説明

モータ制御装置

【課題】モータに矩形波電圧を印加するモータ制御装置において、過電流の発生を抑制する。
【解決手段】モータに印加する電圧の位相を変化させてトルクを調整するとともに、モータに印加する電圧波形を矩形波形とPWM波形の間で切り替えてモータを制御するモータ制御装置であって、モータの回転数に応じて電圧位相の下限値を規定する下限値曲線a,c,eを含むマップを備え、モータの回転数Nに応じた電圧位相φvが所定の下限値曲線a,c,e以下となった場合に、モータに印加する電圧波形を矩形波形からPWM波形に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両を駆動するモータを制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータにより直流電力をスイッチング制御して交流モータや交流モータジェネレータを駆動する方法が多く用いられている。インバータによる駆動方式は、PWMによるものが制御性もよく一般的であるが、PWMでは電圧の利用率に限界があり、高出力が得られない。一方、交流モータに矩形波を印加して駆動する場合には、PWMよりも高出力を得られるという特徴がある。そこで、PWMと矩形波を必要に応じて切り替えて交流モータに印加する方法が用いられている。
【0003】
例えば、モータの回転数が高い場合には、電圧波形を矩形波とし、電圧の位相を制御する矩形波電圧位相制御モードでモータを駆動し、モータの回転数が小さくなり、電圧位相が電流に対する最大トルク出力となる位相まで小さくなった際に、モータの制御方式を矩形波電圧位相制御モードからPWM電流制御モードに切り替える方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、矩形波をモータに印加する場合、1つの矩形波のパルスがモータに印加されている間はモータに流す電流を制御することができないので、モータの駆動状態によってはモータに過電流が流れる場合がある。特に、昇圧コンバータでモータに印加する電圧を昇圧している際にモータに矩形波を印加すると過電流の発生する場合が多くなる傾向がある。そこで、昇圧コンバータが昇圧動作を開始した場合には、モータへの印加電圧を矩形波からPWM波形に切り替えて過電流を抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−218299号公報
【特許文献2】特開2005−051894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、埋め込み磁石同期モータのように、マグネットトルクとリラクタンストルクを利用するモータでは、モータの出力トルクは電圧位相が大きくなるに従って大きくなり、出力トルクが最大となる電圧位相を超えると電圧位相が大きくなるに従って出力トルクが小さくなってくる。このため、電圧位相を変化させてトルクを調整する場合、電圧位相を変化させることの上限は、この出力トルクが最大となる電圧位相となる。この上限値は、モータに印加される電圧やモータの回転数によって変化するため、回転数に対して電圧位相の上限値を規定したマップによって電圧位相が上限値を超えないように制御している。
【0007】
一方、モータに電圧を印加した場合、モータからは逆起電圧がモータに流れる。モータの電流を流して回転し続けるにはこの逆起電圧以上の電圧を印加することが必要となってくる。つまり、モータに印加する電圧はモータからの逆起電圧よりも大きいことが必要となってくる。矩形波をモータに印加して電圧位相制御を行う場合、矩形波をオンしてからオフするまでの間はモータに印加電圧が掛かり続けるので、印加電圧と逆起電力の差が大きくなる時間を調整できない。このため、印加電圧と逆起電圧の差によってモータに大きな電流が流れてしまう場合がある。特に、モータの回転数が低くなってくると、印加電圧と逆起電圧との差が大きくなる時間が長くなることから、逆起電圧によってモータに流れる電流に大きなスパイク状のピークが発生し、過電流が発生してしまう場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は、モータに矩形波電圧を印加するモータ制御装置において、過電流の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のモータ制御装置は、モータに印加する電圧の位相を変化させてトルクを調整するとともに、前記モータに印加する電圧波形を矩形波形とPWM波形の間で切り替えて前記モータを制御するモータ制御装置であって、モータの回転数に応じて電圧位相の下限値を規定する下限値曲線を含むマップを備え、前記モータの回転数に応じた電圧位相が所定の下限値曲線以下となった場合に、前記モータに印加する電圧波形を前記矩形波形から前記PWM波形に切り替えること、を特徴とする。
