説明

ラジカルを有する化合物、重合体、およびその重合体を用いた蓄電デバイス

【課題】n型の酸化還元を安定して行うことができ、また蓄電デバイスに適用した場合に安定した充放電をすることができ、かつ大きな放電容量が得られるポリラジカル化合物と、それを電極活物質に用いた蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】蓄電デバイスの正極および負極の少なくとも一方の電極活物質として、下記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む。


(R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2〜R13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、二次蓄電デバイスの電極活物質として好適な重合体およびそれを用いた二次蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコン、携帯電話などの携帯電子機器は、通信システムの発展に伴い急激に普及してきた。携帯電子機器は、高機能化が進む一方で、機能や形状などの多様化も進んでいる。そこで、その電源である蓄電デバイスに対して、小型、軽量、高エネルギー密度などの要求も高まっている。
【0003】
軽量でエネルギー密度の大きな蓄電デバイスを得る目的で、電極活物質に硫黄化合物や有機化合物を用いた蓄電デバイスが開発されてきた。例えば、特許文献1および2にはジスルフィド結合を有する有機化合物を正極に用いた蓄電デバイスが開示されている。これはジスルフィド結合の生成、解離を伴う電気化学的酸化還元反応を蓄電デバイスの原理として利用したものである。
【0004】
有機化合物を利用した蓄電デバイスとして、導電性高分子を電極材料に用いた蓄電デバイスが提案されている。これは導電性高分子に対する電解質イオンのドープ、脱ドープ反応を原理とした蓄電デバイスである。ドープ反応とは、導電性高分子の酸化もしくは還元によって生ずる荷電ラジカルを、対イオンによって安定化させる反応のことである。特許文献3には、このような導電性高分子を正極もしくは負極の材料とする蓄電デバイスが開示されている。
【0005】
有機化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスとして、ラジカル化合物の酸化還元反応を用いる蓄電デバイスが提案されている。例えば、特許文献4には、ニトロキシドラジカル化合物、アリールオキシラジカル化合物および特定のアミノトリアジン構造を有する高分子化合物などの有機ラジカル化合物が活物質として開示されており、また有機ラジカル化合物を正極または負極の材料として用いる蓄電デバイスが開示されている。特許文献5には、ニトロキシド化合物の中でも、特に環状ニトロキシド構造を有する化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスが開示されている。環状ニトロキシド構造は、安定したp型酸化還元を示すことが知られている。電極活物質として用いられるポリラジカル化合物には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)を有するポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル メタクリレート)(PTMA)などニトロキシドラジカル化合物が知られている。特許文献6には、安定なアリールオキシラジカル化合物を電極活物質として用いる蓄電デバイスが開示されている。この化合物は、安定したn型酸化還元を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,833,048号明細書
【特許文献2】特許第2715778号公報
【特許文献3】米国特許第4,442,187号明細書
【特許文献4】特開2002−151084公報
【特許文献5】特開2002−304996号公報
【特許文献6】特開2008−280400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載された蓄電デバイスは、硫黄や炭素といった比重の小さな元素を主成分とする電極材料から構成されているため、高エネルギー密度の大容量蓄電デバイスという点において一定の効果を奏している。しかし、解離した結合が再度結合する効率が小さいことや電極活物質の電解液への拡散のため、安定な充放電サイクルを行うことができない。そのため、充放電サイクルを重ねると容量が低下しやすいという欠点があった。
【0008】
特許文献3に記載された蓄電デバイスは、炭素や窒素といった比重の小さな元素のみから構成されたものであり、高容量蓄電デバイスとして期待された。しかし、導電性高分子には、酸化還元によって生じる荷電ラジカルがπ電子共役系の広い範囲に亘って非局在化し、それらが静電反発やラジカルの消失をもたらす相互作用をするという特性がある。これは発生する荷電ラジカル、すなわちドープ濃度に限界をもたらすものであり、蓄電デバイスの容量を制限するものである。例えば、ポリアニリンを正極に用いた蓄電デバイスのドープ率は50%以下であり、またポリアセチレンの場合は7%であると報告されている。導電性高分子を電極材料とする蓄電デバイスでは軽量化という点では一定の効果を奏しているものの、大きなエネルギー密度を持つ蓄電デバイスは得られていない。
【0009】
ラジカルの酸化還元には、中性ラジカルとカチオン間のp型酸化還元と中性ラジカルアニオン間のn型酸化還元がある。n型酸化還元を示すラジカル化合物を用いて、蓄電デバイスを作製した場合、充放電反応に伴うリチウムイオンの動きは正極と負極を往復する形態(いわゆるロッキングチェア型)となる。この場合、充放電の深度にかかわらず電解液濃度は一定となる。一方、p型酸化還元を示すラジカル化合物を用いた蓄電デバイスの場合、電解質塩のアニオンがポリマードープされ、充電の進行とともに電解液濃度は減少し、逆に放電により電解液濃度は増加する。このため、p型酸化還元の場合は、ドーパントとなるアニオンを電解液中に蓄えておく必要があり、多量の電解液が必要となる。結果として、高いドープ率で酸化還元を行ったとしても、電解液を大量に用いるため蓄電デバイス重量が重くなり、エネルギー密度は低くなる。
【0010】
TEMPOに代表されるニトロキシドラジカル化合物は、非水系電解質中において、p型の酸化還元を可逆に繰り返すことができるが、n型の酸化還元は分解反応を伴うため繰り返すことができない。そこで、ニトロキシドラジカル化合物を電極活物質として用いた場合、電極反応としてp型の酸化還元を利用するため、電解液中には、ドーピングに必要な量のアニオンを電解液中に保持しておく必要があった。このため、n型酸化還元を行う電極活物質を用いた場合に比べ、多量の電解液が必要とされた。この多量の電解液は、蓄電デバイスのエネルギー密度を小さくする原因となっていた。
【0011】
安定なアリールオキシラジカル化合物には、n型の酸化還元が可能であるものがあり、それを用いた蓄電デバイスも知られている。ただし、アリールオキシラジカル化合物は、安定な構造を得るためにラジカル1つあたりの分子量を比較的大きくする必要がある。このため、大きな容量の二次蓄電デバイスを得ることは困難であった。
【0012】
本実施形態は、n型の酸化還元を安定して行うことができ、また蓄電デバイスに適用した場合に安定した充放電をすることができ、かつ大きな放電容量が得られるポリラジカル化合物と、それを電極活物質に用いた蓄電デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本実施形態に係る化合物は、下記一般式(1)または(1’)で表される。
【0014】
【化1】

