説明

モータ駆動装置、及び、これを用いた電動パワーステアリング装置

【課題】 高電力の出力が要求される場合に昇圧電圧の低下を防ぐモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 モータ駆動装置2の昇圧回路20は、サブ昇圧回路30とサブ昇圧回路35とが直列に接続される。サブ昇圧回路30は、昇圧コイル31、昇圧用スイッチング素子32、降圧用スイッチング素子33、出力用コンデンサ34を備え、バッテリ電圧Vinを昇圧してサブ昇圧回路35に出力する。サブ昇圧回路35は、サブ昇圧回路30と同様の構成であり、サブ昇圧回路30が昇圧した電圧をさらに昇圧して昇圧電圧Voutをモータ駆動回路25に出力する。これにより、昇圧回路20全体の昇圧比は、2つのサブ昇圧回路30、35のサブ昇圧比を掛け合わせた値となり、十分に高い昇圧電圧Voutを発生することができる。よって、高電力要求時の昇圧電圧の低下を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源電圧を昇圧して出力する昇圧回路を備えるモータ駆動装置、及び、これを用いた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源電圧を昇圧して出力する昇圧回路を備えた昇圧装置が知られている。昇圧回路が出力する昇圧電圧は、例えば交流モータを駆動するためのインバータ回路等に利用される。昇圧回路を使用することにより、インバータとモータとの間の配線抵抗の影響やバッテリ電圧の変動による影響を小さくすることができる。また、昇圧回路を電動パワーステアリング装置に適用した場合には、操舵フィーリングの安定性を高めることができる。
【0003】
特許文献1、2には、電動パワーステアリング装置に適用される昇圧装置の例が開示されている。この昇圧装置に用いられるチョッピング式の昇圧回路は、スイッチング素子を高速にオンオフすることにより昇圧動作を行うものである。昇圧回路は、スイッチング動作の一周期に対する昇圧スイッチング素子のオン時間の比である昇圧デューティを調整して昇圧電圧を制御する。特許文献1の昇圧装置は、昇圧回路の発熱を抑制するため、出力電力が上限電力を超える場合、昇圧回路の出力電圧を低下させる。特許文献2の昇圧装置は、出力電圧のオーバーシュートを防止するため、目標電圧を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4483322号公報
【特許文献2】特開2006−62515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2の昇圧装置では、昇圧デューティの上限値である飽和デューティに対応する電力を超える出力が要求される場合、昇圧電圧が低下し、目標電圧を得ることができない。したがって、この昇圧回路を電動パワーステアリング装置に適用した場合には、急操舵時等に必要なアシストトルクを発生することができず、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。特に、電動パワーステアリング装置を大型車に採用する場合には、高電力の出力に対応可能であることが重要な課題となる。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、高電力の出力が要求される場合に昇圧電圧の低下を防ぐモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のモータ駆動装置は、モータを駆動するモータ駆動回路と、電源電圧を昇圧してモータ駆動回路に供給する昇圧回路と、昇圧回路を制御する昇圧制御部とを備える。昇圧回路は、昇圧コイル、出力用コンデンサおよび2個のスイッチング素子からなるサブ昇圧回路を2つ以上直列に接続して構成される。
【0008】
これにより、昇圧回路の入力電圧に対する出力電圧の比である昇圧比は、各サブ昇圧回路における昇圧比を掛け合わせた値となる。例えば、各サブ昇圧回路における昇圧比がいずれも2倍であるとすると、サブ昇圧回路をn個直列に接続することで、全体の昇圧比は2n倍となる。すなわち、昇圧回路が1つの場合に比べ、同じ昇圧デューティにおいて相対的に高い昇圧電圧を得ることができる。その結果、高電力の出力が要求される場合でも十分に高い昇圧電圧を発生することができるため、昇圧電圧が目標電圧に対して低下することを防ぐことができる。
