のように説明できるが、これらの説明は理論的考察の一例であり、本発明を限定しない。すなわち、まず、ODN1(n=4)は、二色性システムにより、分子内H会合体を形成する。図20(a)におけるスペクトル変化は、温度上昇によりH会合体の構造が若干緩んでいるためと推測される。また、前記分子内H会合体は、分子内で完結しているため、濃度が上昇しても分子間相互作用等による構造の変化がほとんどなく、図20(b)および挿入図に示すように2つのスペクトル構成要素の比がほとんど一定になると考えられる。なお、ODN1(n=4)の試料溶液中には、分子内H会合体と色素モノマー(色素部分が会合していない)の2つのコンフォメーションモードが存在すると考えられる。短波長側(479nm)の吸収帯は、分子内H会合体由来と推測される。長波長側の吸収帯(509nm)は、加熱により増大したことから、色素モノマー由来と推測される。
【0154】
[CDスペクトル]
ODN1(n=4)/ODN1'のCDスペクトルを測定した。ストランド濃度は2.5μMとし、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中、25℃で測定した。図21のCDスペクトル図に、その測定結果を示す。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は角度θである。図示の通り、ODN1(n=4)/ODN1'二本鎖は、450〜550nmにおいて、分裂型のコットン効果(split-Cotton effect)を示した。すなわち、測定されたCD対は、チアゾールオレンジ色素がDNA二本鎖にインターカレーションする際の典型的なパターンを示した。すなわち、ODN1(n=4)の色素部分が、形成された二本鎖DNAにインターカレーションし、二色性会合体(H会合体)の形成が強力に妨げられたと考えられる。このCD測定の結果は、前記Tm測定結果とあわせ、ODN1(n=4)における色素部分が二本鎖DNAに結合する際に、2つの色素部分がともに主溝にインターカレーションし、熱的に安定な二本鎖構造を形成することを示唆する。ただし、この理論的考察は、本発明を限定するものではない。形成される二本鎖構造が熱的に安定であることは、本発明のプローブ(核酸)が、相補的配列の検出に効果的に使用可能であることを示す。
【0155】
[実施例14]
前記ODN5(CGCAAT[114](4)[114](4)AACGC)について、二本鎖状態と一本鎖状態の吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを測定した。下記表7および図22に、その結果を示す。
【表7】

測定条件:2.5μM DNA, 50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0), 100mM塩化ナトリウム
b488nmで励起
cλmaxで励起(λmaxが2つあるときは、長波長側のλmaxで励起)
d二本鎖状態と一本鎖状態とのλemにおける蛍光強度比
【0156】
図22は、ODN5すなわち[114](4)含有ODNの吸収スペクトル、励起スペクトルおよび発光スペクトルを示すグラフである。ODN5のストランド濃度は2.5μMであり、100mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)中、25℃で測定した。黒線は一本鎖ODN5(ss)の測定結果を示し、灰色線はODN1'とハイブリダイゼーションした二本鎖のODN5(ds)の測定結果を示す。(a)は吸収スペクトルであり、横軸は波長であり、縦軸は吸光度である。(b)は励起スペクトル(短波長側の曲線)および発光スペクトル(長波長側の曲線)であり、横軸は波長であり、縦軸は発光強度である。励起スペクトルは、ssについては波長534nmの発光強度を測定し、dsについては波長514nmの発光強度を測定した。発光スペクトルは、ssについては波長528nmで励起し、dsについては波長519nmで励起した。
【0157】
前記表7および図22に示すとおり、2つの[114](4)ヌクレオチドが連続した配列のODN5は、[114](4)ヌクレオチドを一つのみ含む一本鎖ODN4の発光抑制(前記実施例9の表2)と比較して、さらに効果的な蛍光消光を示した。ODN5の吸収スペクトルは、一本鎖状態では、吸収帯が短波長側にシフトした。このことは、ODN5に含まれる2個の[114](4)ヌクレオチドが分子内H会合体を形成したことを示唆する。この会合は、[113](n)含有ODNで観測されたと同様、一本鎖ODN5の消光につながった。すなわち、ODN5内における2個の[114](4)ヌクレオチドの色素部分がH会合することで、前記色素間にエキシトンカップリングが起きたことが、蛍光発光抑制(消光)の原因であると考えられる。これにより、2個の[114](4)ヌクレオチドを含むODN5が、[113](n)含有ODNと同様、相補鎖検出に有用であることが確認された。
【0158】
[実施例15]
ODN1(n=4)を相補的なODN1'とハイブリダイゼーションさせたときの蛍光を、肉眼で測定した。図23に、その測定結果を示す。同図左のセルは、ODN1(n=4)一本鎖を含むセルであり、同図右のセルは、ODN1(n=4)/ODN1'二本鎖を含むセルであり、それぞれ、150Wハロゲンランプ照射後の状態を示す。各セル中のストランド濃度はそれぞれ2.5μMであり、リン酸バッファー(リン酸ナトリウム緩衝液)50mM(pH7.0)およびNaCl 100mMを含む。図示の通り、150Wハロゲンランプ照射後は、ODN1(n=4)一本鎖を含む図左のセルはほとんど蛍光発光しなかったが、ODN1(n=4)/ODN1'二本鎖を含む図右のセルは、きわめて明確に淡緑色の蛍光を示した。また、相補的DNA鎖ODN1'を対応する相補的RNA鎖に代えても同様の結果が得られた。さらに、ODN2とODN2’においても同様の結果が得られた。さらに、ODN2とODN2’の場合において、ODN2’を対応する相補的RNA(A13量体)に変えても同様の結果が得られた。なお、これらの場合のストランド濃度は5μMであった。また、その他、前記表6の全てのODNについて同様の結果が得られた。このように、本実施例のODNによれば、ハイブリダイゼーションに依存して蛍光強度が明確に変化するため、ハイブリダイゼーション可能な標的配列の裸眼による判定が容易であった。このことは、これらODNが、可視的な遺伝子分析に有用であることを示す。
【0159】
[実施例16]
色素として、前記化合物107に代えて下記化学式119で表される化合物を用いる以外は実施例8と同様にして、下記化学式120で表されるDNAオリゴマーを合成した。
【化67】

