説明

ラックバーの焼入治具

【課題】焼入に必要な各部材をベースに一体化してユニット化することにより、各種ラックバーの焼入に容易に対応できて焼入作業の段取り時間の短縮化が図れると共に、ラックバーの種類に係わらず、焼入精度の均一化を図ることが可能なラックバーの焼入治具を提供する。
【解決手段】ラックバーの長手方向に沿って所定間隔で対向配置されラックバーの歯面もしくは背面が接触可能な一対の通電電極部材と、該一対の通電電極部材の下部を支持すると共にそれぞれ端子部が設けられた一対の導電部材と、ラックバーの略両端部を支持する支持部材と、一対の接触電極間に配置された冷却水噴射部材と、を備え、これらの各部材が、平面視略長方形状の板状に形成され高周波焼入装置の治具セット台に位置決め状態で着脱可能なベース上に一体的に配置されてユニット化されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックバーの歯面や背面を高周波電流を利用して焼き入れする高周波焼入装置に使用して好適なラックバーの焼入治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高周波焼入装置としては、例えば特許文献1に開示されている。この高周波焼入装置は、電気的絶縁材を介して第1導体と第2導体を組み合わされてなる単位導体と、第1接触電極と、第2接触電極と、冷却手段を備えた近接導体と、ラックバーを上方から押圧する油圧シリンダ等を備えている。そして、ラックバーの歯面を焼入れする場合には、歯面側に両接触電極を接触させて高周波電流を直接通電し、ラックバーの背面を焼入れする場合には、ラックバーの上下位置を逆に設定して背面側に両接触電極を接触させて高周波電流を直接通電するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−183234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような高周波焼入装置にあっては、ワークとしてのラックバーを支える油圧シリンダや、第一接触電極、第2接触電極及び冷却手段等がそれぞれ別体で焼入装置自体に配置されているため、ラックバーの長さや外径等の形状が異なると、それに併せて第1接触電極や第2接触電極あるいは油圧シリンダの位置等を調整する必要がある。その結果、ラックバーを交換する際の、各部材の調整や交換作業自体に時間が掛かる等、段取り時間が長くなり易く、製造コストがアップすると共に、ラックバーの形状(種類)に係わらず焼入精度の均一化(再現性)を図ることが難しい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、焼入に必要な各部材をベースに一体化してユニット化することにより、各種ラックバーの焼入に容易に対応できて焼入作業の段取り時間の短縮化が図れると共に、ラックバーの種類に係わらず、焼入精度の均一化等を図ることが可能なラックバーの焼入治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ラックバーの長手方向に沿って所定間隔で対向配置され前記ラックバーの歯面もしくは背面が接触可能な一対の通電電極部材と、該一対の通電電極部材の下部を支持すると共にそれぞれ端子部が設けられた一対の導電部材と、前記ラックバーの略両端部を支持する支持部材と、前記一対の接触電極部材間に配置された冷却水噴射部材と、を備え、これらの各部材が、平面視略長方形状の板状に形成され高周波焼入装置の治具セット台に位置決め状態で着脱可能にセットされるベース上に、一体的に配置されてユニット化されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記導電部材の端子部が、前記ベースの長手方向の略中間位置に側方に突出する状態で設けられていることを特徴とする。さらに、請求項3に記載の発明は、前記各部材の少なくとも一つに識別マークが設けられていることを特徴とし、この場合、前記識別マークは、請求項4に記載の発明のように、電気的識別手段によって識別可能であることが好ましい。また、請求項5に記載の発明は、前記一対の支持部材のうち、一方はラックバーの先端を軸方向に支持し、他方はラックバーの略基端側を下方から支持することを特徴とする。また、請求項6に記載の発明は、前記ベースの長手方向の両端部に取手が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、ラックバーの歯面もしくは背面の焼き入れに必要な通電電極部材、導電部材、支持部材及び冷却水噴射部材からなる各部材が、平面視略長方形状の板状のベース上に一体的に配置されてユニット化されているため、各種ラックバーに対応した所定のユニットを高周波焼入装置の治具セット台にセットするだけで、各部材を予め所定位置に配置したユニット化された焼入治具により各種ラックバーの焼入に容易に対応できて、例えば各部材間の調整が不要になる等、焼入作業の段取り時間の短縮化を図ることができると共に、ラックバーの種類に係わらず、焼入精度の均一化や焼入精度の再現性を容易に図ることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、導電部材の端子部がベース板の長手方向の略中間位置に側方に突出する状態で設けられているため、一対の通電電極部材の長さ等を略同一にして、各電極部材に高周波電流をバランス良く供給できて、ラックバーの歯面や背面の焼入精度を向上させることができる。