説明

モータの制御装置

【課題】従来品よりも騒音やスイッチングロスの低減をバランスよく実現できるモータを安価に提供できるようにする。
【解決手段】コイル群の各相に駆動電流を供給するインバータ回路20、所定の入力信号に従ってインバータ回路20をPWM方式により制御し、ロータ3を所定の回転速度で駆動する制御回路30を備える。制御回路30は、予め設定された所定の基準値を出力する波形切替設定部34や前記入力信号と前記基準値とを比較する比較部35、通電信号形成部39を含む。通電信号形成部39は、比較部35から入力される比較結果信号に基づいて、印加電圧の波形が矩形状である第1通電方式と、印加電圧の波形が台形状又は正弦曲線状である第2通電方式とに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM方式により多相のコイルへの通電を制御するモータに関する。その中でも特に、各相に印加される電圧の通電波形を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のモータでは、一般に、通電波形が矩形状の通電方式(矩形波通電)や、通電波形が正弦曲線状の通電方式(正弦波通電)が採用されている。
【0003】
矩形波通電の場合、スイッチング素子をオンオフする頻度が少ないため、スイッチングロスが少ない利点がある。しかし、誘起電圧の利用率が低く、振動や騒音が発生し易い。
【0004】
一方、正弦波通電の場合は、誘起電圧の利用率が高く、振動や騒音を低減できる。しかし、高頻度でスイッチング素子をオンオフするため、スイッチングロスが多くなる欠点がある。
【0005】
そこで、通電波形を台形状にした通電方式(台形波通電)も提案されている(特許文献1、2)。台形波通電の場合、矩形波通電と比べると、波形が正弦曲線に近似するため、振動や騒音が低減できる。また、正弦波通電と比べると、スイッチング素子をオンオフする頻度が少なくなるため、スイッチングロスも低減できる。
【0006】
特許文献2では、また、モータの回転速度に応じて通電巾や通電位相を変化させる制御が行われている。モータの回転速度は、ホールセンサ等を用いて実測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−6067号公報
【特許文献2】特開2003−18878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2のように台形波通電を行うことで、矩形波通電や正弦波通電と比べて、騒音等やスイッチングロスの低減をバランスよく実現することができる。
【0009】
しかし、ファンの駆動モータ等、用途や仕様によってはその低減効果は十分とは言えず、改良の余地がある。
【0010】
また、特許文献2のように、実測値に基づいて制御する場合、複雑な演算を短時間で連続して実行させる必要がある。その結果、制御装置は高度な処理能力が求められるため、コストを低減するのが難しいという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、安価でありながら、騒音等とスイッチングロスの低減をよりいっそうバランスよく実現できるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のモータは、回転軸を中心に回転し、複数の磁極を構成する磁石を含むロータと、前記ロータと隙間を隔てて対向し、複数の相を構成するコイル群を含むステータと、前記コイル群の各相に駆動電流を供給するインバータ回路と、所定の入力信号に従って前記インバータ回路をPWM方式により制御し、前記ロータを所定の回転速度で駆動する制御回路とを備える。
【0013】
前記制御回路は、通電時における印加電圧の波形が矩形状である第1通電方式と、通電時における印加電圧の波形が台形状又は正弦曲線状である第2通電方式と、に切り替えるために、予め設定された所定の基準値を出力する波形切替設定部を含む。また、制御回路は、前記入力信号と前記基準値とを比較する比較部と、前記比較部から入力される比較結果信号に基づいて、前記第1通電方式と前記第2通電方式とを切り替える通電信号形成部とをも含む。
【0014】
このモータによれば、ロータの回転中に、矩形波通電の第1通電方式と、台形波通電又は正弦波通電の第2通電方式に切り替えることができる。すなわち、外部からの命令やモータの状態などを示した各種入力信号に応じて最適な通電方式に切り替えることができるので、矩形波通電や台形波通電等が常に行われる場合と比べて、騒音等やスイッチングロスの低減をよりいっそうバランスよく実現することができる。
【0015】
しかも、通電方式の切り替えが、実測値ではなく、所定の入力信号と予め設定された所定の基準値との比較結果に基づいて行われるので、高度な演算処理は不要である。従って、制御回路を簡素にでき、安価に実現できる。