したがって、このモータ駆動装置を電動パワーステアリング装置に適用した場合、急操舵時等でも必要なアシストトルクを発生することができ、良好な操舵フィーリングが得られる。また、電動パワーステアリング装置を、出力性能が要求される大型車に採用する場合に有効である。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、昇圧回路は、サブ昇圧回路を並列に接続し、かつ、並列に接続されたサブ昇圧回路群を2つ以上直列に接続して構成される。
これにより電流のロスを減らすことができ、大電流での使用に有利となる。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、昇圧制御部は、昇圧回路の目標昇圧電圧を設定するとともに、当該目標昇圧電圧に応じてサブ昇圧回路のスイッチング素子をオンオフするデューティを指令する。そして、複数のサブ昇圧回路のデューティをいずれも等しい値とする。
これにより、制御が単純となり、昇圧制御部の負荷を低減することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、昇圧制御部は、昇圧回路の目標昇圧電圧を設定するとともに、当該目標昇圧電圧に応じてサブ昇圧回路のスイッチング素子をオンオフするデューティを指令する。そして、複数のサブ昇圧回路のデューティを互いに異なる値とする。
これにより、状況に応じた多様な制御が可能となる。また、駆動開始前に各サブ昇圧回路が正常であるか否かの初期チェックを行う場合などに、デューティの値によってサブ昇圧回路を判別することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明によると、昇圧制御部は、モータ駆動回路に供給される昇圧電圧をフィードバックされ、比例制御、積分制御、微分制御のいずれか1つ以上の制御によって目標昇圧電圧を設定する。
これにより、オーバーシュートやアンダーシュートを抑制し、迅速で精度のよい制御をすることができる。
【0013】
請求項6に記載の発明によると、昇圧制御部は、少なくとも1つのサブ昇圧回路において、スイッチング素子のスイッチング動作を停止可能である。
例えば、スイッチング素子の短絡故障または断線故障が発生したとき、故障の発生を検出して、対象となるサブ昇圧回路のスイッチング動作を停止することにより過電流の発生や誤作動を防止することができ、モータ駆動装置の信頼性が向上する。
【0014】
請求項7に記載の発明は、運転者の操舵トルクをアシストする電動パワーステアリング装置に係る発明である。この電動パワーステアリング装置は、アシシトトルクを出力するモータ、操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段、トルク検出手段が検出した操舵トルクに応じてモータを駆動する請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動装置、及び、モータの回転をステアリングシャフトに伝達する動力伝達手段を備える。
【0015】
電動パワーステアリング装置は、車両の運転状況によって、直進時や緩いカーブの走行時にはアシストトルクがほとんど必要とされない一方で、発進時や急操舵時等には大きなアシストトルクを発生することが要求される。したがって、本発明のモータ駆動装置を電動パワーステアリング装置に適用することで、良好な操舵フィーリングが得られる。また、電動パワーステアリング装置を大型車に採用する場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態によるモータ駆動装置の昇圧回路を示す回路図。
【図2】本発明の一実施形態によるモータ駆動装置を適用した電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【図3】従来技術の昇圧回路の出力電圧およびデューティ特性を示すイメージ図。
【図4】本発明の一実施形態による昇圧回路の出力電圧およびデューティ特性を示すイメージ図。
【図5】本発明のその他の実施形態によるモータ駆動装置の昇圧回路を示す回路図。
【図6】本発明のその他の実施形態によるモータ駆動装置の昇圧回路を示す回路図。