【0015】
(式(1)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。式(1’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
本実施形態に係る重合体は、下記一般式(2)で表される構造単位を有する。
【0016】
【化2】

【0017】
(式(2)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。式(2’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
本実施形態に係る蓄電デバイスは、少なくとも、正極、負極および電解質を構成要素とし、前記正極および前記負極の少なくとも一方の電極活物質として、前記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む。
【発明の効果】
【0018】
本実施形態によれば、n型の酸化還元を安定して行うことができ、また蓄電デバイスに適用した場合に安定した充放電をすることができ、かつ大きな放電容量が得られるポリラジカル化合物と、それを電極活物質に用いた蓄電デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】蓄電デバイスの一実施形態の構成を示す模式図である。
【図2】蓄電デバイスの一実施形態の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態では、今までに電極活物質として利用されなかった一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を電極活物質として利用することにより、前述した課題を解決する。すなわち、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体は、n型の酸化還元を安定して行うことができる。
【0021】
【化3】

【0022】
式(2)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。式(2’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0023】
以下、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体の充放電の過程を、一般式(2)で表される構造単位を有する重合体を例にとって説明する。一般式(2)で表される構造単位を有する重合体は、充放電の過程で下記スキーム(I)のような酸化還元反応を安定して行うことができる。スキーム(I)の酸化還元反応では、一般式(2)で表される構造単位を有する重合体を正極に用いた場合、充電により(A)の状態から(B)の状態になって電子が放出され、放電により(B)の状態から(A)の状態になって電子を受け取る。
【0024】
【化4】

【0025】
蓄電デバイスにおいて、電極活物質は充放電により酸化または還元されるため、出発状態と酸化状態の二つの状態を取る。一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体は、中性ラジカルとアニオン間の酸化還元、すなわちn型の酸化還元が可能である。
【0026】
加えて、一般式(2)で表される構造単位を有する重合体は、充放電の過程で下記スキーム(II)のような酸化還元反応も安定して行うことができる。スキーム(II)の酸化還元反応では、一般式(2)で表される構造単位を有する重合体を正極に用いた場合、充電により(B)の状態から(C)の状態になって電子が放出され、放電により(C)の状態から(B)の状態になって電子を受け取る。
【0027】
【化5】

