説明

ライニング装置

【課題】 熱可塑性樹脂材料及び強化繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材に対し、加熱の均一化を図り、加熱効率を向上させることのできるライニング装置を提供する。
【解決手段】 一実施形態では、ライニング材10を加熱して熱可塑性樹脂材料を溶融させる本体部2と、熱可塑性樹脂材料が溶融したライニング材10を内側から加圧して拡径させる加圧部3とを有する。本体部2は、内側に挿入されるインナー部21と、その外側を覆うアウター部22とを備え、インナー部21及びアウター部22の少なくとも一方の部材にライニング材10に加熱作用する加熱部23が設けられ、他方の部材が加熱部23に対向配置される。そして、インナー部21とアウター部22との間にライニング材10が配置されたとき、加熱部23とライニング材10とが相互に近接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング材を使用した既設管の更生方法に用いるライニング装置に係る。特に、本発明は、複合材料でなるライニング材に対する加熱性能を高めたライニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材を既設管渠内に挿入して既設管内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2や特許文献3に記載されているように、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライニング材を既設管内に挿入し、そのライニング材を加熱するとともに圧力を加え、既設管に接触させてライニングする方法が提案されている。
【0005】
この特許文献2や特許文献3に開示されているライニング材は、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料からなる熱可塑性フィラメントと、ガラス繊維からなる補強繊維フィラメントとによる複合材料によって略筒型に形成されている。既設管の更生方法としては、既設管内に前記ライニング材を挿入した後、ライニング装置を用いてライニング材の熱可塑性フィラメントを溶融する。これにより、溶融したプラスチック材料の中に補強繊維フィラメントが分散されることになる。その後、ライニング材の内側に圧力を加えて拡径させるとともにプラスチック材料を冷却固化させ、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング材によって既設管が更生される。
【0006】
図6は、この工法において用いる従来のライニング装置の概略構成を示す説明図である。この図において、図面を見やすくするため既設管5、ライニング材10等は断面により示し、ライニング材10の内部に配置される装置本体の内部構造は側面視により示している。
【0007】
ライニング装置100は、既設管5の内部に配置されたライニング材10に沿って管軸方向に移動しながら、ライニング材10を内側から加熱する。ライニング装置100は、前方部分110、中央部分120、後方部分130とを備えている。
【0008】
前方部分110は、ライニング材10への挿入を許容する小径の形状に形成されている。中央部分120は、加熱ガスをライニング材10に透過させて加熱する加熱手段121を備えている。後方部分130は、加熱されたライニング材10を既設管5に押し付ける可撓性バッグ131を備えている。これにより、ライニング装置100は、ライニング材10に沿って図中左方向に移動する過程で、中央部分120に導入されたライニング材10を加熱し、そのライニング材10を後方部分130において拡径させて、既設管5に密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特表2004−508989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2や特許文献3に開示された上記従来のライニング装置では、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライニング材を十分に加熱するためには問題点があり、未だ改良の余地があった。
【0011】
例えば、ライニング材を構成する熱可塑性樹脂材料の溶融は、比較的低温である既設管内にて行われることから、ライニング材が冷やされやすく、熱可塑性樹脂材料を十分に溶融させるのに長い時間を要して、施工期間が長期化してしまうという問題点がある。
【0012】
この点で、図6に示した従来のライニング装置100では、中央部分120においてライニング材10が部分的に既設管5内に露出する構成となっている。また、ライニング材10と中央部分120との間の隙間が大きく形成されてしまう構造である。このため、従来のライニング装置100では、ライニング材10が冷やされてしまいやすく、また、加熱する際の熱損失も大きく、加熱を効率的に行うことができないものであった。
【0013】
