説明

モータ制御駆動装置

【課題】従来よりも、推定したロータの位相の誤差を低減することが出来るものを提供することを目的とする。
【解決手段】モータ制御駆動装置が、センサレス制御方式の永久磁石同期モータの各相巻線に電圧を供給することによって永久磁石同期モータを駆動するモータ制御駆動装置であって、永久磁石同期モータへ供給する相電圧を検出する相電圧検出手段と、相電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、ゼロクロス点から永久磁石同期モータのロータの位相推定値を算出する位相演算手段と、ゼロクロス点のタイミングで、位相推定値をゼロクロス点に応じた適正値に補正することによって補正位相推定値を算出する位相補正手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、永久磁石同期モータのセンサレス制御における、ロータの位相推定方法が開示されている。このロータの位相推定方法では、電圧方程式、差分方程式、理想状況式、誤差演算方程式及び位相推定演算式の5つの式を用いて、ロータの位相を推定している。
また、永久磁石同期モータのセンサレス制御における、ロータの位相推定に関する発明として、下記特許文献1には、相電流の検出値の1階差分を用いてDCブラシレスモータのロータ角度を精度良く検出する方法及びDCブラシレスモータの制御装置が開示されている。このDCブラシレスモータの制御装置では、3制御サイクルにおける出力電圧の総和がゼロとなる周期信号を、電流フィードバック制御による駆動電圧Vfbに重畳し、該3制御サイクル中の駆動電圧Vfbを一定に保持する。そして、各制御サイクルにおける1階差分電流を用いて、ロータ角度の実施値と推定値との位相差θeを算出し、該位相差θeを用いたオブザーバの追従演算によってロータ角度の推定値θ^を算出する。同様に、下記特許文献2、特許文献3及び特許文献4にも、永久磁石同期モータのセンサレス制御における、ロータの位相推定に関する発明が開示されている。
【0003】
しかしながら、下記非特許文献1及び下記特許文献1〜4には、ロータの位相推定における処理が煩雑である為に、位相推定処理を実行するプロセッサに大きな負荷がかかってしまうという問題が存在した。このような問題を解決することが出来るものとして、下記特許文献5には、同期機のセンサレス制御において、同期機の電流擾乱の抑制や変換器の異常停止が回避可能な同期機駆動制御装置か開示されている。この同期機駆動制御装置は、直流電圧を交流電圧に変換する変換器と、変換器によって駆動される同期機と、変換器を制御する変換器制御装置とから構成され、同期機の複数の巻線のうち2相間に生じる1つの線間電圧を観測する線間電圧観測手段と、この線間電圧観測手段により観測された1つの線間電圧により同期機の回転周波数ωと回転位相角θを演算して出力する推定演算手段04とを、備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−121782号公報
【特許文献2】特開2007−143275号公報
【特許文献3】特開2007−143276号公報
【特許文献4】特開2004−166408号公報
【特許文献5】特開2006−217754号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】武田洋二他共著、「埋込磁石同期モータの設計と制御」(2001年,オーム会社発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したように、上記非特許文献1及び上記特許文献1〜4における発明では、ロータの位相推定における処理が煩雑である為に、位相推定処理を実行するプロセッサに大きな負荷がかかってしまい、特に高速な処理が必要となる場合に、その処理の煩雑さが大きな欠点になってしまう。また、このような問題を解決することが出来る発明として上記特許文献5の発明が開示されているが、この発明では、線間電圧に基づく積分値から位相を推定しているが、サンプリングの遅れや計算による遅れ等によって、積分誤差が大きくなってしまうという問題が存在する。そして、この積分誤差が大きくなってしまうと、永久磁石同期モータの動作の効率を低下させ、また脱調(回転磁界の回転速度とロータの回転速度とが一致しない状態)を発生させてしまう。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも、推定したロータの位相の誤差を低減することが出来るものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、モータ制御駆動装置に係る第1の解決手段として、センサレス制御方式の永久磁石同期モータの各相巻線に電圧を供給することによって前記永久磁石同期モータを駆動するモータ制御駆動装置であって、前記永久磁石同期モータへ供給する相電圧を検出する相電圧検出手段と、前記相電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、前記ゼロクロス点から前記永久磁石同期モータのロータの位相推定値を算出する位相演算手段と、前記ゼロクロス点のタイミングで、前記位相推定値をゼロクロス点に応じた適正値に補正することによって補正位相推定値を算出する位相補正手段とを具備するという手段を採用する。
