説明

ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置

【課題】通常の操舵時だけでなく、凹凸路面の走行時などに車輪側からラック軸に逆入力が伝達される場合にも、ラック歯とピニオンギヤの噛合部におけるバックラッシュを効果的に吸収して異音の発生を低減すると共に、操舵抵抗の増大を防止して良好な操舵フィーリングが得られるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供する。
【解決手段】ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10は、ラックガイド18のラック軸13と反対側に配置され、ラックガイド18をラック軸13方向に付勢する付勢手段である皿ばね20と、ラックガイド18のラック軸13と反対側に配置され、ピニオンギヤ12とラック歯15との離間を規制するダンパ機構19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に用いられるステアリング装置に関し、特に、ラック軸とピニオン軸とを備えたラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置は、ステアリング操作によって回転するステアリングシャフトに連結され、ピニオンギヤを有するピニオン軸と、このピニオンギヤに噛合するラック歯を有してピニオン軸と交差する軸方向に直線運動するラック軸とを備え、ラック軸の直線運動により車輪を操舵するようになっている。
【0003】
ピニオンギヤとラック歯との噛合部は、ステアリング操作によってピニオンギヤの歯面とラック歯の歯面との間に離間力が働き、ラック軸がピニオンギヤから離間して噛合部にバックラッシュが発生する傾向がある。また、ピニオンギヤとラック歯との噛合部には、走行中の路面の凹凸等によって、車輪からラック軸に伝達される逆入力と言われる力が作用し、これによっても、ピニオンギヤとラック歯との噛合部に離間力が作用する。
【0004】
従来、ラック軸を挟んでピニオンギヤと反対側に設けられたラックガイドを介してラック軸をピニオンギヤに向けて付勢することにより噛合部に予圧を与え、ピニオンギヤとラック歯との離間を抑えてバックラッシュの発生を防止している。しかし、噛合部に作用する離間力が噛合部の予圧力より大きいと、ピニオンギヤとラック歯が離間してラトル音などの異音が発生する問題があった。また、ピニオンギヤとラック歯とが大きく離間すると、ラックガイドが、ラックガイドとの隙間を調整するための調整ねじに衝突する可能性があり、大きな衝突音が発生するので、ピニオンギヤとラック歯との離間を小さく抑制することは、異音の発生を防止して操舵フィーリングを向上させる上から重要である。
【0005】
噛合部で生じる異音を防止する技術としては、電動アシストモータの出力軸とウォーム軸との間にゴム状弾性材料を設け、このゴム状弾性材料の弾性力によって電動アシストモータとウォーム軸との結合部における歯打音を低減するようにした電動パワーステアリング装置の防振構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ラック軸とラックガイドとの間にゴムなどの弾性変形自在部材を介在させ、これによりラックガイドに押圧力を付与するためのコイルばねを排除して、コイルばねのへたりに起因する異音の発生を防止するようにしたラックピニオン式ステアリング装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3951110号公報
【特許文献2】特許第4470660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、電動アシストモータの出力軸とウォーム軸との結合部における歯打音による騒音低減を図ったものであり、通常のステアリング操舵時だけでなく、凹凸路面の走行時などに車輪側からラック軸に逆入力が伝達される場合にも、ピニオンギヤとラック歯との噛合部で発生する異音を防止するようにした本発明の技術とは異なるものである。また、特許文献2は、弾性変形自在部材の弾性による押付け力によって、ピニオンギヤとラック歯とのバックラッシュをなくすようにしているが、押付け力の設定に
微妙な調整を必要とし、押付け力が小さすぎると走行時に異音が発生し、また、大きすぎると操舵抵抗が大きくなって操舵フィーリングが損なわれる問題があり、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常の操舵時だけでなく、凹凸路面の走行時などに車輪側からラック軸に逆入力が伝達される場合にも、ラック歯とピニオンギヤの噛合部におけるバックラッシュを効果的に吸収して異音の発生を低減すると共に、操舵抵抗の増大を防止して良好な操舵フィーリングを維持することができるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)ステアリングシャフトに連結され、ピニオンギヤを有するピニオン軸と、
前記ピニオンギヤに噛合するラック歯を有するラック軸と、
前記ラック軸の背面を支持するラックガイドと、
を備えるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置であって、
前記ラックガイドの前記ラック軸と反対側に配置され、前記ラックガイドを前記ラック軸方向に付勢する付勢手段と、
前記ラックガイドの前記ラック軸と反対側に配置され、前記ピニオンギヤと前記ラック歯との離間を規制するダンパ機構と、
を備えることを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
(2)前記ダンパ機構は、流体がオリフィスを通過する際の粘性抵抗を利用したオイルダンパであることを特徴とする上記(1)に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
(3)前記ダンパ機構は、衝撃吸収性能を有するシート状弾性部材であることを特徴とする上記(1)に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置によれば、ラックガイドのラック軸と反対側に、ラックガイドをラック軸方向に付勢する付勢手段と、ピニオンギヤとラック歯との離間を規制するダンパ機構と、が配置されているので、通常の操舵時に操舵抵抗を増大させることなく、ラック歯とピニオンギヤの噛合部におけるバックラッシュを吸収して異音の発生を防止すると共に、凹凸路面の走行時などに車輪側からラック軸に逆入力が伝達される場合にも、噛合部のバックラッシュを効果的に吸収して異音の発生を防止することができる。