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、各部材の少なくとも一つに識別マークが設けられているため、この識別マークで対応するラックバーを確実かつ容易に識別できて、ラックバー交換時の段取り時間の一層の短縮化を図ることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、識別マークが電気的識別手段によって識別可能であるため、例えば焼入治具がセットされる高周波焼入装置に電気的識別手段を設けることで、セットされた焼入治具が適正か否か等の判断を高周波焼入装置の制御部により自動的に判断できて、ラックバー交換時の段取り時間のより一層の短縮化と焼入精度の一層の向上を図ることができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし4に記載の発明の効果に加え、一対の支持手段のうち、一方がラックバーの先端を軸方向に支持し、他方がラックバーの略基端側を下方から支持するため、ラックバーの焼入治具へのセットや取り外しを簡単かつ確実に行うことができて、ラックバー交換時の段取り時間のより一層の短縮化と、ラックバーの焼入精度のより一層の向上を図ることができる。
【0013】
また、請求項6に記載の発明によれば、請求項1ないし5に記載の発明の効果に加え、ベースの長手方向の両端部に取手が設けられているため、例えばこの取手をロボットや手等で持つことにより焼入治具を持ち運びできて、高周波焼入装置の治具セット台への焼入治具のセットや取り外しを一層容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係わる焼入治具をセット可能な高周波焼入装置の斜視図
【図2】同その治具セット台の斜視図
【図3】同その平面図
【図4】同その正面図
【図5】同焼入治具の縦断面図
【図6】同その平面図
【図7】同図5のA部の拡大図
【図8】同図6の右側面図
【図9】同その縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図9は、本発明に係わるラックバーの焼入治具の一実施形態を示している。本発明に係わる焼入治具1は、図1に示す高周波焼入装置2にセットされる。この高周波焼入装置2はコラム3を有し、このコラム3の略中央前部には治具セット台4が配置されると共に、この治具セット台4の上方に位置して焼入治具1にセットされたラックバーWの歯面Waと背面Wbを反転させたり、あるいはラックバーWを後述する支持部材18a、18bにセットしたり取り外す等の、ラックバーWに対して所定の動作を行うワーク制御装置5が配置されている。また、コラム3の右側には、操作盤6aを有する焼入制御装置6が配置されると共に、コラム3の所定位置には、所定周波数の高周波電流を出力可能な電源装置7と、後述する冷却ジャケット19に冷却水を供給可能な冷却水供給装置8等が配置されている。
【0016】
前記治具セット台4は、図2〜図4に示すように、略直方体形状の架台10を有し、この架台10の上面後方側に焼入治具1が着脱(セット・アンセット)可能に配置されている。また、架台10の上面の右側には、例えばラックバーWの上下方向の向きを検出可能なセンサ11aを有するラックバー判別装置11が配置されると共に、架台10上面の後方側にもセットされたラックバーWの位置等を検出可能なセンサ12が配置されている。さらに、架台10の焼入治具1の前方側には、焼入が完了したラックバーWを複数本の傾斜した桟13aにより前方に排出可能な自動排出装置13が配置されている。
【0017】
この治具セット台4上にセットされる焼入治具1は、図5〜図9に示す如く構成されている。すなわち、焼入治具1は、平面視長方形状の所定板厚の例えば金属板からなり、下面の四隅に治具セット台4の位置決め孔に嵌合可能な位置決め突起15aが設けられたベース15を有している。このベース15上には、一対の通電電極部材16a、16bと、この通電電極部材16a、16bの下部を支持すると共に該電極部材16a、16bに電気的に接続された一対の導電部材17a、17bと、ラックバーWの先端側Wc及び基端側Wdを支持する支持部材としての先端支持部材18a及び基端側支持部材18bと、前記通電電極部材16a、16b間に配置された冷却水噴射部材としての冷却ジャケット19が、所定位置に固定的に配置されることで、これらの各部材がベース15に一体化されてユニット化されている。