【0009】
本発明では、モータ制御駆動装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、相電圧検出手段は、2つ以上の相巻線の相電圧を検出し、前記ゼロクロス点検出手段は、前記2つ以上の相巻線の相電圧から線間電圧を算出し、当該線間電圧のゼロクロス点を検出するという手段を採用する。
【0010】
本発明では、モータ制御駆動装置に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、相電圧検出手段は、2つ以上の相巻線の相電圧を検出し、前記ゼロクロス点検出手段は、前記2つ以上の相巻線の相電圧のゼロクロス点を検出するという手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータ制御駆動装置が、センサレス制御方式の永久磁石同期モータの各相巻線に電圧を供給することによって永久磁石同期モータを駆動するモータ制御駆動装置であって、永久磁石同期モータへ供給する相電圧を検出する相電圧検出手段と、相電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、ゼロクロス点から永久磁石同期モータのロータの位相推定値を算出する位相演算手段と、ゼロクロス点のタイミングで、位相推定値をゼロクロス点に応じた適正値に補正することによって補正位相推定値を算出する位相補正手段とを具備する。このように、モータ制御駆動装置では、補正位相推定値を算出することによって、ロータの位相の推定における誤差を低減することが出来きる為に、的確なベクトル制御及びあるいはV/f制御を実行することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相補正値登録テーブルの模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの線間電圧演算部3aが算出したU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を示す波形図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相演算部3dが算出した位相推定値を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相補正部3fが算出した補正位相推定値を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係る制御駆動装置Aの動作の第1の変形例における補正位相推定値を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る制御駆動装置Aの動作の第2の変形例における補正位相推定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
まず、モータ制御駆動装置Aの機能構成について、図1を参照して、説明する。図1は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの機能ブロック図である。
モータ制御駆動装置Aは、負荷である永久磁石同期モータBを回転駆動させるものであり、図1に示すようにモータ駆動部1、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2c、モータ制御部3、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b及びW相電流検出部4cから構成されている。なお、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2cは、本実施形態における相電圧検出手段である。
【0014】
上記永久磁石同期モータBは、中央に回転軸が挿通されると共に当該回転軸を中央として環状に配列される複数の永久磁石を内部に収容する円筒状のロータと、当該ロータの周面に対向配置されると共にロータの回転を制御するための電機子巻線を内部に収容するステータとから構成され、ロータの回転状態(回転位置、回転速度、回転数等)を検出するセンサを具備しないセンサレスタイプの永久磁石同期モータであり、モータ制御駆動装置Aの制御の下、ロータが回転する。
【0015】
モータ駆動部1は、図1に示すように、直流電源1a、昇圧回路1b及びインバータ1cから構成されている。
直流電源1aは、1つあるいは複数のバッテリを直列接続したものであり、所定の直流電源電圧を昇圧回路1bへ出力する。
昇圧回路1bは、例えばDC/DCコンバータであり、直流電源1aから供給された直流電源電圧を昇圧してインバータ1cへ供給する。
