説明

モータ

【課題】オネジ部が形成された回転軸と、オネジ部に係合するナット部材とを備えるモータにおいて、比較的簡易な構成で、オネジ部へのナット部材の噛み込みを抑制することが可能なモータを提供する。
【解決手段】モータ1は、駆動用磁石3と、駆動用コイル15と、オネジ2cが形成されたオネジ部2aを有する回転軸2と、オネジ2cに螺合するメネジが形成されるとともに回転軸2の回転に伴って回転軸2の軸方向へ移動するナット部材11とを備えている。このモータ1では、オネジ2cのネジ山の角度と、ナット部材11のメネジのネジ山の角度とが異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オネジ部が形成された回転軸と、オネジ部に係合するナット部材とを備えるモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ピックアップ装置のレンズを駆動するレンズ駆動装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のレンズ駆動装置では、レンズを駆動するための駆動源として、ステッピングモータが利用されている。このレンズ駆動装置では、ステッピングモータの回転軸の出力側にリードスクリューが形成されており、リードスクリューには、ナットホルダに保持されたナットが係合している。また、ナットホルダには、レンズを保持するレンズホルダが取り付けられている。このレンズ駆動装置では、ステッピングモータの回転軸が回転すると、ナットとともにナットホルダが回転軸の軸方向へ移動し、ナットホルダの移動に伴ってレンズホルダとともにレンズが光軸方向へ移動する。
【0003】
レンズ駆動装置では、電源オフの状態から電源オンの状態になったときに、レンズを所定の原点位置に移動させるレンズの原点出しが行われることがある。このレンズの原点出しを行う際には、たとえば、レンズホルダの位置にかかわらず、まず、ステッピングモータを回転させて、レンズホルダ等とともにナットを可動範囲最終位置まで移動させ所定のストッパに衝突させて停止させた後に、所定量だけステッピングモータを逆回転させることで、レンズホルダを所定の基準位置へ移動させている。このようなレンズの原点出しを行う場合、ストッパにナットを確実に衝突させるため、ナットがストッパに接触しても、ナットには所定時間、ステッピングモータから回転力が与えられている。したがって、この回転力によってナットがリードスクリューに噛み込んでしまい、ステッピングモータの逆回転制御を行っても、ナットが動かない現象が生じうる。
【0004】
そこで、かかる問題を解消するため、特許文献1に記載のステッピングモータでは、リードスクリューの端部の所定の範囲に外径の小さな径小ネジ山部が形成されており、この径小ネジ山部の作用で、リードスクリュー端部におけるリードスクリューへのナットの噛み込みを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−72555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のステッピングモータでは、径小ネジ山部とストッパとの相対位置精度が低いと、ナットがストッパに衝突しているにもかかわらずナットが径小ネジ山部に到達せずにリードスクリューへのナットの噛み込みが発生するおそれがある。また、径小ネジ山部とストッパとの相対位置精度が低いと、ナットがストッパに衝突する前にナットが径小ネジ山部に到達してしまい、ストッパに衝突するまでナットを移動させられないおそれもある。このような問題を解消するためには、リードスクリューを精度良く加工すれば良いが、リードスクリューの加工コストが高くなる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、オネジ部が形成された回転軸と、オネジ部に係合するナット部材とを備えるモータにおいて、比較的簡易な構成で、オネジ部へのナット部材の噛み込みを抑制することが可能なモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明のモータは、オネジが形成されたオネジ部を少なくとも出力側に有する回転軸と、オネジに螺合するメネジが形成されるとともに回転軸の回転に伴って回転軸の軸方向へ移動するナット部材と、駆動用磁石と、駆動用コイルとを備え、オネジのネジ山の角度である第1角度と、メネジのネジ山の角度である第2角度とが異なっていることを特徴とする。
