説明

ラマン光増幅を用いた光伝送システム

【課題】本発明は、WDM−PONのコストを低減し、信号光の光強度の不足を補うことが可能な光伝送システムの提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムは、局側装置11と各加入者側装置13−1・・・13−Nの間の信号光がWDM12で合分波されるWDM−PONトポロジで構成される。局側装置11は、局側装置11から光ファイバを経由して各加入者側装置13−1・・・13−Nに波長λu1・・・波長λuNの連続光を供給する。この連続光を上り信号用に利用する。さらに、局側装置11は、局側装置11から光ファイバに連続光の波長の光を励起する波長λのポンプ光を送出する。ラマン増幅により連続光の光強度を増幅することで、上り信号光の光強度の不足を補うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アクセス系において、波長多重合分波器(WDM:Wavelength Division Multiplexer)を用いて、高速光伝送及び柔軟なネットワークを構成するための技術に関し、特に光アクセス系の構成方法のひとつのWDM−PON(Passive Optical Network)に関する。
【背景技術】
【0002】
光アクセス系で、WDMを用いて、高速光伝送及び柔軟なネットワークを構成するWDM−PONの研究開発が現在世界的に行われている(例えば、非特許文献1参照。)。WDM−PONでは、光ファイバが光スプリッタで分岐されるPONトポロジを用い、各加入者側装置に波長を割り当てて伝送するので、局側装置と各加入者側装置との間で高速な或いは長距離の光伝送が可能である。
【0003】
高速光伝送技術については光中継系で様々な種技術が開発されてきた(例えば、非特許文献2参照。)。そして、光中継系での高速光伝送技術をWDM−PONに適用することも、技術的には可能である。
【非特許文献1】A.Banerjee,et al.,“Wavelenth−division−multiplexed passive optical network(WDM−PON) technologies for broadband access:a review”, Journal of optical networking,vol.4,no.11,pp.737−758,2005
【非特許文献2】M.N.Islam,“Raman amplifiers for telecommunications”,Journal of slected topics in quantum electronics,vol.8,no.3,pp.548−559,2002
【特許文献1】特開2004−222304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光中継系での高速光伝送技術をWDM−PONに適用すると非常に高価となる。そのため、厳しい経済性を要求される光アクセス系においては、実際に導入することが困難であるという問題が生じる。
【0005】
また、光アクセス系においては、加入者側装置によっては局側装置との距離が長くなる場合や、光スプリッタでの分岐比が大きくなる場合がある。その場合に、40Gbpsなど高速通信を行うと、信号光の光強度が不足するいわゆるロスバジェットが小さくなるという問題が生じ、2.5Gbpsなどで伝送していた光アクセス系の伝送速度が維持できなくなることがある。
【0006】
そこで、本発明は、WDM−PONのコストを低減し、信号光の光強度の不足を補うことが可能な光伝送システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る光伝送システムは、局側装置と、前記局側装置と光ファイバで接続されている複数の加入者側装置と、前記局側装置及び前記複数の加入者側装置の間の信号光を合分波するWDMと、を備え、WDM−PONトポロジで構成されるラマン光増幅を用いた光伝送システムであって、前記局側装置は、前記加入者側装置から前記局側装置への上り信号光と同一波長の連続光を、前記光ファイバを経由して前記複数の加入者側装置に供給する連続光光源と、前記連続光光源からの前記連続光を励起するポンプ光を、前記光ファイバに供給するポンプ光光源と、を備え、前記複数の加入者側装置は、前記局側装置からの前記連続光を変調して、前記上り信号光として前記局側装置に送出する外部変調器を備えることを特徴とする。
【0008】
加入者側装置にそれぞれ発振波長の異なる光源が不要であり、加入者側装置が外部変調器を備えていれば双方向光通信が可能になる。また、局側装置からの連続光を局側装置から供給するポンプ光でラマン増幅することで上り信号光の光強度の不足を補うので、加入者側装置ごとでの増幅器が不要になる。ポンプ光の波長や光強度を調整すれば、加入者装置ごとの増幅率も調整できる。そのため、WDM−PONのコストを低減することができる。
さらに、局側装置の供給する連続光の波長で上り信号光の波長が決定できるので、波長の管理が容易となる。
【0009】
本発明に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムでは、前記局側装置と前記WDMの間に、前記局側装置からの前記ポンプ光を反射する反射フィルタをさらに備えることが好ましい。
下り方向の連続光の増幅だけでなく上り信号の増幅も行うことができる。また、加入者側装置へのポンプ光の入射を防ぐことができるので、通信品質の劣化を防ぐことができる。ポンプ光を光線路の監視に用いることもできる。
【0010】
本発明に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムでは、前記局側装置は、前記ポンプ光光源を複数備え、前記ポンプ光光源は、それぞれ、前記連続光を励起するポンプ光を前記光ファイバに供給することが好ましい。