【0016】
例えば、前記ロータの回転に伴う磁極変化を検出する位置検出手段を備え、前記制御回路は、前記位置検出手段から入力される信号に基づいて前記ロータの回転位置を算出する回転位置算出部と、前記回転位置算出部から入力される信号に基づいて通電のタイミングを制御するタイミング制御部と、前記比較結果信号に基づいて位相のタイミングを補正する位相補正部と、を有している。
【0017】
この構成により、回転数の急激な変化を防ぎ、騒音・振動を抑えることができる。また、モータ特性に対して効率の良い動作を行うことができる。
【0018】
例えば、前記入力信号は、外部から入力される速度指令電圧であってもよい。そうすれば、回転速度の変動に応じて適切なタイミングで通電方式を切り替えることができる。
【0019】
また、前記インバータ回路にシャント抵抗が接続されている場合には、シャント抵抗から得られるシャント電圧を入力信号に用いてもよい。そうすれば、トルクの変動に応じて適切なタイミングで通電方式を切り替えることができる。
【0020】
更に、速度指令電圧及びシャント電圧の双方を入力信号に用いることもできる。そうすれば、回転速度とトルクの双方の変動に応じて適切なタイミングで通電方式を切り替えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のモータによれば、従来よりも騒音等とスイッチングロスの低減をバランスよく実現でき、しかも安価に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のモータの構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態のモータの構成を示すブロック図である。
【図3】通電波形のイメージ図である。(a)は矩形波通電、(b)は台形波通電である。
【図4】(a)は、ホール信号のイメージ図である。(b)は、矩形波通電での通電信号のイメージ図である。(c)は、台形波通電での通電信号のイメージ図である。
【図5】進角値に対するモータ効率のグラフである。
【図6】通電波形のイメージ図である。(a)はホール信号、(b)は矩形波通電での通電信号、(c)は台形波通電での通電信号、(d)は台形波通電での印加電圧である。
【図7】第2実施形態のモータの構成を示すブロック図である。
【図8】第3実施形態のモータの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0024】
<第1実施形態>
図1に、本実施形態のモータ1の概略を示す。このモータ1は、例えば、空調機の送風ファンなどに用いられるブラシレスDCモータである。モータ1には、シャフト2やロータ3、ステータ4、ホール素子5(位置検出手段の具体例)、回路基板6等が備えられている。
【0025】
ロータ3は、モータケース7にシャフト2を介して回転自在に支持されている。ロータ3は、シャフト2とともに回転軸Jを中心に回転する。ロータ3は複数の磁極を構成する磁石3aを含む。磁石3aの磁極は、N極とS極とが周方向に交互に配置されている。
【0026】
ステータ4は、ロータ3と隙間を隔てて対向した状態でモータケース7内に配置されている。ステータ4は複数のコイル4aを含む。複数のコイル4aは、例えば、U,V,Wの複数の相で構成されている。
【0027】
コイル4aは、周方向に配置され、モータ1の仕様に応じてY結線やデルタ結線により結線されている。各相のコイル4aには、電流供給配線8を通じて回路基板6から所定の順序で駆動電流が供給される。駆動電流の供給により、各相のコイル4aは順次励磁される。励磁されたコイル4aと磁石3aとの間にトルクが発生し、そのトルクの作用によりロータ3は回転する。
【0028】
ホール素子5は、ロータ3の近傍に配置されている。ホール素子5は、例えば、電気角120度の間隔で3つ配置されている。ホール素子5は、ロータ3の回転に伴う磁極変化を検出する。ホール素子5が検出するホール信号は、モータケース7内に配置された回路基板6へ出力される。回路基板6は外部の装置9と電気的に接続されている。その外部の装置9を通じて回路基板6に電源が供給される。回路基板6には、インバータ回路20や制御回路30が設けられている。
【0029】
図2に、インバータ回路20や制御回路30の詳細を表したモータ1のブロック図を示す。
【0030】
インバータ回路20には、6個のスイッチング素子22が備えられている。スイッチング素子22は、上流側スイッチング素子22aと、下流側スイッチング素子22bとを含む。上流側スイッチング素子22a及び下流側スイッチング素子22bは、直列に接続されて1つの素子列を構成している。そして、これら素子列は3つ並列に接続されている。各素子列における上流側スイッチング素子22aと下流側スイッチング素子22bとの間に、電流供給配線8がそれぞれ電気的に接続されている。
