説明

モータ駆動装置、モータ装置及びモータの駆動方法

【課題】従来に比して一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができるモータ駆動装置、モータ装置及びモータの駆動方法を提案する。
【解決手段】モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による駆動信号の制御により、駆動電流値が電流制限値に立ち上がると駆動電流の供給を停止し、駆動電流値の電流制限値への立ち上がりによる駆動信号の制御により、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で駆動信号の供給を停止するようにして、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じて駆動信号の供給を停止する期間を増減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばファンに使用する三相ブラシレスモータの駆動に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器等は、ファンにより発熱体を冷却するものがある。このようなファンは、過負荷となった場合でも回転し続け、発熱体を冷却し続けることが望まれる。しかしながら過負荷状態で運転を継続すると、駆動段パワー素子の温度が上昇し、その結果、駆動段パワー素子が破壊に至る場合がある。なおここで駆動段パワー素子は、一般にパワーFET、パワートランジスタ等が適用される。
【0003】
すなわち図5は、ほぼ無負荷の状態における駆動電流の信号波形図であり、図6は、図5との対比により過負荷状態における駆動電流の信号波形図である。なおこれらの信号波形図に係る駆動電流は、6スロット4極の三相ブラシレスモータにおいて、各相の駆動電流を加算したものである。この例において、ほぼ無負荷の場合、駆動電流のピーク値は、約1.05〔A〕(図5において矢印により示す時点の電流値)である。しかしながら図6に示すように、負荷が増大すると全体として駆動電流が増大し、この例では、駆動電流のピーク値が1.89〔A〕(矢印により示す時点の電流値)に増大する。従って駆動段パワー素子は、過負荷状態で発熱量が増大し、温度上昇することになる。
【0004】
そこで従来、この種のファンでは、電流リミッタ回路が設けられる。ここで電流リミッタ回路は、例えば駆動電流値と電流制限値との比較結果に基づいて駆動段パワー素子の駆動信号をゲートするように構成され、図7に示すように、駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、駆動段パワー素子による駆動電流の供給を停止制御する。また駆動電流値が立ち下がると、駆動電流の供給を再開する。なお図7において、電流制限値を符号LVにより示す。これにより電流リミッタ回路は、駆動電流を電流制限値で制限して駆動段パワー素子の破壊を防止する。
【0005】
このようなモータの駆動に関して、例えば特開2001−022446号公報には、過電流を検出してモータに流れる電流を制限する工夫が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−022446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで電流リミッタ回路を設けると、駆動電流のピーク値を制限できることにより、何ら電流リミッタ回路を設けない場合に比して、過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。しかしながら電流リミッタ回路を設ける場合、駆動段パワー素子は、過負荷時、電流リミッタ回路による電流制限値でスイッチングを繰り返すことになり、結局、温度上昇することになる。その結果、電流リミッタ回路を設ける場合であっても、過負荷による駆動段パワー素子の破壊を完全には防止できない問題がある。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができるモータ駆動装置、モータ装置及びモータの駆動方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、モータのステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動するモータ駆動装置において、前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開し、前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる。
【0010】
本発明によれば、電流リミッタ回路の機能により駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止する。本発明によれば、この状況が形成される頻度の増大により、一定の時間間隔による駆動電流の停止制御に係る期間が増大し、駆動電流値の増大が低減され、これにより駆動段パワー素子の発熱を低減して駆動段パワー素子の破壊が防止される。
【0011】
