説明

モータ駆動装置

【課題】可動部が他の部材と接触したことを挟み込みと誤検出することなく、挟み込みを的確に検出できるモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 1個のパルスP1の周期と、次パルスP2の周期との比(P2/P1)を、150回分にわたり積算した値(積分値:150)が、所定しきい値(160)を超えるか否かに基づきシートバックによるによる挟み込みを検出する。このため、シートバックが隣接するシートのシートバックと擦れて、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、所謂"セリ"を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全停止機能を有するモータ駆動装置に関し、特に、モータによって駆動される可動部に、例えば、人体の一部が挟まれたときにモータを停止する安全停止機能を有するモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、安全停止機能を有するモータ駆動装置は、自動車のパワーウインド、パワーシート、パワートランク等に用いられるもので、モータによって駆動される、ウインド、シート、トランク等に身体の一部等が挟まれた際に、モータを停止することで、身体に危害が加わらないようにしている。
【0003】
「ミニバン」等に代表されるワンボックス・タイプの車両には、その室内に二列もしくは三列のシートを装備している。これら車両にあっては、乗員の使用目的や用途に応じて多種多様なシートアレンジが要求されている。代表的なものとしては、当該二列目のシート又は三列目のシートのシートバックを前方に傾倒(前傾)させ、該二列目のシートの背面をテーブルとして使用する等が挙げられる。
【0004】
上述の如く、シートバックを前傾(全傾)させて折り畳み、背面をテーブルとして使用した後、再度当該シートへの着座を可能とするためには、車体側部側の扉を開いてシートバックを手動で引き起こす等の作業を乗員に強いることとなる。かかる作業は時間と労力を要するため非常に煩わしい。従って、このようなシートには、当該シートから離れた場所でのスイッチ操作によりシートバックを起立させることができる「シートバック引き起こし装置」を付与すると好適である。
【0005】
特許文献1には、パワーウインド等を駆動するモータにモータ制御装置が設けられて、モータの単位時間あたりの電流変化量を監視することで、人体、物体等のパワーウインドによる挟み込みを検出することが開示されている。特許文献2には、挟み込みの検出をモータのパルス周期により検出する車両シート装置が開示されている。特許文献3には、モータ駆動電流に予め算出した定数を加算した基準閾値を用いて高精度に挟み込みの検出を行う挟み込み検出方法が開示されている。特許文献4には、挟み込み検出領域を設定し、そこに突入するとその領域内でパルス変化量を監視し、変化量が正常基準値を超えた際に挟み込みと判断する異物挟み込み検出装置が開示されている。
【特許文献1】特許第3181461号公報
【特許文献2】特開2004−268757号公報
【特許文献3】特開2005−330703号公報
【特許文献4】特開2006−82626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
「シートバック引き起こし装置」には、モータで引き起こすシートバックと隣接するシートバックとの間に身体の一部が挟まれることがあり得るため、安全停止機能を備えさせることが必須となる。
【0007】
しかしながら、上述した当該二列目のシート又は三列目のシートのシートバックは、シートバックが一体として使われるので、隣接するシートバック間で、隙間が極力無いように設計されている。このため、シートバックを起こす際に、隣接するシートバックの側面とこすれ合うことで、瞬間的に抵抗が発生し(所謂セリ)、モータ電流の絶対値又はパルス周期での挟み込みを検出しようとしても、上記セリを挟み込みと誤検出することがある。
【0008】
この誤検出について、図8及び図9を参照して更に詳細に説明する。
図8(A)は、モータの速度検出器から出力されるパルスの信号波形を示し、図9(A)は、パルス周期のグラフを示している。モータ速度が一定であれば、パルス周期は一定である。一定速度であれば、一定周期(例えば10ms)のパルスを出力している。
図8(B)は、上述したセリが発生した際のパルス波形を示し、図9(B)はセリ発生時のグラフを示している。セリが発生すると、負荷が急増し、短期間にパルス周期が長くなる。
図8(C)は、上述した挟み込みが発生した際のパルス波形を示し、図9(C)は挟み込み発生時のグラフを示している。挟み込みが発生すると、負荷が徐々に高まり、だんだんとパルス周期が長くなる。負荷が徐々に高まるのは、シート表皮は柔らかく、また、人体に弾力性があるからである。