【0009】
本発明のモータでは、オネジのネジ山の角度である第1角度と、メネジのネジ山の角度である第2角度とが異なっている。そのため、オネジのフランク面とメネジのフランク面との接触面積が小さくなり、ナット部材あるいはナット部材に取り付けられた部材がストッパに接触している状態で回転軸がさらに回転してもオネジのフランク面とメネジのフランク面とが密着しにくくなる。したがって、本発明では、オネジのネジ山の角度とメネジのネジ山の角度とを異ならせるといった比較的簡易な構成で、オネジ部へのナット部材の噛み込みを抑制することが可能になる。
【0010】
本発明において、たとえば、ナット部材が軸方向へ移動するときのオネジのフランク面とメネジのフランク面との接触部分の径は、メネジの有効径よりも大きくなっている。すなわち、本発明において、たとえば、第2角度は、第1角度よりも大きくなっている。この場合には、第1角度は、60°であり、第2角度は、60°よりも大きいことが好ましい。このように構成すると、オネジとメネジとの隙間(ガタ)を比較的小さくしつつ、オネジ部へのナット部材の噛み込みを抑制することが可能になる。また、この場合には、第2角度は、70°以下であることが好ましく、たとえば、第2角度は、66°である。このように構成すると、オネジとメネジとのひっかかり高さ(噛み合い量)を確保することが可能になり、オネジ部によってナット部材を適切に移動させることが可能になる。
【0011】
本発明において、モータは、駆動用コイルを有するステータと、回転軸の出力端側を支持するためのフレームとを備え、ステータまたはフレームは、ナット部材を所定の基準位置へ移動させる際にナット部材を停止させるストッパとなっていることが好ましい。このように構成すると、ナット部材を所定の基準位置へ移動させる際にナット部材を停止させるストッパを別途、設ける必要がなくなる。したがって、モータの構成を簡素化することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のモータでは、比較的簡易な構成で、オネジ部へのナット部材の噛み込みを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態にかかるモータの部分断面図である。
【図2】図1に示すリードスクリューとナット部材との係合部分の拡大断面図である。
【図3】図2のE部の拡大図である。
【図4】図3に示すナット部材が反出力側へ移動しているときの状態を示す拡大図である。
【図5】ナット部材の復帰移動量の比較試験に用いたメネジの寸法設定値を示す表である。
【図6】比較例にかかるメネジを用いたときのナット部材の復帰移動量の試験結果を示すグラフである。
【図7】実施例1にかかるメネジを用いたときのナット部材の復帰移動量の試験結果を示すグラフである。
【図8】実施例2にかかるメネジを用いたときのナット部材の復帰移動量の試験結果を示すグラフである。
【図9】実施例3にかかるメネジを用いたときのナット部材の復帰移動量の試験結果を示すグラフである。
【図10】実施例4にかかるメネジを用いたときのナット部材の復帰移動量の試験結果を示すグラフである。
【図11】ナット部材の復帰移動量の比較試験に用いたメネジを有するナット部材の、リードスクリューに対するガタの測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
(モータの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるモータ1の部分断面図である。
【0016】
本形態のモータ1は、いわゆるPM型のステッピングモータである。このモータ1は、たとえば、ブルーレイディスク用の光ピックアップ装置のコリメータレンズを光軸方向へ移動させるために使用されるレンズ駆動用のモータであり、光ピックアップ装置に搭載されて使用される。モータ1は、図1に示すように、回転軸2と駆動用磁石3とを有するロータ4と、駆動用磁石3の径方向の外側に対向配置される極歯5を有するステータ6と、回転軸2の出力側でステータ6に取り付けられたフレーム7とを備えている。また、モータ1は、回転軸2の出力側の端部を支持する軸受8と、回転軸2の反出力側の端部を支持する軸受9と、回転軸2を出力側へ付勢する板バネ10とを備えている。