また、図6では、既設管5に対して、ライニング装置100が管軸中心に配置されて描かれているが、実際の施工現場ではライニング装置100が自重により既設管5の管底に接触し、ライニング装置100の上部には既設管5との間に大きい空間Sを生じることとなる。すると、ライニング材10の上部と下部とで加熱が不均一になりやすく、また、溶融したライニング材10を既設管5に接触させるまでの距離も上部と下部とで不均一となり、ライニング材10の上部では溶融した熱可塑性樹脂材料が硬化してしまいやすくなる。また、既設管5内に流水が存在すると、ライニング装置100及びライニング材10が流水に接触して冷やされ、十分な加熱が行えない状況となる。
【0014】
このように、ライニング材に対する加熱が不均一になると、熱可塑性フィラメントに溶け残りが発生することがある。ライニング材に溶け残りが発生すると、その部分では、プラスチック材料の中に補強繊維フィラメントを分散させた構成が得られなくなり、ライニング材の強度の不均一化を招いてしまうことになり好ましくない。
【0015】
また、溶け残りの発生を回避するべく、加熱温度を高く設定したり、加熱時間を長く設定したりすることが考えられる。しかしながら、これでは、部分的に加熱が過剰となる可能性があり、この加熱過剰箇所にあってはプラスチック材料の一部分が流動してライニング材に偏肉が発生してしまう可能性がある。このような偏肉が発生した場合にもライニング材の強度の不均一化を招くおそれがある。
【0016】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性樹脂材料及び強化繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材に対して加熱の均一化を図り、加熱効率を向上させることのできるライニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、熱可塑性樹脂材料及び強化繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材を用いて既設管の内面をライニングするライニング装置を前提としている。このライニング装置に対し、前記複合材料層を加熱して熱可塑性樹脂材料を溶融させる本体部と、熱可塑性樹脂材料が溶融した複合材料層を内側から加圧して拡径させる加圧部とを備えさせる。この本体部としては、複合材料層の内側に挿入されるインナー部と、複合材料層の外側を覆うアウター部とを備えさせ、インナー部及びアウター部の少なくとも一方の部材には複合材料層に加熱作用する加熱部を設けるとともに他方の部材は前記加熱部に対向配置させ、これらのインナー部とアウター部との間に複合材料層が挿入されたとき、前記加熱部と複合材料層とが相互に近接した配置となる構成としている。
【0018】
この特定事項により、ライニング材の複合材料層に作用する熱が、インナー部及びアウター部との間に保持されて本体部の外へ逃げないため、熱損失が低く抑えられるとともに、既設管内の低温空気の影響を防ぐことも可能となる。また、加熱部と複合材料層とを相互に近接させた状態で加熱することができるので、非常に効率よく加熱することができる。つまり、既設管の内部にライニング材を挿入した後に、このライニング材を加熱して熱可塑性樹脂材料を溶融させる際、ライニング材に与えた熱が本体部内で拡散され、熱可塑性樹脂材料の略全体が略均一に加熱されることになる。その結果、ライニング材に対する加熱の不均一化が解消され、比較的短時間で、熱可塑性樹脂材料の全体を溶融させることが可能になり、熱可塑性樹脂材料の中に補強繊維材料を分散させた構成(言い換えると、溶融した熱可塑性樹脂材料が補強繊維材料を包囲した構成)をライニング材全体に亘って得るための施工時間を短縮化することができる。また、ライニング材に対する加熱が均一化されることにより、熱可塑性樹脂材料に溶け残りが生じることがなくなり、また、熱可塑性樹脂材料の一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0019】
ライニング装置のより具体的な構成として次のものが挙げられる。先ず、前記本体部として、前記加熱部をインナー部の後端寄りに設け、前記アウター部をインナー部の先端部から後端部にかけて覆うように形成した構成である。
【0020】
これにより、加熱部が加圧部に近接して設けられるので、ライニング材の複合材料層を拡径する直前で熱可塑性樹脂材料を溶融させることができ、管壁への密着性が高められる。さらに、加熱部を有するインナー部は、アウター部によって先端部から後端部にかけて覆われているので、熱損失が抑えられ、複合材料層の加熱を効率的に行うことができる。
【0021】
前記ライニング装置において、インナー部とアウター部との間には複合材料層の厚みに対応する間隔の隙間を設ける構成とすることが好ましい。また、前記インナー部は加熱部が拡径されて設けられていることが好ましい。
【0022】
これにより、インナー部とアウター部との間に複合材料層が配置されたとき、加熱部と複合材料層、及びアウター部と複合材料層が、相互に近接して配置され、より好ましくは、加熱部と複合材料層とが隙間無く配置される。その結果、これらの間に、加熱を妨げるような隙間を生じないので、複合材料層の加熱を効率的に行うことができる。また、インナー部とアウター部との間の隙間が、このように構成されることにより、複合材料層の肉厚を均一に成形し、圧延する作用を期待でき、加熱部からの熱伝達又は熱伝導を均一に行うことが可能になる。