【0009】
ここで、シートバックのシートバック引き起こし装置は、機構部分の組み付け誤差、特性のバラツキ等により図9(D)中に示すようにパルス周期が大きくなる場合(例えば16ms)と、パルス周期が小さくなる場合(例えば4ms)とがある。このため、このバラツキに対応しながら、セリを挟み込みと誤検出しないように閾値を設定するためには、図9(E)に示すように閾値を高めに設定せざると得ず(例えば、20ms)、パルス周期の小さな(4ms)シートバック引き起こし装置においては、挟み込み検出の時間が長くなり、挟み込みが発生してからシートバックを停止するまのでの時間が長くなることになった。
【0010】
係る課題に対応するために、特許文献1に示されているように、変化分の変化から挟み込みを検出することも考え得る(微分方式)。
図10(A)はパルス周期の変化率を示すグラフである。機構部等のバラツキにより、モータ速度が一定であってもパルス周期変化が増大するものと、減少するものとが存在する。図10(B)は、変化が増大するものにおいて、セリが発生した場合の変化率を示している。図10(C)は、変化が減少するものにおいて、挟み込みが発生した場合を示している。微分方式を用いても、セリを挟み込みと誤検出しないようにするためには、閾値を高めに設定せざるを得ず、挟み込み検出の時間が長くなり、挟み込みが発生してからシートバックを停止するまのでの時間を短くすることが困難であると共に、挟み込みを確実に検出することが難しくなる。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、可動部が他の部材と接触したことを挟み込みと誤検出することなく、挟み込みを的確に検出できるモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、可動部を駆動するモータと、前記モータの正転、停止、逆転を制御するモータ制御装置と、前記モータの回転を検出してモータ速度に対応するパルスを出力する回転検出器と、を備えるモータ駆動装置において、
前記モータ制御装置は、前記回転検出器からのパルスの周期の変化量を積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき前記可動部による挟み込みを検出し、前記モータを停止、逆転することを技術的特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のモータ駆動装置では、回転検出器からのパルスの周期の変化量を積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき可動部による挟み込みを検出するため、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、例えば、可動部が他の部材と接触するような場合を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。
【0014】
請求項2のモータ駆動装置では、任意第1個数のパルス周期と、当該任意第1個数のパルス以降に出力される当該任意第1個数と同数のパルス周期との比を、任意第2数分にわたり積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき可動部による挟み込みを検出する。このため、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、例えば、可動部が他の部材と接触するような場合を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。
【0015】
請求項3のモータ駆動装置では、1個のパルスの周期と、当該パルス以降に出力されるパルスの周期との比を、任意第2数分にわたり積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき可動部による挟み込みを検出する。このため、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、例えば、可動部が他の部材と接触するような場合を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。また、パルス1個分の周期を計算するため、演算が容易である利点もある。
【0016】
請求項4のモータ駆動装置では、可動部が、他の部材と接触するように配置された車両用シートバックであるため、シートバックが他の部材(例えば、隣接するシートのシートバック)と擦れて、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、所謂“セリ“を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に示す実施形態を用いて説明する。