【図7】従来技術によるモータ駆動装置の昇圧回路を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
自動車等のハンドル操作をアシストするための電動パワーステアリング装置に本発明のモータ駆動装置を適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
図2は、電動パワーステアリング装置を備えたステアリングシステムの全体構成を示す。ステアリングシステム90に備えられる電動パワーステアリング装置1は、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92に「操舵トルク検出手段」としてのトルクセンサ94を設置している。
ステアリングシャフト92の先端にはピニオンギア96が設けられており、ピニオンギア96はラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が回転可能に連結されている。
【0018】
これにより、運転者がハンドル91を回転させると、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92が回転し、ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の直線運動変位に応じた角度について一対の車輪98が操舵される。
【0019】
電動パワーステアリング装置1は、操舵アシストトルクを発生するモータ80、モータ80の回転を減速してステアリングシャフト92に伝える「動力伝達手段」としての減速ギア89、及び、モータ駆動装置2を備える。モータ80は三相ブラシレスモータであり、減速ギア89を正逆回転させる。モータ駆動装置2は、CPU21、昇圧回路20およびモータ駆動回路25を備え、トルクセンサ94が検出した操舵トルクに応じてモータ80を駆動する。
この構成により、電動パワーステアリング装置1は、ハンドル91の操舵を補助するための操舵アシストトルクを発生し、ステアリングシャフト92に伝達する。
【0020】
モータ駆動装置2は、昇圧回路20、CPU21、バッテリ22、電源スイッチ23、入力用コンデンサ24およびモータ駆動回路25を備える。
CPU21は、特許請求の範囲に記載の「昇圧制御部」に相当する。CPU21は、モータ駆動回路25に供給される昇圧回路20の昇圧電圧Voutをフィードバックされ、PID(比例、積分、微分)制御によって目標昇圧電圧Vaを設定する。そして、昇圧電圧Voutが目標昇圧電圧Vaとなるように昇圧回路20のスイッチング素子32、33、42、43のオンオフ信号を制御する。具体的には、後述するように、昇圧デューティおよび降圧デューティを指定するPWM信号を出力する。
【0021】
バッテリ22は、車両が搭載しているバッテリである。バッテリ電圧Vinは、特許請求の範囲に記載の「電源電圧」に相当する。
電源スイッチ23は、バッテリ22と昇圧回路20との間に接続される。電源スイッチ23は、例えばリレーにより構成され、昇圧回路20へのバッテリ電圧Vinの供給をオンオフする。
入力用コンデンサ24は、電源ノイズを除去する。
【0022】
モータ駆動回路25は、モータ80を駆動するための回路である。例えば、モータ80が三相交流モータの場合、モータ駆動回路25として三相インバータ回路が採用される。モータ駆動回路25には、昇圧回路20から昇圧電圧Voutが供給される。
最後に昇圧回路20は、サブ昇圧回路30とサブ昇圧回路35とが直列に接続される。ここで、サブ昇圧回路30、35の構成を説明する前に、従来技術の昇圧回路について、図7を参照して説明する。
【0023】
図7に示すように、従来技術のモータ駆動装置7の昇圧回路70は、昇圧コイル71、昇圧用スイッチング素子72、降圧用スイッチング素子73および出力用コンデンサ74を備え、スイッチング素子72、73を高速にオンオフすることにより昇圧動作を行う、いわゆるチョッピング式の昇圧回路である。
【0024】
昇圧コイル71は、エネルギーの蓄積、放出に伴って電圧を誘起する素子である。
昇圧用スイッチング素子72および降圧用スイッチング素子73は、例えばMOS電解効果トランジスタ等により構成され、CPU21からの電気信号によってオンオフする。昇圧用スイッチング素子72は、昇圧コイル71の出力端とグランドとの間に接続される。降圧用スイッチング素子73は、昇圧コイル71の出力端とモータ駆動回路25との間に接続される。