複数のポンプ光にて連続光を励起するので、複数のラマン光増幅の利得を合成した増幅特性で連続光を増幅することができる。局側装置と加入者側装置の距離が異なると光損失も異なるが、ラマン光増幅の利得を合成した増幅特性とすることで必要となる利得を調整することができる。
【0011】
本発明に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムでは、前記局側装置は、前記加入者側装置からの前記上り信号光の強度をモニターし、前記上り信号光の強度が所定の強度になるように、前記ポンプ光光源の供給するポンプ光の波長又は光強度を調整するポンプ光制御部をさらに備えることが好ましい。
ラマン光増幅の利得を可変制御するAGC(Automatic Gain Control)が可能になる。これにより、上り信号光の伝送状態を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、WDM−PONのコストを低減し、信号光の光強度の不足を補うことが可能な光伝送システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
図1は、本実施形態に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムの構成概略図である。本実施形態に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムは、局側装置11と各加入者側装置13−1・・・13−Nの間の信号光がWDM12で合分波されるWDM−PONトポロジで構成される。WDM12にはAWG(Arrayed Waveguide Grating)を用いることができる。局側装置11から光ファイバを経由して各加入者側装置13−1・・・13−Nに波長λd1・・・波長λdNの下り信号光を送出する。
【0014】
局側装置11は、連続光光源と、ポンプ光光源と、を備える。連続光光源は、局側装置11から光ファイバを経由して各加入者側装置13−1・・・13−Nに波長λu1・・・波長λuNの連続光を供給する。この連続光を上り信号用に利用する。さらに、ポンプ光光源は、局側装置11から光ファイバに連続光の波長の光を励起する波長λのポンプ光を送出する。ラマン増幅により連続光の光強度を増幅することで、上り信号光の光強度の不足を補うことができる。
【0015】
ラマン増幅では、ポンプ光の波長λよりも一定波長差の光を増幅する。このため、ポンプ光の波長λは、増幅したい上り信号光の波長λuiと一定波長差の波長とする。一定波長差は、例えば、石英ファイバであれば周波数表示で約12THzである。
【0016】
局側装置11は、ポンプ光光源を複数備えることが好ましい。複数のポンプ光光源からの複数のポンプ光にて連続光を励起すれば、合成した増幅利得で連続光の光強度を増幅できる。例えば、局側装置11からのポンプ光が波長λuiを増幅することのできる2つの波長のポンプ光光源を用いて供給することで、波長λuiを合成した利得で増幅することができる。これにより、局側装置11から各加入者側装置13−iまでの距離が長距離であっても、十分な光強度の上り信号光を加入者側装置13−iに供給することができる。一方、局側装置11から各加入者側装置13−iまでの距離が短距離であり、連続光を増幅する必要がなければ、波長λuiを増幅可能な波長のポンプ光を光ファイバに送出しなくてもよい。
【0017】
また、ラマン増幅の利得には波長依存性がある。複数のポンプ光光源からの複数のポンプ光の波長を組み合わせることで、各上り信号光の波長に適した増幅特性とすることができる。これにより、各加入者側装置13−1・・・13−Nの局側装置11と間の光損失に適した光強度の上り信号光を供給することができる。このように、上り信号光の波長とポンプ光との波長配置により、加入者側装置ごとの増幅特性を調整することができる。
【0018】
局側装置11は、加入者側装置13−1・・・13−Nからの波長λu1・・・波長λuNの上り信号光の強度をモニターして所定の強度となるように、局側装置11から供給するポンプ光の波長λや強度を調整するポンプ光制御部をさらに備えることが好ましい。ポンプ光制御部は、加入者側装置13−1・・・13−Nからの波長λu1・・・波長λuNの上り信号光の強度をモニターし、上り信号光の強度が所定の強度になるように、ポンプ光光源の供給するポンプ光の波長又は光強度を調整する。連続光の増幅率を調整することで、上り信号光の光強度を所定の強度にすることができる。
【0019】
例えば、ポンプ光制御部は、波長λuiの上り信号光の光強度が低下したことを検出すると、波長λuiの光を励起する波長のポンプ光の光強度を増加させる。このときのポンプ光の波長は、既存のポンプ光の波長と同一であってもよいし、異なる波長であってもよい。既存のポンプ光の波長と同一であれば、ポンプ光強度を増加させる。既存のポンプ光の波長と異なる場合であれば、波長の異なるポンプ光光源を駆動させてもよいし、既存のポンプ光の波長をシフトさせてもよい。既存のポンプ光の波長をシフトさせることで、ポンプ光光源の数を増やすことなく所望の波長λuiの光を励起する波長のポンプ光の光強度を増加させることができる。
【0020】
図2は、加入者側装置のピックアップ図である。図1に示すN個の加入者側装置13−1・・・13−Nのうちの任意の加入者側装置13−iは、波長フィルタ21と、光受信器22と、外部変調器23を備える。波長フィルタ21は、波長λdiの下り信号光を分波して光受信器22に出射し、波長λuiの連続光を分波して外部変調器23に出射する。光受信器22で下り信号を受信する。
【0021】