【0011】
また、上記(2)又は(3)に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置によれば、ダンパ機構は、オイルダンパ、或いはシート状弾性部材であるので、簡単、且つ、安価な機構によって噛合部における異音の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の断面図である。
【図2】図1に示すラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸支持構造を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るラック軸支持構造を示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るラック軸支持構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の各実施形態を図面
に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の断面図、図2はラック軸支持構造の断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10は、ステアリング操作により回転する不図示のステアリングシャフトに連結されたピニオン軸11と、ピニオン軸11に形成されたピニオンギヤ12に噛合するラック歯15を有するラック軸13とを備え、ハウジング14内に収納されている。
【0014】
ピニオン軸11は、軸方向に離間して配置された玉軸受40とニードル軸受47とによってハウジング14に回転自在に支持されている。ラック軸13は、その軸方向がピニオン軸11の軸方向と交差する方向に配置され、軸方向の一側面(ピニオン軸11側)に形成されたラック歯15がピニオンギヤ12に噛合して、軸方向に往復直線運動可能にハウジング14に支持されている。ラック軸13の両端は、不図示の車輪操舵用リンク機構に連結されている。
【0015】
ラック軸13を挟んでピニオンギヤ12と反対側には、ラック軸支持機構50が、ハウジング14に設けられた支持機構収容室17に摺動自在に嵌合している。ラック軸支持機構50は、ラックガイド18と、ダンパ機構19と、付勢手段である皿ばね20と、を備える。
【0016】
ラックガイド18は、ラック軸13側に形成された半円筒状の凹面21を有し、この凹面21がラック軸13の背面22に摺動自在に接触してラック軸13を支持する。
【0017】
ダンパ機構19は、上方に開口するピストン室24が穿設されたダンパ外筒23と、ピストン室24に摺動自在に嵌合するピストンロッド25と、ピストン室24の開口部を封止するダイヤフラム26と、を備える。
【0018】
ダンパ外筒23には、ピストン室24の外周部を形成する小径部27と、ダンパ外筒23の中心を通りピストン室24に連通する貫通孔28と、が形成されている。ダンパ外筒23は、外周面に装着されたOリング29によって封止されて支持機構収容室17に摺動自在に嵌合する。また、小径部27は、ラックガイド18の裏面側に形成された凹部30に圧入されて固定されている。これにより、ダンパ外筒23は、ラックガイド18と共に、支持機構収容室17に案内されてラック軸13に接近および離間する方向に摺動移動可能である。
【0019】
ピストンロッド25は、ピストン室24に摺動自在に嵌合する大径のピストン部31と、ピストン部31から軸方向に延設されたロッド32と、を有する。ピストン部31には、小径孔のオリフィス33が貫通して設けられている。ロッド32は、ダンパ外筒23の貫通孔28に摺動自在に嵌合し、ロッド32と貫通孔28との隙間が、Oリング34によって封止されている。ピストン部31が摺動自在に嵌合するピストン室24は、内部にダンパオイル35が充填され、その上方側開口部(図中、上方)にダイヤフラム26が配置されて密閉されている。
【0020】
支持機構収容室17の下方側開口部(図中下部)は、下方側開口部に設けられた雌ねじに螺合する調整ねじ41により封止されている。調整ねじ41とダンパ機構19(ダンパ外筒23)との間には、付勢部材である皿ばね20が装着されて、ダンパ機構19をラック軸13に向けて付勢している。皿ばね20の弾性力によりラック軸13に向けて付勢されたダンパ機構19は、ラックガイド18を介してラック軸13をピニオン軸11に向けて付勢する。皿ばね20の弾性力は、調整ねじ41のねじ込み量を調整することにより調
整可能である。また、調整ねじ41には、ピストンロッド25のロッド32の一端が固定されている。
【0021】
本実施形態の作用を説明する。本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10は、図1に示すように、ステアリング操作によりピニオン軸11が回転すると、この回転は、ピニオンギヤ12とラック歯15との噛合によりラック軸13の直線運動に変換されて車輪が操舵される。このとき、ピニオンギヤ12とラック歯15との間に離間力が作用して、ピニオンギヤ12とラック歯15との間にバックラッシュが発生する。しかし、皿ばね20の弾性力により、ラックガイド18を介してラック軸13がピニオンギヤ12とラック歯15との噛合部に向けて付勢されているので、噛合部におけるバックラッシュの発生が防止される。
【0022】
また、凹凸のある路面を走行すると、車輪操舵用リンク機構を介して車輪側からラック軸13に走行に伴う反力が伝達される。この反力には、ときとして周期性のない大きな衝撃力が発生する場合があり、ピニオンギヤ12とラック歯15とが離間し、元に戻る際にピニオンギヤ12とラック歯15同士が干渉してラトル音などの異音が生じる虞がある。
【0023】
しかし、ラック軸13に作用する衝撃力によって、ダンパ外筒23がラックガイド18と共に皿ばね20の弾性力に抗してピニオン軸11から離間する方向に移動すると、ピストン室24内でピストン部31が相対的に移動(より具体的には、ピストン部31に対してダンパ外筒23が移動)し、ピストン室24内に充填されているダンパオイル35が、オリフィス33を通過して一方のピストン室24から他方のピストン室24に流れる。これにより、ダンパオイル35の粘性抵抗によるダンパ効果が作用して、ラックガイド18の移動が抑制され、ピニオンギヤ12とラック歯15との離間が防止されて、異音の発生が防止される。