【0018】
前記一対の通電電極部材16a、16bは、銅板により断面略L字形状に形成されて、ラックバーWの歯面Waもしくは背面Wbに接触可能な垂直な接触部をそれぞれ有し、各通電電極部材16a、16bの水平な固定部が対応する導電部材17a、17bにボルト20によりそれぞれ固定されて、接触部間の間隔が該接触部上に載置されるラックバーWの歯面Wa等の長さに対応するように設定されている。
【0019】
前記一対の導電部材17a、17bは、所定板厚の銅板により形成されて、絶縁部材21を介して積層配置されると共に、その一方の端部に前記通電電極部材16a、16bの固定部が前記ボルト20により固定されている。また、各導電部材17a、17bは、複数個(図では6個)のネジ22により前記ベース15に固定されると共に、一対の導電部材17a、17bの他方の端部は、ベース15の長手方向の略中間位置から側方(ベースの後方側)に突出して、該突出部分が端子部23a、23b(図8参照)を形成している。この端子部23a、23bに、図示しない銅板等からなる導体の一方の端部が接続され、この導体の他方の端部が前記高周波電源装置7の出力端子に接続されている。
【0020】
前記支持部材としての先端支持部材18aは、図5及び図6に示すように、ベース15の左端部に固定されたブロック25上に図6の矢印イ方向に移動可能な移動板26と、この移動板26の先端に固定されラックバーWの先端側Wcに嵌合可能な嵌合支持部27を有している。また、移動板26には、位置調整ボルト28が挿通される2条の長孔が設けられており、この長孔に対応してブロック25に設けたネジ孔に位置調整ボルト28を螺合することで移動板26が所定位置に固定されて、ラックバーWの先端側Wcが所定位置に設定支持されるようになっている。
【0021】
また、支持部材としての基端側支持部材18bは、図5に示すように、ベース15の右端部に固定されたブロック29上にボルト30により連結された支持部31を有し、この支持部31内には、ボルト30の先端側に嵌装されたスプリング32が内蔵されている。このスプリング32によって、支持部31がブロック29に対して弾性支持され、ラックバーWの外周面形状に対応した支持部31の円弧面からなる上面で、ラックバーWの基端側Wbの所定位置が下方から所定位置に設定支持されるようになっている。
【0022】
前記冷却水噴射部材としての冷却ジャケット19は、前記一対の通電電極部材16a、16b間に配置され、内部に冷却水流路33aが形成された箱形状のジャケット本体33を有している。このジャケット本体33の上面には、図7に示すように、ラックバーWの歯面Wa形状に対応した多数の噴射孔33bが形成され、この噴射孔33bから前記冷却水供給装置8からホースやホースコネクタ34を介して供給される冷却水が、上方に向けて所定圧で噴射されるようになっている。
【0023】
なお、焼入治具1の前記ベース15の左右端部には、取手35が側方であるベース15の長手方向に突出する状態で固定されており、この取手35を作業者が手で持ったり、あるいはクレーンやロボット等で持つことにより、焼入治具1が持ち運び(運搬)可能となっている。また、焼入治具1のベース15の上面の例えば右端前部には、図6に示すように、識別マーク36が設けられている。この識別マーク36は、例えば所定色の塗料や刻印等によってベース15に付与されており、この識別マーク36が、前記高周波焼入装置2に配置された例えばカメラ等からなる所定のセンサ(電気的識別手段)により電気的信号として検出されるようになっている。この識別マーク36は、ベース15の右端前部に限らず、ベース15の他の部位や、焼入治具1を形成する各部材の適宜位置に設けることができる。
【0024】
次に、前記焼入治具1の動作(使用方法)の一例について説明する。先ず、高周波焼入装置2で焼入されるラックバーWの歯面Waや背面Wbの長さ等の形態に応じた焼入治具1を予め準備する。このとき、各焼入治具1の一対の通電電極部材16a、16b間の対向距離や、冷却ジャケット19のジャケット本体33の噴射孔33bの位置や内径、先端支持部材18aの移動板26の位置、基端側支持部材18bの支持部31の上面形状等は、対応するラックバーWの形態に応じて予め所定に設定されている。また、各焼入治具1のベース15には、各焼入治具1に対応して互いに異なる識別マーク36が付与されており、また、各焼入治具1のベース15の大きさは、全て同一に設定されている。
【0025】
そして、焼入するラックバーWに対応した焼入治具1を、その取手34を利用して高周波焼入装置2の治具セット台4の上面の位置決め孔に位置決め突起15aを嵌合させて、焼入治具1を治具セット台4にセットする。なお、このセット状態においては、所定長さの位置決め突起15と位置決め孔の嵌合により焼入治具1と治具セット台4が位置決めされるが、例えばクランプや固定ネジ等の固定機構により、焼入治具1と治具セット台4を強固に固定する構造を採用しても良い。焼入治具1を治具セット台4にセットしたら、この焼入治具1の支持部材18a、18bでラックバーWを支持する。このときの支持は、ラックバーWの先端側Wcの孔に先端支持部材18aの嵌合支持部27を嵌合させ、ラックバーWの基端側Wdを基端側支持部材18bの支持部31上面に載置状態とさせることにより行う。