【0010】
本発明のモータ制御装置において、前記マップは、前記モータに印加される電圧に対する複数の前記下限値曲線を含み、前記モータの回転数に応じた電圧位相が前記モータに印加される電圧に対応する前記下限値曲線以下となった場合に、前記モータに印加する電圧波形を前記矩形波形から前記PWM波形に切り替えること、としても好適である。
【0011】
本発明のモータ制御装置において、前記下限値曲線は、前記モータに印加される電圧を取得する電圧センサの誤差分だけモータの回転数の高い側に設定されていること、としても好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、モータに矩形波電圧を印加するモータ制御装置において、過電流の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態におけるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの全体構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態においてモータに印加される電圧波形を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態におけるモータ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態におけるモータ制御装置のブロック図である。
【図5】本発明の実施形態におけるモータ制御装置に格納されているモータの回転数に応じて電圧位相の下限値を規定するマップである。
【図6】モータにおける回転数に対応する電圧位相とモータ相電流の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態におけるモータ制御装置によるモータの運転点の変化をdq座標軸上で示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態におけるモータ制御装置を適用したモータの電流波形と従来技術の制御装置を適用したモータの電流波形とを比較する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の制御装置60を用いたモータ駆動システム10は、バッテリ11と、バッテリ11から出力される低圧の直流電力を昇圧して高圧の直流電力として出力する昇圧コンバータ20と、昇圧コンバータ20によって昇圧された高圧の直流電力をモータ50駆動用の三相交流電力に変換して出力するインバータ30と、バッテリ11と昇圧コンバータ20との間にバッテリ11と並列に設けられた低圧側コンデンサ13と、低圧側コンデンサ13の両端の電圧を検出する低圧側電圧検出器54と、昇圧コンバータ20とインバータ30との間に並列に設けられた高圧側コンデンサ14と、高圧側コンデンサ14の両端の電圧を検出する高圧側電圧検出器55と、高圧側コンデンサ14と並列に設けられた放電抵抗15と、低圧側コンデンサ13とバッテリ11との間に設けられ、バッテリ11とモータ駆動システム10とを遮断するシステムメインリレー12と、モータ50の制御を行う制御装置60とを備えている。モータ駆動システム10のインバータ30はモータ50に接続されている。モータ50はU,V,Wの3相のコイル51,52,53と永久磁石を備える三相の回転電機で、ロータの角度位置θを検出するレゾルバ56と、V相、W相の各コイル52,53に流れる電流iv,iwを検出する電流センサ58,59が設けられている。
【0015】
昇圧コンバータ20は、基準電路49がバッテリ11のマイナス側とインバータ30のマイナス側との間に共通に接続され、入力側の低圧電路48がバッテリ11のプラス側に接続され、昇圧した後の高圧側の高圧電路47がインバータ30のプラス側に接続されている非絶縁双方向型のコンバータである。
【0016】