[第1実施形態]
まず図1乃至図4は、第1実施形態に係るモータ駆動装置を備えるシート装置1を示すものである。当該シート装置1は図1に示すように、シートクッション11とシートバック12とを有し、これらを回動自在に連結すべく、当該連結部の一方側にはリクライニング装置2を、同じく他方側にはフリーヒンジ5を配置してなるものである。かかる構成により、上記シートバック12の傾斜角度の調節及び傾倒を可能とし、自動車の後部座席としての使用に供され、図示しないシートが隣接配置されている。
【0018】
まず、上記シートクッション11は、車体床面に配設されたシートレール13に取り付けられ、シートクッション11の前部には折り畳みリンク14の上端部が回動可能に連結され、当該折り畳みリンク14の下端部は車体床面に固定したブラケット15に回動可能に支持されている。一方、上記シートバック12は、その上部にリクライニング装置2のロックを解除するための操作部材16が設けられている。
【0019】
第1実施形態において上記リクライニング装置2は、シートバック12及びシートクッション11の片側にのみ設けることとして、他の片側にはフリーヒンジ5を配設している。
【0020】
このリクライニング装置2は、ロック解除レバー操作により、多段階での傾斜角度調整を可能とし、シートバック12を一定角度まで素早く前方に傾倒(前傾)させて乗員のウォークインを可能とし、更に、シートバック12の背面をテーブル及び荷室の一部として利用可能にするものである。第1実施形態においては、特に後部座席での適用を考慮しているので、シートバック12を所望の角度まで素早く前傾させることのできるリクライニング装置を採用している。かかる構成によれば、乗員が上記操作部材16を操作することにより、シートバック12をシートクッション11と略平行になるまで素早く前傾させることが可能となる。
【0021】
さらに、第1実施形態におけるリクライニング装置2は、ロック解除を行うにあたりロック解除レバー24をシート側方から直接操作するのではなく、シートバック12の上部に設けた操作部材16によってロック解除レバー24を操作できるように構成している。そのため、シート装置1の側面にはロック解除レバー24を操作するスペースを確保する必要がない。従って、本発明は3人掛けシートにおける中央のシートに適用した際にも、乗員をして容易な操作が可能となる。
【0022】
図2は、図1に示すリクライニング装置2の内側を斜め上方から示した図である。当該リクライニング装置2自体は、上述したように汎用なものでよく、シートバック12に取り付けられるシートバック側ブラケット21と、シートクッション11に取り付けられるシートクッション側ブラケット22を備えたものである。シートバック側ブラケット21は、シートクッション側ブラケット22に対し回転軸27を中心として回動自在に取り付けられており、渦巻きバネ28が常にシートバック側ブラケット21を前傾させる方向に付勢している。
【0023】
これらシートバック側ブラケット21とシートクッション側ブラケット22とは、ロック機構部23の作動により所望の角度に保持されることとなる。当該シートバック側ブラケット21には、回動装置4(後述)の回転部材と係合可能な凸部26が突設されている。そして、該シートクッション側ブラケット22の下部は、上記シートレール13と係合可能な(図示しない「アッパーレール」に相当する)ブラケットに固定されている。
【0024】
ここで、上記リクライニング装置2におけるロック機構部23は、乗員によるロック解除レバー24の操作によってロックが解除されて、シートバック12の角度調整を可能とするものである。当該ロック解除レバー24は付勢スプリング24bによって常にロック機構部23をロックする方向に付勢されている。また、該ロック解除レバー24は連結部材であるワイヤ25によって操作部材16と連結されており、操作部材16を操作することによってロック機構部23のロックを解除することができるようになっている。当該ロック解除レバー24の先端には爪部24aが設けられており、該爪部24aはロック解除レバー24が操作されていない(リクライニング装置2がロックされている状態)ときには、シートバック側ブラケット21に取り付けられた第1リミットスイッチ51に接触して、当該第1リミットスイッチ51をONの状態としている。
【0025】
図3は、図2に示す回動装置4の分解斜視図である。当該回動装置4は、取付ブラケット41を介してシートクッション側ブラケット22に取り付けられる。当該取付ブラケット41には、ベースプレート42が保持ブラケット43と共にボルト42a,42aによって固定されるようになっている。そして、当該ベースプレート42の上部には保持孔42bが設けられており、当該保持孔42bには、一端が保持ブラケット43に挿通されたセンターシャフト43aの他端が挿通されている。かかる構成により、当該センターシャフト43aによって枢支されたセクタギヤ44が回動自在となっている。当該センターシャフト43aは、回動装置4自体をシートクッション側ブラケット22に取り付けるに際し、リクライニング装置2の回転軸27と同軸上に散合させるものとしている。かかる構成を採用することにより、リクライニング装置2に対する回動装置4の位置決めを確実に行うことができる。