インバータ1cは、モータ制御部3から供給されるPWM(Pulse Width Modulation)信号に基づいて昇圧回路1bから供給された直流電圧をスイッチングすることにより、U相、V相及びW相からなる3相のモータ駆動電力を生成して永久磁石同期モータBへ供給する。
【0016】
U相電圧検出部2aは、インバータ1cと永久磁石同期モータBのU相巻線とを接続するU相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからU相巻線へ流れるモータ駆動電圧Vuを検出してモータ制御部3へ出力する。
V相電圧検出部2bは、V相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからV相巻線へ流れるモータ駆動電圧Vvを検出してモータ制御部3へ出力する。
W相電圧検出部2cは、W相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからW相巻線へ流れるモータ駆動電圧Vwを検出してモータ制御部3へ出力する。
【0017】
モータ制御部3は、インバータ1cをPWM制御することによって永久磁石同期モータBをインバータ1cに回転駆動させるものであり、図1に示すように、線間電圧演算部3a、ゼロクロス点検出部3b、速度演算部3c、位相演算部3d、位相補正値演算部3e、位相補正部3f、電流制御部3g、2相/3相変換部3h、PWM信号発生部3i及び3相/2相変換部3jから構成されている。
なお、線間電圧演算部3aとゼロクロス点検出部3bとが、本実施形態におけるゼロクロス点検出手段を構成し、また、速度演算部3cと位相演算部3dとが、本実施形態における位相演算手段を構成し、さらに位相補正値演算部3eと位相補正部3fととが、本実施形態における位相補正手段を構成している。
【0018】
線間電圧演算部3aは、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2cによって各々検出されたU相、V相、W相のモータ駆動電圧Vu、Vv、Vwに基づいて、U相巻線、V相巻線及びW相巻線のそれぞれの巻線間の線間電圧、すなわちU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を算出し、この各線間電圧をゼロクロス点検出部3bへ出力する。
【0019】
ゼロクロス点検出部3bは、線間電圧演算部3aから入力されるU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧の各線間電圧におけるゼロクロス点(ゼロになるタイミング)を検出し、当該ゼロクロス点を速度演算部3c及び位相補正値演算部3eへ出力する。
速度演算部3cは、ゼロクロス点検出部3bから入力されたU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点と、速度推定値計算式とに基づいて速度推定値を算出し、当該速度推定値を位相演算部3dへ出力する。なお、速度推定値計算式の詳細については、後述する。
【0020】
位相演算部3dは、速度演算部3cから入力された速度推定値と、位相推定値計算式とに基づいて位相推定値を算出し、当該位相推定値を位相補正部3fへ出力する。なお、位相推定値計算式の詳細については、後述する。
【0021】
位相補正値演算部3eは、図2に示す位相補正値登録テーブルを記憶し、当該位相補正値登録テーブルに基づいて、ゼロクロス点検出部3bから入力されたU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点に応じた位相補正値を位相補正部3fへ出力する。図2は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相補正値登録テーブルの模式図である。上記位相補正値とは、予め測定されたゼロクロス点毎のロータの位相である。位相補正値演算部3eは、入力されたゼロクロス点に応じたロータの位相を、位相補正値として位相補正部3fへ出力する。
【0022】
位相補正部3fは、位相補正値演算部3eから入力される位相補正値に基づいて、位相演算部3dから入力される位相推定値を補正した補正位相推定値を算出し、当該補正位相推定値を2相/3相変換部3hへ出力する。
【0023】
3相/2相変換部3jは、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b、W相電流検出部4cによって各々検出されたU相、V相、W相のモータ駆動電流Iu、Iv、Iwに基づいて永久磁石同期モータBの回転子上に固定された2次元座標系(q軸とd軸とからなる座標系)上におけるq軸駆動電流検出量Iqとd軸駆動電流検出量Idとを算出し、q軸駆動電流検出量Iq及びd軸駆動電流検出量Idを電流制御部3gへ出力する。
【0024】