図1に示すように、昇圧コンバータ20は、スイッチング素子である上アームトランジスタ21と、下アームトランジスタ22と、電磁エネルギーを蓄積するリアクトル25とを備えている。上アームトランジスタ21と下アームトランジスタ22とは、上アームトランジスタ21のエミッタ端子と下アームトランジスタ22のコレクタ端子とが直列に接続され、上アームトランジスタ21のコレクタ端子は高圧電路47に接続され、下アームトランジスタ22のエミッタ端子は基準電路49に接続されている。上アームトランジスタ21及び下アームトランジスタ22の各ベース端子は制御装置60に接続され、各トランジスタ21,22は制御装置60の指令によってオンオフ動作する。
【0017】
各トランジスタ21,22の各エミッタ端子とコレクタ端子との間には、各エミッタ端子からコレクタ端子に向かう方向が順方向になるように、逆並列に上アームダイオード23と下アームダイオード24とが接続されている。
【0018】
上アームトランジスタ21と下アームトランジスタ22との接続点57は、低圧電路48に接続され、低圧電路48の接続点57とバッテリ11のプラス側との間に電磁エネルギーを蓄積するリアクトル25が設けられている。
【0019】
図1に示すように、インバータ30は、U,V,Wの各相のスイッチング動作を行う複数のトランジスタと各トランジスタに逆並列に接続された各ダイオードとを備えている。図1に示すように、U相上アームトランジスタ31のエミッタ端子とU相下アームトランジスタ32のコレクタ端子は直列に接続され、U相上アームトランジスタ31のコレクタ端子は高圧電路47に接続され、U相下アームトランジスタ32のエミッタ端子は基準電路49に接続されている。U相上アームトランジスタ31とU相下アームトランジスタ32の接続点はモータ50のU相コイル51に接続されている。U相の各トランジスタ31,32の各エミッタ端子とコレクタ端子との間には、各エミッタ端子からコレクタ端子に向かう方向が順方向になるように、逆並列にU相上アームダイオード33とU相下アームダイオード34とが接続されている。U相上アームトランジスタ31及びU相下アームトランジスタ32の各ベース端子は制御装置60に接続され、U相の各トランジスタ31,32は制御装置60の指令によってオンオフ動作する。
【0020】
V相、W相も同様に、V相上アームトランジスタ35、V相下アームトランジスタ36、V相上アームダイオード37、V相下アームダイオード38、W相上アームトランジスタ39、W相下アームトランジスタ40、W相上アームダイオード41、W相下アームダイオード42が接続され、各トランジスタ35,36,39,40の各ベース端子は制御装置60に接続され、制御装置60の指令によってオンオフ動作する。
【0021】
制御装置60は、内部に信号処理や演算を行うCPUと、プログラム、制御データなどを格納するメモリを含むコンピュータである。低圧側電圧検出器54と高圧側電圧検出器55は制御装置60に接続され、制御装置60は各電圧検出器54,55の検出信号を取得することができ、システムメインリレー12も制御装置60に接続され、制御装置60の指令によってオンオフ動作する。モータ50のロータの角度位置θを検出するレゾルバ56と、モータ50のV相、W相の各コイル52,53に流れる電流iv,iwを検出する電流センサ58,59とは制御装置60に接続され、制御装置60はモータ50のロータの角度位置θとV相、W相の各コイル52,53に流れる電流iv,iwとを取得することができる。また、制御装置60はレゾルバ56の信号に基づいてモータ50の回転数を取得することができる。
【0022】
制御装置60は、低圧側電圧検出器54で検出した低圧側電圧VLと、高圧側電圧検出器55で検出した高圧側電圧VHとによって昇圧コンバータ20の昇圧動作を制御する。ここで、高圧側電圧VHは、モータ50に印加される電圧である。また、制御装置60は後で説明する図5に示すようなモータ50の回転数Nと高圧側電圧VHによって電圧位相φvの上限と下限とを規定する電圧位相制限マップを内蔵しており、このマップに基づいて電圧位相φvを制限すると共に、モータに印加する電圧波形を矩形波形からPWM波形に切り替える。
【0023】
図2に示すように、本発明の実施の形態によるモータ駆動システム10は、制御装置60の指令によってインバータ30の各トランジスタ31〜40をオンオフ動作させて正弦波PWM波形、過変調PWM波形、矩形波形の3つの電圧波形を出力する。
【0024】