【0026】
上記ベースプレート42の取付孔42cには、ギヤ保持ピン45の一方端部が挿通され、当該ギヤ保持ピン45の他方端部はギヤ保持ブラケット45cに支持されている。当該ギヤ保持ピン45は略中央部がフランジ状に突出しており、その一方側には減速ギヤ45aが挿通され、他方側には伝達ギヤ45bが挿通されており、これら減速ギヤ45a及び伝達ギヤ45bが上記ギヤ保持ピン45と同時回転することとなる。上記ギヤ保持ブラケット45cは、保持ブラケット43にピン43b,43bによって取り付けられており、当該保持ブラケット43には挿入孔43cが設けられている。そして、当該挿入孔43cには上記ギヤ保持ピン45及び伝達ギヤ45bが挿通される。
【0027】
上記保持ブラケット43には、モータユニット46が取付ピン46aによって取り付け固定されている。モータユニット46はモータギヤ46bとモータ46cとを備えており、当該モータギヤ46bは伝達ギヤ45bと噛み合っている。モータギヤ46bがモータ46cにより駆動されると伝達ギヤ45bが回転し、それに伴ってギヤ保持ピン45及び減速ギヤ45aが同時回転することになり、減速ギヤ45aと噛み合っているセクタギヤ44も回転することとなる。尚、当該セクタギヤ44には切り欠き部44bが設けられ、当該切り欠き部44bがシートバック側ブラケット21に設けられた凸部26と係合することとなる。
【0028】
また、セクタギヤ44には作動突起44aが設けられ、回動装置4が作動していないときには、保持ブラケット43に固定されている第2リミットスイッチ52に接触して、通電がONの状態となっている。上述したシートバック側ブラケット21に取り付けられている第1リミットスイッチ51と、上記保持ブラケット43に固定されている第2リミットスイッチ52は、どちらもモータユニット46に備えられたモータ46cの回転を制御するために設けられたものであり、第1リミットスイッチ51が反応するとモータ46cの回転が反転し、第2リミットスイッチ52が反応するとモータ46cの回転が停止するように制御されている。
【0029】
次に、図4を参照して本発明におけるシート装置1の動作を説明する。図4はシート装置1を操作したときのリクライニング装置2及び回動装置4の状態をそれぞれ示すものであって、特に、(a)は、シート装置1が座席として使用できる状態を示すものであり、(b)は、シート装置1がテーブルモード又は荷室モードの状態を示すものであり、(c)は、シート装置1がテーブルモードから元の位置へ復帰した状態を示すものである。
【0030】
第1実施形態に係るシート装置1は、通常時にあってはリクライニング装置2のロック解除レバー24が、付勢スプリング24bによってロック機構部23をロックする方向に付勢されている。そのため、ロック機構部23がロック状態となり、シートバック側ブラケット21がシートクッション側ブラケット22に対して任意の角度で保持される。よって、シートバック12がシートクッション11に対して任意の角度で保持されることとなる。
【0031】
一方、シートバック12の傾斜角度を調節すべくリクライニング装置2を操作する場合には、乗員はシートバック12の上部に取り付けられている操作部材16を操作することとなる。当該操作部材16の操作がなされると、操作部材16に連結されたワイヤ25が引っ張られ、ワイヤ25が連結されているロック解除レバー24が回転させられる。上記操作部材16を介してロック解除レバー24を操作することでロック機構部23のロックが解除され、リクライニング動作が可能となり、シートバック12の角度を調節できるようになる。乗員が任意の位置で操作部材16を解放すれば、スプリングによって付勢されたロック解除レバー24は回転してロック機構部23をロックし、シートバック12を任意の位置(角度)で保持することができる。
【0032】
操作部材16を操作し、ロック解除レバー24を回転させてロック機構部23のロックを解除させると、渦巻きバネ28の付勢力によってシートバック12が前傾を開始する。当該シートバック12の傾斜角は、乗員が着座可能な範囲での微調整ができるのは勿論のこと、最大でシートクッション11とほぼ平行になるまで前傾させることが可能となる。こうすると、シートバック12の背面をテーブルとして使用したり、荷室の一部として使用することができる。
【0033】
シート装置1をテーブルモード又は荷室の一部として使用する状態にしたときには、図4(b)に示すように、シートバック側ブラケット21側に設けられた凸部26が回動装置4のセクタギヤ44に設けられた切り欠き部44aに当接する。シート装置1がこの状態にあるときは、ロック解除レバー24はロック機構部23のロックを解除している位置で係止され、ロック解除レバー24の爪部24aは第1リミットスイッチ51から離反している。