【0031】
スイッチング素子22は、制御回路30から出力される通電信号に基づいてオンオフ制御される。インバータ回路20には、電源から駆動用の電圧Vmが印加されている。そして、所定のタイミングで、上流側スイッチング素子22aのいずれか1つと、下流側スイッチング素子22bのいずれか1つとがオン状態になる。それにより、各相のコイル3aに、駆動電圧が印加され、駆動電流が供給される。
【0032】
インバータ回路20には、シャント抵抗25が接続されている。シャント抵抗25は、素子列の下流側に素子列と直列に接続されている。
【0033】
制御回路30は、マイクロコントローラを用いず、IC等を組み合わせて安価に構成されている。制御回路30の大部分(破線内の領域)には、電源から制御用の電圧Vccが印加されている。制御回路30へは、モータ1の外部から速度指令電圧Vsp(入力信号の具体例)が入力される。制御回路30は、速度指令電圧Vspに従ってインバータ回路20をPWM方式により制御する。それにより、速度指令電圧Vspに応じた所定の回転数でロータ3が駆動する。
【0034】
なお、ここでいう速度指令電圧Vspは、回転速度の実測値を示すものではない。例えば、モータ1がエアコンのファンの駆動に用いられている場合を想定する。その場合、ユーザーが風量を変更する操作をした時には、モータ1の回転数を変更する必要がある。速度指令電圧Vspは、そのような操作に連動して制御回路30に入力される指示信号である。
【0035】
制御回路30は、通電時における印加電圧の波形(通電波形ともいう)を変更し、通電方式を切り替える機能を有している。具体的には、制御回路30は、通電波形が矩形状である矩形波通電方式(第1通電方式)と、通電波形が台形状である台形波通電方式(第2通電方式)とに切り替えることができる。
【0036】
図3に、これらの通電波形のイメージを示す。(a)が矩形波通電の通電波形、(b)が台形波通電の通電波形である。
【0037】
矩形波通電では、例えば、通電期間が電気角で120度の120度通電や、同様に150度の150度通電、180度通電などが行われる。台形波通電は、これら矩形波通電の通電波形をベースにして生成される。
【0038】
モータを用いる機器の用途や仕様によっては、騒音や振動が発生しても許容できる回転数の領域(騒音許容領域ともいう)が存在する。そこで、モータ1では、通常の回転数の領域では、騒音等の低減に有利な台形波通電に、そして、騒音許容領域では、スイッチングロスの低減に有利な矩形波通電に切り替わるように設定されている。例えば、所定の低速回転の領域では台形波通電であり、所定の高回転数の領域になると矩形波通電に切り替わる。また、その逆であっても良い。
【0039】
すなわち、モータ1は、ロータ3の回転数に応じて最適な通電方式に切り替わる。従って、矩形波通電や台形波通電が常に行われる場合と比べて、騒音等やスイッチングロスの低減をよりいっそうバランスよく実現することができる。
【0040】
制御回路30には、PWM制御部32や回転位置算出部33、波形切替設定部34、比較部35、位相補正部36、入力電圧調整部37、タイミング制御部38、通電信号形成部39、上アーム駆動回路40、下アーム駆動回路41などが備えられている。
【0041】
PWM制御部32は、要求されるロータ3の回転数に応じたPWM信号を生成する機能を有している。具体的には、三角波発振回路43から出力される三角波と、速度指令電圧Vspとが比較器44で比較される。その比較器44での比較結果に基づき、PWM制御部32はPWM信号を生成する。PWM制御部32は、生成したPWM信号をタイミング制御部38に出力する。
【0042】
回転位置算出部33は、ホール素子5と協働してロータ3の回転位置を実測する機能を有している。具体的には、回転位置算出部33に、ホール素子5から出力されるホール信号が入力される。ホール信号に基づいて、回転位置算出部33はロータ3の回転位置を算出する。算出されたロータ3の回転位置の情報は、回転位置信号としてタイミング制御部38に出力される。
【0043】
波形切替設定部34は、通電方式の切り替えに用いられる基準値を出力する機能を有している。具体的には、波形切替設定部34には、予め入力された基準値の情報が記憶されている。記憶された基準値の情報は比較部35に出力される。本実施形態では、速度指令電圧Vspに対応した所定の電圧値が基準値として用いられている。
【0044】