正弦波PWM波形は、一般的なPWM波形として用いられるものであり、正弦波状の基本波と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って各トランジスタ31〜40をオンオフさせ、各上アームトランジスタ31,35,39のオン期間に対応するハイレベル期間と、各下アームトランジスタ32,36,40のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるように各トランジスタ31〜40のオンオフのデューティ比が制御される。つまり、正弦波PWM波形は、その集合が疑似的に正弦波となる様にパルスの幅を変化させたパルスの集合である。正弦波PWM波形では、基本波成分の電圧をインバータ入力電圧の0.61倍までしか高めることができない。
【0025】
一方、矩形波形は、上記一定期間内で、各トランジスタ31〜40のオンオフのデューティ比を最大値に維持した場合に相当し、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波形1パルス分を交流モータに印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。また、過変調PWM波形は、搬送波の振幅を縮小するように歪ませた上で上記正弦波PWM波形と同様に各トランジスタ31〜40をオンオフさせるものであり、その集合が疑似的に歪んだ正弦波となる様にパルスの幅を変化させたパルスの集合である。
過変調PWM波形は、基本波成分を歪ませることによって、変調率を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。
【0026】
正弦波PWM波形は、トルク変動が小さいこと、各トランジスタ31〜40のオンオフのデューティ比によって基本波成分の電圧を変化させることができることから、モータ50の制御性が良いという特徴がある。一方の矩形波形は、変調率が高く電源電圧の利用効率が高いので、モータ50の出力トルクを増大させる場合に有効であるが、基本波形の電圧を変更することができないため、制御性が良くないという欠点を持つ。可変調PWM波形は、正弦波PWM波形と矩形波形との間の特性を持ち、中間速度領域での出力を向上させる場合に有効である。
【0027】
以上のように構成されたモータ駆動システム10の制御装置60は、図3に示すフローチャートの様に、モータ50が高回転数で回転している場合には、モータ50に印加する矩形波の電圧位相φvを変化させることによって出力トルクをトルク指令値Trqcomにする矩形波電圧位相制御を行い、電圧位相φvが後で図5を参照して説明する下限値曲線以下となったら印加電圧波形を矩形波形からPWM波形に切り替え、PWM電流制御を行う。矩形波電圧位相制御は、図4に示すトルクフィードバック部200Bによって行われ、PWM電流制御は図4に示す電流フィードバック部200Aによって行われる。以下、モータ駆動システム10の動作を説明する前に、トルクフィードバック部200Bの中の位相リミッタ440に格納されている電圧位相制限マップについて説明する。
【0028】
モータ50の出力トルクは電圧位相φvが大きくなるに従って大きくなり、出力トルクが最大となったら電圧位相φvが大きくなるにつれて出力トルクが小さくなってくる。このため、電圧位相φvを変化させてトルクを調整する場合、電圧位相φvは出力トルクが最大となる電圧位相が上限値となる。
【0029】
矩形波をモータに印加して電圧位相制御を行う場合、矩形波をオンしてからオフするまでの間は印加電圧が掛かり続けるので、印加電圧と逆起電力の差が大きくなる時間を調整できない。このため、印加電圧と逆起電圧の差によってモータに大きな電流が流れてしまう場合がある。図6に示す様に、モータ50の各相に流れる相電流は、電圧位相φvと回転数Nとモータに印加される電圧、即ち、高圧側電圧VHによって変化する。図6に示す点線qは、高圧側電圧VHが通常電圧で、モータ50の回転数Nが高い場合の電圧位相φvに対する相電流の変化を示し、図6に示す実線pは、高圧側電圧VHが通常電圧で、モータ50の回転数Nが低い場合の電圧位相φvに対する相電流の変化を示している。図6の点線qに示すように、モータ50の回転数が高い場合、電圧位相φvがゼロ以下、つまり、電圧位相φvがロータのd軸に対して遅角側になると、モータ50の相電流は急速に大きくなるが、電圧位相φvがゼロ以上、つまり、電圧位相φvがロータのd軸に対して進角側では、モータ50の電圧位相φvが大きくなってもモータ50の相電流はあまり大きくならない。このため、図6に示す様に、モータ50の相電流が制限値I0を超えるのは、電圧位相φvがマイナスになった場合、或いは、電圧位相φvが先に述べたトルク出力が最大となる電圧位相φv2よりも大きい場合となる。このため、モータ50の回転数Nが高い場合には、電圧位相φvは、トルク出力が最大となる電圧位相φv2によって上限値が決まるが、電圧位相φvが正の場合には下限値はなく、電圧位相φvがゼロとなるまで変化させることができる。
