説明

モーター停止用の制御装置

【課題】複数のモーターが使用されているプロセスラインにおいて、連続材の破断を防止し、緊急時に、ラインの停止を早期に実現することができるモーター停止用の制御装置を提供する。
【解決手段】本制御装置は、ペイオフリール及びテンションリールの各コイル径情報と各モーターの回転数情報とが入力される入力部17と、各モーターの定格と各機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部18とを備える。停止時間演算部19は、各モーターについて、その時点におけるトルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する。また、トルク制限値演算部20は、最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、各モーターについて演算する。そして、非常停止指令が入力されると、出力部21は、上記各トルク制限値を出力し、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロセスラインで使用されている複数のモーターを非常停止させるための制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延ラインには、圧延スタンド等を駆動するために、複数のモーターが使用されている。冷間圧延ラインにおいて鋼板(連続材)の圧延中にラインを停止させる場合、鋼板の張力を一定に保つようにモーターを減速させる制御が、一般に行われている。しかし、鋼板の張力まで考慮した上記停止制御では、減速を開始してからラインが完全に停止するまでに、比較的長い時間を要してしまう。このため、ラインの非常停止が必要な緊急時には、上記一般的な停止制御によってラインを停止させることは好ましくない。
【0003】
従来では、ラインの非常停止を行う場合、例えば、鋼板の張力制御を行わず、各モーターの駆動装置の最大回生制動を使用して、ラインを停止させていた。
また、下記特許文献1には、ラインを非常停止させる際に、減速開始時刻と減速終了(停止)時刻とが各圧延スタンドで一致するように、各圧延スタンドの減速レートを決定するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−64417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のものも含め、従来の非常停止方法では、ラインを停止させる際に鋼板に過度な張力が作用し、鋼板の破断等、甚大な二次的被害を受ける恐れがあった。
例えば、最大回生制動を使用してラインを停止させる場合は、各モーター間において、その停止時間を一致させることができない。即ち、前後の圧延スタンド間で速度にずれが生じ、両圧延スタンド間の鋼板に過度な張力が作用する恐れがあった。
【0006】
また、冷間圧延ラインには、ラインの前後にペイオフリールとテンションリールとが備えられている(例えば、特許文献1の図4参照)。特許文献1に記載のものでは、ペイオフリール及びテンションリールを駆動するためのモーターのことが考慮されておらず、ラインの非常停止時に、ペイオフリール及び第1圧延スタンド間の鋼板、並びに、最終圧延スタンド及びテンションリール間の鋼板に過度な張力が作用することがあった。
【0007】
なお、ここで指摘した事項は、種々のプロセスライン、例えば、上記冷間圧延ラインだけでなく、焼鈍ライン、めっきライン、フィルムライン等においても、同様に発生し得る問題である。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、複数のモーターが使用されているプロセスラインにおいて、非常停止したことによる連続材の破断を防止し、且つ、緊急時に、ラインの停止を早期に実現することができるモーター停止用の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るモーター停止用の制御装置は、連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、モーターを制御するモーター駆動装置と、を備えたプロセスラインにおいて各モーターを非常停止させるための制御装置であって、払い出し機及び巻き取り機の各コイル径情報と各モーターの回転数情報とがリアルタイムで入力される入力部と、各モーターの定格と各モーターに接続された機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、入力部に入力された情報及び記録部に記録された情報に基づいて、各モーターについて、その時点における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する停止時間演算部と、停止時間演算部によって演算された各モーターの停止時間の中から最大のものを特定し、この特定した最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、各モーターについて演算するトルク制限値演算部と、ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、トルク制限値演算部によって演算された各トルク制限値をモーター駆動装置に出力し、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、を備えたものである。
【0010】
また、この発明に係るモーター停止用の制御装置は、連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、モーターを制御するモーター駆動装置と、を備えたプロセスラインにおいて各モーターを非常停止させるための制御装置であって、払い出し機及び巻き取り機の各コイル径情報と各モーターの回転数情報とがリアルタイムで入力される入力部と、各モーターの定格と各モーターに接続された機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、入力部に入力された情報及び記録部に記録された情報に基づいて、各モーターについて、出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する停止時間演算部と、停止時間演算部によって演算された各モーターの停止時間の中から最大のものを特定し、この特定した最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、各モーターについて演算する電流制限値演算部と、ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、電流制限値演算部によって演算された各電流制限値をモーター駆動装置に出力し、その電流制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、を備えたものである。
【0011】
また、この発明に係るモーター停止用の制御装置は、連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、モーターのそれぞれに対応して設けられた複数のモーター駆動装置と、を備えたプロセスラインにおいて各モーターを非常停止させるための制御装置であって、各モーター駆動装置は、制御対象のモーターの回転数情報がリアルタイムで入力される入力部と、制御対象のモーターの定格とその機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、入力部に入力された情報及び記録部に記録された情報に基づいて、制御対象のモーターについて、その時点における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算し、演算結果を、他のモーター駆動装置に対して出力させる停止時間演算部と、停止時間演算部によって演算された停止時間と他のモーター駆動装置から取得した停止時間との中から最大のものを特定する比較部と、比較部によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、制御対象のモーターについて演算するトルク制限値演算部と、ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、トルク制限値演算部によって演算されたトルク制限値を出力し、制御対象のモーターに、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、を備え、第1モーターを制御するモーター駆動装置は、第1モーターの回転数情報とともに、払い出し機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力され、第2モーターを制御するモーター駆動装置は、第2モーターの回転数情報とともに、巻き取り機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力されるものである。
【0012】
また、この発明に係るモーター停止用の制御装置は、連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、モーターのそれぞれに対応して設けられた複数のモーター駆動装置と、を備えたプロセスラインにおいて各モーターを非常停止させるための制御装置であって、各モーター駆動装置は、制御対象のモーターの回転数情報がリアルタイムで入力される入力部と、制御対象のモーターの定格とその機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、入力部に入力された情報及び記録部に記録された情報に基づいて、制御対象のモーターについて、出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算し、演算結果を、他のモーター駆動装置に対して出力させる停止時間演算部と、停止時間演算部によって演算された停止時間と他のモーター駆動装置から取得した停止時間との中から最大のものを特定する比較部と、比較部によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、制御対象のモーターについて演算する電流制限値演算部と、ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、電流制限値演算部によって演算された電流制限値を出力し、制御対象のモーターに、その電流制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、を備え、第1モーターを制御するモーター駆動装置は、第1モーターの回転数情報とともに、払い出し機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力され、第2モーターを制御するモーター駆動装置は、第2モーターの回転数情報とともに、巻き取り機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力されるものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るモーター停止用の制御装置であれば、複数のモーターが使用されているプロセスラインにおいて、連続材の破断を防止し、且つ、緊急時に、ラインの停止を早期に実現することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係るモーター停止用の制御装置が適用された冷間圧延ラインの構成例を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1におけるモーター停止装置の構成を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1において非常停止時に使用されるモータートルクを示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2におけるモーター停止装置の構成を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態2において非常停止時に使用されるモータートルクの一例を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態2において非常停止時に使用されるモータートルクの他の例を示す図である。
【図9】この発明に係るモーター停止用の制御装置が適用された冷間圧延ラインの構成を示す図である。
【図10】この発明の実施の形態3におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。
【図11】この発明の実施の形態3におけるモーター停止手段の構成を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態4におけるモーター停止手段の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明をより詳細に説明するため、添付の図面に従ってこれを説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0016】
実施の形態1.