なお、本実施形態では各加入者側装置13−1・・・13−Nに1心の光ファイバを用いて伝送することも可能であり、また2心の光ファイバを用いて伝送することも可能である。1心の光ファイバとすれば、コストを低減することができる。2心の光ファイバとすれば、上り方向と下り方向で異なる光ファイバを用いることができる。波長λuiの下り方向の連続光と波長λuiの上り信号光の伝送を別の光ファイバとすることで、各加入者側装置13−1・・・13−Nにおける光結合損失を減少させることができる。
【0022】
各加入者側装置13−1・・・13−Nに2心の光ファイバを用いて伝送する場合、局側装置11からWDM12までは、1心であってもよいし、2心であってもよい。局側装置11からWDM12までが1心であれば、下り方向及び上り方向共に共通のWDMを用いることができる。局側装置11からWDM12までが2心であれば、下り方向と上り方向で異なる光ファイバを使用することができる。波長λuiの下り方向の連続光と波長λuiの上り信号光の伝送を別の光ファイバとすることで、局側装置11における光結合損失を減少させることができる。
【0023】
外部変調器23は、波長フィルタ21からの波長λuiの連続光を上り信号で変調し、上り信号光として局側装置11に送出する。外部変調器23は、例えば、LN(リチウムナイオベート)変調器、LT(リチウムタンタレート)変調器などの導波路型変調器や、光吸収半導体変調器などの電界吸収型変調器である。これにより、図1に示す局側装置11は、加入者側装置13−iからの上り信号を受信することができる。
【0024】
ポンプ光は加入者側装置13−1・・・13−Nでは不要であり、通信機能の障害となる可能性がある。そこで、図1に示す本実施形態に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムでは、局側装置11とWDM12の間に、局側装置11からのポンプ光を反射する反射フィルタを備えることが好ましい。反射フィルタをさらに備えることで、加入者側装置13−1・・・13−Nでの通信機能の障害を防止することができる。また、ラマン増幅が信号光と同一の方向のポンプ光でも逆方向のポンプ光でも増幅されるという性質を利用して、反射フィルタで反射されたポンプ光を上り方向のラマン増幅の利得向上に再度利用することができる。また、ポンプ光の波長を下り信号光の増幅可能な波長とすれば、下り信号光もラマン増幅することが可能である。
【0025】
反射フィルタは、例えば、WDM12の局側装置11と接続される伝送用の光ファイバとWDMの間にFBG(Fiber Bragg Grating)を配置する。FBGを用いることで、安価に実現できる。ポンプ光の波長の変更や、ポンプ光の数を変更する場合に備えて、反射波長を容易に変更できるものが好ましい。例えば、反射フィルタにFBG付き光ファイバを用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、高速光伝送及び柔軟なネットワークを構成することができる。特に、光アクセス系の構成方法のひとつのWDM−PONに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るラマン光増幅を用いた光伝送システムの構成概略図である。
【図2】N個の加入者側装置13−1・・・13−Nのうちの任意の加入者側装置13−iのピックアップ図である。
【符号の説明】
【0028】
11 局側装置
12 WDM
13−1、13−i、13−N 加入者側装置
21 波長フィルタ
22 光受信器
23 外部変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側装置と、前記局側装置と光ファイバで接続されている複数の加入者側装置と、前記局側装置及び前記複数の加入者側装置の間の信号光を合分波するWDM(Wavelength Division Multiplexer)と、を備え、WDM−PON(Passive Optical Network)トポロジで構成されるラマン光増幅を用いた光伝送システムであって、
前記局側装置は、
前記加入者側装置から前記局側装置への上り信号光と同一波長の連続光を、前記光ファイバを経由して前記複数の加入者側装置に供給する連続光光源と、
前記連続光光源からの前記連続光を励起するポンプ光を、前記光ファイバに供給するポンプ光光源と、を備え、
前記複数の加入者側装置は、
前記局側装置からの前記連続光を変調して、前記上り信号光として前記局側装置に送出する外部変調器を備える
ことを特徴とするラマン光増幅を用いた光伝送システム。
【請求項2】
前記局側装置と前記WDMの間に、前記局側装置からの前記ポンプ光を反射する反射フィルタをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のラマン光増幅を用いた光伝送システム。
【請求項3】
前記局側装置は、前記ポンプ光光源を複数備え、
前記ポンプ光光源は、それぞれ、前記連続光を励起するポンプ光を前記光ファイバに供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のラマン光増幅を用いた光伝送システム。
【請求項4】
前記局側装置は、前記加入者側装置からの前記上り信号光の強度をモニターし、前記上り信号光の強度が所定の強度になるように、前記ポンプ光光源の供給するポンプ光の波長又は光強度を調整するポンプ光制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のラマン光増幅を用いた光伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−10987(P2010−10987A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166843(P2008−166843)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】