【0028】
これは、中性ラジカルとカチオン間の酸化還元、すなわちp型の酸化還元反応である。本実施形態に係る重合体は、充電または放電された状態のいずれかで、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する。また、本実施形態に係る重合体は、蓄電デバイスの中で、(A)の状態(アニオン)、(B)の状態(中性ラジカル)、(C)の状態(カチオン)のいずれかで存在する。
【0029】
本実施形態は、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体が電極活物質として好適であることを見出したことに基づいてなされたものである。これは、上記重合体が、副反応をほとんどおこさない、ほぼ100%の割合で可逆に安定した酸化還元、特にn型酸化還元反応を繰り返すことができることによる。すなわち、上記重合体を電極活物質として用いた蓄電デバイスは、充放電を安定して行うことができるため、二次蓄電デバイスとして用いることができ、特に充放電のサイクル特性に優れた二次蓄電デバイスとなる。また、上記重合体は、n型の酸化還元を行うために、これを電極活物質として蓄電デバイスを作製した場合、必要とする電解液量は非常に少なくてもよい。この結果、体積あたり、または重量あたりのエネルギー密度が高い蓄電デバイスを作製することができる。
【0030】
以下、本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は以下の説明に限定されるものではなく、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0031】
[1]ラジカルを有する化合物および重合体
本実施形態に係る重合体は、上記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する。また、本実施形態に係る化合物は、上記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を得るために不可欠な化合物であり、下記一般式(1)または(1’)で表される。
【0032】
【化6】

【0033】
式(1)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。式(1’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0034】
一般式(1)で表される化合物のうち、R1が水素原子であり、R2、R3、R4およびR5がメチル基である化合物(1a)は、下記スキーム(III)に示すルートで合成することができる。すなわち、出発物質としての2,5−ノルボルナジエンを4−ブロモベンズアルデヒドと反応させて4−(ノルボルネン−5−イル)−ベンズアルデヒドトを合成し、さらにN,N’−(1,1,2,2−テトラメチルエチレン)ビスヒドロキルアンモニウムスルフェートと反応させ、ラジカル前駆体を得る。そして、そのラジカル前駆体を酸化することにより安定ラジカルが生成し、化合物(1a)を得ることができる。他の一般式(1)で表される化合物も、対応する構造を有する出発物質およびN,N’−アルキレンビスヒドロキルアンモニウムスルフェートを用い、同様のルートで合成することができる。
【0035】
【化7】

【0036】
一般式(2)で表される構造単位を有する重合体は、一般式(1)で表される化合物を重合することにより得られる。例えば、一般式(2)で表される構造単位を有する重合体のうち、R1が水素原子であり、R2、R3、R4およびR5がメチル基である重合体(2a)は、下記スキーム(IV)に示すルート、すなわち化合物(1a)をGrubbs第二世代触媒で重合することにより得られる。他の一般式(2)で表される構造単位を有する重合体も、対応する一般式(1)で表される化合物を用い、同様のルートで合成することができる。
【0037】
【化8】

【0038】
一般式(1’)で表される化合物のうち、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13がメチル基である化合物(1b)は、出発物質(2,5−ノルボルナジエン)およびN,N’−(1,1,2,2−テトラメチルエチレン)ビスヒドロキルアンモニウムスルフェートを用いて、下記スキーム(III’)に示すルートで合成することができる。他の一般式(1’)で表される化合物も、対応する構造を有する出発物質およびN,N’−アルキレンビスヒドロキルアンモニウムスルフェートを用い、同様のルートで合成することができる。
【0039】
【化9】

【0040】
一般式(2’)で表される構造単位を有する重合体は、一般式(1’)で表される化合物を重合することにより得られる。例えば、一般式(2’)で表される構造単位を有する重合体のうち、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13がメチル基である重合体(2a)は、下記スキーム(IV’)に示すルート、すなわち化合物(1b)をGrubbs第二世代触媒で重合することにより得られる。他の一般式(2’)で表される構造単位を有する重合体も、対応する一般式(1’)で表される化合物を用い、同様のルートで合成することができる。
【0041】
【化10】