本発明に係るモーター停止用の制御装置は、プロセスラインで使用されている複数のモーターを同時に非常停止させるためのものである。本制御装置は、タンデム圧延ラインやフィルムラインといった種々のプロセスラインに適用することができる。以下においては、本制御装置を冷間圧延ラインに適用した場合を例に、具体的な説明を行う。
【0017】
図1はこの発明に係るモーター停止用の制御装置が適用された冷間圧延ラインの構成例を示す図である。
図1において、1はペイオフリール(払い出し機)、2は圧延スタンド、3はペイオフリール1及び圧延スタンド2間に配置されたブライドルロール、4はテンションリール(巻き取り機)、5は圧延スタンド2及びテンションリール4間に配置されたブライドルロールである。
【0018】
鋼板等の連続材からなるストリップ6は、圧延前、ペイオフリール1にコイル状に巻き付けられている。ストリップ6は、圧延が開始されると、ペイオフリール1から引き出され、ブライドルロール3、圧延スタンド2、ブライドルロール5を順次通過して圧延・搬送され、テンションリール4に巻き取られる。ペイオフリール1及びテンションリール4は、ストリップ6が巻き付けられていない状態(ペイオフリール1であれば圧延終了後、テンションリール4であれば圧延開始前)で、例えば、直径500乃至600mm程度になる。また、全てのストリップ6が巻き付けられると(ペイオフリール1であれば圧延開始前、テンションリール4であれば圧延終了後)、ペイオフリール1及びテンションリール4は、例えば、その直径が2000乃至2300mm程度、重量が10乃至15トン程度になる。
【0019】
7はラインを運転するための複数台のモーターである。図1には、5台のモーター7がラインに備えられている場合を一例として示している。具体的に、7(1)はペイオフリール1を駆動する(回転させる)ためのモーター、7(2)はテンションリール4を駆動するためのモーターである。また、7(3)及び7(4)は、ブライドルロール3及び5をそれぞれ駆動するためのモーターである。7(5)は圧延スタンド2を駆動する、即ち、圧延スタンド2のワークロールを駆動するためのモーターである。
【0020】
以下においては、これらのモーターを個別に特定する必要がない場合、モーター7(n)とも表記する。また、他の構成要素についても同様に、個別に特定する必要がない場合、必要に応じて符号に(n)を付加して表記する。なお、nの番号が同じものについては、相互に対応する機器を示すものとする。
【0021】
8はモーター7に設けられたブレーキ、9はブレーキ8を制御するブレーキ制御回路である。図1には、4台のブレーキ8及びブレーキ制御回路9がラインに備えられている場合を一例として示している。具体的に、モーター7(1)乃至7(4)のそれぞれに対応して、ブレーキ8(1)乃至8(4)、ブレーキ制御回路9(1)乃至9(4)が設けられている。なお、図1には、一部のモーター7にのみ対応してブレーキ8を設置した場合を示している。しかし、これは一例を示したものであり、ラインに備えられた全てのモーター7にブレーキ8が設置されていても構わない。
【0022】
10はモーター7を制御するためのモーター駆動装置である。モーター駆動装置10は、モーター7のそれぞれに対応して設けられている。即ち、図1に示すものでは、モーター7(1)乃至7(5)に対応して、5台のモーター駆動装置10(1)乃至10(5)が備えられている。このモーター駆動装置10には、ブレーキ制御回路9に対してブレーキ指令を出力する機能も備えられている。ブレーキ制御回路9は、モーター駆動装置10からブレーキ指令が入力されると、そのブレーキ指令に基づいて、ブレーキ8の動作(開閉)を制御する。
【0023】
11はラインの運転を制御するためのプラントコントローラーである。プラントコントローラー11は、制御対象となるモーター7に合わせた運転指令を、各モーター駆動装置10に対して出力する。運転指令には、例えば、ラインを駆動するための速度指令や張力指令が含まれる。各モーター駆動装置10は、プラントコントローラー11から運転指令が入力されると、その運転指令に基づいて、制御対象のモーター7を駆動する。
以下に、図2も参照し、モーター駆動装置10の構成及び機能について、具体的に説明する。
【0024】
図2はこの発明の実施の形態1におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。
モーター駆動装置10(n)では、プラントコントローラー11から運転指令が入力されると、常時は、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)によって、上記運転指令をモーター指令に変換する。モータードライバ14(n)は、この変換されたモーター指令に基づいて、モーター7(n)の電圧(或いは、電流)制御を実施し、モーター7(n)を駆動する。
【0025】
また、モーター7(n)には速度センサー15(n)が取り付けられており、速度センサー15(n)によって検出された速度信号が速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に入力される。即ち、モーター駆動装置10(n)では、速度フィードバック制御が行われており、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)は、速度センサー15(n)の検出速度と上記運転指令とに基づいて、モーター指令及びブレーキ指令を出力する。
【0026】
一方、ラインの非常停止が必要な場合、モーター駆動装置10(n)には、非常停止指令が入力される。本冷間圧延ラインには、ラインを非常停止させるための非常停止手段(図示せず)が備えられている。非常停止手段は、例えば、ラインの状態を監視するプラントコントローラー11の一機能、ラインの管理者が操作する非常停止釦やスイッチ等によって構成される。非常停止手段は、ラインが所定の状態になったことを検出したり、所定の操作が行われたりすることにより、各モーター駆動装置10(n)に対し、ラインを非常停止させるための非常停止指令を出力する。
【0027】
モーター駆動装置10(n)では、非常停止指令が入力されると、プラントコントローラー11からの運転指令をカットし、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対して0を入力する。即ち、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対し、上記運転指令として0が入力される。また、モーター駆動装置10(n)に非常停止指令が入力される場合は、後述のモーター停止装置16から各モーター駆動装置10(n)に対して、制御対象のモーター7(n)に合わせたトルク制限値が入力される。