【0023】
具体的には、前記加熱部には加熱流体の吐出孔を備えさせ、該吐出孔を多孔質で形成するとともに前記インナー部の周方向に帯状に配設することが好ましい。
【0024】
このような構成により、加熱部からの熱を複合材料層の内周面に均等拡散させることができ、ライニング材に対する加熱の不均一化が解消されて、比較的短時間で、熱可塑性樹脂材料の全体を溶融させることが可能となる。
【0025】
また、より好ましい構成として、前記アウター部に、前記本体部を既設管の内面に支持する支持手段を設けることが挙げられる。
【0026】
これにより、本体部を既設管の管底から離間させ、既設管の管軸中心に配置させることが可能となる。その結果、ライニング装置の周囲と既設管の内面との間の空間が均等に保持されて、大きい隙間を生じることがなくなり、ライニング材の均一な加熱及び管壁への良好な接着性を確保することができる。
【0027】
前記支持手段の具体構成としては以下に述べる複数のものが挙げられる。
【0028】
先ず、前記支持手段として、橇状に延出する支持板を備えさせるものである。また、前記支持手段として、回転自在な複数のローラ又は車輪を備えさせるものである。また、前記支持手段として、かかる支持板と、ローラ又は車輪とを組み合わせてもよい。
【0029】
これにより、ライニング装置の既設管内での円滑な移動性を維持しつつ、既設管の管壁とライニング材との間の空間を、上下で均等に保持することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るライニング装置により、熱可塑性樹脂材料及び強化繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材に対して、加熱の均一化を図ることが可能となるとともに、加熱効率を向上させることが可能となる。その結果、比較的短時間で、熱可塑性樹脂材料の全体を溶融させることが可能になり、熱可塑性樹脂材料の中に補強繊維材料を分散させた構成をライニング材全体に亘って得るための施工時間を短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態に係るライニング装置を用いた既設管の更生方法を示す説明図である。
【図2】実施形態1に係るライニング装置を示す説明図である。
【図3】実施形態2に係るライニング装置を示す説明図である。
【図4】実施形態3に係るライニング装置を示す説明図である。
【図5】実施形態4に係るライニング装置を示す説明図である。
【図6】従来のライニング装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態に係るライニング装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
以下では、先ず、ライニング装置を用いて既設管の内壁をライニングする更生方法について説明し、その後、ライニング装置の構成について複数の実施形態により説明する。
【0034】
(既設管の更生方法)
図1は、ライニング材10を用いて既設管5の内面をライニングする更生方法を模式的に示す説明図である。なお、以下の説明において、説明の便宜上、ライニング装置1が既設管5を更生する際の管路における進行方向を前方、その反対方向を後方とする。また、図面を見やすくするため、図中、既設管5、ライニング材10等は断面により示し、ライニング材10の内部に配置されるライニング装置1のインナー部21等は側面視により示している。
【0035】
ライニング材10は、熱可塑性フィラメント及び強化繊維フィラメントを含む繊維強化複合材料からなる可撓性を有する筒状布帛である。ライニング材10は、熱可塑性フィラメント及び強化繊維フィラメントを含む繊維強化複合材料からなる複合材料層のみでなく、複合材料層よりも大径とされたライナー層(遮水層)を備えて、ライニング材10の外側層を有する複層構造であってもよい。
【0036】
ライニング材10は、図1に示すように既設管5の補修対象箇所に挿入して用いる。更生作業に先立ち、既設管5に下水等の流下水がある場合には、この流下水を管路からいったん除去することが好ましい。既設管5の管路には、適当な間隔を設けてマンホールM1、M2が設けられており、近傍のマンホールの上流側に堰き止め部材7を設ける。堰き止めた流下水は、マンホールM1、M2を通して排水ポンプから汲み取り、地上に配設した図示しない排水ホース等を迂回路として下流側へ放出する。更に、既設管5内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内の更生作業に入る。
【0037】