より詳細には、3相/2相変換部3jは、U相、V相及びW相からなる3次元座標系上のモータ駆動電流Iu、Iv、Iwに所定の座標変換を施すことにより上記2次元座標系上のq軸駆動電流検出量Iqとd軸駆動電流検出量Idを算出する。なお、上記d軸は、回転子の回転面上において永久磁石の磁束方向に設定された座標軸であり、q軸は、上述したd軸に直交する座標軸である。
【0025】
電流制御部3gは、一種のPID制御部であり、上位制御装置であるECU(Engine Control Units)から供給される角速度指令値ω0と、永久磁石同期モータBの角速度ωkとの差分を速度誤差Δωとして演算し、速度誤差Δωに所定の比例積分・微分演算を施すことにより速度誤差Δωに応じたq軸電流操作量Iqsを算出し、q軸電流操作量Iqsと、3相/2相変換部3jから供給されるq軸駆動電流検出量Iqとの差分として誤差電流ΔIqを算出し、当該誤差電流ΔIqに所定の比例積分・微分演算を各々施することにより電圧操作量Vqを算出し、電圧操作量Vqを2相/3相変換部3hへ出力する。また、電流制御部3gは、ECUから供給されるd軸電流操作量Idsと、3相/2相変換部3jから入力されるd軸駆動電流検出量Idとに基づいてd軸電流操作量Idsに応じたd軸電圧操作量Vdを算出し、当該d軸電圧操作量Vdを2相/3相変換部3hへ出力する。
【0026】
2相/3相変換部3hは、位相補正部3fから入力される補正済位相推定値に基づいて、位相補正部電流制御部3gから入力されたq軸電圧操作量Vqとd軸電圧操作量Vdとを、U相、V相及びW相からなる3次元座標系上の電圧操作量Vu,Vv,Vwに変換し、当該電圧操作量Vu,Vv,VwをPWM信号発生部3iへ出力する。
【0027】
PWM信号発生部3iは、上記電圧操作量Vu,Vv,Vwに基づいてインバータ1cをスイッチング動作させるためのPWM信号を生成してインバータ1cへ出力する。モータ制御部3は、正弦波通電方式に基づいて動作するものであり、したがってPWM信号発生部3iは、インバータ1cが永久磁石同期モータBの全回転角(360度)に亘ってモータ駆動信号を出力するようにPWM信号を出力する。
【0028】
U相電流検出部4aは、インバータ1cと永久磁石同期モータBのU相巻線とを接続するU相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからU相巻線へ流れるモータ駆動電流Iuを検出してモータ制御部3へ出力する。
V相電流検出部4bは、V相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからV相巻線へ流れるモータ駆動電流Ivを検出してモータ制御部3へ出力する。
W相電流検出部4cは、W相駆動信号線に設けられており、インバータ1cからW相巻線へ流れるモータ駆動電流Iwを検出してモータ制御部3へ出力する。
【0029】
次に、このように構成されたモータ制御駆動装置Aの動作について、図3を参照して詳しく説明する。図3は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの動作を示すフローチャートである。
モータ制御駆動装置Aでは、センサレスの永久磁石同期モータBの回転制御を行う為に、回転位相の位相推定値を推定し、当該位相推定値に基づいてセンサレスの永久磁石同期モータBをベクトル制御あるいはV/f制御する。なお、このベクトル制御及びV/f制御については、周知の技術である為、詳細な説明は省略する。
【0030】
モータ制御駆動装置Aでは、永久磁石同期モータBを回転制御する為に、モータ制御部3から供給されるPWM信号に基づいて昇圧回路1bから供給された直流電圧をスイッチングすることにより、U相、V相及びW相からなる3相のモータ駆動電力をインバータ1cから永久磁石同期モータBへ供給すると、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b及びW相電圧検出部2cがモータ駆動電圧Vu、モータ駆動電圧Vv、モータ駆動電圧Vwを検出し、モータ制御部3の線間電圧演算部3aへ出力する。
【0031】
線間電圧演算部3aは、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2cからU相、V相、W相のモータ駆動電圧Vu、Vv、Vwが入力されと、モータ駆動電圧Vu、Vv、VwからU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を算出し、このU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧をゼロクロス点検出部3bへ出力する(ステップS1)。
図4は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの線間電圧演算部3aが算出したU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を示す波形図である。なお、図4の波形図は、縦軸に電圧、横軸に時間を示す。