出力用コンデンサ74は、降圧用スイッチング素子73の出力端とグランドとの間に接続され、昇圧電圧Voutを平滑化する。
以上の構成により、昇圧回路70は、バッテリ22のバッテリ電圧Vinを昇圧し、昇圧電圧Voutをモータ駆動回路25に出力する。
【0025】
図1に戻り、サブ昇圧回路30、35の構成要素は、従来技術の昇圧回路70と同様である。すなわち、昇圧コイル31、36は昇圧コイル71と同様であり、昇圧用スイッチング素子32、37は昇圧用スイッチング素子72と同様であり、降圧用スイッチング素子33、38は降圧用スイッチング素子73と同様であり、出力用コンデンサ34、39は出力用コンデンサ74と同様である。
以上の構成により、一段目のサブ昇圧回路70は、バッテリ22のバッテリ電圧Vinを昇圧してサブ昇圧回路35に出力する。二段目のサブ昇圧回路35は、サブ昇圧回路30が昇圧した電圧をさらに昇圧して昇圧電圧Voutをモータ駆動回路25に出力する。
【0026】
(作用)
次に、本発明の一実施形態のモータ駆動装置2の作用を、従来技術のモータ駆動装置7と比較して説明する。
まず、従来技術のモータ駆動装置7における昇圧動作を説明する。
昇圧回路70の昇圧用スイッチング素子72と降圧用スイッチング素子73とは、CPU21からの指令に応じて、一方がオンのとき他方がオフというように交互にオンオフする。これは、昇圧用スイッチング素子72と降圧用スイッチング素子73とが同時にオンすると、過電流が流れ、素子が破損するおそれがあるためである。厳密には、オンオフ切換時のわずかな時間のずれによって瞬間的に両方のスイッチング素子72、73がオンとなることを防止するため、両方のスイッチング素子72、73がオフとなるデッドタイムが設定される。しかし、以下の説明ではデッドタイムは考慮しないものとする。
【0027】
昇圧用スイッチング素子72をオフからオンに切り換えると、バッテリ22から昇圧コイル71に電流が流れる。このとき、電流の変化により昇圧コイル71の磁界が変化し、誘導電圧が発生する。そして、昇圧コイル71にエネルギーが蓄積される。
その後、昇圧用スイッチング素子72をオフし、降圧用スイッチング素子73をオンすると、昇圧コイル71の誘導電圧が、バッテリ電圧Vinに重畳される。そして、昇圧コイル71は、蓄積されたエネルギーを放出しながら出力用コンデンサ74を充電する。
このスイッチング動作が繰り返され、昇圧電圧Voutが上昇する。
【0028】
CPU21は、昇圧電圧Voutをフィードバックされ、昇圧電圧Voutが目標昇圧電圧Vaに一致するように、スイッチング動作のデューティを制御する。ここで、デューティとはスイッチング動作の一周期に対するスイッチング素子のオン時間の比をいい、単位は%である。昇圧用スイッチング素子72のデューティを昇圧デューティD1といい、降圧用スイッチング素子73のオン時間の比を降圧デューティD2という。
CPU21は、昇圧電圧Voutが目標昇圧電圧Vaに対して不足しているとき、昇圧デューティD1を増加して昇圧動作を促進し、昇圧電圧Voutが目標昇圧電圧Vaに近づいたとき、昇圧デューティD1を減少して昇圧動作を抑制する。
【0029】
昇圧デューティD1および降圧デューティD2と、バッテリ電圧Vinに対する昇圧電圧Voutの比である昇圧比αとの関係は、下式1−1、1−2のように示される。
Vout=Vin×α ・・・(式1−1)
α=(D1+D2)/(100−D1) ・・・(式1−2)
【0030】
ここで、デッドタイムを無視すると、式1−3の関係が成立し、式1−2は式1−4のように書き換えられる。
D1+D2=100 ・・・(式1−3)
α=(D1+D2)/D2 ・・・(式1−4)
例えば、D1=D2=50%のとき、α=2となる。すなわち、バッテリ電圧Vinの2倍の昇圧電圧Voutが得られる。
【0031】
続いて、本発明の一実施形態によるモータ駆動装置2における昇圧動作を説明する。
一段目のサブ昇圧回路30の昇圧用スイッチング素子32の昇圧デューティをD11とし、降圧用スイッチング素子33の降圧デューティをD12とする。二段目のサブ昇圧回路35の昇圧用スイッチング素子37の昇圧デューティをD21とし、降圧用スイッチング素子38の降圧デューティをD22とする。また、サブ昇圧回路30の入力電圧と出力電圧の比であるサブ昇圧比をβ1とし、サブ昇圧回路35の入力電圧と出力電圧の比であるサブ昇圧比をβ2とする。