【0028】
速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)は、運転指令として0が入力され、且つ、モーター停止装置16からトルク制限値が入力されると、ブレーキ8(n)を閉めることが可能なモーター7(n)に対しては、ブレーキ制御回路9(n)にブレーキ指令を出力する。これにより、ブレーキ8(n)が動作し、ブレーキ8(n)による制動力が発生する。また、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)は、上記トルク制限値に基づくモーター指令を出力し、モーター7(n)を回生制動で停止させる。
以下に、図3も参照し、上記モーター停止装置16の構成及び機能について、具体的に説明する。
【0029】
図3はこの発明の実施の形態1におけるモーター停止装置の構成を示す図である。
モーター停止装置16は、入力部17、記録部18、停止時間演算部19、トルク制限値演算部20、出力部21により、その要部が構成される。
【0030】
入力部17は、外部機器からの各種情報をモーター停止装置16内に取り込む機能を有している。例えば、入力部17には、ペイオフリール1のコイル径情報とテンションリール4のコイル径情報とが、リアルタイムで入力される。ペイオフリール1は、圧延開始前に最大の径を有しており、圧延が開始されると、その径が徐々に減少する。一方、テンションリール4は、圧延開始前に最小の径を有しており、圧延が開始されてストリップ6が巻き付けられると、その径が徐々に増大する。本ラインには、ペイオフリール1及びテンションリール4のコイル径を実測或いは演算等によって取得するためのコイル径取得手段(例えば、プラントコントローラー11の一機能)が備えられている。圧延が開始されると、入力部17には、コイル径取得手段によって取得されたペイオフリール1及びテンションリール4の各コイル径の情報がリアルタイム(例えば、短い所定の周期で)入力される。
【0031】
また、入力部17には、各モーター駆動装置10から、制御対象であるモーター7の回転数の情報がリアルタイムで入力される。即ち、モーター駆動装置10(1)からはモーター7(1)の現在の回転数情報が、モーター駆動装置10(2)からはモーター7(2)の現在の回転数情報が、入力部17にリアルタイムで入力される。
更に、入力部17には、非常停止手段から出力された非常停止指令も入力される。
【0032】
記録部18には、トルク制限値をモーター7毎に演算するために必要な各種パラメーターが記録されている。例えば、記録部18には、各モーター7の定格や、モーター軸換算の各機械部の慣性モーメント等の各種情報が予め記録されている。なお、上記機械部とは、モーター7の軸に接続された、モーター7によって駆動される部分のことを意味する。例えば、圧延スタンド2に備えられたワークロール等が上記機械部に含まれる。モーター7(5)とワークロールとの間にギアが存在する場合は、このギアも上記機械部に含まれる。また、テンションリール4に関して言えば、ストリップ6を巻き取るための軸等が上記機械部に含まれる。
【0033】
停止時間演算部19は、その時点(非常停止のための停止動作を開始する時)における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を、各モーター7について演算する機能を有している。停止時間演算部19は、入力部17に入力された情報と記録部18に記録されている情報とに基づいて、上記演算を行う。停止時間演算部19は、例えば、ブレーキ8が備えられたモーター7については、ブレーキ8による制動も考慮して、上記停止時間の演算を行う。
【0034】
トルク制限値演算部20は、非常停止時に、減速開始と減速終了(停止)とを各モーター7で一致させるためのトルク制限値を、各モーター7について演算する機能を有している。
【0035】
トルク制限値演算部20は、先ず、停止時間演算部19によって演算された各モーター7の停止時間の中から最大のもの(以下、「最大停止時間(tmax)」ともいう)を特定する。上記最大停止時間については、停止時間演算部19が演算結果を比較してその最大のもののみをトルク制限値演算部20に出力しても良いし、停止時間演算部19からトルク制限値演算部20に各演算結果を出力し、その比較をトルク制限値演算部20において行っても良い。
【0036】
トルク制限値演算部20は、最大停止時間を特定すると、その特定した最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、各モーター7について演算する。トルク制限値演算部20は、上記特定した最大停止時間と、入力部17への入力情報及び記録部18の記録情報とに基づいて、上記演算を行う。そして、トルク制限値演算部20は、各モーター7について適切なトルク制限値を演算すると、その演算結果を出力部21に対して出力する。
【0037】
停止時間演算部19及びトルク制限値演算部20の各演算は、常時、即ち、ペイオフリール1及びテンションリール4のコイル径情報と各モーター7の回転数情報とが入力部17に入力される度に行われる。即ち、出力部21が保持している情報(各モーター7に対応のトルク制限値)は、常に最新の値に更新されている。
【0038】
入力部17は、非常停止手段から非常停止指令が入力されると、その情報(例えば、非常停止指令)を出力部21に出力する。出力部21は、非常停止指令が入力されると、その時の各トルク制限値、即ち、トルク制限値演算部20によって演算された最新の各トルク制限値をホールド(固定)し、それを各モーター駆動装置10に対して出力する。各モーター駆動装置10では、上述した通り、非常停止指令が入力されると、運転指令として0を入力するとともに、出力部21からのトルク制限値に基づいて、上記最大停止時間で停止するように、対応のモーター7を回生制動させる。
【0039】
図4はこの発明の実施の形態1において非常停止時に使用されるモータートルクを示す図である。図4の斜線部が、非常停止時に使われるモータートルクを示している。
以下に、モーター停止装置16が行う計算例について、詳細に説明する。
【0040】
モーター7(n)がある回転数で回転している場合、その時に出し得るトルクを保持し、そのまま減速すると、モーター7(n)の停止時間t(n)[sec]は、次式で求めることができる。