また本発明は、モータ装置に関し、ステータ巻き線の駆動によりロータの回転するモータ部と、前記ステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動する駆動回路とを備え、前記駆動回路は、前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開し、前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる。
【0012】
本発明によれば、電流リミッタ回路の機能により駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止する。本発明によれば、この状況が形成される頻度の増大により、一定の時間間隔による駆動電流の停止制御に係る期間が増大し、駆動電流値の増大が低減され、これにより駆動段パワー素子の発熱を低減して駆動段パワー素子の破壊が防止される。
【0013】
また前記ステータ巻き線の駆動に係る相毎に、前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりにより過負荷フラグを設定し、続く相において、前記過負荷フラグが設定されている場合には、前記比率を増大させ、前記続く相において、前記過負荷フラグが設定されていない場合には、前記比率を減少させることにより、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる。
【0014】
本発明によれば、過負荷フラグに応じて順次段階的に比率を増減する簡易な処理により、駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。
【0015】
また前記駆動段パワー素子は、対応する前記ステータ巻き線への前記駆動電流の流入に係る上段側の駆動段パワー素子と、当該ステータ巻き線からの前記駆動電流の流出に係る下段側の駆動段パワー素子とを備え、前記駆動信号が、前記上段側の駆動段パワー素子と下段側の駆動段パワー素子とにそれぞれ対応する上段側の駆動信号及び下段側の駆動信号であり、前記駆動回路による前記過負荷の検出結果に基づいた前記駆動信号の制御が、前記上段側の駆動信号又は下段側の駆動信号の制御である。
【0016】
本発明によれば、上段側の駆動信号及び下段側の駆動信号のうちの一方の制御により、簡易な構成により従来に比して一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。
【0017】
また本発明は、モータのステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動するモータの駆動方法において、前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開する電流リミッタ処理のステップと、前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる制御のステップとを備える。
【0018】
本発明によれば、電流リミッタ回路に対応する電流リミッタ処理のステップにより、駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止する。本発明によれば、この状況が形成される頻度の増大により、一定の時間間隔による駆動電流の停止制御に係る期間が増大し、駆動電流値の増大が低減され、これにより駆動段パワー素子の発熱を低減して駆動段パワー素子の破壊が防止される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比して一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るモータ装置を示す図である。
【図2】図1のモータ装置における駆動信号生成部の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図2の処理手順の説明に供する駆動信号の信号波形図である。
【図4】図2の処理手順の説明に供する駆動電流の信号波形図である。
【図5】無負荷状態の駆動電流を示す信号波形図である。
【図6】過負荷状態の駆動電流を示す信号波形図である。
【図7】電流リミッタ回路の説明に供する信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
(1)第1の実施の形態
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ装置を示すブロック図である。このモータ装置1は、ファンモータ2を駆動回路3により駆動する。ここでファンモータ2は、三相のブラシレスモータであり、駆動回路3により駆動されて所定の回転速度で回転する。駆動回路3は、ファンモータ2に設けられたホール素子によりロータの回転位置(ファンモータの回転位相)を検出し、この検出結果に基づいてファンモータ2を駆動する。
【0023】
すなわち駆動回路3において、ホール信号生成部4は、ファンモータ2に設けられたホール素子の出力信号を処理することにより、ファンモータの回転位相を示す信号であって、ファンモータ2の各相に対応する回転位相検出信号Sθを出力する。
【0024】