先ず、マンホールM1、M2を通してライニング材10を既設管5に導く。ライニング材10は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意されている。また、到達側マンホールM2の地上側には、牽引ワイヤを巻き取るウィンチ等の地上機器9を設置する。牽引ワイヤは、例えばカーボンファイバー製の通線材91に挿通され、到達側マンホールM2から通線材91を介して既設管5内に導入される。
【0038】
次いで、既設管5の端部に配置されたライニング材10(複層構造である場合は複合材料層)の内側にライニング装置1を設置する。ライニング装置1の先端部には、牽引ワイヤを取り付ける。通線材91に挿通した牽引ワイヤが、ライニング装置1を発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0039】
このライニング装置1は、本体部2として、ライニング材10の内周面に沿う円筒状の外形を有するインナー部21と、ライニング材10に外装される円筒状のアウター部22とを備えている。本体部2は、ライニング材10に加熱蒸気等の加熱流体を作用させて加熱し、ライニング材10に含まれる熱可塑性フィラメントを溶融する(加熱工程)。
【0040】
加熱工程では、ライニング材10における熱可塑性フィラメントの融点以上の温度で加熱する。これにより、ライニング材10の熱可塑性フィラメントが溶融し、ライニング材10が補強繊維フィラメントを混合した円管形状の繊維強化樹脂材となる。
【0041】
ライニング材10は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、また既設管5の内面に密着した状態とはなっていない。図1に示すように、ライニング装置1の後方には加圧部3が設けられている。
【0042】
加熱工程を経て軟化したライニング材10は、ライニング装置1が前進することで、徐々に拡径される。具体的には、加圧部3によりライニング材10が内側から押圧されて既設管5の内周面に沿う管状に拡径される(拡径工程)。図1に示す加圧部3は、反転機8が地上に設置され、先端側から反転させつつ導入された加圧チューブ31が備えられている。
【0043】
加圧チューブ31は、内部の加圧空気によって拡径することが可能であり、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機8に拡張していない状態で接続されている。そして、加圧チューブ31に、反転機8から加圧気体が供給されて、ライニング装置1の進行に追従しながら内周面が外周側に反転しつつ拡張する。これに伴って、ライニング材10は、本体部2を経て軟化した部分から順に、加圧チューブ31によって内側から押圧されて拡径する。
【0044】
ライニング材10の拡径した部分は既設管5の内面(又はライニング材10のライナー層)に密着する。ライニング装置1が前進することにより、加圧チューブ31の拡張範囲も前方へ広げられ、ライニング材10と既設管5との密着状態はそのまま維持されて、広範囲で均一な力を付与することができ、均一に成形される。
【0045】
既設管5の補修対象箇所の全域に亘ってライニング材10が拡径されたならば、ライニング装置1への加熱流体の供給を停止し、常温の加圧空気等の冷却媒体により冷却及び硬化させ(冷却工程)、これにより、既設管5の内周面がライニング材10により更生される。
【0046】
(実施形態1)
次に、前記既設管の更生方法において用いるライニング装置1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図2は本発明の実施形態1に係るライニング装置1を一部断面とともに模式的に示す説明図である。
【0047】
ライニング装置1は、ライニング材10(複合材料層を含む)を加熱して熱可塑性樹脂材料を溶融させる本体部2と、熱可塑性樹脂材料が溶融したライニング材10を内側から加圧して拡径させる加圧部3とを有する。
【0048】
本体部2は、ライニング材10の内側に挿入されるインナー部21と、ライニング材10の外側を覆うアウター部22とを備えている。インナー部21及びアウター部22の少なくとも一方の部材にはライニング材10に加熱作用する加熱部23が設けられている。
【0049】
また、本体部2の後方に設けられた加圧部3は、本体部2の後端部から漸次拡径したテーパー部32を備え、加圧チューブ31が装着されている。加圧チューブ31は、内圧により十分に拡径することが可能であり、拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れた材料(例えばエラストマー、シリコンゴム、ポリ塩化ビニルなど)により形成されている。また、加圧チューブ31は、拡径後にもこの加圧チューブ31とライニング材10とが接着しない材質により形成されている。加圧チューブ31の外径は、最大拡張時にライニング材10を内側から既設管5の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0050】
例示のライニング装置1においては、本体部2のインナー部21に加熱部23が設けられている。また、アウター部22は、加熱部23の外側を含めたインナー部21の軸方向の長さの略全体を覆う大きさで形成されている。
【0051】