【0017】
なお、以下の説明では、回転軸2の出力側となる図1のX1方向側を「出力側」、回転軸2の反出力側となる図1のX2方向側を「反出力側」とする。また、回転軸2の軸方向となる図1のX方向を「軸方向」、軸方向に直交する方向を「径方向」とする。
【0018】
回転軸2は、ステンレス鋼、アルミニウムあるいは黄銅等の金属で形成されている。本形態の回転軸2は、出力側に配置されるオネジ部としてのリードスクリュー2aと、反出力側に配置される細長い円柱状の軸部2bとから構成されている。リードスクリュー2aの外周面には、オネジ2cが形成されている。
【0019】
リードスクリュー2aの外径は、軸部2bの外径よりも大きくなっている。リードスクリュー2aは、軸部2bの出力側に固定されており、ステータ6から突出している。リードスクリュー2aには、ナット部材11が係合している。ナット部材11には、所定の部材を介して、光ピックアップ装置のコリメータレンズを保持するレンズホルダが取り付けられている。本形態では、回転軸2が回転すると、ナット部材11が軸方向へ移動し、ナット部材11の移動に伴って、コリメータレンズがその光軸方向へ移動する。リードスクリュー2aおよびナット部材11の詳細な構成については、後述する。
【0020】
駆動用磁石3は、永久磁石であり、略円筒状に形成されている。この駆動用磁石3は、ステータ6の内部に配置される回転軸2の軸部2bの外周面(すなわち、回転軸2の反出力側の外周面)に固定されている。駆動用磁石3の外周面には、N極とS極とが周方向に沿って交互に着磁されている。
【0021】
ステータ6は、軸方向で重なるように配置される第1のステータ部組12と第2のステータ部組13とを備えている。第1のステータ部組12は、反出力側に配置され、第2のステータ部組13は、出力側に配置されている。第1のステータ部組12は、外ステータコア14と、駆動用コイル15が巻回されるボビン16と、ボビン16を外ステータコア14との間に挟む内ステータコア17と、ケース18とを備えている。第2のステータ部組13は、第1のステータ部組12と同様に、外ステータコア14と、駆動用コイル15が巻回されたボビン16と、内ステータコア17と、ケース18とを備えている。
【0022】
ボビン16は、鍔付きの略円筒状に形成されており、その外周面に駆動用コイル15が略円筒状に巻回されている。ボビン16の内周側には、外ステータコア14および内ステータコア17のそれぞれに形成された複数の極歯5が周方向に隣接するように配置されている。ケース18は、外ステータコア14、駆動用コイル15、ボビン16および内ステータコア17の外周側を覆っている。また、ボビン16には、径方向外側に張り出す端子台16aが形成されている。端子台16aには、駆動用コイル15に電流を供給するための端子ピン20および基板21が固定されている。端子ピン20には、駆動用コイル15の端部が巻回されている。なお、ケース18は、外ステータコア14と一体で形成されても良いし、外ステータコア14と別体で形成されても良い。本形態では、ケース18は、外ステータコア14と一体で形成されている。具体的には、外ステータコア14の外周縁に繋がるようにケース18が形成されている。
【0023】
フレーム7は、金属の薄板によって形成された金属フレームである。このフレーム7は、底面部7aと、底面部7aから起立するように形成され互いに対向配置される2枚の側面部7b、7cとを備える角溝形状(断面コの字形状)に形成されている。
【0024】
側面部7bは、反出力側に配置されており、ステータ6に固定されている。側面部7bには、リードスクリュー2aの反出力側が挿通される挿通孔7dが側面部7bを貫通するように形成されている。挿通孔7dの内径は、リードスクリュー2aの外径よりも大きく形成されており、挿通孔7dの内周面とリードスクリュー2aとの間には隙間が形成されている。側面部7cは、出力側に配置されている。側面部7cには、軸受8が固定されている。すなわち、フレーム7の側面部7cは、軸受8を介して回転軸2の出力端側を支持する機能を果たしている。