駆動信号生成部5は、所定の処理手順を実行するマイクロコンピュータであり、回転位相検出信号Sθに基づいてファンモータ2の駆動信号を出力する。すなわち駆動信号生成部5において、三相論理分配部5Aは、ホール信号生成部4から出力される回転位相検出信号Sθに基づいて、ファンモータ2のステータ巻き線に接続された3つの引き出し線に対して、それぞれ電流を流入させる期間の間、論理レベルが立ち上がる三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWを生成して出力する。またこれらの三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWとは逆に、この3つの引き出し線からそれぞれ電流を流出させる期間の間、論理レベルが立ち上がる三相下段駆動信号SLU、SLV、SLWを生成して出力する。駆動信号生成部5は、PWM制御部5Bを介して三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWを駆動段パワー素子部6に出力し、また三相下段駆動信号SLU、SLV、SLWを駆動段パワー素子部6に直接出力する。
【0025】
駆動段パワー素子部6は、スイッチング回路として機能する2つの駆動段パワー素子による直列回路が、ファンモータ2の引き出し線に対応して3系統設けられる。各系統は、それぞれファンモータ2の対応する引き出し線に接続される。各系統の2つの駆動段パワー素子のうちの1方は、対応する三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWによりオン動作して対応する引き出し線を電源Vccに接続し、対応するステータ巻き線の一端を電源Vccに接続する。また他方の駆動段パワー素子は、対応する三相下段駆動信号SLU、SLV、SLWによりオン動作して対応する引き出し線をグランドGNDに接続し、対応するステータ巻き線の他端をグランドGNDに接続する。しかして駆動信号生成部5は、この駆動段パワー素子部6における駆動段パワー素子のオンオフ制御により、ファンモータ2の回転位相に応じて対応するステータ巻き線に駆動電流を供給するように、三相上段駆動信号SUU、SUV、SUW、三相下段駆動信号SLU、SLV、SLWを生成する。これによりこのモータ装置1は、ファンモータ2の回転位相に応じてファンモータ2の駆動が切り換えられてファンモータ2を回転させる。
【0026】
ところでこのようにしてファンモータ2を駆動する場合、各種の原因によりファンモータ2の負荷が増大する恐れがある。ファンモータ2は、負荷の増大により駆動電流が増大し、駆動段パワー素子部6の駆動段パワー素子は、この駆動電流の増大により発熱量が増大する。その結果、モータ装置1では、著しく負荷が増大して過負荷になると、駆動段パワー素子が著しく温度上昇し、駆動段パワー素子が破壊に至る場合がある。
【0027】
そこでこのモータ装置1では、電流リミッタ回路により駆動電流を電流制限値で制限し、過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止する。すなわち駆動段パワー素子部6において、三相下段駆動信号SLU、SLV、SLWによりオンオフ動作する駆動段パワー素子は、電流検出部7を介して対応するファンモータ2の引き出し線をグランドGNDに接続する。電流検出部7は、この駆動段パワー素子によるグランドGNDへの接続を1系統にまとめて入力することにより、ファンモータ2における各相の駆動電流の加算値を求め、このまとめて入力して検出される駆動電流値を駆動信号生成部5に通知する。
【0028】
駆動信号生成部5において、電流リミッタ検出部5Cは、この電流検出部で検出される駆動電流値と事前に設定されている電流制限値とを比較し、駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、PWM制御部5Bの制御により、対応する三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWをゲートして三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWを立ち下げ、これによりファンモータ2への駆動電流の供給を停止制御する。また駆動電流値が立ち下がると、三相上段駆動信号SUU、SUV、SUWを立ち上げ、これによりファンモータ2への駆動電流の供給を再開する。なおこの駆動電流の立下りの検出は、電流制限値から一定値以下の立下りを検出して実行され、これによりこの駆動電流の供給停止に係る制御にヒステリシス特性が確保される。またこれによりこの実施の形態において、電流リミッタ回路は、電流検出部7、電流リミッタ検出部5C、PWM制御部5Bにより構成される。
【0029】
これによりこのモータ装置1では、電流リミッタ回路を設けない場合に比して、駆動段パワー素子の過負荷による破壊を防止することができる。しかしながらこのようにして電流リミッタ回路を設けても、過負荷状態が継続すると、駆動段パワー素子が破壊する恐れがある。そこでこの実施の形態では、電流リミッタ回路による処理に応じて、ファンモータ2への駆動電流の供給を一定の時間間隔で間欠的に中止すると共に、この一定の時間間隔に対する駆動電流の供給を中止する期間の比率を制御することにより、一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止する。より具体的に、この実施の形態では、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じてこの比率を増大させ、これにより過負荷状態が激しくなるに従って、この一定の時間間隔による駆動電流の供給を中止する期間を増大させる。これにより負荷の増大による駆動電流の増大を低減し、駆動段パワー素子の破壊を防止する。