【0030】
一方、モータ50の回転数が低い場合には、図6の実線pに示すように、電圧位相φvがゼロに近づくにつれて相電流が急速に大きくなり、図6に示す電圧位相φv0以下になると、モータ50の相電流は制限値I0を超えてしまい、過電流が発生するようになる。また、電圧位相φvを増加させていくと、相電流は一旦小さくなった後、急速に大きくなり、トルク出力最大の電圧位相φv2に達する前の電圧位相φv1で制限値I0を越えてしまう。このため、モータ50の回転数Nが低い場合には、電圧位相φvは、相電流による下限の電圧位相φv0と相電流による上限の電圧位相φv1の間しか変化させることができなくなる。
【0031】
このように、モータ50の回転数Nに対する電圧位相φvの上限値と下限値とをマップにしたのが図5に示す電圧位相制限マップである。図5に示す実線bは、高圧側電圧VHが通常電圧の場合の電圧位相φvの上限を示す上限値曲線であり、回転数NがN1よりも高い場合には、図6を参照して説明したトルク出力最大となる電圧位相φv2によって決まり、回転数NがN1よりも低い場合には、図6を参照して説明した相電流による上限の電圧位相φv1によって決まってくる。また、図5に示す実線aは高圧側電圧VHが通常電圧の場合の電圧位相φvの下限を示す下限値曲線である。この下限値曲線は、図6を参照して説明した相電流による下限の電圧位相φv0によって決まってくる。
【0032】
従って、モータ50の回転数Nが低く、電圧位相φvの下限値曲線a以下の領域、つまり、図5にハッチングで示す領域Aでは、モータ50の相電流を制限値I0以下とするために、電圧波形を矩形波形からPWM波形に切り替え、制御方式を電圧位相制御から電流制御に切り替える。
【0033】
また、図5に示す上限値曲線b、下限値曲線aは共に昇圧コンバータ20からモータ50に供給される高圧側電圧VHによって変化する。高圧側電圧VHが通常電圧よりも高い場合には、モータ50に流れる相電流が大きくなるので、図5の一点鎖線で示す様に、上限値曲線dは先に説明した通常電圧の場合の上限値曲線bよりも低い位置となり、高圧側電圧VHが低い場合には、モータ50に流れる相電流が小さくなるので、図5の破線で示す様に、上限値曲線fは先に説明した通常電圧の場合の上限値曲線bよりも高い位置となる。また、高圧側電圧VHが高い場合には、図5の一点鎖線で示す様に、下限値曲線cは先に説明した通常電圧の場合の下限値曲線aよりも上、或いは高回転数側によった位置となり、高圧側電圧VHが低い場合には、図5の破線で示す様に、下限値曲線eは先に説明した通常電圧の場合の下限値曲線aよりも下或いは、低回転数側によった位置となる。
【0034】
以下、モータ駆動システム10の動作を説明する。まず、高圧側電圧VHが通常電圧でモータ50の運転点が図5に示す点P1にある場合のモータ50の制御について説明する。この図5に示す点P1は、図7に示すdq軸上では、モータ50のd軸電流、q軸電流が、電流一定円gの上の点P1にある場合に相当する。図3のステップS101に示すように、トルクフィードバック部200Bの座標変換部220は、電流センサ58,59からモータ50のV相、W相の各コイル52,53に流れる電流iv,iwと、レゾルバ56からロータの角度位置θを取得する。また、トルクフィードバック部200Bの位相リミッタ440は、高圧側電圧検出器55で検出した高圧側電圧VHを取得する。
【0035】
座標変換部220は、取得した電流iv,iw、ロータの角度位置θとからモータ50のU,V,Wの各相の電流iu,iv,iwをd軸電流Id、q軸電流Iqに変換し、トルク推定部420は、このId,Iqからモータ50の出力トルクの推定値を計算する。そして、トルクフィードバック部200Bに入力されるトルク指令値Trqcomとトルク推定値とが比較され、トルク差ΔTqが計算される。そして、PI演算部430によってこのトルク差ΔTqから電圧位相φvの増減量Δθを計算する。
【0036】