停止開始時のモーター回転数>モーターベース回転数の時:下記式(1)
停止開始時のモーター回転数≦モーターベース回転数の時:下記式(2)
【0041】
【数1】

【0042】
【数2】

【0043】
ここで、
GD(n):モーター軸換算の機械部の慣性モーメント・モーターの慣性モーメント・ブレーキの慣性モーメントの和[kg・m
GD(n):コイルの慣性モーメント(本実施の形態においては、ペイオフリール1・テンションリール4の場合のみ(n=1、2))[kg・m
(n) :モーターベーストルク[N・m]
(n) :ブレーキトルク[N・m]
k(n) :モーター過負荷(オーバーロード)耐量[pu]
(n) :モーターベース回転数[rpm]
N(n) :停止開始時のモーター回転数[rpm]
g :重力加速度
である。なお、上記コイル(軸に巻き付けられた状態のストリップ6)の慣性モーメントは、次式によって求めることができる。
【0044】
【数3】

【0045】
ここで、
D:コイル外形[m]
d:コイル内径[m]
ρ:密度[g/cm]
L:板幅[m]
である。上記各種パラメーターのうち、D、N(n)は入力部17への入力情報、他は記録部18の記録情報等である。
【0046】
停止時間演算部19は、上記式(1)乃至式(3)から各モーター7(n)の停止時間t(n)を求めると、その中の最大値をtmaxとしてトルク制限値演算部20に出力する。トルク制限値演算部20は、入力された最大停止時間tmaxを使用して、次式から、各モーター7(n)の制動トルクを算出する。
【0047】
【数4】

【0048】
トルク制限値演算部20の算出結果TLimit(n)は、トルク制限値として出力部21に出力される。そして、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、出力部21はその時点におけるトルク制限値TLimit(n)を各モーター駆動装置10(n)に出力し、各モーター7(n)を非常停止させる。このため、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、上記トルク制限値TLimit(n)によって制限されたトルクでの回生制動が行われる。結果として、各モーター7(n)は、非常停止の発生から最大停止時間tmax[sec]が経過した時に停止する。つまり、全てのモーター7(n)を、上記最大停止時間tmax[sec]で同期させて停止させることができる。
【0049】
この発明の実施の形態1によれば、複数のモーター7が使用されている冷間圧延ラインにおいて、ストリップ6の破断を防止でき、且つ、緊急時に、ラインの停止を早期に実現することができるようになる。
【0050】
即ち、上記構成の制御装置であれば、非常停止時に、コイル径が変化するペイオフリール1を制御対象とするモーター7(1)及び、テンションリール4を制御対象とするモーター7(2)も、他のモーター7(3)乃至7(5)と同期して停止させることができる。このため、ライン全体においてストリップ6の破断を防止することができる。また、非常停止時には、停止時における各モーター7の過負荷耐量等を考慮したトルクでの回生制動が行われるため、ラインを早期に停止させることが可能となる。
【0051】
また、本実施の形態では、モーター停止装置16がプラントコントローラー11とは別装置として構成されている。このため、プラントコントローラー11に不具合が発生した場合(例えば、プラントコントローラー11内の電源部が故障した場合)でも、ストリップ6を破断させることなく、ラインを停止させることができる。
【0052】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。
図5に示すように、モーター駆動装置10(n)の構成自体は、実施の形態1と同様である。本実施の形態では、非常停止手段から非常停止指令が出力された際に、モーター停止装置16から各モーター駆動装置10(n)に対して、制御対象のモーター7(n)に合わせた電流制限値が入力される場合について説明を行う。
【0053】
モーター駆動装置10(n)では、非常停止指令が入力されると、プラントコントローラー11からの運転指令をカットし、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対して0を入力する。また、モーター駆動装置10(n)に非常停止指令が入力される場合は、モーター停止装置16から各モーター駆動装置10(n)に対して、制御対象のモーター7(n)に合わせた電流制限値が入力される。
【0054】
速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)は、運転指令として0が入力され、且つ、モーター停止装置16から電流制限値が入力されると、ブレーキ8(n)を閉めることが可能なモーター7(n)に対しては、ブレーキ制御回路9(n)にブレーキ指令を出力する。これにより、ブレーキ8(n)が動作し、ブレーキ8(n)による制動力が発生する。また、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)は、上記電流制限値に基づくモーター指令を出力し、モーター7(n)を回生制動で停止させる。
以下に、図6も参照し、上記モーター停止装置16の構成及び機能について、具体的に説明する。
【0055】
図6はこの発明の実施の形態2におけるモーター停止装置の構成を示す図である。
本実施の形態におけるモーター停止装置16は、入力部17、記録部18、停止時間演算部22、電流制限値演算部23、出力部24により、その要部が構成される。なお、入力部17及び記録部18については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0056】
停止時間演算部22は、その時点において出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合、例えば、出力可能な最大トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を、各モーター7について演算する機能を有している。停止時間演算部22は、入力部17に入力された情報と記録部18に記録されている情報とに基づいて、上記演算を行う。停止時間演算部22は、例えば、ブレーキ8が備えられたモーター7については、ブレーキ8による制動も考慮して、上記停止時間の演算を行う。