【0030】
図2は、この駆動電流の制御に係る駆動信号生成部5の処理手順を示すフローチャートである。なおこの図2に示す処理は、電流リミッタ回路による処理を含むものである。駆動信号生成部5は、ファンモータ2の駆動に係る相が切り替わる毎に、この処理手順を繰り返す。すなわち駆動信号生成部5は、電流検出部7で検出される駆動電流値を電流制限値(電流リミッタしきい値)により監視して続く相の切り替わりを待機する(ステップSP1−SP2−SP3ーSP1)。この監視において、駆動電流値が電流制限値を超えると、上述した電流リミッタ回路に係る処理を実行して駆動電流の供給を一時停止し(ステップSP4)、駆動電流が立ち下がると、駆動電流の供給を再開する。またこのように駆動電流値が電流制限値を超えると、過負荷フラグをセットする(ステップSP5)。ここで過負荷フラグは、この処理に係る相において、駆動電流値が電流制限値となったことを示すフラグである。
【0031】
このようにして駆動電流を監視して相が切り替わると、過負荷フラグがセットされているか否か判断し(ステップSP6)、過負荷フラグがセットされている場合には、駆動電流の間欠的な立ち下げに係るデューティー比を1ビット分低減し(ステップSP7)、過負荷フラグをリセットした後(ステップSP8)、当該相における駆動電流の監視に戻る(ステップSP2)。これに対して過負荷フラグがセットされていない場合、駆動電流の間欠的な立ち下げに係る現在のデューティー比が最大である場合には、現在のデューティー比を維持したまま、駆動電流の監視に戻る(ステップSP9−SP10−SP11−SP2)。また駆動電流の間欠的な立ち下げに係る現在のデューティー比が最大で無い場合には、デューティー比を1ビット分増大し(ステップSP11)、駆動電流の監視に戻る(ステップSP2)。
【0032】
図3は、この図2の処理に係るデューティー比の説明に供する信号波形図である。図3(A)は、駆動電流値が電流制限値より十分に低い場合における三相上段駆動信号SU(SUU、SUV、SUW)であり、図3(B)は、対応する三相下段駆動信号SL(SLU、SLV、SLW)である。駆動信号生成部5では、この駆動信号SU、SLにより駆動段パワー素子を介して、ファンモータ2の回転位相に応じて、対応する相のステータ巻き線の両端を電源Vcc及びグランドGNDに接続し、ファンモータ2に駆動電流を供給する。また駆動電流が電流制限値になると、三相上段駆動信号SUを立ち下げ、駆動電流の供給を中止する。またこの三相上段駆動信号SUの立ち下げにより、駆動電流が立ち下がると、三相上段駆動信号SUを立ち上げ、中止した駆動電流の供給を再開することになる。
【0033】
駆動信号生成部5は、クロックを基準にしてこれら三相上段駆動信号SU、三相下段駆動信号SLの論理レベルを設定する。駆動信号生成部5は、図3(C)により示すように、このクロックに対応する一定の時間間隔TAにおいて、三相上段駆動信号SUが立ち上がっている期間T1を設定できるように構成される。ここでこの期間T1の設定は、最大で8ビットの制御コードにより設定され、図2の処理手順で上述したデューティー比は、この一定の時間間隔TAにおいて、三相上段駆動信号SUが立ち上がっている期間T1の比率であり、言い換えるならば、この一定の時間間隔TAにおいて、駆動電流を供給している期間T1の比率である。なおこの比率に係る駆動信号の処理は、例えばこのデューティー比を指示する制御コードに応じてクロックのパルス幅変調信号を生成し、このパルス幅変調信号により元の駆動信号(図3(A))をゲートすることにより生成することができる。
【0034】
駆動信号生成部5は、過電流フラグがセットされていない場合にあって、現在のデューティー比が最大である場合には、現在のデューティー比を維持することにより(図2、ステップSP9−SP10)、この場合、この一定の時間間隔TAの間、ファンモータ2に駆動電流を供給し続ける。これに対して駆動電流が電流制限値を超えて過負荷フラグが設定された場合には、8ビットに対する1ビットの分だけ、この一定の時間間隔TAによる期間で、駆動信号SUの論理レベルを一時的に立ち上げて駆動電流の供給を停止し、これによりこの時間間隔TAで1ビットに相当する期間だけ間欠的に駆動電流の供給を停止する。またこのようにして間欠的に駆動電流の供給を停止して、さらにはこの駆動電流の間欠的な供給停止の前提の処理である電流リミッタ回路により駆動電流の供給を停止しても、なおかつ駆動電流が電流制限値となる場合には、さらにこの間欠的に駆動電流の供給を停止する期間T1を順次1ビット分、増大させる。これらにより駆動信号生成部5は、最終的に、過負荷フラグが設定されなくなるまで、間欠的に駆動電流の供給を停止する期間T1を増大させることになる。なお図2の処理手順により明確なように、この実施の形態において、このような間欠的な駆動電流の停止制御は、直前の相における過負荷フラグの設定により、続く相において実行されることになる。図4は、図5〜図7について上述した信号波形図との対比により、図2の処理による駆動電流の信号波形図である。この図4の信号波形図は、図7で示した信号波形図の場合と同一の回転数、負荷状態における信号波形図である。この図4によれば、単純にリミッタ回路により駆動電流を制限する場合に比して、この実施の形態では駆動電流の平均電流値が小さくなり、駆動段パワー素子の負担が低下していることが判る。