【0032】
すると、昇圧デューティD11、D21および降圧デューティD12、D22と、サブ昇圧比β1、β2との関係は、下式2−1、2−2、2−3のように示される。
Vout=Vin×β1×β2 ・・・(式2−1)
β1=(D11+D12)/(100−D11) ・・・(式2−2)
β2=(D21+D22)/(100−D21) ・・・(式2−3)
【0033】
特に、サブ昇圧回路30とサブ昇圧回路35との昇圧デューティおよび降圧デューティを等しく設定した場合、すなわちD11=D21=D1、D12=D22=D2の場合、下式3−1、3−2のように表される。β2は、昇圧回路20全体での昇圧比である。
Vout=Vin×β2 ・・・(式3−1)
β=(D1+D2)/(100−D1) ・・・(式3−2)
【0034】
また、デッドタイムを無視すれば、下式3−3、3−4のように表される。
D1+D2=100 ・・・(式3−3)
β=(D1+D2)/D2 ・・・(式3−4)
例えば、D1=D2=50%のとき、β=2、β2=4となる。すなわち、バッテリ電圧Vinの4倍の昇圧電圧Voutが得られる。
【0035】
(対比)
次に、図3、図4を参照して、本発明の一実施形態のモータ駆動装置2を、従来技術のモータ駆動装置7と比較して説明する。
図3は、従来技術の昇圧回路70における出力電圧およびデューティ特性を示すイメージ図である。図3の横軸はインバータ出力、すなわちモータ駆動回路25への出力(単位:W)を示し、縦軸は各種電圧(単位:V)および各種デューティ(単位:%)を示す。各種電圧は、バッテリ電圧Vin、昇圧電圧Vout、および目標昇圧電圧Vaを含む。各種デューティは、昇圧デューティD1、降圧デューティD2および飽和デューティDmaxを含む。
【0036】
例えばインバータ出力がQ1のとき、昇圧デューティD1は約70%であり、降圧デューティD2は約30%であるから、式1−4より、昇圧比αの値は約3.3である。故に、約10Vのバッテリ電圧Vinに対し昇圧電圧Voutは約33Vとなる。
そして、目標昇圧電圧Vaを約33Vで一定とすると、CPU21は、要求されるインバータ出力の増加に伴って昇圧デューティD1を増加させ、昇圧電圧Voutを目標昇圧電圧Vaに一致させようとする。また、昇圧デューティD1の増加に応じて降圧デューティD2は減少する。
【0037】
しかし、昇圧用スイッチング素子72の保護のため、昇圧デューティD1は、上限が飽和デューティDmaxに制限されている。この例では、飽和デューティDmaxは約80%である。そのため、インバータ出力が限界出力Qc以上では昇圧デューティD1は一定値となり、その結果、昇圧電圧Voutは目標昇圧電圧Vaに対し低下することとなる。
【0038】
目標の昇圧電圧がモータ駆動回路25に出力されないと、モータ駆動装置2は、モータ80を十分に駆動することができない。したがって、電動パワーステアリング装置1において急操舵時等の最もアシストトルクが必要とされるとき、モータ駆動回路25に要求されるインバータ出力が限界出力Qc以上となる場合には、必要なアシストトルクを出力することができず、操舵フィーリングが悪化するおそれがある。
【0039】
図4は、本発明の一実施形態の昇圧回路20における出力電圧およびデューティ特性を示すイメージ図である。図4の横軸、縦軸は図3と同様であり、インバータ出力に対する各種電圧(単位:V)および各種デューティ(単位:%)の特性を示す。
ここで、サブ昇圧回路30とサブ昇圧回路35との昇圧デューティD1および降圧デューティD2は等しい値であるとする。そのため、制御が単純となり、CPU21の負荷を低減することができる。
【0040】
例えばインバータ出力がQ2のとき、昇圧デューティD1は約45%であり、降圧デューティD2は約55%であるから、式3−4より、サブ昇圧比βの値は約1.8であり、昇圧比β2の値は約3.3である。故に、約10Vのバッテリ電圧Vinに対し昇圧電圧Voutは約33Vとなる。つまり、本発明の一実施形態では、サブ昇圧比が2乗された値が昇圧比となるため、従来技術に比べ、より低い昇圧デューティで同等の昇圧電圧Voutを得ることができる。
【0041】