【化68】

【0160】
上記式120において、n=3、4、5および6の化合物(オリゴDNA)をそれぞれ同様の方法で合成することができた。さらに、配列5'-d(CGCAAT[120](5)TAACGC)-3'で表されるODN(ODN6(n=5)とする)を蛍光プローブとして用い、吸収スペクトルおよび蛍光発光スペクトルを測定して性能を評価した。測定条件は、実施例7と同様とした。図24に、その測定結果を示す。図24(a)は、吸収スペクトルであり、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。図24(b)は、蛍光発光スペクトルであり、横軸は波長(nm)であり、縦軸は発光強度である。それぞれ、黒線は一本鎖ODNのスペクトルを示し、灰色の線は、相補的ODNのハイブリダイズした二本鎖ODNのスペクトルを示す。図24(a)に示すとおり、二本鎖ODNでは、二重らせん形成することにより600nm付近のUV吸収の極大波長が長波長側に移動した。また、図24(b)に示すとおり、二本鎖ODNでは、一本鎖と比較して蛍光強度が大幅に増大した。これらのことから、一本鎖状態では、エキシトン効果が現れていると考えられる。すなわち、本実施例のODN(化合物120)は、実施例8のODN(化合物113)および実施例11のODN(化合物117)とは吸収帯が異なるが、同様に良好なエキシトン効果を示した。このことは、本発明において、吸収帯が異なる蛍光プローブを用いてマルチカラーでの検出が可能であることを示す。
【0161】
[実施例17:RNAとの二本鎖形成]
キュベット中で、前記ODN2(配列5'-d(TTTTTT[113](4)TTTTTT)-3')と、それに対応する相補的RNA鎖(RNA A13mer)との二本鎖ODNを形成させ、蛍光発光スペクトルを測定した。さらに、そこにRNase Hを添加し、スペクトルの変化を観察した。図25に、その結果を示す。同図において、横軸は時間であり、縦軸は蛍光強度である。図中、黒線は、途中でRNase Hを添加した前記二本鎖ODNのスペクトル変化を示し、灰色の線は、対照、すなわちRNase Hを添加しなかった前記二本鎖ODNのスペクトル変化を示す。測定は、37℃で攪拌しながら、前記蛍光分光器を用いて行った。図示の通り、RNase Hを添加すると、前記ODN2とハイブリダイゼーションしているRNAが消化され、前記ODN2が一本鎖に戻ることにより、蛍光強度が次第に減少した。このことからも、本発明のプローブ(核酸)が、蛍光による相補的RNA検出に有用であることが確認された。
【0162】
[実施例18]
前記ODN1(n=4)(配列5'-d(CGCAAT[113](4)TAACGC)-3')に対し、相補的DNA鎖であるODN1'(配列5'-d(GCGTTAAATTGCG)-3')の濃度比を変化させて蛍光発光強度の変化を観測した。測定条件としては、ODN1(n=4)のストランド濃度を1.0μMで固定し、リン酸バッファー 50mM(pH7.0)、NaCl 100mM、励起波長488nm(1.5nm幅)とした。相補鎖ODN1'の濃度は、0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.5、2.0または3.0μMの各濃度でそれぞれ測定した。図26に、その測定結果を示す。同図において、横軸は、ODN1(n=4)に対するODN1'の当量数を示す。縦軸は、蛍光のλmax(529nm)における蛍光発光強度(相対値)を示す。図示の通り、蛍光発光強度は、ODN1'の当量数が1以下では、前記当量数に対し、きわめて高い精度で正比例関係を示したが、前記当量数が1を超えると変化しなかった。このことは、ODN1(n=4)が、ODN1'と正確に1:1の物質量比(分子数比)でハイブリダイゼーションしたことを示す。
【0163】
上記の通り、ODN1'(標的DNA)の物質量がODN1(n=4)(プローブ)と同量以下のときは、標的DNAの濃度に比例して蛍光強度が増大する。すなわち、ODN1'(標的DNA)が存在する系中に、過剰量のODN1(n=4)(プローブ)を添加すれば、蛍光強度測定により前記標的DNAを定量することが可能である。また、前記蛍光強度の増減を追跡することにより、前記標的DNAの増減を測定することも可能である。
【0164】
系中における前記標的DNAを定量するためには、例えば図26のように、あらかじめ検量線を作成しておけばよい。例えば、ODN1'(標的DNA)濃度未知の試料を本実施例と同条件で測定したときの蛍光強度が80であれば、図26から、前記ODN1'(標的DNA)濃度は約0.55μMであることが分かる。
【0165】
実際に、上記の方法で核酸中のODN1'(標的DNA)配列を定量することにより、当該配列の増幅・分解・タンパク結合等の現象が生じたことを即座に検出するとともに、それらの現象量を定量することができた。
【0166】
[実施例19:ドットブロッティング解析]
今回合成した新規なプローブ(核酸)の、ハイブリダイゼーションによる蛍光特性変化を見るために、前記ODN(antiB1)およびODN(anti4.5S)を用いてドットブロッティングによるDNA解析を行った。標的DNA配列は、B1 RNA配列を含む短鎖DNAフラグメントを用いた。この配列は、げっ歯類ゲノムにおける短分散型核内反復配列の一つである。また、前記短鎖DNAフラグメントは、4.5S RNA配列を含む。この配列は、げっ歯類細胞から単離した低分子核内RNAの一つであり、B1ファミリーと広範な相同性を有する。本実施例では、ブロッティングプローブとしてODN(antiB1)およびODN(anti4.5S)を調製し、これらに2個の[113](4)ヌクレオチドを組み込むことにより、高感度および高蛍光強度を持たせた。なお、ODN(antiB1)およびODN(anti4.5S)の構造は、前記実施例13の表5に記載の通りである。
【0167】
本実施例のドットブロッティング解析は、より具体的には、以下のように行った。すなわち、まず、下記(1)および(2)の2つのDNAフラグメントを前記DNA自動合成機により調製した。