【0035】
以上の構成によれば、ファンモータの駆動電流値と電流制限値との比較結果により、駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、駆動電流の供給を一時停止することにより、電流制限値を超えた駆動電流によるファンモータの駆動を回避することができる。これにより電流リミッタ回路の機能により駆動段パワー素子の破壊を低減することができる。またさらにこの駆動電流値の電流制限値への立ち上がりによる駆動信号の制御により、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で駆動信号の供給を停止するようにし、相毎に電流制限値への立ち上がりにより過負荷フラグを設定するようにして、この過負荷フラグに基づいて一定の時間間隔に対する駆動電流の供給を停止する期間を増減することにより、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、駆動信号の供給を停止する期間の、一定の時間間隔に対する比率を増大させ、これにより一段と確実に駆動段パワー素子の破壊を低減することができる。すなわちこの場合、負荷が増大して過負荷状態が激しくなるに従って、この比率を増大させて駆動電流の供給を停止する期間を増大させ、駆動電流の増大を低減することができ、一段と確実に駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。
【0036】
またステータ巻き線の駆動に係る相毎に、過負荷フラグを設定し、続く相において、過負荷フラグが設定されている場合には、この比率を増大させ、過負荷フラグが設定されていない場合には、比率を減少させることにより、過負荷フラグに応じて順次段階的に比率を増減する簡易な処理により、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、この比率を増大させることができる。
【0037】
また電源側とグランド側との駆動段パワー素子により駆動電流を供給する場合において、電源側の駆動段パワー素子側の駆動信号の制御により、これら駆動電流の制御に係る処理を実行することにより、簡易な構成により従来に比して一段と確実に過負荷による駆動段パワー素子の破壊を防止することができる。
【0038】
(2)他の実施の形態
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施の形態の構成を種々に変更することができる。
【0039】
すなわち例えば上述の実施の形態では、相単位で、過負荷フラグを設定、判定すると共に、比率を増減する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、相単位の過負荷フラグの設定、判定、比率の増減に代えて、複数相単位で過負荷フラグを設定、判定し、比率を増減してもよく、過負荷フラグの設定単位、判定単位、比率の増減単位は、必要に応じて種々に設定することができる。
【0040】
また上述の実施の形態では、相単位で、過負荷フラグを設定、判定すると共に、比率を増減する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、実用上十分に駆動段パワー素子の破壊を防止できる場合には、複数相毎の離散的な処理により、過負荷フラグを設定、判定すると共に、比率を増減してもよい。
【0041】
また上述の実施の形態では、電流制限値により駆動電流を判定した直後の相で、過負荷フラグの設定を判定して比率を増減する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、実用上十分に駆動段パワー素子の破壊を防止できる場合には、駆動電流を判定した相から複数相の経過後に過負荷フラグの設定を判定し、比率を増減するようにしてもよい。
【0042】
また上述の実施の形態では、過負荷フラグの設定に基づいて、順次、比率を増減することにより、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、駆動信号の供給を停止する期間の比率を増大させる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば1つの相において駆動電流値が電流制限値に立ち上がる回数をカウントし、このカウント値により続く相において比率を可変すると共に、駆動電流値が電流制限値に立ち上がる回数によりカウント値を補正する場合等、要は駆動電流値が電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、駆動信号の供給を停止する期間の比率を増大させればよく、種々の手法を広く適用することができる。
【0043】