【0025】
軸受8は、たとえば、摺動性に優れる樹脂で形成されている。また、軸受8は、たとえば、鍔付きの有底円筒状に形成されている。軸受8の内周側には、回転軸2の出力側の端部が配置されている。本形態では、軸受8によって、回転軸2の出力側の端部が軸方向および径方向で支持されている。
【0026】
軸受9は、たとえば、摺動性に優れる樹脂で形成されている。この軸受9は、ステータ6の反出力側に固定されている。また、軸受9は、鍔付きの略円筒状に形成されており、略円筒状に形成された部分は、回転軸2の反出力端側の外周面を保持する軸保持部9aとなっている。回転軸2の反出力側の端部は、軸保持部9aの内周面に摺動しながら、軸方向へ移動可能となっている。本形態では、軸受9によって、回転軸2の反出力側の端部が径方向で支持されている。
【0027】
板バネ10は、ステータ6の反出力側に取り付けられている。板バネ10の中心部には、回転軸2の反出力端に当接して、回転軸2を出力側へ付勢するバネ部10aが形成されている。
【0028】
モータ1が搭載されるピックアップ装置では、電源オフの状態から電源オンの状態になると、コリメータレンズを所定の原点位置に移動させるコリメータレンズの原点出しが行われる。本形態では、コリメータレンズの原点出しを行う際に、回転軸2を回転させて、たとえば、コリメータレンズを保持するレンズホルダが所定のストッパに接触する位置までナット部材11を移動させて停止させることで、コリメータレンズを原点位置へ移動させている。このときには、ストッパにレンズホルダを確実に接触させるため、ストッパにレンズホルダが接触しても、回転軸2には所定時間、回転力が与えられる。
【0029】
(リードスクリューおよびナット部材の構成)
図2は、図1に示すリードスクリュー2aとナット部材11との係合部分の拡大断面図である。図3は、図2のE部の拡大図である。図4は、図3に示すナット部材11が反出力側へ移動しているときの状態を示す拡大図である。
【0030】
上述のように、リードスクリュー2aの外周面には、オネジ2cが形成されている。また、リードスクリュー2aは、転造加工、切削加工あるいは研磨加工によって形成されている。オネジ2cは、三角ネジであり、ネジ山の断面形状が略正三角形状となるように形成されている。本形態では、オネジ2cのネジ山の角度θ1(以下、「第1角度θ1」とする。)は、60°となっている。
【0031】
ナット部材11は、たとえば、樹脂で形成されている。ナット部材11の内周面は、オネジ2cに螺合するメネジ11aが形成されたメネジ部となっている。メネジ11aは、成型、転造タップあるいは切削タップによって形成されている。また、メネジ11aは、三角ネジであり、ネジ山の断面形状が略正三角形状となるように形成されている。メネジ11aのネジ山の角度θ2(以下、「第2角度θ2」とする。)は、第1角度θ1と異なっている。具体的には、第2角度θ2は、第1角度θ1よりも大きくなっている。本形態の第2角度θ2は、66°である。なお、第2角度θ2は、第1角度θ1より小さくても良い。また、ナット部材11は、ステンレス鋼、アルミニウムあるいは黄銅等の金属で形成されても良い。
【0032】
本形態では、メネジ11aの有効径D1は、オネジ2cの有効径よりも大きくなっている。そのため、メネジ11aとオネジ2cとの間には、隙間(ガタ)が形成されている。また、上述のように、第2角度θ2は、第1角度θ1と異なっている。そのため、リードスクリュー2aの回転に伴ってナット部材11が軸方向へ移動する際には、図4に示すように、オネジ2cのフランク面2dとメネジ11aのフランク面11bとが線接触する。さらに、第2角度θ2が第1角度θ1よりも大きくなっているため、図4に示すように、リードスクリュー2aの回転に伴ってナット部材11が軸方向へ移動する際のフランク面2dとフランク面11bとの接触部分Cの径D10は、メネジ11aの有効径D1よりも大きくなっている。なお、第2角度θ2が第1角度θ1よりも小さい場合には、フランク面2dとフランク面11bとの接触部分Cの径D10は、メネジ11aの有効径D1よりも小さくなる。