【0042】
一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体の分子量は特に制限はないが、蓄電デバイスを構成した際に電解質に溶けだしにくい分子量を有していることが好ましく、これは電解質中の有機溶媒の種類により異なる。一般には、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体の重量平均分子量が1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましく、また5,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。また、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体は、架橋剤やEB照射などで架橋してもよい。この架橋により、電解質に対する溶解性を著しく下げることができ、特に長期の耐久性を向上させることができる。
【0043】
[2]蓄電デバイス
本実施形態に係る蓄電デバイスは、少なくとも、正極、負極および電解質を構成要素とし、正極および負極の少なくとも一方の電極活物質として、前述した一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む。本実施形態に係る蓄電デバイスは、リチウム蓄電デバイスであることが好ましく、リチウム二次蓄電デバイスであることがより好ましい。
【0044】
一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体は、正極または負極での電極反応に直接寄与していればよく、電極活物質として用いる電極は、正極および負極のいずれかに限定されるものではない。ただし、エネルギー密度の観点から、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を正極の電極活物質として用いることが好ましい。このとき、高い電圧および大きな容量が得られるという観点から、負極活物質として金属リチウムまたはリチウムイオンが挿入・脱着可能な炭素材料を用いることが好ましい。
【0045】
なお、蓄電デバイスとは、電気化学的に蓄えられたエネルギーを電力の形で取り出すことのできるものである。蓄電デバイスにおいて、正極とは酸化還元電位が高い方の電極を意味し、負極とは酸化還元電位が低い方の電極を意味する。蓄電デバイスは、場合により、電池またはキャパシタと呼称されることがある。
【0046】
蓄電デバイスの一実施形態の構成および外観を、それぞれ図1および図2に示す。図1および2に示された蓄電デバイスでは、+タブ14を有する正極集電体上に形成された正極11と、−タブ15を有する負極集電体上に配置した負極13とが、電解質を含むセパレータ12を介して対向するように重ね合わせられ、外装体16で封止された構成を有している。なお、電解質として固体電解質(ゲル電解質を含む)を用いる場合は、セパレータ12の代わりに固体電解質を正極11および負極13間に介在させることもできる。
【0047】
(1)電極活物質
本実施形態に係る蓄電デバイスは、正極もしくは負極の一方または両方の電極活物質として、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む。ここで、電極活物質とは、正極または負極に用いられ、充電反応および放電反応等の電極反応に直接寄与する物質のことであり、蓄電デバイスシステムの中心的役割を果たすものである。一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよく、以下に示すような他の電極活物質と組み合わせて用いてもよい。一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体と他の電極活物質とを組み合わせて用いる場合、電極活物質中に、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体が10〜90質量%含まれていることが好ましく、20〜80質量%含まれていることがより好ましい。
【0048】
一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を正極または負極の一方にのみ用いる場合、もう一方の電極活物質として、以下に示すような他の電極活物質を用いることができる。
【0049】
他の負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に担持可能な物質を用いることができる。リチウムイオンを可逆的に担持可能な物質としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウム酸化物、炭素材料、導電性高分子等が挙げられる。リチウム合金としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−スズ合金、リチウム−シリコン合金等が挙げられる。リチウム酸化物としては、チタン酸リチウム等が挙げられる。炭素材料としては、グラファイト、ハードカーボン、活性炭等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等が挙げられる。他の負極活物質は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0050】
他の正極活物質としては、金属酸化物、ジスルフィド化合物、他の安定ラジカル化合物、導電性高分子等を用いることができる。金属酸化物としては、LiMnO2、LixMn24(0<x<2)等のマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、MnO2、LiCoO2、LiNiO2、Liy25(0<y<2)、オリビン系材料LiFePO4、スピネル構造中のMnの一部を他の遷移金属で置換した材料LiNi0.5Mn1.54、LiCr0.5Mn1.54、LiCo0.5Mn1.54、LiCoMnO4、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.33Mn0.33Co0.332、LiNi0.8Co0.22、LiN0.5Mn1.5-zTiz4(0<z<1.5)等が挙げられる。ジスルフィド化合物としては、ジチオグリコール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、S−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が挙げられる。他の安定ラジカル化合物としては、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−4−イル メタクリレート)等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール等が挙げられる。なかでも、マンガン酸リチウム、LiCoO2、オリビン系材料が好ましい。他の正極活物質は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0051】
本実施形態では、正極または負極での電極反応に一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体が直接寄与していればよく、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を電極活物質として用いる電極は、正極および負極のいずれかに限定されるものではない。ただし、エネルギー密度の観点から、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を正極活物質として用いることが好ましい。
【0052】
(2)導電付与剤(補助導電材)およびイオン伝導補助材
正極または負極を形成する際に、インピーダンスを低下させ、エネルギー密度、出力特性を向上させる目的で、導電付与剤(補助導電材)やイオン伝導補助材等の導電性材料を用いることもできる。導電付与剤としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブなどの炭素材料;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子等が挙げられる。イオン伝導補助材としては、高分子ゲル電解質、高分子固体電解質等が挙げられる。なかでも、炭素材料が好ましく、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンブラック、炭素繊維(気相成長炭素繊維、メソフェーズピッチ炭素繊維)、およびカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。特に、電極の引張り強度がより大きくなり、電極にひびが入ったり剥がれたりすることが少なくなることから、炭素繊維がより好ましく、気相成長炭素繊維がさらに好ましい。導電性材料は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。電極中の導電性材料の割合は、10〜80質量%が好ましい。
【0053】
導電性材料の大きさは特に限定されないが、均一分散の観点から細かいほど好ましく、微粒子の場合、一次粒子の平均粒子径が500nm以下であることが好ましく、ファイバー状やチューブ状の場合、直径が500nm以下であり、長さが5nm以上50μm以下であることが好ましい。なお、ここでの平均粒子径や各寸法は、電子顕微鏡にける観測で得られる平均値、またはレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布のD50値粒度分布計により測定された値である。
【0054】
(3)結着剤
正極または負極の各構成材料間の結びつきを強めるために、結着剤を用いることもできる。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダ等が挙げられる。結着剤は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。電極中の結着剤の割合は、5〜30質量%が好ましい。
【0055】
(4)増粘剤
電極スラリーを作製しやすくするために、増粘剤を用いることもできる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。電極中の増粘剤の割合は、0.1〜5質量%が好ましい。なお、増粘剤は、前述した結着剤の役割も果たすことがある。
【0056】
(5)集電体
負極集電体および正極集電体としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなる、箔、平板、メッシュ状等の形状のものを用いることができる。また、集電体に触媒効果を持たせたり、電極活物質と集電体とを化学結合させたりしてもよい。
【0057】
(6)セパレータ
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質フィルム、セルロース膜、不織布等を用いることができる。なお、電解質として固体電解質(ゲル電解質を含む)を用いる場合は、セパレータを用いなくても構わない。
【0058】
(7)電解質
電解質は、負極と正極の両極間の荷電担体輸送を行うものであり、一般には20℃で10-5〜10-1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。
【0059】
電解質としては、電解質塩を溶剤に溶解した電解液を用いることができる。電解質塩としては、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、Li(C25SO23C等のリチウム塩を用いることができる。電解質塩は、単独で用いることもでき、2種類以上混合して用いることもできる。溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性有機溶媒を用いることができる。溶剤は、1種を単独で用いることもでき、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0060】
また、電解質として固体電解質を用いることもできる。固体電解質としては、高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものや、電解質塩を含有させた高分子化合物のみを用いることができる。固体電解質に用いる高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体;アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリルニトリル系重合体;さらには、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体およびメタクリレート体等が挙げられる。
【0061】
(8)蓄電デバイスの形状
蓄電デバイスの形状は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。蓄電デバイスの形状としては、電極積層体または巻回体を、金属ケース、樹脂ケース、またはアルミニウム箔などの金属箔と合成樹脂フィルムからなるラミネートフィルム等によって封止したものが挙げられ、円筒型、角型、コイン型、およびシート型等に製造される。
【0062】
(9)蓄電デバイスの製造方法
蓄電デバイスの製造方法は特に限定されず、材料に応じて適宜選択した方法を用いることができる。例えば、電極活物質、導電付与剤などに溶剤を加えたスラリーを電極集電体に塗布し、加熱または常温で溶剤を揮発させることにより電極を作製し、さらにこの電極を対峙する向きでセパレータを介して積層または巻回して外装体で包み、電解液を注入して封止する方法で、蓄電デバイスを製造することができる。スラリー化のための溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶媒;N、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのアルキルケトン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。
【0063】
ただし、上記の方法で電極を作製すると、特に有機物の電極活物質を用いた場合、電極に剥がれやひび割れ等が発生することがある。そこで、電極活物質、導電付与剤などを乾式で混練した後、薄膜化し、電極集電体上に積層する方法により電極を作製することもできる。一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を用いて、好ましくは厚さ40μm以上300μm以下の電極を作製した場合、電極に剥がれやひび割れ等が発生しにくく、均一な電極が得られるという特徴がある。
【0064】
蓄電デバイスを製造する際には、電極活物質として、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体そのものを用いてもよく、電極反応によって一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体に変化する重合体を用いてもよい。電極反応によって一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体に変化する重合体としては、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を還元したアニオン体と、リチウムイオンやナトリウムイオンといった電解質カチオンとからなる塩、または、一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を酸化したカチオン体と、PF6-やBF4-といった電解質アニオンとからなる塩等が挙げられる。
【0065】
電極からのリードの取り出し、外装等のその他の製造条件は、蓄電デバイスの製造方法として従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本実施形態を合成例および実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔合成例1:化合物(1a)の合成〕
窒素雰囲気とした4つ口フラスコ中に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)5.4ml、4−ブロモベンズアルデヒド3.02g(16.2mmol)、2,5−ノルボルナジエン4.92ml(48.6mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)0.477g(0.68mmol)、およびトリエチルアミン6.9ml(49.2mmol)を添加し、マグネチックスターラーにて激しく30分撹拌した。さらに、ギ酸1.22ml(32.4mmol)を添加し、80℃に加熱しながら12時間撹拌した。室温まで冷却し水を添加した後、分液ロートを用いて、生成したベンズアルデヒド1置換ノルボルネンをクロロホルムにて抽出した。エバポレーターにてクロロホルムを減圧留去した後、ヘキサン/酢酸エチルを展開溶媒としたシリカゲルカラムによる精製を行い、さらに減圧蒸留をすることで、ベンズアルデヒド1置換ノルボルネン(化合物(b))を2.22g得た(収率69%)。
【0068】
窒素雰囲気下で4つ口フラスコ中に、反応溶媒としてのメタノール28mlおよび水4.4mlを添加し、さらに、ベンズアルデヒド1置換ノルボルネン2.2g(11.1mmol)、N,N’−(1,1,2,2−テトラメチルエチレン)ビスヒドロキルアンモニウムスルフェート3.0g(12.2mmol)、および酢酸ナトリウム1.15g(13.3mmol)を添加し、室温で24時間激しく撹拌した。固形分をろ集した後、水およびクロロホルムにて洗浄することにより、化合物(c)を1.75g得た(収率48%)。
【0069】
次いで、フラスコ中で化合物(c)0.5gをジクロロメタン15.2mmlに溶解させ、さらに二酸化マンガン0.668g(7.61mmol)を添加し、激しく1時間撹拌することで酸化反応を行った。固形分を遠心分離した後、ヘキサンを用いた再結晶により精製を行うことで、化合物(1a)を得た(収量0.432g、収率87%)。
【0070】
【化11】