【0057】
電流制限値演算部23は、非常停止時に、減速開始と減速終了(停止)とを各モーター7で一致させるための電流制限値を、各モーター7について演算する機能を有している。
電流制限値演算部23は、先ず、停止時間演算部22によって演算された各モーター7の停止時間の中から最大のもの(最大停止時間)を特定する。電流制限値演算部23は、最大停止時間を特定すると、その特定した最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、各モーター7について演算する。電流制限値演算部23は、上記特定した最大停止時間と、入力部17への入力情報及び記録部18の記録情報とに基づいて、上記演算を行う。そして、電流制限値演算部23は、各モーター7について適切な電流制限値を演算すると、その演算結果を出力部24に対して出力する。
【0058】
例えば、モーター7がDCモーターによって構成されている場合、電流制限値演算部23は、各モーター7について電機子電流制限値を演算し、その演算結果を出力部24に出力する。また、モーター7がACモーターでベクトル制御されている場合、電流制限値演算部23は、各モーター7についてトルク分電流制限値を演算し、その演算結果を出力部24に出力する。
【0059】
停止時間演算部22及び電流制限値演算部23の各演算は、常時、即ち、ペイオフリール1及びテンションリール4のコイル径情報と各モーター7の回転数情報とが入力部17に入力される度に行われる。即ち、出力部24が保持している情報(各モーター7に対応の電流制限値)は、常に最新の値に更新されている。
【0060】
出力部24は、入力部17から非常停止指令が入力されると、その時の各電流制限値、即ち、電流制限値演算部23によって演算された最新の各電流制限値をホールド(固定)し、それを各モーター駆動装置10に対して出力する。各モーター駆動装置10では、上述した通り、非常停止指令が入力されると、運転指令として0を入力するとともに、出力部24からの電流制限値に基づいて、上記最大停止時間で停止するように、対応のモーター7を回生制動させる。
【0061】
図7はこの発明の実施の形態2において非常停止時に使用されるモータートルクの一例を示す図、図8はこの発明の実施の形態2において非常停止時に使用されるモータートルクの他の例を示す図である。図7及び図8において、斜線部が、非常停止時に使われるモータートルクを示している。
【0062】
図4の斜線部と図7の斜線部との違いを考慮すると、本実施の形態において演算される停止時間は、実施の形態1において演算された停止時間よりも短くなることが分かる。即ち、本実施の形態では、各モーター7が出し得る最大トルクで回生制動が行われるため、非常停止時に、ラインをより早く停止させることが可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態では、非常停止開始時のモーター回転数がベース回転数よりも大きい場合、ベース回転数までの減速は、トルク及び速度が共に変化するため、一定速とはならない。このため、停止時間を合わせることはできるが、速度の変化率まで全てのモーター7において厳密に一致させることはできない。しかし、この時に、隣接するモーター7間に発生する速度差は小さいため、上記速度差を無視しても、ストリップ6が破断する可能性は低い。
【0064】
次に、本実施の形態においてモーター停止装置16が行う計算例について、詳細に説明する。
速度と時間との関係は、次式で表される。
【0065】
【数5】

【0066】
モーター7(n)が界磁範囲を持っている場合、ベース回転数を超えると、モータートルクは速度の関数となり、次式のように低減される。
【0067】
【数6】

【0068】
ここで、
M´(n):回転数Nの時のモータートルク(但し、N<N)
である。このため、最大回生制動を実施した場合の各モーター7(n)の停止時間t(n)[sec]は、停止開始時のモーター回転数が、ベース回転数以下である場合と、ベース回転数以上である場合とに分けて考える必要がある。
【0069】
<停止開始時のモーター回転数がベース回転数以下の場合>
各モーター7(n)の停止時間t(n)[sec]は、次式で表される。
【0070】
【数7】

【0071】
<停止開始時のモーター回転数がベース回転数以上の場合>
ベース回転数から停止までの時間は、上記式(7)から求めることができる。この時間をtB−>0(n)とする。また、停止開始時の回転数からベース回転数までの減速時間をtN−>B(n)とすると、各モーター7(n)の停止時間t(n)[sec]は、次式で表される。
【0072】
【数8】

【0073】
上述したように、モーター回転数がベース回転数以上の時、モータートルクは上記式(6)のように低減される。したがって、上記時間tN−>B(n)は、式(5)及び式(6)から次式のように表される。
【0074】
【数9】

【0075】
停止時間演算部22は、上記式(6)、式(8)及び式(9)から各モーター7(n)の停止時間t(n)を求めると、その中の最大値をtmaxとして電流制限値演算部23に出力する。なお、式(6)、式(8)及び式(9)のt(n)に上記tmaxを代入すると、k(n)を求めることができる。これは、各モーター7(n)の停止時間を一定にするためのモーター定格トルクT(n)に対する割合である。k(n)は過負荷耐量であるが、モーター特性を考慮し、電機子電流或いはトルク分電流をこのk(n)で制限すれば、図7に示すようなモータートルク特性を得ることができる。
【0076】
電流制限値演算部23が上記tmaxに基づき演算した各モーター7(n)の電流制限値は、出力部24に入力される。そして、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、出力部24はその時点における各電流制限値をモーター駆動装置10(n)に出力し、モーター7(n)を非常停止させる。このため、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、上記電流制限値によって制限されたトルクでの回生制動が行われる。結果として、各モーター7(n)は、非常停止の発生から最大停止時間tmax[sec]が経過した時に停止する。つまり、全てのモーター7(n)を、上記最大停止時間tmax[sec]で同期させて停止させることができる。
【0077】
なお、本実施の形態において説明しなかった構成については、実施の形態1と同様である。
【0078】
実施の形態3.