そして、目標昇圧電圧Vaを約33Vで一定とすると、CPU21は、要求されるインバータ出力の増加に伴って昇圧デューティD1を増加させ、昇圧電圧Voutを目標昇圧電圧Vaに一致させようとする。また、昇圧デューティD1の増加に応じて降圧デューティD2は減少する。
【0042】
さらに、図3における限界出力Qcと同等のインバータ出力Q3においても、昇圧デューティD1は飽和デューティDmaxに達しないため、昇圧電圧Voutを目標昇圧電圧Vaに一致させることができる。すなわち、昇圧回路20は、高電力の出力が要求される場合でも十分に高い昇圧電圧Voutを発生することができるため、昇圧電圧Voutが目標昇圧電圧Vaに対して低下することを防ぐことができる。
したがって、モータ駆動装置2はモータ80を十分に駆動することができ、電動パワーステアリング装置1は、急操舵時等でも必要なアシストトルクを発生することができる。よって、良好な操舵フィーリングが得られる。また、電動パワーステアリング装置1を、出力性能が要求される大型車に採用する場合に有効である。
【0043】
(その他の実施形態)
(ア)本発明のその他の実施形態によるモータ駆動装置を図5、図6に基づいて説明する。図5では、上述の一実施形態のサブ昇圧回路30、35に相当するサブ昇圧回路を一つのブロックで表示する。
【0044】
図5(a)に示すモータ駆動装置4の昇圧回路40は、3つのサブ昇圧回路41、42、43が直列に接続されている。このように、3つ以上のサブ昇圧回路を、直列に接続してもよい。
昇圧回路全体での昇圧比は、各サブ昇圧回路における昇圧比を掛け合わせた値となるため、直列に接続されるサブ昇圧回路が増えるほど、昇圧電圧Voutを高くすることができる。例えば、各サブ昇圧回路における昇圧比がいずれも2倍であるとすると、サブ昇圧回路をn個直列に接続することで、全体の昇圧比は、2n倍となる。
【0045】
図5(b)に示すモータ駆動装置5Aの昇圧回路50Aは、サブ昇圧回路51、52が並列に接続されて一段目のサブ昇圧回路群を構成し、サブ昇圧回路53、54が並列に接続されて二段目のサブ昇圧回路群を構成し、一段目のサブ昇圧回路群と二段目のサブ昇圧回路群とが直列に接続されている。サブ昇圧回路を並列に接続することで電流のロスを減らすことができ、大電流での使用に有利となる。
【0046】
図5(c)に示すモータ駆動装置6の昇圧回路60は、いずれも直列接続されたサブ昇圧回路61、63とサブ昇圧回路62、64とが並列に接続されている。
このように、複数のサブ昇圧回路の直列接続および並列接続を自由に組み合わせることができ、少なくとも1つの直列接続が含まれる場合は本発明の技術的範囲に含まれる。
【0047】
また、図6に示すモータ駆動装置5Bの昇圧回路50Bは、図5(b)に示す昇圧回路50Aの変形例である。昇圧回路50Bでは、一段目のサブ昇圧回路は一つのサブ昇圧回路55で構成され、二段目のサブ昇圧回路群はサブ昇圧回路53、54が並列に接続されて構成される。一段目のサブ昇圧回路と二段目のサブ昇圧回路群とは直列に接続される。
この構成により、図5(b)、(c)に記載の昇圧回路50A、60に対し素子点数を減らすことができ、コストを低減することができる。
【0048】
(イ)上述の一実施形態の説明では、サブ昇圧回路30とサブ昇圧回路35との昇圧デューティD1および降圧デューティD2は等しい値とした。しかし、複数のサブ昇圧回路の昇圧デューティおよび降圧デューティを互いに異なる値としてもよい。
これにより、状況に応じた多様な制御が可能となる。また、駆動開始前に各サブ昇圧回路が正常であるか否かの初期チェックを行う場合などに、デューティの値によってサブ昇圧回路を判別することができる。
【0049】
(ウ)CPU21は、また、少なくとも1つのサブ昇圧回路において、スイッチング素子のスイッチング動作を停止可能とする機能を有してもよい。
例えば、スイッチング素子の短絡故障または断線故障が発生したとき、故障の発生を検出して、対象となるサブ昇圧回路のスイッチング動作を停止することにより過電流の発生や誤作動を防止することができ、モータ駆動装置の信頼性が向上する。
【0050】
(エ)電源電圧は、バッテリ電圧に限らず、他の直流電源装置等により発生される電圧であってもよい。
(オ)モータ駆動装置は、トルクセンサ94が検出する操舵トルクに加え、回転角センサが検出するモータ回転角や車速センサが検出する車速に応じて目標昇圧電圧を設定してもよい。
【0051】