図3のステップS102に示すように、位相リミッタ440は、当初の電圧位相φvに電圧位相の増減量Δθを加えて、増減後の電圧位相φvを計算する。そして、図3のステップS103に示すように、位相リミッタ440は、内部に格納された図6に示す電圧位相制限マップを用いて、増減後の電圧位相φvと、レゾルバ56から取得したロータの角度位置θから計算したロータの回転数Nと、高圧側電圧検出器55で検出した高圧側電圧VHとから増減後の電圧位相φvが高圧側電圧VHに対応する電圧位相φvの上限値曲線b,d,f以上となっていないか、或いは下限値曲線a,c,e以下となっていないかを確認する。運転点P1の場合、高圧側電圧VHは通常電圧であるから、位相リミッタ440は、修正後の増減後の電圧位相φvが上限値曲線b以上ではなく、下限値曲線a以下ではない場合には、修正後の電圧位相φvと電圧位相の増減量Δθを信号発生部450に出力する。信号発生部450はこの修正後の電圧位相φvと電圧位相の増減量Δθに基づいて、昇圧コンバータ20から出力される電圧をオンオフする信号を出力する。インバータ30はこの信号によって各トランジスタ31〜40をオンオフさせ、所定の電圧位相φvの矩形波をモータ50に印加し、矩形波電圧位相制御を行う。
【0037】
先に説明した運転点P1からモータ50の回転数Nが低下してくると、それにつれてモータ50の電圧位相φvは低下し、モータ50の運転点は図5の点P1からP2に移動してくる。運転点P2では高圧側電圧VHは運転点P1と同様の通常電圧である。モータ50の運転点の移動は図7に示すdq軸上では、例えば、電流一定円gの上の点P1から円gに沿って円g上にある点P2に移動する。図7に示すように、点P2は、下限値曲線aが設定されていない場合の矩形波電圧位相制御からPWM電流制御への切り替え点P2´よりも電流位相が大きい別の位置となっている。
【0038】
先に述べたように、トルクフィードバック部200Bは図3のステップS101に示す様に、電流iv,iw、ロータの角度位置θ、高圧側電圧VHを取得し、図3のステップS102に示すように、位相リミッタ440は、当初の電圧位相φvに電圧位相の増減量Δθを加えて、増減後の電圧位相φvを計算し、図3のステップS103に示すように、位相リミッタ440は、内部に格納された図6に示す電圧位相制限マップを用いて、増減後の電圧位相φvと、ロータの回転数Nと、高圧側電圧VHとから増減後の電圧位相φvが上限値曲線b以上となっていないか、或いは下限値曲線a以下となっていないか確認する。
【0039】
図5のモータ50の運転点P2は、電圧位相φvは下限値曲線aの上にあるので、図3のステップS103に示すように、位相リミッタ440は、増減後の電圧位相φvは下限値曲線b以下となっていると判断する。そして、位相リミッタ440は、信号発生部450に修正後の電圧位相φvと電圧位相の増減量Δθを出力せず、図3のステップS104に示すように、モード切り替え部150に矩形波電圧位相制御モードとPWM電流制御モードとを切り替える信号を出力する。すると、モード切り替え部150は、入力されていたトルク指令値Trqcomの出力先をトルクフィードバック部200Bから電流フィードバック部200Aに切り替え、モータ50の制御をトルクフィードバック部200Bから電流フィードバック部200Aに切り替える。
【0040】
電流フィードバック部200Aの電流指令生成部210は、入力されたトルク指令値Trqcomと内部に格納した電流指令マップとからd軸、q軸の各電流指令値Idcom,Iqcomを生成して出力する。また、トルクフィードバック部と同様、電流フィードバック部200Aの座標変換部220は、電流センサ58,59から取得したモータ50のV相、W相の各コイル52,53に流れる電流iv,iwと、レゾルバ56から取得したロータの角度位置θを取得し、モータ50のd軸電流Id、q軸電流Iqを計算する。そして、各電流指令値Idcom,Iqcomとモータ50のd軸、q軸の電流Id,Iqの差ΔId,ΔIqがPI演算部240に入力され、PI演算部240はd軸電圧の指令Vd#、q軸電圧の指令Vq#を出力する。そして、この各電圧指令Vd#、Vq#は、座標変換部250でU,V,Wの各相電圧信号Vu,Vv,Vwに変換され、PWM部260に入力される。PWM部260は入力された各相電圧信号Vu,Vv,Vwに基づいてインバータ30の各トランジスタ31〜40をオンオフさせ、PWM波形をモータ50に印加し、PWM電流制御を行う。
【0041】
更に、モータ50の回転数Nが低下すると、モータ50の運転点は図5に示す点P3に移る。この場合、モータ50の制御はPWM電流制御になっているので、図7に示すように、dq軸上の運転点は、点P2に近い最大トルク制御線jの上を移動する。モータ50の回転数Nが変化した場合、モータ50は線jの線上を移動する様、dq軸の電流がフィードバック制御される。