【0034】
一方、シート装置1をテーブルモード又は荷室の一部として使用した状態から元の座席の状態に戻す際には、シートバック12を乗員が手動で復帰させることは言うまでもなく可能であるが、運転席等の離れた場所からの操作によって回動装置4を駆動させて復帰させることもできる。
【0035】
運転席等からのスイッチ操作により、モータユニット46のモータ46cを作動させるとモータギヤ46bが従勤し、該モータギヤ46bと噛み合っている伝達ギヤ45bも回転することとなる。この伝達ギヤ46bの回転力は、ギヤ保持ピン45を介して減速ギヤ45aに伝わり、該減速ギヤ45aと噛み合っているセクタギヤ44も回転することとなる。セクタギヤ44が回転すると、セクタギヤの切り欠き部44aと当接したシートバック側ブラケットの凸部26も回動し、シートバック側ブラケット21(シートバック12)が後傾方向へと回動(復帰)する。
【0036】
上記シートバック側ブラケット21が所定の位置まで復帰すると、ロック解除レバー24が付勢スプリング24bの付勢力に従いロック位置まで回転するため、ロック機構部23のロックが掛かった状態となる。これとほぼ同時に、ロック解除レバーの爪部24aが第1リミットスイッチ51に当接し、第1リミットスイッチ51がONになる(図4(c))。この第1リミットスイッチ51がONになるとモータ46cの回転が逆に回転するようになる。すると、セクタギヤ44も逆に回転して、元の位置まで回転するとセクタギヤ44に設けられた作動突起44aが第2リミットスイッチ52に当接して、第2リミットスイッチ52がONになる。その結果、モータ46cの回転が止まり、シート装置1は座席として使用できるようになる(図4(a))。即ち、セクタギヤ44に干渉されず再びシートバックの角度調整が可能になる。
【0037】
図5は、シート装置1に用いる制御回路7を示したものである。回動装置4を制御する制御回路7にはリミットスイッチ51、52が接続されている。スイッチSW1は回動装置4を作動させるものである。スイッチSW1は、連転席付近等、本シート装置1自体から離れた場所に設置され、回転装置4を遠隔操作可能とするものである。
【0038】
前傾させたシートバック12を再び座席として使用できる位置まで復帰させるときには、回動装置4を駆動する制御回路7のスイッチSW1を操作する。そうすると、CPU60はリレー回路62を介してモータ46cを正転させる。該モータ46cが回転するとセクタギヤ44が回転し、セクタギヤに設けられた作動突起44aがリミットスイッチ52からはずれて、リミットスイッチ52はOFF(図中黒点側)になる。
【0039】
セクタギヤ44がシートバック側ブラケットに設けられた凸部26と係合して、シートバック12を復帰させると、ロック機構部23のロックがかかると共にロック解除レバー24がロック位置まで回転して、爪部24aがリミットスイッチ51に当接するのでリミットスイッチ51は再びONになる。このとき、リミットスイッチ52はOFFの状態であるので、これを検出してCPU60は、リレー62を介してモータ46cを逆に回転する。モータ46cの回転が逆になりセクタギヤ44が元の位置まで回転すると、作動突起44aがリミットスイッチ52に当接してリミットスイッチ52はONになる。これを検出すると、CPU60はモータ62cの逆転を停止する。即ち、セクタギヤ44を原点位置に復帰することで、セクタギヤ44に干渉されず再びシートバックの角度調整が可能になる。
【0040】
上述のようにリミットスイッチ51がONであるときはロック解除レバー24が作動していない、即ちリクライニング装置2がロックされている状態であり、リミットスイッチ52がONであるときはセクタギヤ44が作動していないとき、即ち回動装置4が作動していない状態である。
【0041】
CPU60によるモータ46cの制御について、図6のフローチャートを参照して説明する。
上記スイッチSW1がオンされると(S12:Yes)、モータ46cを正転させ、シートバックを引き起こす(S14)。そして、図5中に示す回転検出器64からのパルス信号によりモータ速度を監視し、後述するようにパルス周期の変化割合が所定値以下か否かにより挟み込みに検出する(S16)。挟み込みが起きていない場合には(S16:No)、上述したリミテットスイッチ51によりシートバックの起立が完了したか否か判断する(S20)。ここで、シートバックの起立が完了するまでは(S20:No)、モータ64cの回転を継続する(S14)。そして、シートバックの起立が完了すると(S20:Yes)、モータ64cを停止し(S18)、逆転を開始して(S22)、セクタギヤ44を原点位置に復帰させる。そして、セクタギヤ44が原点位置に復帰してリミテットスイッチ52がオンする(S24:Yes)、モータを停止して処理を終了する(S26)。