(1)下記の4.5S RNA配列およびその相補的DNAを含むDNA二本鎖。
5'-d(GCCGGTAGTGGTGGCGCACGCCGGTAGGATTTGCTGAAGGAGGCAGAGGCAGGAGGATCACGAGTTCGAGGCCAGCCTGGGCTACACATTTTTTT)-3' (配列番号11)
(2)下記のB1 RNA配列およびその相補的DNAを含むDNA二本鎖。
5'-d(GCCGGGCATGGTGGCGCACGCCTTTAATCCCAGCACTTGGGAGGCAGAGGCAGGCGGATTTCTGAGTTCGAGGCCAGCCTGGTCTACAGAGTGAG)-3' (配列番号12)
【0168】
前記DNA二本鎖は、0.5M水酸化ナトリウムおよび1M塩化ナトリウム含有水溶液で変性させた。この変性DNAの一定分量を、正電荷ナイロン膜(Roche社)上にドット(スポット)した。この正電荷ナイロン膜シートを、0.5Mリン酸ナトリウムおよび1M塩化ナトリウム含有水溶液で湿らせた後、0.5Mリン酸ナトリウム、1M塩化ナトリウムおよび100μg/mLサケ精子DNA含有水溶液中、50℃で30分間インキュベートした。その後、前記正電荷ナイロン膜シートを、0.5Mリン酸ナトリウムおよび1M塩化ナトリウムを含むプローブ水溶液(プローブは、150pmolのODN(anti4.5S)またはODN(antiB1))中において、50℃で1時間インキュベートした。これを室温に冷却後、ハイブリダイゼーション緩衝液を除去し、新たなリン酸緩衝液を加え、前記正電荷ナイロン膜シートが発する蛍光を、BioRad社のVersaDoc imaging system(商品名)により観測した。励起光としては、和研薬株式会社のUVトランスイルミネータModel-2270(商品名)から発せられた光をUV/青色光コンバータプレート(UVP)に通して変換した光を用いた。
【0169】
図27に、測定結果を示す。
図27(a)は、ナイロン膜上に異なる配列のDNAブロットした状態を示す模式図である。
上段の4つのスポットは、4.5S RNA配列含有DNAを示し、下段の4つのスポットは、B1 RNA含有DNAを示す。
図27(b)は、ODN(anti4.5S)含有溶液にインキュベートした後の蛍光発光を示す図である。
図27(c)は、ODN(antiB1)含有溶液にインキュベートした後の蛍光発光を示す図である。
【0170】
図27に示すとおり、ブロットスポットの蛍光は、ブロッティングアッセイ後、繰り返し洗浄することなく、室温において、蛍光イメージング装置で読むことが可能であった。前記プローブによるインキュベーションの結果、ODN(anti4.5S)添加によれば、4.5S配列のスポットに由来する強い蛍光発光が得られたが、B1配列のスポットに由来する蛍光発光は、無視しうる程度であった。対照的に、ODN(antiB1)添加によれば、B1スポットが強い蛍光を示し、4.5Sスポットからはきわめて弱い蛍光しか観測されなかった。このように、本発明のプローブによれば、ブロッティング後に、多段階の煩雑な洗浄工程、および抗体または酵素処理工程を必要としない点で、従来のブロッティングアッセイとは明確に異なるアッセイを実現できる。また、モレキュラービーコン等のon-offプローブと異なり、本発明のプローブでは、蛍光性色素標識部分を複数導入することも容易であり、これによりさらに蛍光強度を増進させることができる。これは本発明の大きな利点である。前記蛍光性色素標識部分は、例えば、本実施例のように、[113](4)ヌクレオチドに含まれているものでもよい。