具体的に、インナー部21は、ステンレス鋼などの金属材料により形成された円筒部材であり、ライニング材10よりも小径とされている。インナー部21の先端部には、先端方向に縮径したテーパー部24が設けられており、ライニング材10の内側への進入を容易にしている。加熱部23の熱源は、到達側マンホールM2の地上側に設置されており、地上機器9として熱源、発電機、コンプレッサ、及びウィンチ等を備える。このテーパー部24の先端には、地上機器9に含まれる熱源からの通線材91が接続部材4を介して接続されている(図1参照)。
【0052】
インナー部21の後端寄りには、加熱部23が設けられている。テーパー部24と加熱部23との間は、ストレートの円筒部25とされている。本体部2へは、地上機器9から通線材91を介して加熱流体が供給されている。加熱流体は、加熱部23の吐出孔231から噴出される。例示の形態では、吐出孔231は多孔質で形成されるとともにインナー部21の周方向に帯状に配設されている。
【0053】
加熱流体の温度は、ライニング材10の熱可塑性樹脂材料により設定される。例えば、熱可塑性樹脂材料としてポリプロピレン(融点は160〜170℃程度)が採用された場合、既設管5の更生過程での加熱流体の温度は約180℃に設定される。また、熱可塑性樹脂材料として高密度または低密度ポリエチレン(融点は140℃)が採用された場合は、既設管5の更生過程での加熱流体の温度は例えば150℃に設定される。
【0054】
アウター部22は、加熱部23を備えるインナー部21の先端部から後端部にかけて、略全体を覆う円筒状に形成されている。インナー部21の円筒部25及び加熱部23と、アウター部22の内面との間には、ライニング材10の厚みに対応する隙間が形成されている。
【0055】
アウター部22の先端部には、内面が縮径された案内部26が備えられている。案内部26は、テーパー部24の外側を覆って、溶融前のライニング材10を円筒部25とアウター部22との間へ案内するように作用する。また、アウター部22の後端部は、インナー部21の加熱部23に対向する位置まで延設されている。
【0056】
これにより、インナー部21とアウター部22との間にライニング材10が配置されたとき、加熱部23にライニング材10の内面が近接する。また、ライニング材10の外面には、アウター部22が近接してほぼ隙間無く配置される。ライニング材10は、インナー部21の加熱部23(吐出孔231)からの加熱流体により加熱される。また、インナー部21の円筒部25は、加熱流体の作用で昇温しているため、ライニング材10を予備加熱し、加熱部23での加熱効率を高める。さらに、アウター部22は、加熱部23から発せられる熱を輻射してライニング材10を外面から加熱する。
【0057】
このとき、インナー部21とライニング材10との間、及びアウター部22とライニング材10との間には殆ど隙間が形成されないので、低温空気の進入する余地が無く、加熱流体で満たされることとなる。その結果、ライニング材10に対して内外両面から効率よく均一に加熱することができ、比較的短時間で、ライニング材10の熱可塑性樹脂材料を溶融させることが可能になる。そして、熱可塑性樹脂材料の中に補強繊維を分散させた構成をライニング材10の全体に亘って得るための施工時間及び加熱時間の短縮化を図ることができる。また、ライニング材10に対する加熱の均一化によって、熱可塑性樹脂材料に溶け残りが生じることがなくなり、また、熱可塑性樹脂材料の一部分が過剰加熱されて流動してしまうといったことも回避できる。
【0058】
更には、ライニング材10に対する加熱の均一化によりライニング材10が均一に軟化し、その直後に、後方のテーパー部24を経て加圧チューブ31により拡径されるため、ライニング材10が捩れ難くなり、皺の発生を抑制して均等に拡径される。この際、ライニング材10を構成する軟化した熱可塑性樹脂材料が既設管5の内面に押し付けられて内部気泡が潰され、厚みが減少する。これにより、ライニング材10は、仕上がり内径が大きくなり既設管5の流路断面積の減少を抑え、均一な厚みで高い強度及び内面平滑性を有するライニング層を既設管5内に形成することができる。
【0059】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るライニング装置1について説明する。図3は本発明の実施形態2に係るライニング装置を一部断面とともに模式的に示す説明図である。
【0060】
前記実施形態1では、インナー部21の後端寄りに加熱部23が設けられ、テーパー部24と加熱部23との間はストレートの円筒部25とされていた。本実施形態では、インナー部21において加熱部23が円筒部よりも拡径して設けられた例を示す。なお、このライニング装置1においてアウター部22及び加圧部3等の構成は前記実施形態1のものと同様であるため、図3にあっては実施形態1と同じ符号を用いて示し、詳細な説明を省略する。
【0061】
図3に示すように、インナー部21の後端部寄りには加熱部23が設けられている。この加熱部23は、前記実施形態1と同様に、多孔質の吐出孔231をインナー部21の周方向に帯状に備えており、この吐出孔231から加熱流体が噴出される。
【0062】