比較部35は、速度指令電圧Vspと基準値とを比較し、その比較結果に関する信号(比較結果信号)を出力する機能を有している。例えば、速度指令電圧Vspが基準値以上であれば、矩形波通電を選択する第1信号を出力し、速度指令電圧Vspが基準値未満であれば、台形波通電を選択する第2信号を出力する。第1信号等の比較結果信号は、位相補正部36と通電信号形成部39に出力される。
【0045】
ロータ3の回転速度が変化すると、通電波形の位相にずれが発生する。また、ロータ3の回転中に通電方式を切り替える場合にも、通電波形の位相にずれが発生する。矩形波通電と台形波通電とでは、通電波形の形状や通電期間が異なるからである。
【0046】
図4に、ホール信号と、それに対応してインバータ回路20へ出力される通電信号の一例を示す。同図中、(a)がホール信号、(b)が矩形通電の場合の通電信号、(c)が台形波通電の場合の通電信号である。なお、台形波通電の立ち上がり及び立ち下がりの部分は、傾斜波を形成するために、PWM制御によってパルス幅が変調されている。図では、4段階のパルスで変調しているが、8段階などでも構わない。
【0047】
台形波通電における通電波形の立ち上がりエッジは、矩形波通電における通電波形の立ち上がりエッジよりも進んでいる(進角)。従って、例えば、台形波通電から矩形波通電に切り替わる際、台形波通電の位相がそのまま適用されると、2点鎖線で示すように、矩形波通電はその進角分だけ進むことになる。
【0048】
図4に示すように、矩形波通電の通電幅は150°である。一方、台形波通電における矩形部分の通電幅は150°で、前後に7.5°のパルス幅で変調し、計165°の通電幅である。よって、台形波通電における通電波形の立ち上がりエッジと、矩形波通電における通電波形の立ち上がりエッジの位置が異なっている。この状態で、矩形波通電と台形波通電とを切り替えると、位相がずれる。位相がずれることで、回転数が急激に上がる或いは下がり、騒音・振動が発生する。
【0049】
また、図5のように、回転数は一定で、進角値に対するモータ効率を示した結果、最適な進角値は、矩形波通電と台形波通電とでは異なる。ちなみに、このグラフは一例であり、モータの仕様や負荷によっては矩形波通電と台形波通電の位置が異なる場合がある。よって、矩形波通電では150°の通電幅であるが、台形波通電では135°の通電幅に前後15°のパルス幅を設けるようにするなど、モータの仕様に合わせて最適な進角値に補正する(位相を補正する)必要がある。
【0050】
位相補正部36は、入力電圧調整部37と協働して、この位相のずれを補正する機能を有している。具体的には、速度指令電圧Vspが入力電圧調整部37に入力される。入力電圧調整部37には、速度補正情報が記憶されている。速度補正情報は、速度指令電圧Vsp、つまり回転速度に対応した適切な位相の補正量に関する情報である。入力電圧調整部37は、後述する位相補正部36へ出力するために最適な電圧に調整し、進角設定電圧として出力する。
【0051】
位相補正部36には比較部35から比較結果信号も入力される。位相補正部36は、比較結果信号により、矩形波通電か台形波通電かを判断する。位相補正部36には、速度補正情報および波形補正情報が予め設定されている。速度補正情報は、速度指令電圧Vsp、つまり回転速度に対応した適切な位相の補正量に関する情報である。波形補正情報は、通電波形に対応した適切な位相の補正量に関する情報である。位相補正部36は、波形補正情報と速度補正情報とに基づいて、総合的な位相の補正に関する補正情報を生成する。生成された補正情報に関する補正信号は、タイミング制御部38に出力される。
【0052】
タイミング制御部38は、PWM信号や回転位置信号に基づいて、通電のタイミングを制御する機能を有している。タイミング制御部38は、PWM信号と回転位置信号とからコイル群の各相に通電を開始するタイミングに関するタイミング情報を生成する。
【0053】
更に、タイミング制御部38は、補正信号に基づいて、生成したタイミング情報を補正する機能も有している。従って、ロータ3の回転数の変化や通電方式の切り替えがあっても、通電波形は適切な位相に補正されるので、安定したモータ性能を発揮することができる。補正されたタイミング情報は、タイミング信号として通電信号形成部39に出力される。
【0054】
通電信号形成部39には比較部35から比較結果信号も入力される。通電信号形成部39は、比較結果信号とタイミング信号に基づいて、通電信号を生成する。通電信号形成部39は、比較結果信号に従って矩形波通電及び台形波通電のいずれかの通電方式の通電信号を生成する。従って、異なった比較結果信号が通電信号形成部39に入力されると、通電方式が切り替わる。生成された通電信号に基づいて、上アーム駆動回路40及び下アーム駆動回路41が作動する。
【0055】
上アーム駆動回路40及び下アーム駆動回路41のそれぞれは、通電信号に従ってスイッチング素子22を制御する。具体的には、上アーム駆動回路40は、所定のタイミングで所定の上流側スイッチング素子22aをオンオフする。下アーム駆動回路41は、所定のタイミングで所定の下流側スイッチング素子22bをオンオフする。