【0171】
[実施例20]
実施例8におけるリンカー長n=4の色素を含むポリTプローブ(前記ODN2)を、微小ガラス管を用いたマイクロインジェクション法により細胞に導入し、水銀ランプと冷却CCDカメラおよび蛍光フィルターセット(YFP用)を備えた倒立型顕微鏡により蛍光発光を測定した。図28〜30に、その結果を示す。図28は、微分干渉測定のときの写真であり、図29は、蛍光観察時の写真であり、図30は、図28と図29との重ね合わせである。図示の通り、本発明の蛍光プローブ(標識物質)は、細胞内に発現したmRNAのポリA末端配列に結合し発光した。すなわち、本発明の蛍光プローブ(標識物質)は、試験管内遺伝子検出だけでなく、生体内遺伝子検出にも効果的である。
【0172】
[実施例21]
前記ODN2(配列5'-d(TTTTTT[113](4)TTTTTT)-3')に、さらに、一般的な蛍光色素であるCy5を定法により結合させ、さらにそれを前記の方法で細胞に導入した。ここでCy5は前記ODN2を合成する過程において、DNA自動合成機により前記ODN2の5'末端に追加することで結合させた(配列5'-Cy5-d(TTTTTT[113](4)TTTTTT)-3')。蛍光発光はレーザー走査型共焦点顕微鏡により測定した。図31に、その結果を示す。図31Aは、633nmにより励起し650nm以上の蛍光を取得しており、Cy5由来の蛍光を示す。図31Bは、488nmにより励起し505‐550nmの蛍光を取得しており、2つのチアゾールオレンジ部分に由来する蛍光を示す。図示の通り、ODN2は、細胞内に発現したmRNAのポリA末端配列に結合し発光した。これにより、細胞内mRNAの分布を追跡可能であった。本発明の化合物または核酸は、このように、複数種類の色素(蛍光性を示す原子団)を導入してもよい。このようにすれば、例えば、各色素の蛍光のλmaxが異なることにより、マルチカラーによる検出も可能である。
【0173】
[実施例22]
前記ODN2(配列5'-d(TTTTTT[113](4)TTTTTT)-3')を前記の方法で細胞核に注入し、直後(0秒後)から約4分半後まで、蛍光発光を前記レーザー走査型共焦点顕微鏡により追跡した(励起488nm、蛍光取得505-550nm)。図32に、その結果を示す。同図は、11の図に分かれており、左から右へ、および上段から下段へと向かって、ODN2注入後の経過を示す。各図における経過時間(ODN2注入後)は、下記表8の通りである。図示の通り、プローブODN2は、注入直後は細胞核に集中していたが、ハイブリダイズしたmRNA(ポリA)とともに、次第に細胞全体に分散したことが確認された。本発明によれば、このようにしてmRNAを追跡することも可能である。
【表8】