図9はこの発明に係るモーター停止用の制御装置が適用された冷間圧延ラインの構成を示す図、図10はこの発明の実施の形態3におけるモーター駆動装置の構成を示す図である。実施の形態1及び2では、モーター停止装置16を一つの装置として冷間圧延ラインに備えた場合について説明した。本実施の形態では、各モーター駆動装置10に個別に備えられた機能によって、実施の形態1におけるモーター停止装置16の機能を実現する場合について説明する。
【0079】
図9及び図10に示すように、各モーター駆動装置10(n)には、実施の形態1において説明した各構成に加え、モーター停止手段25(n)が備えられている。
モーター駆動装置10(n)では、プラントコントローラー11から運転指令が入力されると、実施の形態1と同様に、常時は、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)によって速度フィードバック制御を行い、適切なモーター指令及びブレーキ指令を出力する。
【0080】
また、モーター駆動装置10(n)では、非常停止指令が入力されると、プラントコントローラー11からの運転指令をカットし、速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対して0を入力する。更に、モーター駆動装置10(n)に非常停止指令が入力されると、モーター停止手段25(n)から速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対して、制御対象のモーター7(n)に合わせたトルク制限値が入力される。なお、その後のモーター駆動装置10(n)の動作は、実施の形態1と同様であり、トルク制限値によって制限されたトルクでの回生制動を実施し、制御対象のモーター7(n)を、他のモーター7(n)と同様に最大停止時間で停止させる。
以下に、図11も参照し、上記モーター停止手段25の構成及び機能について、具体的に説明する。
【0081】
図11はこの発明の実施の形態3におけるモーター停止手段の構成を示す図である。
モーター停止手段25は、入力部26、記録部27、停止時間演算部28、比較部29、トルク制限値演算部30、出力部31により、その要部が構成される。
【0082】
入力部26には、制御対象となるモーター7の回転数の情報が、リアルタイムで入力される。例えば、入力部26(1)にはモーター7(1)の現在の回転数情報が、入力部26(2)にはモーター7(2)の現在の回転数情報がリアルタイムで入力される。
また、入力部26には、非常停止手段から出力された非常停止指令も入力される。
【0083】
更に、モーター7(1)を制御対象とするモーター駆動装置10(1)内の入力部26(1)には、ペイオフリール1のコイル径情報がリアルタイムで入力される。同様に、モーター7(2)を制御対象とするモーター駆動装置10(2)内の入力部26(2)には、テンションリール4のコイル径情報がリアルタイムで入力される。
【0084】
記録部27には、制御対象のモーター7の定格と、そのモーター軸換算の機械部の慣性モーメント等の各種情報が予め記録されている。例えば、記録部27(1)には、モーター7(1)の定格や、モーター7(1)に接続された機械部の慣性モーメントといった情報が記録されている。
【0085】
停止時間演算部28は、制御対象のモーター7について、その時点(非常停止のための停止動作を開始する時)における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する機能を有している。停止時間演算部28は、入力部26に入力された情報と記録部27に記録されている情報とに基づいて、上記演算を行う。制御対象のモーター7にブレーキ8が備えられている場合、停止時間演算部28は、例えば、ブレーキ8による制動も考慮して、上記停止時間の演算を行う。
【0086】
停止時間演算部28は、上記演算を行うと、その演算結果(制御対象のモーター7の停止時間)を出力部31に出力する。出力部31では、停止時間演算部28から入力された停止時間を、他のモーター駆動装置10のモーター停止手段25に対して出力する。例えば、モーター7(1)を制御対象とするモーター駆動装置10(1)内のモーター停止手段25(1)では、停止時間演算部28(1)によってモーター7(1)の停止時間が演算され、その演算された停止時間の情報が、出力部31からモーター駆動装置10(2)乃至10(5)に対して出力される。
【0087】
上記機能を各モーター停止手段25が備えることにより、例えば、モーター駆動装置10(1)内のモーター停止手段25(1)には、モーター駆動装置10(2)乃至10(5)において演算された各停止時間が入力される。即ち、モーター停止手段25(1)には、出力部31(2)からその時点におけるモーター7(2)の停止時間が、同様に、出力部31(3)からモーター7(3)の停止時間が入力される。
【0088】
比較部29は、ラインに備えられた各モーター7の停止時間を比較し、その中で最大のもの(最大停止時間)を特定する機能を有している。具体的に、比較部29は、停止時間演算部28によって演算された制御対象のモーター7の停止時間と、他のモーター駆動装置10から取得した制御対象以外の各モーター7の停止時間との中から、最大停止時間を決定する。例えば、モーター停止手段25(1)内の比較部29(1)は、停止時間演算部28(1)からモーター7(1)の停止時間を、モーター駆動装置10(2)乃至10(5)から、モーター7(2)乃至7(5)の各停止時間を取得する。そして、その中から最大の停止時間を検索し、最大停止時間(tmax)の特定を行う。
比較部29の上記機能により、各モーター停止手段25において、同じ最大停止時間(tmax)が選択される。
【0089】
トルク制限値演算部30は、非常停止時に、減速開始と減速終了(停止)とを各モーター7で一致させるためのトルク制限値を、制御対象となるモーター7について演算する機能を有している。具体的に、トルク制限値演算部30は、比較部29によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、制御対象となるモーター7について演算する。トルク制限値演算部30は、上記特定された最大停止時間と、入力部26への入力情報及び記録部27の記録情報とに基づいて、上記演算を行う。そして、トルク制限値演算部30は、制御対象のモーター7について適切なトルク制限値を演算すると、その演算結果を出力部31に対して出力する。
【0090】
停止時間演算部28及びトルク制限値演算部30の各演算、並びに比較部29による比較演算は、常時、即ち、制御対象のモーター7の回転数情報(及び、演算に必要な場合はコイル径情報)が入力部26に入力される度に行われる。即ち、出力部31が保持している情報(制御対象のモーター7に対するトルク制限値)は、常に最新の値に更新されている。
【0091】
入力部26は、非常停止手段から非常停止指令が入力されると、その情報(例えば、非常停止指令)を出力部31に出力する。出力部31は、非常停止指令が入力されると、その時のトルク制限値、即ち、トルク制限値演算部30によって演算された最新のトルク制限値をホールド(固定)し、それを、速度制御回路12及び張力制御回路13に対して出力する。このため、モーター駆動装置10では、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、上記トルク制限値によって制限されたトルクでの回生制動が行われる。結果として、各モーター7は、非常停止の発生から最大停止時間tmax[sec]が経過した時に停止する。つまり、全てのモーター7を、上記最大停止時間tmax[sec]で同期させて停止させることができる。
【0092】
上記構成を有する制御装置であっても、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。また、本構成であれば、特有の装置を備えることなく、ラインにおいて、上記モーター停止装置16の機能を実現することが可能となる。
なお、本実施の形態において説明しなかった構成については、実施の形態1と同様である。また、各モーター停止手段25では、例えば、実施の形態1と同様の方法によって、停止時間やトルク制限値の演算を行う。
【0093】
実施の形態4.