【0033】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、オネジ2cのネジ山の角度である第1角度θ1と、メネジ11aのネジ山の角度である第2角度θ2とが異なっている。そのため、オネジ2cのフランク面2dとメネジ11aのフランク面11bとの接触面積は小さくなり、コリメータレンズを保持するレンズホルダがストッパに接触している状態で回転軸2がさらに回転しても、フランク面2dとフランク面11bとが密着しにくくなる。したがって、本形態では、オネジ2cのネジ山の角度とメネジ11aのネジ山の角度とを異ならせるといった比較的簡易な構成で、リードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みを抑制することが可能になる。
【0034】
この効果を比較試験の結果に基づいて具体的に説明する。以下の説明では、ナット部材11が反出力側へ向かって移動するときの回転軸2の回転方向をCW方向とし、ナット部材11が出力側へ向かって移動するときの回転軸2の回転方向をCCW方向とする。
【0035】
比較試験では、まず、コリメータレンズを保持するレンズホルダの端面とレンズホルダの移動を規制するストッパの端面との距離が3.72mmとなる位置にナット部材11を配置した後に、回転軸2をCCW方向へ回転させて、ストッパの端面にレンズホルダの端面を接触させた。このとき、出力側へのナット部材11の計算上の移動量が3.84mmとなるステップ数のパルス信号を駆動用コイル15に入力して、ストッパの端面にレンズホルダの端面を確実に衝突させた。その後、駆動用コイル15に印加する電圧を変えながら、かつ、反出力側へのナット部材11の計算上の移動量が3.72mmとなるステップ数のパルス信号を駆動用コイル15に入力して回転軸2をCW方向へ回転させたときのナット部材11の実際の移動量(復帰移動量)を測定した。
【0036】
また、比較試験では、オネジ2cのネジ山の角度(すなわち、第1角度θ1)およびオネジ2cの有効径等を一定にするとともに、メネジ11aのネジ山の角度(すなわち、第2角度θ2)およびメネジ11aの有効径D1の異なる5種類のメネジ11aを用いて、ナット部材11の復帰移動量を測定した。また、比較試験では、5種類のメネジ11aのそれぞれが形成された複数個のナット部材11の復帰移動量を測定した。比較試験で用いたオネジ2cの第1角度θ1は60°であり、オネジ2cの有効径は1.505mmであり、オネジ2cの外径は1.7mmであり、オネジ2cのピッチは0.3mmである。また、比較試験で用いた5種類のメネジ11a(比較例のメネジ11a、実施例1〜実施例4のメネジ11a)の第2角度θ2、有効径D1、メネジ11aのネジ山の仮想頂点(1つのネジ山を構成する2個のフランク面11bを延長した線が交わる点)の径D2、メネジ11aの内径D3およびメネジ11aの谷の径D4(図2、図3参照)は、図5に示すように設定した。また、メネジ11aのピッチPは0.3mmとした。
【0037】
なお、比較例のメネジ11aと実施例1のメネジ11aと実施例2のメネジ11aとでは、メネジ11aのネジ山の仮想頂点の径D2およびメネジ11aの内径D3は同じであるが、第2角度θ2が相違する。また、実施例2のメネジ11aと実施例3のメネジ11aと実施例4のメネジ11aとでは、メネジ11aの内径D3および第2角度θ2は同じであるが、メネジ11aのネジ山の仮想頂点の径D2およびメネジ11aの谷の径D4が相違しており、その結果、有効径D1が相違している。
【0038】
比較試験の結果を図6〜図10に示す。図6に示す試験結果は、比較例のメネジ11aを用いたときの試験結果であり、図7に示す試験結果は、実施例1のメネジ11aを用いたときの試験結果であり、図8に示す試験結果は、実施例2のメネジ11aを用いたときの試験結果であり、図9に示す試験結果は、実施例3のメネジ11aを用いたときの試験結果であり、図10に示す試験結果は、実施例4のメネジ11aを用いたときの試験結果である。
【0039】