【0071】
(化合物(c)の分析値)
1H−NMR((CD32SO,500MHz;ppm):δ=7.73(s,2H,OH),7.43(d,2H,Ph),7.28(d,2H,Ph),7.26(s,1H,CH),6.33(q,1H,CH),6.23(q,1H,CH),4.52(s,1H,CH),3.00(s,1H,CH),2.86(s,1H,CH),2.70(q,1H,CH),1.75(m,1H,CH2),1.60(m,1H,CH2),1.56(d,1H,CH2),1.38(d,1H,CH2),1.12(s,6H,CH3),1.09(s,6H,CH3);
13C−NMR((CD32SO,500MHz;ppm):δ=144.4,139.2,137.2,137.0,128.4,126.6,90.4,89.7,66.0,48.2,45.3,42.9,41.8,33.0,24.4,24.3,17.1;
Mass:m/z=329.2(found),328.5(calcd);
IR(cm-1):3240(νO-H),2973(νC-H)。
【0072】
(化合物(1a)の分析値)
Mass:m/z=326.1(found),325.4(calcd);
IR(cm-1):2923(νC-H)。
【0073】
〔合成例2:重合体(2a)の合成〕
3つ口フラスコ中で、ジクロロメタン2.0mlに化合物(1a)0.1g(0.31mmol)を溶解させ、減圧脱気および窒素置換をした後、Grubbs第二触媒5.21mg(6.14μmol)を溶解させたジクロロメタン1.1mlを添加し、室温で1時間激しく撹拌した。その後、メタノールを用いた再沈殿により精製を行うことで、重合体(2a)0.076gを得た(収率76%)。
【0074】
(重合体(2a)の分析値)
IR(cm-1):2929(νC-H);
Mn=1.7x104,Mw/Mn=2.6(estimated by GPC)。
【0075】
【化12】