本実施の形態では、各モーター駆動装置10に個別に備えられた機能(モーター停止手段25)によって、実施の形態2におけるモーター停止装置16の機能を実現する場合について説明する。
【0094】
本実施の形態において、モーター駆動装置10(n)の構成自体は、図10に示すものと同様である。本実施の形態では、非常停止手段から非常停止指令が出力された際に、モーター停止手段25(n)から速度制御回路12(n)及び張力制御回路13(n)に対して、制御対象のモーター7(n)に合わせた電流制限値が入力される。なお、非常停止指令が出力された時のモーター駆動装置10(n)の動作は、実施の形態2と同様である。即ち、モーター駆動装置10(n)は、非常停止指令が入力されると、電流制限値によって制限されたトルクでの回生制動を実施し、制御対象のモーター7(n)を、他のモーター7(n)と同様に最大停止時間で停止させる。
以下に、図12を参照し、上記モーター停止手段25の構成及び機能について、具体的に説明する。
【0095】
図12はこの発明の実施の形態4におけるモーター停止手段の構成を示す図である。
本実施の形態におけるモーター停止手段25は、入力部26、記録部27、停止時間演算部32、比較部33、電流制限値演算部34、出力部35により、その要部が構成される。なお、入力部26及び記録部27については、実施の形態3と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0096】
停止時間演算部32は、制御対象のモーター7について、その時点において出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合、例えば、出力可能な最大トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する機能を有している。停止時間演算部32は、入力部26に入力された情報と記録部27に記録されている情報とに基づいて、上記演算を行う。制御対象のモーター7にブレーキ8が備えられている場合、停止時間演算部32は、例えば、ブレーキ8による制動も考慮して、上記停止時間を演算する。
【0097】
停止時間演算部32は、上記演算を行うと、その演算結果(制御対象のモーター7の停止時間)を出力部35に出力する。出力部35では、上記出力部31と同様に、停止時間演算部32から入力された停止時間を、他のモーター駆動装置10のモーター停止手段25に対して出力する。また、各モーター停止手段25に備えられたこの機能により、例えば、モーター停止手段25(1)には、他のモーター駆動装置10(2)乃至10(5)において演算された各停止時間が入力される。
【0098】
比較部33は、ラインに備えられた各モーター7の停止時間を比較し、その中で最大のもの(最大停止時間)を特定する機能を有している。比較部33は、上記比較部29と同様に、停止時間演算部32によって演算された制御対象のモーター7の停止時間と、他のモーター駆動装置10から取得した制御対象以外の各モーター7の停止時間との中から、最大停止時間を決定する。各モーター停止手段25に備えられたこの機能により、全てのモーター停止手段25において、同じ最大停止時間(tmax)が選択される。
【0099】
電流制限値演算部34は、非常停止時に、減速開始と減速終了(停止)とを各モーター7で一致させるための電流制限値を、制御対象となるモーター7について演算する機能を有している。具体的に、電流制限値演算部34は、比較部33によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、制御対象となるモーター7について演算する。電流制限値演算部34は、上記特定された最大停止時間と、入力部26への入力情報及び記録部27の記録情報とに基づいて、上記演算を行う。そして、電流制限値演算部34は、制御対象のモーター7について適切な電流制限値を演算すると、その演算結果を出力部35に対して出力する。
【0100】
例えば、モーター7がDCモーターによって構成されている場合、電流制限値演算部34は、制御対象のモーター7について電機子電流制限値を演算し、その演算結果を出力部35に出力する。また、モーター7がACモーターでベクトル制御されている場合、電流制限値演算部34は、制御対象モーター7についてトルク分電流制限値を演算し、その演算結果を出力部35に対して出力する。
【0101】
停止時間演算部32及び電流制限値演算部34の各演算、並びに比較部33による比較演算は、常時、即ち、制御対象のモーター7の回転数情報(及び、演算に必要な場合はコイル径情報)が入力部26に入力される度に行われる。即ち、出力部35が保持している情報(制御対象のモーター7に対する電流制限値)は、常に最新の値に更新されている。
【0102】
入力部26は、非常停止手段から非常停止指令が入力されると、その情報(例えば、非常停止指令)を出力部35に出力する。出力部35は、非常停止指令が入力されると、その時の電流制限値、即ち、電流制限値演算部34によって演算された最新の電流制限値をホールド(固定)し、それを、速度制御回路12及び張力制御回路13に対して出力する。このため、モーター駆動装置10では、非常停止手段から非常停止指令が出力されると、上記電流制限値によって制限されたトルクでの回生制動が行われる。結果として、モーター7は、非常停止の発生から最大停止時間tmax[sec]が経過した時に停止する。つまり、全てのモーター7を、上記最大停止時間tmax[sec]で同期させて停止させることができる。
【0103】
上記構成を有する制御装置であっても、実施の形態2と同様の効果を奏することができる。また、本構成であれば、特有の装置を備えることなく、ラインにおいて、上記モーター停止装置16の機能を実現することが可能となる。
なお、本実施の形態において説明しなかった構成については、実施の形態2或いは3と同様である。また、各モーター停止手段25では、例えば、実施の形態2と同様の方法によって、停止時間や電流制限値の演算を行う。
【符号の説明】
【0104】
1 ペイオフリール
2 圧延スタンド
3、5 ブライドルロール
4 テンションリール
6 ストリップ
7 モーター
8 ブレーキ
9 ブレーキ制御回路
10 モーター駆動装置
11 プラントコントローラー
12 速度制御回路
13 張力制御回路
14 モータードライバ
15 速度センサー
16 モーター停止装置
17、26 入力部
18、27 記録部
19、22、28、32 停止時間演算部
20、30 トルク制限値演算部
21、24、31、35 出力部
23、34 電流制限値演算部
25 モーター停止手段
29、33 比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、前記連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、
前記モーターを制御するモーター駆動装置と、
を備えたプロセスラインにおいて前記各モーターを非常停止させるための制御装置であって、
前記払い出し機及び前記巻き取り機の各コイル径情報と前記各モーターの回転数情報とがリアルタイムで入力される入力部と、
前記各モーターの定格と前記各モーターに接続された機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、
前記入力部に入力された情報及び前記記録部に記録された情報に基づいて、前記各モーターについて、その時点における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する停止時間演算部と、
前記停止時間演算部によって演算された前記各モーターの停止時間の中から最大のものを特定し、この特定した最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、前記各モーターについて演算するトルク制限値演算部と、
ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、前記トルク制限値演算部によって演算された各トルク制限値を前記モーター駆動装置に出力し、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、