図4に示すように、U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧は、時間が等間隔でずれている正弦波である。
【0032】
ゼロクロス点検出部3bは、ステップS1の後に、線間電圧演算部3aからU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧が入力されると、U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧の各線間電圧のゼロクロス点を検出し、当該ゼロクロス点を速度演算部3c及び位相補正値演算部3eへ出力する(ステップS2)。具体的に、ゼロクロス点検出部3bは、図4に示すU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧がゼロになるタイミングをゼロクロス点として検出する。
【0033】
速度演算部3cは、ステップS2の後に、ゼロクロス点検出部3bからU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点が入力されると、当該ゼロクロス点と、以下の速度推定値計算式とに基づいて速度推定値V(n)を算出し、当該速度推定値V(n)を位相演算部3dへ出力する(ステップS3)。
<速度推定値計算式>:速度推定値V(n)[rad/s]=円周率π÷3÷ゼロクロス点間隔T(n)
具体的に、速度演算部3cは、各ゼロクロス点から、図4に示すU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点の間隔T(n)を算出し、当該ゼロクロス点間隔T(n)を上記速度推定値計算式に代入することによって速度推定値V(n)を算出する。
【0034】
位相演算部3dは、ステップS3の後に、速度演算部3cから速度推定値V(n)が入力されると、当該速度推定値V(n)と、以下の位相推定値計算式とに基づいて位相推定値θを算出し、当該位相推定値θを位相補正部3fへ出力する(ステップS4)。
<位相推定値計算式>:位相推定値θ[rad]=∫速度推定値V(n)dt
図5は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相演算部3dが算出した位相推定値を示すグラフである。なお、図5のグラフは、縦軸に位相推定値、横軸に時間を示す。
図5に示すように、位相推定値のグラフは、のこぎり波形状であり、位相推定値が360度になると0度に戻る。
【0035】
位相補正値演算部3eは、ステップS2の後に、ゼロクロス点検出部3bからU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点が入力されると、位相補正値登録テーブルに基づいて、ゼロクロス点検出部3bから入力されたU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧のゼロクロス点に応じた位相補正値を位相補正部3fへ出力する(ステップS5)。
【0036】
そして、位相補正部3fは、位相演算部3dから位相推定値が入力されると共に位相補正値演算部3eから位相補正値が入力されると、各ゼロクロス点毎の位相推定値を、位相補正値へ強制的に補正することによって、補正位相推定値を算出し、当該補正位相推定値を2相/3相変換部3hへ出力する(ステップS6)。
【0037】
図6は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの位相補正部3fが算出した補正位相推定値を示すグラフである。図6の(a)がU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を示す波形図であり、図6の(b)が補正位相推定値を示すグラフである。なお、図6の(a)の波形図は、縦軸に電圧、横軸に時間を示し、また図6の(b)のグラフは、縦軸に位相推定値、横軸に時間を示す。
位相補正部3fでは、図6に示すように、U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧がゼロクロス点になる毎に、位相補正値に基づいて位相推定値の誤差を強制的に補正し、当該補正によって補正位相推定値を生成する。これにより、正規のロータの位相に近似するロータの位相を得ることが出来る。
【0038】
次に、上記のモータ制御駆動装置Aの動作の第1の変形例について、図7を参照して説明する。図7は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの動作の第1の変形例における補正位相推定値を示すグラフである。
例えば、ゼロクロス点検出部3bは、上記ステップS2において、U−V間線間電圧のゼロクロス点のみを検出し、当該ゼロクロス点を速度演算部3c及び位相補正値演算部3eへ出力する。速度演算部3cが、上記ステップS3において、U−V間線間電圧のゼロクロス点の間隔T(n)と、上記速度推定値計算式とに基づいて速度推定値V(n)を算出し、当該速度推定値V(n)を位相演算部3dへ出力する。