【0076】
〔合成例3:重合体(1b)の合成〕
窒素雰囲気とした4つ口フラスコ中に、テトラヒドロフラン(THF)/水混合溶媒8.6ml/8.6ml、4−ヨードベンズアルデヒド1.0g(4.3mmol)、4−ホルミルフェニルボロン酸0.71g(4.7mmol)、2,5−ノルボルナジエン1.31ml(6.6mmol)、トリフェニルホスフィン0.070g(0.26mmol)、炭酸カリウム1.8g(12.9mmol)を攪拌し、酢酸パラジウム(II)0.024g(0.11mmol)を添加し、マグネチックスターラーにて激しく60℃で24時間撹拌した。エバポレーターにてTHFを減圧留去した後、分液ロートを用いて、生成したベンズアルデヒド2置換ノルボルネンをクロロホルムにて抽出した。エバポレーターにてクロロホルムを減圧留去した後、ヘキサン/酢酸エチルを展開溶媒としたシリカゲルカラムによる精製を行い、さらに減圧蒸留をし、ヘキサンを用いた再結晶により精製を行うことで、ベンズアルデヒド2置換ノルボルネン(化合物(d))を0.68g得た(収率51%)。
【0077】
窒素雰囲気下で4つ口フラスコ中に、反応溶媒としてのメタノール5.3mlおよび水1.8mlを添加し、さらに、ベンズアルデヒド2置換ノルボルネン0.50g(1.7mmol)、N,N’−(1,1,2,2−テトラメチルエチレン)ビスヒドロキルアンモニウムスルフェート1.2g(5.0mmol)、および酢酸ナトリウム0.44g(5.2mmol)を添加し、室温で24時間激しく撹拌した。固形分をろ集した後、水およびクロロホルムにて洗浄することにより、化合物(e)を0.15g得た(収率16%)。
【0078】
次いで、フラスコ中で化合物(e)0.1gをジクロロメタン2.0mlに溶解させ、さらに二酸化マンガン0.155g(1.78mmol)を添加し、激しく1時間撹拌することで酸化反応を行った。固形分を遠心分離した後、ヘキサンを用いた再結晶により精製を行うことで、化合物(1b)を得た(収量0.020g、収率20%)。
【0079】
【化13】