この形態では、インナー部21において、加熱部23が円筒部27の外径よりも大径にて形成され、円筒部27よりも外周側に突出して同心状に設けられている。また、この加熱部23は、アウター部22の内面との間に、ライニング材10の厚みに対応する隙間を形成する大きさとされている。
【0063】
これにより、インナー部21とアウター部22との間にライニング材10が配置されたとき、加熱部23にライニング材10の内面が近接し、その外側にアウター部22がほぼ隙間無く近接する。ライニング材10は、インナー部21の加熱部23(吐出孔231)からの加熱流体により加熱され、アウター部22により加熱部23からの熱を輻射して外面から加熱される。
【0064】
インナー部21は、加熱部23と円筒部27とを一体に連続させて形成されてもよいが、図3に示すように、円筒部27の後端部に、加熱部23を備える大径の円筒状部材を接合して形成されてもよい。この場合、例えば、従来のライニング装置が備える小径のインナー部を利用することができる。つまり、インナー部の後端部を加工し、別体で形成した大径の加熱部23を、小径の円筒部27に接合して形成することも可能である。加熱部23と円筒部27との接合は、例示するように、加熱部23の内周面に延設した断面L字状の接合片232と、円筒部27とを止着具により緊結してもよく、また両者を溶接してもよい。
【0065】
かかる加熱部23の構成においても、インナー部21の加熱部23とライニング材10の間、及びアウター部22とライニング材10の間には殆ど隙間が形成されないので、低温空気の進入する余地が無く、加熱流体で満たされることとなる。その結果、ライニング材10に対して内外両面から効率よく均一に加熱することができ、比較的短時間で、ライニング材10の熱可塑性樹脂材料を溶融させることが可能になる。
【0066】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係るライニング装置1について説明する。図4は本発明の実施形態3に係るライニング装置1を一部断面とともに模式的に示す説明図である。
【0067】
この実施形態3では、本体部2が、アウター部22に設けた支持手段により既設管5の内面に支持される例について示す。なお、実施形態3及び4に係るライニング装置1において、インナー部21及び加圧部3等の構成は前記実施形態1、2のものと同様とすることができるため、実施形態1と同じ符号を用いて示し、詳細な説明を省略する。
【0068】
ライニング装置1は、本体部2のアウター部22の底部に、支持手段を備えている。支持手段としては、複数の形態が可能であるが、例えば、図4に示すように、管軸方向に沿って長い橇状の支持板28を備えて構成される。
【0069】
支持板28は、アウター部22の外周面に取り付けられ、既設管5の内面を摺動する。支持板28は、アウター部22の周方向に間隔を設けて複数本を備えることで、本体部2を安定的かつ移動自在に支持している。
【0070】
ライニング装置1は、このような支持手段により本体部2を既設管5の管底から離間させ、既設管5内での本体部2の位置を管軸中心に沿って保持して、既設管5の内面と、本体部2の外面との間に均等な隙間を確保する。これにより、既設管5内での上下に関わりなくライニング材10を均一に加熱することができ、既設管5への良好な接着性を確保することができる。また、ライニング装置1を既設管5の内面に沿って安定して移動させることができ、円滑に作業を進めることが可能となる。
【0071】
(実施形態4)
次に、本発明の実施形態4に係るライニング装置1について説明する。図5は本発明の実施形態4に係るライニング装置1を一部断面とともに模式的に示す説明図である。
【0072】
この実施形態4は、前記支持手段の変形例である。上述した実施形態3では、支持手段として、橇状の支持板28を備える構成としていた。ライニング装置1にあっては、支持板28に代えて以下に述べるような構成を採用することも可能である。
【0073】
図5に示す形態では、ライニング装置1は、本体部2のアウター部22の底部に、支持手段として、回転自在な複数の車輪29を備えて構成される。車輪は、アウター部22の外周面に取り付けた固定部材291に回転自在に支持され、前後方向及び周方向に均等に配置されている。複数の車輪29は、既設管5の底部に接触して回転し、本体部2を移動自在に支持する。なお、車輪29に代えて、複数のローラが固定部材291に回転自在に設けられる構成であってもよい。
【0074】
ライニング装置1は、このような支持手段によって本体部2を既設管5の管底から離間させ、既設管5内での本体部2の位置を管軸中心に沿って保持するものとなる。これにより、既設管5の内面と、本体部2の外面との間に均等な隙間が確保され、既設管5内での上下に関わりなくライニング材10を均一に加熱することが可能となり、既設管5への良好な接着性を確保することができる。また、ライニング装置1を既設管5の内面に沿って安定して移動させることができ、円滑に作業を進めることが可能となる。
【0075】
(他の実施形態)
本発明に係るライニング装置1、及びライニング装置1に適用するライニング材材10並びに既設管の更生方法は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。