【0039】
位相演算部3dは、上記ステップS4において、速度演算部3cから入力された速度推定値V(n)と、上記位相推定値計算式とに基づいて位相推定値θを算出し、当該位相推定値θを位相補正部3fへ出力する。
位相補正値演算部3eは、ステップS5において、入力されたゼロクロス点が、図7の(a)に示すU‐V間線間電圧の正から負への変化のゼロクロス点である場合に、位相補正値として180度を位相補正部3fへ出力し、U‐V間線間電圧の負から正への変化のゼロクロス点である場合に、位相補正値として0度を位相補正部3fへ出力する。
そして、位相補正部3fは、上記ステップS6において、位相演算部3dから位相推定値が入力されると共に位相補正値演算部3eから位相補正値が入力されると、図7の(b)に示すように、各ゼロクロス点毎の位相推定値を、位相補正値へ強制的に補正することによって、補正位相推定値を算出し、当該補正位相推定値を2相/3相変換部3hへ出力する。
【0040】
次に、上記のモータ制御駆動装置Aの動作の第2の変形例について、図8を参照して説明する。図8は、本実施形態に係るモータ制御駆動装置Aの動作の第2の変形例における補正位相推定値を示すグラフである。
例えば、ゼロクロス点検出部3bは、上記ステップS2において、U−V間線間電圧の負から正への変化のゼロクロス点のみを検出し、当該ゼロクロス点を速度演算部3c及び位相補正値演算部3eへ出力する。速度演算部3cが、上記ステップS3において、U−V間線間電圧のゼロクロス点の間隔T(n)と、上記速度推定値計算式とに基づいて速度推定値V(n)を算出し、当該速度推定値V(n)を位相演算部3dへ出力する。
【0041】
位相演算部3dは、上記ステップS4において、速度演算部3cから入力された速度推定値V(n)と、上記位相推定値計算式とに基づいて位相推定値θを算出し、当該位相推定値θを位相補正部3fへ出力する。
位相補正値演算部3eは、ステップS5において、入力されたゼロクロス点が、図8の(a)に示すU‐V間線間電圧の負から正への変化のゼロクロス点である場合に、位相補正値として0度を位相補正部3fへ出力する。
そして、位相補正部3fは、上記ステップS6において、位相演算部3dから位相推定値が入力されると共に位相補正値演算部3eから位相補正値が入力されると、図8の(b)に示すように、各ゼロクロス点毎の位相推定値を、位相補正値へ強制的に補正することによって、補正位相推定値を算出し、当該補正位相推定値を2相/3相変換部3hへ出力する。
【0042】
以上のように、本実施形態によれば、モータ制御駆動装置Aにおいて、位相補正部3fが、位相補正値演算部3eから入力される位相補正値に基づいて、位相推定値を強制的に位相補正値へ補正することによって補正位相推定値を算出する。このように、補正位相推定値を算出することによって、ロータの位相の推定における誤差を低減することが出来きる為に、的確なベクトル制御及びあるいはV/f制御を実行することが出来る。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、例えば以下のような変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、線間電圧演算部3aが、U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を算出し、ゼロクロス点検出部3bが、当該U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧からゼロクロス点を検出したが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
例えば、U相、V相、W相のモータ駆動電圧Vu、Vv、VwからU−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を算出するのではなく、モータ駆動電圧Vu、Vv、Vwのゼロクロス点を検出し、当該ゼロクロス点から位相推定値を算出すると共に位相推定値を補正することによって補正位相推定値を算出するようにしてもよい。その際、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b及びW相電圧検出部2cが検出したモータ駆動電圧Vu、Vv、Vwは、矩形波である為、矩形波における基本波のみをフィルタリングによって取り出す必要がある。そして、このフィルタリングによって信号に時間的な遅れが生じてしまう為、フィルタリングによる時間の遅れを考慮して、位相推定値を算出すると共に位相推定値を補正する必要がある。なお、モータ駆動電圧Vu、Vv、Vwのいずれか1つのゼロクロス点を検出してもよいし、またモータ駆動電圧Vu、Vv、Vwの中のいずれか2つのゼロクロス点を検出してもよい。
【0045】