【0056】
図6に、通電信号の一例を示す。同図の(a)はホール信号である。(b)は(a)のホール信号に対する矩形波通電における通電信号、(c)は(a)のホール信号に対する台形波通電における通電信号である。(d)は(c)に対応したコイル群の各相における印加電圧である。なお、(c)のハッチング部分は、パルス幅が変調されている部分を示している(図4の(c)参照)。
【0057】
モータ1によれば、回転数に応じて、回転中に通電方式を切り替えることができる。従って、騒音や振動の低減と、スイッチングロスの低減とがバランスよく実現できる。通電方式の切り替えが速度指令電圧Vspに基づいて行われるので、高度な演算処理は不要である。従って、制御回路30を簡素にでき、安価に実現できる。
【0058】
また、回転中に通電方式を切り替える際、位相を補正することで、位相のずれによる騒音・振動を防止することができる。また、通電方式を切り替えた際、通電方式によって異なる最適な進角値へ補正することで、モータ効率が向上する。
【0059】
モータ1は、例えば、回転数の変化に伴うトルク変動が小さい機器に好適である。
【0060】
<第2実施形態>
第1実施形態では、入力信号に速度指令電圧Vspを用いた例を示した。本実施形態では、シャント電圧VRsを入力信号に用いる例を示す。なお、本実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、同じ機能の構成には同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0061】
図7に、本実施形態のモータ(モータ1Aと称する)の詳細を表したブロック図を示す。同図に示すように、モータ1Aの制御回路30にはシャント電圧生成部51が設けられている。シャント電圧生成部51は、シャント抵抗25を流れる電流からシャント抵抗25に加わる電圧を検出する。
【0062】
トルクの変動に連動して駆動電流は変動する。その駆動電流の変動に連動してシャント抵抗25を流れる電流やシャント抵抗25に加わる電圧も変動する。ただし、シャント抵抗25に加わる電圧は常時変動している。
【0063】
シャント電圧生成部51は、その変動する電圧の所定期間におけるピークの値に基づいて一定の電圧を生成する(シャント電圧VRsとも称する)。シャント電圧VRsは必要に応じて増幅してもよい。シャント電圧VRsは、比較部35に出力される(同図にて矢印記号Aで示す)。
【0064】
本実施形態の波形切替設定部34は、第1実施形態と異なり、シャント電圧VRs用に構成されている。具体的には、波形切替設定部34には、シャント電圧VRsに対応した所定の電圧値の情報が予め記憶されている。
【0065】
本実施形態の比較部35も、第1実施形態と異なり、シャント電圧VRs用に構成されている。具体的には、比較部35は、シャント電圧VRsと基準値とを比較し、その比較結果信号を出力する。
【0066】
モータ1Aは、例えば、トルクが大きく変動する機器に好適である。トルクの変動に応じて適切なタイミングで通電方式を切り替えることができる。
【0067】
<第3実施形態>
本実施形態では、速度指令電圧Vspとシャント電圧VRsの両方を入力信号に用いる例を示す。なお、本実施形態の基本的な構成は第1実施形態等と同様であるため、同じ機能の構成には同じ符号を用いてその説明は省略する。
【0068】
図8に、本実施形態のモータ(モータ1Bと称する)の詳細を表したブロック図を示す。同図に示すように、モータ1Bの制御回路30にはシャント電圧生成部51が設けられている。更に、波形切替設定部34や比較部35は、それぞれシャント電圧用と速度指令電圧用の2つの機能を含む。
【0069】
具体的には、モータ1Bの波形切替設定部34は、シャント電圧用の第1波形切替設定部34aと、速度指令電圧用の第2波形切替設定部34bとを含む。第1波形切替設定部34aは、第2実施形態の波形切替設定部34と同じ構成である。第2波形切替設定部34bは、第1実施形態の波形切替設定部34と同じ構成である。
【0070】
また、モータ1Bの比較部35は、シャント電圧用の第1比較部35aと、速度指令電圧用の第2比較部35bとを含む。第1比較部35aは、第2実施形態の比較部35と同じ構成である。第2比較部35bは、第1実施形態の比較部35と同じ構成である。
【0071】
第1比較部35a及び第2比較部35bのそれぞれで得られる比較結果信号は、AND回路61に出力される。AND回路61では、その比較結果信号に基づいて、通電方式の選択が行われる。例えば、第1比較部35a及び第2比較部35bの両方から第1信号が出力された場合に、AND回路61は第1信号を出力する。そして、その他の場合には、AND回路61は第2信号を出力する。