【0042】
他方、モータ64cを正転させ、シートバックの引き起こし中に挟み込みが発生すると(S16:Yes)、直ちに、モータ64cを停止し(S18)、逆転を開始して(S22)シートバックを再び倒すようにする。
【0043】
引き続き、第1実施形態での上記パルス周期の変化割合が所定値以下か否かにより挟み込みの検出について説明する。
第1実施形態では、パルスの周期の変化量を積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づきシートバックによる挟み込みを検出する。具体的には、図8(B)に示すパルス(図中にはP147〜P151のみ示す)について、数1により例えば150個分のパルス周期の変化量を積算する。
【数1】

【0044】
即ち、パルスP〜P150までの150パルス分の変化量の積算値、パルスP〜P151までの150パルス分の変化量の積算値、パルスP〜P152までの150パルス分の変化量の積算値・・・が所定閾値(例えば、160)を越せるか否かにより、挟み込みを検出する。この閾値は、セリの際に発生する最大値と挟み込み発生時の値の中間値に設定することが好適である。
【0045】
図8(B)を参照して上述したように、セリが発生すると、負荷が急増し、短期間にパルス周期が長くなり、図8(D)中に示すようにパルス周期の変化率が急上昇する。一方、図8(C)を参照して上述したように、挟み込みが発生した際には負荷が徐々に高まり、だんだんとパルス周期が長くなり、図8(D)中に示すようにパルス周期の変化率は徐々に高くなる。
【0046】
このため、第1実施形態では、上述したように1つのパルスの周期と次のパルスの周期の比(変化量)を150パルス分の積算した値(周期に変化が無いときは150)を、セリの際に発生する最大値と挟み込み発生時の値の中間値(閾値160)と比較し、積算値が閾値を超えた際に、挟み込みとして、図6を参照して上述したように、シートバックを引き上げを停止し、モータを逆転することで、シートバックを倒す側に傾動させ、挟み込みを解消する。
【0047】
第1実施形態のモータ駆動装置では、1個のパルスの周期と、当該パルス以降に出力される次パルスの周期との比を、任意数分にわたり積算した値(積分値)が、所定しきい値を超えるか否かに基づきシートバックによるによる挟み込みを検出する。このため、シートバックが隣接するシートのシートバックと擦れて、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、所謂“セリ“を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。また、パルス1個分の周期を計算するため、演算が容易である利点もある。
【0048】
また、第1実施形態では、積分によって一定数分のパルスの周期変化率の合計を算出していくので、途中でノイズが紛れ込んでも誤って挟み込みと検出する可能性が非常に低くなる。
【0049】
なお、第1実施形態では、リミットスイッチ51がブラケット21側に取り付けられていた。この代わりに、リミテットスイッチ51を保持ブラケット43に取り付け、セクタギヤ44がシートバック12を復帰させたときに作動突起44aに接する位置に配置させ、セクタギヤ44の復帰動作が行えたことを検出するようにも構成可能である。
【0050】
[第2実施形態]
引き続き、本発明の第2実施形態に係るモータ駆動装置について説明する。このモータ駆動装置を構成する制御回路及び制御回路で駆動されるシート装置の構成は、図1〜図5を参照して上述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
図8を参照して上述したように、第1実施形態では、1つのパルスの周期と次のパルスの周期の比(変化量)を150パルス分の積算した値を求めた。これに対して、第2実施形態では、数2に示すように任意第1個数x分のパルス周期と、当該任意第1個数xのパルスに続き回転検出器から出力される当該任意第1個数xと同数のパルス周期との比を、任意第2数y分にわたり積算する。
【数2】

【数3】

【0051】
【数4】

【0052】
【数5】

【0053】
第2実施形態のモータ駆動装置では、任意第1個数xのパルス周期と、当該任意第1個数のパルスに続き出力される当該任意第1個数と同数xのパルス周期との比を、任意第2数y分にわたり積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき可動部による挟み込みを検出する。このため、短期間だけ急激にモータ速度の低下する、例えば、可動部が他の部材と接触するような場合を挟み込みと誤検出せず、実際に挟み込みが起こったことを確実に検出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上述した実施形態では、本発明の構成をパワーシートに適用した例を挙げたが、本発明の構成はパワーウインド、パワートランク等にも応用可能であることは言うまでもない。また、上述した実施形態では、パルス周期の変化量を積算したが、この代わりにパルス幅の変化量を積算することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシート装置の概略図である。