【0080】
(化合物(e)の分析値)
1H−NMR((CD32SO,500MHz;ppm):δ=7.63(d,4H,OH),7.17(d,4H,Ph),6.94(d,4H,Ph),6.44(s,2H,CH=CH),4.36(s,2H,CH),3.15(s,2H,CH),2.95(s,2H,CH),2.27(d,1H,CH2),1.65(d,1H,CH2),1.00(d,24H,CH3);
13C−NMR((CD32SO,500MHz;ppm):δ=141.5,139.2,138.4,127.8,127.5,89.8,65.9,48.2,47.5,24.2,17.0;
IR(cm-1):3240(νO-H),2973(νC-H)。
【0081】
(化合物(1b)の分析値)
Mass:m/z=557.9(found),556.7(calcd);
IR(cm-1):2984(νC-H)。
【0082】
〔合成例4:重合体(2b)の合成〕
3つ口フラスコ中で、ジクロロメタン0.5mlに化合物(1b)0.042g(0.075mmol)を溶解させ、減圧脱気および窒素置換をした後、Grubbs第二触媒1.28mg(1.5μmol)を溶解させたジクロロメタン0.25mlを添加し、室温で1時間激しく撹拌した。その後、ヘキサン/エーテル混合溶媒を用いた再沈殿により精製を行うことで、重合体(2b)0.030gを得た(収率71%)。
【0083】
【化14】