【0072】
モータ1Bは、回転速度の変動により駆動電流が変動し、また、トルクの変動によっても駆動電流が変動する機器に好適である。例えば、トルクの上昇に伴って駆動電流が増加しても、回転速度は低くて騒音等を気にしなくてもよい場合などに矩形波通電に切り替えれば、スイッチングロスを減らすことができる。
【0073】
なお、本発明のモータは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0074】
例えば、第2通電方式における印加電圧の波形は、台形状に限らず正弦曲線状であってもよい。位置検出手段は、ホール素子に限らず、ホールICやレゾルバ等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のモータは、ファンの駆動モータ等に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 モータ
3 ロータ
3a 磁石
4 ステータ
4a コイル
5 ホール素子(位置検出手段)
6 回路基板
20 インバータ回路
22 スイッチング素子
25 シャント抵抗
30 制御回路
32 PWM制御部
33 回転位置算出部
34 波形切替設定部
35 比較部
36 位相補正部
37 入力電圧調整部
38 タイミング制御部
39 通電信号形成部
40 上アーム駆動回路
41 下アーム駆動回路
51 シャント電圧生成部
J 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転し、複数の磁極を構成する磁石を含むロータと、
前記ロータと隙間を隔てて対向し、複数の相を構成するコイル群を含むステータと、
前記コイル群の各相に駆動電流を供給するインバータ回路と、
所定の入力信号に従って前記インバータ回路をPWM方式により制御し、前記ロータを所定の回転速度で駆動する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
通電時における印加電圧の波形が矩形状である第1通電方式と、通電時における印加電圧の波形が台形状又は正弦曲線状である第2通電方式と、に切り替えるために、予め設定された所定の基準値を出力する波形切替設定部と、
前記入力信号と、前記基準値と、を比較する比較部と、
前記比較部から入力される比較結果信号に基づいて、前記第1通電方式と前記第2通電方式とを切り替える通電信号形成部と、
を含むモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、
前記ロータの回転に伴う磁極変化を検出する位置検出手段を備え、
前記制御回路は、
前記位置検出手段から入力される信号に基づいて前記ロータの回転位置を算出する回転位置算出部と、
前記回転位置算出部から入力される信号に基づいて通電のタイミングを制御するタイミング制御部と、
前記比較結果信号に基づいて位相のタイミングを補正する位相補正部と、
を有しているモータ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータにおいて、
前記入力信号は、外部から入力される速度指令電圧であるモータ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のモータにおいて、
前記インバータ回路には、シャント抵抗が接続され、
前記制御回路は、前記シャント抵抗に加わる電圧を検出し、所定のシャント電圧を生成するシャント電圧生成部を有し、
前記入力信号は、前記シャント電圧であるモータ。
【請求項5】
請求項4に記載のモータにおいて、
前記入力信号に、前記シャント電圧と、外部から入力される速度指令電圧と、が用いられ、
前記波形切替設定部は、前記シャント電圧用の第1波形切替設定部と、前記速度指令電圧用の第2波形切替設定部と、を含み、
前記比較部は、前記シャント電圧用の第1比較部と、前記速度指令電圧用の第2比較部と、を含み、
前記第1比較部及び前記第2比較部の双方から入力される比較結果信号に基づいて、通電信号形成部が前記第1通電方式と前記第2通電方式とを切り替えるモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−157135(P2012−157135A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13186(P2011−13186)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(398061810)日本電産テクノモータ株式会社 (197)
【Fターム(参考)】