【0174】
[実施例23]
前記ODN2において、[113](4)の両側のTをそれぞれ24個に増やしたODNを合成した。これをODN7とする。合成は、ODN2の合成方法と同様にして行った。また、ODN7の配列は、5'-d(TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT[113](4)TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT)-3')である(配列番号13)。これを、実施例22と同様の方法で細胞核に注入し、蛍光強度を測定した。図33に、一定時間経過後の蛍光写真を示す。ODN7は、注入直後は細胞核に集中していたが、実施例22と同様、ハイブリダイズしたmRNA(ポリA)とともに、次第に細胞全体に分散し、やがて、図33のように、細胞核周辺に分散した状態となった。
【0175】
[実施例24:マルチカラーによる検出]
実施例11、16等で述べた通り、本発明の蛍光プローブは、吸収波長、発光波長等を変化させることで、マルチカラーによる相補鎖検出が可能である。このマルチカラーによる検出は、例えば、前記化合物113、117および120のように、色素(蛍光性を示す原子団)部分の構造を変化させることにより達成可能である。本実施例では、さらに多種類の蛍光プローブを合成(製造)し、マルチカラーによる相補鎖検出を行った。
【0176】
まず、下記式(121)で表されるヌクレオチド構造を含むDNA鎖(プローブ)を、色素(蛍光性を示す原子団)部分の構造を種々変化させて合成した。下記式(121)において、「Dye」とは、色素部分を示す。
【化69】

【0177】
具体的には、前記式(121)において「Dye」の部分がそれぞれ下記式で表される化合物(DNA鎖)113、120、122、123および124を合成した。nは、それぞれリンカー長(炭素原子数)である。化合物113、120、122、123および124について、n=3、4、5および6である化合物をそれぞれ合成した。合成方法は、前記色素107に代えてそれぞれに対応する構造の色素を用いる以外は前記実施例1〜4、6、8、9、12、13または16と同様に行った。前記色素107に代わる色素の合成も、原料の構造を適宜変える以外は前記色素107の合成(前期実施例6のスキーム5)と同様に行った。また、化合物113および120は、前記各実施例の化合物113および120とそれぞれ同じ構造である。
【化70】

【化71】

【化72】

【化73】

【化74】

【0178】
上記化合物113、120、122、123および124について、それぞれ、配列5'-d(CGCAATX(n)TAACGC)-3'で表されるODNを合成した。Xは、113、120、122、123または124である。nはリンカー長である。配列5'-d(CGCAAT[113](n)TAACGC)-3'で表されるODNは、前記ODN1と同じである。配列5'-d(CGCAAT[120](n)TAACGC)-3'で表されるODNは、前記ODN6と同じである。配列5'-d(CGCAAT[122](n)TAACGC)-3'で表されるODNを、ODN8とする。配列5'-d(CGCAAT[123](n)TAACGC)-3'で表されるODNを、ODN9とする。配列5'-d(CGCAAT[124](n)TAACGC)-3'で表されるODNを、ODN10とする。ODN1、ODN6、ODN8、ODN9およびODN10について、n=3、4、5および6であるODNをそれぞれ合成した。
【0179】
ODN1(n=4)、ODN6(n=4)、ODN8(n=4)、ODN9(n=4)およびODN10(n=4)について、それぞれ、相補鎖であるODN1’と二本鎖を形成させた後に、蛍光発光スペクトルを測定した。励起波長以外の測定条件は、前記各実施例と同様である。その結果を、下記表9に示す。下記表9中、Exは励起波長を示し、Emは、蛍光発光の極大波長を示す。なお、励起波長Exは、吸収の極大波長λmaxとほぼ等しくした。
【表9】