図6〜図10から明らかなように、第1角度θ1と第2角度θ2とが同じである比較例のメネジ11aを用いた場合と比較して、第1角度θ1と第2角度θ2とが異なる実施例1〜実施例4のメネジ11aを用いた場合には、駆動用コイル15に印加される電圧(復帰電圧)が低くても、ナット部材11の復帰移動量が大きくなっている。すなわち、比較例のメネジ11aを用いた場合と比較して、実施例1〜実施例4のメネジ11aを用いた場合には、ナット部材11を所定量だけ移動させるのに必要な復帰電圧が低くなっており、ストッパの端面にレンズホルダの端面が衝突したときのリードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みが抑制されている。このように、第1角度θ1と第2角度θ2とが異なっていると、リードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みを抑制することができる。
【0040】
また、図7〜図10から明らかなように、第2角度θ2が第1角度θ1よりも小さい実施例1のメネジ11aを用いた場合と比較して、第2角度θ2が第1角度θ1よりも大きい実施例2〜実施例4のメネジ11aを用いた場合には、ナット部材11を所定量だけ移動させるのに必要な復帰電圧がさらに低くなっており、ストッパの端面にレンズホルダの端面が衝突したときのリードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みがさらに抑制されている。このように、第2角度θ2が第1角度θ1よりも大きいと、リードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みを効果的に抑制することができる。
【0041】
また、比較例のメネジ11aおよび実施例1〜実施例4のメネジ11aを用いた場合の、ナット部材11のリードスクリュー2aに対するガタ(オネジ2cとメネジ11aとの隙間)は、図11に示すようになった。すなわち、第2角度θ2が大きい程、また、メネジ11aの有効径D1が小さい程、ナット部材11のリードスクリュー2aに対するガタは小さくなった。なお、図11は、比較例のメネジ11aおよび実施例1〜実施例4のメネジ11aのそれぞれの3個のサンプルについて、ナット部材11のリードスクリュー2aに対するガタを測定した結果を示している。また、CCWガタは、リードスクリュー2aが停止している状態において、ナット部材11が出力側へ傾くように、フレーム7の底面部7aに平行な平面であって、かつ、リードスクリュー2aの軸中心を通過する平面内でナット部材11に力を作用させたときの、軸方向に直交する方向に対するナット部材11の傾斜角度であり、CWガタは、リードスクリュー2aが停止している状態において、ナット部材11が反出力側へ傾くように、フレーム7の底面部7aに平行な平面であって、かつ、リードスクリュー2aの軸中心を通過する平面内でナット部材11に力を作用させたときの、軸方向に直交する方向に対するナット部材11の傾斜角度である。また、合計ガタは、CCWガタとCWガタとの和である。
【0042】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0043】
上述した形態および上述の比較試験で用いた実施例2〜実施例4のメネジ11aの第2角度θ2は66°であるが、第2角度θ2は、60°を超える任意の角度であっても良い。たとえば、第2角度θ2は、63°であっても良い。この場合であっても、リードスクリュー2aへのナット部材11の噛み込みを抑制することが可能である。なお、第1角度θ1が60°である場合には、オネジ2cとメネジ11aとのひっかかり高さ(噛み合い量)を確保するため、第2角度θ2は、70°以下であることが好ましい。
【0044】
また、上述の比較試験で用いた実施例1のメネジ11aの第2角度θ2は、54°であるが、第2角度θ2が第1角度θ1よりも小さい場合には、第2角度θ2は、60°未満の任意の角度であっても良い。
【0045】
上述した形態および上述の比較試験で用いた実施例1〜実施例4のメネジ11aでは、第1角度θ1が60°であり、第2角度θ2が第1角度θ1と異なっている。この他にもたとえば、第2角度θ2が60°であり、かつ、第1角度θ1が第2角度θ2と異なっていても良いし、第1角度θ1が60°以外の角度であり、かつ、第2角度θ2が第1角度θ1と異なっていても良い。
【0046】