(2)上記実施形態では、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2cが検出したモータ駆動電圧Vu、Vv、Vwから、線間電圧演算部3aが、U−V間線間電圧、V−W間線間電圧及びW−U間線間電圧を算出している。
しかしながら、図示しないA/Dコンバータが1つしかない場合には、モータ駆動電圧Vu、Vv、Vwのサンプリングに遅れが生じてしまう。このような場合には、サンプリング補正回路を、U相電圧検出部2a、V相電圧検出部2b、W相電圧検出部2cと線間電圧演算部3aとの間に設けることによって、サンプリング遅れを補正するようにしてもよい。
【0046】
(3)上記実施形態では、3つの電流検出部、すなわち、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b及びW相電流検出部4cを設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、モータ制御駆動装置Aに、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b及びW相電流検出部4cのいずれか2つを配設する。そして、モータ制御部3は、2つの電流検出部から入力される2相のモータ駆動電流から残り1相のモータ駆動電流を算出するようにしてもよい。
【0047】
(4)上記実施形態では、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b、W相電流検出部4cが検出したモータ駆動電流Iu、Iv、Iwから、3相/2相変換部3jが、q軸駆動電流検出量Iqとd軸駆動電流検出量Idを算出している。
しかしながら、図示しないA/Dコンバータが1つしかない場合には、モータ駆動電流Iu、Iv、Iwのサンプリングに遅れが生じてしまう。このような場合には、サンプリング補正回路を、U相電流検出部4a、V相電流検出部4b、W相電流検出部4cと3相/2相変換部3jとの間に設けることによって、サンプリング遅れを補正するようにしてもよい。
【0048】
(5)上記実施形態では、電流制御部3gは、d軸電流操作量IdsをECUから供給されたが、本発明はこれに限定されない。
例えば、電流制御部3gが、予め決められた値としてd軸電流操作量Idsを内部メモリに記憶し、当該d軸電流操作量Idsに基づいてd軸電圧操作量Vdを算出するようにしてもよい。また、電流制御部3gが、ECUから供給される角速度指令値ω0に基づいて、角速度指令値ω0に比例する値としてd軸電流操作量Idsを算出するようにしてもよい。また、電流制御部3gが、速度誤差Δωに基づいて、速度誤差Δωに比例する値としてd軸電流操作量Idsを算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
A…モータ制御駆動装置、B…永久磁石同期モータ、1…モータ駆動部、1a…直流電源、1b…昇圧回路、1c…インバータ、2a…U相電圧検出部、2b…V相電圧検出部、2c…W相電圧検出部、3…モータ制御部、3a…線間電圧演算部、3b…ゼロクロス点検出部、3c…速度演算部、3d…位相演算部、3e…位相補正値演算部、3f…位相補正部、3g…電流制御部、3h…2相/3相変換部、3i…PWM信号発生部、3j…3相/2相変換部、4a…U相電流検出部、4b…V相電流検出部、4c…W相電流検出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサレス制御方式の永久磁石同期モータの各相巻線に電圧を供給することによって前記永久磁石同期モータを駆動するモータ制御駆動装置であって、
前記永久磁石同期モータへ供給する相電圧を検出する相電圧検出手段と、
前記相電圧のゼロクロス点を検出するゼロクロス点検出手段と、
前記ゼロクロス点から前記永久磁石同期モータのロータの位相推定値を算出する位相演算手段と、
前記ゼロクロス点のタイミングで、前記位相推定値をゼロクロス点に応じた適正値に補正することによって補正位相推定値を算出する位相補正手段とを
具備すること特徴とするモータ制御駆動装置。
【請求項2】
相電圧検出手段は、2つ以上の相巻線の相電圧を検出し、
前記ゼロクロス点検出手段は、前記2つ以上の相巻線の相電圧から線間電圧を算出し、当該線間電圧のゼロクロス点を検出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御駆動装置。
【請求項3】
相電圧検出手段は、2つ以上の相巻線の相電圧を検出し、
前記ゼロクロス点検出手段は、前記2つ以上の相巻線の相電圧のゼロクロス点を検出することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−233390(P2010−233390A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79802(P2009−79802)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】