【0180】
表9から分かる通り、各ODNは、二本鎖を形成した際に、456nmから654nmまでの幅広い波長範囲で、それぞれ異なる蛍光発光の極大波長Emを示した。すなわち、本実施例(実施例24)で合成したODNを用いて、マルチカラーによる相補鎖DNAの検出が可能であった。さらに、本実施例の化合物(DNA鎖)113、120、122、123および124、ODN1、ODN6、ODN8、ODN9およびODN10について、前記各実施例と同様に使用し、相補鎖RNAの検出、ドットブロッティング解析、細胞内mRNAの検出等の全てをマルチカラーで行うことが可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0181】
以上の通り、本発明によれば、例えば、核酸の二重らせん構造を効果的に検出可能な標識物質を提供することができる。さらに、本発明によれば、前記標識物質を用いた核酸検出方法およびキットを提供することができる。本発明の化合物または核酸は、前記本発明の本発明の化合物および核酸は、前記式(1)、(1b)、(1c)、(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)または(18b)に示す特徴的な構造を有することにより、例えば、核酸の二重らせん構造を効果的に検出可能な標識物質として用いることができる。本発明の標識物質は、核酸の検出感度等に優れているので、研究用、臨床用、診断用、試験管内遺伝子検出、生体内遺伝子検出等、幅広い用途に使用可能である。さらに、本発明の化合物および核酸の用途はこれらに限定されず、どのような用途に用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノヌクレオシドまたはモノヌクレオチドから誘導される構造を有する化合物であって、
前記構造が下記式(1)、(1b)または(1c)で表される化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化1】


前記式(1)、(1b)および(1c)中、
Bは、天然核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシル)骨格または人工核酸塩基骨格を有する原子団であり、
Eは、
(i)デオキシリボース骨格、リボース骨格、もしくはそれらのいずれかから誘導される構造を有する原子団、または
(ii)ペプチド構造もしくはペプトイド構造を有する原子団であり、
11およびZ12は、それぞれ、水素原子、保護基、または蛍光性を示す原子団であり、同一でも異なっていてもよく、
Qは、
Eが前記(i)の原子団である場合はOであり、
Eが前記(ii)の原子団である場合はNHであり、
Xは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、水素原子、酸で脱保護することが可能な水酸基の保護基、リン酸基(モノホスフェート基)、二リン酸基(ジホスフェート基)、または三リン酸基(トリホスフェート基)であり、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、水素原子またはアミノ基の保護基であり、
Yは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、水素原子、水酸基の保護基、またはホスホロアミダイト基であり、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、水素原子または保護基であり、
、LおよびLは、それぞれ、リンカー(架橋原子または原子団)であり、主鎖長(主鎖原子数)は任意であり、主鎖中に、C、N、O、S、PおよびSiを、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、主鎖中に、単結合、二重結合、三重結合、アミド結合、エステル結合、ジスルフィド結合、イミノ基、エーテル結合、チオエーテル結合およびチオエステル結合を、それぞれ含んでいても含んでいなくても良く、L、LおよびLは、互いに同一でも異なっていても良く、
Dは、CR、N、P、P=O、BもしくはSiRであり、Rは、水素原子、アルキル基または任意の置換基であり、
bは、単結合、二重結合もしくは三重結合であるか、
または、前記式(1)中、LおよびLは前記リンカーであり、L、Dおよびbは存在せず、LおよびLがBに直接結合していてもよく、
前記式(1b)中、Tは、
Eが前記(i)の原子団である場合は、リン酸架橋(PO)であり、1以上の酸素原子(O)が硫黄原子(S)で置換されていても良く、
Eが前記(ii)の原子団である場合は、NHである。
【請求項2】
前記式(1)、(1b)および(1c)中、
Eが、DNA、修飾DNA、RNA、修飾DNA、LNA、またはPNA(ペプチド核酸)の主鎖構造を有する原子団である、請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項3】
前記式(1)および(1c)中、
【化2】

で表される原子団が、下記式(2)〜(4)のいずれかで表される原子団であり、
【化3】

前記式(1b)中、
【化4】

で表される原子団が、下記式(2b)〜(4b)のいずれかで表される原子団である、請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化5】

前記式(2)〜(4)および(2b)〜(4b)中、
Aは、水素原子、水酸基、アルキル基、または電子吸引基であり、
MおよびJは、それぞれ、CH、NH、OまたはSであり、同一でも異なっていても良く、
B、XおよびYは、それぞれ、前記式(1)、(1b)または(1c)と同じであり、
前記式(2)、(3)、(2b)および(3b)において、リン酸架橋中のO原子は、
1つ以上がS原子で置換されていてもよい。
【請求項4】
前記式(2)および(2b)中、
Aにおいて、前記アルキル基がメトキシ基であり、前記電子吸引基がハロゲンである請求項3記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項5】
前記式(1)、(1b)または(1c)中、
、LおよびLの主鎖長(主鎖原子数)が、それぞれ2以上の整数である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項6】
下記式(5)、(6)、(6b)または(6c)で表される請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化6】