【0076】
例えば、前記実施形態では、本体部2において、インナー部21及びアウター部22のうち、インナー部21に加熱部23が設けられる例を示したが、アウター部22に加熱部23が設けられる構成であってもよい。また、インナー部21とアウター部22の双方に加熱部23を備えていてもよい。
【0077】
また、加熱部23に供給されてライニング材10を加熱する加熱流体としては、例示した加熱蒸気のほか、熱風や熱水であってもよく、また、冷却媒体として水を用いてもよく限定的なものではない。
【0078】
さらに、加熱部23は、ライニング材10の熱可塑性樹脂材料(複合材料層)に対して加熱作用するものであれば、前記のように加熱流体を供給する構成であるに限らず、加熱部23の構成部材(例えば、ステンレス鋼やアルミ材)を介して直接又は間接的に加熱する構造や、また、インナー部21及びアウター部22そのものが加熱体とされてもよく、限定的なものではない。
【0079】
さらに、支持手段についても、本体部2を既設管5の管底から離間させ、既設管5内での本体部2の位置を管軸中心に沿って保持するものであれば、特に限定されない。また、支持手段として、支持板28にローラ又は車輪を設けた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、熱可塑性樹脂材料及び補強繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材を用いた既設管の更生に適用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 ライニング装置
2 本体部
21 インナー部
22 アウター部
23 加熱部
25、27 円筒部
28 支持板(支持手段)
29 車輪(支持手段)
3 加圧部
31 加圧チューブ
4 接続部材
5 既設管
8 反転機
9 地上機器
91 通線材
M1、M2 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂材料及び強化繊維材料からなる複合材料層を含むライニング材を既設管の内面にライニングするライニング装置であって、
前記複合材料層を加熱して熱可塑性樹脂材料を溶融させる本体部と、熱可塑性樹脂材料が溶融した複合材料層を内側から加圧して拡径させる加圧部とを有し、
前記本体部は、複合材料層の内側に挿入されるインナー部と、複合材料層の外側を覆うアウター部とを備え、インナー部及びアウター部の少なくとも一方の部材には複合材料層に加熱作用する加熱部が設けられるとともに他方の部材は前記加熱部に対向配置され、
これらのインナー部とアウター部との間に複合材料層が挿入されたとき、前記加熱部と複合材料層とが相互に近接した配置となることを特徴とするライニング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のライニング装置において、
前記加熱部がインナー部の後端寄りに設けられ、前記アウター部はインナー部の先端部から後端部にかけて覆うように形成されたことを特徴とするライニング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のライニング装置において、
前記インナー部とアウター部との間には複合材料層の厚みに対応する間隔の隙間が設けられたことを特徴とするライニング装置。
【請求項4】
請求項2に記載のライニング装置において、
前記インナー部は加熱部が拡径されて設けられていることを特徴とするライニング装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のライニング装置において、
前記加熱部は加熱流体の吐出孔を備え、該吐出孔は多孔質で形成されるとともに前記インナー部の周方向に帯状に配設されていることを特徴とするライニング装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載のライニング装置において、
前記アウター部には、前記本体部を既設管の内面に支持する支持手段が設けられたことを特徴とするライニング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のライニング装置において、
前記支持手段は、橇状に延出する支持板を備えたことを特徴とするライニング装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のライニング装置において、
前記支持手段は、回転自在な複数のローラ又は車輪を備えたことを特徴とするライニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−25034(P2012−25034A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165878(P2010−165878)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】