また上述の実施の形態では、上段側の駆動信号の制御により、電流リミッタ回路の機能を実現し、さらには駆動信号の供給を停止する期間の比率を制御する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、下段側の駆動信号の制御によりこれらの処理を実行してもよく、さらには電流リミッタ回路の機能と比率の制御とを上段及び下段の駆動信号に振り分けてもよく、さらには上段及び下段の駆動信号の双方で、それぞれこれらの処理を実行してもよい。
【0044】
また上述の実施の形態では、単速度によりファンモータを駆動する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、可変速によりファンモータを駆動する場合にも広く適用することができる。
【0045】
また上述の実施の形態では、3相ブラシレスモータによるファンモータの駆動に本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各種相数のブラシレスモータに適用することができ、さらにはファンモータ以外の各種のモータに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 モータ装置
2 ファンモータ
3 駆動回路
4 ホール信号生成部
5 駆動信号生成部
5A 三相論理分配部
5B PWM制御部
5C 電流リミッタ検出部
6 駆動段パワー素子部
7 電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動するモータ駆動装置において、
前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開し、
前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる
ことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
ステータ巻き線の駆動によりロータの回転するモータ部と、
前記ステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動する駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、
前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開し、
前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる
ことを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
前記ステータ巻き線の駆動に係る相毎に、前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりにより過負荷フラグを設定し、
続く相において、前記過負荷フラグが設定されている場合には、前記比率を増大させ、
前記続く相において、前記過負荷フラグが設定されていない場合には、前記比率を減少させることにより、
前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる
ことを特徴とする請求項2に記載のモータ装置。
【請求項4】
前記駆動段パワー素子は、
対応する前記ステータ巻き線への前記駆動電流の流入に係る上段側の駆動段パワー素子と、
当該ステータ巻き線からの前記駆動電流の流出に係る下段側の駆動段パワー素子とを備え、
前記駆動信号が、
前記上段側の駆動段パワー素子と下段側の駆動段パワー素子とにそれぞれ対応する上段側の駆動信号及び下段側の駆動信号であり、
前記駆動回路による前記過負荷の検出結果に基づいた前記駆動信号の制御が、前記上段側の駆動信号又は下段側の駆動信号の制御である
ことを特徴とする請求項2又は請求項3の何れかに記載のモータ装置。
【請求項5】
モータのステータ巻き線に接続した駆動段パワー素子を駆動信号によりオンオフ制御して、前記モータを駆動するモータの駆動方法において、
前記モータの駆動電流値と電流制限値との比較結果による前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が電流制限値に立ち上がると、前記ステータ巻き線への駆動電流の供給を停止し、前記駆動電流値が立ち下がると、前記ステータ巻き線への前記駆動電流の供給を再開する電流リミッタ処理のステップと、
前記駆動電流値の前記電流制限値への立ち上がりによる前記駆動信号の制御により、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる場合には、一定の時間間隔で前記駆動信号の供給を停止するようにして、前記駆動電流値が前記電流制限値に立ち上がる頻度に応じて、前記駆動信号の供給を停止する期間の前記一定の時間間隔に対する比率を増大させる制御のステップとを備える
ことを特徴とするモータの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−205316(P2012−205316A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64512(P2011−64512)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000228730)日本電産サーボ株式会社 (276)
【Fターム(参考)】