【0026】
また、この支持状態において、ラックバーWは、その歯面Waが下方に位置し背面Wbが上方に位置するようにセットさせると共に、歯面Waの両端部に前記通電電極部材16a、16bの接触部を接触させる。そして、ラックバーWのセット状態がセンサ11a、12等で検出されると、焼入可能な状態となり、高周波焼入装置2の焼入制御装置6の制御により、高周波電源7が作動して通電電極部材16a、16bの接触部を介してラックバーWの歯面Waに高周波電流が通電される。この高周波電流が所定時間通電されると、ラックバーWの歯面Waが所定温度まで通電加熱され、所定時間が経過した時点で、冷却ジャケット19から冷却水が所定時間噴射される。この通電加熱と冷却水による急速冷却でラックバーWの歯面Waが焼入される。
【0027】
ラックバーWの歯面Waが焼入されると、ワーク制御装置5が作動して歯面Waが焼入されたラックバーWを支持部材18a、18bから取り外して持ち上げ180度回転させる。そして、この180度回転したラックバーWを再び支持部材18a、18bで支持させると共に、背面Wbの所定位置に一対の通電電極部材16a、16bの接触部を接触させ、この状態で、高周波電源7から所定時間高周波電流を通電する。また、通電加熱後に、冷却ジャケット19から冷却水を噴射させて、ラックバーWの背面Wbを焼き入れする。これにより、ラックバーWの歯面Waと背面Wbが焼き入れされ、この焼き入れが完了したラックバーWは、支持部材18a、18bによる支持が解除されて、例えばラックバーWの下方に位置する自動排出装置13の桟13aの先端が上昇することで、傾斜している桟13aに沿って治具セット台4の前方に排出される。
【0028】
一方、所定形態の全てのラックバーWの焼入作業が終了し、他の異なるラックバーWを焼入する場合は、次にようにして行う。すなわち、治具セット台4にセットされている焼入治具1を、その取手35を利用して治具セット台4上から取り外し、次に焼き入れしようとするラックバーWに対応した焼入治具1を前述したと同様に治具セット台4にセットする。この治具セット台4にセットされた焼入治具1も、焼き入れするラックバーWに応じて、各部材が所定位置に設定されていることから、焼入治具1を治具セット台4にセットするだけで、従来のような位置調整作業等を一々行う必要がなくなり、焼入治具1の交換が簡単かつスムーズに行える。
【0029】
そして、このセットされた焼入治具1を使用して、ラックバーWの歯面Waと背面Wbを前述したと同様にして焼き入れする。つまり、前記焼入治具1の場合、予め一定形状に形成されたベース15上に、各ラックバーWの形態に応じた通電電極部材16a、16b、導電部材17a、17b、支持部材18a、18b及び冷却ジャケット19を固定することで、各部材とベース15が一体となり各ラックバーWに対応したユニットが形成され、このユニットを焼き入れすべきラックバーWに応じて交換することで、各種ラックバーWの歯面Waや背面Wbの焼き入れが可能となる。
【0030】
このように、前記実施形態の焼入治具1においては、ラックバーWの歯面Waもしくは背面Wbの焼き入れに必要な一対の通電電極部材16a、16b、一対の導電部材17a、17b、先端支持部材18aと基端側支持部材18b及び冷却ジャケット19からなる各部材が、平面視略長方形状の平板状のベース15上に一体的に配置されてユニット化されているため、各種ラックバーWの焼き入れにユニット化された所定の焼入治具1を使用することで各種ラックバーWの焼き入れに的確に対応することができる。
【0031】
その結果、同一形状のベース15を有する所定の焼入治具1を治具セット台4上にセットするだけで、各部材の位置調整等が不要となり、例えば異なる形態のラックバーWを連続して焼き入れする場合の、焼入作業の段取り時間の短縮化が図れると共に、ラックバーWの種類に係わらず、同一形態の各ラックバーWの焼入精度の均一化や、異なる形態のラックバーWにおける焼入精度の均一再現性を図り、常に安定した焼入品質の各種ラックバーWを容易に得ることができる。
【0032】
また、導電部材17a、17bの端子部23a、23bがベース15の長手方向の略中間位置に側方に突出する状態で設けられているため、一対の通電電極部材16a、16bの長さを略同一に設定し、各通電電極部材16a、16bの接触部に高周波電流をバランス良く供給できて、ラックバーWの歯面Waや背面Wbの焼入精度を向上させることができる。さらに、ベース15等の各部材の少なくとも一つに識別マーク36が設けられているため、この識別マーク36で対応するラックバーWを高周波焼入装置2に設けた電気的識別手段で確実かつ容易に識別できて、例えばセットされた焼入治具1が正常である場合にのみ、焼入作業を行うことができる等、焼入作業の効率化や段取り時間の一層の短縮化、焼入精度の一層の向上を図ることができる。