【0084】
(重合体(2b)の分析値)
IR(cm-1):2983(νC-H);
Mn=5.0x103,Mw/Mn=1.4(estimated by GPC)。
【0085】
〔実施例1〕
合成例2で得られた重合体(2a)を乳鉢で微粉化した後、その重合体(2a)4.2g、炭素粉末1.26g、カルボキシメチルセルロース(CMC)0.48g、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)60mgおよび水24mlをホモジナイザーにて攪拌して、均一なスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔(厚さ20μm)上に電極作製用コーターを用いて塗布し、さらに80℃で3分間乾燥して、厚さ150μmの電極層を形成し、正極とした。得られた正極を30×30mmの正方形に打ち抜き、その正極のアルミニウム箔面に、長さ3cm幅0.5mmのニッケルリードを溶接した。
【0086】
リチウム張り合わせ銅箔(リチウム厚30μm)を30×30mmの正方形に打ち抜いて、金属リチウム負極とし、長さ3cm幅0.5mmのニッケルリードを銅箔面に溶接した。正極、多孔質ポリプロピレンセパレータ(33×33mmの正方形)および負極の順に、ラジカル正極と金属リチウム負極を対峙する向きで重ね合わせて、ニッケルリード付電極対とした。2枚の熱融着可能なアルミニウムラミネートフィルム(縦40mm×横40mm×厚さ0.76mm)の三方を熱融着することにより袋状のケースとし、そこに、ニッケルリード付電極対を入れた。さらに、電解液(1.0mol/LのLiPF6電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合比3:7))をアルミニウムラミネートケースの中に0.2ccを加えた。この電解液に含まれるLiPF6電解質塩のモル数は、ラジカルのモル数に対し約1.25倍である。次いで、ニッケルリード付電極のニッケルリードの端を1cm外に出した状態で、アルミニウムラミネートケースの未溶着の一辺を熱融着した。これにより、電極と電解液をアルミニウムラミネートケース中に完全に密閉した。以上のようにして、薄型有機ラジカル蓄電デバイス(縦40mm×横40mm×厚さ0.4mm)を作製した。
【0087】
この蓄電デバイスを0.4mAの定電流で3.3Vまで充電した後、0.4mAの定電流で2.0Vまで放電した。その結果、平均電圧2.7Vで9時間放電を行い、電極活物質あたりの放電容量密度は81.2mAh/gであった。すべてのラジカルが充放電に関与した場合の放電容量密度は82.0mAh/gであるため、充放電に関与したラジカルの割合は99%であった。次に、4.0mAの定電流での3.3Vまでの充電と4.0mA定電流での2.0Vまでの放電を繰り返した。1回目の充放電における放電容量密度は73mAh/gであり、100回目の充放電での放電容量密度は、66.4mAh/gであった。100回目容量/1回目容量は92.3%であり、100充放電サイクル後も高い容量維持率を示した。
【0088】
(比較例1)
重合体(2a)の代わりに、下記ラジカルポリマー(X)(数平均分子量:27000)を用い、電解液の添加量を0.35mlとしたこと以外は、実施例1と同様にして、蓄電デバイスを作製した。なお、この電解液に含まれるLiPF6電解質塩のモル数は、ラジカルのモル数に対し約1.25倍である。この蓄電デバイスに対して、実施例1と同様に充放電を行った結果、電圧は3.5V付近で45分間ほぼ一定となり、その後急激に低下した。電極活物質あたりの放電容量密度は32mAh/gであった。すべてのラジカルが充放電に関与した場合の放電容量密度は111mAh/gであるため、充放電に関与したラジカルの割合は28.8%であった。
【0089】
【化15】

【0090】
(比較例2)
重合体(2a)の代わりに、上記ラジカルポリマー(X)を用い、電解液の添加量を1.1mlとしたこと以外は、実施例1と同様にして、蓄電デバイスを作製した。なお、この電解液に含まれるLiPF6電解質塩のモル数は、ラジカルのモル数に対し約4倍である。この蓄電デバイスに対して、実施例1と同様に充放電を行った結果、電圧は3.5V付近で7時間ほぼ一定となり、その後急激に低下した。電極活物質あたりの放電容量密度は105mAh/gであった。すべてのラジカルが充放電に関与した場合の放電容量密度は111mAh/gであるため、充放電に関与したラジカルの割合は95%であった。
【0091】
(比較例3)
重合体(2a)の代わりに、下記ラジカルポリマー(Y)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、蓄電デバイスを作製した。この蓄電デバイスに対して、実施例1と同様に充放電を行った結果、電圧は3.5V付近で4.5時間ほぼ一定となり、その後急激に低下した。電極活物質あたりの放電容量密度は66.4mAh/gであった。
【0092】
【化16】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本実施形態に係る蓄電デバイスは、各種携帯電子機器の電源、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の駆動用または補助用蓄電源、ソーラーエネルギー、風力発電等の各種エネルギーの蓄電装置、または家庭用電気器具の蓄電源等として用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
11 正極
12 セパレータ
13 負極
14 +タブ
15 −タブ
16 外装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(1’)で表される化合物。
【化2】

(式(1’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(2)で表される構造単位を有する重合体。
【化3】

(式(2)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項4】
下記一般式(2’)で表される構造単位を有する重合体。
【化4】

(式(2’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項5】
少なくとも、正極、負極および電解質を構成要素とする蓄電デバイスにおいて、前記正極および前記負極の少なくとも一方の電極活物質として、下記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む蓄電デバイス。
【化5】

(式(2)において、R1は、水素原子または炭素数1〜8アルキル基を表し、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。式(2’)において、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項6】
少なくとも前記正極の電極活物質として、前記一般式(2)または(2’)で表される構造単位を有する重合体を含む請求項5に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記負極の電極活物質としてリチウムイオンを可逆的に担持可能な物質を含み、前記電解質としてリチウム塩を非プロトン性有機溶媒に溶解した電解液を含む請求項6に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
リチウム蓄電デバイスである請求項5〜7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
リチウム二次蓄電デバイスである請求項8に記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−252106(P2011−252106A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127809(P2010−127809)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】