上述した形態では、コリメータレンズの原点出しを行う際に、コリメータレンズを保持するレンズホルダが所定のストッパに接触する位置までナット部材11を移動させて停止させることで、コリメータレンズを原点位置へ移動させている。この他にもたとえば、コリメータレンズの原点出しを行う際に、側面部7cに固定された軸受8の鍔部8aの反出力側の端面に接触する位置までナット部材11を移動させて停止させることで、ナット部材11を基準位置へ移動させて、コリメータレンズを原点位置へ移動させても良い。また、側面部7bの出力側の端面に接触する位置までナット部材11を移動させて停止させることで、ナット部材11を基準位置へ移動させて、コリメータレンズを原点位置へ移動させても良い。これらの場合には、フレーム7がナット部材11を基準位置へ移動させる際にナット部材11を停止させるストッパとして機能するため、ナット部材11を基準位置へ移動させる際にナット部材11を停止させるストッパを別途、設ける必要がなくなる。したがって、モータ1の構成を簡素化することが可能になる。
【0047】
上述した形態では、ロータ4は、1個の駆動用磁石3を備えているが、ロータ4が備える駆動用磁石3の数は、2個以上でも良い。また、上述した形態では、ステータ6は、第1のステータ部組12と第2のステータ部組13とによって構成されているが、ステータ6は、3個以上のステータ部組によって構成されても良い。
【0048】
上述した形態では、モータ1は、ブルーレイディスク用の光ピックアップ装置のコリメータレンズを光軸方向へ移動させるために使用されるレンズ駆動用のモータであるが、モータ1は、他の用途に使用されても良い。たとえば、モータ1は、デジタルカメラ等のレンズを光軸方向へ移動させるレンズ駆動用のモータであっても良い。また、上述した形態では、モータ1は、ステッピングモータであるが、本発明の構成は、ステッピングモータ以外のモータにも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 モータ
2 回転軸
2a リードスクリュー(オネジ部)
2c オネジ
2d フランク面
3 駆動用磁石
6 ステータ
7 フレーム
11 ナット部材
11a メネジ
11b フランク面
15 駆動用コイル
C オネジのフランク面とメネジのフランク面との接触部分
D1 メネジの有効径
D10 接触部分の径
X 軸方向
θ1 第1角度
θ2 第2角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オネジが形成されたオネジ部を少なくとも出力側に有する回転軸と、前記オネジに螺合するメネジが形成されるとともに前記回転軸の回転に伴って前記回転軸の軸方向へ移動するナット部材と、駆動用磁石と、駆動用コイルとを備え、
前記オネジのネジ山の角度である第1角度と、前記メネジのネジ山の角度である第2角度とが異なっていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記ナット部材が前記軸方向へ移動するときの前記オネジのフランク面と前記メネジのフランク面との接触部分の径は、前記メネジの有効径よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
前記第2角度は、前記第1角度よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項4】
前記第1角度は、60°であり、前記第2角度は、60°よりも大きいことを特徴とする請求項2または3記載のモータ。
【請求項5】
前記第2角度は、70°以下であることを特徴とする請求項4記載のモータ。
【請求項6】
前記第2角度は、66°であることを特徴とする請求項5記載のモータ。
【請求項7】
前記駆動用コイルを有するステータと、前記回転軸の出力端側を支持するためのフレームとを備え、
前記ステータまたは前記フレームは、前記ナット部材を所定の基準位置へ移動させる際に前記ナット部材を停止させるストッパとなっていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−55031(P2012−55031A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193466(P2010−193466)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】