前記式(5)、(6)、(6b)および(6c)中、
l、mおよびnは任意であり、同一でも異なっていても良く、
B、E、Z11、Z12、X、YおよびTは、前記式(1)、(1b)または(1c)
と同じである。
【請求項7】
l、mおよびnが、それぞれ、2以上の整数である請求項6記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項8】
11およびZ12が、エキシトン効果を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項9】
11およびZ12が、それぞれ独立に、チアゾールオレンジ、オキサゾールイエロー、シアニン、ヘミシアニン、その他のシアニン色素、メチルレッド、アゾ色素またはそれらの誘導体から誘導される基である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項10】
11およびZ12が、それぞれ独立に、下記式(7)から(9)のいずれかで表される原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化7】

【化8】

【化9】

式(7)〜(9)中、
およびXは、それぞれSまたはOであり、同一でも異なっていても良く、
nは、0または正の整数であり、
〜R10、R13〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級ア
ルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、またはアミノ基であり、
11およびR12のうち、一方は、前記式(1)、(1b)または(1c)中のLもしくはL、前記式(5)、(6)、(6b)または(6c)中のNHに結合する連結基であり、他方は、水素原子または低級アルキル基であり、
15は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
16は、式(7)、(8)または(9)中に複数存在する場合は、同一でも異なっていても良く、
11中のX、XおよびR〜R21と、Z12中のX、XおよびR〜R21とは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項11】
式(7)〜(9)中、
〜R21において、前記低級アルキル基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルキル基であり、前記低級アルコキシ基が、炭素数1〜6の直鎖または分枝アルコキシ基である、請求項10記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項12】
式(7)〜(9)中、
11およびR12において、前記連結基が、炭素数2以上のポリメチレンカルボニル基であり、カルボニル基部分で前記式(1)、(1b)または(1c)中のLもしくはL、前記式(5)、(6)、(6b)または(6c)中のNHに結合する、請求項10記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項13】
下記式(10)で表される構造を有する請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化10】

式(10)中、
E、Z11、Z12、Q、XおよびYは、前記式(1)と同じである。
【請求項14】
前記式(1)、(1b)および(1c)中、
Bが、Py、Py der.、Pu、またはPu der.で表される構造である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
ただし、
前記Pyとは、下記式(11)で表記される6員環のうち、1位にEと結合する共有結合手を有し、5位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、
前記Py der.とは、前記Pyの6員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良く、
前記Puとは、下記式(12)で表記される縮合環のうち、9位にEと結合する共有結合手を有し、8位にリンカー部と結合する共有結合手を有する原子団であり、
前記Pu der.とは、前記Puの5員環の全原子の少なくとも一つがN、C、SまたはO原子で置換された原子団であり、前記N、C、SまたはO原子は、適宜、電荷、水素原子または置換基を有していても良い。
【化11】

【請求項15】
下記式(13)または(14)で表される請求項14記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化12】

【化13】

前記式(13)および(14)中、E、Z11、Z12、Q、XおよびYは、前記式(1)と同じであり、Py、Py der.、Pu、およびPu der.は、請求項14で定義したとおりである。
【請求項16】
前記ホスホロアミダイト基が、下記式(15)で表される請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。

−P(OR22)N(R23)(R24) (15)

式(15)中、R22はリン酸基の保護基であり、R23およびR24はアルキル基、またはアリール基である。
【請求項17】
前記式(15)において、R15がシアノエチル基であり、R16およびR17において、前記アルキル基がイソプロピル基であり、前記アリール基がフェニル基である、請求項16記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項18】
下記式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)または(18b)で表される構造を少なくとも一つ含む核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