(カ)本発明のモータ駆動装置は、電動パワーステアリング装置の他、例えば、VGRS(ギア可変ステアリング)、ARS(アクティブリアステアリング)等、様々な用途に適用することができる。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 ・・・電動パワーステアリング装置、
2、4、5A、5B、6、7・・・モータ駆動装置、
20、40、50A、50B、60、70・・・昇圧回路、
21 ・・・CPU(昇圧制御部)、
22 ・・・バッテリ、
23 ・・・電源スイッチ、
24 ・・・入力用コンデンサ、
25 ・・・モータ駆動回路、
30、35、41〜43、51〜55・・・サブ昇圧回路、
31、36、71 ・・・昇圧コイル、
32、37、72 ・・・昇圧用スイッチング素子、
33、38、73 ・・・降圧用スイッチング素子、
34、39、74 ・・・出力用コンデンサ、
80 ・・・モータ、
89 ・・・減速ギア(動力伝達手段)、
90 ・・・ステアリングシステム、
94 ・・・トルクセンサ(操舵トルク検出手段)、
Vin ・・・バッテリ電圧(電源電圧)、
Vout ・・・昇圧電圧、
Va ・・・目標昇圧電圧、
D1、D11、D21・・・昇圧デューティ、
D2、D12、D22・・・降圧デューティ、
Dmax ・・・飽和デューティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するモータ駆動回路と、
電源電圧を昇圧して前記モータ駆動回路に供給する昇圧回路と、
前記昇圧回路を制御する昇圧制御部と、
を備えるモータ駆動装置であって、
前記昇圧回路は、昇圧コイル、出力用コンデンサおよび2個のスイッチング素子からなるサブ昇圧回路を2つ以上直列に接続して構成されることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記昇圧回路は、前記サブ昇圧回路を並列に接続し、かつ、並列に接続された前記サブ昇圧回路群を2つ以上直列に接続して構成されることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記昇圧制御部は、前記昇圧回路の目標昇圧電圧を設定するとともに、当該目標昇圧電圧に応じて前記サブ昇圧回路のスイッチング素子をオンオフするデューティを指令し、
複数の前記サブ昇圧回路のデューティをいずれも等しい値とすることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記昇圧制御部は、前記昇圧回路の目標昇圧電圧を設定するとともに、当該目標昇圧電圧に応じて前記サブ昇圧回路のスイッチング素子をオンオフするデューティを指令し、
複数の前記サブ昇圧回路のデューティを互いに異なる値とすることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記昇圧制御部は、前記モータ駆動回路に供給される昇圧電圧をフィードバックされ、比例制御、積分制御、微分制御のいずれか1つ以上の制御によって目標昇圧電圧を設定することを特徴とする請求項3または4に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記昇圧制御部は、少なくとも1つの前記サブ昇圧回路において、スイッチング素子のスイッチング動作を停止可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
運転者の操舵トルクをアシストする電動パワーステアリング装置であって、
アシシトトルクを出力するモータと、
操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記トルク検出手段が検出した操舵トルクに応じて前記モータを駆動する請求項1〜6のいずれか一項に記載のモータ駆動装置と、
前記モータの回転をステアリングシャフトに伝達する動力伝達手段と、
を備えた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−125048(P2012−125048A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273419(P2010−273419)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】