【図2】図1に示すシート装置に設けられたリクライニング装置の斜視図である。
【図3】図1に示すシート装置に設けられた回動装置の分解斜視図である。
【図4】リクライニング装置及び回動装置の状態を示すものであり(a)は、シート装置が座席として使用できる状態を示し、(b)は、シート装置がテーブルモード又は荷室の一部として使用できる状態を示し、(c)は、シート装置がテーブルモードから元の位置へ復帰した状態を示すものである。
【図5】図1に示すシート装置に用いた制御回路を示すブロック図である。
【図6】CPUによるモータ制御を示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態の任意第1個数x分のパルス周期と、当該任意第1個数xのパルスに続き回転検出器から出力される当該任意第1個数と同数のパルス周期との比を、任意第2数y分にわたる積算を説明するための説明図である。
【図8】図8(A)はモータの速度検出器から出力されるパルスの信号波形を示す波形図であり、図8(B)はセリが発生した際のパルス波形を示す波形図であり、図8(C)は挟み込みが発生した際のパルス波形を示す波形図である。図8(D)はパルスの変化率を示すグラフであり、図8(E)はパルス周期の変化量の積算値を示すグラフである。
【図9】図9(A)はパルス周期のグラフであり、図9(B)はセリ発生時のグラフであり、図9(C)は挟み込み発生時のグラフであり、図9(D)はパルス周期のバラツキを示すグラフであり、図9(E)はパルス周期と閾値とを示すグラフである。
【図10】図10(A)はパルス周期の変化率を示すグラフであり、図10(B)は変化率が増大するものにおいてセリが発生した場合の変化率を示すグラフであり、図10(C)は変化率が減少するものにおいて挟み込みが発生した場合を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 シート装置
2 リクライニング装置
4 回動装置
6 駆動装置の制御回路
7 回動装置の制御回路(モータ駆動装置)
11 シートクッション
12 シートバック
15 ロックレバー
16 操作部材
23 ロック機構部
24 ロック解除レバー
24a 爪部
25 ワイヤ
44 セクタギヤ
46c モータ
51 第1リミットスイッチ
52 第2リミットスイッチ
60 CPU(制御装置)
62 リレー
64 回転検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部を駆動するモータと、前記モータの正転、停止、逆転を制御するモータ制御装置と、前記モータの回転を検出してモータ速度に対応するパルスを出力する回転検出器と、を備えるモータ駆動装置において、
前記モータ制御装置は、前記回転検出器からのパルスの周期の変化量を積算した値が、所定しきい値を超えるか否かに基づき前記可動部による挟み込みを検出し、前記モータを停止、逆転することを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータ制御装置による前記パルスの周期の変化量の積算を:
任意第1個数のパルス周期と、当該任意第1個数のパルス以降に前記回転検出器から出力される当該任意第1個数と同数のパルス周期との比を、任意第2数分にわたり積算することにより行うことを特徴とする請求項1のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記任意第1個数が1であることを特徴とする請求項2のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記可動部が、他の部材と接触するように配置された車両用シートバックであることを特徴とする請求項1〜請求項3のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−136325(P2008−136325A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321837(P2006−321837)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000143639)株式会社今仙電機製作所 (258)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】