【0042】
本発明の制御装置60は、電圧位相φvが下限値曲線a以下となった場合にモータ50の制御を矩形波電圧位相制御からPWM電流制御に切り替えるので、モータに流れる電流波形は図8(b)の線sに示すような正弦波波形となり、図8(a)に示す線rの様な矩形波電圧位相制御の場合の電流のピークの発生を抑制し、過電流を抑制することができる。
【0043】
以上説明したモータ制御システム10の動作においては、高圧側電圧VHが通常電圧の場合について説明したが、高圧側電圧VHが通常電圧よりも高い場合には、位相リミッタ440は図5に示す上限値曲線dと下限値曲線cによって矩形波電圧位相制御とPWM電流制御とを切り替える信号を出力し、高圧側電圧VHが通常電圧よりも低い場合には、位相リミッタ440は図5に示す上限値曲線fと下限値曲線eによって矩形波電圧位相制御とPWM電流制御とを切り替える信号を出力する。また、以上説明した本実施形態では、矩形波から正弦波PWM波形に切り替えることとして説明したが、電圧波形を矩形波形から過変調PWM波形に切り替えて電流制御を行うようにしてもよい。
【0044】
また、高圧側電圧検出器55から取得する高圧側電圧VHに計測誤差がある場合には、瞬間的に過電流が発生してしまう場合があるので、図5に示すように、下限値曲線aは、計測誤差を考慮しない場合の下限値曲線a´よりも回転数Nの高い側に寄せて設定する様にしてもよい。この場合、より確実に過電流の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 モータ駆動システム、11 バッテリ、12 システムメインリレー、13 低圧側コンデンサ、14 高圧側コンデンサ、15 放電抵抗、20 昇圧コンバータ、21,22,31,32,35,36,39,40 トランジスタ、23,33,37,41 上アームダイオード、24,34,38,42 下アームダイオード、25 リアクトル、30 インバータ、47 高圧電路、48 低圧電路、49 基準電路、50 モータ、51,52,53 コイル、54 低圧側電圧検出器、55 高圧側電圧検出器、56 レゾルバ、57 接続点、58,59 電流センサ、60 制御装置、150 モード切り替え部、200A 電流フィードバック部、200B トルクフィードバック部、210 電流指令生成部、220,250 座標変換部、240,430 PI演算部、260 PWM部、420 トルク推定部、440 位相リミッタ、450 信号発生部、a,a´,c,e 下限値曲線、b,d,f 上限値曲線、g 電流一定円、I0 制限値、Id,Iq 電流、Idcom,Iqcom 電流指令値、j 最大トルク制御線、N 回転数、ΔTq トルク差、Δθ 増減量、θ 角度位置、φv,φv0,φv1,φv2 電圧位相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに印加する電圧の位相を変化させてトルクを調整するとともに、前記モータに印加する電圧波形を矩形波形とPWM波形の間で切り替えて前記モータを制御するモータ制御装置であって、
モータの回転数に応じて電圧位相の下限値を規定する下限値曲線を含むマップを備え、前記モータの回転数に応じた電圧位相が所定の下限値曲線以下となった場合に、前記モータに印加する電圧波形を前記矩形波形から前記PWM波形に切り替えること、
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記マップは、前記モータに印加される電圧に対する複数の前記下限値曲線を含み、
前記モータの回転数に応じた電圧位相が前記モータに印加される電圧に対応する前記下限値曲線以下となった場合に、前記モータに印加する電圧波形を前記矩形波形から前記PWM波形に切り替えること、
を特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御装置であって、
前記下限値曲線は、前記モータに印加される電圧を取得する電圧センサの誤差分だけモータの回転数の高い側に設定されていること、
を特徴とするモータ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−74734(P2013−74734A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212445(P2011−212445)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】