を備えたことを特徴とするモーター停止用の制御装置。
【請求項2】
連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、前記連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、
前記モーターを制御するモーター駆動装置と、
を備えたプロセスラインにおいて前記各モーターを非常停止させるための制御装置であって、
前記払い出し機及び前記巻き取り機の各コイル径情報と前記各モーターの回転数情報とがリアルタイムで入力される入力部と、
前記各モーターの定格と前記各モーターに接続された機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、
前記入力部に入力された情報及び前記記録部に記録された情報に基づいて、前記各モーターについて、出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算する停止時間演算部と、
前記停止時間演算部によって演算された前記各モーターの停止時間の中から最大のものを特定し、この特定した最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、前記各モーターについて演算する電流制限値演算部と、
ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、前記電流制限値演算部によって演算された各電流制限値を前記モーター駆動装置に出力し、その電流制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、
を備えたことを特徴とするモーター停止用の制御装置。
【請求項3】
前記各モーターは、DCモーターからなり、
前記電流制限値演算部は、特定した最大停止時間に合わせて停止させるための電機子電流制限値を、前記各モーターについて演算する
ことを特徴とする請求項2に記載のモーター停止用の制御装置。
【請求項4】
前記各モーターは、ベクトル制御されるACモーターからなり、
前記電流制限値演算部は、特定した最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク分電流制限値を、前記各モーターについて演算する
ことを特徴とする請求項2に記載のモーター停止用の制御装置。
【請求項5】
前記払い出し機のコイル径及び巻き取り機のコイル径を取得するコイル径取得手段と、
を更に備え、
前記入力部には、前記コイル径取得手段によって取得されたコイル径の情報がリアルタイムで入力されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモーター停止用の制御装置。
【請求項6】
連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、前記連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、
前記モーターのそれぞれに対応して設けられた複数のモーター駆動装置と、
を備えたプロセスラインにおいて前記各モーターを非常停止させるための制御装置であって、
前記各モーター駆動装置は、
制御対象のモーターの回転数情報がリアルタイムで入力される入力部と、
前記制御対象のモーターの定格とその機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、
前記入力部に入力された情報及び前記記録部に記録された情報に基づいて、前記制御対象のモーターについて、その時点における所定の一定トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算し、演算結果を、他のモーター駆動装置に対して出力させる停止時間演算部と、
前記停止時間演算部によって演算された停止時間と前記他のモーター駆動装置から取得した停止時間との中から最大のものを特定する比較部と、
前記比較部によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク制限値を、前記制御対象のモーターについて演算するトルク制限値演算部と、
ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、前記トルク制限値演算部によって演算されたトルク制限値を出力し、前記制御対象のモーターに、そのトルク制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、
を備え、
前記第1モーターを制御する前記モーター駆動装置は、前記第1モーターの回転数情報とともに、前記払い出し機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力され、
前記第2モーターを制御する前記モーター駆動装置は、前記第2モーターの回転数情報とともに、前記巻き取り機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力される
ことを特徴とするモーター停止用の制御装置。
【請求項7】
連続材の払い出し機を駆動するための第1モーター、及び、前記連続材の巻き取り機を駆動するための第2モーターを含む複数台のモーターと、
前記モーターのそれぞれに対応して設けられた複数のモーター駆動装置と、
を備えたプロセスラインにおいて前記各モーターを非常停止させるための制御装置であって、
前記各モーター駆動装置は、
制御対象のモーターの回転数情報がリアルタイムで入力される入力部と、
前記制御対象のモーターの定格とその機械部の慣性モーメントとが予め記録された記録部と、
前記入力部に入力された情報及び前記記録部に記録された情報に基づいて、前記制御対象のモーターについて、出力可能な所定の可変トルクで回生制動を実施した場合の停止時間を演算し、演算結果を、他のモーター駆動装置に対して出力させる停止時間演算部と、
前記停止時間演算部によって演算された停止時間と前記他のモーター駆動装置から取得した停止時間との中から最大のものを特定する比較部と、
前記比較部によって特定された最大停止時間に合わせて停止させるための電流制限値を、前記制御対象のモーターについて演算する電流制限値演算部と、
ラインを非常停止させるための非常停止指令が入力されると、前記電流制限値演算部によって演算された電流制限値を出力し、前記制御対象のモーターに、その電流制限値でトルク制限した回生制動を行わせる出力部と、
を備え、
前記第1モーターを制御する前記モーター駆動装置は、前記第1モーターの回転数情報とともに、前記払い出し機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力され、
前記第2モーターを制御する前記モーター駆動装置は、前記第2モーターの回転数情報とともに、前記巻き取り機のコイル径情報がその入力部にリアルタイムで入力される
ことを特徴とするモーター停止用の制御装置。
【請求項8】
前記各モーターは、DCモーターからなり、
前記電流制限値演算部は、最大停止時間に合わせて停止させるための電機子電流制限値を、前記制御対象のモーターについて演算する
ことを特徴とする請求項7に記載のモーター停止用の制御装置。
【請求項9】
前記各モーターは、ベクトル制御されるACモーターからなり、
前記電流制限値演算部は、最大停止時間に合わせて停止させるためのトルク分電流制限値を、前記制御対象のモーターについて演算する
ことを特徴とする請求項7に記載のモーター停止用の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−175808(P2012−175808A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35427(P2011−35427)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】