【0033】
また、一対の支持部材18a、18bのうち、一方がラックバーWの先端側Wcを軸方向に支持し、他方がラックバーWの略基端側Wdを下方から支持するため、ラックバーWの焼入治具1へのセットを簡単かつ確実に行うことができて、ラックバー交換時の段取り時間のより一層の短縮化と、ラックバーWの焼入精度のより一層の向上を図ることができる。またさらに、ベース15の長手方向の両端部に取手35が設けられているため、例えばこの取手35をロボットや手等で持つことにより焼入治具1を持ち運びできて、高周波焼入装置2への治具セット台4に対する焼入治具1のセットや取り外しを容易に行うことができる。
【0034】
なお、前記実施形態においては、焼入治具1がラックバーWの歯面Waと背面Wbの両面を焼き入れする高周波焼入装置2に使用される場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えばラックバーWの歯面Waのみを焼き入れしたり、歯面Waを焼き入れし背面Wbは焼き鈍しする高周波焼入装置2等にも使用することができる。また、前記実施形態における、焼入治具1のベース15の形状や、該ベース15への各部材の配置位置、支持部材18a、18bの構成、治具セット台4の形態等は、一例であって、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ラックバーの歯面や背面を通電加熱で焼き入れする高周波焼入装置への適用に限らず、例えば通電加熱と加熱コイルによる誘導加熱を併用した高周波焼入装置等にセット可能な焼入治具にも利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1・・・焼入治具、2・・・高周波焼入装置、4・・・治具セット台、5・・・ワーク制御装置、6・・・焼入制御装置、7・・・高周波電源装置、8・・・冷却水供給装置、11・・・ラックバー判別装置、13・・・自動排出装置、13a・・・桟、15・・・ベース、15a・・・位置決め突起、16a、16b・・・通電電極部材、17a、17b・・・導電部材、18a・・・先端側支持部材、18b・・・基端側支持部材、19・・・冷却ジャケット、23a、23b・・・端子部、33・・・ジャケット本体、35・・・取手、36・・・識別マーク、W・・・ラックバー、Wa・・・歯面、Wb・・・背面、Wc・・・先端側、Wd・・・基端側。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックバーの長手方向に沿って所定間隔で対向配置され前記ラックバーの歯面もしくは背面が接触可能な一対の通電電極部材と、該一対の通電電極部材の下部を支持すると共にそれぞれ端子部が設けられた一対の導電部材と、前記ラックバーの略両端部を支持する支持部材と、前記一対の接触電極部材間に配置された冷却水噴射部材と、を備え、これらの各部材が、平面視略長方形状の板状に形成され高周波焼入装置の治具セット台に位置決め状態で着脱可能にセットされるベース上に、一体的に配置されてユニット化されていることを特徴とするラックバーの焼入治具。
【請求項2】
前記導電部材の端子部は、前記ベースの長手方向の略中間位置に側方に突出する状態で設けられていることを特徴とする請求項1に記載のラックバーの焼入治具。
【請求項3】
前記各部材の少なくとも一つに識別マークが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のラックバーの焼入治具。
【請求項4】
識別マークは、電気的識別手段によって識別可能であることを特徴とする請求項3に記載のラックバーの焼入治具。
【請求項5】
前記一対の支持部材のうち、一方はラックバーの先端を軸方向に支持し、他方はラックバーの略基端側を下方から支持することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のラックバーの焼入治具。
【請求項6】
前記ベースの長手方向の両端部に取手が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のラックバーの焼入治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31489(P2012−31489A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173400(P2010−173400)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(591195994)株式会社ミヤデン (21)
【Fターム(参考)】