【0024】
このダンパ機構19によるダンパ効果は、入力が急激に立ち上る衝撃力に対して有効であり、通常運転での操舵時のように、比較的ゆっくりとした入力ではダンパ効果は小さい。従って、操舵抵抗が大きくなることはなく、良好な操舵フィーリングが維持される。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10によれば、ラックガイド18のラック軸13と反対側に、ラックガイド18をラック軸13方向に付勢する皿ばね20と、ピニオンギヤ12とラック歯15との離間を規制するダンパ機構19と、が配置されているので、通常の操舵時に操舵抵抗を増大させることなく、ラック歯15とピニオンギヤ12の噛合部におけるバックラッシュを吸収して異音の発生を防止すると共に、凹凸路面の走行時などに車輪側からラック軸13に逆入力が伝達される場合にも、噛合部のバックラッシュを効果的に吸収して異音の発生を防止することができる。
【0026】
(第2実施形態)
次に、ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置の第2実施形態について図3を参照して説明する。図3は本発明の第2実施形態であるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置のラック軸支持構造を示す模式図であり、付勢部材およびダンパが第1実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置と異なる。その他の部分については、本発明の第1実施形態と同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0027】
第2実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10は、ラック軸支持機構50が、ラックガイド18と、調整ねじ41とラックガイド18との間に配設された付勢手段である圧縮コイルばね45と、ダンパオイルの粘性抵抗を利用したオイルダンパ4
6と、を備える。圧縮コイルばね45は、ラックガイド18をラック軸13に向けて付勢し、オイルダンパ46は、ラックガイド18を介して伝達されるラック軸13の衝撃力を吸収する。
【0028】
本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10によれば、ラック軸13に衝撃的な力が作用しても、オイルダンパ46がこれを吸収するので、簡単、且つ、安価な機構によって、噛合部における異音の発生を効果的に防止することができる。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明の装置の第3実施形態を説明する。図4は本発明の第3実施形態であるラック軸支持構造を示す模式図であり、ダンパが第2実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置と異なる。その他の部分については、本発明の第2実施形態と同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0030】
第3実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10は、ラックガイド18をラック軸13に向けて付勢する付勢手段が圧縮コイルばね45であり、ダンパが、ラックガイド18と調整ねじ41との間に配置された衝撃吸収性能を有するシート状弾性部材48で構成されている。
【0031】
ラック軸13に衝撃力が作用してラックガイド18がラック軸13から離間する方向に移動すると、ラックガイド18がシート状弾性部材48を調整ねじ41との間で狭持して変形させることで、エネルギを吸収する。シート状弾性部材48としては、ゴム又はシリコン樹脂等が用いられる。
【0032】
本実施形態のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置10によれば、ダンパがシート状弾性部材48であるので、このシート状弾性部材48をラックガイド18と調整ねじ41との間に配置するだけで、簡単、且つ、安価な機構によって噛合部における異音の発生を防止することができる。
【0033】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 ラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置
11 ピニオン軸
12 ピニオンギヤ
13 ラック軸
15 ラック歯
18 ラックガイド
19 ダンパ機構
20 皿ばね(付勢手段)
22 ラック軸の背面
33 オリフィス
35 ダンパオイル(流体)
45 圧縮コイルばね(付勢手段)
46 オイルダンパ(ダンパ機構)
48 シート状弾性部材(ダンパ機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに連結され、ピニオンギヤを有するピニオン軸と、
前記ピニオンギヤに噛合するラック歯を有するラック軸と、
前記ラック軸の背面を支持するラックガイドと、
を備えるラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置であって、
前記ラックガイドの前記ラック軸と反対側に配置され、前記ラックガイドを前記ラック軸方向に付勢する付勢手段と、
前記ラックガイドの前記ラック軸と反対側に配置され、前記ピニオンギヤと前記ラック歯との離間を規制するダンパ機構と、を備えることを特徴とするラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
前記ダンパ機構は、流体がオリフィスを通過する際の粘性抵抗を利用したオイルダンパであることを特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
前記ダンパ機構は、衝撃吸収性能を有するシート状弾性部材であることを特徴とする請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−245811(P2012−245811A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116821(P2011−116821)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】