式(16)、(16b)、(17)、(17b)、(18)および(18b)中、
B、E、Z11、Z12、L、L、L、Dおよびbは、それぞれ、請求項1に示す構造であり、
ただし、
式(16)、(17)および(18)中、Eは、請求項1における前記(i)の原子団であり、リン酸架橋中の少なくとも一つのO原子がS原子で置換されていても良く、
式(16b)、(17b)および(18b)中、Eは、請求項1における前記(ii)の原子団であり、
式(17)および(17b)中、各Bは、同一でも異なっていても良く、各Eは、同一でも異なっていても良い。
【請求項19】
前記式(16)、(17)、(16b)、(17b)、(18)および(18b)中、
11およびZ12は、それぞれ、蛍光性を示す原子団であり、同一でも異なっていてもよい、請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、またはそれらの塩。
【請求項20】
一つの分子内の二つの平面化学構造が同一平面内ではなく、ある一定の角度をもって存在するが、その分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには二つの平面化学構造が同一平面内に並ぶように配置することによって蛍光発光が生じる標識物質。
【請求項21】
2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子群からなる標識物質。
【請求項22】
前記色素分子が、請求項20記載の分子である請求項21記載の標識物質。
【請求項23】
2つ以上の色素分子が並行に集合するために生じるエキシトン効果によって蛍光発光を示さないが、それらの分子が核酸にインターカレーションまたはグルーヴバインディング(溝結合)するときには、前記集合状態が解けることにより蛍光発光が生じる2つ以上の色素分子の化学構造を同一分子内に有することを特徴的化学構造とする複合体標識物質。
【請求項24】
標識されるべき核酸に結合しているリンカー分子に、枝分かれした構造をとるように更なるリンカー分子を介して、または、更なるリンカー分子を介さず直接的に、2つ以上の色素分子が、結合した構造を有する請求項23記載の複合体標識物質。
【請求項25】
前記色素分子が、請求項20記載の分子である請求項23記載の標識物質。
【請求項26】
請求項20記載の標識物質であり、前記標識物質が、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩である標識物質。
【請求項27】
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体である標識物質であって、
請求項20記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質。
【請求項28】
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体である標識物質であって、
モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸または核酸類似体中の一つまたはそれ以上の塩基分子または主鎖構成分子に結合しているリンカー分子を介して、請求項20記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質。
【請求項29】
標識モノヌクレオチド、標識オリゴヌクレオチド、標識核酸または標識核酸類似体である標識物質であって、
モノヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸または核酸類似体中の一つまたはそれ以上の塩基分子のピリミジン核5位の炭素原子またはプリン核8位の炭素原子に結合しているリンカー分子を介して、請求項20記載の標識物質、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩で標識された標識物質。
【請求項30】
標識モノヌクレオチドまたは標識オリゴヌクレオチドである請求項26から29のいずれか一項に記載の標識物質を基質として核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより核酸合成を検出
する工程とを含む、核酸検出方法。
【請求項31】
前記核酸合成を、酵素的手法により行う請求項30記載の核酸検出方法。
【請求項32】
一重鎖核酸である請求項27から29のいずれか一項に記載の標識物質を第一の核酸とし、前記第一の核酸と相補的な配列またはそれに類似の配列を有する第二の核酸とをハイブリダイゼーションさせて核酸合成を行い、前記蛍光性を示す原子団または色素分子構造がインターカレーションまたはグルーヴバインディングされた二重鎖核酸を合成する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度をそれぞれ測定する工程と、
前記二重鎖核酸合成工程の前後における蛍光強度を比較することにより、前記第一の核酸と前記第二の核酸とのハイブリダイゼーションを検出する工程とを含む、核酸検出方法。
【請求項33】
請求項32記載の前記第一の核酸、前記第二の核酸の配列、もしくはそれらの配列に相補的な配列、または、それらの配列に相補的な配列に類似の配列を有し、かつ、請求項20に記載の標識物質または複合体標識物質で標識されたまたは標識されていない第三の核酸を用いることにより、三重鎖核酸または核酸類似体の形成を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
【請求項34】
11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩の構造を一部に持つ標識核酸を用いて、二重鎖または三重鎖核酸を検出する請求項30記載の方法。
【請求項35】
11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項1記載の化合物、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩、または、Z11およびZ12が蛍光性を示す原子団である請求項18記載の核酸、その互変異性体若しくは立体異性体、若しくはそれらの塩の構造を一部に持つ標識核酸を用いて、二重鎖または三重鎖核酸を検出する請求項32記載の方法。
【請求項36】
核酸合成手段と、標識物質と、蛍光強度測定手段とを含み、前記標識物質が、請求項20から29のいずれか一項に記載の標識物質であるキット。
【請求項37】
請求項30記載の方法に用いる請求項35記載のキット。
【請求項38】
請求項32記載の方法に用いる請求項35記載のキット。
【請求項39】
研究用、臨床用または診断用キットである請求項35記載のキット。

【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図26】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図18】
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【図19】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31A】
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【図31B】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−173891(P2011−173891A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71214(P2011−71214)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【分割の表示】特願2009−504009(P2009−504009)の分割
【原出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】